大阪地方裁判所 平成15年(行ウ)92号 判決 2007年6月29日
主文
1 被告が原告に対し平成15年8月22日付け行政文書開示決定通知書(平成15年国広情第×××号)をもって通知した行政文書開示決定のうち別紙不開示部分目録記載7の部分を不開示とした部分を取り消す。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを20分し,その19を原告の負担とし,その余は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告が原告に対し平成15年8月22付け行政文書開示決定通知書(平成15年国広情第×××号)をもって通知した行政文書開示決定のうち別紙不開示部分目録記載の部分を不開示とした部分を取り消す。
第2事案の概要
1 事案の骨子
本件は,行政機関の保有する情報の公開に関する法律(平成15年法律第61号による改正前のもの。以下「情報公開法」という。) 3条に基づき被告に対してその保有する行政文書の開示を請求したが,同文書の一部に同法5条1号,6号イ,同号柱書の不開示情報が記録されているとして,被告から上記文書のうち上記部分を不開示としその余の部分は開示する旨の処分を受けた原告が,同処分のうち不開示とした部分の取消しを求めている抗告訴訟(処分の取消しの訴え)である。
2 法令の定め
(1) 情報公開法の定め
ア 情報公開法2条1項は,「行政機関」とは,国家行政組織法3条2項に規定する機関等をいい,情報公開法2条2項は,「行政文書」とは,同項各号に掲げるものを除き,行政機関の職員が職務上作成し,又は取得した文書,図画及び電磁的記録であって,当該行政機関の職員が組織的に用いるものとして,当該行政機関が保有しているものをいう,と規定している。
情報公開法3条は,何人も,同法の定めるところにより,行政機関の長に対し,当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができる(以下,この請求を「開示請求」という。),と規定している。
イ 情報公開法5条は,下記のとおり定めている。
記
行政機関の長は,開示請求があったときは,開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き,開示請求者に対し,当該行政文書を開示しなければならない。
一 個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの。ただし,次に掲げる情報を除く。
イ 法令の規定により又は慣行として公にされ,又は公にすることが予定されている情報
ロ 人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報
ハ 当該個人が公務員等(国家公務員法2条1項に規定する国家公務員,独立行政法人等の役員及び職員並びに地方公務員法2条に規定する地方公務員をいう。)である場合において,当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分
二ないし五 略
六 国の機関,独立行政法人等又は地方公共団体が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの
イ 監査,検査,取締り又は試験に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれ
ロ 契約,交渉又は争訟に係る事務に関し,国,独立行政法人等又は地方公共団体の財産上の利益又は当事者としての地位を不当に害するおそれ
ハ 調査研究に係る事務に関し,その公正かつ能率的な遂行を不当に阻害するおそれ
ニ 人事管理に係る事務に関し,公正かつ円滑な人事の確保に支障を及ぼすおそれ
ホ 国若しくは地方公共団体が経営する企業又は独立行政法人等に係る事務に関し,その企業経営上の正当な利益を害するおそれ
ウ 情報公開法6条1項は,行政機関の長は,開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合において,不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは,開示請求者に対し,当該部分を除いた部分につき開示しなければならない,ただし,当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは,この限りでない,と規定し,同条2項は,開示請求に係る行政文書に同法5条1号の情報(特定の個人を識別することができるものに限る。)が記録されている場合において,当該情報のうち,氏名,生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより,公にしても,個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは,当該部分を除いた部分は,同号の情報に含まれないものとみなして,同法6条1項の規定を適用する,と規定している。
(2) 建築基準法の定め
建築基準法77条の24第1項は,指定確認検査機関は,確認検査(同法所定の確認,完了検査及び中間検査等をいう。以下同じ。同法77条の18第1項参照)を行うときは,国土交通省令で定める方法に従い,確認検査員に確認検査を実施させなければならない,と規定している。なお,建築基準法に基づく指定資格検定機関等に関する省令(平成11年建設省令第13号。平成15年国土交通省令第16号による改正前のもの。以下「指定機関省令」という。) 23条1項3号ハは,完了検査についての建築基準法77条の24第1項の国土交通省令で定める方法として,実地に行うことと規定している。
建築基準法77条の31第1項は,国土交通大臣等(指定確認検査機関の指定をした国土交通大臣又は都道府県知事をいう。以下同じ。同法77条の21第2項参照)は,確認検査の業務の公正かつ適確な実施を確保するため必要があると認めるときは,その指定に係る指定確認検査機関に対し確認検査の業務に関し必要な報告を求め,又はその職員に,指定確認検査機関の事務所に立ち入り,確認検査の業務の状況若しくは帳簿,書類その他の物件を検査させ,若しくは関係者に質問させることができる,と規定している。同法77条の35第2項1号は,国土交通大臣等は,その指定に係る指定確認検査機関が同法77条の24第1項の規定に違反したときは,その指定を取り消し,又は期間を定めて確認検査の業務の全部若しくは一部の停止を命ずることができる,と規定している。
3 前提となる事実等(争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実等。以下,書証番号は特に断らない限り枝番を含むものとする。)
(1) a株式会社(以下「a社」という。)は,平成14年当時,建築基準法上の指定確認検査機関であった。【甲2,4,乙5】
(2) 被告は,a社が平成14年7月から8月にかけて建築基準法に違反して業務を行っている疑いがあるとの通報を受けた。そのため,被告の職員は,同年9月24日,a社の本社及びb支店に臨場して,同法77条の31に基づく立入検査を実施した(以下,この立入検査を「本件立入検査」という。)。同検査の結果,被告は,a社が確認検査を実施した物件のうち相当の割合のものについて,確認検査員が現地に赴くことなく確認検査員以外の者(補助員)が単独で完了検査を行っていたことを認め,これが建築基準法77条の24第1項,指定機関省令23条1項3号ハに違反すると判断した。【甲2,4,乙5,弁論の全趣旨】
(3) 被告は,平成14年10月4日付けで,a社に対し,建築基準法77条の24第1項の規定に違反したことを理由に,同法77条の35第2項1号に基づき,① 確認検査に係る契約を新たに締結する行為,② 既に締結した契約の変更により,確認検査の業務を追加する行為,③ 業務の停止の期間満了後において上記①,②の行為を実施するための見積もり,交渉等の行為,に係る確認検査の業務を同月18日から1月間停止する旨の業務停止命令(以下「本件業務停止命令」という。)をするとともに,業務改善計画書の提出や業務の実施状況に関する定期的な報告等を求める内容の監督命令をした。【甲2,4,乙5,弁論の全趣旨】
(4) 原告は,平成15年6月26日,被告に対し,「平成14年(株)aに発令された建築基準法第77条の35に基づく命令に関する決裁」の開示(写しの交付)を請求した(国土交通省平成15年広情第×××号。以下,この請求を「本件開示請求」という。)。【争いのない事実,乙1】
(5) 被告は,本件開示請求の対象である行政文書の名称を「指定確認検査機関の処分(業務の停止)について(平成14年10月3日付け国住指第××××号)」と特定した上で,同文書のうちの「建築基準法に基づく指定確認検査機関・立入検査報告書」(以下「本件報告書」という。)中別紙不開示部分目録記載の部分(以下「本件不開示部分」という。)を不開示としその余の部分を開示する旨の行政文書開示決定をし,これを平成15年8月22日付け行政文書開示決定通知書(平成15年国広情第×××号)をもって原告に対して通知した(以下,上記決定のうち本件不開示部分を不開示とした部分を「本件不開示決定」という。)。上記通知書には,本件不開示決定の理由が,要旨,下記のとおり記載されていた。【争いのない事実,甲1】
記
本件報告書に記載されている「検査を行った者の氏名」及び「検査対象機関の対応者の氏名」については,情報公開法5条1号に規定する特定の個人を識別することができる個人に関する情報であり,かつ,これらは,同号ただし書イ,ロ又はハのいずれにも該当せず,同条1号に該当するものであることから,これらの情報が記録されている部分を不開示とした。
本件報告書のうち,「検査方法及び検査結果」,「参考として添付された資料」及び「別添1~13」が開示されれば,立入検査に対して非協力的ないし消極的な態度をとり,その結果,立入検査に何らかの支障が出るおそれがあること,検査を行った者が建築行政に与える影響を懸念して,報告書の作成等に際して率直な認識や意見を表明することにつき,消極的,萎縮的になることが考えられること及び他の指定確認検査機関に検査方法や関心事項等を示唆することになり,今後の検査,取締り等の事務において支障を及ぼすおそれがあることから,同条6号イ及び同号柱書に該当すると考えられるため,不開示とした。
(6) 原告は,平成15年10月27日,当裁判所に対し,本件不開示決定の取消しを求めて本件訴えを提起した。【顕著な事実】
4 争点
(1) 本件不開示部分のうち「検査を行った者の氏名」(別紙不開示部分目録記載1)及び「検査対象機関の対応者の氏名」(同記載2)が情報公開法5条1号の不開示情報に該当するか否か。
(2) 本件不開示部分のうち「検査方法(本社分)」(別紙不開示部分目録記載3),「検査結果(本社分)」(同記載4),「検査方法(b支店分)」(同記載5),「検査結果(b支店分)」(同記載6),「参考として添付された資料」(同記載7)及び「別添1」ないし「別添13」(同記載8ないし20)が情報公開法5条6号イ又は同号柱書の不開示情報に該当するか否か。また,上記各情報が同号の不開示情報に該当するとされた場合に,その一部を同法6条1項に基づき開示することができるか否か。
第3被告の主張
1 本件報告書の概要等
(1) 本件報告書は,被告の職員が指定確認検査機関であるa社に対して行った本件立入検査の結果等を記載した報告書であるため,まず,指定確認検査機関の制度について説明した上で,本件報告書の概要及び位置付けを論ずる。
(2) 指定確認検査機関について
ア 制度の概要
建築基準法は,国民の生命,健康及び財産の保護を図り,もって公共の福祉を増進することを目的として,建築物の敷地,構造,設備及び用途に関する最低の基準を定めている(同法1条)ところ,建築物の建築に当たっては,建築確認(同法6条)及び完了検査(同法7条)が必要である。この点,平成10年法律第100号による改正前の建築基準法下では,建築確認は建築主事が,完了検査は建築主事又はその委任を受けた吏員がそれぞれ行うとされていたが,同改正後の建築基準法により,建築確認及び完了検査のほかに中間検査が設けられた上(同法7条の3),これらにつき国土交通大臣等が指定した者(指定確認検査機関)も行い得るとされた(同法6条の2,7条の2,7条の4)。そして,同一の業務区域で複数の指定確認検査機関が指定を受けることについては法律上の制約は設けられておらず,実際にもそのような事態が生じており,指定確認検査機関相互の競争が存する。
イ 制度の趣旨等
上記のように指定確認検査機関の制度が新設されたのは,建築確認や検査についての行政の十分な実施体制を確保することができない状況等を背景として,これまで建築主事が行ってきた確認検査事務を必要な審査能力を備える公正中立な民間機関にも行わせて建築確認や検査の充実・効率化を図ることにある。
ところで,建築確認や検査の事務は,裁量の余地が基本的にはなく,技術的・定型的な処理になじみやすいことなどから,民間機関においても行い得るものである。しかしながら,他方で,建築確認は建築物の計画が建築基準関係規定に適合することを公権的に判断確定する行政処分であり,確認済証の交付を受けた後でなければ建築物の建築等の工事に着手することはできず(建築基準法6条6項),検査(完了検査・中間検査)は工事終了後あるいは特定工程終了後の建築物及びその敷地が建築基準関係規定に適合することを公権的に確定する行政処分であり,一定の建築物については完了検査に係る検査済証の交付を受けた後でなければ使用してはならず(同法7条の6第1項),あるいは,中間検査合格証の交付を受けた後でなければ特定工程後の工程に係る工事を施工してはならない(同条の3第6項)。このように,建築確認や検査はいずれも極めて公共性の高い行政処分であるから,それらを市場において競争する民間機関にゆだねるとはいえ,行政の間接コントロールにより制度の適正な運営を確保する必要性は著しく高い。建築基準法の一部を改正する法律案に対する衆議院建設委員会の附帯決議において,「建築確認・検査を行う民間機関の指定に当たっては,その業務の公正・中立性の確保に特段の配慮をすることとし,建築物の安全性が低下することのないよう適切な指導をすること」と決議されているところでもある。
ウ 間接コントロールの制度
上記のような見地から,国土交通大臣等には,指定確認検査機関の指定のほか,以下のとおりの権能が与えられている。
① 国土交通大臣等は,確認検査の業務の公正かつ適確な実施を確保するため必要があると認めるときは,その指定に係る指定確認検査機関に対し確認検査の業務に関し必要な報告を求め,又はその職員に,指定確認検査機関の事務所に立ち入り,確認検査の業務の状況若しくは帳簿,書類その他の物件を検査させ,若しくは関係者に質問させることができる(建築基準法77条の31)。なお,これに従わない場合は,刑事罰の対象となる(同法100条4号,6号,7号)。
② 国土交通大臣等は,確認検査の業務の公正かつ適確な実施を確保するため必要があると認めるときは,その指定に係る指定確認検査機関に対し確認検査の業務に関し監督上必要な命令をすることができる(建築基準法77条の30)。なお,これに従わない場合は,指定の取消し又は業務停止命令の対象となる(同法77条の35第2項3号)。
③ 国土交通大臣等は,その指定に係る指定確認検査機関が欠格事由(建築基準法77条の19)に該当するに至ったときは,その指定を取り消さなければならないほか(同法77条の35第1項),国土交通省令の定める方法によらずに確認検査を実施している(同法77条の24第1項)などの場合には,その指定を取り消し,又は期間を定めて確認検査業務の全部若しくは一部の停止を命ずることができる(同法77条の35第2項)。なお,業務停止命令に従わない場合は,刑事罰の対象となる(同法98条5号)。
④ 上記の各制度の関係をみると,一般的には,報告・立入検査等を先行させた上,その結果を基に監督命令や業務停止命令等がされている。すなわち,監督命令や業務停止命令等は不利益処分であるから,当該行政処分に先立ち,処分権者において処分事由の有無に関して慎重に調査等を行うことが要請される。そのため,国土交通大臣等は,指定確認検査機関が処分事由に該当する疑いがある場合には,まずは,当該指定確認検査機関に対し報告を求め又は立入検査を行うことにより処分事由の有無を確認し,その結果,処分事由の存在が明らかとなった場合に初めて監督命令や業務停止命令等を行うのである。このように,報告・立入検査等は,監督命令や業務停止命令等の欠くことのできない前提というべきものであり,指定確認検査機関による建築確認や検査の適正な運営を確保するために指定確認検査機関を間接的にコントロールする制度として,極めて重要な意義を有する。
(3) 立入検査の手続
ア 検査の開始
立入検査の実施においては,一般的に,検査実施日の朝,行政機関(国土交通省)の職員が,電話で相手方の代表者等に立入検査を実施する旨を伝え,立入検査の趣旨・目的及び検査開始・終了時間を説明の上,立入検査を実施する職員(以下「検査担当職員」という。)の氏名等の確認,検査場所の確保等を依頼する。その後,検査担当職員は,相手方の事務所等に臨場して,立入検査が法令の規定に基づく旨を説明の上,当該職員の氏名等の身分証明書を提示し,相手方における対応者の氏名等を確認する。
イ 調査対象の限定
立入検査を行うには,時間的・人的制約等があることから,相手方の業務のすべてを検査したり,すべての資料の提出を求めてこれを検討することは到底不可能である。そして,限られた時間の中で検査事務を適切に実施し,所要の効果を上げるためには,相手方に予備知識や対応の時間的余裕を与えることなく,立入検査が計画的かつ効率的に実施されなければならない。そのため,通常,立入検査はその対象の範囲を限定して行われており,本件立入検査においても,a社の確認検査員が現地に赴くことなく確認検査員以外の者(補助員)が単独で完了検査を行っていた事実に検査対象の範囲を限定した。
ウ 調査対象資料の特定
立入検査においては,まず一般に,相手方がその時点で保有している資料に着目して特定の法令に違反する実質的な事実を発見し,裏付資料等によってそれを確認することが重要である。そのため,① 検査対象となった事実をどこまで限定するか,② 検査対象の期間や内容を指定した資料等の準備,提出を依頼したにもかかわらず,速やかに資料が提出されない場合にどのような対応をとるのか,③ 提出された資料等のうち比較する資料の相互関係や各資料のどの点に着目するのか,④ 仮に提出された資料等に矛盾点,問題点等があった場合,口頭による質疑応答ないし書面により確認を求める部分はどのような内容で,どのような資料の任意提供を受ける必要があるか,といった点を,あらかじめ綿密に計画した上で立入検査を実施する。したがって,検査担当職員は,同一の事実に係る立入検査であっても,相手方の資料の保有状況や当日の対応者の応答振りを見て,臨機応変に検査の切り口や具体的な検査方法を対応させながら行う。このように,実際の検査プロセスは,正にノウハウが色濃く反映されたものであり,a社を対象とする本件立入検査についても,その実施の方法は工夫を凝らしたものであった。
エ 検査の終了
検査担当職員は,立入検査を終えるに当たり,各行政庁の責任者に検査の状況及び提供を受けた資料等を報告するとともに,相手方に対し,立入検査に係る必要な措置等を追って通知する旨及び現在においても継続して認められる問題点を是正すべき旨を伝え,立入検査を終了する。
(4) 立入検査の実施状況
国土交通省は,立入検査の重要性にかんがみ,指定確認検査機関の確認検査業務の公正かつ適確な実施を確保するため,平成13年度以降の毎年度,すべての指定確認検査機関を対象に立入検査を定期的に実施しており,また,特に必要な場合においては,立入検査を臨時的に実施している(本件立入検査は,a社が建築基準法に違反する疑いがあるとの通報を受け,平成14年7月から8月にかけて臨時的に実施されたものである。)。なお,一般に立入検査の検査方法は公開されていない。そして,情報公開法5条6号イが,国の機関が行う事務又は事業のうち「検査」事務に係るおそれを例示しているのは,開示するとその適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報を含むことが容易に想定されているからである。
(5) 本件報告書の位置付け,内容
本件報告書は,本件立入検査の結果等を記載した報告書であるが,前記のとおり立入検査が業務停止命令等の不可欠の前提であることなどにかんがみ,本件業務停止命令の決裁に当たり,参考資料として起案文書の本体に添付されて決裁され,その後も一体として保有されていたものである。本件報告書は形式的には本体部分と添付文書から成るが,その具体的内容は,以下のとおりである。
ア 本体部分
(ア) 表題部
(イ) 1項
「立入検査の概要」と題し,検査対象機関,日時,場所,検査を行った者及び検査対象機関の対応者がそれぞれ項目に分けて記載され,本件立入調査の概要が明らかにされている。
(ウ) 2項
「検査方法及び結果」と題し,本社とb支店とに分け,それぞれ具体的な検査方法と検査結果が明らかにされている。
検査方法の部分には,本件立入検査に係る具体的な手順,着眼点及び実施方法等が示されている。より具体的には,確認検査業務のうち,どの業務を,どのような期間について検査対象としたか,どのような資料をどのような順序で提出するよう依頼したか,どのような事実を口頭で確認したか,といった本件立入検査の手順,実施方法が記載されている。また,検査の対象期間を選択する際に,どのような範囲に着目したか,検査結果を導くに当たり,どのような資料のどの部分を検討し,どのような資料と資料を比較して判断したか,といった立入検査の着眼点が推知される記載がされている。そして,この記載を補足するための証拠として,その裏付けとなる資料の名称等(添付文書中の別添1ないし13)が適宜示されている。
検査結果の部分には,本件立入検査の結果が記載されており,実際に検査を行った完了検査業務のうち建築基準法違反の検査と疑われたものの件数やそのように疑われた具体的な根拠等,さらには,a社に対する同法違反の検査の確認結果や同法違反の検査が行われるに至った背景事情が,その裏付けとなる資料の名称等(添付文書中の別添1ないし13)を適宜示しながら,具体的かつ詳細に述べられている。それらの資料は,a社が任意に提出した同社の内部資料等である。
イ 添付文書
添付文書は,参考として添付された資料と別添1ないし13とに分けられる。
(ア) 参考として添付された資料
右上端に「【参考】」と表示された横書きの文書で,被告の職員が,a社において認められた建築基準法違反の検査の概要を明らかにし参考に供するため,本件立入検査の結果(同社から提出された資料等を含む。)を基に,同法違反の検査が確認された各物件につき,その物件名やこれを担当した補助員名,検査の日付をまとめた書面である。
(イ) 別添1ないし13
① 別添1(検査方法,本社分)
a社が通常の業務過程で作成した文書で,同社の業務の一部に関する業務実績の推移が具体的に数字等を用いて表形式で記載されており,被告が本件立入検査においてどの範囲の業務を検査するのかを判断するに当たって必要となった文書である。本件立入検査において検査対象を抽出するための端緒となる情報とともに,法人等に関する情報が含まれている。被告の職員が同社から提供を受けた文書である。
② 別添2(検査方法,本社分)
a社が通常の業務過程で作成した職員名簿に被告の職員が手書きで記号を記入したものであり,確認検査業務に関与した同社の職員を特定する上で必要となった文書である。本件立入検査の着眼点が示されているとともに,同社の職員の氏名,年齢等の個人に関する情報が含まれている。被告の職員が同社から提供を受けた文書である。
③ 別添3(検査方法,本社分)
a社が通常の業務過程で作成した文書(顧客リストに類する内容のもの)に被告の職員が手書きで文字や記号を記入したものであり,同社が確認検査業務を行った物件を特定する上で必要となった文書である。同社の一部の職員の氏名や特定の顧客(個人,法人を含む。以下同じ。)を識別することが可能な記載(物件の名称,所在地といった顧客固有の情報をいう。以下同じ。)とともに,これらにより同社の一部の業務が明らかとなる記載がされており,個人及び法人等に関する情報が含まれている。被告の職員が同社から提供を受けた文書である。
④ 別添4(検査結果,本社分)
a社から提供を受けた資料(顧客リストに類する内容のもの)を基に被告の職員が作成した文書であり,同社が確認検査業務を行った物件で確認検査員以外の者(補助員)のみが完了検査を実施した可能性の高いものを特定する上で必要となった文書である。同社の職員の氏名や特定の顧客を識別することが可能な個人及び法人等に関する情報とともに,これにより検査方法及び検査結果が推知される内容が含まれている。
⑤ 別添5(検査結果,本社分)
「確認書」と表示した文書で,被告の職員が本件立入検査及び質疑応答の内容を記載し,a社がその内容を確認した旨の記載がある文書であり,検査結果そのものというべき内容とともに,これにより検査方法も推知することができる内容が含まれている。
⑥ 別添6(検査結果,本社分)
a社が作成した文書(同社の特定の業務における内部決裁文書)で同社の業務内容の一端を示すものであり,本件業務停止命令の原因となる事実を裏付ける上で必要となった文書である。同社の特定の顧客を識別することが可能な記載とともに,同社の特定の業務内容が個別具体的に判明する記載がされており,個人及び法人等に関する情報が含まれている。また,被告の職員が手書きで文字や記号を記入するなどの加工を施しており,立入検査における着眼点も示されている。被告の職員が同社から提供を受けた文書である。
⑦ 別添7(検査結果,本社分)
a社が通常の業務過程で作成した文書(文書の右上部に「(内部資料)」と付されたいわゆる内部通達文書に類するもの)で同社の一部の業務に係る同社独自の検査実施方法等の内容について具体的に記載したものであり,本件業務停止命令の原因となる事実を裏付ける上で必要となった文書である。同社独自の確認検査業務の実施方法等の内容が具体的に記載されており,法人等に関する情報を含んでいる。被告の職員が同社から提供を受けた文書である。
⑧ 別添8(検査方法,b支店分)
a社が通常の業務過程で作成した職員名簿に被告の職員が手書きで文字や記号を記入したものであり,確認検査業務に関与した同社の職員を特定する上で必要となった文書である。本件立入検査の着眼点が示されているとともに,同社の職員や退職した職員の氏名,生年月日等の個人及び法人等に関する情報が含まれている。被告の職員が同社から提供を受けた文書である。
⑨ 別添9(検査方法,b支店分)
a社が通常の業務過程で作成した文書(顧客リストに類する内容のもの)に被告の職員が文字や記号を手書きで記入したものであり,同社が確認検査業務を行った物件を特定する上で必要となった文書である。同社の一部の職員や特定の顧客を識別することが可能な記載とともに,これらにより同社の一部の業務が明らかとなる記載がされており,個人及び法人等に関する情報が含まれている。被告の職員が同社から提供を受けた文書である。
⑩ 別添10(検査方法,b支店分)
a社が通常の業務過程で作成した文書で個々の職員の勤務実態の一部について日単位で詳細に記載したものであり,他の資料と照合して初めて意味を成し,本件業務停止命令の原因となる事実を裏付ける上で必要となった文書である。同社の一部の職員の氏名を識別することが可能な記載がされ,確認検査の遂行に関する情報並びに個人及び法人等に関する情報が記載されている。被告の職員が同社から提供を受けた文書である。
⑪ 別添11(検査結果,b支店分)
a社が作成した文書(顧客リストに類する内容のもの)に被告の職員が手書きで文字や記号を記入したものであり,同社が確認検査業務を行った物件で確認検査員以外の者(補助員)のみが完了検査を実施した可能性の高いものを特定する上で必要となった文書である。同社の職員の氏名や特定の顧客を識別することが可能な個人及び法人等に関する情報とともに,これにより同社の一部の業務が明らかとなる情報が記載されている。被告の職員が同社から提供を受けた文書である。
⑫ 別添12(検査結果,b支店分)
a社が作成した文書(同社の特定の業務における内部決裁文書)で同社の業務内容の一端を示すものであり,本件業務停止命令の原因となる事実を裏付ける上で必要となった文書である。同社の職員や特定の顧客を識別することが可能な記載とともに,同社の個別具体的な業務内容の記載がされている。また,被告の職員が手書きで文字や記号を記入するなどの加工を施しており,立入検査における着眼点も示されている。被告の職員が同社から提供を受けた文書である。
⑬ 別添13(検査結果,b支店分)
「確認書」と表示した文書で,被告の職員が本件立入検査及び質疑応答の内容を記載し,a社がその内容を確認した旨の記載や特定の顧客を識別することが可能な記載がある文書であり,検査結果そのものというべき内容とともに,これにより検査方法も推知することができる内容が記載されている。
2 情報の単位(部分開示の判断基準)
情報公開法においては,個人識別情報(同法5条1号前段)は,個人識別性のある部分とそれ以外の部分との総体が一つの不開示情報となり,また,公にすることによる権利利益侵害のおそれを具体的に考慮せずに事項的に不開示とされるものであるから,その全体を一律に不開示とすると,個人の権利利益保護の必要性を超えて不開示の範囲が広くなるおそれがある。そこで,個人識別情報のうち個人識別性のある部分以外の部分については,公にしても個人の権利利益を害するおそれがないときは,これを開示すべきこととされている(同法6条2項)。
これに対し,個人識別情報以外の不開示情報については,不開示情報の一部分の開示という特別の制度は設けられていない(同法6条1項,最高裁平成13年3月27日第三小法廷判決参照)から,同法5条各号に規定する「おそれ」を生じさせる原因となる情報であるか否かを,最小単位の情報ごとに判断すべきである。文書に盛り込まれた情報の合理的な解釈として細目的事項の水準で情報を把握して不開示事由の有無を判断すれば,それが一般に利益保護に必要な範囲であり,不開示の範囲が不必要に広くなるおそれがないからである。
