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大阪地方裁判所 平成17年(わ)3116号 判決 2008年3月11日

主文

1  被告人A関係

被告人Aを懲役5年に処する。

未決勾留日数中100日をその刑に算入する。

訴訟費用中8万円は被告人Aの負担とする。

2  被告人B関係

被告人Bを懲役3年に処する。

この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する。

訴訟費用中1万円は被告人Bの負担とする。

3  被告人C関係

被告人Cを懲役3年に処する。

この裁判確定の日から5年間その刑の執行を猶予する。

訴訟費用中1万円は被告人Cの負担とする。

本件公訴事実中,平成17年6月7日付け起訴状記載の公訴事実(戊辰リサイクル事件)については,被告人Cは無罪。

理由

(罪となるべき事実)

(各事実の番号の後の括弧内は,対応する起訴状の日付である。)

第1(平成17年6月7日付け-戊辰リサイクル事件)

被告人A≪略≫は,甲子フードサービス≪略≫の代表取締役であったもの,被告人B≪略≫は乙丑ソース≪略≫の代表取締役であったものであるが,同社に出入りし,新規事業部環境保全室長との肩書を付した名刺を乙丑ソースから交付されていたとともに,コンピュータ関連用品の販売等を業とする丙寅システムの代表取締役であり,また,Aとも親交のあった分離前の相被告人D≪略≫,Bの従兄弟で,同社に出入りしていた分離前の相被告人E≪略≫,丁卯社≪略≫の代表取締役F,同社従業員G≪略≫及び戊辰リサイクル事業協同組合(≪略≫。以下「戊辰リサイクル」という。)代表理事Hらと共謀の上,戊辰リサイクルが己巳社≪略≫から代金5000万円で購入して戊辰リサイクルに搬入することにしていた炭化炉等の産業廃棄物処理設備1式が,溶融炉と称される高額・高性能の焼却設備を含む産業廃棄物処理設備1式であるかのように装い,同設備を割賦販売対象物件として利用し,リース会社から金員をだまし取ろうと企て,

1  平成13年11月21日ころ,東京都千代田区≪略≫所在の帝国ホテル1階において,庚午リース株式会社≪略≫情報通信第一部長Iに対し,Aから「私の部下であり,今は乙丑ソースに送り込んでいるものだ。」と紹介されたDが,「乙丑ソースでは,自社の廃棄物処理のニーズも含め,戊辰リサイクルと共同で産業廃棄物処理のための事業展開をすることになり,そのために戊辰リサイクルが購入して稼動させる溶融設備の代金が,全部で7億5000万円ほどになる。」などとうそを言った上,更に,A,D,F,E及びGは,上記溶融設備等の販売見積代金が7億8823万5000円であるなどと虚偽の事実を記載した己巳社名義の見積書を偽造し,庚午リースに対し提示して行使する旨共謀し,同月27日ころ,大阪市福島区≪略≫所在の乙丑ソースビル内において,行使の目的で,ほしいままに,Dが,丁卯社あての見積書として,同社から更に上記設備を購入したリース会社と戊辰リサイクルとのリース契約の締結を条件とした同設備の販売見積代金が7億8823万5000円であるなどと虚偽の事実を記載した上,その作成者として「己巳社」,「埼玉県浦和市≪略≫」と偽って書くなどし,もって,己巳社作成名義の見積書1通を偽造した上,そのころ,Dの指示を受けた乙丑ソース従業員が,上記見積書が真正に成立したもののように装って,前記乙丑ソースビル内に置かれていた乙丑ソースの本店事務所から東京都中央区≪略≫所在の新室町ビル内の庚午リース情報通信第一部にファクシミリで送信し,Iらに対し,上記見積書を提示して行使し,更に,同年12月14日ころ,福井市≪略≫所在の戊辰リサイクル事務所において,Eが,上記炭化炉に「溶融設備」と記載された紙片を貼り付けた上,D及びHが,Iらに対し,上記炭化炉が割賦販売契約の対象となる溶融設備等である旨虚偽の説明をし,更に,同日ころ,上記乙丑ソースの本店事務所において,Aが,Iらに対し,「乙丑ソースと甲子フードサービスは一体。」,「乙丑ソースはソース製造の過程で汚泥が発生し従来は海洋投棄してきたが数年内に禁止されるのが見えている。甲子フードサービスは各食堂から,「残飯」という形で汚泥が発生する。いずれにしても,進出しなくてはならない事業であり,この1年半ほど,検討してきた。」,「早急に前向きな結論を出してほしい。」などと述べ,以上の一連の行為により,I及び同人らから報告を受けた庚午リース代表取締役社長≪略≫に上記設備1式が合計7億8000万円相当の価値を有すると誤信させ,同月17日,上記設備1式のうち溶融設備をサプライヤーである丁卯社から庚午リースが購入し,これを戊辰リサイクルに割賦販売する旨の契約を締結させ,よって,同契約に基づいて,同月25日,≪略≫庚午リースの普通預金口座から≪略≫丁卯社名義の普通預金口座に,上記溶融設備の購入代金として2億6649万円を振込送金させ,もって,人を欺いて財物を交付させた。

2  更に,己巳社代表取締役Jとも前同様にリース会社から金員をだまし取ることを共謀の上,平成13年12月上旬ころ,東京都文京区≪略≫所在の丁卯社事務所において,辛未リース株式会社≪略≫池袋支店営業社員Kに対し,Fが,「戊辰リサイクルが新しく導入する溶融設備は,総額7億5000万円程度であるが,庚午リースは,2億5000万円しか出せないと言っている。しかし,この事業は,乙丑ソースと甲子フードサービスが後ろ盾になってやると言っているので,辛未リースで残りの5億円くらいを引き受けてくれないか。」などと言って,割賦対象物件の内容及びその価額についてうそを言った上,同月14日ころ,前記1と同様に,前記戊辰リサイクルの事務所において,D及びHが,辛未リース池袋支店長L及びKらに対し,割賦対象物件の内容等についてうそを言い,また,乙丑ソースの本店事務所においてAが「早急に前向きな結論を出してほしい。」などと述べ,更に,Jが,同月19日ころ,さいたま市≪略≫所在の己巳社事務所において,L及びKらに対し,戊辰リサイクルに売却した設備は約7億8000万円の価値がある旨うそを言うなどし,以上の一連の行為により,L,K及び同人らから報告を受けた辛未リース代表取締役社長≪略≫に上記設備1式が合計7億8000万円相当の価値を有すると誤信させ,平成14年1月25日,上記設備1式のうち上記溶融設備以外の排煙処理設備等の溶融炉プラント1式を,サプライヤーである丁卯社から辛未リースが購入し,これを甲子フードサービスに戊辰リサイクルへの転売特約付きで割賦販売する旨の契約を締結させ,よって,同契約に基づいて,同月31日,≪略≫辛未リースの普通預金口座から前記丁卯社名義の普通預金口座に,上記排煙設備等の溶融炉プラントの購入代金として5億2174万4475円を振込送金させ,もって,人を欺いて財物を交付させた。

第2(平成17年6月28日付け-壬申銀行事件)

Aは,前記のとおり甲子フードサービスの代表取締役,及び,同社向けのリース事業を営むことを主たる目的とする癸酉社≪略≫の代表取締役であったもの,被告人C≪略≫は,甲戌社≪略≫の実質的オーナーであったものであるが,

1  Aは,平成15年4月23日ころから,壬申銀行≪略≫行員ら(同銀行法人開発部長M及び同部マネージャーN)に対し,「甲子フードサービスでは,全営業所を対象にして,食材等の仕入,在庫管理,社員の出退勤管理,売上状況管理などのためのコンピュータ管理システムを導入することとした。癸酉社が甲戌社からコンピュータ管理システムを購入し,これを甲子フードサービスにリースする契約をしたいと考えている。」などと述べて,同システム購入代金について,融資の申し込みに関する一般的な相談をしていたところ,壬申銀行から融資金の名目で金員をだまし取ろうと企て,同年6月20日ころ,東京都港区≪略≫所在の壬申銀行本店において,同銀行信用リスクマネジメント本部ゼネラルマネージャーO,上記M及び同銀行法人開発部員Pに対し,真実は,癸酉社が甲戌社から代金約11億円でコンピュータシステムを購入する計画は,実現の目処が立っておらず,そのための資金需要は存在せず,借り入れた資金を返済する意思も能力もないのに,これがあるように装った上,「甲子フードサービスは,食材の仕入や在庫管理,従業員の勤怠管理のシステムをこれまでマニュアルで行ってきたが,非効率で無駄が多いことからコンピュータ管理に移行しようと考えている。」,「そこで,今回は,甲子フードサービスの子会社である癸酉社に,コンピュータ会社から管理システムを購入させ,これを甲子フードサービスにリースしようと考えているが,購入に11億円かかるので,これを癸酉社に融資していただきたい。」などとうそを言い,更に,甲戌社従業員Qらに作成させた甲戌社作成名義のいずれも内容虚偽の見積金額合計6億2716万5000円及び同4億8814万5000円の見積書2通並びに請求金額を前記各同額とする請求書2通等を,同年7月16日ころ,上記Pに宛てて,大阪市福島区≪略≫所在の甲子フードサービス事務所から壬申銀行の上記本店にファクシミリで送信するなどして,壬申銀行に対し癸酉社に同銀行から11億円を融資するよう申し込み,上記Pにその旨誤信させて同社に11億円の証書貸付を行う旨の融資稟議書を作成させ,その決裁を求められた上記Oらに同様に誤信させてその旨融資の決定をさせ,よって,同年7月18日,上記Oの指示を受けた同銀行係員に,11億円から初回利息相当額及び印紙代を差し引いた10億9818万2576円を同銀行における癸酉社名義の普通預金口座に入金させ,もって,人を欺いて財物を交付させた。

2  Aが前記第2の1記載の犯行をするに際し,Aから総額約11億円のコンピュータシステムの内容虚偽の見積書の作成を依頼され,同年6月下旬,大阪市福島区内の前記乙丑ソースビル内において,これに応じるべきか相談してきた前記Qに対し,Cは,代金約11億円でコンピュータシステムを購入する計画は,実現の目処が立っておらず,そのための資金需要は存在しないことを知りながら,「できることは協力してあげて。」などと言って,Aの前記依頼に応えるように指示して,Qが前記見積書等を作成するに至らせるなどし,Aの上記犯行を容易にし,もって詐欺を幇助した。

(証拠の標目)

[注] 以下の記載においては,下記のとおりの例による。

①  かっこ内の甲乙の数字は検察官請求の,弁の数字は弁護人請求の,各証拠番号を示す。

②  証拠番号の特定は,職権で取り調べたものであっても,検察官又は弁護人の請求のものについては,甲乙弁の数字による。

③  証拠物についても,証拠番号で特定し,重ねて押収番号又は領置番号を付することはしない。

④  以下の各証拠書類の中に,原本のほか謄本又は写しで取り調べたものがあっても,個々の証拠にはその旨の記載はしない。

⑤  公判手続の更新の前後を問わず,公判での供述は,「証人Dの公判供述」等と表記する。

⑥  別紙1の略語表記載の略語を用いることがある。

≪略≫

(証拠の表記方法等について)

なお,本件で証拠を引用する場合,証拠の標目の記載例に加えて,証人尋問及び被告人質問については,公判手続の前後を問わず,供述人名,公判回数(尋問等期日が複数にわたる場合などに適宜記載),尋問等調書の頁数(適宜記載することがある。)を,「I公判」,「I1」「D13回1」のように記す。また,証拠書類中,提示用書面(甲109・弁337,甲110・弁338)に含まれているものについては,別に甲乙弁で取調べがなされていても,戊辰リサイクル事件関係は「戊辰1」,壬申銀行事件関係は「スター1」などと,提示用書面の番号をそれぞれ略記することがある。

また,特に本文中に引用した証拠のほか,参照すべき証拠を【 】内に付記するが,その際も上記の例による。供述証拠の参照箇所は,主な回数・丁数のみを挙げることがある。

本文中,別紙1略語表記載の略語表を用いるほか,人名については,2回目以降は姓のみ記し,法人名については,株式会社等の表示を省略することがある。

(Cの検察官調書の証拠能力について)

第1争点

Cの弁護人は,同意の上実質証拠として取調済みのCの検察官調書(乙16ないし乙20及び乙42ないし乙44。以下,「本件検察官調書」ということがある。)は,取調べ検察官による早期の保釈や余罪による再逮捕をしないとの約束等の利益誘導や脅迫等によって獲得されたものであるから,任意性を欠き,証拠排除されなければならないと主張し,Cは公判でこれに沿う供述をする。

他方,検察官は,取調官は保釈や余罪不立件の約束などしておらず,本件検察官調書には任意性を欠くことはなく,証拠能力が認められると主張する。

そこで,以下,本件検察官調書におけるCの供述が任意にされたものでない疑いのある自白か否か検討する。

第2前提事実及び供述要旨

一件記録によれば,以下の事実が認められる。また,取調べ状況に関するC及びR検事の供述の要旨も適宜記載する。

なお,平成17年の出来事については,月日のみ示すことがある。

また,取調べ時間,接見時間及び供述経過(検察官調書における認否)は別紙2「取調べ経過一覧表」のとおりである。

1  戊辰リサイクル事件での逮捕勾留期間の状況

(1) 逮捕勾留当初の状況

① 平成17年5月18日,Cは,戊辰リサイクル事件について,逮捕された。逮捕者はR検事であった。以後,Cの取調べは,R検事が担当した。

② Cは,平成3年に右睾丸腫瘍により手術を受け,悪性のため,また,転移が認められたために,化学療法を受けたことがあり(平成17年9月3日付け医師作成の診断書),Cは,取調べ期間中,右睾丸腫瘍を患ったことに言及し,同検事にも手足のしびれ等の後遺症状等の体調不良を訴え,R検事が手配して,Cが医師の診察を受けたことがあった。【C24回41,R49】

③ 5月18日,Cは,検察官による弁解録取手続において,戊辰リサイクル事件について,「金をだまし取ったことはない。」,「偽造見積書を誰が作ったのかは分からない。」旨犯行を否認する供述をした。【弁210】

④ 同日,Cの身上調書(乙15)が作成された。

⑤ 同月19日,Cは,戊辰リサイクル事件について,勾留され,接見等禁止を付された。

⑥ 同日の勾留質問において,Cは,前記弁解録取時と同旨の供述をしたほか,「炭化炉5000万円については設備の一部という認識でした。その炭化炉を含む設備が,戊辰リサイクルの事業設備だと思っていました。それで戊辰リサイクルの事業ができるものと思っていました。」と犯行を否認する旨の供述をした。【弁211】

(2) 5月20日以降の状況[自認に転じた時期の状況]

① 5月20日午前8時52分から午前9時12分の間,S弁護士及びT弁護士は,Cと接見した。【弁209】

(Cは,同日の接見の際,「S弁護士から,「乙丑ソースがこの事件で資金繰りもうまくいかないので,会社更生法の申請を考えている。」,「事件があと3つも4つもあるよ。」など言われた。」と供述する。【C24回51】)

② 同日,Cは,S弁護士及びT弁護士を弁護人に選任した(なお,T弁護士は,これに先立つ同月17日,Bの弁護人に選任されていた。)。

③ Cは,R検事に対し,「乙丑ソースが会社更生法の申請をして大変なので,自分も何とか乙丑ソースのために働きたい,早く出たい。」と言っていた。Cが,妻に会いたいと言っていたこともあった。【C24回58,69,R52-54,113】

④ 同日,Cは,戊辰リサイクル事件について,詐欺等を概括的に認める旨の本文2頁の検察官調書に署名指印した。同検察官調書には,そのほか事実関係についての具体的な供述は記載されていない。【乙45,C24回57,R59】

(Cは,一転自白に至った経緯に関し,「5月20日の朝に乙丑ソースが会社更生法の申請を出すと聞いてショックを受け,どうしても出たいと思った。R検事から,「出るためにはこういう方法しかないよ。」,「1日も早くあなたも出て行かれるために,やんなさい。」,「みんなが,他の関係者が詐欺と認めているんだから,その詐欺に関する部分は認めなさい。」と言われたため,同検察官調書に署名指印した。」,「認めなければ保釈されないという話は,会社更生の話を弁護人から聞いて,検事に相談して以降,ずっとあった。」と供述する(もっとも,「認めれば間違いなく保釈されると言われたわけではない。」とも供述する。)。【C24回58,25回59,97】

また,Cは,「R検事から,「検察は逮捕した限りは必ず起訴する。起訴された段階で否認をしてれば,接見禁止がついたまま2年も3年も出れないよ。否認して,裁判になって有罪になったら刑はもっと重くなる。」などと何度も言われた。」などと供述する。【C24回63】

これに対し,R検事は,これらの点を否定し,保釈や接見等禁止の解除については,「一般論として,否認していると認められにくく,自白していると認められやすいが,ケースバイケースであると言った。」,「Cは,「自分自身,悪いことをしたんであれば,したということで,やっぱりきちっと正直に認めていった方がいいと思う。少しでも早く社会復帰して,乙丑ソースのためにまたいろいろがんばってやりたい。」と言って,簡単ながらも,詐欺の事実を認める供述をしたもので,C自身が,「嘘をついて否認するよりも,やはり,きちんと正直に話していったほうが,今後,自分がどういうふうな処分になるにしろ,自分にとって,そっちの方が,選択肢としてやっぱりいいんじゃないか。」と考え,自白に転じたのと思う。」旨供述する。【R5-9,11,12,58,59】

R検事は,「一般的な話をした後,Cから,本件ではどうなのかと聞かれたこともあったと思う。どうなるか分からないと答えると,Cは,もっとはっきり言ってほしいという感じはあった。はっきりして下さい,とは言っていない。」と供述する。【R56】)

⑤ 同月21日から24日まで,R検事は,Cを取調べたが,検察官調書は作成しなかった。

(3) 5月25日ころ以降の状況[詳しい自白調書作成時期の状況]

① 5月25日,Cは,本文17頁の検察官調書(乙16)に署名指印した。同調書には,犯行を認めることを前提に,事件に至る経緯として,乙丑ソースの簿外債務処理に関与するようになった経緯や,Aらに対し,簿外債務の責任を追及した状況が録取されている。【乙16】

② 同検察官調書に署名指印した理由の1つとして,Cは,R検事から,平成13年11月30日付け借用書(戊辰33)を示され,「これこそ乙丑ソースとお前がこの詐欺をしようとした動かぬ証拠である。」と言われたなどと供述する。【C24回67】

③ CとR検事の間で,戊辰リサイクル事件で勾留中,他に余罪での再逮捕があるか,話題となったことがあった。【C24回72,25回59,61,96,R12】

(Cは,「身柄拘束後1週間後くらいには,R検事は,戊辰リサイクル事件の捜査が終わったら,公判前でも出られるように,上申書を書いたり,協力できると常々言っていたので,調書も抵抗しながらもできていた。R検事は,不起訴について,「間違いなくできる。」とは言っていないし,R検事は,この事件しか起訴されないとはっきり言ったのではないが,「この事件以外にはないと思う。」と言っていた。」,「戊辰リサイクル事件で起訴されれば,保釈になると思っていた。R検事が,取調べ検事として,上申書にCの保釈が実現するように文章を書くという条件で,色々話をしていた。」,「R検事からは,「ケース・バイ・ケースであるけれども,一番早いときは,20日間の勾留期限が終わったら出られる場合もある。」,「公判前にも保釈されることはある。」と言われていた。」,「「認めた場合どうなるんですかね。」という話のなかで,R検事から,「初犯だから,執行猶予だとおれは思うよ。」と聞いた。弁護士からは,説明は受けていない。」と供述する。【C24回72,25回59,61,71,96,104】)

R検事はこれを否定し,「Cから,「何かこの事件以外でも再逮捕されることがあるんですか。」と聞かれたが,勾留満期の6月6日より前の段階では,壬申銀行事件のことが念頭にはあったが,「あくまで捜査中である。」ということを強調した。」と供述する。【R12】

④ 5月26日から31日までの間,R検事はCを取り調べたが,検察官調書は作成しなかった。

⑤ 6月1日,Cが戊辰リサイクル事件の犯行を自認し,犯行に至る経緯や犯行状況を内容とする検察官調書(乙17)が作成された。

⑥ 6月2日,C及びBに詐欺の犯意があったことを示すものとして前記借用書(戊辰33)を説明する検察官調書(乙18)が作成された。

同検察官調書には,「借用書の連帯保証人欄の筆跡はBのものですから,この借用書をBが作ったのは間違いない。」,「金額が2億5000万円となっているが,当時,乙丑ソースに対する貸付金残高はこれくらいであったと思う。」,「現在この借用書を手元に保管しているかどうかは分からない。借用書もどこかにいってしまったか,誤って処分してしまったかも知れない。」,「この借用書を見れば…(中略)…炭化炉の金額を高額に偽ってリース契約を締結することが前提となっていることが明らかです。」,「借用書は,B自身が署名して作成したものである以上,当時Bにもリース会社に対する詐欺の犯意があったことを証明して裏付ける決定的な証拠であるのは間違いない。」,「2億5000万円は,一旦平成15年ころに清算した。」などという記載がある。【乙18】

⑦ 同調書について,R検事は,「Cに初めて借用書を見せたとき,Cは,「詐欺の犯意を裏付ける決定的な証拠だな。」と言っていた。」などと,Cの発言どおり調書を録取した旨供述する。【R15】

これに対し,Cは,前記のとおり,借用書(戊辰33)を示され,「これこそ乙丑ソースとお前がこの詐欺をしようとした,これが動かぬ証拠である。」と言われたなどと供述する。【C24回67】

⑧ 同検察官調書に署名指印した理由について,Cは,「乙丑ソースが会社更生法の申請をしたが,再起を図りたいと思っており,R検事にもその旨話したところ,同検事から,「保釈をするにはこういう調書がなきゃいけない。あなたのことを考えるとこのまま否認をしてたって,何年もこの環境の悪い中で入ってて,最後は死んでしまうよ。俺はあなたのことを思ってるんだから。俺が味方だ。」,「早く出るには認める調書にサインをしなくてはだめだ。」などと言われた。検事に保釈の権限があるかと尋ねたところ,「当然取調べは検事だからある。自分が上申書や保釈請求に対する意見書を書く。自分の意見が一番採り入れられて検察として出す。」と言われたからである。」と供述する。【C24回69】

これに対し,R検事は,前記の点を否定する。【R8,9,58】

⑨ なお,同借用書の原本(と思われる朱印の押印されたもの)は,平成17年5月18日,検察事務官が乙丑ソースビル屋上倉庫から押収した「戊辰リサイクル事業協同組合事業計画書等在中の段ボール箱13箱(押収品目録の備考欄に「財務部長Uの物」と記載されている。)中に在中していた。【甲112】

(4) その後,再逮捕までの状況

① 6月3日【乙19】,6月4日【乙20】,リース会社からの取得金の使途についての検察官調書が作成された。同検察官調書は,犯行を自認するものである。

② また,6月4日,現在住居不定,無職になっている旨の検察官調書が作成された。【乙46】

③ 6月6日,犯行を自認し,「裁判でも正直に認めてけじめをつけることを約束します。」などという記載のある検察官調書が作成された。【乙47】

④ 6月7日,Cは,戊辰リサイクル事件について,起訴された。同事件について,検察官は,接見等禁止の請求をなし,第1回公判期日終了まで接見等禁止が付された。

2  壬申銀行事件での逮捕勾留期間の状況

(1) 逮捕勾留当初の状況

① 6月7日午後1時40分,Cは,壬申銀行事件について,逮捕された(逮捕状の請求及び発付は同月6日であった。)。【C】

② 同日の検察官による弁解録取手続において,Cは,「詐欺にあたるようなことはやっていない。」などと,犯行を否認した。【弁212】

(Cは,「再逮捕と聞いたときは驚いた。R検事に対し,「どうしてあなたまで嘘をつくんだ。どうしてあなたは私と約束しときながらこういうことになるのか。」などと怒鳴るなどした。それに対し,R検事は,「上がやることだから俺には分からない。」と言い,初めは黙っていたが,「さっきから聞いてたら何言ってんだよ。」などと言い,Cは,「約束が違うじゃないか。」などと言い,怒鳴り合いになった。」,「R検事が約束を破ったので,信用できないと思い,否認に転じた。」などと供述する。【C24回72,25回66】

これに対し,R検事は,「6月6日,Cに,戊辰リサイクル以外の案件についても,やはり証拠上固まってきたので,戊辰リサイクルの件で終わりにするということは難しいと言った。壬申銀行の件と話したかははっきり記憶にない。Cは,「ああ,そうですか。」という言い方で,反発はなかった。」,「6月7日,Cに壬申銀行の件で再逮捕すると告げたが,Cが,再逮捕について約束が違うなどと言ったことはなく,Cの方から何か言ってきたことはない。Cは落ち込んでいる様子だった。」,「Cは「これも起訴されたら,一体刑期どうなるんですかね。」と言っていた。壬申銀行事件も併せて2件で裁判を受けると,刑期が重くなると考えて否認したのではないかと推測する。」などと供述する。【R18-19,114】)

③ 6月9日,Cは,壬申銀行事件について,勾留され,接見等禁止を付された。

④ 6月10日から同月15日の間,R検事は,同月11日を除き,Cを取り調べたが,検察官調書は作成しなかった。

⑤ 6月16日,「Aに言われ,約11億円の契約書類の作成について,Qに指示した。」旨の3丁の検察官調書が作成された。同調書には,詐欺の認否についての文言は記載されていない。【乙48】

⑥ 6月17日から同月20日の間,R検事はCを取り調べたが,検察官調書は作成しなかった。

(2) 6月21日以降の状況[概括的に犯行を自認する調書作成時期の状況]

① 6月21日,壬申銀行事件の詐欺を認める本文1頁の検察官調書が作成された。同検察官調書には,「詐欺の事実関係を認めます。」,「今後きちんとお話ししていきます。」,「その上で,私は,壬申銀行に対し,誠意を持って被害弁償をするなど,とりあえず現在の私ができる範囲で責任を取りたいと考えています。」,「このような,今回の事件に対する今後の私の対応や,これまで私が乙丑ソースに対して尽くしてきたという点についても,十分酌んでもらいたいと思います。」などという内容の記載がある。このころ,CとR検事の間で,被害弁償の話が出ていた。【乙49等】

(同検察官調書作成につき,Cは,R検事から,「被害弁償をすれば不起訴ということができる。認めなければ被害弁償はできない。認める調書がなければ上司に報告できない。」などと言われたからである,1億円の被害弁償をしようと考え,押収されていた印鑑の還付を受けることにしたと供述する。【C24回75】

これに対し,R検事は,「Cは,「関わっている以上はしっかりけじめを付けて,悪いことは悪いこととして認めていった方がいいと思った,その上で,社会復帰したときは,被害弁償をしたい。」と言っていたと思う。」,「Cが,被害弁償するということを言ってきた。Fの例があり,Cは,被害弁償をすれば不起訴になるのではないかと考えたのだと思う。私から,被害弁償したら不起訴になるとは言っていない。被害弁償は弁護士とも相談して検討してくれと言った。被害弁償するなら認めなさいとか,認める調書がいるとか,認めて被害弁償すれば不起訴になるとは言っていない。」と供述する。【R21-25】)

② このころ,Cは,当時内縁関係にあったVを介して,検察官が押収していた印鑑の還付手続をした。また,S弁護士が,主任検察官と,被害弁償の話をした。【C24回77,R68,98-99】

③ 6月22日,丙子社及び甲戌社についての検察官調書が作成された。同検察官調書には,詐欺を認める文言は記載されていない。【乙42】

④ 6月24日,本件コンピュータシステム導入に関する事情についての検察官調書が作成された。同検察官調書には,詐欺を自認する文言は記載されていない。【乙43】

(3) 6月25日以降の状況[詳細な自白調書作成に至る状況]

① 6月25日,Cは,午後3時45分から午後4時5分までと午後5時28分から午後11時2分までの間,R検事の取調べを受けた。【弁209】

(同日の状況について,Cは,「R検事は,いきなり分厚い調書を前に置き,「これ読んでくれ。」と言った。私の話したことと全く異なっていたので,「なぜこんな調書になるんだ。私の話を聞いてくれたのか。」,「どうしてこんな悪意に満ちた調書になるのか教えて欲しい。」などと抗議した。すると,R検事は,最初はばつが悪そうに黙っていたが,その後,その調書を何度も机に叩きつけて,「これに署名しろ。」,「署名しなかったら,お前は何年でも入ってろ。死ぬまで入ってろ。」などと言った。しかし,私は,「もうそれは勘弁して欲しい。この調書はもう私は嫌だ。」などと答えて,署名指印を拒絶した。」と供述する。【C24回82~】

これに対し,R検事は,同日の状況について,「外形的事実を中心に聞いていったが,次第に,この場面ではこういう認識だったのではないかなどと,認識の点で話を聞いていくと,Cは,ぽつぽつと供述し始めた。同日の供述をまとめた調書を作り,翌日確認するということにした。検察官調書に記載すべき内容は,25日に口頭で大まかな話は伝えた。」と供述する。【R27】)

② 6月26日,Cは,午後1時14分から午後3時49分までと午後5時28分から翌27日午前零時35分まで合計約9時間42分にわたり,R検事の取調べを受けた。【弁209】

その際,R検事は,詐欺を自認する詳細な検察官調書(Aとの共謀ないし関係についての部分を除き,乙44とほぼ同じで,20頁程度のもの。以下,「調書案」ということがある。)を作成した上,取調べに持参し,Cに対し,署名指印を求めた。署名をするかしないかで膠着状態となり,Cが同調書案に署名指印をしないまま,上記のとおり,取調べは翌日午前零時35分に及んだ。【C24回84,88,R28-32,45】

(6月26日の状況について,Cは,「R検事は再び前日の調書を持ってきて,「この調書にサインしろ。」の一点張りだった。私が署名指印を拒否すると,R検事は,「これにサインしなければでれないんだから。」,「自分がどれだけお前のことを思ってやって,保釈とかそういうものを考えてやってるのに,お前はなんでおれを信じてこれにサインをしないんだ。」,「何年でも接見禁止のなかで入ってろ。」,「バカヤロウ。」,「死んでしまえ。」「お前の体じゃこんなところに何年もいたら死ぬよ。」などと言った。」と供述する。【C24回84】

また,「サインをするしないという押し問答をしていた際に,R検事が,調書の末尾に「Aと共謀はしていない。」と記載を入れ,「これでもお前サインしないのか。共謀をしていないと入れているじゃないか。これでお前無実だよ。」と言った。」とも供述する。【C24回88】

これに対し,R検事は,「6月26日は,作成した調書をCに確認させた。Cから,言ったことが全然書いていないなどという文句はなかった。調書案を,Cは,じっくり時間をかけて閲読していた。内容についてこれでいいか確認したところ,Cは,「いや,これでいいんですけれども。」のようなことで,多くは語らず,考え込んでいる状況であった。私から署名を迫ったことはない。Cに対して,「もう,今日署名できないというんだったら,これでいいから,とりあえず今日は取調べは終わりましょう。」,「もう時間遅いよ。」と言ったのに対し,Cが,「もうちょっと待って下さい。もうちょっと検討させて下さい。」,「もう少し時間を下さい。」などと言っており,遅くなってしまった。」,「表現の訂正は申し立ててきた。今回の詐欺事件に関与したが,首謀者ではなく,Aと同列にしないでもらいたい,というものだった。調書に「共謀」という言葉は入っていなかったと思うが,これではAと同列ではないか,とCが指摘した部分があった。」,「Cは,事実関係を認めると言っても,調書という形で証拠化すると,量刑が重くなると心配していたのだと思う。」,「6月26日の段階で,Cを起訴することに決まっており,調書を作成する必要はなかった。」などと供述する。【R28-33,36】)

③ 6月27日,Cは,午前10時20分から午前11時30分,午後1時7分から午後4時15分及び午後5時15分から翌28日午前0時45分まで合計約11時間48分にわたり,R検事の取調べを受けた。【弁209】

同日も前記調書案について,R検事はCに対し,署名指印を求めたが,Cは署名指印しなかった。同日,新たな取調べは行われなかった。【R115】

④ 6月27日深夜(おおむね午後11時ないし11時半ころ),Cは,立会の検察事務官が席を外した折に,R検事に対し,土下座をしたことがあった。【C24回85,25回72,R36,83,115】

(土下座の状況について,Cは,「深夜までサインを強要されるなかで,最後に,私は,R検事に土下座をして,「なぜそこまでして嘘の調書にサインしなくてはいけないんですか。」,「もう勘弁してください。なんでここまでいじめなきゃいけないんですか。本当にもう勘弁して欲しい。」と何回も頼んだ。これに対し,R検事は,調書を持って,「サインしろ。サインしたらお前は楽なんだから,サインして楽になれ。楽にしてやるからサインしろ。」と言っていた。」と供述する。【C24回85,25回72】

これに対し,R検事は,「立会検察事務官がトイレか何かで席を離れた直後に,Cが突然土下座をして,「すみませんでした。」と言った。私は,驚き,何のことか全く分からなかったので,「とにかく,こんな土下座なんかするのはやめてくれ。」と言うと,Cは,すぐにまた椅子に戻った。」,「土下座した理由について,Cは,2日間もかけて調書を確認させてもらって,特に間違いないと言っておきながら,結局署名しなかったことに対して,負い目を感じたというような説明をしていた(R証人は,「推測した」とも供述する。)。土下座した理由は,私からは聞いていない。」と供述する。【R35,36,73,83,115】)

⑤ 6月28日,Cは,壬申銀行事件について,起訴された。検察官は,同事件について,接見等禁止請求をなし,第1回公判期日終了まで接見等禁止が付された。

⑥ 同日,R検事は,午後2時から午後2時13分までの間,Cに面会し,Cを起訴するに至ったことを告げた。また,その際,R検事は,Cに対し,調書案に署名指印しないということでよいのか尋ねた。【弁209,C24回86,R36-39】

(その際の状況について,Cは,「私が署名指印を拒否すると,R検事は,「もうお前は本当にずっと入っとくんだな。」,「どっちにしてもいいんだ,もう起訴したから。起訴だから,もうお前はずっと入っていろ。」,「奥さんや身内にも,もうこれで接見禁止だから。2年でも3年でも会えない。」などと言って,帰った。」と供述するが,R検事はこれを否定する。)【C24回86,R36-39】

⑦ 同日,R検事が帰った後,Cは,同検事に対し,「オハナシシタイコトアリマス。コンバン,ショメイフクメオネガイシマス。」との電報を打った。【甲100,C25回67-68,R38-39】

(Cは,「R検事に昼に言われたことから,妻のことや会社のことなどもあり,電報を打って認める気になった。どういう形になれば自分に保釈がきくのかをもう一度聞いてみたかったので,電報を打った。」と供述する。【C25回67-68】)

⑧ 同日午後6時10分から午後7時55分までの間,R検事は,Cを取り調べ,詐欺の犯意があったことを自認する詳細な検察官調書(乙44)を作成した。Cは同調書に署名指印した。また,同日,「共謀」という言葉に引っかかって,26日には調書に署名指印できず,1日待ってもらった,寛大な処分をお願いし,社会復帰できる道を与えて下さい,などという記載内容の検察官調書(弁336)が作成された。なお,同日の取調べ状況等報告書には,作成された調書数は1通と記載されている。【弁209,乙44,弁336,弁335】

(Cは,その際の状況について,「R検事が訪れた際,R検事が持参した調書は,前日の調書と同一のものであった。しかし,R検事は,保釈請求の際,共謀をしていないというと保釈はなかなか認められないと言い,「Aと共謀していない。」との記載部分を削除することになり,その結果,同日付け検察官調書(乙44)に署名指印した。もう1通の本文3ページの検察官調書(弁336)は,私が,「Aと共謀していない。」との記載部分を書いて欲しいと言ったところ,乙44とは別の調書を作り,「もう時間もない。ここに共謀という言葉が抜いてるじゃないか。」などと言われ,署名指印をした。」,「保釈されるか,今からでも遅くないか。」とR検事に尋ねたところ,「できる。」,「大丈夫だ。」,「これにサインすれば出られる。」と言われた。」と供述する。【C24回88,25回69,73】

これに対し,R検事は,「私が取調べ室に入っていくと,Cは,まず,「もう事件が終わってしまって,また呼び出してすみませんでした。」と言い,その後,「署名できなかったあの調書について,署名についてもう1回考えたいと思いますんで,また調書を見せて下さい。」,「検事さんに昼間言われたことをやっぱりよく考えてみると,正直に認めているにもかかわらず調書がないのは裁判官の心証が悪くなり,処分が不利になるのではないかと思い,調書として残してもらった方がいいのではないかと考えて,電報でお呼びした。」ということを話した。署名しろと迫ったことはない。保釈のために調書が必要だと言ったこともない。保釈の話はその時しなかった記憶である。」,「Cはじっくり時間をかけて,調書を読んでいた。Cは,「共謀」の法律的な意味について検事から説明を受けて分かったとして,Aと同列ではないという部分は調書から削除した。その上で,Cは,検察官調書(乙44)に署名した。」と供述する。【R38-41,74】)

なお,R検事は,調書に署名するに至った同日付け検察官調書については,「起訴後の取調べなので,被疑者からの申立があって取り調べたとの経緯や署名した理由を残しておく必要から作成した。」【R41】,「6月28日付け取調べ状況等報告書は,2通調書を作成したが,1通としたのは,単なる誤記である。」と供述する。【R44】)

3  起訴後の状況

① 7月13日,Bは,S弁護士を弁護人に選任した。S弁護士,T弁護士及びW弁護士は,C及びBの弁護人を兼任し,S弁護士がCの主任弁護人,T弁護士がBの主任弁護人を務めていた。

② 7月19日,弁護人らは,Cについて接見禁止一部解除を申立て,同月20日,検察官が「しかるべく。」との意見を述べ,同月22日午後1時30分から午後2時30分までの間の法令の範囲内で,Vとの接見禁止が解除された。

③ 7月26日,Cは,S弁護士宛に,「至急に面会頼みます。T・X・Yの誰でも良いです。至急」という電報を打った。【弁223】

④ 7月28日,本件第1回公判期日が開かれ,戊辰リサイクル事件の審理が行われ,同事件について,Cは,「公訴事実は,そのとおり間違いありません。」と陳述し,同被告人の主任弁護人S弁護士は,「被告人が述べたとおりです。」と陳述した。なお,B及び同被告人のT主任弁護人も同様の意見を述べた。

⑤ 同日,戊辰リサイクル事件について,検察官は,Cに対する接見等禁止請求をなしたが,当裁判所はこれを却下した。

⑥ その後も,壬申銀行事件について第1回公判までの接見等禁止が付いていたが,8月3日,S弁護士,T弁護士及びW弁護士は,接見禁止一部解除を申立て,検察官が「しかるべく。」との意見を述べ,同月4日,同月15日午後1時30分から午後2時30分までの間の法令の範囲内で,Vとの接見禁止が解除された。

⑦ 同日,S弁護士,T弁護士及びW弁護士は,Bの保釈請求を行った。

⑧ 8月5日,Bは保釈許可決定を得て,同月9日釈放された。なお,検察官は,保釈請求に対して「不相当であり却下されるべき。」との意見を述べたが,保釈許可決定に対する抗告はしなかった。

⑨ 8月31日,Cは,S弁護士宛に,「公判の認否は心が決まらず,Qへの指示の過失は認めるが故意。共謀は絶対に無し。欺く意志なし。過失の範囲で責任は有り認めますが,過失が五年では冤罪と考えます。弁護陳述も確認願う。弁護士面会頼みます。」との電報を打った。【弁218】

⑩ 9月1日,本件第2回公判期日(壬申銀行事件については第1回)が開かれ,壬申銀行事件について,Cは,「公訴事実は,そのとおり間違いありません。」と陳述し,同被告人の主任弁護人であったS弁護士は,「Cについて,詐欺罪が成立することは争わない。Cの関与の形態及び詐取金員の使途など情状面の立証を行う予定である。」旨陳述した。

⑪ 9月5日,S弁護士,T弁護士及びW弁護士は,Cの保釈請求を行った。

⑫ 9月6日,Cの保釈許可決定がなされ,Cは同月7日釈放された。なお,検察官は,保釈請求に対して「不相当」との意見を述べたが,保釈許可決定に対する抗告はしなかった。

⑬ 保釈までの身体拘束期間中,Cは,S弁護士らに多数の手紙(弁214ないし217,弁219ないし222及び弁224ないし228)を書いた(これらの手紙は,大阪拘置所の検閲印が各葉に押印されており,Cが同拘置所収容中に作成したものと認められる。)。

その中には,「b最初は溶融炉でリースを組んだが,実際は炭化炉であって,時間の問題で修正が出来ないが,検査終了後改造して溶融炉にするので絶対問題は生じない。しかし,検査は炭化炉として申請できず溶融炉としますので承知しておいてくださいと聞く」,「今回認めているのはbの件は事前に聞いているからです」(弁217),「この部分を私が聞いているのに聞いてないとは言えず,詐欺に関与と思っている」(弁225)などという記載がある。

他方,「第一回公判は,「認めます。」の言葉にて終了しました。今でも夢の中に存在している様です。」,「何がどうなっているのか,何が有ったのか,今でも不明です。「認めます。」と言っておきながら,申し訳ないですが,本音です。」(弁215),「私は本件に関して最大の譲歩した結果,認めたものです。検察取調官との約束もあり認める範囲を決めましたが」,「両事件について知らないとは言いませんが,詐欺とは知りませんでした。」,「取調べには負けたいうか,最大限の譲歩をし約束事の上で認めました。」(弁220)などとも記載したものもある。

⑭ その後,被告人3名に対する公判審理が行われたが,平成18年2月6日,本件は期日間整理手続に付された。

⑮ 同年3月10日に,C及びBの弁護人として,S弁護士らは,釈明書を提出し,同月27日,釈明書(補充・訂正)を提出した。

⑯ 同月28日,Cは,S弁護士,T弁護士及びW弁護士を弁護人から解任した(そのほか2名の弁護人も辞任した。)。その後,同年4月6日以降,Cは,現在の弁護人らを選任した。

⑰ 同年5月9日,Cは,戊辰リサイクル及び壬申銀行の両事件について,無罪主張に転じる意向を明らかにし,以降,両事件について犯意及び共謀等を争った。

第3取調べ状況に関する事実について

Cの取調べ状況について,CとR検事の供述は大きく齟齬している。

そこで,Cの供述が不自然・不合理なものとして排斥し得るか,R検事の供述と対比しつつ,以下検討する。

1  戊辰リサイクル事件関係

(1) Cは,戊辰リサイクル事件について,5月20日に概括的な自白をし,同月25日以降に詳細な自白調書に署名指印している。

この点についてのC供述は,要するに「R検事が,20日以降,「認めれば保釈され,否認していれば保釈されない。」などと述べて犯行を認めるように迫り,25日ころには,「この事件以外にはないと思うよ。」と余罪で再逮捕しないことを示唆され,保釈に協力するかのように言われて自白した。」というものである。

(2) Cは,ガン治療の後遺症による体調不良や折しも乙丑ソースの会社更生申立てを聞いたことから,一刻も早く保釈されることを望んでおり,R検事に対しても保釈の見通しを度々聞いていたことが認められる。

もっとも,5月19日の勾留質問時までは犯行を否認していたCが翌20日には一転犯行を自白するに至り,その間に検察官が働きかけ等を行うに十分な時間的な余裕があったか疑問があること,Cは勾留中ほぼ連日弁護人と接見していたほか,Cが早期に保釈を望んでいたとすれば,自白をした20日朝の接見の際にも当然この点の話を聞いたとみるのが自然であること(もっとも,弁護人もこの段階では未だ弁護方針は立てようがないともみられ,認めなければ起訴後保釈がされにくいぐらいのアドバイスがあったに留まるとも推認される。),Cが戊辰リサイクル事件や壬申銀行事件で起訴され,両事件で保釈された後も平成18年5月に至るまで,公判段階においても犯行を争っていなかったこと,Cが公判で否認に転ずるにあたりそれまでの弁護人を解任していること等に鑑みると,Cが早期の保釈を望んで自白をしたとしても,弁護人との打ち合わせの結果とみる余地があり,また,特に5月20日の概括的な自白については,捜査の初期段階で余罪の立件等も念頭になかったCが,否認すれば保釈が認められにくいとの一般的な説明を受け安易に自白をした可能性もあり,直ちにこの時点で検察官から任意性を失わせるような強い働きかけ,あるいはこれと自白との因果関係があるかは問題がある。

(3) しかしながら,Cについては,その後数日間調書は作成されず,本件で任意性が問題となっている詳細な自白調書は5月25日以降に作成されているところ,Cは壬申銀行事件で逮捕されるや,保釈が認められにくくなると説明を受けていたはずであるにもかかわらず,一転して犯行を否認し続けており,このことはCが戊辰リサイクル事件の取調べ段階では余罪での逮捕がなく,すぐに保釈されるとの認識でいたことを推認させる。

そして,Cにそのような期待を抱かせるのは,余罪についての捜査及び起訴の権限を持っていた検察官の言葉以外に考えにくい。これに関連して,壬申銀行事件での再逮捕を聞いて驚き,R検事との間で約束を破ったなどと怒鳴り合いになった等,この点の前記Cの供述は,相当に具体的で,かつ迫真性がある。

また,戊辰リサイクル事件での自白調書の内容をみると,例えば6月2日付の調書(乙18)では,同調書添付の借用書の原本(とみられる朱印を押したもの)は,U管理の乙丑ソース屋上倉庫内から発見・押収されていたにもかかわらず,Cの管理を前提とした供述がなされていたり,「借用書は,当時Bにもリース会社に対する詐欺の犯意があったことを証明して裏付ける決定的な証拠であるのは間違いない。」などと証拠評価を交えた文章や「犯意」といった法律家特有の文言が用いられ,取調官の誘導によって調書が作られたことが強くうかがわれるものである。

以上より,乙丑ソースの会社更生等があり,早期の身柄解放を願っていたCが,R検事に対し度々保釈について尋ねたのに対し,同検事が裁判所への意見書等においてCの保釈に有利になるようにする,また余罪についても「この事件以外にはないと思う。」などと話したことから,これを信頼し5月25日以降の調書が作成されていったとのCの供述は,その信用性を排斥し難い。

(4) 検察官は,Cが解任前の弁護人に宛てた手紙において,「最初は溶融炉でリースを組んだが,実際は炭化炉であって,時間の問題で修正が出来ないが,検査終了後改造して溶融炉にするので絶対問題は生じない。しかし,検査は炭化炉として申請できず溶融炉としますので承知しておいてくださいと聞く」,「今回認めているのは……事前に聞いているからです」(弁217)との記載や「この部分を私が聞いているのに聞いてないとは言えず,詐欺に関与と思っている」等(弁225)の記載をしており,CがR検事の誘導等とは無関係に罪を認めていた可能性を指摘する。

しかし,他方,弁護人に宛てたこれら一連の手紙には,「私は本件に関して最大の譲歩した結果,認めたものです。検察取調官との約束もあり認める範囲を決めましたが」,「両事件について知らないとは言いませんが,詐欺とは知りませんでした。」,「取調べには負けたいうか,最大限の譲歩をし約束事の上で認めました。」(弁220)などと記載したものもあり,総合するとCの上記手紙の記載は,取調べ検察官との約束で罪を認めたし,事件のことを何ら知らないわけではないが,なお承服できない点があり,詐欺の認識は争いたいという趣旨で書かれたことがうかがわれ,Cが必ずしも詐欺の犯意を認めていたとは言い難い。

2  壬申銀行事件関係

(1) 被害弁償に言及した自白調書について

ア Cは,6月21日,壬申銀行事件の詐欺を概括的に認め,検察官調書(乙49)に署名指印した理由として,R検事から「被害弁償をすれば不起訴にできる。認めなければ被害弁償はできない。認める調書がなければ上司に報告できない。」と言われた旨供述している。

イ この点,Cは,壬申銀行事件で逮捕されるや一貫して犯行を否認していた上,勾留満期ころには後述のように犯行を共謀した旨の自白調書(乙44)について,署名指印を拒否し,これに対しR検事が執拗に署名を迫った事実が認められ,その間の6月21日の取調べにおいて,R検事が述べるように,Cが悪いことは悪いとして犯行を認める供述をしたとは認められない。

ウ これに対し,Cの上記供述については,①乙49の検察官調書自体に被害弁償をして早期に社会復帰させて欲しいという趣旨の記載があり,被害弁償と早期の社会復帰を関連づけたやりとりがCとR検事の間でされたことがうかがわれること,②そのころ,現に被害弁償の印鑑の還付手続を取ったとみられ,Cの当時の弁護人が,同事件の主任検察官と被害弁償の話をしていることなど,これに符合する事実が認められる。

そして,前記のとおりCが早期の身柄解放を切望していたことにかんがみると,あえて被疑者段階に被害弁償を急いだのも,共犯者とされているFが戊辰リサイクル事件で被害弁償をして訴追を免れていたように,自らも被害弁償を行って不起訴になることを希望していたことによるものとみるのが自然である。

そうすると,被害弁償に際し,Cが検察官に起訴の意向を聞くことなしにこれを行ったとは考えにくく,これに対しR検事が再逮捕以降否認を続けていたCに,不起訴との関連で事実を認めることを提示したことは十分に考えられる。

以上より,被害弁償のため事実を認めるように求められたとのCの供述は,これらの状況とも整合しており,不自然,不合理なものとはいえない。

(2) 勾留満期前の取調べ状況について

ア 勾留満期前(6月27日まで)の取調べ状況について,Cの供述は,要するに,「6月25日から27日の3日間にわたり,連日,深夜まで,R検事が,作成済みの調書案をCに示し,これに応じないCに対し,調書に署名指印をすれば,保釈されるが,そうでなければ接見禁止が付されたままで身体拘束が続く旨述べて,自白を迫り,耐えかねたCがR検事に土下座をした。」というものである。

かかるC供述の信用性について検討すると,

① Cの取調べ時間は,前記のとおり,癌による後遺症のため体調不良があったにもかかわらず,

i 6月24日は午後11時25分まで5時間45分

ii 6月25日は午後11時2分まで合計5時間54分

iii 6月26日は翌日午前零時35分まで合計約9時間42分

iv 6月27日は翌日午前零時45分まで合計約11時間48分

と連日深夜まで長時間の取調べが行われていること(とりわけ,6月26日及び27日は,その傾向が著しい。)

② R供述によっても,6月26日及び同月27日には,実質的には新たな取調べは行われず,調書に署名するか否かのみで膠着状態にあったこと

③ 6月27日深夜にCがR検事に土下座したことは,争いなく認められるところ,前記C供述は,土下座の理由の説明として合理性があること

に照らせば,これらの事実だけからでも,少なくとも6月26日及び同月27日は,2日間にわたり,R検事は,取調べといいながらも,自白調書への署名を強く要求することのみにほぼ終始していたことが強く推認され,

④ Cが勾留初期から,保釈による早期釈放を強く希望していたこと

をも併せ考慮すれば,Cの前記供述部分は,これらの事実と符合し合理的なものといえる。

イ これに対し,R検事の供述をみると,

(ア) 26日及び27日の状況について,R検事は,「Cは,調書案の記載内容は間違いないとしつつ,署名指印を拒み,調書の閲読を繰り返し,考え込んでいたため,取調べが深夜に及んだ。私から取調べの終了を促したが,Cがもう少し検討させてほしい,時間を下さい,と言ってきたので遅くなった。」と供述するが,同両日の取調べがいずれも翌日に及び,しかも,9時間や11時間といった極めて長時間の間,そのような対応に終始していたというのは,それ自体不自然・不合理である上,当時Cの体調が不良であったことをも併せ考慮すれば,Cが自ら望んで連日深夜までの取調べを続行することになったなどとは考え難い。

(イ) 更に,R検事の供述によれば,Cが土下座という異常な行動に出る理由はなかったことになるのに,このような異様な事態に対して,R検事は,その際も,事後的にも,Cに土下座までした理由を尋ねておらず,不自然である。しかも,R検事は,「Cは調書案を確認させてもらっておきながら,署名しなかったことに負い目を感じたのではないか。」と供述するが,それが土下座するほどの理由とはみられない上,Cが実際にそのように説明したのか,R検事がそう推測したのかさえもR供述は動揺している。

(3) 勾留満期・起訴日における取調べ状況について

ア 勾留満期・起訴日,自白調書に署名指印した状況について,Cの供述は,要するに,「R検事は,起訴を告げに訪れた際,私が署名指印を拒否すると,「起訴したので,接見禁止付きのまま2年でも3年でも身柄拘束が続く。」などと言った。そこで,保釈のことを考え,R検事に電報を打って来てもらった。R検事に保釈の可否を尋ねたところ,「これにサインすれば出られる。」などと自白調書(乙44)に署名指印すれば保釈される旨言われたので,署名指印した。」というものである。

かかるC供述の信用性についてみると,

① Cは,R検事から起訴を告げられた後,「署名含め話がある。」と電報を打ってR検事を呼び出し,前日までの否認から自白に転じているが,前日まで,連日深夜まで自白を要求され,土下座をするにまで至りながら否認していたのに,急に自白に転じたのには,相当の理由があるものとみるのが合理的であること

② Cは,戊辰リサイクル事件での勾留期間の当初(5月20日ころ)から,保釈によって早期に身柄拘束を解かれたいとの強い希望を有していたとみられ,これまでも保釈の可否を尋ねていたことに照らしても,起訴日の自白にあたり,保釈の可否は当然R検事に確認するのが合理的であること

③ 実質的な取調べはしていないのに,連日深夜かつ長時間にわたり自白調書への署名を求めていた起訴前日までの状況にかんがみれば,R検事は,自白調書(案)に署名させることに強く執着していたものと推認でき,このような自白への固執は,起訴したことを告げた際に,調書に署名するか尋ねたことにも現れているといえ,満期日にもR検事は自白獲得を諦めきれていなかったと認められるのであって,起訴を告げた際に,Cの供述するような言葉を述べたこと,その後,保釈が可能か尋ねられた際に,自白すれば保釈できる旨返答したことは,自然であること

を併せ考慮すると,乙44作成にあたって,Cにおいて,保釈の可否を検事に確認し,これが可能である旨の返答を得,また,保釈欲しさに自白調書に署名したと推認でき,その旨のC供述と符合する。

イ 翻ってR検事の供述をみると,Cが最終的に署名した状況について,R検事は,「単に起訴したことを告げ,署名しないことを確認しただけである。」と供述し,保釈の話が出たことも否定する。

しかし,壬申銀行での勾留期間中,被害弁償関係で一度概括的に認めたとき以外は,詐欺の犯意を否認していた上,前日及び前々日も署名指印を拒否していた状況のもとでは,Cが,それだけで「署名含めお願いします。」などと電報を打つという積極的な行為に出たというのは,極めて唐突で不自然といわざる得ない。

また,それまで,保釈に強くこだわっていたことがうかがわれるのに,最終的に署名した際には,保釈の話が出なかったというのは不自然,不合理である。

3  小括

以上の諸点を総合すると,取調べ状況に関するCの供述は,自白に至る経緯,理由等その核心部分において信用できるものといえ,これに対し,R検事の供述は,Cの供述を排斥するに足りるものではない。

したがって,以下においては,Cの供述する取調べ状況を前提として,本件検察官調書における任意性の肯否を検討する。

第4任意性の有無について

1  戊辰リサイクル事件関係

戊辰リサイクル事件の罪体立証を趣旨とするCの検察官調書は,乙16ないし20(いずれも5月25日以降作成された検察官調書)である。

(1) 上述のとおり,C供述によれば,取調べに当たったR検事が,Cに対し,「(詐欺の事実を)認めれば保釈ができ,否認すれば保釈されない。」などと繰り返し述べていたところ,5月25日以降,「この事件以外にないと思う。」と余罪での再逮捕がないことを示唆すると共に,上申書等を通じて,自己も「早期保釈に協力する。」旨述べたことが認められる。

(2) このようなR検事の言動は,Cが乙丑ソースの会社更生等から保釈を強く望んでいたことに乗じ,勾留されている事実のみで捜査は終了し,検察官が意見書等を通じて協力してくれて直ちに保釈されるとの誤信を抱かせ,迎合的に虚偽自白を誘発する危険性が高かったもので,前記のとおり現にその自白調書はC自身の言葉とは考えがたい内容が含まれている。

もっとも,不利益な事実を認めれば服役をしなければならなくなる危険も予期し得るところであり,保釈の目的が虚偽自白の動機となるかは一概に一般化はできないが,本件Cの場合,自身の体調不良のほか,乙丑ソースの会社更生申立ての話を聞くなどして一刻を争う状況があったし,戊辰リサイクル事件での取調時には余罪での立件はないと思っていたこと,同事件自体はFらによって被害回復がされ,Fは共犯者とされながら起訴されなかったこと,そのほかR検事から「初犯だから,執行猶予だと俺は思うよ。」と言われた旨,それなりの合理的な説明をしていること等にかんがみると,Cにとって保釈は虚偽自白の動機として十分なものであったと認められる。

したがって,前記検察官調書(乙16ないし20)は,任意にされたものでない疑いがある。

(3) 以上検討したところによれば,乙16ないし20は,Cとの関係では,刑訴法319条1項により証拠能力を肯定できない。

そして,他の被告人との関係でも,このような任意性を欠く供述は,同意があっても,これを証拠とすることが相当であるとは認められないから,証拠能力を否定すべきである。

2  壬申銀行事件関係

壬申銀行事件の罪体立証を趣旨とするCの検察官調書は,乙42(6月22日付けの認否のないもの),乙43(同月24日付けの認否のないもの)及び乙44(同月28日付けの詳細な自白調書)である。

(1) 乙42及び43について

前記のとおり,6月21日付けの自白調書(乙49)は,Cが「被害弁償をすれば不起訴にできる。認めなければ被害弁償はできない。」とのR検事の言動に基づいて行ったものと認められるところ,R検事のこのような言動は直接的に不起訴を約束するものではないが,被害弁償をしても起訴されるか否かは自白に係らしめられている点で,実質的に利益誘導により虚偽自白を誘発するものといえる。

そして,上記被害弁償は結果的に1億円では不十分として実施されなかったものの,その結論が出るまでには少なくとも二,三日間を要したと見られ,6月22日及び同月24日付けの調書(乙42,43)の供述も同様の影響下でなされたと推認される。

もっとも,同調書自体犯行を自認したものではなく,その内容には関係会社の経営状況等被告人でなければ語り得ない事項も含まれているが,上記のとおり取調官による利益誘導による影響が否定しえない状況下でなされた供述である以上,これを証拠として許容することは相当性を欠くというべきである。

(2) 乙44について

前記のとおりCの供述によれば,乙44の供述調書は,これと同一内容の調書をR検事が取調室外で作ってきてCに署名を求め,Cがこれを拒絶するや,丸2日の間は新たな取調べはなく,深夜12時前後までひたすら署名を迫り,27日深夜にはCは土下座までしたことが認められ,このような経過からしてもこれと同一内容の乙44の供述調書は,Cの任意にされたものでない疑いがある。

また,結果としてCは起訴後の同月28日,同調書に署名指印をしたものであるが,同署名指印自体についても,Cは2日あまりこれを拒絶していた上,R検事はCに対し「起訴だから,もうお前はずっと入っていろ。」,「奥さんや身内にも,もうこれで接見禁止だから。2年でも3年でも会えない。」などと述べ,その後,Cが電報でR検事を呼ぶと「今からでも保釈できる。」,「これにサインすれば出られる。」などと述べて署名指印に至った疑いがあり,これまた任意性を欠く状況であったと言わざるを得ない。同署名等は供述の任意性を担保する意味を有するものとはいえない。

したがって,乙44の供述については任意性を欠き,その証拠能力を否定すべきである。

3  結論

以上検討したところによれば,本件検察官調書は,いずれも任意になされたものでない疑いを排斥し難いものであり,また,同意があってもこれを証拠とすることが相当とはいえないから,証拠能力を肯定することができないことに帰するので,これを証拠排除する。

(戊辰リサイクル事件について)

