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大阪地方裁判所 平成17年(行ウ)76号 判決 2006年12月28日

原告

X1

X2

X3

原告ら訴訟代理人弁護士

井上善雄

被告

茨木市長 野村宣一

同訴訟代理人弁護士

高坂敬三

夏住要一郎

間石成人

鳥山半六

田辺陽一

小林京子

小宮山展隆

加賀美有人

高坂佳郁子

安西儀晃

塩津立人

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第3 当裁判所の判断

1  争点1(給与の支出命令の違法性)について

(1)  前記前提事実に加え、証拠(後掲)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認定できる

ア  本件協会について

(ア) 本件協会は、茨木市とミネアポリス市との姉妹都市提携が結ばれるのに先立ち、市民同士の相互理解と人間的な交流を基調として、両市間の友好親善をはかり深めるための姉妹都市提携活動推進の母体として、昭和55年10月2日に「茨木市姉妹都市提携協会」の名称で設立された法人格のない団体であり、昭和61年に現在の名称へ改められたものである(〔証拠略〕)。

(イ) 本件協会の会長は、理事会において選任され、会則において特にその資格は定められていないが、初代会長には当時被告(茨木市長)の地位にあった重冨敏之が就いており、本件訪問団の実施当時は、野村が会長に就いていた。また、本件協会の顧問には茨木市議会議長及び茨木市選出の大阪府議会議員が、参与には茨木市議会副議長、茨木市助役、教育委員会委員長及び茨木市農業委員会会長が就くものとされている。本件協会の事務所は茨木市役所内に置かれており、その事務局は茨木市市民生活部に置かれ、本件協会の事務を処理するものとされている(〔証拠略〕)。

(ウ) 本件協会は、茨木市と姉妹都市等との交流を通じて、都市相互間における市民文化の向上につとめ、市民相互の理解と連帯を密にし、友好・親善の促進をはかり、市民文化の向上と世界平和に寄与することを目的としており、この目的を達成するため、都市相互間の経済、工業、農業、科学技術、文化、教育、福祉、スポーツ、観光及び都市建設等の交流並びに都市相互間の青少年及び市民団体等の人的交流等の事業を行うものとされ、実際にも、毎年、ミネアポリス市や友好都市である中華人民共和国安慶市との人的交流(市民親善訪問団、テニス交流訪問団、スポーツ訪中団、サッカーチーム、英語学習ツアー及び相手側から派遣される訪問団の受入れ等)や留学生奨学金の支給、英語スピーチ大会等といった多くの行事を行っている(〔証拠略〕)。

イ  本件訪問団の実施について

(ア) 本件訪問団は、本件協会が主催者であり、青少年に国際感覚を身につけさせること、より具体的には、青少年に自然豊かなミネアポリス市でのキャンプ活動に参加することを通じて現地の青少年と交流を深め、ホームステイ等を通じてアメリカ人の素顔の生活を体験する機会を提供し、市民同士の真の理解を促進することを目的として企画されたものであって、茨木市及び教育委員会が後援するものである。茨木市キャンプ交流訪問団は、平成3年度を初回として、平成18年度までに合計8回実施されている(〔証拠略〕)。

(イ) 本件訪問団の実施に当たって、本件協会は、日本通運株式会社と契約を締結し、同社の添乗員1名が本件訪問団に同行した。上記契約において、添乗員の業務は、原則として旅行日程上団体・グループ行動を行うために必要な業務とされており、その業務時間帯は原則として午前8時から午後8時までに限られていた(〔証拠略〕)。

(ウ) 本件訪問団に参加したのは、すべて中学生であり、3年生が1名、2年生が6名、1年生が13名であって、これに同行した成人は、A及び添乗員1名のみであった。なお、参加者名簿にはAの氏名も記載され、その欄には「同行者」「茨木市教育委員会職員」と記載されているが、添乗員の氏名は記載されていない(〔証拠略〕)。

ウ  Aの本件訪問団への参加等について

(ア) 本件協会の役員を兼ねる茨木市市民生活部長は、本件訪問団実施に当たり、平成16年6月28日、青少年の国際交流行事であること、青少年の指導及び生命の安全、健康の保持に対応できること、保護者が安心することで参加者増大が望まれることなどの理由から、教育委員会職員の同行を同委員会のB部長に依頼した。その際、市民生活部長は、旅程中のトラブルに対応することや参加者の管理ないし教育上の指導をすることが同行者の事務であると述べた(〔証拠略〕)。

