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大阪地方裁判所 平成17年(ワ)8091号 判決 2006年7月10日

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原告

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同訴訟代理人弁護士

井上耕史

東京都千代田区大手町一丁目2番4号

被告

プロミス株式会社

同代表者代表取締役

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同訴訟代理人弁護士

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同訴訟復代理人弁護士

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主文

1  被告は,原告に対し,240万6819円並びに内金182万2363円に対する平成17年5月24日から支払済みまで年6分の割合による金員及び内金23万円に対する同年5月23日から,内金35万円に対する同年8月26日からそれぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,被告の負担とする。

4  この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。

事実

第1請求の趣旨

1  被告は,原告に対し,240万7450円並びに内金182万2990円に対する平成17年5月24日から支払済みまで年6分の割合による金員及び内金23万円に対する同月23日から,内金35万円に対する同年8月26日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は,被告の負担とする。

3  仮執行宣言

第2請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は,原告の負担とする。

第3請求原因

1  過払金の不当利得返還請求

(1)  被告は,原告に対し,別紙利息計算書の借入金額欄記載の金額を,該当の年月日欄記載の年月日に,利息制限法1条1項所定の利率(以下「制限利率」という。)を超過する利息の約定で貸し付け,原告は,被告に対し,同計算書の返済額欄記載の金額を,該当の年月日欄記載の年月日に返済した。

(2)  (1)の返済の際に支払われた約定利息のうち制限利率を超過する部分(以下,この部分を「超過利息部分」という。)を(1)の取引に係る原告の被告に対する貸金債務に充当して計算し直すと,当該貸金債務は消滅しており,かえって原告の被告に対する過払金の不当利得返還請求権が発生している。

(3)  被告は,悪意の受益者であるから,(2)の不当利得返還請求権には,民法704条前段の法定利息が発生する。

(4)  被告は貸金業者であり,不当利得を営業のために使用し収益を上げているから,(3)の法定利息は,商事法定利率年6分の割合による。

(5)  以上によると,別紙利息計算書記載のとおり,原告の被告に対する不当利得返還請求権は,182万2990円であり,その法定利息のうち過払金の充当により消滅した金額を除いた残額は,平成17年5月23日の時点で4460円である。

(6)  原告は,一般市民であり,以上の不当利得返還請求権の実現のために,弁護士である原告代理人に委任することを余儀なくされた。このことによる弁護士費用は23万円を下回らない。

(7)  よって,原告は,被告に対し,不当利得返還請求権に基づき,182万2990円並びに最終取引日である平成17年5月23日の時点における法定利息4460円及び前記182万2990円に対するその翌日である同月24日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による法定利息の支払を求めるとともに,民法704条後段の損害賠償として23万円及びこれに対する不当利得金が発生し,かつ,被告が悪意となった日後の日である同月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  取引履歴の不開示による損害賠償請求

(1)  原告は,平成17年6月23日ころ,被告に対し,原被告間の全取引履歴の開示を求めた。

(2)  被告は当初は平成7年7月5日以降の取引履歴しか開示しなかったことから,原告は,弁護士である原告代理人に本件訴訟の提起を委任することを余儀なくされた。このことによる精神的苦痛に対する慰謝料は30万円を下回らず,弁護士費用は5万円を下回らない。

(3)  よって,原告は,被告に対し,不法行為による損害賠償請求権に基づき,35万円及びこれに対する不法行為後の日である平成17年8月26日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第4請求原因に対する認否

1  請求原因1項について

(1)  請求原因1項(1)の事実は,認める。

(2)  請求原因1項(2)の事実は,否認する。

原告は,昭和61年4月14日に被告との間でリボルビング契約を締結して,金銭消費貸借取引をし,平成7年11月30日にいったん貸金債務を全額返済して取引を終了し,平成8年6月11日に新たに被告との間でリボルビング契約を締結して,金銭消費貸借取引をしたものであり,平成7年11月6日以前の取引(以下「本件取引①」という。)において発生した過払金は,平成8年6月11日以降の取引(以下「本件取引②」という。)に係る貸金債務には充当されない。そして,本件取引①については82万1576円の過払いとなっているが,本件取引②については元金が24万5834円残存しており過払いとなっていない。

(3)  請求原因1項(3)の事実は否認し,主張は争う。

民法704条前段の悪意の受益者に当たるためには,過払金が発生しているかもしれない旨の認識では足りず,みなし弁済(貸金業の規制等に関する法律43条)が成立する余地がなく過払金が確実に発生している旨の認識を要する。被告は,訴訟において敗訴が確定するまでは,そのような認識を有していない。

