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大阪地方裁判所 平成16年(ワ)2329号 判決 2006年4月26日

原告

X1(以下「原告X1」という)

原告

ジェイアール東海労働組合(以下「原告組合」という)

同代表者中央執行委員長

B

原告ら訴訟代理人弁護士

舩冨光治

定岡由紀子

村川昌弘

位田浩

被告

株式会社関西新幹線サービック(以下「被告サービック」という)

同代表者代表取締役

C

同訴訟代理人弁護士

竹林節治

畑守人

中川克己

福島正

竹林竜太郎

木村一成

山田長正

被告

東海旅客鉄道株式会社(以下「被告JR東海」という)

同代表者代表取締役

D

同訴訟代理人弁護士

中町誠

中山慈夫

男澤才樹

中井智子

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求の趣旨

1  原告X1が、被告サービックに対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2  被告サービックは、原告X1に対し、次の金員を支払え。

(1)  平成一六年四月から平成一八年三月まで毎月一〇日限り二三万〇四五四円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年六分の割合による金員

(2)  平成一六年四月から平成一八年三月まで毎年一二月一〇日限り一〇四万二七二五円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年六分の割合による金員

3  被告らは、原告X1に対し、各自一一〇万円及びこれに対する平成一六年三月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  被告らは、原告組合に対し、各自一一〇万円及びこれに対する平成一六年三月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

1  前提事実(証拠を掲記した事実を除くほかは当事者間に争いがない)

(1)  当事者

ア 被告JR東海

被告JR東海は、昭和六二年四月一日、日本国有鉄道(以下「国鉄」という)が経営していた事業のうち東海道新幹線及び東海地方在来線等に係る事業を承継して設立された株式会社である。

被告JR東海には、東海道新幹線の旅客運送を行う新幹線鉄道事業本部の地方機関として、新幹線鉄道事業本部関西支社(以下「関西支社」という)があり、関西支社のもとには、新幹線車両の検査、修繕を行う車両所として、大阪第一車両所、大阪第二車両所、大阪第三車両所及び名古屋車両所がある。

イ 被告サービック

被告サービックは、被告JR東海との委託契約に基づいて駅舎、車両等の清掃、整備や車両の検査修繕業務等を行う株式会社である。

ウ 原告組合

原告組合は、平成三年八月一一日に結成された被告JR東海の従業員で組織する労働組合である。

原告組合新幹線関西地方本部(以下「関西地本」という)は、原告組合の地方組織であり、平成七年七月に関西支社の管内の従業員によって結成されたものである。

エ 原告X1

原告X1は、昭和四〇年に国鉄に入社し、昭和六二年四月に被告JR東海に採用された者である。被告JR東海では、大阪第一運転所検修三科(その後、大阪第三車両所に名称が変更された)に配属され、その後、被告サービックに出向するまで同所において勤務を続けた(書証略)。

原告X1は、原告組合の組合員である。

原告X1は、後記(2)記載の原告組合と被告JR東海との間の協定及び議事録確認に基づいて、平成一〇年一一月一日、被告サービックへ出向した。

オ 被告JR東海における労働組合

被告JR東海には、現在、原告組合の他、東海旅客鉄道労働組合(以下「JR東海ユニオン」という)、国鉄労働組合東海本部(以下「国労」という)等の労働組合がある。

関西支社の管内には、関西地本の他、JR東海ユニオン及び国労の各地方組織が存在する。

カ 原告X1の労働組合における経歴

原告X1は、国鉄時代には国鉄動力車労働組合(動労)に所属し、被告JR東海の設立後は東海旅客鉄道労働組合(JR東海労組)に所属していた(書証略)。

しかし、原告X1は、原告組合が結成された際に原告組合に加入し、平成三年九月から平成七年九月ころまで原告組合大阪第三車両所分会の分会長、同月から平成一二年九月まで同分会の副分会長であった(書証略)。

(2)  定年退職後の雇用に関する協定等

ア 「六〇才定年に関する協定」(平成三年八月三〇日)

被告JR東海における六〇歳定年制の実施に伴って、原告組合と被告JR東海は、平成三年八月三〇日、五五歳以上の者の在職条件等について定めた「六〇才定年に関する協定」(書証(略)。以下「本件協定」という)を締結した。

本件協定には、「五四才に達した日以降の人事運用については、原則として出向するものとする。この場合、賃金は会社基準により支給する」との規定が存在する(書証略)。

イ 議事録確認(平成三年八月三〇日)

原告組合と被告JR東海は、六〇歳定年に関する交渉過程において、平成三年八月三〇日、議事録確認(書証(略)。以下「本件議事録確認1」という)を行った。本件議事録確認1には、被告JR東海の回答として、次のとおり記載されている。

「出向中に定年に達した場合は、出向を終了させ退職となる。また、その後の雇用については、出向先会社の取扱いであるが、事情の許すかぎり、六三才位まで引き続き雇用できるよう会社として努力したい」

ウ 議事録確認の改訂(平成一三年一月二三日)

原告組合と被告JR東海は、平成一三年一月二三日、本件議事録確認1の改訂(書証(略)。以下、この改訂による議事録確認を「本件議事録確認2」という)を行った。本件議事録確認2には、被告JR東海の回答として、次のとおり記載されている。

「出向中に定年に達した場合は、出向を終了させ退職となるが、その後の雇用については、あくまで出向先会社の取扱いではあるが、事情の許す限り六三才位まで引き続き雇用されるよう会社として努力したい」

「当社あるいは関連会社等においてもそれぞれの要員事情や経営事情を抱え、更に採用条件も異なっており、雇用を希望する者についても就労意欲や技能等が千差万別であることから、希望者全員が雇用されることを保障するものではないが、勤務実績等を勘案し会社として可能な限り努力していく」

(3)  被告サービックの原告X1に対する雇用拒否に至る経緯

ア 被告JR東海においては、従業員の定年は六〇歳とされ、定年退職日は定年に達する日の属する月の末日とされていたところ、原告X1は、平成一六年二月二九日に被告JR東海を定年退職する予定となっていた(書証(略)、弁論の全趣旨)。

イ 平成一四年一〇月一〇日ころ、被告JR東海の関西支社管理部人事課のE課長代理(以下「E」という)が、原告X1と面談し、被告JR東海を定年退職後の就労についての希望を確認したところ、原告X1は、自らの年金満額支給開始年齢である六二歳までの就労を希望する旨を述べた(書証略)。

ウ 平成一五年一月一五日ころ、原告X1と被告サービックの鳥飼事業所のF所長(以下「F」という)、G総務係長らが、原告X1の被告JR東海の定年退職後の雇用の件に関して、五分程度面談した(書証(略)、原告本人、弁論の全趣旨)。

エ 平成一六年一月二九日、被告サービックの鳥飼事業所のH所長らは、原告X1と面談し、被告サービックは総合的判断により原告X1を雇用しない旨を通告した(書証(略)。以下、被告サービックの原告X1に対する雇用拒否を「本件雇用拒否」という)。