3 争点(1)(本件不開示部分の情報公開法5条1号該当性)について
本件不開示部分(本件報告書の本体部分1項)のうち「検査を行った者の氏名」(別紙不開示部分目録記載1)及び「検査対象機関の対応者の氏名」(同記載2)は,情報公開法5条1号の不開示情報に該当する。
(1) 情報公開法5条1号本文該当性
ア 本件報告書の本体部分1項中には本件立入検査を行った被告の職員の氏名(検査を行った者の氏名)及び同検査に応対したa社の役員等の氏名(検査対象機関の対応者の氏名)が記載されているから,同部分に記載された情報は,情報公開法5条1号本文にいう「個人に関する情報であって,当該情報に含まれる氏名…により特定の個人を識別することができるもの」(以下,この情報を「個人識別情報」ということがある。)に該当する。
イ 原告は,情報公開法5条1号本文の個人識別情報を限定的に解釈すべきであり,少なくとも本件報告書の本体部分1項中の公務員(検査を行った者)の氏名は,公務員の職務の遂行に関する情報であるから,同号本文の不開示情報には該当しないなどと主張する。
しかし,同法5条1号ただし書ハが,当該個人が公務員である場合における例外事由を定めていることからすれば,同号の個人識別情報に「公務員である個人に関する情報であって,特定の個人を識別することができるもの」が含まれることは明らかである。また,同号ただし書ハが,当該公務員の職等に係る部分の情報を不開示情報から除外しているのに対し,当該公務員の氏名は不開示情報から除外していない(その趣旨は,公務員等の氏名の記載は行政事務を遂行した公務員等を特定するために必要ではあるが,それは同時に公務員等の私生活における個人識別情報としての性格も有しており,それを開示した場合に公務員等の私生活に及ぼす影響が小さくないため,私人の場合と同様に個人情報として保護すべきことにある。)ことに照らせば,同法5条1号が当該公務員の氏名も個人情報として保護する立場を採っていることは明らかである。
(2) 情報公開法5条1号ただし書該当性
ア 主張立証責任の所在
情報公開法によれば,何人も行政機関の長に対して当該行政機関の保有する行政文書の開示を請求することができ(同法3条),行政機関の長は,開示請求があったときは,開示請求に係る行政文書に同法5条各号に掲げる情報のいずれかが記録されている場合を除き,開示請求者に対して当該行政文書を開示しなければならない(同条本文)から,同条各号の不開示情報該当性(の根拠事実)は,原則として被告が主張立証責任を負うというべきである。しかしながら,同条1号のように不開示情報に係る規定が本文とただし書とに分かれている場合には,ただし書は,本文によって不開示とされる情報から除外される情報を定めたものであり,開示請求者(原告)がその適用を求める規定であるから,ただし書該当性は原告が主張立証責任を負うと解すべきである。
イ ただし書該当性
(ア) 原告は,本件報告書の本体部分1項に記載されている検査を行った者のうち少なくとも課長担当職以上の者の氏名は,職員録に記載されているから,情報公開法5条1号ただし書イにいう慣行として公にされている情報に該当し,また,検査対象機関の対応者のうち少なくとも取締役の肩書を有する者の氏名は,商業登記簿謄本により公にされているから,同号ただし書イにいう法令の規定により公にされている情報に該当すると主張する。
しかしながら,原告の上記主張は失当である。すなわち,本件報告書の本体部分1項に被告の職員及び対応したa社の役員等の氏名が記載されているため,同部分全体を同法5条1号により不開示にすべきであるが,被告は,当該氏名部分を除けば当該職員等の権利利益が害されるおそれがないため,同法6条2項により本体部分1項を当該氏名部分を除いて開示した。しかるところ,本体部分1項を公にする法令の規定及び慣行はなく,また,仮にこれらの情報が公にされると,特定の検査員に圧力を加えたり何らかの働きかけがされる可能性があるから,これらの情報を公にすることは不適切である。
(イ) 原告は,建築確認が適法にされているか否かという事柄は正に国民の生命,健康等の保護にかかわる問題であるから,本件報告書の本体部分1項は,その全体(個人の氏名も含む。)が,情報公開法5条1号ただし書ロにより公にすることが必要な情報に該当すると主張する。
しかし,個人識別情報が同号ただし書ロに該当するといえるためには,不開示により保護される利益と開示により保護される人の生命,健康等の利益とを比較衡量し,後者が優越する場合でなければならない。しかるところ,本件報告書の本体部分1項中の不開示部分は個人の氏名という個人のプライバシーの中核的な部分であるのに対し,同部分は本件業務停止命令等の前提となる本件立入検査の概要をとりまとめたものであり,この内容を公にすることと建築確認が適法にされているか否かということが直接的に関係するとはいえない。そして,他に,上記部分を公にすることにより,どのような利益がどのような理由で保護されることになるのか明らかでない。よって,上記部分を公にすることにより人の生命,健康等の利益の保護に資するとは認められない。
(ウ) したがって,本件報告書の本体部分1項のうち同法6条2項により開示された部分を除いた部分は,同法5条1号ただし書イ,ロのいずれにも該当しない。
(3) 結論
以上のとおり,本件報告書の本体部分1項のうち検査を行った者の氏名及び検査対象機関の対応者の氏名は,情報公開法5条1号の不開示情報に該当する。
4 争点(2)(本件不開示部分の情報公開法5条6号該当性及び部分開示の可否)について
本件不開示部分(本件報告書の本体部分2項及び添付文書)のうち「検査方法(本社分)」(別紙不開示部分目録記載3),「検査結果(本社分)」(同記載4),「検査方法(b支店分)」(同記載5),「検査結果(b支店分)」(同記載6),「参考として添付された資料」(同記載7)及び「別添1」ないし「別添13」(同記載8ないし20)は,情報公開法5条6号イ,同号柱書の不開示情報に該当する。
(1) 情報公開法6条1項に基づく部分開示の可否
本件報告書のうち検査方法,検査結果,参考として添付された資料及び別添1ないし別添13は,それぞれが不開示事由たる「おそれ」等を生じさせる不開示情報そのものであり,それぞれが一個の独立した情報を構成し,その一部にのみ不開示情報が記録されているわけではないから,情報公開法6条1項を適用してその一部を開示する余地はない(その詳細は,(2)以下のとおりである。)。
(2) 検査方法(本社分)(別紙不開示部分目録記載3)の情報公開法5条6号該当性
ア 情報公開法5条6号イ該当性
(ア) 本件報告書の本体部分2項のうち検査方法(本社分)には本件立入検査に係る具体的な手順,着眼点及び実施方法等が示されており,これが国の機関である被告が行う検査に係る事務に関する情報に該当することは明らかである。この部分には,確認検査業務のうちどの業務をどのような期間について検査対象としたか,どのような資料をどのような順序で提出するよう依頼したか,どのような事実を口頭で確認したか,といった本件立入検査の手順,実施方法が記載され,また,検査の対象とされた期間を選択する際にどのような範囲に着目したか,検査結果を導くに当たりどのような資料のどの部分を検討し,どのような資料と資料を比較して判断したか,といった立入検査の着眼点が推知される記載がされており,立入検査一般のノウハウというべき事項が含まれている。
立入検査においては,その時間的・人的制約等から,指定確認検査機関の確認検査業務のすべてを検査したり,すべての資料の提出を求めてこれを検討することは到底不可能であるから,検査の範囲はおのずと限定せざるを得ないし,また,提出を求め検討する資料等も取捨選択せざるを得ない。このような事情の下では,検査対象機関に予備知識や対応の時間的余裕を与えないことが肝要であり,立入検査における着眼点や提出を求める資料等の内訳が公にされれば,立入検査を受ける指定確認検査機関において,あらかじめどの範囲の業務につき検査を受けるか,どのような資料の提出を求められるか,といった事項を推察することが容易になり,仮に違法不当な行為がされていた場合には,その露見を防止する対策を施す時間的余裕が生じることになる(例えば,立入検査における着眼点が分かれば,違法不当な行為がされた範囲の業務については着眼に値する状況を作らないようにし,更にこれとは無関係の範囲の業務についてはこれに値する状況を作出するなどして,担当職員の目を欺くことも可能となる。)。そして,上記のような事態となれば,立入検査において,正確な事実を把握することは著しく困難になるし,違法不当な行為を極めて容易にし又はその発見が著しく困難になることも明らかである。
したがって,本件報告書の本体部分2項のうち検査方法(本社分)は,これを公にすることにより,検査に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあるというべきであり,情報公開法5条6号イの不開示情報に該当する。
(イ) 原告は,①立入検査の着眼点,ノウハウが公にされると検査対象機関に露見防止対策を施す時間的余裕が生じるとの被告の主張は,検査対象機関に立入検査を実施することが事前に漏洩していることを前提としており,不当である,②本件立入検査は確認検査員以外の者に確認検査を実施させたという簡単な事実の有無の調査であり,その検査方法は容易に推定することができるから,その点に関する被告のノウハウなどない(現に,被告から立入検査を受けた原告において,検査方法につきノウハウ性を感じることはなかった),③検査対象機関はどの案件が検査対象となるかが分からないし,立入検査に必要な書類は建築基準法令で網羅された上,その保存義務が定められ,この義務に違反すると不利益処分を受けるおそれがあるから,指定確認検査機関が露見防止対策を講ずることはあり得ない,④検査方法には多種多様なものがあり得るから,a社において採用された検査方法が公にされたとしても,それ以外の検査方法により検査を実施すれば足りるから,露見防止対策が講じられることはない,⑤他の指定確認検査機関はa社から本件立入検査に関する情報を得られるから,本件立入検査の方法に関する情報を不開示としたところで今後正確な事実の把握等に支障が生じるのを効果的に防止することができるのか疑問がある,などと主張する。
しかし,①については,被告の主張は,立入検査の実施を決定してから立入検査を実施するまでの期間に検査対象機関により露見防止対策がとられることだけを前提とするものではないし,また,定期的な立入検査については,実施期日等をあらかじめ連絡するため,検査対象機関がその実施を事前に知り得ることからして,原告の主張はその前提を欠いている。
②については,前記のとおり,本件立入検査は検査主体の時間的及び人的制約等の条件を前提として,綿密な計画の下で効率的かつ臨機応変に実施しているものであり,単純かつ画一的な方法で行われるものではないし,その検査方法には,限られた時間で効率的な検査を実施するために特別なノウハウが含まれているから,これを公表することは相当でない。また,前記のとおり,検査方法を公表すると,検査方法等が相手方に把握されて業務が公正かつ適確に実施されているか否かを十分にチェックすることができなくなるおそれがあり,実質的に「検査」業務を空洞化させることにつながることとなる。
③については,一定期間に多数の指定確認検査機関について特定の検査対象に係る立入検査を実施する場合に,最初に実施された立入検査の内容が公にされれば,その後に立入検査を受ける指定確認検査機関がその検査対象を予測して露見防止対策を講ずることは十分考えられる。また,建築基準法等の定める書類の保存義務があるのは確かであるが,立入検査の対象となる資料がそれらの書類に限定される理由はない(現に,本件立入検査においても,法定の書類以外の内部文書も任意提供を受けて検査対象としている。)。さらに,検査対象機関に対する不利益処分が定められているとしても,このことから直ちに,指定確認検査機関が露見防止対策を講ずることが事実上あり得ないということもできない。
④については,検査方法が公にされた場合における対応策としての意味はあるとしても,検査方法を公にしても弊害が生じないことの根拠にはならない。
さらに,⑤については,確かに指定確認検査機関による情報交換が業務の必要性に応じて(節度をもって)行われていることは予想されるが,行政庁の検査においてどのような資料を調べたかというような検査方法等に関する事項の詳細な内容についてまで情報交換が行われ,それが指定確認検査機関の間に広く知れ渡っているという証拠はない。また,仮に一部の指定確認検査機関が本件立入検査の方法の一部を知ることがあったとしても,そのことをもって検査方法のすべてを開示すべきことの理由にはならない。なお,これまで円滑に立入検査事務が遂行されている経緯等からすると,検査情報の公表について,業界内部で一定の自制心が保たれていると考えられる。
以上のとおり,原告の上記反論はいずれも採用することができない。
イ 情報公開法5条6号柱書該当性
(ア) 前記1(2)ウのとおり,立入検査は国土交通大臣等による指定確認検査機関に対する監督(間接コントロール)の事務のうちの一制度であるから,本件報告書の本体部分2項の検査方法(本社分)の部分は,国の機関である被告が行う指定確認検査機関に対する監督の事務に関する情報に該当する。
しかるところ,前記のとおり,立入検査は監督命令や業務停止命令等の不可欠の前提であることに照らせば,仮に立入検査において,正確な事実を把握することが著しく困難になったり,違法不当な行為が極めて容易になり又はその発見が著しく困難になったりすれば,指定確認検査機関に対する監督の事務の適正な遂行に重大な支障が生じることは明らかである。
また,検査方法のような立入検査一般のノウハウを含む事項を広く公にすることになれば,立入検査の報告書を作成する被告の職員において,ノウハウが明らかにされることで上記のような支障等が生じることを強く危ぐして萎縮し,検査方法の記載を抽象化,簡素化するおそれも大きい。ところで,業務停止命令等をするには,処分権者において処分事由の有無に関して慎重に調査等を行うことが要請されるところ,立入検査においては,指定確認検査機関の確認検査業務のすべてを検査し又はすべての資料を検討することは到底不可能であるから,処分事由の有無の判断に当たっては,単に報告された立入検査の結果のみを検討すれば足りるというものではなく,検査方法が妥当であったか否か(検査対象とした業務の選定方法が妥当であったか,どのような資料等に基づき当該検査結果を導き出したのか,偏ぱな検査方法となっていないかなど)にまでさかのぼって判断・検討する必要がある。しかるに,検査方法の記載が抽象化,簡略化されると,被告が業務停止命令等をするに当たり,処分事由の有無に関する公正かつ適確な判断をすることが困難になる。
したがって,本件報告書の本体部分2項のうち検査方法(本社分)は,これが公にされることにより,国の機関である被告が行う指定確認検査機関に対する監督(間接コントロール)の事務の適正な遂行に重大な支障を生じるというべきであるから,同部分は情報公開法5条6号柱書の不開示情報に該当する。
(イ) 原告は,①立入検査の方法を開示しても,その対象が分からなければ指定確認検査機関が露見防止対策を講ずることは不可能である,②立入検査の報告書作成に当たって立入検査の方法の記載が抽象化,簡素化されたとしても,監督処分に必要なのは検査結果であって検査方法ではない,③仮に検査方法の記載が抽象化,簡素化されたとしても,担当者から口頭又は書面で詳細な報告を求めれば監督の事務の適正な遂行に重大な支障が生じることはあり得ない,と主張する。
しかし,①については,立入検査の方法が開示されれば,指定確認検査機関が露見防止対策を講ずることが十分可能であることは,前記のとおりである。
また,②については,検査方法の重要性を看過するものであって,不当である。すなわち,本件立入検査のように検査の対象業務,検討資料の範囲を限定した場合には,対象業務の選定方法が妥当であったか,どのような資料に基づき当該検査結果を導き出したのか,偏ぱな検査方法となっていないかなど,検査方法の妥当性について判断・検討する必要があるが,その適正な判断のためには立入検査の方法の記載が具体的であることが必要であり,被告が業務停止命令等をするに当たっては検査方法に関する情報が重要である。しかるところ,このような情報が開示されれば,立入検査の報告書を作成する職員が,検査方法の内容を秘匿することはないにしても,その記載を抽象化,簡素化するおそれが十分にあり,その結果,処分事由の有無に関する公正かつ的確な判断をすることが困難となるのは明らかである。
さらに,③についても,前記②と同様に,本件立入検査における検査方法に関する記載のもつ重要性を軽視するものであって,不当である。なお,被告が再度検査方法について文書報告を求めるにしても,仮に検査方法のようなノウハウを広く公にするという前提があるのであれば,検査方法を記載した報告書を最初に提出したときと何ら事情が変わらないし,また,検査方法の再度の報告を口頭で求めるのみではその後に検査方法の正当性の判断が困難となるのは明らかである。
以上のとおり,原告の上記反論はいずれも採用することができない。
(3) 検査結果(本社分)(別紙不開示部分目録記載4)の情報公開法5条6号該当性
ア 情報公開法5条6号イ該当性
(ア) 本件報告書の本体部分2項のうち検査結果(本社分)には本件立入検査の結果が記載されているから,これが国の機関である被告が行う検査に係る事務に関する情報に該当することは明らかである。
そして,同部分には,より具体的には,実際に検査を行った完了検査業務のうち建築基準法違反の検査と疑われたものの件数,そのように疑われた具体的な根拠等が,その裏付けとなる資料の名称等を適宜示しながら,具体的かつ詳細に述べられている。これらの検査結果は,a社の任意の協力の下で取得した内部資料等に基づき記載されている。
立入検査を有効かつ効果的に実施するためには,関係資料等の入手・検討が不可欠である。しかるところ,建築基準法は,国土交通大臣(被告)等の職員に立入検査の権限を与えている(同法77条の31)が,関係資料等を押収するような直接的な強制の制度は採用しておらず,立入検査を拒み,妨げ又は忌避した場合や立入検査において質問に答弁せず又は虚偽の答弁をした場合に刑罰に該当するとして(同法100条6,7号),立入検査への協力を間接的・心理的に強制しているにすぎず,しかも,罰則が科せられるのは,事実上,悪質な検査忌避,検査妨害がある場合に限られている。したがって,立入検査に係る強制力には限界があり,関係資料等の入手は指定確認検査機関の任意の協力なしでは容易にすることはできない。また,指定確認検査機関において,どのような資料等を取りそろえるか,どのような形式を用いるか(書面で残すか電磁データで残すかなど)ということは,同法77条の29などで定められている以外は当該機関のノウハウ等にゆだねられており,被告の職員が立入検査において提示・提出を求める資料が具体的にどれに当たるかは,指定確認検査機関の任意の協力がないと特定することが困難な場合が少なくない。このように,立入検査を有効かつ効果的に実施するためには,指定確認検査機関の任意の協力が極めて重要である。
そして,立入検査は,検査対象機関が提供した資料が公開されないことが前提で行われ,検査官は検査対象機関とのこの協力関係を保ちながら,当該指定確認検査機関の機微に触れる情報を含む内部資料の提出や事情の聴取などを求めて検査を行っている。
しかるに,情報公開法は請求の理由や利用目的を問わず何人にも開示請求権を与えている(同法3条)から,a社の任意の協力を得て提出された内部資料等に基づいて記載した本社分の検査結果を,同社の関与しないところで被告が一方的に開示すれば,同社と被告との信頼関係が阻害され,今後同社からの任意の協力が得難くなるばかりか,このようなことが広く知られれば,今後検査の対象となり得る他の指定確認検査機関との関係でも任意の協力を得られなくなる蓋然性が高い。具体的には,指定確認検査機関が,被告に資料等を提供するに当たり,提供した資料が競合他社を含む第三者に明らかにされる危険性を考えて,社内の「生のデータ」というべき関係資料の提出に応じるか否かを検討し,提出に応じた場合の利害とこれを拒否した場合の利害とを比較して,その提出を拒み又は提出の範囲を限定するほか,提出に先立って検討の時間を求めるなどの対応策を講ずる蓋然性が極めて高いというべきである。そうなれば,今後の立入検査において正確な事実を把握することや,違法不当な行為を極めて容易にし又はその発見が著しく困難になることはいうまでもない。
さらに,本件報告書のうち本社分の検査結果の部分には,裏付けとなる資料の名称等を適宜示しながら,検査結果のポイントが具体的かつ詳細に述べられており,その内容からさかのぼってそこに含まれている検査方法のノウハウ(どのような資料に基づきどのような調査を行ったかということ,検査を実施する際にある形式的な事実にまず着目して特定の法令違反等の事実を発見していくこと等)を容易に予測することが可能であるから,これを公にすることにより,指定確認検査機関において立入検査で検査官がまず着目する形式的な事実を事前に隠ぺい,改ざんするなど,検査事務に関して正確な事実の把握を困難にすることや,違法不当な行為を容易にし又はその発見を困難にするおそれがあるというべきである。
以上のとおり,本件報告書の本体部分2項のうち検査結果(本社分)は,これを公にすることにより,検査に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあるから,情報公開法5条6号イの不開示情報に該当する。
(イ) 原告は,①本件立入検査で被告が得た検査結果は,被告が建築基準法77条の31に基づく報告・立入検査の権限を行使し,刑事罰による制裁を背景に取得した情報であり,任意提供されたものと評価することはできないし,違反案件の数等の記載を開示することがなぜ被告とa社との信頼関係を崩すことになるのか明らかでなく,むしろ,立入検査をする者とこれを受ける指定確認検査機関との間には緊張関係しかないのが通常であるから,このように任意提供されたものでない情報を情報公開法5条2号によらずに同条6号イに該当するとして不開示にすることは,同条2号の存在意義を没却する,②平成11年4月28日付け建設省住指発第201号・建設省住街発第48号「建築基準法の一部を改正する法律の一部の施行について」と題する通達(以下「本件通達」という。)において明確に立入検査の結果等の情報を積極的に公開することが表明されているのであるから,同条6号イのおそれは考えられない,などと主張する。
しかし,①については,本件立入検査において被告がa社から提供を受けた内部資料等の情報は,建築基準法77条の31に基づく報告により提供を受けたものではないから,その前提を欠いている。また,立入検査は捜査機関による押収に相当するような直接的・物理的な強制を伴うものではないから,上記資料等は強制的に提供を受けたものではない。確かに,立入検査においては,指定確認検査機関に対して罰則の制裁を示して検査等の受忍を求めるが,関係資料等を提供するか否かは,最終的には指定確認検査機関の任意の判断によるものである。さらに,被告が立入検査の結果を検査目的のみに使用し第三者に公開しないという信頼関係があるために,検査対象機関は関係資料の提供を含めてできる限り立入検査に協力するのである。よって,検査結果が開示されれば,被告とa社,ひいてはこれまで立入検査に協力していた指定確認検査機関や今後立入検査の対象となる指定確認検査機関との信頼関係が阻害されることは,明らかである。
また,②については,後記のとおり,本件通達の存在は情報公開法に基づく情報公開の理由とはならない。
以上のとおり,原告の上記反論はいずれも採用することができない。
イ 情報公開法5条6号柱書該当性
(ア) 前記1(2)ウのとおり,立入検査は国土交通大臣等による指定確認検査機関に対する監督(間接コントロール)の事務のうちの一制度であるから,本件報告書の本体部分2項の検査結果(本社分)の部分は,国の機関である被告が行う指定確認検査機関に対する監督の事務に関する情報に該当する。
しかるところ,前記のとおり,立入検査は監督命令や業務停止命令等の不可欠の前提であることに照らせば,仮に立入検査において,正確な事実を把握することが著しく困難になったり,違法不当な行為が極めて容易になり又はその発見が著しく困難になったりすれば,指定確認検査機関に対する監督の事務の適正な遂行に重大な支障が生じることは明らかである。
また,本社分の検査結果のような情報を広く公にするということになれば,立入検査の報告書を作成する被告の職員において,指定確認検査機関との信頼関係が阻害されるなどして上記のような支障等が生じることを強く危ぐして萎縮し,検査結果の記載を抽象化,簡素化するおそれも大きい。ところで,業務停止命令等をするには,処分権者において処分事由の有無に関して慎重に調査等を行うことが要請されるところ,立入検査はそれらの不可欠の前提とされるから,立入検査の結果が抽象的,簡素な形でしか報告されないということになると,処分事由の有無に関して公正かつ適確な判断などできるはずもない。
したがって,本件報告書の本体部分2項のうち検査結果(本社分)は,これが公にされることにより,国の機関である被告が行う指定確認検査機関に対する監督(間接コントロール)の事務の適正な遂行に重大な支障を生じるというべきであるから,同部分は情報公開法5条6号柱書の不開示情報に該当する。
(イ) 原告は,①立入検査において,被告が検査対象機関との信頼関係に基づいて関係資料の任意提供を受けるということはないから,検査結果の開示により,正確な事実の把握が困難となり又は違法不当な行為を容易にするおそれはない,②報告書を作成する被告の職員が,指定確認検査機関との信頼関係が阻害されるなどの支障が生じることを危ぐして,検査結果に関する記載を抽象化,簡素化することは許されない,③被告がノウハウと主張しているものはノウハウと評価することができるものではなく,仮にノウハウと評価することができるとしても,事案によって検査方法は多様であるから,検査方法の一つを開示することが今後の監督事務に重大な支障を生じさせるとは考え難い,などと主張する。
しかし,①については,前記のとおり,立入検査は,情報が第三者に開示されないという被告と指定確認検査機関との信頼関係を前提に,被告が検査対象機関から任意に資料の提供を受けて行われるのであるから,検査結果の開示により,被告の立入検査ひいては業務停止命令等の指定確認検査機関に対する監督(間接コントロール)に弊害が出ることは明らかである。
また,②については,前記のとおり,立入検査の結果が公にされると,検査に従事する職員が,被告と指定確認検査機関との信頼関係が阻害されるなどの支障を生じることを危ぐして萎縮する危険があるとともに,立入検査の報告書を作成する職員が,検査結果を具体的かつ詳細に述べると検査方法を推知させるとして検査結果を導くに至った資料等に言及することをちゅうちょし,検査結果に当該職員の判断を記載するのを差し控えるなど,検査結果の記載を抽象化,簡素化するおそれが十分にあるのである。
さらに,③については,被告が行う指定確認検査機関に対する監督事務の適正な遂行に重大な支障を生じることは,前記(1)ア(イ)と同様である。
以上のとおり,原告の上記反論はいずれも採用することができない。
(4) 検査方法(b支店分)(別紙不開示部分目録記載5)の情報公開法5条6号該当性
本件報告書の本体部分2項のうち検査方法(b支店分)には本件立入検査に係る具体的な手順,着眼点及び実施方法等が示されているところ,その内容は同項の検査方法(本店分)の部分と同様であるから,同項の検査方法(b支店分)の部分は,前記(2)と同様の理由により,情報公開法5条6号イ及び同号柱書の各不開示情報に該当する。
(5) 検査結果(b支店分)(別紙不開示部分目録記載6)の情報公開法5条6号該当性
本件報告書の本体部分2項のうち検査結果(b支店分)には本件立入検査の結果が記載されており,その内容は同項の検査方法(本社分)の部分と同様であるから,同項の検査結果(b支店分)の部分は,前記(3)と同様の理由により,情報公開法5条6号イ及び同号柱書の各不開示情報に該当する。
(6) 参考として添付された資料(別紙不開示部分目録記載7)の情報公開法5条6号該当性
本件報告書に参考として添付された資料は,前記1(5)イ(ア)のとおり,検査結果そのものあるいはそれに準ずる内容のものである。しかるところ,同部分には個人に関する記載や特定の顧客を識別することができる記載が含まれているから,これを開示すると,前記(3),(5)と同様に,a社と被告との信頼関係が阻害される程度が極めて大きく,今後の被告の立入検査の事務や指定確認検査機関に対する監督(間接コントロール)の事務に与える悪影響は甚大である。よって,本件報告書に参考として添付された資料は,情報公開法5条6号イ及び同号柱書の各不開示情報に該当する。
(7) 別添1ないし13(別紙不開示部分目録記載8ないし20)の全体の情報公開法5条6号該当性(別添1ないし13の同号該当性についての主位的主張)
ア 別添1ないし13の情報公開法5条6号該当性の判断方法
国の機関が行う検査事務においては検査担当者が検査に係る事務の内容を総括する報告書を作成するところ,一般的に,そのような報告書には検査担当者の認識等を示す文書に加えて検査の過程で収集された文書が添付されるが,検査の過程で収集された文書は作成者,作成年月日,作成目的,提出先及び記載内容等が異なり得ることから,基本的に文書ごとにその不開示事由該当性を検討すべきこととなる。しかし,これらの文書は,検査担当者が検査の過程で一定の目的で収集した文書であるから,単に当該文書の記載内容自体から不開示情報該当性を検討するのみでは十分ではなく,当該文書が収集された経緯にも着目して不開示情報該当性を検討すべきである。
