大阪地方裁判所 平成17年(行ウ)114号 判決 2007年8月10日
主文
1 原告の被告らに対する請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 被告枚方市長は,A及び大阪府市町村職員健康保険組合に対し,2億7614万9445円及びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を枚方市に対し連帯して支払うよう請求せよ。
2 被告枚方市水道事業管理者は,大阪府市町村職員健康保険組合に対し,1584万0110円及びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を枚方市に対し支払うよう請求せよ。
3 被告枚方市病院事業管理者は,大阪府市町村職員健康保険組合に対し,3772万9354円及びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を枚方市に対し支払うよう請求せよ。
第2事案の概要
1 本件は,枚方市が,健康保険法に基づいて設立された健康保険組合である被告ら補助参加人大阪府市町村職員健康保険組合(以下「本件組合」という。)に対し,平成16年4月から平成17年3月までの間,その規約に基づく保険料の事業主の負担金として,一般保険料額及び調整保険料額の78分の52に相当する13億1887万5636円を支出したことについて,枚方市の住民である原告が,上記支出のうち,事業主と被保険者の負担割合をそれぞれ2分の1ずつとして計算した額を超える部分(3億2971万8909円。以下「本件支出」という。)は違法であり,当時枚方市長の職にあったAは,故意,過失により本件支出(ただし,枚方市の経営する水道事業に係る事業主の負担金として支出された分及び枚方市の経営する病院事業に係る事業主の負担金として支出された分を除く。)をして枚方市に同額の損害を与え,補助参加人は,本件支出と同額の金員を不当に利得したなどと主張して,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,① 本件支出のうち枚方市の経営する水道事業に係る事業主の負担金として支出された分及び枚方市の経営する病院事業に係る事業主の負担金として支出された分を除いた分2億7614万9445円については,被告枚方市長に対し,Aに対しては不法行為に基づく損害賠償として,本件組合に対しては不当利得の返還として,連帯して上記金員及びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求をすることを,② 本件支出のうち枚方市の経営する水道事業に係る事業主の負担金として支出された分1584万0110円については,被告枚方市水道事業管理者に対し,本件組合に対し不当利得の返還として上記金員及びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求をすることを,③ 枚方市の経営する病院事業に係る事業主の負担金として支出された分3772万9354円については,被告枚方市病院事業管理者に対し,本件組合に対し不当利得の返還として上記金員及びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払請求をすることを,それぞれ求めた事案である。
2 法令の定め
(1) 地方公務員法43条1項は,職員の病気,負傷,出産,休業,災害,退職,障害若しくは死亡又はその被扶養者の病気,負傷,出産,死亡若しくは災害に関して適切な給付を行うための相互救済を目的とする共済制度が,実施されなければならない旨規定し,同条4項は,同条1項の共済制度については,国の制度との間に権衡を失しないように適当な考慮が払われなければならない旨規定し,同条5項は,同条1項の共済制度は,健全な保険数理を基礎として定めなければならない旨規定し,同条6項は,同条1項の共済制度は,法律によってこれを定める旨規定する。
(2) 地方公務員等共済組合法1条は,この法律は,地方公務員の病気,負傷,出産,休業,災害,退職,障害若しくは死亡又はその被扶養者の病気,負傷,出産,死亡若しくは災害に関して適切な給付を行うため,相互救済を目的とする共済組合の制度を設け,その行うこれらの給付及び福祉事業に関して必要な事項を定め,もって地方公務員及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するとともに,公務の能率的運営に資することを目的とし,あわせて地方議会議員及び地方団体関係団体の職員の年金制度等に関して定めるものとする旨規定し,同条2項は,国及び地方公共団体は,同条1項の共済組合の健全な運営と発達が図られるように,必要な配慮を加えるものとする旨規定する。
同法113条1項は,組合(同法3条1項各号の地方公務員共済組合及び同条2項に規定する都市職員共済組合をいう。)の給付に要する費用(老人保健法53条1項に規定する拠出金(老人保健拠出金)及び国民健康保険法81条の2第1項に規定する拠出金(退職者給付拠出金)並びに介護保険法150条1項に規定する納付金(介護納付金)の納付に要する費用並びに基礎年金拠出金に係る負担に要する費用を含む。)は,短期給付に要する費用(老人保健拠出金及び退職者給付拠出金並びに介護納付金の納付に要する費用を含み,地方公務員等共済組合法113条3項1号に掲げる費用のうち同項の規定による地方公共団体の負担に係るものを除く。)にあっては各組合ごとに当該組合を組織する職員(介護納付金の納付に要する費用については,当該組合を組織する職員のうち介護保険法9条2号に規定する被保険者の資格を有する者)を単位として,長期給付に要する費用(基礎年金拠出金に係る負担に要する費用(地方公務員等共済組合法113条3項2号に掲げる費用のうち同項の規定による地方公共団体の負担に係るものを除く。)を含み,同条2項3号に掲げるものを除く。)にあってはすべての組合を組織する職員を単位として,同条1項1号ないし3号に定めるところにより,算定するものとし,この場合において,同項3号に規定する費用については,少なくとも5年ごとに再計算を行うものとする旨規定する。
同条2項は,組合の事業に要する費用で同項1号ないし5号に掲げるものは,当該各号に掲げる割合により,組合員の掛金及び地方公共団体(市町村立学校職員給与負担法1条又は2条の規定により都道府県がその給与を負担する者にあっては,都道府県。)の負担金をもって充てる旨規定し,地方公務員等共済組合法113条2項1号は,短期給付に要する費用(同項1号の2に掲げるものを除く。)につき掛金100分の50,地方公共団体の負担金100分の50,同項1号の2は,介護納付金の納付に要する費用につき,掛金100分の50,地方公共団体の負担金100分の50,同項2号は,長期給付に要する費用につき,掛金100分の50,地方公共団体の負担金100分の50,同項3号は,公務等による障害共済年金(同法90条2項(同条4項において準用する場合を含む。)の規定によりその額が算定される障害共済年金及び同法103条2項(同条3項において準用する場合を含む。)の規定によりその額が算定される障害共済年金で同法90条1項の規定により併合される障害のいずれかが公務等傷病によるものであるものを含む。)又は公務等による遺族共済年金に要する費用につき,地方公共団体の負担金100分の100,同法113条2項4号は,福祉事業に要する費用につき,掛金100分の50,地方公共団体の負担金100分の50,同項5号は,組合の事務(福祉事業に係る事務を除く。)に要する費用につき,地方公共団体の負担金100分の100と規定する。
同法附則29条1項は,「この法律の公布の際現に組合員となるべき者を被保険者とする健康保険組合が組織されている地方公共団体にあつては,当該地方公共団体の長が,昭和37年10月5日までに,厚生大臣及び自治大臣に対し,当該健康保険組合を施行日以後は存続しないことの,政令で定めるところによる当該健康保険組合の組合会の議決があつた旨を申し出た場合を除き,この法律の短期給付に関する規定は,施行日以後においても,当該健康保険組合の被保険者である当該地方公共団体の職員については,適用しないものとする。」旨規定し,同条2項は,「この法律の公布の際現に組合員となるべき者を被保険者とする健康保険組合で前項の規定による申出がされたものは,この法律の施行の時において,解散するものとする。」旨規定する。
(3) 健康保険法(平成18年法律第83号による改正前のもの)4条は,健康保険(日雇特例被保険者の保険を除く。)の保険者は,政府及び健康保険組合とする旨規定し,健康保険法6条は,健康保険組合は,その組合員である被保険者の保険を管掌する旨規定し,同法8条は,健康保険組合は,適用事業所の事業主,その適用事業所に使用される被保険者及び任意継続被保険者をもって組織する旨規定する。
健康保険法(平成18年法律第83号による改正前のもの)155条は,保険者は,健康保険事業に要する費用(老人保健拠出金及び退職者給付拠出金並びに介護納付金並びに健康保険組合においては,同法173条の規定による拠出金の納付に要する費用を含む。)に充てるため,保険料を徴収する旨規定し,健康保険法161条1項は,「被保険者及び被保険者を使用する事業主は,それぞれ保険料額の2分の1を負担する。ただし,任意継続被保険者は,その全額を負担する。」旨規定し,同法162条は,「健康保健組合は,前条第1項の規定にかかわらず,規約で定めるところにより,事業主の負担すべき一般保険料額又は介護保険料額の負担の割合を増加することができる。」旨規定する。なお,一般保険料額は,各被保険者の標準報酬月額及び標準賞与額にそれぞれ同法160条1項所定の一般保険料率を乗じて得た額をいい,介護保険料額は,各被保険者の標準報酬月額及び標準賞与額にそれぞれ同条11項所定の介護保険料率を乗じて得た額をいう(同法156条1項1号)。