(イ) B部長は、本件協会からの上記依頼を受けて、Aに対し、中学生を引率して姉妹都市であるミネアポリス市に渡航してほしいと告げた(職務命令としてされたものではない。)。Aがこれを承諾すると、B部長は、職務免除願を提出するよう指示した。Aは、前提事実(第2の3(6)ア)記載のとおり職務免除願の書面を提出し、B部長は、同イ記載のとおり本件職務免除及び本件承認を与えた(前提事実〔第2の3(6)〕証人A)。

(ウ) Aの職歴は以下のとおりである。

a 昭和○年4月1日 茨木市立茨木小学校教諭

b 昭和○年4月1日 茨木市立郡山小学校教諭

c 平成○年4月1日 茨木市立郡小学校教諭

d 平成○年4月1日 茨木市立春日丘小学校教頭

e 平成○年4月1日 教育委員会管理部学務課長代理

f 平成○年4月1日 教育委員会管理部教育総務部指導主事

g 平成○年4月1日 教育委員会管理部教育総務課参事

なお、Aは、教諭に採用されて以降、小学校の修学旅行を付添も含め14回ないし15回程度引率した経験があるほか、茨木市水泳連盟の事務局長として、小学生から高校生までを引率して臨海水泳学校に10回程度参加した経験がある(〔証拠略〕)。

(エ) 本件協会は、本件訪問団への同行に必要なAの旅費を負担したが、Aに対して報酬その他の給付を与えたということはなく、茨木市に対して何らかの給付をしたということもない(〔証拠略〕)。

エ  本件訪問団の行程等については、次のとおりであった(〔証拠略〕、公知の事実)。

(ア) 本件訪問団は、平成16年7月24日に出発する予定であったが、天候不順のため航空便が変更され、同月25日に出発することとなった。

(イ) 本件訪問団は、同日午前6時、茨木市役所前に集合し、関西国際空港からデトロイトを経由して同日午後1時30分(現地時刻。以下同じ。)、ミネアポリス空港に到着した。一行は、同日午後4時30分、ロングレイク自然保護センターに到着し、既に米国の子供たちにより開始されていた同センターのキャンプのプログラムに参加した。

(ウ) 本件訪問団は、同月25日から29日まで、終日、米国の子供たちと共にキャンプ活動を行った。

(エ) 本件訪問団は、同月30日正午、キャンプ活動を終了した。同日及び同月31日は、ミネアポリス市内のホストファミリー宅に分かれ、ホームステイを行う予定になっていたが、キャンセルを申し出るホストファミリーが多数に上り、20世帯を確保することができなくなったため、全員についてホームステイを行うことが不可能になった。そこで、ミネアポリス市側の窓口であるミネアポリス・茨木姉妹都市協会(以下「姉妹都市協会」という。なお、同協会は、ミネアポリス市と茨木市の姉妹都市提携をきっかけに、両市間の交流活動を推進するために設立された民間団体であり、ミネアポリス市の機関ではないが、ミネアポリス市から交流事業の一切を委託されている。〔証拠略〕)と協議の上、代替措置として、同月30日夜には大リーグ観戦を、同月31日午前にはミネアポリス市のトロリーバスを利用して市内観光を、同日夜には姉妹都市協会役員であるC宅でのホームパーティーを行い、ホテルに宿泊することとした。

なお、同月30日には、ミネアポリス市長を表敬訪問する予定になっていたが、同市長側の突発的な事情によりキャンセルされた。

(オ) 本件訪問団は、同年8月1日(日曜日)午前7時26分発の飛行機でミネアポリス市を発ってフロリダ州オーランド市に移動し、同日午後はディズニーワールド観光を行った。

