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大阪地方裁判所 平成17年(ワ)6185号 判決 2006年11月22日

原告

X1

他4名

被告

栄和交通株式会社

他1名

主文

一  被告らは原告X1に対し、連帯して金一二七万七三三四円及び内金一〇万円に対する平成一五年一一月二八日から、内金一一七万七三三四円に対する平成一六年四月二七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは原告X2に対し、連帯して金一二七万七三三四円及び内金一〇万円に対する平成一五年一一月二八日から、内金一一七万七三三四円に対する平成一六年四月二七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは原告X3に対し、連帯して金一二七万七三三四円及び内金一〇万円に対する平成一五年一一月二八日から、内金一一七万七三三四円に対する平成一六年四月二七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告らは原告X4に対し、連帯して金一二七万七三三四円及び内金一〇万円に対する平成一五年一一月二八日から、内金一一七万七三三四円に対する平成一六年四月二七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告らは原告X5に対し、連帯して金一二七万七三三四円及び内金一〇万円に対する平成一五年一一月二八日から、内金一一七万七三三四円に対する平成一六年四月二七日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

六  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

七  訴訟費用は、これを一〇分し、その九を原告らの、その余を被告らの負担とする。

八  この判決は第一項ないし第五項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは原告X1に対し、連帯して金一七七四万九五九一円及びこれに対する平成一五年一一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは原告X2に対し、連帯して金一七七四万九五九一円及びこれに対する平成一五年一一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  被告らは原告X3に対し、連帯して金一七七四万九五九一円及びこれに対する平成一五年一一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告らは原告X4に対し、連帯して金一七七四万九五九一円及びこれに対する平成一五年一一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告らは原告X5に対し、連帯して金一七七四万九五九一円及びこれに対する平成一五年一一月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、亡Aが信号機によって交通整理の行われている交差点の横断歩道を横断していたところ、被告Y1の運転する普通乗用自動車(以下「被告車両」という。)と衝突して死亡した交通事故について、亡Aの相続人である原告らが、被告Y1に対して民法七〇九条に基づいて、被告Y1の使用者で被告車両の保有者である被告栄和交通株式会社(以下「被告会社」という。)に対して自動車損害賠償保障法三条又は民法七一五条に基づいて、それぞれ損害の賠償を求めている事案である。

一  争いのない事実等

(1)  本件事故の発生

ア 日時 平成一五年一一月二八日午前一時二五分ころ

イ 場所 大阪市天王寺区上本町六丁目一番五五号先交差点(以下「本件交差点」という。)

ウ 事故態様 亡Aが信号機によって交通整理の行われている本件交差点を徒歩で南から北へ横断していたところ、東から西へ向かって進行してきた被告車両と衝突した。

(2)  亡Aの死亡(甲一)

亡A(昭和○年○月○日生まれ、本件事故当時四〇歳)は、本件事故により頭蓋底骨折の傷害を負い、平成一五年一一月二八日、出血性ショックにより死亡した。

(3)  被告会社

被告会社は、被告車両の保有者であった。また、被告会社は、被告Y1の使用者であり、本件事故当時、被告Y1は被告会社の業務として被告車両を運転していた。

(4)  原告ら

ア 原告X2、同X3、同X4は亡Aの姉、同X1は兄、同X5は弟である。

イ 亡Aは大韓民国国籍を有しており、同国の法律によれば、原告らは、亡Aの遺産を各五分の一の割合で相続した。

(5)  既払金

ア 平成一六年四月二六日、原告らに対し、自動車損害賠償責任保険金として一八四六万五二五〇円が支払われた。

イ 被告らは、原告らに対し、治療費として一二五万〇〇六〇円、文書料として六三〇〇円、葬儀関係費として五三万四七五〇円を支払った。

二  争点

(1)  本件事故の態様、過失割合

【被告らの主張】

本件事故は、被告車両が対面青信号に従い、本件交差点を直進しようとしたところ、亡Aが赤信号を無視して本件交差点の横断歩道を横断し始めたため、被告Y1が衝突を回避しようと急制動の措置をとったものの、間に合わずに衝突したものである。亡Aが横断しようとしていた道路は、幹線道路であり、亡Aが黒い服装をしていたこと、亡Aの血液から一ミリリットルあたり一・四ミリグラムのエチルアルコールが検出されたことに鑑みれば、亡Aには重大な過失があった。

