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大阪地方裁判所 平成15年(行ウ)11号 判決 2004年2月19日

甲事件原告 株式会社A

同代表者代表取締役 甲

乙事件原告 株式会社B

同代表者代表取締役 甲

上記2名訴訟代理人弁護士 島田和俊

同 藤田さえ子

甲乙事件被告 東大阪税務署長

平岡悠三

同指定代理人 小林邦夫

同 山口宏明

同 中野公

同 西口伸彦

同 鴫谷卓郎

主文

1  甲事件原告及び乙事件原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は甲事件原告及び乙事件原告の負担とする。

事実及び理由

第1  請求

1  甲事件

甲乙事件被告(以下、単に「被告」という。)が平成13年11月28日付けで甲事件原告に対してした平成12年4月1日から平成13年3月31日までの期間の消費税及び地方消費税の更正処分のうち、消費税差引税額265万7700円及び地方消費税譲渡割額66万4400円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

2  乙事件

(1)  被告が平成13年11月28日付けで乙事件原告に対してした平成10年1月29日から同年12月31日までの期間の消費税及び地方消費税の更正処分のうち、消費税差引税額129万2000円及び地方消費税譲渡割額32万3000円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

(2)  被告が平成13年11月28日付けで乙事件原告に対してした平成11年1月1日から同年12月31日までの期間の消費税及び地方消費税の更正処分のうち、消費税差引税額187万6300円及び地方消費税譲渡割額46万9000円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

(3)  被告が平成13年11月28日付けで乙事件原告に対してした平成12年1月1日から同年12月31日までの期間の消費税及び地方消費税の更正処分のうち、消費税差引税額306万8400円及び地方消費税譲渡割額76万7100円を超える部分並びに過少申告加算税賦課決定処分を取り消す。

第2  事案の概要

本件は、被告から消費税の簡易課税制度の事業区分が異なるとして消費税及び地方消費税の更正処分並びに過少申告加算税賦課決定処分を受けた甲事件原告及び乙事件原告(以下「原告ら」という。)が、これらの処分の取消しを求める事案である。

1  前提事実(争いのない事実及び証拠(書証番号は特記しない限り枝番を含む。)により容易に認められる事実)

(1)  法令等の定め

ア 消費税等の課税標準、税率

課税資産の譲渡等に係る消費税の課税標準は、課税資産の譲渡等の対価の額(対価として収受し、又は収受すべき一切の金銭又は金銭以外の物若しくは権利その他経済的な利益の額とし、課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税額及び当該消費税額を課税標準として課されるべき地方消費税額に相当する額を含まないものとする。)とされ(消費税法28条1項本文)、消費税の税率は、100分の4とされている(同法29条)。また、地方消費税は、消費税額を課税標準として課するものとされ(地方税法72条の77)、税率が100分の25とされている(同法72条の83)。

イ 簡易課税制度

消費税法は、税負担の累積を排除するため、売上げに係る消費税額から仕入れに係る消費税額を控除した残額を納税義務者が納付する制度を採用する一方、事業者の事務負担に配慮し、中小事業者について、いわゆる簡易課税制度(売上げに係る消費税額を基礎とする金額に一定率を乗じて計算した金額を仕入れに係る消費税額とみなして控除を認める制度)を採用している(同法37条)。事業者がその納税地を所轄する税務署長にその基準期間(法人については、その事業年度の前々事業年度をいう(同法2条1項14号)。)における課税売上高が2億円以下である課税期間について、同法37条1項の適用を受ける旨を記載した届出書(以下「簡易課税制度選択届出書」という。)を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間以後の課税期間については、課税標準額に対する消費税額から控除することができる課税仕入れ等の税額の合計額(以下「控除対象仕入税額」という。)を、当該事業者の当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から当該課税期間における売上げに係る対価の返還等の金額に係る消費税額の合計額を控除した残額の100分の60に相当する金額(卸売業その他の政令で定める事業を営む事業者にあっては、当該残額に、政令で定めるところにより当該事業の種類ごとに当該事業における課税資産の譲渡等に係る消費税額のうちに課税仕入れ等の税額の通常占める割合を勘案して政令で定める率(以下「みなし仕入率」という。)を乗じて計算した金額)とすることができる(同条1項)。

