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大阪地方裁判所 平成17年(ワ)4283号 判決 2007年3月27日

原告

X1

ほか一名

被告

Y1

ほか二名

主文

一  被告Y1及び被告Y2は、連帯して、原告X1に対し、金七八万九一八九円及びこれに対する平成一六年七月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告ソニー損害保険株式会社は、原告X1に対し、被告Y1又は被告Y2に対する本判決が確定したときは金七八万九一八九円及びこれに対する平成一六年七月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告Y1は、原告有限会社X2社に対し、金二五万〇一五〇円及びこれに対する平成一六年七月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告ソニー損害保険株式会社は、原告有限会社X2社に対し、被告Y1に対する本判決が確定したときは金二五万〇一五〇円及びこれに対する平成一六年七月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用は、これを四分し、うち一を被告らの、その余を原告らの負担とする。

七  この判決は、第二、第四及び第五項を除き、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告Y1及び被告Y2は、連帯して、原告X1に対し、金三五四万三二六一円及びこれに対する平成一六年七月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告Y1及び被告Y2は、連帯して、原告X1及び原告有限会社X2社に対し(連帯債権)、金二三五万五七五〇円及びこれに対する平成一六年七月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告ソニー損害保険株式会社は、被告Y1及び被告Y2と連帯して、原告X1に対し、金三五四万三二六一円及びこれに対する平成一六年七月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告ソニー損害保険株式会社は、被告Y1及び被告Y2と連帯して、原告X1及び原告有限会社X2社に対し(連帯債権)、金二三五万五七五〇円及びこれに対する平成一六年七月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、信号待ちで停車中の普通乗用自動車に後方から普通乗用自動車が追突した交通事故につき、追突した車両の運転者及びその保有者並びに加害車両のいわゆる任意保険会社に対して、追突された車両の運転者及びその車両に積載されていたOA機器の所有者が、人的損害及び物的損害について、民法七〇九条及び自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づいて損害賠償請求を行う事案である。

二  判断の前提となる事実(争いがない事実以外は、括弧内に認定の証拠を示す。)

(1)  交通事故の発生(甲一、以下「本件事故」という。)

ア 日時 平成一六年七月二四日午後八時二〇分ころ

イ 場所 大阪市住之江区粉浜西一丁目二番四号先路上(以下「本件事故現場」という。)

ウ 事故車両

(ア) 普通乗用自動車(<番号省略>)(以下「原告車」という。)

運転者 原告X1(昭和○年○月○日生、当時三一歳。)

(イ) 普通乗用自動車(<番号省略>)(以下「被告車」という。)

運転者 被告Y1(昭和○年○月○日生、当時一九歳。)

保有者 被告Y2(乙二)

エ 態様 被告車が信号待ちで停車中の原告車に追突したもの(乙四~六)

(2)  原告X1の負った傷害、治療経過等(乙七~乙一〇)

ア 傷害

原告X1は、本件事故により、頚腰部捻挫、外傷性頚部頭部症候群、腰背部挫傷の傷害等を負った。

イ 治療経過

原告X1は、本件事故後、辻外科病院に、平成一六年七月二四日(本件事故日)から同年八月一四日まで入院し(入院日数二二日)、その後、同年一〇月二二日まで通院した(通院期間中の実通院日数は一七日)。

(3)  保険契約の締結

被告Y2は、本件事故当時、被告車を被保険自動車として、被告ソニー損害保険株式会社(以下「被告ソニー損保」という。)と、総合自動車保険契約TybeS(いわゆる任意保険)を締結していた。

(4)  損害の填補

原告X1は、被告らから、本件事故による治療費(九一万七一八三円)、入院雑費(二万四二〇〇円)及び休業損害(八四万六七四九円)として、合計一七八万八一三二円の支払いを受けている。

三  争点

(1)  過失相殺

(2)  損害額

四  過失相殺に関する当事者の主張

(1)  被告らの主張

本件事故当時、原告X1はシートベルトを着用しておらず、その点を考慮して、少なくとも二〇%の過失相殺がなされるべきである。

(2)  原告らの主張

本件事故は、シートベルトを着用していようがいまいが防ぎようのない事故である。また、シートベルトの着用についての道交法違反点数の判断は、現認した取締警察官の裁量にかかる事柄であり、交通事故の加害者が云々することではない。

本件事故について、シートベルトの非着用をもって過失相殺をするべきではない。

五  損害額についての原告らの主張

原告らに生じた損害は、別紙、原告ら主張損害等計算表のとおりである。(甲二二参照)

積載物の損害についての補足的説明は以下のとおりである。

本件事故当時、原告車には、原告有限会社X2社(以下「原告X2社」という。)が所有していたOA機器が積載されていたが、それが本件事故によって毀損した。

積載していたOA機器は修理が不可能であり、それと同等程度のOA機器を調達するための費用は一八九万円である。なお、このOA機器の中核部分であるCPUは平成一〇年に入れ替えている。

また、このOA機器が毀損し、修理して使用することができなくなってしまったことにより、原告X2社が業務上このOA機器で使用していたフロッピーディスクに記録されていたデータを使用することができなくなってしまい、そのデータの移行・変換費用として少なくとも三〇万円がかかることとなった。