健康保険法(平成18年法律第83号による改正前のもの)附則2条1項は,健康保険組合が管掌する健康保険の医療に関する給付又は健康保険組合に係る老人保健拠出金,日雇拠出金若しくは退職者給付拠出金若しくは介護納付金の納付に要する費用の財源の不均衡を調整するため,連合会は,政令で定めるところにより,会員である健康保険組合(組合)に対する交付金の交付の事業を行うものとする旨規定し,同条2項は,組合は,同条1項の事業に要する費用に充てるため,連合会に対し,政令で定めるところにより,拠出金を拠出するものとする旨規定し,同条3項は,組合は,同条2項の規定による拠出金の拠出に要する費用に充てるため,調整保険料を徴収する旨規定し,同条7項は,「第159条,第161条,第162条及び第167条の規定は,第3項の規定による調整保険料について準用する。」旨規定する。
(4) 地方公務員法25条1項は,職員の給与は,同法24条6項の規定による給与に関する条例に基づいて支給されなければならず,また,これに基づかずには,いかなる金銭又は有価物も職員に支給してはならない旨規定する。
3 前提となる事実
(1) 当事者
ア 原告は,枚方市の住民である。
イ 被告枚方市長は,枚方市の市長であり,被告枚方市水道事業管理者は,枚方市の経営する水道事業の管理者であり,被告枚方市病院事業管理者は,枚方市の経営する病院事業の管理者である。
ウ 被告ら補助参加人大阪府市町村職員健康保険組合(本件組合)は,健康保険法に基づき,組合員である被保険者の健康保険を管掌することを目的として昭和23年12月1日に設立された健康保険組合であり,大阪府に所在する市町村(大阪市を除く。)ほかの事業所の事業主及びその事業所に使用される被保険者を組合員の範囲としている。
(2) 組合規約の定め
大阪府市町村職員健康保険組合規約(以下「本件規約」という。)47条は,平成15年4月1日から平成18年3月31日までの間,保険料及び調整保険料の負担割合につき,「一般保険料額及び調整保険料額の78分の52は事業主,78分の26は被保険者において負担する。(小数点以下第4位を四捨五入する。)」旨規定していた(以下,特に断らない限り,本件規約47条は,平成15年4月1日から平成18年3月31日までの間のものをいう。)。
(3) 本件支出
枚方市は,平成16年4月から平成17年3月までの間,本件組合に対し,健康保険法(平成18年法律第83号による改正前のもの)及び本件規約に基づく負担金のうち,介護保険料(被保険者と事業主の負担割合はそれぞれ2分の1とされている。)を除いた保険料額(一般保険料額及び調整保険料額)の事業主負担額として合計13億1887万5636円を支出した。上記支出のうち,事業主と被保険者の負担割合をそれぞれ2分の1ずつとして計算した額を超える部分は3億2971万8909円であり(本件支出),本件支出のうち1584万0110円は,枚方市の経営する水道事業に係る事業主の負担金として支出され,3772万9354円は,枚方市の経営する病院事業に係る事業主の負担金として支出された。
(4) 住民監査請求及び本訴の提起
ア 原告は,平成17年4月18日,枚方市監査委員に対し,枚方市が健康保険法(平成18年法律第83号による改正前のもの)及び本件規約に基づき保険料額の事業主負担額として平成16年4月から平成17年3月まで本件組合に支出した金員のうち被保険者と事業主の負担割合をそれぞれ2分の1として計算した金額を超える部分に相当する3億5575万8501円に係る支出が違法かつ不当な公金の支出に当たるとして,被告枚方市長に対し,枚方市に同額の返還を求める措置をとることを求める住民監査請求(以下「本件監査請求」という。)をした。
イ 枚方市監査委員は,原告に対し,平成17年6月17日付けをもって,本件監査請求を棄却する旨の監査結果の通知をした。同通知において,同監査委員は,上記期間に枚方市が本件組合に支出した介護保険料(前記のとおり被保険者と事業主の負担割合はそれぞれ2分の1とされている。)を除く保険料額の事業主負担額のうち被保険者と事業主の負担割合をそれぞれ2分の1として計算した金額を超える部分に相当する3億2971万8909円の支出に違法性はなく,被告市長に同額の返還を求める措置をとることを求める請求は棄却するとした上で,現行の被保険者と事業主の負担割合は違法ではないが是正する必要性は認められるので,被告市長は,早急に関係機関と協議し,一日でも早く健康保険法161条所定の負担割合に改めるよう求めるとした。
ウ 原告は,平成17年7月14日,枚方市長のみを被告として,被告枚方市長に対し,A及び本件組合に対し3億2971万8909円及びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を枚方市に対し連帯して支払うよう請求することを求める訴え(本件訴え)を提起した。
原告は,平成17年11月16日,上記訴えのうち枚方市がその経営する水道事業に係る事業主の負担金として支出した部分(1584万0110円)について本件組合に対し不当利得の返還請求をするよう求める部分につき被告を枚方市長から枚方市水道事業管理者に変更し,枚方市がその経営する病院事業に係る事業主の負担金として支出した部分(3772万9354円)について本件組合に対し不当利得の返還請求をするよう求める部分につき被告を枚方市長から枚方市病院事業管理者に変更することを求める申立てをし,当裁判所は,平成18年3月8日,上記各被告の変更を許可する旨の決定をした。
原告は,同月24日,本訴の請求の趣旨を前記第1のとおり変更する旨の「請求の趣旨変更」申立書を提出し,同年4月17日の本件第5回弁論準備手続期日においてこれを陳述した。
(なお,地方公営企業法の適用を受ける地方公共団体の経営する企業(地方公営企業)に関する地方自治法242条の2第1項4号に基づく損害賠償又は不当利得返還の請求に係る同号所定の執行機関は当該地方公営企業の管理者であると解するのが相当である。)
4 争点及び争点に関する当事者の主張
本件の争点は,本件支出の違法性及び本件支出についての市長(A)の故意,過失の有無であり,争点に関する当事者の主張は,次のとおりである。
(1) 本件支出の違法性
(原告の主張)
ア 地方公務員法43条4項は,「第1項の共済制度については,国の制度との間に権衡を失しないように適当な考慮が払われなければならない。」旨規定している。しかるところ,後記エのとおり,枚方市職員の平均人件費に相当する年収約940万円の職員が負担する保険料額は年間約17万円,当該職員に対する枚方市の負担額は年間約38万円であって,当該職員の年間負担額約17万円は,4人家族で年間総収入約150万円の世帯が負担する国民健康保険料額に相当する。このように,本件規約47条は,国の制度との間に権衡を失しており,地方公務員法43条4項に違反する。したがって,本件支出は違法である。
イ 地方公務員法43条6項は,「共済制度は,法律によってこれを定める。」旨規定し,同項にいう法律として地方公務員等共済組合法が制定されているところ,同法113条2項の定める掛金と地方公共団体の負担金の折半負担の原則が国の制度の根本であり,このことは,健康保険法161条1項が「被保険者及び被保険者を使用する事業主は,それぞれ保険料額の2分の1を負担する。」旨規定しているところからも明らかである。そうであるとすれば,地方公務員の保険料額について同法162条の規定に基づき事業主である地方公共団体の負担割合を1対1を超えるものとすることは,地方公務員法43条の求める「適切性」,「健全性」を失わせるものであるから,本件規約47条は,地方公務員法43条1項,5項,6項に違反する。したがって,本件支出は違法である。
ウ 地方公務員等共済組合法附則29条1項の規定は,健康保険組合及び健康保険についての経過措置にすぎないから,現在では無効であり,同法の短期給付に関する規定やその趣旨が適用される。
すなわち,同法附則29条の規定に続いて,同法附則30条は,同条附則29条1項に規定する申出をしなかった地方公共団体が健康保険組合を組織しなくなったときは,当該地方公共団体及びその職員は,そのときにおいて,同法の短期給付に関する規定の適用を受ける地方公共団体及びその職員となるものとする旨規定しているところ,同法附則29条及び附則30条の趣旨は,「国の制度との間に権衡を失しないように」,共済制度の健全性を確保しなければならないとする地方公務員法43条の規定を具体化する点にある。そうであるとすれば,地方公務員等共済組合法は,同法の施行から相当な期間を経過し,健康保険組合が国の制度との間に権衡を失し,共済制度の健全性を害している場合には,当該地方公共団体の職員は,健康保険組合が存続していても,実質的に,同法の短期給付に関する規定の適用を受けることになることを予定していると解される。しかるところ,同法の施行から現在まで相当な期間(40年以上)が経過し,大阪府市町村職員健康保険組合(本件組合)が国の制度との間に権衡を失し,共済制度の健全性を害しているから,同法附則29条1項の規定は,平成16年度の時点ではもはや立法政策として著しく公平を欠き無効であり,同法の短期給付に関する規定を超える本件支出は違法である。
また,地方公務員等共済組合法により組合員となるべき者を被保険者とする健康保険組合が組織されている地方公共団体において,当該健康保険組合の運営上不都合が生じたり,地方公務員共済組合に移行する必要性が生じたりした時点で,同法附則29条1項の規定は無効になると解するのが,憲法15条2項の趣旨に合致する。しかるところ,本件組合は,大阪府市町村職員互助会とともに,職員厚遇の脱法行為を包み隠す隠れ蓑として存在してきた団体であり,事業者(枚方市)の本件組合に対する本件規約47条に基づく1対1の負担割合を超える支出(本件支出)は給与条例主義を実質的に潜脱しているとともに,地方自治法2条14項の「地方公共団体は,その事務を処理するに当つては,住民の福祉の増進に努めるとともに,最少の経費で最大の効果を挙げるようにしなければならない。」旨の規定及び地方財政法4条1項の「地方公共団体の経費は,その目的を達成するための必要且つ最少の限度をこえて,これを支出してはならない。」旨の規定に違反し,違法である。このような地方公務員の厚遇の事態は,地方公務員等共済組合法の制定当時,立法者が予測していなかったものである。したがって,本件支出当時,本件組合の運営上不都合が生じたり,大阪府市町村職員共済組合に移行する必要性が生じており,枚方市と本件組合と大阪府市町村職員共済組合との関係においては,地方公務員等共済組合法附則29条1項が無効になっていたと解される。
