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大阪地方裁判所 平成17年(ワ)2706号 判決 2006年6月15日

原告

X1(以下「原告X1」という。)

原告

X2(以下「原告X2」という。)

上記2名訴訟代理人弁護士

上原茂行

被告

大虎運輸株式会社

同代表者代表取締役

同訴訟代理人弁護士

鎌倉利行

檜垣誠次

鎌倉利光

下元高文

田口正輝

安部健志

主文

1  被告は,原告X1に対し,132万9298円及びこれに対する平成17年4月15日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。

2  被告は,原告X1に対し,132万9298円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

3  被告は,原告X2に対し,164万1692円及びうち158万4372円に対する平成17年4月21日から支払済みまで,うち5万7320円に対する平成17年5月1日から支払済みまで,それぞれ年14.6%の割合による金員を支払え。

4  被告は,原告X2に対し,164万1692円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

5  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

6  訴訟費用は,原告X1に生じた費用の3分の2と被告に生じた3分の1を原告X1の負担とし,原告X2に生じた費用の3分の2と被告に生じた3分の1を原告X2の負担とし,原告両名に生じたその余の費用と被告に生じたその余の費用を被告の負担とする。

7  この判決は,1,3項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告ら

(1)  被告は,原告X1に対し,441万2828円及びこれに対する平成17年4月15日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。

(2)  被告は,原告X1に対し,441万2828円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から年5%の割合による金員を支払え。

(3)  被告は,原告X2に対し,515万2692円及びこれに対する平成17年4月15日から支払済みまで年14.6%の割合による金員を支払え。

(4)  被告は,原告X2に対し,515万2692円及びこれに対する本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

(5)  訴訟費用は,被告の負担とする。

(6)  (1),(3)につき仮執行宣言

2  被告

(1)  原告らの請求をいずれも棄却する。

(2)  訴訟費用は,原告らの負担とする。

第2事案の概要

1  前提となる事実(証拠等の掲記のない事実は当事者間に争いがない。)

(1)  当事者

ア 被告

被告は,大阪市鶴見区に本店を有し,一般区域貨物自動車運送事業等を営む会社である。

イ 原告X1

原告X1は,平成12年ころ,被告に入社し,トラック運転手として稼働していたが,平成17年2月20日,被告を退職した。

ウ 原告X2

原告X2は,平成6年ころ,被告に入社し,トラック運転手として稼働していたが,平成17年4月20日,被告を退職した。

(2)  原告らの業務の概要

原告らは,いずれも,長距離トラックの運転業務に従事していたが,原告X1は関東方面や新潟方面へ,原告X2は東北方面へ運行することが多かった。

また,深夜に運行することが常態となっていた。

(3)  原告らの給与

被告では,出来高による歩合給が支給されていたが,原告らに対しては別紙割増賃金算定表の支給額欄記載のとおりの給与が支給された(<証拠略>)。

給与の支払は,毎月20日締めの当月末日払いであった(<証拠略>)。

2  原告らの請求

原告らは,いずれも,平成15年10月21日から平成16年4月20日の6か月間(以下「本件6か月」という。)を含む,退職前2年間(原告X1については,平成15年2月21日から平成17年2月20日までの期間で,この期間を「原告X1請求期間」という。また,原告X2については,平成15年4月21日から平成17年4月20日までの期間で,この期間を「原告X2請求期間」という。)における時間外労働,深夜労働,休日労働に対するそれぞれの割増賃金(別紙原告X1計算表,原告X2計算表参照。以下「原告X1割増賃金」,「原告X2割増賃金」という。)及びこれらに対する賃金の支払の確保等に関する法律6条1項に基づく遅延利息(訴状送達の翌日から年14.6%の割合による)の支払と,上記本件各割増賃金と同額の付加金及びこれに対する遅延損害金(本判決確定の日の翌日から支払済みまで年5%の割合による)の支払を求めている。