(4)  被告サービックによる雇用拒否後の経緯

ア 平成一六年一月二九日、原告X1は、本件雇用拒否の件について原告組合に相談した。

これを受けて、同日、関西地本の幹事であったI(以下「I」という)は、被告JR東海の幹事であったJ課長代理(以下「J」という)に対して、口頭で、被告JR東海から被告サービックに対して、<1>本件雇用拒否を撤回させること、<2>本件雇用拒否の理由を明らかにさせることを、要請するように求めた。これに対して、Jは、雇用を決定するのは被告サービックであり、被告JR東海にはその権限がない旨述べた。

なお、この他、同年一月三〇日及び同年二月三日にも、IとJの間において、本件雇用拒否の件について話がされた。

(以上について、書証略)

イ 同年二月四日、原告組合は、関西支社に対し、「『六〇才定年制に関する協定の議事録確認』に関する緊急申し入れ」(書証略)を行い、本件雇用拒否について早急に労使協議の場を設定するように要請した(書証略)。

ウ 同年二月四日、原告X1は、関西支社に対し、本件雇用拒否について簡易苦情申告票(書証略)を提出したが、被告JR東海は、事案が簡易苦情申告になじまない旨述べて、簡易苦情処理会議の開催を拒否した(書証略)。

また、同月六日、原告X1は、関西支社に対し、本件雇用拒否について苦情申告票(書証略)を提出したが、被告JR東海は、同月一三日、原告組合に対し、苦情処理会議を開催しない旨を伝えた(書証略)。

エ 同年二月六日、原告X1及び原告組合は、被告サービックに対し、本件雇用拒否について、団体交渉の申入れを行った(書証略)。これに対して、同月一二日、被告サービックは、団体交渉を拒否する旨を伝えた(書証略)。

また、同日、原告組合は、大阪府地方労働委員会に対し、被告サービックとの団体交渉のあっせんを申請した(書証略)。これに対して、同月一七日ころ、被告サービックは、原告組合と本件雇用拒否について団体交渉を行う立場にないという理由を付して、このあっせん申請を辞退した(書証略)。

(なお、以上に記載の被告サービックによる団体交渉の拒否を、以下「本件団交拒否」という)

オ 同年二月二五日、Jは、前記イ記載の同月四日の原告組合の申入れに対して、同月二七日に業務委員会を開催する旨伝えた。

同月二七日、関西支社と関西地本との間で業務委員会が開催されたが、協議は決裂した。

(以上について、書証略)

2  原告らの請求の内容

(1)  原告X1の請求

ア 被告サービックに対し、雇用契約上の権利を有する地位にあることの確認(請求の趣旨一項)

イ 被告サービックに対し、平成一六年三月分から平成一八年二月分までの間の各月の賃金及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払(請求の趣旨二項(1))

ウ 被告サービックに対し、平成一六年三月分から平成一八年二月分までの間における毎年一二月の特別調整手当及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払(請求の趣旨二項(2))

エ 被告サービックに対し、不法行為(不当労働行為)に基づく損害賠償請求及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払(請求の趣旨三項)

オ 被告JR東海に対し、不法行為(不当労働行為)又は債務不履行(原告X1と被告サービックとの間の雇用関係成立についての努力義務の不履行)に基づく損害賠償請求及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払(請求の趣旨三項)

(2)  原告組合の請求

ア 被告サービックに対し、不法行為(不当労働行為)に基づく損害賠償請求及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払(請求の趣旨四項)

イ 被告JR東海に対し、不法行為(不当労働行為)又は債務不履行(原告X1と被告サービックとの間の雇用関係成立についての努力義務の不履行)に基づく損害賠償請求及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払(請求の趣旨四項)

3  争点

(1)  後記の原告らの主張(1)に記載のとおり、原告X1が被告サービックに対して雇用契約上の権利を有するに至ったか(請求の趣旨一項及び二項)。

(2)  後記の原告らの主張(2)に記載のとおり、本件雇用拒否又は本件団交拒否について、被告らに不当労働行為等に当たる事実があったか、また、そのことなどによって原告らに不法行為等に基づく損害賠償請求権が認められるか(請求の趣旨三項及び四項)。

4  原告らの主張

(1)  争点(1)(原告X1と被告サービックとの間の雇用契約の成否)

ア 労使慣行の存在

次に記載の事情によれば、被告サービックにおいては、被告JR東海からの出向者を定年後も引き続き再雇用するという労使慣行が、また、被告JR東海においては、被告サービックに働きかけて、出向者を定年後も引き続いて被告サービックにおいて再雇用させるという労使慣行があったというべきである。

なお、後記の被告サービックの主張(1)ア(イ)記載のように、労使慣行に法的拘束力が認められるためには規範意識の存在が必要であると解されたとしても、以下に記載の事情によれば、この労使慣行に法的拘束力が認められるというべきである。

(ア) 被告サービックにおける平成一三年度(平成一三年四月一日から平成一四年三月三一日までをいう。以下、各年度についても、同様である)ないし平成一五年度の間の被告JR東海からの出向者の雇用実績(原告X1を除く)は、希望者七二名のうち六七名であるが、不採用となった者のうち三名は雇用条件面で折り合わなかった者であり、一名(K。以下「K」という)は採用を希望しなかったのであるから、実質的には、希望者六八名のうち六七名が採用されたことになる。

このように、被告サービックが被告JR東海からの出向者を定年退職後に再雇用するという慣行的事実が存在していた。

(イ) 原告組合と被告JR東海は、交渉の結果、平成一三年から実施される年金満額支給開始年齢の引上げにより、定年退職後の従業員の雇用確保が必要であるという共通認識の下で、本件議事録確認2を行うに至ったという経緯がある。

(ウ) この労使慣行は、年金満額支給開始までの雇用保障という性質を有しており、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律」(平成一六年法律第一〇三号)の改正理由となっている社会的要請に基づくものであり、合理性が認められる。

また、この労使慣行は、被告サービックの慢性的な人員不足の解消という側面があり、この点でも合理性が認められる。

(エ) この労使慣行は、被告サービックや被告JR東海における労働協約や就業規則と何ら矛盾抵触するものではない。

(オ) この労使慣行は、前記(ア)記載のとおり、平成一三年度以降、反復継続され、十二分に定着してきている。

イ 黙示の合意

(ア) 前提事実(3)イに記載のとおり、平成一四年一〇月一〇日ころ、被告JR東海のEが、原告X1と面談し、被告JR東海を定年退職した後の就労について希望を確認したところ、原告X1は、自らの年金満額支給開始年齢である六二歳までの就労を希望する旨を述べた。

その際、Eは、原告X1に対し、再雇用されるときは、年休を六〇歳の退職前にまとめて取らないで、分散して取るように指示した。

(イ) また、前提事実(3)ウに記載のとおり、平成一五年一月一五日ころ、原告X1と被告サービックの鳥飼事業所の役職者が面談した際、原告X1が六二歳までの雇用を希望する旨伝えると、F及びG係長は、「二年ですね」と確認した。