ウ 事業区分及びみなし仕入率

みなし仕入率は、第一種事業が100分の90、第二種事業が100分の80、第三種事業が100分の70、第四種事業が100分の60、第五種事業が100分の50とされ(消費税法施行令57条1項)、これらの事業の意義は、次のとおりとされている(同条5項1号ないし5号)。なお、第五種事業は、平成8年政令第86号による同法施行令の改正により、第四種事業のうち、不動産業、運輸通信業及びサービス業を第五種事業とし、そのみなし仕入率を50パーセントとすることにされたものである。

(ア) 第一種事業 卸売業をいう。

(イ) 第二種事業 小売業をいう。

(ウ) 第三種事業 次に掲げる事業(前2号に掲げる事業に該当するもの及び加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業を除く。)をいう。

a 農業

b 林業

c 漁業

d 鉱業

e 建設業

f 製造業(製造した棚卸資産を小売する事業を含む。)

g 電気業、ガス業、熱供給業及び水道業

(エ) 第五種事業 次に掲げる事業(前3号に掲げる事業に該当するものを除く。)をいう。

a 不動産業

b 運輸通信業

c サービス業(飲食店業に該当するものを除く。)

(オ) 第四種事業 前各号に掲げる事業以外の事業をいう。

エ 通達

事業の範囲に関し、次の各通達が存在し、課税実務はこれに従っている。

(ア) 消費税法基本通達13-2-4

消費税法施行令57条5項3号の規定により第三種事業に該当することとされている農業(省略)及び水道業(以下「製造業等」という。)並びに同項4号の規定により第五種事業に該当することとされている不動産業、運輸通信業及びサービス業(以下「サービス業等」という。)の範囲は、おおむね日本標準産業分類(総務庁)(以下「産業分類」という。)の大分類に掲げる分類を基礎として判定する。

(省略)

また、製造業等に該当する事業であっても、加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業は、第四種事業に該当するのであるから留意する。

(イ) 消費税法基本通達13-2-7

消費税法施行令57条5項3号に規定する「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供」とは、13-2-4本文の規定により判定した結果、製造業等に該当することとなる事業に係るもののうち、対価たる料金の名称のいかんを問わず、他の者の原料若しくは材料又は製品等に加工等を施して、当該加工等の対価を受領する役務の提供又はこれに類する役務の提供をいう。

なお、当該役務の提供を行う事業は第四種事業に該当することとなる。

(注) 13-2-4により判定した結果がサービス業等に該当することとなる事業に係るものは、加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業であっても第五種事業に該当するのであるから留意する。

(2)  原告らの事業

原告らは、いずれも甲(以下「甲」という。)が代表取締役を務める株式会社であり、自社従業員が他社工場で加工組立作業等に従事し、対価を受ける事業を行っている。甲事件原告は、平成8年からC株式会社(以下「C」という。)で電子部品の検査及びその付帯作業に従業員を従事させ、乙事件原告は、D株式会社(以下「D」という。)で紙幣の識別装置等の組立作業に従業員を従事させている。他に、堺税務署管内に所在する株式会社E(以下「E」という。)は、原告らと同様甲が代表取締役に就任し、原告らと同様の事業形態で事業を営んでいる。

(3)  課税経緯

ア 甲事件原告は平成8年5月30日に、乙事件原告は平成10年3月10日に、いずれも簡易課税制度選択届出書を被告に提出しているところ、原告らは、それぞれ別紙甲事件原告課税の経緯(消費税等)及び乙事件原告課税の経緯(消費税等)(以下「別紙各課税経緯表」という。)各確定申告欄記載のとおり、各課税期間について、簡易課税制度により、原告らの営む事業がいずれも第四種事業に該当するとして、100分の60のみなし仕入率を適用して控除対象仕入税額を計算した確定申告をした。

イ 被告は、平成13年11月28日、別紙各課税経緯表各更正処分等欄記載のとおり、原告らの営む事業がいずれも第五種事業に該当するとし、100分の50のみなし仕入率(ただし、受取手数料は第四種事業に係る課税売上高に該当し、100分の60のみなし仕入率)を適用して消費税及び地方消費税の各更正処分並びに各過少申告加算税賦課決定処分(以下「本件各処分」という。)をした(甲B1、C1)。

