大阪地方裁判所 平成16年(ワ)4931号 判決 2005年11月18日
原告 X1
他6名
上記原告ら訴訟代理人弁護士 内藤秀文
被告 シーティーアイ株式会社
同代表者代表取締役 Y1
被告 Y2
他1名
上記被告ら訴訟代理人弁護士 松村安之
主文
一 被告らは、原告らに対し、連帯して、それぞれ別紙認容額一覧表の「認容額」欄記載の金員及びこれに対する被告Y2及び被告Y1はいずれも平成一六年五月九日から、被告シーティーアイ株式会社は同年同月一一日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 訴訟費用は被告らの負担とする。
三 この判決は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
主文第一項と同旨
第二事案の概要
一 本件は、原告らがエメラルド・ワールドワイド・ホールディングズ・インク(以下「エメラルド社」という。)との間で行った「EMERALD マージンFX」という名称の外国為替証拠金取引について、被告シーティーアイ株式会社は、株式会社新大友フォレックスインターナショナルを介して、原告らに上記取引を勧誘するにあたり、同取引の仕組み及びエメラルド社の実態について故意に虚偽の説明をして原告らを欺罔して契約を締結させ、原告らに、同取引の証拠金をエメラルド社又は被告シーティーアイ株式会社に払い込ませ、原告らはこれにより損害を被ったと主張し、被告シーティーアイ株式会社に対しては不法行為に基づき、また、同社の代表取締役である被告Y1及び取締役である被告Y2に対しては、被告シーティーアイ株式会社に上記不法行為を行わせたことが同社に対する善管注意義務(商法二五四条三項)及び忠実義務(同法二五四条の三)に違反するとして同法二六六条の三に基づき、原告らが払い込んだ証拠金から返金額を控除した残額及び弁護士費用相当額の損害賠償並びにこれらに対する訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求めている事案である。
二 前提事実(末尾に証拠を記載した事実以外は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
ア 原告らは、いずれも中華人民共和国において出生し、高校卒業後又は一定期間同国において就労した後に来日し、日本人と結婚するなどして帰化し、あるいは中華人民共和国籍のまま日本に滞在している者である。
イ 被告シーティーアイ株式会社(以下「被告会社」という。)は、平成一三年一二月一九日に設立された外国為替情報通信コンサルタント業務等を業とする株式会社である。
被告Y1(以下「被告Y1」という。)は被告会社の代表取締役であり、被告Y2(以下「被告Y2」という)。は被告会社の取締役兼エメラルド社の代表執行役員である。
ウ エメラルド社は、アメリカ合衆国カリフォルニア州インダストリー市に所在し、外国為替証拠金取引を業とすると称する会社である。ただし、米国商品先物取引委員会には登録していない。
エ 株式会社新大友フォレックスインターナショナル(以下「新大友フォレックス」という。)は、平成一五年四月一一日に設立された外国為替証拠金取引の取次ぎ等を業とする株式会社である。
(2) 本件契約の締結
原告らは、新大友フォレックスの営業担当者からの勧誘により、同社を取次業者として、本人名義又は親族名義で、別紙取引一覧表の「契約日」欄記載の日に、エメラルド社との間で、「EMERALD マージンFX」という名称の取引(以下「本件取引」という。)につき、次の内容の基本契約を締結した(以下「本件契約」という。)。
ア 顧客(委託者)は、エメラルド社に対し、新大友フォレックスを通して、外国為替市場において外貨取引を行うことを委託する。
イ 委託者がエメラルド社に対して委託する取引は、外国為替市場で外貨の買い付け又は売り付けをして差額決済をする取引である。
ウ 委託者は、外国為替市場で実際に取引を行う「為替ディーラー」であるエメラルド社の指定する銀行口座に「預り証拠金」を送金し、取引注文を出す。この「預り証拠金」は、本取引を担保するために、委託者が為替ディーラーに預託する金銭である。
エ 本取引は、外国為替市場において、外貨の売買取引に係る預り証拠金に対し、一定の取引必要証拠金を担保として行われる。
オ 本取引は、建玉の売り付け又は買い付けをして、手仕舞いをすることによって、発生した差額損益を精算するまでをいう。
カ 本件取引について、顧客は、取引の都度、エメラルド社規定の手数料を同社に支払う。