前記ア記載のような労使慣行のもとで行われたこの面談は、原告X1を再雇用するという黙示の申込みであると解される。これに対して、原告X1は二年間の再雇用を希望する旨を伝えて承諾しているのであるから、同日の時点において、原告X1と被告サービックとの間で、再雇用の黙示の合意が成立した。

(ウ) さらには、原告X1は、前提事実(3)エ記載のとおり平成一六年一月二九日に被告サービック側と面談した際、再度、再雇用を希望する旨伝えたことは明白であるから、遅くともこの時点において、原告X1と被告サービックとの間で、再雇用の黙示の合意が成立した。

前記ア記載のような労使慣行があったことを前提とすると、被告サービックは、原告X1に対して、特段の欠格事由のない限り、再雇用する旨の黙示の申込みの意思表示をあらかじめ一般的に行っていたものと評価することができる。

ウ 被告サービックによる、理由のない雇用拒否

しかるに、被告サービックは、この労使慣行(前記ア)及び黙示の合意(前記イ)に違反し、原告X1の再雇用を拒否すべき具体的理由がないにもかかわらず、本件雇用拒否を行った。本件雇用拒否は、原告X1が原告組合に加入していることを理由としたものであり、違法・無効な措置である。

したがって、原告X1は、被告JR東海を退職した後(平成一六年三月一日以降)、被告サービックに対して従業員としての地位を有するものである。

エ 原告X1の被告サービックに対する賃金請求

被告JR東海からの出向者が被告サービックに再雇用された場合に適用される定年者継続雇用規程(書証略)によると、原告X1に対する月額賃金は二三万〇四五四円、毎年一二月に支給される特別調整手当は一〇四万二七二五円となる。

なお、被告サービックにおける賃金の支払方法は、毎月末日締めの、翌月一〇日払いであり、特別調整手当の支給日は一二月一〇日である。

(2)  争点(2)(本件雇用拒否又は本件団交拒否について、不当労働行為の存否及び不法行為等の成否)

ア 被告サービックについて

(ア) 使用者性

原告X1は、被告JR東海との間で雇用関係のある労働者であったが、<1>被告サービックにおいて約五年間勤務し、その間、被告サービックの指揮、監督を受けていたこと、<2>原告X1の再雇用が被告サービックとの間の労働関係の成否に関する事項であることからすれば、被告サービックは労働組合法七条の「使用者」に当たる。

同条の「使用者」とは、形式的な労働契約関係の一方当事者のみに止まらず、労働契約関係と隣接ないし近似する関係を基盤として成立する団体的労使関係上の一方当事者を意味する。したがって、被告サービックのように出向社員を受け入れている会社は、当該出向者に対して指揮・監督を行う支配力を有しており、労働契約関係と近似する関係が認められるので、同条の「使用者」の地位にあると言える。また、採用や再雇用のような労働契約関係の成否に関する問題は、労働契約関係に隣接する関係であると言えるから、この点からも、被告サービックは、同条の「使用者」の地位にあると言える。

(イ) 本件雇用拒否

a 被告サービックは、原告X1に対し、被告JR東海を定年退職する一か月前になって初めて、具体的な理由を告げることなく本件雇用拒否の通告をし、本件訴訟においてもその理由を積極的に明らかにしようとはしなかった。

本件雇用拒否は、原告X1が原告組合の組合員であることを理由として行われたものであり、労働組合法七条一号に該当する不当労働行為である。

b 後記被告サービックの主張(2)イ(イ)記載の注意指導の事実(別紙参照)については、後記(a)ないし(s)記載のとおりであり、これらの本件雇用拒否の理由は、いずれも、作為的に作り出されたものであるか、ささいなことを取り上げたものであって、従業員としての不適格性を裏付ける合理性を有しないものばかりである。また、このようなささいな事項をわざわざ事細かに確認し記録しようとしたこと自体、原告X1を標的として注意指導事項を作出しようとしたことの現れである。

(以下、別紙(略)記載の各注意指導については、例えば、別紙(略)記載1の注意指導については「本件注意指導1」等と記載する)

(a) 本件注意指導1の事実については、健康診断の結果を取りに行くのが遅れた事実はあったが、このような事実によって原告X1の不適格性が裏付けられるものではない。

(b) 本件注意指導3の事実については、休憩時間が一時間であるにもかかわらず、この日は四五分で作業指示があったため、原告X1は、担当係長に対して理由を尋ねたにすぎない。

(c) 本件注意指導5の事実については、年休の申込みが遅れたのは、マンションの管理組合の理事会の開催が急に決まったという、やむを得ない理由があったためであり、また、このような事実によって原告X1の不適格性が裏付けられるものではない。

(d) 本件注意指導8の事実については、このような事実は存在しない。この日、原告X1は、テーブル拭きの作業を担当していない。

(e) 本件注意指導9の事実については、このような事実は存在しない。この日の原告X1の作業の流れは、テーブル作業の次に床面清掃であり、相方の作業の流れは、シートのごみ払いの次に窓ガラス作業であった。したがって、原告X1が床面清掃を行っているときには、相方は窓ガラス作業を行っていた。仮に相方の作業が遅れてシートのごみ払いをしていたのであれば、シートのごみ払いの済んだ部分から床掃除をするのは当然のことである。

(f) 本件注意指導10の事実については、このような事実は存在しない。荷物棚清掃用モップの数に限りがあるため、先にモップを使い始めた車両の作業が終わるまで荷物棚清掃の作業に入れないため、現場では、先に座席袖板などの作業をすることになっていた。

(g) 本件注意指導14の事実については、このような注意指導がされたことは認めるが、このとき、原告X1は、勤務時間内に作業を終了させるために、側パネルの清掃については省略するようにと、現場の担当係長から指示されていた。

(h) 本件注意指導15の事実については、このような注意指導がされたことは認めるが、このときの原告X1の作業手順は、<1>テーブル作業、<2>床面清掃であり、この注意指導は作業手順を知らないで誤って行われたものである。

(i) 本件注意指導20の事実については、このような注意指導がされたことは認めるが、同日は非常に暑く、汗が落ちてきたため、ヘルメットを脱いでタオルで汗を拭いてヘルメットを被ったときに、注意を受けたので、「今から締めるところです」と返答して紐を締めたものである。

(j) 本件注意指導22の事実については、このような注意指導がされたことは認めるが、これは、朝の点呼が終わった後に作業場へ向かう広場でのことであり、安全面上の問題があったとは考えられない。

(k) 本件注意指導24の事実については、夜勤作業の負担が多い組があるように感じたので、その旨述べて理由を聞いたのみであり、「不必要だ」などと文句を言ったことはない。

(l) 本件注意指導25、27の事実については、このような事実は存在しない。原告X1は、過去に一度だけ雑誌を持ち帰ったことがあるものの、それ以外にはこのような雑誌の持ち帰りをしていない。

(m) 本件注意指導26の事実については、原告X1が「業務命令ですか」と尋ねたのは、この日、朝の全体点呼の際に改善提案の提出の呼びかけがされたにもかかわらず、原告X1に対してのみ合計三度も改善提案を出すように言ってきたため、不審に思って尋ねたものにすぎない。原告X1の改善提案の提出件数が少ないかは明らかでないし、改善提案は、提出件数を競い合うものではない。