第1本件公訴事実及び争点

1  本件公訴事実の要旨は,「被告人3名が,D,E,F,G及びHと共謀の上,戊辰リサイクルが己巳社から代金5000万円で購入して福井市所在の戊辰リサイクルに搬入していた炭化炉が,溶融炉と称される高額の焼却設備であるかのように装い,同焼却設備を割賦販売対象物件として利用し,庚午リース及び辛未リースから金員を詐取しようと企て,平成13年11月21日ころ,東京都内の帝国ホテルにおいて,庚午リース情報通信第一部長Iに対し,A及びDが,「乙丑ソースでは,自社の廃棄物処理のニーズも含め,戊辰リサイクルと共同で産業廃棄物処理のための事業展開をすることになり,そのために戊辰リサイクルが購入して稼動させる溶融設備の代金が,全部で7億5000万円ほどになる。」などと虚偽の事実を申し向けた上,同月27日ころ,乙丑ソースビル内において,行使の目的で,ほしいままに,Dが,「御見積書」との表題を付した書面に,己巳社が製造した溶融設備等を販売する場合の丁卯社宛ての見積書として,同社から更にこれを購入したリース会社と戊辰リサイクルとのリース契約の締結を条件とした同設備等の販売見積代金が7億8823万5000円である旨等の虚偽の記載をした上、その作成者として,「株式会社己巳社 埼玉県浦和市≪略≫」と冒書し,その名下に同社の代表取締役印を模した印を冒捺し,もって,株式会社己巳社作成名義の見積書1通を偽造し,そのころ,Dの指示を受けた乙丑ソース従業員が,上記見積書が真正に成立したもののように装って,乙丑ソースの本店事務所から東京都内の庚午リース情報通信第一部にファックス送信し,Iらに対し,同書面を提示して行使し,同年12月上旬ころ,東京都内の丁卯社事務所において,辛未リース池袋支店営業社員Kに対し,Fが,「戊辰リサイクルが新しく導入する溶融設備は,総額7億5000万円程度であるが,庚午リースは2億5000万円しか出せないと言っている。しかし,この事業は,乙丑ソースと甲子フードサービスが後ろ盾になってやると言っているので,辛未リースで残りの5億円くらいを引き受けてくれないか。」などと虚偽の事実を申し向けた上,同月14日ころ,戊辰リサイクルにおいて,Eが,上記炭化炉に「溶融設備」と記載された紙面を貼付した上,C,D及びHが,I,辛未リース池袋支店長L及びKに対し,上記炭化炉が割賦販売契約の対象となる溶融設備である旨虚偽の説明をした上,「将来的に計画している乙丑ソースと甲子フードサービスグループが出す廃棄物の処理のためには,溶融設備の導入が不可欠であり,そのためのリースを組んでほしい。」などと虚偽の事実を申し向け,更に,同日ころ,乙丑ソースの本店事務所において,Bが,I,L及びKに対し,「甲子フードサービスの協力をもらってやることになった。高額の設備なのでよろしくお願いする。」などと虚偽の事実を申し向けるなどした上,更に,Eらから,このころ本件犯行を明らかにされて同被告人らの本件犯行に加功することとした己巳社代表取締役Jが,同月19日ころ,さいたま市所在の己巳社事務所において,L及びKらに対し,「あの溶融設備が7億8000万円くらいするのは間違いない。」などと虚偽の説明をするなどし,上記一連の行為により,I,L及びKをして,真実,上記焼却設備が合計7億8000万円相当の価値を有し,庚午リースが上記焼却設備のうちの溶融設備を代金2億6649万円で,辛未リースがそれ以外の焼却設備を代金5億2174万4475円で,それぞれ購入できるものと誤信させた上,Iらの報告を受けた庚午リース代表取締役社長≪略≫並びにL及びKらの報告等を受けた辛未リース代表取締役社長≪略≫をして上記同様に誤信させ,庚午リース及び辛未リースが戊辰リサイクル等と割賦販売契約を締結する条件で上記各設備の所有権をそれぞれ取得することとして、それぞれその購入代金を支払うことを決意させ,よって,同月25日,庚午リースの普通預金口座から丁卯社名義の普通預金口座に,上記焼却設備のうちの溶融設備の購入代金として2億6649万円を振込送金させるとともに,平成14年1月31日,辛未リースの普通預金口座から丁卯社名義の上記普通預金口座に,上記焼却設備のうちの溶融設備以外の排煙処理設備等の購入代金として5億2174万4475円を振込送金させ,もって,いずれも人を欺いて財物を交付させたものである。」というものである。

2  これに対し,

Aの弁護人は,本件において,Aには,有印私文書偽造,同行使及び詐欺の故意,共謀はなく無罪である旨主張し,Bの弁護人は,Bに詐欺についての幇助ないし共同正犯が成立することは認めるものの,有印私文書偽造,同行使については故意,共謀がなく無罪である旨主張し,Cの弁護人は,Cには,有印私文書偽造,同行使及び詐欺の故意,共謀はなく,また,公訴事実中,欺罔行為とされるもの,リース会社の誤信についても争い,Cは無罪である旨主張する。

そこで,以下,これらの点について検討する。

第2証拠上認められる事実

関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。

年月日の記載は,原則として,見出しで年あるいは年と月を表示しているときは,月日または日のみ記す。

1  被告人ら及び関係者並びに関係会社

① Aは,昭和30年,大阪市内において,甲子フードサービス(当時は株式会社甲子フードサービス)の代表取締役社長の子として出生した。Aは,大学卒業後,アメリカ留学を経て,昭和55年に甲子フードサービスに取締役として入社し,平成9年に代表取締役副社長となり,平成11年には代表取締役社長となった。平成15年11月に,代表取締役を辞任した。また,甲子フードサービスの関連会社であるリースを業とする癸酉社やレストラン経営等を業とする乙亥社の代表取締役でもあり,これらの会社を経営していた。平成16年5月に約21億8000万円の負債を抱えて破産宣告を受けた。【乙1】

② Bは,昭和33年,神戸市内において出生した。Bは,昭和56年に大学を卒業して乙丑ソースに入社し,平成5年に,先代であった父が死亡したことから,代表取締役社長となり,平成16年に代表取締役会長となった。【乙10】

③ Cは,昭和26年,京都市内で出生した。Cは,東京で大学を卒業し,会社を経営するなどした後,東京都内で生活していたが,後述のとおり,平成13年以降,乙丑ソースから相談役の肩書を与えられ,平成14年4月に丙子社の取締役になるなどしていた。【乙15】

④ Dは,短大のデザイン科を卒業後,主としてデザインの仕事をしていたが,平成5年からパソコンの販売を行うようになり,その際,リース契約による販売をしたことがあった。平成7年4月,コンピュータ関連用品であるカートリッジやインク等を販売する丙寅システムの取締役となり,平成10年8月以降,同社のオーナー兼代表取締役となった。【乙22】

⑤ Eは,Bの従兄弟で,広告代理店等の業務に携わった後,平成8年ころから,イベント制作会社の代表取締役を務め,また,コンサートチケットの販売や予約を扱う会社を経営するなどしていた。【乙28】

⑥ 乙丑ソースは,大阪市福島区内に本店を置き,各種ソース等の製造及び販売等を目的とする全国でも有数の株式会社(資本金1億5000万円。平成13年当時の従業員数は,約260名であった。)であった。本件各事件のあった平成13年から平成15年当時,代表取締役はBであった。【甲38】

⑦ 丁丑社は,昭和45年5月に設立された食料品製造販売業等を目的とする)株式会社(資本金1000万円)で,乙丑ソースの関連会社であったが,平成14年3月,株式会社乙巳と商号変更し,次いで丙子社と商号変更した。同会社の目的は,株式・社債等有価証券の投資及び保持とされていた。同社の取締役は,平成13年から15年当時,B,A(平成14年3月就任),C(平成14年3月就任),D(平成14年3月就任)やqらであり,代表取締役は,B(平成13年以前から)とD(平成14年3月就任)であった。【甲75】

⑧ 甲子フードサービス(平成16年11月16日辛丑フード株式会社と商号変更)は,大阪市福島区内に本店を置き,給食請負等を目的とする株式会社(資本金4500万円。平成13年当時の従業員数は約2100名)であった。本件各事件のあった平成13年から平成15年当時,代表取締役はA及び同被告人の弟≪略≫であった。なお,取締役には,A一族以外の者が多く名を連ねていた。【甲40】

⑨ 癸酉社は,平成元年6月に設立され,大阪市福島区内に本店を置き,総合リース業等目的とする株式会社(資本金2000万円)であった。本件各事件のあった平成13年から平成15年当時,代表取締役は,A及び同被告人の弟≪略≫であった。なお,取締役には,平成15年8月にaが取締役に就任するまでは,A一族の者が取締役を独占していた。【甲74】

⑩ 乙亥社は,平成4年9月に設立され,平成13年から15年当時大阪市福島区内に本店を置き,レストラン,喫茶店経営等を目的とする株式会社(資本金4億8000万円)であった。当時,Aほか2名が代表取締役であった。【甲76】

⑪ 丁卯社は,平成12年3月13日に設立され,東京都内に本店を置き,総合リース業,建物の内装工事業等を目的とする株式会社(資本金1億8000万円)であり,同社がサプライヤー(売主)となって,リース会社にユーザーを紹介するなどしていた。代表取締役はFであった。【甲36】

⑫ 戊辰リサイクル(平成16年5月13日≪略≫協同組合と名称変更)は,平成8年9月4日に設立され,福井市内に主たる事務所を置き,組合員の取り扱う産業廃棄物の共同処理等を目的等とする組合(払込済出資総額1200万円)であった。代表理事は,平成12年以降,Hであった。【甲37】

2  乙丑ソースの経営悪化及びZ・bらによる資金流用について(平成10年~平成11年ころ)

① 乙丑ソースは,平成10年ころには売上の減少や関連会社の倒産による売掛金の回収不能によりその経営が危機的状況にあった。このため,乙丑ソースの代表取締役であるBは,このままでは年末の支払資金の手当てがつかず,破綻が避けられないとの危機感を深めていた。

② 同年9月ころ,Bは,青年会議所の活動を通じて懇意にしていたAに窮状を訴え相談したところ,Aから経営コンサルタントとしてZの紹介を受け,同人に「社長室長」の肩書きを与えて経営に関与させた。

③ 乙丑ソースは,Zの手当により平成10年末の資金調達に成功し,平成11年2月の株主総会でZを取締役に選任した。

④ Zは,自己の事業資金等を得るため乙丑ソースに多額の約束手形を振り出させて割引を受ける行為を繰り返し,これによって乙丑ソースは約10億円に簿外債務が増加することとなった。

⑤ また,同年,Zを介してbが乙丑ソースに入り込み,資金を着服,流用するようになった。

⑥ Zは乙丑ソースの約束手形を割り引いて得た資金を流用し,戊寅サプライ(代表取締役b)による飲食業展開の事業資金に充てていた。

⑦ また,Zを介してした乙丑ソースの借入金の返済につき,金利の一部をZやB個人が利得したことがあった。また,乙丑ソースは,Bに対し,多額の立替金や貸付金債権を有していたが,これらはほとんど返済されていなかった。【甲12】

⑧ 平成12年2月24日付けで,乙丑ソースは,≪略≫という者から,3億円(弁済期 平成13年2月23日)を借り入れた。同借入契約には,B個人及びA個人の連帯保証が付されていた。同金銭消費貸借に関して,借入金配分明細と題するメモが存在し,同メモには,前記3億円の配分について,「乙丑ソース株式会社 5千万円 (株)戊寅サプライ他己卯グループ 2億5千万円」などという記載がある。【戊辰1,戊辰109p3・3866丁,甲10p11以下】

3  Aと甲子フードサービスの状況について

① Aは,代表取締役をする甲子フードサービス自体の事業は順調であったが,別の事業を展開しようと考え,戊寅サプライ等に資金を注入したが,うまくいかず,資金繰りに窮するようになった(同社は,Aが自ら立ち上げたという己卯プランニングが,平成11年5月にbに譲渡され,戊寅サプライと社名変更されたものであった。)。【弁110】。

② しかし,甲子フードサービス本体は,取締役にA一族以外の者も多く入っており,Aの自由にはならなかったことから,次第に,市中金融等から高利の借入をするようになった。

【乙5p5,乙3p10-】

4  Dが乙丑ソースに関与するようになった経緯等

① Dは,平成12年から丙寅システムの取締役としていたZから依頼され,平成12年1月ころ以降,手数料を取って,乙丑ソースの手形の割引を繰り返すようになった。そして,Zの依頼で,乙丑ソースの手形に丙寅システムの裏書をするなどして,市中金融から手形貸付を受けていた。他方で,Dは,丙寅システムの手形に乙丑ソースの裏書を得て,市中金融で割引を受け,丙寅システムの資金繰りをしていた。このころから,Dは,Zを通じてBと面識を持つようになった。【乙23,D11回2】

5  Aがリースを利用して資金を得るようになった経緯(平成12年11月~12月ころ)

① Aは,甲子フードサービスのグループ会社として甲子フードサービスに対する備品のリースや転リースを主たる業務としていた癸酉社の代表取締役でもあったところ,平成12年初めころまでに,飲食店関係のリースあっせん等を業としていた丁卯社の代表取締役であったFと知り合い,癸酉社と丁卯社との業務提携の話をするようになった。そして,Fら丁卯社が紹介した飲食店の設備等について,丁卯社がリース会社に対するサプライヤーとなって売却して代金を得,リース会社から癸酉社がリース(又は割賦販売)を受けて癸酉社が飲食店に転リースをするという取引形態で,丁卯社と癸酉社がそれぞれ利益を得るようになった。

② 平成12年11月ころ,寿司店開店のための内装工事について,丁卯社がサプライヤーとなって,リース会社(庚辰社)と癸酉社が割賦販売契約を締結し,癸酉社がユーザー(≪略≫商事。丁卯社が紹介したもの)に割賦販売した。リース金額は,3800万円程度で,丁卯社にとっては,物件の仕入先リース会社との間の商流に入ることで,5ないし10%の利益があり,癸酉社にとっては,転リースにより利益が生じるというスキームであった。【甲17p3-4】

③ 平成13年3月ころ,飲食店の新装開店に伴う設備購入,内装工事について,丁卯社がサプライヤーとなって,リース会社(辛巳社)と癸酉社がリース契約を締結し,癸酉社がユーザー(丁卯社が紹介したもの)に転リースした。リース金額は,1800万円程度であった。【甲17p4】

6  Cが乙丑ソースに関与するようになった経緯(平成13年1月~3月ころ)

① 平成12年12月ころ,乙丑ソースの手形(丙寅システムの裏書のあるもの)がだまし取られたことがあった。このころ,丙寅システムは,テナントの1つとして,乙丑ソースビル内に事務所を移転した。【乙23】

② 1月ころ,Eは,Bに資金調達を助けて欲しいなどと頼まれたことを機に,乙丑ソースに出入りするようになった。【乙28,29】

③ 2月,Bは,Zを取締役から退任させ乙丑ソースの経営から排除した。

④ 2月23日に,平成12年2月にbから借り入れた3億円の弁済期が到来したが,乙丑ソースでは返済できず,九州に居住するcを通じ,bに交渉を依頼した。

⑤ Eは,自己の負債処理に関し,債権者側の立場にあった東京に居住していたCと交渉をしたことから同人を知り,同人をBに紹介した。3月中ごろ,Cは大阪に来て,ホテル(当初は≪略≫,5,6月ころからは≪略≫)に滞在するようになった。【E19,123】

⑥ Bは,Cと話をして,同人を尊敬するようになり,同人に同社の「相談役」の肩書きを与え,同社の簿外債務の調査・処理等を依頼した。乙丑ソースからCに特に報酬等を払う約束はなかった。もっとも,Cの関西滞在に要するホテル代,マンション家賃等は乙丑ソースが負担していた。

⑦ 3月から4月ころ,Cは,大阪の≪略≫行政書士に会い,手形詐取事件関係者一覧表(弁154)を渡された旨供述し,これには,「画策した首謀者?」としてA,「実行者」としてZ,b,「補助者」としてD,「手形回収に暗躍した人物」としてcなどの記載がある。

7  戊辰リサイクルと壬午工業が本件に関与するようになった経緯

① 戊辰リサイクルは,平成9年4月,福井県知事から期間を5年間とする汚泥等の乾燥炭化処理に関する廃棄物処分業の許可を得て同事業を営んでいたが,平成10年6月ころ,廃棄物処理設備の不調から操業停止となっていた。【H15】

② 戊辰リサイクルは,操業開始時に福井県から借り入れた2億円を超える中小企業高度化資金の返済も遅延するなど資金繰りに苦しんでいた(Hは,戊辰リサイクルの炉等の設備は県の担保となっていたと供述する。)。

戊辰リサイクルは,平成14年4月に上記許可の更新を受けるためには,同工場の操業再開が必要である旨県担当者から告知されていた。

このため,同組合代表理事であるHは,資金難の中,操業再開のために必要とされる廃棄物処理設備の購入を迫られていた。

そこで,平成13年4月ころ,Hは,熊本市に本店を置く壬午工業が同社の保有する溶融炉一式(廃棄物を高温で溶融減容する設備)の売却先を探していることを知り,同社と交渉を進めていた。

③ 他方,3月21日付けで,壬午工業と乙丑ソース(代表取締役Bの記名押印がある。)の間で,「灰溶融炉SS40(40t/日処理)を壬午工業から乙丑ソースに5億5000万円(外税)で一時的に売却するとの売買契約書が作成された。同契約書には,売却代金の支払は,約束手形を以て決済するものと記載されている(支払期日は,6月10日,7月10日,8月10日,9月10日及び10月10日。第1回ないし第4回は各1億500万円,第5回は1億5750万円)。同契約書の記載によれば,7億5000万円以上で炉の転売を行い,乙丑ソースが炉の価格の1割にあたる5500万円を利益として得る(乙丑ソースが販売先を斡旋して契約が成立した場合は,更に利益を加算する。)とされている。【戊辰2】

(Eは,捜査段階では,これはbが持ってきた融通手形を出し合うという話であった旨供述していたが,公判では,融通手形ではない旨供述し,B,qは,融通手形ではないと考えていたと供述する。)

④ 3月22日付け,乙丑ソースのA宛て確約書と題する書面が作成された。同確約書には,「乙丑ソースは,乙丑ソースがbから平成12年2月24日付けで借り入れた3億円の一部決済資金として,本日貴殿より1億円を借用した。」,「乙丑ソース,戊寅,丙寅システム及び関係人の賃貸借関係を明確にした上で,貴殿との正式な金銭消費貸借契約書を作成することを確約する。」旨の記載がある。【戊辰3】

⑤ 3月28日,乙丑ソースは,壬午工業に額面5億7750万円の手形を振り出した。

8  CがA及びDと関係するようになった経緯(平成13年4月~5月ころ)

① Cは,Zらの手形詐取について警察に被害届を出して法的措置を取るべきだと述べ,Bが4月ころ,大阪府警察本部に対し,Zを被疑者として詐欺罪で被害申告をしてその捜査が行われるようになっていた。

② 5月ころ,Cは,東京都内の≪略≫ホテルで,Aらと面談した。その際,Zを紹介したことも含めて,約10億円の簿外債務について,Aにも責任をもって対応するように求めた。【乙23】

③ また,Cは,Dに対しても,乙丑ソースの簿外手形に関連して,責任を取るように求めた。【乙23】

④ Aは,自己の関与していた戊寅に乙丑ソースの資金が流れていたこともあり,自己も被疑者として捜査の対象となることを恐れ,Dに対し,乙丑ソース側の動向についての情報を入手してきて欲しい旨依頼し,更に,Dを仲介役として,乙丑ソース側の要求に応じて,簿外手形の処理等に資金提供を行うようになった(Aは,戊寅社への関与を否定するが,同人とbや戊寅社の関係に照らし,不自然であって採用できない。)。【乙23,A17回48以下,19回2以下,39回25以下】

9  戊寅社関係の水増しリース(平成13年5月~)

① 5月以降,Fは,Aの依頼を受けて,bが代表取締役であった戊寅社の経営する計3店舗のリニューアルに際し,店舗設備等について,丁卯社をサプライヤーとして,リース会社6社と順次契約を成立させ,戊寅社がユーザーとして,甲子フードサービスの連帯保証のもとで,各リース会社と割賦販売契約を締結した。その際,Fは,店舗に導入する設備や備品について,物品の価格や数量を上乗せするなどしており(もっとも,工事代金等のための水増しも含まれていた。),丁卯社は,リース会社6社から設備等の代金として合計約2億8000万円の支払を受けたが,癸未社等に支払った内装工事費や設備代金は,甲子フードサービスから癸未社に支払済み分の相殺を考慮しても,約1億3000万円であった。Fは,約1億5000万円を,営業権譲渡の代金の形を取って戊寅社に支払った(3か月後には2000万円で戊寅社に営業権譲渡しており,仮装譲渡であることがうかがわれる。)。【甲17及び同資料1-16,戊辰4-14,F36以下】

Fは,「戊寅社のリース契約のシステムは自分が考えた。リースを使ってと言ったか分からないが,Aから「資金融通をできんか。」という話はあった。」と供述する。【F87】

(上記水増しの手法や戊寅サプライへの資金還流をみると,水増しリースであることは明らかであり,A,b及びFの関係に照らしても,AがFに資金調達を依頼し,Fがスキームを考えて,水増しリースにより資金調達を図ったと認められる。)

10  平成13年6月から9月までの状況

① 壬午工業に振り出された乙丑ソースの手形のうち,支払期日が6月10日のものは,取り立てに回されず回収された。

② 7月9日,丙寅システム(D)は,甲申社から,手形割引を利用し,約5500万円を,7月10日,約8000万円を借りた。D個人及びA個人が保証人となった。【弁312,313,314】

これらの資金は,乙丑ソースに交付され,壬午工業の約1億0500万円の手形決済資金(7月10日期日のもの)及び丙寅システム(D)の資金に充てられた。【乙23,D11回12】

③ 8月9日付けで,戊辰リサイクルと壬午工業が,戊辰リサイクルに設置する炉についての乾燥焼成炉施設工事請負契約書が作成された。同契約書には,請負代金額は15億7500万円(税込)と記載されていた。また,同契約書には,着手が9月20日,完成が11月20日との記載があり,代金の支払方法として,税別で,第1回が8月25日に2000万円,第2回9月20日に3億8000万円,第3回が11月20日に5億円,第4回が12月20日に6億円との記載があった。【戊辰17・弁96】

(Hは,戊辰リサイクル側で,どのようにしてこれだけの金額を支払うのかについて,具体的な供述はしていない。)

④ Aは,Dに指示して,癸酉社が丙寅システムから他社の株式を購入し,その代金1億8900万円について,甲子フードサービスが癸酉社と連帯保証することなどを甲子フードサービスの取締役会が承認するというものなど,複数の甲子フードサービスの取締役会議事録(7月3日や同月31日,10月2日に取締役会が開催されたとするもの)を偽造したことがあった。【弁117,118,119,D11回77以下,15回31以下,A18回20以下】

⑤ Eは,壬午工業関連手形の処理の過程で,壬午工業の副社長で乙未社の代表取締役でもあったdと面識を持ち,産業廃棄物処理業は儲かるなどと聞くとともに,前記のとおり,戊辰リサイクルが,壬午工業からの炉の導入を断念したが,新たに炉の導入をすべく資金提供者を探している旨を聞いた。

Eは,乙丑ソースの新規事業として産業廃棄物処理業を展開すれば,乙丑ソースの資金繰りに役立つのではないかと考え,dを通じて,戊辰リサイクルのHと接触し,Hも,戊辰リサイクルで新たに小型溶融炉を購入して操業を再開するための資金が必要であったことから,乙丑ソースにその協力を求めることとした。

⑥ 8月30日,甲辰事務所から,乙丑ソース相談役Cに対し,ファックスが送信された。同ファックスには,「E様の指示により,C様へ取り急ぎ資料をお送り致します。」との記載があり,送信された資料には,以下のものが含まれていた。≪略≫【戊辰18】

・ 乙酉エンジニアリングから壬午工業宛て戊辰リサイクルの電話番号及びファックス番号の変更を知らせるファックス文書

・ 「戊辰リサイクル事業協同組合及び許可証について」と題する壬午工業作成名義の文書(同文書には,「組合の産業廃棄物処理業許可証の期限は平成14年4月20日までとなっております」,「同組合の,許可の内容は中間処理(乾燥・炭化・破砕)でおりていますので,今回の契約は乾燥焼成炉施設として行いました。」,「今回の納入機種は乾燥・焼成と溶融を兼ねた機種です。」,「平成14年4月20日に有効期限切替時に溶融を追加認定もらいます。」などという記載がある。)

・ 産業廃棄物処分業許可証(福井県知事発行名義のもの。事業の区分として,「中間処理(乾燥,炭化,破砕)」との記載がある。)

・ ≪略≫(一級建築士事務所)代表取締役e,戊辰リサイクル理事H及び福井県議会議員fの各名刺の写し

(Eは,公判で,Cが壬午工業関係の手形に関して,改めて乙丑ソースが手形を出すことに反対していたので,Cに壬午工業の説明のために,cから送った旨供述する。)

⑦ 8月31日,丙寅システム(D)は,Aの依頼で,Fが実質的に経営していた丙戌インシュランスから,1億円を借り入れ,乙丑ソースの銀行口座に振込入金した。8月10日期日の壬午工業の手形がジャンプされて8月31日期日となっていたが,その決済資金に充てられた。【弁103,戊辰19,乙23p11,D11回13-14,甲17】

⑧ 9月ころ,gは,Dの紹介で乙丑ソースに入社した。(その際,Dは,「乙丑ソースに入っても,甲子フードサービスに入っても同じことだから,どっちに入ってもいい。」と言っていた。)【甲29】

⑨ 9月3日付けで,癸酉社(A)と丁卯社(F)間で,ファイナンスに関する業務提携書及びこれに関する協定書が作成された。同業務提携書では,両社の役割分担について,「乙[丁卯社]は,甲[癸酉社]がリース(割賦)契約を締結するに値する顧客の資金調達ニーズを開拓し,甲とのリース(割賦)契約が締結できるよう,支援を行い,その契約業務の全てを代行する。」などと規定されていた。【戊辰20,21】

11  丁亥システム関係のリース(平成13年夏以降)

① Aは,平成13年夏ころ,Dから,パチンコ台のリサイクル業を営む丁亥システムが己亥鐵工所から購入して導入するリサイクル設備についてファイナンスリースを組む案件を紹介された。そこで,Aは,丁亥システムが己亥鐵工所から購入するリサイクル設備の購入価格が約3億3000万円であるのに,これを4億9300万円余り(税込み)としてファイナンスリースを組むこととし,丙寅システムシステムがサプライヤーとしてリース会社との間でリサイクル設備の売買契約を締結するとともに,リース会社と癸酉社との間でリース契約を,更に癸酉社とユーザーである丁亥システムとの間で転リース契約を締結した。そして,平成13年9月28日に4億9300万円余りがリース会社から丙寅システムシステムの口座に入金されたところ,己亥鐵工所に対する約3億3000万円の購入代金の支払期限が同年末であったことから,Dと相談の上,リース会社から入金になった金員を使用することとし,同日,乙丑ソースの簿外手形の処理資金として乙丑ソースの口座に1億8000万円を,甲申社への返済として甲申社の口座に1億4800万円を入金した。なお,甲申社への返済は,平成13年7月9日及び10日に丙寅システムシステムを債務者として甲子フードサービスの手形割引により借り入れた1億4800万円に対するものであるところ,この借入金のうち少なくとも1億円が,乙丑ソースの壬午工業関連手形の決済資金に充てられていた。

② 9月28日,戊子リースから,丙寅システムに対し,約4億9300万円が入金された。同金員は,以下のとおり使用された。【弁103,乙23p14以下及び資料,D公判】

i 乙丑ソース 1億8000万円

ii 己丑社(乙丑ソース商事振出の手形決済資金) 1500万円

iii h(丁亥システム代表者。丙寅システムの支払うべき金) 3300万円

iv 庚寅社(丙寅システムの借入金の返済) 3070万円

v i(乙丑ソースの手形決済資金) 1億4800万円(7月9日ころ借入分)

vi A(Z) 2820万円

vii CAT(手形決済資金) 1500万円

viii 広島家賃(丁亥システム場所代) 1050万円

ix 丙寅システム 2259万円

なお,丁亥システムのパチンコ台リサイクル設備について,丙寅システムの己亥鐵工所への支払期限は,12月末であったが,前記リース金からは支出されず,かえって,9月末ころ,AがDに依頼して,乙丑ソース関係に合計3億3200万円を使用させた。9月10日期日の壬午工業の手形がジャンプされて9月30日期日となり,上記戊子リースから入金された金員(上記1億8000万円)がその決済資金に充てられた。【乙23p14-15,D11回14,44以下】

12  平成13年9月ころの壬午工業関係の動き

① 9月20日を発注日とした,株式会社≪略≫クリエイト作成名義,壬午工業宛ての発注書が存在し,同月27日,壬午工業にファックス送信された。同発注書には,「発注物 下水道汚泥炭化装置及びそれに関わる付帯設備」,「発注額 3億8000万円」,「納期 平成13年11月20日」,「納品場所 福井県戊辰リサイクル共同組合敷地内」,「納品後のリース契約による現金支払」などという記載がある。【戊辰22・弁43】

平成13年10月付けの「戊辰リサイクル事業協同組合事業計画書」(4枚目に≪原本≫と記載のあるもの)と題する書面が存在する。【戊辰23・弁302別紙B】

同書面には,事業試算との標題の下に,「処理量 40t/日」あるいは「処理量 60t/日」,「炭化炉+溶融炉」,「リース契約金額 ¥8億8000万」,「溶融炉」(「炭化炉」と印刷されたものを手書きで修正したもの),「リース契約 ¥5億」,などの記載があり,これらの条件のもとでの月額利益・年間利益を試算したものとみられる。また,平成14年2月から4月まで「40t/日」として,同年5月から11月まで60t/日」として,月額の収支を計算した体裁のもので,「借入の部」欄には,設備費,施設費,運転資金が挙げられ,月額返済分は680万円と記載されていた。

② 9月25日,同日付けで,戊辰リサイクル(H)は,壬午工業(≪略≫)に対し,工事変更に関して,機械の設置につき,「ピットを掘ることで,突出部分が屋根に当たらない設置方法でお願いします。」,「炭化炉設置に関して,既存炭化炉を併用することで福井県に対し変更許可を申請します。」,「溶融炉設置に関して,炭化炉設置と同時期に輸送,設置に入って下さい。」,「許認可の切替時期が平成14年4月20日になっています。工事終了時期を11月末,試運転開始時期を12月初めの予定でお願いします。」,機械代金支払に関して,「辛卯リース,壬辰リース,癸巳リース三社にて現在検討をお願いしています。」,「10月にはお支払ができると思っていますので宜しくお願いします。」などと記載した連絡文書を作成し,同文書は,壬午工業から乙丑ソースへファックス送信された。【弁97,D15回15】

13  甲午販売店のリース(平成13年9月~)

① Aは,甲子フードサービスグループで甲午販売店を買収するとして,平成13年9月初めころ,Fに対し,甲午販売店に既に導入されていた3億円程度の精米設備について,丙寅システムシステムから丁卯社が4億円余りで購入したことにして,差額の約1億円が丙寅システムシステムの利ざやとなる形でファイナンスリースを組むように依頼し,Fはこれに応じた。

② 9月27日ころ,Cは,甲午販売店の顧問と称するcに宛てて,甲午販売店に係るファイナンスリース案件について,「明日より,甲午販売店のリースの現調と契約が開始されます。」などとして,リース会社の現地調査の日程(9月28日から10月2日)を伝えるとともに,「別添書類に目を通し,米屋の組合長にも理解をしていただき,リース会社との対応を宜しくお願いします」,「各リース会社へ丁卯社が保証し,丁卯社に対し甲子フードサービスが保証します」,「リースの支払い保証としても,別紙スキームを提示しておりますので対応宜しくお願いします」などと手書きした書面を作成,ファックス送信した。【弁70】

③ 10月上旬ころ,丁卯社がサプライヤーとなって,リース会社5社に対して,総額約4億7000万円の精米設備一式を売り,リース会社が,ユーザーである甲午販売店に対して,同設備をリースし,甲子フードサービスがこれを連帯保証するとの契約が締結された。なお,精米設備は価格約3億円のものであった。【甲17p33以下】

④ 10月10日,甲午販売店関係のリース金を原資とする4億7500万円のうち,8月31日の丙寅システムの丙戌インシュランスからの借入金1億円の相殺分等を控除した3億円が丙寅システムに入金された。同金員は,同月10日から12日にかけて,以下のとおり処理された。【弁103,乙23p16及び資料,D公判】

i 乙丑ソース(手形返済) 2億円

ii i(乙丑ソース手形決済資金返済) 2400万円

iii Z 500万円

iv 丙寅システム(≪略≫) 2400万円

v 丙寅システム 500万円

vi j(己丑社関係) 2200万円

vii E手形 2000万円

viii 乙丑ソース 2500万円(BからDへの依頼による。)

10月10日期日の壬午工業の手形の決済資金として,上記甲午販売店関係のリースから入金された金員(上記2億円)が充てられた。【D11回16】

14  戊辰リサイクル関係でリース会社との交渉に入るまで(平成13年10月~)

① Aは,10月2日付けの「甲子フードサービスが,乙亥社又は戊寅に代わり,乙丑ソースに対し,総額2億円の範囲内で,現金又は手形により清算金相当額を交付し,あるいは,つなぎ資金の借入等の調達行為に協力し,かつ甲子フードサービスがその債務保証等をすることを甲子フードサービスの取締役会が承認した」旨の記載のある甲子フードサービスの臨時取締役会議事録を偽造した(同議事録は,A及び≪略≫の原本の写しに相違ない旨の認証文言があるところ,出席取締役の署名押印の印影の向き・位置は,別の議事録と同じものがある。)。【弁117ないし119】

② 10月初めころ,壬午工業が破産宣告を受けて倒産したため,壬午工業が戊辰リサイクルに溶融炉を売却する計画は頓挫した。

③ Hは,壬午工業の副社長であったdから,同人が代表取締役を務める乙未社が所有する小型溶融炉を約1億円で購入しないかと持ちかけられたが,戊辰リサイクルには資金がなく,また,ファイナンスリースによる資金調達をする与信もなかったことから,Hは,資金提供者を探す必要があった。

④ 10月5日付け,乙未社の溶融炉見積書(税込5億2500万円のもの)が存在する。同見積書上,「適用」(「摘要」の誤記と解される。)欄には,「受入供給設備,溶融設備,スラグストック設備,排煙処理設備,水処理設備,制御・計装設備,据付・配管・配線・付帯工事,試運転調整費,輸送費,仮設費,設計費,諸経費」が挙げられている。【弁281p91,弁250,H52】

⑤ Eは,産業廃棄物処理事業が有望であること,戊辰リサイクルが廃棄物処理設備の購入を計画し,資金提供してくれるスポンサーを探していることなどをB及びCに伝えた。

⑥ 10月上~中旬ころ,Hは,乙丑ソースを訪れて,E,g,C,Bと面会し,新規に設備を導入して共同事業を行いたいとして,資金提供を求めた。そして,10月下旬ころには,乙丑ソースとして戊辰リサイクルと共同事業を行うことになり,Bは,社長直属の部署として新規事業開発室を作り,その室長にgを充てた。【乙26p2,H34】

⑦ 10月下旬ころ,Aは,bから聞いた話として,Dに対し,Eの縁で,戊辰リサイクルに新規設備を導入すれば多大な利益が見込まれるが,戊辰リサイクルが乙丑ソースに共同事業を申し入れているとの話をした。【乙24p2】

⑧ Aは,本件戊辰リサイクル案件のリースについて,甲子フードサービスないし癸酉社として関与することを決めた。

⑨ 戊辰リサイクルが導入しようとしていた乙未社の小型溶融炉(溶融設備のほか受入供給設備等も含めて税抜きで合計5億円)については,移設費等の問題で導入を断念することとなり,これに代えて,H,g,E及びDが,複数の業者を回って,戊辰リサイクルに導入する設備を探した。その過程で,Dは,4~5億円程度で溶融炉が購入できることを把握し,これをAに伝えた。

⑩ 10月下旬ころ,AはFに対し,「戊辰リサイクルの産廃事業に参入しようと思う。戊辰リサイクルに新たな機械を入れるので,リースを組みたい。リース会社を紹介して欲しい。Dが担当する。」などと依頼し,Fはこれを承諾し,部下のkにリース会社を探させた。しかし,戊辰リサイクルに導入する溶融炉の見積書がなかったことから,Dに対し,その送付を依頼した。

⑪ 10月29日,Dは,丁卯社のkに対し,戊辰リサイクルのリース案件に関する資料をファックス送付した。【乙24及び同資料①】

⑫ 10月31日,丙寅システムは,Aの指示で,Fの紹介を受け,プライムから4億円,丙戌インシュランスから5億円をそれぞれ借り入れ,これらを乙丑ソースの簿外手形決済に供した。【弁130,D公判】

⑬ 11月1日付けで,乙丑ソースと戊辰リサイクルは共同運営契約を締結した。同契約においては,「現在の戊辰リサイクルの理事及び組合員は10月末日をもって辞任し,協議の上,新理事・組合員を選出し事業の継承を行う。」,「今後,戊辰リサイクルにおける全取引は乙丑ソースと協議するものとした上で,経理上に係る書類・帳簿は全て乙丑ソースに引き渡し,乙丑ソースにおいて管理する。」などと合意された。【戊辰26・甲29資料1】

⑭ 11月1日付け手形残高によれば,乙丑ソースの簿外手形の残高は,11月に期日が到来する分が計2億1035万円,12月に期日が到来する分が計5510万円,1月に期日が到来する分が計1億4802万9180円,2月に期日が到来する分が計4700万円であった。ただし,欄外に庚寅社2億1600万円,丙申社2000万円との記載があり,他に保証手形との記載もあった。【弁170[4849丁]】

15  庚午リースとの交渉初期・己亥見積書偽造等(平成13年11月初め~20日ころ)

① Fは,Aからリース会社選定・交渉の依頼を受け,Aから聞いた調達金額が約8億円と巨額なこともあり,これまで甲子フードサービスに関連する案件を扱ったことがない庚午リースを選定した。

以後,Fは丁卯社社員であるGこと≪略≫を庚午リースとの交渉担当者に指名した。

平成13年11月ころから,Gは,庚午リースとの交渉を開始した。

② 庚午リースは,情報通信第一部(部長I,部長代理l)が本件を担当することになった。同部は産業廃棄物関係には詳しくなかった。【l公判】

③ 11月9日,Fは,部下のGと共に,lに面談して,戊辰リサイクルに導入する炉についてファイナンスリースの取り組みを打診し,その際,甲子フードサービスの連帯保証を付ければ8億円程度のファイナンスリースを組むことが可能だとの感触を得た。

④ Gは,庚午リース側から,契約の保証人となる甲子フードサービスの保証意思確認の申し出を受けた。

⑤ 11月12日,Aは,Fの依頼を受け,Dに対し,己亥鐵工所作成名義の見積書の作成を指示した。【乙24p12】

⑥ 11月12日,庚午リースlから,Fに,メールで,対象物件である溶融炉の見積金額等の問い合わせをした。Fは,Dに電話し,見積書を作成して送付するよう督促した。

⑦ 同日,丙寅システム(D)から丁卯社(F)へ,己亥鐵工所作成名義,戊辰リサイクル宛て,代金額7億8823万5000円(税込)の見積書(戊辰27)がファックス送信された。Dは,別途入手していた4億6000万円の溶融炉(丁酉工業のもの)の見積書の項目をそのまま転記し,それぞれの価格を上乗せしたものを作成した上,パチンコ台リサイクル処理設備のリース契約の際に入手した己亥鐵工所の会社名記載部分を切り貼りして,前記己亥鐵工所作成名義の見積書を偽造した。なお,のちにDが偽造した己巳社名義の見積書と商品の細目はほぼ同じで,これに対応する金額及び契約書番号が同一であった。Dは,同見積書作成について,B,Cには報告しなかった。【戊辰27,乙24p12以下,D11回74以下,29回66,140】

⑧ 同日,Fは,Gに見積書を渡し,庚午リース宛にファックス送信した。

⑨ 11月13日,庚午リース(l)は,丁卯社(G)に対し,「溶融炉の件」と題するメールを送信した。【甲19資料4】

同メールには,以下の記載があり,これをプリントアウトした紙に,手書きで次のような書き込みがある(手書きの書き込みは,lからのメール文書について,FがDに電話をして確認し,その内容を記載したものであった。)。

① 同組合は本プラントを導入前に事業を開始しており相応の売上を計上しているようですが,その事業も現在停止中なのでしょうか?その事業だけでは成り立たなかったとの理解で宜しいのでしょうか?

(これに対し,「その事業だけなりたってません」との書き込みがある。)

② 県からの許可は来年の平成14年4月までとなっておりますが,更新は問題ないのでしょうか?(県が施設を差し押さえている状況は影響ないとの理解でよいのでしょうか)

(これに対し,「県からの高度化融資を受けている関係もあり問題ありません。県に確認できます。」との書き込みがある。)

③ 本件新たに制作したプラントは既に完成済とのご説明でしたが,当初どこ向けに製造したもので現在どこに(九州?)設置してあるのでしょうか?

(これに対し,「すいません,長野県で試運転中で,いつでも確認出来ます。」との書き込みがある。)

④ 引き上げられたプラントに関する決済はどうなったのでしょうか?また真の所有者名をご開示願えますでしょうか?

(これに対し,「≪略≫製の商品を購入しました。代金は一部支払してしまいました。真の所有者は現在ヒアリング中」との書き込みがある。)

⑤ 見積もりを頂きましたが,御社から当社が購入させて頂く金額もこれで宜しいのでしょうか?

(これに対し,「5~10%上乗せします。」との書き込みがある。)

⑥ FAXのため不鮮明につき己亥鐵工所の本社工場の住所電話番号を教えて下さい。

(これに対し,「確認中です。」との書き込みがある。)

⑩ H,gやEは,戊辰リサイクルが購入する廃棄物処理設備の選定をしていたところ,11月中旬ころ,Hは,埼玉県さいたま市に名目上の本店を置き,同県h市内に事務所施設がある,廃棄物リサイクル機械の製造販売業等を目的とする己巳社(資本金2400万円)を訪ね,同社から炭化乾燥炉一式を代金5000万円で購入できることを知った。Hは,現物を見て,改造すれば十分に処理能力があると考え,Eに対しその旨述べ,同設備でも事業再開が可能である旨の連絡をした。なお,≪略≫等,当時Eらが探していた設備には,乾燥炭化炉が複数あった。【H55,甲28】

その後,Eは,埼玉県h市内の同社の施設で同設備を確認した。

⑪ 11月18日,Eは,「戊辰リサイクル事業協同組合 炭化乾燥炉 導入スケジュール」と題する書面(作成日付は11月16日付け)をファックスで送信ないし受信した。(送信先又は受信元は,≪略≫)

同書面は,辛未リース所在の資料に含まれていた。

同書面によれば,

Ⅰ 購入物件所有者己巳社,設計改造施工業者癸卯研究所

Ⅱ スケジュール

11月22日に炉の売買契約

11月26日炉の移動

11月27日炉の改造・補修・着工

12月26日改造補修完了

とされていた。

また,戊辰リサイクルと乙丑ソースが共同事業をすること,乙丑ソースから新理事を出し,新体制を作ることなどが記載されている。

【弁361:辛未リース取寄書類[7150丁]】

16  庚午リースとの面談前後の状況(平成13年11月21日,22日)

① 11月21日ころ,A,D及びFは,東京都内の≪略≫ホテル1階において,庚午リース情報通信第一部長Iと面談した。【甲1資料1】

その際,Dは,これに先立って乙丑ソースから10枚程度交付されていた乙丑ソースの「新規事業部環境保全室長」との肩書きを付した名刺をIに渡した(なお,同部署は実在しない架空のものであった。)。【D29回3】

Aは,「Dは私の部下であり,今は乙丑ソースに送り込んでいる。」といった言い方で,Dを紹介した(甲1p9,甲18,乙6。Aは,公判においてこれを否定するが,Iの12月17日付け出張報告(甲1資料6[63ないし65丁])に「甲子フードサービスから乙丑ソースに出向しているD環境保全室長」との記載があり,公判でも他の点は検察官調書の内容を否定しつつ,この点は維持しており,前記のとおり認められる。)。

Aからこのように紹介されたDは,Iに対し,「乙丑ソースでは,自社の廃棄物処理のニーズも含め,戊辰リサイクルと共同で産業廃棄物処理のための事業展開をすることになり,そのために戊辰リサイクルが購入して稼働させる設備の代金が,全部で7億5000万円ほどになる。」などと言いつつ,丁卯社が購入した溶融設備等産業廃棄物処理設備一式を庚午リースが更に購入し,戊辰リサイクルに代金割賦払いで転売してくれるように申し入れた。

もっとも,Aは,Dを紹介し,名刺交換をした程度で席を外した。【甲1】

② 11月22日,lは,Fに対し,「溶融炉の件」と題するメールを送り,「①見積書の送付(御社から当社が購入する金額を確定させてください)」,「④昨日頂きました資料「事業計画書」では本件割賦の支出はどれでしょうか?・もし◎借入の部にある6.8百万円/月(分割7年84回)だとすれば,物件代金は5億程度となりますが?」などと質問した。【甲19資料5】

③ 11月22日ころ,Eは,B及びCに対し,己巳社から炭化炉等一式を代金5000万円で購入でき,差し当たり同設備でも事業再開が可能である旨を伝えた。そして,Hの意向もあり,己巳社製の炭化炉を導入することになった。【H62,甲25p14】

④ ただし,己巳社から購入した乾燥炭化炉だけでは,焼却炉としての機能しか果たせず,戊辰リサイクルが受けている乾燥処理の許可に適合するためには改造工事費用として約2億円が必要であった。

17  己巳社の見積書が偽造された前後の状況(平成13年11月22日~27日)

① 11月22日ないし23日ころ,Dが,Gに電話で,「リース対象物件が己巳社の5000万円の炭化炉に変更になった。」旨伝え,これを受けて,Gは,Dに対し,己巳社名義の見積書をファックスで送って欲しいと伝えた。【乙24,甲19】

② Dは,E及びgに,「己巳社の7億5000万円の見積書を己巳社の社長に作ってもらえないか。」と聞いたが,Eは「5000万円の見積書なら入手できるが,7億5000万円の見積書を己巳社に作ってもらうことはできない。」と断った。【乙24p27,乙30p9-10,E38以下】

③ 11月26日付け,戊戌技研の戊辰リサイクル宛て見積書が存在する。同見積書は,「乾燥機キルン改造費」,「炭化装置改造費」,「二次燃焼炉」,「乾燥キルン架台改造費」等合計1億500万円(税抜き)のものである。【弁254の11枚目[5082丁]】

④ 11月27日ころ,Dは,乙丑ソース本店内の丙寅システム事務所において,丁卯社宛て,己巳社名義,見積代金を7億8823万5000円(税込み。税抜き約7億5000万円)とする見積書(10月29日付け。戊辰24)を偽造した。同見積書には,別紙3別表の己巳社見積書欄記載のとおり,「商品名/摘要」欄等に「受入供給設備/炭化設備・炭化装置架台 1式 3120万円」,「溶融設備/ロータリーキルン乾燥室・二次燃焼炉・乾燥機キルン架台 1式 2億5380万円」,「スラグストック設備/集塵機・サイクロン集塵機・軸流集塵機(消臭用) 1式 3240万円」,「排煙処理設備/炭化炉(消煙炉) 1式 1億2600万円」,「水処理設備/冷却塔 1式 6480万円」,「制御計装設備/CO,O2計・制御計装設備 1式 6500万円」,「据付・配管・配線・付帯工事/二次側電気工事・現場加工及び取付工事・ダクト及び油 水道配管工事 4680万円」「試運転調整費 2470万円」,「輸送費 1600万円」,「仮設費 1800万円」,「設計費 3200万円」,「諸経費 4000万円」と記載がある。また,「戊辰リサイクル事業協同組合様用」,「決済条件:リース契約特約」等との記載がある。更に,契約書番号として,「No.E608843-02」との記載がある。「商品名/摘要」欄の品目部分のうち,「/」以下の記載は,己亥鐵工所名義の見積書の品目部分に追加されたものであった(Dは,「Hに確認したと思う。」とも供述する。)。【戊辰24,27,D29回71以下,140】

(Dは,「己亥鐵工所の見積書は枠取りであったが,己巳社のときは枠取りではなかった。」,「中身はこれくらいだという認識だった。」と供述する。)【D29回72】

⑤ 同日,Dは,前記偽造見積書を,gをして,乙丑ソース本社から東京都中央区の庚午リース情報通信第一部にファックス送信させた。【戊辰24・甲1資料2,D13回18-19,甲30】

⑥ また,同日,これに引き続き,乙丑ソース本社から,「戊辰リサイクル事業協同組合 事業計画書 1年目」と題する書面が,庚午リースにファックス送信された。【戊辰28・甲1資料3】

同書面は,平成14年2月から5月まで「40t/日」として,同年6月から11月まで60t/日」として,月額の収支を計算した体裁のもので,「借入の部」欄には,設備費,施設費,運転資金が月額1450万円,固定資産税等積立金が月額150万円として,返済費合計月額1600万円と記載されていた。

18  庚午リースの稟議(第1次)(平成13年11月28日~12月3日)

① 11月28日付けで,庚午リース(担当l)では,「CONSULTATION SHEET」と題する書面を作成した。【戊辰29・甲1資料4】

i 同書面の契約先会社名欄には,「戊辰リサイクル事業協同組合」,「①新事業主体:乙丑ソース(株)」,「②連保人:甲子フードサービス(株)&社長個人」との記載があった。

ii 同書面には,契約額約8億3600万円,物件名「新造溶融炉」,物件価格約7億5100万円,購入先丁卯社,製造元己巳社/癸卯研究所,検収予定日12月(契約日11月30日)などという記載があった。

(物件金額や作成時期からみて,前日にファックス送信された己巳社の見積書に基づき記載されたものと推認される。)

iii 同書面には,I及びlの意見として,「本件事業の背景は明確で県からの委託業務を含めた後押しもあり産廃許可の継続も懸念はなく,かつ,乙丑ソースと甲子フードサービスの新事業として採算良好な将来性のある事業であり,また,連帯保証人の実資力を考えれば最終的な懸念も小さな先であることから,本件採り上げと致したくご承認願います。」旨の記載があり,これに対し,審査担当役員≪略≫は契約額2億1000万円につき承認するとの記載をし,また,副社長≪略≫も4分の1程度の取り上げにとどめるべきなどと記載をした。

iv l作成の稟議書添付資料には,案件概要の項目中,「②物件:新造溶融炉」,「現状 己亥鐵工所の下請業者でもある癸卯研究所で部分製作を終え,販売元となる己巳社の工場内で組立の上試運転を終えており販売移設待ちの状態。」,「導入効果 本件溶融炉は炭化後高温(1500℃)で溶融されることから,処理廃棄物は耐熱性に極めて強い物質となり煉瓦や防火パネルなどにリサイクルに供される。」と記載されていた。また,物件金額は約7億5100万円とされていた。また,担保として,甲子フードサービスの連帯保証及びAの個人連帯保証等が挙げられていた。【戊辰29[3733丁]】

v 同稟議書添付資料中,事業計画について,「本件設備導入による同組合の処理能力はMAX60t/日。(増設計画あり)」,「02/2から40t/日,02/6より60t/日」,「稼働則単月黒字となり,来期には累損一層により黒転が確実な事業。」などという記載がある。【戊辰29[3735丁]】

vi 同稟議書添付資料には,産業廃棄物処分行許可証のコピーが添付されている旨の記載があり,同資料に同許可証の記載事項が引用され,「事業範囲:事業区分 中間処理(乾燥,炭化,破砕)」との記載もある。【戊辰29[3735丁]】

vii 事業運営主体の概要として,乙丑ソースの会社概要が記載され,帝国DB評点「47」とも記載されていた。他方,保証人/実質与信先の概要として,甲子フードサービスの会社概要が記載され,帝国DB評点「68」とも記載されていた。【戊辰29[3736丁]】

viii 同稟議書末尾には,当部意見として,与信面,採算面,取引拡張面から,採り上げを求める意見が記載されていた。

ix 同書面添付の紙には,2億1000万にて承認との記載部分にmの押印がある。同用紙には,「乙丑ソースは割り止めの常連で銀行管理先で事業の遂行能力は疑問。」,「本件はかなりの確度でトラブル案件。」「甲子フードサービスは保証能力あり。」との記載もある(≪略≫の記載ともみられる。)。

x 同書面の別紙には,事業の継続性,事業遂行能力は疑問であるが,連帯保証人の保証能力は評価でき,甲子フードサービスから取締役会議事録を含め無条件無瑕疵の連帯保証を徴求することを前提として採り上げ可との意見も記載されている。

② 庚午リースでは,同社の与信業務上の最高意思決定機関は,ローンコミッティであり,同社代表取締役のmは,そのメンバーの一員として,本件契約を締結するか否かを最終的に決定する立場にあった。

③ 11月29日,同社ローンコミッティのメンバーは,本件稟議書の内容に基づき協議した結果,契約額2億1000万円について,契約の締結を承認した。

19  11月29日から30日の状況

① 11月29日午後10時33分及び34分ころ,乙丑ソース本社からCのもとへ,戊辰リサイクルと乙丑ソースの共同事業に関する戊辰リサイクルの誓約書案,己巳社と戊辰リサイクルの炭化炉の契約書案(売買代金額5000万円)2通がファックス送信された。誓約書案及び契約書案につき,Cは「残金の支払い方法」,「平成 年 月 日をもって辞任した旧理事・組合員」などと書き込みをした。【戊辰30と31,弁302,304,307】

② 11月30日,乙丑ソース本店において,己巳社の代表取締役J,H,E及びgが立ち会い,己巳社と戊辰リサイクルとの間で,炭化乾燥炉一式(炭化炉計2基等を売買の目的物とするもので,溶融炉あるいは溶融設備は含まれていない。)の売買仮契約が代金5000万円で締結された。【戊辰34,36,37,甲29資料5】

同契約書によれば,売買の目的物は,炭化炉計2基,乾燥機2基,粉砕燃料装置1基,燃料タンク1基,高速給油器1基及び制御板1基であった(別紙3別表「新規導入設備」欄参照)。

また,同契約書には,本件機械の売買代金は金5000万円であること,支払は,仮契約時に金1000万円とし,本契約時に残金4000万円の支払を確定させること,己巳社は戊辰リサイクルに対し,下水汚泥処理施設において1時間あたり1.5tの処理能力があることを保証することなどという記載があった。

③ その際,Eは,現金・小切手で合計1000万円分をJに交付した。【戊辰35】

④ 同日付けで,乙丑ソースと戊辰の共同事業について,Hは誓約書を作成した。【戊辰38】

⑤ 仮契約となった理由について,Eは,「まだリース契約が締結出来ていなかったからであると記憶している。」と供述する。

⑥ なお,11月30日付けで,乙丑ソース(B)作成名義,C宛ての2億5000万円の借用書が作成された。同借用書には,11月30日現在,乙丑ソースがCに2億5000万円を借用しており,リサイクル用炉のリース契約成立後,すみやかに返済する旨の記載がある。(もっとも,乙丑ソース業務部長であったnは,「この借用書は,平成14年2月ころ,銀行対策用に,乙丑ソースの決算日である11月30日付けで作成した借用書であり,実際には同日に作成したものではない。」と供述し,B,Cもこれに沿う供述をするところ,乙丑ソースの平成13年度決算書(平成12年12月1日から平成13年11月30日までのもの)は2通存在し,1通には仮受金の部分に「C 250,000,000」との記載があり,もう1通にはこれがないこと,借用書の原本がCの手元になく,nの保管下にあったとみられることにかんがみれば,前記n供述は,これを排斥し難いもので,前記借用書記載の事実が存在したとは認定できない。)【戊辰33,甲111,弁354[7063丁],甲112】

⑦ また,同日,丙寅システム(D)は,Bの依頼があったことから,Aの指示で,Fの紹介を受け,甲子フードサービスの連帯保証で,≪略≫から1億5000万円を借り入れ,以下のとおり,処理した。【弁103,乙24p32,D公判】

i 乙丑ソース(手渡し) 2000万円(乙丑ソースへ交付)

ii i 2000万円(乙丑ソースへ交付)

iii b(日栄) 500万円(戊寅の借入金返済)

iv 乙丑ソース 9500万円(乙丑ソースへ交付)

v 丙寅システム 1000万円

同借入に際して,Dは,丙寅システムの手形を差し入れており,返済期限は12月末であった。

20  辛未リースの登場(平成13年11月末~12月12日)

① 11月末ころ,庚午リース(l)は,Fに,庚午リースとして戊辰リサイクルの採算性に対する疑問を持っていたことから,2億5000万円以上の資金提供は困難であると伝え,Fは,lに,「他に5億円程のリースを組んでくれるリース会社を探す。」旨述べた。

② Fは,Aにその旨伝えた。また,Gに,庚午リースと同系列の辛未リースに残り5億円のリース案件を持ち込むように指示した。Gは,辛未リースの池袋支店にその旨申し入れた。

③ 11月30日付けで,庚午リース内部で,情報通信第一部は,ローンコミッティ・メンバー及び審査部宛てに,「戊辰リサイクル事業協同組合の件」と題する書面が作成された。同書面は,庚午リースの役員らから2億1000万円の限度で承認されたことを踏まえて,2億5380万円で交渉を行うために協議したいというものであった。同書面には,「対象物件の特定 溶融炉 1式 253.8百万」,「当初溶融炉全体での採上げを検討したが,採上げ金額条件は210百万が限度となったことから,全体で一体の設備ではあるが金額的にもまとまった比較的資産価値の高い主要な設備であることから同物件と致すもの。」との記載がある。また,「残りの物件(約497百万円)についてのファイナンスは,癸酉社が請け負う。」旨の記載がある。この申出(2億5380万円で交渉すること)は,12月3日に承認された。【弁353[6532丁]】

④ 12月4日付けで,庚午リースは,戊辰リサイクルに対する割賦販売見積書(溶融設備1式 物件代金2億5380万円のもの)を作成した。同割賦販売見積書には,物件名として「産業廃棄物処理設備 溶融設備(ロータリーキルン乾燥室,二次燃焼炉,乾燥機キルン架台)1式 ≪参照:(株)丁卯社宛て(株)己巳社見積No.E608843-02(平成13年10月29日)≫」,付随条項として,「○契約に際しては以下が条件となります。」,「・対象設備の所定場所への移動設置確認((株)己巳社と(株)丁卯社間の売買契約締結確認)」,「当社契約分以外の産業廃棄物処理設備全体のファイナンス組成の確定((株)癸酉社からの確認書)」などという記載がある。【甲18資料6】

⑤ 12月6日,庚午リースから丁卯社に,同割賦販売見積書が送信された。

⑥ 12月5日付け手形残高によれば,乙丑ソースの簿外手形のうち,12月に期日が到来するものは1億3165万円であった。【弁171】

⑦ 12月上旬,Fは,丁卯社事務所において,同所を訪れた辛未リース池袋支店営業社員Kに対し,「戊辰リサイクルが新しく導入する溶融設備は,総額7億5000万円程度であるが,これまで動いていた庚午リースは2億5000万円しか出せないと言っている。しかし,この事業は,乙丑ソースと甲子フードサービスが後ろ楯になってやると言っているので,辛未リースで残りの5億円くらいを引き受けてくれないか。」などと説明をした(リース物件が炭化炉等であって,その価格が約5000万円であるとは告げていない。)。このころ,丁卯社は,入手していた庚午リースの社内稟議書(未完成のもの,「Ⅰ引き合い経緯」と題する書面)」を辛未リース側に交付した。【甲4,甲6,甲18,甲19,甲23】

(Kは,捜査段階において,その際,己巳社の見積書も受け取ったと供述していた。)【甲6】

⑧ Kは,その後,上司のLらに報告した上,辛未リースの案件として検討することとした。

⑨ 12月10日,己巳社のJが乙丑ソースを訪れ,残金4000万円の支払確約書を書いて欲しいと要求し,12月11日付けで,戊辰リサイクル(H)及び乙丑ソース(B)連名での作成名義の,己巳社宛て残金支払確約書が作成,交付された。同書面には,11月30日の仮契約に基づく残金4000万円の支払日は,12月20日の本契約成立をもって確定するなどという記載があり,乙丑ソースの社判及びBの代表印が押印されていた。【戊辰49,乙31資料5。なお,同4も参照】

⑩ 12月11日,庚午リース(lほか1名)は,丁卯社(G)宛てに,「契約,物件代金お支払いに至るまでのスケジュールについて」と題する書面をファックス送信した。【甲19資料8】

⑪ 12月12日,Kは,Iに会い,庚午リースが,他のリース会社が残り約5億円のリースを引き受けることを条件として,約2億5000万円のリースを引き受けると決定していることを確認した。【甲6p9】

21  現地調査(12月14日)前後の状況(平成13年12月13日~17日)

① 12月13日,庚午リースは,乙丑ソース(0664512727,D宛て)及び丁卯社に対し,「≪契約締結までのタイムテーブル≫」と題する書面をファックス送信した。【戊辰54,甲19資料9 関連:戊辰140】

