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大阪地方裁判所 平成17年(行ウ)131号 判決 2007年7月12日

主文

1  原告の請求1項、4項及び5項に係る訴えのうち、平成16年5月15日以前にされた補給金の支出に係る部分及び平成17年8月1日以後にされた補給金の支出に係る部分並びに同請求2項及び3項に係る訴えをいずれも却下する。

2  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用及び参加に要した費用は、いずれも原告の負担とする。

事実及び理由

第5本案前の争点に対する判断

1  監査請求期間の制限規定の適用の有無について

(1)  原告は、本件監査請求の対象事項は、太子町が互助会に対して有する不当利得返還請求権の回収のために必要な措置をとるべきであったのにこれを怠ったという「怠る事実」であるから、監査請求の制限規定の適用がないと主張するので、検討する。

(2)  確かに、怠る事実に係る住民監査請求は、地方自治法242条2項の適用はなく、期間制限がないのが原則である(最高裁昭和53年6月23日第三小法廷判決・裁判集民事124号145頁参照)。しかし、同条項が特定の財務会計上の行為に係る住民監査請求に期間制限を設けた趣旨に照らせば、財務会計上の行為が違法、無効であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をもって怠る事実とする監査請求は、当該怠る事実についての監査を遂げるために、当該財務会計行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にある限り、当該財務会計行為のあった日又は終わった日を基準として、上記監査請求期間の制限が及ぶと解するのが相当である(最高裁昭和62年2月20日第二小法廷判決・民集41巻1号122頁、最高裁平成14年7月2日第三小法廷判決・民集56巻6号1049頁)。

(3)  ここで、〔証拠省略〕によれば、本件監査請求書及び同補正書において、被告及び支出手続担当者らは、互助会の支給する「生業資金」が「ヤミ退職金」などと批判されていたにもかかわらず、漫然と互助会に対し、本件補給金を支出していたこと、補給金の支出は違法であるとする裁判例が存すること、監査委員に対して求める措置の内容として、平成7年度から16年度までの退会給付金・生業資金のうち、太子町が支出した補給金相当額を互助会等に対して返還を求めることなどが記載されていることが認められ、これによれば、本件監査請求は、上記期間の本件補給金の支出が財務会計上の法規に違反する違法なものであることを指摘した上で、その是正措置を求める内容のものと解される。

そして、本件監査請求について、違法に支出された補給金の返還請求等を怠っている事実もその監査対象として含まれていると解したとしても、監査委員がその怠る事実の監査を遂げるためには、本件補給金の支出が財務会計上の法規に違反するか否かを判断しなければならないことになるから、本件監査請求については、地方自治法242条2項による期間制限を受けるものというべきである。

(4)  なお、原告は、監査請求に制限期間を設けた趣旨は、行政庁の処分・決定の不安定化を避けることであるから、そのような不利益が生じない場合には、監査請求期間の制限を受けないと解すべきであるとも主張するが、独自の見解であって採用できない。

2  正当な理由の有無について

(1)  被告は、本件監査請求のうち、平成16年5月15日以前にされた本件補給金の支出について監査を求める部分は、監査請求期間を徒過しており、不適法であると主張するので、検討する。

前記前提事実によれば、本件監査請求は平成17年5月16日にされているから、平成16年5月15日以前にされた本件補給金の支出に係る財務会計上の行為に関しては、いずれも1年を経過していることになる。したがって、本件監査請求のうち、同日以前にされた本件補給金の支出に係る部分については、「正当な理由」(地方自治法242条2項ただし書)がない限り、不適法である。

そして、「正当な理由」の有無は、特段の事情のない限り、普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて当該行為を知ることができたかどうか、また、当該行為を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものであると解される(最高裁昭和63年4月22日第二小法廷判決・裁判集民事154号57頁、最高裁平成14年9月12日第一小法廷判決・民集56巻7号1481頁参照)。