キ 顧客は、建玉が発生した日の翌日から建玉が消滅した日までの期間、建玉の当該通貨と取引通貨との金利差相当額のスワップ金利を、為替ディーラーであるエメラルド社に支払うか、又は同社から受領する。
ク 預り証拠金の金額が顧客の建玉の未確定差損益金の額との対比においてエメラルド社の基準から不足する場合には、顧客は、同社に対し、追加証拠金を支払わなければならない。
(3) 本件取引の性質
上記注文によって成立する売買代金額や将来の差金決済の内容は、それぞれの時点における為替相場に基づいて決定されるが、本件取引では、顧客の注文を他の金融機関などにつなぐ取引をすることは予定されておらず、本件取引は、顧客とエメラルド社との間の相対取引である。また、本件取引のためにエメラルド社が別の相手方とヘッジ取引をすることはなかった。
(4) 原告らの送金
原告らは、本人名義又は親族名義で、エメラルド社又は被告会社に対し、本件契約に基づき、「預り証拠金」あるいは「追加証拠金」等の名目で、別紙取引一覧表記載のとおり、平成一五年四月から平成一六年一月までの間に、円又は米ドルにより、同一覧表の「振込額」欄記載の金額を送金した。
(5) 原告らに対する一部返金
原告X1は、平成一六年二月六日、新大友フォレックスから一万米ドル及び一〇〇万円の返金を受け、原告X2は、平成一五年八月二一日、新大友フォレックスから五〇〇〇米ドルの返金を受けた。
三 争点及びこれに対する当事者の主張
(1) 被告会社の違法行為
(原告らの主張)
ア 新大友フォレックスの道具としての利用
(ア) 新大友フォレックスの実質的代表者であるAは、以前にも外国為替証拠金取引を行い、損害を被ったことがあったところ、被告Y2は、損害を回復させてあげるなどと言ってAに近づき、同人に新大友フォレックスを設立させた。
新大友フォレックスは、平成一五年三月、被告会社との間で、次のような内容の契約を締結した。
① 被告会社は、新大友フォレックスに、資本金一〇〇〇万円を無利息で融資する。
② 被告会社は、新大友フォレックスに、アナリストらを派遣し、ファイナンシャル・コンサルタント(営業担当者。以下「FC」という。)の訓練及びディーリングの運営、監督を行う。
③ 人員派遣の費用は、すべて被告会社が負担する。被告会社は、新大友フォレックスに赤字が生じた場合、毎月三〇〇万円を限度で補填する。
④ 新大友フォレックスは、利益が出た場合、その二五%を被告会社に支払う。
(イ) 被告会社は、新大友フォレックスに、B、C及びDらを派遣し、Bは新大友フォレックスのFCの教育を行い、Cは営業の責任者となり、Dは顧客の注文の取次ぎやFCの監督をし、Bは、Aに要求して新大友フォレックスの取締役に就任した。
被告Y2は、何回かにわたり、新大友フォレックスでセミナーを開催し、顧客を勧誘した。
(ウ) 被告会社は、パンフレットや契約書類を作成し、印刷をした上、新大友フォレックスにこれらを無償で交付して使用するように指示をし、新大友フォレックスは、これらを使用して原告らを勧誘した。
このほか、被告会社は、新大友フォレックスの代わりに新聞広告も行い、証拠金の送金先を区分けして新大友フォレックスに指示し、新大友フォレックスが原告らに伝え、また、原告らの取引明細書も被告会社がすべて作成し、原告らに送付していた。
(エ) 以上のとおり、被告会社は、Aを巧みに利用し、新大友フォレックスを設立させた上、同社を原告らに本件取引を勧誘するための道具として利用していた。
イ 虚偽の説明
(ア) 取引の内容についての虚偽説明
本件取引は、実際はエメラルド社との相対取引であり、顧客の損は同社の利益に、顧客の利益は同社の損になるという関係になるから、被告会社は、顧客となる者に対し、本件取引が相対取引であると説明する必要があり、その説明をしなければ、取引内容の重要な要素について顧客となる者に誤解を与え、リスクをとるか否かの判断機会を奪うことになり、違法な取引の誘引となるものであった。
しかるに、被告会社は、新大友フォレックスに対し、本件取引が実際は取引の相手方をエメラルド社とする相対取引であることを一切説明せず、契約書やパンフレット等にも、エメラルド社が外国為替市場に顧客の注文を取り次ぐという内容や、外国為替市場には銀行と顧客間の市場及び銀行間の市場の二つがあるという説明を記載し、また、エメラルド社と外国為替取引市場とのつながりを示すような図表を記載したほか、エメラルド社が米国カリフォルニア州最大の証券会社であるエース・エメラルド・グループの傘下にあって、全世界的なネットワークを持っており、豊富な投資経験を持ったコンサルタントによる投資技術分析や各種情報を提供する、顧客に的確なアドバイスをするなどと記載し、本件取引が、世界の外国為替取引市場に取り次ぐものであると説明した。
