大阪地方裁判所 平成16年(ワ)8135号 判決 2006年2月22日
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 請求
1 主位的請求
(1) Aと被告とが平成14年7月2日にした別紙物件目録1及び2記載の不動産の売買契約を取り消す。
(2) 被告は、別紙物件目録1記載の不動産について、別紙登記目録1記載の所有権一部移転登記の詐害行為取消を原因とする抹消登記手続をせよ。
(3) 被告は、別紙物件目録2記載の不動産について、別紙登記目録2記載の所有権一部移転登記の詐害行為取消を原因とする抹消登記手続をせよ。
2 予備的請求
(1) Aと被告とが平成14年3月12日にした別紙物件目録1及び2記載の不動産の売買契約を取り消す。
(2) 1(2)、(3)と同じ。
第2 事案の概要
本件は、A(以下「A」という)に対する債権を有する原告が、Aにおいてその所有する土地の持分20分の1と建物の持分4分の1を実妹である被告に売却した契約が詐害行為にあたるとして、その取消と同契約に基づいてされた持分移転登記の抹消登記手続とを、被告に求めた事案である。
1 争いのない事実等
(1) 原告は、平成10年10月1日に株式会社なにわ銀行(以下「なにわ銀行」という)を合併した株式会社なみはや銀行から、平成13年2月13日に営業譲渡を受けたことにより、株式会社なみはや銀行のAに対する債権を承継した。
(2) Aは、B(以下「B」という)の妻であり、Bは平成7年1月24日死亡した。Bには、他の相続人として、Aとの間の子であるC(以下「C」という)、D(以下「D」という)及びE(以下「E」という)がいる。
Bの相続財産たる主な不動産は、別表のとおりであり、所有者欄記載のとおり遺産分割された。
(3) 被告は、Aの実妹である。
Aは、別紙物件目録記載の土地及び建物(井上ビル)(別表番号1、2の1、2の2のもの。以下「本件不動産」という)を単独で所有していたが、被告に対し、平成14年7月2日売買を原因として、同日、土地の持分20分の1、建物の持分4分の1につき所有権一部移転登記手続をした(以下この登記に対応する売買を「本件売買」という)。
2 主たる争点とこれに対する当事者の主張の要旨
(1) 本件売買の日
(原告の主張)
本件売買は、所有権一部移転登記に記載されたとおり、平成14年7月2日にされたものである。
なお、予備的に、被告主張の平成14年3月12日売買を前提とした主張をする。以下、同日売買を前提にした主張を〔 〕書で示し、主位的主張と共通する部分は記載しない場合がある。
(被告の主張)
本件売買の契約は、平成14年3月12日に締結された。
(2) 本件売買時の被保全債権額
(原告の主張)
ア(ア) なにわ銀行は、Bに対して、平成6年6月29日、弁済期を平成7年6月30日と定めて、手形貸付の方法により5000万円を貸し付けた(本件手形貸付1)。
(イ) なにわ銀行は、Bに対して、平成3年8月29日、弁済期を平成4年8月31日と定めて、手形貸付の方法により1億5000万円を貸し付けた(本件手形貸付2)。
(ウ) なにわ銀行は、Bに対して、昭和63年9月28日、弁済期を平成元年9月30日と定めて、外貨手形貸付の方法により97万$(約1億3000万円)を貸し付けた。なにわ銀行及びAは、平成7年1月31日、外貨建債権を円建債権に振り替える旨合意した(本件手形貸付3)。
なお、被告の主張アの弁済の主張は否認する。
(エ) なにわ銀行は、Bに対して、平成元年9月11日、弁済期を平成2年5月11日と定めて、外貨手形貸付の方法により69万$(約1億円)を貸し付けた。なにわ銀行及びAは、平成7年1月31日、外貨建債権を円建債権に振り替える旨合意した。(本件手形貸付4)。
(オ) 富士火災海上保険株式会社(以下「富士火災海上保険」という)は、Bに対して、平成3年9月30日、弁済期を平成6年9月30日と定めて金3億円を貸し付けた。Bは、平成3年9月30日、なにわ銀行に対し、<1>Bは、上記借入をするについて、なにわ銀行に保証を委託し、なにわ銀行は、Bの委託を受けて、富士火災海上保険に対しBの富士火災海上保険に対する債務を保証する、<2>なにわ銀行は、Bに対して事前の通知を要せずに、任意に富士火災海上保険に代位弁済することができるとの内容の保証委託契約を締結した。なにわ銀行は、本件保証委託契約に基づき、同日、Bの借入金債務について、富士火災海上保険に対し連帯保証をした。