同書面には,「14日(金) 現地≪福井≫ 物件設置確認と県庁の言質確認 部長訪問 ・県庁から言質確認などが出来なかった場合は白紙[当該部分には,下線が付してある。]」などという記載がある。また,捺印ほか手続明細との部分には,戊辰リサイクル,甲子フードサービス,A個人,癸酉社,丁卯社に対して求める必要書類等が記載され,癸酉社については,「辛未リースとの契約が間に合わなかった場合は延払条件付売買契約書(物件受領書)の写しを庚午リースあて手配」,丁卯社については,「(株)己巳社との間の売買契約書写し」などの記載がある。

② 12月13日,Cは,c宛てに,自筆で,「戊辰リサイクルのリース案件に関して,≪中略≫明日,現地においてリース会社と行政の面談を実施致します。明日確認作業が完了しますと,12月20日のデリバリーが確定し,懸案事項の資金着地する段取りとなりますので宜しくお願いします。≪後略≫」などという書面を作成した。【戊辰53】

③ 12月13日,庚午リースから乙丑ソースに対し,確約書案(12月20日付け確約書と同一内容のもの)がファックス送信された。【戊辰52】

同確約書案は,上記庚午リースの割賦販売契約に際し,辛未リースからの融資に至らない場合には,癸酉社が溶融設備以外の産廃設備を引き受けて庚午リースと協調リースを組む形にするという趣旨で,癸酉社(A)は,庚午リース宛てに,1.同社が割賦の対象物件は総額7億5070万円の「産業廃棄処理設備」一式の一部であること,2.対象物件以外については,癸酉社等のリース会社が戊辰リサイクルとの間でリースないし割賦販売契約を締結し,契約書の写しを庚午リースに差し入れること,3.これが履行できないときは,庚午リースと戊辰リサイクル間の本件割賦契約は当然に無効となることを確約するというものであった。

④ 12月14日,庚午リースのI並びに辛未リースのL及びKが,福井県所在の戊辰リサイクルを訪問し,リース契約対象物件を確認した。その際,G,C,Dも同所に赴いた。【甲1,同資料5,6,甲4,同資料1】

⑤ これに先立ち,Gと相談したDから連絡・指示を受けたE(13日から福井入りしていた。)が,上記炭化炉等の己巳社からの導入設備に「溶融設備」,「スラグストック設備」,「水処理設備」などと記載した紙面を貼付した(Hもこれに気付いていた。)。既存の設備には貼らなかった。【乙24p35,H76以下,127以下】

⑥ 同日,Gは,Iに対し,「丁卯社は,この溶融設備を購入するため,すでに己巳社に対して,2億円近くを支払っている。」などと説明した。また,設備が組立前の段階なので聞くと,Hは,「性能面で問題はない。」などと言った。【甲1,19】

(Hは,溶融設備等の紙の貼付は,Eからリース会社と打ち合わせ済みのセレモニーだと言われた,リース会社にはDが説明した,などと証言する。)

⑦ 同日,I,Lらは,Hらとともに,福井県庁へ行き,市議会議員≪略≫,環境審議監≪略≫や県会議員fと面談した。【甲4p4】

⑧ I,L及びKが,事業の将来性や返済可能性について疑問を述べると,大阪まで来て甲子フードサービスの社長に会って欲しいなどとDが言い出したことから,急遽大阪市所在の乙丑ソース本社に赴き,B及びAと面談した。

⑨ 稟議書添付のI作成の出張報告(12月17日付け)には,乙丑ソースについて,乙丑ソース本社でBと面談した際,「同社長は挨拶のみで退席。」,「本プロジェクトは乙丑ソースが運営するとのことだが乙丑ソース側当事者は甲子フードサービスから乙丑ソースに出向しているD環境保全室室長とC相談役。」との記載があり,また,甲子フードサービスについて,Aの発言として,「乙丑ソースと甲子フードサービスは一体。」,「乙丑ソースはソース製造の過程で汚泥が発生し従来は海洋投棄してきたが数年内に禁止されるのが見えている,甲子フードサービスは各食堂から「残飯」という形で汚泥が発生する。いずれにしても,進出しなくてはならない事業でありこの1年半ほど,検討してきた。」,「「廃棄処理」の分野は色々と既得権益も絡み難しく手を染めるつもりはないが,本件は汚泥を炭化し土壌改良等に利用する「リサイクル」事業。まして本稼働すれば福井市からの処理委託が確約されている。」,「子会社の「癸酉社」を使って,本件ファイナンスをしようと考えていたところ,丁卯社の社長が任せてくれというのでお願いしたがこんなに手間取るとは思わなかった。既に取締役会では本プロジェクトでは総合リース会社に連帯保証を出す旨を説明しているので,早急に前向きな結論を出してほしい。」などという記載がある(同出張報告は,本件の嫌疑とは無関係に,当時作成されたものであり,Aは,この旨述べたものと認められる。)。更に,甲子フードサービスについての記載部分に,Dの発言が記載されている。【戊辰57[3784丁]】

⑩ Iは,甲子フードサービスと乙丑ソースが戊辰をM&Aするという話を聞いた。【I30】

⑪ 12月17日,庚午リースにおいて,同社の代表取締役mらローンコミッティメンバーは,本件割賦を,物件名溶融設備,製造業者己巳社,購入先丁卯社として,購入金額2億5380万円,契約金額税込2億7900万円で実行することを承認した。稟議書の申請書別紙には,残部を辛未リースがファイナンスするとの記載がある。また,担当部意見として,「甲子フードサービスの保証能力に依存する部分が大であったが,社長との面談を通して,自社のプロジェクトととらえ遂行していることが確認できたので契約手続を進めたい。」などという記載がある。【戊辰57,甲1,同資料6,甲3】

22  辛未リースの己巳社訪問前後の状況(平成13年12月18日~20日)

① 12月18日,戊辰リサイクルにおいて行われた臨時総会において,代表理事にH,理事にeが再任されたほか,乙丑ソース代表取締役B,甲子フードサービス代表取締役Aがいずれも理事に就任した。【弁281】

② 12月18日ころ,GからDへ連絡があったことから,Eは,辛未リース担当者が己巳社に対する調査を行うことを知って,己巳社のJに対し,リース会社担当者に対し,己巳社が販売したのが価格5000万円程度の炭化乾燥炉一式であることを秘匿し,溶融炉一式を約7億8000万円で販売した旨を述べるように要請した。【甲28】

③ また,12月19日,gは己巳社に赴き,同様の依頼をした。【甲29】

④ Jも,乙丑ソース側とリース会社との契約が破談となれば,上記炭化乾燥炉の残代金の支払が受けられなくなるものと考え,協力することを約した。

⑤ 12月19日ころ,Jは,辛未リースのL及びKが己巳社を確認のために訪れた際,Eから依頼されたとおり,設備の価格の相場を尋ねたLに対し,価格は「トン5000万」と通常処理トン数で決まる,本件機械は10億円以上の価値があるが,8億弱円で売ることにした,などと説明した。なお,Lは,事前にインターネットを利用し,「トン5000万」などという情報も得ていた。また,同日,Jは,Lに対し,「改良すれば1日50tの処理能力になる。」旨も説明した。【甲4,6,28】

⑥ 12月19日付けで,庚午リースでは,審査結果通知書を作成した。同書では,己巳社名義の溶融設備2億5380万円に対応する同金額(税込2億7900万円)が契約金額として記載されている。【戊辰57・甲1資料6】

⑦ 12月20日,Fは,Dから2000万円送金して欲しいと言われ,丁卯社から丙寅システムの口座へ,約2000万円(1999万9160円)を振込送金した(Fは,これは本件設備の支払先の己巳社との間に癸酉社を入れたため,代金の支払先を癸酉社の指示により丙寅システムに一部変更した旨供述する。また,Dは,1000万は乙丑ソースの手形決済資金用口座に振込入金し,1000万は丙寅システムの口座へやったが,その分は,丙寅システムの手形で街金から借りて乙丑ソースへ渡した借金があったので,同手形の決済資金に充てたと思う旨供述する。)。【戊辰126・甲18資料13,甲18p29以下,乙25】

⑧ 作成日は不明であるが,癸酉社の丁卯社宛て支払い指示書が存在する。【弁123】

同支払い指示書には,「契約日 平成13年12月19日」,「対象物件 溶融設備一式」,「物件代金(消費税込み) ¥744,000,000-」との記載があり,また,同物件代金のうち,2000万円を12月20日,3億5400万円を12月25日,2億9000万円を1月31日に,丙寅システムの口座へ振り込むようにとの記載がある。

23  庚午リースとの割賦契約(平成13年12月21日ころ~22日)

① 12月21日ころ,同月19日付けで,庚午リースから丁卯社宛ての注文書(物件名 溶融設備 金額 2億5380万円,消費税 1269万円)及び庚午リース宛ての注文請書が作成された。

そして,同日付けで,庚午リースと戊辰リサイクルは,延払条件付売買契約書を作成し,本件割賦契約を締結した。

同契約においては,庚午リースが売主,戊辰リサイクルが買主,甲子フードサービス(A)とA個人が連帯保証人となっていた。

同契約書には,代表売買物件名欄に「溶融設備」,売買代金及び消費税等額欄には「代金総額:2億7900万円,合計:2億9295万円」などという記載がある。また,同契約書の定型条項部分には,賦払金は月額465万円で60回払いとされた。物件の所有権は庚午リースが留保し,売買代金等債務の完済または賦払金の一括弁済のときに,戊辰リサイクルに移転するものとされ(第4条),物件の引渡しは物件受領証の交付をもってすることとされ(第5条。なお,搬入後,引渡しまで戊辰リサイクルは善管注意義務を負うとも規定されていた。),危険負担責任の軽減(第6条1項),瑕疵担保責任の適用除外(第6条2項),戊辰リサイクルは物件の使用につき善管注意義務を負うとされ(第8条2項),庚午リースの書面による承諾のない物件の現状変更を禁止し(第12条),物件の譲渡等を禁止し(第13条),物件の滅失等により,戊辰リサイクルが期限の利益を喪失するものとされ(第14条)ていた。他方,賦払金の支払を怠ったことなどを理由とする期限の利益喪失約款が付されていた(第16条)。【戊辰59・甲1資料7,乙26p5】

② 同日,Hは,gに,戊辰リサイクルの庚午リースを受取人とする額面488万2500円の約束手形59枚,同額の小切手及び戊辰リサイクルの実印等を交付した。また,12月20日付けで,戊辰リサイクルの庚午リース宛て物件受領書が発行された。【甲27,戊辰61】

③ 12月21日ころ,上記庚午リースの割賦販売契約に際し,辛未リースからの融資に至らない場合には,癸酉社が溶融設備以外の産廃設備を引き受けて庚午リースと協調リースを組む形にするという趣旨で,同月20日付けで,癸酉社(A)は,庚午リース宛てに,1.同社が割賦の対象物件は総額7億5070万円の「産業廃棄処理設備」一式の一部であること,2.対象物件以外については,癸酉社等のリース会社が戊辰リサイクルとの間でリースないし割賦販売契約を締結し,契約書の写しを庚午リースに差し入れること,3.これが履行できないときは,庚午リースと戊辰リサイクル間の本件割賦契約は当然に無効となることを確約するとの確約書を庚午リースに提出した。同確約書には,癸酉社代表取締役A,丁卯社代表取締役F,戊辰リサイクル理事長Hの各記名押印がある。【戊辰60,乙26】

④ また,12月21日ころ,前同様の理由で,同月20日付けで,戊辰リサイクルと癸酉社が割賦販売契約書を作成した。同契約書は,平成14年1月18日,庚午リースから辛未リースへファックス送信された。【甲1資料10,戊辰62,乙26】

⑤ 作成時期は不明であるが,癸酉社の丁卯社に対する溶融設備1式,税込合計金額7億4400万円の見積書及び請求書が作成された(なお,癸酉社の見積書及び請求書では,「スラグストック設備」とあるべきところが,「スラグストング設備」と記載されている。)。【戊辰40,41】

また,これに沿う癸酉社作成名義の支払い指示書(丁卯社に対し,物件代金(7億4400万円)を丙寅システムの口座に振り込むように指示するもの)が作成された。【戊辰56】

⑥ 12月21日付けで,己巳社と戊辰リサイクル間で,炭化炉等の産業廃棄物処理設備(炭化炉計2基,乾燥機2基等。高速給油器が2基から1基に減ったほかは,仮契約と同じ対象物件であり,性能保証条項が付されていた。溶融炉または溶融設備は含まれていない。)の売買契約が代金5000万円で締結された。その際,Dが,契約に立ち会った。【戊辰64,乙24p42】

⑦ 12月21日付けで,戊辰リサイクルと乙丑ソース間で,戊辰リサイクルの産業廃棄物処理事業について,相互協力する旨の協定書が交わされた。【戊辰65】

⑧ 12月21日,丁卯社から庚午リースに対し,12月18日付け己巳社作成名義の癸酉社宛て納品書(税込7億8823万5000円,「COPY」と記載のあるもの),12月19日付け丁卯社作成名義の癸酉社宛て注文書(売主を癸酉社,買主を丁卯社とし,「(株)己巳社 溶融設備一式」,「2億4190万4762円」(税込にすると2億5400万円),「COPY」と記載のあるもの)がファックス送信された。なお,癸酉社を売り主,戊辰リサイクルを買い主とし,己巳社製産業廃棄物処理設備一式(溶融設備を除く,スラグストック設備等約5.4億円のもの)についての12月20日付け割賦販売契約書も,前記納品書及び注文書とともに,庚午リースにあった。【弁353[6598丁]】

⑨ 12月21日,丁卯社(あるいは丙戌インシュランス)から癸酉社の口座へ,約8000万円(7999万3150円)が振込送金された(Fは,これは,Aから,今後丁卯社から支払われ,丁卯社から癸酉社に支払われる予定の設備代金の一部を前払いにして欲しいとの要望によるものであると供述する。)。また,同日,同額が,同口座から(株)≪略≫(Dの関係会社)に送金され,同日,8000万円が,丁丑社の口座に送金された(Dは,このような金の流れはAの指示に基づくものであったと供述する。)。【戊辰127,乙25】

⑩ 12月22日,庚午リース(l)は,戊辰リサイクルにおいて,物件確認を行った。物件確認写真の説明には,「溶融炉」と題され,物件には庚午リースのラベルが貼付された。その際,戊辰リサイクルにはほかにも機械があったが,「あれは前からあったやつで違う。」と言われて,ラベルを貼らないものがあった。Dも同席した。【戊辰55,D29回7,l72】

24  庚午リースの振込入金に関する状況

① 12月25日を関係書類の送付日とする庚午リースの「書類作成 徴収チェックリスト」と題する書面が庚午リースで作成された。同書面には,契約書,物件借受証,明細書・計算書等,物件名確認実施報告書,(なお,メーカー見積書は送付日欄に記載なし),注文請書,癸酉社分印証・登記簿謄本,割賦契約書(写),癸酉社と己巳社間の納品書(写),確認書,その他の各書類が,送付日を12月25日として挙げられていた。【弁353[6607丁]】

② 12月25日,株式会社庚子銀行東京営業部の庚午リース名義の普通預金口座から株式会社壬午銀行横浜支店の丁卯社名義の普通預金口座に売買代金として2億6649万円が振込入金された。【甲1資料9】

③ 同日,丁卯社から丙寅システムの口座へ(癸酉社の支払指示書により),合計約3億5400万円(3億5399万9160円)が振込入金された。【戊辰70,103,128,129,130,乙25】

(Fは,これは,「庚午リースから振り込まれた2億6649万円のうち,すでに12月20日と21日に丙寅システム(癸酉社側)に先払いしている1億円及び1649万円を差し引いた約1億5000万円及び今後辛未リースから入金が予定される5億円余りのうちから2億0400万円を合計したものである」旨供述する。)

④ 12月25日,丙寅システムから,以下のとおり,各口座に振込入金された。【戊辰99,103,143,144,乙25】

i ≪略≫(A関係の借入金返済) 4400万円

ii ≪略≫(A関係の借入金返済) 約1億5053万円

iii ≪略≫(A関係の借入金の手数料) 945万円

⑤ 同日,丙寅システムの口座から,2000万円が現金出金され,iへの返済に充てられた。【戊辰103,乙25】

⑥ 12月26日,丙寅システムの口座から,同社の顧問弁護士に330万円が振込送金された。【戊辰103】

⑦ 12月26日,丙寅システムの口座から,Aの指示により,丁丑社の口座へ,1億2000万円が送金された。【戊辰103】

25  辛未リースの稟議(平成13年12月25日以降)

① 12月25日ころ,L及びKは,本件を社内稟議にかけた。【甲4,6】

辛未リースの稟議資料には,以下の記載がある。【甲9添付資料】

i ≪現体制=実質事業主体は甲子フードサービス≫

乙丑ソースが戊辰リサイクルと業務提携を行い,甲子フードサービスへ話を持って行った経緯から乙丑ソースの名を前面に出して立ち上げを目指しているが,現場の責任者は甲子フードサービスから乙丑ソースに出向している。実質は甲子フードサービスが主導権を握っている。≪中略≫乙丑ソース・甲子フードサービス両社長が理事に就任。

ii [己巳社の説明で]今回対象の物件は3号機となるとの事で,炭化から溶融までできる性能を持っている。

iii [事業計画について](汚泥ケーキを)当社の溶融炉で炭化処理し,最終処分者に引き渡すものである。

処理委託契約も本件導入あれば更新されると市側の担当者訪問確認済み。

iv [物件,検収について]物件の性能に関しては処理物件の現物と検査会社のイズミテックのレポートから己亥鐵工所社長の判断を仰ぎ,性能・価格・メンテナンス面から決定がされた。

大手メーカーのものに比べて安く導入できている。(同等物件は大手の名が冠されていれば10億円以上はすると)

v 800℃~1000℃で炭化処理をする≪後略≫

vi そのほか,保証先の甲子フードサービスついて,業況やキャッシュフロー,グループ会社業況に言及がある。

26  12月28日の乙丑ソースでの会議(平成13年12月28日)

① 12月28日,乙丑ソース第1応接室において,戊辰リサイクル案件について会議が行われ,「溶融炉プロジェクト議事録」と題する書面が作成された。同会議には,乙丑ソースとしてC,E,g,戊戌技研としてo,丙寅システムとしてDが参加し,pが記録した。なお,C及びpは,途中から参加した。同議事録によれば,同会議の状況は以下のとおりであった。【戊辰75】

i Cは,途中からの参加であったため,「経緯を聞かせて欲しい。」と発言し,Eがこれに答えた。

ii また,Cは,「なぜ他のメーカーの製品を戊戌技研で改造することになったのか。」,「新しい製品だと金額的にいくらくらいするものなのか。」,「計画どおりの処理ができる製品なのか。」などと発問し,oやDらが答えた。なお,Dは,「減量です。何件か案件を扱ったことがあるので。」と発言した。

iii (戊辰リサイクルの許可の更新のために3月までに契約を継続しなければならないとの話の後)oが「現焼却炉を修理するのに1000万(最低)/1基かかる。」と発言したのに対し,Dが「まず,1基だけの稼働でいいのでは。」と提案し,Cが「それでいい。」と発言し,注文書を出すのでo技研に協力して欲しい旨述べた。

iv oの「経理は乙丑ソース主導のはずだが」などという発言がある(もっとも,戊辰との対比での発言と解される。)

v Cは,oの意見を踏まえ,「とにかく,まず1基稼働させて県との契約を継続させる。その間に己巳社にある機械の改造を基本からやり直すという方向に進みたい。」と発言した。

vi 同会議は,Cがoに協力を要請し,oがこれに答える形で終了した。

② 同日,乙丑ソースは,戊戌技研に対し,発注書を作成した。同発注書には,「戊辰リサイクルに在る既存炭化炉の改造を発注致します。」との記載がある。同発注書には,Bが記名押印した。【戊辰74・弁198】

27  第1次辛未リース契約まで(平成14年1月4日~17日)

① 1月4日ころ,辛未リース代表取締役≪略≫は,庚午リース購入分以外の設備につき,甲子フードサービスが戊辰リサイクルへ転割賦する前提で,これを甲子フードサービスに割賦販売する契約の締結を承認した。【甲9,甲4p11,6p21】

② 1月5日付け手形残高によれば,乙丑ソースにおいて,1月に期日が到来する簿外手形は,合計金額が3億3977万7605円,2月分は7760万円,3月分は2億4450万円であった。【戊辰76・弁145】

③ 1月16日,丁卯社が,辛未リースに,丁卯社名義辛未リース宛見積書をファックス送信した。【弁361[7142丁]】

④ 1月17日,戊辰リサイクルを譲渡人,乙丑ソースを譲受人,丙寅システム(D)を立会人として,協同組合業務(権利)譲渡契約証書が作成された。【戊辰78】

同契約証書によれば,戊辰リサイクルの全理事・組合員は平成14年1月1日をもって辞任し,同月17日をもって新理事・新組合員を選任し,今後の運営にあたるものとされ(第1条1項及び2項),戊辰リサイクルは乙丑ソースに対し,事業承継に必要な動産並びに帳簿及び書類を引き渡し,事業承継の諸手続をしなければならないとされ(同条5項),戊辰リサイクルは譲渡契約後も事業を行い,最重要事項である中間処理免許の更新については,完了まで責任を持って行うものとされ(同条9項),乙丑ソースが戊辰リサイクルに対し,協同組合業務(権利)譲渡の対価として7500万円を支払うこととされ(第2条),乙丑ソースが戊辰リサイクルの実印を管理するものとされた(第4条)。

⑤ 1月17日,乙丑ソースにおいて,辛未リースを売主,戊辰リサイクルを買主,甲子フードサービスを連帯保証人とし,溶融設備以外の本件産廃設備を対象とする割賦販売契約が締結された。同契約には,Dも立会った。Hは立ち会わなかった。【甲4p11,甲5,甲6p22,乙24p43,乙26p6】

28  第2次辛未リース契約まで(平成14年1月18日~25日)

① 1月18日,Iは,Dから,戊辰リサイクルと癸酉社の庚午リースが対象とした物件以外のものについての割賦販売契約書を入手したが,辛未リースと戊辰リサイクルで二重契約になると考え,これを辛未リースにファックス送信した。このころ,Iは,癸酉社が残りのリースを引き受けることになっており,癸酉社と戊辰リサイクルの契約書等ももらっているので,二重契約にならないように,癸酉社の割賦販売契約を解除させておいた方がいい旨辛未リースに助言した。KがDにその旨述べると,Dは,癸酉社の方は解約すると述べた。【甲1,同資料10,甲6p24】

② 1月20日ころ,12月24日付けで,戊辰リサイクル,癸酉社及び丁卯社間で,物件受領前解約にかかる覚書が作成され,辛未リース側に交付された。【戊辰66,甲6,23】

同覚書は,12月20日付けの戊辰リサイクルと癸酉社間での割賦販売契約及びこれに関係する戊辰リサイクルと丁卯社間の売買契約をいずれも解約し,丁卯社に物件の所有権が戻ったことを確認するという記載があった。

同覚書には,原本の写しに相違ない旨の癸酉社代表取締役Aの認証文言がある。

③ 1月21日,Kは,Dに対し,以下の内容の依頼をするファックスを送信した。【弁281[6085丁]】

1 取締役会議事録・決済手形の御用意(1/24まで)の件

・ 取締役会議事録の中で当事者であるA社長が議長として参加している旨の表示があるものは無効であるとの事。本件の保証金額¥572,460,000.-(税別)を表示させた上で差換えをお願いします。

≪あと2点あるが,省略≫

2 乙丑ソース社長とも契約の確認をさせてもらうべく面談させて頂きたい。(戊辰リサイクル事業協同組合の理事の1人として)

≪中略≫

5 現地の物件及び製品仕上がり確認

6 己巳社倒産…設置工事は誰が行い,今後のメンテはどうなるのでしょうか。

7 機械の所有権は今誰に有るのか?(癸酉社から己巳社への決済は済んでいるのでしょうか?)

なお,これに対し,6については戊戌技研,7については己巳社などという手書きの書き込みがある。

また,1は,Aが戊辰リサイクルの理事でもあることから,利益相反になるため,必要となったものであった。

④ 1月21日,Hは,乙丑ソース宛てに,己巳社から搬入された設備(乾燥炉,炭化炉)について,点検,調査等を実施したところ,「必要な熱量の確保は難しい。」,「現状では1時間当たり,1,500kg/h能力としては,使用不可です。」などという記載のある報告書を作成した。【弁254p181】

⑤ 1月22日付,乙丑ソースの己巳社宛て「炭化乾燥炉の売買について」と題する書面が存在する。同書面には,「このたびの貴殿における不渡り報告に関しまして,事情は説明を受け分かりましたが,不渡りそのものが取引上の信用問題において重大なことです。」,「又,1月20日(日)に,戊辰リサイクルにおいて本機械の性能を,第三者を交え検証を行いましたが,売買契約における保証が不可能であると報告を受けました。」,「以上により,貴社において機械性能の改善,並びに保証をすることが難しいと思われますので,早急に貴社,戊辰リサイクル及び乙丑ソースを交えて協議を行い,対応策を出したいと思いますので,よろしくお願いします。」との記載がある。【弁281[6112丁]】

⑥ 1月24日,Hは,Eに対し,戊辰リサイクル振出の辛未リースを受取人とする額面1001万8050円の約束手形58枚を交付した。そして,同日付け,戊辰リサイクル宛て,乙丑ソース(B)及び甲子フードサービス(A)連名で,戊辰リサイクルが庚午リース及び辛未リース宛てに振り出し,甲子フードサービスが裏書をした約束手形について,乙丑ソースと甲子フードサービスが連帯して,振込により支払うことを保証する旨の確約書が作成された。【戊辰82 乙31】

⑦ 1月24日付け,丁卯社の辛未リース宛て,5億2174万5000円の請求書が存在する。同請求書には,「搬入先 戊辰リサイクル事業協同組合」,「品名 溶融炉プラント1式」との記載がある。【戊辰81】

⑧ 1月24日,丁卯社が,辛未リースに,己巳社名義丁卯社宛見積書をファックス送信した。【弁361[7131丁]】

⑨ 1月24日,Kは,D(乙丑ソースの新規事業部環境保全室長との肩書きで)に対し,「支払の為に絶対に解決しなくてはいけないもの」として,甲子フードサービスの裏書のある手形や甲子フードサービスの取締役会議事録,乙丑ソース社長との面談,Hとの面談のほか,「機械の所有権が癸酉社ないし丁卯社に移っていることを証明するバウチャー(丁卯社さんに依頼中)」を挙げたファックスを送信した。【弁256】

⑩ 1月24日ころ,Kは,Gに己巳社の領収書を送って欲しい旨連絡し(Kは,このころたまたま己巳社の倒産を知ったため,己巳社に代金が支払われたか確認したと供述する。),Gは,Dに対し,己巳社名義の領収書を要求した。これに対し,Dは,丙寅システムから,己巳社Jの記名押印の印影を含む紙(平成13年12月21日付け己巳社と戊辰リサイクル間の炭化炉等の売買契約書の一部とみられるもの)をファックス送信したたが,同己巳社の印影部分は不鮮明なものであった。【戊辰139,乙24p44,甲6p28,19p18】

⑪ 1月25日ころ,Dは,12月28日付け,己巳社作成名義,癸酉社宛ての7億3500万円の領収書を偽造した。同領収書には,「本日の3500万円の入金をもって,物件の所有権が癸酉社に帰属する。」旨の記載がある(これは,1月に入って,己巳社が倒産したことから,それ以前に,己巳社に代金が支払われ,所有権が己巳社から移転した体裁を作るために作成されたものとみられる。)。Gは,時間がないとして,東京から大阪まで赴き,同領収書を受領した。同日,Gは,同領収書に,「よろしくお願いします。」との手書きの書き込みを添えて,辛未リースに対し,ファックス送信した。【戊辰71,72,73,乙24p45,甲19p21,同資料14,15】

⑫ また,このころ,Dは,Aから,甲子フードサービスの正規の取締役会議事録の各取締役の署名押印がある部分のコピーを受け取り,これを切り貼りして,甲子フードサービスが辛未リースとの割賦販売契約につき連帯保証することを承認する旨の取締役会議事録を偽造した。【乙26p7】

⑬ 1月25日,甲子フードサービスにおいて,12月25日付けで,辛未リースを売主,甲子フードサービスを買主とする,溶融炉プラント割賦販売契約書が作成,契約締結された(1月17日の契約では買主が戊辰リサイクルであった点が変更され,甲子フードサービスが買主となり,戊辰リサイクルに転リースする形式となった。)。販売代金総額は5億7246万円(税込6億0108万3000円)と記載されていた。同契約書によればA個人がこれを連帯保証するとされていた。また,同契約書には,物件の引渡し方法(第4条),甲子フードサービスの善管注意義務(第6条),完済による所有権の移転(第7条),物件の所有権侵害の禁止等(第9条),瑕疵担保責任の除外規定(第16条)や危険負担(第18条。物件の滅失により,甲子フードサービスが辛未リースに対し,直ちに残存代金全額を支払う規定を含む。)についての条項が記載されていた。【戊辰67,甲4p12】

(なお,日付を1月25日から12月25日付けにバックデートした理由として,Kは,Dから,12月25日に庚午リースに物件の一部を購入してもらっているので,これと日を合わせて契約したいと伝えてきたからである。」旨供述する。)。【甲7】

⑭ 同日ころ,前記日付に合わせて,12月25日付け,辛未リースから丁卯社への注文書,丁卯社から辛未リースへの注文請書が作成された。これらにおいては,受入供給設備,スラグストック設備等のほか,配管・配線・内外装設備が対象とされ,代金額合計は4億9690万円(税込5億2174万5000円)とされている。【戊辰68,69,甲5】

⑮ 1月25日,辛未リースは,丁卯社宛てに,5億2174万5000円の請求書送付状を作成した。【戊辰83】

⑯ 1月25日,Aは,戊辰リサイクル振出の約束手形に裏書きした。

29 辛未リース実行までの状況(平成14年1月28日~31日)

① 1月28日,乙丑ソースは,戊戌技研に対し,155万0430円を支払った。【戊辰84・弁200】

② 1月29日付けで,庚午リースは,戊辰リサイクルに対し,「お礼状」と題する書面を送付した。同書面には,「検収日 2001年12月20日」,「物件名 溶融設備」,「契約金額 ¥279,000,000.-」との記載がある。【戊辰85】

③ 1月31日付け,癸酉社の丁卯社宛て7億4400万円の領収書が存在する。【弁321】

④ 1月31日,株式会社庚子銀行本店の辛未リース名義の普通預金口座から丁卯社名義口座に売買代金として,5億2174万4475円が振込入金された。

30 辛未リース振込入金後の状況(平成14年1月31日~2月)

① 1月31日,丁卯社から,以下のとおり,各口座へ振込入金がされた。【戊辰87,88,103,133,134,137,138,145 甲18資料29,乙25】

i 丙寅システム 約2億9000円

ii 乙亥社 約1200万円(約定によるリース会社斡旋手数料とされていた。)

iii 丙寅システム 約3000万円(癸酉社の支払指示書による。丁卯社,甲子フードサービス及び癸酉社間での業務分配金とされていた。)

② 同日,丙寅システムの口座から,以下の口座へ,以下の金額が送金された。【戊辰103,145,乙25】

ⅰ 癸酉社 約1400万円

ⅱ 丁丑社 約3億円

同口座に入った金員のうち,約600万円は,丙寅システムの資金繰りに使用された。

③ 2月1日,乙亥社から,以下のとおり,各口座へ振込入金がされた(合計958万1060円)。【戊辰103,89,90-98】

i 戊子リースへ 304万0260円

ii ≪略≫クレジットへ 54万5300円

iii ≪略≫リースへ 50万9985円

iv ≪略≫リースへ 97万1250円

v ≪略≫リースへ 97万1250円

vi ≪略≫リースへ 99万2250円

vii 壬辰リースへ 58万2750円

viii 癸巳リースへ 77万7315円

ix ≪略≫リーシングへ 119万0700円

(なお,Aは,捜査段階において,これらの金員は,乙亥社の経営していた店舗の設備のリース料の支払であった旨供述していた。)【乙8】

④ 2月5日,癸酉社から甲子フードサービスの口座へ,約1400万円が送金された。

⑤ 2月12日,戊戌技研は,戊辰リサイクル宛てに,既存炭化炉改造等の3801万円の見積書を作成した。【戊辰100】

⑥ n作成のメモには,以下の記載がある。【弁150】

2/6 丙寅システム 20,000,000 (東京)

2/18 C 東三 5,000 シティB 5,000

2/20 C 東三 5,000 シティB 5,000

(nは,2月6日に丙寅システムから乙丑ソース側(丁丑社)に入金された金員を原資として,2月18日及び20日に,乙丑ソースからCへ合計2000万円が返済されたもので,同2000万円は,本件割賦販売代金を原資とするものではないと供述する。)【n31以下】

⑦ 2月27日付け,丁丑社(代表取締役B)と甲子フードサービス(A)間の合意書が存在する。同合意書には,「甲子フードサービスは,戊辰リサイクルの事業を継承または支援することを確約する。そのため現在戊辰リサイクルの契約するリース代金の保証として金7億円の為替手形を丁丑社に差し入れる。」などという記載がある(なお,そのほか,甲午案件等にも言及があり,全体として,甲子フードサービスが乙丑ソースを資金援助するとの趣旨の合意が記載されている。)。【甲103の42枚目・弁146】

⑧ なお,これに相応する手形の受領証が存在する。同受領証は,丁丑社代表取締役Bの記名押印があるが,受領書の文言の筆跡はCのそれであり,Cが記載した。【甲103の44枚目・弁147】

⑨ 丁丑社に入金された約5億1000万円は,多くが乙丑ソースの簿外手形処理に関する資金として使用されたとみられ,また,このうち,少なくとも1000万円分が,Cに対する債務の弁済に充てられた。【弁103】

⑩ 丙寅システムシステムの預金口座の残額のうち2億2728万円余りは,同社及びDが,Bの要請を受けて乙丑ソースの資金調達のため借りていた債務の返済等に充てられた。

⑪ 癸酉社を通じて甲子フードサービスに入った約1400万円及び乙亥社に入った約1200万円は,Aが取得し,自己が経営する同社等の借金の返済等に費消した。

⑫ 丁卯社の預金口座に留保された3223万4475円は,Fが取得した。

31 その後の状況(「検証」含む。)

① 己巳社に対し,残金4000万円の支払がなかったため,平成14年5月ころ,己巳社は,戊辰リサイクル及び乙丑ソースに対し,売買代金の支払を請求する民事訴訟を提起した(その後,平成15年以降,一定額を支払うということで和解で解決した。)。

② 平成14年秋ころ,Dは,戊辰リサイクル案件チャート図と題する書面を作成した。【弁105】

③ その後,乙丑ソースでは,己巳社との民事訴訟や甲子フードサービスの破綻,検察官の捜査着手を受けて,3度にわたり,「検証」と称する社内調査を行った。平成17年4月に,B,C,D,E,≪略≫(乙丑ソースの法務担当者)らで社内調査の際,Eが,Dに,己巳社名義の見積書について,「お前が偽造したんだろう。」などと言ったことがあった。その際,Dはこれを否定した。【D29回45以下,E37】

(Dは,他にも人がいたので,内部調査の席でも偽造を口外しなかったと供述する。)【D13回18】

④ また,社内調査の合間に,B,C及びDは,喫煙スペースで3人だけになったことがあった。

(Dは,「3人だけになった際,B,Cから「偽造見積書を作ったのか本当のことを言ってくれ。」と言われたか否か,覚えていない。」と供述する。)【D29回119】

⑤ リース契約によるリース支払手形の決済は,平成15年12月まではなされていたが,平成16年1月から支払われなくなり,不渡りとなった。(なお,甲子フードサービスは,平成15年11月に多額の簿外債務を抱えて,民事再生手続を申請した。)

⑥ 乙丑ソースについては,本件強制捜査着手後の平成17年5月24日,会社更生法に基づく更生手続開始の申立てがなされ,これを受けた大阪地方裁判所は,同月31日,同手続開始を決定をした。【甲42】

32 本件割賦販売代金の支払状況

① 庚午リースの本件割賦販売代金については,戊辰リサイクル側から割賦販売代金として合計1億1718万円(24回分)が庚午リースに支払われ,辛丑フード(旧甲子フードサービス)から更生手続配当として1840万2078円が支払われ,更に,Fから,和解金として1億3090万7922円が支払われた。【甲86等】

② 辛未リースの本件割賦販売代金については,上記のとおり,平成15年12月ころまでは順次割賦代金が支払われていたが,その後支払われなくなり,Fから,和解金として,実損害額相当分の2億4440万1359円が支払われた。【甲89等】

③ なお,平成18年8月30日,Cは,戊辰リサイクル事件を巡る辛丑フード(旧甲子フードサービス)との民事訴訟手続の中で,辛丑フード(旧甲子フードサービス),壬寅社(旧乙丑ソース)及び癸酉社の管財人らとの間で,和解金4230万円を支払い,自己及び関係者が乙丑ソースに対して有していた更生債権査定申立(届出額は計5億7000万円余り)を取り下げるなどして,

i 辛丑フード(旧甲子フードサービス)が,戊辰リサイクル事件において,AらとCの共同不法行為によって,庚午リースに対しては連帯保証債務を,辛未リースに対しては割賦販売代金債務を負担したことを理由とする損害賠償請求債権及び遅延損害金債権(当初,辛丑フードが,Cを被告として訴えを提起した請求債権)

ii 辛丑フード(旧甲子フードサービス)が,壬申銀行事件において,AとCの共同不法行為によって,壬申銀行に対して連帯保証債務を負担したことを理由とする損害賠償請求債権

iii 癸酉社が,壬申銀行事件において,AとCの共同不法行為によって,壬申銀行に対し,壬申銀行に対して貸金返還債務を負担したことを理由とする損害賠償請求債権及び遅延損害金債権

iv 壬寅社(旧乙丑ソース)が,上記iないしiiiについて,使用者責任によって辛丑フード又は癸酉社に負担したことを理由とする求償債権

iv 壬寅社(旧乙丑ソース)が,Cに対して有するという賃料相当損害金並びに立替金及び遅延損害金債権

に関して,和解を成立させた(これにより,Cに対しては,上記各社はその余の請求を放棄し,あるいは債務を免除した。)。【弁362以下】

第3詐欺の実行行為,リース会社の錯誤等

1  公訴事実中認められる事実

前記事実によれば,本件公訴事実中,

・ 戊辰リサイクルは,己巳社から代金5000万円で炭化炉を購入して,福井市所在の戊辰リサイクルに搬入したこと,

・平成13年11月21日ころ,東京都内の≪略≫ホテルにおいて,Dは,庚午リース情報通信第一部長Iに対し,「乙丑ソースでは,自社の廃棄物処理のニーズも含め,戊辰リサイクルと共同で産業廃棄物処理のための事業展開をすることになり,そのために戊辰リサイクルが購入して稼動させる溶融設備の代金が,全部で7億5000万円ほどになる。」などと述べたこと,

・ 同月27日ころ,乙丑ソースビル内において,Dが,「御見積書」との表題を付した書面に,己巳社が製造した溶融設備等を販売する場合の丁卯社宛ての見積書として,同社から更にこれを購入したリース会社と戊辰リサイクルとのリース契約の締結を条件とした同設備等の販売見積代金が7億8823万5000円である旨等の虚偽の記載をした上,その作成者として,「株式会社己巳社 埼玉県浦和市≪略≫」と記載したこと,

・ そのころ,Dの指示を受けた乙丑ソース従業員が,上記見積書を,乙丑ソースの本店事務所から東京都内の庚午リース情報通信第一部にファックス送信したこと,

・ Iらは,同書面を見たこと,

・ Fは,同年12月上旬ころ,東京都内の丁卯社事務所において,辛未リース池袋支店営業社員Kに対し,「戊辰リサイクルが新しく導入する溶融設備は,総額7億5000万円程度であるが,庚午リースは2億5000万円しか出せないと言っている。しかし,この事業は,乙丑ソースと甲子フードサービスが後ろ盾になってやると言っているので,辛未リースで残りの5億円くらいを引き受けてくれないか。」などと述べたこと,

・ 同月14日ころ,福井市内の戊辰リサイクルにおいて,Eが,上記炭化炉に「溶融設備」と記載された紙面を貼付したこと,

・ D及びHが,I,辛未リース池袋支店長L及びKに対し,「将来的に計画している乙丑ソースと甲子フードサービスグループが出す廃棄物の処理のためには,溶融設備の導入が不可欠であり,そのためのリースを組んでほしい。」などと述べたこと,

・ 己巳社代表取締役Jは,同月19日ころ,さいたま市内の己巳社事務所において,L及びKらに対し,戊辰リサイクルに売却した設備は約7億8000万円の価値がある旨述べたこと,

・ これは虚偽の説明であったこと,

・ 庚午リース及び辛未リースは,戊辰リサイクル等と割賦販売契約を締結する条件で上記各設備の所有権をそれぞれ取得することとして,それぞれその購入代金を支払うと決めたこと,

・ 同月25日,庚子銀行東京営業部の庚午リースの普通預金口座から壬午銀行横浜支店の丁卯社名義の普通預金口座に,上記焼却設備のうちの溶融設備の購入代金として2億6649万円が振込送金されたこと,

・ 平成14年1月31日,庚子銀行本店の辛未リースの普通預金口座から丁卯社名義の上記普通預金口座に,上記焼却設備のうちの溶融設備以外の排煙処理設備等の購入代金として5億2174万4475円が振込送金されたこと

が認められる。

そこで,これ以外の事実,すなわち

① 平成13年11月21日ころ,A及びDが,庚午リースのIに対し,「乙丑ソースでは,戊辰リサイクルと共同で産業廃棄物処理のための事業展開をすることになり,そのために戊辰リサイクルが購入して稼動させる溶融設備の代金が,全部で7億5000万円ほどになる。」などと述べたか

② 同年11月27日,Dが,己巳社の代表取締役印を模した印を冒捺して己巳社名義の見積書を偽造し,Iらに対しこれを行使したか

③ 同年12月14日,C,D及びHが,I,L及びKに対し,本件炭化炉が割賦販売契約の対象となる溶融設備である旨の説明をしたか

④ 同年12月14日,Bが,I,L及びKに対し,「甲子フードサービスの協力をもらってやることになった。高額の設備なのでよろしくお願いする。」などと述べたか

⑤ 客観的な欺罔行為があったか

⑥ リース会社側に錯誤があったか

が,本件詐欺の実行行為,リース会社の錯誤等について争点となっているので,これらが認定できるか,以下検討する。

なお,平成13年の出来事については,月日のみ示すことがある。

2  公訴事実中争いのある実行行為の有無について

検察官の主張する公訴事実中,争いのある被告人3名の実行行為の有無について検討する。

(1) 11月21日のA及びDの庚午リースのIに対する言動について

ア 前記証拠上認められる事実のとおり,11月21日,Iに対し,Aが,Dを,自己の部下であるが,乙丑ソースに送り込んでいる旨説明した上,Dが,「乙丑ソースでは,自社の廃棄物処理のニーズも含め,戊辰リサイクルと共同で産業廃棄物処理のための事業展開をすることになり,そのために戊辰リサイクルが購入して稼動させる溶融設備の代金が,全部で7億5000万円ほどになる。」という説明をしたものと認定できる。

イ なお,F,D及びAの検察官調書には,更にA自身,連帯保証をする意思であると説明したとの記載があるが,Iは,Aとは,前記のとおりDを紹介され,名刺交換をした程度で(Aは途中退席したとの趣旨とみられる。),専らDが上記のように説明したと供述しており(甲1),庚午リース担当者にとっては,甲子フードサービスの保証が重要であって,Aが連帯保証すると明言していれば,Iはこの点を記憶していることが自然であるから,この点まで断定することはできない。

ウ したがって,上記の点については,判示のとおり,「11月21日ころ,庚午リースのIに対し,Aから「私の部下であり,今は乙丑ソースに送り込んでいるものだ。」と紹介されたDが,「乙丑ソースでは,自社の廃棄物処理のニーズも含め,戊辰リサイクルと共同で産業廃棄物処理のための事業展開をすることになり,そのために戊辰リサイクルが購入して稼動させる溶融設備の代金が,全部で7億5000万円ほどになる。」などと述べた。」と認定できるが,A自身が上記説明をしたとは認定できない。

(2) 11月27日,Dが,己巳社の代表取締役印を模した印を冒捺して己巳社名義の見積書を偽造し,Iらに対しこれを行使したかについて

Cの弁護人は,B及びCにDが相談し,依頼があったことに関連して,同日ころにDが己巳社の見積書を偽造したことは争っていないものの,偽造の方法について,D供述のように,同日ころに,同社の代表取締役印を無断作成し,これを押印したものではなく,己巳社の印鑑の偽造は平成14年1月24日から25日にかけてのもので,11月27日ころには,Dは,己巳社以外の何らかの丸印を使って,その社名が読み取れないような形で,わざと少し回しながら,あえて不鮮明に押印したと主張する。

この点,確かに,

① GがDに己巳社の見積書の送付を依頼したのは11月22日ないし23日であり,Dがgを介して庚午リースに偽造見積書を送信したのは同月27日であり,日にちが開いているところ,Eに入手方を依頼するなどしていた時間を考慮しても,なお,印鑑の注文から完成まで時間が必要であったことがうかがわれること

② 己巳社の見積書は,現実に己巳社の製品を導入することから,本件契約において相応の地位を占めるものであり,偽造の見積書であることがリース会社に発覚すれば,契約は失敗に終わるのであるから,露見しにくいように,判読できないように適当な印鑑を押すよりは,己巳社名義の印鑑を偽造する方が,合理的な行動といえること

③ 己巳社の印影が入手できないことから,印鑑を偽造すると考えることは不自然ではなく,しかも,実物の己巳社の印鑑と類似させる必要はなく,己巳社の印鑑に見えるようなものであれば足り,印鑑屋に注文して作成させているもので,これがさして困難とはみられないこと

④ B,CにDが責任転嫁を図り,ありもしない相談や依頼を供述したとしても,「そのような依頼を受けたが,「適当な印鑑を判読できないように押印した。」とB,Cに説明した。」と供述することもできたのであって,「実際に印鑑を偽造した。」と供述する必要はなかったこと

⑤ 己巳社の見積書は,己巳社の丸印部分は判読困難ではあるが,品目等の部分(特に摘要部分)も字がかすれており判読しにくいもので,殊更印鑑を滲ませて不鮮明に押印したというよりは,ファックス送信やコピーの結果,判読困難になった可能性もうかがわれること

にかんがみれば,Dが捜査・公判を通じて供述するとおり,11月27日ころに己巳社の見積書を偽造した可能性は相当高いといえる。

しかし,他方,

① 印鑑の作成について,これを注文した2店の印鑑屋は,検察官の捜査にもかかわらず2店ともが特定されておらず,裏付けを欠いていること(偽造の行われた平成13年11月27日から,Dの供述に基づき捜査が行われた平成17年5月ころまで,相当期間が経過しているものの,Dは,丙寅システム事務所が入居していた乙丑ソースビルのある福島周辺の土地鑑を有しているとみられ,Dが印鑑屋の所在を忘却し去ることは信じ難いもので,注文した店の場所が思い出せないとのD供述も容易に信用し難い。)

② 己巳社名義の偽造文書の作成状況をみると,次の諸点が認められる。

i 11月27日ころ,Dは,印影が判読困難である不鮮明な丸印を使用して,己巳社の見積書(戊辰24)を偽造した。なお,記名部分はパソコンで作成されたとみられ,記名印は使用されておらず,角印は押捺されていなかった。

ii 12月21日ころ,上記11月27日ころ作成された偽造見積書の己巳社の記名押印部分と同一のものを切り貼りして利用したとみられる己巳社の癸酉社宛て納品書(弁353)を,何者かが作成した(上記見積書と納品書の記名押印部分は,印影の向きや記名の文字との重なり方が同一であり,前記のとおり推認できる。)

iii 平成14年1月24日,Dは,己巳社と戊辰リサイクルの炭化炉の売買契約書(戊辰64)とみられる己巳社の記名押印部分をGにファックス送信したが,これが不鮮明に過ぎたため,Gは,同記名押印部分を利用して,己巳社名義の癸酉社宛て12月28日付け領収書を偽造することができなかった。

iv 同月25日,Dは,Gに,偽造した前記己巳社の領収書(甲19資料15)を交付したが,同領収書の己巳社の記名押印部分をみると,記名印(会社名及び代表者名のもの),角印及び丸印が鮮明に押印されており,かつ,丸印は,前記偽造見積書に使用されたものとは明らかに異なっていた。

以上によれば,1月25日の領収書作成の場合と比べて,11月27日作成の見積書には,すでに偽造されていたことになるはずの記名印も角印も押捺されておらず,また,印影不鮮明のまま庚午リースへファックス送信されて提出されたことになり不自然である上,11月27日の時点で,己巳社の偽造印をDが有していたのであれば,12月21日ころに上記納品書が切り貼りによって作成される必要はなく,また,真正な印影のコピーとはいえ,既に作成している見積書と異なる己巳社の記名押印部分をファックス送信したり,見積書と異なる己巳社の偽造印を使って領収書を作成する(Dは,時間がなかったというが,時間ならば一晩はあり,見積書と対照することはできたはずであった。)のは不合理であること

などをも併せ考慮すれば,Dの供述中,11月26日に己巳社の印鑑を注文し,これが同月27日に完成し,同印鑑を使用して己巳社の見積書を偽造したとの点については,合理的疑いを容れる余地がある。

もっとも,弁護人主張のように,Dは,11月27日の時点では,己巳社の偽造印を所持しておらず,別の丸印を不鮮明に押印して,己巳社の丸印を押捺したように見せかけたにすぎなかったとしても,Dが,己巳社の記名を冒用したことに変わりはなく,いずれにしても,Dが見積書を偽造したことは明らかである。

(3) 12月14日のC,D及びHの戊辰リサイクルにおける言動について

ア 前記認定事実のとおり,C,D及びHが,同日,戊辰リサイクルに赴いたことは認められる。

イ もっとも,Hが,I,L及びKに対し,本件炭化炉が割賦販売契約の対象となる溶融設備である旨の説明をし,Dも事業を中心としつつ,これに沿う説明をしたものと認められるが,Cは,リース会社の担当者と名刺交換をしているものの,直接これらの説明をしたとは認められない。【甲1p21以下,甲4p2以下,甲6p10以下,甲19p13以下,甲27p12以下,乙23p36以下】

(なお,Kは,検察官調書において,Dの説明の際に,Cが近くにいたと供述するが,I,L,H,G及びDの検察官調書には,そのような場面は記載されていない。)

ウ Hは,捜査段階では,Hが,I,L,Kらに対し,「これが新たに導入した溶融設備です。」などと話した旨供述していたが(甲27),公判では,自分はリース会社の担当者に対して,機械の説明はしておらず,もっぱらDが説明していたなどと供述する。【H79以下】

しかし,Hは当日の列席者のなかで唯一の産業廃棄物処理の専門家であって,本件機械はHが理事長を務める戊辰リサイクルに導入されたものであることに照らせば,当該機械の説明はHが行ったとみるのが自然であって,Hの捜査段階における前記供述は信用できるが,前記公判供述は信用できない。

エ 以上によれば,12月14日,D及びHが,本件炭化炉が溶融設備である旨の前記説明を行ったものと認められるが,Cがこれを行ったとは認められない。

(4) 12月14日,乙丑ソース本店におけるBの言動について

ア この点,Bはこれを否定し,挨拶程度のみで退席した旨の供述をしているが,IやL,Kの検察官調書には,Bが,I,L及びKに対し,「甲子フードサービスの協力をもらってやることになった。高額の設備なのでよろしくお願いする。」などと述べた旨の記載がある。【甲1p26,甲4p6,甲6p15】

イ しかし,I作成の12月17日付け出張報告には,Bは「挨拶のみで退席。」と記載されている(戊辰57[3784丁])。同出張報告は,庚午リースでの稟議書に添付されたもので,12月17日というBとのやりとりから間近い時期に作成されたとされていることからしても,その信用性は高いといえ,Iの検察官調書の記載は,上記出張報告と矛盾する。

ウ I自身も,公判において,12月14日,Bとは名刺交換をした程度であると供述している。【I49以下,67以下85以下,92以下】

Iの公判供述は,前記出張報告の記載と整合する上,被害会社の担当者というIの立場に照らせば,Bに有利なように虚偽供述をするとは考え難い。供述変遷の動機についても,「取調べ当時,検事の記載した調書が違うと言ったが,検事から,「記憶違いということもあるでしょう。皆さんこう言ってますよ。」などと言われ,私は,裁判所で証人になれば否定するとも言ったが,書いてくれないので,らちが明かないと思い,検察官調書に署名した。」と供述しており,本件の被害会社担当者であるIが,あえてこのような虚言を公判で述べるべき事情はうかがわれない。

したがって,Iのこの点に関する検察官調書の記載は信用できない。

エ また,Lは,公判で,検察官調書の記載が正しいと供述しつつも,誘導されても,Bが前記発言をしたとの記憶はよみがえらないと供述している。【L35,46】

オ 以上より,事件当時作成された被害会社側の前記出張報告には前記のとおり「挨拶のみで退席。」との記載しかないこと,Bの前記発言があったとすれば,それはリース会社担当者に向けられたものであったはずであるのに,当のリース会社担当者のうち2名が前記のような公判供述をしている(なお,Kの証人尋問は行われてない。)ことにかんがみれば,Bが,前記発言をしたと認めるには,合理的疑いを容れるというべきであって,12月14日,Bは,リース会社担当者との間で,名刺交換程度のやりとりをしたにとどまるとしか認定できない。

3  客観的な欺罔の存否について

(1) 弁護人の主張

Cの弁護人は,本件割賦販売契約について,甲子フードサービスが戊辰リサイクルをM&Aする資金を,リース会社が融資するもので,M&Aの対象となる戊辰リサイクルの企業価値は,既存設備(四,五億円),購入機械(5000万円),改造費(約2億円),戊辰リサイクルの有する産業廃棄物処理の許可(相当高い価値がある。)を併せて,7億円強の価値がある(とCは認識していた。)と主張し(弁論p27-28),Aの弁護人も,その趣旨は必ずしも明らかではないが,戊辰リサイクルの企業価値に対するプロジェクトファイナンスである(とAは認識していた。)などと主張する。

そこで,まず,本件割賦販売契約の客観的な対象が何であったのか,溶融炉等を炭化炉等と偽る欺罔があったか否か,検討する。

(2) 本件割賦販売対象物件について

まず,庚午リースの割賦販売契約書(戊辰59)並びに辛未リースの割賦販売契約書,辛未リース宛て注文書及び注文請書(戊辰67-69)等関係証拠によれば,本件割賦販売契約の対象は,別紙3別表のとおり,庚午リースについては,溶融設備(売買代金2億7900万円,税抜き),辛未リースについては,受入供給設備等溶融炉プラント1式(販売代金5億7246万円,税抜き)であると認められ,これらは,己巳社名義の見積書記載の品目と,「据付・配管・配線・付帯工事」以下の諸費用が,「配管・配線・内外装設備」に一括した上,設備として扱われていることを除けば一致している。

しかも,12月4日付け庚午リースの戊辰リサイクル宛て割賦販売見積書には,物件名として,「産業廃棄物処理設備 溶融設備(ロータリーキルン乾燥室,二次燃焼炉,乾燥機キルン架台)1式 ≪参照:(株)丁卯社宛て(株)己巳社見積No.E608843-02(平成13年10月29日)≫」との記載があること(甲18資料6),庚午リースの稟議書(戊辰29)にも,案件概要中に,物件金額として7億5100万円との記載があり,物件の購入先として「丁卯社(株) ≪(株)己巳社経由で購入≫」との記載があること([3733丁]),また,前記認定事実から,辛未リースは,庚午リースが溶融設備相当額の約2億5000万円についてのみしか与信を行わず,残部を他のリース会社が引き受けることが条件となったことから,本件割賦販売契約に関与するようになったもので,辛未リースは,庚午リースの稟議資料(未完成のもの)を入手した上,庚午リースがリースを組むことを前提として本件契約に臨んでいたことが認定できる。

これらの事実に照らせば,契約書記載の対象物件は,己巳社名義の見積書の記載に基づいて特定,記載されたものと認められる。

被告人らは,これら見積書は単なる枠取りのためのものであると聞いていたと供述するが,上記事実に鑑み,与信枠のためだけのものであったとは考え難いし,本件割賦契約の対象物件は己巳社製であって,少なくとも,己巳社の見積書は,本件割賦契約の基礎となっていたというべきである(Dも,己亥鐵工所の見積書は枠取りのものであると供述しつつも,己巳社の見積書についてはこれを否定している。)。

(3) 現実に導入された設備について

これに対し,戊辰リサイクルに新規に導入された設備は,別紙3別表のとおり,炭化炉2基等の設備1式(己巳社からの売却額5000万円)である(戊辰64)。

(4) 検討

ア 両者を比較すると,割賦販売契約の対象物件と現実に戊辰リサイクルに導入された設備は,客観的にみれば,全く異なっているといわざるを得ない。

イ そもそも,本件己巳社の見積書は,Dが,戊辰リサイクルに導入された設備ではない溶融炉の約5億円の見積書(D供述によれば,丁酉のもの)の品目を転記した上,各品目の金額を上乗せした金額を記載したものに,己亥鐵工所の記名・印影部分を切り貼りして同社名義の見積書(戊辰27)を偽造し,更に,これをもとにして,各品目について,資料等を当たって概要を書き加え,己巳社の記名等のある同社名義の見積書(戊辰24)を偽造したというのであるから,概要部分を除き,同見積書は,戊辰リサイクルに導入された設備とは無関係であり,同品目・同金額の設備は実在すらしないものである。

ウ そうすると,客観的には,同見積書及びこれをほぼ承継した契約書において,戊辰リサイクルの既存設備や購入した機械の改造費,戊辰リサイクルの許可の価値等が反映されていることは想定し難い。

この点,確かに,己巳社見積書には,試運転調整費等,物件そのものではない費目の記載があるものの,これらを子細にみれば,改造費との費目はなく,また,これらは結局物件に付随する費目であって,見積書記載の物件と無関係な既存設備や企業価値そのものを含める趣旨とは解されないし,辛未リースの契約書においては,これらは「配管・配線・内外装設備」と一括された上,「設備」という物件に置き換えられているのであって,弁護人らの主張するように,当該物件と無関係な企業価値が,契約の対象になっているとはいえない。

エ 以上によれば,本件は,客観的・外形的にみれば,戊辰リサイクルに導入される設備とは無関係であって,しかも実在しない設備の見積書を利用するなどして,同設備を契約の対象とした上,同設備とは全く別個の設備を同設備であるかのように装ったものというべきであり,その虚偽性は明らかである。

オ しかも,見積書記載の設備は,設備1式合計約7億5000万円(溶融設備は約2億5000万円)とされ,この金額に庚午リース及び辛未リースが自社の利益を乗せた金額が,割賦販売契約の代金とされ,同見積書記載の金額を基礎として本件割賦による融資金額も決定されているところ,現実に導入された設備は5000万円であって,同見積書記載の約7億5000万円とかけ離れており,金額のみに着目しても,契約対象物件とこれに対応すべき実在の物件は,全く異なっていたものといわなければならない。

カ したがって,本件において,Dら実行行為者によって,約5000万円の炭化炉1式を約7億5000万円の溶融炉1式と偽るという,客観的な欺罔行為が存したと認められる。

4  リース会社側の錯誤の有無について

Cの弁護人は,「本件被害者とされる両リース会社とも,告訴は勿論,被害届も出しておらず,両社とも社長が「上申書」を提出し,庚午リースの社長であるmは上申書中で厳正な処罰を求めているものの,辛未リースの社長は処罰すら求めていない。送金までの経緯等をみると,両リース会社とも見積書や納品書が偽造か,少なくとも怪しげなものであることを知っていたのではないか,との疑いがある。」として,リース会社が錯誤に陥っていたか疑問である旨主張するので,この点について検討する。

(1) リースが実質的には融資であるという点について

リース・割賦(以下「リース等」ということがある。)は,その法形式は賃貸借や売買であっても,経済的機能をみれば,ユーザーがサプライヤーから物件を購入するに際し,リース会社がサプライヤーから物件をひとまず購入した上で,ユーザーに対し,リース金(賃料)あるいは割賦金(売買代金)として,一定期間にわたり物件相当額の支払を受けることで,実質的には,ユーザーに対して融資を行う面があることも否定し得ない(リース会社側も,「与信」等実質的には融資であることを前提にした用語を使用しているところである。)。