【原告らの主張】

亡Aの対面歩行者用信号が赤であったことは否認する。本件事故当時、被告車両は時速八〇キロメートルの速度で走行したもので、被告Y1には、速度違反の過失と前方不注視の過失とがあり、過失相殺を行うような事案ではない。

(2)  損害

【原告らの主張】

ア 葬儀関係費用

本件事故と相当因果関係にある葬儀費用は少なくとも一五〇万円である。被告らに請求した以外にも領収書の発行されない支出があった。

イ 物損

亡Aが本件事故当時身につけていた着衣、靴などは、本件事故により使用不能となったが、その損害額は三〇万円を下らない。

ウ 逸失利益

亡Aは、本件事故当時、日本国内を生活の拠点として、ナイトクラブの歌手などで稼働し安定した収入を得ていたから、本件事故がなければ、少なくとも日本の平均賃金程度の収入を得ることは確実であった。

基礎収入を平成一五年度賃金センサス・産業計・企業規模計・全労働者・学歴計四〇歳から四四歳の平均賃金である五七七万九五〇〇円として、生活費控除を三〇パーセント、就労可能年数を二七年とし、中間利息年五パーセントをライプニッツ方式により控除すると(係数は一四・六四三)、以下の計算式により、逸失利益の額は五九二四万〇四五二円となる。

5,779,500×(1-0.3)×14.643=59,240,452

エ 死亡慰謝料

亡Aの苦痛に対する慰謝料は三〇〇〇万円を下らない。

オ 固有の慰謝料

原告らは、不慣れな異国の地である日本で警察の事情聴取を受けたこと、被告らの交渉態度が不誠実であったこと、被告らが警察に対して、被告らと原告らとの示談が順調にいっているなど虚偽の事実を申告したため、被告Y1が軽微な処分に処されたことなど、精神的苦痛を受けた。遺族である原告らの精神的苦痛を金銭に評価すれば、各人についてそれぞれ一〇〇万円を下らない。

カ 弁護士費用

原告らは、弁護士に依頼して訴訟提起をすることを余儀なくされたもので、本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は少なくとも九〇〇万円を下らない。

キ 損害の填補

原告らは、平成一六年四月二六日、自動車損害賠償責任保険金として一八四六万五二五〇円の支払いを受けた。損害額の合計は一億〇五〇四万〇四五二円であるが、これに対する本件事故当日から上記支払日までの一五一日間の遅延損害金二一七万二七五五円に支払いを受けた自動車損害賠償責任保険金をまず充当すると、残元本は八八七四万七九五七円となる。

ク 相続

原告らは、亡Aの遺産を各五分の一ずつの割合で相続したから、各原告が被告らに対して有する損害賠償請求権の額は、一七七四万九五九一円となる。

ケ 結論

よって、原告らは、それぞれ被告らに対し、連帯して一七七四万九五九一円及びこれに対する不法行為の日である平成一五年一一月二八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による金員の支払いを求める。

【被告らの主張】

ア 葬儀関係費用

五三万四七五〇円を超える分は否認する。

イ 物損

否認する。

ウ 逸失利益

亡Aは観光ビザで入国していたものであるから、日本を生活の本拠としていたとは認められず、日本の平均賃金を基礎収入に採用することは相当ではない。仮に、日本を生活の本拠としていたとしても、亡Aの在留資格では就労ができないこととなっているから、六七歳まで稼働することを前提に逸失利益を算出することは認められない。亡Aは、独身であったから、生活費控除率は五〇パーセントが相当である。