イ 別添1ないし13の情報公開法5条6号該当性
本件報告書の添付文書である別添1ないし13(別紙不開示部分目録記載8ないし20)の各文書は,前記1(5)イ(イ)のとおり,平成14年度にa社に対して実施された検査の過程で同社から任意の提出を受けたもので,同社の内部においてのみ使用され一般に公にされる慣行のない法人の内部管理情報(業務管理に関する情報,取引先・顧客等に関する情報等)が具体的に記載されている。
しかるところ,前記(3)ア(ア)のとおり,立入検査は検査対象機関が提供した資料が公開されない前提で行われ,検査官は検査対象機関とのこの協力関係を保ちながら,内部資料の提出や事情の聴取などを求めて検査を行っており,仮にこれがa社の関与しないところで公にされると,被告と同社との信頼関係が阻害され,今後指定確認検査機関が検査に非協力的ないし消極的な態度をとり,その結果,今後の検査事務や指定確認検査機関に対する監督の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある。また,これらの文書には検査官の指摘を逃れる方法を推測することができる事柄も含まれているため,これが公にされると,被告の検査事務において,正確な事実の把握を困難にし又は違法不当な行為を容易にし若しくはその発見を困難にするおそれがある。さらに,業務停止命令等をするには,処分権者が処分事由の有無につき慎重に調査等を行うことが要請されるが,それは単に報告された立入検査の結果のみを検討すれば足りるものではなく,検査方法の妥当性にまでさかのぼって検討・判断する必要があるため,被告が上記の資料の提供を受けられなくなれば,処分事由の有無につき公正かつ的確な判断をすることが困難になる。
したがって,本件報告書に添付された別添1ないし13の各文書は,その全体が,情報公開法5条6号イ及び同号柱書の各不開示情報に該当する。
(8) 別添1ないし13(別紙不開示部分目録記載8ないし20)の個別の情報公開法5条6号該当性(別添1ないし13の同号該当性についての予備的主張)
ア 別添1(別紙不開示部分目録記載8)の情報公開法5条6号該当性
(ア) 本件報告書の添付文書である別添1(検査方法,本社分)は,前記1(5)イ(イ)①のとおり,本件立入検査において検査対象を抽出するための端緒となる情報として必要となる文書であり,業務実績の推移に関する独立した一体的な情報である。しかるところ,これを開示すると,今後被告の行う検査への情報提供が円滑にされなくなるおそれがあり,また,被告の行う検査の対象資料,対象範囲が明らかになって,指定確認検査機関により指摘を逃れるための具体的な予防手段を講じられるおそれがある。したがって,別添1を開示すると,正確な事実の把握を困難にし,被告の検査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められ,別添1は,その全体が情報公開法5条6号イの不開示情報に該当する。
(イ) 原告は,別添1に記載された情報はa社のホームページで公開されている情報であるからこれを開示しても今後情報提供が円滑にされなくなるおそれがあるとはいえず,また,他の同様な事件が再発しても検査対象範囲の特定につき同じ方法を採ることはあり得ない,と主張する。しかし,業務実績の推移が具体的に数字等を用いて表形式で記載されたものには様々なものがあり,別添1には,同社のホームページで公開されている情報とは別の,より詳細な業務実績が記載されている。また,他の同様な事件が再発した場合,違反事実の発見に有効であった今回と同様の方法を採ることは合理的な考え方であるから,別添1を開示すると,前記のような被告の検査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるというべきである。
イ 別添2(別紙不開示部分目録記載9)及び別添8(同記載15)の情報公開法5条6号該当性
(ア) 本件報告書の添付文書である別添2(検査方法,本社分)及び別添8(検査方法,b支店分)は,前記1(5)イ(イ)②,⑧のとおり,a社の職員の氏名,年齢等が記載された文書であり,同社の人事管理に用いられているとともに本件立入検査における着眼点が示されている文書であり,それぞれが独立した一体的な情報である。しかるところ,これらを開示すると,同社との信頼関係を損ねて今後被告の行う検査に対する情報提供が円滑にされなくなるおそれがあり,また,特に被告の職員が手書きで記入した部分を開示することにより,被告の行う検査の対象資料の着目点が明らかになって指摘を逃れるための具体的な予防手段を講じられるおそれがある。したがって,別添2及び8を開示すると,正確な事実の把握を困難にし,被告の検査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められ,別添2及び8は,情報公開法5条1号,2号イ該当性を判断するまでもなく,その全体が同条6号イの不開示情報に該当する。
(イ) 原告は,別添2及び8のうち手書きで記入した部分の開示に問題があるとすれば,同部分のみを不開示とすれば足りると主張するが,同部分のみを不開示としても,これらの文書全体が検査方法を推測させるものであり,かつ,前記のとおり,これらの文書の開示により今後被告の行う検査に対する情報提供が円滑にされなくなるおそれがある。
ウ 別添3(別紙不開示部分目録記載10)及び別添9(同記載16)の情報公開法5条6号該当性
(ア) 本件報告書の添付文書である別添3(検査方法,本社分)及び別添9(検査方法,b支店分)は,前記1(5)イ(イ)③,⑨のとおり,a社の職員の氏名や特定の顧客を識別することが可能な記載とともに,本件立入検査における着眼点が示されている文書であり,それぞれが独立した一体的な情報である。しかるところ,これらを開示すると,これらの情報が同社の内部管理情報に該当するため,同社との信頼関係を損ねて今後被告の行う検査に対する情報提供が円滑にされなくなるおそれがあり,また,特に被告の職員が手書きで記入した部分を開示することにより,被告の行う検査の対象資料の着目点が明らかになって指摘を逃れるための具体的な予防手段を講じられるおそれがある。したがって,別添3及び9を開示すると,正確な事実の把握を困難にし,被告の検査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められ,別添3及び9は,情報公開法5条1号該当性を判断するまでもなく,その全体が同条6号イ及び柱書の各不開示情報に該当する。
(イ) 原告は,建築確認業務においては継続的に業務の委託をする顧客がないから顧客情報を保護する必要性はない旨主張するが,近年の分譲住宅供給方式の普及等にみられるように,指定確認検査機関に建築確認等を依頼する建築主が建設業者等となり継続的に業務委託をすることも十分にあり得るから,顧客情報保護の必要は十分にある。さらに,原告は,建築確認がされた物件の情報は建築基準法に基づきだれでも閲覧することができるから保護する必要はないなどと主張するが,同法93条の2に基づく閲覧制度でも,例えば明らかに営利を目的とする場合などは閲覧請求を拒否することができるから,その前提を欠いている。また,原告は,別添3及び9のうち手書きで記入した部分の開示に問題があるとすれば,同部分のみを不開示とすれば足りると主張するが,同部分のみを不開示としても,これらの文書全体が検査方法を推測させるものであり,かつ,前記のとおり,これらの文書の開示により今後被告の行う検査に対する情報提供が円滑にされなくなるおそれがある。
エ 別添10(別紙不開示部分目録記載17)の情報公開法5条6号該当性
(ア) 本件報告書の添付文書である別添10(検査方法,b支店分)は,前記1(5)イ(イ)⑩のとおり,a社の確認検査業務の遂行に関する記載とともに個人及び法人等に関する記載を含む文書であり,それぞれが独立した一体的な情報である。しかるところ,これらを開示すると,これらの情報が同社の内部管理情報に該当するため,同社との信頼関係を損ねて今後被告の行う検査に対する情報提供が円滑にされなくなるおそれがあり,また,被告の行う検査の対象資料の着目点が明らかになって指摘を逃れるための具体的な予防手段を講じられるおそれがある。したがって,別添10を開示すると,正確な事実の把握を困難にし,被告の検査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められ,別添10は,情報公開法5条1号該当性を判断するまでもなく,その全体が同条6号イの不開示情報に該当する。
(イ) 原告は,本件立入検査における被告の着目点が明らかになったとしても,被告が他の事件でも同じ着目点で調査をすることはあり得ないから,指定確認検査機関が予防手段を講じるおそれがあるとは考えられないと主張するが,他の同様な事件が再発した場合,違反事実の発見に有効であった今回と同様の方法を採ることは合理的な考え方であるから,別添10を開示すると,前記のような被告の検査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるというべきである。
オ 別添4(別紙不開示部分目録記載11)及び別添11(同記載18)の情報公開法5条6号該当性
(ア) 本件報告書の添付文書である別添4(検査結果,本社分)及び別添11(検査結果,b支店分)は,前記1(5)イ(イ)④,⑪のとおり,a社の職員の氏名や特定の顧客を識別することが可能な記載とともに,これにより検査方法及び検査結果が推知される内容が含まれている文書であり,それぞれが独立した一体的な情報である。しかるところ,これらを開示すると,同社との信頼関係を損ねて今後被告の行う検査に対する情報提供が円滑にされなくなるおそれがあり,また,被告の行う検査の対象資料の着目点が明らかになって指摘を逃れるための具体的な予防手段を講じられるおそれがある。したがって,別添4及び11を開示すると,正確な事実の把握を困難にし,被告の検査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められ,別添4及び11は,情報公開法5条1号該当性を判断するまでもなく,その全体が同条6号イの不開示情報に該当する。
(イ) 原告は,別添4及び11のうち手書きで記入した部分の開示に問題があるとすれば,同部分のみを不開示とすれば足りると主張するが,同部分のみを不開示としても,これらの文書全体が検査方法を推測させるものであり,かつ,前記のとおり,これらの文書の開示により今後被告の行う検査に対する情報提供が円滑にされなくなるおそれがある。
カ 別添5(別紙不開示部分目録記載12)及び別添13(同記載20)の情報公開法5条6号該当性
本件報告書の添付文書である別添5(検査結果,本社分)及び別添13(検査結果,b支店分)は,前記1(5)イ(イ)⑤,⑬のとおり,検査結果そのものというべき内容とともに,これにより検査方法も推知することができる内容が記載されている文書であり,それぞれが独立した一体的な情報となっている。しかるところ,これらを開示すると,被告の職員の審査の手の内情報などが分かり,今後どのような対策を講じれば違法不当な行為の発見から逃れられるのかなどが分かることとなるおそれがあり,被告の行う検査活動を困難にし,その事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる。よって,別添5及び13は,その全体が情報公開法5条6号イの不開示情報に該当する。
キ 別添6(別紙不開示部分目録記載13)及び別添12(同記載19)の情報公開法5条6号該当性
(ア) 本件報告書の添付文書である別添6(検査結果,本社分)及び別添12(検査結果,b支店分)は,前記1(5)イ(イ)⑥,⑫のとおり,a社の特定の顧客を識別することが可能な記載及び特定の個別具体的な業務内容の記載がされているとともに本件立入検査における着眼点が示されている文書であり,それぞれが独立した一体的な情報である。しかるところ,これらを開示すると,同社との信頼関係を損ねて今後被告の行う検査に対する情報提供が円滑にされなくなるおそれがあり,また,特に被告の職員が手書きで記入した部分を開示することにより,被告の行う検査の対象資料の着目点が明らかになって指摘を逃れるための具体的な予防手段を講じられるおそれがある。したがって,別添6及び12を開示すると,正確な事実の把握を困難にし,被告の検査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められ,別添6及び12は,情報公開法5条1号該当性を判断するまでもなく,その全体が同条6号イの不開示情報に該当する。
(イ) 原告は,別添6及び12のうち手書きで記入した部分の開示に問題があるとすれば,同部分のみを不開示とすれば足りると主張するが,同部分のみを不開示としても,これらの文書全体が検査方法を推測させるものであり,かつ,前記のとおり,これらの文書の開示により今後被告の行う検査に対する情報提供が円滑にされなくなるおそれがある。
ク 別添7(別紙不開示部分目録記載14)の情報公開法5条6号該当性
本件報告書の添付文書である別添7(検査結果,本社分)は,前記1(5)イ(イ)⑦のとおり,a社独自の確認検査業務の実施方法等の法人等に関する記載を含む文書である。しかるところ,これを開示すると,この情報が同社の内部管理情報に該当するため,同社との信頼関係を損ねて被告の行う検査に対する情報提供を困難にし,したがって,正確な事実の把握を困難にし,被告の検査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められる。よって,別添7は,その全体が情報公開法5条6号イの不開示情報に該当する。
(9) 結論
以上のとおり,本件報告書の本体部分2項及び添付文書のうち検査方法(本社分),検査結果(本社分),検査方法(b支店分),検査結果(b支店分),参考として添付された資料及び別添1ないし別添13は,情報公開法5条6号イ,同号柱書の不開示情報に該当する。
5 原告の主張に対するその他の反論
原告は,本件通達が指定確認検査機関に関する情報を積極的に公開していくことを明らかにしており,同通達では,建築主等のプライバシーと指定確認検査機関の営業上の利益だけが配慮事項とされ,指定確認検査機関との信頼関係への影響や監督業務への支障等は全く表明されていないから,本件不開示決定はこれに反する,などと主張する。
しかしながら,情報公開法は,政府の有するその諸活動一般について,国民(不特定多数の者で,主体,目的を問わない。)に説明する責務が全うされるようにするとともに,公正で民主的な行政を推進するため一定の範囲の情報の開示を義務付けたものであるから,各行政機関において一定の行政目的を達成するために行われている個別の所掌事務に関する一般的な情報提供の取扱いに,同法における情報公開の取扱いがそのまま当てはまるわけではない。本件通達による情報提供は,確認検査の業務の引受けを依頼しようとする建築主の判断に資するため,それに適した情報を取捨選択した上,建築主等のプライバシー,指定確認検査機関の営業上の利害等を損なわない範囲内で積極的に行われるものであるから,本件通達を根拠として同法による情報公開の適否やその範囲を論じることは相当ではない。なお,本件通達は,建築主等のプライバシー,指定確認検査機関の営業上の利害「等」を損なわない範囲内で積極的に情報を公開するとしており,指定確認検査機関との信頼関係への影響や監督業務への支障等を全く想定していないわけではない。
また,原告は,行政処分の適正を保障するためには行政処分の結果,その理由,その認定資料を国民に開示すること必要であるなどと主張するが,情報公開法が不開示事由を個別具体的に規定している以上,同法から離れて開示の是非を論ずることはできない。なお,被告は,a社に対する立入検査が行われた端緒,調査により判明した建築基準法違反に係る事実関係,同社の業務停止の期間,範囲,行えない業務等を報道発表するなど,国民に対して十分に情報を提供している。
第4原告の主張
1 指定確認検査機関制度と情報公開の必要性
指定確認検査機関の制度は,建築確認や検査についての行政の十分な実施体制を確保することができない状況等を背景として,これまで建築主事が行ってきた確認検査事務を必要な審査能力を備える公正中立な民間機関にも行わせて建築確認や検査の充実・効率化を図ることにある。しかし,建築確認や検査は極めて公共性の高い行政処分であるから,行政の間接コントロールにより制度の適正な運営を確保する必要があり,指定確認検査機関の指定について厳格な手続と資格条件を設けるほか,報告・立入検査,監督命令,業務停止命令等の制度が設けられており,これらに従わない場合には刑事罰の対象とされる。
この制度が適正に運営されるためには,情報公開が必要であるところ,平成11年4月28日付け建設省住指発第201号・建設省住街発第48号「建築基準法の一部を改正する法律の一部の施行について」と題する通達(本件通達)も,「確認検査の業務の引受けを依頼する建築主に対してより一層の情報提供を行う必要があることから,確認検査業務規程,確認検査の業務に関する報告,事務所への立入検査の結果等について問い合わせ等があった場合においては,建築主のプライバシー,指定確認検査機関の営業上の利害等を損なわない範囲内で,積極的に情報を公開すること。」としている。この情報公開の要請は,建築確認・検査を民間にゆだねるに当たって,行政による監督だけではなく国民に情報(行政処分の結果,その理由,その認定資料)を公開することによって指定確認検査機関にアカウンタビリティの責任をとらせ,よって,国民の信頼を高めることが必要であると考えられたものである。他方,国民にとっては,情報公開制度が監督官庁の指定確認検査機関への監督が適正に行われるための担保として機能することが期待されており,この重要性も忘れてはならない。なお,指定確認検査機関では,行政による情報公開を待つまでもなく,自発的に情報公開に取り組んで国民の信頼を得ている(甲4)。
以上のとおり,本件通達は国の方針として指定確認検査機関について情報を公開していくことを打ち出し,そこにおいては,建築主等のプライバシーと指定確認検査機関の営業上の利益だけが配慮事項とされ,情報を公開することによる指定確認検査機関との信頼関係への影響とか監督業務への支障などという観念は全く表明されていないから,本件不開示決定は本件通達の定めに反する。
なお,被告は,本件通達は情報公開法に基づく情報公開にはそのまま当てはまらないと主張するが,同通達においては,指定確認検査機関においてその提供した情報が開示される可能性が大きいことを認識し,また,行政機関も情報開示に努めなければならないことが明確になっているから,本件通達の存在により,少なくとも情報公開法5条各号の解釈は厳格にされるべきである。
2 情報の単位(部分開示の判断基準)
情報の単位は,個人識別情報以外の不開示情報にあっては,重層的な各階層でとらえた結果,不開示事由たる「おそれ」等を生じさせる原因となる情報の範囲を基準とすべきである。
(1) 情報公開法6条1項は,開示請求の対象である一つの行政文書に不開示情報が記録されていても,それが一部分にとどまることがあるため,行政機関の長は,不開示情報が記録された部分が他の部分と容易に区分することができるときは,不開示情報が記録された部分を除いた部分を開示しなければならないとしている。この部分開示においては,不開示情報の単位のとらえ方により,不開示とする部分の範囲に差異が生じることとなる。
(2) 最高裁平成13年3月27日第三小法廷判決は,情報の単位につき,「独立した一体的な情報を更に細分化し不開示とすべき箇所以外の部分を開示することまでをも義務付けるものではない」と判示して,いわゆる独立一体説を採用した。もっとも,独立一体説は,旧大阪府情報公開条例には情報公開法6条2項に相当する規定がなかったという事情を背景に採用されたものであり,同法の適用が問題となる事案とは異なる事案で判断されたものであるにもかかわらず,裁判例においては,同法6条1項の解釈に当たっても採用される動きがある。
しかしながら,情報公開条例の解釈について前記最高裁平成13年判決の後に判断を示した最高裁平成10年(行ツ)第167号同15年11月11日第三小法廷判決は,必ずしも独立一体説を採用しているとはいえない。
また,この説にいう「独立した一体的な情報」の範囲は,それ以上細分化すると不開示情報以外の部分が情報としての有意性を失うか否かという観点からとらえられるべきものであって,有意でない場合とは,例えば,残りの部分に記載されている内容が無意味な文字,数字等の羅列となる場合や,1回の交際費の支出における年月日,適用,受払などの事項のように,それぞれが密接不可分の関係にありそれらが合わさって独立した一体的な情報を構成する場合をいうのであって,一定の幅を持った時的経過の中で断続的に生起し,それぞれ独立した社会的意義を有する社会事象,生活事象を記載した内容から構成されている情報は,有意でない情報とはいえないと解される。このような場合にもまとまった全体が1個の情報であるとすると,その一部に不開示事由が認められるにすぎないときでも全体を不開示とすべきこととなり,情報公開法の趣旨に沿わないことになる。
(3) 情報とはある事柄についての知らせを意味するものであり,社会通念上意味を有するひとまとまりの大きさを有していると考えられるところ,このひとまとまりの大きさについては,重層的にとらえられる場合が多い。そして,不開示情報を重層的にとらえられる場合には,不開示とする合理的な理由のない情報は開示すべきとの情報公開法の趣旨に照らし,開示することが適当でないと認められるひとまとまりをもってその範囲を画するのが,相当である。このことは,同法の立案時において,不開示情報が重層的に把握される場合には,不開示事由たる「おそれ」等を生じさせる原因となる情報の最小単位をもって一つの不開示情報とし,ただし,個人に関する情報については,同法5条1号柱書により個人識別性に係る部分とそれ以外の部分の総体が一つの不開示情報とされて不開示の範囲が不当に広くなるおそれがあるため,同法6条2項により,個人識別性に係る部分以外の部分について開示の義務を定めることとされたことからも裏付けられる。なお,この同法の立案時においては,独立一体説を採用すべきではないとの考えが明らかにされている。
(4) したがって,情報の単位は,個人識別情報以外の不開示情報にあっては,重層的な各階層でとらえた結果,不開示事由たる「おそれ」等を生じさせる原因となる情報の範囲を基準とすべきである。
3 争点(1)(本件不開示部分の情報公開法5条1号該当性)について
本件不開示部分(本件報告書の本体部分1項)のうち「検査を行った者の氏名」(別紙不開示部分目録記載1)及び「検査対象機関の対応者の氏名」(同記載2)は,情報公開法5条1号の不開示情報に該当しない。
(1) 情報公開法5条1号本文該当性
被告は,情報公開法5条1号本文の記載を文字どおりに解釈し,本件報告書の本体部分1項のうち検査を行った者の氏名及び検査対象機関の対応者の氏名が,特定の個人を識別することができるものとして,同号本文に該当すると主張する。
ア しかしながら,本件報告書の本体部分1項のうち検査を行った者の氏名及び検査対象機関の対応者の氏名は,情報公開法5条1号本文にいう「個人に関する情報」に該当しないというべきである。なぜならば,本件報告書の本体部分1項は本件立入検査の概要を内容とするものであるから,同文書全体が公務に関する情報であって個人に関する情報ではなく,さらに,検査を行った公務員は単にその担当者として,検査対象機関の私人は単にその対応者として,それぞれその氏名が記載されているにすぎないから,それらの開示によりそれらの者の私生活等に影響を及ぼすおそれは全くないからである。
イ 仮に上記アの主張が採用されないとしても,本件報告書の本体部分1項のうち少なくとも検査を行った者の氏名は,情報公開法5条1号本文にいう「個人に関する情報」に該当しないというべきである。
個人に関する情報を保護する目的は個人の正当な権利利益を保護することにあり,その中核はプライバシーであるが,情報公開法5条1号は,プライバシー概念が必ずしも明確でないとの理由で,個人識別情報を原則として不開示とした上で,ただし書に例外的に開示すべき事項を列挙した。もっとも,上記の例外的開示事項だけでは,不開示の範囲は必要以上に広がるおそれがあるため,個人識別情報の概念は限定的に解すべきである。しかるところ,公務員の役職・氏名は,公務を遂行した者を特定し責任の所在を明示するために表示されるにすぎず,公務員の個人としての行動ないし生活に関するものではないから,同号本文にいう個人に関する情報には該当しないというべきである。
(2) 情報公開法5条1号ただし書該当性
仮に本件報告書の本体部分1項のうち検査を行った者の氏名及び検査対象機関の対応者の氏名が情報公開法5条1号本文に該当するとしても,それらの情報は,同号ただし書に該当する。
ア 主張立証責任の所在
被告は,情報公開法5条1号ただし書該当性についての主張立証責任は原告にあると主張するが,この主張は,情報公開制度の本質を正解していないものである。
すなわち,同法5条柱書は,行政機関の長は,開示請求があったときは,開示請求に係る行政文書に同条1号から6号までのいずれかに該当する場合を除き,開示請求者に対して当該行政文書を開示しなければならないとしているが,同条1号ただし書は同号本文の適用範囲を限定するために設けられたものであるから,同号の本文とただし書は一体として考慮されるべきであり,同号本文に当たるとともに,同号ただし書に当たらない場合に同号の不開示事由に該当するというべきである。本件不開示決定に係る通知書においても,上記のような判断がされたため同法5条1項ただし書に該当しないことが理由とされている。仮に上記の被告の主張が認められるならば,開示請求を受けた行政機関の長は同号本文だけの判断で開示請求の可否を判断すればよく,同号ただし書の適用は不服申立手続又は訴訟において判断されるべきことになるが,これでは原則開示を前提とする情報公開制度の趣旨が没却される。
イ ただし書該当性
本件報告書の本体部分1項に記載されている検査を行った者(公務員)のうち少なくとも課長担当職以上の者の氏名は,職員録に記載されているから,情報公開法5条1号ただし書イにいう慣行として公にされている情報に該当し,また,検査対象機関の対応者(a社の役員等)のうち少なくとも取締役の肩書を有する者の氏名は,商業登記簿謄本により公にされているから,同号ただし書イにいう法令の規定により公にされている情報に該当することは明らかである。なお,被告は,特定の検査員に対し圧力を加えたり働きかけがされる可能性を考慮して上記の情報を公にすることは不適切であるなどと主張するが,この主張が同条6号の不開示事由に関するものであればともかく,同条1号の不開示事由に関するものである以上,失当である。
また,同報告書の本体部分1項は,その全体(個人の氏名も含む。)が人の生命,健康,生活,財産を保護するため公にすることが必要であると認められる情報であり(建築基準法1条参照),情報公開法5条1号ただし書ロにも該当する。
(3) 結論
以上のとおり,本件報告書の本体部分1項のうち検査を行った者の氏名及び検査対象機関の対応者の氏名は,情報公開法5条1号の不開示情報に該当しない。
4 争点(2)(本件不開示部分の情報公開法5条6号該当性及び部分開示の可否)について
本件不開示部分(本件報告書の本体部分2項及び添付文書)のうち「検査方法(本社分)」(別紙不開示部分目録記載3),「検査結果(本社分)」(同記載4),「検査方法(b支店分)」(同記載5),「検査結果(b支店分)」(同記載6),「参考として添付された資料」(同記載7)及び「別添1」ないし「別添13」(同記載8ないし20)は,情報公開法5条6号イ及び同号柱書のいずれの不開示情報にも該当しない。仮に,上記各情報が同各号の不開示情報に該当するとされたとしても,その一部は,同法6条1項に基づき開示されるべきである。
(1) 情報公開法6条1項に基づく部分開示の可否
本件不開示決定は,本件不開示部分中表題を除いた全部を不開示としているから,情報公開法6条1項に違反し,少なくともその一部は,同項に基づき開示されるべきである(その詳細は,(2)以下のとおりである。)。
この点,被告は,いわゆる独立一体説の立場から,本件報告書の一部に情報公開法5条各号該当性が認められればその全体を不開示とすることができる旨主張する。しかしながら,本件不開示部分(本件報告書)にはひとまとまりの情報が重層的に存在するから,同部分について,どのような種類の情報が重層的に存在しているのか,そのうちどの情報が同条6号イ又は同号柱書のいずれの不開示事由に該当するのかが明らかにされなくてはならず,被告の主張は,情報公開法の趣旨を没却するものである。
(2) 検査方法(本社分)(別紙不開示部分目録記載3)の情報公開法5条6号該当性
ア 本件報告書の本体部分2項のうち検査方法(本社分)が国の機関である被告が行う検査に係る事務に関する情報であり,指定確認検査機構に対する監督の事務に関する情報であることは認める。
イ 情報公開法5条6号イ該当性
被告は,本件報告書の本体部分2項のうち検査方法(本社分)について,①同部分には,立入検査に係る具体的な手順,実施方法,立入検査の着眼点が推知される記載など,立入検査一般のノウハウというべき情報が含まれている,②時間的・人的制約等からすべての資料を検査することは不可能であり検査範囲を限定せざるを得ない,③検査対象機関に予備知識や対応の時間的余裕を与えないことが肝要である,④着眼点,ノウハウが公にされると,その後に立入検査を受ける指定確認検査機関に露見防止対策を施す時間的余裕が生じる,⑤よって,立入検査において正確な事実を把握できなくなり,又は違法不当な行為を極めて容易にし,その発見を困難にするおそれがある,という論理で,上記情報が情報公開法5条6号イに該当する旨主張する。
しかしながら,以下のとおり,上記の論理は極めて抽象的かつ粗雑であり,採用することができない。