エ 本件規約47条は,憲法14条1項,憲法前文に違反するから,公序良俗に違反し(民法90条),無効である。
すなわち,地方公務員は,「全体の奉仕者」(憲法15条2項)であり,「その福利は国民がこれを享受する」(憲法前文)。しかるに,枚方市職員は,年間人件費が平均約940万円(手取額約800万円)であるにもかかわらず健康保険の保険料の負担が年間約17万2200円であって,約38万2200円を市が税金で負担しており,他方で,枚方市内の45%を超える世帯が加入している国民健康保険の「医療分」の年間負担額が約20万円となるのは,4人家族で年間総収入が約200万円の世帯であり,4人家族で年間約700万円の収入の世帯の保険料の負担額は約59万円である。このように,地方公務員という社会的身分と一般住民という社会的身分との間で経済的な差別的取扱いが仕組まれており,その仕組みの根拠となっているのが本件規約47条の規定であるから,同規定は,憲法14条1項,憲法前文に違反し,民法90条により無効である。したがって,当該無効な規定を原因行為とする本件支出は違法である。
オ 本件支出は,地方公務員法25条1項に違反し,違法である。
すなわち,地方公務員法41条1項が「職員の福祉及び利益の保護は,適切であり,且つ,公正でなければならない。」旨規定しており,同項における「適切」,「公正」という文言や,同法43条4項にいう「権衡」,「適当な考慮」という文言,同条5項にいう「健全」という文言,さらには,地方公務員等共済組合法の規定からすれば,法が予定する共済制度の下における給付に要する費用に係る掛金と地方公共団体の負担金の割合は1対1の範囲である。法が予定する共済制度は,公務員が職務に専念することができる環境作りのための制度であり,法は,過剰な厚遇を地方公務員に施すことを許容しているものではない。しかるに,前記エのとおり,枚方市職員は,国民健康保険に加入している一般住民の国民健康保険料の負担が約60万円のところ,枚方市がその差額40万円を補助することにより,約20万円の健康保険料の負担で済んでいる。この約40万円に相当する枚方市職員の利益は,地方公務員法25条1項にいう「給与」又は「金銭又は有価物」に当たるところ,それは給与に関する条例に基づくものではないから,法が予定する上記「1対1の範囲内」においてのみその違法性が阻却されるにすぎず,1対1の範囲を超える部分は,地方公務員法25条1項に違反し,違法である。したがって,本件支出は,同項に違反し,違法である。
カ 本件支出については,法人格否認の法理を類推適用して,本件組合の法人格を否認し,大阪府市町村職員共済組合と同一視することにより,地方公務員等共済組合法附則29条1項の適用を排除し,同法113条2項の折半負担の原則に従って,本件支出は違法となると解すべきである。
すなわち,本件組合と大阪府市町村職員共済組合は,その議決機関が実質的に同じであり,大阪府市町村職員共済組合が本件組合を自己の意のまま道具として用い得る支配的地位にあり,本件組合の法人格を利用しており,この支配関係を強固なものとするために,大阪府市町村職員互助会を介して,首長にヤミ退職金を支給してきた(支配の要件)。そして,大阪府市町村職員共済組合は,本件組合の法人格を利用し,地方公務員等共済組合法113条2項の折半負担の原則の適用を回避し,本件規約47条に基づく支出が実質的には給与条例主義に反するにもかかわらず,その脱法性を本件組合の法人格で隠蔽し,給与条例主義の適用を回避してきた(目的の要件)。したがって,民法1条3項の権利濫用禁止や同条2項の信義則の適用ないし類推適用さらには憲法の全趣旨からして,本件支出について法人格否認の法理が類推適用され,本件組合の法人格が否定されることにより,地方公務員等共済組合法附則30条にいう「地方公共団体が健康保険組合を組織しなくなったとき」に該当することになるから,同条前段の類推適用により,枚方市等及びその職員は,同条にいう「この法律の短期給付に関する規定の適用を受ける地方公共団体及びその職員」となって,同法113条2項の折半負担の原則が適用され,本件支出は,この原則に違反することとなって,違法となる。
また,本件組合は,被告枚方市長が先頭に立って,大阪府市町村職員共済組合との統合を呼び掛けなければならないほどに,その形骸化が進んでおり,本件支出当時も同様の状態にあったから,民法1条3項,同条2項の適用ないし類推適用さらには憲法の全趣旨からして,本件支出について法人格否認の法理が類推適用され,本件支出は,折半負担の原則に違反し違法となる。
(被告らの主張)
ア 昭和37年,地方公務員等共済組合法が制定され,地方公務員については,従来健康保険組合が行っていた給付事業を地方公務員共済組合において行うことができるようになったが,同法附則29条1項により,「昭和37年10月5日までに,厚生大臣及び自治大臣に対し,当該健康保険組合を施行日以後は存続しないことの,・・・当該健康保険組合の組合会の議決があった旨を申し出た場合を除き,この法律の短期給付に関する規定は,施行日以後においても,当該健康保険組合の被保険者である当該地方公共団体の職員については,適用しないものとする。」旨規定され,同法の適用を受ける共済組合の方法によるか,従来どおり健康保険法に基づく制度を継続する方法によるかを選択することができることとされた。そして,本件組合においては,今後も存続することとして,同法附則29条1項にいう「存続しないこと」の組合会の議決を行わなかったものである。しかるところ,本件組合においては,健康保険法162条に基づき,本件規約47条において,「一般保険料額及び調整保険料額の78分の52は事業主,78分の26は被保険者において負担する。(小数点以下第4位を四捨五入する。)」旨規定している。なお,上記の負担割合は平成15年4月1日以降のものであり,それ以前は,「事業主2.4,被保険者1」の負担割合とされていた。もとより,上記に関する規約の変更は,健康保険法16条2項に基づく厚生労働大臣の認可を受けてその効力を生じている。
以上のとおり,本件支出を含む枚方市の本件組合に対する保険料負担金の支出は,健康保険法(平成18年法律第83号による改正前のもの)及び本件規約47条に基づく適法なものであるから,地方公務員法43条違反をいう原告の主張が理由がないことは明らかである。また,本件組合に対する保険料負担金の支出及びその根拠である本件規約47条が民法90条に違反しないものであることはいうまでもない。
イ 本件組合に対する保険料負担金の支出が憲法14条1項に違反する旨の原告の主張は,異なる健康保険制度の比較を根拠とするものであるから,理由がないことは明らかである。
ウ 原告は,地方公務員等共済組合法113条2項の規定を根拠に,保険料の負担割合が1対1を超えた本件支出は,地方公務員法25条1項の趣旨に反し違法である旨主張するが,そもそも,地方公務員等共済組合法に基づく共済組合制度と健康保険法に基づく健康保険組合制度というその内容に違いのある2つの方法のうちいずれを選択するかという選択権が法律上認められていたのであるから,健康保険法の適用を受ける本件組合の保険料の負担割合について,地方公務員等共済組合法の規定を根拠にしてその適否を論ずるのは,誤りである。のみならず,そもそも,本件組合に対する保険料負担金の支出は,地方公務員法25条1項にいう「給与」にも「金銭又は有価物」にも該当しないことは明らかである。
(被告ら補助参加人の主張)
ア 被告らの主張ア及びウに同じ。
イ 我が国の医療保険法制は,地域保険法である国民健康保険法を一般法とし,被用者保険法である健康保険法その他を特別法とする構造を採っている。そして,国民健康保険は,市町村を単位とする地域保険として構成され,被用者保険法でないことの帰結として,保険料の労使分担の制度が定められておらず,また,公的,私的の区別なく,社会生活全般における疾病負傷等が対象とされているのに対し,健康保険は,勤労者を対象とする職域保険として構成され,その社会保険としての相互扶助的性格に基づき,保険の利益を享受しない事業主も保険料を分担するものとされ(なお,任意継続被保険者,すなわち,資格喪失後継続申請をして被保険者資格が認められているものについては,事業主負担はなく被保険者の全額負担とされている。),保険事故の対象として,業務上(公務上)の疾病負傷等が除外されている。また,健康保険と国民健康保険は,国民健康保険の被保険者である自営業者や無職者が健康保険の被保険者である官民労働者より低所得者の割合が多いという実態があり,そのため,国民健康保険では制度財源の中に占める国庫負担,国庫補助の割合はかなり大きなものとなっている。このように,被保険者の構成や保険事故の対象から,保険料の負担の多寡や有利不利を論ずるのは,当を得ていない。また,仮に枚方市職員と国民健康保険の適用を受ける枚方市民との間の差異をいうのであれば,枚方市職員が短期給付について地方公務員共済組合に加入した場合でもその差異(格差)は解消されない。要するに,被保険者の負担の多寡は一概に論ずることができず,何らかの差異があってもそれは両保険の制度上の違い(保険の仕組み,内容等の相異)から来るものであり,原告の主張するような社会的身分による差別でもなければ,許容されない差別ということもできないから,本件支出が憲法14条1項に違反し,違法無効ということはできない。
ウ 健康保険法162条は,事業主の負担割合の増加の程度について何ら規定していない。この点,健康保険法は,社会保険の相互扶助の考え方に立脚して,被保険者各人の保険料負担額については被保険者の報酬に比例して保険料額が定められるものとするとともに,保険の利益を享受しない事業主についても社会保険の相互扶助的性格に基づき保険料の負担をすることを要請しているのであり,事業主にどの程度保険料を負担させるべきかは極めて政策的要素の強い問題である。このように,保険料負担の労使折半の制度は論理必然的なものではなく保険料の負担割合そのものが実際的,政策的要請に基づくものであるから,事業主が保険料のすべてを負担し,被保険者の負担割合を零としたりすることは,相互扶助をその精神とする健康保険法の定める健康保険制度の趣旨に反するものとして許されないにしても,事業主と被保険者の負担割合を2分の1ずつにすることなくこれと異なって定めることは健康保険法の許容するところであり,本件規約47条の定める負担割合(事業主78分の52,被保険者78分の26)は,被保険者にも相応の負担を課しているものであるから,それが健康保険法162条の許容する限度を超えているとはいえない。