(カ) 本件訪問団は、同月2日、オーランド市を出発し、乗継ぎを経て、同月3日、関西国際空港に到着し、同日8時30分ころ、茨木市役所前で解散した。

オ  Aの本件訪問団における事務について

Aは、本件訪問団に同行中、次のような事務を行った(〔証拠略〕)。

(ア) 経由地のデトロイト空港で2名の参加者が出発時刻間際に行方不明になり、添乗員が探しに行っている間、残りの18名の参加者について搭乗手続を行った。

(イ) ミネアポリス市到着後、参加者に対し、上記のトラブルがあったことを紹介し、今後は指示を守り、集団を離れず行動するよう注意指導を行った。

(ウ) ロングレイク自然保護センターの責任者であるミセスパットと日程変更に伴うプログラムの組み替えについて協議を行った。

(エ) キャンプ活動実施中においては、食事や睡眠、虫さされの防止なども含め、参加者の健康状態をチェックし、必要な指導を行った。また、米国の子供たちとの意思疎通が困難であることに自信を喪失していた参加者に対しては、カウンセリングを施すとともに、参加者に対し、積極的に米国の子供たちに話しかけるよう促した。

(オ) キャンプ活動参加中の平成16年7月28日、茨木市職員からホームステイが実施できなくなったとの電話連絡を受け、Cと代替措置について相談した。

(カ) 同月29日、参加者に対してホームステイの予定が変更されることを説明し、ホームステイ先への土産物の取扱いについてもアドバイスをした。

(キ) 同月30日、Cらと共に翌日の予定について協議し、参加者用の翌日の朝食を調達した後、Cらと共に参加者を野球場へ引率して大リーグ観戦を行った。野球場において財布を紛失した参加者がいたため、就寝前には、参加者に、貴重品の管理に注意するよう指導した。

(ク) 同月31日には、ミネアポリス市内での自由行動で集合時間に遅れる者がいたため、集合時間を守るよう厳しく指導した。ミネアポリス市のトロリーバスが走っていない場所での移動手段については、Aの判断により、預かっていた非常時資金を利用してマイクロバスをチャーターした。同日行われたホームパーティーでは、姉妹都市協会のD会長等の役員に対し、姉妹都市提携に基づく事業について謝意を示すとともに、翌平成17年が姉妹都市提携25周年に当たるためその記念行事について、また、ホームステイが実施できなかったことを踏まえた次年度以降の受入れ体制について、意見交換を行った。

(ケ) 同年8月1日、2日は、朝の集合時刻に遅れる参加者が多かったため、各室を回って起床させた。

(コ) 同月1日に搭乗した航空機内においては、機内で朝食が提供されないことが判明したため、乗務員と交渉して朝食を提供してもらった。また、航空機内で参加者同士が喧嘩を始めたため、厳しく注意指導を行い、周囲の乗客に謝罪した。

(サ) ディズニーワールドでは、複数人で行動すること、集合時刻を厳守することを指導し、自由行動に入ってすぐ、添乗員に指示して、添乗員と手分けして園内の様子を見て回った。また、アトラクションには入らず、夕食のレストランを予約した後は、園内を巡回した。

(シ) 全行程を通じて、市の交流事業の報告や今後の施設開発計画等の参考資料とするため、参加者の様子や施設の写真撮影を行った。

(2)  本件職務免除及び本件承認の要件該当性について

ア  職務専念義務の免除及び勤務しないことの承認の必要性

地方公務員の職員の給与は、条例で定めなければならないとされている(地方自治法204条3項、地方公務員法24条6項)。そして、給与条例21条は職員が勤務しない時は、所定の休日である場合、休暇による場合その他その勤務しないことにつき特に承認のあった場合を除き、その勤務しない1時間につき、所定の勤務1時間当たりの給与額を減額して給与を支給すると規定している。また、地方公務員は、法律又は条例に特別の定めがある場合を除くほか、その勤務時間のすべてをその職務遂行のために用い、当該地方公共団体がなすべき責を有する職務にのみ従事しなければならないとされている(地方公務員法35条)。そして、同条に基づく特別の定めとして制定された職務免除条例は、その2条で職務専念義務の免除の要件を定めており、同条3号を受けて定められた職務免除規則は、2条1号から7号までで具体的な免除事由を列記するほか、同条8号で「前各号のほか、任命権者が特に必要と認める場合」を挙げている。

ところで、Aは、平成16年7月25日(同月24日から旅程変更)から同年8月3日までの間、本件協会の主催する本件訪問団に同行しているところ、本件協会は茨木市と一定の密接な関係を有してはいるものの、あくまでも民間団体であること(前記(1)ア)、本件訪問団への同行が職務命令に基づくものでないこと(同ウ(イ))などからすれば、Aは、上記同行中、茨木市の職務に従事していなかったというべきである。