(2)  そこで、本件において「正当な理由」が認められるか否かを検討するに、〔証拠省略〕及び弁論の全趣旨によれば、朝日新聞、毎日新聞及び読売新聞は、平成16年2月25日、大阪高等裁判所が、吹田市が互助会に支出した補給金の一部について、それが実質的に退職手当の上乗せとして支給されている退会給付金等の財源となっていることなどを理由に、それを違法と判断したことなどを報じたこと、読売新聞は、互助会には、大阪市を除く大阪府の43市町村の職員らが加入し、市町村等からの補給金は平成8年から平成10年度で年間77億円前後に上っており、同判決は同市以外の自治体にも影響を与えそうだと指摘していることが認められる。

そうすると、上記各新聞報道は吹田市の事件についてのものではあるものの、その報道内容から、太子町職員も互助会に加入していることや太子町も互助会に対し補給金を支出していることは容易に推認できるというべきである。したがって、太子町の住民は、平成16年2月25日時点で、相当の注意力をもって調査すれば、客観的にみて監査請求をするに足りる程度に本件各財務会計行為の存在及び内容を知ることができたというべきであり、住民が同日から相当な期間内に監査請求をしなかった場合には、前記「正当な理由」がないものというべきである。そして、原告が本件監査請求をしたのは、上記時点から1年以上を経過した平成17年5月16日であるから、本件監査請求には上記「正当な理由」がないというべきである。

なお、原告は、太子町職員から隠蔽工作があったなどと主張するが、いずれも監査請求後の事情であるから、これらの事情が仮に認められるとしても、上記判断を左右するものではない。

(3)  原告は、本件補給金の支出は、同一態様による一連の違法行為であり、このような場合、監査請求期間の経過は問題にならないと解すべきであると主張する。

しかし、地方自治法242条2項にいう「当該行為のあった日」とは、一時的行為のあった日を、同項にいう「当該行為の終わった日」とは、継続的行為についてその行為の終わった日を、それぞれ意味するものと解するのが相当であるところ、同法232条の3にいう支出負担行為並びに同法232条の4第1項又は2項に定める支出命令及び支出は、いずれも一時的行為であるから、同法242条2項本文所定の監査請求期間は、支出負担行為、支出命令及び支出ごとにそれぞれの行為のあった日から各別に計算すべきである(最高裁平成14年7月16日第三小法廷判決・民集56巻6号1339頁参照)。

そして、本件補給金の支出も、各月ごとに支出等の財務会計上の行為がされているから、各月にされた財務会計上の行為ごとに格別に監査請求期間を適用すべきである。原告の上記主張は採用できない。

(4)  以上のとおり、原告の請求1項、4項及び5項に係る訴えのうち、平成16年5月15日以前にされた補給金の支出(合計1億2938万9750円)に係る部分は、適法な監査請求を前置しておらず、不適法である。

3  平成17年8月1日以後にされた補給金の支出に関する請求についての監査請求の有無について

(1)  本件訴えの中には、太子町が平成17年8月1日以後に支出したり、支出する予定の補給金に関する請求も含まれているが、これらの請求について、監査請求を前置しているか否かが問題となる。すなわち、〔証拠省略〕によれば、原告は、平成17年5月16日付けの本件監査請求書において、平成14年度から同16年度までの退会給付金と生業資金の金額を明記した上で、監査委員に対し求める措置内容として、平成14年度から同16年度までの退会給付金と生業資金の額のうち、太子町が支出した補給金相当額の返還を町長等から求めることと明記し、その後、平成17年7月4日付けの補正書において、監査の対象を平成7年度から平成16年度までに拡張することを明らかにしていることが認められ、これらの書面の記載からは、平成17年度以降の補給金の支出が本件監査請求の対象に含まれていると解することは困難である。しかも、本件監査請求書(〔証拠省略〕)に添付された資料(インターネット記事)には、平成17年度以降、退会給付金に占める補給金の割合を引き下げる方向で検討がなされていることなどが記載され、これは退会給付金等制度が変革期にあることを示唆するものであり、原告もこの記事内容を踏まえて、本件監査請求の対象を決めたことが推認できる。このように、原告は、本件監査請求書に年度を平成14年度から同16年度までと明示した監査を求め、しかもその補正書において、その年度を平成7年度からと過去にのみ延長していること、原告は、退会給付金等制度は平成17年度以降、公費負担の割合も含め変更されることが予定されていることを踏まえて本件監査請求をしていることからすれば、本件監査請求の対象とする財務会計行為は、その請求書に記載されたとおり、平成7年度から平成16年度までの補給金の支出に限られると解するのが相当である。