以上のとおりであるから,本件規約47条の保険料の負担割合についての定めは,何ら公序良俗に反しない。原告の主張は,1対1の負担割合をもって公序良俗とし,法律上認められた保険制度の違いから来る差異をもってその違反とするものであるから,その前提において失当というべきである。
エ 原告は,地方公務員等共済組合法附則29条1項は,健康保険組合及び健康保険についての経過措置にすぎないから,昭和37年から相当期間が経過した現在では無効である,また,同項の規定は,本件組合の運営上不都合が生じたり,大阪府市町村職員共済組合に移行する必要性が生じたりした時点で無効になるものであり,本件支出時には無効になっていた,などと主張する。しかしながら,同項は,何ら期間を限定しておらず,時限立法的なものではなく,相当期間が経過したからといって無効とはならない。すなわち,同項は,暫定的な措置として有効期間を定めて地方公務員の共済組合に移行すべき期限を定めたり,一定の期限の到来とともに自動的に効力が失われることとされてはおらず,どのような観点からみても,同項の規定が無効になるとか,その他本件組合が管掌する短期給付について地方公務員等共済組合法の適用を受けるに至るとかいった解釈は出てこない。同法の施行日(昭和37年12月1日)以降も存続を認められた健康保険組合については,その後の規律は,存廃を含めてすべて健康保険法にゆだねられるべきものである。
オ 原告は,法人格否認の法理を類推適用して,本件支出に係る財務会計行為に限って本件組合の法人格を否認し,大阪府市町村職員共済組合と同一視して,地方公務員等共済組合法附則29条1項の適用を排除し,同法113条2項の折半負担の原則により,本件支出が違法になるなどと主張するが,本件組合は,大阪府市町村職員共済組合とは,設立の根拠法を異にし,大阪府市町村職員共済組合の設立前から存在し,活動してきたもので,これと全く異なる組織であり,組合員の資格も異なれば,目的を異にし,監督官庁も異なり,その予算を含む運営も大阪府市町村職員共済組合とは何の関係もなく独自に行われているものであり,本件組合に大阪府市町村職員共済組合が支配関与したりする関係はない。また,実際に,本件組合は,独自の組織,目的,資産,予算をもって組合員である被保険者のために適切な医療保険等の短期給付に係る保険事業を行っているもので,地方公務員等共済組合法113条2項の折半負担を回避することを目的としているわけではなく,その法人格が形骸化しているものでもない。
(2) 故意,過失の有無
(原告の主張)
平成15年9月12日から同年10月15日にかけて行われた枚方市の平成15年決算特別委員会において,B委員は,枚方市職員の健康保険料額に係る被保険者と事業主の負担割合の問題を取り上げて,著しい職員厚遇となっていることを指摘し,枚方市は本件組合に対し事業主として折半負担とするよう強く求めていくべきであるなどと述べていたのであるから,当時枚方市長の職にあったAは,少なくともその時点において1対1の負担割合を超える支出の違法性を認識しあるいは認識し得たのであり,また,Aは,本件組合に対し,平成16年12月1日,保険料負担割合に関し,事業主と被保険者の折半となっている政府管掌健康保険及び地方公務員等共済組合法の短期給付などの諸制度との均衡を図るよう求める要望書を提出していたのであって,それにもかかわらず,Aは,あえて1対1の負担割合を超える違法支出を繰り返し,故意又は過失により枚方市に損害を与えたものである。
(被告らの主張)
枚方市の本件組合に対する保険料の負担金の支出は,健康保険法162条及び本件規約47条の規定に基づき,長年にわたり行われてきたものであり,大阪府下の大阪市を除く全市町村も本件組合の組合員として同様に負担金を支出してきたものであるから,当該保険料負担金の支出について本来的な財務会計上の権限を有する枚方市長のAが当該支出を適法なものであると認識していたことは明らかであり,そのように認識していたことについて過失はない。
第3当裁判所の判断
1 関係法令の定め及びその変遷等
(1) 健康保険法(大正11年法律第70号)は,大正11年4月22日に公布され,大正15年7月1日に施行された(保険給付及び費用の負担に関する規定は,昭和2年1月1日から施行された。)。制定当時の健康保険法においては,保険者が被保険者の疾病,負傷,死亡又は分娩に関し療養の給付又は傷病手当金,埋葬料,分娩費若しくは出産手当金の支給をするものとされ(1条),被保険者は工場法の適用を受ける工場又は鉱業法の適用を受ける事業場若しくは工場に使用される者等とされ(13条),保険者は政府及び健康保険組合とされ(22条),業務上の事由による疾病又は負傷等についても保険給付の対象とされ,費用の負担については,被保険者及び被保険者を使用する事業主は各保険料額の2分の1を負担し,被保険者の資格を喪失した者で申請により継続して被保険者となった者はその全額を負担するものとされ(72条),業務の性質上事故が多い事業に使用される被保険者又は少額の報酬を受ける被保険者に関する保険料については勅令をもって事業主の負担すべき割合を増加することができるとされ(73条),「健康保險組合ハ第七十二條若ハ前條ノ規定又ハ第七十三條ニ基キテ發スル勅令ノ規定ニ拘ラス其ノ規約ヲ以テ事業主ノ負擔スヘキ保險料額ノ負擔割合ヲ増加スルコトヲ得」と規定された(75条)。
(2) 昭和22年4月,労働者災害補償保険法が制定されて,健康保険法で規定されていた業務上の保険事故に対する保険給付は労働者災害補償保険法に基づく労働者災害補償保険制度に移譲されることとなり,昭和22年法律第45号による健康保険法の改正により同法1条1項が保険者が被保険者の「業務外ノ事由ニ因ル疾病,負傷若ハ死亡又ハ分娩」に関し保険給付を行うものとする旨改められた。
(3) 昭和23年6月,国家公務員共済組合法(昭和23年法律第69号)が制定された。制定当時の国家公務員共済組合法は,国に使用される者で国庫から報酬を受けるものは,一定範囲の者を除いて,同法の定めるところにより相互救済を目的とする共済組合を組織するものとされ(1条),共済組合は,組合員の疾病,負傷,廃疾,死亡,分べん,退職,災厄若しくは休業又はその被扶養者の疾病,負傷,死亡,分べん,若しくは災厄に関して,保健給付,退職給付,廃疾給付,遺族給付,罹災給付,休業給付を行うものとされ(17条),組合員は,組合の給付に要する費用に充てるため,掛金を負担するものとされ,その掛金は,組合員の俸給を標準として算定するものとし,その俸給と掛金との割合は各組合につき運営規則でこれを定めるものとされ(68条),国庫は,保険給付,罹災給付及び休業給付に要する費用の2分の1並びに退職給付,廃疾給付及び遺族給付に要する費用の100分の55を負担するものとされた(69条)。
(4) 昭和23年法律第126号(昭和23年7月10日公布。同年8月1日施行)による健康保険法の改正により,健康保険においては,保険者が被保険者の業務外の事由による疾病,負傷若しくは死亡又は分娩に関し保険給付をし併せて被保険者により生計を維持する者(被扶養者)の疾病,負傷,死亡又は分娩に関し保険給付をするものとされ(同改正後の健康保険法1条),国に使用される被保険者又は地方公共団体の事務所に使用される被保険者であって他の法律に基づく共済組合の組合員である場合においてその被保険者に対しては健康保険法による保険給付をしないものとされ(同法12条),「國又ハ法人ノ事務所ニシテ常時五人以上ノ従業員ヲ使用スルモノ」に該当する事業所又は事務所に使用される者も健康保険の被保険者とされ(同法13条2号),費用の負担に関する同改正前の健康保険法73条及び74条の規定が削除され,改正前の健康保険法75条中「若ハ前條ノ規定又ハ第七十三條ニ基キテ發スル政令」が削除されて,「健康保險組合ハ第七十二條ノ規定ニ拘ラス其ノ規約ヲ以テ事業主ノ負擔スヘキ保險料額ノ負擔割合ヲ増加スルコトヲ得」という規定内容となった。
昭和23年法律第126号による改正は,前記(3)の国家公務員共済組合法の制定に関連するもので,同改正によって,国,都道府県,市町村に使用される公務員も健康保険の被保険者とするものとされた(同改正後の健康保険法13条2号にいう法人の事務所には公法人である都道府県,市町村等の地方公共団体も当然含むものとされた。)。その趣旨については,国,都道府県,市町村に使用される公務員のうち法律をもって組織される共済組合の組合員である者については,その共済組合に対して健康保険事業の実質的代行を認めることとし,これらの共済組合は一種の代行機関的性格を有するものであり,健康保険法がこの種の共済組合法の一般的性格を有するものであることを明らかにしたものであると説明されている。
(5) 昭和25年12月,地方公務員法が制定され,その43条及び44条において,次のとおり規定された。
「43条1項 職員の公務に因らない死亡,廃疾,負傷及び疾病並びに分べん及び災厄その他の事故並びにその被扶養者のこれらの事故に関する共済制度は,すみやかに実施されなければならない。
2項 前項の共済制度を定めるに当つては,国及び他の地方公共団体との間に権衡を失しないように適当な考慮が払われなければならない。
3項 第一項の共済制度は,健全な保険数理を基礎として定めなければならない。
44条1項 職員が相当年限忠実に勤務して退職し,又は死亡した場合におけるその者又はその者の遺族に対する退職年金又は退職一時金の制度は,すみやかに実施されなければならない。
2項 公務に因る負傷若しくは疾病に因り死亡し,若しくは退職した職員又はこれらの者の遺族に対しても,退職年金又は退職一時金制度が実施されることができる。