とりわけ,本件においては,対象物件である産業廃棄物処理設備は交換価値に乏しく,物的担保として換価により債権回収を図ることが困難であって,リース会社側の稟議書等をみても,本件物件を利用した戊辰リサイクルの事業の収益性(これによる返済の見込み)と人的担保としての連帯保証人甲子フードサービスの信用力が重要視されていたといえる。

しかし,他方,庚午リース及び辛未リースの各契約書は,いずれも割賦販売契約を採用し,契約書の条項にも,所有権の移転や引渡しの方式,瑕疵担保責任の除外規定,戊辰リサイクルの善管注意義務,物件の滅失による期限の利益喪失約款等,物件に着目した規定が置かれている上,実質的にみても,単なる金銭消費貸借契約は採っていないことも看過できない。

したがって,本件割賦販売契約がその経済的実質は融資であるということだけから,リース会社側に錯誤がなかったということはできない。

以下,具体的に検討する。

(2) 庚午リースの認識

Cの弁護人は,「庚午リースはもっぱら甲子フードサービスの与信力に目をつけて,見積書等が偽造,あるいは虚偽記入されているか,あるいはその疑いがあるのを知りながら,あえてこれに目をつぶって契約に至ったとの疑いがある。」旨主張する。

そこで,この点について検討する。

ア 事実経過の概要

前提事実及び関係証拠によれば,戊辰リサイクル事件で庚午リースの関係する事実は,大要次のとおりである(平成13年との記載は省略する。)。

① 11月8日 :丁卯社のkが庚午リースlに面談した。

② 11月9日 :丁卯社のF及びGがlに面談した。

③ 11月13日:丁卯社が己亥鐵工所名義の見積書(偽造)を庚午リースへファックス送信した。

④ 11月13日:庚午リースlが丁卯社に「己亥鐵工所の本社工場の住所・電話番号」を問い合わせた。

⑤ 11月21日:≪略≫ホテルで,A,F,Dが庚午リースIと会談した。

⑥ 11月27日:Dが己巳社名義の丁卯社宛見積書(偽造)を庚午リースへファックス送信した。

⑦ 11月30日:乙丑ソース・己巳社間の炭化乾燥炉等売買仮契約が締結された。

⑧ 12月4日 :庚午リースは,戊辰リサイクル宛て「割賦販売見積書」を作成した。

⑨ 12月6日 :庚午リースが丁卯社へ己巳社の見積書をファックス送信した。

⑩ 12月13日:庚午リースが丁卯社へ「契約締結までのタイムテーブル」,「確約書(案)」をファックス送信した。

⑪ 12月14日:Iが戊辰リサイクルの現地立会いを行った。

⑫ 12月17日:庚午リースで決裁がなされた。

⑬ 12月19日:同日付けで,戊辰リサイクル・庚午リース間の延払条件付売買契約が締結された。

⑭ 12月20日:検収予定日とされていた。

⑮ 12月21日:丁卯社が庚午リースへ己巳社の癸酉社宛偽造「納品書」及び丁卯社の癸酉社宛「注文書」を送付した。

⑯ 12月22日:検収がなされた。

⑰ 12月25日:庚午リースが丁卯社へ2億6649万円送金した。

以上の事実経過を踏まえて,以下,当裁判所の判断を示す。

イ 炭化と溶融の区別について

この点,庚午リースの稟議書(戊辰29)には,「溶融」との記載がない戊辰リサイクルの許可証の写しが添付されており,Iも,溶融と炭化について明確な区別ができておらず,炭化した後溶融すると思っていたなどと供述するにとどまっており(もっとも,焼却灰を更に加熱して溶融することも不自然ではないし,前記認定事実のとおり,稟議書にはその旨の記載がある。),溶融と炭化をはっきりと区別した上で,決裁権者である庚午リース代表取締役が決裁をしたとまではいえない。

しかし,同稟議書添付資料には,「案件概要」の項目には,「②物件:新造溶融炉」,「導入効果 本件溶融炉は炭化後高温(1500℃)で溶融されることから,処理廃棄物は耐熱性に極めて強い物質となり煉瓦や防火パネルなどにリサイクルに供される。」などという,溶融炉という名称のみならず,炉の性能や処理能力,生成する産物の利用法などについても明確な記載があることにかんがみれば,庚午リースとしては,正確な知識はなくとも,本件契約の対象物が上記のような高度な性能を有している溶融炉であることを前提として,融資の可否を判断したものとみられる。

また,同稟議書添付資料中,事業計画記載部分には,「本件設備導入による同組合の処理能力はMAX60t/日。」との記載もあり,設備の処理能力は,事業の収益性を検討する上でも考慮に入れられていたものといえるところ,設備の処理能力は,溶融炉と炭化炉では大きく異なるものである。

ウ 既存設備について

前記庚午リースの稟議書には,戊辰リサイクルに関係して,「今回の投資概要」記載欄に,「本件実行により機械装置は111→862百万円。」との記載があり(運転資金24とあるが,これには追加出資金24と対応しているとみられる。),既存設備(1億1100万円)に,新規導入する溶融炉(7億5100万円)を加え,機械装置が8億6200万円になるとの趣旨とみられる。この記載によれば,庚午リース側としては,担当者のレベルでも,既存設備は新規導入の溶融炉と区別され,本件契約の対象とする意思はなかったものと認められる。

また,事業の収益性には多くの言及があるものの,許可の経済的価値そのものを検討した形跡はなく,契約の対象として企業価値を含めていたともみられない。

更に,lは,12月22日の戊辰リサイクルでの検収の際,「あれは前からあったもので違う。」と言われた機械については,庚午リースのラベルを貼らなかった旨供述している。

以上によれば,戊辰リサイクルの設備全体が本件リースの対象とされてはいなかったことは明らかである。

エ 改造費について

この点,同稟議書中,「事業計画」の部分には,増設計画がある旨記載されており,改造がされること自体は予定されていたとみられるが,「増設なければ04/3期以降は03/3期以降に同じ。増設計画は進捗確認後03~04期を目処。」との記載もあり,将来的な事業収益性の問題として,改造が考慮要素とされていた面はあるものの,稟議において,5000万円の炭化炉に対し,2億円の改造費を含めて融資の可否を検討した形跡はうかがわれず,本件融資が,改造された炭化炉に対するものであったとみられる事情はうかがえない。

これに対し,lは,「性能を増すための改造費も当然対象に含まれる。」旨供述する(l73)。しかし,他方で,lは,「機械を改造して使うという話があったか記憶にない。」,「はっきりはしない。」(l77)とこれに反する供述もしている。そして,「機械そのもの,買ってそのままじゃ使えないというのは認識してます。というのは,何か検査結果だとかそういうのを出して,ちゃんと動くということの証明書がないと,機械としての価値は全然ないんだというのは聞いていました。」(同上)などとも供述し,改造の点についてのl供述はあいまいなものである。

オ 連帯保証人の信用について

前記稟議書をみれば,連帯保証人である甲子フードサービスの信用が極めて重視されていたこと,とりわけ,庚午リースが2億7900万円の契約を締結したのは,11月28日付け稟議書に基づく稟議において,代表取締役らが,「かなりの確度でトラブル案件」としつつも,甲子フードサービスの保証能力を評価して,約2億1000万円についてのみ承認したためであることが認められる。

取引通念上も,リース・割賦の経済的実質は融資であるといいうるところである(庚午リース側も与信等の用語を用いており,Iは,公判でもその旨認めている。)。

しかし,前記のとおり,契約金額は己巳社の見積書記載の約7億5000万円を出発点としており,また,庚午リースが引き受ける分の割賦販売契約2億7900万円との金額も,同見積書の記載をもとに,処理設備の中核とみられる溶融設備相当額の約2億5000万円を基準として設定されたものであること,物件の価値は処理能力と相関関係にあること,稟議書の事案概要も,まずもって物件の性能や金額に言及しているものであることにかんがみれば,庚午リースにおいて,物件を度外視して,保証人の信用のみによって決裁を行ったということはできない。

Iも,公判で,リース等を指して物融と呼んでいるが,リース等は,物件を介した金融であって,貸金契約等による融資とは異質な面も存することは,リース等について一定の知識があれば,当然の前提とすべき事柄というべきである。

カ 物件の価格設定について

(ア) 前記認定事実のとおり,lからのメールに対し,Fは,丁卯社から庚午リースへの転売価格には,「5~10%上乗せします。」と返信し,また,Fは,公判において,利益を乗せること自体は誤っていないとの認識を示している。

しかし,本件契約における丁卯社の立場は,物件を仕入れた上,リース会社に転売する(実質的には,リース等による与信のもとで,ユーザーに売却する。)サプライヤーの立場であって,仕入値と販売値に利益を乗せることはリース商社として許されることであり,そのため,仕入値の費目に自社の利益を上乗せして,販売値を設定することは許容されるというにすぎない。

すなわち,リース等は,サプライヤーがユーザーに物件を販売するに際し,サプライヤーから物件を購入し,ユーザーに賃貸借や割賦販売をするという形態でもって,ユーザーに対し,与信を行うのであって,売り主・買い主という利害対立関係にあるサプライヤーとユーザーの交渉のなかで,自ずと適正な物件価格が形成されることが前提とされているものというべきであり,サプライヤーが,ユーザーと結託するなどして,恣意的な物件価格を設定することは予定されていないと解される。

本件では,そもそも,己巳社製見積書に対応すべき溶融設備等の処理設備は実在せず,これと品目等をみても大きく異なる炭化炉等の処理設備が存在するにとどまり,単に物件の費目等を水増しして価格を上乗せしたというだけのものではなく,恣意的な物件価格を設定したものといわざるをえない上,己巳社の見積書の前提となる己亥鐵工所の見積書の段階でさえ,実際には7~8億円程度で売買する物件はないのに,丁卯社とユーザー側であるDらが通謀して,5億円程度で購入する予定であった溶融炉の価格を水増しして7億円余りの見積書を作成し,その価格が己巳社の見積書にも承継されているのであるから,リース等で予定されている価格形成が行われたとは到底いえない。

(イ) また,本件物件は産廃処理設備であるところ,その価格は処理能力によるところが大きいというのであって,5000万円の設備と7~8億円の設備では,大きな差があることは,リース会社側も前提にしているものと解される。この意味でも,物件の価格には重要な意味合いがあるといえる。

キ 弁護人の個別的主張についての検討

(ア) 己亥鐵工所から己巳社への変更について

Cの弁護人は,「11月21日の会談は,11月13日の己亥鐵工所の見積書をもとに行われている。ところが,その後送られてきた己巳社の見積書は,己亥鐵工所の前記見積書と内容がまったく同一で,名義だけが己亥鐵工所から己巳社に変わっている。庚午リースの担当者は,己亥鐵工所の住所や電話番号を問い合わせているが,己亥鐵工所の見積書が捜査段階の庚午リース関係者の供述調書に添付されておらず,これについて,庚午リースは己亥鐵工所について「住所,電話番号」を必要だと判断して問い合わせているのに,庚午リースが入手した己巳社の見積書は,住所の最後のところが不鮮明なだけでなく,電話番号が記載されていないにもかかわらず,庚午リースが電話番号の問い合わせをした形跡はなく,庚午リースが己巳社を訪問したこともないのは不自然である。」などと主張する。

しかし,本件庚午リースの稟議書には,「案件物件は,新造溶融炉であり,購入先は丁卯社,製造元は己巳社/癸卯研究所,己亥鐵工所の下請業者である癸卯研究所で部分製作を終え,販売元となる己巳社の工場内で組立の上,試運転を終えている。」と記載されている。

そうすると,庚午リースとしては,己亥鐵工所と己巳社は,いずれも本件物件に関与していたもので,見積書が己亥鐵工所から己巳社に変更されたことに大きな不審を感じなかったとしても不合理とはいえない。

(イ) 商流の変更について

a 本件では,庚午リースに関して,戊辰リサイクルに導入する炉について,以下のような経過があった。

11月初旬~11月25日ころ  己亥鐵工所→丁卯社→庚午リース

11月27日ころ  己巳社→丁卯社→庚午リース

12月4日ころ  己巳社→癸酉社→丁卯社→庚午リース

b Cの弁護人は,癸酉社が入った形態での契約につき,庚午リースでは,稟議をした形跡がなく,また,12月21日に庚午リースに送付された癸酉社宛ての己巳社名義の納品書(偽造とみられるもの)について,庚午リース側は,これが偽造か否か確認したこともなく,捜査段階でも公判でも供述せず,秘匿していたことを不可解であるとして,庚午リースは,もっぱら甲子フードサービスの信用力に目を付け,見積書等が偽造や虚偽記入であること,あるいはその疑いがあることを認識しながら,契約に至った疑いがあると主張する。

c しかし,本件取引は,上記のとおり変更され,庚午リースが購入する炉は,直接の相手方である丁卯社の前に癸酉社が入ったが,もともと己巳社から移転される点では変化がない。そして,癸酉社は,残部リースについてもファイナンス組成を要求した庚午リースの意向が前提となって,商流に入ったものであるが,連帯保証人で,事業自体にも関わるという甲子フードサービスの子会社に過ぎず,独自の利害関係を持つものともみられない。

また,そもそも庚午リースは,3回の稟議を経て,12月17日に本件融資を決定し,同月21日に本件割賦販売契約を締結したのであるから,庚午リースが融資を決定した後である12月21日に丁卯社から庚午リースにファックス送信された癸酉社の納品書等が,庚午リースの意思決定に直接影響を与えたものとは考え難い。前記癸酉社の位置と併せ考慮すると,癸酉社宛ての納品書等は,せいぜい形式を整えるための書類に過ぎず,実質的な重要性を有するものでないといえる。すでに述べたとおり,己巳社の見積書こそが庚午リースが本件割賦販売契約を行うか否かについて重要な影響を及ぼしているというべきである。

d よって,癸酉社に関するCの弁護人の指摘を考慮しても,庚午リースが,甲子フードサービスの信用力のみによって,本件取引をし,見積書等に偽造の疑いがあることを認識していたものとはみられず,この点に関するCの弁護人の主張は採用できない。

ク 小括

以上検討したところによれば,庚午リースとしては,溶融炉,炭化炉といった名称や正確な機能はともかく,己巳社の見積書やDらの説明を通じて認識した本件物件(製造業者己巳社の設備)の約7億5000万円(庚午リース分は約2億5000万円)という価格やこれと相関する処理能力等の性能を前提として本件割賦契約を行う認識であったと認められる。

そうすると,現に戊辰リサイクルに導入されるのが5000万円の処理設備であると知っていれば,本件契約には応じなかったものといえ,庚午リースについて,詐欺罪にいう錯誤があったものといえる。

(3) 辛未リースの認識

Cの弁護人は,辛未リースがもっぱら甲子フードサービスの与信力と先行する庚午リースを信頼して,物の価値には着目せず,更に,見積書等が偽造,あるいは虚偽記入されているか,あるいはその疑いがあるのを知りながら,あえてこれに目をつぶって,丁卯社とともに契約に至った疑いがあると主張する。

そこで,この点について検討する。

ア 事実経緯

前記事実及び関係証拠によれば,戊辰リサイクル事件の辛未リースに関係する事実は,大要次のとおりである(平成13年との記載は省略する。)。

① 12月上旬:辛未リースKが,丁卯社事務所でFから戊辰リサイクル事業案件への取り組みを依頼された。

② 12月14日:辛未リースL・K,庚午リースI,丁卯社Gが戊辰リサイクルを訪問し,その後,乙丑ソースでAと面談した。

③ 12月19日:L・Kらが己巳社を訪問した。

(以下,平成14年)

④ 1月4日 :辛未リースで決裁がなされた。

⑤ 1月16日 :丁卯社が,辛未リースに,丁卯社名義辛未リース宛見積書をファックス送信した。

⑥ 1月17日 :戊辰リサイクルの権利譲渡契約書が作成された。

⑦ 1月17日 :L,Kが乙丑ソース本社で辛未リース・戊辰リサイクル間の割賦販売契約書を作成した。

⑧ 1月24日 :丁卯社が,辛未リースに,己巳社名義丁卯社宛見積書をファックス送信した。

⑨ 1月25日 :L及び上村が甲子フードサービス本社で辛未リース・甲子フードサービス間の割賦販売契約書を作成した。(作成日付は平成13年12月25日付けのものである。)

⑩ 1月25日 :丁卯社Gが,辛未リースに,己巳社名義癸酉社宛領収書をファックス送信した。

⑪ 1月31日 :辛未リースが丁卯社に5億2174万4475円を送金した。

以上の事実経過を踏まえて,以下,当裁判所の判断を示す。

イ 庚午リースとの関係

辛未リースは,庚午リースが引き受けない部分について,同社と協調割賦を行ったもので,未完成のものながらも庚午リースの稟議書を入手し,12月12日に庚午リースの意向確認を行い,庚午リースが約7億5000万円の物件のうち約2億5000万円相当部分について割賦販売契約を締結することを前提として取引に入っており,庚午リースの認識を引き継いでいる部分が大であるとみられる。

ウ 物件の位置づけについて

(ア) 前記のとおり,辛未リースが前提とした庚午リースの稟議書と同様,辛未リースの稟議書(甲9資料)にも,契約の対象に改造費2億円や既存設備をも含めるとの記載はなく,これらを契約の対象とする意思を有していたとはみられない。

(イ) かえって,L及びKは,12月19日に本件物件について,製造者である己巳社にその価値や性能を確認し,その結果を上記稟議書に記載している(そして,己巳社のJが虚偽の説明をしなければ,己巳社製の見積書記載の金額の処理設備が導入されるものではないことなど,前記客観的な虚偽は容易に明らかになったというべきである。)。しかも,己巳社を訪れた際には,「トンあたり5000万円」などと設備の処理能力と価格が相関していることもJから聴取している(甲4。処理能力が事業の収益性と密接に関連することはいうまでもない。)。また,同稟議書には,物件の性能についての決定過程にまで言及がされ,「(同等物件は大手の名が冠されていれば10億円以上はすると)」とも記載されている。更に,己巳社の見積書では,「据付・配管・配線・付帯工事」や「試運転調整費」等の物件に関連する費目としてあげられていたものも,契約の段階では(注文書の記載ではあるが)「配管・配線・内外装設備」と設備扱いにされている。

これらの点を総合すると,辛未リースの担当者らは,庚午リース以上に,物件の価値及び性能に着目し,当該物件の割賦販売であるとの前提で稟議を上げ,これを前提として代表取締役は決裁をしたものといえる。

(ウ) したがって,辛未リースも甲子フードサービスの連帯保証を重視していたとはいえるものの,貸金契約による一般的な融資と異なり,物件の価値等について偽ることは,辛未リースの本件割賦の判断に重大な影響を与えるものといわざるを得ない。

エ 炭化と溶融の区別について

この点,辛未リースの稟議書(甲9資料)には,「溶融炉で炭化処理し」,「800℃~1000℃で炭化処理をする」(この温度は,明らかに溶融炉ではなく,炭化炉の温度であって,誤っている。)等,溶融と炭化を混同している面がうかがえる(Lも明確に区別できていなかったと供述している。)。

もっとも,同稟議書では,SP(サプライヤーの意味と解される。)及び物件についてとの表題の下,己巳社製の本件処理設備について言及し,「今回対象の物件は≪中略≫炭化から溶融までできる性能を持っている。」との記載があり(甲9資料p2[181丁]),溶融ができる処理設備であることは,辛未リースにとっても判断の前提となっているとみられる。

オ 弁護人の個別的主張についての検討

(ア) 辛未リースの契約基礎資料について

Cの弁護人は,辛未リースの契約の基礎となったのは,己巳社の見積書ではないと主張するが,その根拠は,

① 辛未リースが契約締結する内容は,第1次契約の日であった平成14年1月17日に決裁されたものであることを前提に,その前日である同年1月16日に,辛未リースにファックス送信された丁卯社の見積書に基づいて契約がされたこと

② 辛未リース関係者の検察官調書には,11月27日送付の見積書が添付されていたが,辛未リースからの取り寄せ書類には,平成14年1月24日の丁卯社から辛未リースにファックス送信された,己巳社の見積書が保管されていたこと

であると解される。

しかし,

① 本件割賦契約の経緯をみるに,庚午リースが全額の引受はせず,己巳社の見積書記載の物件のうち,約2億5000万円の溶融設備相当額についてのみ割賦販売を行い,残部についてもリースを組むように求めたことから,丁卯社が辛未リースに持ち掛けたもので,辛未リースは,庚午リースが前記見積書に基づいて把握した物件及び金額を前提として,本件割賦に取り組んだこと

② 12月上旬に,Kは,丁卯社のFから,庚午リースの社内稟議書の写しを渡されたが,これは,己巳社の見積書を元にした金額が記載されていたこと

③ 12月19日に,L,Kらが己巳社を訪れた際,己巳社のJは,両名に本件物件を8億円弱で売った旨述べていること

④ 平成14年1月4日の時点で,辛未リースは稟議の決裁を了しており,融資の可否や融資金額等の核心部分を決定していること

などに照らすと,1月4日の決裁時点で,11月27日に乙丑ソースから送付された見積書自体が交付されていなかったとしても,同見積書をもとに金額が特定されたことに影響を与えるものではない。

(イ) 未検収でのリース実行

本件において,辛未リースが実質的な「検収」を行った形跡はない。検収の重要性からすれば,仮に検収をしていれば当然,検収結果についての報告書が作成され,保存されるべきであるが,辛未リース取寄せ記録にも,検察官請求証拠にも,辛未リースの検収に関する書類は見当たらない。これは,辛未リースが実質的な検収を一度も行わないまま,割賦販売契約を締結し,実行したからであるとのCの弁護人の主張も一理ある。

通常であれば,検収もせず,リース等をすることは想定し難いといえる。

しかし,本件契約は,1つの物件をリース会社2社が分担して割賦販売の対象とするものであって,庚午リースが先行し,辛未リースはこれを前提として契約をしているのであるから,庚午リースにおいて検収を行っている以上,辛未リースが自ら検収を行った形跡がないことから,直ちに辛未リースが物件の価値を度外視していたことにならない(前述のとおり,辛未リースは,己巳社まで物件の金額を問い合わせに赴くなどしており,設備の処理能力とも関連して,物件の価値に着目しているといえる。)。

(ウ) 契約の対象(戊辰リサイクルの既存設備・費用・利益は対象か)について

a 対象物件の特定について

辛未リースが割賦販売の対象としたものは,己巳社の見積書に記載された物件から「溶融設備」を除いた物であるとの検察官の主張に対して,Cの弁護人は,「契約書には製造番号は記載されていない。そして,各物件の見積額について実質的な検討もしておらず,辛未リースが対象とした物そのものを明確に示すものはどこにもない。対象物件が,特定できる物として関係者の眼前に現れたこともない。しかも,前記のとおり,辛未リースは,対象物件そのものには関心を払っていないともみられる。」旨指摘する。

しかし,辛未リースは,物件の価額については己巳社に赴いてまで確認したのであるし,1つの対象物件に対し,2社が割賦をかけるという本件契約の特殊性に加え,見積書記載の各品目は,それぞれ独自に稼働するものではなく,処理設備1式の一部なのであるから,個々の品目について具体的な検討を加えていないことが不自然とはいえない。

よって,Cの弁護人の上記指摘を考慮しても,辛未リースが,割賦販売契約の対象としたのは,己巳社の見積書記載の物件から溶融設備を除いたものであると認められ,この点が,辛未リースに錯誤がなかったことにつながるものとはいえない。

b 費用の上乗せ

弁護人は,「辛未リースは,Hから戊辰リサイクル内にあった物件等を組み立ててプラントを完成させるとの説明を受けていた。実際に辛未リースは,プラント導入に要する諸費用も含めたうえで,契約金額を設定している。すなわち,平成14年1月16日付け丁卯社名義辛未リース宛見積書(弁361号証15丁表),及び注文請書(弁361号証6丁表)には,リース対象物件の物件名,金額等が記載されている。物件名および金額は,それぞれ

受入供給設備  3120万円

スラグストック設備  3240万円

排煙処理設備  1億2600万円

水処理設備  6480万円

制御設備  6500万円

配管・配線・内外装  1億7750万円

である。同じく,辛未リースで保管されていた己巳社名義丁卯社宛の見積書には,下記のとおり対象物件の物件名,金額が記載されている(弁361号証7丁)。

受入供給設備  3120万円

溶融設備  2億5380万円

スラグストック設備  3240万円

排煙処理設備  1億2600万円

水処理設備  6480万円

制御計装設備  6500万円

配管・配線・内外装設備  4680万円

試運転調整費  2470万円

輸送費  1600万円

仮設費  1800万円

設計費  3200万円

諸経費  4000万円

上記の見積書等を対照すれば,己巳社名義の見積書に記載されている「試運転調整費,輸送費,仮設費,設計費,諸経費」が合算されて,「配管・配線・内外装設備」に上乗せされていることから,辛未リースは,物ではなく,その他の費用相当分の融資をすることも認識していた。」と主張する。

しかし,既に論じたとおり,「試運転調整費,輸送費,仮設費,設計費,諸経費」は処理設備そのものと密接に関連するものである。物件を戊辰リサイクルに搬入した上,運用に至るためには不可欠の費用であって,新たに物件を購入して使用するにあたり,当然予想される費用である。

また,己巳社名義の見積書に記載されている「試運転調整費,輸送費,仮設費,設計費,諸経費」を,契約書においては,辛未リースが,「配管・配線・内外装設備」に含めていることは,あくまで「設備」という物を割賦販売の対象と認めるとの意思をうかがわせるものである。

そして,辛未リース担当者は,製造元である己巳社に赴き,設備の価格を尋ね,Jから,8億円弱で売ったとの説明を聞いている。

したがって,この点から,辛未リースが物とは無関係に融資額を決定したということはできず,辛未リースの錯誤を否定するものとはいえない。

c 改造費用

辛未リースのLは,リース対象物件に改造が必要だと聞いたことはないと供述した(L34回32,44)。しかし,辛未リースからの取寄書類によれば,「戊辰リサイクル事業協同組合 炭化乾燥炉 導入スケジュール」と題する書面が,辛未リースに保管されており(弁361号証[7150丁]),同書面には,購入物件の所有者が己巳社であること,11月22日の売買契約後,26日に炉を移動し,27日から12月26日まで炉の改造を行うことが記載されている。

しかし,辛未リースが改造予定を把握していても,改造費用が稟議書に挙がっていないことなどから,これ自体をリースの対象としていなかったことは明らかであり,辛未リースが錯誤に陥ったことを否定するものではない。

カ 小括

以上検討したところによれば,辛未リースも,溶融,炭化といった専門事項については十分な理解をしてはいなかったものの,前記庚午リースの認識を前提に,辛未リースの担当者らも調査を行って確認した本件物件の8億円弱(辛未リース分は約5億円)という価格やこれと相関する処理能力等の性能を前提として本件割賦契約を行う認識であったと認められる。

そうすると,現に戊辰リサイクルに導入されるのが己巳社からは5000万円で売り渡される処理設備であると知っていれば,本件契約には応じなかったものといえ,辛未リースについても,詐欺罪にいう錯誤があったものといえる。

5  D,F,G,E,Hの認識について

(1) 上記認定事実によれば,D,F,G及びEには,有印私文書偽造,同行使及び詐欺の認識・認容があったものと認められる(Fは,5000万円の炭化炉であったとは知らなかったと供述するが,Gが社長であるFに相談もせず,独断で,5000万円の己巳社製炭化炉につき,偽造済みの己亥鐵工所の見積書を利用して,約7億5000万円の溶融設備等の見積書を作成するようにDに指示する等の行為を行ったとは考え難いので,Fの同供述部分は信用できない。)。

(2) Hは,産業廃棄物処理の専門家であって,炭化と溶融の区別も十分に知っていたのに,5000万円の炭化炉等を溶融炉であるかのごとくIやLに説明した者であり,詐欺の犯意が認められる。

第4Aの有印私文書偽造,同行使及び詐欺の故意・共謀の有無

Aは,第1回公判(平成17年7月28日)においては,本件有印私文書偽造,同行使,詐欺の事実を認めていたが,その後,これらの故意,共謀を否認し,各犯罪の成立を争っている。

そこで,Aに,本件有印私文書偽造,同行使,詐欺の故意,共謀が認定できるか,検討する。

1  従前のリースについて

(1) 前記認定事実によれば,平成12年11月ころ以降,Aは,Fと協力して,丁卯社がサプライヤー,癸酉社がリース会社からリース・割賦を受けて,ユーザーへの転リース・転割賦を行っていたところ,

① 平成13年5月以降,Aは,戊寅の経営する3店舗のリニューアルに際し,Fに資金調達を依頼し,Fがスキームを考案して,丁卯社がサプライヤー,甲子フードサービスが連帯保証人となって,リース会社6社と戊寅の間に店舗に導入する設備・備品等について割賦販売契約を成立させたが,その際,丁卯社が支払を受けた合計約2億8000万円のうち,約1億5000万円が上乗せ分であり,同額が,営業権譲渡の代金を仮装して,丁卯社から戊寅に支払われたこと(なお,一部は丁卯社からの貸付であるとされていた。Aが戊寅ともbとも深く関わっていることは,前記認定事実のとおりであって,これに反するA供述は信用できない。)

② 平成13年9月20日,丙寅システムがサプライヤー,癸酉社がユーザー,丁亥システムが転リース先,甲子フードサービスが連帯保証人というスキームで,パチンコ台リサイクル設備のリース契約が成立したが,丙寅システムの己亥鐵工所からの仕入値3億3000万円とリース金額の約4億9300万円の間には,約1億6000万円の上乗せ分があった。丙寅システムに入金された約4億9300万円は,Aが,Dに依頼して,乙丑ソースの簿外手形処理資金等に約3億3200万円を使用させ,その余は,A関係,丙寅システム関係や丁亥システム関係者に流れたこと

③ 平成13年10月上旬ころ,丁卯社がサプライヤー,甲午がユーザー,甲子フードサービスが連帯保証人というスキームで,精米設備一式のリース契約が行われたが,約3億円の精米設備を約4億7000万円でリース会社6社に売却し,その際約1億7000万円が上乗せされていた。同月10日,同リース金は,約1億円は相殺の形でFの関連会社に吸収されたが,約2億5000万円が乙丑ソースの手形決済資金等(2億円は,壬午工業の手形処理に充てられた。)に充てられ,丙寅システムにも流れたこと

が認められる。

(2) これら3つの先行するリース・割賦をみると,いずれも,その大枠は丁卯社又は丙寅システムがサプライヤーとなり,甲子フードサービスが連帯保証人となって(癸酉社が入る場合もある),その信用力をもって上乗せリースないし上乗せ割賦を行うものであること(そして,戊辰リサイクル案件もその大枠は異ならないのである。),①と③はFは関係するがDは直接関係せず,②はFを外してDが関係し,Fの考案したスキームと類似のスキームで契約がされており,Aが,F又はDを協力させ,これらの者にも利益を与えつつ,連続的に上乗せリースを仕組んだものであること,Fとの交流を通じ,自らも癸酉社というリース会社を経営していたAは,F流の上乗せリース・割賦の手法を身につけたこと,このような上乗せリース・割賦により得られたリース金の大部分は,Aの意向に従って利用されていたことが推認できる。

(3) この点,Aの弁護人は,これらの契約と戊辰リサイクルの相違を主張するが,個別具体的な取引状況に応じてスキームの細部を変容させることは当然のことであって,上記のとおり,これらの上乗せリース・割賦の基本的な構造が共通であることが本質的というべきである(なお,そもそもこれらの契約がAの弁護人の主張するような契約であったことをうかがわせる的確な証拠はない。)。

(4) また,Aの弁護人は,これらのリース・割賦は,詐欺ではないと主張する。

サプライヤーが,相当な利益を上乗せすることは,取引通念上許容されるといえる。

しかし,上記①は仕入値の2倍以上,②は仕入値の約48パーセント,③は仕入値の約57パーセントと,いずれも多額の上乗せが行われている(なお,戊辰リサイクルの設備について,Fがlに送ったメールでは,サプライヤーによる利益上乗せ分は,5~10%とされていた。)。

しかも,①については,まさにサプライヤーとユーザーが結託し,営業権の仮装譲渡まで使って,上乗せ分をユーザーに還元する不正なものであるし,②についても,リース金がユーザーである丁亥システム関係者に一部還流しており,ユーザーとサプライヤーが通謀して不当に価格をつり上げ,利得を関係者で分け合う不正なものであることがうかがわれる。

したがって,これらのリース・割賦は,不正な水増しリース・割賦であったと認められる。

(5) 以上の検討によれば,Aは,戊辰リサイクル事件に先行して,自ら主導して不正な水増しリース・割賦を繰り返し,資金調達を行っていたものと認められる。

2  乙丑ソースの簿外手形処理との関係

(1) 前記認定事実のとおり,平成13年5月ころ以降,Aは,自らの紹介したZ,同人が乙丑ソースに引き入れたbらによる簿外手形の濫発や,自らの関係する戊寅への資金流入に関して乙丑ソース側の追及を受け,警察が捜査をしていると知って,自己も被疑者として捜査の対象となることを恐れ,Dに乙丑ソースの動向を探知させるとともに,乙丑ソースの簿外手形処理等のために資金提供を行うようになったものである(乙23,A17回48以下,19回2以下,39回25以下)。そして,上記1で認定した事実を併せ考慮すると,乙丑ソースに簿外手形処理等の資金を提供し,自己への刑事責任追及を免れることを意図し,そのため手段として,上記パチンコ台(②)や精米設備(③)のリース・割賦に際し,大幅な上乗せを行った上,リース・割賦金の相当部分を乙丑ソースに簿外手形処理等の資金として提供していたものと認められる。

(2) そうすると,本件において,溶融炉導入に際してリースを組むこと自体は,壬午工業製の炉を導入する計画の段階で,Hが考案していたものといえるが(弁97。Hは,乙丑ソースの援助を求めたのもリースの枠を期待してのことであると供述している。),信用力のない乙丑ソースから,甲子フードサービスとしてのリースへの協力を求められた際,前述の先行する不正リースと同様,Aが,本件戊辰リサイクルを巡る割賦販売契約についても,割賦契約を利用して資金調達をした上,乙丑ソースの簿外手形処理等の資金を捻出し,自らへの責任追及を逃れようと考え,本件割賦販売契約にFを関与させたことが強く推認される。

3  戊辰リサイクル事件についてのAの関与した事実

Aは,本件において,前記認定事実,関係証拠によれば,次の事実をなしたことが認められる。

① 10月下旬ころ,Aは,bから聞いた話として,Dに対し,Eの縁で,戊辰リサイクルに新規設備を導入すれば多大な利益が見込まれるが,戊辰リサイクルが乙丑ソースに共同事業を申し入れているとの話をした。

② Aは,Fに,戊辰の関係で調達金額約8億円ということでリース会社選定・交渉の依頼をした。

③ Aは,Fから依頼され,Dに指示して,己亥鐵工所作成名義の戊辰リサイクル宛て代金額7億8823万5000円(税込)の見積書を偽造させ,11月12日,丙寅システムから丁卯社へファックス送信させた。

④ Aは,リース会社に対し,戊辰が導入する炉の購入に関し,甲子フードサービス及びAが連帯保証することにした。

⑤ 12月14日,乙丑ソース本社で,Aは,リース会社担当者と面談した。Aは,その際,「甲子フードサービスは各食堂から「残飯」という形で汚泥が発生する。いずれにしても,進出しなくてはならない事業でありこの1年半ほど,検討してきた。」,「子会社の「癸酉社」を使って,本件ファイナンスをしようと考えていたところ,丁卯社の社長が任せてくれというのでお願いしたがこんなに手間取るとは思わなかった。既に取締役会では本プロジェクトでは総合リース会社に連帯保証を出す旨を説明しているので,早急に前向きな結論を出してほしい。」などと発言した。

⑥ 12月18日,Aは,Bと共に戊辰の理事に就任した。

⑦ 12月21日ころ,同月19日付けで,庚午リースと戊辰リサイクルは,延払条件付売買契約書を作成し,本件割賦契約を締結したが,同契約においては,庚午リースが売主,戊辰リサイクルが買主,甲子フードサービス(A)とA個人が連帯保証人となっていた。同契約書には,代表売買物件名欄に「溶融設備」,売買代金及び消費税等額欄には「代金総額:2億7900万円,合計:2億9295万円」などという記載がある。

⑧ 1月25日,甲子フードサービスにおいて,12月25日付けで,辛未リースを売主,甲子フードサービスを買主とする,溶融炉プラント割賦販売契約書が作成された。販売代金総額は5億7246万円(税込6億0108万3000円)と記載されていた。同契約書によればA個人がこれを連帯保証するとされていた。

4  見積書偽造の指示ないし認識について

(1) 前記認定事実のとおり,己亥鐵工所の見積書は,Fの依頼を受けたAが,Dに指示して偽造させたものである。

この点,Aは,Dへの指示は認めつつも,あいまいな供述に終始するが,

① FからDへの直接の依頼に先だって,Aの指示があったもので,具体的な指示がなければDとしても行動しようがないこと

② 己亥鐵工所はパチンコ台処理設備のリース契約において,丙寅システムが設備を仕入れた先であって,Fはこのリース契約に直接関与していなかったこと

③ Aは,それまでにもDに甲子フードサービスの取締役会議事録を切り貼りで偽造させており,その余の者の関与はなかったこと

に鑑みれば,Aが,Dに対し,約7億5000万円の見積書を,己亥鐵工所の記名印影部分を切り貼りするなどして作成するように具体的な指示を与えたものと認められる。

(2) 己巳社の見積書の偽造について,Dは,捜査段階では,Aから指示を受けた旨の供述をしていなかったものの,公判では,Aからも指示を受けたと供述するが,公判にいたり,唐突に供述し始めたもので,その信用性判断には慎重な検討が必要である。

(3) もっとも,己巳社の見積書は己亥鐵工所の見積書を踏まえて作成されたもので,両者は作成者が設備の製造者であるか否かという相違があるものの,Dの己巳社の見積書の偽造・行使に,Aの己亥鐵工所の見積書作成の際の指示が影響を与えていたことは認められ,また,Aが,己亥鐵工所の見積書という設備の製造者のものではない見積書であるにせよ,本件リース契約において使用される見積書の偽造,行使が行われることは認識,認容していたことも認められる。

したがって,Aにおいて,概括的ではあるが,庚午リースに対する本件有印私文書偽造,同行使についての故意・共謀,及び,本件詐欺の欺罔行為の一部をなす偽造見積書の作成・行使についての意思の連絡があったと認定できる。

5  A供述の信用性について

(1) 5000万円の炭化炉等の認識について

Aは,公判において,戊辰リサイクルに新たに導入される設備が,5000万円の炭化炉等であるとは知らなかったと供述するので,検討する。

確かに,

① Aが,炭化炉等の売買契約書をみるなど,これを直接認識する機会があったとは断定できないこと

② 設備に関する事項は,Eやgら,乙丑ソース側が主として活動しており,Aが関与しているわけではないこと

など,前記Aの供述に符合する事実も認められる。

しかし,

① Aは,Dとも親しかったもので,割賦対象物件が5000万円の炭化炉に変更されたという事実を,Dが乙丑ソース側には話しつつ,Aには隠蔽すべき事情はうかがわれないこと

② Aは,連帯保証人として本件割賦に関与するのみならず,リース会社側に甲子フードサービスの事業でもあると説明し(Iの出張報告書),12月18日の段階で,自らもBとともに,戊辰リサイクルの理事に就任するなど,戊辰リサイクルの事業展開に深い利害関係を有していたところ,再開後の事業の核となるべき新規導入設備について無関心であったとは考えられないこと

③ Aは,丁卯社とも関わりが深いところ,Gは5000万円の炭化炉等に対象が変更されたことを知ってDに見積書偽造を依頼し,社長であるFがこれを知らないとも考え難く,AがF側から炭化炉の金額を知る可能性もあること

にかんがみれば,前記Aの供述は信用できない。

(2) 本件契約の対象の認識について

Aは,本件割賦契約の対象として,新規導入設備のほか,既存設備やいわゆる「のれん代」のような無形財産も含まれていると認識していたとか,プロジェクトリースであると認識していた旨供述するので,検討する。

しかし,前述のとおり,客観的には,本件契約の対象として既存設備等が含まれてはいなかったと認められるところ,

① Aは,甲子フードサービスの代表取締役及び個人の両方の立場で,連帯保証人又は買い主として,両リース会社との各割賦販売契約書に自ら記名押印ないし署名押印しており,契約金額が多額であって,同契約上のAの負担する責任が重いことに照らせば,同契約書記載のリース対象物件が,前述のとおり,いずれも設備ばかりであると認識したと推認されること

② Aは,癸酉社の代表取締役としても,庚午リースが引き受けた溶融設備相当分以外の残部のリースを引き受けたりするなど,本件割賦契約に深く関わっていること

③ Aは,癸酉社の代表取締役としてリース会社を経営し,また,丁卯社と業務提携をして,前記の不正なものも含め相当数のリース・割賦契約を経験していたとみられ,しかも,前記のとおり,Fを外してリース契約をしたこともあり,リース・割賦について一定の知識を有していたと推認されること

④ そもそも,前記のとおり,Aは,上乗せリース・割賦を利用して,資金調達を繰り返してきたこと

に照らせば,Aが,既存設備等やその他の企業価値も本件割賦契約の対象となっていたと誤信していたとの合理的疑いを容れる余地はない。

6  結論

以上検討したところによれば,Aには,有印私文書偽造,同行使,詐欺の故意及びD,Fら共犯者との共謀が認められる。

第5Cの有印私文書偽造,同行使及び詐欺の故意・共謀の有無

Cは,第1回公判(平成17年7月28日)においては,本件有印私文書偽造,同行使,詐欺の事実を認めていたが,その後,これらの故意,共謀を否認し,各犯罪の成立を争っている。

そこで,Cに,本件有印私文書偽造,同行使,詐欺の故意,共謀が認定できるか,検討する。

1  Cの公判供述の要旨

Cは,公判において,故意,共謀に関連する事項について,要旨以下のとおり供述する。

(1) 壬午工業の件について

【C41回1】

平成13年4月ころ,壬午工業の話を聞いた。

簿外手形とは別という形で,事業としての話として聞いた。壬午工業が廃棄物処理機を製造するのに必要な資金合計額5億7500万円ほどを乙丑ソースが援助して,製造したものを購入して,これを第三者に売り,もうけるという話だった。手形を先に振り出してしまっていた。聞いていた約10億円の簿外手形のほかに,もう一つ簿外手形が発生してしまったような感じに理解した。

(2) 8月30日に甲辰事務所からファックスがCに送られた理由について

【C24回132】

8月31日が期日の乙丑ソースの1億0500万円の手形を決済する必要があったが,乙丑ソースのほうでは資金繰りができないということで,当時壬午工業の窓口になっていたEが壬午工業のある九州へ行っていた。

そして,壬午工業が戊辰リサイクルの15億の契約書を基に乙丑ソースからの手形を再度切り,九州のcのところで1億の手形を割り引いてもらい,1億を作って8月31日の手形の決済に間に合わせるという形で,E,B,nも動くということだった。私は,まだ手形を割り引くのかと言って,それに反対した。その中でEは,cがこういう事業をやっており間違いないということで,cが私宛にファックス送信をしてきたものである。

(3) 丁亥システム,甲午のリースについて

平成13年7月ごろ,丙寅システムと甲子フードサービスが共同事業として,広島でパチンコの処理,再販,販売の事業をやるということでは聞いている。しかし,その事業に関連して,どの程度のお金が出たかは,当時知らなかった。

甲午のことに関しては,平成13年の9月28日ごろ,Dから「甲子フードサービスと甲午の米屋の共同事業が始まる。米屋の精米機械を甲子フードサービスが買い取ることについて,協議が決定された。」と聞いた。

Dから,甲午の顧問をしているというcにDは面識がなかったので,cと面識のある私に,連絡をしていただきたいと言われて,これに応じた。

私は,それ以前に,乙丑ソースの簿外債務に関して,cと1回会ったことがあり,電話で話したことが二,三回あった。

弁70は,cに連絡を取る内容として,Dから,ここに書いてある用件を聞き,連絡していただきたいと頼まれたので,私が書いて,cに送付した。ここに書いてある以上に,詳しい話をその当時聞いていない。

その後,甲午の精米機械をリースバックで,甲午から買い取るという形になり,代金はリースをかけたと聞いた。

平成13年の10月後半から11月ころに,当事者である丙寅システム,甲子フードサービスが買取資金を支払ってなかったと聞いた。その金は,乙丑ソースの簿外手形の処理に使われていると思う。

私がDに,米屋の共同事業が甲子フードサービスと米屋の間で本当に存在しているのかを確認したときに,弁320号証の甲子フードサービスの議事録を見せられて,甲子フードサービスはこのように取り組んでいるので,乙丑ソースのほうは心配ないということだった。これらが偽造されているというようなことは,当時気がついてなかった。

その後も,甲午と甲子フードサービスの事業の取組が見えてこないということで,平成14年の1月後半,私は,このようなものから乙丑ソースは手を引くべきだとBに進言した。Bからも,甲午の事業取組を中止するという形で,甲午に伝えた。その中で,丙寅システムのDから,取組中止はやめていただきたい,甲子フードサービスと甲午,丙寅システムと,きちっと協議をして間違いなく進めていくので,乙丑ソースのほうで,もう少しこの事業にかかわっていただきたいということで,弁322号証の甲子フードサービスの議事録を持って来て,このような形が決まったと言った。私は,当時は,書いてあることが真実と思っていた。

(4) 戊辰リサイクルとの関係について

戊辰リサイクルとの共同事業の話を聞いた時期は,壬午工業が倒産した平成13年10月の後であった。

乙丑ソースがこういう事業に乗り出すということについて,私は,B,Eに,「簿外債務を抱え,会社が窮地にあるときにやるべきではない。」と反対した。

10月後半から11月初めごろ,Hがきたとき,二度同席した。

私は,Hに,「戊辰リサイクルが壬午工業の機械を15億円近くで買うというような契約をしているにもかかわらず,どういう資金バックがあったのか。お金はあるのか。」と資金的なことを重点に聞いた。

Hからは,明確な答えは返って来なかった。私は,でたらめだと言った。

私は,Bに,戊辰リサイクルは信用置けないので共同事業の話はやめるべきだと言った。しかし,Bは,やめるという決断まではいかなかった。

その後,共同事業から,乙丑ソースがM&A方式で企業買収し,戊辰リサイクルの支配権を持って,運営,実質経営,すべてをこちらサイドで行うという形に進んでいった。そして,Dから,乙丑ソースには資金がないから,甲子フードサービスが資金バックに付いていると説明された。形式的には,乙丑ソースがM&Aの窓口となり,実質は甲子フードサービスが行うことになった。

私は,乙丑ソースで資金調達することもないし,甲子フードサービスでM&Aの資金を調達するというので,資金的なリスクは負わないし,正常に運営されれば,利益だけが乙丑ソースに入るというので,リスクはないと考えた。

①県庁とか関係官庁に,許認可関係の方で,乙丑ソースの方で支援をしてもらえるということで話をしてあるから,今更,乙丑ソースが引かれても困るということ,②福井では,甲子フードサービスよりも乙丑ソースの方が名が通ってるので,そのほうが事業は行いやすいこと,③Dから,「甲子フードサービスでは,この事業をやるのを,まだ役員会において正式には決定していない。また,甲子フードサービスでは,産業廃棄物に関する詳しい人材が今のところいない。乙丑ソースには新規開発室があり,甲子フードサービスよりは,産業廃棄物事業に対しては知っている。だから,甲子フードサービスで正式に取り組むことを引き継ぐまで,乙丑ソースのほうでやっていただきたい。」と言われたことなどから,乙丑ソースの名前を残していただきたいと言われた結果,乙丑ソースの名前が残ることになった。

戊辰リサイクルを企業買収する資金は,甲子フードサービスのほうで金融機関から調達をして用意をするということになった。

Dから,11月の半ばころ,甲子フードサービスの方で,4億円から5億円の資金の枠取りが終わったと聞いた。その後,11月後半ころ,7億円ぐらいの枠になったと聞いた。

Eから,今の戊辰リサイクルの持っている既存設備に新しい設備を加える必要があると聞いた。当初,2億5000万円程度の≪略≫産業の炉を入れると聞いていた。しかし,その後,己巳社から炉を5000万円で購入すると聞いた。あと,新しい炉の設置,改造,いろいろ含めて2億5000万円ぐらいをつぎ込まなければいけないと聞いた。

戊辰リサイクルの決算書等を見せられて,固定資産的なものが3億円から4億円の間ぐらいあること,平成14年4月に更新はしなければならないが,許認可が実際にあり,福井県のほうと廃棄物処理の契約の当事者になって契約書もあることなどから,戊辰リサイクルに4億円から5億円の資産価値はあると聞いていた。

これらを総合して,7億円くらいの枠になったと理解した。【C25回75】

金がないまま,そのままで放置したら,戊辰リサイクルは,処分業の許可がなくなり,1億5000万から2億の負債だけが残り,価値はゼロとなる。そういう立場にいる戊辰リサイクルは,7500万くらいで,M&Aに応じると考えていた。

丙寅システムシステムがサプライヤーになり,戊辰リサイクルを全部買い上げて,リース会社に売り,資金を調達すると,当時聞いていた。

庚午リースは新しい炉を対象物とし,辛未リースは戊辰の既存設備を対象にすると理解していた。【C22回14】

【C21回98,41回12】

11月29日,Eから「急きょ11月30日に己巳社と戊辰リサイクルが来て,炉の売買契約をすることになった。それについて意見を聞きたい。」と電話があった。私は,「戊辰リサイクルのM&Aのこともまだ決まってない中で,どうして炉の売買契約に乙丑ソースが立ち会うんだ。理解に苦しむ。」と言った。

Eは,「明日やることになってる契約書,その他戊辰リサイクルのM&Aにかかわる書類を送付するので,一応目を通してほしい。意見があれば言ってほしい。」と言われて,私が宿泊していたホテルにファックス(弁304,307)が送信されてきた。

「?」,「残金の支払方法」,「理解不能」と書いた。己巳社と戊辰リサイクルの売買契約に関して,戊辰リサイクルのM&Aがまだ決まってないのに,この最終期日を入れるということは問題があると考えた。

翌30日,Bと会った。私は疑問点を言ったが,Bからきちっとした答えが返ってきてなかった。

しかし,翌日契約はされてしまった。しかし,本契約にはならなかった。その限度では,私の意見が少しは生かされたということになる。

(5) 12月13日のc宛ての手紙の趣旨について

この手紙の中に「12月20日のデリバリーが確定し」というのは,甲子フードサービスのほうでM&Aの部分について,ようやく資金手だてとか含めてできるようになった。そちらのほうでいろんな部分を処理すると丙寅システムから聞いているので,もうすぐ解決するのではないかというものである。

デリバリーという言葉は,お金のデリバリーで,12月20日に甲子フードサービスサイドに融資金が入ってくるのが確定したと聞いている。cの顧問をしている甲午には支払が遅れ迷惑をかけているが,その分で目処がついた旨,Dの報告を聞いて出した。【C24回143】

(6) 12月14日の現地調査等について

【C41回77】

12月14日の前日か前々日に,Dから連絡があり,金融機関の立会いが戊辰リサイクルで行われ,現地調査を踏まえて,事業が進んでいくような形になると聞いた。私は,乙丑ソースとして,この事業が進んで行く中で,設備関係について,現地の状況を確認すべきだと言った。Bから,現地も見てもらいたい,是非行ってもらえないかと言われ,私も行くことになった。

私は,14日,工場内を見た。貼紙は見た。溶融設備,炭化炉,明確にそのとき分けていなかったので,貼ってるなという程度で,それ以上深く考えたことはなかった。

(7) 丙寅システムシステムから乙丑ソースにではなくて,丁丑社に1億2000万円が送金された理由

【C41回26以下】

丁丑社は,Bとオオノが共同代表だった。もともと,音楽配信やレコード製作目的だったが,平成13年12月ころ休眠状態だった。

お金の動きを明確化するために丁丑社に送金した。

平成13年の11月ごろまでは≪略≫銀行,≪略≫銀行の乙丑ソースの口座に2億とか,1億余が振り込まれていた。n,qは,11月ごろに,私に,「≪略≫銀行,≪略≫銀行から,乙丑ソースの口座に大金が入って,すぐにそのお金が動くというのは,非常に不自然ではないか,こういうことをやっていれば,銀行取引を停止し,口座を閉鎖する旨クレームを言われた。」と言った。

それで,資金の受入先をどうすればいいのかということが問題となった。丁丑社がたまたま12月のころは余り動いていなかったこと,その口座は,乙丑ソースの100パーセント子会社であることから,その口座を利用することになったと思っている。

動いてないということに伴う何かメリットは,金の動きが少ないから,金が入っても動きが限定されており,資金使途とか振込先が,簡素で後で明確に分かるということである。

その後には,丁丑社は,丙子社という会社に変わり,私がそこのオーナー格になったが,当時,私は,丁丑社に影響力があるような関係はなかった。当時,丁丑社の口座を管理していたのは,qとnで,乙丑ソースで管理していた。

(8) 乙丑ソース等への貸付

【C42回33】

私が,初めて,乙丑ソースという法人なりB被告人個人なりにお金を貸し付けたというのは,平成13年の5月ごろだった。平成13年の11月末から12月ごろ,乙丑ソースなりBに対する貸付金というのは,合計で7000万ぐらいだったと記憶している。早く返してもらいたいという気持ちはあったが,Aの方で保全をしているので,そちらから返ってくるだろうとは思っていた。

2  争いのある事実関係についての認定

本件において,多数の者が,それぞれの利害から関係している上,関係者の供述には,相互に齟齬していたり,供述自体変遷していたりするので,その信用性判断には,慎重な考慮が必要である。

そこで,まず,証拠上明らかな客観的事実を前提として,Cの故意,共謀に関する事実関係について検討する。

(1) 証拠上認められるC関係の詐欺の故意,共謀認定に関する事実

前記認定事実,関係証拠によれば,Cについて,次の事実が認められる。

① 平成13年3月中ごろ,Eは,CをBに紹介し,Bは,Cに同社の「相談役」の肩書きを与え,同社の簿外債務の処理等を依頼した。Cは,東京に居住していたが,その後,大阪に赴くことが多くなり,大阪でのホテル代(その後,賃貸マンションの家賃等)は,乙丑ソースが支出していた。

② 5月ころ,Cは,Aらと面談した。その際,Zを紹介したことも含めて,約10億円の簿外債務について,Aにも責任をもって対応するように求めた。また,Dに対しても,乙丑ソースの簿外手形に関連して,責任を取るように求めた。

③ 8月30日,cから,Cに対し,送信されたファックスに「B様の指示により,C様へ取り急ぎ資料をお送り致します。」との記載があり,送信された資料には,以下のものが含まれていた。(「B」はEを意味する。)

・ 乙酉エンジニアリングから壬午工業へ戊辰リサイクルの電話番号及びファックス番号の変更を知らせるファックス文書

・ 「戊辰リサイクル事業協同組合及び許可証について」と題する壬午工業作成名義の文書

・ 産業廃棄物処分業許可証(福井県知事発行名義のもの。事業の区分として,「中間処理(乾燥,炭化,破砕)」との記載がある。)

④ 同年秋ころ,Cは,乙丑ソースと戊辰リサイクルとの共同事業の話を聞いた。

⑤ 9月27日ころ,Cは,甲午販売店の顧問と称するcに宛てて,甲午販売店に係るファイナンスリース案件について,「明日より,甲午販売店のリースの現調と契約が開始されます。」,「別添書類に目を通し,米屋の組合長にも理解をしていただき,リース会社との対応を宜しくお願いします」,「各リース会社へ丁卯社が保証し,丁卯社に対し甲子フードサービスが保証します」,「リースの支払い保証としても,別紙スキームを提示しておりますので対応宜しくお願いします」などと手書きした書面を作成,ファックス送信した。

⑥ 同年秋ころ,戊辰のHが乙丑ソースに来たとき,Cは同席し,Hと話をした。

⑦ 11月29日午後10時33分及び34分ころ,乙丑ソース本社からCのもとへ,戊辰リサイクルと乙丑ソースの共同事業に関する戊辰リサイクルの誓約書案,己巳社と戊辰リサイクルの炭化炉の契約書案2通がファックス送信された。誓約書案及び契約書案につき,Cは「残金の支払い方法」,「平成年 月 日をもって辞任した旧理事・組合員」などと書き込みをした。

⑧ 12月13日,Cは,c宛てに,自筆で,「戊辰リサイクルのリース案件に関して,≪中略≫明日,現地においてリース会社と行政の面談を実施致します。明日確認作業が完了しますと,12月20日のデリバリーが確定し,懸案事項の資金着地する段取りとなりますので宜しくお願いします。≪後略≫」などという書面を作成した。

⑨ 12月14日,庚午リースのI並びに辛未リースのL及びKが,福井県所在の戊辰リサイクルを訪問し,リース契約対象物件を確認したり,県庁を訪問した際,Cは,戊辰リサイクルに赴いた。その後,乙丑ソース本社に赴き,B,Aらと会った際,同席した。

⑩ 12月28日,乙丑ソース第1応接室において,戊辰リサイクル案件について会議が行われ,「溶融炉プロジェクト議事録」と題する書面が作成された。同会議には,乙丑ソースとしてC,E,g,戊戌技研としてo,丙寅システムとしてDが参加し,pが記録した。なお,Cは,途中から参加した。その際,Cは,「なぜ他のメーカーの製品を戊戌技研で改造することになったのか。」,「新しい製品だと金額的にいくらくらいするものなのか。」,「計画どおりの処理ができる製品なのか。」などと質問し,oやDらが答えた。

⑪ 2月27日付け,丁丑社(代表取締役B)と甲子フードサービス(A)間の合意書には,「甲子フードサービスは,戊辰リサイクルの事業を継承または支援することを確約する。そのため現在戊辰リサイクルの契約するリース代金の保証として金7億円の為替手形を丁丑社に差し入れる。」という記載がある。これに相応する手形の受領証は,丁丑社代表取締役Bの記名押印があるが,文面はCが記載した。

⑫ リース会社から,丙寅システム等を通じ丁丑社に入金された約5億1000万円は,その多くが乙丑ソースの簿外手形処理に関する資金として使用されたとみられ,また,このうち,少なくとも1000万円分が,Cに対する債務の弁済に充てられた。

(2) 3億円儲けるとの謀議の有無について

検察官は,Cは,Aらが不正リースによってリース会社を欺き資金調達をしていたことを知っていたが,平成13年の10月中旬ころ,乙丑ソースでは,同年末までに必要とされる約3億円の資金調達の目処が立たない事態となったので,CはBとの間で,戊辰リサイクルに設備を購入させ,その代金を大幅に水増ししてリース会社を欺いて,約3億円を乙丑ソースに還流させて資金調達をする旨の謀議をなし,Cが,Bとともに,Dに対し,10月下旬ころ,Aがリースを利用して約3億円を捻出し,年末までの資金繰りのために乙丑ソースに同金員を流すように依頼したと主張する。

そこで,以下検討する。

ア Cは,Aらが不正行為によって,リース会社を欺き資金調達をしていることを知っていたか否かについて

(ア) これを肯定する要素

① C自身が,9月27日に,甲午販売店の顧問と称するcに宛てて,甲午販売店に係るファイナンスリース案件について,リース会社の現地調査の日程とともに「別添書類に目を通し,リース会社との対応をお願いします」などと手書きした書面(弁70号証)を作成しており,同案件について知る機会があったとみられること

② CがDを通じてAに壬午工業関連手形の決済資金の調達を求める中で,甲午販売店に係るファイナンスリースで捻出された資金が壬午工業関連手形の決済資金に充てられていたこと

③ Dは,捜査段階では,B及びCに,甲午の精米設備のリースで儲けたなどと説明した旨供述していたこと(乙24)

④ Bは,公判において,Cとともに,Dからリースでもうけたという話を聞いたと供述すること

などのみに照らすと,Cが,Aらが不正行為によってリース会社を欺き資金調達をしていたことを知っていたものと推認される。

(イ) これを否定する要素

① 前記(ア)①(9月27日のcへの書面)について,

i 同書面には,リース金額についての言及はなく,そのほか,その記載のみからは,不正な上乗せリースについてのものであると明らかではないこと

ii Cは,公判廷で,「同FAXは,cと面識のなかったDから,cに送るように頼まれてDから言われたことを書いただけで,それ以上の内容は知らなかった。」旨供述するところ,検察官は,DとCの関係等からして,CがDからの伝言のためだけにわざわざ手書きの書面を作成したというのは信用し難いと主張する。しかし,別添書類・別紙スキームが引用され,Cが作成していない部分も相当程度あることがうかがわれること,Dは,Aと乙丑ソースの窓口役を務めており,Cの部下というわけでもなく,cとの面識の有無という理由があれば,CがDの依頼に応じることもあり得ること,前記事実のとおり,Dは,甲午のリース金を原資として丙寅システムに振り込まれた資金から,丙寅システムに関連する用途にも使用しているところ,cと面識のあるCを利用してcと連絡を取ること自体は想定し得ないものではないことにかんがみれば,Cの前記供述は,これを排斥することはできないこと