(イ) エメラルド社の実態についての虚偽説明
a エメラルド社の設立経緯及び実情
エメラルド社は、平成一二年にEが設立した会社で、定まった事務所を有していなかった。
Fは、Eに誘われ、エメラルド社で株式についてのセミナーを開催するなどしていたが、平成一三年一一月、被告Y2から、顧客の信用を得るために米国の会社との取引であるという形が必要であり、市場気配値を連絡してくれる米国の会社を紹介してほしいとの依頼を受け、Fは、エメラルド社を使うこととし、Eからエメラルド社を無償で取得し、同社を被告Y2に紹介した。
被告Y2は、Fに対し、毎月一万二〇〇〇ドルの経費を支払うと約束し、エメラルド社の事実上のオーナーになった。
Fは、平成一四年一月、エメラルド社の口座をシティバンクに開設したが、これは、米国の銀行と取引があるように見せて顧客勧誘を容易にしようという被告Y2の意図によるものであった。
その後、原告らを含む顧客から、シティバンクの上記口座に送金がされるようになったが、エメラルド社は、平成一四年五月、シティバンクからマネーロンダリングを疑われ、Fから、被告Y2に、エメラルド社への関与を止めたいとの連絡があったため、被告Y2は、同年八月、Fからエメラルド社を八万ドルで買い受けた。しかし、後継者が見つかるまで、Fが同社の管理を続けることとされた。
しかし、エメラルド社は、インターバンクレートを伝達するパートタイマーが二、三人いる程度の幽霊会社も同然の会社であった。
このようにして、エメラルド社は、被告Y2が統括しており、被告会社と一体となって本件取引の営業活動を行っていた。
b エメラルド社についての虚偽の説明
被告会社は、エメラルド社のパンフレットを作成したが、そこには、エメラルド社はカリフォルニア州最大の著名な投資金融証券企業であるエース・エメラルド・グループの傘下にあり、同グループは、総運用資産額が一〇億米ドルを超え、メリルリンチなども密接な関係を樹立している、あるいは、米国で最も信頼のある外国為替取引企業であり、その情報収集能力は他社の追随を許さず、全世界を網羅した強力なネットワークを持っているなどと記載されており、さらには、被告会社は、同グループと業務提携して外国為替投資の技術分析と訓練カリキュラムの提供を受けるなど、そのノウハウを全面的に活用してサービスを行っているなどと記載されていた。
前記のように、エメラルド社は、実際は、被告会社が日本で顧客を募る際の外形上の信用を得るためのダミーにすぎず、実体のない会社であったにもかかわらず、被告会社は、上記パンフレットなどにより、新大友フォレックスを通じて、原告らに対し、エメラルド社が米国で最も信頼のある外国為替取引企業であるなどと虚偽の説明をした。
また、被告会社は、エメラルド社のパンフレットに、すべての投資家の銀行口座の保管は、米国のバンク・オブ・アメリカ、シティバンク、チェース・マンハッタン銀行で行っており、米国連邦政府の預金保険管理局(FDIC)の保証を受けているとの記載していたが、そのような事実はなく、エメラルド社は、実際には、外国為替取引は全く行っておらず、エメラルド社に送金された資金は、外国為替証拠金取引には一切使われず、被告会社に送金されたり、一部の顧客に解約金として支払われるなどしていたにすぎなかった。
さらに、被告会社は、新大友フォレックスを通じ、原告らに対し、エメラルド社が米国商品先物取引委員会に登録していないにもかかわらず、登録していると説明し、この点でも虚偽の説明をしていた。
c エメラルド社及び被告らについての米国における裁判
エメラルド社は、米国商品先物取引委員会の申立てにより、外国為替取引をしていないのに、上記委員会の登録会員であると詐称し、平成一四年三月以降少なくとも三〇〇人の顧客から四七〇万米ドルを着服したとして、平成一五年一一月一八日、米国ロサンゼルスの連邦地方裁判所により資産凍結命令を受けた。
また、被告Y2及びエメラルド社は、平成一六年一二月二九日、上記裁判所により、資産凍結命令及び帳簿等の保全命令に違反したことを理由に、一日当たり二五〇ドルの罰金を課され、被告Y2に対しては、民事的裁判所侮辱罪により逮捕令状が発令された。
これに対し、被告会社、被告Y2及びエメラルド社は、顧客からの振込先を別の銀行に変更したり、宛名をエース・キャピタル・アドバイザリー・グループなどと変更した。