まず,立入検査が有効に行われるためには,検査対象機関に立入検査をすることが事前に漏れないことが最も肝要なことであるが,上記①は事前漏洩があることを前提としており,その前提に誤りがある。
しかも,そもそも,本件立入検査は,法令上の資格者(現場検査員又は選任された評価員)による現場検査がされていたか否かという簡単な事実の調査であり,着目点,検査対象機関に求めた資料がどのようなものであるかは容易に推定することができる(対象資料としては,確認検査をした住宅の所在,施主名,確認検査員ないし補助員の出勤状況,出張状況等に関する資料が考えられるが,それ以上に特殊な検査方法があるとは考えられない。)から,被告がノウハウと主張するものはノウハウと評価することができるような類のものではない。原告はa社と同様の違反行為の容疑で被告から立入検査を受けたことがあるが,その際,検査担当職員があらかじめ綿密に検査の計画していた様子はないし,また,コンピューターの出力データを調査しただけでその原資料(帳簿類)を確認しようとは全くしなかったから,そのプロセスに何らかの工夫を凝らしているとか,ノウハウが含まれていると感じることは一切なかった。なお,検査方法を定めた「指定確認検査機関等検査監督規程」(甲9)の定めからしても,検査担当職員が隠匿された違反事実を発見するノウハウを持ち合わせていないことは明らかである。
また,指定確認検査機関は,確認検査の業務に関する一定の事項を記載した帳簿を備え付け,保存し,また,確認検査の業務に関する一定の書類を保存しなければならず(建築基準法77条の29),その帳簿及び書類は違法不当な行為の調査に必要な程度に網羅されかつ一定の保存期間が定められており(指定機関省令28条,29条),しかも,これらの義務に違反した場合はその指定の取消し又は業務停止の処分が予定されている(同法77条の35第2項1号)ことからすれば,指定確認検査機関が確認検査の業務に関する記録を廃棄,改ざんすることは許されておらず,検査対象機関が露見防止対策をとることはあり得ない。
さらに,立入検査においてはその事案に応じて着目点,提出資料,検査方法の詳細が定められるものと思われるが,検査対象機関に保存されている文書は上記のとおり指定機関省令で詳細に定められているから,その全件を調査するのか,選択的に調査するのかということは,検査をする側の時間的・人員的余裕の有無の問題にすぎず,したがって,検査対象機関は,検査の対象となり得る文書の種類を知ったとしても,具体的にどの案件が調査対象となるかが分からない以上,露見防止対策を講ずることはあり得ない。さらに,検査方法について複数の選択肢があり,a社の検査でその一つを選択したのであれば,別の指定確認検査機関に対する検査では別の検査方法を採用すれば足りるから,検査方法を開示しても露見防止対策が講じられることはない。
これらに加えて,他の指定確認検査機関は,a社から本件立入検査の状況に関する情報を得られるし,指定確認検査機関の間ではどのような検査が何の目的でされたかということは短時間に伝播する(c社,d社,独立系民間確認検査機関の会合等,上記の情報交換が行われる機会が十分にある。)から,本件立入検査の方法に関する情報を不開示としたところで,今後の立入検査における正確な事実の把握等に支障が生じるのを効果的に防止することができるのか,疑問がある。なお,被告は,これまでの立入検査が円滑に遂行されている経緯等から業界内部で立入検査の公表につき一定の自制心が保たれているなどと主張するが,立入検査が円滑に遂行されたのは,確認検査機関にやましい点が存在しないか,あるいは,当該機関があらかじめ検査方法に関する情報を得て準備を整えていたからであると推測され,検査方法に関する情報が業者間で秘匿されていたとの根拠にはなり得ない。
以上のとおり,被告の主張はいずれも失当であり,本件報告書の本体部分2項のうち検査方法(本社分)は,情報公開法5条6号イの不開示情報に該当しないというべきである。
ウ 情報公開法5条6号柱書該当性
被告は,本件報告書の本体部分2項のうち検査方法(本社分)について,①検査方法を開示することにより,立入検査に関して正確な事実の把握を困難にし,又は違法不当な行為を極めて容易にし,その発見を困難にするおそれがあるところ,立入検査は業務停止命令等の不可欠の前提であるから,検査方法を開示することは,監督の事務の適正な遂行に重大な支障を及ぼすおそれがある,②検査方法に関するノウハウを公開することにより立入検査の報告書を作成する被告の職員が検査方法に関する記載を抽象化,簡素化するおそれがあるから,検査方法を開示することは,被告が業務停止命令等をするに当たり処分事由の有無に関する公正かつ的確な判断をすることを困難にさせ,監督の事務の適正な遂行に重大な支障を及ぼすおそれがある,という論理で,上記情報が情報公開法5条6号柱書に該当する旨主張する。
しかしながら,①については,前記イのとおり,検査方法の開示は立入検査における正確な事実の把握を困難にし,違法不当な行為を極めて容易にし,その発見を困難にするという結果に結びつかないことは明らかである。
さらに,②については,担当職員が神経質になってその内容を秘匿しなければならない検査方法というのがどのようなものか想像することができないし,監督処分に必要なのは検査結果であって検査方法ではないから,仮に被告の職員が立入検査方法に関する報告書の記載を抽象化・簡素化したために監督処分をするに際してその詳細を知ることが必要となったとしても,担当者に報告書又は口頭の報告を求めれば足りる。また,被告がノウハウと主張しているものはノウハウと評価することができる類のものではなく,仮にそれがノウハウと評価することができるものであるとしても,事案によって検査方法はまちまちであるはずであるから,検査方法の一つを開示することが今後の監督事務に重大な支障を生じさせるとは考え難い(なお,検査方法の妥当性は国民が判断すべきであって,この記載を抽象化・簡略化して国民に秘匿することは許されない。)。
以上のとおり,被告の主張はいずれも失当であり,本件報告書の本体部分2項のうち検査方法(本社分)は,情報公開法5条6号柱書の不開示情報に該当しないというべきである。
(3) 検査結果(本社分)(別紙不開示部分目録記載4)の情報公開法5条6号該当性
ア 本件報告書の本体部分2項のうち検査結果(本社分)が国の機関である被告が行う検査に係る事務に関する情報であり,指定確認検査機構に対する監督の事務に関する情報であることは認める。
イ 情報公開法5条6号イ該当性
被告は,本件報告書の本体部分2項のうち検査結果(本社分)について,①その部分には,建築基準法違反の検査と疑われたものの件数,その具体的根拠がその裏付けとなる資料の名称等を適宜示しながら具体的かつ詳細に述べられている,②これらはa社の任意の協力の下で取得した内部資料に基づいている,③立入検査については直接強制の制度は採られていないから立入検査対象機関の任意の協力が必要である,④提示,提出を求める資料についても当該機関の任意の協力がないと特定することは困難である,⑤しかるに,a社の関与しないところで被告が一方的に検査結果を開示すると,同社との信頼関係が阻害されて同社から任意の協力が得られなくなるし,このことが広く知れ渡れば他の指定確認検査機関との関係でも任意の協力が得られなくなる,⑥検査結果を開示すると検査方法が推知される,という論理で,上記情報が情報公開法5条6号イに該当する旨主張する。
しかしながら,本件報告書の本体部分2項のうち検査結果(本社分)は,行政機関の要請を受けて公にしないとの条件で任意に提供されたものではなく,建築基準法77条の31に基づく報告・立入検査の権限を行使して得られたものであり(立入検査を受けた指定確認検査機関としては,監督官庁に書類の提出を拒めば態度が悪いとして処分が加重されるおそれが抱くのが通常である。),しかも,立入検査を拒否し,妨げ又は忌避した場合や質問に答弁せず又は虚偽の答弁をした場合は刑事罰の対象とされている(同法100条6,7号)から,上記情報は任意提供されたものとは到底評価することができない。しかも,違反案件の数,その根拠,裏付けとなる資料の名称の記載を開示することがなぜ被告とa社との信頼関係を崩すことになるのか,被告の主張からは明らかではない。検査する側(監督機関)と検査される側(検査対象機関)との間には,通常は信頼関係は存在し得ず,緊張関係があるのみである。
また,被告の上記主張は,情報公開法5条2号ロにより不開示とすることが許されない法人情報を,別の同条6号イを理由に不開示とすることを許容するものであり,同条2号ロの存在意義を没却するものである。しかも,前記1のとおり,本件通達では,明確に立入検査の結果等の情報を積極的に公開することが表明され,同条6号イのおそれはないことが明らかにされている。
以上のとおり,被告の主張はいずれも失当であり,本件報告書の本体部分2項のうち検査結果(本社分)は,情報公開法5条6号イの不開示情報に該当しないというべきである。
ウ 情報公開法5条6号柱書該当性
被告は,本件報告書の本体部分2項のうち検査結果(本社分)について,①検査結果を開示することにより,正確な事実把握が困難になり,違法不当な行為を容易にするおそれがあるところ,立入検査は監督処分の不可欠の前提であるから,検査結果の開示により監督事務の適正な遂行に支障が生じる,②検査結果を開示することにより,立入検査に関する報告書を作成する被告の職員が,指定確認検査機関との信頼関係が阻害されるなどの支障が生じることを危ぐして,検査結果に関する記載を抽象化,簡素化するおそれがあるところ,それにより,被告が業務停止命令等をするに当たって処分事由の有無に関する公正かつ的確な判断をすることが困難になり,監督の事務の適正な遂行に重大な支障が生じる,という論理で,上記情報が情報公開法5条6号柱書に該当する旨主張する。
しかしながら,①については,前記イと同様に,立入検査における検査対象機関による資料の任意提供ということはあり得ないから,調査結果を開示することが,検査対象機関との信頼関係に影響し,正確な事実把握を困難にし,又は違法不当な行為を容易にするおそれがあるということにはならない。
②についても,前記イと同様に,本件立入検査の結果を開示することが,今後の監督事務に重大な支障を生じさせるとは考え難い。また,報告書を作成する被告職員は,検査対象機関が情報を秘匿しているかもしれないという嫌疑を持ちながら厳格な対応をしなければならず,当該機関との信頼関係が阻害されるのを恐れて検査結果に関する記載を抽象化,簡素化することは許されない。このことは,本件通達が建築主の保護のために検査結果の情報を公開することを要求していることからも,明らかである。
以上のとおり,被告の主張はいずれも失当であり,本件報告書の本体部分2項のうち検査結果(本社分)は,情報公開法5条6号柱書の不開示情報に該当しないというべきである。
(4) 検査方法(b支店分)(別紙不開示部分目録記載5)の情報公開法5条6号該当性
本件報告書の本体部分2項のうち検査方法(b支店分)が情報公開法5条6号イ及び同号柱書のいずれの不開示情報にも該当しないことは,前記(2)と同様である。
(5) 検査結果(b支店分)(別紙不開示部分目録記載6)の情報公開法5条6号該当性
本件報告書の本体部分2項のうち検査結果(b支店分)が情報公開法5条6号イ及び同号柱書のいずれの不開示情報にも該当しないことは,前記(3)と同様である。
(6) 参考として添付された資料(別紙不開示部分目録記載7)の情報公開法5条6号該当性
被告は,本件報告書の添付文書である参考として添付された資料には建築基準法違反の検査が確認された各物件の物件名,担当した補助員名,検査の日付が記載されており,これらを開示するとa社と被告の信頼関係が破壊されるおそれがあるから,同資料は情報公開法5条6号イ及び同号柱書に該当するなどと主張する。しかし,上記補助員名が同条1号に該当する可能性はあり得るものの,同資料を開示しても上記信頼関係が破壊されることがなく,同資料が同条6号イ及び同号柱書のいずれの不開示情報にも該当しないことは,前記(3),(5)と同様である。
(7) 別添1ないし13(別紙不開示部分目録記載8ないし20)の全体の情報公開法5条6号該当性
被告は,本件報告書の添付文書である別添1ないし13は機密性の高いa社の内部文書であり,これが開示されると被告と同社との信頼関係が阻害されるから,その全体が情報公開法5条6号イ,同号柱書に該当する旨主張する。しかしながら,その機密性の程度が明らかではないし,前記(2)イのとおり,同社が別添1ないし13を任意に提供したということはできず,また,これらを開示しても被告と同社との信頼関係が阻害されることにはならないから,別添1ないし13は,同号イ及び同号柱書のいずれの不開示情報にも該当しない。
(8) 別添1ないし13(別紙不開示部分目録記載8ないし20)の個別の情報公開法5条6号該当性
ア 別添1(別紙不開示部分目録記載8)の情報公開法5条6号該当性
被告は,本件報告書の添付文書である別添1にはa社の業務の一部の実績の推移が表形式で記載されているなどと主張するが,この情報は同社のホームページでも公開されている情報であり,これを公にしても今後被告の行う検査に対する情報提供が円滑にされなくなるおそれがあるとはいえない。また,被告は,別添1が公にされることにより被告の行う検査の対象資料,対象範囲が明らかになるなどと主張するが,検査はその内容と状況に応じて事件ごとにその方法が決められるものであって,他の同様な事件が再発したとしても,対象範囲の特定について同じ方法を採用することはあり得ず,また,これに対して指定確認検査機関が予防手段を講じるとは考えられない。よって,別添1は,情報公開法5条6号イ及び同号柱書のいすれの不開示情報にも該当しない。
イ 別添2(別紙不開示部分目録記載9)及び別添8(同記載15)の情報公開法5条6号該当性
被告は,本件報告書の添付文書である別添2及び8は職員個人に関する名簿であり立入検査の着眼点が示されていると主張するが,同情報は,情報公開法5条1号の不開示情報に該当するか否かは別として,同条6号イの不開示情報には該当しない。なお,仮に被告の職員が記入した手書き部分が同号イに該当するのであれば,その部分だけを同法6条1項に基づいて不開示とすれば足りる。
ウ 別添3(別紙不開示部分目録記載10)及び別添9(同記載16)の情報公開法5条6号該当性
被告は,本件報告書の添付文書である別添3及び9は顧客リストに類する内容であり,a社の職員の氏名や特定の顧客を識別することが可能な記載がされ,立入検査の着眼点が示されていると主張する。しかしながら,同情報は,情報公開法5条1号の不開示情報に該当するか否かは別として,同条6号イの不開示情報には該当しない。すなわち,確認検査申請の性格上,指定確認検査機関と顧客との関係は継続的な関係ではないから,指定確認検査機関においてはいわゆるお得意さんという意味での顧客の概念はあり得ないし,仮に指定確認検査機関が営業を展開するとしても,それは新規の顧客の獲得に限定されるから,既に終了した顧客の情報を保有することには意味がない。また,前記1のとおり,建築確認に係る情報は建築基準法下ではオープンにされており,どの機関に確認申請がされたかということは顧客にとって知られたくない情報ではなく,これが公にされてもa社と顧客との信頼関係が損なわれるということはあり得ない。よって,別添3及び9が公にされても,今後被告の行う検査に対する情報提供が円滑にされなくなるおそれがあるということはできない。なお,仮に被告の職員が記入した手書き部分が同号イに該当するのであれば,その部分だけを同法6条1項に基づいて不開示とすれば足りる。
エ 別添10(別紙不開示部分目録記載17)の情報公開法5条6号該当性
被告は,本件報告書の添付文書である別添10はa社の職員の勤務実態が記載された文書であり,同社の職員の氏名を識別することが可能な情報とともに,本件立入検査の着目点が明らかになる情報が記載されていると主張する。しかしながら,上記情報は,情報公開法5条1号の不開示情報に該当するか否かは別として,同条6号イの不開示情報には該当しない。すなわち,同情報がいつからいつまでの勤務実態に係るものであるのか,どのような職種の勤務実態に係るものであるのかが明らかではなく,同号イ該当性が十分に主張立証されているとはいえない。また,検査方法はその内容と状況に応じて事件ごとに決められるのであり,本件立入検査の着目点が明らかになったとしても,被告が他の事件でも同じ着目点で調査をすることはあり得ないから,指定確認検査機関が予防手段を講じるおそれがあるとは考えられない。なお,仮に職員の氏名又は職種が同条1号に該当するのであれば,その部分だけを同法6条1項に基づいて不開示とすれば足りる。
オ 別添4(別紙不開示部分目録記載11)及び別添11(同記載18)の情報公開法5条6号該当性
被告は,本件報告書の添付文書である別添4及び11は顧客リストに類する内容のものであり情報公開法5条6号イに該当すると主張するが,この主張が失当であることは,前記ウと同様である。
カ 別添5(別紙不開示部分目録記載12)及び別添13(同記載20)の情報公開法5条6号該当性
被告は,本件報告書の添付文書である別添5及び13は本件立入検査の対象となった確認検査業務の実態について被告とa社との間で確認した事項を記載した文書であり,検査結果の内容及び検査方法を推知することができる内容が記載されていると主張する。しかし,この文書に何項目の確認事項があり,それぞれどのような事項が確認されているかが明らかではなく,情報公開法5条6号イの不開示情報該当性の主張立証が十分にされていないから,この全部を不開示とする理由は存在しない。
キ 別添6(別紙不開示部分目録記載13)及び別添12(同記載19)の情報公開法5条6号該当性
被告は,本件報告書の添付文書である別添6及び12はa社の業務内容の一端を示す内部決裁文書であり,これにより同社の特定の顧客の識別が可能な記載が含まれているとともに,同社の特定の業務内容が個別具体的に記載され,また,被告の職員の手書きの記入により立入検査の着目点が示されていると主張する。しかしながら,指定確認検査機関の運営において顧客には特別な意味はなく,また,a社の特定の業務内容が公にされることがなぜ問題であるかが明らかではないから,情報公開法5条6号イの不開示情報該当性の主張立証が十分にされていない。なお,仮に被告職員の手書き部分が同号イに該当するのであれば,その部分だけを同法6条1項に基づいて不開示とすれば足りる。
ク 別添7(別紙不開示部分目録記載14)の情報公開法5条6号該当性
被告は,本件報告書の添付文書である別添7はいわゆる内部通達に類する資料でありa社の通常の業務の実施方法が具体的に記載されていると主張するが,この文書を開示することがなぜ被告の行う検査に対する情報提供を困難にすることになるのか明らかでなく,情報公開法5条6号イの不開示情報該当性の主張立証が十分にされていないから,この情報が同号イに該当するということはできない。
(9) 結論
以上のとおり,本件報告書の本体部分2項及び添付文書のうち検査方法(本社分),検査結果(本社分),検査方法(b支店分),検査結果(b支店分),参考として添付された資料及び別添1ないし別添13は,情報公開法5条6号イ及び同号柱書のいずれの不開示情報にも該当しない。仮に,上記各情報が同各号の不開示情報に該当するとされたとしても,その一部は,同法6条1項に基づき開示されるべきである。
第5当裁判所の判断
1 本件報告書の記載内容等について
前記前提となる事実等,証拠(甲2)及び弁論の全趣旨によれば,本件報告書の記載内容等について,次のとおり認められる。
(1) 本件報告書の作成経緯
本件報告書は,平成14年9月24日に実施されたa社に対する本件立入検査(前記前提となる事実等(2)参照)の結果等を記載した報告書であって,同社に対する同年10月4日付け本件業務停止命令(前記前提となる事実等(3)参照)の起案文書に参考資料として添付されていたものである。
(2) 本件報告書の構成
本件報告書は本体部分及び添付文書から成っているところ,その本体部分は,表題部,作成日,作成者,1項及び2項から,その添付文書は,参考として添付された資料及び別添1ないし別添13から,それぞれ成っている。
(3) 本件報告書の本体部分の各項目の記載内容
ア 表題部
「建築基準法に基づく指定確認検査機関・立入検査報告書」と記載されている。この部分は,平成15年8月22日付け行政文書開示決定通知書をもって通知された行政文書開示決定において開示されている。
イ 作成日
「平成14年9月25日」と記載されている。この部分は,平成15年8月22日付け行政文書開示決定通知書をもって通知された行政文書開示決定において開示されている。
ウ 作成者
「国土交通省住宅局建築指導課」と記載されている。この部分は,平成15年8月22日付け行政文書開示決定通知書をもって通知された行政文書開示決定において開示されている。
エ 1項
「立入検査の概要」と題する項目であり,その内容が「(1)検査対象機関」,「(2)日時」,「(3)場所」,「(4)検査を行った者」及び「(5)検査対象機関の対応者」の項目に分けて記載されている。そして,「(1)検査対象機関」の部分には,本件立入検査の対象機関(「a社株式会社本社及びb支店」)が,「(2)日時」の部分には,本件立入検査の日時(「平成14年9月24日(火)10:00~20:00(本社,b支店とも同じ)」)が,「(3)場所」の部分には,本件立入検査が行われた場所(「東京都港区<以下省略>(本社)大阪府大阪市<以下省略>(b支店)」)が,それぞれ記載されている。また,「(4)検査を行った者」の部分には,本件立入検査を行った被告職員(国土交通省職員)の所属部署,氏名及び役職ないし肩書が,本社に臨場した職員とb支店に臨場した職員とに分けて記載されており(同部分に記載されている被告職員の所属部署及び役職ないし肩書は,本社に臨場した職員については,住宅局建築指導課課長補佐,同課係長,住宅局住宅生産課課長補佐,関東地方整備局建政部住宅整備課課長,同課課長補佐であり,b支店に臨場した職員については,住宅局建築指導課係長,住宅局住宅生産課課長補佐,近畿地方整備局建政部住宅整備課課長,同課課長補佐である。),「(5)検査対象機関の対応者」の部分には,本件立入検査において対応したa社の役員ないし職員の役職ないし肩書が,本社において対応した職員とb支店において対応した職員とに分けて記載されている(同部分に記載されている同社の役員ないし職員の役職ないし肩書は,本社において対応した役員ないし職員については,代表取締役社長,代表取締役副社長,常務取締役,確認検査本部長であり,b支店において対応した役員ないし職員については,b支店長である。)。
上記のうち「(1)検査対象機関」,「(2)日時」及び「(3)場所」の各項目に記載された内容については,平成15年8月22日付け行政文書開示決定通知書をもって通知された行政文書開示決定(不開示に係る部分が本件不開示決定である。)において,すべて開示されている。他方,上記のうち「(4)検査を行った者」の項目に記載された内容については,上記決定において,検査を行った国土交通省の職員の所属部署及びその役職ないし肩書のみが開示されたのに対して,その氏名(別紙不開示部分目録記載1)は不開示とされ,また,「(5)検査対象機関の対応者」の項目に記載された内容についても,a社の役員ないし職員の役職ないし肩書のみが開示されたのに対して,その氏名(同記載2)は不開示とされている。
オ 2項
「検査方法及び結果」と題する項目であり,その内容が「(1)本社」及び「(2)b支店」の項目に分けて記載され,さらに,その具体的な内容が「検査方法」及び「検査結果」の項目に分けて記載されている。
「(1)本社」及び「(2)b支店」の「検査方法」の項目においては,本件立入検査に係る具体的な手順,着眼点及び実施方法等が示されている。すなわち,本件立入検査の対象となったa社の確認検査業務の範囲及びその期間,被告職員(国土交通省職員)が同社に提出を依頼した資料の種類及び提出の順序,被告職員が同社に口頭で確認した事項等の本件立入検査の手順及び実施方法等が記載されている。また,本件立入検査の対象となった同社の確認検査業務の期間を選択するに当たっての着眼点,同社から提出された資料を比較,検討するに当たっての着眼点等が推知される記載もされている。これらの記載を補足するための証拠として,その裏付けとなる資料(別添1ないし13)の名称等が適宜示されている。
「(1)本社」及び「(2)b支店」の「検査結果」の項目においては,本件立入検査の結果が記載されている。すなわち,a社が行った完了検査業務のうち建築基準法違反の検査と疑われたものの件数やその具体的な根拠,同社に対する同法違反の検査の確認結果,同社において同法違反の検査が行われるに至った背景事情等が,その裏付けとなる資料(別添1ないし13)の名称等を適宜示しながら,具体的に述べられている。
2項については,平成15年8月22日付け行政文書開示決定通知書をもって通知された行政文書開示決定(不開示に係る部分が本件不開示決定である。)において,各項目の表題を除いてすべて不開示とされている(別紙不開示部分目録記載3ないし6)。
(4) 本件報告書の添付文書の各項目の記載内容
以下の各添付文書は,平成15年8月22日付け行政文書開示決定通知書をもって通知された行政文書開示決定(不開示に係る部分が本件不開示決定である。)において,すべて不開示とされている(別紙不開示部分目録記載7ないし20)。
ア 参考として添付された資料
右上端に「【参考】」と表示された横書きの文書である。被告職員(国土交通省職員)が,a社において認められた建築基準法違反の検査の概要を明らかにするため,本件立入検査の結果(同社から提出された資料等を含む。)を基に,同法違反の検査が確認された物件の名称,これを担当した補助員名,検査の日付をまとめた書面である。
イ 別添1
本件報告書の本体部分2項の「(1)本社」の「検査方法」の部分に係る添付文書である。a社が通常の業務過程で作成した文書で,被告職員(国土交通省職員)が同社から提供を受けた文書である。同社の業務の一部に関する業務実績の推移が具体的に数字等を用いて表形式で記載されており,本件立入検査の対象となる同社の業務を抽出するために必要となった文書である。
ウ 別添2
本件報告書の本体部分2項の「(1)本社」の「検査方法」の部分に係る添付文書である。被告職員(国土交通省職員)がa社から提供を受けた職員名簿(同社が通常の業務過程で作成したものである。)に,被告職員が手書きで記号を記入したものである。同社の職員の氏名,年齢等が記載されている。
エ 別添3
本件報告書の本体部分2項の「(1)本社」の「検査方法」の部分に係る添付文書である。被告職員(国土交通省職員)がa社から提供を受けた顧客リストに類する内容の文書(同社が通常の業務過程で作成したものである。)に,被告職員が手書きで文字や記号を記入したものである。同社の一部の職員の氏名,及び同社により確認検査業務が行われた物件の名称,所在地といった同社の特定の顧客(個人及び法人のいずれも含む。)を識別することが可能な記載とともに,同社の一部の業務が明らかになる記載がされている。
オ 別添4
本件報告書の本体部分2項の「(1)本社」の「検査結果」の部分に係る添付文書である。被告職員(国土交通省職員)がa社から提供を受けた顧客リストに類する内容の文書を基にして,被告職員が作成した文書である。同社の職員の氏名や特定の顧客(個人及び法人のいずれも含む。)を識別することが可能な記載とともに,これにより検査方法及び検査結果が推知される記載がされている。
カ 別添5
本件報告書の本体部分2項の「(1)本社」の「検査結果」の部分に係る添付文書である。「確認書」と題する文書で,被告職員(国土交通省職員)が本件立入検査及びa社との質疑応答の内容を記載し,同社がその内容を確認した旨を記載した文書である。
キ 別添6
本件報告書の本体部分2項の「(1)本社」の「検査結果」の部分に係る添付文書である。被告職員(国土交通省職員)がa社から提供を受けた特定の業務における内部決裁文書に,被告職員が手書きで文字や記号を記入するなどの加工を施したものである。同社の特定の顧客(個人及び法人のいずれも含む。)を識別することが可能な記載とともに,同社の特定の業務内容が個別具体的に判明する記載がされている。
ク 別添7
本件報告書の本体部分2項の「(1)本社」の「検査結果」の部分に係る添付文書である。被告職員(国土交通省職員)がa社から提供を受けた内部通達文書に類する文書(右上部に「(内部資料)」と付されている。同社が通常の業務過程で作成したものである。)である。同社の独自の確認検査業務の実施方法等の内容が具体的に記載されている。
ケ 別添8
本件報告書の本体部分2項の「(2)b支店」の「検査方法」の部分に係る添付文書である。被告職員(国土交通省職員)がa社から提供を受けた職員名簿(同社が通常の業務過程で作成したものである。)に,被告職員が手書きで文字や記号を記入したものである。同社の職員や退職した職員の氏名,生年月日等が記載されている。
コ 別添9
本件報告書の本体部分2項の「(2)b支店」の「検査方法」の部分に係る添付文書である。被告職員(国土交通省職員)がa社から提供を受けた顧客リストに類する内容の文書(同社が通常の業務過程で作成したものである。)に,被告職員が文字や記号を手書きで記入したものである。同社の一部の職員や特定の顧客を識別することが可能な記載とともに,これらにより同社の一部の業務が明らかとなる記載がされている。
サ 別添10
本件報告書の本体部分2項の「(2)b支店」の「検査方法」の部分に係る添付文書である。a社が同社の個々の職員の勤務実態の一部について日単位で詳細に記載した文書(同社が通常の業務過程で作成したものである。)で,被告職員(国土交通省職員)が同社から提供を受けたものである。同社の一部の職員の氏名を識別することが可能な記載がされている。
シ 別添11
本件報告書の本体部分2項の「(2)b支店」の「検査結果」の部分に係る添付文書である。被告職員(国土交通省職員)が同社から提供を受けた顧客リストに類する内容の文書に,被告職員が手書きで文字や記号を記入したものである。同社の職員の氏名や特定の顧客(個人及び法人のいずれも含む。)を識別することが可能な記載とともに,これにより同社の一部の業務が明らかとなる記載がされている。