したがって、Aが本件訪問団に同行するためには、職務免除条例に基づく適法な職務専念義務の免除を受ける必要があり、また、Aに対して給与を全額支給するためには、給与条例21条に基づいて勤務しないことにつき適法な承認が与えられることが必要であると解すべきである。

本件において、職務免除条例に基づく職務専念義務の免除(本件職務免除)が行われ、これと同時に、給与条例21条に基づく承認が黙示的に行われたことは、前提事実(第2の3(6)イ)記載のとおりである。そこで、以下では本件職務免除及び本件承認の適否について検討する。

イ  職務専念義務の免除及び勤務しないことの承認の適法性の判断基準

職務免除条例2条3号、職務免除規則2条8号は、「任命権者が特に必要と認める場合」に職務専念義務の免除ができるものとしており、その要件を具体的に定めてはいない。また、給与条例21条は、勤務しないことについての承認を与える要件を何ら定めていない。しかし、職務専念義務の免除や勤務しないことについての承認は、処分権者がこれを全く自由に行うことができるというものではなく、職務専念義務の免除が服務の根本原則を定めた地方公務員法30条や職務専念義務を定める同法35条の趣旨に違反したり、勤務しないことについての承認が給与の根本原則を定める同法24条1項の趣旨に違反する場合には、これらは違法になると解すべきである(最高裁判所平成10年4月24日第二小法廷判決・裁判集民事188号275頁参照)。そして、本件においては、茨木市の施策との関係、本件協会の性格、本件訪問団の目的、Aが本件訪問団に同行することの目的及びその必要性(ことにAが行うことが予定されていた事務内容)、Aが公務に従事しない期間、職務を免除され勤務しないことを承認された人数等を総合考慮した上、本件職務免除については、本件訪問団に同行するため茨木市職員を市の事務に従事させないことが、また、本件承認については、これに加えて、市で勤務しない時間につき給与を支給することが、上記各条項の趣旨に反するか否かを検討すべきである。

ウ  本件職務免除及び本件承認の要件該当性

(ア) 茨木市が昭和55年10月22日にミネアポリス市と姉妹都市提携を結んだこと、茨木市において茨木市総合計画(第3次)が策定され、その中に、国際交流や国際協調の波を受けて、国レベルの交流に加えて自治体間の交流や地域レベル、市民レベルの生活に密着した交流を進め、相互理解を深めるとともに、国際的感覚を養うため交流活動の推進を行うことが盛り込まれていること、本件訪問団が実施された平成16年度の茨木市の施政方針には、姉妹・友好都市との交流を推進することが盛り込まれていることは、いずれも前提事実(第2の3(2))記載のとおりである。国においても、昭和62年3月付けの旧自治省指針(〔証拠略〕)、平成元年2月14日付け自治大臣官房企画室長通知(自治画第17号。〔証拠略〕)で地方公共団体のレベルにおける姉妹・友好団体との交流を含めた国際交流施策の展開を行う必要性を示しており、平成12年4月24日付け自治大臣官房国際室長通知(自治国第44号。〔証拠略〕)においても、重点が住民主体の交流へと移りつつあるものの、基本的な姿勢は維持されているのであって、茨木市の上記施策は、国の施策方針にも合致するものである。

本件協会は、茨木市とミネアポリス市との姉妹都市提携直前ころ、両市間の友好親善を深めるために設立された団体であり、今日に至るまで、茨木市における国際活動を中心的に行ってきた団体であって、茨木市との人的なつながりが密であることもあり、民間団体であるとはいえ、茨木市の上記施策実現に強く寄与している団体ということができる。本件訪問団は、かかる性質を有する本件協会が主催し、茨木市及び教育委員会が後援するものであって、その目的は、青少年にミネアポリス市でのキャンプ活動を通じて現地の青少年と交流を深めるなどし、市民同士の真の理解を促進して、青少年に国際感覚を身につけさせることにあったのであるから、まさに茨木市の施策に沿う目的を有するものであったということができる。