3  争点

1 時間外労働,休日労働,深夜労働

2 未払割増賃金

3 付加金

第3争点に関する当事者の主張

1  時間外労働,休日労働,深夜労働

【原告らの主張】

(1) 原告X1請求期間のうち,本件6か月における原告X1の時間外労働,休日労働,深夜労働の時間は,別紙原告X1計算表記載のとおりである。

(2) 原告X2請求期間のうち,本件6か月における原告X2の時間外労働,休日労働,深夜労働の時間は,別紙原告X2計算表記載のとおりである。

(3) 補足主張

ア 手待ち時間

タコメーターから運転業務時間と認定できる時間以外に,荷物待ち等のために費やされる時間は手待ち時間があり,労働時間として計上されるべきである。

イ その他の拘束時間

原告らの業務中,運転,荷扱い等が終わった後,次の業務の指示待ち,待機のために費やされている時間があり,トラックの保管・保持,次の荷主の指示を受け,指示された荷主の下に赴くための準備をしている時間であって,使用者の拘束から脱し,自由に使える時間ではなく,労働時間である。

上記時間は,労働省告示「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準」に定められている「休息時間」とは質的に異なり,会社勤務から全く開放された,労働者の自由に任された時間ではない。

【被告の主張】

(1) 原告らの労働時間についての主張は争う。

(2) 原告らの主張(3)イについて

原告らは,長時間の休憩時間を,拘束時間として計上している。

上記の休憩時間は,配送先において,配送終了後,次の業務までの間の時間を計上しているものと思われるが,上記時間中,被告は,一切従業員の(ママ)拘束していない。従業員は,自由に飲食したり,就寝したり,時にはパチンコなどの遊技時間にあてており,拘束時間とはいえない。

2  未払割増賃金

【原告らの主張】

(1) 被告における給与規定による定めは次のとおりである。

ア 100%出来高制

基本給0円

売上の30%(29.1%)もしくは33%の完全歩合給

イ 毎月20日締め

ウ 手当

無事故手当 2万円

皆勤手当 1万円

エ 控除額

使用した高速代の30%

(2) 割増賃金

ア 原告X1

原告X1の本件6か月の歩合給は,別紙原告X1計算表の歩合給欄記載のとおりであり,各月の総労働時間は同表の労働時間欄記載のとおりであり,割増賃金を計算するに当たっての1時間当たりの賃金は同表の基礎賃金欄記載のとおりである。

一方,原告X1の本件6か月の時間外労働,休日労働,深夜労働は同表の各労働時間欄記載のとおりであり,各割増賃金は,同表の各割増賃金欄記載のとおりであり,その合計は110万3207円である。

原告X1請求期間の割増賃金は,上記本件6か月の割増賃金の4倍と推定され,その合計は441万2828円となる。

イ 原告X2

原告X2についても,前記アと同様の計算方法によると,本件6か月の割増賃金は,別紙原告X2計算表の各割増賃金欄記載のとおりであり,その合計は128万8173円である。

原告X2請求期間の割増賃金は,上記本件6か月の割増賃金の4倍と推定され,その合計は515万2692円となる。

(3) 割増賃金の未払

被告は,前記(2)の割増賃金を支払わない。

【被告の主張】

(1) 被告における賃金規定の内容は次のとおりである。

ア 歩合給の計算方法

{売上(運賃)-高速代(100%実費)}×A-運行費

Aの数値

10t車 a運輸=30%×0.97

それ以外=33%

4t車34%

イ 最低保障額

13万円

(2) 割増賃金

被告の運転手に対しては,上記のように算出した歩合給が支給されていたが,そのうち,13万円は基本給として支給され,これを差し引いた金額に,時間外手当,休日手当,深夜手当が含まれていた。

このような取扱は,運転手の業務はタイムカード等によって労働時間を把握することができず,もっぱら運行による売上を基礎とする以外に給与支払基準を定めることができないためである。