ス 別添12
本件報告書の本体部分2項の「(2)b支店」の「検査結果」の部分に係る添付文書である。被告職員(国土交通省職員)が同社から提供を受けた特定の業務における内部決裁文書に,被告職員が手書きで文字や記号を記入するなどの加工を施したものである。同社の職員や特定の顧客を識別することが可能な記載とともに,同社の個別具体的な業務内容の記載がされている。
セ 別添13
本件報告書の本体部分2項の「(2)b支店」の「検査結果」の部分に係る添付文書である。「確認書」と題する文書で,被告職員(国土交通省職員)が本件立入検査及び同社との質疑応答の内容を記載し,a社がその内容を確認した旨を記載した文書である。また,特定の顧客を識別することが可能な記載もされている。
2 争点(1)(本件不開示部分の情報公開法5条1号該当性)について
(1) 被告は,本件不開示部分(本件報告書の本体部分1項)のうち「検査を行った者の氏名」(別紙不開示部分目録記載1)及び「検査対象機関の対応者の氏名」(同記載2)に係る情報は,情報公開法5条1号の不開示情報に該当すると主張するので,以下この主張について検討する。
(2) 情報公開法5条1号の意義
情報公開法5条1号にいう「個人に関する情報」は,「事業を営む個人の当該事業に関する情報」が除外されている以外には文言上何ら限定されていないから,個人の思想,信条,健康状態,所得,学歴,家族構成,住所等の私事に関する情報に限定されるものではなく,個人にかかわりのある情報であれば,原則として同号にいう「個人に関する情報」に当たると解するのが相当である。
もっとも,同条は,1号において「個人に関する情報」から「事業を営む個人の当該事業に関する情報」を除外した上で,2号において「法人その他の団体(国,独立行政法人等及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報」と定めて,個人に関する情報と法人等に関する情報とをそれぞれ異なる類型の情報として不開示事由を規定している。これらの規定に照らせば,同法においては,法人等を代表する者が職務として行う行為等当該法人等の行為そのものと評価される行為に関する情報については,専ら法人等に関する情報としての不開示事由が規定されているものと解するのが相当である。したがって,法人等の行為そのものと評価される行為に関する情報は,同条1号の不開示情報に当たらないと解すべきである。そして,このような情報には,法人等の代表者又はこれに準ずる地位にある者が当該法人等の職務として行う行為に関する情報のほか,その他の者の行為に関する情報であっても,権限に基づいて当該法人等のために行う契約の締結等に関する情報が含まれると解するのが相当である(最高裁平成10年(行ヒ)第54号同15年11月11日第三小法廷判決・民集57巻10号1387頁参照)。
次に,同条1号ただし書ハは,公務員の職務の遂行に係る情報には,公務員の職,氏名に関する情報及び職務遂行の内容に関する情報で構成されるものが少なくないところ,そのうち公務員の職に関する情報(官職)については,公務員の職務遂行の内容に関する情報と不可分であり,政府の有するその諸活動を国民に説明する責務(同法1条参照)が全うされるようにするためにこれを明らかにすべきものであるが,他方,公務員の氏名については,行政事務の遂行に係る行政組織の内部管理情報として担当公務員を特定するために行政文書に記載されることが多いとしても,同時に,当該公務員の私生活においても個人を識別する基本的な情報として一般的に用いられており,これを開示すると公務員の私生活等に影響を及ぼすおそれがあり得ることから,この点については,公務員と法人その他の団体の職員とを区別する理由はないとして,同号の不開示情報から「当該個人が公務員等(国家公務員法…第2条第1項に規定する国家公務員…,独立行政法人等…の役員及び職員並びに地方公務員法…第2条に規定する地方公務員をいう。)である場合において,当該情報がその職務の遂行に係る情報であるときは,当該情報のうち,当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分」を除外している。この規定の文言及び趣旨に照らせば,国又は地方公共団体の公務員等の職務の遂行に係る情報については,そのうち当該公務員の職及び当該職務遂行の内容に係る部分は同号の不開示情報に該当せず,他方,当該公務員の氏名に係る部分は同号の不開示情報に該当するものと解すべきことは明らかである。
(3) 各情報の情報公開法5条1号該当性
ア 「検査を行った者」の氏名記載部分を含む情報について
前記1で認定した事実によれば,本件報告書の本体部分1項における「検査を行った者」の氏名記載部分を含む情報は,被告職員(国土交通省職員)が本件立入検査を実施したという公務員の職務の遂行に係る情報であるところ,この情報は,それらの者個々人の社会的活動としての側面をも有するものであって,かつ,その氏名,所属部署及び役職ないし肩書等により特定の個人を識別することができるものである。そうすると,前記(2)のとおり,上記情報のうち当該公務員の氏名に係る部分は,情報公開法5条1号の不開示事由に該当するものというべきである。
イ 「検査対象機関の対応者」の氏名記載部分を含む情報について
前記1で認定した事実によれば,本件報告書の本体部分1項における「検査対象機関の対応者」の氏名記載部分を含む情報は,a社の役員ないし職員が本件立入検査において対応したことに関する情報であると解されるところ,この情報は,それらの者個々人の社会的活動としての側面を有するものであって,かつ,その氏名,役職ないし肩書等により特定の個人を識別することができるものである。
この点,確かに,前記認定事実によれば,上記情報は,法人であるa社の代表取締役社長,代表取締役副社長,常務取締役,確認検査本部長及びb支店長の役職ないし肩書を有する者に係る記載を含むものである。
しかしながら,上記情報は,法人等の行為そのものと評価される行為に関する情報には該当せず,情報公開法5条1号にいう「個人に関する情報」に該当するものというべきである。その理由は,以下のとおりである。
前記前提となる事実等(2)のとおり,本件立入検査は建築基準法77条の31に基づくものであるところ,同条は,「国土交通大臣等は,確認検査の業務の公正かつ適確な実施を確保するため必要があると認めるときは,…その職員に,指定確認検査機関の事務所に立ち入り,確認検査の業務の状況若しくは帳簿,書類その他の物件を検査させ,若しくは関係者に質問させることができる。」と規定している。この規定は,国土交通大臣等に,当該指定確認検査機関の事務所に立ち入り,当該指定確認検査機関が行なっている確認検査の業務の状況を現認し,当該指定確認検査機関が備え付け又は保存している帳簿,書類等の物件を閲覧又は徴求する権限とともに,当該事実関係を一定程度知悉していると思料される関係者に対して事情を聴取したり,関係物件等についての説明を求めるなどの質問の権限を与え,もって,国土交通大臣等が指定確認検査機関によって行われた確認検査の業務の状況等に係る事実関係を適確に把握することを可能にし,ひいては国土交通大臣等の民間機関である指定確認検査機関に対する監督をより実効的なものとする趣旨の規定であると解される(後記3(3)参照)。そうすると,本件立入検査において対応したa社の役員ないし職員というのは,その代表取締役の地位にある者をも含めて,上記にいう国土交通省職員による質問の対象者である「関係者」,すなわち,同社によって行われた確認検査等の業務の状況等に係る事実関係について一定程度知悉している者として,本件立入検査に立ち会ったにすぎないものであって,同社の代表者又はこれに準ずる地位に基づき同社の職務として本件立入検査に立ち会い,又は,同社から与えられた権限に基づいて同社のために立入検査に対応したものとみることはできないというべきである。このような本件立入検査の目的,内容,同検査における同社の役員ないし職員の位置付け等にかんがみると,a社の役員ないし職員が本件立入検査において同法77条の31に基づく質問の対象者として対応したことに関する情報は,法人である同社の行為そのものと評価される行為に関する情報ということはできず,したがって,同社の役員ないし職員の「個人に関する情報」に該当するというべきである。
以上のとおり,本件報告書の本体部分1項における「検査対象機関の対応者」の氏名記載部分を含む情報は,情報公開法5条1号の不開示情報に該当するものというべきである。
(4) 原告の主張について
ア 原告は,情報公開法5条1号本文とただし書とは一体としてとらえられるべきであり,被告は,当該情報が同号本文に該当するとともに同号ただし書に該当しないことについて主張立証責任を負う旨の主張をする。
しかしながら,情報公開法5条1号本文該当性の主張立証責任は被告が負うと解すべきものの,同号ただし書該当性の主張立証責任は原告が負うものと解すべきである。その理由は,以下のとおりである。
情報公開法は,5条柱書において,「行政機関の長は,開示請求があったときは,開示請求に係る行政文書に次の各号に掲げる情報(以下「不開示情報」という。)のいずれかが記録されている場合を除き,開示請求者に対し,当該行政文書を開示しなければならない。」と規定して,行政機関の長は開示請求のあった行政文書を開示しなければならないことを大原則としている。そして,同条1号本文は,当該情報が「個人に関する情報(事業を営む個人の当該事業に関する情報を除く。)であって,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの(他の情報と照合することにより,特定の個人を識別することができることとなるものを含む。)又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるもの」に該当する場合については,原則として当該情報は不開示とするとした上で,同号ただし書において「ただし,次に掲げる情報を除く。」と規定して,当該情報が同号ただし書イないしハに掲げる情報に該当する場合については,例外的に当該情報は同号の不開示情報から除外されると定めている。このことに加えて,同号は,「個人に関する情報のうち,当該情報に含まれる氏名,生年月日その他の記述等により特定の個人を識別することができるもの又は特定の個人を識別することはできないが,公にすることにより,なお個人の権利利益を害するおそれがあるものであって,次の各号のいずれにも該当しないもの。」などとは規定していないのである。以上のような同法5条1号の本文とただし書の規定の仕方,同号の規定文言等に照らすと,同法1条の目的規定等をしんしゃくしても,同法5条1号本文該当性(の評価根拠事実)の主張立証責任は被告が負い,同号ただし書該当性(の評価根拠事実)の主張立証責任は原告が負うと解すべきことは明らかである。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
イ 原告は,本件報告書の本体部分1項に記載されている検査を行った者(公務員)のうち少なくとも課長担当職以上の者の氏名は,職員録に記載されているから情報公開法5条1号ただし書イにいう慣行として公にされている情報に該当し,また,検査対象機関の対応者(a社の役員等)のうち少なくとも取締役の肩書を有する者の氏名は,商業登記簿謄本により公にされているから同号ただし書イにいう法令の規定により公にされている情報に該当するなどと主張する。
確かに,中央省庁の課長相当職以上の役職を有する国家公務員の氏名そのものは職員録に掲載されて一般に公表される慣行があり(弁論の全趣旨),また,株式会社の取締役の地位にある者の氏名そのものについても,何人も手数料を納付して登記事項証明書の交付を請求することにより知ることができる(平成17年法律第87号による改正前の商法188条2項7号,同改正前の商業登記法80条8号,81条1項,113条の4第1項参照)ものと認められる。
しかしながら,本件報告書の本体部分1項に記載されている情報は,前記認定のとおり,「検査を行った者」の部分に記載された氏名及び役職ないし肩書を有する被告職員(国土交通省職員)が本件立入検査を実施したことに関する情報,及び「検査対象機関の対応者」の部分に記載された氏名及び役職ないし肩書を有するa社の役員ないし職員が本件立入検査において質問の対象者等として対応したことに関する情報であって,これらの情報を公にし,又は公にすることを予定している法令の規定も慣行も認められないのである。
もっとも,原告の主張には,本件報告書の本体部分1項のうち不開示とされた部分(検査を行った者の氏名及び検査対象機関の対応者の氏名)は同項のうち開示された部分の記載内容と前記のとおり一般に公表等されている情報とを照合すればその内容が明らかになるものであるから,不開示とする実益がないという趣旨の主張が含まれていると解されなくもない。しかしながら,そうであるとしても,同項に記載されている情報のうち,検査を行った者として記載されている個々の公務員が当該検査を行ったという情報及び検査対象機関の対応者として記載されている個々の者が当該検査に対応したという情報がそれぞれ独立した一体的な情報として情報公開法5条1号にいう「個人に関する情報」に該当すると解されるのであり,同号ただし書各号の該当性についても,このような独立した一体的な情報について判断すべきところ,これらの情報がいずれも同号ただし書イに該当しないことは前記のとおりである。そうである以上,行政機関の長が同法6条2項の規定に基づいて当該独立した一体的な情報としての公務員の職務の遂行に係る情報のうち当該公務員等の職及び当該職務遂行の内容に係る部分(検査を行った者に係る情報)を開示し,また,その裁量判断により当該独立した一体的な情報を更に細分化し検査を行った者の氏名及び検査対象機関の対応者の氏名以外の部分(検査対象機関の対応者に係る情報)を開示したとしても,そのことによって,当該開示部分と不開示部分から成る独立した一体的な情報が同法5条1号の定める不開示事由に該当する情報(個人に関する情報)としての性質を失うものではないから,同法6条2項の規定による部分開示の対象とされなかった部分(検査を行った者に係る情報)及び行政機関の長がその裁量判断により開示した部分を除くその余の部分(検査対象機関の対応者に係る情報)については,国民にその開示を請求する権利はなく,裁判所もまた,当該部分が開示されるべきことを理由として当該不開示決定の一部を取り消すことはできないというべきである。
よって,原告の上記主張は,採用することができない。
ウ 原告は,本件報告書の本体部分1項に記録された情報は,個人の氏名部分も含めたその全体が,情報公開法5条1号ただし書ロにより公にすることが必要であると認められる情報に該当すると主張する。
そこで,この主張の採否について検討する。同号ただし書ロは,「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」は同号の不開示情報から除外される旨を規定しているところ,この規定の文言に照らすと,「公にすることが必要であると認められる」とは,当該情報を公にしないことにより保護される個人の権利利益と,当該情報を公にすることにより保護される人の生命,健康,生活又は財産(これらの権利利益の保護の必要性)とを比較衡量し,後者が前者を上回る場合をいうと解すべきである。そして,上記の比較衡量は,当該情報を公にしないことにより保護される個人の権利利益の内容及び性質,これが害された場合のその態様及び程度,並びに,当該情報を公にすることにより保護される生命,健康,生活又は財産等の権利利益の内容及び性質,これが害された場合のその態様及び程度を総合的に勘案した上で,社会通念に従って判断すべきである。なお,同号ただし書ロにいう「公にすることが必要であると認められる」とは,現実に人の生命,健康等に被害が発生している場合に限らず,将来これらが侵害される蓋然性が高い場合も含まれることは,同号ただし書ロの文言及び趣旨から明らかである。
前記認定のとおり,本件報告書の本体部分1項に記録されている情報は,「検査を行った者」の部分に記載された氏名及び役職ないし肩書を有する被告職員(国土交通省職員)が本件立入検査を実施したことに関する情報,及び「検査対象機関の対応者」の部分に記載された氏名及び役職ないし肩書を有するa社の役員ないし職員が本件立入検査において対応したことに関する情報であると認められる。しかるところ,上記各情報を公にしないことにより保護されることとなる個人の権利利益は,「検査を行った者」及び「検査対象機関の対応者」の各部分に記載された氏名を有する者の,自己にかかわりのある情報をみだりに公開されない利益(いわゆるプライバシー)であるのに対し,上記各情報を公にすることにより保護されることとなる人の生命,健康,生活又は財産の具体的な内容及び性質,更にはこれが害された場合のその態様及び程度は,原告の主張からは明らかではなく,また,現在において認められる証拠関係に照らしても,上記の人の生命,健康,生活又は財産といった利益が害される蓋然性を認めるに足りる的確な証拠もないといわざるを得ない。したがって,本件報告書の本体部分1項に記録された情報が,情報公開法5条1号ただし書ロにいう「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」に該当すると認めることはできない。
したがって,原告の上記主張は,採用することができない。
(5) 以上説示したところによれば,その余の点につき判断するまでもなく,本件不開示部分(本件報告書の本体部分1項)のうち「検査を行った者の氏名」(別紙不開示部分目録記載1)及び「検査対象機関の対応者の氏名」(同記載2)の部分に記録された情報は,情報公開法5条1号の不開示情報に該当するというべきである。
3 争点(2)(本件不開示部分の情報公開法5条6号該当性及び部分開示の可否)について
(1) 被告は,本件不開示部分(本件報告書の本体部分2項及び添付文書)のうち「検査方法(本社分)」(別紙不開示部分目録記載3),「検査結果(本社分)」(同記載4),「検査方法(b支店分)」(同記載5),「検査結果(b支店分)」(同記載6),「参考として添付された資料」(同記載7)及び「別添1」ないし「別添13」(同記載8ないし20)に係る各情報は,いずれも情報公開法5条6号イ,同号柱書の不開示情報に該当すると主張するので,以下この主張について検討する。
(2) 情報公開法5条6号イ,同号柱書の意義
ア 情報公開法5条6号柱書は,「国の機関,独立行政法人等又は地方公共団体が行う事務又は事業に関する情報であって,公にすることにより,次に掲げるおそれその他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」と規定し,同号イは,「監査,検査,取締り又は試験に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれ」と規定している。
イ 情報公開法5条6号の趣旨は,行政機関が行うすべての事務又は事業は,法律に基づき公益に適合するように行われなければならないため,開示することによりその事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれのある情報は,不開示とする合理的な理由が認められるというものである。ところで,国の機関又は地方公共団体が行う事務又は事業は広範かつ多種多様であり,公にすることによりその適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある事務又は事業の情報を事項的にすべて列挙することは技術的に困難であるため,同号は,公にすることによりその適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある情報を含むことが容易に想定されるものをイからホまで例示的に掲げた上で,これらのおそれ以外については,柱書において「その他当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの」として包括的に規定している。
上記の同法5条6号の趣旨及び構造に照らすと,同号柱書にいう「当該事務又は事業の性質上,当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」とは,当該事務又は事業の根拠となる法令の規定の文言及び趣旨,当該事務又は事業の目的,その目的達成のための手法等に照らして,その適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある場合をいうものと解すべきである。そして,同号が,同条1号ただし書ロ,2号ただし書のように「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」を明示的に不開示情報から除外していないことにかんがみると,同号は,柱書にいう「当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」か否かの判断において,人の生命,健康,生活又は財産の各利益を保護するために当該情報を公にする必要があるか否かを考慮要素の一つとして勘案することを予定しているものと解される。また,行政機関の長は開示請求に係る行政文書を開示しなければならないのが原則とされている(同条柱書)ことからすれば,同条6号にいう「当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」とは,名目的,抽象的に当該事務又は事業の適正な遂行に支障が生じる可能性があるだけでは足りず,実質的,具体的に当該事務又は事業の適正な遂行に支障が生じる相当の蓋然性が認められることが必要というべきである。なお,当該事務又は事業が反復されるような性質のものである場合に,当該情報の開示によって将来の同種の事務又は事業の適正な遂行に支障があるときも,同号にいう「当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがある」ものと解すべきことは,前記の同号の趣旨から明らかである。
ウ 情報公開法5条6号イの趣旨は,監査(主として監察的見地から,事務又は事業の執行又は財産の状況の正否を調べること),検査(法令の執行確保,会計経理の適正確保,物資の規格,等級の証明等のために帳簿書類その他の物件等を調べること),取締り(行政上の目的による一定の行為の禁止,又は制限について適法,適正な状態を確保すること),試験(人の知識,能力等又は物の性能等を試すこと)に係る事務は,いずれも事実を正確に把握し,その事実に基づいて評価,判断を加えて,一定の決定を伴うことがある事務であるところ,これらの事務に関する情報の中には,例えば,監査等の対象,実施時期,調査事項等の詳細な情報や,試験問題等のように,事前に公にすれば,適正かつ公正な評価や判断の前提となる事実の把握が困難となったり,行政客体における法令違反行為又は法令違反に至らないまでも妥当性を欠く行為を助長したり,巧妙に行うことにより隠ぺいをするなどのおそれがあるものがあり,また,事後であっても,例えば,違反事例等の詳細についてこれを公にすると他の行政客体に法規制を免れる方法を示唆するなどのおそれがあるものがあるため,このような情報については不開示とすることに合理的な理由があるというものである。
同法5条6号イにいう「正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれ」とは,前記の同号柱書と同様に,名目的,抽象的に正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にする可能性があるだけでは足りず,実質的,具体的に正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にする相当の蓋然性が認められることが必要というべきである。そして,上記のおそれがあるか否かの判断に当たっては,前記のとおり,人の生命,健康,生活又は財産の各利益を保護するために当該情報を公にする必要があるか否かについても勘案しなければならないものと解すべきである。なお,当該監査,検査,取締り又は試験が反復されるような性質のものである場合に,当該情報の開示によって将来の同種の上記事務の遂行に関して正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあるがあるときも,同号にいう「正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがある」ものと解すべきことも,前記の同号柱書と同様である。
(3) 指定確認検査機関に対する立入検査の内容及び趣旨
ア 建築基準法は,建築物の敷地,構造,設備及び用途に関する最低の基準を定めて,国民の生命,健康及び財産の保護を図り,もって公共の福祉に資することを目的としている(同法1条)。この目的を実現するため,建築基準法は,①建築主は,同法6条1号から3号までに掲げる建築物を建築しようとする場合,これらの建築物の大規模の修繕若しくは大規模の模様替をしようとする場合又は同条4号に掲げる建築物を建築しようとする場合においては,当該工事に着手する前に,その計画が建築基準関係規定(同法並びにこれに基づく命令及び条例の規定その他建築物の敷地,構造又は建築設備に関する法律並びにこれに基づく命令及び条例の規定で政令で定めるものをいう。以下同じ。)に適合するものであることについて,確認の申請書を提出して建築主事の確認を受け,確認済証の交付を受けなければならない(同法6条1項前段),②建築主は,同法6条1項の規定による工事を完了したときは,当該工事に係る建築物及びその敷地が建築基準関係規定に適合するものであることについて,建築主事の検査を申請して建築主事の検査を受け,検査済証の交付を受けなければならない(同法7条1項,4項,5項),③建築主は,同法6条1項の規定による工事が特定工程(建築物に関する工事の工程のうち当該工事の施工中に建築主事が建築基準関係規定に適合しているかどうかを検査することが必要なものとして特定行政庁が指定したものをいう。以下同じ。)を含む場合において,当該特定工程に係る工事を終えたときは,原則として,工事中の建築物等が建築基準関係規定に適合するものであることについて,建築主事の検査を申請して建築主事の検査を受け,中間検査合格証を交付しなければならない(同法7条の3第1項,2項,4項,5項),と規定している。そして,上記の確認及び検査等の業務を行う建築主事は,市町村又は都道府県の吏員で建築基準適合判定資格者検定に合格して国土交通大臣の登録を受けた者のうちから市町村の長又は都道府県知事が命ずることとされている(同法4条6項,77条の58第1項)。
もっとも,建築基準法は,①同法6条1項各号に掲げる建築物の計画が建築基準関係規定に適合するものであることについて,建築基準法77条の18から77条の21までの規定の定めるところにより国土交通大臣又は都道府県知事が指定した者(以下「指定確認検査機関」という。)の確認を受け,確認済証の交付を受けたときは,当該確認は建築主事による確認と,当該確認済証は建築主事の交付に係る確認済証とみなす(同法6条の2第1項),②指定確認検査機関が,同法6条1項の規定による工事に係る建築物及びその敷地が建築基準関係規定に適合しているかどうかの検査を引き受けた場合において,当該検査の引受けに係る工事が完了したときについては,建築主事の検査を受けることは必要でなく,指定確認検査機関により交付された検査済証は建築主事の交付に係る検査済証とみなす(同法7条の2第1項,5項),③同法6条1項の規定による工事が特定工程を含む場合において,指定確認検査機関が当該特定工程に係る工事を終えた後の工事中の建築物が建築基準関係規定に適合するかどうかの検査を引き受けたときについては,建築主事の検査を受けることは必要でなく,指定確認検査機関により交付された中間検査合格証は建築主事の交付に係る中間検査合格証とみなす(同法7条の4第1項,4項),旨規定している。指定確認検査機関の指定は,上記①ないし③の確認又は検査(以下「確認検査」という。)の業務を行おうとする者の申請により行い(同法77条の18第1項),国土交通大臣(2以上の都道府県の区域において確認検査の業務を行おうとする者を指定する場合。同法6条の2第2項,同法7条の2第1項)又は都道府県知事(1の都道府県の区域において確認検査の業務を行おうとする者を指定する場合。同法6条の2第2項,同法7条の2第1項)は,当該申請者が同法77条の19各号のいずれかの欠格事由に該当する場合は指定をしてはならず(同法77条の19。なお,同法77条の35第1項参照),また,当該申請が同法77条の20の各号に掲げる基準に適合していると認めるときでなければ指定をしてはならない(同法77条の20)ものの,当該申請者が上記欠格事由に該当せず,かつ,当該申請が上記基準に適合していると認められる限りは,いかなる者に対しても指定確認検査機関の指定をすることができる。