(n) 本件注意指導28の事実については、この日、原告X1は、窓ガラス拭きを担当していなかった。

(o) 本件注意指導30の事実については、担当した車内がほとんど使用されておらず、きれいな状態であったため、乾モップで床面を丁寧に掃除することとしたのであり、このように、車内がきれいな状態であるときには、乾モップ作業を行うことが多い。

(p) 本件注意指導32の事実については、この日、原告X1は、テーブル拭きを担当していなかった。

(q) 本件注意指導33、34の事実については、ヘルメットのあご紐を締めていなかったのではなく、若干緩んでいたのみであり、この程度の事実によって原告X1の不適格性が裏付けられるものではない。

(r) 本件注意指導36の事実については、「ゼロ災で行こうよし」と言うべきところを、「ゼロ災でよし」と唱和しただけであり、この程度の事実によって原告X1の不適格性が裏付けられるものではない。

(s) 本件注意指導2、4、6、7、11、12、13、16、17、18、19、21、23、29、31、35の事実については、このような事実は存在しない。

(ウ) 本件団交拒否

被告サービックは、原告組合と団体交渉をする義務を負うにもかかわらず、正当な理由なくこれに応じなかったのであり(本件団交拒否)、労働組合法七条二号に該当する不当労働行為である。

なお、原告X1の再雇用の件は、いわゆる義務的団交事項に当たる。

イ 被告JR東海について

(ア) 本件雇用拒否

a 不法行為(不当労働行為)

(a) 原告組合は、前提事実(4)ア記載のとおり、被告JR東海に対して、被告サービックに、<1>本件雇用拒否を撤回させること及び、<2>本件雇用拒否の理由を明らかにさせることを要請するように求めたが、被告JR東海は、いずれも行わなかった。

(b) 被告サービックは、被告JR東海の子会社ないし関連会社であって、被告サービックの役員や従業員の多くが被告JR東海の元従業員や従業員(出向者)であること、前提事実(3)イ記載のとおり、被告JR東海において原告X1の定年退職後の就労についての希望を確認していることからすると、被告JR東海が原告X1の再雇用について事実上の影響力を行使し得るのは明らかである。このように、被告JR東海は、本件雇用拒否について被告サービックと意を通じていたと推認される。

(c) 被告JR東海は、本件議事録確認1及び本件議事録確認2において、原告組合との間で、定年退職後の出向社員が出向先会社に再雇用されるよう努力することを約し、それが労働協約の一部となっており、特に、被告JR東海と被告サービックについては、前記(1)ア記載のような労使慣行が成立している。そして、このような状況の下で行われた本件雇用拒否について、原告組合の要請にもかかわらず、被告JR東海は、原告X1の再雇用についての努力の内容を積極的に明らかにしようとしない。以上のことからすると、被告JR東海は、原告X1の再雇用に努力するどころか、むしろ、被告サービックに対する影響力を行使し、原告組合に所属する原告X1の再雇用を拒否させたことが強く推認され、本件雇用拒否は被告JR東海においても不当労働行為に当たる。

(d) 原告組合は、被告JR東海から嫌悪され、執拗な攻撃を受け続けてきており、具体的に不当労働行為が労働委員会や裁判において認定・判断された事例があり、本件雇用拒否は、原告組合の弱体化に向けた不当労働行為の一環である。

b 債務不履行(原告X1と被告サービックとの間の雇用関係成立についての努力義務の不履行)

前記a(c)記載のとおり、被告JR東海は、本件議事録確認1及び本件議事録確認2において、原告組合との間で、定年退職後の出向社員が出向先会社に再雇用されるよう努力することを約し、それが労働協約の一部となっている。したがって、被告JR東海が再雇用について努力しなかったこと自体が、被告JR東海の債務不履行を構成する。

(イ) 本件団交拒否

前記(ア)a(b)記載のような被告JR東海と被告サービックとの関係からすると、被告JR東海は、本件団交拒否について被告サービックと意を通じていたと推認される。

ウ 損害

(ア) 原告X1

原告X1は、被告JR東海を定年退職後二年間にわたって被告サービックにおいて就労するつもりであったが、前記ア及びイ記載の不当労働行為により就労の場所を奪われ、その結果、将来計画の変更を余儀なくされるなど、多大な精神的損害を受けた。

その精神的損害は、金銭に評価すると、一〇〇万円を下るものではない。また、被告らに負担させるべき弁護士費用としては、一〇万円が相当である。

(イ) 原告組合

原告組合は、前記ア及びイ記載の不当労働行為により、団結権侵害を受けた。被告JR東海のように複数の組合が存在する企業にあっては、原告組合の組合員が差別的取扱いを受けることによって動揺が生じることからすれば、このように不当労働行為は極めて悪質である。

これにより原告組合が受けた無形の損害は、一〇〇万円を下るものではない。また、被告らに負担させるべき弁護士費用としては、一〇万円が相当である。

5  被告サービックの主張

(1)  争点(1)(原告X1と被告サービックとの間の雇用契約の成否)

ア 労使慣行の不存在(原告らの主張(1)アについて)

(ア) 慣行的事実の不存在

被告サービックが被告JR東海からの出向者を定年退職後に新規採用するに当たっては、希望されれば当然のように雇用されるのではなく、健康や勤務状況等の総合的判断により採否を決定するというスクリーニング(ふるい分け)が行われている。

平成一三年度以降における新規雇用希望者数及び雇用者数は、次のとおりである(原告を含む。なお、かっこ内の数字は、被告サービックの鳥飼事業所における内数である)。

<省略>

また、希望したが雇用されなかった者の氏名、出向時の被告サービックにおける所属部署、及び採用されなかった理由は、次のとおりである。

a 平成一四年度

(a) L(鳥飼事業所)

日勤勤務のみを希望したため、被告サービックと条件面で折り合わなかった。

(b) M(京都事業所)

案内業務しか希望しなかった上、日勤勤務のみを希望したため、被告サービックと条件面で折り合わなかった。

b 平成一五年度

(a) N(京都事業所)

健康面で問題があった上、日勤勤務のみを希望したため、被告サービックと条件面で折り合わなかった。

(b) K(鳥飼事業所)

勤務状況等が不良であったためである。

(c) O(新大阪第二事業所)

勤務状況等が不良であったためである。

以上のとおり、新規採用されなかった者が複数名存在するし、平成一三年度から原告X1が定年退職した当時まで三年足らずしか経過していないことからすると、原告ら主張のような慣行的事実(原告らの主張(1)ア(ア)参照)が存在したとは言えない。

(イ) 規範意識等の不存在

労使慣行に法的拘束力が認められるためには、「法的確信」ないしは「規範意識」が必要であるが、原告ら主張の慣行的事実(原告らの主張(1)ア(ア)参照)についてはこれらが被告サービックには欠けていた。なお、少なくとも、本件のように、新規採用に際して企業には雇用義務が存在せず、就業規則等において規定を置くことがなじまない新規採用に関する事項について労使慣行を認める場合には、「規範意識」の要件が必要と解すべきである。