を併せ考慮すれば,c宛の上記文書をCが作成したことから,直ちに,Cが,甲午のリースが不正リースであると知っていたとはいえないこと

② 前記(ア)③(Dの捜査段階の供述)について,Dは,公判では,Cに甲午のリースでもうけたことを説明したか否か,あいまいな供述をし,また,金の作り方ではなく,いつ金が入ってくるかを説明したなどと供述し,供述を変遷させていること(D11回56以下等)

Dは,精米設備のリースについては,契約上の当事者としては関与していないところ,直接関与した丁亥システムでのリースにおいては,Dはサプライヤーとして関与しており,製造元からの仕入値とリース会社への転売値の差額を利益とすることだけをみれば不正があるわけではないのであって(もっとも,丁亥システムの件においては,上乗せの程度や利益分配状況からみて,Aの関与のもと,サプライヤーとユーザーが通謀して価格を吊り上げたものであることがうかがわれ,この点をみれば不正というべきである。),Dが本件戊辰リサイクル事件について,「原価に利益を上乗せしているもので,オーバーリースではない。」などと供述していること(D15回46,29回57以下)をみても,Dは,戊辰リサイクル事件当時も,原価に利益を上乗せして,サプライヤーとしての収益を上げるとして,上乗せリースを説明していた疑いは否定し難い。

したがって,前記Dの捜査段階の供述の信用性には疑問を容れるものである。

③ 前記(ア)④(B供述)について,Bの前記供述部分は,認否の食い違うCの詐欺の認識の前提でもあるところ,検察官も指摘し,Cの弁護人が主張するように,BはCの言いなりであったと供述しており,Cに責任を転嫁しようとしている姿勢がうかがわれること,Bの前記供述はあいまいなものであって,Dからリースでもうけたと言われたという状況も判然とせず,Dの公判供述とも整合しない点があり,特に,Dから前記の話を聞いたときに,Cがいたかもしれず,いなかったかもしれないというのであるから,Cとの関係で特に信用性が高いものとはいえないこと【B28回122以下】

④ 前記事実のとおり,先行する上乗せリースにより得られた利得の相当部分が,乙丑ソースの簿外債務処理資金に充てられているとみられるものの,丙寅システム等の単なる借入を原資に,簿外債務資金を提供している場合もあり,結局,Aが,Dにも協力させつつ,乙丑ソースに簿外債務処理資金を提供するなかで,A側が上乗せリースも行っていた(戊寅サプライに流用されたこともあり,一部が丙寅システムの利益になっていたこともある。)ということまでしか認定できず,先行する上乗せリースについて,先のCが書面を作成したこと以外には,乙丑ソース側の関与は認定できないこと

(ウ) 以上を総合すると,Cが,Dから,サプライヤーないしはサプライヤーに対する売主という形で利益を上げたとの話を聞いた可能性はあるにせよ,少なくとも,不正リースによる資金調達の手法として,リースでもうけたと聞いたと認めるには,合理的疑いが残るといわざるを得ない。

イ 平成13年10月時点で,乙丑ソースが年末までに必要な約3億円の目処が立たない状況であったか

この点,検察官指摘のとおり,q作成の手形残高(弁142ないし145,161ないし171)によれば,乙丑ソースは毎月多額の簿外手形処理資金を必要としていたことが認められる。

しかし,10月中旬ないし下旬の謀議行為の前提となるCの認識を基礎づけるのは,その当時における手形残高であるところ,これに最も近い11月1日付け手形残高(弁170[4849丁])によれば,12月に期日が到来する乙丑ソースの簿外手形の残高は,計5510万円であって,当時におけるCの認識として,年末に3億円の資金が必要であるとの状況があったとはいえない。

もっとも,同手形残高によれば,11月に期日が到来する簿外手形は,計約2億1035万円であり,11月分と12月分を合計すれば,合計2億6000万円以上の簿外手形処理資金が必要であったことになる。

とはいえ,10月下旬にAに依頼し,リースを組んだとしても,リース会社との交渉を経て,リース金が入金されるのが11月中に可能であるとは考えられず(実際にも,庚午リースが最初の稟議は11月28日付けである。),11月期日到来分が「年末までに約3億円が必要である。」との認識に直結するものとはみられない。

ウ 乙丑ソースが簿外手形処理資金の調達を企図する必要性について

(ア) 前記手形残高を通覧すると,4月3日付け手形残高は7億9185万円(ただし,欄外に庚寅社2億4400万円,壬午工業5億2750万円,丙寅システム2億円との記載がある。),5月9日付け手形残高が作成された時期は,乙丑ソースの簿外手形残高は8億6368万円であったとみられる(弁161ないし168)が,6月1日付け手形残高(弁169)によれば,簿外手形残高は約6億8700万円(ただし,欄外に庚寅社2億3600万円,保全手形2億円との記載がある。),うち約4億6000万円分は回収・解決のものとされており,11月1日付け手形残高(弁170)によれば,簿外手形残高は約4億6000万円(ただし,欄外に庚寅社2億1600万円,丙申社2000万円。他に保証手形との記載もある。)であったことが認められ,10月中旬ないし下旬ころには,簿外手形は漸次処理され,減少している状況であったといえる。

(イ) 前述のとおり,Aは,乙丑ソース側の追及を受け,また,刑事責任追及をかわす意図のもと,別件リース・割賦を利用して捻出した金員を乙丑ソースに提供していたほか,前記認定事実のとおり,Aは,Dに,7月9日から10日ころ,iから借入をさせ(Aが保証人となっている。),8月31日にも,Fの関連会社から借入をさせて,乙丑ソースの簿外手形処理資金(いずれも壬午工業関係の手形決済で,7月10日及び8月31日が期日であり,各約1億円。)に充てさせており,乙丑ソースの関与しないところで,AやDが簿外手形処理等に充てる資金を調達してくるという状況にあった。

(ウ) 10月2日ころ,Aは,Dに,「甲子フードサービスが,乙亥社又は戊寅に代わり,乙丑ソースに対し,総額2億円の範囲内で,現金又は手形により清算金相当額を交付し,あるいは,つなぎ資金の借入等の調達行為に協力し,かつ甲子フードサービスがその債務保証等をすることを甲子フードサービスの取締役会が承認した」旨の記載のある甲子フードサービスの臨時取締役会議事録(弁119)を偽造させており,その内容からみて同議事録は,Aが責任をとって乙丑ソースの簿外手形処理資金を負担する旨乙丑ソースに説明するための資料とうかがわれ,10月ころの乙丑ソース側としては,簿外手形処理につき,甲子フードサービスの資金援助も受けられると認識していたとみられる。

(エ) これらの諸事情にかんがみれば,B及びCが,10月中旬ないし下旬ころにおいて,AやDが簿外手形処理等の資金を調達してくれるにもかかわらず,あえて乙丑ソースが主導して不正リースを企図して,年末を乗り切るための約3億円を入手する必要があったとの点は疑いがあるといわざるを得ない。

エ 小括

以上の検討によれば,3億円の資金調達のために,5億円の設備を8億円と偽ることを当初計画したという,検察官の主張及びこれに沿う関係者の検察官調書での供述は,疑問が容れられるものである。

(3) 10月下旬ころ,リースで3億円もうけさせてほしいとの依頼を受けた旨のD供述の信用性について

Dは,「10月下旬ころ,B,C及びEがいる場で,Bが,「戊辰リサイクルが産業廃棄物処理の共同事業を申し入れてきた。新しい溶融炉を導入すれば,相当儲かるらしい。乙丑ソースもこの事業に乗り出す検討をしている。新しく入れる溶融炉はリースを組んで入れたいのでAに話して欲しい。」などと話し,その際,「そのとき,3億円くらい儲かるようにしておいてよ。」と依頼した。Cも,「仕事するなら3億円くらい儲けないとね。」などと言った。」と供述するので(乙24,D15回12以下等),その信用性について検討する。

ア 信用性を肯定する要素

① 戊辰リサイクルが乙丑ソースに対し,設備の新規導入に際し,リースによる資金援助を持ちかけ,戊辰リサイクルと甲子フードサービスはそれまで接点がなく,信用力のない乙丑ソースとしては,甲子フードサービスにリースへの協力を要請したとみるのが合理的であって,その連絡役をDが務めたことはあり得ること

② 乙丑ソースが,簿外手形処理のために多額の資金を慢性的に必要としており,10月中旬ないし下旬においても,この点は変わるところがなかったこと

③ 本件リース等に際して(その趣旨はともかくとして)利益が生じることはB及びCも認識していたと認めていること

④ 本件割賦により丁卯社に8億円弱が支払われているところ,乙丑ソースに約5億円が流入しており,乙丑ソースが最大の利益を得ていること

⑤ 庚午リース及び辛未リースから丁卯社の口座に入金された合計7億8823万4475円が,丁卯社の口座から丙寅システムシステムの口座等を経由して,丁丑社の口座に4億9700万円が入金され,その大半が乙丑ソースの簿外手形の処理資金やそれに伴う借金の返済に充てられている事実経過等がDの捜査段階の供述である「リースを組んで3億円くらい儲かるようにしてほしい」に符合しているともみられること

など,Dの前記供述の信用性を肯定する事情も認められる。

イ 信用性を否定する要素

① 前述のとおり,そもそも,10月中旬ないし下旬ころには,Aが,Dにも協力させて,丁卯社からの借入や丁亥システム等のリースによって,乙丑ソースが直接関知しないところで簿外手形処理に関する資金を調達し,また,甲子フードサービスの資金協力も約束するなどしており,乙丑ソースは,個別に特段の働きかけをしなくても,A・Dから,簿外債務処理資金を得られる状況にあったこと

② 前記認定事実のとおり,パチンコ台リサイクル設備及び精米設備のリース・割賦によっても,乙丑ソースに多額の資金が流入しているが,これらの上乗せリース・割賦は乙丑ソースが仕組んだものではなく,直接関与もしていないこと

③ 前記判断したとおり,3億円という数字には合理的根拠はなく,Dも捜査段階で供述した金額に根拠があったわけではないと認めていること(D29回36)

④ Dは,9月28日に入金されたパチンコ台リサイクル設備のリース金をAの指示等で他へ使ってしまい,己亥鐵工所へ支払う同設備の代金相当額約3億3000万円を12月末までに工面しなければならなかったところ,リースによって3億円の上乗せが生じても,乙丑ソースに年末までの資金需要が3億円あり,これにすべて費消されてしまうのでは,D自身には,上記3億3000万円を支払うことができず,乙丑ソースやAに協力する動機付けが弱く,むしろ,D自身が年末までに約3億円が必要であったこと

⑤ Dの捜査段階の供述(乙23)にも,戊辰リサイクルの犯行を計画した11月下旬ころ,乙丑ソースには少なくとも2億円,A・Dに己亥鐵工所へ支払うべきパチンコリサイクル設備代金相当額約3億3000万円の資金需要(Dは,「この支払ができなければ,戊子リースとの間の契約が解除されてしまい,せっかく手に入れた丙寅システムの借金に充てた1.6億円も返さなければ破産せざるを得ない状況にあった。」と供述する。)があり,これがDが犯行に荷担した動機であるとの供述があるが,時期が違うとはいえ,前記供述(乙24)では,己亥鐵工所への支払には言及されず,乙丑ソースの3億円の資金需要のみが取り上げられており,己亥鐵工所への支払は,9月末から問題となっていたことも考慮すれば,捜査段階の供述同士でも,D供述には不整合があること

⑥ 前記ア④(乙丑ソースの利益)について,Cは,丁丑社の口座に入金された4億9700万円のうち8000万円は庚午リース及び辛未リースからのものではないと供述する(弁150,C21回133-135)。

また,甲午関係の支払に充てられた合計約8000万円は簿外手形関係の支払とは異なるものとみられる(弁160)。

その他被告人Cの一時立て替え分の返済にあてられたものがある。

それらの残りが簿外手形関係の支払に充てられたものであるが,簿外手形発生の責任者であるB,E,D,b,Z,及びAらの処理資金に使用されている。簿外手形の責任の帰属するところにしたがって各人が処理しており,簿外債務の発生・増加に関わっていないC自身には責任のない金の流れともいえること

⑦ 本件当時,丁丑社の印鑑と通帳はBの直属の部下であるq,nが管理していた旨供述しており,Cが,当時,丁丑社を支配し,丁丑社の口座も管理,支配していたとはみられないこと(qらが丁丑社の印鑑と通帳を丙子社に渡したのは平成14年3月7日のことである。n37回35,36,50,p38回7,8,同公判調書添付符1109)

など,Dの前記供述の信用性を否定する事情も認められる。

ウ 小括

以上を総合すれば,前記Dの供述部分は信用性が高いものとはいえない。

(4) 見積書の偽造について

検察官は,Dは,B及びCから,己巳社の見積書を偽造するように指示され,偽造した旨主張する。

そして,Dは,捜査段階において,「11月22日か23日ころ,Gに己巳社名義の見積書を偽造するように頼まれた。B及びCに相談したところ,26日午前中,Bから「己巳社の見積書を作ってほしい。」と頼まれ,Cからも「墓場まで持っていく話として作ればいい。」などと言われ,己巳社の印影部分も含む見積書の偽造を承諾した。」などと供述し(乙24),公判において,「Cからは指示はなかったが,「墓場まで」とは言われた。」(D30回46。もっとも,違う機会であったかもしれないとあいまいな供述もする。),「Aにも「乙丑ソースが作ってくれない。」と相談したところ,Aから「Bはできないんだから,お前の方でやれ。」と指示された。」(D15回47)と供述を変遷させつつも,「B及びCに相談したところ,Bから偽造の依頼を受けた。」旨供述している。

そこで,Dの前記供述部分の信用性を検討すると,

① 前記認定事実のとおり,Dは,平成17年4月に乙丑ソースで行われた社内調査の席上,Eから,「お前が偽造したんだろう。」などと追及された際,これを否定したが,創業者一族で代表取締役社長であるBや,そのころには乙丑ソースのホールディングカンパニーの大株主となり,実力を有していたCら,社内の実力者自身の指示で偽造を行ったのであれば,その旨説明すればよく,社内調査の席上でB及びCの指示を明らかにしても,社外に漏れる等の問題は少なく,あえて秘匿する必要はないし,むしろ,検察官の捜査に備えて,関係者に偽造を明かした上で,口裏合わせをする方が合理的な行動であること

② 前記認定事実のとおり,その後,Dは,B及びCと3人だけになったが,その際B及びCに抗議したこともなく,口止めされたため上記席上で偽造を否定したものとはみられないこと(Dは,3人だけになった際,B,Cから偽造見積書を作ったのか本当のことを言ってくれと言われたか否か,記憶にない旨証言したが,容易に忘却することのできるような事項とは考え難い。)

③ Dは,己亥鐵工所の見積書をはじめとして,甲子フードサービスの取締役会議事録や己巳社の領収書も偽造したが,これらの文書偽造については,DはB及びCに相談したことはないのに,己巳社の見積書についてのみ相談することは不自然ともみられること(Dは,印鑑を作らなければならなかったことに抵抗感があったと言うが(D13回14),印鑑屋に注文して印鑑を作成させることが,切り貼りをして見積書そのものを無断作成することに比べて,抵抗感が著しく強くなるものか疑問である。)

④ Dは,上記のとおり,偽造の依頼についての供述を相当程度変遷させていること

にかんがみれば,Dの前記供述部分は信用性が高いものとはいえない。

(5) 己巳社への偽装工作について

12月18日にEがDの依頼で,己巳社のJに,辛未リース担当者に対し,本件機械は溶融炉であるなどと偽ってほしい旨電話で頼み,また,gが同月19日,己巳社に赴いてJに同旨の依頼をした上,Jが辛未リース担当者に虚偽の説明をすることを確認したことについて,Eは,検察官調書(乙31,32)で,「Dから,偽装工作を依頼されたときに,Cもいたと記憶している。」,「gには,Cから指示を受けて,自分が指示した。」と供述するので,その信用性を検討する。

① Eは,捜査段階において,当初は「gに己巳社に行くように行ったのはCだと思う。」(乙31p20)と供述したが,この点につき,その後,「直接gに指示したのは自分かもしれない。Cの指示を受けて,gに指示した。」(乙32)と供述し,公判に至り,「gに指示するのに際して,自分に指示したのがDだったかCだったか分からない。」(E118,127)と供述し,その供述は変遷を重ねており,合理的な変遷理由を説明していないこと(なお,これに対応するgの供述は,当初「Bに指示され,Eと己巳社に行った。」(甲29p23以下),後に「Eに指示され,その後,Bに報告し,指示されて行った。」(甲31)と変遷しており,また,Jの供述は,gが単独で己巳社を訪れたことを前提とするものであった(甲28)。)

② 上記変遷は,Eが,捜査段階において,Cの関与を強調し,責任転嫁を図っていた可能性もうかがわれるところ,Dから指示を受けた際,Cもいたと記憶していると供述した点についても,公判においては「誰がいたのかはっきりは覚えていない。」(E117)と供述しており,同場面が平成13年12月のことであるのに対し,捜査段階での供述録取時は平成17年5月末であって,約3年半が経過しており,発言もしていないCがその場にいたか否か,明確な記憶があった可能性が低いとみられること

に照らせば,Cの関与をいうEの前記供述は信用性が高いものとはいえない。

3  リース会社から支払われる金員の趣旨及び取引内容の認識について

Cは,己巳社から新規導入される処理設備は5000万円の物件であったこと,リース会社との契約金額は七,八億円であったこと,本件契約によってリース会社から取得された金員の一部が,最終的に乙丑ソースの簿外手形処理資金に回されるであろうことを認識していたことは特に争っていないので,これに照らせば,Cは,リース会社が錯誤に陥っていることを認識しており,詐欺の故意を有していたといえるのではないかが問題となる。

(1) 弁護人の主張

弁護人は,「Cの認識は,

① 甲子フードサービスが戊辰リサイクルをM&Aし,丙寅システムがそのサプライヤーとなる。

② M&A資金は,甲子フードサービスがリース会社から融資を受ける。

③ 甲子フードサービスがM&Aする戊辰リサイクルの価値は,

i 既存設備が4,5億円する。

ii 新規導入設備が5000万円する。

iii 同設備改造費が約2億円かかる。

iv 産廃の許可にも高い価値がある。

④ リース会社は,このような戊辰リサイクルの価値を評価して,7億円強の融資をする。

というものであり,サプライヤーとユーザーが通謀して,リースの対象の価格を不当に高く設定したことにはならないと考えていたもので,商流の中で転売による利益の中から,乙丑ソースの簿外手形処理資金に回される分があることを認識していたとしても,詐欺に当たらない。」旨主張し,Cはこれに沿う供述をする。

(2) 検察官の主張

これに対し,検察官は,弁護人の主張を争い,Cの供述は,以下のような点で,不自然,不合理であり,信用できず,リース会社が戊辰リサイクルの価値を評価して7億円強の融資をするとの主張は理由がない旨主張する。

① Cの供述によると,「買収資金の融資」をする金融機関がたまたまリース会社となっただけであって,その取引内容は,「リース会社」が通常行う「リース案件」とは異なるものと認識していたことになり,現に被告人質問でも,「金融機関で甲子フードサービスが調達すると聞いており,リースでやることは聞いてない。」,「リース会社とのタイアップでM&A資金を調達すると聞いている。」などと供述している。

しかしながら,Cが平成13年12月13日付けでcに宛てた書面(弁306号証)には,「戊辰リサイクルのリース案件に関して,……明日,現地において,リース会社と行政の面談を実施致します。明日,確認作業が完了しますと,12月20日のデリバリーが確定し,懸案事項の資金,着地する段取りとなります……」などと記載されているところ,このような記載自体からして,当時,Cが,戊辰リサイクルに関してリース会社から「デリバリー」される取引を,通常の「リース案件」として認識し,その旨表現していたと認められるのであって,「買収資金の融資」という認識であったとの主張とは整合しない。

② Cは,D(丙寅システムシステム)が買収した戊辰リサイクルを,A(甲子フードサービス側)が買収するという「流通過程」があることを前提に,リース会社がA(甲子フードサービス側)に7~8億円を支払うのは「戊辰リサイクルの価値を7~8億円と評価したからである。」と供述するが,そうだとすると,リース会社が7~8億円を支払って「戊辰リサイクル」を更に買収するという,不可解な結果となる。

③ Cは,リース会社から支払われた金員を乙丑ソースの簿外手形の処理資金等に充てることに問題を感じなかった理由として,「D(丙寅システム)が窓口となって安値で買収した戊辰リサイクルを,A(甲子フードサービス側)が高値で買収するから,その差額(利益)を資金繰りとして使うことができる。」旨供述する。

しかし,Cの供述によると,D(丙寅システム)は,A(甲子フードサービス側)が行う戊辰リサイクルの買収の「窓口」であるというのに,A(甲子フードサービス側)が,D(丙寅システム)の買収した金額以上の高値で買収するというのは不可解である上,A(甲子フードサービス)は,その「買収資金」を金融機関から融資を受けるというのであるから,その差額は,金融機関の負担に帰することになる。

これに対して,Cは,「リース会社との取引で利益が生じるわけではない。」などと更に供述しているが,そもそも,Cの供述するところによっても,戊辰リサイクルを買収する資金は,合計3億7500万円程度で済むはずであるのに,金融機関から7~8億円の融資を受けるというのは,その差額を利得することにほかならない。

(3) 当裁判所の判断

ア 甲子フードサービスが戊辰リサイクルをM&Aし,この資金の融資を受けるとの点について

(ア) 11月1日,乙丑ソースと戊辰リサイクルは共同運営契約を締結したが,その条項をみると,乙丑ソースが戊辰リサイクルを管理下におくものであったこと,12月18日,BとAが戊辰リサイクルの理事に就任したこと,12月25日までに作成された辛未リースの稟議書にも,甲子フードサービスが実質事業主体であり,乙丑ソースは名目で,甲子フードサービスが主導権を握っているとの記載もあり,リース会社担当者にもそう見える実情があったこと,平成14年1月17日,戊辰リサイクルが乙丑ソースに,7500万円で事業譲渡をするとの契約が締結されたこと,同年2月27日,乙丑ソース側と甲子フードサービス間で,「甲子フードサービスが戊辰リサイクルの事業を継承又は支援することを確約する。」などという記載のある合意書が存在することが認められ,M&A構想自体は実在し,遅くとも2月の段階では甲子フードサービスが実際に事業主体となったことは否定できない。【戊辰26,弁281,甲9資料,戊辰78,弁146】

(イ) もっとも,乙丑ソースは,平成13年12月28日の段階で,炭化炉の改造等,戊辰リサイクルの事業にある程度関与していること,平成14年1月17日に,乙丑ソースが戊辰リサイクルを買収するとの契約書を作成していること,甲子フードサービスが戊辰リサイクルの事業を継承又は支援するというのであって,合意書作成の時期も平成14年2月であることにかんがみれば,平成13年の11月前後で,甲子フードサービスが戊辰リサイクルをM&Aし,その資金をリース会社から調達するという話にまで発展していたか,疑いを容れることもできる。

(ウ) しかし,乙丑ソースが炭化炉の改造等,戊辰リサイクルの事業にある程度関わっていたのも,もともとEがHとともに炉の調達に動いていたことなどの従前の経緯があるとみられ,資金的な手当は,その信用力からしても,甲子フードサービスの担当であったことは認められること,12月14日の段階で,Aは,リース会社担当者に対し,甲子フードサービスとして戊辰リサイクルの事業の取り組む旨述べていたこと,庚午リース及び辛未リースの稟議書等から,両リース会社がいずれも甲子フードサービスの信用と事業の収益性を重視していたことは認められ,12月18日,BとAが戊辰リサイクルの理事に就任したこと,また,リース会社の担当者は,Dとは主として事業の収益性を巡ってやりとりをしていたと認められることに照らせば,平成13年11月前後の段階でも,乙丑ソースと甲子フードサービスが戊辰リサイクルの共同事業主体となること,戊辰リサイクルの買収資金は,甲子フードサービス側において負担することが構想され,その方向で進行していたことは否定し難いところである。

また,Cは,M&Aという用語を用いているが,その内実は,戊辰リサイクルの企業価値に着目し,戊辰リサイクルをリースの対象とするという趣旨とも解される。また,リースの経済的実質は,サプライヤーからユーザーが対象を購入する際の融資であって,リースの専門家ではない一般人にとっては,リースといっても,リース会社から融資を受けるという以上の正確な認識を有することは容易とはいえない。更に,Dとリース会社担当者の間で主として戊辰リサイクルの事業収益性が問題とされていたところ,そのDから話を聞いていたCが,リース会社はリースにあたり,戊辰リサイクルの収益力のような企業価値に対して資金を出すと考えたとしても不自然とはいえず,この点でもことさら虚偽を述べているとは断じ得ない。Dは,全体としてCらに不利益な供述をしつつも,「「戊辰リサイクルをM&Aする資金をリース会社から融資を受ける。」と丁卯社から聞いたことがある。」と供述している。以上によれば,M&Aの構想が存在した可能性自体を否定することはできない。【D30回4以下】

(エ) 以上によれば,甲子フードサービスが戊辰リサイクルをM&Aし,これに関して融資を受けるとCが認識していたとの弁護人の主張を排斥することはできない。

イ Cの供述する融資の対象について

(ア) この点について,Cの認識形成に重要な役割を果たしたと思われるDは,公判において,「戊辰リサイクルの既存設備の価値4億円,戊辰リサイクルの保有していたもの全体で5,6億円,改造費が2億円で,これらと新規導入機械に合わせてリースをかけると認識していた。物を仕入れてリース会社に販売して利益を得るつもりだった。受入設備や排煙設備など,戊辰リサイクルにある既存設備も見積書に記載されていると思う。改造後の値段ということで,丁卯社から言われていた。」(D13回11以下,15回44,29回59以下,134以下,30回2以下),「丁卯社は,いろんなところから物を買って,1つの製品として仕上げるスーパーバイザーだと思っていた。それをリース会社に売るリースバックをすると思っていた。戊辰リサイクルの既存設備を一旦買い上げて,改造を施した物をもう一度売るといった説明を丁卯社から聞いたことがある。」(D11回89以下,30回8以下,15以下)などと,Cの上記供述と整合する供述をしている。

このようなDの供述は,一方で,

① ほぼ丁卯社からの伝聞として供述し,その内容もあいまいな面が多いこと

② D自身は,己巳社の見積書も偽造しており,上記内容を真実信用していたか疑わしいこと

③ 「癸酉社が己巳社から炉を買って,戊辰リサイクルの既存設備を買って,改造し,リースにかけると思っていた。」(D13回29)とも供述し,バックファイナンスの主体も丁卯社か癸酉社か動揺していること(もっとも,両会社は業務提携をし,FとAの親交もあって,密接な関係にあり,両者の間で主体が入れ替わることは想定できる。)

など,D自身の認識としては,全面的には信用し難い点もある。

しかし,他方,

① 既存設備自体は,戊辰リサイクルに存在したこと(H公判,l公判)

② 導入する設備を改造する計画が実在し,リース会社にも伝えられていたこと

③ 産廃の許可も,相応の価値(H供述によれば,約1億円ないし1億5000万円)があるとHらは説明しているところ,リース会社側も,庚午リースは稟議書において許可について言及し,12月14日には,福井県庁まで言質確認に赴き,12月13日のDらに宛てたファックスにおいて,下線を付して強調し,言質確認が取れなければ白紙撤回(県からの発注は,許可を前提とし,他方,許可なくして産廃廃棄物処理はできない。)する旨伝えていること

④ Dも産廃機械の専門家ではないところ,「受入供給設備」等が,溶融炉固有のものであるか否かは明らかではなく,また,11月26日付け戊戌技研の戊辰リサイクル宛て炭化炉の見積書には,己巳社の偽造見積書に挙げられている品目である「炭化装置」,「二次燃焼炉」,「乾燥機キルン架台」等の改造費が計上されていること(これらの品目は,己巳社の偽造見積書作成の際に,Dが付加して記載したものとみられる。)

⑤ Cが,公判で詐欺の事実を否認する以前の第11回,13回,15回公判においても,Dは上記供述をしており,とりわけ,第11回及び13回は,D自身の判決(第14回公判)以前で,Dは公訴事実を認めている状況にあったもので,Cに責任転嫁を図る可能性はあるものの,逆にかばい立てをする必要はみられないこと

⑥ Eの検察官調書に現れる,見積書偽造をDがEに依頼した状況をみると,Eが7~8億円の己巳社の見積書は手に入らないとDの依頼を断ったところ,改造工事費を尋ね,更に,「全体のは私が作ります。」と言ったというのであって(「全体」の意味について,Eは,公判で,「戊辰リサイクルの整備も含めた全体のM&Aを示したものである。」と供述する(E57)。),Dは,本件当時から,契約総額との関係で改造費を問題とし,新規に導入される己巳社の炭化炉はリースの対象の一部であるものとして振る舞っていたことがうかがわれること

をも併せ考慮すれば,Dが,偽造等犯罪に荷担しているとの自覚もあり,Cらには,問題のないリースであるかのように,リースの対象には改造費や既存設備等も含まれるなどと説明し,リース会社側が事業の収益性にこだわっていたこととも関係して,戊辰リサイクルの企業価値に対して融資するかのように説明したことも想定できないわけではない(リース等は,賃貸借や売買の形式を採りつつもその経済的機能は融資であり,リース関係者以外には,容易にその性質を理解しがたいものがある。リース関係者らの供述をみても,物件が重要であることの意味合いについて理解に差異があるように思われる。)。

(イ) この点,既存設備をリースの対象とする場合,バックファイナンスになるのであるから,リース会社が警戒することは当然であって,この点はI,Lも証言するところであり,Cが認識していたと供述するように,通常のリースと渾然一体として扱われるということは,リースについての知識があれば疑問を持ってしかるべきところである(Fも,公判で,リース会社では,これらは区別すると供述している。)。

また,改造費は,一般的にはリースの対象にならないと,lを除くリース会社担当者は供述している。

更に,企業価値をリースの対象とするというのは,物融というリースの性質からみて,例外的なものといえる。

しかし,これらの点は,リースについての一定の知識を有する者について問題となり得るのであり,リースについて専門的な知識を有していたとはみられないCが,リースについて,融資の一形態であるという以上の認識を有していたことはうかがえない(リースと割賦の区別も明確であったとはいえない。)。

(ウ) 以上によれば,融資の対象となる,甲子フードサービスがM&Aする戊辰リサイクルの価値を,既存設備,新規導入設備,改造費,産廃許可を含むもの(七,八億円程度)と考えていたというCの供述を排斥することはできない。

ウ 本件サプライヤーの購入金額とリース会社への販売金額との間に差額が生じて,相当多額の利益が発生し,これが簿外債務処理に充てられるとの認識があったことと詐欺の故意について

(ア) Cは,サプライヤーである丙寅システムの購入金額とリース会社への販売金額との間には大きな差額が生じ,この差額による利益が,簿外債務処理に充てられることは認識していたものと認められる。

サプライヤーが仕入値とリース会社への転売値の差額を利益とすること自体は,合理的な範囲では,リースの取引通念上許容されるところ,対象物件の価格について利害対立関係にある売主と買主の交渉を通じて適正な価格形成がされるべきであるにもかかわらず,サプライヤーとユーザーが通謀し,不当に高額な価格設定をして融資を受けることは,リース会社として許容することのできないものであるとみられる(I公判)。

よって,この点をCが認識していれば,リース取引としては,リース会社を欺罔する故意があるとみることもできる。

そこで,Cが,本件において,サプライヤーとユーザーが通謀して,不当に高額な価格設定をしてリース会社からリース金を受けることを認識していたか否かについて検討する。

(イ) まず,Cの認識していたという本件における取引の流れについてみると,甲子フードサービスが戊辰リサイクルをM&Aするに際し,Dが代表を務めていた丙寅システムが窓口となって戊辰リサイクルを7500万円(既存設備,許可等)で購入し,これに新規導入設備5000万円及び設備改造費約2億円(設置費用等も含めると約2億5000万円)をかけて事業遂行に必要な整備を行った上,約7億8000万円で転売するというのであるが,最終的な転売先(エンドユーザー)は,戊辰リサイクルの事業を承継する甲子フードサービスであることに争いはなく,リース会社が間に介入しても,結局,丙寅システムに生じる転売利益の分は最終的に甲子フードサービスの負担に帰することになる。すなわち,Aが,自ら経営する甲子フードサービスの負担において,自己の関係者であるDの経営する丙寅システムに利益を生じさせることになるのであるから,AとDの関係を考慮すれば,このような取引が純粋にM&Aによる転売利益の獲得を目的としたものでないことは明らかである。

更に,丙寅システムにはそもそも上記戊辰リサイクルを購入する資金はなく,甲子フードサービスがリース会社から得る資金があてにされていたもので,そうであれば甲子フードサービスがその信用で金融機関から金融を得て,直接戊辰リサイクルを買い取る方がせいぜい約3億7500万円の出資で済み,遙かに合理的であって,丙寅システムを介在せる必要性は見いだしがたい。

また,サプライヤーが利益分を上乗せしてリース契約を締結をすることは通常あり得るとしても,本件はせいぜい合計約3億7500万円余り(改造費等を込み)で取得する戊辰リサイクルをその2倍以上の約7億8000万円でリースにかけるというものである上,上記のとおり丙寅システムにサプライヤーとしての実質はなく,これを通常のリース契約の場合とも同視できない。

以上のように,甲子フードサービスにとって,本件商流に経済的な合理性がないことは明らかで,Cがリース契約に詳しくなくても,このことは十分理解し得たし,また,それにもかかわらずAがあえてこのような取引を行っていることからは,転売利益分の資金をリース会社から引き出し,他に流用する意図であることを容易に知り得たのではないかと考えることもできる。

そうすると,通常のリース契約において,サプライヤーとユーザーが通謀して価格を水増しすることは,物融としてのリースの本質を害するものとして許されないが,Cのいう上記スキームにおいては,そもそも名目的にサプライヤー(丙寅システム)を介在させて転売利益の名目で価格を水増ししている点で通常より悪質で,上記のとおりCにこの点の認識に欠けるところはなく,Cに詐欺の犯意があったとみる余地もある。

(ウ) しかしながら,他方,Cは,本件においてリースという言葉は聞いていたものの,Aとは異なり,同種のリース案件について経験はなく,また契約の進捗状況はDらを通じて間接的に情報を得ていたに過ぎなかったものと認定される。

この点,検察官は,上記(2)検察官の主張①のとおり,12月13日にCがcに送った手書き文書のファックスで,リース案件と表現していることを指摘している。

しかし,Cも,「リース」という言葉自体を聞いたことがないとか「リース」ではなかったと説明しているのではなく,リース会社がタイアップして金を出すという程度の理解であったとも供述しているもので,「リース」と「融資」を厳密に区別した上で,前者の言葉を使ったから「リース」と理解していたと断ずることはできない。

そして,リースという言葉自体は広く知られている一方で,リースを利用した取引の多様化に伴い,多義的に使用されているのであって,これがいかなる性質をもつ契約であり,通常の融資とどう異なるのかは別個の問題であるし,リース会社の関係者自身が,融資案件とかM&Aについてのものと証言しており(I34回76-88,l38回32等),必ずしも厳密な使い分けをしているわけではなく,また,そもそも,戊辰リサイクル案件は,形式的にはリースではなく,割賦であったもので(12月13日までに,庚午リースは割賦契約と決めていた。),リース会社の行う融資との理解のもとで,リース案件と表現することが不合理とはいえない。

そうすると,Cが,法的に厳密な意味でのリース契約と通常の融資(金銭消費貸借)を区別できていたかは相当に疑問である。リース会社であっても通常の融資を行う場合もあることも考慮すると,本件においても,Cがリース会社がタイアップして金を出すという程度の理解であった可能性は否定できない。

(エ) 次に,本件においては,Cは,DやEから甲子フードサービスの信用の枠が7億円ほどとれたなどと聞いていた旨述べているところ,DやEらも概ねこれに沿う供述をしている上,本件当時,Aが甲子フードサービス社内の了解を得ることなく独断で戊辰リサイクル事件に関与していたとCが認識していたと認めるに足りる事情はなく,また甲子フードサービスの信用力は,帝国データバンクの評点等で高く評価されていたことから,Cが上記のようなDらの説明に納得していたとしても不自然ではない。そうするとCが本件リース会社との契約を甲子フードサービスの信用を基本にした通常の融資と同様に理解していたことが一層強く疑われる。

(オ) また,前記のとおり,Cは,Aらが融資された金員を他の資金使途に利用する意図であることは十分知り得たと認められるものの,Cは,当公判廷において「当時,甲子フードサービスグループは全体で300億くらい売上がある無借金経営であった。給食事業で,現金売上げが基本だと思っていた。1日に約1億円くらい売上げがあると認識していた。そういう大きなパイの中でやっている分には,優先的に払っていくものに支払っても問題はなく,大きな器の中から払われたという意味で理解していた。」,「よくある詐欺のように,使途を偽って,金がないのに金を引っ張って,それからまたどこかをだまして引っ張ってきて,その返済に充てるのとは違う。」旨述べているところ,上記甲子フードサービスの当時の高い信用状態を前提とすると,同供述についても,あながちこれを不合理なものと断ずることはできない。

そうすると,Cの契約についての認識が通常の融資と異ならず,また流用分の補填も十分可能であればリース会社に損害は生じないことから,CがAらの資金流用の意図について知っていたことをもって,当然にリース会社に対する詐欺の犯意があったとまでみることはできない。

(カ) 加えて,Cは,前記のとおり自らは見積書の偽造等に関与せず,またDらから聞いて,リース会社の融資の対象は,戊辰リサイクルの既存設備等を含む企業価値全体であり,既存設備(4~5億円),本件炭化炉(5000万円),改造費(約2億円)及び相当程度高価値の産業廃棄物処理の許可が含まれると思っていたとの弁解は前述のとおり排斥し難いところ,その総額は七,八億円と本件契約額と概ね一致しており,本件リース契約について詳細を理解してはいなかったCが,単純に,融資額に見合った価値を有するものがリースの対象とされていると信頼していたこともうかがわれる。上記のとおり,Cの認識をみると,甲子フードサービスにとっては,安く入手できるはずの戊辰リサイクルを高価で買ったことになるが,リース会社との関係では,割賦販売対象物件の価格相応の金額で融資(法的には代金の支払)を行ったことになる。したがって,Cがサプライヤーとユーザーが通謀して不当な価格設定をして融資を受けることを認識していたものとまでは認められず,この点でもリース会社への詐欺の犯意があったか疑問が残る。

(キ) 以上検討したところによれば,本件契約により,相当額の利益が生じ,この利益が,簿外債務処理に充てられるとの認識があったことから,直ちにCに詐欺の故意があったといい得るものではない。上記(2)検察官の主張②及び③は,上記論じたことに帰結するものであって,いずれも採用できない。

エ 「溶融設備」との貼り紙との関係

もっとも,Cは,12月14日のリース会社の現地調査の際,実地に赴き,「溶融設備」との貼り紙も目にしていたとみられ,その後,乙丑ソース本社でAがリース会社担当者に契約を促した場面にも同席していた可能性があり,これらを通じて,AやD,Fらの不正リースの意図を察知したのではないかとも考えられる。

しかし,「溶融設備」との貼り紙の趣旨は,炭化と溶融の明確な区別がついていなければ,不正手段であると認識できるとはいえない。

同日の物件確認は炉の着火確認程度の簡単なもので,かえって,リース会社側は,事業の収益性に関連して,福井県から戊辰リサイクルへ仕事があるのかを関心事としており,福井県や福井市の関係者と面談するなどしており(12月13日に庚午リースが送ったファックスには,「県庁から言質確認などが出来なかった場合は白紙」[下線部ママ]との記載もある。),同日の状況は,リース会社が事業の収益性を重視しているとの印象をCに与えるものであったともいえる。

また,前述のとおり,乙丑ソースとしては,AがDも使いつつ,資金を調達して,乙丑ソースの簿外手形処理等に充てることが重要であって,Fらからの借入や従前のリース・割賦によって,現に戊辰リサイクル事件までにも相当程度簿外手形処理が図られており,乙丑ソースが自ら資金調達に及ぶ必要性が高かったかは疑問の余地がある。更に,戊辰リサイクルの共同事業との関係でも,資金調達はAがすることであって,甲子フードサービスの信用力を当て込んでいたこともうかがえる(当時,甲子フードサービスの信用力が高いものであったことは,リース会社側の稟議書等の資料からも明らかである。)。

したがって,上記貼り紙の点が,Cの詐欺の故意ないし共謀に直結するものとはいえない。

オ 手紙の記載について

検察官は,「Cが弁護人に宛てた手紙〔弁217号証〕には,『最初は溶融炉でリースを組んだが,実際は炭化炉であって,時間の問題で修正が出来ないが,検査終了後改造して溶融炉にするので絶対問題は生じない。しかし,検査は炭化炉として申請できず溶融炉としますので承知しておいてくださいと聞く』『今回認めているのは・・・事前に聞いているからです』などと,戊辰リサイクル事件について詐欺を『認めている』との趣旨の記載がある。弁護人に宛てた別の手紙〔弁225号証〕に,『この部分を私が聞いているのに聞いてないとは言えず,詐欺に関与と思っている』などと記載していることとも矛盾するのであって,到底信用できない」などと主張する(論告要旨p24)。

(ア) この点について,Cは,公判で,拘置所から弁護人に宛てた手紙で,検察官指摘のような記載をした理由について,大要次のとおり供述する。

「私は,平成13年当時は,炭化炉とか溶融炉とか聞いたような記憶もあるが,私の認識の中では両者はきちっと区別はされてなかった。そして,炉を改造すると聞いていた。

しかし,14年の調査とか,取調べの段階で,溶融炉,炭化炉という形で,いろいろ聞いた。それで取調べの段階では,特に,炭化炉と溶融炉の違いを検事から何回も言われて,私も,溶融炉,炭化炉という説明の仕方をして,弁護士に分かってもらいたくて書いた。

私の書いている炭化炉というのは,改造する前のものである。そして,溶融炉というのは,改造後の炉ということである。

手紙で「検査は炭化炉として申請できず溶融炉としますので承知しておいて下さいと聞く。」となっているのは,改造前の炉であるのに,これを改造後の炉と偽ってリース会社をだましたということではない。私は,その当時,リース会社は,将来改造すること,そして,検査のときは,改造をまだしていないことを知っていると思っていた。D,Eからは,関係者ときちっと打合せをしているから問題はないと聞いていたので,そのように認識していた。

結局,検査までには改造が間に合わなかったということだった。それは当然,金融機関として,現地を調査したり,いろいろ細かく機材を関係者とチェックするから,当然分かるものだとその当時は理解していた。」

【42回2~】

(イ) そこで,Cの同供述部分の信用性を検討すると,

① 客観的事実として,「炭化炉」はリース会社との関係でも改造中とされており,リース会社の側も,その前提であったこと(弁361号証)

② Cの上記供述は,その旨聞かされていたことを述べているものであり,客観的事実との間に矛盾があるとまではいえないこと

③ 取調べにおいて,検察官から「リース会社も聞いてない。」などと言われていた疑いもあること

などに照らすと,客観的に自らの所為・認識において具体的な詐欺行為が存在していることを自認したものとまでは認められない。

カ 小括

以上の諸点に照らすと,「サプライヤーである丙寅システムが転売利益を上げ,これが乙丑ソースに回ると考えていた。リースの対象は新規導入設備,改造費,既存設備許可等戊辰リサイクルの企業価値七億円余りと理解していた。」というC供述の中心部分は排斥し難いものといえる。

4  Cが本件によって得る利益について

更に,本件リースによる金員によって,Cが得る利益との関係により,Cの故意,共謀が推認できないか問題となる。そこで,これらについて検討する。

(1) 本件によって得る,共犯者とされているA,D,Bの利益について

ア Aの利益状況

本件において,Aは,Z・bらを紹介するなどして,乙丑ソースの簿外債務を増大させたとして乙丑ソースの追及を受け(Zが手形濫発によって取得した資金の一部は,Aが関与していた戊寅サプライにも流入していたとみられ,Aの責任は,単なる紹介責任ともいえない。),また,自己の刑事責任追及をかわすため,別件リース等をも利用しつつ,乙丑ソースに資金提供をするなかで本件に及んだものとみられ,更に,詐取金のうち,前記事実のとおり,合計約2600万円は,Aが費消したとみられる(戊辰103,乙8。なお,更に,乙丑ソースの簿外債務処理資金ともかかわるA関係の返済に2億円以上が充てられている。)。

イ Dの利益状況

Dは,Zが濫発した乙丑ソースの手形を,Zに協力して割引き,手数料を得るなど,乙丑ソースの簿外債務増大に関与していたものとみられ,乙丑ソース側から責任追及を受けたことがあったところ,丙寅システムとして借入れて乙丑ソースの簿外債務処理に使用した資金の返済として,約2億2700万円を利得したものとみられる。また,Dは,丙寅システムとして,丁亥システムでのパチンコ代処理設備の己亥鐵工所への代金約3億3000万円を年末までに支払わなければならない状況にあった。

ウ Bの利益状況

乙丑ソースは,本件詐取金のうち,約5億1000万円を簿外手形処理資金等として取得しており,簿外債務増加はAやD,Z,bによるところが大きいとはいえ,最大の利得者といえるところ,Bはその乙丑ソースの代表取締役社長であり,創業者一族の出身者でかつ当時株主でもあって,乙丑ソースの債務について個人保証もしており,乙丑ソースが簿外手形処理に失敗し,破綻することになれば重大な影響を被る立場にあったもので(実際にも,乙丑ソースの破綻後,Bは破産している。),B個人についても,本件詐取金を乙丑ソースが利得したことによって,大きな利益を得ている。

もとより,Bは,Aに紹介されたとはいえ,Zを取締役に据えるなど,簿外手形濫発を誘発した立場にもあって,Zを介してした借入金返済にあたり,金利の一部を個人的に利得するなどしており,B自身,乙丑ソースの簿外債務増加に責任のある立場であったといえる。

(2) 本件によって得るCの利益状況

これらの者に比して,Cが乙丑ソースの簿外債務増大には関与していないことは明らかであり,簿外債務についてC自身が責任を負うべき事情はなかった。

また,前記のとおり,乙丑ソースは本件により利益を受けたものの,Cは,自ら積極的に乙丑ソースに関与したのではなく,E,Bから依頼され関与するようになったにとどまるものであったし,当時は簿外手形の調査・処理やこれに関連する事項を依頼され,相談役の肩書は与えられていたものの,乙丑ソースの役員等法的責任を負うものではなかった上,当時は株主でもなかった。Bとは異なり,乙丑ソースの債務を個人保証する立場でもなく,乙丑ソースが破綻しても,Cが破産する関係にもなかった。

更に,Cは乙丑ソースから大阪滞在中のホテル代,賃貸マンションの家賃等の滞在費用の支払を受けており,これらは相当高額に上るものではあったものの,別途報酬等を得ていたわけではなかった。

そして,Cは,本件詐取金を原資として,1000万円(検察官の主張によっても3000万円)の返済を受けているが,Cが当時乙丑ソースに貸し付けていたのは7000万円であったというのであって(これを排斥する証拠はない。),詐取金のうち乙丑ソースに流入した約5億円は大部分が簿外債務処理に使われ,Cは貸金の一部の返済を受けるに止まっている上,その後も乙丑ソースへの貸付を続け,これが増加していく傾向にあったことにかんがみれば,貸付金回収によってCが得た利益を過大にみることはできない。

そうすると,本件によって,Cが得た利益が大きいとはいえず,本件当時において,Cが,詐欺に関与して自らの利益を図る必要性が高いものであったとはいえない。

5  結論

以上検討したところによれば,Cに詐欺の故意,共謀があった疑いは相当に高いものとみられるものの,これを認めるには種々の疑問もあり,結局,合理的疑いが残るものといわざるを得ない。

よって,刑事訴訟法336条により,本件公訴事実中,有印私文書偽造,同行使,詐欺(戊辰リサイクル事件)の訴因については,被告人Cに対して,無罪の言渡しをする。

第6Bの有印私文書偽造,同行使の故意・共謀の有無並びに詐欺の共同正犯の成否について

1  故意とその内容について

Bは,公判において,有印私文書偽造,同行使の故意,共謀は否認するものの,詐欺の故意があったことを認めている。

Bは,平成13年10月ころ,Dから,甲子フードサービスがリースをかけて4億円もうけたとか,リースを組んで甲子フードサービスの資金繰りに充てているということを聞いたこと,戊辰リサイクルのリースの際も,Hがリース対象物件の価格を水増しして,リース会社から余分な金を受け取り,それを資金繰りに充てるのではないかと思ったこと,それを知りながら,これによって乙丑ソースの簿外債務の返済資金にもいくらか入ってくるのではないかと考えて,あえてこれを止めなかったこと,己巳社と5000万円で売買契約をしたことは知っていたこと

などを供述する。

そして,前記各認定事実をも併せ考えれば,Bには,詐欺の故意があったものと認定できる。

しかし,その内容等について問題となる点について検討する。

(1) リースの対象の認識について

Bは,リースの対象は,Dから聞いたことをもとに,新規導入設備が5000万円,既存設備が約4億円,改造費約2億円の合計約6億5000万円が含まれていると認識していた旨供述する。【B27回47以下】

前述のとおり,Dが乙丑ソース関係者にそのように説明していた疑いは排斥できず,前記Bの供述はこれを虚偽として排斥し難い。

(2) リースの金額の認識について

ア また,Bは,リースは甲子フードサービス側で行うものであるから,自己はリース金額も全く知らなかったと供述する。

イ しかし,Bは,Aらが不正な水増しリースによって資金を調達し,乙丑ソースに提供するであろうことは認識していたと認めているところ,Bは,当時,乙丑ソースの代表取締役社長であり,乙丑ソースと浮沈をともにする立場であって,乙丑ソースがいくら資金提供を受けられるかは重要な関心事であったとみられ,Dらから,リース金額を全く聞かなかったというのはあまりに不自然である。

少なくとも,7~8億円のリースを受けるものであるとの認識はあったものと認められる。

(3) 見積書の偽造について

前記認定のとおり,B及びCが見積書の偽造を依頼したとのD供述は信用できず,BがDによる見積書の偽造・行使を知りつつこれを認容したと認めるに足りる証拠はない。

(4) 3億円儲けるとの謀議の有無について

上述のとおり,リースで3億円儲けるとの謀議及びこれに基づくDへの依頼があったとは認められない。

(5) 己巳社への偽装工作について

D及びgの検察官調書には,Bがgに指示して,己巳社への偽装工作を行わせたとの記載がある。(乙24,甲29,31)

しかし,gは,当初「Bの指示を受けてEに同行して己巳社に行った。」旨供述していた(甲29p23以下。これは,J供述と齟齬するものである。)が,その後,「Eの指示を受け,Bに報告し,「頼むぞ。」と言われて,己巳社に行った。」と供述を変遷させていること,Dは,①「Bがgを呼び出し,己巳社への工作を指示した。」,②「gは,Bに電話で事後報告をした。」と供述するが(乙24p40以下),①とgの変遷後の供述は相反しており,②はgは供述していないもので,本件後,乙丑ソースと己巳社が民事訴訟で争い,gは己巳社側に付いたため,乙丑ソースとgの感情的な対立もあったとみられることも併せ考慮すれば,この点に関するg又はDの供述を真実と認めるには合理的疑いを容れる余地がある。

2  詐欺の共同正犯が成立するかについて

(1) Bの弁護人は,Bは,Aが不正な水増しリースで得た利益を乙丑ソースに提供するであろうとの認識があったと認めつつ,その関与・認識の程度は低く,幇助犯が成立するにとどまり,共同正犯は成立しない可能性もあるとも主張するので検討する。

(2) この点,確かに,

本件犯行は,結局,Aが資金調達のために敢行した面が強く,また,前述のとおり,Bが公訴事実記載の実行行為を行ったとは認められず,見積書の偽造,行使への関与も認定できない。

(3) しかし,

① 乙丑ソースは,本件詐取金の相当額を簿外手形処理資金等として利得しており,最大の利得者といえ,水増しリースにより乙丑ソースが利得することはBも認識していたと認めていること

② Bは乙丑ソースの代表取締役社長であり,創業者一族の出身者でかつ当時株主でもあって,乙丑ソースが簿外手形処理に失敗し,破綻することになれば重大な影響を被る関係にあったものであって,B個人についても,本件詐取金を乙丑ソースが利得したことによって,大きな利益を得ているといえること(しかも,前記のとおり,簿外債務増加には,B自身にも責任があるものといえる。)

③ Bは,乙丑ソースの代表取締役社長として,業務全般を統括する地位にあり,現に,新規事業開発室を設置し,gをその室長に充て,また,nやqはBに報告し,会社印はBの意思によらず押印されることはなく,Cがnやqに指示を与える場合でも,B自身の承認のもとに行っていたところ(q公判,n公判,B28回71,151),乙丑ソースとして,炭化炉の売買等に関与し,資金は甲子フードサービスが提供するにせよ,戊辰リサイクルの共同事業に参画するなど,乙丑ソース自体が本件事業に関与していたこと

(なお,Bは,すべてC任せにしていたと供述するが,他方で,Cから乙丑ソースダイニングをやめるように助言を受けたが,これを拒絶したと認め,振出日3月28日の手形の振り出しについて,振出日後の5月に信頼したというCの助言でこれを振り出すことに決めたなどと供述し(これに対し,バックデートしたと唐突に供述したが,信用できない。),戊辰リサイクルとの共同事業につきCは反対したことがあったが,結局同事業を行っているなど,Cの影響力を誇大に供述し,自己の関与を少なく装っており,前記供述は信用性が高いものとはいえない。)【B28回25,30,46】

等の事情をも併せ考慮すれば,Bは,庚午リース及び辛未リースに対する各詐欺についての共同正犯が成立するものということができる。

3  結論

以上によれば,Bについては,本件公訴事実中,詐欺についての共同正犯は成立するが,有印私文書偽造,同行使についての共同正犯の点については,故意,共謀が認定できないので,犯罪の証明がないが,この点は判示第1の1の詐欺の罪(庚午リースに対するもの)と牽連犯の関係にあるとして起訴されたものと認められるから,主文において特に無罪の言渡しをしない。

第7罪数について

検察官は,本件公訴事実において,判示第1の1及び2の各犯行を一罪(詐欺については観念的競合とみられる。)としているとみられる。

確かに,

①  辛未リースは,庚午リースの契約を前提として,本件取引に参入したこと

②  本件では,庚午リース及び辛未リースの割賦販売の対象物件は,全体として1個の産業廃棄物処理設備として機能するもので,本件各契約は,一種の協調リースとして組成されていたこと

③  平成13年12月14日の行為については,両者に重なり合いが認められること

などが認められ,両リース会社に対する詐欺が,社会的事実として一連のものであることは肯定できる。

しかし,他方,

①  庚午リースと辛未リースの締結した各割賦販売契約は,対象物件のみならず,ユーザー(買主),契約額,契約日等を異にしていること

②  各被害会社がそれぞれの事業の採算性等を独自に検討して契約を締結したこと

③  欺罔行為についてみても,平成13年12月14日の行為は,判示のとおり,庚午リースに対しては,最終段階のものであったのに対し,辛未リースに対しては,初期のものであったなど,時期的にずれがあること

④  庚午リースに対しては,偽造による見積書の提示やAの関連会社癸酉社による残リースの確約が重要であったのに対し,辛未リースに対しては,見積書が直接行使されたとはいえず,庚午リースが見積書を前提に受容した物件金額が前提とされつつも,辛未リース自ら確認に赴いた製造会社己巳社代表者への協力依頼や甲子フードサービスによる主債務の引受けなどが重要であったこと

も認められる。

以上の点を総合すると,両リース会社に対する犯行を,社会的に1個の行為によるものとみるのは相当でないから,併合罪として処断すべきである。

(壬申銀行事件について)

第1本件公訴事実及び争点

1  本件公訴事実の要旨は,「A及びCが,壬申銀行から融資金名下に金銭を詐取することを企て,共謀の上,平成15年4月23日ころ,東京都港区所在の壬申銀行本店において,同銀行法人開発部長M及び同部マネージャーNに対し,Aが,真実は,癸酉社が甲戌社から代金約11億円でコンピュータシステムを購入する計画など存在せず,借り入れた資金を返済する意思も能力もないのに,これあるように装った上,「甲子フードサービスでは,全営業所を対象にして,食材等の仕入,在庫管理,社員の出退勤管理,売上状況管理などのためのコンピュータ管理システムを導入することとした。これについては,癸酉社が甲戌社からコンピュータ管理システムを購入し,これを甲子フードサービスにリースする契約をしたいと考えている。この計画を実現するためには,癸酉社が甲戌社から購入するコンピュータ管理システムの購入代金として約11億円が必要なので,この購入代金を癸酉社に融資していただきたい。」旨虚偽の事実を申し向け,同年6月20日ころ,同所において,同銀行信用リスクマネジメント本部ゼネラルマネージャーO,上記M及び同銀行法人開発部員Pに対し,Aが,上記同様の虚偽の事実を申し向け,更に,Cが甲戌社従業員Qらに指示して作成させた甲戌社作成名義のいずれも内容虚偽の見積金額合計6億2716万5000円及び同4億8814万5000円の見積書2通並びに請求金額を前記各同額とする請求書2通等を,同年7月16日ころ,Aが,上記Pに宛てて,大阪市福島区所在の甲子フードサービス事務所から壬申銀行の上記本店にファクシミリで送信するなどして,壬申銀行に対し癸酉社に同銀行から11億円を融資するよう申し込み,上記Pをしてその旨誤信させて同社に11億円の証書貸付を行う旨の融資稟議書を作成させ,その決裁を求められた上記Oらをして同様に誤信させてその旨融資の決定をさせ,よって,同年7月18日,上記Oの指示を受けた同銀行係員をして,11億円から初回利息相当額及び印紙代を差し引いた10億9818万2576円を同銀行における癸酉社名義の普通預金口座に入金させ,もって,人を欺いて財物を交付させた。」というものである。

2  これに対し,

A及びCの各弁護人は,本件において,11億円のコンピュータシステム購入計画は実在するもので,甲子フードサービスには返済の意思も能力もあるから,欺罔行為はなく,また,4月23日には融資の具体的申込みはしておらず,また,Aの弁護人は,Aには詐欺の故意も共謀もなく無罪である旨主張し,Cの弁護人は,Cには詐欺の故意も共謀もなく無罪である旨主張する。

3  そこで,以下,これらの点について検討する。

第2証拠上認められる事実

関係各証拠によれば,以下の事実が認められる。

年月日の記載は,原則として,見出しで年あるいは年と月を表示しているときは,月日または日のみ記す。また,平成15年の出来事については,年の記載を省略することがある。

1  被告人及び関係者並びに関係会社

① Aは,前記のとおり,平成11年に甲子フードサービスの代表取締役社長となり,また,甲子フードサービスの関連会社であるリースを業とする癸酉社やレストラン経営等を業とする乙亥社の代表取締役でもあり,これらの会社を経営していた。

② Cは,前記のとおり,平成13年以降,乙丑ソースから相談役の肩書を与えられ,平成14年4月に丙子社の取締役になるなどしていた。【乙15】

③ Dは,前記のとおり,平成7年4月,丙寅システムの取締役となり,平成10年8月以降,同社のオーナー兼代表取締役となった。【乙22】

また,Dは,平成14年4月1日付けで甲戌社の代表取締役に就任し,平成15年7月18日付けで退任するまで,その地位にあった(もっとも,平成15年5月前後ころからは,実質的に,代表取締役の地位を辞任していた。)。【甲73,58】

④ Qは,コンピュータ専門学校卒業後,システム開発関係の会社を経て,平成7年8月以降,丙寅システムで営業を担当していたが,平成14年4月ころから,Dの指示で甲戌社で勤務し,平成15年7月18日付けでrとともに代表取締役に就任した。【甲59,甲73】

⑤ 甲子フードサービス(平成16年11月16日辛丑フード株式会社と商号変更)は,前記のとおり,給食請負等を目的とする株式会社であった。平成13年から平成15年当時,代表取締役はA及び同被告人の弟≪略≫であった。なお,取締役には,A一族以外の者が名を連ねていた。【甲40】