イ そこで,建築基準法は,指定確認検査機関の業務の公正かつ適確な実施を確保し,ひいては前記の国民の生命,健康及び財産の保護を図り,もって公共の福祉に資するという同法の目的を実現するため,①指定確認検査機関は,その名称若しくは住所又は確認検査の業務を行う事務所の所在地を変更しようとするときは,変更しようとする日の2週間前までに,その指定をした国土交通大臣又は都道府県知事(以下「国土交通大臣等」という。)にその旨を届け出なければならない(同法77条の21第2項),②指定確認検査機関は,業務区域を増加しようとするときは,国土交通大臣等の認可を受けなければならず,業務区域を減少したときは,その旨を国土交通大臣等に届け出なければならない(同法77条の22第1項,2項),③指定確認検査機関は,確認検査を行うときは,建築基準適合判定資格者検定に合格して国土交通大臣の登録を受けた者のうちから選任した確認検査員に確認検査を実施させなければならない(同法77条の24第1項,2項,4項,77条の58第1項),④指定確認検査機関及びその職員(確認検査員を含む。以下同じ。)並びにこれらの者であった者は,確認検査の業務に関して知り得た秘密を漏らし,又は自己の利益のために使用してはならない(同法77条の25第1項),⑤指定確認検査機関は,確認検査の業務に関する規程(以下「確認検査業務規程」という。)を定め,国土交通大臣等の認可を受けなければならない(同法77条の27第1項,2項),⑥指定確認検査機関は,指定の区分,業務区域その他国土交通省令で定める事項を,その事務所において公衆に見やすいように掲示しなければならない(同法77条の28),⑦指定確認検査機関は,確認検査の業務に関する事項で国土交通省令で定めるものを記載した帳簿を備え付け,これを保存しなければならず,また,確認検査の業務に関する書類で国土交通省令で定めるものを保存しなければならない(同法77条の29),⑧指定確認検査機関は,確認検査の業務の全部又は一部を休止し,又は廃止しようとするときは,あらかじめ,その旨を国土交通大臣等に届けなければならない(同法77条の34第1項),などの指定確認検査機関が遵守しなければならない義務を定めている。
さらに,建築基準法は,指定確認検査機関の確認検査の業務の公正かつ適確な実施を確保し,ひいては前記の同法の目的を実現するため,指定確認検査機関に対する国土交通大臣等の監督権限を認めている。すなわち,①国土交通大臣等は,確認検査員の在任により指定確認検査機関が同法77条の20第4号に掲げる基準(法人にあっては役員,構成員又は役員の構成が,法人以外の者にあってはその者及びその職員の構成が,確認検査の業務の公正な実施に支障を及ぼすおそれがないものであること)に適合しなくなったときは,指定確認検査機関に対し,その確認検査員を解任すべきことを命ずることができ(同法77条の24第4項),②国土交通大臣等は,認可をした確認検査業務規程が確認検査の公正かつ適確な実施上不適当となったと認めるときは,その確認検査業務規程を変更すべきことを命ずることができ(同法77条の27第3項),③国土交通大臣等は,確認検査の業務の公正かつ適確な実施を確保するため必要があると認めるときは,その指定に係る指定確認検査機関に対し,確認検査の業務に関し監督上必要な命令を発することができ(同法77条の30),④国土交通大臣等は,確認検査の業務の公正かつ適確な実施を確保するため必要があると認めるときは,その指定に係る指定確認検査機関に対し確認検査の業務に関し必要な報告を求め,又はその職員に,指定確認検査機関の事務所に立ち入り,確認検査の業務の状況若しくは帳簿,書類その他の物件を検査させ,若しくは関係者に質問させることができ(同法77条の31第1項),⑤国土交通大臣等は,その指定に係る指定確認検査機関が同法77条の35第2項各号の一に該当するとき(例えば,確認検査員に確認検査を実施させていなかったとき。同項1号,同法77条の24第1号参照)は,その指定を取り消し,又は期間を定めて確認検査の業務の全部又は一部の停止を命ずることができる(同法77条の35第2項)。
ウ 以上のような指定確認検査機関の制度の概要及び趣旨に照らすと,国土交通大臣等の指定確認検査機関に対する建築基準法77条の31第1項に基づく立入検査は,指定確認検査機関の確認検査の業務の公正かつ適確な実施を確保し,ひいては国民の生命,健康及び財産の保護を図り,もって公共の福祉に資するという同法の目的(同法1条)を実現するための国土交通大臣等の指定確認検査機関に対する監督権限の行使の一環として,当該指定確認検査機関の事務所に立ち入り,当該指定確認検査機関が行なっている確認検査の業務の状況を現認し,若しくは当該確認検査機関が備え付け若しくは保存している帳簿,書類等の物件を閲覧若しくは徴求し,又は当該事実関係を一定程度知悉していると資料される関係者に対して事情を聴取したり,関係物件等についての説明を求めるなどの行為をいうものと解される。そして,前記で説示した国土交通大臣等の指定確認検査機関に対する監督制度の概要を勘案すると,立入検査によって国土交通大臣等が直接把握し,又は立入検査において収集された物件に基づいて国土交通大臣等が認定した当該指定確認検査機関の確認検査の業務に関する事実関係は,国土交通大臣等の当該指定確認検査機関に対する今後の監督権限の行使に当たっての基礎資料になるとともに,当該事実ないし事実関係に建築基準法違反があった場合には,国土交通大臣等の当該指定確認検査機関に対する監督命令,業務停止命令又は業務取消命令等の各監督処分の根拠事実になるものと解される。
(4) 各情報の情報公開法5条6号イ,同号柱書該当性
ア 「検査方法(本社分)」(別紙不開示部分目録記載3)及び「検査方法(b支店分)」(同記載5)について
(ア) 被告は,本件報告書の本体部分2項のうち検査方法には本件立入検査に係る具体的な手順,着眼点及び実施方法等の立入検査一般のノウハウというべき情報が含まれており,これを公にすれば,立入検査を受ける指定確認検査機関において,検査の対象業務の範囲や提出を求められる資料といった事項を推察することが容易になり,違法不当な行為がされていた場合にはその露見を防止する対策を施す時間的余裕が生じることになるから,上記情報は,情報公開法5条6号イの不開示情報に該当する,と主張する。
そこで,この被告の主張の採否について検討するに,前記1で認定した事実によれば,本件報告書の本体部分2項の「(1)本社」及び「(2)b支店」の「検査方法」の項目には,本件立入検査に係る具体的な手順,着眼点及び実施方法等に関する情報,すなわち,本件立入検査の対象となったa社の確認検査業務の範囲及びその期間,被告職員(国土交通省職員)が同社に提出を依頼した資料の種類及び提出の順序,被告職員が同社に口頭で確認した事項等の本件立入検査の手順及び実施方法等に関する情報,並びに,本件立入検査の対象となった同社の確認検査業務の期間を選択するに当たっての着眼点,同社から提出された資料を比較,検討するに当たっての着眼点等に関する情報が記録されていることが認められる。
しかるところ,上記の情報は,被告(国土交通省)が行う指定確認検査機関に対する監督権限の行使の一環としての立入検査の方法に関する情報であるから,国の機関が行う検査に係る事務に関する情報であることは明らかである。
そして,弁論の全趣旨によれば,本件不開示決定当時,被告職員(国土交通省職員)は,建築基準法77条の31第1項に基づく指定確認検査機関に対する立入検査においては,その時間的,人的制約等の事情から,指定確認検査機関のすべての範囲の確認検査の業務を検査したり,指定確認検査機関にその保管するすべての書類等の物件の提出を求めてこれを閲覧ないし検討等することは困難な状況にあるため,検査の対象となる指定確認検査機関の確認検査の業務を一定の範囲に限定するとともに,指定確認検査機関に提出を求める物件も取捨選択して一定のものに限定していたものと認められる。そして,このような諸種の制約の下において前記(3)ウにおいて説示した立入検査の目的を効率的かつ効果的に達成するためには,事柄の性質上,検査の着眼点をどのように設定し,検査の対象とすべき業務の範囲をどのように限定し,提出を求める物件をどのように取捨選択し,どの範囲の関係者に対してどのような角度からの質問をし,これらの手順をどのように編成し,その結果をどのように分析,統合するかといった点についてのいわゆるノウハウが不可欠であり,同項による立入検査の権限を付与された国土交通大臣等においては,当該権限の行使を通じて上記ノウハウが醸成,蓄積され,個々の検査において活用されているものと容易に推認することができる。このような被告職員による指定確認検査機関に対する立入検査の実情等を踏まえると,上記で認定したところの本件報告書の本体部分2項の検査方法の項目に記録された情報が公にされた場合には,当該情報に基づいて立入検査の対象となる指定確認検査機関の確認検査業務の範囲及びその期間,被告職員が指定確認検査機関に提出を依頼する資料の種類及び提出の順序,被告職員が指定確認検査機関に口頭で確認する事項等の立入検査の手順及び実施方法等,並びに,立入検査の対象となった指定確認検査機関の確認検査業務の期間を選択するに当たっての着眼点,指定確認検査機関から提出された資料を比較,検討するに当たっての着眼点等といった,被告職員が指定確認検査機関に対する立入検査を実施するに当たってのノウハウの一端が容易に推知されるものと認められる。しかるところ,上記のような被告職員の立入検査の実施方法及び着眼点等といったノウハウが明らかになれば,今後,指定確認検査機関において,建築基準法等に違反する違法な行為又は違法とまではいえないが不当な行為を発見する手掛かりとして被告職員が着目すると推測される資料等を隠ぺい,改ざんするなどして,上記の違法又は不当な行為が被告職員に明らかにならないような措置を施し,又はそのような状況を作出する余裕を与えることになるということができる。そうであるとすれば,本件報告書の本体部分2項の検査方法の項目に記録された情報を公にすることにより,今後,指定確認検査機関において,建築基準法に違反する違法な行為又は違法とまではいえないが不当な行為を行うことを容易にするとともに,被告職員の指定確認検査機関に対する立入検査において,被告の指定確認検査機関に対する今後の監督に当たっての基礎となる事実の正確な把握,又は各監督処分の根拠になる建築基準法違反等の事実関係の発見ないし正確な把握を困難にする相当の蓋然性が認められる。
したがって,本件報告書の本体部分2項の検査方法の項目に記録された情報は,情報公開法5条6号イの不開示情報(国の機関が行う検査に係る事務に関する情報であって,公にすることにより,当該事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあるもの)に該当するというべきである。
(イ) 原告は,本件立入検査は,法令上の資格者による現場検査がされていたか否かという簡単な事実の調査であり,着目点,検査対象機関に求めた資料がどのようなものであるかは容易に推定することができるから,被告が検査方法におけるノウハウと主張するものはノウハウと評価することができるようなものではなく,したがって,本件報告書の本体部分2項の検査方法の部分を開示しても,今後の立入検査に関して正確な事実の把握を困難にしたり,違法若しくは不当な行為を容易にしたり,その発見を困難にするおそれはない旨主張する。
しかしながら,指定確認検査機関に対する立入検査の対象範囲(検査事項)は,本来的には限定されているものではなく,また,その検査方法も,指定確認検査機関の対象業務である確認検査業務の性質上,定型化されておらず様々な選択肢がある(これは,仮に立入検査に係る検査事項が事前に特定,告知されていたとしても当てはまるものである。)ものと認められるところ,前記のとおり,被告職員(国土交通省職員)において,立入検査の時間的,人的制約が存在することから,立入検査の対象となる指定確認検査機関の確認検査の業務を一定の範囲に限定するとともに,指定確認検査機関に提出を求める物件も取捨選択して一定のものに限定していると認められ,これらの限定ないし特定された立入検査に係る検査事項及び検査方法というのは,事柄の性質上検査対象機関(指定確認検査機関)に事前に告知されるようなものではないことからすれば,被告職員は,立入検査の具体的な手順,着眼点及び方法等について,検査対象機関(及び検査対象機関となる可能性のある指定確認検査機関)に秘匿しておくべきノウハウを保有していることは明らかというべきである。そして,仮に本件立入検査のように検査事項が法令上の資格者(確認検査員)による現場検査(実地検査)がされていたか否かというようなものであったとしても,被告職員が時間的,人的制約の下において当該検査事項に係る検査の目的を効率的かつ効果的に達成するためには相応のノウハウが必要とされることは容易に推認され,当該ノウハウはその性質上当該検査のみならずその他の確認検査業務にも広く活用し得ることもまた容易に推認することができる。そうであるとすれば,前記のとおり,本件報告書の本体部分2項の検査方法の部分に記録されている立入検査の具体的な手順,着眼点及び方法等に関する情報の一部でも公にされれば,今後,指定確認検査機関において,建築基準法に違反する違法な行為又は違法とまではいえないが不当な行為を行うことを容易にするとともに,被告職員の指定確認検査機関に対する立入検査において,被告の指定確認検査機関に対する今後の監督に当たっての基礎となる事実の正確な把握,又は各監督処分の根拠になる建築基準法違反等の事実関係の発見ないし正確な把握を困難にする相当の蓋然性が認められるというべきである。
よって,原告の上記主張は,採用することができない。
(ウ) 原告は,他の指定確認検査機関はa社から本件立入検査の方法に関する情報を得られるから,本件立入検査の方法に関する情報を不開示としたところで今後正確な事実の把握等に支障が生じるのを効果的に防止することができるのか疑問があるなどと主張するが,指定確認検査機関相互の間で立入検査の内容について一定の情報交換が行われていることは推測されるものの,検査の方法に関するノウハウが推知される程度にまで詳細かつ具体的な情報の交換がされるような事態は一般的に考え難く,また,そのような態様の情報交換が行われていることを認めるに足りる証拠もないから,原告の上記主張も採用することができない。
(エ) 以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,本件不開示部分(本件報告書の本体部分2項)のうち「検査方法(本社分)」(別紙不開示部分目録記載3)及び「検査方法(b支店分)」(同記載5)の各部分に記録された各情報は,いずれも情報公開法5条6号イの不開示情報に該当するというべきである。
イ 「検査結果(本社分)」(別紙不開示部分目録記載4)及び「検査結果(b支店分)」(同記載6)について
(ア) 被告は,a社の協力を得て提出された内部資料等に基づいて記載した本社分及びb支店分の検査結果を同社の関与しないところで被告が一方的に開示すれば,同社と被告との信頼関係が阻害されて今後同社からの任意の協力が得難くなるばかりか,今後指定確認検査機関が被告に資料等を提供するに当たって提供資料が競合他社等に明らかにされる危険性を考え,その提出を拒み又は提出の範囲を限定するほか,提出に先立って検討の時間を求めるなどの対応策を講ずる蓋然性が極めて高く,そうなれば,今後の立入検査において正確な事実を把握することや,違法不当な行為を極めて容易にし又はその発見が著しく困難になるから,本件報告書の本体部分2項の検査結果の部分に記録された情報は情報公開法5条6号イの不開示情報に該当する,と主張する。
しかし,前記1で認定したところの本件報告書の全体の構成並びに本体部分及び別添資料等の各内容からして,本体部分2項の検査結果の部分に被告職員(国土交通省職員)によって記録された情報と,a社から被告が提出を受けた内部資料等を含む各別添資料に記録された情報とは別個の情報と解され,しかも,本体部分2項の検査結果の部分に記録された情報は,被告職員が,各別添資料に記録された情報のうち必要な内容を抜粋するとともに,自らの認識,知見等をも織り交ぜつつ,これらを分析した上,本件立入検査の結果としてまとめた内容のものであると認められることからすれば,本件報告書の本体部分2項の検査結果の部分を開示することにより,直ちに今後被告が同社を含む指定確認検査機関から立入検査等の目的を達成するために必要かつ十分な内部資料等の提出を受けるのが困難になると推認することはできない。もっとも,本件報告書の本体部分2項の検査結果の部分にa社の営業上の秘密に係る情報など公にすることにより同社の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがある情報が記録されているとすれば,その部分を開示することにより同社と被告(被告職員)との信頼関係が阻害される相当の蓋然性があることを肯定する余地はある。しかしながら,前記1において認定したところによれば,本件報告書の本体部分2項の検査結果の部分に上記のような同社が公にされないことにつき正当な利益が認められる情報が記録されているとは認めることはできず,他に同部分に上記のような情報が記録されていることを認めるに足りる証拠もない。
そうすると,本件報告書の本体部分2項の検査結果の部分に記録された情報を開示しても,上記の被告が主張する理由によっては,今後の立入検査に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれや,違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあるとはいえない。
(イ) もっとも,被告は,本件報告書の本体部分2項の検査結果の部分には検査結果のポイントが具体的かつ詳細に述べられており,その内容からさかのぼって検査方法のノウハウを容易に推測することが可能であり,これを公にすれば,指定確認検査機関において立入検査で検査官が着目する事実を事前に隠ぺい,改ざんするなどの行為に及ぶおそれがあるから,上記部分に記録された情報は情報公開法5条6号イの不開示情報に該当する,とも主張する。
そこで,この主張の採否について検討するに,前記1で認定した事実によれば,本件報告書の本体部分2項の「(1)本社」及び「(2)b支店」の「検査結果」の項目には,本件立入検査の結果に関する情報,すなわち,a社が行った完了検査業務のうち建築基準法違反の検査と疑われたものの件数及びその具体的な根拠,同社に対する同法違反の検査の確認結果,同社において同法違反の検査が行われるに至った背景事情等に関する情報が,その裏付けとなる資料(別添1ないし13)の名称等を適宜示しながら記録されていることが認められる。
しかるところ,上記の情報は,被告(国土交通省)が行う指定確認検査機関に対する監督権限の行使の一環としての立入検査の結果に関する情報であるから,国の機関が行う検査に係る事務に関する情報であることは明らかである。
しかるところ,前記認定のとおり,本件報告書の本体部分2項の検査結果の部分に記録された内容は,その性質上,被告職員が本件立入検査において用いた検査の方法,すなわち,検査の着眼点,検査の対象としたa社の確認検査業務の範囲及びその期間,同社に提出を依頼した資料の種類(前記認定のとおり,当該検査結果の部分には,裏付けとなる資料(別添1ないし13)の名称が示されている。),質問の対象とした関係者の範囲,質問内容等に規定されたものであって,当該検査の方法がそのまま反映していると認められるから,検査の結果の記載は,検査の方法と内容的に密接不可分というべきである。そして,前記認定事実によれば,上記検査結果の部分には本件立入検査の結果が具体的に記録されていたというのであるから,上記部分に記録された情報を公にすることにより,当該情報から,被告職員が本件立入検査において用いた検査の方法が容易に推知され,ひいては,当該検査の方法に含まれる被告職員(国土交通省職員)の指定確認検査機関に対する立入検査のノウハウが推知されるものと認められる。そうであるとすれば,本件報告書の本体部分2項の検査結果の項目に記録された情報を公にすれば,同項の検査方法の項目に記録された情報を公にした場合と同様に,今後,指定確認検査機関において,建築基準法に違反する違法な行為又は違法とまではいえないが不当な行為を行うことを容易にするとともに,被告職員の指定確認検査機関に対する立入検査において,被告の指定確認検査機関に対する今後の監督に当たっての基礎となる事実の正確な把握,又は各監督処分の根拠になる建築基準法違反等の事実関係の発見ないし正確な把握を困難にする相当の蓋然性が認められるというべきである。
したがって,本件報告書の本体部分2項の検査結果の項目に記録された情報は,情報公開法5条6号イの不開示情報(国の機関が行う事務に関する情報であって,公にすることにより,検査に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあるもの)に該当するというべきである。
(ウ) 原告は,本件通達(平成11年4月28日付け建設省住指発第201号・建設省住街発第48号「建築基準法の一部を改正する法律の一部の施行について」)において立入検査の結果等の情報を積極的に公開することが明確に表明されているのであるから,本件報告書の本体部分の検査結果の部分は情報公開法5条6号イに該当しないと主張するが,本件通達記第4「情報の公開について」においても,「確認検査の業務の引受けを依頼する建築主に対してより一層の情報提供を行う必要があることから,確認検査業務規程,確認検査の業務に関する報告,事務所への立入検査の結果等について問い合わせ等があった場合においては,建築主等のプライバシー,指定確認検査機関の営業上の利害等を損なわない範囲内で,積極的に情報を公開すること」と記載されているにとどまり,建築基準法77条の31第1項の規定による立入検査に基づいて国土交通大臣等(被告職員)が職務上作成する報告書中「検査の結果」として記録されている部分をそのままの形で公開することまでをも定めたものではなく,また,そのような慣行の成立を認めるに足りる証拠もないから,原告の上記主張は採用することができない。
(エ) 以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,本件不開示部分(本件報告書の本体部分2項)のうち「検査結果(本社分)」(別紙不開示部分目録記載4)及び「検査結果(b支店分)」(同記載6)の各部分に記録された各情報は,いずれも情報公開法5条6号イの不開示情報に該当するというべきである。
ウ 「参考として添付された資料」(別紙不開示部分目録記載7)について
被告は,本件報告書の添付文書である参考として添付された資料には個人に関する記載や特定の個人を識別することができる記載が含まれており,これを開示すると,a社と被告との信頼関係が阻害され,今後の被告の立入検査の事務や指定確認検査機関に対する監督に影響を与えるから,上記参考として添付された資料に記録された情報は,情報公開法5条6号イの不開示情報及び同号柱書の不開示情報のいずれにも該当する,などと主張する。
そこで,この主張の採否について検討するに,前記1で認定した事実によれば,本件報告書の添付文書である参考として添付された資料には,a社による建築基準法違反の検査が確認された物件の名称,これを担当した補助員名,検査の日付が記録されていることが認められる。
しかるところ,上記文書に記録された情報は,被告(国土交通省)が行う指定確認検査機関に対する監督権限の行使の一環としての立入検査の結果に関する情報であるから,国の機関が行う検査に係る事務その他の事務に関する情報であることは明らかである。
そして,前記の物件の名称から同社の顧客を推知することができる上,当該物件を担当した補助員名及び検査の日付と相まって同社の確認検査業務の具体的な実施状況,実施態様が明らかとなり,そこから同社の顧客層を含む営業戦略の一端を推知することが可能となるから,これらの情報は,情報公開法5条2号イにいう公にすることにより,当該法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものに該当し,a社はこれを公にされないことについての期待を有するというべきであって,このような情報を公にすると,a社と被告(国土交通省)との間の信頼関係が阻害され,ひいては,今後の被告職員(国土交通省職員)による同社を含めた指定確認検査機関に対する立入検査業務において,それらの指定確認検査機関から協力を得難くなるなど,検査に係る事務が迅速,円滑に進行しなくなるおそれが一応認められる。
しかしながら,上記文書に記録された当該物件について確認検査員の資格を有しない補助員による建築基準法違反の検査がされたという情報は,情報公開法5条2号ただし書にいう人の生命及び健康を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報に該当するから,同条6号イの不開示情報に該当しないものというべきである。その理由は以下のとおりである。
情報公開法5条2号は,「法人その他の団体(国,独立行政法人等及び地方公共団体を除く。以下「法人等」という。)に関する情報又は事業を営む個人の当該事業に関する情報であって,次に掲げるもの。ただし,人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報を除く。」と規定しているところ,この規定の文言に照らすと,「公にすることが必要であると認められる」とは,当該情報を公にしないことにより保護される当該法人等又は当該個人の権利利益と,当該情報を公にすることにより保護される人の生命,健康,生活又は財産(これらの権利利益の保護の必要性)とを比較衡量し,後者が前者を上回る場合をいうと解すべきである。そして,上記の比較衡量は,当該情報を公にしないことにより保護される当該法人等又は当該個人の権利利益の内容及び性質,これが害された場合のその態様及び程度,並びに,当該情報を公にすることにより保護される生命,健康,生活又は財産等の権利利益の内容及び性質,これが害された場合のその態様及び程度を総合的に勘案した上で,社会通念に従って判断すべきである。なお,同号ただし書にいう「公にすることが必要であると認められる」とは,現実に人の生命,健康等に被害が発生している場合に限らず,将来これらが侵害される蓋然性が高い場合も含まれ,さらに,法人等又は事業を営む個人の事業活動と人の生命,健康等に対する危害等との明確な因果関係が確認されなくても,現実に人の生命,健康等に対する被害等の発生が予想される場合も含まれることは,同号ただし書の文言及び趣旨から明らかである。
しかるところ,本件報告書の参考として添付された資料に記録されたa社による建築基準法違反の検査が確認された物件の名称,これを担当した補助員名及びその検査の日付に関する情報にa社の確認検査業務に係る営業戦略に関する情報が含まれているとしても,上記のような記録内容から推知し得る上記営業戦略の内容はおのずから限定されたものとならざるを得ないのであって,これが公にされることにより同社が営業戦略の変更を余儀なくされるなどその営業活動に具体的な支障が生じるといった事態はにわかに考え難く,そのような事情を認めるに足りる証拠もない。他方で,上記文書に記録された当該物件について確認検査員の資格を有しない補助員による建築基準法違反の検査がされたという情報は,建築物及びその敷地が国民の生命,健康及び財産の保護を図る目的から建築物の敷地,構造及び用途に関する最低の基準を定めた建築基準関係規定に適合しているか否かを法定の資格を有する確認検査員により実地に検査させることにより,当該建築物に係る国民の生命,健康及び財産の保護を図ろうとする建築基準法及び指定機関省令の趣旨を没却する内容のものであって,当該物件の所有者ないし利用者等の生命,健康及び財産に重大な関係を有する情報であるとともに,このような物件については,建築基準関係規定の定める建築物の敷地,構造及び用途に関する最低の基準が満たされておらず,その結果,当該物件に係る国民の財産のみならず生命,健康に対する重大な被害が発生する事態が一般的に相当の蓋然性をもって予測されるものといわざるを得ない。そうであるとすれば,上記文書に含まれる法人等(a社)の確認検査業務に係る営業戦略に関する情報を公にしないことにより保護される当該法人等(a社)の営業上の利益ないし競争上の地位と,上記文書に記録された当該物件について確認検査員の資格を有しない補助員による建築基準法違反の検査がされたという情報を公にすることにより保護される当該物件に係る国民の生命,身体及び財産とを比較衡量した場合,後者が前者を上回ることは明らかというべきであるから,上記文書に記録された情報は,情報公開法5条2号ただし書にいう人の生命,健康又は財産を保護するため公にすることが必要であると認められる情報に該当するものというべきであり,同号の不開示情報には該当しないものというべきである。
そして,前記のとおり,情報公開法5条6号にいう「当該事務又は事業の適正な遂行に支障を及ぼすおそれ」ないし同号イにいう「正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれ」の有無については,人の生命,健康,生活又は財産を保護するため公にすることが必要であるか否かについても勘案しなければならないところ,以上認定説示したところからすれば,本件報告書の添付文書である参考として添付された資料に記録された前記情報は,a社と被告(被告職員)との間の信頼関係を犠牲にしてもなお,人の生命,健康及び財産を保護するために公にすることが必要であると認められる情報というべきであり,前に認定した本件通達の定めの趣旨にも照らすと,むしろ当該情報を公にすることが当該検査の適正な遂行ということもできるから,当該情報は,同号イにいう国の機関が行う検査に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあるものその他国の機関が行う事務に関し,当該事務の性質上,当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるものに該当しないと解すべきである。
もっとも,上記文書に記録された当該補助員が当該検査日に当該物件について建築基準法に違反する検査をしたという情報は,その全体が独立した一体的な情報として,情報公開法5条1号にいう個人に関する情報であって当該情報に含まれる氏名等により特定の個人を識別することができるものに該当するということができる(被告はその旨の主張をしていない。)が,以上説示したところからすれば,当該情報も,同号ただし書ロに該当することは明らかであるから,上記文書を同号の規定により不開示とすることもできないというべきである。