(ウ) 合理性等の不存在

被告サービックは、原告らが主張する慣行的事実が形成された経緯(原告らの主張(1)ア(イ)参照)について、そもそも関与していない上、被告JR東海からの出向者全員を新規採用する旨約束したことはなく、新規採用という使用者の広範な裁量に委ねられた事項であることからすれば、その慣行的事実に合理性はないと言わざるを得ない。

イ 黙示の合意の不存在(原告らの主張(1)イについて)

(ア) 原告らの主張(1)イ(イ)について

前提事実(3)ウに記載のとおり、平成一五年一月一五日ころ、原告X1と被告サービックの鳥飼事業所の役職者が面談したが、その際、F及びG係長は、原告X1から雇用の意思とその期間の希望を打診し、それを確認したものにすぎず、原告X1の被告JR東海定年退職後の採用を約束したものではない。

また、この原告らの主張によれば、平成一五年一月の時点で原告X1と被告サービックとの間の雇用契約が成立していたことになるが、このような早い時期に雇用契約が成立するというのは不自然である。被告サービックが新規採用時期の一年以上前に被告JR東海からの出向者との面談を行うのは、その者の雇用の希望を確認するためである。被告サービックは、その上で雇用するか否かを検討するのであって、この面談は雇用契約締結のための申込みではない。

(イ) 原告らの主張(1)イ(ウ)について

前提事実(3)エ記載のとおり、平成一六年一月二九日、原告X1は、被告サービック側と面談したが、その際、原告X1は、新規雇用の希望を申し出たにすぎず、被告サービックは、この申出につき、平成一五年一月の面談以降の約一年間をかけて、諸事情を併せ総合的に勘案することにより検討した結果、新規雇用をしない旨を通告したものである。平成一六年一月二九日の面談では、被告サービックの原告に対する不採用の結果の通知が主たる面談内容となっていた。

(2)  争点(2)(本件雇用拒否又は本件団交拒否について、不法行為等の成否)

ア 使用者性(原告らの主張(2)ア(ア)について)

原告X1は被告JR東海から被告サービックに出向していたところ、交渉事項が出向先会社による指揮・監督に関する事項であるならば格別、出向期間中に出向先会社が出向者との間の雇用契約の成否に係る身分の問題に関して当然のように労働組合法七条の「使用者」に当たるものではない。また、原告X1の新規雇用(再雇用ではない)の問題は、被告サービックの採用の自由の範疇の問題であって、労働契約の成否に関する事項であるからといって、被告サービックが同条の「使用者」に当たることになるものではない。

イ 本件雇用拒否(原告らの主張(2)ア(イ)について)

(ア) 本件は、新たな採用の拒否の問題であり、採用の自由の範疇に属するものであって、採用しない理由は総合的判断(前提事実(3)エ参照)をもって足り、その具体的内容を明らかにする義務はない。

(イ) 被告サービックは、原告X1に対して、たびたび執務態度・作業面・安全面等において注意指導してきたにもかかわらず、改善の余地が見られなかったために、新規雇用を行わなかったものである。被告サービックの原告X1に対する注意指導の内容は、別紙(略)(「X1社員に対する注意指導の内容」と題するもの)のとおりである(なお、同別紙(略)記載11の事実については、コメント欄に記載の内容に主張を訂正する)。

ウ 本件団交拒否(原告らの主張(2)ア(ウ)について)

原告X1を雇用するか否かという事項は、採用の自由の範疇に属するものであるから、労働組合法により団体交渉を行うことを義務づけられている事項(いわゆる義務的団交事項)ではない。

エ なお、被告サービックは、原告X1が被告サービックに出向してきて以来、原告X1を仕事において差別した事実はない。

また、原告組合の組合員であった者で定年退職後に被告サービックに雇用された者もおり、差別を行ったことはない。

6  被告JR東海の主張

(1)  原告らの主張(2)イ(ア)a(本件雇用拒否について、不当労働行為による不法行為責任の有無)について

ア 被告JR東海と被告サービックとの関係について(原告らの主張(2)イ(ア)a(b)参照)

被告サービックは、被告JR東海と資本関係が全くなく、グループ会社でもない独立した別法人である。また、被告サービックの役員等の中には、被告JR東海の元従業員や、現在も被告JR東海の従業員である者も含まれているが、それらの者が被告サービックにおいて行う業務について、被告JR東海の指揮命令権が及ばないことは明白であるし、そのような指示を被告JR東海が行っている事実もない。被告サービックにおいて雇用するか否かは、あくまでも被告サービックの裁量権に属する専権事項である。

したがって、被告JR東海が被告サービックに対し、事実上の影響力を有している事実は全くない。

イ 労使慣行について(原告らの主張(1)ア及び(2)イ(ア)a(c)参照)

(ア) 被告JR東海が被告サービックに働きかけて出向者を「雇用させる」という慣行的事実(原告らの主張(2)イ(ア)a(c)参照)は存在しない。

被告JR東海は、これまで、本件議事録確認1及び本件議事録確認2に基づき、出向先会社で定年退職をむかえ、引き続き就労を希望する者については、出向先会社において雇用されるよう出向先会社に要請し、その結果、定年退職後も出向先会社において雇用された者がいることは事実であるが、これは、あくまでも、出向先会社が個々に自由に経営判断した結果なのであって、被告JR東海が出向先会社に対して何らかの強制力をもって出向者を雇用させてきたわけではない。

(イ) また、本件議事録確認2を行うに至った経緯(原告らの主張(1)ア(イ)参照)は、次のとおりである。

すなわち、平成一二年一〇月ころ、被告JR東海は、従来の定年協定においては、出向することなく現職継続のまま定年退職をむかえる従業員の雇用についての取扱いが定まっていなかったので、勤務実績等を勘案して関連会社等への再就職斡旋に努めるほか、業務上の必要により被告JR東海における再雇用を平成一三年度から実施する旨を、新たに提案した。

この提案についての交渉において、被告JR東海は、「高齢者の雇用の場は限定されており、求人条件と求職条件が一致するものとは限らないことから、希望者全員の雇用を保障するものではない」という基本的考え方を繰り返し明らかにしていた。

他方、出向先会社で定年退職をむかえる従業員のその後の雇用に関する取扱いについては、本件議事録確認2が行われた際に全く改訂されておらず、その取扱いに変更はない。被告JR東海は、実際の労使協議の場においても、原告組合に対してその旨を繰り返し説明し、被告JR東海の努力の程度が従前と変わらないことを明らかにしている。

なお、「高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の一部を改正する法律」(原告らの主張(1)ア(ウ)参照)は、本件訴訟が提起された後である平成一六年六月五日に国会で成立しているのであって、原告X1の被告サービックにおける雇用について影響を及ぼすものではない。

ウ 再雇用の努力について(原告らの主張(2)イ(ア)a参照)