⑥ 癸酉社は,平成元年6月に設立され,大阪市福島区内に本店を置き,総合リース業等を目的とする株式会社(資本金2000万円)であった。平成13年から平成15年当時,代表取締役は,A及び同被告人の弟≪略≫であった。なお,平成15年8月にaが取締役に就任するまでは,A一族の者が取締役を独占していた。【甲74】

⑦ 丁丑社は,乙丑ソースの関連会社(資本金1000万円)であったが,平成14年3月,株式会社乙巳と商号変更し,次いで丙子社と商号変更した。同会社の目的は,株式・社債等有価証券の投資及び保持などとされていた。同社の取締役は,本件各事件当時,B(平成13年5月28日就任),A(平成14年3月11日就任),C(平成14年3月11日就任),D(平成14年3月11日就任)やqらであり,代表取締役は,B(平成13年5月28日就任)とD(平成14年4月4日就任,平成15年6月29日退任)であった。【甲75】

⑧ 甲戌社は,平成13年7月に設立(資本金1000万円)され,東京都内に本店を置いていた。その後,平成14年4月1日に大阪市福島区内に本店を移し,コンピュータ及び周辺機器の製造,販売及び輸入やこれに関するコンサルタント業務等を目的とする株式会社(資本金1000万円)であった。なお,甲戌社は,台湾に本社がある液晶ディスプレイメーカーである丙午社の日本法人であったとされていた。【甲73,58】

2  甲子フードサービスのコンピュータシステム導入計画の立案について

① 甲子フードサービスでは,人事給与体系,経理・財務関係,商品開発・材料発注の3部門について,コンピュータを導入して,事業を進める計画を持っていた。平成12年10月ころから,Aは,甲子フードサービスのコンピュータシステム導入計画を丙寅システムのDに話し,Dは,≪略≫と辛亥社からシステム構成の概算依頼をし,甲子フードサービスに概略的な予算を伝えるなどしていた。【甲58,D29回11以下,152以下】

3  Cと丙子社,丙午社との関係(平成14年3月~8月)

① 3月,Cは,Bと相談の上,丙子社を乙丑ソースの持株会社とし,同社名に商号変更をした(同月26日商号変更。変更前は丁丑社,乙巳社)。

② 4月1日,下記資金提供をしたことから,Dは,甲戌社の代表取締役に就任した(Dは,甲戌社代表取締役に就任した経緯について,「平成13年末ころ,知人の≪略≫から,丙寅システムと同様,電子部品を扱っている甲戌社を紹介された。甲戌社は,台湾に本社のある丙午社の日本法人で,主として丙午社のディスプレイや電子部品を販売しており,甲戌社と仕事ができれば良いと考えた。平成14年1月ころ,甲戌社代表取締役≪略≫から資金提携の相談を受け,私は,Cに相談の上,甲戌社に資金を貸し付け,経営権を持てるようにしようとした。そこで,3月20日付けで丁丑社名義で,甲戌社に対し,合計3000万円の資金援助を行った。」旨供述する。もっとも,同金員は,5月に返済されたとみられる。)。

甲戌社は,本店を乙丑ソースビルに移した。当時の甲戌社の従業員は,6名ほどであった。甲戌社の従業員は,主に東京の事務所に勤務し,台湾の丙午社から液晶モニターの輸入などを行っていたが,売り上げは伸びない状況にあった。【甲58,62,63】

③ 5月,丙子社は,Cの出資により,資本金を1000万円から5500万円に増資した。【甲63】

(増資の名義は,C,B,A,Dであり,代表取締役はB,共同代表はD,取締役はC,Aであった。)

これにより,Cは,丙子社を実質的に経営するようになった。

④ 8月,丙子社は,甲戌社の全株式(1000万円分)を取得した。【甲58,62,63,スター96】

これにより,Cは,甲戌社の実質的オーナーとなった。なお,Cは,自ら又は丙子社を通じて甲戌社に貸付けを行っていた。

4  コンピュータシステムのコンサルティング契約から業務委託までの状況(平成14年6月~8月ころ)

① Aは,全国1200か所にある甲子フードサービスの事業所の売上,仕入,出退勤等をコンピュータシステムにより管理することを計画していた。甲子フードサービス社内では,コンピュータ管理システムは,平成14年6月以降は社長室次長のsが担当していた。

② 6月16日,甲子フードサービス(代表取締役A)は,甲戌社(代表取締役D)との間で,甲子フードサービスに導入するコンピュータシステムに関するコンサルティング契約を締結した。その契約書は,「飲食業における顧客情報管理システム」を対象システムとし,①飲食業における情報システムについての調査並びに分析,②甲子フードサービスにおけるあるべき情報システムの提案,③全社システムの中での情報システムの位置づけとシステムの統合化についての提案をコンサルティングサービスの内容とするもので,委託金額は月額50万円と規定している。【スター1,甲58】

③ このころ,Dは,Qを担当者として,甲子フードサービスのシステムの現況を調査・分析した上で,開発作業を進めるように指示した。【甲59】

④ 6月21日付け,Q作成,甲子フードサービスと甲戌社とのコンサルティング契約についての甲戌社の業務報告書が存在するが,同書面には,左肩部分に,Dの押印があるほか,Cの署名がある。【甲105】

⑤ 甲戌社は,甲子フードサービスに導入するコンピュータシステムの設計・導入について,t電気に外注して業務委託することになり,平成14年夏ころから,甲戌社のQや,t電気のuらは,ともに甲子フードサービス従業員からヒヤリング調査等を行い,分析・設計作業を進めた。【甲55p3-5,Q9】

⑥ 甲戌社の業務について,C自身はコンピュータ関連の知識がなく,Dが業務をコントロールしていた。特に甲子フードサービス向けコンピュータシステムについてはその傾向が強かった。しかし,Cは,契約のタイミングや大口の金銭の出納については,Dらから報告を受けたり了承を求められるなどしており,甲戌社が甲子フードサービス向けコンピュータシステムの開発業務の委託を受けていること等の報告は受けていた。【D公判】

⑦ Aは,Dと相談して,甲子フードサービスに導入する「受発注・売上・勤怠管理システム」について,癸酉社が甲戌社から購入し,これを甲子フードサービスにリースすることとし,資金調達のため,8月ころから,約8億円の規模になるとして,癸巳リースとリース契約の交渉をしていた。【甲57p2以下】

5  本件業務委託契約の成立ころの状況(平成14年9月~11月)

① 9月4日,甲子フードサービス(A)と甲戌社(D)は,本件「発注・売上・勤怠管理システム(同名のソフトウェア及びこれに付随するハードウェア)について,業務委託基本契約及び業務委託個別契約を締結した。甲子フードサービス側が,甲戌社に支払う委託料等は計4億9830万5000円(税込5億2322万0250円)であった(Qは,この約4億9800万円の金額は,tの当時見積もっていた費用約4億円に甲戌社の経費や利益約9000万円を上乗せした概算費用であった旨供述する。)。【スター3,4,甲52,58,59,乙37資料2】

業務委託個別契約書には,以下の記載がある。

第2条(委託製品の内容)

製品は下記のとおりとし,調査・分析・設計終了時に提示する仕様に沿った製品であることを原則とし,開発途中,特別な事情による仕様変更の必要が発生した場合は,甲乙協議の上仕様変更箇所・費用等の決定をすることとする。

・受発注・売上・勤怠管理システム ソフトウェア開発一式の業務

・上記に付随する ハードウェア 一式の納品等の業務

第3条(委託製品の名称)

「発注・売上・勤怠管理システム」と称する。

第6条(委託料金の額)

・本製品一式の費用は,4億9060万5000円と定める。ただし,準備費用770万円は含まれないものとする。

・乙が行う甲の調査・分析作業の結果,前述費用が変動する可能性も有りうるため,その変動後の費用は調査・分析作業終了後(設計着手段階)に取り決める。

第7条(支払方法等)

本製品一式の支払方法は,以下の通りとする。

第1回/準備:(調査・分析・設計分として金7,700,000円)

第2回/着手:(ソフトウエア代金相当額として金118,805,000円)

第3回/中間:(ハードウェア代金の1/2相当額として金185,900,000円)

第4回/最終:(ハードウェア代金の1/2相当額として金185,900,000円)

② 9月10日付けで,甲戌社は,甲子フードサービス宛に,「第2期 システム 企画書 社内グループウェアについて」を作成した。同企画書によれば,前記発注・売上・勤怠管理システムは第1期システムとして位置づけられ,これを前提として,グループウェア及び本部管理システムの強化(売上,勤怠,発注サーバは,各業務の専用サーバであり,本部系にデータサーバが必要との記載がある。)が第2期システムとして位置づけられている。また,同企画書には,グループウェア基本一式,本部管理システム等の概算費用として(発注・売上・勤怠管理システムとは別に),合計4億8500万円との記載がある。【スター5】

③ t電気のuは,甲戌社から,グループウエアやネットワーク再編成等で併せて概算でどれくらいかかるのかと聞かれた際,概算で,「2~3億円くらいではないですか。」と答えたことがあった。【甲55p16】

④ 甲戌社(D)は,9月25日付けで,癸酉社に対し,前記個別委託契約に基づき,受発注・売上・勤怠管理システムの3分割請求初回分として,1億7441万0250円(税抜き1億6610万5000円)を請求した。同請求書には,代表取締役D名義で作成され,検印欄に同人の押印があり,担当者欄にQの押印がある。【スター6,7,甲58】

⑤ 9月30日,癸酉社から,甲戌社に対し,前記受発注等システム代金の3分割初回分として,1億7441万0250円が入金されたが,甲戌社の経理上,IFSCO(甲子フードサービス関係)からの仮受金として処理された。【スター104・甲64資料5,甲58及び同資料6】

⑥ 9月30日,甲戌社に入金された前記1億7441万0250円は,乙卯[丙子社を意味するとみられる。]へ5800万円振替(翌日乙卯から150万円振替),乙丑ソースへ1000万円貸付(運転資金),≪略≫酒販へ振込(乙丑ソースへ貸付)4400万円,丙寅システムへ(≪略≫トラスト返済)5000万円,10月1日,丁未(≪略≫分)返済約167万円と,資金移動が行われ,甲戌社での残高は,ほぼ零になった。【弁158p10】

また,9月30日,乙卯から,乙丑ソースへ手形決済資金として貸付3000万円,甲寅銀行への返済資金として甲子フードサービスへ貸付約1800万円,≪略≫銀行への返済資金として癸酉社へ貸付1570万円,手形決済資金として戊辰リサイクルへ(乙丑ソースへ貸付)約1490万円の資金移動が行われた。なお,10月1日,乙卯は,Cから1500万円借入,乙丑ソースへ2000万円貸付けた。【弁158p10】

⑦ Cは,「9月30日の約1億7400万円の使途は,Dが,使途を決定し,自分が了承したものであった。これをpが記録した帳簿(弁158添付のもの)は,pから1週間に1回くらいは見せられていた。」と供述する。【C24回28以下】

⑧ また,Cは,「9月30日に約1億7400万円が入金されたことは,その当時から知っていた。同金員は丙寅システム,甲子フードサービス側へ貸したと認識していた。」とも供述する。【C41回85】

⑨ 9月30日,甲戌社は,t電気と,甲子フードサービス向け発注・売上・勤怠管理システムについて,業務委託契約を締結した。甲戌社が,t電気に支払う委託料金額は,内示金額として4億円(別途,システム分析・設計費用として700万円)とされた。【スター8,甲58】

業務委託契約書には,大要,以下の記載がある。

第1条(委託製品の内容)

製品は下記のとおりとし,甲[甲戌社]が丙[甲子フードサービス]の調査・分析,設計終了時に提示する仕様に沿った製品であることを原則とし,開発途中,特別な事情による仕様変更の必要が発生した場合は,甲乙協議の上仕様変更箇所・費用等の決定をすることとする。

・受発注・売上・勤怠管理システム ソフトウェア開発一式の業務

・上記に付随する ハードウェア 一式の納品等の業務

第5条(委託料金の額)

・乙[t電気]が行う開発途上において,前述費用が変動する可能性も有りうる事を甲[甲戌社]は承諾するものとする。

・内示金額を,4億円と定め,正式金額はシステム調査後,速やかに乙は甲に提示するものとする。

・上記内示金額とは別途としてシステム分析・設計費用として,700万円を,分析作業終了時に甲は乙に支払うものとする。

⑩ 11月1日付け,「「グループウエア 基本システム」詳細設計確認書」と題する書面が存在する。同書面は,甲戌社宛てのもので,丙寅システム作成名義となっており,上記グループウェアに関する企画を詳しく示したものであった。【スター10〔4071丁〕・弁188】

6  癸巳リースとの契約と入金当時の状況(平成14年12月)

① Aとリース会社との交渉の結果,本部系サーバー及びソフトウェアについては,癸巳リースと辛卯リースが半額ずつリースを組むことになった。【甲55p2以下,甲56p3】

② 12月15日付けで,甲戌社は,癸巳リース宛に,「ハードウエア本部関連1式」及び「ソフトウエア本部関連1式」を対象とし,見積金額合計(税込み)1億7925万8625円の見積書を作成した。【スター11】

③ 12月19日,癸巳リースと癸酉社(A)が本部系サーバー及びソフトウェア(管理用PC・サーバー及び管理用PCプログラム・他ソフトウエア)を対象として,リース契約を締結した。リース料総額は,1億8125万4000円とされており,癸酉社から甲子フードサービスへ転貸できる旨の特約条項が付された。同リース契約の連帯保証人として,甲子フードサービス(代表取締役A)が記名押印した。なお,癸巳リース内部における決裁文書中,審査意見欄に,「保証人頼りの取り上げとなる。」,「保証人の収益力の低下傾向止まらず,ウオッチする必要有。現状体力ある先であり,借入金も少ないことから本程度の取り上げは可としたい。」との記載がある。【スター11,12,13・甲57資料3】

④ 同日付けで,甲戌社(D)は,癸巳リース宛に,前記PC等を対象として,物件代金及び消費税の合計金額として1億7925万8625円の注文請書を作成した。【スター14,甲58】

⑤ 12月27日,癸巳リースから甲戌社の口座へ,リース金1億7925万8625円が入金された。【甲58及び同資料16】

⑥ 12月27日,甲子フードサービス関連で入金のあった合計1億7925万8625円につき,甲戌社は,経理上,甲子フードサービスからの7854万5250円の前受金と,IFSCOからの1億0071万3375円の仮受金として処理した。【スター107・甲64資料8】

⑦ このころの甲戌社の口座への出入金をみると,12月24日に癸酉社から約5億円の入金があるなど,上記約1億7900万円以外にも入金があったが,12月27日,甲戌社から,乙丑ソースへ貸付5000万円,Cへ返済5300万円,乙卯へ1000万円が資金移動され,また,同日前後に,甲子フードサービスへ6000万円余り,乙丑ソースへ更に約3500万円,Cへ2億5000万円余り,乙卯へ計1億2700万円,甲午へ4200万円余りが移動された。【弁159[6790丁裏]】

⑧ Cは,「平成14年12月27日に約1億7900万円が入金されたことは,その当時知っていた。同金員は,甲戌社には使っていない。甲子フードサービスに貸した。」と供述する。【C41回85以下】

7  辛卯リースとのリース契約と入金(平成14年末~平成15年1月)

① 再業務委託契約後も,Qら甲戌社の従業員は,t電気の従業員とともに調査・分析作業を行い,同作業は,平成14年末ころ,おおむね終了した。【弁279 Q作成の重要案件報告書,Q15以下】

② 1月17日ころ,甲戌社は,甲子フードサービスに対し,受発注・売上・勤怠管理システム税込5億5218万8949円の見積書(推進課サーバー9点セット,事業部クライアント15点セット,事業所クライアント1173セット等を対象とするもの。以下「5.5億円の見積書」ということがある。)を作成,提出した。Qは,「調査分析作業の結果,甲子フードサービスの拠点本部の増加などにより,内金名目は,当時の4億9000万円から約5億5200万円に変動した。」と供述する。【スター86,スター42,甲58】

③ 甲子フードサービスの社内では,「受発注・売上・勤怠管理システム」の費用として,上記見積書で提示された約5億5200万円が正式に提示された業務委託金額であり,以後,甲子フードサービスの社内には,甲戌社から新たな見積金額が提示されたことはなかった。

④ 1月27日,辛卯リース(賃貸人)と癸酉社(賃借人)は,本部系サーバー及びソフトウェアにつき,癸酉社がコンピュータ等を賃借するというリース契約を締結した。リース契約期間は60か月間,月額リース料は税込み326万0250円とされた。甲子フードサービス及びA個人が,同リース契約を連帯保証した。特約条項として,甲子フードサービスへの転貸を承諾する条項が付されている。【スター23・甲56資料1】

前記リース契約に基づく物件代金税込み1億7925万8625円は前渡金とされていた。【スター22】

⑤ 同日付け,同コンピュータ等を癸酉社から甲子フードサービスへ賃貸するとのリース契約書が存在する。【スター24】

⑥ 同日付け,辛卯リース(買主)の甲戌社(売主)宛て注文書及び甲戌社の辛卯リース宛て注文請書(いずれも税込み1億7925万8625円のもの)が存在する。【スター19,20,甲58】

⑦ 同日付けで,甲戌社(D)は,t電気に対し,受発注等管理システムに関して,注文書3通(税込み2億0485万3100円のもの,2億1000万円のもの及び2614万6901円のもの。合計約4億4100万円)を発行した。【スター16-18】

⑧ 見積日付同日付けで,t電気は甲戌社に対し,甲子フードサービスシステムについての税込4億4100万円の注文請書を作成した。【スター94】

⑨ 1月27日付け,甲子フードサービスの発注・売上・勤怠システムをt電気に二次請けすることについての,p作成の稟議書が存在する。同稟議書には,税込735万円の分析確認の注文書と税込4億4100万円の同システムの注文書が添付されていた。同稟議書決裁欄には,Dの押印のほか,Cの署名があった。【弁271】

⑩ 1月30日,甲戌社は,t電気との間で,甲子フードサービス向け発注・売上・勤怠管理システムについて,t電気に計4億4100万円(税抜価格)で再業務委託した。なお,同日付け業務委託契約書には,支払方法等は,1回目として,システム分析,設計費用(別途注文書記載金額),システム開発着工時に別途注文書記載金額の3分の1(3月末日),2回目として,ハードウエア調達に別途注文書記載金額の3分の1(4月末日),3回目として,システム完納検収時に別途注文書記載金額の3分の1(6月末日)に分割して支払うこととされていた。【スター26(16-18),甲55,甲58及び同資料9,10】

この支払について,甲戌社に対する与信が低いと判断したt電気からの求めに応じ,Aが甲子フードサービスの連帯保証を付した。

なお,甲戌社から甲子フードサービスの社内に提示した業務委託の見積金額は,設置の過程で機器台数や仕様の変更による調整があり得ることから,それに応じて,甲戌社からt電気に支払う業務委託費用についても,機器台数や仕様の変更を見込み,同年6月末日払いとされていた分でその調整を行うこととなっていた。

⑪ 1月31日,辛卯リースは,甲戌社に対し,リース金1億7925万8625円送金した。【甲58及び同資料17,甲56資料7】

⑫ 甲戌社は,経理上,辛卯リースから入金された1億7925万8625円を,IFSCOからの仮受金として処理した。【スター109・甲64資料10】

⑬ 1月31日,甲戌社から,乙卯[丙子社]へ5000万円出金,≪略≫電気買掛支払計約4500万円,甲午リース手形決済分貸付約900万円,戊辰手形決済分として乙卯へ1500万円,Cへ返済2000万円,丙寅システムへ貸付約500万円等の資金移動がされた。なお,乙卯から,甲子フードサービスへ計約1850万円貸付(≪略≫及び≪略≫銀行借入返済分),癸酉社へ約1600万円,乙丑ソースへ(丁未分)1100万円,Cへ返済約560万円,≪略≫氏へ海外送金180万円等の資金移動がされた。【弁159[6791丁]】

⑭ Cは,「平成15年1月31日に約1億7900万円が入金されたことは,その当時知っていた。同金員は,甲戌社には使っていない。甲子フードサービスに貸した。」と供述する。【C41回85以下】

8  協調リース成立時ころの状況(平成15年2月~3月末)

① 2月18日,t電気は,甲戌社宛てに,甲子フードサービス向け分析・設計費用として,税込み735万円,甲子フードサービス向け発注・売上・勤怠システム第1回分として,税込み1億4700万円の支払を請求した(Dは,検察官調書(甲58)では「t電気からの請求書は,いずれもCに回していた。」と供述していた。)。【スター37,38】

② 2月20日,Qは,甲子フードサービスの発注・売上・勤怠管理システムについて重要案件報告書を作成,提出した。同報告書には,「納入予定の平成15年5月末に向け,昨年12月末に最終分析設計を完了し最終のシステム仕様が確定いたしました。」とし,支払予定の確認を求め,「t電気(株)向け 注文総額 4億2000万円(税別)」との記載がある。同書面には,Dの押印はあるが,Cの署名はない。また,同日,Qが作成した支払申請書には,分析設計作業735万円とシステム開発1/3分,1億4700万円の支払申請をした旨の記載があり,これに対し,承認欄に,Dの押印はあるが,Cの署名や押印はない。【弁279】

③ 2月27日,1月31日付けで,辛卯リースと癸巳リースは,リース協定を締結し,両社が賃貸人,癸酉社(A)が賃借人,甲子フードサービス(A)及びA個人が連帯保証人となって,受発注・売上・勤怠管理システムのうち,追加サーバー及び事業所端末分について,物件代金額税込み4億3809万6886円の協調リース契約を締結した(負担額は,辛卯行リース,癸巳リース各2億1904万8443円で,両リース会社は,このリースを第二次リースと考えていた。)。リース期間は60か月間,リース金額は月額税込み802万9245万円とされた。引渡完了予定日は,6月末日と規定されていた。【スター30,31・甲56資料6・7,甲57】

(なお,同リース契約書には,2月27日,A,aが立会い,リース会社担当者の面前で自署捺印し,保証意思確認が実施されたとの記載がある。)

④ 同日付け,辛卯リースの甲戌社宛て注文書及び甲戌社の辛卯リース宛て注文請書(いずれも税込み4億3809万6886円のもの)が存在する。【スター33,34,甲58】

⑤ 以上により,甲子フードサービスに導入されるシステムについて,合計約8億円のリース契約が締結されたが,Aは,社内の慎重論もあり,前記リースを組んだことを,甲子フードサービスの社内には秘匿しており,コンピュータシステム導入を担当していた社長室次長のsらにさえ知らせていなかった。【弁129,130,甲52ないし54】

⑥ 3月14日,t電気は,甲戌社宛てに,甲子フードサービス向け発注・売上・勤怠システム第2回分(4月末日支払分)として,税込み1億4700万円の支払を請求した。【スター36】

⑦ Qが,3月下旬に,Dにt電気への初回の支払期日が近づいたことを伝えると,Dは,「リースを組んで支払われたけれど,その金はもうない。tへの支払はおれが何とかする。」と言った。しかし,3月末において,甲戌社は,t電気から2月18日に請求された3月末を支払期限とする初回分合計1億5435万円(1億4700万円及び735万円)の支払ができなかった。

⑧ 3月31日,癸酉社(A)は,いわゆる街金のjから,3億円を借りた。同金銭消費貸借契約には,甲子フードサービス(A)及びA個人の連帯保証が付されていた。【スター39】

⑨ 同日,Aは,丙子社(実質的にはC)から,400万円を借りた。同日における丙子社のA(甲子フードサービス,癸酉社等も含む。)に対する貸付残高は,3億5109万1669円であった。【弁149p7[3625の6丁]】

9  甲子フードサービス・Aの財務状態について

① 甲子フードサービスの財務状態は,基本的にはいわゆる無借金経営で,給食請負という本業に特化した堅実な経営が行われており,甲子フードサービスの損益計算書(スター90に含まれるもの。)によれば,平成13年6月期(平成12年6月16日~平成13年6月15),平成14年6月期(平成13年6月16日~平成14年6月15日)及び平成15年6月期(平成14年6月16日~平成15年6月15日)における各年度の年間の売上高計及び経常利益はそれぞれ下表のとおりであった(月平均経常利益は,年間経常利益を12で除したものである。)。【スター90中の損益計算書[4366~4485丁],特に[4388,4389,4436,4437,4484,4485丁]】

年間の売上高計

年間経常利益

月平均経常利益

平成13年6月期

約225億0200万円

3億9300万円

3300万円弱

平成14年6月期

約203億8100万円

2億4100万円

2000万円余

平成15年6月期

約178億9200万円

約1億5400万円

1280万円余

② しかし,Aは,甲子フードサービスでは取締役にAの家族以外の者が就任していたため,取締役会の承認が得られなかったり,得られそうにない案件では,その資金調達を簿外で行わざるを得ず,甲子フードサービスを債務者とする借入れやリースをしたり,癸酉社を債務者とする借入れやリースに甲子フードサービスの連帯保証を付したりするようになった。更に,もともと簿外で契約したため,その返済やリース料の支払資金も簿外で調達せざるを得ないこととなり,ますます甲子フードサービスの取締役会に諮ることができず,更に簿外債務が増大するという悪循環に陥っていった。

また,Aは,平成14年2月ころ,Dを通じて,Cからの求めに応じ,乙丑ソースへの資金援助としてその簿外手形に関する資金調達(その保証として9億円の手形交付)とともに,甲午南食料販売店の運営資金(その保証として7億0400万円の手形交付)や戊辰リサイクルに関するリース料の支払(その保証として7億円の手形交付)などを,甲子フードサービスとして丁丑社に約する旨の合意書に調印した。そして,Aは,これらの甲子フードサービスの簿外でその連帯保証を付したり甲子フードサービスを買主として契約したファイナンスリースのリース料の支払資金等も,甲子フードサービスの簿外で調達しなければならなかったことから,更に甲子フードサービスの簿外で市中金融業者から借入れを行って調達するようになっていた。

(Cは,乙丑ソースの簿外手形の処理等に必要な資金について,Dを含めたA側からの入金やその支払の処理を丁丑社,その後丙子社を通じて行うようになっていた。そして,Cは,A側からの入金がない場合やA側が支払ができない場合に,丙子社(その資金はCが拠出した資金や貸付金であった。)で代わって支払をしたり貸し付けたりしていたが,これらを,A側への立替・貸付として扱っていた。そして,丙子社側(C・丙子社・乙丑ソース・甲戌社を含む。)と,A側との間で繰り返された入出金は,Cの下で経理を担当していたpによって,「A氏関連貸付」として記帳され金額が把握されていた。丙子社側に入金のあった資金の割り振りの判断・了承は,小口の経費を除き,Cが行っていた。)

③ このころ,Aが甲子フードサービスを主債務者とし,あるいは癸酉社または乙亥社を主債務者とし,甲子フードサービスを連帯保証人として,銀行やリース会社等複数の金融機関から融資を受けたため,Aにおいて,これら甲子フードサービスの簿外債務弁済のために必要な金額(1か月あたり。転リース分は含まない。)は,下表のとおりであり,甲子フードサービスの通常の経常収益の中で返済することはできない額に達していた。【甲67別添三,A第19回112[901丁]以下】

弁済に必要な金額

弁済に必要な金額

1月分

2270万円余

7月分

約6100万円

2月分

約2600万円

8月分

約9200万円

3月分

約2700万円

9月分

約8500万円

4月分

3900万円

10月分

約8500万円

5月分

約3900万円

11月分

約1億1000万円

6月分

約4000万円

12月分

約8500万円

これに加え,Aは,いわゆる市中金融業者からも,簿外で,甲子フードサービスを債務者としたり,癸酉社を主債務者として甲子フードサービスの連帯保証を付した高利の借入,返済を繰り返しており,平成15年3月から6月に限っても,合計13億1000万円の借入れをしており,そのうち,少なくとも数億円は未返済になっていた。【スター39ないし41,44,47,53,A19回123】

④ Cも,Aが個人の貸金業者やいわゆる街金融業者などからも多額の借入を行っており,資金繰りに窮している状況をDからある程度は伝え聞くなどしていた。

10  第1回壬申銀行訪問前の状況(平成15年4月初旬~中旬)

① 4月7日,Aは,甲子フードサービス名義で,いわゆる街金(戊申社名義)から,1億円を借りた。同金銭消費貸借契約には,癸酉社(A)及びA個人の連帯保証が付されていた。【スター40】

② 同日,Aは,癸酉社名義で,街金(戊申社名義)から,2億1000万円を借りた(借用書には貸主欄の記載はない。)。同金銭消費貸借契約には,甲子フードサービス(A)及びA個人の連帯保証が付されていた。【スター41】

③ 4月9日付けで,Q作成の甲戌社の重要案件業務報告書が存在する。同書面には,本件発注・売上・勤怠管理システムの開発に関し,既存システムに修正の必要が生じ,120万円の追加費用が発生することを報告するというものである。左肩部分に,Dの押印のほか,Cの署名がある。

④ 4月12日に,甲子フードサービス本社に,コンピュータサーバー3台(導入予定9台のうち大阪分3台)が納品設置され,t電気のu課長,甲戌社のQ,甲子フードサービスのsらが立ち会った。

⑤ 4月16日付けで,Qは,「「甲子フードサービス殿 システム導入」の経緯」と題する書面を作成した。同書面には,以下のような記載がある。【スター42】

平成14年9月4日 「発注・売上・勤怠管理システム」甲子フードサービスと契約

システム費用  490,605,000円

分析設計費用  7,700,000円

総額  498,305,000円

平成14年9月25日 甲子フードサービス殿へ請求  174,410,250円

平成14年9月30日 甲子フードサービス殿より入金 174,410,250円

平成15年1月17日 甲子フードサービス殿へ システム仕様決定の為,見積提示

552,188,949円

※但し,機器台数や仕様の変更がある為,調整はある。

平成15年1月30日 t電気と契約

システム費用  441,000,000円(税込)

分析設計費用  7,350,000円(税込)

支払い方法:2003年3月末日  7,350,000円(税込)

147,000,000円(税込)

2003年4月末日  147,000,000円(税込)

2003年6月末日予定  147,000,000円(税込)

※但し,6月末日は,金額,日程共予定になります。

機器台数や仕様の変更がある為,調整はある。

平成15年3月末日 t電気へ未払い

平成15年4月10日 t電気へ支払確約書 提出。平成15年6月末日に支払

⑥ 4月16日,Dは,乙卯グループ[丙子社及び甲戌社等の丙子社の関連会社の総称とみられる。]宛に,「甲子フードサービス殿/癸酉社請求一覧表」と題する書面をファックス送信した。【甲105p26,D29回143以下】

同書面には,甲戌社の甲子フードサービス/癸酉社に対する請求金額として,発注・売上・勤怠管理システム等につき,合計約8億5000万円との記載がある。

もっとも,そのうちグループウェア1式約9500万円(「何かの返済と聞いている。」との記載が添えられているもの)及び重複分を除くと,合計約7億円となる。他方,発注・売上・勤怠管理システム3回目分は記載されていない。

⑦ 4月17日,甲子フードサービス(A)は,丙子社に対し,2億6000万円を返済した。この結果,丙子社のA側に対する貸付残高は約9500万円となった。【弁149[3625の6丁]】

⑧ 4月18日,t電気は,前記システムの委託料金未払につき,甲戌社から額面1億5435万円の為替手形を預かり,為替手形預り書を作成した。同書には,「当該手形は保証のために甲戌社が発行し甲子フードサービスが引き受けるが,支払の為に発行されたものではないことを確認する。」,「当該手形は委託料金支払完了時に返却する。」などという記載がある。【スター43】

11  第1回壬申銀行訪問について(平成15年4月中旬~4月23日)

① 4月中旬ころ,A及びCは,金融業者であるi及びコンサルタント業を営む福岡市在住のvを介し,壬申銀行の紹介を受けた。【甲43,51】

4月中旬ころ,w代議士は,壬申銀行の銀行法人開発部長のMに対し,「大阪でがんばっている甲子フードサービスという会社がある。融資を受けたいと言っているので,是非応援してもらいたい。」などと言った。

そのころ,壬申銀行法人開発部のマネージャーNのところに,有限会社プロシードの経営者≪略≫が訪ねてきて,Nに対し,甲子フードサービスに関する企業調査資料を手渡した上,「大阪に甲子フードサービスという優良企業があり,多額の融資を受けたいと言っているので,話を聞いていただきたい。」などと言ってきた。

wとvは,平成15年2月中旬ころ,九州に拠点を置くパチンコ業者である己酉産業に対する融資案件を壬申銀行に紹介したことがあり,己酉産業は,かなり優良企業であったこともあって,M及びNは,両者から話があった甲子フードサービスに対する融資の話を聞いてみることにした。

② 4月23日,A,C,v,wが壬申銀行本店に赴き,M,Nと面談した。その際,Aは,甲子フードサービス代表取締役社長,癸酉社代表取締役及び丙子社最高執行責任者の3枚の名刺を壬申銀行側に交付し,Cは丙子社会長の名刺を交付した。【甲43,44,スター79】

③ Aは,Mらに対し,「甲子フードサービスは給食事業を手がけている会社で,癸酉社は主に甲子フードサービスグループ向けにリース事業を営む子会社である。丙子社は,乙丑ソースの持ち株会社で,甲子フードサービスでは乙丑ソースの再建も手がけている。今回の融資の話がまとまれば,いずれ乙丑ソースの再建についても相談したいので,丙子社の会長をしているCも連れてきた。」などと紹介した。

④ Aは,M及びNに対し,「甲子フードサービスでは,全営業所を対象にして,食料等の仕入,在庫管理,社員の出退勤管理,売上状況管理などのためのコンピュータ管理システムを導入することとした。」との説明をし,また,甲子フードサービスの経費削減に関して,簡単な1枚もの程度の資料を持参し,壬申銀行側に示した。それ以外の詳細な資料は持参しなかった。【甲43p6,M22以下】

Cは,同席したが,ほとんど発言をしなかった。

⑤ Aが持参した資料に関連して,Dが作成した『癸酉社/甲子フードサービス資金計画』と題する表が存在する。【スター78より[4278丁]。D29回54以下。なお,被告人らは「案件リスト」と呼称することがあった。】

同表中,「投資先」欄には,「甲子フードサービス(株)」が2つと,「乙丑ソース(株)」,「(株)庚戌」各1つの計4つが記載されている。「案件名」欄には,甲子フードサービスについては,「社内システム」と「店舗システム」の2つが記載され,対応する金額(概算)欄には,前者が6億,後者が5億と記載されていた。備考欄には,前者が「甲子フードサービス本社内の情報管理システム」として,勤怠管理などにより,大幅なコスト削減ができるなどという甲子フードサービスのコスト削減試算及びリース売上の見込み額が記載され,また,後者の備考欄には,「甲子フードサービスの上記システムの店舗用 勤怠・売上・仕入れ管理システム端末機(約1,600台)」として,端末機の導入により,人件費等のコストを削減できるなどと記載され,また,リース売上の見込み額が記載されていた。

乙丑ソースに対応する「案件名」欄には「生産設備」,「金額(概算)欄」には4億円,「備考」欄には「ソース業の老舗乙丑ソースの工場新規増設生産ライン」として,乙丑ソースの新規増設生産ラインが必要であるとし,そのライン増設で,売り上げがあがるとし,また,リース売上の見込み額も記載されている。庚戌に対応する「案件名」欄には「最終型産廃プラント」,「金額(概算)欄」には6億円,「最終型産業廃棄物プラントの増設」として,業績良好な同社の産業廃棄物の事業も関わる増設部分により,売り上げ増となるとし,リース売上の見込みが記載されている。

⑥ なお,同日の面談の状況について,壬申銀行側は,担当者が文書を作成したが,

ⅰ 甲子フードサービスが民事再生を申し立てて間もない平成15年11月29日付けでMが作成した「癸酉社取組みの経緯について」と題する報告文書には,平成15年4月23日の状況として,「その席上では詳細資料は持参しておらず,癸酉社・甲子フードサービス・丙子社の概要説明と資金需要の概略説明を受けるに止まりました。」などと記載されていた。【弁352[6340丁]

ⅱ その後の平成15年12月1日付けでPが作成した「報告書」には,4月23日の状況として,「その席上では詳細資料は持参しておらず,癸酉社・甲子フードサービス・丙子社の概要説明と資金需要の概略説明を受けるに止まりました。」などと記載されていた。なお,同文書は,その記載から,癸酉社に対する預金債権の仮差押えの申立に際し,疎明資料として作成・提出された文書であるとうかがわれる。【弁352[6345丁]

iii その後の平成15年12月3日付けでM及びNが連名で作成した「癸酉社取組みの経緯について」と題する報告文書には,平成15年4月23日の状況として,「その席上社長は,詳細資料は持参しておらず,癸酉社・甲子フードサービス・丙子社の概要説明と資金需要の概略説明を受けるに止まりました。」,「A社長からは,甲子フードサービスで行っている食材等の仕入れ,在庫管理,社員の出退勤管理,売上状況管理等々は現在マニュアルで行っており,非効率かつ無駄が多いため,今回全営業所を対象にしてコンピュータ管理をしたいので,設備投資を計画しており融資を検討してほしい旨の申し込みがありました。」,「癸酉社はリース業務を行っているので,今回は癸酉社と甲子フードサービスでリース契約を結びリース料として癸酉社へ支払を行う。パソコン,システム等は癸酉社が甲戌社と契約を行い,≪略≫電気を通じて辛亥社・≪略≫から購入するという話でした。」,「丙子社については,乙丑ソースの持株会社であり,現在乙丑ソースの再建も手掛けているので,別途相談させてもらえればとのことでした。」,「丙子社C氏はほとんど話しをせず,A社長が説明を行っておりました。」などと記載されていた。【弁352[6338丁]】

⑦ 壬申銀行の本件に関する保管書類(弁352)からは,甲子フードサービスの決算書は発見されていない。また,案件リストもMが供述する甲子フードサービスの経費削減についての簡単なペーパーも発見されていない。同書類からは,6月10日より前に壬申銀行が作成した書類は発見されていない。【弁352,M48-49,53-54】

⑧ 同日の面談の際,C及びAは,癸巳リース及び辛卯リースから,前記コンピュータ管理システムの代金の約半額分の融資を受けたこと,甲子フードサービス側が,甲戌社に支払うと決まっていた委託料等は計4億9830万5000円(税込5億2322万0250円)であることを,壬申銀行側に告げなかった。

⑨ 己丑社の代表取締役社長のjこと李は,「平成15年4月中旬か下旬ころ,Aから京都の金融屋に返済する資金として2億6000万円が急遽必要になったという話があった。Aは,それまでに話があった4月末ころは受けられるという銀行融資の話はずれ込んでいるけれども,6月末ころには銀行からの融資も受けられるので,既に貸した3億円もまとめて6月末には,返済すると言っていた。私は,Aの話を信じ,2億6000万円を癸酉社と甲子フードサービスに貸すことにした。支払期日は,平成15年6月末の約束であった。」旨供述する。【甲70】

12  第1回壬申銀行への訪問後の状況(平成15年4月23日~5月末日)

① 4月30日,癸酉社(A)は,戊申社から,1億9000万円を借りた。同金銭消費貸借契約には,甲子フードサービス(A)及びA個人の連帯保証が付されていた。【スター44】

② 甲戌社は,4月末日支払予定の2回目のシステム代金も1回目同様,t電気に支払えなかった。

③ 5月ころから,甲子フードサービスにおいて,甲戌社との業務委託契約に基づいて,コンピュータ管理システムを導入するためのテストが甲子フードサービスの近畿地方にある10か所くらいの事業所で始まった。

④ 5月前後ころ,Dは,不祥事を起こしたことから,甲戌社に関わらなくなり,事実上代表取締役を辞任した状況となり,r及びQが,同社の実務を取り仕切り,のちにCに認められて代表取締役に就任した。

⑤ A側のC側への返済は順次行われ,5月21日,癸酉社から丙子社へ1億円が返済されたことにより,丙子社のA側に対する貸付残高は,約5200万円となった。【弁149[3625の6丁]】

⑥ 5月22日,丙子社からCへ1000万が返済され,Cの丙子社への貸付残高は,同日の時点では「-98万円」となった。もっとも,貸付残高はその後も増減があった。【弁148[4813丁]】

なお,経理帳簿(弁148)によれば,Cは,甲戌社や丙子社に多額の資金を提供していた。

⑦ 5月22日,辛卯リースから,甲戌社(田中慎)に対し,「D社長のご指示により,貴社から頂いております物件見積書を送付致しますので,ご査収ほど宜しくお願い申し上げます。」などというファックスが送信された。同ファックスによれば,見積書3枚の合計金額は7億6832万5664円で,辛卯リース及び癸巳リースで契約手続済のものの合計金額は7億5868万130円と記載されていた。なお,同見積書には,本件受発注等管理システムのほか,財務系システム(計1億9590万円)が含まれていた。【弁279[5829,5830,5875,5876丁]】

⑧ 5月23日,Aは,癸酉社名義で,jから,2億6000万円を借りた。同金銭消費貸借契約には,甲子フードサービス(A)及びA個人の連帯保証が付されていた。【スター47】

⑨ 5月23日,Qは,Aに対し,

ご確認 (5月23日11時43分)

「今回のリースを実行する事によって,x常務やs次長に伝わるのでしょうか?もしそうでしたら,以前からs次長もしくはyさんに請求書を渡すようx常務に言われていますので,また“勝手に進んでいる”みたいな事にならないか心配しています。」

などというメールを送信した。【弁129[3424丁]】

⑩ 同日,これに対し,Aは,Qに宛てて,

Re:ご確認 (5月23日11時57分)

「表と裏があり,表は甲子フードサービス-癸酉社-リース会社-御社です。但し,それ以上にリースを組んでいるのです。御社は2つの請求書,見積書を持たなければならない。癸酉社は甲子フードサービスに裏は言わないし裏での請求はしない。でも,リース会社にとれば裏が表になる。」

などというメールを送信した。【弁130[3525丁]】

⑪ Qは,受信したAからの前記メールをCに見せ,報告した。【Q49,78,104】

⑫ 5月26日付けで,Q及びrは,丙子社宛てに,「“辛卯リース”の実行について確認不足及び報告不足の為,平成15年末日の実行に対し支障が起きました。」として,顛末書と題する書面を作成した。(これは,このころDが甲戌社を離れるに際し,引き継ぎが不十分であったことが背景にあるとみられる。)【弁279】

i サーバーの台数等について,辛卯リースから質問を受け,D,A,aと連絡を取り合って解決に努めたが,更に不明な点が出るなどして,検収まで時間がかかることになったなどという経緯の説明

ii 「1167か所の拠点」

iii 「リース総額(約7億円)の件やリース会社(癸巳リース)がもう一社ある件など,不明確な部分が出て来ましたので,さらにその詳細を把握する必要があり」

iv 「随時報告を行っていれば,このような結果になりませんでした。」

⑬ 5月下旬,Pは,Nから担当を引き継いだ。その時点の状況について,壬申銀行法人開発部員Pは,「(4月23日に,Aと)MとNが面談し,今回の融資の申込みに関する一般的な相談を受けたのみの状況でした。」と供述する。【甲45p2】

13  三井住友リースの解約当時の状況(平成H15年6月初旬~6月20日ころ)

① 6月5日に,辛卯リース内部では,同社法務部と担当者が,癸酉社とのリース契約を継続して履行してよいかを協議をした。辛卯リースのzは,5月26日にt電気のu課長から,辛卯リースの検収時期についての問い合わせの電話があった際,t電気は,甲戌社から代金の支払を全く受けていないという話を聞いた。しかし,甲戌社がt電気から購入する本部系サーバとソフトウエアのリース金は,1月31日に1億7925万8625円を前渡金として辛卯リースから甲戌社に支払っていたことから,資金流用の疑いがあったので,zは法務部に相談した。法務部内で協議した結果,t電気に確認することになった。

② 6月6日に辛卯リースの≪略≫営業部長と≪略≫法務部長がt電気のuと会った。その際,uからは,受発注・売上・勤怠管理システムについての代金が,甲戌社からt電気に支払われていないとの話を聞いた。そこで,辛卯リースは,甲戌社や甲子フードサービス側からの納得のいく説明が得られない限り,本部系サーバーとソフトウエアのリース契約を解約し,前渡金の返還を求めるなどすることにした。

【甲56p8,9,甲56資料11・スター50】

③ 辛卯リースの法務部長の≪略≫が所持していた,2003年6月5日付「甲子フードサービス・基幹リースについて」と題する書面の上部に,「①6/10 3:00 APにアポ入れ.営業部長が会う.その際,前渡金の使途不明な処等聴取する予定」と,手書きで記載されており,辛卯リース側は,6月10日午後3時,前記の点について,翌11日にAと面会するにあたり,Aにアポイントメントを取ったものと推認される。【スター50】

④ 6月10日以降,壬申銀行において,融資稟議書の作成が開始された。【スター51】

なお,部長のMは,6月10日以前も,決算書を踏まえて稟議書添付資料を作成していたと供述するが,担当者のPは,同日ころから,稟議書を作成したと供述する。【M公判,甲54】

⑤ 6月11日,午前9時40分から10時30分の間,甲子フードサービス本社8階応接室で,Aは,辛卯リースの≪略≫及びzと会った。辛卯リースは,癸酉社のAに対し,約1億7100万円を前渡ししたにもかかわらず,甲戌社からt電気に代金が支払われていないのではないかと疑念を抱いていたことから,リース契約の解約の話をし,Aは,前記リース契約の解約を承諾した。【スター52・甲56資料13】

⑥ 同日午後3時ころ,辛卯リースと癸酉社は,6月20日付けで,リース契約検収前解約協定書を作成した(前渡金を返却し,癸酉社が辛卯リースから甲戌社からの買い主としての地位を承継するという合意であった。)。【スター57・甲56資料17】

⑦ これにより,辛卯リースは,癸酉社に対し,1億8149万7167円(前渡金1億7925万8625円と前渡金利息223万8542円の合計)の支払を求める請求書(6月17日付け)を作成した。同請求書によれば,支払期限は6月30日とされていた。【スター55】

⑧ 6月13日,癸酉社(A)は,jから,2億5000万円を借りた。jは,期限は,7月末であったと供述する。同金銭消費貸借契約には,甲子フードサービス(A)及びA個人の連帯保証が付されていた。【スター53】

⑨ 6月中旬,Aは,Qに辛卯リースとのリース契約が解約されたことを伝えた。Qが,これをCに報告すると,Cは,「なんであかんのや。リース会社ってそんなものか。」などと言った。

⑩ 6月17日付け,t電気の甲戌社宛て請求書(甲子フードサービス向け発注・売上・勤怠管理システムの業務委託料。税込4億4100万円のもの。6月末日支払分)が存在する。【スター56】

14  Aの第2回壬申銀行訪問当時の状況(6月20日~6月24日)

① 6月20日,Aは,壬申銀行本店において,同銀行信用リスクマネジメント本部ゼネラルマネージャーO,M,Pと面会した。【甲43,45,47】

その際,Aは,「甲子フードサービスは,食材の仕入や在庫管理,従業員の勤怠管理をこれまでマニュアルで行ってきたが,非効率で無駄が多く,給食業界においてもマニュアル管理からコンピュータ管理に移行している。」,「甲子フードサービスの子会社である癸酉社が,コンピュータ会社から管理システムを購入し,甲子フードサービスとの間でリース契約を結ぶことを予定している。」などと説明した上,「管理システムを購入するため11億円が必要なので,これを癸酉社に融資していただきたい。」などと言った。

② 6月24日,CはAに対し,2000万円を貸し付け,当月の貸付残高は,3億0191万円となったが,これまでと異なり,6月30日を期限とする,乙丑ソース振り出し,甲子フードサービス引き受けの3億円の為替手形の交付を受けた。CはAにその金の返済を求めていたが,Aは,6月30日に返済しなかったため,上記6月30日が期日の為替手形を7月11日を期日とする手形に書換えた。また,Cは,6月30日,更に8300万円と1730万円を,Aに貸し付け,Aから,上記の額面3億円の手形以外に,額面1億0400万円の為替手形を受け取った(弁152)。【C22回81以下,スター112p1/114)。

Aは,これらの決済を,壬子銀行,≪略≫信金,その他の金融機関などからの借入でする旨言っていたが,期日までに返済できなかった。【C22回85】

15  11億円の見積書等作成に至る状況等(平成15年6月下旬~7月1日)

① 6月下旬,Aは,壬申銀行から,甲子フードサービス向けコンピュータシステムを甲戌社から約11億円で購入することのエビデンスを要求されていたため,甲戌社従業員Qに対し,これを欲しい旨伝え,総額約11億円のコンピュータシステムの見積書の作成を依頼した。

② Qは,そのころ,rとも相談し,乙丑ソースビル内において,当時甲戌社の親会社丙子社の実質的オーナーであったCに対し,Aが11億円で融資を受けたいと言っており,エビデンスを要求されているがどうしたらよいかという旨対処方を相談した。Cは,Qらに対し,「昔そういう計画があったかもしれないから,できることは協力してあげて。」などと言った。【Q26以下,60以下】

③ そこで,Q及びrは,既に1月17日ころに甲戌社から甲子フードサービスに対し提出していた5億5000万円の見積書(スター86)を基に,事務所クライアント1173点セットを同1600点セットに変更してコンピュータ台数等の数量を1173から1600に増加させ,サーバ構築費用等3項目を追加したほか,約30項目の提供単価をきりのいい数字に増額し,うちシステムサポート費用は8400万円から発注,勤怠管理,売上・仕入管理の3システム合計4億9780万円に増額するなどして,甲子フードサービス宛の約11億円の見積書(スター95)を作成した。【スター86,95,甲60】

④ 7月1日ころ,Qらは,Aに,前記約11億円の見積書を渡した。

⑤ 甲戌社は,6月末日支払予定の3回目のシステム代金も1回目,2回目同様,t電気に支払えなかった。この時点で,甲戌社は,t電気にシステム費用4億4100万円,分析,設計費用735万円を支払うことになっていた。

16  6億円と5億円に分割した見積書作成当時の状況(7月1日~7月9日)

① 7月1日,Aは,Cに対し,「本日に,再度壬子BKと壬申銀行BKに確認を入れます。」などというメールを送信した。【スター112[4526丁]】

② 7月2日付けで,振出人は甲子フードサービス(同社財務部長作成名義),受取人癸酉社,支払期日7月10日とする額面1億8149万7167円の約束手形が振り出された。同手形には,癸酉社(A)が裏書をし,aが辛卯リースに交付した。【スター59】

③ 甲戌社は,6月末日にt電気に支払うべき4億4835万円を支払わなかったため,Qとrは,t電気に支払の猶予を依頼し,振出人甲戌社,引受人甲子フードサービスの為替手形を(額面4億4835万円)をt電気に交付し,7月7日付けで,t電気の甲戌社に対する為替手形預り書(額面4億4835万円)が作成された。同書には,「当該手形は保証のために甲戌社が発行し甲子フードサービスが引き受けるが,支払の為に発行されたものではないことを確認する。」,「当該手形は委託料金支払完了時に返却する。」などという記載がある。【スター60】

④ 7月7日午後6時43分に,Aは,Cに「Re:報告 壬申銀行BKからは,何もありませんが,良い知らせなんでしょうか?こちらからBKに,連絡入れましょうか?」とのメールを送信した。

⑤ 7月8日ころ,Aは,Qらに対し,前記約11億円の見積書を,約6億円と約5億円に分割して見積書を作成するよう指示した。

⑥ Qらは,改めて金額を6億2716万5000円(件名を「受発注・売上・勤怠管理システム(システム)」とするもの。スター80)と4億8814万5000円(件名を「受発注・売上・勤怠管理システム(事業所)」とするもの。スター81)に分割して2通の癸酉社宛の見積書を作成した。

⑦ また,Qは,見積書2通と同額の5月20付け,甲戌社の癸酉社宛て請求書2通(甲子フードサービス向け「発注・売上・勤怠管理システム」第1回分として,税込6億2716万5000円及び同第2回分として,税込4億8814万5000円のもの)を作成した。【スター45,46】

⑧ なお,前記約11億円の見積書及びこれを分割した2通の見積書を作成するにあたり,Qらは,t電気とも甲子フードサービス社内の担当者とも打ち合わせを行っていない。

17  本件融資契約締結当時の状況(7月10日~7月16日)

① 7月10日,辛卯リースに交付された7月2日付けの約束手形は,決済され,癸酉社から辛卯リースに対し,リースの前渡金1億8149万7167円が返金された。【スター61,甲56p11】

② 7月11日,Aは,Cに対し,「昼に打ち合わせと言う事で,お約束しましたが,壬申銀行BKの来社した後,壬子BKに走ります。その後に,貴社に出向きたいと思いますが,よろしいでしょうか。」などというメールを送信した。【スター112[4529丁]】

③ 7月11日,M及びPが甲子フードサービスを訪れた。その際,Pらは,Aに対して,甲子フードサービスの取締役会の開催を求めた。【甲46p5】

④ Cは,A側への立替金・貸付金の返済を受けるべく,Aから,甲子フードサービス引受の為替手形(額面3億1500万円のものと額面1億0400万円のもの)の交付を受けていたところ,Aは結局返済をしなかったため,為替手形を取立てに回すなどと告げて返済を求めた。

すると,Aは,平成15年7月14日から翌15日未明にかけ,返済資金を捻出するため借入れ先と交渉中であると称しながら(なお,真実交渉していたかは明らかではない。),Cに対し,「今は電話を取れなくてすみません。多くは伝えれませんが,αさんと連絡がやっと取れ,今JAの理事長と確認の電話をされてます。今の処それだけですが,必ず連絡を入れます後,壬申銀行もやり遂げますから心配しないで下さい。」(7月14日 午後10時9分)などと,以下のとおり,多数のメールを送信した。【スター112[4530丁]】

何度も,本当にすみません (7月14日午後1時12分)

「手違いが有って,今やり直しをしています。もう暫くお待ち下さい。もうすぐです!」

Re:Re:何度も,本当にすみません (7月14日午後1時20分)

「真面目に急いでおります。もう暫く,お待ち下さい。宜しくお願い申し上げます。合掌」

Re:質問 (7月14日午後4時14分)

「私も社内が最悪です。しかし,Cさんに対しては,形は必ず作ります。詳細に関して連絡します。最悪の状況は,自分なりに理解しています。私の出来る事は,今日迄かもしれません。此処まで来たのに残念です。必ず,逃げないで連絡を入れます。」

Re:Re:Re質問 (7月14日午後5時24分)

「はい!何度もすみませんです。必ず,電話をします。本当に暫く待って下さい。」

お電話をしましたが… (7月14日午後8時3分) 「必ず,3,3の保証小切手を持って帰ります。後,一歩です。本当に申し訳ないです。手にしましたら,連絡を入れます。ありがとうございました。合掌」

Re:状況 (7月14日午後10時9分)

「今は電話を取れなくてすみません。多くは伝えれませんが,αさんと連絡がやっと取れ,今JAの理事長と確認の電話をされています。今の処それだけですが,必ず連絡を入れます後,壬申銀行もやり遂げますから心配しないで下さい。」

お電話をしましたが… (7月14日午後11時22分)

「JAで,話が出来なくなり,住之江ボートの近くのJAの理事の家に来ています。αさんも電話で話をしても埒が開かないので,こちらに来てもらう事になり,時間が空き,連絡を入れました。もうすぐ着かれますが,とにかく,形がある答を貰うまで,帰れません!私の答を待っている方々が,おられると言って粘っております。私自身明日が無いつもりで,踏ん張ります。」

Re:Re:お電話をしましたが… (7月14日午後11時33分)

「本当に心強いお言葉ありがとうございます。必ずや,答を持って帰ります。」

結果 (7月15日午前1時29分)

「遅くまですみません。明日の朝,ボート連合で対処するとの事に決まりました。まだ,皆さんと一緒です。明日,8時に集合です。」

結果 (7月15日午前1時36分)

「明日の午前中に,3億3千の現金を年3で,借り受けます。」

⑤ 7月15日(午後7時46分),Aは,同日に壬申銀行から11億円の決裁が下りる旨の連絡を受けたことから,Cに対し,

「今,壬申BKから決済が降りたので,明日来てくれないかと,電話があり,会社に戻り,スケジュールの変更,段取りをします。首が,繋がります。」とのメールを送信した。【スター112[4531丁]】

⑥ 同日(午後8時3分),Aは,Cからの「お疲れ様です。」とのメールに対し,

「今,Q君に明後日の提出資料を今日中にほしいとお願いしておりますが,チェックを出来ていないので,心配です。」

などというメールを送信した。【スター112[4531丁]】

⑦ 7月16日午前7時30分ころ,Aは,Qから,同人らが作成した合計約11億円の2通の見積書等を受け取って,大阪市福島区内の甲子フードサービスの事務所から壬申銀行本店のPにあてて上記見積書2通等をファックス送信した。

⑧ 7月16日,同行のゼネラルマネージャーOは,本件融資の決済をなした。同日,Aは,更に,壬申銀行に赴いて,癸酉社の壬申銀行に対する11億円の借入申込書を作成した。同借入申込書には,借入理由欄に「親会社甲子フードサービス(株)向けリース用コンピュータシステム購入資金」,資金使途欄に「左記設備資金」,資金調達方法欄に「本件にて」,返済原資欄に「営業収入金(リース代金)より充当」との記載がある。【スター62。甲45】

⑨ 同日,Aは,壬申銀行本店において,同銀行との間で,7月18日付けで,債務者癸酉社,連帯保証人甲子フードサービス,借入金額11億円とする金銭消費貸借契約を締結した。同契約書には,「使途:甲子フードサービス(株)向けリース附コンピュータシステム購入資金」との記載がある。なお,同契約には,癸酉社につき担保制限条項(リース債権の譲渡等の禁止),甲子フードサービスにつき財務制限条項が付された。【スター66・甲43資料④-2】

⑩ また,同日,癸酉社から甲戌社へ支払が確実に行われるようとの壬申銀行の意向により,Aは,壬申銀行から癸酉社の口座に入金される融資金を甲戌社の口座に振り込む旨の振込依頼書を作成,提出した。【甲43p13,14,甲45p10,11,甲46p5,6】

18  売買契約書類・取締役会議事録の作成及び融資実行前の状況(7月16日~7月18日)

① Aは,壬申銀行から癸酉社が11億円の融資を受け,これに甲子フードサービスが連帯保証することを承認する旨の甲子フードサービス及び癸酉社両社の取締役会議事録写しの提出も求められた。

② 7月16日(午後3時23分),Aは,Cに対し,

「後,2点提出しなければなりません。1点目は,甲子フードサービスの議事録で,2点目は,甲戌社と癸酉社との売買契約書です。明日の朝までにいりませ。」[原文ママ]

などというメールを送信した。【スター112[4531丁]】

③ これに対し,Cが返信したところ,Aは,同日(午後3時53分)に,

「明日,提出の議事録は,当社で作成しますが,売買契約書は,そちらで作成願います!」

などというメールを送信した。【スター112[4531丁]】

④ そこで,Cは,Qらに対し,売買契約書(注文書・注文請書)を作ることができるかを尋ねたところ,Qらから可能である旨の返答があったことから,Aに対し,その旨をメールで返信した。

⑤ Aは,これに対し,同日(午後4時28分)に,

「明日の朝,9時迄に頂ければと思います。当社に持って戴きたいです。宜しくお願いします。追伸:送金は18日と25日に別れて,甲戌社に支払いされます。」

とのメールを送信し,これに対するCの返信に対し,Aは,「お願い致します。」と送信した。【スター112[4531丁]】

⑥ 7月16日,Aは,Qに癸酉社との売買契約書も急いで作るように述べ,Qらは,平成15年1月31日付けにバックデートした癸酉社から甲戌社宛ての注文書・甲戌社から癸酉社宛ての注文請書(合計金額約11億円のもの)を作成し,同月17日午前8時ころ,rがAに届けた。【甲59等】

⑦ 同日付けで,Aは,本件癸酉社の11億円の借入について,甲子フードサービスが債務保証をすること承認すると記載がある内容虚偽の甲子フードサービスの取締役会議事録を作成した。【スター35,63】

⑧ 同日,Aは,前記注文書・注文請書及び前記取締役会議事録を,壬申銀行に提出した。

⑨ 7月17日から18日にかけて,Aは,以下のとおりメールを送って,Cに対し,壬申銀行が送金に向けて順調に進んでいる旨伝え,また,融資された資金について,自身の市中金融業者(癸丑社)への返済にも充てることを依頼した。【スター112[4532丁]】

お疲れさまです。 (7月17日午後3時47分)

「壬申BKは,順調に進んでおります。先日,貴殿より頂いた□で,3.3の残りについての使い道ですが,京都への2.6を返済してしまいたいのですが,難しいでしょうか?」

Re:Re:お疲れ様です。 (7月17日午後5時55分)