イ(ア) Aは、平成8年2月29日、他の相続人であるC、D及びEが相続によって承継した債務を重畳的に債務引受した。
(イ) Aは、自己の意思に基づいて、「平成8年2月29日AはD、E並びにCの債務を重畳的債務引受」を原因として、根抵当権上の債務者を、A、C、D、Eの4名から、A及びCの2名とする旨の債務者変更(肩書きも「債務者」から「連帯債務者」に変更)の登記申請手続を行った。
(ウ) 本件手形貸付1~4にかかる約束手形の書替えに際し、A及びCは、連名で署名押印したので、所持人である原告やなにわ銀行等に対して、法律上、合同して支払う責任を有している。
(エ) Aは、平成12年11月13日付譲渡承諾書に署名押印し、Bの相続債務の2分の1ではなく、全額に相当する債務を自分が承継して、自分が負担していることを、原告に対して確認した。
(オ) Aは、平成3年8月23日、なにわ銀行に対し、Bが、なにわ銀行との間の銀行取引約定に基づいて負担する一切の債務を、Bと連帯して保証する旨約した。
(カ) Aは、平成3年9月30日、なにわ銀行に対し、Bが、なにわ銀行との間の支払承諾約定に基づいて負担する一切の債務を、Bと連帯して保証する旨約した。
ウ Aは、原告に対して、平成14年7月2日時点で〔平成14年3月12日時点で〕、手形貸付1残元金785万円〔1325万円〕、手形貸付2元金1億5000万円、手形貸付3残元金1億2900万円、手形貸付4残元金7300万円、保証委託契約に基づく将来の求償債務元金3億円の合計6億5985万円〔6億6525万円〕もの支払債務を負担していた。
(被告の主張)
ア 原告の主張ア(ア)、(イ)、(オ)は知らない。ア(ウ)、(エ)は否認する。
なお、ア(ウ)は平成2年3月9日までに弁済済みである。
イ 原告の主張イ(ア)は否認する。Aは、なにわ銀行の担当者から、AとCがそれぞれ2分の1の割合で債務を承継する、他方、EとDの債務については、免除し、ただ、相続した財産の限度において物上保証人として責任を負うとの説明を受けたものである。イ(イ)、(ウ)、(エ)は、Aがなにわ銀行の担当者の上記説明を信じてしたものである。
原告の主張イ(オ)、(カ)は否認する。BがAに無断でしたものである。
ウ 原告の主張ウは争う。
(3) 現在の被保全債権額
(原告の主張)
原告は、富士火災海上保険に対し、平成14年10月1日、借入元金3億円及び利息1万5616円の合計3億0001万5616円を代位弁済し、同額の求償債権を取得した。Aは、原告に対して、平成16年11月1日現在でも、本件保証委託契約に基づく求償債権残元金1億5963万6878円、確定遅延損害金(求償債権元金3億0001万5616円に対する代位弁済の翌日である平成14年10月2日から最終内入日である平成16年6月17まで625日間の年14%の割合(年365日の日割計算)による遅延損害金)7168万5479円、遅延損害金(求償債権残元金1億5963万6878円に対する最終内入日の翌日である平成16年6月18日から平成16年11月1日まで137日間の年14%の割合(年365日の日割計算)による遅延損害金)838万8589円の合計2億3971万0946円もの支払債務を負担している。
なお、平成14年7月2日時点での債務額との差額については、原告が、Aを根抵当権上の債務者とする根抵当権を順次実行して、債権の一部を回収したためである。
(被告の主張)
原告の主張は争う。
(4) 本件売買時のAの無資力
(原告の主張)
ア Aは、平成14年7月2日当時〔平成14年3月12日当時〕、本件不動産の他にも、別表番号3~6の各土地を所有していたが、同土地の固定資産評価額は合計1億5007万3559円であった。
なお、原告は、同土地について極度額11億円の共同根抵当権(以下「本件共同根抵当権」という)の設定を受けていたが、上記のとおり、Aは、原告に対して、平成14年7月2日時点で〔平成14年3月12日時点で〕、6億5985万円〔6億6525万円〕の債務を負担していたので、同土地については、一般債権に対する余剰は見込めない状況であり、原告としては、5億0977万6441円〔5億1517万6441万円〕の担保割れが生じていた。