以上説示したところによれば,本件不開示部分のうち「参考として添付された資料」(別紙不開示部分目録記載7)に記録された情報は,情報公開法5条6号イの不開示情報(国の機関が行う事務に関する情報であって,公にすることにより,検査に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあるもの)又は同号柱書の不開示情報(国が行う事務に関する情報であって,公にすることにより,当該事務の性質上,当該事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるもの)のいずれにも該当しないものというべきである。
エ 「別添1」ないし「別添13」(別紙不開示部分目録記載8ないし20)に記録された情報の単位について
被告は,本件報告書の添付文書である別添1ないし13は,検査担当者が検査の過程で一定の目的で検査対象者であるa社から任意の提供を受けて収集した文書であるから,全体が1個の情報であり,全体として情報公開法5条6号イ及び同号柱書の不開示情報に該当するか否かを判断すべきである,などと主張する。
しかしながら,前記1(4)で認定したところによれば,別添1は,a社が通常の業務過程で作成した業務実績の推移を表形式で記載した文書,別添2は,同社が通常の業務過程で作成した職員名簿に被告職員(国土交通省職員)が手書きで記号を記入したもの,別添3は,同社が通常の業務過程で作成した顧客リストに類する内容の文書に被告職員が手書きで文字や記号を記入したもの,別添4は,同社の顧客リストに類する内容の文書を基にして被告職員が作成した文書,別添5は,「確認書」と題する被告職員が本件立入検査等の内容を記載して同社がその内容を確認した旨を記載した文書,別添6は,同社の特定の業務内容が記載された内部決裁文書に被告職員が手書きで文字や記号を記入するなどの加工を施したもの,別添7は,同社が通常の業務過程で作成した同社の独自の確認検査業務の実施方法等の内容が記載された内部通達文書に類する文書,別添8は,同社が通常の業務過程で作成した職員名簿に被告職員が手書きで文字や記号を記入したもの,別添9は,同社が通常の業務過程で作成した顧客リストに類する内容の文書に被告職員が文字や記号を手書きで記入したもの,別添10は,同社が通常の業務過程で個々の職員の勤務実態の一部について日単位で詳細に記載した文書,別添11は,同社の顧客リストに類する内容の文書に被告職員が手書きで文字や記号を記入したもの,別添12は,同社の特定の業務内容等が記載された内部決裁文書に被告職員が手書きで文字や記号を記入するなどの加工を施したもの,別添13は,「確認書」と題する被告職員が本件立入検査等の内容を記載しa社がその内容を確認した旨を記載した文書であると認められ,これらの本件報告書の添付文書に記録された内容及び前記認定の本件報告書の全体の構成等にかんがみると,別添1ないし13に記録された情報は,少なくとも各添付文書ごとに独立した別個のものであることは明らかである。
したがって,本件不開示部分のうち「別添1」ないし「別添13」(別紙不開示部分目録記載8ないし20)に記録された情報は全体が1個の情報であるとする上記被告の主張は,採用することができない。そこで,以下では,本件不開示部分のうち「別添1」ないし「別添13」の各添付文書ごとに,同各添付文書に記録された情報が情報公開法5条6号イ又は同号柱書の不開示情報に該当するか否かを検討することとする。
オ 「別添1」(別紙不開示部分目録記載8)について
被告は,本件報告書の添付文書である別添1には業務実績の推移に関する情報が記録されているところ,これを開示すると,今後被告の行う検査への情報提供が円滑にされなくなるおそれがあり,また,被告の行う検査の対象資料,対象範囲が明らかになることで,指定確認検査機関により指摘を逃れるための具体的な予防手段を講じられ,正確な事実の把握を困難にして被告の検査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められるから,上記情報は情報公開法5条6号イの不開示情報に該当する,などと主張する。
そこで,この主張の採否について検討するに,前記1で認定した事実によれば,別添1は,本体部分2項の「(1)本社」の「検査方法」の部分に係る添付文書であり,同文書には,a社の業務の一部についてその業務実績の推移に関する情報が具体的に数字等を用いて表形式で記載され,これは本件立入検査の対象となる同社の業務を抽出するために必要な情報であることが認められる。そして,同文書が同社の通常の業務過程で作成されたものであることに照らすと,上記業務実績に係る業務は,建築基準法に違反したものに限られないと推認され,また,弁論の全趣旨によれば,上記業務実績は,同社がホームページで公開している情報とは別のより詳細な記載がされたものであると認められる。
しかるところ,別添1は,本件報告書の添付文書として,同報告書の本体部分2項の検査方法の部分に記録された内容を補完する機能を有していると認められることに照らすと,当該文書に記録された上記情報は,被告(国土交通省)が行う指定確認検査機関に対する監督権限の行使の一環としての立入検査の方法に関する情報であり,国の機関が行う検査に係る事務に関する情報であるというべきである。
そして,前記認定のとおり,別添1には,a社の業務実績(建築基準法に違反しないものも含む。)の推移に関する情報が具体的に数字等を用いて詳細に記録されていたというのであるから,これらの情報を分析すれば,同社の部署別(本支店別)ないし地域別の営業の強弱,業務の効率性,営業努力の程度等,及び同社の各月ごとないし季節別の営業の強弱,業務の効率性,営業努力の程度等といった同社の経営戦略の少なくとも一端を推知することが可能であると認められる。そうであるとすれば,上記の情報は,公にすることにより,当該法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものとして,情報公開法5条2号イに該当するというべきであり,他方で,当該情報の内容(上記のとおり,上記文書に記録された業務実績に係る業務は,建築基準法に違反したものに限られない。)からして,当該情報が同号ただし書にいう「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」に該当するとは考え難い。以上によれば,a社は,本件立入検査において別添1の文書を被告に提供するに当たりこれに記録された上記情報を公にされないことについて正当な期待を有するというべきところ,これらの情報が公にされると,a社と被告(国土交通省)との間の信頼関係が阻害され,ひいては,今後の被告職員(国土交通省職員)による同社を含めた指定確認検査機関に対する立入検査等の検査事務の遂行において,それらの指定確認検査機関から協力を得難くなるなど,検査に係る事務が迅速,円滑に進行しなくなる相当の蓋然性が認められる。
さらに,前記認定のとおり,別添1に記録されたa社の業務実績の推移に関する情報は,本件立入検査の対象となる同社の業務を抽出するために必要となった情報であることが認められるところ,前記アにおいて認定したところをも併せ考えれば,上記別添1に記録された同社の業務実績に関する情報は,同社の限定された特定の範囲の期間及び業務に係るものであると推認され,しかも,当該機関及び業務の認定には本件立入検査における被告の着眼点及びそれに基づく検査の対象とすべき確認検査業務の範囲及び期間の選択に係る検査上のノウハウが反映されているものと認められる。そうすると,上記のような情報を公にすれば,当該情報が上記のような立入検査の着眼点及びそれに基づく検査対象業務の期間ないし範囲の抽出方法に係るノウハウが推知されることになるから,今後,指定確認検査機関において,建築基準法等に違反する違法な行為又は違法とまではいえないが不当な行為を発見する手掛かりとして被告職員が着目すると推測される事項を隠ぺい,改ざんするなどして,上記の違法又は不当な行為が被告職員に明らかにならないような措置を施し,又はそのような状況を作出する余裕を与えることになるということができる。
以上認定説示したところによれば,別添1に記録された情報を公にすることにより,今後,指定確認検査機関において,建築基準法に違反する違法な行為又は違法とまではいえないが不当な行為を行うことを容易にするとともに,被告職員の指定確認検査機関に対する立入検査において,被告の指定確認検査機関に対する今後の監督に当たっての基礎となる事実の正確な把握,又は各監督処分の根拠になる建築基準法違反等の事実関係の発見ないし正確な把握を困難にする相当の蓋然性が認められる。
したがって,その余の点につき判断するまでもなく,本件不開示部分のうち「別添1」(別紙不開示部分目録記載8)に記録された情報は,情報公開法5条6号イの不開示情報(国の機関が行う事務に関する情報であって,公にすることにより,検査に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあるもの)に該当するというべきである。
カ 「別添2」(別紙不開示部分目録記載9)及び「別添8」(同記載15)について
(ア) 被告は,本件報告書の添付文書である別添2及び別添8には,a社の人事管理に用いられている職員に関する情報が記録されているところ,これらを開示すると,今後被告の行う検査に対する情報提供が円滑にされなくなるおそれがあり,また,被告職員が手書きで記入した部分により被告の行う検査の対象資料の着目点が明らかになって指摘を逃れるための具体的な予防手段を講じられ,正確な事実の把握を困難にし,被告の検査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められるから,上記情報は情報公開法5条6号イの不開示情報に該当する,などと主張する。
そこで,この主張の採否について検討するに,前記1で認定した事実によれば,別添2は,本体部分2項の「(1)本社」の「検査方法」の部分に係る添付文書であり,被告職員(国土交通省職員)がa社から提供を受けた職員名簿(同社の職員の氏名,年齢等が記載されている。)に,被告職員が手書きで記号を記入したものであると認められる。ところで,a社は指定確認検査機関であり,指定確認検査機関の職員には確認検査員及び補助員も含まれる(建築基準法77条の24参照)ことに加えて,本件立入検査の目的をも併せ考えると,上記職員名簿には確認検査員及び補助員の別そのものが記載されているか,少なくともそれを推知する手掛かりとなる記載がされているものと推認される。また,別添8は,本体部分2項の「(2)b支店」の「検査方法」の部分に係る添付文書であり,その内容は,上記別添2の内容とほぼ同様であると認められる。
しかるところ,別添2及び別添8は,それぞれ,本件報告書の添付文書として,同報告書の本体部分2項の検査方法の部分に記録された内容を補完する機能を有していると認められることに照らすと,上記各文書に記録された各情報は,被告(国土交通省)が行う指定確認検査機関に対する監督権限の行使の一環としての立入検査の方法に関する情報であり,国の機関が行う検査に係る事務に関する情報であるというべきである。
そして,前記のa社の職員の氏名,年齢等は同社の人事管理に関する情報を構成するところ,別添2及び別添8にはこれらの職員の氏名,年齢等が名簿形式で記録されているというのであって,上記各情報からは,同社の組織編成及び職員構成のみならず,確認検査員と補助員との比率等といった同社の経営戦略の一端を推知することができるものというべきであるから,これらの情報は,公にすることにより,当該法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものとして,情報公開法5条2号イに該当するというべきであり,他方で,当該情報の内容からして,当該情報が同号ただし書にいう「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」に該当するとは考え難い。以上によれば,a社は,本件立入検査において別添2及び別添8の文書を被告に提供するに当たり,これに記録された上記各情報を公にされないことについて正当な期待を有するというべきところ,これらの情報が公にされると,a社と被告(国土交通省)との間の信頼関係が阻害され,ひいては,今後の被告職員(国土交通省職員)による同社を含めた指定確認検査機関に対する立入検査等の検査事務の遂行において,それらの指定確認検査機関から協力を得難くなるなど,検査に係る事務が迅速,円滑に進行しなくなる相当の蓋然性が認められる。
したがって,本件報告書の添付文書である別添2及び別添8にそれぞれ記録された各情報は,いずれも情報公開法5条6号イの不開示情報(国の機関が行う事務に関する情報であって,公にすることにより,検査に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあるもの)に該当するというべきである。
(イ) 原告は,本件報告書の添付文書である別添2及び別添8に記録された被告職員が手書きで記入した部分を除いた部分は,情報公開法6条1項に基づいて部分的にでも開示されるべきである旨主張する。
しかしながら,原告の上記主張は,採用することができない。その理由は,以下のとおりである。
情報公開法6条1項は,「行政機関の長は,開示請求に係る行政文書の一部に不開示情報が記録されている場合において,不開示情報が記録されている部分を容易に区分して除くことができるときは,開示請求者に対し,当該部分を除いた部分につき開示しなければならない。ただし,当該部分を除いた部分に有意の情報が記録されていないと認められるときは,この限りでない。」と規定しており,同項所定の要件に該当する限り,行政機関の長は同項所定の部分開示をしなければならず,何人も,行政機関の長に対して,同項所定の部分開示を請求することができる。しかしながら,同項は,その文理等に照らすと,1個の行政文書に複数の情報が記録されている場合において,それらの情報のうちに不開示情報に該当するものがあるときは,当該部分を除いたその余の部分についてのみ,これを開示することを行政機関の長に義務付けているにすぎない。すなわち,同項は,不開示情報に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し,その一部を不開示とし,その余の部分にはもはや不開示事由に該当する情報は記録されていないものとみなして,これを開示することまでをも行政機関の長に義務付けていると解することはできない。したがって,行政機関の長においてこれを細分化することなく一体として不開示決定をしたときに,開示請求をした者は,当該行政機関の長に対し,同項を根拠として,開示することに問題のある箇所のみを除外してその余の部分を開示するよう請求する権利はなく,裁判所もまた,当該不開示決定の取消しの訴えにおいて,行政機関の長がこのような態様の部分開示をすべきであることを理由として当該不開示決定の一部を取り消すことはできない。
もっとも,同条2項は,「開示請求に係る行政文書に前条第1号の情報(特定の個人を識別することができるものに限る。)が記録されている場合において,当該情報のうち,氏名,生年月日その他の特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分を除くことにより,公にしても,個人の権利利益が害されるおそれがないと認められるときは,当該部分を除いた部分は,同号の情報に含まれないものとみなして,前項の規定を適用する。」と規定し,同法5条1号の情報のうち特定の個人を識別することができるもの(いわゆる個人識別情報)に限って,部分開示の一態様として,特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分のみを不開示とし,その余の部分を開示するという開示の方法を特に定めている。そして,同法6条1項にいう「部分」は,1個の行政文書の部分を意味し,同条2項にいう「部分」は,1個の行政文書に含まれる情報(同法5条1号の情報のうち特定の個人を識別することができるもの)の部分を意味することは,その文理からみて明らかである。また,同法6条2項は,特定の個人を識別することができることとなる記述等の部分(個人識別部分)を除いた部分は同法5条1号の情報に含まれないものとみなして同法6条1項の規定を適用すると定め,特に「みなして」という文言が使われているところからみると,同法は,5条1号のいわゆる個人識別情報は,個人識別部分に限らず,これを除いたその余の部分も同号に該当すると考えているものと解される。すなわち,同法は,5条1号のいわゆる個人識別情報については,6条1項のみでは個人識別部分だけを除くという態様の部分開示を義務付けることができないとして,特に同条2項の規定を設け,上記のような態様の部分開示についての法的根拠を与え,最大限の開示を実現し,もって政府の有するその諸活動を国民に説明する責務が全うされる(1条参照)ようにしたものと解されるのである。
以上のような情報公開法の規定に照らすと,同法6条は,同条2項に規定する場合を除き,不開示情報に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し,その一部を不開示とし,その余の部分にはもはや不開示事由に該当する情報は記録されていないものとみなして,これを開示することまでをも行政機関の長に義務付けていると解することはできないというべきである。そして,上記にいう「独立した一体的な情報」をどの範囲でとらえるかについては,当該情報が記録された記載部分の物理的形状,その内容,作成名義,作成目的,当該文書の取得原因等を総合考慮の上,不開示事由に関する同法5条各号の規定の趣旨に照らし,社会通念に従って判断すべきである。また,独立した一体的な情報が記録されたある文書に手書きによる記入がされている場合における当該手書き部分に含まれる情報が当該文書にもともと含まれていた情報と相互に独立した別の情報として並存するとみるべきか,それともその全体が独立した一体的な情報になったものとみるべきかについても,当該手書き部分の態様,内容,当該メモ書きがされた目的,経緯等に照らし,社会通念に従って判断すべきである。
これを別添2及び別添8の各文書についてみるのに,前記1で認定したとおり,本件報告書の添付文書である上記各文書は,本体部分2項の「(1)本社」又は「(2)b支店」の各「検査方法」の部分に係る添付文書であって,被告職員(国土交通省職員)がa社から提供を受けた同社が通常の業務過程で作成した職員名簿(同社の職員の氏名,年齢等が記載されている。)に被告職員が手書きで記号を記入したものであり,本件立入検査の目的及び当該手書き部分が記入された経緯等に照らすと,同部分は,被告職員が,本件立入検査において,同社の建築基準法に違反する違法な行為又は違法とまではいえないが不当な行為等に関与した疑いのある職員を特定するなど,同社の上記違法又は不当な行為を認定するための手掛かりとする目的で記入したものであると推認するのが相当である。そうであるとすれば,別添2及び別添8の同社の職員の氏名,年齢等が記録された部分と,被告職員が記入した手書き部分とは,いずれも本件立入検査に係る検査資料を構成する重要な要素として,その全体が検査に係る事務に関する独立した一体的な情報を成しているものと解すべきであって,別添2及び別添8の被告職員が手書きで記入した部分とそれ以外の部分(a社の職員の氏名,年齢等が記録された部分)とを区分して,その一部のみを不開示とし,その余の部分を開示しなければならないものとすることはできない。
なお,仮に別添2及び別添8の被告職員が手書きで記入した部分とそれ以外の部分とが別個の独立した情報を構成し,それらを区分して情報公開法6条1項に基づいて部分開示をすることができると解されるとしても,同各添付文書の被告職員が手書きで記入した部分を除いた部分(a社の職員の氏名,年齢等が記録された部分)それ自体が,(確認検査員と補助員の別が判明しないものである場合を含め,)同社が公にされないことについて正当な期待を有する組織編成及び職員構成等の経営戦略の一端を推知させるものであって,公にすることにより今後の立入検査業務が迅速,円滑に進行しなくなる相当の蓋然性が認められ,情報公開法5条6号イの不開示情報に該当するものというべきである。
以上のとおりであるから,原告の上記主張は,採用することができない。
(ウ) 以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,本件不開示部分のうち「別添2」(別紙不開示部分目録記載9)及び「別添8」(同記載15)の各部分に記録された各情報は,いずれも情報公開法5条6号イの不開示情報に該当するというべきである。
キ 「別添3」(別紙不開示部分目録記載10)及び「別添9」(同記載16)について
(ア) 被告は,本件報告書の添付文書である別添3及び別添9は,a社の職員の氏名や特定の顧客を識別することが可能な記録とともに,本件立入検査における着眼点が示されているところ,これらを開示すると,今後被告の行う検査に対する情報提供が円滑にされなくなるおそれがあり,また,被告の行う検査の対象資料の着目点が明らかになって指摘を逃れるための具体的な予防手段を講じられ,正確な事実の把握を困難にし,被告の検査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められるから,上記情報は情報公開法5条6号イの不開示情報に該当する,などと主張する。
そこで,この主張の採否について検討するに,前記1で認定した事実によれば,別添3は,本体部分2項の「(1)本社」の「検査方法」の部分に係る添付文書であり,被告職員(国土交通省職員)がa社から提供を受けた顧客リストに類する内容の文書(同社の一部の職員の氏名,同社により確認検査業務が行われた物件の名称,所在地といった同社の特定の顧客(個人及び法人のいずれも含む。)を識別することが可能な記載等がされている。)に,被告職員が手書きで文字や記号を記入したものであると認められ,本件立入検査の目的及び上記各文書を取得した経緯等をも併せ考えると,上記各文書に記載された同社の一部の職員の氏名は,当該物件の確認検査業務に関与した職員に係るものであると推認される。また,別添9は,本体部分2項の「(2)b支店」の「検査方法」の部分に係る添付文書であり,その内容は,上記別添3の内容とほぼ同様であると認められる。
しかるところ,別添3及び別添9は,それぞれ,本件報告書の添付文書として,同報告書の本体部分2項の検査方法の部分に記録された内容を補完する機能を有していると認められることに照らすと,上記各文書に記録された各情報は,被告(国土交通省)が行う指定確認検査機関に対する監督権限の行使の一環としての立入検査の方法に関する情報であり,国の機関が行う検査に係る事務に関する情報であるというべきである。
そして,上記各文書に顧客リストに類する態様で記録されたa社により確認検査業務が行われた物件の名称,所在地及び当該確認検査業務に関与した同社職員の氏名からは,同社の顧客の内容,範囲,確認検査業務の対象物件の内容等のみならず同社の確認検査業務の遂行状況ないし遂行態様が明らかとなって,ひいては同社の営業戦略ないし営業上のノウハウの一端を推知することが可能となるということができるから,上記の各情報は,いずれも,公にすることにより,当該法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものとして,情報公開法5条2号イに該当するというべきであり,他方で,当該情報の内容からすれば,上記各文書に顧客リストに類する形で記録された各物件に係る確認検査業務がすべて建築基準法に違反したものであるとは認め難いから,当該情報が同号ただし書にいう「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」に該当するとは考え難い。以上によれば,a社は,本件立入検査において別添3及び別添9の文書を被告に提供するに当たり,これに記録された上記各情報を公にされないことについて正当な期待を有するというべきところ,これらの情報が公にされると,a社と被告(国土交通省)との間の信頼関係が阻害され,ひいては,今後の被告職員(国土交通省職員)による同社を含めた指定確認検査機関に対する立入検査等の検査事務の遂行において,それらの指定確認検査機関から協力を得難くなるなど,検査に係る事務が迅速,円滑に進行しなくなる相当の蓋然性が認められる。
したがって,本件報告書の添付文書である別添3及び別添9にそれぞれ記録された各情報は,いずれも情報公開法5条6号イの不開示情報(国の機関が行う事務に関する情報であって,公にすることにより,検査に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあるもの)に該当するというべきである。
(イ) 原告は,本件報告書の添付文書である別添3及び別添9に記録された被告職員が手書きで記入した部分を除いた部分は,情報公開法6条1項に基づいて部分的にでも開示されるべきである旨主張する。
前記カ(イ)のとおり,情報公開法6条は,同条2項に規定する場合を除き,不開示情報に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し,その一部を不開示とし,その余の部分にはもはや不開示事由に該当する情報は記録されていないものとみなして,これを公開することまでをも行政機関の長に義務付けていると解することはできないというべきである。そして,上記にいう「独立した一体的な情報」をどの範囲でとらえるかについては,当該情報が記録された記載部分の物理的形状,その内容,作成名義,作成目的,当該文書の取得原因等を総合考慮の上,不開示事由に関する同法5条各号の規定の趣旨に照らし,社会通念に従って判断すべきである。また,独立した一体的な情報が記録されたある文書に手書きによる記入がされている場合における当該手書き部分に含まれる情報が当該文書にもともと含まれていた情報と相互に独立した別の情報として並存するとみるべきか,それともその全体が独立した一体的な情報になったものとみるべきかについても,当該手書き部分の態様,内容,当該メモ書きがされた目的,経緯等に照らし,社会通念に従って判断すべきである。
これを別添3及び別添9の各文書についてみるのに,前記1で認定したとおり,本件報告書の添付文書である上記各文書は,本体部分2項の「(1)本社」又は「(2)b支店」の各「検査方法」の部分に係る添付文書であって,被告職員(国土交通省職員)がa社から提供を受けた同社が通常の業務過程で作成した顧客リストに類する内容の文書(同社の一部の職員の氏名,同社により確認検査業務が行われた物件の名称,所在地といった同社の特定の顧客を識別することが可能な記載等がされている。)に被告職員が手書きで文字や記号を記入したものであり,本件立入検査の目的,上記各文書を取得しその手書き部分を記入した経緯等に照らすと,同部分は,被告職員が,本件立入検査において,同社の建築基準法に違反する違法な行為又は違法とまではいえないが不当な行為等を発見するための手掛かりとして,違法又は不当な行為がされた疑いのある物件及びそれらの行為に関与した疑いのある職員を特定するために記入したものであると推認するのが相当である。そうであるとすれば,別添3及び別添9のうち被告職員が記入した手書き部分を除いたその余の部分と当該手書き部分とは,いずれも本件立入検査に係る検査資料を構成する重要な要素として,その全体が検査に係る事務に関する独立した一体的な情報を成しているものと解すべきであって,別添3及び別添9の被告職員が手書きで記入した部分とそれ以外の部分(同社の一部の職員の氏名,同社により確認検査業務が行われた物件の名称,所在地といった同社の特定の顧客を識別することが可能な記載等)とを区分して,その一部のみを不開示とし,その余の部分を開示しなければならないものとすることはできない。
なお,仮に別添3及び別添9の被告職員が手書きで記入した部分とそれ以外の部分とが別個の独立した情報を構成し,それらを区分して情報公開法6条1項に基づいて部分開示をすることができると解されるとしても,同各添付文書の被告職員が手書きで記入した部分を除いた部分(同社の一部の職員の氏名,同社により確認検査業務が行われた物件の名称,所在地といった同社の特定の顧客を識別することが可能な記載等)それ自体が,同社が公にされないことについて正当な期待を有する同社の営業戦略ないし営業上のノウハウを推知させるものであって,公にすることにより今後の立入検査業務が迅速,円滑に進行しなくなる相当の蓋然性が認められ,情報公開法5条6号イの不開示情報に該当するものであることは,前記(ア)のとおりである。
以上のとおりであるから,原告の上記主張は,採用することができない。
(ウ) 以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,本件不開示部分のうち「別添3」(別紙不開示部分目録記載10)及び「別添9」(同記載16)の各部分に記録された各情報は,いずれも情報公開法5条6号イの不開示情報に該当するというべきである。
ク 「別添10」(別紙不開示部分目録記載17)について
(ア) 被告は,本件報告書の添付文書である別添10は,a社の確認検査業務の遂行に関する記載とともに個人及び法人等に関する記載を含む文書であるところ,これらを開示すると,今後被告の行う検査に対する情報提供が円滑にされなくなるおそれがあり,また,被告の行う検査の対象資料の着目点が明らかになって指摘を逃れるための具体的な予防手段を講じられ,正確な事実の把握を困難にし,被告の検査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められるから,上記情報は情報公開法5条6号イの不開示情報に該当する,などと主張する。
そこで,この主張の採否について検討するに,前記1で認定した事実によれば,別添10は,本件報告書の本体部分2項の「(2)b支店」の「検査方法」の部分に係る添付文書であり,a社が通常の業務過程で作成した同社の個々の職員の勤務実態の一部について日単位で詳細に記載した文書(同社の一部の職員の氏名を識別することが可能な記載がされている。)で,被告職員(国土交通省職員)が同社から提供を受けたものであると認められる。そして,同文書が同社の通常の業務過程で作成されたものであることに照らすと,上記の勤務実態に係る勤務は,建築基準法に違反した確認検査業務に係るものに限られないと推認される。