「失礼しました。2.6の半分の1.3でも戻したいのですが,駄目でしょうか?と,言う□でした。」

おはようございます。 (7月18日午前11時6分)

「壬申銀行に確認を取りました。問題なく進んでおります。先方が,送金が済み次第,私の携帯電話に電話されます。京都への返金の1は,手数料無しの借り入れも,≪略≫氏の組合を通してしましたので,彼の金融機関を水面化する為に,通します。今までの繋ぎの金利も通してます。宜しくお願い致します。」

19  融資実行からその資金分配まで(7月18日~8月25日)

① 7月18日,壬申銀行は,癸酉社に対して,10億9818万2576円を振込入金した(同金額は,11億円から初回利息相当額及び印紙代を差し引いたものである。)。【甲48,49,63,スター83,84】

② Aは,壬申銀行から癸酉社の口座に入金されたとの連絡を受けると,Cに対して以下のメールを送信し,市中金融への振込みや壬申銀行への差額入金を依頼した。

報告 (7月18日午後零時10分)

「今,壬申銀行から,送金済みの電話がありました振り込み銀行庚子≪略≫支店(普)≪略≫癸丑社」

送金の流れです。 (7月18日午後1時17分)

「7/18 627,165,000円 7/25 488,145,000円 合計1,115,310,000になります。以上になりますが,壬申銀行さんからは,1,100,000,000なので,癸酉社の壬申銀行口座に15,310,000を入金の必要がいります!ご確認を宜しくお願いします。」【スター112[4532丁]】

Re:Re:送金の流れです。 (7月18日午後1時52分)

「入金を確認が出来て本当に良かったです。『Cさんの仏の顔も3度まで』ですので,ありがとうございます。癸丑社へ振込みが,終わりましたら,ご一報をお願いします。壬申銀行への差額入金は,25日迄に実行して頂ければと思います。休み明けの22日の12時では,どうでしょうか?それとプラス22日に5千万の資金をお借り出来ますでしょうか?」

③ 7月18日,前記振込依頼書に基づき,癸酉社の口座から,甲戌社に対し,6億2716万5000円が送金された。甲戌社において,同金員は甲子フードサービス分癸酉社の売上として会計処理された。【スター67,82,111[4519丁]】

④ 7月25日,前記振込依頼書に基づき,癸酉社の口座から,甲戌社に対して,4億8814万5000円が送金された。甲戌社において,同金員のうち,1億8814万5000円は甲子フードサービス分癸酉社からの売上として会計処理されたが,3億8000万円は甲子フードサービス関係での前受金として処理された。【スター68,82,111[4520丁]】

⑤ 甲戌社への入金を受けて,Aの依頼に基づき,Cは,pに指示して振り分けを行い,7月18日から8月25日にかけて,前記甲戌社の口座から,丙子社の口座に合計9億7250万円(このうち3億2500万円は,Cの個人口座である≪略≫銀行≪略≫支店の丙子社名義の口座),Cの口座に合計4200万円,癸酉社の口座に1億円が,それぞれ振込入金された。

⑥ Cがpに渡した振り分け用の指示メモには,Cの自筆で,「(癸酉社より前受金)」との記載があった。【スター103】

⑦ CのAへの貸付残高は,平成15年以降は,つぎのとおりである(100万円未満切り捨て)。

月(いずれも平成15年)

最高額

最低額

1月中

2億0100万円

3100万円

2月中

2億6200万円

-3700万円

3月中

3億5100万円

1億3800万円

4月中

3億5400万円

9300万円

5月中

1億5200万円

5200万円

6月中

4億3700万円

1億3900万円

7月中

(7月18日の融資実行前)

4億5600万円

4億4100万円

7月18日~9月30日

貸付残高はなく,逆にA側から借入状態

⑧ 8月6日,Aは,Cに対し,「辛卯リースへの返金は,癸酉社で返済できませんでしたので,甲子フードサービスで立て替え払いをしております!流れからしますと,辛卯リースへ返金前に,甲戌社へ請求しなければならない処,していません。社内で,甲戌社をグレーにしない為にも,甲戌社名で,癸酉社に返金できませんでしょうか?ご検討をお願いします。」などというメールを送信した。【スター112[4536丁]】

⑨ 8月7日,Aは,Cに対し,「壬申銀行BKより電話があり,先月末の返済が3,500千円不足になっているようです。明日までに入金をお願いします。」とのメールを送信した。【スター112[4537丁]】

⑩ 8月8日,本件融資につき,元金1850万円,利息287万8567円及び損害金6万5599円が返済された。【スター84】

⑪ 8月13日,Cは,Aに対し,

連絡 (8月13日午後5時29分)

「大変遅くなりました。資金の流れを報告します。入金は丙午社110000,出金は,i関係(手数料)5500,立替清算1720,米や(通常)2000,借入返済43500,乙亥社,癸酉社,癸丑社25000,月末支払(甲寅,戊辰,壬申銀行他)7514,庚寅社4300,米や(緊急融資8/14分)2200,米や通常8/19分2000,借入返済2950,8月末支払い8150,i返済8月末7000,合計▲1834です。壬申銀行関連については上記になります。先日,入金予定の報告が有りましたが精度はどの様ですか。休み明けに協議して資金の調達するのが最良ですが,一応10000は借入準備します。」

連絡 (8月13日午後8時47分)

「明日,8500であれば動く手配が完了しましたがどうしますか?」

などというメールを送信した。【スター112[4640丁]】

同メールにつき,Cは公判で,「壬申銀行の紹介者であるiへの紹介料(5500万円),壬申銀行に関する振込の立替の精算(1720万円),甲午南食料販売店への通常融資(2000万円),癸酉社,甲子フードサービス関係か丙子社及びCへの借入れ返済(4億3500万円),癸酉社・乙亥社・癸丑社への振込み(2億5000万円。うち癸丑社が2億円),甲寅銀行への返済・戊辰リサイクル関係の立替金・壬申銀行への返済金・丙子社の立替金(7514万円),庚寅社への返済金(4300万円),甲午南食料販売店への緊急融資(2200万円),甲午南食料販売店への通常融資(2000万円),≪略≫等への返済金(2950万円),その他(甲寅銀行等)の月末支払(8150万円),iへの8月末の返済(7000万円)である。」と供述する。

⑫ それまで甲戌社は外注先のt電気に対し,業務委託料を支払うことができず,t電気からの求めに応じ,甲戌社振出・甲子フードサービス引受けの金額約4億4800万円の為替手形(支払い期日同年8月31日)を交付してあったが,t電気(u)とAは,8月20日,甲子フードサービス8階会議室において面談し,8月25日に甲戌社から2億円を振り込むこと,残額につき,振出人が甲戌社,引受人が甲子フードサービスの額面2億4835万円の為替手形(支払期日は9月20日)を発行することが定められた(9月10日までに同金額の振り込みをしなければ,期日に決済する。)。なお,同日の議事録に関するメールが,uから甲子フードサービスの肩書を付してAに送信され,CCとしてQにも送信された。【スター69,甲55p14】

⑬ 8月23日,Aは,Cに対し,「下記の事についての確認をお願い致します。記 Ⅰt電気への支払い:2回に分割①25日に二億円送金と為替手形(9月20日払い)手形の用意を25日の早朝に処理を希望します。②9/20迄に送金(検収を早急に済まし,リースを実行させる)・・・」とのメールを送信した。【スター112[4540丁]】

⑭ Aは,8月25日にt電気に支払うこととなっていた2億円を市中金融業者からの借入れによって調達することとし,8月24日夜,Cに対し,「急遽明日に,tに支払う2億の調達先の,社長から『明日の朝の9時に,面談をしたい』と,要望があり,いかしかたなく[原文ママ]行く事になりました。7時半に,当社に来て頂く事は,可能でしょうか?ご返事をお待ち致しております。」とのメールを送信した。【スター112[4540丁]】

⑮ 8月25日,Aは,癸酉社名義で,市中金融業者(戊申社名義の≪略≫キャッシュ。なお,「≪略≫」とCは供述する。)から,2億5000万円を借り入れ,借入契約には甲子フードサービス(A)とA個人の連帯保証が付せられた。【スター71】

⑯ 同日,Aは,同借入金を原資に,甲戌社名でt電気に2億円を振込み入金した。t電気は,7月7日に受け取っていた額面4億4835万円の為替手形を返還し,Aは,t電気に対し,甲戌社振出し・甲子フードサービス引受けの金額2億4835万円の為替手形を交付した。

⑰ 同日,前記額面2億4835万円の為替手形について,t電気作成の為替手形預り書が作成された。同書には,「当該手形は保証のために甲戌社が発行し甲子フードサービスが引き受けるが,支払の為に発行されたものではないことを確認する。」,「当該手形は委託料金支払完了時に返却する。」などという記載がある。【スター70】

20  パソコンハードウエアの検収当時の状況(8月27日~8月末)

① 8月27日,t電気が倉庫を借りて保管していた受発注・売上・勤怠管理システムのハードウェア(パソコン)につき,甲戌社のt電気宛て検収書2通(税込み2億1000万円のものと税込み2億0485万3100円のもの)が発行され,検収が行われた。【スター72,73,甲55】

② 8月下旬ころ,Aは,uから紹介を受けて,辛亥社リースから資金調達をすることとし,Qに発注・売上・勤怠管理システムの見積書作成を依頼した。これを受け,Qは,6月5日付け,甲戌社の辛亥社リース宛て見積書2通(「発注・売上・勤怠管理システム」を対象とし,税込5億3182万5000円のもの及び税込2034万9667円のもの)を作成した。【スター48,49,甲55p15,甲59p34以下】

③ 8月31日,癸酉社(A)と辛亥社リースの間で,受発注・売上・勤怠管理システムのリース契約が締結された。同契約は,甲子フードサービス(A)が連帯保証した。リース期間は60か月間,リース料は合計で月額税込み967万9215円とされた。【スター74】

21  その後,甲子フードサービスの破綻前の状況(9月~11月)

① 9月1日,本件融資につき,元金1850万円,利息302万8821円及び損害金2万4772円が返済された。【スター84】

9月10日Aは,戊申社株式会社に4億円(1億1000万円は,4月7日の2億1000万円の残債務の1億1000万円に充当,2億5000万円は,8月25日の2億5000万円の債務に充当,4000万円は,4月7日の1億円の残債務に充当)返済した。

② Aは,t電気への残額約2億4800万円の支払について,Cに依頼して,9月19日,Cの個人口座である≪略≫銀行九条支店の丙子社名義の口座から,甲戌社名でt電気に振込み入金した。

③ 9月30日,辛亥社リースから甲戌社にリース金5億3182万4370円が入金され,同日,「Cさんへ返済 338,350,000 4口座へ」(丙午堂島通帳」と題する書面(弁173),すなわち,Cの≪略≫銀行の口座に3億1835万円,庚子銀行の口座に500万円,辛卯行の口座に500万円,≪略≫バンクの口座に1000万円(「貸付金」と題する書面(弁148))の計3億3835万円が入金された。

④ 9月30日,本件融資につき,元金1850万円及び利息319万3594円が返済された。【スター84】

⑤ 10月31日,甲子フードサービス(A)は,市中金融(植田食品名義)から,5000万円を借りた。同契約は,A個人が連帯保証した。【スター75】

⑥ 10月31日,本件融資につき,元金1850万円及び利息267万6032円が返済されたが,以降,Aは,壬申銀行へ弁済をしなかった。【スター84】

⑦ 11月6日,甲子フードサービス(A)は,市中金融(植田食品名義)から,2億円を借りた。同契約は,A個人が連帯保証した。【スター75】

⑧ 11月26日付け,甲戌社作成名義の甲子フードサービス宛て「全社連絡システム概要設計書」と題する書面が存在する。同書面には,「・事業所のデータ化(発注・売上・勤怠管理システム)に続き,事業所及び本部からの連絡などのデータ化を実現する。また事業部や本社などもグルーブウエアの導入する事と,本部システムの強化を図り,最終的に既存システムとの連結を行う。」などという記載がある。【スター77・弁190】

22  甲子フードサービスの破綻とその法的手続など(平成15年11月~)

① Aは,平成15年11月7日,代表取締役を辞任した(実質的には解任された。)。その後,Aは,平成16年5月に約21億8000万円の負債を抱えて破産宣告を受けた。【甲40,乙1】

② 平成15年11月26日,甲子フードサービスは,民事再生手続開始を申立てた。【甲66】

当時の甲子フードサービスの簿外債務は合計約80億円以上に上っていた。【甲66,スター88,89参照】

③ 同年11月30日,甲子フードサービスは,大阪地方裁判所により民事再生手続の開始決定がなされた。【甲40】

④ 同年12月22日,癸酉社は,同裁判所により民事再生手続の開始決定がなされた。また,同月,乙亥社も民事再生を申立て,同月22日,乙亥社も民事再生手続開始決定がなされた。【甲74,76】

⑤ 同年12月29日,本件融資につき,壬申銀行は,癸酉社の普通預金と相殺し,53万9528円を回収した。【スター84】

⑥ 平成16年6月14日,甲子フードサービスは会社更生手続開始を申し立てられ,同月30日,同裁判所により同手続開始の決定があった。【甲40】

⑦ 同月8月4日,癸酉社は,破産宣告を受けた。【甲74】

⑧ 同月10月31日,甲子フードサービスは,更生計画認可決定を受けて同社は辛丑フード株式会社に商号変更した。

⑨ 同年12月24日,会社更生手続による弁済金として,元金返済9049万9603円が壬申銀行に支払われた。この結果,壬申銀行の貸付残高は,9億3496万869円であった。【スター89】

⑩ 甲子フードサービスが民事再生を出した平成15年12月ころから,C,Aが本件で逮捕される前月の平成17年4月ころまで,Cは,Aから頼まれ、毎月100万円前後の生活費やAの子の学費等を支援していた。【C25回11以下,スター112】

⑪ なお,平成18年8月30日,前記(戊辰リサイクル事件について)第2の32記載のとおり,Cは,辛丑フード(旧甲子フードサービス),壬寅社(旧乙丑ソース)及び癸酉社の管財人らとの間で,壬申銀行事件についても和解を成立させた。【弁362以下】

第3公訴事実中明らかに求められる事実と本件の中心争点

前記認定事実によれば,本件公訴事実中,

・ Aは,甲子フードサービス,癸酉社の各代表取締役であったこと,Cは,甲戌社の実質的オーナーであり,同社の資金面を実質的に管理し,業務面についてもある程度の報告を受けていたこと

・ Aが,平成15年4月23日ころ,壬申銀行本店において,同銀行法人開発部長M及び同部マネージャーNに対し,「甲子フードサービスでは,全営業所を対象にして,食材等の仕入,在庫管理,社員の出退勤管理,売上状況管理などのためのコンピュータ管理システムを導入することとした。」と述べたこと

・ Aが,同年6月20日ころ,同所において,同銀行信用リスクマネジメント本部ゼネラルマネージャーO,上記M及び同銀行法人開発部員Pに対し,「癸酉社が甲戌社からコンピュータ管理システムを購入し,これを甲子フードサービスにリースする契約をしたいと考えている。この計画を実現するためには,癸酉社が甲戌社から購入するコンピュータ管理システムの購入代金として約11億円が必要なので,この購入代金を癸酉社に融資していただきたい。」などと述べたこと

・ 甲戌社従業員Qらは,甲戌社作成名義の見積金額合計6億2716万5000円及び同4億8814万5000円の見積書2通(並びに請求金額を前記各同額とする請求書2通)等を作成し,Aは,同年7月16日ころ,Pに宛てて,甲子フードサービス事務所から壬申銀行本店にファクシミリで送信するなどして,壬申銀行に対し癸酉社に同銀行から11億円を融資するよう申し込んだこと

・ Pは,癸酉社に11億円の証書貸付を行う旨の融資稟議書を作成し,その決裁を求められたOらは,融資の決定をし,同年7月18日,Oの指示を受けた同銀行係員が,11億円から初回利息相当額及び印紙代を差し引いた10億9818万2576円を同銀行における癸酉社名義の普通預金口座に入金したこと

が認められる。

そこで,これ以外の事実,すなわち,

①  被告人両名は,壬申銀行から融資金名下に金銭を詐取することを企て,共謀したか,

②  癸酉社が甲戌社から代金約11億円でコンピュータシステムを購入する計画は存在しなかったか,本件で借り入れた資金を返済する意思も能力もなかったか,A,Cは,これらがあるように装ったか,

③  4月23日に,Aは,M,Nに「癸酉社が甲戌社からコンピュータ管理システムを購入し,これを甲子フードサービスにリースする契約をしたいと考えている。この計画を実現するためには,癸酉社が甲戌社から購入するコンピュータ管理システムの購入代金として約11億円が必要なので,この購入代金を癸酉社に融資していただきたい。」と述べたか,この内容は虚偽であったか,

④  6月20日ころ,O,M及びPに対し,Aが述べた事実は虚偽の内容であったか,

⑤  Cは,Qらに甲戌社作成名義のいずれも内容虚偽の見積金額合計6億2716万5000円及び同4億8814万5000円の見積書2通並びに請求金額を前記各同額とする請求書2通を指示して作成させたか

が問題となる。

そこで,まず,4月23日及び6月20日の行為,7月16日に送信した見積書等に客観的に虚偽があったか否かという実行行為の存否について検討し,次に,A及びCに詐欺の故意・共謀があるかについて検討する。

第4客観的行為と虚偽性について

1  平成15年4月23日の行為について

(1) 関係者の供述

ア M及びNの供述要旨

4月23日の状況について,Mは,捜査段階及び公判において,Nは捜査段階において,要旨以下のとおり供述する。

「Aは,M及びNに対し,「甲子フードサービスでは,全営業所を対象にして,食料等の仕入れ,在庫管理,社員の出退勤管理,売上状況管理などのためコンピュータ管理システムを導入することにした。そのシステムの購入代金が約11億円かかるので,癸酉社に融資していただきたい。」などと言って癸酉社への約11億円の融資を申し込んだ。

M及びNは,甲子フードサービスに対する融資を念頭に置いていたことから,NがAに対し「甲子フードサービスへの融資ではないのですか。」と尋ねたところ,Aは,「癸酉社が甲戌社からコンピュータシステムを購入し,これを甲子フードサービスにリースする契約にしたい。これにより,癸酉社に売上が計上でき,癸酉社も育てていきたい。」などと言い,更に,「甲子フードサービスとしては年間約6億円の経費節減が見込まれ,癸酉社へのリース料の支払は年間約2億4000万円と見込んでいるので,甲子フードサービスにとって投資効率が高い事業である。」旨を説明した上,「この計画を実現するためには,癸酉社が甲戌社から購入するコンピュータシステムの購入代金として約11億円が必要であり,この購入代金を癸酉社に融資していただきたい。」などと言って融資を申し込んだ。

M及びNは,甲子フードサービス及び癸酉社の決算書,事業計画書,購入予定のコンピュータ管理システムの内容や金額が分かる見積書等の提出を求め,後日,提出を受けることになった。」

イ Aの公判供述要旨

Aは,捜査段階では,前記M及びNの供述にほぼ符合する供述をしていたが,公判では,大要次のとおり供述する。

「会社の概要などを案件リスト(『癸酉社/甲子フードサービス資金計画』と題する表。弁132)を渡して説明したが,具体的な融資の話はしていない。

コンピュータシステムの内容やなぜ必要かを話したが,11億円という数字は出ていないし,こちらからも数字は言っておらず,Mらも数字は聞いてこなかった。融資を求めるのかのどうかの確認もされていない。」

ウ Cの公判供述要旨

Cは,公判で,要旨次のとおり供述する。

「Aは融資の具体的申し込みはしていない。案件リストに基づいて説明はしていたが,コンピュータシステムやその金額を説明していたかどうかは,よく覚えていない。」

そこで,この点について検討する。

(2) 「案件リスト」が当日交付されたかについて

被告人らは,公判で,4月23日の説明の際,「癸酉社/甲子フードサービス資金計画」と題する書面(弁132。以下「案件リスト」という。)を持参してAが説明したと供述するので,この点について検討する。

① 4月23日,甲子フードサービスの経費削減に関する簡単な1枚もののペーパーをAが示して説明したことは,Mも供述しており,その限度では動かし難い事実といえること

② 「案件リスト」自体は壬申銀行から発見されていないが,上記Mも述べるペーパーも同様に発見されていないこと(Mは顧客から受け取ったものは全てファイルすると供述している。もっとも,取り寄せ記録中には,経費削減に関する1枚もののペーパーが存するが,これは,第2回訪問後の6月25日に癸酉社から壬申銀行にファックスされたもので,4月23日に持参したものであるとはみられない(弁352[6355丁裏])。)。

③ Cは,捜査段階から一貫して4月23日に「案件リスト」があった旨供述していること

④ Dは,癸酉社の資金用途の一覧を作成するように依頼され,これを作成し,iに渡したが,その際,「案件リスト」記載の「(株)庚戌」は,Dのみが知っている会社で,Cも知らないものであると供述していること(なお,Dは,「案件リスト」よりも簡単なものであったとも供述する一方,新たに詳しいものを作り直したかもしれないとも供述する。)

にかんがみれば,4月23日,「案件リスト」を示してAが説明したとの被告人両名の公判供述は排斥しがたい。

(3) 4月23日に癸酉社への11億円の融資の申し込みがあったかについて

ア 検察官は,4月23日に,Aが,甲子フードサービスにコンピュータシステムを導入することによる経費削減効果を説明した上,その導入資金として11億円の融資を申し込んだと主張するのに対し,弁護人らは,11億円の融資を申し込んだことはないと主張するので,以下検討する。

イ 融資の申込みがあったことを肯定する要素

① Aも甲子フードサービスが発注・売上・勤怠管理システムを導入することで,甲子フードサービスに経費削減効果があることを壬申銀行側に話した上,「案件リスト」を示したと供述するところ,「案件リスト」,すなわち,「癸酉社/甲子フードサービス資金計画」と題する一覧表には,甲子フードサービスの案件としては,概算6億円の社内システム(約1600拠点)と5億円の店舗システム(システム端末機約1600台)の計11億円のコンピュータシステムが記載されており(経費削減効果及び癸酉社のリース売上も記載されている。),この点から,Aが甲子フードサービスを投資先とする11億円の融資(癸酉社が甲子フードサービスにリースする前提で,同金額の融資を受けるもの)を申し込んだと強く推認されること

② iやv,wといった紹介者の仲介で,Aは銀行を訪れたもので,単なる挨拶であったなどということ自体不自然である上,銀行側にとっては,融資の希望の有無や融資金額が重大な関心事であることにかんがみれば,少なくともこれらの点を確認するのが合理的であること(Aは,「表敬訪問」であって,「11億円という数字も出ず,Mらから融資を求めるかの確認もされていない。」と供述するが,不自然・不合理である。)。

③ M・N連名で作成された報告書は,平成15年12月3日に作成されたものであるところ,同報告書には,「融資を検討してほしい旨の申し込みがありました。」との記載があること

もっとも,Mが当初作成した平成15年11月29日付け報告書及びPが作成した同年12月1日付け報告書には,4月23日の状況について,「その席上では詳細資料は持参しておらず,癸酉社・甲子フードサービスフード・丙子社の概略説明と資金需要の概略説明を受けるに止まりました。」との記載しかなく,上記M・N連名による報告書にも,「その席上では詳細資料は持参しておらず,癸酉社・甲子フードサービスフード・丙子社の概略説明と資金需要の概略説明を受けるに止まりました。」との記載もあるが,これは,M及びPの各報告書の記載と全く同文であって,これを引き写したものと考えられる。

なるほど,M及びPの各報告書の記載からすると,同作成当時,両名は4月23日に融資の申込みを受けたとの明確な認識を有していたとはいえないが,Pは,4月23日の状況については直接体験したわけではなく,Mは,6月20日の面談も含め,本件一連の融資手続全体に関与しており,4月23日の状況のみを他の状況と区別して記憶していたとはいえない。これらの報告書は,取り急ぎ作成されたとはいえ(Pの報告書は仮差押えの申立てのために作成されたものとみられる。),単なる社内文書ではないものの,遺漏のない内容であるとはみられない。他方,Nは,中途でPに引き継いでおり,融資手続全体に対する理解は浅いとも考えられるものの,Nは,4月23日の面談には同席していたが,6月20日には同席しておらず,同人が加わることで,両日の状況についての区別は明確になるといえる。

したがって,M・N連名の報告書の記載から,4月23日の面談にしか参加していないNにおいて,融資の申込みを受けたとの認識を有していたといえ,これと同旨のM及びNの供述とよく符合し,4月23日における融資の申込みの存在を推知させるといえる。【弁352】

ウ 融資の申込みがあったことを否定する要素

① Aは,4月23日には,「案件リスト」以外には融資のための説明資料を持参しておらず,融資を申し込む意思が強くはうかがわれないこと

② しかも,「案件リスト」も(株)庚戌が投資先に挙げられているなどDが作成したものであることは否定できず,Aにはi経由で当日ないし前日に渡ったというのであって,これをもとに具体的融資を申し込むのは困難な面もあること

③ 「案件リスト」には,乙丑ソースの工場新規増設生産ラインや庚戌なる会社の最終型産廃プラントの案件も記載されており,これを示してした説明が,甲子フードサービスのコンピュータシステムについてのみのものであったとは断定し難いこと

④ Aが資金繰りに追われ,壬申銀行への再訪問どころではなかった可能性や,他の融資先からの借入で急場を凌いでいたと考える余地もあるが,資金繰りに窮していればなおさら,新たな借入先の確保が重要とも考えられるところ,第2回の訪問まで2ヶ月近くが経過しており,壬申銀行において,稟議書の作成を開始したのも6月10日ころであって(Mは,それ以前も決算書を基に入力していたと供述するが,担当者のPは,同日ころから作成し始めた旨供述し,直ちに信用し難い。),その間,6月10日ころまでは壬申銀行が収集した資料は取り寄せ記録にも存せず,Aと壬申銀行側でやりとりをした具体的な事実を裏付ける客観的な証拠はないこと(もっとも,Pは,引継段階で,Nが決算書等の資料を集めていたとも供述している。)

⑤ 5月下旬にNから引き継いだPは,「(4月23日に,Aと)MとNが面談し,今回の融資の申込みに関する一般的な相談を受けたのみの状況でした。」と供述していること【甲45p2】

もっとも,前記P供述も,「今回の融資の申込み」について相談があったとはいうのであり,単なる表敬訪問でも,融資一般に関する相談でもなく,本件と接続する内容の話があったことは前提としているというべきである。

⑥ Aは,公判で,「6月10日に辛卯リースからアポ入れを受けて,資金調達の必要性が生じ,同日壬申銀行に融資を申し入れた。」と供述する。

この点,辛卯リースの解約の経緯をみると,

i 6月5日の段階で,前渡金の使途不明である等として,同社担当者と法務部が打ち合わせを行った。

ii 6月10日午後3時に,同社側はAにアポイントメントを取った(前記認定事実のとおり,この時点で既に,辛卯リース側は解約を念頭に置いていた。)。

(壬申銀行の稟議書作成開始日は同日である。)

iii 6月11日午前9時40分に,辛卯リース担当者は,契約実行の見直しについての折衝を目的としてAを訪問し,「前渡金がt電気に支払がされているか疑問であり,契約実行の見直しを求め,前渡金の返還を求める。」としてリースの解約を申し入れた。

iv Aは同日のうちに,解約を承諾した上,同日午後3時ころ,辛卯リースとリース契約検収前解約協定書に調印した。

ものである。

確かに,Aは,それまで「(11日に)突然辛卯リースが訪れ,解約を申し出た。」と供述していたにもかかわらず,公判終盤に至り,10日にアポ入れがあったことを示す証拠を示されるや,上記のとおり供述を変遷させたものであって,直ちに信用できるものではない。

しかし,上記の経緯に照らせば,辛卯リースのアポ入れの段階で,Aが解約見込みと知り,6月10日,壬申銀行に明確な形で融資を申し入れ,資金調達の見込みをつけた上で,翌日すんなりと解約に応じたとみることもできる(もっとも,既に壬申銀行に融資申し入れをしていたので,すんなり解約に応じたとも考えられる。)。

アポ入れを受けただけで,Aが直ちに解約を予測し得たか否かは疑問もあるが,リース会社側が,アポ入れにあたり「契約実行の見直しをしたいので,早急にAに面会したい。」などと,ある程度は用件を述べることは合理的である。【スター50,52】

また,Aは,癸巳リースとのリース契約は解除しておらず,同社から支払を受けた約1億7900万円は返還していない上,そもそも,リース会社から解約されたことを理由に取り急ぎ壬申銀行に融資を申し入れたのであれば,解約された約8億円弱(癸巳リース分を除けば,約6億円)について融資を申し入れるのが合理的であって,わざわざ11億円を申し入れる必要はないのではないのかとの疑念も生じるところである。

しかし,辛卯リースの解除によって,支払済みの約1億7900万円及び協調リースによる約4億4000万円の資金導入は暗礁に乗り上げたことは明らかであるから,新たな資金調達の必要性が生じたこと自体は否定し得ない。辛卯リースとの解約が,協調リースの協定を結んでいる癸巳リースとの解約にも波及すると予測することは不合理ではない。

したがって,これらの情況に照らせば,Aの前記供述は不自然な点はあるが,これを排斥し得るものとまではいえない。

エ 結論

以上を総合的に考慮すれば,Aが,「癸酉社/甲子フードサービス資金計画」と題する書面を示し,他の案件の説明とともに,コンピュータシステム導入計画の内容や必要性を説明しコンピュータシステムの購入代金に関して融資を受けたい旨述べたことは認められ,また,同システム関係の資金計画は概算で11億円程度であると説明したこともうかがわれる。

しかし,前記ウに照らすと,本件融資に関する一般的な相談をしたのみにとどまり,いずれは融資を受けることが前提であったとしても,具体的な金額や融資の実行時期等具体的な条件は今後の協議に委ねることになった可能性も排斥し難く,4月23日の段階で,Aが,コンピュータシステムについての11億円に特定して,融資を申し入れたとまで認定することはできない。

よって,4月23日の行為を実行行為ととらえるには,合理的な疑いが残るものである。

2  癸酉社が甲戌社から代金約11億円でコンピュータシステムを購入する計画の実在性・現実性・見積書の虚偽性について

癸酉社が甲戌社から代金約11億円でコンピュータシステムを購入する計画が実在し,現実化していたか,その旨述べた内容自体や見積書の内容に虚偽があったか問題となる。

(1) 実在性・現実性を肯定する要素

① 構想のレベルでは,甲子フードサービスに導入されるコンピュータシステムは,1期から3期まで工程があり,1期と2期のみで約11億円強となる計画も存しており,最終的には,二十数億円又はそれ以上に上る構想があったことがうかがえること

② 平成15年1月時点において,癸酉社とリース会社との間では,総額約8億円弱としてリース契約が締結されていたこと

③ t電気のuが,甲戌社に,グループウエア等で概算2~3億円になると言ったことがあったこと【甲55p16】

④ 平成14年9月10日付けで,甲戌社が第2期システムとしてグループウエア等の企画書を甲子フードサービス宛てに作成しており,これによれば,合計4億8500万円との価格が設定されていたこと

にかんがみれば,本件発注・売上・勤怠管理システム及びグループウエア等(第1期及び第2期)で,合計約11億円に上る計画が,全く架空のものであったというわけではない。

(2) 実在性・現実性を否定する要素

① 本件コンピュータシステムは,甲子フードサービスが使用するものであるが,平成15年4月時点において,癸酉社が甲子フードサービスへリースするもので,癸酉社は,リース会社(癸巳リース,辛卯リース)からリースを受けるが,同システムは甲戌社から購入し,甲子フードサービスとの間で業務委託契約を締結するというものであり,甲戌社はt電気との間で,同システムのソフトウェア開発,ハードウェア納品等を行う業務委託契約をしていた。

そこで,本件システムの出発点となるのは,t電気であるが,平成15年4月から7月時点では,t電気が委託されているシステムは,甲子フードサービス向けの発注・売上・勤怠管理システムで,約4億4800万円であり,それ以外のものについては具体化されていなかった。

ア(ア) なお,Dは,平成12年10月ころから,Aとの間で甲子フードサービスへ導入するシステムを構想し,複数のメーカーに概算見積もりをしてもらい,うち1社からは約7億5000万円の概算見積もりを得ており,平成14年8月ころ以降,D及びAは,約8億円の規模になるとして,癸巳リースとリース契約の交渉を行っていたもので,当初,D及びAの間で,7~8億円程度のコンピュータシステム導入計画があったことは認められる。

しかし,平成14年9月4日,甲子フードサービス・甲戌社間では,委託料等を計4億9830万5000円(税込5億2322万0250円)として業務委託契約書を作成し,同月30日には,これに対応して,甲戌社・t電気間で,内示金額を4億円(別途システム分析・設計費用として700万円)として,業務委託契約書を作成している。【スター3,4,8,甲52,58,59,乙37資料2】

(イ) もっとも,これらの契約書では,調査・分析作業の結果,費用が変動する可能性があるとして,調査・分析作業終了後に契約金額を改定することが予定されていた。

しかし,Q作成の平成15年2月20付け重要案件報告書(弁279[2859丁])によれば,平成14年12月末に最終分析設計を完了し,最終のシステム仕様が確定したというのであって(t電気への注文総額は4億2000万円とされた。Qもおおむねこれを認めつつ,「まだ未確定の部分があった。」などとあいまいな供述をするが,事件当時に作成された客観証拠の記載と整合しない。),業務委託個別契約書において想定されていた調査終了後の調整部分も確定したものといえる。コンピュータシステムの業務委託契約であったという特殊性を考慮しても,受発注・売上・勤怠管理システムの価格自体が,更に大幅に変動するとは考え難い。

イ これに対し,平成15年5月22日に辛卯リースから甲戌社へとファックス送信された辛卯リース及び癸巳リースに対し丙午が交付したという物件見積書(弁279[5829,5830,5875,5876丁)の合計金額は約7億6800万円(契約済みのものは約7億5800万円)と記載されており,同時点でも,リース会社との関係では,なお同額程度のコンピュータシステム導入計画があるとされていたと認められる。

しかし,同見積書の明細部分を検討すると,同見積書には,本件発注・売上・勤怠管理システムのほか,これとは別に約2億円の財務管理システムが含まれており(見積書No.38~40[5830丁]),本件発注等管理3システムのみで約7億6800万円との価格が設定されていたとはみられない。

この点,Dは,公判で,「七,八億円のリースの金額設定は,約5億円弱のt電気の見積もりに,丙寅システムで設計をした段階での人件費等の設計費用を上乗せしたものである。コンピュータシステムの利益算出法は,以前から仕入値を0.6で割ったものを売値として設定していたことから,本件も七,八億円にした。リースの際には,t電気に下請けに出した発注・売上・勤怠管理システム以外に,丙寅システム(後に甲戌社)がその利益の範囲内で行ったが財務管理システムも含まれて,これは丙寅システムが開発し,ほぼ完成したが,甲子フードサービスに検収拒否をされたため,頓挫した。」(D30回21以下)と供述する。

コンピュータシステムの業務委託契約としては,Dの供述する利益率もあり得ないとは断じることができないこと,財務系システムも加えて7~8億円のリースを組んだが,財務系システムの開発が頓挫したことは捜査段階から一貫して供述していること(甲58。なお,甲58では,Dは,財務系ソフトウェアについて,委託金額も委託先も決まっていなかったと供述しつつ,詳細は述べておらず,D自身は自社開発する意図であった可能性は否定し難い。)にかんがみれば,Qが「財務系システムが自社開発分だったか分からない。」旨供述していることを考慮しても(リース会社から物件見積書がファックス送信されており,Dの事実上の退任に際し,十分な引き継ぎがされず,Qも理解できていなかったことがうかがわれる。),甲子フードサービスに導入するコンピュータシステムの計画自体は,約8億円弱のシステムとして具体化していたことは排斥し難い。

しかし,上記合計11億円の見積書や案件リストに記載され,壬申銀行がその開発資金を融資の対象としたシステムは,発注・売上・勤怠管理の3システムである。これに財務管理システムを加えた4システムは約8億円として設定されていたが,本件融資がその開発を資金使途とした発注等管理3システムは,約5.5億円前後にとどまっていたといえる。

ウ 更に,Aは,甲子フードサービスが期ごとの予算制を採っていたことから,総額数十億に上るコンピュータシステム導入計画を数期に分割し,ひとまず約5.5億円の見積書を作成させていたと供述し(A39回47,48),Dも,A側から「年度予算があるので,1年間で5億円しか払えない。」などと言われたと供述するので,検討する。

この点,甲子フードサービスが予算制を採っていた点を排斥する証拠はない。

しかし,平成15年5月23日に,QがAに対して,「今回のリースを実行する事によって,x常務やs次長に伝わるのでしょうか?もしそうでしたら,以前からs次長もしくはyさんに請求書を渡すようx常務に言われていますので,また“勝手に進んでいる”みたいな事にならないか心配しています。」とメール(弁129[3424丁])を送信したのに対し,Aは「表と裏があり,表は甲子フードサービス-癸酉社-リース会社-御社です。但し,それ以上にリースを組んでいるのです。御社は2つの請求書,見積書を持たなければならない。癸酉社は甲子フードサービスに裏は言わないし裏での請求はしない。でも,リース会社にとれば裏が表になる。」などというメール(弁130[3525丁])を返信した。

Aがこのようなメールを送った趣旨は必ずしも明らかではない面もあるが,「表」は甲子フードサービス社内に提示されていた約5.5億円,「裏」は,それ以上にリースを組んでいる約8億円を指していることは明らかであり,Qがx常務やs次長ら甲子フードサービス社内の本件システムの担当者に伝わるかを心配していることに対して,上記のメールを返信したことからすれば,Aは,x常務も含め,社内にリースを組んだ約8億円という金額を秘匿するために,Qに口裏合わせを求めていると認められる(これに反するA供述はおよそ不合理で信用できない。)。【A40回93,94参照】

この点につき,Aの弁護人は,「甲子フードサービスにとって,癸酉社をリース会社との間に入れることは癸酉社の利益になるも,転リース料が高くなるため不利益であるから,癸酉社への情報と甲子フードサービスへの情報,特に値段については二重価格が必要であり,癸酉社への情報と甲子フードサービスへのそれを分けて欲しいということをAが表裏があると表示しただけのものである。」などと主張する。【A弁論p25】

しかし,転リース料も含め,本件コンピュータシステムは最終的にエンドユーザーである甲子フードサービスにおいて経済的負担を負うのであるから,甲子フードサービス社内に秘匿しておくことはできようはずもないし,前記弁護人の主張に基づけば,癸酉社はリース会社から約8億円で本件システムのリースを受け,これを約5.5億円で甲子フードサービスに転リースをするという不合理なことになる。Aの弁護人の前記主張は,採用できない。

また,単なる年度予算の問題であれば,甲子フードサービス向けとリース会社向けの2つの請求書,見積書を作成してまで,社内の,しかも,同システムを担当する部署の責任者や取締役にまで真実の金額を隠蔽するのは明らかに不合理である。

そして,甲子フードサービス社内では,約8億円という金額が受容されず(同社社内には,同システムに対する慎重論が根強かった。),A自身がこれを認識していたからこそ,上記のようなメールを送信したものと考えられる。

そうすると,コンピュータシステム導入計画の顧客であって,癸酉社に対し,リース料という形で,最終的な経済的負担を負う甲子フードサービスが,約5.5億円以上の負担をする意思を有しておらず(現に約8億円の業務委託契約書は甲子フードサービスと甲戌社間では存在しない。),いくらAらが数十億円のコンピュータシステム導入を構想しても,実現可能性のある計画としては,約5.5億円のものであったといわざるを得ない。

また,甲戌社においても,平成15年6月下旬に,壬申銀行の要請があるまでは,価額11億円となるような見積書は甲子フードサービス宛てにも癸酉社宛てにも作成したことはなかった。

② また,壬申銀行が融資を決定するのに使用されたとみられるのは7月16日朝に壬申銀行に提出された約5億円と約6億円の見積書であり,その基となったのは約11億円の見積書である。これを1月17日ころに甲子フードサービスに交付していた5.5億円の見積書と対比すると,Q及びrは,5.5億円の見積書を基に,事務所クライアント1173点セットを同1600点セットに変更してコンピュータ台数等の数量を1173から1600に増加させ,サーバ受信システム等3項目を追加したほか,同一の項目で,約30項目の提供単価をきりのいい数字に増額し,うちシステムサポート費用は8400万円から,発注,勤怠管理,売上・仕入管理の3システム合計4億9780万円に増額するなどして,約11億円の見積書を作成したものと認められる。【スター86,95,甲60】

1600という数字は,従前からの計画を前提として,将来の増加を見込んで設定したとみる余地があるが,

i 追加分であるサーバ構築費用等3項目は合計5825万円であって,第2期のグループウェア(2~3億円)に対応するものとはみられないこと

ii 前記のとおり大幅に増額されたシステムサポート費用の内訳は,発注,勤怠管理,売上・仕入管理の3システムしか挙げられていないこと(それにもかかわらず,増額幅は約4億1000万円と極めて大きい。)

iii これらの点を除き,項目はほぼ同じまま,約30項目の大半で単価の増額が行われているにすぎないこと

を併せ考慮すれば,11億円の見積書は,甲子フードサービスに交付していた5.5億円の見積書に,2~3億円のグループウェア分を追加したものとはみられないし,何らの積算的根拠もなく,5.5億円の見積書を基に,11億円の数字ありきで費目を増額するなどして水増しして作成された見積書にすぎないものと推認され,実在する11億円の計画に基づいたものであるとはいい得ない。

③ 壬申銀行が融資実行を決した平成15年7月16日の段階では,未だ1期システムの検収も終了しておらず,2期システムは着手が見込める状況ではなかった。

④ 本件システムは,甲子フードサービスに導入されるものであるから,最終的には,癸酉社へのリース料という形態にせよ,ユーザーである甲子フードサービスの負担に帰するもので,その意向を度外視することはできないところ,甲子フードサービス社内に提示されていたのは,約5億5000万円の見積書に基づくもので,約11億円の金額が提示され,了承されていたものではないから,いかに計画があっても,実現可能性の高いものではなかった。

⑤ 仕様変更等による価格調整としても,過大である。

(3) 結論

以上の諸点を総合すれば,約11億円のコンピュータシステム導入計画は,あくまで構想の段階にとどまるもので,実現の目処が立っていたのはその一部にすぎず,約11億円を要する計画が具体化された状況はなかったものといえる。

そうすると,6月20日にAが壬申銀行のOに述べたこと,及び,Qらが作成し,Aが壬申銀行に送付した見積書等は客観的に虚偽であったものと認定できる。

3  癸酉社・甲子フードサービスの返済能力について

(1) 前記認定事実のとおり,甲子フードサービスの平成15年6月期(平成14年6月16日~平成15年6月15日)における年間の経常利益は約1億5400万円(月平均は1280万円余りとなる。)であったところ(スター90中の損益計算書[4440~4485丁]),甲子フードサービスの簿外債務弁済のために必要な金額(1か月あたり。転リース分は含まない。)は,平成15年1月分は2270万円余り,2月分は約2600万円,3月分は約2700万円,4月分は3900万,5月分は約3900万円,6月分は約4000万円,7月分は約6100万円,8月分は約9200万円,9月分は約8500万円,10月分は約8500万円,11月分は約1億1000万円,12月分は約8500万円と増大しており,しかも,Aは,いわゆる市中金融からも,平成15年3月から6月に限っても,合計13億1000万円を借り入れ(少なくとも数億円は未返済となった。),これに関する簿外債務を甲子フードサービスに負わせていたもので,まさに自転車操業というほかなく,本件融資の契約当時,早晩破綻は避けられなかったものといわざるを得ず,客観的には,甲子フードサービスには返済能力がなかったと認められる。【甲67別添三,A第19回112[901丁]以下,スター39ないし41,44,47,53】

(2) この点,甲子フードサービスは,公表上優良企業であって,壬申銀行等融資先も甲子フードサービスの信用を高く評価していたが,その実情はAの作った簿外債務で極度に悪化していたというほかない。

(3) Aは,事業展開をして利益を上げ,返済ができたなどと供述するが(A19回126以下),所詮願望の域を出るものではなく,現に融資実行から半年も経たない平成15年11月26日には,甲子フードサービスは民事再生を申請するに至っているのである。

なお,Aは,民事再生は簿外債務を消すために申し立てたもので,甲子フードサービスは破綻に至っていなかったと供述するが,同月30日に裁判所の民事再生手続の開始決定がされており,Aは,更に,会社更生やA自身の破産も含め,監督委員らが自己を陥れたなどと主張するようであるが(A39回9),不合理というほかないもので,採用できない。

(4) また,壬申銀行に対し,初回の天引き分以外に,8月8日,9月1日,9月30日,10月31日と4回は元利併せて返済しているものの,初めの2回は各月末日の支払期限を徒過した上でのものであり,丙子社の援助を受けて返済していることもうかがえ(スター83ないし85),そもそも,当面の返済を怠れば問題化し,犯行が発覚するのであるから,わずか4回の返済があったからといって,返済の意思・能力があったなどということはできない(Aは,民事再生によって返済不能になったというが,不合理な責任転嫁としか評しようがない。)。

(5) 以上検討したところによれば,甲子フードサービスにおいては,本件11億円の返済能力がなかったものと認められる。

なお,癸酉社は,甲子フードサービスに転リースをしてリース料を取り,壬申銀行に返済することが予定されていた上,甲子フードサービスを離れて返済能力があるとはみられない。

そもそも,Aは甲子フードサービスの代表取締役であるから,商事法上,本件借入について取締役会の承認を経ていない場合でも,壬申銀行がこれを知り又は知り得たのでなければ,金銭消費貸借契約自体は有効であるとされることになるとみられるものの,甲子フードサービスにとっては,Aが代表権を濫用して独断で契約した簿外債務であって,壬申銀行が,甲子フードサービスに対して返済請求をしても,訴訟に発展する等民事トラブルが見込まれ,Aも,甲子フードサービスに簿外債務があることを明かさない限り,甲子フードサービスとして返済することはできず,甲子フードサービスの返済能力をあてにすること自体困難であり,Aについてみれば,個人での返済をすることができないのは明らかである。

4  小括

以上によれば,

① 平成15年6月20日,AがOらに述べた癸酉社が甲戌社から購入するコンピュータ管理システムの購入代金として約11億円が必要であるというのは,客観的には虚偽であったこと

② Qらが作成した見積書等は内容虚偽であったこと

③ 癸酉社及び甲子フードサービスは,本件11億円について,客観的には返済能力がなかったこと

が認められる。

第5Aの詐欺の故意について

Aは,本件公訴事実中,実行行為とされている行為(6月20日の壬申銀行への行為,虚偽の見積書の壬申銀行への送付)を,客観的に行ったことは明らかである。

Aは,捜査段階及び公判の途中までは,詐欺の事実を認める供述をしていたが,その後(期日間整理手続開始後),これを否定する。

そこで,Aが,当時,詐欺の故意を有していたかについて検討する(CとAの共謀については,後述する。)。

1  約11億円のシステムの実在性の認識について

(1) Aは,甲子フードサービス及び癸酉社の代表取締役として,細部は担当者に任せていた点もあるにせよ,自らコンピュータシステム導入の計画を進めていたものであるところ(Aは,代表取締役就任前から,コンピュータに関わる勉強をしており,甲子フードサービスの自動発注システムを考案したとさえ供述している(A17回11以下)。),前述のとおり,甲子フードサービスに導入する約11億円の計画は,未だ実現の目処が立っているものではなく,更に,約5.5億円のコンピュータシステムの導入については社内の了解が得られていたものの,約8億円のリースを組んだコンピュータシステム(財務系システムを含むもの)も社内の了解を取ることはできておらず,そもそも,社内に慎重論があり,Qに対し,リースを組んだ約8億円分のコンピュータシステム導入計画を甲子フードサービス社内には隠蔽しておくようにメールで指示まで与えているのであって,Aは,約5.5億円を超えるコンピュータシステムの導入計画は,実現の見通しが立っていない単なる計画にとどまることを充分認識していたものと認められる。

また,そもそも,Aは,分割前の約11億円の前記内容虚偽の見積書を受け取った上で,Qに約6億円と約5億円とに分割することを指示しているのであって,同見積書が本件融資において重要であることにかんがみれば,前記のとおり,本件コンピュータシステムに深く関わり,相応の知識を有していたとうかがわれるAが,前述のような態様で約5.5億円の見積書の費目を水増しするなどして,約11億円の見積書が作成されたものにすぎず,グループウエア等の2期システム等の将来分を上乗せしたものではないことに全く気づかなかったとは考え難い。

(2) なお,Aは,「私自身が取締役会のつもりでいたので,取締役会全員が賛同しているということで,取締役会議事録を作成させた。」(A17回31)などと供述するが,そもそも,社内の了解が取れているのであれば,前記のようなQへの口止めのメールを送信する必要はないのであって,採用できない。

(3) また,Aは,事業所数を約1200から1600に増加させるという将来分の費用が含まれていたとも供述するが,パソコンの台数を約400台増加させたからといって,その単価を考えれば,関連費用を加味しても,約5.5億円が約11億円に倍増するはずもない(なお,そもそも,壬申銀行の稟議書添付資料中,「発注・売上・勤怠管理システム概要」と題する文書(弁352[6365丁]には,「従前は,正社員・パート社員総勢7000人の勤怠管理データや約1600拠点ある店舗からの売上・仕入データを本社内で人間による手作業で処理していた。」などと,既に1600拠点が存在しているかのような記載があり,Aがそのように壬申銀行側に説明したものと説明され,そのほか,1600の拠点には将来分が含まれていると説明した形跡もない。)。【弁352[6356丁以下]】)。

2  返済の意思について

(1) Aは,甲子フードサービス及び癸酉社の代表取締役であり,自ら簿外債務を作り出し,市中金融も含め,金策に苦心していたのであるから,甲子フードサービスの返済能力が限界であったという前述の事実を認識していたものと認められ,それにもかかわらず,あえて本件融資を申し込んでいる以上,確実に返済する意思はなかったと認められる。

(2) また,

① Aは,本件3システムにつき,癸巳リースからの支払を解約しないまま,壬申銀行から融資を受け,更に,辛亥社リースからも融資を受けていること

② 前記認定事実のとおり,甲戌社への確実な支払を期して壬申銀行側は,癸酉社の支払指示書を作成させたのに,壬申銀行の融資実行が近づくや,癸丑社等自己の簿外債務への返済に充てるように,Cに頼み込み,現に融資実行後,Aの簿外債務の返済金等のA関係の支払にその多くが充てられていること(もっとも,約4億3500万円の返済先はCであった。)

③ 平成14年9月30日に,癸酉社から甲戌社に振り込まれた約1億7400万円は,丙寅システムに5000万円移されたり,乙卯グループ内で資金移動が行われたほか,丙子社を介して,甲寅銀行及び≪略≫銀行への返済として計約3300万円余りがA側へ還流しており(なお,翌10月1日,丙子社はCから1500万円を借り入れた。),同年12月ころにも癸巳リースから甲戌社に振り込まれた約1億7900万円は,癸酉社からの約5億円と併せて,相当額がA側へ還流しており(C個人にも資金移動が行われている。),平成15年1月31日に辛卯リースから入金された約1億7900万円は,丙子社を介したものも含めると,買掛金支払に約4500万円,丙寅システムへ約500万円資金移動が行われたほか,甲寅及び≪略≫銀行返済分1850万円を含む計約3400万円がA側に還流していたこと(C個人へも貸金返済として計約2500万円が資金移動されている。)

を併せ考慮すれば,Aは,遅くとも,11億円の融資の申入れをした時点では,壬申銀行から入金された金員の相当部分を自己の簿外債務返済資金等に流用する意図があったものといえる。

なるほど,企業活動の場合には,個人の場合に比して,資金の有効活用を図る必要性が高く,直ちに填補できなくとも資金繰りの中で解決でき,そうすることが社会的に許容されるとみる余地はあろうが,本件当時のAのような自転車操業をしている場合にまで許されるものではない。

3  結論

以上検討したところによれば,Aは,6月20日にOらに述べたことが虚偽であること,Qらが作成し,壬申銀行に送付した見積書が内容虚偽であることを充分認識していたことは明らかであり,詐欺の故意が認められる。

第6Cの詐欺の故意・共謀の有無

Cは,第2回公判(平成17年9月1日)においては,本件詐欺の事実を認めていたが,その後,詐欺の故意,Aとの共謀を否認している。

そこで,Cに本件詐欺の故意・共謀が認定できるかについて検討する。

1  Cの公判供述要旨

(1) 丙子社への出資の経緯

私が丙子社の株主になったきっかけは,平成14年の3月ころ,Bから相続税未納のため芦屋の≪略≫荘の競売が近いと相談されたことからである。Bは,「乙丑ソースにも,自分にも資金がない。自分が持ってる乙丑ソースの株式を売却してでも相続税は作らなければいけない。」と相談を受けた。

そこで,私が6000万ぐらいを丁丑社に出して,Bは,相続税の支払いに,乙丑ソースの株式を丁丑社に売却し,丁丑社を乙丑ソースのホールディングカンパニーにして,乙丑ソースの経営再建に乗り出そうということになった。そして,丁丑社の商号を,当初は乙卯という会社に社名変更したが,ほんものの乙丑ソースを目指すという意味で,Bと相談する中で,丙子社に社名変更した。

平成14年5月に,1000万円から,私が4500万出資して,5500万に増資した。

【C22回87以下】

(2) 甲子フードサービスのコンピュータシステム導入計画について

平成14年の7月,8月のころ,甲子フードサービスが持ってる営業所,関係会社を含めてコンピュータシステムの導入を考えていると聞いた。総額が15億から20億ぐらいの規模になるが,順次,ソフト,ハード,いろいろなものを開発していく長期プランと聞いていた。14年期は,甲子フードサービス社内の予算枠の中で,暫定的に初期投資5億と聞いていた。

平成14年9月4日,甲子フードサービスが甲戌社に業務を委託し,甲戌社はt電気に下請に出した。暫定的な業務委託契約(第1次契約)ができた。平成14年の年末から平成15年の1月ごろ,暫定的なものではなく,リース会社を含めた形の中で契約(第2次契約)がされたと聞いた。甲戌社のものを癸酉社が買い上げて,甲子フードサービスにリースをすると聞いていた。

【C22回43以下】

(3) コンピュータシステムに関する甲戌社への入金について

それ以前に,業務委託契約(1次契約)に基づく内金として1億7441万0250円が甲子フードサービスから甲戌社へ払われている。

その約1億7441万円について,D,丙寅システムが必要な資金について,Dから,こういうものに使いたいという資金用途が相当にあり,それについて,私はいいよ,分かったとか,そういう部分の中で行われていると思う。Dの都合によって動いている金である。【C24回30】

甲子フードサービスから甲戌社へ,業務委託契約(1次契約)に基づく5億の内金という形で支払として,12月27日に癸巳リースから甲戌社に約1億7925万円が,15年1月31日に辛卯リースから甲戌社に約1億7925万円が,支払われた。【C41回86】

コンピュータシステムの基本契約の一部支払ということで甲戌社に入った14年9月30日の約1億7441万円,14年12月27日の約1億7900万,1月31日の約1億7900万は,甲子フードサービスのほうに貸した。甲戌社のことには使っていない。

(4) 4月23日に壬申銀行に同行した経緯について

平成15年4月に壬申銀行を知った。

iから,「自分の友人が親しくしてる金融機関があって,その金融機関が融資先をいろいろ探してる,乙丑ソースで融資を受けないか。」,「甲子フードサービス,Aのほうはどうかな。」と言われた。そこで,Aに聞いてみた。

私は,そのころ,Aは,個人として街金などから10億円近く借金をしていたと知っていたが,甲子フードサービスは素晴らしい会社だと思っていた。【C25回85】

Aは個人的な形で負債はあるが,事業の関連もあるから,会社内で処理をしたら十分返済できると思っていた。【C41回36】

私は,Aに,街金などから借りるのはやめて,きちんとした金融機関から借りたほうがいいとアドバイスをした。【C41回89】

Aは,「金融機関はいろいろ知り合いたいんで,よろしくお願いする。」と言った。その旨iに伝え,壬申銀行に行くことになった。iは,「自分の友人が親しくしてる国会議員が,そこの理事長と親しく身内のつながりがある。」「一度,国会議員と面識ができるのもいいだろうから,あなたも来てみては。」と言った。私もその当時東京にいたので,軽い気持ちで一緒に行った。

その段階で,私自身,Aに金を貸していたが,その分を回収したいと思って,Aに壬申銀行からの融資の話を紹介したのではない。【C25回32】

4月23日,壬申銀行では,銀行へ表敬訪問したときのあいさつで,Aは,甲子フードサービスの企業の概略説明をした。Dが作成した案件リストを交付したと思う。Aは,具体的な案件に基づいて,具体的な融資の申込みをしてはいなかった。

(5) 甲戌社への入金とt電気への支払の関係について

平成15年5月ころ,Qからt電気から支払の催促があって困っていると聞いたと思う。【C41回82,42回12】

甲戌社に入金になったものが,資金繰りの問題で,甲子フードサービスと貸し借りという形で出ているので,それは甲子フードサービスから本来返してもらわなければいけないが,それは甲子フードサービスがt電気に支払うものなので,甲子フードサービス引受けの手形を出していると聞いていた。当時甲戌社の代表はDがやっていたが,AとDのほうで金の貸し借りの話があったと思う。その中で,甲戌社にそれまで入金があったものについて,t電気に払う前に,甲子フードサービスの関係とか,甲戌社のDの判断もあって,貸してるものがあるという報告は一応聞いていた。それは甲戌社が返してもらわなければいけない金で,それを返すために,手形で払うということであった。【C41回83】

5月22日の辛卯リースからのファックスは,Dがやくざに追われ雲隠れした時期で,その内容が分からないということで,甲戌社からリース会社に対し,どういう形になっているか問い合わせた中で,リース会社から返答があったものである。甲子フードサービスのコンピュータシステムの一応の総額は7億5800万円という内容と理解した。

(6) 壬申銀行からの具体的融資について

6月末に,iから,「vからの情報では,甲子フードサービスと壬申銀行が何か話し合ってるみたいだ。その話が決まったら,これに関しては議員も入ってるから,手数料が要る。手数料を頼む。」との連絡があった。

7月14日,15日ごろ,Aから甲戌社のコンピュータのシステムの購入関係で11億円の融資が決まったと聞いた。融資を受けた中からコンピュータシステムとか,甲子フードサービスの資金繰りとしての融資を受けていると理解していた。

当時,甲子フードサービスグループに,壬申銀行から借りる11億の弁済の可能性はあったと思っていた。【C25回78】

甲戌社と,この融資の資金で契約をするので,当時の社長のr,専務取締役Qに,いろいろな作業をスムーズにやってもらえるように頼んでほしいと連絡があった。

7月の14日か15日,Qから,「甲子フードサービスからコンピュータシステムについて11億ということで来てるんだけど,どうしましょうか。」という話があった。私は,「甲戌社として仕事を受けるんだったら,仕事をくれるんならいいじゃないか,作業は早く進めたほうがいいよ。」と言った。

(7) 11億円の入金について

癸酉社から甲戌社に,癸酉社が甲戌社に11億で発注したコンピュータシステムの発注代金として,7月18日に6億2716万5000円,7月25日に4億8814万5000円が送金された。壬申銀行の要望で5億と6億に分けられたと聞いた。

甲戌社から丙子社に数回に分けて合計9億7250万円が,C個人の口座に4200万円が,癸酉社の口座に1億円が送金された。

この意味は次のとおりである。

11億円で新たに発注されたわけなので,以前受け取って,仮受け,前受け勘定していた1億7400万余(1次契約の分)と2次契約の2回分の,合計5億2000万余と,甲戌社のt電気への外注費4億5800万について甲子フードサービスが引受人となった手形をt電気に差し入れていたので,この分を足した合計9億7800万はいったん精算して甲子フードサービス(A側)に返金する必要があった。

しかし,Aのほうに簿外債務の処理などの責任があった。

残り1億2000万円ほどは,甲戌社から丙子社への貸付金の処理になっている。

甲戌社では,キャパの問題があってできない部分と,甲子フードサービスと丙子社の貸借関係とか,いろいろあったので,丙子社にいったん移して処理をしている。【C41回34】

甲戌社から,本来,癸酉社に戻すべきだが,癸酉社に戻さずに丙子社に行っているのは,Aから,自分のところの支払分(癸酉社から丙子社へ)があるものについて,直接支払うよう言われたから,直接支払をした。