ウ このように、被告会社は、本件取引の内容がエメラルド社との相対取引であり、また、エメラルド社は被告会社が日本で顧客を募る際の外形上の信用を得るためのダミーであって、実体のない会社であることを認識していたにもかかわらず、新大友フォレックスを通じ、原告らに対し、本件取引は、世界的な外国為替取引企業であるエメラルド社が、原告ら顧客の外貨の売買注文を世界の外国為替市場に取り次ぐ取引であるという虚偽の説明をして勧誘し、原告らに、その旨を誤信させて本件契約を締結させた上、証拠金を送金させ、別紙取引一覧表の「被害額」欄記載の金額の損害を負わせたものであり、このような被告会社の行為は不法行為を構成する。
(被告らの主張)
ア 新大友フォレックスと被告会社との関係
(ア) 被告会社は、新大友フォレックスに一〇〇〇万円を貸し付けたが、これは、平成一五年七月ころ、株式会社大友フォレックスインターナショナル(以下「大友フォレックス」という。)の経営が苦しく、同社役員であったBから被告会社に借入れの申込みがあったため、被告会社がこれに応じたものにすぎない。
また、被告会社が、新大友フォレックスにBを派遣したことはない。
(イ) 新大友フォレックスは、設立当初は被告会社の協力を求めていたが、独自の経営を希望し、被告会社の関与や利益分配を嫌うようになり、被告会社との契約の締結を拒否した。そのため、被告会社は、新大友フォレックスが設立された後、約一か月間、パンフレットや契約書のサンプルを提供し、社員研修に協力をしたにすぎず、その後は、新大友フォレックスの顧客勧誘に関与していない。
Cは新大友フォレックスの社員教育を手伝い、Dは同社のディーリングルームのパソコン設定を手伝ったことはあるが、いずれも会社をスタートさせる際の手助けを行ったにすぎず、エメラルド社の総代理店として、新たに独立した代理店の設立に協力したにすぎない。被告Y2は、新大友フォレックスの顧客向けセミナーに同席したことはあるが、顧客を勧誘したことはない。
また、被告会社は、新大友フォレックスがパンフレットや契約書類を作成するに当たって、サンプルを提供したり、印刷に協力したことはあるが、新大友フォレックスは、自ら被告会社のパンフレットに類似したものを作成したものであり、被告会社が作成したものではない。また、被告会社は、契約書類の印刷費用は、すべて新大友フォレックスから支払を受けた。
被告会社は、取引明細書の作成及び交付も行ったが、取引明細書は、本来、新大友フォレックスが作成、交付するものではなく、被告会社は、エメラルド社の総代理店として当然のことをしたにすぎない。
なお、被告会社は、新大友フォレックスに代理店手数料を支払った。
イ 本件取引の説明
(ア) 本件取引の内容について
原告らに対する勧誘は、新大友フォレックスの経営判断の下に、同社及びその担当者によって行われたもので、被告会社は全く関与していない。被告会社は、新大友フォレックスが、原告らに対し、いかなる説明をしたのか知らないし、新大友フォレックスの経営に関与したこともない。
外国為替証拠金取引は、すべて相対取引であり、本件取引も、原告らとエメラルド社との相対取引である。このことは、契約書にも明記されており、契約書に記載された為替ディーラーとはエメラルド社のことであり、外国為替市場において行う外貨取引とは、エメラルド社が行う原告らとの取引を含む一切の外国為替取引のことをいう。新大友フォレックスの代表者は、以前にも外国為替証拠金取引の取次業を行っていたものであり、同取引が相対取引であることを十分に認識していた。
(イ) エメラルド社について
a 被告Y2は、外国為替証拠金取引の営業を行うために、投資顧客業務を営んでいたエメラルド社を買収したものである。
b エメラルド社は、米国商品先物取引委員会による資産凍結命令により活動を停止しているが、それまではスタッフが五人おり、顧客から証拠金を預かり、顧客との外貨の売買取引を実際に行っていた。
c エメラルド社が米国商品先物取引委員会に対する届出をしていなかったのは事実であるが、これは、日本では、外国為替証拠金取引が金融商品の販売等に関する法律により説明義務の対象となる取引の一つとして規制されているにすぎないため、日本と同様に届出の必要性はないと考えたためである。
d エメラルド社が顧客から支払われた証拠金を保管していたシティバンクの口座は、米国政府の預金保険管理局の保証を受けていた。
e 新大友フォレックスが使用したパンフレットには、一部誇大な表示があるが、エメラルド社及び被告会社は、全米証券業協会及び全米投資家保護団体の会員であるエース・ディバーシファイド・キャピタルという証券会社との関係を有しており、その点は、パンフレットに表示されている。