しかるところ,別添10は,本件報告書の添付文書として,同報告書の本体部分2項の検査方法の部分に記録された内容を補完する機能を有していると認められることに照らすと,上記各文書に記録された各情報は,被告(国土交通省)が行う指定確認検査機関に対する監督権限の行使の一環としての立入検査の方法に関する情報であり,国の機関が行う検査に係る事務に関する情報であるというべきである。
そして,前記のa社の個々の職員について日単位で詳細に記録されたその勤務実態の一部に関する情報からは,同社の業務編成及び確認検査業務の具体的な遂行状況ないし遂行態様等が明らかとなって,ひいては同社の経営戦略ないし営業上のノウハウを推知することが可能となるということができるから,上記の各情報は,いずれも,公にすることにより,当該法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものとして,情報公開法5条2号イに該当するというべきであり,他方で,当該情報の内容からして,当該情報が同号ただし書にいう「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」に該当するとは考え難い。以上によれば,a社は,本件立入検査において別添10の文書を被告に提供するに当たり,これに記録された上記各情報を公にされないことについて正当な期待を有するというべきところ,これらの情報が公にされると,a社と被告(国土交通省)との間の信頼関係が阻害され,ひいては,今後の被告職員(国土交通省職員)による同社を含めた指定確認検査機関に対する立入検査等の検査事務の遂行において,それらの指定確認検査機関から協力を得難くなるなど,検査に係る事務が迅速,円滑に進行しなくなる相当の蓋然性が認められる。
したがって,本件報告書の添付文書である別添10に記録された情報は,情報公開法5条6号イの不開示情報(国の機関が行う事務に関する情報であって,公にすることにより,検査に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあるもの)に該当するというべきである。
(イ) 原告は,本件報告書の添付文書である別添10に記録された被告職員の氏名及び職種の記載を除いた部分は,情報公開法6条1項に基づいて部分的にでも開示されるべきである旨主張する。
前記カ(イ)のとおり,情報公開法6条は,同条2項に規定する場合を除き,不開示情報に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し,その一部を不開示とし,その余の部分にはもはや不開示事由に該当する情報は記録されていないものとみなして,これを公開することまでをも行政機関の長に義務付けていると解することはできないというべきである。そして,上記にいう「独立した一体的な情報」をどの範囲でとらえるかについては,当該情報が記録された記載部分の物理的形状,その内容,作成名義,作成目的,当該文書の取得原因等を総合考慮の上,不開示事由に関する同法5条各号の規定の趣旨に照らし,社会通念に従って判断すべきである。
これを別添10の文書についてみるのに,前記1で認定したとおり,本件報告書の添付文書である上記文書は,本体部分2項の「(2)b支店」の「検査方法」の部分に係る添付文書であって,a社が通常の業務過程で作成した同社の個々の職員の勤務実態の一部について日単位で詳細に記載した文書(同社の一部の職員の氏名を識別することが可能な記載がされている。)で,被告職員(国土交通省職員)が同社から提供を受けて検査資料としたものであることからすると,別添10の同社の個々の職員の氏名等が記載された部分と,それ以外の部分とは,いずれも本件立入検査に係る検査資料を構成する重要な要素として,その全体が検査に係る事務に関する独立した一体的な情報を成しているものと解すべきであって,別添10のa社の職員の氏名及び職種が記録された部分とそれ以外の部分とを区分して,その一部のみを不開示とし,その余の部分を開示しなければならないものとすることはできない。なお,上記のような別添10の記録内容からすれば,当該文書に記録されたa社の個々の職員の日単位の勤務実態がその範囲でそれぞれ独立した一体的な情報として情報公開法5条1号にいう個人に関する情報に該当するから,同社の職員の氏名等が同号に該当することを前提とする原告の主張は,そもそもその前提において失当というべきである。
よって,原告の上記主張は,採用することができない。
(ウ) 以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,本件不開示部分のうち「別添10」(別紙不開示部分目録記載17)の部分に記録された各情報は,情報公開法5条6号イの不開示情報に該当するというべきである。
ケ 「別添4」(別紙不開示部分目録記載11)及び「別添11」(同記載18)について
(ア) 被告は,本件報告書の添付文書である別添4及び別添11は,a社の職員の氏名や特定の顧客を識別することが可能な記録とともに,検査方法及び検査結果が推知される内容が含まれている文書であるところ,これらを開示すると,今後被告の行う検査に対する情報提供が円滑にされなくなるおそれがあり,また,被告の行う検査の対象資料の着目点が明らかになって指摘を逃れるための具体的な予防手段を講じられ,正確な事実の把握を困難にし,被告の検査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められるから,上記情報は情報公開法5条6号イの不開示情報に該当する,などと主張する。
そこで,この主張の採否について検討するに,前記1で認定した事実によれば,別添4は,本体部分2項の「(1)本社」の「検査結果」の部分に係る添付文書であり,被告職員(国土交通省職員)がa社から提供を受けた顧客リストに類する内容の文書を基にして被告職員が作成した文書(同社の職員の氏名や特定の顧客(個人及び法人のいずれも含む。)を識別することが可能な記載がされている。)であると認められる。また,別添11は,本体部分2項の「(2)b支店」の「検査結果」の部分に係る添付文書であり,被告職員が同社から提供を受けた顧客リストに類する内容の文書(同社の職員の氏名や特定の顧客(個人及び法人のいずれも含む。)を識別することが可能な記載がされている。)に,被告職員が手書きで文字や記号を記入したものであると認められる。
しかるところ,別添4及び別添11は,それぞれ,本件報告書の添付文書として,同報告書の本体部分2項の検査結果の部分に記録された内容を補完する機能を有していると認められることに照らすと,上記各文書に記録された各情報は,被告(国土交通省)が行う指定確認検査機関に対する監督権限の行使の一環としての立入検査の結果に関する情報であり,国の機関が行う検査に係る事務に関する情報であるというべきである。
しかるところ,弁論の全趣旨によれば,別添4及び別添11は,いずれも,a社において補助員のみが完了検査を実施した可能性の高い物件を特定する上で必要となった文書であり,しかも,上記各文書は,同社の顧客リストに類する内容の文書に基づいて被告職員により作成された文書であって,同社の職員の氏名や特定の顧客を識別することが可能な記載がされていると認められることにかんがみると,上記各文書が公にされると,本件立入検査においてどのような資料に基づいてどのような方法で建築基準法違反の事実を把握したのかが明らかになり,ひいては被告職員(国土交通省職員)の指定確認検査機関に対する立入検査を実施するに当たってのノウハウの一端が推知されることになるものと認められる。そして,上記のような被告職員の立入検査の方法ないし着眼点といったノウハウが明らかになれば,今後,指定確認検査機関において,建築基準法等に違反する違法な行為又は違法とまではいえないが不当な行為を発見する手掛かりとして被告職員が着目すると推測される資料を隠ぺい,改ざんするなどして,上記の違法又は不当な行為が被告職員に明らかにならないような措置を施し,又はそのような状況を作出する余裕を与えることになるものと認められる。他方,上記のような上記各文書の記録内容からすれば,上記各文書に顧客リストに類する形で記載された各物件に係る確認検査業務がすべて建築基準法に違反したものであるとは認め難いから,人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,当該各文書に記載された情報を公にすることが必要であるとは考え難い。
そうであるとすれば,本件報告書の添付文書である別添4及び別添11にそれぞれ記録された各情報は,いずれも情報公開法5条6号イの不開示情報(国の機関が行う事務に関する情報であって,公にすることにより,検査に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあるもの)に該当するというべきである。
(イ) 原告は,本件報告書の添付文書である別添4及び別添11に記録された被告職員が手書きで記入した部分を除いた部分は,情報公開法6条1項に基づいて部分的にでも開示されるべきである旨主張する。
前記カ(イ)のとおり,情報公開法6条は,同条2項に規定する場合を除き,不開示情報に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し,その一部を不開示とし,その余の部分にはもはや不開示事由に該当する情報は記録されていないものとみなして,これを公開することまでをも行政機関の長に義務付けていると解することはできないというべきである。そして,上記にいう「独立した一体的な情報」をどの範囲でとらえるかについては,当該情報が記録された記載部分の物理的形状,その内容,作成名義,作成目的,当該文書の取得原因等を総合考慮の上,不開示事由に関する同法5条各号の規定の趣旨に照らし,社会通念に従って判断すべきである。また,独立した一体的な情報の記録されたある文書に手書きによる記入がされている場合における当該手書き部分に含まれる情報が当該文書にもともと含まれていた情報と相互に独立した別の情報として並存するとみるべきか,それともその全体が独立した一体的な情報になったものとみるべきかについても,当該手書き部分の態様,内容,当該メモ書きがされた目的,経緯等に照らし,社会通念に従って判断すべきである。
ところで,本件報告書の添付文書である別添11に被告職員が手書きで文字や記号を記入した記載があることは認められ,また,別添4は,証拠上断定することができないものの,被告職員がa社から提供を受けた文書の記載の全部又は一部をそのまま利用する形でこれに加工して作成したものである可能性がある。しかしながら,そうであるとしても,原告の上記主張は採用することができないものというべきである。その理由は以下のとおりである。
前記1で認定したとおり,別添4及び別添11は,本体部分2項の「(1)本社」又は「(2)b支店」の各「検査結果」の部分に係る添付文書であって,被告職員(国土交通省職員)がa社から提供を受けた同社が通常の業務過程で作成した顧客リストに類する内容の文書(同社の職員や特定の顧客を識別することが可能な記載がされている。)に基づいて被告職員が作成し,又は被告職員が手書きで文字や記号を記入したものであり,本件立入検査の目的,上記各文書を取得しこれに加工ないし手書き部分を記入した経緯等に照らすと,当該加工部分ないし手書きによる記入部分は,被告職員が,本件立入検査により把握した事実に基づき,建築基準法に違反する違法な行為又は違法とまではいえないが不当な行為がされた疑いのある物件及びそれらの行為に関与した疑いのある職員を特定するために行ったものであると推認するのが相当である。そうであるとすれば,別添4及び別添11のうち被告職員が同社からその提供を受けた時点でもともと記載されていた部分と,被告職員により加工又は手書きによる記入がされた部分とは,いずれも本件立入検査の結果に係る資料を構成する重要な要素として,その全体が検査に係る事務に関する独立した一体的な情報を成しているものと解すべきであって,別添4及び別添11の被告職員が加工し又は手書きで記入した部分とそれ以外の部分とを区分して,その一部のみを不開示とし,その余の部分を開示しなければならないものとすることはできない。
以上のとおり,原告の上記主張は,採用することができない。
(ウ) 以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,本件不開示部分のうち「別添4」(別紙不開示部分目録記載11)及び「別添11」(同記載18)の各部分に記録された各情報は,いずれも情報公開法5条6号イの不開示情報に該当するというべきである。
コ 「別添5」(別紙不開示部分目録記載12)及び「別添13」(同記載20)について
被告は,本件報告書の添付文書である別添5及び別添13は,立入検査の結果そのものというべき内容とともに検査方法も推知することができる内容が記録されている文書であるところ,これらを開示すると,被告の職員の審査の手の内情報などが分かり,今後どのような対策を講じれば違法不当な行為の発見から逃れられるのかなどが分かることとなるおそれがあり,被告の行う検査活動を困難にし,その事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められるから,上記情報は情報公開法5条6号イの不開示情報に該当する,などと主張する。
そこで,この主張の採否について検討するに,前記1で認定した事実によれば,別添5は,本体部分2項の「(1)本社」の「検査結果」の部分に係る「確認書」と題する添付文書であり,被告職員(国土交通省職員)が本件立入検査及びa社との質疑応答の内容を記載し,同社がその内容を確認した旨を記載した文書であると認められる。また,別添13は,本体部分2項の「(2)b支店」の「検査結果」の部分に係る添付文書であり,その内容は,上記別添5の内容とほぼ同様であると認められる。
しかるところ,別添5及び別添13は,それぞれ,本件報告書の添付文書として,同報告書の本体部分2項の検査結果の部分に記録された内容を補完する機能を有していると認められることに照らすと,上記各文書に記録された各情報は,被告(国土交通省)が行う指定確認検査機関に対する監督権限の行使の一環としての立入検査の結果に関する情報であり,国の機関が行う検査に係る事務に関する情報であるというべきである。
しかるところ,前記認定のとおり,別添5及び別添13は,被告職員(国土交通省職員)が本件立入検査の内容及び被告職員とa社との間の質疑応答の内容を記載し,同社がその内容を確認した旨を記載した文書であるから,上記別添5及び別添13に記録された情報は,本件立入検査の検査方法及び検査結果そのものというべきである。そうすると,上記のような情報を公にすれば,立入検査の手順及び着眼点,関係者に対する質問内容等がそのまま明らかとなって,被告職員の指定確認検査機関に対する立入検査を実施するに当たってのノウハウの一端が推知されることになるということができる。そして,上記のような被告職員の立入検査の手順及び着眼点といったノウハウが明らかになれば,今後,指定確認検査機関において,建築基準法等に違反する違法な行為又は違法とまではいえないが不当な行為を発見する手掛かりとして被告職員が着目すると推測される資料を隠ぺい,改ざんするなどして,上記の違法又は不当な行為が被告職員に明らかにならないような措置を施し,又はそのような状況を作出する余裕を与えることになるものと認められる。
したがって,その余の点につき判断するまでもなく,本件不開示部分のうち「別添5」(別紙不開示部分目録記載12)及び「別添13」(同記載20)の各部分に記録された各情報は,いずれも情報公開法5条6号イの不開示情報(国の機関が行う事務に関する情報であって,公にすることにより,検査に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあるもの)に該当するというべきである。
サ 「別添6」(別紙不開示部分目録記載13)及び「別添12」(同記載19)について
(ア) 被告は,本件報告書の添付文書である別添6及び別添12は,a社の特定の顧客を識別することが可能な記載及び特定の個別具体的な業務内容の記載がされているとともに,本件立入検査における着眼点が示されている文書であるところ,これらを開示すると,今後被告の行う検査に対する情報提供が円滑にされなくなるおそれがあり,また,被告の行う検査の対象資料の着目点が明らかになって指摘を逃れるための具体的な予防手段を講じられ,正確な事実の把握を困難にし,被告の検査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認められるから,上記情報は情報公開法5条6号イの不開示情報に該当する,などと主張する。
そこで,この主張の採否について検討するに,前記1で認定した事実によれば,別添6は,本体部分2項の「(1)本社」の「検査結果」の部分に係る添付文書であり,被告職員(国土交通省職員)がa社から提供を受けた特定の業務における内部決裁文書(同社の特定の顧客(個人及び法人のいずれも含む。)を識別することが可能な記載とともに,同社の特定の業務内容が個別具体的に判明する記載がされている。)に,被告職員が手書きで文字や記号を記入するなどの加工を施したものである。また,別添12は,本体部分2項の「(2)b支店」の「検査結果」の部分に係る添付文書であり,その内容は,上記別添6の内容とほぼ同様であると認められる。
しかるところ,別添6及び別添12は,それぞれ,本件報告書の添付文書として,同報告書の本体部分2項の検査結果の部分に記録された内容を補完する機能を有していると認められることに照らすと,上記各文書に記録された各情報は,被告(国土交通省)が行う指定確認検査機関に対する監督権限の行使の一環としての立入検査の結果に関する情報であり,国の機関が行う検査に係る事務に関する情報であるというべきである。
そして,前記のa社の内部決裁文書は,株式会社である同社の特定の業務内容が個別具体的に記載されているのみならず同社における内部的意思形成の過程が記録されているのであって,弁論の全趣旨によれば,同社の複数の顧客に係る確認検査業務に対する複数の内部決裁から成っていると推認されるから,それらが公にされると,同社の個々の確認検査業務の具体的な遂行状況ないし遂行態様にとどまらず,同社の業務編成や意思形成体制等が明らかになって,ひいては同社の経営戦略ないし営業上のノウハウの一端を推知することが可能となるということができるから,上記の別添6及び別添12に記録された各情報は,いずれも,公にすることにより,当該法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものとして,情報公開法5条2号イに該当するというべきであり,他方で,当該情報の内容からして,当該情報が同号ただし書にいう「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」に該当するとは考え難い。以上によれば,a社は,本件立入検査において別添6及び別添12の各文書を被告に提供するに当たり,これに記録された上記各情報を公にされないことについて正当な期待を有するというべきところ,これらの情報が公にされると,a社と被告(国土交通省)との間の信頼関係が阻害され,ひいては,今後の被告職員(国土交通省職員)による同社を含めた指定確認検査機関に対する立入検査等の検査事務の遂行において,それらの指定確認検査機関から協力を得難くなるなど,検査に係る事務が迅速,円滑に進行しなくなる相当の蓋然性が認められる。
したがって,本件報告書の添付文書である別添6及び別添12にそれぞれ記録された各情報は,いずれも情報公開法5条6号イの不開示情報(国の機関が行う事務に関する情報であって,公にすることにより,検査に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあるもの)に該当するというべきである。
(イ) 原告は,本件報告書の添付文書である別添6及び別添12に記録された被告職員が手書きで記入した部分を除いた部分は,情報公開法6条1項に基づいて部分的にでも開示されるべきである旨主張する。
前記カ(イ)のとおり,情報公開法6条は,同条2項に規定する場合を除き,不開示情報に該当する独立した一体的な情報を更に細分化し,その一部を不開示とし,その余の部分にはもはや不開示事由に該当する情報は記録されていないものとみなして,これを公開することまでをも行政機関の長に義務付けていると解することはできないというべきである。そして,上記にいう「独立した一体的な情報」をどの範囲でとらえるかについては,当該情報が記録された記載部分の物理的形状,その内容,作成名義,作成目的,当該文書の取得原因等を総合考慮の上,不開示事由に関する同法5条各号の規定の趣旨に照らし,社会通念に従って判断すべきである。また,独立した一体的な情報の記録されたある文書に手書きによる記入がされている場合における当該手書き部分に含まれる情報が当該文書にもともと含まれていた情報と相互に独立した別の情報として並存するとみるべきか,それともその全体が独立した一体的な情報になったものとみるべきかについても,当該手書き部分の態様,内容,当該メモ書きがされた目的,経緯等に照らし,社会通念に従って判断すべきである。
これを本件についてみるのに,前記1で認定したとおり,本件報告書の添付文書である別添6及び別添12は,本体部分2項の「(1)本社」又は「(2)b支店」の各「検査結果」の部分に係る添付文書であって,被告職員(国土交通省職員)がa社から提供を受けた同社が通常の業務過程で作成した特定の業務における内部決裁文書(同社の特定の顧客を識別することが可能な記載とともに,同社の特定の業務内容が個別具体的に判明する記載がされている。)に被告職員が手書きで文字や記号を記入するなどの加工を施したものであり,本件立入検査の目的,上記各文書を取得しその手書き部分を記入した経緯等に照らすと,同部分は,被告職員が,本件立入検査により把握した事実に基づき,同社の建築基準法に違反する違法な行為又は違法とまではいえないが不当な行為等がされた疑いのある物件を特定するとともに当該行為等に係る同社内の意思形成の過程を明らかにする目的で記入したものであると推認するのが相当である。そうであるとすれば,別添6及び別添12のうち被告職員が記入した手書き部分を除いたその余の部分と,被告職員が記入した手書き部分とは,いずれも本件立入検査の結果に係る検査資料を構成する重要な要素として,その全体が検査に係る事務に関する独立した一体的な情報を成しているものと解すべきであって,別添6及び別添12の被告職員が手書きで記入した部分とそれ以外の部分とを区分して,その一部のみを不開示とし,その余の部分を開示しなければならないものとすることはできない。
なお,仮に別添6及び別添12の被告職員が手書きで記入した部分とそれ以外の部分とが別個の独立した情報を構成し,それらを区分して情報公開法6条1項に基づいて部分開示をすることができると解されるとしても,同各添付文書のうち被告職員が手書きで記入した部分を除いた部分それ自体が,同社が公にされないことについて正当な期待を有する同社の経営戦略ないし営業上のノウハウの一端を推知させるものであって,公にすることにより今後の立入検査業務が迅速,円滑に進行しなくなる相当の蓋然性が認められ,情報公開法5条6号イの不開示情報に該当するものであることは,前記(ア)のとおりである。
以上のとおりであるから,原告の上記主張は,採用することができない。
(ウ) 以上によれば,その余の点につき判断するまでもなく,本件不開示部分のうち「別添6」(別紙不開示部分目録記載13)及び「別添12」(同記載19)の各部分に記録された各情報は,いずれも情報公開法5条6号イの不開示情報に該当するというべきである。
シ 「別添7」(別紙不開示部分目録記載14)について
被告は,本件報告書の添付文書である別添7は,a社独自の確認検査業務の実施方法等の内部管理情報を含む文書であるところ,これを開示すると,同社との信頼関係を損ねて被告の行う検査に対する情報提供を困難にし,正確な事実の把握を困難にし,被告の検査事務の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあるから,上記情報は情報公開法5条6号イの不開示情報に該当する,などと主張する。
そこで,この主張の採否について検討するに,前記1で認定した事実によれば,別添7は,本体部分2項の「(1)本社」の「検査結果」の部分に係る添付文書であり,被告職員(国土交通省職員)がa社から提供を受けた内部通達文書に類する文書(同社の独自の確認検査業務の実施方法等の内容が具体的に記載されている。)であると認められる。そして,弁論の全趣旨によれば,上記確認検査業務の実施方法等のすべてが直ちに建築基準法に違反する内容のものであるとは認め難い。
しかるところ,別添7は,本件報告書の添付文書として,同報告書の本体部分2項の検査結果の部分に記録された内容を補完する機能を有していると認められることに照らすと,上記文書に記録された情報は,被告(国土交通省)が行う指定確認検査機関に対する監督権限の行使の一環としての立入検査の結果に関する情報であり,国の機関が行う検査に係る事務に関する情報であるというべきである。
そして,前記認定のとおり,別添7には同社の独自の確認検査業務の実施方法等の内容が内部通達文書に類する形で具体的に記載されているとうのであり,この同社の確認検査業務の実施方法に指定確認検査機関である同社の確認検査業務に関する種々のノウハウが含まれていることは容易に推認される。そうであるとすれば,別添7に記録された上記情報は,公にすることにより,当該法人等の権利,競争上の地位その他正当な利益を害するおそれがあるものとして,情報公開法5条2号イに該当するというべきであり,他方で,当該情報の内容からして,当該情報が同号ただし書にいう「人の生命,健康,生活又は財産を保護するため,公にすることが必要であると認められる情報」に該当するとは考え難い。以上によれば,本件立入検査において別添7の文書を被告に提供するに当たり,これに記録された上記情報を公にされないことについて正当な期待を有するというべきところ,これらの情報が公にされると,a社と被告(国土交通省)との間の信頼関係が阻害され,ひいては,今後の被告職員(国土交通省職員)による同社を含めた指定確認検査機関に対する立入検査等の検査事務の遂行において,それらの指定確認検査機関から協力を得難くなるなど,検査に係る事務が迅速,円滑に進行しなくなる相当の蓋然性が認められる。
したがって,その余の点につき判断するまでもなく,本件不開示部分のうち「別添7」(別紙不開示部分目録記載14)の部分に記録された情報は,情報公開法5条6号イの不開示情報(国の機関が行う事務に関する情報であって,公にすることにより,検査に係る事務に関し,正確な事実の把握を困難にするおそれ又は違法若しくは不当な行為を容易にし,若しくはその発見を困難にするおそれがあるもの)に該当するというべきである。
(5) 結論
以上のとおり,本件不開示部分(本件報告書の本体部分2項及び添付文書)のうち「検査方法(本社分)」(同記載3),「検査結果(本社分)」(同記載4),「検査方法(b支店分)」(同記載5),「検査結果(b支店分)」(同記載6)及び「別添1」ないし「別添13」(同記載8ないし20)の各部分に記録された情報は,いずれも同条6号イの不開示情報に該当するが,本件不開示部分(本件報告書の添付文書)のうち「参考として添付された資料」(同記載7)の部分に記録された情報は,同条6号イ,同号柱書の不開示情報のいずれにも該当しないというべきである。
4 結論
以上によれば,本件不開示部分(本件報告書の本体部分1項)のうち「検査を行った者の氏名」(別紙不開示部分目録記載1)及び「検査対象機関の対応者の氏名」(同記載2)の各部分に記録された情報は,いずれも情報公開法5条1号の不開示情報に該当し,また,本件不開示部分(本件報告書の本体部分2項及び添付文書)のうち「検査方法(本社分)」(同記載3),「検査結果(本社分)」(同記載4),「検査方法(b支店分)」(同記載5),「検査結果(b支店分)」(同記載6)及び「別添1」ないし「別添13」(同記載8ないし20)の各部分に記録された情報は,いずれも同条6号イの不開示情報に該当するから,その余の点につき判断するまでもなく,本件不開示決定のうち上記各部分に係る部分はいずれも適法というべきである。しかしながら,本件不開示部分(本件報告書の添付文書)のうち「参考として添付された資料」(同記載7)の部分に記録された情報は,同条6号イ,同号柱書の不開示情報のいずれにも該当せず,また,同部分に記録された情報が同条1号ないし 5号,6号ロないしホの不開示情報のいずれかに該当することを認めるに足りる的確な証拠もないから,本件不開示決定のうち上記部分に係る部分は違法であり,取消しを免れないというべきである。
第6結論
したがって,原告の請求は,本件不開示決定のうち別紙不開示部分目録記載7の部分を不開示とした部分の取消しを求める限度で理由があるから,これを認容すべきであるが,その余は理由がないから,これを棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西川知一郎 裁判官 岡田幸人 裁判官 和久一彦)
別紙不開示部分目録
「建築基準法に基づく指定確認検査機関・立入検査報告書」のうち
1 検査を行った者の氏名
2 検査対象機関の対応者の氏名
3 検査方法(本社分)
4 検査結果(本社分)
5 検査方法(b支店分)
6 検査結果(b支店分)
7 参考として添付された資料
8 別添1
9 別添2
10 別添3
11 別添4
12 別添5
13 別添6
14 別添7
15 別添8
16 別添9
17 別添10
18 別添11
19 別添12
20 別添13