甲戌社に入った11億円の決算上の内訳は次のとおりである。【C41回31】

11億円のうちの7億2000万がコンピュータの開発費用で,決算上は売上げである。原価が約5億数千万で,利益は2億5000万ぐらいだと思う。

あとの3億数千万が,今後の費用として前受金という形で受け取っている。

甲戌社の決算書(スター111)の7月18日「普通預金」に「売上」6億2716万5000円と7月25日の4億8814万5000円中の,「売上」1億0814万5000円,前受金が3億8000万と書かれている。

2  Aの壬申銀行融資に至った状況等に関する供述要旨

(1) 捜査段階の供述

Aは,検察官調書において,大要,以下のとおり供述していた。

① 平成15年2月か3月ころ,Cから,「丙午の方も,金のやりくりがなかなかうまくいかなくて困っている。そろそろ,大きなまとまった金額の金を借りて,マイナスの穴埋めをして,ゼロからのスタートをしたいのだが,どうだろう。」などと言われた。私は,甲戌社の資金繰りに協力するため(一部を自己の資金繰りに回してもらえるとの読みも少しはあった。),「できるものなら前向きにやりたいですね。うまいこといくのなら,協力させてもらいます。お願いします。」などと言って承諾し,融資先を探すことになった。だいたい10億円くらいの規模を頭に浮かべていた。

② 3月半ば過ぎころ,私は10億円規模のまとまった資金を調達できるあてが見つからなかったところ,Cは,「悠長なこと言ってられんぞ。」,「こっちでも当たっているところがあるから,この話,進めていいか。」などと言って,私の承諾のもと,Cが既に相談を持ち込んでいる先を使った資金調達の話を進めることになった。

③ そして,Cは,「甲子フードサービスでこれにこれだけ要ると言って頼まないと,もう借りられないだろう。」,「丙午でやっている甲子フードサービスのコンピュータのあれ,どのくらいの金額だったか。あれ,いけるんじゃないか。」などと言い,私は,「5~6億だと思いますが,それはいいですね。あのシステム導入計画を使えば,まとまった金を回してもらえるはずですね。」と言って,甲子フードサービスのコンピュータ管理システムの導入計画の資金調達を口実にして金融機関に融資を求めることになった。

④ 4月半ば過ぎころ,Cから壬申銀行で借りることになったと言われ,4月23日の前日に東京へ行き,i及びvに会ったが,その時点では,融資を申し込む金額はCとの間で話していなかった。

⑤ 4月23日,ホテルでw代議士と会った場所か,ホテルから壬申銀行へ向かう車中かのいずれかで,「甲子フードサービスのコンピュータ管理システムの導入計画にかかる資金として,11億円が必要である。」といった内容が書かれた紙片をCから渡された。単に「11億円」と書かれていたのか,「何億円と何億円」といくつかに分けられていたのかは,記憶がはっきりしない。

(2) 公判供述

これに対し,Aは,公判では,大要次のとおり供述する。

Cから,市中金融業者からではなく銀行で借入れ(借換え)をすべきだと言われ,私も融資先の銀行を探し,Cも融資先の銀行を探してくれることになった。Cから「見つかったの。」といわれ,自分が「まだ見つかっていません。」と答えると,「こちらの方でも心当たりがあるので紹介を進める形でいいか。」と言われ,「ぜひお願いします。」と答えたことはある。また,Cから,「きっちりした内容で銀行に話をしないと借入れはできない。」と言われた。

3  争点に関する事実の評価について

本件において,多数の者が,それぞれの利害から関係している上,関係者の供述には,相互に齟齬していたり,供述自体変遷していたりするので,その信用性判断には,慎重な考慮が必要である。

そこで,まず,証拠上明らかな客観的事実を前提として,Cの故意,共謀に関する事実関係の評価について検討する。

(1) Cの故意・共謀を肯定する事情について

Cの故意・共謀を肯定する方向で働く事情として,以下のものが認められる。

① Cは,以下のとおり,丙子社を通じ,甲戌社の経営にある程度関与し,甲戌社の状況に相当の利害関係を有していた。

平成14年5月,丙子社は,Cの出資により,資本金が1000万円から5500万円に増資され(代表取締役はB,D。取締役はC,A。),Cは,丙子社を実質的に経営するようになった。

また,Cは,乙丑ソースの簿外手形の処理等に必要な資金について,Dを含めたA側からの入金やその支払の処理を丙子社を通じて行うようになっていた。

Cは,小口の経費を除き,丙子社に入金のあった資金の割り振りの判断・了承を行っていた。

同年8月,丙子社は,甲戌社の全株式を取得し,Cは,甲戌社の実質的オーナーとなった。なお,Cは,自ら又は丙子社を通じて甲戌社に貸付けを行っていた。

他方,甲戌社では,Dが代表取締役となった平成14年以降,従前と同様に,東京支店を中心に,液晶ディスプレイや電子部品の販売等を行っていたが,本件当時,業績はよくなかった。

また,甲戌社の大阪本店では,Dが丙寅システム当時からの従業員であるQらとともに,甲子フードサービスのコンピュータシステムに関連する業務を行っていたが,その他の仕事は特筆すべきものはなかった。

甲戌社は,本件当時,給料の遅配が出るほどではないものの,家賃が払えないといった状況で,経営状態は良くなかった。【甲58,Q92,97】

Cは,丙子社を通じて甲戌社の実質的オーナーであったから,仮に甲戌社が破綻すれば,株式入手のために投下した資本の回収を図れなくなる不利益があった。

また,甲戌社に対し,しばしば貸付を行っており,甲戌社の破綻により,貸金の返済が受けられなくなるおそれがあった。

② Cは,甲戌社が甲子フードサービスとの間で行っていたコンピュータ管理システム導入に関する取引に関する情報をある程度得ていた。

同年6月21日付けのQが作成した甲子フードサービスと甲戌社とのコンサルティング契約についての甲戌社の業務報告書には,左肩部分に,Dの押印があるほか,Cの署名があった。

平成15年1月27日付けの甲子フードサービスの発注・売上・勤怠システムをt電気に二次請けすることについてのp作成の甲戌社の稟議書(税込735万円の分析確認の注文書と税込4億4100万円の同システムの注文書が添付されたもの)の決裁欄には,Dの押印のほか,Cの署名があった。

同年4月9日付けのQが作成した重要案件業務報告書(本件発注・売上・勤怠管理システムの開発に関し,既存システムに修正の必要が生じ,120万円の追加費用が発生することを報告するというもの。)の左肩部分に,Dの押印のほか,Cの署名があった。

③ Cは,Aに壬申銀行を紹介し,4月23日,A,v,wと共に壬申銀行本店に赴き,銀行法人開発部長M,同部マネージャーNと面談した。

④ Cは,6月下旬,Qから,Aが11億円で融資を受けたいが,エビデンスを要求されているがどうしたらよいかと相談された際,Qらに対し,「昔そういう計画があったかもしれないから,できることは協力してあげて。」などと言った。その後,Qらは,11億円の見積書を作成し,Aに交付した。

⑤ Aは,Cに,融資決定前に,壬申銀行からの本件融資の動向に関して,次のように多数のメールを送信していた。

7月7日「壬申BKからは,何もありませんが,良い知らせなんでしょうか?こちらからBKに,連絡入れましょうか?」

7月11日「壬申BKの来社した後,壬子BKに走ります。」

7月14日「壬申銀行もやり遂げますから心配しないで下さい。」

7月15日「今,壬申BKから決済が降りたので,明日来てくれないかと,電話があり,会社に戻り,スケジュールの変更,段取りをします。首が,繋がります。」

これらのメールによれば,Aは,当時Cから4億円余りの返済を求められ,手形も差し入れていた状況であったため,返済できない言い訳を繰り返していたとみられるところ,この時点においては,AがCへの借入金を,壬申銀行からの融資金によって返済する意図であること,Aが資金繰りに窮していたことを,Cは明確に認識していたと認められる。

⑥ AとCは,融資決定前に,本件融資に必要な書類についてメールでやりとりをし,Cは,Qらに作成の確認をした。

7月16日,Aは,Cに「後,2点提出しなければなりません。1点目は,甲子フードサービスの議事録で,2点目は,甲戌社と癸酉社との売買契約書です。明日の朝までにいりませ。」[原文ママ],「明日,提出の議事録は,当社で作成しますが,売買契約書は,そちらで作成願います!」とのメールを送った。

Cは,同日,Aからのメールを受け,Qらに対し,売買契約書(注文書・注文請書)を作ることができるかを尋ね,Qらから可能である旨の返答があったことから,Aに対し,その旨をメールで返信した。

Aは,これに対し,同日,「明日の朝,9時迄に頂ければと思います。当社に持って戴きたいです。宜しくお願いします。追伸:送金は18日と25日に別れて,甲戌社に支払いされます。」とのメールを送信した。

Qらは,癸酉社からの注文書・甲戌社の注文請書(合計金額約11億円のもの)を作成し,Aに届け,Aは壬申銀行に送付した。

⑦ 7月17日から18日にかけて,Aは,Cに対し,次のようなメールを送信し,壬申銀行からの融資金についての使途の相談をし,Cの承認を求めるような態度を示していた。

「壬申銀行BKは,順調に進んでおります。先日,貴殿より頂いた□で,3.3の残りについての使い道ですが,京都への2.6を返済してしまいたいのですが,難しいでしょうか?」

「失礼しました。2.6の半分の1.3でも戻したいのですが,駄目でしょうか?と,言う□でした。」

「壬申銀行に確認を取りました。問題なく進んでおります。京都への返金の1は,手数料無しの借り入れも,≪略≫氏の組合を通してしましたので,彼の金融機関を水面化する為に,通します。今までの繋ぎの金利も通してます。宜しくお願い致します。」

「今,壬申銀行から,送金済みの電話がありました振り込み銀行庚子≪略≫支店(普)≪略≫癸丑社」

「7/18 627,165,000円 7/25 488,145,000円合計1,115,310,000になります。以上になりますが,壬申銀行さんからは,1,100,000,000なので,癸酉社の壬申銀行口座に15,310,000を入金の必要がいります!ご確認を宜しくお願いします。」

「入金を確認が出来て本当に良かったです。『Cさんの仏の顔も3度まで』ですので,ありがとうございます。癸丑社へ振込みが,終わりましたら,ご一報をお願いします。壬申銀行への差額入金は,25日迄に実行して頂ければと思います。休み明けの22日の12時では,どうでしょうか?それとプラス22日に5千万の資金をお借り出来ますでしょうか?」

⑧ Cは,甲戌社に入金された約11億円について,pに対し,その振り分けの指示をした。

7月18日,前記振込依頼書に基づき,癸酉社の口座から,甲戌社に対し,6億2716万5000円が送金された。甲戌社において,同金員は甲子フードサービス分癸酉社の売上として会計処理された。

7月25日,前記振込依頼書に基づき,癸酉社の口座から,甲戌社に対して,4億8814万5000円が送金された。甲戌社において,同金員のうち,1億8814万5000円は甲子フードサービス分癸酉社からの売上として会計処理されたが,3億8000万円は甲子フードサービス関係での前受金として処理された。

甲戌社への入金を受けて,Aの依頼に基づき,Cは,pに指示して振り分けを行い,7月18日から8月25日にかけて,前記甲戌社の口座から,丙子社の口座に合計9億7250万円(このうち3億2500万円は,Cの個人口座である≪略≫銀行九条支店の丙子社名義の口座),Cの口座に合計4200万円,癸酉社の口座に1億円が,それぞれ振込入金された。

Cがpに渡した振り分け用の指示メモには,Cの自筆で,「(癸酉社より前受金)」との記載があった。

⑨ CのAへの貸付残高は,平成15年1月初めから3月末までは最高額3億5100万円で,最低額-3700万円であり,4月初めから6月末までは最高額4億3700万円,最低5200万円であり,7月初めから7月18日に癸酉社から甲戌社に入金されるまでは,最高額4億5600万円,最低額4億4100万円であり,相当多額の金員を繰り返し貸し付けては返済を受けていたが,本件融資金の甲戌社への入金後,Cへの返済に4億3500万円が充てられ,貸付残高は相当に減少した。

⑩ Aは,Cに連絡して,壬申銀行への返済金の入金を依頼している。

8月7日,Aは,Cに対し,「壬申BKより電話があり,先月末の返済が3,500千円不足になっているようです。明日までに入金をお願いします。」とのメールを送信した。

⑪ Cは,甲戌社に入金された約11億円の入金の使途について,Aに対して報告している。

8月13日,Cは,Aに対し,「大変遅くなりました。資金の流れを報告します。入金は丙五社110000,出金は,i関係(手数料)5500,立替清算1720,米や(通常)2000,借入返済43500,乙亥社,癸酉社,癸丑社25000,月末支払(甲寅,戊辰,壬申銀行他)7514,庚寅社4300,米や(緊急融資8/14分)2200,米や通常8/19分2000,借入返済2950,8月末支払い8150,i返済8月末7000,合計▲1834です。壬申銀行関連については上記になります。先日,入金予定の報告が有りましたが精度はどの様ですか。休み明けに協議して資金の調達するのが最良ですが,一応10000は借入準備します。」などというメールを送信した。

⑫ Aは,Cに対して,t電気に関する支払いに関して相談をしている。

8月23日,Aは,Cに対し,「下記の事についての確認をお願い致します。記 Ⅰt電気への支払い:2回に分割①25日に二億円送金と為替手形(9月20日払い)手形の用意を25日の早朝に処理を希望します。②9/20迄に送金(検収を早急に済まし,リースを実行させる)・・・」とのメールを送信した。

8月24日夜,Aは,Cに対し,「急遽明日に,tに支払う2億の調達先の,社長から『明日の朝の9時に,面談をしたい』と,要望があり,いかしかたなく[原文ママ]行く事になりました。7時半に,当社に来て頂く事は,可能でしょうか?ご返事をお待ち致しております。」とのメールを送信した。

Aは,t電気への残額約2億4800万円の支払いについて,Cに依頼して,9月19日,Cの個人口座である≪略≫銀行九条支店の丙子社名義の口座から,甲戌社名でt電気に振込み入金した。

⑬ Cは,本件貸金について,支払うべき甲戌社からt電気への下請け代金に支払われず,Aの簿外債務の処理資金に使用されると認識していたとみられる。

平成14年9月30日,同年12月27日及び平成15年1月31日に甲戌社に入金された金員の使途は,丙寅システムのほか,Aの簿外債務の処理資金等に充てられたが,Cは,各入金があったことは当時から知っていたこと,9月30日入金分は,Dが使途を決定しつつも,Cが了承したものであること,これらの金員からA側へ貸し付けたと認識していたことを供述しており(C24回28以下,41回85以下),これらの金員のうち,後2回分には,Cへの返済に充てられたものも含まれていたのであるから,その使途は当時から認識していたといえる。

そして,本件11億円の融資金も,前述のとおり,Aの簿外債務等に使用されている。

そうすると,本件11億円が甲戌社に入金されれば,簿外債務の処理資金等としてAに使用させることもあり得ることは,Cも概括的には予見していたと推認できる。

⑭ 平成15年4月当時,CはAが個人として市中金融等から10億円近い借金をして,その返済に窮していたことを認識していた。

(2) Cの故意・共謀を否定する事情について

Cの故意・共謀を否定する方向で働く事情として,以下のものが認められる。

① Cは,甲戌社の代表取締役でも取締役でもなく,甲戌社の債務を個人的に保証していたこともうかがえず,甲戌社が破綻しても,上記債権を失うこと以上の責任を負担する立場にはなく,C個人が経済的に破滅するものではなかった。また,C自身が相当程度の資産を有しており,甲戌社が破綻しても,Cが生活のすべを失うというものでもなかった。

したがって,Cは,甲戌社の資金繰りにある程度の利害関係を有し,これを好転させる動機はあったものの,甲戌社と運命共同体であったとはいえない。

② Cは,甲戌社と甲子フードサービス間のシステム導入に関する情報をある程度得ていたが,平成15年2月20日付け甲子フードサービスの発注・売上・勤怠管理システムについての重要案件報告書(「納入予定の平成15年5月末に向け,昨年12月末に最終分析設計を完了し最終のシステム仕様が確定いたしました。」とし,支払予定の確認を求め,「t電気(株)向け 注文総額 420,000,000円(税別)」との記載があるもの)には,Dの押印はあるが,Cの署名はなく,また,同日付けQ作成の支払申請書(分析設計作業735万円とシステム開発1/3分1億4700万円の支払申請)の承認欄に,Dの押印はあるが,Cの署名や押印はない。

Dは,同システムの件はもともと丙寅システムが手がけていたものであるという経緯から,Cには,二,三ヶ月に一回程度報告した,予算が変わらない限りその件については報告する必要はなかった旨供述する。

同システム導入について,主としてA及びDの間で進められてきたもので,Dが事実上代表取締役を退任した5月前後ころ,甲戌社が辛卯リースから自社作成の見積書を逆に送付してもらい,Qはリースについて詳しい状況を承知しておらず,「顛末書」と題する書面でCに報告を上げており,Cが,同システムについて,正確な情報を有していたとはいえない。

③ Cは,Aに壬申銀行を紹介し,4月23日,Aに同行して壬申銀行を訪問し,Aと壬申銀行の面談に同席した点について,Cは,「iに勧められてw代議士に会った。wに勧められ,乙丑ソースへの将来的な融資を念頭に,(壬申銀行とのコネクションを作るために)行った。」旨供述する。【C22回43以下】

i 4月23日に壬申銀行を訪問した際,Cは丙子社会長の名刺を出し,Aは,甲子フードサービス及び癸酉社の代表取締役の名刺に加え,丙子社最高執行責任者の名刺も出した上で,「いずれ乙丑ソースの再建についても相談したいので,丙子社の会長をしているCも連れてきた。」と説明したこと,同日Cが壬申銀行との面談の席上,ほとんど発言しなかったこと,詳細な資料を準備して持参したわけではないこと

ii Aの前記捜査段階の供述によれば,3月半ばころには甲子フードサービスのコンピュータシステム導入計画を口実とした融資による詐欺の謀議が成立しているというにもかかわらず,犯行当日になって初めてCからAに詐取金額である11億円という数字が紙片で示されたのみで,それまで詐取金額も示されず,また,欺罔文言についてのレクチャーもなく,更に,詐欺を敢行するほど甲戌社の資金繰りが切羽詰まっていたというのであれば,迅速に融資実行までたどり着けるように初回の訪問から十分な資料等をCにおいて準備しておくか,CがそのようにAに指示していてしかるべきであるのに,このような準備もされていないというのは不自然,不合理ともみられること

iii 4月23日以降,6月10日ころまで,Aは,壬申銀行に対し,積極的に11億円の融資を進めたような事情はうかがわれず,また,CがAに対して,壬申銀行との融資の話を進めるように督促したような事情も認められないこと

iv 3月半ば過ぎころからCがAに「悠長なこと言ってられんぞ。」などと言っていたというのであることと符合しないこと

をも併せ考慮すると,Cの同席が,A供述のような詐欺の謀議があったことに結びつくかは疑問が残る。

④ Q作成の内容虚偽の約11億円の見積書の作成は,Aが,Qにこれを依頼し,更に2通の見積書に分割させて作り直させたものであるのに対し,CのQへの指示は,当初の見積書作成の段階で,CがAに協力するように指示したもので,その文言も「11億円の計画があるから,Aに協力してやって欲しい。」という程度のものにとどまる。

⑤ 前記AからCへの壬申銀行から融資に関するメールは,7月に入ってきてからのもので,これが事前共謀を認めることに直結するものといえるかは問題である。

⑥ Cは,前記のとおり,11億円の振り分けについて,pに指示してこれを行い,メールでAに報告しているが,甲戌社に入金されたのは前記認定事実のとおり壬申銀行の意向によるものであり,Cの意向によるものではなかった。

また,11億円の使途をみると,癸酉社・乙亥社・癸丑社への振込み(2億5000万円。うち癸丑社が2億円),甲寅銀行への返済,壬申銀行への返済金等,庚寅社への返済金(4300万円),甲午南食料販売店への緊急融資(2200万円),同通常融資(合計4000万円),≪略≫等への返済金(2950万円),その他(甲寅銀行等)の月末支払(8150万円),iへの8月末の返済(7000万円)といった,簿外債務の返済等Aの用途に費消されているものが多く,Aの意向に従って資金の振り分けがなされたことが推認される。

⑦ 本件11億円の融資金中,約4億3500万円がAからC側への返済金に充てられ,うち3億円強がCの口座に入金されたことはCも争っていないところ(C41回99),Cは,本件11億円を原資として,前記金額の返済を受けるという利益を得ている。

もっとも,Cは,前記のとおり,Aへ資金使途を報告するメールを送った当日に,8000万円ないし1億円の資金提供に応じるメールをもAに送っており,返済を受けた一方で,貸付に応じる姿勢を示している。また,約4億円余りについて甲子フードサービスの手形も交付させており,必ずしも壬申銀行からの融資金による返済にこだわっていたとまではいえない。また,甲子フードサービスの手形を交付していたAにおいて,手形を取り立てに回されないために,積極的にCに返済し,手形を取り戻す必要が高かったとみることもできる。

したがって,Cが自らAを焚き付けて,自己の債権回収のために,Aに本件融資を受けさせることに直結するものとはいえない。

⑧ 壬申銀行への返済金の依頼や,t電気への支払の相談も,Aが,資金繰りに苦慮していたことから,Cに相談したり援助を求めたりしたとみられ,本件詐欺の故意・共謀に直結するものではない。

4  詐欺の故意,共謀についての判断

(1) 4月23日以前の謀議の有無について

検察官は,Aは,Cとの間,壬申銀行から融資金名下に金銭を詐取することを謀議したと主張する。【論告p44】

検察官の上記主張は,Aの検察官調書(主に乙38)におけるA供述を基にしたものであるから,同供述の信用性がひとまず問題となる(なお,Cの検察官調書は,既に判示したとおり,任意になされたものでない疑いがあり,証拠能力を欠く。)。

その信用性判断には,前記のような本件に関するCの関与状況も重大な意味を持つ。

そこで,この点について検討する。

① 前記3(2)の①,③,⑥,⑦に照らすと,Aの捜査段階における供述の,平成15年2月か3月ころ,Cから,Aに,甲戌社の資金繰りのために,大きな金を借り入れるよう要請し,そのために,甲子フードサービスのコンピュータシステム購入計画を口実に,壬申銀行に融資を求めるようになったとの部分は,不自然,不合理な点がみられる。

② 平成15年4月当時,金に最も困っていたのは,Aであった。

③ Aは,Cから働きかけられ,主として甲戌社の資金繰りに協力するため,本件犯行に荷担したと供述していたが(もっとも,一部は自己の資金繰りに回してもらえるとも考えていた旨供述していた。),約11億円の使途としては,実際には癸丑社への振込や甲寅銀行への返済等甲子フードサービスの簿外債務の弁済等のAの支払に多額の資金が費消されており(Aも公判で自己の支払うべきものであったと認めている(A40回88以下)。),その犯行動機についての供述部分は不合理であるとともに,Cに責任転嫁を図っていたことがうかがえる。前記認定事実から,Aは,合計4億円余りのC側からの借入について,手形を振り出しており,返済せざるを得ない状況にあり,約11億円のうちC側に流れた4億3500万円は同返済に充てられたが,取調べ済みの証拠上,このような自己に不都合な事情を供述した形跡はない。

④ Aは,再生債務者としての甲子フードサービスの代理人弁護士には,癸酉社から甲戌社へ送金した本件詐取金合計約11億円を含む金員につき,「甲子フードサービスは業務委託契約に基づく支払であり,残余はシステム開発資金として甲戌社に貸した。」旨説明し(弁352[6438丁裏,6451丁]。前記代理人ら作成の平成16年4月15日付け調査報告書,引継報告書。なお,同代理人らは,Aを癸酉社における特別背任罪等で告訴予定であったとされる。),β弁護士(監督委員,その後,癸酉社及びAの破産管財人)に対しては,「甲戌社から運転資金が足らないので何とかして欲しいと頼まれたので,癸酉社から融資した。」旨供述し(弁352[6459丁裏]。同弁護士作成の平成16年4月22日付け報告書),「平成15年7月ころ,甲戌社に対し貸付をする必要が生じた。甲戌社に対する貸付のために,金融機関から融資を受けることを考えた。」などと説明し(弁352[6375丁]),自己の利得を隠蔽しつつ,場当たり的に説明内容を変容させながら,責任回避を図っていたことがうかがわれる。

⑤ 検察官は,Aは,甲子フードサービスの代表取締役を(実質的には)解任され,民事再生手続を申し立てられた後も,Cから生活費や子の学費等の資金援助を受けていたことから,捜査段階においてAがCに不利な虚偽供述をするはずはない旨主張する。しかし,Aは,強制捜査開始前,Cに資金援助を受けていた時期にも,監督委員等に対し,本件約11億円につき,自己の利得には言及せず,甲戌社への貸付であるなどと明らかな虚言を述べていたもので,A自身,監督委員等から特別背任での告発を視野に入れた追及を受けていたのであるから,検察官主張の点をもってCに殊更不利な供述をすることは考え難いということはできない。

⑥ Aは,公判で,検察官調書での供述について,「自分が助かりたいために取調官の言うとおりにすれば,少しでも助かるのではないかと思った。」(A17回44)旨の供述しているところ,Aは,公判で,β弁護士らからの事情聴取に際し,背任罪ないし特別背任罪での責任追及から逃れるため,乙丑ソース側になすり付け,虚偽の説明をしたことを自認していること(A39回35以下),公判での弁解をみても,DやFら他の共犯者の責任を強調し,自己の責任回避の態度がみられること,前記のとおり,甲戌社の資金繰りに協力するとの動機が不合理で,捜査段階の供述自体からも,Cに責任転嫁を図っていることがうかがわれることにかんがみれば,Cに責任を転嫁しようと,Cから共謀を持ちかけられたなどと供述したとみることが合理的である。

以上検討したところによれば,Aの検察官調書における前記謀議についての供述部分は信用性が高いものとはいえない。前記3(1)の肯定事情によれば,状況事実に照らして事前謀議があった疑いはあるものの,前記3(2)の否定事情等に照らすと,Aの検察官調書における供述のような形での事前謀議があったと認めるには合理的疑いが残るといわざるを得ない。

(2) 実行行為時の故意・共謀の有無について

ア Cの本件コンピュータシステム導入計画に対する関与状況について

C自身にはコンピュータの知識はなく,業務のコントロールはDが行っていた。しかも,本件甲子フードサービス向けコンピュータシステム導入計画は,もともと平成12年10月ころから(遅くとも平成13年ころから),Aと丙寅システム代表取締役としてのDが相談し,メーカーから見積もりを取るなどし,平成14年の6月にAとDでコンサルティング契約を済ませており,コンピュータシステムの分野は専門性が強いことも考慮すると,Cの関与するところは大きいものとはみられない(Dは,同システムの件はもともと丙寅システムが手がけていたものであるという経緯から,Cには,二,三ヶ月に一回程度報告した,予算が変わらない限りその件については報告する必要はなかった旨供述する。)。

平成15年2月20日付け,同システムについて,「昨年12月末に最終分析設計を完了し最終のシステム仕様が確定いたしました。」,「t電気株向け 注文総額 420,000,000円(税別)」との記載があり,支払予定の確認を求めるQ作成の重要案件報告書には,Dの押印はあるが,Cの署名はない。

したがって,少なくとも,Cが,自己に支払予定等を逐一報告させ,下請先や契約金額を自ら決定するなどしていたとはいえず,むしろ,経理面を通じて甲戌社を管理していた一方で,業務面はDらコンピュータシステム等の知識・経験のある代表取締役の裁量に任せ,自らはほとんど関わっていなかったともみられる。

また,前記のとおり,Dが不祥事を起こし,5月ころに代表取締役を事実上退任したため,Q及びrが後に代表取締役に就任しているところ,両名が代表取締役となったのは,Cの意向によるものではあるが,QがDのもとで本件システムの導入計画の現場で作業をしてきたこと,C自身にはコンピュータの知識がないこと等にかんがみれば,Dが甲戌社から離れたことから,Cが業務面についてまで,甲戌社を実質的に経営するようになったともいえない。

更に,平成15年5月22日,甲戌社は,辛卯リースから,甲戌社作成の約7億6800万円の見積書を取り寄せており,D以外の甲戌社従業員の手元には,同リース会社に提出した明細もなかったものとみられること,同月26日付けで,Q及びrが作成した顛末書(宛名からCに報告したとみられる。)によれば,リース会社との確認を進めるうちに,「リース総額(約7億)の件やリース会社(癸巳リース)がもう一社ある件など不明確な部分が出てきました。」というのであって,この時点で,D以外には,甲戌社側で本件システムのリース関係等重要な情報が把握できていなかったと認められるが,Cがこれらの点を知っていれば,Qらが調査を行った上,リースの実行に支障が生じたなどとしてこれらの事情をCに報告する必要はないのであるから,Cもこれらの点を詳しくは知らなかったと考えられる。

以上みたところによれば,Cは,DやQらから適宜報告を受け,本件システムについても相応の理解をしていたものと認められるが,その詳細を理解していたとみることはできない。

イ コンピュータシステム導入計画との関係についての認識

(ア) この点,

① 前述のとおり,実体としては,発注・売上・勤怠管理の3システムのみの代金額(甲子フードサービスとの業務委託代金)は,約5.5億円にとどまるもので,5月22日に辛卯リースから甲戌社へファックスされた見積書も,これを精査すれば,財務系システムが加えられて約7億6800万円とされていると知り得たこと

② 平成15年4月16日付けQ作成の「「甲子フードサービス殿 システム導入」の経緯」と題する書面では,同年1月17日,甲子フードサービスへ約5.5億円の見積を提示したことが記載されていること

③ 甲子フードサービスと甲戌社の間で,約5.5億円の業務委託契約書は作成されているが,約8億円の業務委託契約書は作成されておらず,癸酉社と甲戌社間の注文書・注文請書が作成されたのみにとどまること

が認められる。

(イ) しかし,他方,

① 平成14年8月ころから,A及びDが,リース会社との間で,本件システムは約8億円であるとして交渉してきたこと

② 平成15年4月16日付けQ作成の「「甲子フードサービス殿 システム導入」の経緯」と題する書面では,同年1月17日,甲子フードサービスへ約5.5億円の見積を提示したことが記載されているものの,他方で,同書面には,「機器台数や仕様の変更があるため,調整はある。」とされていること

③ 同年4月16日,Dから,乙卯グループ宛てに「甲子フードサービス殿/癸酉社請求一覧表」と題する書面がファックス送信されているところ,同書面には,発注・売上・勤怠管理システム等につき,合計約8億5000万円との記載があること

④ 同年5月22日,前述のとおり,辛卯リースから合計約7億6800万円の見積書がファックス送信されているが,その際,ファックス用紙の1枚目に同リース会社の担当者が,見積書合計額は同合計金額であるが,リース会社2社で契約済みのものは約7億5800万円であるなどと記載している一方,同日まで同見積書は甲戌社にはなかったとうかがえる上に,同見積書明細は小さな文字で専門用語が並ぶコンピュータの専門家以外には容易には理解し得ないもので,Cが同見積書明細を子細に検討したとは断じ得ないこと

⑤ 甲戌社の経理上,平成14年9月30日,同年12月27日及び平成15年1月31日に支払われた本件コンピュータシステムの代金合計約5億3200万円(リース会社2社からのリース金によるもの)は,仮受金ないし前受金(当初は仮受金とし,年度末に前受金に振り替えた可能性がある。)として処理され,売上とはされていない。これは,同時期において,「当初は7~8億円であったが,暫定的に5億円とした代金の内金と聞いたので,仮受金として処理した。」旨のC供述に沿うものであること(もっとも,pは,捜査段階において,初回分については,CからもDからも指示がなかったので,やむなく仮受金として処理したと供述する。)

にかんがみれば,Cにおいて,5月22日までの段階においては(後記ウの点を考慮すると),7~8億円の甲子フードサービス向けコンピュータシステム導入計画が実在していたと考えていたとの合理的疑いは排斥し難い。

ウ 本件融資と11億円のコンピュータシステム導入計画との関係についての認識について

Cは,Qから11億円の見積書を作ることについて相談を受けた際,そのような計画があったかもしれないから,Aに協力するようにとQに指示しているので,Cが,計画分と併せて11億円のコンピュータシステム導入計画が実在すると認識していたか,計画分の実現可能性をどの程度と認識していたか,問題となる。

(ア) この点,

① 甲戌社では,8億円弱の計画に基づく入金を,会計上,仮受金として処理していたところ,平成15年7月18日及び25日に癸酉社から入金された合計約11億1500万円のうち,3億8000万円を前受金,その余を売上として会計上処理しており,また,Cは,pに約11億円の振り分けを指示したメモにも,その趣旨は明確ではないものの,「(癸酉社より前受金)」との記載をしていたことにかんがみれば,前受金相当分が未着手分,売上と計上したのが着手済みの分であると考えて,Cがこのような会計処理をpに指示したともみられること

② 前述のとおり,約11億円の見積書は,5.5億円の見積書と子細に対比すれば,その虚偽性は明らかであるものの,Cは,11億円の見積書を作ってよいかとのQの相談に対し,前記認定事実のとおり,「協力してやって。」という程度の簡単な指示を与えたにとどまり(この点は,Qの捜査段階の供述によっても,変わるところはない。),約11億円の見積書やこれを分割した2通の見積書も事件当時は目にしてはいなかったもので,金額を上乗せした態様も知り得なかったこと(なお,注文書及び注文請書も,CがAの依頼を受けて,Qらに作成できるか確認しているが,Cはこれらを見ておらず,日付を遡らせていたことも認識し得たとはみられない。)

③ 上述のとおり,Cは,4月23日の段階で,「案件リスト」を目にしたことを否定し難いところ,これには6億円と5億円とに分けられて,合計11億円の売上等管理システムが,癸酉社の甲子フードサービスへのリース案件として挙げられていたこと

④ 甲子フードサービス向けコンピュータシステム導入計画は,構想のレベルでは30億円前後であり,平成14年9月10日付け「第2期 システム 企画書 社内グループウェアについて」と題する文書において,1期の発注・売上・勤怠管理システムに加え,2期システムとして,グループウェア及び本部管理システムの強化をする(約4億8500万円)という企画が案出されており,甲戌社が,t電気のuからグループウェアやネットワーク再編成等で概算2~3億円との回答を得ており,前記のような早い時期から,相当金額で,追加の2期システムが企画されていたこと(なお,同月4日,約5億円の業務委託基本契約及び業務委託個別契約が甲戌社と甲子フードサービスの間で締結されていた。)

⑤ 平成15年7月上旬の段階において,1期システムとされた発注等管理3システムの検収は未了であり,2期システムの着手に取りかかる目処は立っておらず,実情は企画倒れであったといわざるを得ないが,同年2月20日付けQ作成の重要案件報告書には平成15年5月末に納入予定である旨の記載があり,同年5月26日付け顛末書においても,当初の予定6月1日検収(5月末日までに検収書発行)予定であったと記載されていたこと(なお,甲子フードサービスの会計年度は,6月から翌年5月までであったところ,Aは,年度予算制を理由に支払を5億円と説明していたとも考えられる。)にかんがみれば,2期システムの開発は近い将来に行われるものであると認識していたともみられること

のみに着目すれば,Cにおいて,将来分も含めれば,約11億円のコンピュータシステム導入計画があったと誤信したとみることもできないものではない。

(イ) しかし,他方

① Aは,5月23日のメールで,Qに対し,リース会社に提示している8億円弱というシステムの代金額を甲子フードサービスの担当者らに伏せておくように指示しているところ,Qは,同メールを受信し,同メールをCに見せ,報告したと供述するので(Q49,78,104),Cにおいても,甲子フードサービス社内において,上記8億円弱の計画が受容されていないと認識していたとみられること

Aのメールは,甲子フードサービス向けの「表」以上にリースを組んでいることを明示した上で,「癸酉社は甲子フードサービスに裏は言わないし裏での請求はしない。」などと,リースを組んでいる8億円弱の金額では,癸酉社から甲子フードサービスへ請求する意思がないことを明らかにしている。

そして,本件コンピュータシステムは,甲子フードサービスに導入されるものであり,商流としては,甲戌社から癸酉社にコンピュータシステムが販売され,癸酉社から甲子フードサービスへリースされることが予定されていた。エンドユーザーである甲子フードサービスが,癸酉社へのリース料という形にせよ,最終的に経済的負担を負うのであるから,甲子フードサービス社内に受容されない限り,癸酉社が購入したとしても無意味であるといわざるを得ず,例え8億円弱のコンピュータシステム導入計画が実在しても,なおAの独断による単なる計画にとどまり,購入計画としては実現可能性のないものにすぎないとみられる。

したがって,前記リースはAとDで進めたもので,水増しリースにすぎないものであること,Aの全くの独断専行であることを仮にCが十分知らなかったとしても,前記メールを見た5月23日ころ以降は,Cは,5.5億円分以上のシステムの購入計画については,社内のコンセンサスは十分ではなく,上記8億円弱の計画は,架空ではないにせよ,実現の見通しの低いものであることを認識していたと認定できる。

そうすると,Cにおいて,約11億円の計画も,同様に実現の見通しの乏しいものであるとの認識を有していたことが帰結するものといわなければならないから,11億円のコンピュータシステムの購入費用が差し迫って必要なのではないことを認識していたと認められる。

② C自身,これまで本件コンピュータシステムに関して甲戌社に入金された金員の使途やAの経済的窮状に照らせば,本件11億円が甲戌社に入金されれば,簿外債務の処理資金等としてAに流用させることになり得ることは認識していたと認められること

③ AのCに対する7月15日のメールには,壬申銀行からの融資決済により,首が繋がる旨の内容が書かれており,これは,壬申銀行からの融資金が将来のコンピュータシステム導入のために使われるためのものではなく,自らの差し迫った借金返済のためのものであることを明らかに意味しており,Cもこの趣旨を理解していることを前提に前記メールは送られたものとみられること

④ そして,実際に,本件では,コンピュータシステム購入代金として,壬申銀行からの借入金を原資として癸酉社から甲戌社に支払われた約11億円が,下請けであるt電気への代金等に充てられず,Aの簿外債務等の返済資金(前記のとおり,その一部はC側への返済分である。)に充てられていること

この点について,Cの弁護人は,既に受け取っていたコンピュータシステム相当額の返金・精算と,為替手形により甲子フードサービスがt電気に支払うべき再業務委託料相当額の交付が必要であったことから,壬申銀行から甲戌社に入金された金員をAに戻したこととした上,Aの支払うべき先へ代わりに支払ったものであると主張し,Cもこれに沿う供述をする。

確かに,コンピュータ代金として甲戌社に支払済みであった約5億3200万円は,壬申銀行からの融資を原資として癸酉社から甲戌社に支払われた11億円と二重払いになるので,返還・精算することは不自然とはいえず,辛卯リースへの返金分は,8月6日にAが要求したものであることは,これを整合するといえる(もっとも,A側の事情とはいえ,癸巳リースへの返金は現実にはなされていないし,甲戌社側もこれに関心を示した形跡はない。)。

しかし,t電気電気に対する再業務委託料約4億4800万円をみると,本来,契約当事者である甲戌社が支払を受けた11億円を原資として支払うべきであって,これを一旦A側に交付した上,直接の契約当事者でないAにおいて支払うなどという迂遠な方法を採ることは不自然さを否めない。

なるほど,A(甲子フードサービス)はt電気への支払につき,甲戌社が振り出した為替手形(当初は平成15年4月18日,その後,同年7月7日)を引き受けている。一般的には,引受人が支払うことも取引通念上不合理というわけではない。また,同手形の期日は8月31日であったから,Aとしては,同日に支払をするまでの間,資金を活用できることはメリットといえるので,前記再業務委託料相当額をA側に交付することも直ちに不自然・不合理というわけではない。

しかし,甲子フードサービスは,t電気の甲戌社に対する業務委託契約を保証し,t電気は,同為替手形を支払のためではなく,保証のために預かることを手形預り証においても明示している。

t電気は,最終的にAに支払を求めているものの,t電気は,契約当初から甲子フードサービスの信用を評価し,連帯保証を徴求していたのであるから,甲戌社が支払をしなかったため,連帯保証人に支払を求めたともみられ,当初から甲子フードサービスが業務委託料を支払うことを前提として,為替手形を引き受けたとはいえない。

また,現実にはA側に金員が交付されず,精算処理をするにすぎないのであるから,支払のためにはA側で別途資金調達をする必要が生じるのであって,壬申銀行は,11億円を支払ったのに,その金員がt電気への再業務委託料の支払には充てられていないことになることは変わりがない。まして,甲戌社は3月末日の初回分代金支払期限以降,t電気に全く代金を払わないまま8月13日に至っており,Cは,5月ころ,t電気に対し支払ができていないことを聞いていたというのであるから(C41回82),t電気への再業務委託料を支払っておかなければ,契約上トラブルが生じ,甲子フードサービスへのコンピュータシステム導入計画に支障が生じかねないことも併せ考慮すれば,A側で新たに資金調達をしてt電気に支払うなどという不安定な状況を作り出すことは合理的な行動とはいえない。

更に,Aは,8月20日,t電気と面談して支払期日を延ばし,8月25日に2億円,新たな手形(9月20日期日)の前日となる9月19日に残り2億4835万円を支払っており(当初期限とされた9月10日には間に合わなかった。),当初の為替手形の8月31日の期限に合わせて行動した形跡もなく,しかも,2億円は市中金融から,その余はCの資金援助を受けて支払ったというのであるから,Aが合理的な資金のやりくりをしていたとは到底みられない。

(ウ) 以上の諸点を併せ考慮すると,前記(ア)の事情からは,11億円のコンピュータ導入計画そのものが虚偽であるとCが認識していたとは断じ得ないものの,前記(イ)の事情から,Cは,11億円のコンピュータ導入計画は実現の見込みの薄いものであること,従って11億円の資金需要が直ちに存するものではなく,Aが資金流用の意図を有している可能性があることは認識していたといえるから,平成15年6月下旬ころ,Cは,Aが,壬申銀行からは,自己の債務の弁済のために,コンピュータシステム購入計画に名を借りて,融資を受けるつもりであることを充分認識していたものと認められ,11億円のコンピュータシステムを導入するために本件融資を受けるものと認識していたとの疑いを容れるものではない。

(3) 甲子フードサービス・癸酉社の返済意思・能力の認識

Cは,公判において,「個人プレーでは無理でも,甲子フードサービスという会社としては大丈夫だと思っていた。」とし,連帯保証人である甲子フードサービスにおいては,本件融資金返済の意思も能力もあると認識していた旨供述する。

そして,Aの借入やリースは,いずれも甲子フードサービスを主債務者や連帯保証人として行われたもので,前記認定事実のとおり,甲子フードサービスは,本業はおおむね順調であって,金融機関も甲子フードサービスの信用力によって貸付やリースを行っていたところ,戊辰リサイクル事件直前の平成13年6月期から壬申銀行事件当時の平成15年6月期の間をみても,売上高・経常利益とも減少の一途を辿っていたものの,甲子フードサービスの信用力は,対外的にはある程度高いものであると評価されていたことは否定できない。

しかし,

① Cは,Aが複数の金融機関から借入をし,高利の市中金融にまで手を出していることを充分認識していたこと(この点,戊辰リサイクル事件当時のCの甲子フードサービス・Aに対する認識とは大きく変化していたとみられる。)

② C自身,Aに市中金融との関わりを絶って,通常の金融機関との取引をするように勧めたものであること

③ 本件融資金は,その多くは,Aが甲子フードサービスの簿外で借り入れた債務の返済に使われるものであることをC自身が充分認識していたこと

④ しかも,前述のとおり,本件11億円のシステムの購入計画について,甲子フードサービス社内の了解が得られていないことをCとしても認識していたとみられること

に照らせば,本件融資が甲子フードサービスの取締役会の承認を経ない簿外債務であることを認識していたものと認められる。そして,C自身も認めるとおり,A個人には,前記簿外債務を抱えた状況で,11億円もの返済をなしえないことは明らかである。

したがって,Aには返済の意思・能力があるとの認識をCが有していたとはいえない。

(4) 小括

ア 以上検討したところを総合すると,Cについては,Aの捜査段階の供述にいうように,4月23日以前に,甲戌社が資金を得るためにAに対して詐欺を持ち掛けたとは認定できない。

イ しかし,Cは,5月23日ころ以降は,AからQに宛てた,甲子フードサービスへは裏の金額である8億円弱では請求しないとのメールを見て,甲子フードサービスにおいて受容され現実化しているのは,約5.5億円のコンピュータシステム導入計画にすぎないことを認識していたこと,その後,Aの依頼を受けて11億円の見積書を作成してよいか確認したQに対し,協力するように指示したこと,その時点では,Aが融資金を自己の簿外債務等に流用するかもしれないと認識していたこと,これにより,自身もAからの返済を受け得ると認識していたことが認められる。

ウ よって,Cは,Aが本件詐欺を行うとの認識があったものと認められる。

5  Cに詐欺の共同正犯が成立するかについて

前記認定の事実によれば,Cが4月23日にAと共に壬申銀行本店に赴き,M,Nに会って,Aが話をするのに同席したことは,詐欺の実行行為とはみられない。

また,Cは,6月下旬,Qらに対し,「できることは協力してあげて。」などと言い,Qらは,11億円の見積書を作成し,Aに交付しており,また,7月16日,Qらに対し,売買契約書(注文書・注文請書)を作ることができるかを尋ね,Qらから可能である旨の返答があったことから,Aに対し,その旨をメールで返信しているが,この行為は詐欺の実行行為には直接該当しない(ただし,Aの犯行を容易にした行為であることは明らかである。)。

本件公訴事実中,詐欺の実行行為と目される行為は,Aによってなされ,Cは実行行為自体は行っておらず,Cに実行共同正犯は成立しない。

そこで,共謀共同正犯が成立するかが問題となる。

(1) 共謀を肯定する方向に働く要素

共謀を肯定する要素としては,以下の事情が挙げられる。

① Cは,平成13年以降,Aに対し,乙丑ソースに対する簿外債務増加責任を果たすように求めており,更に,平成15年当時には,丙子社を通じるなどして,Aに対する大口の債権者となっており,本件当時返済を求めている状況であったこと(甲子フードサービスの手形を差し入れさせており,取り立てに回すとも言っていた。)

② Cは,本件犯行の結果,4億3500万円の返済を受けるという利益を得たこと

③ 上記経緯からすると,壬申銀行からの融資金の一部をCの返済に充てる旨,AはCに述べていたとみられること

④ 融資金の配分につき,Aの依頼に応えて,Cがpに振り分けを指示した上,Aに報告のメールを送っていること(もっとも,甲戌社に入金されたのは,壬申銀行の意向であった。)

⑤ 内容虚偽の見積書等の作成について,CはQに指示しているところ,同見積書は,本件詐欺の中で重要な欺罔の手段となっていること

⑥ Cは,iから提示のあった壬申銀行への紹介の話をAにつなぎ,i,v,wを介して,Aを壬申銀行に紹介し,更に,4月23日,Aが壬申銀行を訪問するに際し,同行したこと(もっとも,同日融資の具体的申入れがあり,実行の着手があったとまでは認定できない。)

(2) 共謀を否定する方向に働く要素

① AとCは,いずれも丙子社の取締役であったが,Aは甲子フードサービスや癸酉社の代表取締役であり,両名は,乙丑ソースや甲子フードサービス,その他関連会社において,上司・部下等の上命下服の関係にはなかったこと(Aが,自らの立場から,Cとは,別個に詐欺を立案することも考えられる。)

② 4月23日,Cは壬申銀行では特に発言はせず,その後,6月20日のAの壬申銀行訪問時も含め,壬申銀行とCとの接触はなかったこと

③ 4月23日に壬申銀行に行った後,6月10日にAが壬申銀行に電話で融資の申入れをするまで,CがAに融資を進めるように促した事実は認められないこと

④ Cは,Aから11億円のエビデンスを作成するように求められたQが相談してきたのに対し,「昔そういう計画があったかもしれないから,協力してあげて。」などと言い,Qが11億円の内容虚偽の見積書等を作成したものの,その後,AがQに5億円と6億円の見積書に作り直すように求めた際は,特に関与しておらず,また,売買契約書を作成してほしいとのAの依頼に対し,Qらにこれができるか確認し,できる旨Aに伝えたにとどまっているもので,犯行への関与の形態は,もともとAがQに指示し,ためらったQの相談を受けたので,上記のような程度の表現で協力を指示するという間接的なものであること

⑤ 本件でCの得た利益は,Aからの返済を受けるというものであって,単なる分け前とは異なる上,Cは,Aに対し,貸付と返済を繰り返しており,本件後もAからの借入の申入れに応じる姿勢を示していること,甲子フードサービスの手形を差し入れさせて債権の保全を図っており,これを取り立てに回して回収するとも言っていたこと,本件当時C自身が経済的に窮乏していたとの事情はうかがえないことに照らせば,Cが自己の貸金債権回収のため,Aを焚き付けて本件犯行を行わせたとは認定できず,Aが,自己の債務返済の一環として,Cへの返済原資にも本件融資金を流用し,Cはこれを知りつつ返済を受けたという関係にとどまるともみられること

⑥ Aが,Cに対し,返済以上の分け前を約束していたとは認定できないこと

⑦ 前述のとおり,本件について,事前の謀議があったとは認められず,明示的な意思疎通は認定できないこと

(3) 結論

以上の事情を総合考慮すると,前記(1)の諸事情のみによれば,Cは,Aとの間で共謀関係があったと認定することも可能ともみられるものの,他方,前記(2)の諸事情をも考慮すると,Cには,本件詐欺を自己の犯罪として犯す意思があったとするには合理的疑いを容れるものであり,共謀共同正犯を認定することはできない。

しかし,Cは,上記のとおり,Qに対し,Aに協力するように指示して,内容虚偽の見積書を作成させ,Aの本件詐欺を容易にしており(Aが壬申銀行に提出したのは約6億円と約5億円に分割した見積書2通であって,Cに協力するように言われてQが作成した約11億円の見積書そのものではないが,Qは約11億円の見積書の作成をためらい,Cにこれを作成してよいか尋ねたものとみられ,甲戌社の実質的オーナーであるCの前記指示がなければ,Qが上記分割した合計約11億円の2通の見積書を作成するに至った可能性は高いものとは考え難いから,Cの前記指示は,間接的には,壬申銀行に提出された合計約11億円の2通の見積書をQが作成することに影響を与えており,Aの本件詐欺を容易にしたというに妨げない。),同指示の際には,AがQに作成させた約11億円の見積書を使用して本件詐欺を行うであろうことは認識していたと認められるから,詐欺幇助罪が成立することには疑いを容れる余地はない(なお,共同正犯の訴因に対し,幇助犯を認定するのは縮小認定であり,訴因変更の必要なく認定し得るものである。)。

(法令の適用)

A.A関係

罰条

第1の1の行為のうち

有印私文書偽造の点  刑法60条,159条1項

偽造有印私文書行使の点  刑法60条,161条1項,159条1項

詐欺の点  刑法60条,246条1項

第1の2の行為  刑法60条,246条1項

第2の1の行為  刑法246条1項

科刑上一罪の処理  第1の1につき刑法54条1項後段,10条(最も重い詐欺罪の刑で処断。ただし,短期は偽造有印私文書行使罪の刑のそれによる。)

併合罪の処理  刑法45条前段,47条本文,10条(最も重い第1の1の罪の刑に法定の加重)

未決勾留日数の算入  刑法21条

訴訟費用の負担  刑事訴訟法181条1項本文

B.B関係

罰条

第1の各行為  いずれも刑法60条,246条1項

併合罪の処理  刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の重い第1の2の罪の刑に法定の加重)

刑の執行猶予  刑法25条1項

訴訟費用の負担  刑事訴訟法181条1項本文

C.C関係

罰条

第2の2の行為  刑法62条1項,246条1項

法律上の減軽  刑法63条,68条3号

刑の執行猶予  刑法25条1項

訴訟費用の負担  刑事訴訟法181条1項本文

(有罪部分についての量刑の理由)

本件の第1の事案(戊辰リサイクル事件)は,大手給食請負会社である甲子フードサービスの創業家の承継者で同社の代表取締役であった被告人A及び老舗ソースメーカーである乙丑ソースの創業家の承継者で同社の代表取締役であった被告人Bが,被告人Aが関与して増加させた乙丑ソースの簿外債務処理資金や共犯者らの資金繰りに充てるため,共犯者多数と共謀の上(Aにおいては有印私文書偽造,同行使,詐欺,Bにおいては詐欺について),リース会社に対し,戊辰リサイクルが5000万円で購入することにした炭化炉等の産廃処理設備1式を約7億8000万円の高額・高性能の溶融設備等の産廃処理設備1式であるなどと偽り,その購入資金を大幅に水増しした内容虚偽の見積書を偽造するなどして,割賦販売物件の購入代金の名目で,リース会社から金員を騙し取ったというAにおいては有印私文書,同行使,詐欺の,Bにおいては詐欺の事案(判示第1の1)及び同様の手口で別のリース会社から金員を騙し取ったという詐欺の事案(判示第1の2)である。

また,本件第2の事案(壬申銀行事件)は,被告人Aが,自己の経営する甲子フードサービスに負わせていた簿外債務の返済等に充てるため,同社に導入する予定であったコンピュータシステムのうち,約5億5000万円のシステムのみが社内で了承され,それ以外は導入できる見込みがなかったのに,壬申銀行に対し,約11億円のコンピュータシステムを自己が代表取締役を務める同社の子会社癸酉社が購入し,甲子フードサービスにリースするなどと偽り,購入元の甲戌社担当者に作成させた内容虚偽の見積書を提出するなどして,コンピュータシステム購入代金に対する融資金の名目で,金員を騙し取ったという詐欺の事案(判示第2の1)及び被告人Cが,これを認識しながら,自己が実質的オーナーであった甲戌社の担当者に対し,被告人Aに協力するよう指示して,その犯行を容易にさせたという詐欺幇助の事案(判示第2の2)である。

判示第1の一連の犯行についてみると,5000万円の炭化炉を約7億8000万円と約15倍にも水増しし,高額・高性能の産業廃棄物処理設備であるかのように装って,約7億8000万円もの巨額の金員を騙し取ったもので,犯情は誠に悪質である。被告人らは,優良企業とされていた被告人Aの経営する甲子フードサービスの対外的信用を悪用しつつ,架空の割賦販売物件を記載し,導入する物件の内容や価額を偽った見積書を偽造させたり,ユーザーや製造メーカーを抱き込んで対象物件の内容や価額,性能について虚偽の説明をさせるなど,共犯者間で協力し,役割分担をしながら,本件犯行を敢行したもので,その態様は巧妙なものである。

判示第2の犯行についてみると,約5億5000万円のコンピュータシステムを,約11億円と金額を2倍に水増しした上,導入の目処も立っていないのに,購入資金が必要であるなどと偽ったもので,被害金額は約11億円と巨額であり,犯情は極めて悪いといわざるを得ない。犯行の態様は,コンピュータシステムを導入する甲子フードサービスと,これを購入する癸酉社の代表取締役を兼任する被告人Aが,甲子フードサービスの信用力を悪用しつつ,同システムの購入元の甲戌社と結託し,合計約11億円のコンピュータシステム購入計画が実在するかのような内容虚偽の見積書等の書類を作成させるなどしており,これまた巧妙なものである。しかも,被告人Aが,取締役会の承認を得ずに甲子フードサービスに多額の簿外債務を負わせ,同会社が犯行後わずか4か月余りで破綻したこともあって,詐取金のうち4回分は,被告人Cの協力を得つつも一応返済し,会社更生手続により9000万円余が弁済されたものの,なお9億3000万円以上が履行不能となり,被害会社は甚大な損害を受けている。

被告人Aは,判示第1については,従前から繰り返していた水増しリース・割賦で資金調達を図るべく,リースに詳しい共犯者を本件にも参加させ,他の共犯者にも見積書の偽造を指示し,自らも,その経営する会社の対外的信用を利用して被害会社側に本件契約を締結するように働きかけ,リース会社の不審を招かないよう偽造の取締役会議事録を提出するなど,犯行への関与は主体的かつ積極的で,主犯といえる。犯行の動機は,被告人Bの経営する乙丑ソースから簿外債務増加の責任を問われ,これに関連して捜査の手が自らに及ぶことを恐れ,同社に簿外債務処理資金を提供する一環として,不正な水増しリースを行い,本件犯行に及んだというもので,特に酌むべき点はない。

更に,判示第2の犯行は,被告人Aが,壬申銀行を紹介された後は,具体化もしておらず,実現の見通しも立っていない部分を含むコンピュータシステムの購入計画のために資金が必要であるなどと虚言を述べて融資を申し入れ,購入元に虚偽の見積書等の作成を指示するなど,一貫して犯行を主導した上,詐取金のほぼ全てを自己の簿外債務の返済に費消したもので,被告人Aは,同犯行の主犯である。被告人Aは,自ら作り出した簿外債務返済のため,高利貸しからの借入も含め借金を繰り返すなかで,その資金繰りのために本件犯行を敢行したとみられ,その犯行の動機に酌むべき点は見いだせない。

しかも,被告人Aは,公判において不自然,不合理な供述をなし,十分な反省の態度はうかがえない上,管財人らの調査や捜査官の取調べにおいて,自らが主導的に行った者であるにもかかわらず,共犯者とされる者に責任を転嫁して保身を図っていたものである。

被告人Bは,判示第1のうち,詐欺の犯行に関与したものであるが,同被告人が代表取締役を務め,強い利害関係を有していた乙丑ソースが,詐取金のうち約5億円余りを利得しており,最大の利益を受けている。見積書を偽造した共犯者Dも同社に出入りしていたものであり,製造メーカーの偽装工作にも被告人Bの従兄弟で乙丑ソースに出入りしていた共犯者Eや同社の従業員が深く関与しており,同社代表取締役としての責任も否定し難い。

被告人Cは,判示第2の詐欺幇助の犯行を行ったものであるが,内容虚偽の見積書作成をAから依頼され,これをためらったQに対し,11億円の計画は実現の見通しが立っているものではないと知りつつ,協力するようにと指示したもので,同見積書が壬申銀行事件において,重要な欺罔の手段となっていることにかんがみれば,その責任は容易に看過し難い。また,Aからの債権回収とはいえ,結果として,C自身も,多額の利益を得ているものである。

以上の諸点にかんがみると,被告人3名の刑事責任はいずれも重大であるが,とりわけ,被告人Aは,共犯者間で最も重い刑責を負うといわなければならない。

しかし,他方,以下のとおり,酌むべき事情も認められる。

判示第1の各犯行については,犯行に至った経緯については,本件のような水増しリースのスキーム自体,Fの考案したもので,Aが水増しリースによる資金調達を図るようになったことには,Fの影響も大きい上,戊辰リサイクル事件でもF自身が深く関与し,相当多額の利益を得ており,同人の役割も大きいものであった(なお,同人は,本件で共犯者とされつつも,被害弁償に尽力したこともあって,不起訴になっている。)。また,共犯者Dも本件で相当重要な役割を担っており,同人も実質的には相当多額の利益を得ている。第1の各犯行では,Aのみが主犯と位置付けられるものともいえない。被告人Bについては,犯行における関与自体は従属的な側面がある。

本件被害者である両リース会社とも,合計4億円余は割賦金の支払や更生手続による配当金で回収済みであり,残り3億8000万円弱は,Fによって全額被害弁償がなされており,財産的被害は回復している。

被告人A,同B両名とも,関西の老舗同族企業の承継者でとして企業の経営をなす立場に立たされたものの,企業経営者として十分な素質がないか,これを発揮することなく,徒に借金をふくらませて本件犯行に及んだものの,いずれも親代々の老舗企業は破綻するに至り,個人資産も失い,破産に至り,経済的には全てのものを失うに至っている。

被告人Aについてみると,交通罰金前科以外に前科はなく,現在は宅急便の配達等のアルバイトをして生計を立てている状態にある。

また,被告人Bについては,交通罰金前科以外に前科はなく,妻が出廷し,今後の指導監督をする旨供述している。

被告人Cは,判示第2のとおり,詐欺の幇助犯にとどまる上,旧甲子フードサービス,癸酉社及び旧乙丑ソースの管財人との間で,これらの会社が被害会社に対して負った債務との関係も含めて和解し,自己及び関係者が乙丑ソースに対して有していたという更生債権査定申立(届出額は約5億7000万円)を取り下げた上,現実に和解金4230万円を支払い,その余は請求放棄ないし債務免除を得ており,民事上一定の責任を果たしたとみられる。また,前科,前歴はなく,持病を抱えている。

そこで,これらの事情を総合考慮し,被告人3名について,それぞれ主文のとおり量刑した。

(求刑 被告人A及び同Cにつきいずれも懲役7年,同Bにつき懲役5年)

(裁判長裁判官 横田信之 裁判官 内田貴文 裁判官 大伴慎吾)

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