3項 前項の規定による退職年金又は退職一時金の制度の実施に当つては,第四十五条の規定による公務災害補償との間に適当な調整が図られなければならない。
4項 第一項及び第二項の退職年金及び退職一時金の制度を定めるに当つては,国及び他の地方公共団体との間に権衡を失しないように適当な考慮が払われなければならない。
5項 前条第三項の規定は,第一項及び第二項の退職年金及び退職一時金の制度について準用する。」
制定当時の地方公務員法43条は,地方公務員に対する同条1項所定の共済制度(いわゆる短期給付)の根拠規定として,同法44条は,地方公務員に対する退職年金及び退職一時金の制度(いわゆる長期給付)の根拠規定として,それぞれ定められたものである。
(6) 昭和29年7月,市町村職員共済組合法(昭和29年法律第204号)が制定された。この法律は,これまで年金制度が実施されていなかった市町村の一般雇よう人に対し,国,都道府県及び市町村の学校職員と同様の退職年金その他のいわゆる長期給付の制度を確立すること,市町村の一般職員について他の公務員並みの疾病及び負傷,分べん及び災やくその他の事故に対するいわゆる短期給付を保障すること,短期給付と長期給付との一体的運営により,給付業務の健全かつ合理的な運営を期するとともに,療養施設の整備その他の福祉事業の総合的推進を図ることを目的として制定されたものであって,地方公務員法の精神にのっとり市町村職員の福祉の増進を図るため,市町村職員共済組合の組織及び業務について定めることを目的とするものとされ(1条),都道府県の区域ごとに市町村職員共済組合を置くものとされ(2条),市町村に使用される者で市町村から給与の支給を受けるものは,一定範囲の者を除いて,すべて組合員とされ(11条1項),組合は,同法の定めるところにより,組合員の疾病,負傷,廃疾,死亡,分べん,退職,災やく若しくは休業又はその被扶養者の疾病,負傷,死亡,分べん若しくは災やくに関して,保健給付,退職給付,廃疾給付,遺族給付,り災給付及び休業給付を行うものとされ(15条。このうち保健給付,り災給付及び休業給付がいわゆる短期給付,退職給付,廃疾給付及び遺族給付がいわゆる長期給付である。),組合員は,組合の給付に要する費用に充てるため,掛金を負担するものとし,その掛金は,組合員の給料を標準として算定するものとし,その給料と掛金との割合は,各組合につき規約で定めるものとされ(66条),市町村は,組合の事業に要する費用に充てるため,① 保健給付,り災給付及び休業給付に要する費用に係る当該市町村の職員である組合員の掛金に相当する金額,② 退職給付,廃疾給付及び遺族給付に要する費用に係る当該市町村の職員である組合員の掛金の45分の55に相当する金額,③ 組合の事務に要する費用の組合員1人当たりの額に当該市町村の職員である組合員の数を乗じて得た金額に相当する金額,を負担し,その金額を毎月末日までに組合に払い込まなければならないとされた(68条1項)。
そして,同法附則21項は,同法の公布の際現に同法による組合の組合員となるべき者を被保険者とする健康保険組合を組織している市町村が,当該市町村の職員で同法による組合の組合員となるべきものの過半数の同意を得て,同法の公布の日から90日以内に,都道府県知事を経由して自治庁庁官に申し出たときは,当該申出に従い,同法の規定の全部又は保健給付,り災給付及び休業給付に関する部分を,当該市町村が包括される都道府県の区域に同法による組合が成立した日以後においても,当該市町村及びその職員に適用しないものとする,この場合において,同法の規定の全部の適用を受けない市町村は,同法に基づく退職給付,廃疾給付及び遺族給付に相当する給付(当該給付を行うことを目的とする団体の経費の負担を含む。)を行わなければならないと規定し,同法附則22項は,同法の公布の際現に同法による組合の組合員となるべき者を被保険者とする健康保険組合は,同法附則23項の規定により存続する場合を除き,当該健康保険組合が設立されている都道府県の区域に同法による組合が成立した日に解散するものとし,その権利義務は,健康保険法(当時のもの)40条の規定にかかわらず,政令で定めるところにより,市町村職員共済組合法による組合が承継する,この場合において,解散した健康保険組合の被保険者で同法による組合の組合員の資格を有しないものがあるときは,その者は,同法による組合が成立した日にその組合の組合員となったものとみなす旨規定し,同法附則23項は,同法の公布の際現に同法による組合の組合員となるべき者を被保険者とする健康保険組合は,これを組織する市町村が,同法附則21項の規定による申出をしたときは,当該健康保険組合が設立されている都道府県の区域に同法による組合が成立した日以後においても,その申出をした市町村及びその職員をもって組織する健康保険組合として引き続き存続するものとする,この場合において,当該健康保険組合の権利義務で,同法附則21項の規定による申出をしなかった市町村及びその職員に係るものは,当該都道府県の区域に同法による組合が成立した日において,政令で定めるところにより,同法による組合が承継する旨規定していた。
(7) 昭和33年5月,長期給付の内容の改善合理化及び5現業の職員の年金制度の一本化等を目的として,昭和33年法律第128号により国家公務員共済組合法(昭和23年法律第69号)の全部が改正された。
(8) 昭和37年9月,地方公務員共済組合法(昭和37年法律第152号)が制定された。この法律は,地方公務員に適用されている複雑多様な退職年金制度等を統一して地方公務員全体について国家公務員の共済制度に準じる新しい共済制度を設けること等を目的として制定されたものであって,地方公務員の病気,負傷,出産,休業,災害,退職,廃疾若しくは死亡又はその被扶養者の病気,負傷,出産,死亡若しくは災害に関して適切な給付を行うため,相互救済を目的とする共済組合の制度を設け,その行うこれらの給付及び福祉事業に関して必要な事項を定め,もって地方公務員及びその遺族の生活の安定と福祉の向上に寄与するとともに,公務の能率的運営に資することを目的とし,あわせて地方議会議員の年金制度に関して定めるものとされ(1条),常時勤務に服することを要する地方公務員(職員)の区分に従いそれぞれ所定の地方公務員共済組合を設けるものとされ,そのうち指定都市以外の市及び町村の職員(公立学校の職員等を除く。)は都道府県の区域ごとに市町村職員共済組合を設けるものとされ(3条6号。なお,同法附則2条2号により市町村職員共済組合法は廃止され,地方公務員共済組合法附則4条により市町村職員共済組合法の規定に基づく旧市町村職員共済組合は地方公務員共済組合法の施行の時において解散するものとされ,同法附則11条1項により市町村職員共済組合は旧市町村職員共済組合の権利義務を承継するものとされた。),組合は,同法の定めるところにより,組合員の病気,負傷,出産,死亡,休業若しくは災害又は被扶養者の病気,負傷,出産,死亡若しくは災害に関し,法定の短期給付(療養の給付等)を行うほか,当該法定の給付に併せて附加給付としてこれらに準ずる短期給付を行うことができ,また,組合員の退職,廃疾又は死亡に関し,長期給付(退職年金等)を行うものとされ(42条),費用の負担については,短期給付に要する費用は,掛金100分の50,地方公共団体の負担金100分の50,長期給付に要する費用は,掛金100分の45,地方公共団体の負担金100分の55の割合により,組合員の掛金及び地方公共団体の負担金をもって充てるものとされた(113条2項1号,2号)。
そして,同法附則29条1項は,同法の公布の際現に組合員となるべき者を被保険者とする健康保険組合が組織されている地方公共団体にあっては,当該地方公共団体の長が,昭和37年10月5日までに,厚生大臣及び自治大臣に対し,当該健康保険組合を施行日以後は存続しないことの,政令で定めるところによる当該健康保険組合の組合会の議決があった旨を申し出た場合を除き,同法の短期給付に関する規定は,施行日以後においても,当該健康保険組合の被保険者である当該地方公共団体の職員については,適用しないものとする旨規定し,同条2項は,同法の公布の際現に組合員となるべき者を被保険者とする健康保険組合で同条1項の規定による申出がされたものは,同法の施行の時において,解散するものとする旨規定し,同法附則30条は,同法附則29条1項に規定する申出をしなかった地方公共団体が健康保険組合を組織しなくなったときは,当該地方公共団体及びその職員は,そのときにおいて,同法の短期給付に関する規定の適用を受ける地方公共団体及びその職員となるものとする,この場合において,健康保険との関係の調整その他必要な経過措置は,政令で定める旨規定していた。
なお,昭和39年法律第152号による地方公務員共済組合法の改正によりその題名が地方公務員等共済組合法に改められた。
(9) 地方公務員共済組合法附則54条により,地方公務員法43条が次のとおり改められ,同法44条が削除された。
「1項 職員の病気,負傷,出産,休業,災害,退職,廃疾若しくは死亡又はその被扶養者の病気,負傷,出産,死亡若しくは災害に関して適切な給付を行なうための相互救済を目的とする共済制度が,実施されなければならない。
2項 前項の共済制度には,職員が相当年限忠実に勤務して退職した場合又は公務に基づく病気若しくは負傷により退職し,若しくは死亡した場合におけるその者又はその遺族に対する退職年金及び退職一時金に関する制度が含まれていなければならない。
3項 前項の退職年金及び退職一時金に関する制度は,退職又は死亡の時の条件を考慮して,本人及びその退職又は死亡の当時その者が直接扶養する者のその後における適当な生活の維持を図ることを目的とするものでなければならない。
4項 第1項の共済制度については,国の制度との間に権衡を失しないように適当な考慮が払われなければならない。
5項 第1項の共済制度は,健全な保険数理を基礎として定めなければならない。
6項 第1項の共済制度は,法律によってこれを定める。」
なお,上記改正後の地方公務員法43条にいう共済制度を定める法律が地方公務員共済組合法及び地方公務員共済組合法の長期給付に関する施行法であり,上記改正後の地方公務員法43条は,地方公務員共済組合法が短期給付と長期給付を包括した地方公務員の新しい共済制度を定めたことに伴い,新しい地方公務員の共済制度についての根拠規定となるよう改められたものである。