また、このOA機器は原告X2社の代表者が愛着をもって大切に長年使用してきたものであったので、それを失ったことによる精神的損害として慰謝料一五万円を請求する。

さらに、このOA機器の廃棄のために一万五七五〇円を要し、これも本件事故による損害である。

六  損害額についての被告らの主張

(1)  原告X1の入院治療の必要性

原告X1には、受傷直後から症状を裏付ける他覚的所見が全くなく、かつ、日常生活動作を不自由なく行うことができ、外出も可能な状況であったのであるから、入院治療の必要性は認められない。

したがって、入院治療費、入院雑費、入院に関する一切の費用は本件事故と相当因果関係がなく、慰謝料の算定においても、入院期間を考慮すべきではない。既払金のうち入院に関するものはその全額が損益相殺の対象とされるべきである。

(2)  休業損害について

原告X1には、本件事故直後から、休業の必要性が認められない。

また、原告X1は個人事業主であったと伺われ、そうであるならば休業損害は本件事故前の実収入額によって算定されるべきであるが、それを証するものは一切なく、また、本件事故を原因として解雇されたとの事態も発生しないはずである。

これらのことからして、原告X1には休業損害が発生しておらず、その名目で支払われた既払金は、その全額が損益相殺の対象とされるべきである。

(3)  原告X1の相当治療期間及び症状固定時期

原告X1の相当治療期間はせいぜい三か月程度であり、遅くとも平成一六年一〇月二一日ころには、原告X1の症状は固定したものと考えるべきであって、それ以降の治療に掛かる費用や休業損害等の損害は本件事故と相当因果関係が認められないものである。

(4)  原告X1の後遺障害について

原告X1には、本件事故による後遺障害は残存していない。

(5)  積載物の損害について

本件事故当時、原告車に、原告X2社所有のOA機器が積載されていたことを示す証拠はなく、その損害を認めることはできない。

仮に、上記事実が認められるとしても、毀損したOA機器は昭和五四年に導入されたものと伺われ、本件事故時点においてすでに財産的価値を有していなかったものというべきであって、代用品の新品の再調達価格を前提とする一八九万円もの損害を認めることはできない。

また、フロッピーディスクのデータの移行・変換及び廃棄費用については、本件事故による毀損の有無にかかわらず、いずれ必要となったはずのものであるので、本件事故と相当因果関係のある損害とはいえない。

さらに、物的損害についての慰謝料は認められない。

第三争点に対する判断

一  責任原因について

(1)  被告Y1について

本件事故は、信号待ちで停車していた原告車に被告車が追突したものであり、被告車を運転してた被告Y1には前方不注視の過失が認められ、その過失により本件事故が発生したものであるから、被告Y1は、民法七〇九条に基づき、本件事故によって原告X1に発生した人的損害(原告車にかかる物的損害についてはすでに全額支払われている。)及び原告車の積載物に関してその所有者である原告X2社に発生した損害を賠償する責任がある。

(2)  被告Y2について

被告Y2は、被告車の保有者であって、被告車を運行の用に供していたものであり、本件事故は被告車の運行中に発生したものであるので、自賠法三条に基づき、本件事故によって原告X1に発生した人的損害を賠償する責任がある。

なお、原告らは、被告Y2に対して、原告車の積載物にかかる損害の賠償を請求しているが、被告Y2にその損害を賠償する責任は認められない。

(3)  被告ソニー損保について

被告ソニー損保は、本件事故当時、被告Y2と被告車を被保険自動車としていわゆる任意保険契約を締結しており、その約款上、人的損害及び物的損害についてのいわゆる直接請求の規定がある(乙三、約款第六条、第八条)が、そこで認められている請求は、被保険者が損害賠償請求権者に対して負担する法律上の損害賠償責任の額について、被保険者と損害賠償請求権者との間で、判決が確定することまたは裁判上の和解もしくは調停が成立することが条件とされているなど、単純な無条件の現在請求ではない。

本件訴訟で原告らが被告ソニー損保に求めている請求は、(必ずしも明らかではないが)そのような条件を明示しているものではなく単純な無条件の現在請求と解されるが、判決確定を条件とする将来請求を排除している趣旨とは考えられないので、約款で認められている限度で被告ソニー損保の責任を認めることができるものと考えられる。

したがって、被告ソニー損保は、前記保険契約に基づいて、原告X1の人的損害については、被告Y1と原告X1との間について本判決が確定することを条件として、被告Y1が本判決上で支払を命じられた金額の支払をする責任を負い、また、原告X2社の物的損害については、被告Y1と原告X2社との間について本判決が確定することを条件として、被告Y1が本判決上で支払を命じられた金額の支払をする責任を負うものと認められる。

二  過失相殺について

証拠(乙四~六)によれば、本件事故において、衝突直前の被告車の速度は時速四〇キロメートル程度であったこと、被告車がブレーキを掛けたところから衝突地点までの距離は約一三・九メートルであること、原告X1は、その当時シートベルトを着用していなかったことが認められる。

