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大阪地方裁判所 平成16年(モ)7117号 決定 2004年10月05日

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申立人(基本事件原告)

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同訴訟代理人弁護士

島尾恵理

東京都品川区東品川二丁目3番14号

相手方(基本事件被告)

CFJ株式会社

同代表者代表取締役

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主文

相手方が所持する,訴外ディックファイナンス株式会社から承継した,その業務に関する商業帳簿(貸金業の規制等に関する法律19条に定める帳簿)またはこれに代わる同法施行規則16条所定の事項を記載した書面またはこれらの書面により作成された申立人・訴外ディックファイナンス株式会社間の取引経過を記載した書面のうち,昭和60年6月27日から昭和63年5月27日までの金銭消費貸借取引に関する事項(貸付年月日,入金額,貸付期間,貸付利率,貸付金額,元金への充当額,繰越利率,各弁済後の残存債務の額)が記載された部分全部の文書を提出せよ。

理由

第1申立の趣旨及び理由等

1  申立の趣旨

主文と同じ。

2  申立の理由

申立の各文書は,申立人と相手方が承継した訴外ディックファイナンス株式会社との間の金銭消費貸借契約という法律関係について作成された文書であるから,相手方には,民事訴訟法220条3号に基づいて上記文書を提出する義務がある。

3  相手方の意見

申立人が求める上記文書は,相手方の貸金業の規制等に関する法律(以下「貸金業法」という。)19条の規定する帳簿に該当する文書であるとしても,上記文書は,相手方の貸金業法上の義務の遂行及び貸付残高の確認という専ら自己の事務手続のために作成したものに過ぎず,相手方の事実関係把握のために作成される文書であるから,民事訴訟法220条3号前段の挙証者のために作成された利益文書や同号後段の法律関係文書には該当しない。

また,既に提出済みである甲1号証の1・2における取引履歴が相手方において所持し得る全ての取引履歴であり,昭和63年5月27日以前の取引履歴は所持していない。

以上から,本件申立は理由がない。

第3当裁判所の判断

1  申立人が提出を求める各文書は,申立人と相手方との間の金銭消費貸借契約という法律関係について作成された文書であると認められ,民事訴訟法220条3号の法律関係文書に該当し,相手方は,上記文書を提出する義務があると認められる。

2  この点,相手方は,上記文書が貸金業法19条の規定する帳簿に該当する文書であるとしても,相手方の貸金業法上の義務の遂行及び貸付残高の確認という専ら自己の事務手続のために作成したものに過ぎず,相手方の事実関係把握のために作成される文書であるから,民事訴訟法220条3号の法律関係文書には該当しない旨主張する。

しかしながら,貸金業法19条の趣旨は,継続的に業務の内容を記録,保存して貸金業の業務の運営の適正化を図り,貸付に関する紛争を将来にわたって未然に防止し,利用者の保護を図ることにあり,備付場所,方法,保存期間,罰則等を定めていることからも,貸金業者の事務手続の便宜のためのみの目的で帳簿類の作成保存が義務付けられているものではなく,貸金業者と顧客との金銭消費貸借取引に関して作成されていることが認められるので,相手方主張の理由で民事訴訟法220条3号の法律関係文書に該当しないとすることはできない。

3  また,相手方は,既に提出済みである甲1号証の1・2における取引履歴が相手方において所持し得る全ての取引履歴であり,昭和63年5月27日以前の取引履歴は所持していない旨主張する。

確かに,相手方は,16年間分の取引履歴を提出しており(甲1の1・2),それ以前の取引履歴が存在しない可能性も否定できない。

しかしながら,①上記取引履歴(甲1の1・2)は,昭和63年5月27日の欄から,貸付金額が記載されているのではなく,残元金36万8236円という記載のみなされており,それ以前の貸付による取引の存在が推認されること,②上記取引履歴からも,申立人と相手方の取引は,その多くが2か月毎に貸付が繰り返され,毎月2万円以上の弁済が継続してなされていることが認められ,昭和63年5月27日時点で残元金36万8236円が存在することから,昭和60年ころから取引が開始されていたとしても不合理とはいえないこと,③申立人が主張している取引開始時点は,上記取引履歴から3年前を主張しており,殊更に取引開始時点を遡らせて虚偽の事実を主張しているとも考え難いことが認められ,申立人主張の昭和60年6月27日から昭和63年5月27日の間に取引が存在している蓋然性が高いと認めることができる。

また,取引履歴は,貸金業者である相手方にとっては,顧客データを管理する上で必要なもので,過払金請求額の計算ないし残高請求等の将来の紛争において相手方に有利となる可能性もある資料で,電子情報で管理すれば,承継及び管理も容易であるから,取引が存在する分は,訴外ディックファイナンス株式会社が保存し,相手方に承継され,管理されている蓋然性も高いと認められる。