イ また、Aは、平成14年7月2日当時〔平成14年3月12日当時〕、別表番号7、8の土地及び建物を所有していたが、同土地及び建物の固定資産評価額は合計で4075万2622円であった。
しかし、同土地及び建物については、債権額合計金5412万5080円の抵当権が設定されており、延滞税を考慮すれば、一般債権者に対する余剰は見込めなかったと考えられる。
ウ さらに、Aは、平成14年7月2日当時〔平成14年3月12日当時〕、別表番号9、10の土地及び建物を所有していたが、同土地及び建物の固定資産評価額は合計金7503万9400円であった。
しかし、同不動産には極度額1億8000万円の根抵当権が設定されていることから、余剰は見込めない状況であった。
エ 平成14年7月2日当時〔平成14年3月12日当時〕、Aには、上記不動産の他には、〔2025万2909円の預金以外、〕一般債権の引き当てとなるべき換価価値のある資産は、特に見あたらなかった。
オ 以上の通り、本件売買契約がなされた平成14年7月2日当時〔平成14年3月12日当時〕、Aは、一般債権に対する引き当てとなる財産は、固定資産評価額合計が2億6033万4162円の本件不動産〔及び2025万2909円の預金〕のみであった。
一方、Aは、原告に対して担保割れとなっていた5億0977万6441円〔5億1517万6441円〕の債務を負担していた。
よって、Aは、平成14年7月2日当時、2億4944万2279円〔2億3458万9370円〕という大幅な債務超過に陥っていた。
(被告の主張)
ア Aの不動産所有とその固定資産評価額は認める。しかし、不動産の価格は時価で評価すべきであり、固定資産評価額は、市町村の税務課にある固定資産課税台帳に登録されている土地や建物の評価額のことであり、時価の60~70%相当額とされているので、これを時価とするのは相当ではない。
イ 別表番号11~13の土地は、EとDが共有し、本件共同根抵当権が設定されているが、EとDは債務免除を受ける代わりに、相続した不動産の限度で物上保証人としての責任を負うことを甘受するということであり、その中には、当然、その責任のために不動産を失ったとしても債務を肩代わりしたAらには何らの請求もしない旨の意思、つまり、求償債権を放棄する意思も含まれていた。したがって、Aの無資力を判断するに当たっては、Aの債務額から、EとD所有の不動産の価額を控除すべきである。
ウ 別表番号14~17の土地は、Cが所有し、本件共同根抵当権が設定されているところ、CがAと重畳的債務引受をした連帯債務者であれば、CがAに求償権を取得するのは、その負担部分に限られ、CとAとの負担部分は各2分の1であり、C所有の不動産の価額の2分の1は求償の対象とならないから、その金額はAの債務額から控除すべきである。
(5) 現在のAの無資力
(原告の主張)
ア 現在、Aは、本件不動産の土地(20分の19)及び建物(4分の3)の共有持分を有しているが、その固定資産評価額は、土地が8205万9555円、建物が1億0689万4580円で、合計1億8895万4135円である。また、本件土地は共有になっていることから、建物には法定地上権は成立しない。
イ Aは、現在、他にも、別表番号7、8の土地(20分の19)及び建物(自宅)(2分の1)の共有持分を有するが、Aの共有持分の固定資産評価額は、土地が3135万1276円、建物が60万2541円であり、合計で3195万3817円である。
しかし、同土地及び建物については、債権額合計5412万5080円の抵当権が設定されたままで、延滞税を考慮すれば、一般債権者に対する余剰は見込めないと考えられる。
ウ さらに、Aは、別表番号9、10の土地及び同土地上の建物を所有しているが、同土地及び建物の固定資産評価額は合計6722万9000円である。
しかし、同不動産には極度額1億8000万円の根抵当権が設定されていることから、余剰は見込めない状況である。
エ 現在、Aには、上記不動産の他には、一般債権の引当てとなるべき換価価値のある資産は、特に見あたらない。
なお、Aが所有していた別表番号3~6の各土地については、平成15年10月30日、競売により売却されている。
オ 以上のとおり、現在、Aは、一般債権に対する引当てとなる財産は、固定資産評価額合計が1億8895万4135円の本件不動産の共有持分のみである。