エ 死亡慰謝料、固有の慰謝料

原告らの主張する慰謝料の額は高額すぎる。

(3)  損害の填補

【被告らの主張】

原告らは、既に合計二〇二五万六三六〇円の支払いを受けているから、同額を過失相殺後の損害額から控除すべきである。

【原告らの主張】

自動車損害賠償責任保険金については、遅延損害金からの充当を主張する。

第三争点に対する判断

一  事故態様、過失割合

(1)  証拠(甲一)によれば、以下の事実が認められる。

ア(ア) 本件現場は、南北方向の道路と東西方向の道路(以下「東西道路」という。)とが交差する信号機の設置されている交差点の横断歩道上である。

(イ) 東西道路は、中央分離帯が設置されている片側四ないし五車線の幹線道路で、最高速度は時速五〇キロメートルに制限されている。

(ウ) 本件交差点の西側には、東西道路を横断するための横断歩道と自転車横断帯(以下「西側横断歩道」という。)が設置されている。(詳細は、別紙現場見取図のとおり。)

(エ) 本件事故当時は夜間であったが、本件交差点付近は照明のため明るい状態で、見通しも良かった。

イ(ア) 亡Aは、酒に酔った状態で、歩行者用の対面信号が赤色であったにもかかわらず、西側横断歩道を南から北へ向かって横断し始めた。横断の途中、一、二台の自動車が亡Aを避けて、東から西へ通り過ぎた。

(イ) 被告Y1は、東西道路を東から西へ向かって被告車両を運転し、時速約八〇キロメートルの速度で本件交差点に差し掛かった。

被告車両が別紙現場見取図の<3>の地点まで進行したとき、被告Y1は<ア>に亡Aが歩行しているのに気づいた。被告Y1は、直ちに急制動の措置を講じたが避けられず、<×>の地点で亡Aと衝突した。

後日実況見分を行ったところ、衝突地点の五〇メートル東側の地点からでも衝突地点に人が立っているのを確認することができた。

(ウ) 原告らは、西側横断歩道の歩行者用信号が赤であったことを否認するが、本件交差点の南西角で本件事故を目撃したBと被告車両の左後方を走行して本件事故を目撃した自動車の運転手であるCとは、本件交差点の東西方向の信号機が青色である旨、あるいは、南北方向の信号機が赤色であった旨の供述をしており、また、「亡Aと被告車両との距離が十分あったので避けられると思ったが、被告車両は減速したり回避したりせずに衝突した。」などと、衝突の具体的な危険が生じる前から衝突に至るまでの経過についても供述していることに鑑みれば、これらの目撃者の供述は十分に信用することができ、他に前記認定を翻すに足りる証拠はない。

(2)  被告Y1の過失、過失割合

ア 衝突地点の五〇メートル東側の地点で衝突地点に人が立っていることを確認することができたのであるから、被告Y1が、時速約三〇キロメートルも最高速度を超過しておらず、前方を注視していれば、本件事故の発生を回避することはできたはずであり、被告Y1には、前方を十分に注視せず、最高速度を超過した速度で走行した過失があったと認められる。

イ しかしながら、酒に酔った状態で赤信号を無視して西側横断歩道を横断していた亡Aにも過失があったと認められるのであって、東西道路が交通量の多い幹線道路であることも考慮すれば、過失割合は、被告Y1が四〇パーセント、亡Aが六〇パーセントと認めるのが相当である。

二  損害

(1)  葬儀関係費用

葬儀費用が少なくとも五三万四七五〇円であることは当事者間に争いがない。一般的に、葬儀を行う際、領収書を作成して貰うことのできない出費があることは知られており、原告らが亡Aの身柄を引き取りに大韓民国から渡航してきていることを考慮すれば、葬儀関係費用として一五〇万円を認めるのが相当である。

(2)  物損

証拠(甲一)によれば、亡Aは本件事故当時、高級ブランド品の衣服と靴を身につけており、本件事故によってこれらの衣服や靴が損傷したことが認められ、その損害額は一〇万円と認めるのが相当である。