(4)  請求原因1項(4)の事実のうち被告が貸金業者であることは認め,主張は争う。

(5)  請求原因1項(5)の主張は,争う。

(6)  請求原因1項(6)の事実のうち原告が一般市民であることは認め,その余は否認する。

2  請求原因2項について

(1)  請求原因2項(1)の事実は,認める。

(2)  請求原因2項(2)の事実は,否認する。被告は,平成17年11月21日,原告に対し,全取引履歴を開示しており,取引履歴の開示に係る被告の行為には,違法性がない。

第5抗弁(請求原因1項に対し)

1  商事消滅時効

(1)  平成12年5月2日から,5年が経過した。

(2)  被告は,平成17年11月21日到達の準備書面により,被告に対し,平成12年5月2日の時点で発生していた原告の被告に対する不当利得返還請求権について,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

2  10年の消滅時効

(1)  平成7年8月18日から,10年が経過した。

(2)  被告は,平成17年11月21日到達の準備書面により,被告に対し,平成7年8月18日の時点で発生していた原告の被告に対する不当利得返還請求権について,消滅時効を援用する旨の意思表示をした。

第6抗弁に対する認否

1  抗弁1項(1)及び(2)の各事実は,当裁判所に顕著である。

2  抗弁2項(1)及び(2)の各事実は,当裁判所に顕著である。

3  過払金の不当利得返還請求権の時効の起算点は,権利行使が現実に期待できる時であり,それは,被告が全取引履歴を開示した平成17年11月21日,あるいは最終取引日である同年5月23日である。したがって,消滅時効は完成していない。

理由

第1  請求原因について

1  請求原因1項について

(1)  請求原因1項(1)の事実は,当事者間に争いがない。

(2)  請求原因1項(2)について

同一当事者間において複数の金銭消費貸借取引があり,そのうちの一口において制限利率を超過する約定利息の支払により過払金が発生した場合には,借主は過払金を残したまま別口の取引を続けるといった複雑な権利関係が発生することを望まないのが通常であることから,特段の事情のない限り,当該過払金は当然に別口の金銭消費貸借取引に係る貸金債務に充当されると解される。そして,この理は,過払金発生の時点で既に別口の金銭消費貸借に係る貸金債務が存在している場合のみならず,過払金の発生後の時点で新たに別口の金銭消費貸借取引が開始された場合においても同様に妥当すると解される(過払金が,その発生と同時でなければ,別口の債務に充当されることはないなどと解すべき合理的根拠は見出し難い。)。

したがって,本件取引①において発生した過払金は,本件取引②に係る貸金債務に充当される。

(3)  請求原因1項(3)について

民法704条前段の法定利息は,超過利息部分を貸金債務に充当して計算し直した結果,貸金債務が消滅して過払金が発生し(貸金債務が残存している時点では,超過利息部分は当然に貸金債務に充当されることから,過払金は発生せず,これに対する法定利息も発生する余地がない。),かつ,受益者が悪意を有するに至った日から発生すると解される。

そして,制限利率を超過する利息の約定による貸付を恒常的に行う貸金業者は,その職業上の知識経験に照らし,超過利息部分の支払を受けることにより過払金が発生するとの事理を熟知しているというべきであり,その上で,意図的に制限利率を超過する約定利息の支払を受けることにより超過利息部分の不当利得の獲得を図っているものであるから,制限利率を超過する約定利息の支払を受ける際に過払金が発生している旨の具体的・確定的な認識を有していないとしても,過払金が発生している可能性がある旨の抽象的・未必的な認識を有している限り,悪意の受益者に当たると解することが相当である。

しかるところ,被告が原告に対し制限利率を超過する利息の約定による貸付をしていたことは当事者間に争いがなく,被告が制限利率を超過する利息の約定による貸付を恒常的に行う貸金業者に当たることは当裁判所に顕著である。また,被告は,遅くとも別紙利息計算書のとおり過払金が発生した平成3年5月20日の時点では,昭和61年4月14日の取引開始以降原告から反復継続して制限利率を超過する約定利息の支払を受けてきたものであるから,過払金が発生している可能性がある旨の抽象的・未必的な認識を有していたと推認することができ,この推認を覆すに足りる事情は窺われない。