以上から,相手方が申立人主張の期間における取引履歴を所持している蓋然性が認められるところ,相手方は,所持していない旨主張するのみで,上記主張を裏付ける合理的な理由を主張したり,それを裏付ける資料も提出していないことから,申立人主張の取引履歴を所持していることが推認されると認めるのが相当であり,所持していない旨の相手方の主張は採用できない。

4  以上の次第であるから,申立人の申立は,理由があるから,主文のとおり決定する。

(裁判官 中嶋功)

抗告審

決定

東京都品川区東品川2丁目3番14号

抗告人 CFJ株式会社

同代表者代表取締役 ●●●

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相手方 ●●●

同代理人弁護士 島尾恵理

主文

1 本件抗告を棄却する。

2 抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

1 本件抗告の趣旨及び理由

別紙抗告状のとおりである。

2 事案の概要

本件は,相手方を原告,抗告人を被告とする大阪地方裁判所平成16年(ワ)第10203号不当利得金返還請求事件(基本事件)において,相手方が民事訴訟法220条3号後段に基づき,抗告人が所持する,訴外ディックファイナンス株式会社から承継した,その業務に関する商業帳簿(貸金業の規制等に関する法律19条に定める帳簿)またはこれに代わる同法施行規則16条所定の事項を記載した書面またはこれらの書面により作成された相手方,訴外ディックファイナンス株式会社間の取引経過を記載した書面のうち,昭和60年6月27日から昭和63年5月27日までの金銭消費貸借取引に関する事項(貸付年月日,入金額,貸付期間,貸付利率,貸付金額,元金への充当額,繰越利率,各弁済後の残存債務の額)が記載された部分全部の文書の提出を求めた事案である。

原決定は,上記申立てを認容し,抗告人に対してその提出を命じたことから,抗告人が即時抗告した。

3 当裁判所の判断

当裁判所は,原決定は相当であると判断する。その理由は,後記のとおり付加するほか,原決定説示のとおりであるから,これを引用する。

抗告人は,昭和63年5月27日以前の取引履歴を所持していない旨主張するが,前記引用の原決定説示のとおり,本件では,昭和60年6月27日から昭和63年5月27日の間の取引が存在し,抗告人が上記期間の取引履歴を所持している蓋然性が高いと認められるから,抗告人の上記主張は,採用することができない。

よって,原決定は相当であり,本件抗告は理由がないから棄却することとし,主文のとおり決定する。

平成16年11月17日

大阪高等裁判所第12民事部

裁判長裁判官 若林諒

裁判官 三木昌之

裁判官 島村雅之

抗告状

東京都品川区東品川二丁目3番14号

抗告人(相手方被告) CFJ株式会社

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相手方(申立人原告) ●●●

同訴訟代理人 島尾恵理

上記当事者間の大阪地方裁判所平成16年(ワ)第10203号不当利得返還請求事件において、相手方からなされた文書提出命令申立につき、平成16年(モ)第7117号の決定がなされたが、抗告人はこれに対して不服であるから即時抗告をする。

平成16年10月7日

抗告人 CFJ株式会社

代表者代表取締役 ●●●

大阪高等裁判所 民事部 御中

原決定の表示

主文

相手方が所持する、訴外ディックファイナンス株式会社から承継した、その業務に関する商業帳簿(貸金業の規制等に関する法律第19条に定める帳簿)またはこれに代わる同法施行規則16条所定の事項を記載した書面またはこれらの書面により作成された申立人・訴外ディックファイナンス株式会社間の取引経過を記載した書面のうち、昭和60年6月27日から昭和63年5月27までの金銭消費貸借取引に関する事項(貸付年月日、入金額、貸付期間、貸付利率、貸付金額、元金への充当額、繰越利率、各弁最後の残債務の額)が記載された部分全部の文書を提出せよ。

抗告の趣旨

1 原決定を取り消す。

との決定を求める。

抗告の理由

1. 本件決定は、平成16年9月22日付文書提出命令申立(以下、本件申立という。)がなされ、平成16年10月6日付で決定が出された事案である。

2. 本件申立を受け、抗告人は平成16年9月30日付文書提出命令申立書(以下、意見書という)を提出し意見を述べた。

3. 意見書第3.に記載の通り抗告人は昭和63年5月27日以前の履歴に関して所持していない。また相手方(原審原告・原決定申立人)は抗告人が原決定主文記載の文書を所持していることについて何らの疎明も立証も行っていないし、抗告人は現実に所持していない。

4. 本決定は所持していない文書への命令であり、これにより相手方の主張が民事訴訟法224条により真実擬制されてしまうことは到底承服できない。

以上の理由により本決定に全部不服のため、抗告の趣旨記載の決定を求める。

以上

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