(2)  したがって、原告の請求1項、4項及び5項に係る訴えのうち、平成17年8月1日以後にされた補給金の支出(合計855万3887円)に係る部分及び同請求2項(差止請求)に係る訴えは、監査請求を前置しておらず、不適法である。

4  原告の請求3項(過去の事実の違法確認請求)に係る訴えの当否について

(1)  地方自治法242条の2に規定する住民訴訟は、地方公共団体のあらゆる違法不当な行為の是正を目的とするものではなく、地方公共団体の財務会計の適正な運営を確保することを目的として特に法律によって創設された制度である。そのため、住民訴訟の対象となる事項は、同法242条1項に定める違法な財務会計上の行為又は怠る事実に限られる。

(2)  原告がその請求3項で問題とする被告の行為は、職員の監督、事務の管理を怠ったことであるところ、地方自治法242条の2に規定する住民訴訟において、過去において一定の行為を怠った事実の確認請求は認められていない。

したがって、原告の請求3項(過去の怠る事実の違法確認請求)に係る訴えは、不適法である。

5  小括

したがって、原告の請求1項(互助会に対する不当利得返還請求権の行使を求めるもの)、4項(Aに対する不当利得返還請求権の行使を怠る事実の違法確認請求)及び5項(吉村に対する損害賠償請求権の行使を求めるもの)に係る訴えのうち、平成16年5月15日以前の支出の違法を前提とする請求部分(合計1億2938万9750円)及び平成17年8月1日以降の補給金の支出の違法を前提とする請求部分(合計855万3887円)並びに同請求2項(差止請求)及び3項(過去の怠る事実の違法確認請求)に係る訴えは、いずれも不適法である。

第6本案の争点に対する判断

1  互助会に対する不当利得返還請求権の成否(原告の請求1項)

(1)  本件補給金(ただし、平成16年5月16日から平成17年3月31日までに支出された部分。以下においては、同期間に支給された補給金を「本件補給金」という。)の支出の違法性について

ア  認定事実(〔証拠省略〕及び弁論の全趣旨により認められる。)

(ア) 太子町の福利厚生事業等

地方公務員法は、同法41条に規定する「職員の福祉及び利益の保護」を図るため、42条に定める厚生制度、同法43条に基づく共済制度、同法45条に基づく公務災害補償制度を規定しており、互助会は、上記厚生制度の1つとして位置付けられる。

そして、太子町を含む大阪府下の市町村(大阪市を除く。)等は、所属の常勤の職員に対する同法42条に基づく事業の1つとして、互助会を通じて職員の福利厚生を行う扱いをしている。

太子町は、合併により発足した当初から、職員の厚生制度の実施を互助会に委託していたが、その根拠となる条例その他の規程ないし契約書等の文書は存在しない。

(イ) 互助会の事業運営資金について

a 互助会の事業運営資金は、会員が納付する会費及び市町村等が負担する補給金並びにこれらの運用益等で賄われている。

平成6年から平成17年度までの各年度における収入は別紙1記載のとおりである。

b 会費は、互助会に入会した会員が、互助会に対して支払うものであり、補給金は、市町村等が、互助会に対して支払うものであるところ、それらの月額は、会員(市町村は、所属する会員)の給料月額(上限42万4000円)に一定の割合(会費欄及び補給金欄参照)を乗じて計算されており、各年度における負担割合は、比率欄記載のとおりである。なお、平成17年4月1日以降の補給金に関する一定割合は、1000分の21であったが、同年7月12日の評議員会において、同年4月1日に遡って、1000分の14に引き下げることとされた。