ウ 別紙各課税経緯表記載のとおり、原告らは、本件各処分を不服として、平成13年12月7日に各異議申立てをしたが(甲B2、C2)、被告は平成14年3月1日にそれらをいずれも棄却する各決定を行った。原告らは、同月28日、国税不服審判所長に対し審査請求をしたが(甲B3、C3)、同所長は、同年10月25日、それらをいずれも棄却する裁決をし、同月31日、裁決書謄本が原告らに送達された(甲B4、C4)。原告らは、平成15年1月29日、本訴を提起し、本件各処分の取消しを求めている。

2  争点

本件の争点及びこれに関する当事者の主張は、次のとおりである。

(1)  原告らの事業が第五種事業に該当するかどうか

(被告)

ア 日本標準産業分類

簡易課税制度において、事業の範囲を明確にする必要がある一方、消費税法及び同法施行令は、これを必ずしも明らかにしていないところ、前記のとおり、消費税法基本通達13-2-4は、第五種事業の範囲をおおむね産業分類の大分類に掲げる分類を基礎として判定することを定め、課税実務上、原則として産業分類に従って事業の範囲を確定している。

産業分類は、統計調査の結果を産業別に表示する場合の統計基準として、事業所において社会的な分業として行われる財貨及びサービスの生産又は提供に係るすべての経済活動を分類するものであり、統計の正確性と客観性を保持し、統計の相互比較性と利用の向上を図ることを目的として、昭和24年10月に設定されたものである。その後、産業構造の変化に適合するよう改訂が行われ、この産業分類の構成は、大分類19項目、中分類97項目、小分類420項目、細分類1269項目となっている。

消費税が創設されて以来、産業分類に基づく事業の判定が前提とされてきたもので、平成8年政令第86号のよる消費税法施行令の改正の際は、産業分類を事業区分の基準として仕入率の実態調査結果に基づく見直しが行われたことが推認される。産業分類の大分類に掲げる項目と消費税法施行令57条5項において掲げられる事業とは、おおむね一致している。産業分類では、製造小売業は製造業としないとするとともに、他の業者の所有に属する原材料に加工処理を加えて加工賃を受け取る賃加工業も製造業に分類されるところ、同項3号の規定では、第三種事業の製造業には製造した棚卸資産を小売する事業が含まれるともに、加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業は第三種事業から除かれているが、これは、同項の規定が、産業分類を前提としつつ、みなし仕入率と実際の仕入率とのかい離を是正するため、事業区分に独自の変更を加えているものである。

以上によれば、事業の判定に当たり原則として産業分類によることは、十分な合理性がある。

イ 労働者派遣業

(ア) 労働者派遣業の意義

産業分類は、労働者派遣業について、「主として、派遣するために雇用した労働者を、派遣先事業所からその業務の遂行等に関する指揮命令を受けてその事業所のための労働に従事させることを業とする事業所をいう」と定義した上で、サービス業に分類している。

また、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律2条1号の規定によると、「労働者派遣」とは、「自己の雇用する労働者を当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする」とされるとともに、同条3号の規定によると、「労働者派遣事業」とは、「労働者派遣を業として行うことをいう」とされており、同法にいう「労働者派遣事業」の意義は、産業分類の労働者派遣業と同一である。

(イ) 請負事業との区分

労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分に関する基準(昭和61年4月17日労働省告示第37号)は、請負の形式による契約により行う業務に自己の雇用する労働者を従事させることを業として行う事業主であっても、当該事業主が当該業務の処理に関し次のいずれにも該当する場合を除き、労働者派遣事業を行う事業主とすると定めているところ、この基準は、上記のとおり、労働者派遣事業が派遣先との指揮命令関係を重要な要素としていることに照らして合理性を有しており、みなし仕入率の適用の前提となる事業の判定に当たっても、参考とされるべきである。

a 次のいずれにも該当することにより自己の雇用する労働者の労働力を自ら直接利用するものであること。

(a) 次のいずれにも該当することにより業務の遂行に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。

ⅰ 労働者に対する業務の遂行方法に関する指示その他の管理を自ら行うこと。

ⅱ 労働者の業務の遂行に関する評価等に係る指示その他の管理を自ら行うこと。

(b) 次のいずれにも該当することにより労働時間等に関する指示その他の管理を自ら行うものであること。

ⅰ 労働者の始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇等に関する指示その他の管理(これらの単なる把握を除く。)を自ら行うこと。