道路交通法上、車両の運転者はシートベルトの着用が義務づけられており(同法七一条の三)、原告X1がシートベルトを着用していなかったことについては不相当なことというべきであるが、本件事故事態は、被告Y1の一方的な過失によって発生したものであって、事故の発生自体について原告X1に落ち度はなく、また、時速四〇キロメートルからの乾燥したアスファルト上の停止距離が一般的には二〇メートル程度であることからすると、被告車は衝突するまである程度減速していたと推測されるものの、相当程度の速度で衝突し、その衝撃も軽微とはいえず、相当程度のものであったと推測されることからすると、シートベルトを着用していたとしても、衝撃によるいわゆるむち打ち挙動は避けられなかったと考えられ、それを前提とするとシートベルトの非着用が原告X1の損害についてどれほどの影響を与えたか必ずしも明らかでなく、これらの事情を総合すると、本件事故による原告X1の損害について、シートベルトの非着用を理由に過失相殺を行うのは相当ではない。

三  損害額について

本件事故によって、原告らが被った損害の金額及び損害填補後の残額については、別紙、判決損害等計算表のとおりと認めるのが相当である。

その補足的理由は、以下のとおりである。

(1)  原告X1の入院治療の必要性

被告らは、原告X1の入院の必要性を否定するが、前記認定のとおり、追突の衝撃は軽微とはいえず、相当程度のものであったと推測され、さらに、証拠(乙七~一〇、原告X1本人)によれば、本件事故直後、レントゲン写真上に異常は認められなかったものの、原告X1の頚部痛は強かったこと、追突の衝撃で本件事故についての記憶が曖昧な状態であったこと、腰痛も訴えていたことが認められる。これらの事情からすれば、入院治療の必要性が認められる。

なお、原告X1は入院中に外泊をしているが、証拠(原告X1本人)によれば、それをもって原告X1の入院の必要性を否定するまでの事実であるとは認められない。

(2)  休業損害について

被告らは、原告X1の休業の必要性を否定するが、前記のとおり、入院治療の必要性が認められ、その間の休業の必要性及び通院期間中の休業の必要性は認められる。

ただし、通院期間中の休業割合については、原告X1の症状に鑑みて、八〇%と評価するのが相当である。

(3)  原告X1の相当治療期間及び症状固定時期

被告らは、原告X1の相当治療期間はせいぜい三か月程度と主張するが、証拠(乙七~一〇)によれば、原告X1が平成一六年一〇月二二日まで辻外科病院で受けた治療に特段不相当であったと認めるべき事情は認められず、その間の治療は相当なものであったと認められる。

(4)  原告X1の後遺障害について

原告X1本人尋問における同人の供述によれば、現在も体調が思わしくないところもあるかに伺われるものの、それが本件事故による後遺障害として訴訟上認めるべきものであるかどうかについては明らかではなく、原告X1に本件事故による後遺障害が残存していることを前提とする損害については認めることができない。

(5)  その他の慰謝料について

原告らは、被告ら代理人らの行為による慰謝料を請求しているが、その前提となる事実を認めることはできない。

(6)  積載物の損害について

証拠(甲二五、二九、原告X1本人、原告X2社代表者本人)によれば、本件事故当時、原告車に、原告X2社所有のOA機器が積載されていたこと、それが本件事故により毀損したこと、その修理は不可能であることが認められる。

また、証拠(甲二四、二八、原告X2社代表者本人)によれば、当該OA機器については、昭和五四年一〇月に導入されたものであるが、平成一〇年ころにCPUの交換がなされたことが認められる。

被告らは、当該OA機器の財産的価値は認められないと主張するが、証拠(原告X2社代表者本人)によれば、原告X2社代表者(A)は、当該OA機器を愛着を持って大切に使用していたこと及び本件事故当時、多少の不具合があったものの原告X2社の業務において使用されていたことが認められ、当該OA機器がオフィスコンピューター本体、モニター、プリンター等で構成されていること(甲八)及びそれがやはり相当程度古いものであることを考慮しつつ、その財産的価値を総合評価すると、一〇万円程度の損害が発生したものと認めるのが相当である。

また、証拠(甲九~一四、原告X2社代表者本人)によれば、当該OA機器の毀損によって、原告X2社が業務で使用していたフロッピーディスクに記録されたデータが使用できなくなってしまったこと及びそのデータを変換して、現在使用できるようにするためには一三万四四〇〇円の費用がかかること(甲二五)が認められる。この費用は、本件事故と相当因果関係のあるものと認めるのが相当である。

さらに、毀損した当該OA機器の廃棄費用として一万五七五〇円がかかることが認められるが(甲二五)、これも本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

なお、原告らは、この当該OA機器の毀損にかかる慰謝料を請求するが、当該OA機器の所有者は前記のとおり法人である原告X2社であって、その請求は認められない。

四  結論

以上によれば、原告らの被告らに対する請求は、不法行為に基づく損害賠償請求、自賠法三条に基づく請求及び保険契約約款に基づく請求として、前記の限度及びこれらに対する民法所定年五分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 植田智彦)

原告ら主張損害等計算表

<省略>

判決損害等計算表

<省略>

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