(3) 割増賃金の支払

被告は,原告らに対し,上記(1),(2)に従って給与を支給しており,未払賃金は存しない。

3  付加金

【原告らの主張】

被告は,原告らに対し,前記2【原告らの主張】(2)の割増賃金に相当する付加金を支払うべきである。

【被告の主張】

争う。

第4当裁判所の判断

1  原告らの業務の概要

前提となる事実,証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によると,原告らは,被告において,いずれも,長距離トラック(10t車)の運転業務に従事していたが,その業務の概要は次のとおりであったことが認められる。

(1)  出発まで

長距離トラックの運転手は,前日までに配車係に積み込み先と(ママ)を確認し,出発当日の夕方6時ころまでに,積み込み先である運送会社(a運輸が多かった。)のターミナルへ赴き,荷物を積み込み,輸送先へと出発する。

なお,積み込む荷物は,既に行き先別に車輪付きのカゴに入っており,運転手は,トラックへの積み込み作業を自ら行っていた。また,積み込み先で荷物が整うまで待たされることも多く,出発するのは午後9時か10時ころとなった。

(2)  配送先への到着まで(往路)

原告X1は東京方面や新潟方面へ,原告X2は東北方面へ行くことが多かった。

輸送中は,高速道路のパーキングエリアなどで休憩をとりながら運転を行い,配送先に到着するが,配送先の到着時刻は,原告X1の場合は,東京方面や新潟方面であるため午前7時前後が多く,原告X2の場合は,東北方面であるため午後0時前後が多かった。

(3)  到着後の行動

配送先に到着した後,荷物を下ろすが,その際も,運転手が作業を行っていた。

作業が終了すると,次の仕事(後記(5)参照)の指示を受けるまで,自由に過ごした。

(4)  配送先での過ごし方

配送先では,作業が終わった後,次の仕事に入るまで自由に過ごすことができ,その間,食事の際には,飲酒することもできるし,パチンコをすることもあった。

ア 原告X1の場合

東京方面では,被告の営業所は,八王子,川越,厚木にあった。また,東京近郊には,トラック専用の無料駐車場(トラックターミナル,トラックステーション)が何か所あ(ママ)り,運転手は,配送が終わった後,そういった場所にトラックを駐車し,自由時間を過ごすことができたが,原告X1は,これらの場所に移動する時間や労力を節約するため,路上駐車をしているトラック内で睡眠をとることが多かった。

イ 原告X2の場合

東北方面では,被告の営業所にトラックを駐車し,営業所の近くの風呂屋に行ったり,営業所の仮眠室や,自分の運転するトラック内で睡眠をとることもあった。

(5)  配送先からの帰還

通常,配送先から帰還する場合,配送先の近くの運送会社に赴き,荷物を積み込み,これを大阪方面に配送していた。ここでも,おおよそ午後6時ころには,積み込み先に到着し,荷物を積み込んだ後,午後9時前後には出発し,大阪方面には,行きと同様の時間を掛けて戻っていた。

もっとも,回数は少ないものの,次の仕事の予定がないため,空車のまま,大阪に戻ることもあった(空車回送)。原告らの給与は,歩合給であったため,帰りの売上がないことによる歩合給の減少を補填するため,空車回送の場合,手当を支給していた(<人証略>)。

2  時間外労働,休日労働,深夜労働

(1)  労働時間の範囲

ア 原告らは,配送先に到着した後,次の仕事にかかるまでの間の時間について,拘束された時間であり,労働時間であると主張している(甲1,2では,燈色で示された時間であり,「休憩時間」という表現を用いている。)。

しかし,前記1(3),(4)のとおり,原告らは,配送先である目的地に到着し,荷下ろしの作業を終え,次の仕事の指示を待つ間,拘束されているとはいえない。

仮に,被告から突然の指示が来ても,これに応じるか応じないかは,原告らの状況に基づき,原告らが自ら応諾するかしないかを判断することが許されていたことが認められる(<人証略>)。