以上によると,被告は,平成3年5月20日以降は,原告に対し,過払金に対する民法704条前段の法定利息の支払義務を免れない。

(4)  請求原因1項(4)について

制限利率を超過する利息の約定による貸付を恒常的に行う貸金業者は,営業活動として(3)で述べたとおり超過利息部分の不当利得の獲得を図っているものであり,こうした不当利得の発生は偶発的なものではなく営業上予定されたものであり,当該貸金業者はこれを営業に使用して商業的な利益を得ているものということができるから,超過利息部分を貸金債務に充当して計算し直した結果発生した過払金の不当利得返還請求権は,商行為によって生じた債権に準ずるものとして,これに対する民法704条前段の法定利息は商事法定利率年6分の割合によることが相当であると解される。

(5)  請求原因1項(5)について

以上に照らし,請求原因1項(1)の返済の際に支払われた超過利息部分を貸金債務に充当して計算し直すと,別紙計算書記載のとおり,平成17年5月23日の時点で182万2363円の過払金及び4456円の法定利息が発生しているということができる(なお,貸金債務に対する約定利息については貸付日当日については発生しないものとして計算をすることとの均衡から,不当利得返還請求権に対する法定利息についても過払いの当日については発生しないものとして計算した。)。

(6)  請求原因1項(6)について

請求原因1項(6)の事実のうち,原告が一般市民であることは,当事者間に争いがない。

すると,原告が以上の不当利得返還請求権を実現するために原告代理人に委任したことによる弁護士費用23万円は,被告の不当利得と相当因果関係のある損害に当たるということができる。

また,当該損害は,不当利得の返還によっては,填補されるものではないと解される。

2  請求原因2項について

(1)  請求原因2項(1)の事実は,当事者間に争いがない。

(2)  請求原因2項(2)について

原告代理人は平成17年6月23日ころ被告に対し取引履歴の開示を請求した事実や〔甲A第7号証〕,被告は同月27日に平成7年7月5日以降の取引に係る取引履歴のみを開示した事実〔甲A第3号証〕,原告は同年8月18日に本件訴訟を提起した事実〔弁論の全趣旨〕,被告は同年11月21日に全取引履歴を開示した事実〔乙A第1号証のファクシミリ送信の日付〕がそれぞれ認められる。

以上の各事実によると,被告による全取引履歴の開示の遅滞のために,原告は本件訴訟の提起を原告代理人に委任することを余儀なくされたということができる。

また,貸金業者は顧客から取引履歴の開示を求められた場合には速やかに全面的にこれを開示すべき法的義務を負うと解されるところ,以上のような被告による全取引履歴の開示の遅滞は,当該義務に反するものであり,そのことについて正当な理由があったことを基礎づける事情は何ら窺われないから,被告による全取引履歴の開示の遅滞は,前記法的義務に反するものであり,違法性があるから,不法行為に当たる。

そして,当該遅滞により原告が精神的苦痛を被ったことによる慰謝料30万円及び当該慰謝料請求権を実現するために原告代理人に本件訴訟の提起を委任したことによる弁護士費用5万円は,当該不法行為と相当因果関係のある損害に当たるということができる。

第2  抗弁について

原告の被告に対する不当利得返還請求権は,貸付及び返済の取引が継続している間はその存否や範囲が確定せず,取引が終了した平成17年5月23日の時点でその存否や範囲が確定し,現実に権利行使をすることが期待できる状態に至ったと解することが相当である。

したがって,当該不当利得返還請求権の消滅時効の起算点は,平成17年5月23日ということができる。

すると,同日から消滅時効期間は経過してはいないから,抗弁1項及び2項の各主張は,いずれも採用できない。

第3  以上によると,原告の請求原因1項の請求は,不当利得返還請求権に基づき,182万2363円並びに最終取引日である平成17年5月23日の時点における民法所定の年6分の割合による民法704条前段の法定利息4456円及び前記182万2363円に対するその翌日である同月24日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による同法定利息の支払を求めるとともに,同条後段の損害賠償として23万円及びこれに対する不当利得金が発生し,かつ,被告が悪意となった日後の日である同月23日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから,これを認容し,その余は理由がないから,これを棄却することとし,請求原因2項の請求は,理由があるから,これを認容することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法61条,64条ただし書を,仮執行宣言について同法259条1項をそれぞれ適用して,主文のとおり判決する。

(裁判官 岩松浩之)

<以下省略>

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