ⅱ 労働者の労働時間を延長する場合又は労働者を休日に労働させる場合における指示その他の管理(これらの場合における労働時間等の単なる把握を除く。)を自ら行うこと。

(c) 次のいずれにも該当することにより企業における秩序の維持、確保等のための指示その他の管理を自ら行うものであること。

ⅰ 労働者の服務上の規律に関する事項についての指示その他の管理を自ら行うこと。

ⅱ 労働者の配置等の決定及び変更を自ら行うこと。

b 次のいずれにも該当することにより請負契約により請け負った業務を自己の業務として当該契約の相手方から独立して処理するものであること。

(a) 業務の処理に要する資金につき、すべてを自らの責任の下に調達し、かつ、支弁すること。

(b) 業務の処理について、民法、商法その他の法律に規定された事業主としてのすべての責任を負うこと。

(c) 次のいずれかに該当するものであって、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと

ⅰ 自己の責任と負担で準備し、調達する機械、設備若しくは器材(業務上必要な簡易な工具を除く。)又は材料若しくは資材により、業務を処理すること。

ⅱ 自ら行う企画又は自己の有する専門的な技術若しくは経験に基づいて、業務を処理すること。

ウ 原告らの事業実態

(ア) 甲事件原告

甲事件原告とCとの取引の実態は、以下のとおりである。

a 取引の内容は、電子部品の検査及びその付帯作業を行ってもらうために甲事件原告が作業員を派遣するというものである。

b Cは、甲事件原告から派遣された作業員(以下「派遣社員」という。)を「派遣社員」と呼び、派遣社員が辞めた場合や生産ラインから新規採用の要請があった場合に、甲事件原告の営業担当者に連絡するが、経験や資格といった条件を付けることはなく、採用・不採用についてもC総務担当又は各生産ラインの係長が面接して決定している。

c 派遣社員のみで特定の生産ラインを担当することはなく、派遣社員は、内作課組立係及び製造課管理係に配置され、各係の係長の下でCの従業員らと共に作業にそれぞれ従事している。

d 派遣社員に対する作業の割当てや配置、生産ラインにおける教育、作業内容の指示・管理は、Cの各係の係長によって行われており、派遣社員の中に責任者は存在せず、甲事件原告の従業員が作業の指示をすることもない。

e 派遣社員は、Cにおいて作業をするに当たって、甲事件原告所有の機械や備品を使用することはなく、Cが所有する機械及び備品を使用しており、Cが甲事件原告にこれらの機械及び備品を貸与するということもない。

f 派遣社員の勤務については、Cがタイムカードで労働時間を管理するとともに、残業の場合には、Cの各係長が派遣社員に対して直接指示しており、また、仕事を休む場合にも、Cが派遣社員から直接連絡を受けており、甲事件原告からの補てんはなく、Cが配置を変更するなどして対応している。

g Cが甲事件原告と取引を始めるに当たって取り交わした「業務請負契約書」には、派遣社員に対する指揮監督は甲事件原告に専属するとの記載があるものの、甲事件原告が派遣社員に対する指揮監督を行っている実態はない。

(イ) 乙事件原告

乙事件原告とDとの取引の実態は、以下のとおりである。

a Dは、紙幣の識別装置等の組立てをする工員が不足した際、人材派遣会社から乙事件原告を紹介され、乙事件原告から工員を派遣してもらうようになった。

b 乙事件原告から派遣された工員(以下「派遣工員」という。)は、その全員が特定の製造ライン等に配置されるのではなく、いくつかのグループに分かれてDの従業員と共に作業に従事しており、派遣工員だけで装置を組み立てることはない。

c 派遣工員について、その服務上の規律に関する指示・管理、配置、作業の割当て、作業の方法や内容に関する指示等は、いずれもDが行っている。

d 派遣工員について、出勤状況や勤務時間の管理は、Dの従業員と同様、Dが作成している「サイン簿」に各自記入させる方法で行っており、休暇等についても、Dの管理職が諾否を決めている。

e 派遣工員がDで作業に従事するに当たり、乙事件原告所有の機械、設備、資材等を持ち込み、使用することはない。

f Dが乙事件原告と取引を始めるに当たって取り交わした「業務請負契約書」には、派遣工員に対する指揮監督は乙事件原告に専属するとの記載があるものの、乙事件原告が派遣工員に対する指揮監督を行っている実態はない。