(ア) 被告JR東海は、本件議事録確認2に基づき、前提事実(3)イ記載のとおり、関西支社管理部人事課のEが原告X1と面談し、原告X1が六二歳までの就労を希望したので、Eは、平成一四年一〇月三一日、被告サービックの人事勤労部のP課長代理(以下「P」という)に対し、原告X1が就労できるよう要請した。

また、Eは、平成一五年二月一三日、改めてPに対し、原告X1を含め、平成一五年度に定年退職をむかえる出向者で就労を希望する者を雇用してもらえるように要請した。

さらにその後も、Eは、出向者の受入れ要請や出向者の事務手続等の機会に、Pに対して、繰り返し同様の要請を行っていた。

(イ) 原告らは、本件雇用拒否について、原告組合の要請にもかかわらず、被告JR東海は、原告X1の再雇用についての努力の内容を明らかにしようとしない旨主張する(原告らの主張(2)イ(ア)a(c)参照)。

しかし、原告組合から平成一六年二月四日にその努力の内容を明らかにするようにとの申入れを受けたことについては、同月二五日、被告JR東海側のJと原告組合側のIとの間で、同月二七日に業務委員会を開催し、その中で他の申入れに対する回答とともに回答する旨を、事前に調整していた(前提事実(4)オ参照)。ところが、同月二七日の業務委員会においては、原告組合側の委員が、抗議と称して勝手な発言を繰り返し、進行を妨害した。これに対して、被告JR東海側では、最初に他の申入れを議題として議論する予定であったため、被告JR東海側の委員が、冒頭から他の議題や進行を無視して勝手に発言を繰り返すようでは、円滑な議事進行を行うことができず、用意していた回答を行うことができない旨を説明した。しかし、原告組合側の委員は、勝手な発言を繰り返して進行を妨害し続け、勝手に退席してしまった。

以上のとおり、原告組合は、回答を受け、議論を行う機会を自ら放棄したのであって、被告JR東海が原告組合からの要請を無視し続けたような事実はない。

エ 不当労働行為による不法行為責任の成否について(原告らの主張(2)イの(ア)a及び(イ)参照)

不当労働行為は、労働委員会による柔軟な行政救済との関連において設定された行為規範であるのに対して、不法行為に基づく損害賠償請求は私法上の権利義務体系の枠組みに従うべきものであり、不当労働行為が成立すれば直ちに不法行為責任が生じるというものではない。

(2)  原告らの主張(2)イ(ア)b(本件雇用拒否について、雇用関係成立についての努力義務の不履行による債務不履行責任の有無)について

前記(1)ウ(ア)記載のとおり、被告JR東海は、被告サービックに対して、原告X1の雇用を要請している。

(3)  原告らの主張(2)イ(イ)(本件団交拒否による不法行為責任の有無)について

前記(1)ア記載のとおり、被告JR東海が被告サービックに対し事実上の影響力を有している事実は全くない。

なお、被告JR東海が原告組合から原告X1の被告サービックでの採用に関連して団体交渉の申入れを受けた事実は一切ない。また、平成一六年二月二七日開催の業務委員会の経緯は前記(1)ウ(イ)のとおりであり、被告JR東海の対応に何ら問題はない。

第三当裁判所の判断

1  争点(1)(原告X1と被告サービックとの間の雇用契約の成否)について

(1)  労使慣行の存否について

ア まず、原告らは、被告サービックにおいては、被告JR東海からの出向者を定年後も引き続き再雇用するという労使慣行が、また、被告JR東海においては、被告サービックに働きかけて、出向者を定年後も引き続いて被告サービックにおいて再雇用させるというという労使慣行があった旨主張する(原告らの主張(1)ア参照)。

イ ところで、前提事実、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(ア) 平成一三年度(平成一三年四月一日から平成一四年三月三一日までをいう。以下、各年度についても、同様である)から平成一五年度までの被告サービックにおける新規雇用希望者数及び雇用者数は、前記被告サービックの主張(1)ア(ア)記載のとおりであり、雇用が拒否された人数は、平成一三年度には〇名、平成一四年度には二名、平成一五年度には三名(原告を除く)であった。

そして、このうち、<1>平成一四年度の二名及び平成一五年度の一名については、雇用の条件面が合わなかったことが不採用の理由であったが、<2>平成一五年度の二名(K及びO)については、勤務状況等が不良であったことが不採用の理由であった。

(イ) 被告サービックは、平成一二年度以前には、特別事情のある職種しか被告JR東海からの出向者を新規に採用しておらず、被告JR東海からの出向者を採用するようになったのは平成一三年度以降である。

(ウ) 本件議事録確認1及び本件議事録確認2においては、前提事実(2)のイ及びウ記載のとおりの文言で議事録確認が行われているところ、いずれの議事録確認においても、出向先会社又は関連会社等における取扱い、要員事情や経営事情を無視することはできない趣旨の文言が記載されている上、本件議事録確認2においては、雇用を希望する者の技能や勤務実績等が考慮される旨及び雇用が保障されるものではない旨が明記されている。

ウ 前記イ記載の事実を総合すると、被告サービックが被告JR東海からの出向者を雇用するに当たっては、希望者を当然に採用するのではなく、希望者の技能や勤務実績等を考慮して採否を決定することが前提とされており、数名ではあるが勤務状況の不良を理由に実際に採用されなかった者がいた上、被告JR東海からの出向者をその定年退職後に採用するという採用制度は、平成一三年四月に開始されたものであって、本件雇用拒否が行われた平成一六年一月当時には、まだ三年を経過していないという状況であったことになる。このような事実関係においては、そもそも、被告サービックが被告JR東海からの出向者を定年退職後に雇用するという慣行的事実が存在していたというに足りない。

さらに、民法九二条により法的効力のある労使慣行が成立していると認められるためには、一定の慣行的事実が労使双方の規範意識によって支えられていること(同条のいう「慣習による意思を有しているものと認められる」こと)が必要であると解するのが相当であるが、前記のような事実関係においては、被告サービックにおいて、被告JR東海からの出向者の定年後の雇用を、法的規範として承認していたと認めるにも足りないというべきである。

エ なお、前記イ(ア)記載の事実について、原告らは、Kは被告サービックへの採用を希望しなかった旨主張し(原告らの主張(1)ア(ア)参照)、これに沿う証拠もある(書証略(Kの陳述書))。しかし、同証拠に較べて、他の証拠(書証略(Fの陳述書))においては、Kの勤務状況や被告サービックとKの面談の状況がより具体的に記述されているところであるから、前記証拠(略)の内容をたやすく信用することはできない。

また、前記イ(ウ)記載の事実について、原告らは、原告組合と被告JR東海が、年金満額支給開始年齢の引上げにより、定年退職後の従業員の雇用確保が必要であるという共通認識の下で、本件議事録確認2を行った経緯がある旨主張する(原告らの主張(1)ア(イ))。しかし、前提事実、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、被告JR東海は、原告組合に対して、本件議事録確認2を行う前の交渉において、<1>年金満額支給開始年齢の引上げの問題があるからというのではなく、その当時、出向することなく現職のまま定年退職をむかえた者についての雇用についての取扱いが定まっていなかったことから、新たにその点についての取扱いを定めることを考えていること、<2>出向先で定年退職をむかえた者の雇用についての従前の取扱いについては変わらないこと、<3>従前から説明していたとおり、希望者全員の雇用の場の確保は難しく、被告JR東海としては、努力はするが、結果として確保できない場合もあることについて、説明をしたことが認められる。そうすると、本件議事録確認2に至った経緯についてのこの原告らの主張を認めることはできず、原告X1のように、出向先においで定年退職をむかえた者のその後の雇用の点については、本件議事録確認1と本件議事録確認2の間に内容の違いはないことが認められる。