そうすると,上記時間帯は,被告の指揮命令下に置かれていたと評価することはできず,いわゆる手待ち時間とはいえず,労働時間には該当しないというべきである。

イ また,原告らは,その主張する労働時間に,原告X2が,目的地に到着するまでの間,1時間ないし2時間単位で,トラックを走行させていない時間(この時間も,甲2で「休憩時間」という表現を用いている。)を含めて計上している(甲2)。原告X2は,比較的遠方の目的地(東北地方)への運送業務に従事しており,大阪を出発した後,目的地に到着するまでの間,相当長時間運転業務に従事しなければならないことから,途中,相当程度の時間,休憩をとっていたことが窺えるが,上記時間については,相当まとまった時間であることを考えると,休憩時間と考えるべきである(もちろん,それ以外にも,原告両名は,運送業務に従事中,トイレ休憩を始め,一定の頻度で休憩をとっていたことが窺える。)。

ウ 以上によると,結局,原告らが主張するア,イの時間帯は,休憩時間であって,労働時間に含めることはできない。

(2)  労働時間の算定

原告らは,被告に保管してあった原告らの運転したトラックの運行記録であるタコメーターを入手し,これをもとに時間表(甲1,2)を作成したことが認められる(甲1,2,原告X1本人2項,原告X2本人8項)。

一方,被告も自ら保管してあったタコメーターをもとに時間表(乙5の1~3,乙6の1~4)を作成しているが(弁論の全趣旨),甲1,2の作業時間と手待ち時間の合計と,乙5,6の全拘束時間を比較すると,次のとおりである。

<省略>

上記比較によると,原告X1の平成16年1月分,3月分以外については,両者の計上した時間数は,ほぼ同じであり,甲1,2の信用性を一応認めることができ,原告X1の平成16年2月分については,甲1により,原告X2の平成15年11月分,平成16年1月分,2月分,3月分については,甲2により認定するのが相当である。

また,本件6か月のうち,乙5,6に記載されていない月については,甲1,2によって認定するのが相当といえる。

そこで,原告X1の平成16年1月分と3月分について,個別に検討することとする。

ア 原告X1の平成16年1月分について

甲1における平成16年1月分(ただし1月1日以降)の作業時間と手待ち時間を合計したグラフの形状と,乙5の1の全拘束時間を示す形状を比較すると,1月10日午後から同月12日午前にかけての記載と,1月19日と同月20日の記載とを除くとほぼ同形であることが認められる。

1月10日午後から同月12日午前について,甲1では,ほぼ28時間分の記載があるが,乙5の1には記載がないところ,同月分の個人別売上明細書(<証拠略>)によると,上記期間中,売上の計上の記載がないので,上記期間の記載については,乙5の1の記載に従うのが相当である(なお,個人別売上票は,運行区間,売上などが具体的に記載されており,従業員の給与に直結するものであり,その記載の信用性は高いと考える。)。

一方,1月19日と同月20日の記載については,グラフの形状は異なるものの,その間の時間数を比較するとほぼ同時間であると認められる。

他の月については,甲1,2の信用性が認められること(原告X1の平成16年3月分については,後記イのとおり,むしろ,甲1の記載に従うべきである。)などの事情を総合すると,上記1月10日午後から同月12日午前についての記載を除くほかは,甲1の記載のとおり認定するのが相当である。

イ 原告X1の平成16年3月分について

甲1における平成16年3月分の作業時間と手待ち時間を合計したグラフの形状と,乙5の3の全拘束時間を示す形状を比較すると,いくつかの齟齬が散見される。

2月21日午後から翌日午前にかけての運行はなかったと認められるところ(<証拠略>),甲1の同月分の記載はこれに符合するが,乙5の3は符合していない。

また,2月23日午後から翌日午前にかけての運行(新潟から津山),同月26日午後から翌日午前にかけての運行(西大阪から郡山)がそれぞれあったと認められるところ(<証拠略>),甲1の同月分の記載はこれに符合するが,乙5の3は符合していない。