一方、Aは、原告に対して、平成16年11月1日時点で、合計2億3971万0946円の何らの担保権の設定のない債務を負担している。
よって、Aは、平成16年11月1日時点でも、5075万6811円の債務超過に陥っており、今後も残元金1億5963万6878円に対する年14%の割合(年365日の日割計算)による遅延損害金が発生していくことから、債務超過の額が増加していくことになる。
(被告の主張)
Aの不動産所有とその固定資産評価額は認める。
(6) Aの害意
(原告の主張)
Aは、本件売買が原告を害するものであると認識していた。
(被告の主張)
Aは、本件売買が原告を害するものであるとは認識していなかった。
(7) 被告の善意
(被告の主張)
被告は、本件売買が原告を害するものであるとは認識していなかった。
(原告の主張)
被告が、本件売買が原告を害するものであると認識していた。
第3 当裁判所の判断
1 主たる争点(2)(本件売買時の被保全債権額)について
(1) 証拠(甲3、6~11、59、61、乙22~24)及び弁論の全趣旨によれば、主たる争点(2)原告の主張ア記載の各債務、すなわち、本件手形貸付1~4にかかる各債務及び富士火災海上保険への連帯保証の求償債務は、Bのなにわ銀行に対する相続債務として、認めることができる。
なお、証拠(甲62、63)及び弁論の全趣旨によれば、本件手形貸付3は、平成元年9月28日に借り換えられているものと認められ、実質的に弁済があったものとはいえない。
(2) 「債務承継及び根抵当権変更契約書(兼相続届)」との表題の平成8年2月29日付けの書面(甲3)が真正に作成されたことは争いがない。その第1条には、「被相続人Bは平成7年1月24日死亡しました。被相続人が死亡日現在株式会社なにわ銀行に対して負担していた後記イ.記載の債務(これに付帯する一切の債務を含む。以下同じ。)につきましては、A及びCが株式会社なにわ銀行の承認を受けて、その全額につきAはD、E並びにCの及びCはD、E並びにAの債務を重畳的に債務引受し各契約上の地位を承継しましたので、被相続人が株式会社なにわ銀行に差し入れていました後記イ.記載の契約書の諸条項を承認のうえ、引続き債務履行の責を負います。」と記載されている。また、A及びCが署名押印した欄は「相続人兼根抵当権設定者兼連帯債務者」とされている。後記イ.には、本件手形貸付1~4にかかる各債務及び保証委託契約に基づく将来の求償債務が含まれている。
確かに、被告が指摘するとおり、第1条は非常に拙劣な文章であり、後記イ.の末尾には、「以上上記債務につきA2分の1、C2分の1を引き受けるものとする。」と記載され、第1条の記載内容とは相容れないようにも読める。
しかし、第1条で重畳的に債務引受するとの文言が明確に用いられていることからすると、A及びCが、Bの相続債務全体を重畳的に引き受けたものということができる。
また、これらの債務を被担保債権とする極度額11億円の共同根抵当権設定登記(甲19~22、乙4~10)では、「平成8年2月29日AはD、E並びにCの及びCはD、E並びにAの債務を重畳的引受」を原因欄に記載されたうえ、A及びCを連帯債務者とする変更登記がされているところでもある。
そうすると、Aは、Cと連帯し、D、Eの相続分については同人らと重畳的に、Bの相続債務を負担し、AとCの負担部分は各2分の1であるということができる。
2 主たる争点(4)(本件売買時のAの無資力)について
(1) Cは、別表番号14~17の土地及び建物を所有しており、極度額11億円の本件共同根抵当権の設定を受けている(乙7~10)。平成15年度の固定資産評価額は、別表番号14の土地が3118万2198円、別表番号15の建物が186万5892円、別表番号16の土地が1億5693万8204円、別表番号17の土地が1億3924万1908円で、合計3億2922万8202円である(乙73、74の各1)。また、被告が私的に依頼した不動産業者の平成14年3月時点での評価(乙31)によると、別表番号14、15の土地及び建物の時価は5887万円、別表番号16、17の土地の時価は5億3220万円で、合計5億9107万円とされる。