f 上記パンフレットには、本件取引の背景、取引の仕組みについて詳細な説明が記載されており、原告らはこれらをすべて理解して取引を始め、相場変動により損失を被ったのであり、原告らの損失はパンフレットの上記誇大表示とは無関係である。
(2) 被告Y1及び被告Y2の責任(商法二六六条の三)
(原告らの主張)
被告会社の代表取締役である被告Y1及び取締役である被告Y2らは、被告会社に、上記のような詐欺的勧誘という違法行為、不法行為ないし反社会的行為を行わせ、多数の顧客から損害賠償責任を追及される事態を招いたものであり、これは、被告会社に対する善管注意義務(商法二五四条三項)に違反し、また、法令に反する行為として被告会社に対する忠実義務(同法二五四条の三)にも違反するものである。
したがって、被告Y1及び被告Y2は、同法二六六条の三に基づき、原告らに生じた損害を賠償する責任がある。
(3) 原告らの損害
(原告らの主張)
ア 振込金
原告らは、被告らの上記行為により、別紙取引一覧表の「被害額」記載の損害を被った(米ドルによるものについては、同一覧表の「振込額円換算」欄記載の金額。)。
イ 弁護士費用
被告会社は、原告らに上記損害を弁償しないため、原告らは、弁護士に本訴の提起及び追行を委任せざるを得なかったが、上記損害額の約一割に相当する別紙取引一覧表の「弁護士費用」欄記載の各金額は、上記被告会社の不法行為と相当因果関係にある損害である。
(被告らの主張)
原告らの主張は争う。
第三争点に対する判断
一 争点(1)(被告会社の違法行為)について
(1) 新大友フォレックスの設立
<証拠省略>によれば、新大友フォレックスの設立について、次の事実が認められる。
ア Aは、平成九年、日本に帰化し、中国と東南アジア向けの輸出を業とする会社を経営していたところ、平成一二年一〇月、株式会社輝(以下「輝」という。)から勧誘を受け、外国為替証拠金取引を行ったが、一億五〇〇〇万円以上の損失を被る結果に終わった。
その後、Aは、輝の代表者であるGらに勧誘され、平成一四年五月、大友フォレックスを設立し、米国にあるスウィートウォーター社を為替ディーラーとして、外国為替証拠金取引の取次業務を始め、大友フォレックスは、輝が作成したパンフレットを使用して顧客勧誘を行っていたが、輝は、大友フォレックスに手数料を支払わず、約束した追加投資もしなかったため、大友フォレックスは、二〇〇〇万円以上の赤字を抱えるに至り、Aは、取引がすべて決済される平成一五年三月に大友フォレックスの経営を止めようと考えていた。
イ Aは、Bなる人物から、平成一五年三月中旬、「困っていると思うが、助けてほしいか」などと持ち掛けられ、その後、被告Y2ら被告会社の関係者らから、被告会社も輝にだまされた被害者であるからお互い助け合いたい、顧客はすべて新しいディーラーであるエメラルド社に引き継ぐことができるから大友フォレックスを閉める必要はない、被告会社は大阪に土地勘がないからAがやってほしい、保証金や管理費用などは必要ない、損失が出ても毎月三〇〇万円までは被告会社が補填する、一〇〇〇万円の資本金を無利息で融資するなどと説得され、再び外国為替証拠金取引の営業を行うこととし、ただし、被告Y2の提案により、新大友フォレックスという商号の新会社を設立することとした。
被告会社は、新大友フォレックスの設立のため、Aに一〇〇〇万円を無利息で融資し、Aは、平成一五年四月一一日、これを資金として新大友フォレックスを設立し、大友フォレックスの従業員中一二名が新大友フォレックスに移籍した。
ウ 被告会社は、Bをアナリストとして新大友フォレックスに派遣し、AはBに新大友フォレックスの経営をまかせたが、Bは一か月ほどで辞め、その後、被告会社は、新大友フォレックスに、平成一五年四月から同年一〇月まで、Cを営業部長として派遣し、Cは、新大友フォレックスにおいて、FCの採用や教育を行っていた。また、被告会社は、新大友フォレックスに、D及びHも派遣し、同人らはディーリングルームの設置や顧客セミナーの講師などを担当し、その他にも、被告会社は、数名を新大友フォレックスに派遣したが、派遣費用や人件費、宿泊費等はすべて被告会社が負担していた。このほか、被告Y2も、新大友フォレックスでセミナーを開催した。
エ 被告会社は、契約書やパンフレット、従業員の名刺を作成して新大友フォレックスに交付し、これを顧客勧誘の際に使用するよう指示したほか、様々な相場の情報を新大友フォレックスに提供し、同社はこれを顧客に伝え、また、被告会社は、原告ら顧客の取引明細書を作成して新大友フォレックスに交付していた。