(10) 平成14年法律第102号による健康保険法の改正により,同改正前の健康保険法第5章(費用の負担)の規定等が削除されるとともに,同改正後の健康保険法第7章(費用負担)において,161条1項として,「被保険者及び被保険者を使用する事業主は,それぞれ保険料額の2分の1を負担する。ただし,任意継続被保険者は,その全額を負担する。」旨の規定,162条として,「健康保険組合は,前条第1項の規定にかかわらず,規約で定めるところにより,事業主の負担すべき一般保険料額又は介護保険料額の負担の割合を増加することができる。」旨の規定,附則2条7項として,「第159条,第161条,第162条及び第167条の規定は,第3項の規定による調整保険料について準用する。」旨の規定がそれぞれ定められた。上記改正法は一部の規定を除いて平成14年10月1日から施行された。
(11) 本件組合は,昭和23年12月1日に設立され,昭和29年7月に前記(6)の市町村職員共済組合法が制定された際には,これを組織している市町村が同法附則21項の規定による申出をしたことにより,健康保険組合として引き続き存続するものとされ,昭和37年9月に前記(8)の地方公務員共済組合法が制定された際にも,同法附則29条1項の規定による本件組合を同法の施行日以後は存続しないことの組合会の議決が行われずその旨の申出がされなかったことにより,健康保険組合として引き続き存続するものとされ,本件組合の被保険者である職員については同法の短期給付に関する規定は適用しないものとされてきた。なお,本件規約47条の規定する一般保険料額及び調整保険料額の負担割合(事業主78分の52,被保険者78分の26)は平成15年4月1日以降のものであり,それ以前は,事業主2.4,被保険者1とされていた。
(12) 平成14年法律第102号による改正前の健康保険法72条の規定の趣旨については,健康保険は,業務外の事故を保険給付の対象とするものであるから,その直接の利益を受ける被保険者が保険料を負担するのが当然であるが,事業主に対しても保険料を負担させるのは,健康保険制度が,国,事業主及び被保険者相互の協調的精神を基にして行われるものであり,業務外の事由による疾病であっても,企業における労働条件や工場設備などの労働環境等が,直接又は間接的に労働者の健康を害し,疾病にかかりやすい素因の一つを成しているものとも考えられ,他方,労働者の健康保持及び疾病の早期回復は,事業の能率を増進し,結果的に事業主の利益をもたらすこととなるからであり,被保険者と事業主の負担割合を2分の1としたのは,健康保険法制定当初は,業務上の理由による疾病についても給付を行うこととしていたところ,業務上の理由による傷病率と業務外の理由による傷病率との割合は大体1対3となっており,業務上の理由による傷病については全額事業主の負担とし,業務外の理由による傷病については,ドイツ及びイタリアの疾病保険の例により事業主が3分の1,被保険者が3分の2の負担割合として計算すると,事業主と被保険者は,それぞれ2分の1を負担するということになるという数理的な理由のほか,外国の例によっても,当時2分の1の負担割合のすう勢にあった(その理由については,事業主及び労働者が均等の負担を行い,保険機関の議決機関に同数ずつの議員を選出し,円滑公平に保険機関の運営を行うようにするためであるとされていた。)ことによるものであるなどと説明されており,業務上の理由による保険事故について労働者災害補償保険により給付されることとなって以降も,保険料の負担割合は改められることなくそのまま継承されているとされる。また,上記改正前の健康保険法75条の規定の趣旨については,健康保険組合においては事業主が進んで法定以上の保険料を負担しようとする場合にそれを殊更阻止する必要はないと考えられたことによるものであるなどと説明されている(健康保険組合連合会「健康保険」21巻12号)。
なお,上記改正前の健康保険法75条の規定に関する行政解釈として,次のものが存在する。
ア 被保険者の負担割合を全くなくすことは,同条の趣旨から適当でない(昭和25年6月21日保文発第1418号)。
イ 法定給付費に関しては,折半負担を原則とするが,附加給付費その他の事業に要する費用は,同意により事業主の負担額を増加することが考えられる。
保険料の負担割合については,同法72条に定められているところであるが,同法72条が折半負担の大原則をうたっているのに対し,同法75条は,特別の場合に,その例外を認めることもあることを定めているにすぎないものであって,健康保険組合における負担割合も,通常,折半負担の原則の上に立つべきものであり,同法72条の原則を全く無視して適当に負担割合を増加することができるということではない(昭和32年2月1日保発第3号)。
ウ 組合は,相互扶助の精神に基づき事業主と被保険者がその事業に要する費用をともに負担することによりその民主的な運営を図らなければならないものである。したがって,保険料額の負担割合については,同法72条及び同法75条に定められているところであるが,この趣旨からも,事業主の負担割合を極度に増大して事業主の福利事業と混同されるおそれを生ずることのないよう,事業主の負担を増す場合においても,少なくとも,法定給付費,老人保健拠出金,日雇拠出金及び退職者給付拠出金に要する費用の2分の1以上は,被保険者が負担するように定めることが適当である(昭和35年11月7日保発第70号)。
2 本件規約47条の適法性
(1) 地方公務員等共済組合法附則29条1項,健康保険法162条の規定の合理性
前記のとおり,本件規約47条の規定(平成15年4月1日から平成18年3月31日までの間のもの)は,健康保険法162条,健康保険法(平成18年法律第83号による改正前のもの)附則2条7項の規定に基づき,一般保険料額及び調整保険料額について,事業主の負担割合を健康保険法161条所定の2分の1を超えて増加したものである。
前記1において認定説示したところによれば,昭和23年法律第126号による健康保険法の改正により,都道府県や市町村等に使用される地方公務員も健康保険の被保険者とされて,これら地方公務員の公務外の事由による負傷,疾病等について同法の定める保険給付の制度が適用されるものとされたところ,昭和29年7月に市町村の一般職員について他の公務員並みのいわゆる短期給付を保障することをも目的の一つとして市町村職員共済組合法(昭和29年法律第204号)が制定され,市町村職員の公務外の事由による疾病,負傷等に対する保険給付(いわゆる短期給付)の制度として,同法による共済組合の制度が創設されたが,その際,同法附則21項及び23項の規定により,健康保険法による健康保険組合の制度をも存置することとして,当時健康保険組合を組織している市町村がその職員の過半数の同意を得て当該健康保険組合を存続させることにより市町村職員共済組合法による共済制度の適用を受けず健康保険法による保険制度の適用を受けるみちを設け,昭和37年9月に地方公務員に適用されている複雑多様な退職年金制度等を統一して地方公務員全体について国家公務員の共済制度に準じる新しい共済制度を設けること等を目的として地方公務員共済組合法(昭和37年法律第152号)が制定された際にも,同法附則29条1項により,地方公務員の病気,負傷等に対する保険給付の制度として,健康保険法による健康保険組合の制度をも存置することとして,地方公務員を被保険者とする健康保険組合において同組合を存続しないことの議決を行わないことにより当該健康保険組合を存続させて地方公務員共済組合法の短期給付に関する規定の適用を受けず健康保険法による保険制度の適用を受けるみちを設ける立法政策がそれぞれ採用されたことが,前記説示の立法経過等から明らかである。そして,本件組合は,昭和23年法律第126号による健康保険法の改正を受けて,昭和23年12月1日に当時の健康保険法に基づいて設立され,昭和29年7月に市町村職員共済組合法が制定された際には,これを組織している市町村が同法附則21項の規定による申出をしたことにより,健康保険組合として引き続き存続するものとされ,昭和37年9月に地方公務員共済組合法が制定された際にも,同法附則29条1項の規定による本件組合を同法の施行日以後は存続しないことの組合会の議決が行われずその旨の申出がされなかったことにより,健康保険組合として引き続き存続するものとされ,本件組合の被保険者である職員については,同法の短期給付に関する規定が適用されず,健康保険法による保険制度が適用されてきたことは,前記認定のとおりである。
もっとも,前記のとおり,市町村職員共済組合法においても地方公務員共済組合法(昭和39年法律第152号による題名改正後の地方公務員等共済組合法)においても,いわゆる短期給付に要する費用については,組合員の掛金と市町村ないし地方公共団体の負担金の負担割合をそれぞれ2分の1ずつとする旨規定しており,平成14年法律第102号による改正前の健康保険法75条(同改正後の健康保険法162条)に相当する規定は設けられていない。その結果,健康保険法による健康保険組合の制度の適用を受ける市町村職員その他の地方公務員については,健康保険組合の規約でもって保険料額について事業主である市町村その他の地方公共団体の負担割合を2分の1を超えて増加することができるのに対し,地方公務員等共済組合法の適用を受ける地方公務員については,当該地方公共団体と2分の1ずつの負担割合でもって掛金を負担しなければならないことになる。