エ 原告らの事業区分

(ア) 労働者派遣業該当性

以上のとおり、原告らの事業の実態は、原告らの従業員が請け負った業務の内容を完成まで責任を持って作業に従事するというものではなく、取引の相手方の指揮命令の下で作業に従事しているにすぎず、原告らの事業は、派遣するために雇用した従業員を派遣先から指揮命令を受けて派遣先のための労働に従事させることを業とするもので、産業分類においてサービス業に分類される労働者派遣業に該当する。この点は、原告らが、電話帳やインターネットのタウンページにおいて、労働者派遣業として掲載していることからも明らかである。

(イ) 消費税法の趣旨

上記のとおり、原告らの事業においては、原告らにおいて材料等を購入する必要はなく、設備や備品も派遣先のものを使用しているのであるから、原告らにおいて経常的に発生する主要な経費は、専ら派遣労働者に係る賃金等の給与である。

そして、給与は、課税仕入れの対象とはならない(消費税法2条1項12号)から、実額による原告らの仕入れに係る消費税額は極めて低額であり、第四種事業のみなし仕入率100分の60とのかい離は非常に大きいといわざるを得ない。

このことは、課税の公平性を高めるため、実際の仕入率とみなし仕入率とを近づけるよう行われてきた改正の経緯からすると、簡易課税制度の趣旨を著しく逸脱することを意味する。したがって、原告らの事業が第五種事業に該当するとして100分の50のみなし仕入率を適用して行われた本件各処分は、簡易課税制度の趣旨に合致する相当なものといえる。

オ 加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供該当性

消費税法施行令57条5項3号に規定する「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供」とは、同号の規定に照らしても明らかなとおり、あくまで同号に掲げる事業に係るものが対象となるのであり、この点は、消費税法基本通達13-2-7が定めているとおりである。

原告らの事業は、上記の実態に照らしても「加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供」とはいい難いし、仮にこれに該当するとしても、上記のとおり、サービス業に該当するから、第四種事業に該当することはなく、第五種事業に該当するものである。

(原告ら)

原告らの事業は、顧客先と請負契約を締結し、原告ら社員を顧客先の工場等で加工又は組立等に従事させ、その対価を受け取っているもので、製造業のうちの加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業であり、第四種事業に該当する。

(2)  本件各処分が原告らの予見可能性、法的安定性を害する違法なものかどうか

(原告ら)

Eは、平成11年2月1日、平成10年11月期課税期間の消費税及び地方消費税について、第四種事業に該当するとして堺税務署長に確定申告をした。堺税務署長は、平成11年5月、事業区分の判定を問題とし調査を行ったが、これについて更正処分は行われなかった。原告らは、平成8年税制改正後数年間第四種事業として申告し、Eの申告に対する堺税務署の対応を見て同じ取扱いがされるものと信頼して申告したものである。本件各処分は、原告らの予見可能性、法的安定性を害する違法な処分であり、また、信義則の法理の適用により取り消されるべきものである。

(被告)

租税法律主義は、国民の経済生活に法的安定性と予測可能性とを保障する機能を有するところ、その一内容として合法性の原則を挙げることができる。すなわち、租税法は強行法であるから、課税要件が充足されている限り、租税行政庁には租税の減免の自由や、租税を徴収しない自由はなく、法律で定められたとおりの税額を徴収しなければならない。そして、合法性の原則が貫かれることによって、租税負担に関する納税者間の平等、公平という「正義」(配分的正義)の要請が実現され、かつ、納税者の法的安定性も必然的に守られるものと考えられてきたのであり、租税法律関係において、合法性の原則を貫くことが「正義」に反するという場面は、通常はあり得ない。原告らの事業が第五種事業に該当する以上、本件各処分は租税法規に適合しているのであって、租税法律主義の下で保障される予見可能性、法的安定性といった価値が実現されこそすれ、これらが害されることはあり得ないというべきである。