会費 補給金 比率

昭和23年8月~ 1000分の14 1000分の56 1:4

昭和54年4月~ 1000分の14 1000分の42 1:3

昭和55年4月~ 1000分の14 1000分の35 1:2.5

平成元年4月~ 1000分の14 1000分の28 1:2

平成11年4月~ 1000分の14 1000分の26 1:1.85

平成16年4月~ 1000分の14 1000分の23 1:1.64

平成17年4月~ 1000分の14 1000分の14 1:1

平成18年4月~ 1000の10 1000分の7 1:0.7

(ウ) 互助会の事業概要について

互助会は、給付事業として、①医療補助(入院費補助、介護補助、人間ドック補助、休業補助)、②見舞金(障害見舞金、災害見舞金)、③弔慰金(死亡弔慰金、親族死亡弔慰金)、④準備金(結婚準備金、出産準備金)、⑤祝金(入学祝金、進学祝金、成年祝金、在会慰労金、結婚記念祝金)、⑥退会給付(退会餞別金)を、貸付事業として、①生活資金、②進学資金、③特別資金、福利厚生事業として、①互助会館「なにわ」の運営、②宿泊利用補助(指定契約施設の利用)、③契約施設等の助成及び割引、④広報誌「ふれあい」等の発行、その他目的達成のために必要な事業及び上記各事業に附帯する事業を行っている。

互助会の平成6年から平成17年度までの各年度における支出は、別紙1記載のとおりである。

(エ) 退会給付金等制度について

互助会は、互助会を退会した職員等(職員として退職すると、互助会の会員資格を失うので、互助会も退会することになる。)に対し、退会時点での給与月額及び在会年数(市町村等の常勤の全職員が会員であり、市町村等の在職期間と同一になることとなる。)を基礎にして算定された退会給付金等を給付しており、平成16年度における退会した職員等に対する退会給付金の支給額は、一人当たり平均約360万円、最高額は約565万円である。

また、互助会設立時(昭和7年)から平成3年ころまでの互助会の収支概要比率をみると、互助会の総支出額に占める退会給付金等の支出額の割合は約71.5パーセントであり、平成6年度から平成16年度までの互助会の総支出額(積立金は除く。)に占める退会給付金等の支出額の割合は別紙2記載のとおり、その平均は約73パーセントであるから、平成16年度までの互助会の支出額合計に占める退会給付金等の支出額の割合は、少なくとも7割であると認められる。

イ  検討

(ア) 原告は、本件補給金の支出は、地方自治法204条等に規定する給与条例主義に違反すると主張する。

この点について、給与条例主義(地方自治法204条の2、地方公務員法25条1項)は、地方公共団体が法律及び条例に基づかないで職員に給与その他の給付を支給することを禁じているものであるから、互助会に対する補助金である本件補給金の支出は、これに直接抵触するものとはいえない。

しかし、地方公共団体が、互助会に補助金を交付し、互助会がその補助金を用いて実質的に給与や退職手当に当たる給付を支給することは、直接には給与条例主義に抵触するものでないとしても、給与条例主義(地方自治法204条の2、地方公務員法25条1項)の規定を潜脱するというべきであり、このような補助金の支出は、実質的に給与条例主義に違反するものであって、地方自治法232条の2の「公益上必要がある場合」とはいえず、違法になるというべきである。

(イ) 本件では、前記認定事実のとおり、互助会は、退会者に対し、退会給付金等を支払っているところ、太子町を含む大阪府下の市町村職員が退職すると、互助会から退会する仕組みになっていること、退会給付金等の使途は限定されていないこと、退会給付金等の支給額は、会員期間(職員としての在職期間と同じである。)に応じて決められ、支給事由及び支給対象者も、退職手当のそれらとほぼ同一であること、退会給付金等の支給額は、平均380万円という高額なものであることからすれば、退会給付金等は、退職手当を互助会を通して実質的に上乗せする性質の金員であると認められる。

したがって、本件補給金の支出のうち、退会給付金等の支給を実質上の目的とした部分は、退職手当を上乗せする性質の金員に充てるためのものであって、給与条例主義を実質的に潜脱する違法なものであり、その支給をすることについて、公益上の必要がある(地方自治法232条の2)とはいえない。

そして、上記のとおり、平成16年度以前において、互助会の支出のうち少なくとも7割が退会給付金等として支出されていたことに照らせば、本件補給金のうち、その7割は、退会給付金等の支出を実質上の目的として交付されたものと解され、その部分は違法なものというべきである。

(ウ) 他方で、本件補給金の支出のうち、退会給付金等の支給に充てられた以外の部分については、給与条例主義に違反するなど、当該支出部分が違法であると認めるに足りる証拠はない。