オ 以上のとおりであって、原告らが指摘するその余事情(原告らの主張(1)ア(ウ)、(エ))を考慮しても、原告らの主張するような労使慣行が成立していたと認めるには足りない。

(2)  黙示の合意について

ア 次に、原告らは、被告サービックと原告X1の間において、平成一五年一月一五日ころ又は平成一六年一月二九日に、被告JR東海の定年退職後に雇用する旨の黙示の合意が成立した旨主張する(原告らの主張(1)イ参照)。

イ しかし、まず、原告らは、このような黙示の合意の成立を主張する前提として前記の労使慣行の存在を主張するが、そのような労使慣行の成立を認めるには足りないことは、前記(1)で判断したとおりである。

そうすると、平成一五年一月一五日ころ又は平成一六年一月二九日の原告X1との面談の際に、被告サービック側が定年退職後の雇用についての黙示の申込みの意思表示を行っていたと認めることはできない。

また、平成一五年一月という定年退職の一年以上前の段階で黙示の合意があったということは困難であるし、平成一六年一月二九日の面談の際には、被告サービックは本件雇用拒否を通告しているのであるから(前提事実(3)エ)、この面談の際に雇用についての黙示の合意があったと認めることはできない。

ウ 以上のとおり、原告らが主張するような、原告X1と被告サービックとの間の黙示の合意が成立していたと認めることはできない。

(3)  そうすると、原告X1と被告サービックとの間に雇用関係が存在したとは認められず、原告X1の被告サービックに対する雇用契約上の地位確認請求及び賃金請求(特別調整手当を含む)には理由がないことになる。

なお、原告らは、本件雇用拒否の理由は、原告X1が原告組合に加入していることを理由とするものであり、不当労働行為に当たるので違法・無効である旨を主張するが(原告らの主張(1)ウ参照)、この点については、後記2(1)アにおいて判断する。

2  争点(2)(本件雇用拒否又は本件団交拒否について、不当労働行為の存否及び不法行為等の成否)について

(1)  被告サービックについて

ア 本件雇用拒否について

(ア) 原告らは、本件雇用拒否は、原告X1が原告組合に加入していることを理由とするものであり、不当労働行為に当たる旨主張する(原告らの主張(2)ア(イ)a参照)。

(イ) しかし、前提事実、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

a 被告サービックにおいて、原告組合の組合員を採用した実績がこれまでに二名あった。

また、原告X1は、被告サービックに出向後に、被告サービックから仕事上の差別的な取扱いを受けたと感じたことはなかった。

b 本件注意指導2及び7の事実のとおり、作業場内では禁煙とされていたにもかかわらず、原告X1は、サービスデッキや仕業庫デッキにおいて喫煙し、注意指導をされたことが二度あった。

また、本件注意指導8ないし11、13、15、28、29、31及び32の事実のとおり、原告X1は、二人一組の清掃作業において相方の作業が遅れる等した際に、上(荷物棚等)から下(床面)へと順次チリを落としながら清掃するという当然の手順を守らずに、作業手順書に定められた役割分担のとおりに画一的に作業をしようとするなど、十分な清掃作業を行わず、たびたび注意指導を受けていた。

さらには、本件注意指導26の事実のとおり、被告サービックにおいて改善提案の提出を要請・指導していたところ、原告X1はこれに応じず、その結果、被告サービックで就労している出向者一人当たりの改善提案の提出件数の平均が平成一四年度には二・八七件、平成一五年度には二・二八件であったにもかかわらず、原告X1は、平成一四年度においても平成一五年度においても各一件しか提出しなかった。

(ウ) ところで、本件雇用拒否がされた際、原告X1は、被告JR東海の従業員であったのであり、被告サービックとの間に雇用契約関係が存在したものではない。そうすると、被告サービックによる本件雇用拒否は、被告サービックが新規に原告X1を雇用することを拒否したものであると言うべきであるところ、企業者は、契約締結の自由を有し、営業のために労働者を雇用するに当たり、いかなる者を雇い入れるかについて、原則として自由にこれを決定することができるものである(最高裁昭和四八年一二月一二日大法廷判決・民集二七巻一一号一五三六頁参照)。そうすると、雇入れの拒否は、それが従前の雇用契約関係における不利益な取扱いにほかならないとして不当労働行為の成立を肯定することができる場合に当たるなどの特段の事情がない限り、労働組合法七条一号本文にいう不利益な取扱いに当たらないと解される(最高裁平成一五年一二月二二日第一小法廷判決・民集五七巻一一号二三三五頁参照)。

本件においては、前記(イ)aで認定した事実によれば、被告サービックが原告組合やその組合員について嫌悪していたわけではなかったことが窺われる。しかも、前記(イ)bで認定した事実によれば、その余の注意指導の点について判断するまでもなく、原告X1の被告サービックにおける勤務状況は不良であったと言わざるを得ず、したがって、本件雇用拒否の理由は、主として原告X1の勤務状況が不良であった点にあったというべきである。

そうすると、本件においては、本件雇用拒否が従前の雇用契約関係における不利益な取扱いにほかならないとして不当労働行為の成立を肯定することができる場合に当たるなどの特段の事情があると認めることはできない。

(エ) なお、原告らは、この点について、本件雇用拒否の具体的な理由を告げようとしなかったことから、原告X1が原告組合の組合員であることが理由であったことが推認される旨を主張する(原告らの主張(2)ア(イ)a参照)。しかし、具体的な理由を告げなかったということだけから、原告が組合員であることを理由とした雇用拒否であると推認することはできず、むしろ、本件雇用拒否の理由が主として原告X1の勤務状況の不良の点にあったことは、前記(ウ)において認定したとおりであり、この原告らの主張を認めることはできない。

また、原告らは、別紙(略)記載の各注意指導の事実について、原告らの主張(2)ア(イ)b記載のとおり反論する。しかし、証拠(略)によれば、前記ア(イ)bにおいて認定した本件注意指導2、7ないし11、13、15、26、28、29、31及び32の事実については、被告サービックにおいて、具体的な日、原告X1の行為の内容、注意指導者などが記録されていたことが認められることからすると、前記のとおりこれら各事実を認めることができるのであって、これを覆すに足りる的確な証拠は見当たらない。