(3)  逸失利益

ア(ア) 証拠(甲五ないし一七)によれば、以下の事実が認められる。

亡Aは、大韓民国内ではマンションを借りて暮らしていたが、短期の観光ビザを取得してたびたび日本に渡航し、日本にマンションを借りて生活の本拠とし、歌手として稼働して収入を得ていた。平成一五年には、平成一五年一月一日から平成一五年一月三一日まで(三一日間)、同年二月二六日から同年四月二八日まで(六二日間)、同年五月一九日から同年七月三日まで(四六日間)、同年七月二四日から同年一〇月二〇日まで(八九日間)、同年一一月一三日から本件事故当日まで(一六日間)と、本件事故に遭うまでの三三二日のうち二四四日間日本に滞在していた。

本件事故当時、大韓民国の銀行等に合計九〇四七万一七九九ウォン(日本銀行発表の平成一五年一一月末日時点の為替相場である一ウォンあたり〇・〇九〇八円で換算すると八二一万四八三九円)の預貯金を有し、担保も設置せずに一戸建ての住宅を大韓民国内に競売で落札し、所有していた。

(イ) これらの事実によれば、亡Aは、日本で就労し、相当程度の収入を得ていたと推認されるが、収入を直接裏付けるような証拠は提出されておらず、また、これまで日本に渡航した際は、日本で就労する在留資格を得ておらず、将来にわたって現在の収入を得られるか明らかでないことに照らせば、基礎収入は、平成一五年度賃金センサス・産業計・企業規模計・全労働者・全年齢平均賃金四八八万一一〇〇円の七五パーセントにあたる三六六万〇八二五円と認めるのが相当である。

イ 亡Aが独身の女性であったこと、本件事故当時、親族を扶養していたと認めるに足りる証拠がないことに鑑みれば、生活費控除率は三〇パーセントが相当である。

亡Aは本件事故当時四〇歳であったから、就労可能年数を二七年とし、中間利息年五パーセントをライプニッツ方式により控除すると(係数は一四・六四三〇)、以下の計算式により、三七五二万三八二二円となる。

3,660,825×(1-0.3)×14.6430=37,523,822

(4)  死亡慰謝料、固有の慰謝料

ア 本件事故で死亡した亡Aの精神的苦痛に対する慰謝料は二〇〇〇万円と認めるのが相当である。

イ 亡Aの死亡により原告らが被った精神的苦痛及び日本に渡航することを余儀なくされたことに対する精神的苦痛に対する慰謝料は、各自につき一〇〇万円と認めるのが相当である。

三  過失相殺

以上を合計すると亡Aの損害が五九一二万三八二二円、原告ら各自の損害が一〇〇万円となるが、前記のとおり、亡Aには六〇パーセントの過失があるから、かかる割合にしたがって過失相殺すると、亡Aの損害が二三六四万九五二八円(各自四七二万九九〇五円)、原告ら各自の損害が四〇万円となり、各原告が取得する損害賠償請求権の額は亡Aの損害分も含めて五一二万九九〇五円となる。

四  損害の填補

(1)  原告らは、被告らから合計一七九万一一一〇円の支払いを受けているから、その五分の一にあたる三五万八二二二円について、各自の取得した損害賠償請求権の額から控除すると、残額は各四七七万一六八三円となる。

(2)  自動車損害賠償責任保険金

争いのない事実等のとおり、原告らは、平成一六年四月二六日、自動車損害賠償責任保険金として一八四六万五二五〇円、原告一人あたり三六九万三〇五〇円の支払いを受けているところ、(1)の残額に対する本件事故当日から平成一六年四月二六日まで一五一日間の遅延損害金の額は以下の計算式により九万八七〇一円であるから、自動車損害賠償責任保険金を遅延損害金にまず充当すると元本に充当される額は三五九万四三四九円となり、残元本は一人あたり一一七万七三三四円となる。

4,771,683×0.05÷365×151=98,701

五  弁護士費用

本件の認容額や事件の内容など諸般の事情を考慮すれば、原告らに対する弁護士費用は各一〇万円と認めるのが相当である。

六  以上より、原告らそれぞれの被告らに対する請求は、各自一二七万七三三四円及び内金一〇万円に対する平成一五年一一月二八日から、内金一一七万七三三四円に対する平成一六年四月二七日から、各支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由がある。

よって主文のとおり判決する。

(裁判官 平井健一郎)

別紙 現場見取図

<省略>

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