(エ) 被告及び互助会は、退会給付金等の給付は、地方公務員法42条によって地方公共団体が実施すべき福利厚生事業に含まれるものであると主張する。

しかし、地方公務員法42条が要請する厚生制度は、職員の保健、元気回復(レクリエーション)を典型とする制度であり、上記のとおり給与条例主義を実質的に潜脱するような高額の退会給付金等を支給することは、同条が予定する福利厚生制度の範囲を超えるものというべきである。

なお、互助会は、本件補給金は互助会への委託に基づくものであるから、地方自治法232条の2の補助金には当たらないと主張する。しかし、本件補給金は、互助会の事業の促進のために交付されるものであり、反対給付を伴うものとはいえないから、上記規定にいう補助金に当たるというべきである。

(2)  不当利得返還請求権の成立範囲について

ア  以上によれば、本件補給金の支出のうち、退会給付金等の支出に充てられることを実質上の目的とする部分は違法であり、太子町は当該部分と同額の損失をし、その結果互助会は同額の利得を法律上の原因なく得ていることになるから、太子町は、互助会に対し、同額を不当利得として返還請求することができる。

イ  そして、本件補給金のうち、退会給付金等の支出に充てられることを実質上の目的として交付されたのは、前記のとおり、少なくともその7割であると認めることができるから、本件補給金(合計1149万2630円)のうち7割に相当する804万4841円は違法な支出であり、太子町は互助会に対し、その限度で不当利得返還請求をすることができるというべきである。

(3)  弁済の有無について

ア  被告及び互助会は、本件支払に関して、本件補給金の支出に係る不当利得返還債務に指定充当ないし合意充当したと主張するので、以下検討する。

前記前提事実、〔証拠省略〕及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(ア) 互助会の理事会は、平成17年11月4日、互助会の評議員会は、同月25日、同月末日をもって退会給付金等制度を廃止すること及びその廃止に伴う清算金として約100億円を返還することを決議した(〔証拠省略〕)。約100億円という金額は、大阪高裁判決で互助会に対して吹田市に返還することを命じられた7200万円を、市町村等に焼き直した場合の5年分相当額ということで決められた。

太子町の町長である吉村は、互助会の理事会に出席し、互助会の評議会には委任状を提出した。

(イ) 互助会は、同月25日、各市町村等に対し、清算金の額等を通知した(以下「本件通知」という。)。本件通知には、退会給付金等制度廃止に伴う清算金として、各市町村等に返還金として還付することが議決されたこと、太子町に対する返還額が2165万4921円であることなどが記載されていた。

(ウ) 太子町は、同年12月5日、互助会に対し、振込口座を通知し、互助会は、同月15日、太子町に対し、2165万4921円を支払った(本件支払)。

(エ) 互助会が本件支払をした際、大阪府下の各市町村の住民が、各市町村に対し、互助会に対する補給金の支出が違法であるとして、互助会に対し、その補給金相当額を支払うよう請求することを求める住民訴訟が当庁に多数係属していた。

(オ) 互助会は、平成17年12月20日付け第2準備書面において、本件支払をしたと主張したが、本件支払が本件補給金の支出に係る不当利得返還債務に関する弁済であるとの主張はしなかった。

互助会は、平成18年1月31日付け第3準備書面において、本件支払は本件補給金の支出に係る不当利得を認めた上でその返還をするものではないが、本件支払が行われた以上、その限度で不当利得又は損害が減じているとの主張をした。

互助会は、平成18年5月25日付け第5準備書面において、太子町に支払った2165万4921円を、本件補給金(1149万2630円)の支出に係る不当利得返還債務に充当し、その残額を直近のものから古いものへ順次遡って充当するとの主張をした。

互助会は、平成18年12月19日付け第9準備書面において、被告が振込口座届けを提出した時点で合意充当が成立するとの主張をした。

(カ) 被告は、平成18年8月31日付け及び同年12月12日付けの準備書面において、互助会の充当の指定に従うとの主張をし、予備的に、互助会との間で、本件補給金(1149万2630円)の支出に係る不当利得返還債務に充当し、その残額を直近のものから古いものへ順次遡って充当するとの合意をしたと主張し、互助会も、平成19年5月10日の第13回口頭弁論期日において、平成18年12月12日に被告が主張する内容で充当の合意をしたと主張した。