ところで,前記1(12)において説示したところからすれば,平成14年法律第102号による改正前の健康保険法72条,同改正後の健康保険法161条が保険料額の負担割合について被保険者と事業主がそれぞれ2分の1ずつ負担することを原則として規定し,また,国家公務員共済組合法,市町村職員共済組合法68条1項1号,地方公務員共済組合法(昭和39年法律第152号による題名改正後の地方公務員等共済組合法)113条2項1号がいわゆる短期給付に要する費用について組合員の掛金と市町村ないし地方公共団体の負担金の負担割合をそれぞれ2分の1ずつとする旨規定している趣旨については,健康保険制度ないし短期給付に係る共済制度の直接の利益を受ける被保険者ないし組合員がその保険料ないし掛金を負担することを当然の前提とした上で,業務外の事由ないし公務外の事由による疾病,負傷等であっても,企業における労働条件や工場設備などの労働環境等ないし職場環境等が,直接又は間接的に被保険者ないし組合員の健康を害し,疾病にかかりやすい素因の一つを成しているものとも考えられ,他方,被保険者ないし組合員の健康保持及び疾病,負傷の早期回復は,労務ないし公務の能率等を増進し,結果的に事業主ないし国,地方公共団体等の利益をもたらすことになる点において,事業主ないし国,地方公共団体等も共通の利益を有することに基づくものであると解される。そして,負担割合を2分の1ずつとした趣旨については,健康保険法の制定当時においては,前記1(12)のとおり,健康保険法が業務上の理由による疾病についても給付を行うこととしていたことから,業務上の理由による傷病率と業務外の理由による傷病率との割合は大体1対3となっているとの認識の下に,業務上の理由による傷病については全額事業主の負担とし,業務外の理由による傷病については,ドイツ及びイタリアの疾病保険の例により事業主が3分の1,被保険者が3分の2の負担割合として計算すると,事業主と被保険者は,それぞれ2分の1を負担することになることに加えて,外国の立法例が当時2分の1の負担割合のすう勢にあったことによるものであるなどと説明されており,その後,昭和22年法律第45号による健康保険法の改正により業務外の事由による疾病,負傷等に関して保険給付を行う制度とされた後においても,上記の負担割合(被保険者2分の1,事業主2分の1)がそのまま継承されて,現行健康保険法162条の規定に引き継がれているほか,その後制定された国家公務員共済組合法,市町村職員共済組合及び地方公務員共済組合法(昭和39年法律第152号による改正後の地方公務員等共済組合法)等においても,いわゆる短期給付については上記の負担割合(組合員2分の1,国,市町村ないし地方公共団体2分の1)が採用された経過が明らかである。これに対し,健康保険法においては,その制定当時から,健康保険組合は,規約で定めるところにより,事業主の負担割合を増加することができる旨の規定が設けられ,これがその後も改められることなく現行健康保険法162条の規定に引き継がれているのであり,その趣旨については,前記1(12)のとおり,健康保険組合においては事業主が進んで法定以上の保険料を負担しようとする場合にそれを殊更阻止する必要はないと考えられたことによるものであると解される。
もとより,憲法25条2項の規定の趣旨を実現するため,社会保障法上の制度の一つとして,疾病,負傷等によって国民生活の安定が損なわれることに対する保険給付等の制度(社会保険制度)を設定するに当たっては,国の財政事情を無視することができず,また,多方面にわたる複雑多様な,しかも,高度の専門技術的な考察とそれに基づいた政策的判断を必要とするものであることはいうまでもなく,その具体的な制度設計は立法府の広い裁量にゆだねられている。疾病及び負傷を保険事故の主体とするいわゆる疾病保険の制度を設けるに当たっても,保険事故の範囲をどのように規定するか,被保険者の範囲をどのように規定するのか(被用者保険の仕組みとするのか地域保険の仕組みとするのか等),その保険料率をどのように定め,その負担割合や国庫の負担ないし補助をどのように定めるのか,等について,様々な選択肢が存在し,その具体的な選択決定については,立法府の上記政策的判断にゆだねられているのであって,被用者保険の仕組みを選択する場合においても,具体的な保険料額の負担割合の決定については,社会保険制度としての基本的性格を損なわない限り,立法府の政策的判断にゆだねられているというべきである。そして,以上検討したところによれば,健康保険法や地方公務員等共済組合法等が保険料ないし短期給付に係る費用について被保険者ないし組合員と事業主ないし地方公共団体等の共同負担とした上,その(原則的な)負担割合をそれぞれ2分の1ずつと定めたことが,立法政策として合理性を欠くということはできないのみならず,健康保険法が健康保険組合の管掌する健康保険の保険料につき規約でもって事業主の負担割合を増加することができる制度を採用したことについても,その趣旨からすれば,立法政策として不合理であるということはできない(もっとも,同法の規定する保険制度の性格等に由来する増加限度についての解釈上の制約が存することは後記のとおりである。)。さらに,そもそも,前記のような平成14年法律第102号による改正前の健康保険法72条の立法趣旨ないし立法経緯等にかんがみると,被保険者ないし組合員と事業主ないし地方公共団体等の負担割合を2分の1ずつとすることが立法府をも拘束するような普遍的,一義的な規範として存在するものでないことも明らかであり,公務員についてのみ別異に解すべき憲法上の根拠も見いだし難い。
これらに加えて,昭和23年法律第126号による健康保険法の改正から地方公務員共済組合法の制定に至る前記説示の経緯,とりわけ,昭和23年法律第126号による健康保険法の改正により健康保険法が国家公務員及び地方公務員をも含めて健康保険事業に関する一般法として位置付けられ,これらの公務員は法律をもって定められる共済制度の適用を受けない限り健康保険法による健康保険制度の適用を受けるものとする立法政策が採られてきた経緯等をも併せ考えると,市町村職員共済組合法がいわゆる短期給付に係る費用につき組合員の掛金と市町村の負担金の負担割合をそれぞれ2分の1ずつとする共済制度を規定しながら,健康保険法による健康保険組合の制度をも存置することとして,市町村職員共済組合法による共済制度の適用を受けず健康保険法による保険制度の適用を受けるみちを設け,また,地方公務員共済組合法(昭和39年法律第152号による題名改正後の地方公務員等共済組合法)が短期給付に係る費用につき組合員の掛金と地方公共団体の負担金の負担割合をそれぞれ2分の1ずつとする共済制度を規定しながら,健康保険法による健康保険組合の制度をも存置することとして,地方公務員共済組合法の短期給付に関する規定の適用を受けず健康保険法による保険制度の適用を受けるみちを設けることとしたことが,立法政策として不合理であるということができないことは明らかである。
(2) 本件規約47条の健康保険法162条適合性
前記(1)において説示したとおり,健康保険法162条(健康保険法(平成18年法律第83号による改正前のもの)附則2条7項により準用される場合を含む。平成14年法律第102号による改正前の健康保険法75条)の規定がその立法趣旨に照らし立法政策として不合理であるとはいえないとしても,そもそも,健康保険法は,労働者(被保険者)の業務外の事由による疾病,負傷等に関して相互扶助の精神に基づく保険制度を設け保険給付を行うことによって国民の生活の安定と福祉の向上に寄与することを目的とするものであって,同法の定める健康保険制度は,保険給付に要する費用を被保険者において負担することをその本旨とするものである上,健康保険法161条(平成14年法律第102号による改正前の健康保険法72条)が保険料の負担割合につき被保険者及び事業者がそれぞれ2分の1ずつ負担することを原則として規定していることをも併せ考えると,健康保険組合の規約でもって上記のような健康保険制度の本旨に反する程度にまで著しく被保険者の負担割合を軽減することはもとより,その程度に至らないまでも,健康保険法が保険料を被保険者及び事業者が折半して負担することを原則としている趣旨を没却する程度に事業主の負担割合を増加することも,同法162条(平成14年法律第102号による改正前の健康保険法72条)の許容するところではないと解すべきである(前記1(12)の行政解釈参照)。
これを本件規約についてみると,本件規約47条(平成15年4月1日から平成18年3月31までの間のもの)は,保険料及び調整保険料の負担割合につき,一般保険料額及び調整保険料額の78分の52は事業主,78分の26は被保険者において負担する(小数点以下第4位を四捨五入する。)旨規定していたところ,事業主の負担割合を法定の2分の1を超えて3分の2にまで増加することを内容とする上記規約の定めは,上記のような健康保険制度の本旨に反するということはできないのみならず,健康保険法が保険料を被保険者及び事業者が折半して負担することを原則としている趣旨を没却する程度に事業主の負担割合を増加するものであるとまでいうこともできず,したがって,同法162条(健康保険法(平成18年法律第83号による改正前のもの)附則2条7項)の許容する範囲を逸脱するものではないというべきである。
(3) 原告の主張について
ア 原告は,枚方市職員の平均人件費に相当する年収約940万円の職員が負担する保険料額は年間約17万円であり,当該職員に対する枚方市の負担額は年間約38万円であって,当該職員の年間負担額約17万円は,4人家族で年間総収入約150万円の世帯が負担する国民健康保険料額に相当することなどから,本件規約47条は,国の制度との間に権衡を失しており,地方公務員法43条4項に違反する旨主張する。
しかしながら,地方公務員法43条4項にいう「国の制度」が国家公務員の共済制度を意味するものであることは,前記1において説示した地方公務員法43条の規定及び地方公務員共済組合法等の制定ないし改正経過に照らしても明らかであるから,原告の上記主張は,その前提を欠き,採用することができない。
イ 原告は,地方公務員等共済組合法113条2項の定める掛金と地方公共団体の負担金の折半負担の原則が国の制度の根本であり,このことは,健康保険法161条1項が「被保険者及び被保険者を使用する事業主は,それぞれ保険料額の2分の1を負担する。」旨規定しているところからも明らかであるところ,地方公務員の保険料額について同法162条の規定に基づき事業主である地方公共団体の負担割合を1対1を超えるものとすることは,地方公務員法43条の求める「適切性」,「健全性」を失わせるものであるから,本件規約47条は,地方公務員法43条1項,5項,6項に違反する旨主張する。