オ このように、Aは、被告Y2に勧められて新大友フォレックスを設立したものの、新大友フォレックスの業務のほとんどは、被告会社の指示のもとに行われていた。
(2) エメラルド社について
前提事実及び<証拠省略>によれば、エメラルド社について、次の事実が認められる。
ア エメラルド社は、平成一二年にEによって設立され、エース・ディバーシファイド・キャピタル(以下「エース社」という。)で働いていたFもその設立に参加したが、エメラルド社には、EやFのほかには、仲介人として三人がいるのみで、設立当初は事務所もなく、Fらは、エース社の事務所でエメラルド社の仕事をしていた。
イ Fは、平成一三年一一月、被告Y2から、市場気配値を連絡してもらえる米国の会社を紹介してほしいとの依頼を受け、Eからエメラルド社を取得し、被告Y2に紹介した。
被告Y2は、Fに、エメラルド社の家賃や従業員の給料等の経費として毎月一万二〇〇〇米ドルを支払う約束をし、Fは、アメリカ合衆国カリフォルニア州インダストリー市に事務所を借り、電話や通話システムを整備し、オフィス機器を買い、電話のオペレーターを雇ったが、エメラルド社は、電話で市場気配値を伝える以外の業務は行っていなかった。
ウ Fは、平成一四年一月、被告Y2の指示により、米国の会社と関係があるように見せかけるため、シティバンクにエメラルド社の口座を開設し、顧客からこの口座に送金が行われた。Fは、シティバンクから送付される上記口座の報告書を、すべてファクシミリ等で被告Y2に送っていた。
エ Fは、同年五月、シティバンクからマネーロンダリングを疑われ、また、被告Y2から渡されていた経費も少なかったため、被告Y2に対し、エメラルド社の経営を止める意向を伝え、被告Y2は、同年八月に渡米し、Fからエメラルド社を八万ドルで買い取った。
オ 前記のように顧客からエメラルド社に送金された資金のうち約二一〇万ドルは、被告会社に送金されていた。
カ エメラルド社、被告会社及び被告Y2は、平成一五年一一月一七日に、米国商品先物取引委員会から、米国カリフォルニア州中央地区裁判所(United States Dis-trict Court Central District of California)に、顧客から集めた四七〇万ドル以上の資金を着服し、三〇〇人以上の顧客をだましたこと、顧客のための取引を行っていなかったこと、同委員会に登録し、同委員会登録の複数の企業と提携関係にあるとの虚偽の表示をしていたことなどを理由とする訴訟を提起され、翌一八日、同裁判所は、上記被告らに対し、資産凍結命令、帳簿と記録類の破棄防止命令を発令した。しかし、上記被告らは、これらの命令に従わず、平成一六年七月二九日に同裁判所が発令した服従命令にも従わなかったため、同裁判所は、同年九月一五日、エメラルド社及び被告Y2が上記服従命令に従わなかったとの判決をし、同年一二月二九日、被告Y2に対し、逮捕令状を発付した。
その後、同裁判所は、平成一七年三月一五日、エース・エメラルド・ワールドワイド・ホールディングズに対し、不正利得を引き渡すよう命ずるとともに、同年四月一九日、被告会社に対し、三二〇万ドルの返還及び民事罰則金八二〇万ドルの支払を命じた。
(3) 本件契約の締結について
前提事実、<証拠省略>によれば、本件契約の締結について、次の事実が認められる。
ア 原告X1(以下「原告X1」という。)は、平成一五年三月末ころ、知人である大友フォレックスの従業員Ⅰから、電話で本件取引の勧誘を受けた上、エメラルド社のパンフレットや契約書を示されるなどして、本件取引についての勧誘を受けた。これらの書類には、以下のように記載されていた(括弧内の定義文はこれらの書類限りのものである。)。
(ア) エメラルド社のパンフレット
「ACE Emeraldグループは、米国のカリフォルニア州の最大の証券会社であり、米国の全米証券業協会(NASD)及び安全投資家保護団体(SIPC)のメンバーであります。(中略)ACE Emeraldグループは、設立以来一貫してフル・サービスを主軸としており、顧客の資産管理のための有価証券、米国連邦政府発行の債券、公共事業体発行の債券と企業発行の社債を含めると総運用資産額は一〇億米ドルを超えます。(中略)ACE Emeraldグループは米国の当地にEmerald Worldwide Hold-ings Inc.という子会社を設立し、グループの一員として、国際通貨の為替業務を行うことに致しました。この外、Emerald Worldwide Holdings Inc.は、国際的な証券会社であるMerrill Lynch, Morgan Stanley Dean WitterとPrudential Finan-cials等国際的な金融専業集団と密接な関係にあります。(中略)また、すべての投資者の銀行口座の保管は、米国のBank Of America, Citibank(シティ・バンク)、Chase Manhattan Bank(チェス・マンハッタン・バンク)で行っており、米国連邦政府の預金保険管理局(FDIC)の保障を受けております(以下省略)。」