イ  被告は、本件支払について、指定充当があったと主張する。しかし、指定充当は、弁済時にされる必要がある(民法488条)ところ、弁済の際、指定充当があったと認めるに足りる証拠はない(互助会も、弁済時に指定充当をしたとの主張をしていない。)。

互助会は、互助会に対する補給金の支出が違法であるとして、互助会に対し、その補給金相当額を支払うよう請求することを求める住民訴訟が当庁に多数係属していたことなどが認められることから、黙示の合意充当があったと解すべきであると主張するが、このような合意充当を認めるに足りる証拠はない。

もっとも、上記認定事実ア(オ)、(カ)及び弁論の全趣旨によれば、被告及び互助会は、平成18年12月12日、互助会が太子町に支払った2165万4921円を、本件補給金の支出に係る不当利得返還債務に充当し、その残額を直近のものから古いものへ順次遡って充当することを合意したと認められる。

ウ  原告は、既に清算金として受領したものについて、遡って不当利得返還債務に充当することはできないから、合意充当の効果はないと主張する。

しかし、被告が互助会との間で上記のような充当の合意をしたことが、住民訴訟における被告の対応として適当かという点については議論の余地があるにせよ、債権者と債務者間で、事後的に当初とは異なる債権に充当する旨の合意をすることも法的には許容されるから、原告の上記主張は理由がない。

エ  以上によれば、本件補給金の支出に係る不当利得返還債務(804万4841円)は、弁済により消滅したというべきである。

(3)  まとめ

したがって、原告の請求1項(不適法な部分を除く。)は理由がない。

2  Aに対する不当利得返還請求権の行使を怠る事実の有無(原告の請求4項)

原告は、太子町は、互助会から退会給付金等を受領したAに対し、不当利得返還請求権を有しているのに、その行使を怠っていると主張するので、検討する。

前記のとおり、本件において適法な監査請求を経ているのは、平成16年5月16日から平成17年3月31日までの補給金、すなわち、本件補給金の支出に関する財務会計行為に限られるから、Aに対する不当利得返還請求権の有無も、本件補給金の支出を原因とするものについて検討すれば足りる。しかるに、本件補給金のうち、太子町が不当利得返還請求をなし得る部分について、太子町は互助会からその全額の弁済を受けているから、太子町にはもはや損失は存在せず、したがって、本件補給金の一部がAに交付されていたとしても、Aに対して不当利得返還請求をすることはできない。

以上のとおり、原告の請求4項(不適法な部分を除く。)は理由がない。

3  吉村の不法行為ないし債務不履行の成否及び損害額(原告の請求5項)

原告は、吉村は、太子町長としての職にありながら、故意又は重大な過失により、違法な補給金の支払を続け、また、互助会に対する不当利得返還請求権を適切に管理し、必要な措置を講ずるべきだったのにそれを怠り、太子町に損害を与えたものであり、太子町に対し、損害賠償責任を負うと主張する。

しかし、太子町は、前項で述べたのと同様の理由で、損害を既に回復しているというべきであるから、その余の点を判断するまでもなく、吉村に対し、損害賠償請求をすることはできない。

したがって、原告の請求5項(不適法な部分を除く。)は理由がない。

第7結論

以上のとおり原告の請求1項(互助会に対する不当利得返還請求権の行使を求めるもの)、4項(Aに対する不当利得返還請求権の行使を怠っていることの確認を求めるもの)及び5項(吉村に対する損害賠償請求権の行使を求めるもの)に係る訴えのうち、平成16年5月15日以前にされた補給金の支出(合計1億2938万9750円)に係る部分及び平成17年8月1日以降にされた補給金の支出(合計855万3887円)に係る部分並びに原告の請求2項(差止請求)及び3項(過去の怠る事実の違法確認請求)に係る訴えはいずれも不適法であるからこれらを却下することとし、原告のその余の請求はいずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 廣谷章雄 裁判官 森鍵一 森永亜湖)

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