また,2月28日午後から3月3日午前までの記載についても,甲1の同月分の記載は被告作成の個人別売上明細書に符合しているが,乙5の3は符合していない。

さらに,3月17日午後から翌日午前にかけての運行は,いわきから大阪であり(<証拠略>),甲1の同月分の記載はこれに符号するが,乙5の3は,上記区間を4時間で運行したとの記載となっており符合していない。

以上によると,原告X1の平成16年3月分のグラフは,むしろ,甲1の同月分の記載の方が,乙5の3に比べ,全体として信用でき,甲1の記載に従うのが相当である。

(3)  時間外労働,休日労働の算定方法について

ア 1日の労働時間

原告らは,長距離のトラック運転で(ママ)あるところ,前記1(1)のとおり,夕方6時ころまでに,積み込み先に赴き,午後9時から10時ころ出発し,目的地に到着するのは,翌日というのが常態であったが,1日の労働時間は,勤務の全体が始業時刻の属する日の労働と取り扱うべきであり(昭63・1・1基発1号),午前0時をまたぐ労働については,その開始時の属する日の労働時間として算定する。

イ 時間外労働

上記アで求めた労働時間について,1日については8時間を超える時間,及び,月曜日からの労働時間(上記時間外労働を除く。)が40時間を超える分を時間外労働として計上する。

ウ 休日労働について

証拠(<証拠略>)によると,被告における法定休日は日曜日であり,日曜日に始業した業務については,終業までを休日労働として計上する(なお,休日については,法定時間8時間の制約はなく,休日手当に加えて時間外手当が支払われるわけではない。)。

(4)  以上を前提に,証拠(<証拠略>)を検討すると,原告らの本件6か月における時間外労働,休日労働,深夜労働の時間数は,別紙各労働時間算定表記載のとおりと認めることができる。

(5)  タコメーターによる把握ができなかった期間について

原告らの本件各請求期間のうち,本件6か月を除く期間における時間外労働,休日労働,深夜労働の時間については,これを直接証明する証拠はないが,後記3(4)のとおり,推計することが可能である。

3  未払割増賃金

(1)  給与の算定

証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によると,被告において,長距離トラック運転手(10t車)に対する給与は,次の算定方法による給与が支給されていたことが認められる。

給与=売上×A-高速代30%

(Aの数値:a運輸=30%×0.97,それ以外=33%)

運行費として,運転手に対して前渡しする金額があるが,支払日には,これを控除した金額が支払われる(支払期日までにおける総支給額は上記給与額となる。)。

なお,原告らは,割増賃金の算定の基礎となる賃金として,高速代を控除していない歩合給全額を計上するが,採用することはできない(原告自身,準備書面(2)によって高速代30%を控除することを自認している。)。

また,被告は,高速代100%を控除すると主張するが,実際の支給の実態に照らし採用することができない。

(2)  割増賃金の基礎となる賃金

本件6か月の各月における,原告らに支給された給与は別紙割増賃金算定表の支給額欄記載のとおりであり,労働基準法施行規則19条1項6号によると,割増賃金の基礎となる賃金は,それぞれの各月の総労働時間で除した金額であり,別紙各労働時間算定表の基礎となる単位時間賃金欄記載のとおりとなる。

(3)  割増賃金の合意について

被告は,上記給与から最低保障額である13万円を控除した残額に,時間外手当,休日手当,深夜手当が含まれていたと主張する。

たしかに,賃金規定(<証拠略>)によると,歩合給には,基本給相当額分と時間外,休日,深夜労働手当が含まれると記載されていることが認められる。

しかし,原告ら請求期間に原告らに支給された歩合給の額は,原告らが時間外労働,休日労働を行った場合において,特段の増額がされた形跡はなく,通常の労働時間に賃金に当たる部分と時間外労働,休日労働の割増賃金に当たる部分とを判別することは困難である。したがって,上記歩合給が,時間外手当,休日手当を含んでいると解することはできない。