(イ) 契約書の記載
「第一条(前文)
EMERALDマージンFX取引契約(以下「本契約」という)は米国のEmer-ald Worldwide Holdings Inc.(以下「為替ディーラー」という)が外国為替市場において行う外貨取引について、日本国内で顧客の依頼に基づき、外貨の取引注文の取次を行う株式会社新大友フォレックスインターナショナル(以下「当社」という)との間での取引に係る基本的事項について定めたものである。
2.「EMERALD マージンFX」取引(以下「本取引」という。)は、関係諸法令の定めのある場合を除き、全て本契約及び別途規定する取扱要綱の定めるところによるものとする。
第二条(取引)
本取引は、委託者の指示を取次業者を通じて、外国為替市場で外貨の買い付け又は売り付けをして差額決済をする取引である。
2.外貨取引に当り、取次業者である当社を通じて、外国為替市場で実際に取引を行う「為替ディーラー」の指定する銀行口座に預り証拠金を送金し、当社の取次により外貨の取引注文を行うものである。
第三条(定義)
本契約に関する用語は、次のとおり定義する。
(1) 「為替ディーラー」とは、外国為替市場において、実際に外貨取引を行う、Emerald Worldwide Holdings Inc.をいう。
(2) 「委託者」とは、本契約の定めに従い、取次業者を通じて、為替ディーラーと外貨取引を行う者をいう。
(3) 「取次業者」とは、外貨取引に係る、為替ディーラーと委託者との間の取次を行う当社をいう。(以下省略)」
イ 原告X1は、Ⅰから勧誘を受けた際、本件取引は、エメラルド社が、顧客の注文を市場に取り次ぐものである、エメラルド社は米国商品先物取引委員会の会員であり、信用できる会社である。一〇〇万ドル以下の証拠金についてはエメラルド社が倒産しても全額保証されているなどと説明を受けたが、一方、本件取引がエメラルド社との相対取引であるとの説明はなく、原告X1は、上記Ⅰの説明及び契約書の文言から、本件取引は、米国商品先物取引委員会の会員であり、信用できる会社であるエメラルド社が、原告X1が出す外貨売買の注文を他の金融機関など外国為替市場に取り次ぐという内容の取引であり、証拠金についても一〇〇万ドル以下であれば保証されると誤信して、平成一五年五月二八日、本件契約を締結した上、本件取引を開始し、同日、エメラルド社に証拠金として二万米ドルを送金した。
原告X1は、その後、平成一五年八月二二日に一万ドル、同月二六日に二万ドルを入金したが、同年一一月、追い証が発生したため、一三〇万円を入金した。
(4) 上記認定事実と弁論の全趣旨によれば、原告X1以外の原告らも、原告X1と同様に誤信した上、本件契約を締結して本件取引を開始し、別紙取引一覧表の「振込日」欄記載の日に、同一覧表の「振込額」欄記載の金額(米ドルによるものについては、同一覧表の「振込額円換算」(欄記載の金額)を証拠金として送金したものと認められる。
(5) 以上の(1)ないし(4)の認定事実によれば、被告会社は、本件取引が、実際はエメラルド社と原告ら顧客との相対取引であるにもかかわらず、エメラルド社が外国為替市場において原告ら顧客の注文どおりの外貨売買を行うことを内容とする取引であるという虚偽の説明をし、また、エメラルド社は、実際は、市場気配値を電話で伝える業務を行っていたにすぎず、何ら外国為替取引を行っていなかったにもかかわらず、被告会社は、これを認識しながら、新大友フォレックスの設立及び本件取引の勧誘準備を主導して行った上、本件取引が、顧客がエメラルド社に売買注文を出し、同社が、顧客の注文どおりの外貨売買を他の金融機関などにつないで行うことを内容とする取引であり、エメラルド社が米国でも有数の外国為替取引企業であるとの虚偽の説明をパンフレットや契約書類に記載し、新大友フォレックスに対しても同様に説明し、Aや新大友フォレックスを利用して原告らを勧誘し、原告らに、その旨誤信させて本件契約を締結させ、証拠金を送金させたものである。