また、租税法規に適合する課税処分について、法の一般原則である信義則の法理の適用により、上記課税処分を違法なものとして取り消すことができる場合があるとしても、法律による行政の原理なかんずく租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、租税法規の適用における納税者間の平等、公平という要請を犠牲にしてもなお当該課税処分に係る課税を免れしめて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合に、初めて上記法理の適用の是非を考えるべきものである。そして、特別の事情が存するかどうかの判断に当たっては、少なくとも、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したことにより、納税者がその表示を信頼しその信頼に基づいて行動したところ、後に上記表示に反する課税処分が行われ、そのために納税者が経済的不利益を受けることになったものであるかどうか、また、納税者が税務官庁の上記表示を信頼しその信頼に基づいて行動したことについて納税者の責めに帰すべき事由がないかどうかという点の考慮は不可欠のものであるといわなければならず、さらに、これらの諸点が充足されるだけで直ちに上記法理の適用が認められるものでもない。これを本件についてみると、原告らが主張するような事情をもってしても、税務官庁が納税者に対し信頼の対象となる公的見解を表示したとはいえず、上記「特別の事情」が存する余地はない。

第3  争点に対する判断

1  第五種事業該当性について

(1)  事業分類基準について

前提事実(1)エに記載したとおり、消費税法基本通達13-2-4では、第三種事業に該当することとされる製造業等及び第五種事業に該当することとされるサービス業等の範囲は、おおむね産業分類の大分類に掲げる分類を基礎として判定するものとしている。

産業分類は、統計調査の結果を産業別に表示する場合の統計基準として、事業所において社会的な分業として行われる財貨及びサービスの生産又は提供に係るすべての経済活動を分類するものであり、統計の正確性と客観性を保持し、統計の相互比較性と利用の向上を図ることを目的として設定されたものである。これは、消費税の簡易課税制度上の事業分類を目的としたものではないものの、事業の判定に当たって他に普遍的・合理的な基準がない以上、同制度の創設に当たって原則として産業分類に従い事業の判定をすることを前提としていたことがうかがえるところである。

さらに、平成8年政令第86号による消費税法施行令の改正では、仕入率の実態調査の結果に基づく見直しが行われたことが認められるところ、産業分類では製造業に該当しない製造小売業について、同法施行令57条5項3号においては製造した棚卸資産を小売する事業が製造業に含まれることが規定され、また、産業分類では他の業者の所有に属する原材料に加工処理を加えて加工賃を受け取る賃加工業も製造業に分類されるところ、同項では製造業が該当する第三種事業から加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業が除かれている。これらは、同項の規定が、産業分類を前提とした上、これによってはみなし仕入率と実際の仕入率とのかい離が大きく是正する必要がある事業について、独自に事業区分の変更を加えているものということができる。

これらの点に照らせば、消費税法基本通達13-2-4において規定しているように、簡易課税制度における事業判定について原則として産業分類によることは、十分な合理性があるというべきである。

(2)  原告らの事業実態について

証拠(乙B1、C1)によれば、甲事件原告とC及び乙事件原告とDとの取引態様として、次の各事実を認めることができる。

ア 甲事件原告は、平成8年からCに従業員を派遣し、電子部品の検査及びその付帯作業を行っており、乙事件原告は、平成12年からDに従業員を派遣し、紙幣の識別装置等の組立て作業を行っている。

イ Cは、甲事件原告から派遣された作業員を「派遣社員」と呼び、派遣社員が辞めた場合や生産ラインから新規採用の要請があった場合に、甲事件原告の営業担当者に連絡するが、経験や資格といった条件を付けることはなく、採用・不採用についてもC総務担当又は各生産ラインの係長が面接して決定している。

ウ 取引先で原告らの従業員が担当するラインは特定されておらず、原告らの従業員は、取引先の従業員とともに作業に従事し、原告らの従業員のみで特定の作業を担当することはない。

エ 原告らの従業員に対する作業の割当て、配置、作業内容に関する指示等は、いずれも取引先の従業員によって行われており、原告らの従業員の中に責任者は存在せず、原告らが作業の指示をすることもない。