一方,前記1のとおり,原告らは,長距離トラックの運転業務に従事しており,その具体的な業務の内容は,午後9時から10時ころに出発し,夜間走行を続け,午前7時前後もしくは,午後0時前後に目的地に到着するというものであり,ほぼ,毎回,全深夜労働に当たる午後10時から翌朝午前5時までの業務を当然に含んでいたことが認められる(<証拠略>)。

また,原告らの給与(歩合給)は,売上を前提とし,一定の経費率から算出したものであるところ,これらの売上は,昼間の走行であっても,夜間の走行であっても変わりはないものと考えられる(むしろ,昼間の走行である場合は,労働時間が長くなる可能性がある。)。

そうすると,原告らの給与(歩合給)は,上記の業務形態を当然の前提として定められたことが認められ,深夜労働についての割増賃金を含むという合意が不合理とはいえない。

(4)  割増賃金の算定

以上によると,本件6か月における原告らの割増賃金は,別紙各労働時間算定表の各合計欄(別紙割増賃金算定表の割増賃金欄)記載のとおりとなる(割増率は割増賃金令による。)。

〔計算式〕

割増賃金=基礎となる単位時間賃金×(時間外労働時間×0.25+休日労働時間×0.35)

ところで,原告らは,原告ら請求期間の割増賃金について,本件6か月における割増賃金を単純に4倍することによって求めようとしている。

しかし,季節によって,取扱量,売上が異なることが容易に想像することができ,原告ら請求期間の割増賃金を,本件6か月における割増賃金を単純に4倍することによって求めることはできない。

もっとも,原告らの業務内容,配送先などに(ママ)自体に大きな変化はないことが窺え(弁論の全趣旨),総労働時間,時間外労働,休日労働の各時間は,基本的に給与の支給額に比例すると考えられる。

本件6か月における給与支給額と割増賃金の比率は,別紙割増賃金算定表の比率欄記載のとおりであり,他の期間の比率については,上記6か月の期間における最低の比率を採用し,他の期間のそれぞれの給与(別紙割増賃金算定表の支給額欄)にこれを乗じることによって,他の期間における割増賃金を推定することができると考える。

そうすると,原告ら請求期間中,本件6か月を除く期間における給与支給額は,別紙割増賃金算定表の支給額欄記載のとおりであり,同期間の割増賃金推定額は,別紙割増賃金算定表の割増賃金額欄記載のとおりと推定できる。

(5)  遅延利息

原告らは,賃金の支払の確保等に関する法律6条に基づき,前記割増賃金に対する本件訴状送達の日の翌日(平成17年4月15日)から支払済みまでの遅延利息の支払を求めているところ,原告X1については,退職日が平成17年2月20日であるから,平成17年4月15日から支払済みまでの遅延利息の支払を求める理由があるが,原告X2については,原告X2請求期間中平成17年3月分までについては,退職日の翌日である平成17年4月21日から支払済みまで,同期間中平成17年4月分については,その支払期日の翌日である平成17年5月1日から支払済みまでの限度で遅延利息の支払を求める限度で理由がある。

4  付加金

原告らは,割増賃金と同額の付加金の支払を求めているところ,被告は,前記3(4)で認定された未払割増賃金と同額の付加金を,それぞれの原告に支払うべきである。

第5結論

以上によると,原告らの請求は,主文の限度で理由があるから,これを認容し,その余は,いずれも理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条,65条1項ただし書を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成18年5月12日)

(裁判官 山田陽三)

(別紙) 割増賃金算定表(裁判所認定)

<省略>

<省略>

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