そして、本件取引が相対取引であるということは、顧客の損はエメラルド社の利益になり、顧客の利益はエメラルド社の損になるという関係になるから、本件契約の重要な要素であり、相対の相手であるエメラルド社が信用に足りる会社であることも本件取引において重要な要素というべきであるところ、被告会社は、この両方について新大友フォレックスを利用して虚偽の説明をし、原告らに対し、自らの売買注文が、米国有数の外国為替取引企業であるエメラルド社により、他の金融機関など外国為替市場で実行されるものと誤信させて本件契約を締結させ、証拠金として別紙取引一覧表の「振込額」欄記載の金額(米ドルによるものについては、同一覧表の「振込額円換算」欄記載の金額)を送金させたものであり、このような被告会社の行為は、原告らに対する不法行為を構成するというべきである。
(6) これに対し、被告らは、Aは、外国為替証拠金取引の経験があり、同取引が相対取引であることを認識していたものであって、取引内容について誤解はなく、同様に、新大友フォレックスも取引内容について誤解はなかったと主張し、証拠(乙一〇の二)によれば、新大友フォレックスインターナショナルのパンフレットには、「市場の参加者がお互いにレートを出し合い、それぞれ相対で取引をしています」との記載があることが認められる。
しかしながら、Aは、本件取引の内容が、顧客の注文をエメラルド社に流し、同社が注文どおりの取引を別の金融機関との間で行うものであると信じていたと供述している上、<証拠省略>によれば、被告会社が、新大友フォレックスの社員研修の際に使用した資料には、「取引の流れ」と題する説明図が描かれており、「EMERALD WORLDWIDE HOLDINGS INC.」の下欄に「外国為替取引市場」の欄が設けられ、その二つの欄の間には、双方向の矢印が描かれていることが認められ、これらの証拠に照らすと、上記乙一〇号証の二のパンフレットの記載をもって、直ちに、Aが、本件取引が相対取引であると理解していたとは認められない。
また、被告らは、エメラルド社が顧客からの証拠金を保管していたシティバンクの口座が、米国政府の預金保険管理局の保証を受けていたとも主張するが、この事実を認めるに足りる証拠はなく、その他にも、上記認定を左右する証拠はない。
二 争点(2)(被告Y1及び被告Y2の責任)について
上記認定事実及び<証拠省略>によれば、被告Y2は、平成一四年六月一八日以前から被告会社の取締役であったところ、同被告は、本件取引の内容が、実体は市場気配値の伝達しか行っていないエメラルド社を相手とする相対取引であることを知りつつ、米国有数の外国為替取引企業であるエメラルド社が、顧客の外貨売買の注文を他の金融機関等の外国為替市場に取り次ぐ内容の取引であるという虚偽の説明をして顧客を勧誘すべく、Aに働けかけて新大友フォレックスを設立させ、同社を利用して第三者である原告らを本件取引に勧誘し、原告らに本件契約を締結させた上、証拠金を送金させるという違法な行為を主導的に行ったものであり、同被告は、被告会社の取締役としての職務を行うにつき、悪意又は重過失があったと認められ、商法二六六条の三第一項に基づき、原告らに生じた損害を賠償する責任がある。
また、上記認定事実及び<証拠省略>によれば、被告Y1は、平成一四年六月一八日以降、被告会社の代表取締役の地位にあったところ、同被告は、職務を行うにつき悪意又は重過失により、原告らに上記損害を与えたものと認められるから、商法二六六条の三第一項に基づき、原告らに生じた損害を賠償する責任がある。
三 争点(3)(原告らの損害)について
(1) 振込金
前提事実及び前提認定のとおり、原告らは、被告会社及びエメラルド社に対し、本件取引の証拠金として、別紙取引一覧表の「振込額」欄記載の金員(米ドルによるものについては、同一覧表の「振込額円換算」欄記載の金員)を支払ったが、その一方で、原告X1及び原告乙山竹夫については、同一覧表の「返金額」欄記載の金員(米ドルによるものについては、同一覧表の「振込額円換算」欄記載の金員)の返還を受けていると認められるから、原告らの損害額は、それぞれ同一覧表の「被害額」欄記載のとおりとなる。
(2) 弁護士費用
本件事案の内容及び審理経過にかんがみると、被告らの上記認定の不法行為等と相当因果関係にある弁護士費用分の損害は、別紙取引一覧表の「弁護士費用」欄記載の金額が相当と認められる。
四 結論
以上によれば、原告らの請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 端二三彦 裁判官 島田佳子 本松智)
<以下省略>