しかしながら,前記1(5),(9)において説示したとおり,地方公務員法43条1項ないし6項の規定は,昭和37年法律第152号による改正前の地方公務員法43条が地方公務員に対するいわゆる短期給付に係る共済制度の根拠を,同法44条が地方公務員に対するいわゆる長期給付の制度の根拠をそれぞれ定めていたのを,短期給付と長期給付を包括した地方公務員の新しい共済制度を定めるものとして地方公務員共済組合法(昭和37年法律第152号)が制定されたことに伴い,同法附則54条による改正により,当該新しい地方公務員の共済制度についての根拠規定となるように改められたものにすぎず,当該規定の趣旨及び改正経緯(とりわけ,地方公務員共済組合法の附則54条により地方公務員法43条の規定を上記のとおり改正する一方で,同法附則29条1項により,地方公務員の病気,負傷等に対する保険給付の制度として,健康保険法による健康保険組合の制度を存置し,地方公務員を被保険者とする健康保険組合において同組合を存続しないことの議決を行わないことにより当該健康保険組合を存続させて地方公務員共済組合法の短期給付に関する規定の適用を受けず健康保険法による保険制度の適用を受けるみちを設けた経緯)に照らしても,同条が,地方公務員(職員)の病気,負傷等に関して適切な給付を行うための相互救済を目的とする制度として,同条6項にいう法律(地方公務員等共済組合法)によって定められる共済制度と内容的に異なる制度を適用することを禁ずる趣旨のものと解することはできず,そのように解すべき実定法上の根拠は見いだせない。また,以上説示したところからすれば,地方公務員法43条及び地方公務員等共済組合法113条2項の規定を根拠に,同法による組合員となるべき地方公共団体の職員を被保険者とする健康保険組合については健康保険法162条(平成14年法律第102号による改正前の健康保険法75条)の規定が適用されないと解することもできない。そして,上記のように,地方公共団体の職員について,その病気,負傷等に関して給付を行う制度として,当該給付に要する費用(保険料)の負担割合に関する規定が異なる2つの制度を設けることが,これらの制度の沿革等(前記のとおり,健康保険法は国家公務員及び地方公務員をも含めて健康保険事業に関する一般法として位置付けられ,法律をもって定められる共済制度の適用を受けない限り健康保険法による健康保険制度の適用を受けるものとされていた。)に加えて,憲法により立法府にゆだねられた社会保障上の制度の設定等に係る裁量権の内容,性質等にも照らすと,立法政策としての合理性を欠くものでないことは,既に説示したとおりであり,憲法15条2項の規定の趣旨等を根拠に地方公務員等共済組合法による組合員となるべき地方公共団体の職員を被保険者とする健康保険組合については健康保険法162条(平成14年法律第102号による改正前の健康保険法75条)の規定が適用されないと解することもできない。
以上のとおりであるから,原告の上記主張は,採用することができない。
ウ 原告は,地方公務員等共済組合法附則29条1項の規定は,健康保険組合及び健康保険についての経過措置にすぎないところ,同法の施行から現在まで相当な期間(40年以上)が経過しているから,平成16年時点では無効である,憲法15条2項の趣旨からすれば,地方公務員等共済組合法により組合員となるべき者を被保険者とする健康保険組合が組織されている地方公共団体において,当該健康保険組合の運営上不都合が生じたり,地方公務員共済組合に移行する必要性が生じたりした時点で,同法附則29条1項の規定は無効になると解すべきであり,本件支出(平成16年度)当時,本件組合の運営上不都合が生じたり,大阪府市町村職員共済組合に移行する必要性が生じていたから,少なくとも枚方市と本件組合と大阪府市町村職員共済組合との関係においては,同項の規定は無効になっていた,などと主張する。
しかしながら,地方公務員等共済組合法附則29条1項の規定について原告の主張するような趣旨に解すべき実定法上の手掛りは何ら見いだせない上,地方公共団体の職員の病気,負傷等に関して給付を行う制度として,地方公務員等共済組合法に基づく共済制度のほかに,健康保険法による保険制度の適用を受けるみちを設けたことが,立法政策としての合理性を欠くものでないことは,既に説示したとおりであるから,原告の上記主張は,採用することができない。
エ 原告は,枚方市の職員は,年間人件費が平均約940万円(手取額約800万円)であるにもかかわらず健康保険の保険料の負担が年間約17万2200円であって,約38万2200円を市が税金で負担しており,他方で,枚方市内の45%を超える世帯が加入している国民健康保険の「医療分」の年間負担額が約20万円となるのは,4人家族で年間総収入が約200万円の世帯であり,4人家族で年間約700万円の収入の世帯の保険料の負担額は約59万円であることなどからして,本件規約47条は,地方公務員という社会的身分と一般住民という社会的身分との間で経済的な差別的取扱いをするものであって,憲法14条1項,憲法前文に違反し,民法90条により無効であるなどと主張する。
しかしながら,そもそも,健康保険法による健康保険制度と国民健康保健法による国民健康保険制度は,ともに被保険者の疾病,負傷等に関して保険給付を行うことを目的とする制度であるものの,健康保険制度は,適用事業所に使用される者を被保険者とするいわゆる被用者保険としての制度設計がされているのに対し,国民健康保険は,市町村又は特別区の区域内に住所を有する者を被保険者とするいわゆる地域保険としての制度設計がされているのであり,このような制度の基本的性格の相違に応じて,保険給付に要する費用の負担関係についても法律により異なった定めがされているのであるから,その結果,健康保険法による保険制度の適用を受ける地方公共団体の職員と国民健康保険の適用を受ける当該地方公共団体の住民との間にその保険料の負担額につき原告の主張するような差異が生じているとしても,そのことをもって何ら合理的理由のない不当な差別的取扱いであるということはできない(なお,本件規約47条の規定が健康保険法162条(健康保険法(平成18年法律第83号による改正前のもの)附則2条7項)の許容する範囲を逸脱するものでないことは,前記(2)において説示したとおりである。)。
したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものとして,採用することができない。
オ 原告は,地方公務員法43条1項,4項,5項,地方公務員等共済組合法113条2項等の規定からすれば,法が地方公共団体の職員について予定している病気,負傷等に関し給付を行うための共済制度は,被保険者ないし組合員の保険料ないし掛金と地方公共団体の負担金の負担割合を2分の1ずつとする制度であり,地方公共団体が上記負担割合を超えて保険料額を負担した場合には,少なくともその超過部分については,地方公務員法25条1項にいう「給与」ないし「金銭又は有価物」に該当するものとして,その違法性が阻却されず,給与に関する条例に基づかずにはこれを支給することができないから,当該条例がないかぎり,同項に違反し,違法であるなどといった趣旨の主張をする。
しかしながら,地方公務員法43条が,地方公務員(職員)の病気,負傷等に関して適切な給付を行うための相互救済を目的とする制度として,同条6項にいう法律(地方公務員等共済組合法)によって定められる共済制度と当該給付に要する費用の負担割合についての法制を異にする制度を適用することを禁ずる趣旨のものと解することはできず,地方公務員等共済組合法による組合員となるべき地方公共団体の職員を被保険者とする健康保険組合について健康保険法162条(平成14年法律第102号による改正前の健康保険法75条)の規定が適用されないと解することもできないことは,前記のとおりであり,また,本件規約47条の規定が健康保険法162条(健康保険法(平成18年法律第83号による改正前のもの)附則2条7項)の許容する範囲を逸脱するものでないことも,前記のとおりであるから,本件規約47条の規定に基づき枚方市が法定の負担割合である2分の1を超えて負担した保険料額のうちの当該超過部分について,これを当該枚方市の職員に対する地方公務員法25条1項にいう「給与」又は「金銭又は有価物」に該当するとみる余地はなく,したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものとして,採用することができない。
カ 原告は,少なくとも保険料の負担割合に関しては,法人格否認の法理を類推適用して,本件組合の法人格を否認し,これを大阪府市町村職員共済組合と同一視することにより,地方公務員等共済組合法附則29条1項,健康保険法162条及びこれに基づく本件規約47条の規定の適用を排除し,地方公務員等共済組合法附則30条により同法113条2項の規定を適用すべきであるといった趣旨の主張をする。
しかしながら,地方公務員等共済組合法による組合員となるべき地方公共団体の職員を被保険者とする健康保険組合を存続させ,その規約において健康保険法162条の規定に基づきその許容する範囲内で地方公共団体の保険料の負担割合を法定の2分の1を超えて増加することが,何ら違法とはいえず,また,当該2分の1を超える負担部分についてこれを当該職員に対する給与の実質を有するものということもできないことは,既に説示したとおりである上,原告の主張するような本件組合の法人格の形骸化ないし法人格の濫用を根拠付ける事情を見いだすこともできないから,原告の上記主張は,その前提を欠くものとして,採用することができない。
(4) 結論
以上説示したところによれば,本件規約47条の規定を違法と解すべき根拠は見いだせず,同規定に基づいてされた本件支出が違法であるとする原告の主張は,いすれも,その前提を欠き,採用することができない。
3 結論
以上によれば,原告の被告らに対する本訴請求は,いずれも,その余の点について判断するまでもなく,理由がないから,これを棄却すべきである。
よって,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西川知一郎 裁判官 岡田幸人)
裁判官和久一彦は差し支えのため署名押印することができない。裁判長裁判官 西川知一郎