Cは、Bの相続債務を、連帯債務としてAと重畳的に引受け、その負担部分が各2分の1ずつであることは前記のとおりである。平成14年7月2日時点で〔平成14年3月12日時点で〕、相続債務の合計額は6億5985万円〔6億6525万円〕であった。Cの負担部分はその2分の1であるから、平成14年7月2日時点で〔平成14年3月12日時点で〕、3億2992万5000円〔3億3262万5000円〕となる。
ここで、上記乙31の時価評価が相当であるとすると、連帯債務者であるAから求償されても、十分担保しうる金額であり、平成15年度の固定資産評価額を基準にすると、69万6798円〔339万6798円〕不足することになる。しかし、別表番号1~6、9、10の土地及び建物の平成14年度と平成15年度との固定資産評価額の比較(甲17、23、30、31、乙68の1、71の1、80の1)からして、別表番号14~17の土地及び建物の平成14年度の固定資産評価額は平成15年度よりも上記不足額以上に高かったとみられるから、連帯債務者であるAから求償されても、担保しうる金額であるといえる。
また、固定資産評価額は取引価格(地価公示価格)の7割程度であるとされること(乙62~65)からすると、より一層上記の求償額を担保できるといえる。
もとより、前記のとおり、原告は、C所有の別表番号14~17の土地及び建物に、極度額11億円の本件共同根抵当権の設定を受けているわけであるから、CがAと重畳的に引受けたBの相続債務全体について、自ら優先的に債権回収を行うこともできるわけである。
以上によると、Bの相続債務のうちCの負担部分については、Aの資力を評価する際には、債務額から控除するのが相当である。
(2) Aは、摂津信用金庫に対して、平成14年3月12日当時、1億0060万円の債務があり(乙32)、別表番号9、10の土地及び建物に極度額1億8000万円の共同根抵当権の設定を受けていた(甲28、29)。この土地及び建物の平成14年度の固定資産評価額は合計7503万9400円で、乙31の時価評価は1億0023万円とされていた。固定資産評価額を基準にすると、2556万0600円の担保割れが生じていたことになる。
また、別表番号7、8の土地及び建物には、C、D、Eを債務者とする相続税債権合計5412万5080円を被担保債権とする抵当権が設定されており(甲24、25)、平成14年度の固定資産評価額は合計4075万2622円であるから、固定資産評価額を基準にすると、余剰はないことになる。
そこで、Aのなにわ銀行に対するBの相続債務の負担部分2分の1にあたる3億3262万5000円と上記2556万0600円の合計3億5818万5600円の債務を基準に、平成14年3月12日当時のAの資力を評価すべきことになる。なお、平成14年3月12日当時であっても、Aの債務が上記金額を上回るとの証拠はないので、同様である。
Aは、平成14年7月2日時点で〔平成14年3月12日時点で〕、本件不動産の他にも、別表番号3~6の土地及び建物を所有していたが、これらの平成14年度固定資産評価額は合計1億5007万3559円であった。
また、本件不動産の平成14年度固定資産評価額は、土地が1億0157万5271円、建物が1億5875万8891円であった(甲17)から、本件売買後のAの持分については、土地が20分の19である9649万6507円、建物が4分の3である1億1906万9168円の合計2億1556万5675円である。
そうすると、別表番号3~6の土地及び建物と本件不動産のAの持分の平成14年度固定資産評価額合計だけでも3億6563万9234円である。
これだけでも、上記の債務3億5818万5600円を上回っており、固定資産評価額は取引価格(地価公示価格)の7割程度であることや、Aには平成14年3月12日時点で約2000万円の預金債権もあったことからすると、本件不動産についてはAは完全な所有権でなく持分を有するだけであって単純に本件不動産の時価に持分割合を乗じるだけでは持分の時価とはいえないことを考慮しても、本件売買当時、Aは無資力であったとは到底いえない。
3 以上によると、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから棄却する。
(裁判官 〓華聡之)
(別紙)物件目録<略>
(別紙)登記目録<略>
(別表)
<省略>