イ 本件団交拒否について

原告らは、被告サービックと原告X1の間の雇用契約関係の成否に関する事項は、いわゆる義務的団交事項に当たる旨主張する(原告らの主張(2)ア(ウ)参照)。

しかし、既に判断したとおり、企業者は、契約締結の自由を有し、営業のために労働者を雇用するに当たり、いかなる者を雇い入れるかについて、原則として自由にこれを決定することができる(前記ア(ウ)参照)ことからすると、従前に雇用契約関係になかった特定の労働者との間における新規の雇用契約締結自体について、企業者が団体交渉に応じる義務を負うことはないと考えられる。

なお、原告らは、<1>原告X1が、被告サービックにおいて約五年間勤務し、その間、被告サービックの指揮、監督を受けていたこと、<2>原告X1と被告サービックとの間の労働関係の成否に関する事項であることから、被告サービックが労働組合法七条の「使用者」に該当する旨主張する(原告らの主張(2)ア(ア)参照)。しかし、このうち<1>については、このような被告サービックの指揮・監督の関係があるからといって、指揮・監督に関する事項を超えて、被告サービックと原告X1の間の雇用契約関係の成否に関する事項についてまで、被告サービックに団体交渉に応じる義務があることにはならないと考えられる。また、このうち<2>については、既に判断したとおり、原告X1と被告サービックとの間に雇用契約関係が認められないのであるから(前記1参照)、被告サービックは同条二号の「使用者」に当たると認めることはできないと考えられる。

ウ 以上によれば、被告サービックにおいて、原告ら主張のような不当労働行為を認めることはできない。そうすると、原告らの被告サービックに対する不法行為に基づく損害賠償請求は理由がないこととなる。

(2)  被告JR東海について

ア 原告らは、被告JR東海が原告X1の雇用について被告サービックに対して事実上の影響力を行使し得たのであり、被告JR東海は、本件雇用拒否について被告サービックと意を通じていた旨主張する(原告らの主張(2)イ(ア)a(b)参照)。

(ア)なるほど、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、被告JR東海と被告サービックとの間には資本関係はないものの、被告サービックの役員や主要な地位にある従業員が被告JR東海の元従業員や従業員(被告JR東海からの出向者)であり、また、被告JR東海が被告サービックの重要な受注先であることが認められる。

また、証拠(証人O)によれば、被告JR東海は、平成一六年一月二〇日に被告サービックから原告X1の雇用を拒否する旨の通知を受けたが、その後には特に雇用を要請する対応を行わなかったことが認められ、前提事実(4)ア記載のとおり、同月二九日にIから要請を受けた際にも、対応を行っていない。

さらには、証拠(略)によれば、被告JR東海の原告組合に対する不当労働行為を認めた判決や労働委員会の命令があることが認められるところである(原告らの主張(2)イ(ア)a(d)参照)。

(イ)他方、前提事実、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

a 前提事実(3)イ記載のとおり、原告X1が六二歳までの就労を希望したので、被告JR東海のEは、平成一四年一〇月三一日、被告サービックの人事勤労部のPに対し、原告X1が就労できるよう要請した。

また、Eは、平成一五年二月一三日、改めて被告サービックのQ総務部長(以下「Q」という)及びPに対し、原告X1を含め、平成一五年度に定年退職をむかえる出向者で就労を希望する者を雇用してもらえるように要請した。

さらにその後も、E又はその後任であるRは、出向者の受入れ要請や出向者の事務手続等の機会に、Q又はPに対して、繰り返し同様の要請を行った。

b 以上のとおり、被告JR東海は、平成一四年一〇月三一日から平成一五年一二月までの間に約一三回にわたって、被告サービックに対し、原告X1の雇用を要請してきた。

そして、その要請の程度については、被告サービックへ出向していた他の定年退職予定者と同程度のものであった。

(ウ) ところで、既に認定したとおり、本件議事録確認1及び本件議事録確認2のいずれにおいても、出向先会社又は関連会社等における取扱い、要員事情や経営事情を無視することはできない趣旨の文言が記載されている上、本件議事録確認2においては、雇用を希望する者の技能や勤務実績等が考慮される旨及び雇用が保障されるものではない旨が明記されていること(前記1(1)イ(ウ)参照)からすると、前記(イ)において認定した被告JR東海の対応は、本件議事録確認1及び本件議事録確認2において期待される努力の程度を充たすものであったと認められる。

このことに加え、既に認定したとおり、本件雇用拒否の理由が、主として原告X1の勤務状況の不良の点にあったこと(前記(1)ア(ウ)参照)を考慮すると、前記(ア)において指摘した点を考慮してもなお、被告JR東海と被告サービックとが本件雇用拒否について意を通じていたと認めるには足りない。

そうすると、被告JR東海が本件雇用拒否について不法行為責任を負うと認めるには足りない。

(エ) なお、原告らは、被告JR東海が原告X1の雇用についての努力の内容を積極的に明らかにしない旨主張して、被告JR東海が被告サービックに対して本件雇用拒否を行わせたことが推認される旨主張する(原告らの主張(2)イ(ア)a(c)参照)。

しかし、前提事実、証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、<1>平成一六年二月四日、原告組合から被告JR東海に対して、その努力の内容を明らかにするようにとの申入れがされたため、同月二五日、被告JR東海側のJと原告組合側のIとの間で、同月二七日に業務委員会を開催すること、その中で他の申入れに対する回答とともに回答すること、及び本件雇用拒否以外の事項を最初の議題として議論することが、それぞれ確認されたこと(前提事実(4)イ及びオ参照)、<2>ところが、同月二七日の業務委員会においては、原告組合側の委員が、冒頭から本件雇用拒否の件についての抗議を繰り返したため、被告JR東海側では、最初に他の議題について議論することを事前に確認済みである旨を説明したが、原告組合側の委員は、不規則発言を繰り返した上、退席してしまったことが認められる。

以上のとおり、被告JR東海側では努力の内容を説明する用意をしていたことが認められる。また、前記(イ)で認定したとおり、被告JR東海は原告X1の雇用についての努力をしたことが認められるところである。そうすると、この原告らの主張には理由がない。

イ また、原告らは、被告JR東海が原告X1の雇用について努力しなかったことが債務不履行に当たる旨主張する(原告らの主張(2)イ(ア)b参照)。

しかし、既に判断したとおり、被告JR東海が本件議事録確認1及び本件議事録確認2において期待される程度の努力をしたことが認められるから(前記ア(ウ)参照)、この原告らの主張には理由がない。

ウ この他、原告らは、被告JR東海が本件団交拒否について被告サービックと意を通じていた旨主張する(原告らの主張(2)イ(イ)参照)。

しかし、既に判断したとおり、そもそも本件団交拒否は不当労働行為に当たらないし(前記(1)イ参照)、被告JR東海が被告サービックと意を通じていたと認めるには足りないことは、本件雇用拒否の場合と同様である(前記ア参照)。

エ 以上によれば、被告JR東海において、原告ら主張のような不当労働行為や雇用関係成立についての努力義務の不履行を認めることはできない。そうすると、原告らの被告JR東海に対する不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償請求権は理由がないこととなる。

3  以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がないので、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田陽三 裁判官 川畑正文 裁判官下田敦史は、転補につき、署名押印することができない。裁判長裁判官 山田陽三)

<別紙略>

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