オ 原告らの従業員は、取引先において作業をするに当たって、原告ら所有の機械や備品を使用することはなく、取引先が所有する機械、備品、資材等を使用している。

カ 原告らの従業員の労働時間の管理は、取引先が自社従業員と同様に管理しており、休暇等も直接取引先に連絡され、取引先において対応している。

(3)  原告らの事業区分について

上記のとおり、原告らの事業においては、取引先において原告らの従業員が担当する作業内容、労働時間、その他配置等の指示・管理はすべて取引先が行っており、作業に使用する機械、設備、器材、資材等はすべて取引先が所有するものである。原告らの従業員は、請け負った業務について責任を持って完成させる作業を行っているのではなく、取引先の指揮命令の下で作業に従事しているにすぎず、原告らの事業は、産業分類において「主として、派遣するために雇用した労働者を、派遣先事業所からその業務の遂行等に関する指揮命令を受けてその事業所のための労働に従事させることを業とする事業所をいう」と定義された労働者派遣業に該当し、サービス業に分類されるものである。原告らが、電話帳やインターネットタウンページにおいて、自らの事業を労働者派遣業として掲載していることに照らせば(乙A3)、原告らにおいても、自らの事業を労働者派遣業と認識していたことが認められる。

さらに、上記のような原告らの事業実態によれば、原告らにおいて材料等を購入する必要はなく、設備や備品も取引先のものを使用しているのであるから、原告らにおいて経常的に発生する主要な経費は、従業員に係る賃金等の給与である。そして、給与は、課税仕入れの対象とはならないことから(消費税法2条1項12号)、実額による原告らの仕入れに係る消費税額は低額なものと認められるところであって、実態的にも、原告らには、第四種事業のみなし仕入率100分の60ではなく、第五種事業の100分の50のみなし仕入率を適用するのが妥当であり、その方が実際の仕入率とみなし仕入率のかい離を是正するため簡易課税制度を改正した趣旨にも合致するものというべきである。

(4)  加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供該当性について

これに対し、原告らは、原告らの事業が消費税法施行令57条5項3号に規定する製造業のうちの加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業に該当し、第四種事業である旨主張する。しかしながら、上記のとおり原告らの事業は産業分類上の製造業ではなくサービス業に該当するものである以上、同号に規定する加工賃その他これに類する料金を対価とする役務の提供を行う事業に該当するものではなく、原告らの主張は採用することができない。

他に、原告らの事業が第五種事業に該当するとの認定を覆すに足りる証拠はない。

2  予見可能性、法的安定性を害する違法について

(1)  租税法律主義は、国民の経済生活に法的安定性と予測可能性とを保障する機能を有するところ、法律で定められたとおりの税額を徴収する合法性の原則が貫かれることによって、租税負担に関する納税者間の平等、公平という正義の要請が実現され、かつ、納税者の法的安定性も必然的に守られるものである。原告らの事業が第五種事業に該当する以上、本件各処分は租税法規に適合しているのであって、租税法律主義の下で保障される予見可能性、法的安定性といった価値が実現されこそすれ、これらが害されるものではない。

(2)  原告らは、原告らが数年間第四種事業として申告してきたこと、同様の事業を行うEにおいて、事業区分が問題とされ調査が行われたにもかかわらず更正処分がされなかったことをもって、本件各処分が原告らの信頼を害する違法なものである旨主張する。しかしながら、申告後又は税務調査後直ちに更正処分がされなかったことをもって、税務官庁が申告内容を正当と認める公的見解を表明したものと認めることはできない。他に、原告らが自らの事業を第四種事業であるとし、これに反する課税は行われないと信頼するに足りる被告あるいは税務官庁による公的見解表明の事実は認められず、まして、租税法律主義が求める租税法規の適用における納税者間の平等、公平の要請を犠牲にしてもなお課税を免れさせて納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情を認めることはできず、原告らの主張を採用することはできない。

3  結論

以上によれば、本件各処分はいずれも適法であって、原告らの本訴請求はいずれも理由がないので棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川神裕 裁判官 山田明 裁判官 一原友彦)

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甲事件原告 課税の経緯(消費税等)

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別表1

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