そして、前記(1)ウ認定事実によれば、Aが本件訪問団の同行者としてすべき事務には、Aの豊富な教職経験(多数の引率経験を含む。)を生かして、中学生である参加者を引率し、これに教育上の指導を施すとともに、旅程中のトラブルについて自己の判断により対処することが含まれていた(そのために非常時資金も預かっていた。上記(1)オ(ク)参照)ということができる。また、ミネアポリス市長への表敬訪問が旅程に定められていたこと、現地の姉妹都市協会の支援を受けることが予定されていたこと、ロングレイク自然保護センターや姉妹都市協会との事務的な協議等が必要だったことからすれば、茨木市職員という公的な立場を背景とした本件訪問団の代表者として、ミネアポリス市長や姉妹都市協会、ロングレイク自然保護センターと対応することも含まれていたというべきである。事実、Aは、本件訪問団の旅程中、前記(1)オ認定のとおりの具体的事務を行ったのであり、姉妹都市協会の役員やロングレイク自然保護センターの責任者と事務的な打合せを行ったほか(同(ウ)、(オ)、(ク))、規律を乱す参加者に対して教育上の注意指導を行い、その健康状態にも気を配り、安全確保に意を用い(同(イ)、(エ)、(キ)、(ク)、(コ)、(サ)、トラブルの際には自らの判断で臨機応変にこれに対応していた(同(ア)、(カ)、(キ)、(ク)、(コ))と認めることができる。

そして、本件訪問団に同行するためには、その全行程に必要な期間の職務専念義務の免除を得る必要があり、またこれをもって十分というべきところ、Aに対する本件職務免除の期間は、当初予定された本件訪問団の実施期間と等しく、その期間を超えて免除が与えられたものではない。また、Aは、本件訪問団に添乗員以外で同行した唯一の成人である(したがって職務専念義務を免除された唯一の茨木市職員である。)。

このように、本件協会が茨木市の施策実現に強く寄与する団体であり、本件訪問団の実施目的が茨木市の施策に沿うものであったこと、予定された事務の多くが教員としての実務経験を要するものであり、ことに中学生の引率や教育上の指導に教員経験者を充てることは有効と思われること、市職員としての公的な立場を背景とした事務も予定されていたこと、したがってAを同行させる必要性が存在したと認められること、そして、免除の期間及び人数も必要な範囲を超えるものではなく、期間自体も2度の週末を含めて11日間とさほど長期間に及んではいないことを併せ考えれば、本件訪問団の引率等をするためこれに同行するAに職務専念義務の免除を与え市の事務に従事させなかったことが、服務の根本原則を定めた地方公務員法30条や職務専念義務を定める同法35条の趣旨に違反するものということはできず、また、当該期間中給与を減額しなかったことが、給与の根本原則を定める同法24条1項の趣旨に違反するということもできない。

(イ) 原告らは、本件訪問団の旅程中にミネアポリス市内観光や大リーグ観戦、ディズニーワールド観光といったレジャーの企画が予定されていたことから、本件職務免除がAに有給での観光旅行に参加させる結果を招いたと主張する。

しかし、ミネアポリス市内観光及び大リーグ観戦は、ホームステイ交流がミネアポリス市側の都合により急遽不可能になったことに伴う代替措置であって、当初から予定されたものではないのであり、本件職務免除の適法性を左右する事情とはいえない。また、ディズニーワールド観光は、これを単体でみれば観光旅行との評価を免れないともいえるが、本件訪問団が中学生を対象としたものであり、語学力や海外の経験が不十分な参加者がほとんどであると思われるところ、このような参加者が米国内において安全かつ自主的に行動することができる場所が必ずしも多いとはいえないこと、園内では英語でのコミュニケーションが不可避的に要求され、自然のうちに参加者のコミュニケーション能力を試し、これを伸張させる場ともなり得、青少年に国際感覚を身につけさせるという本件訪問団の趣旨の一つに沿うものといえること、その期間も、キャンプ活動の6泊7日、ミネアポリス市内での活動2日間に比べ、わずか半日にすぎない上、その実施日は日曜日であったことなどからすれば、本件訪問団の目的を損なうものとはいい難い。そして、Aは、ディズニーワールド内において観光をしていたというわけではなく、前記(1)オ(サ)で認定したとおり、参加者の指導を行い、また添乗員と協力して参加者の安全確保のための巡回等を行っていたのであって、本件訪問団において本来行うべき事務を行っており、当初からこのような事務を行うことが予定されていたということができる。

そうすると、本件訪問団の旅程中の半日(しかもAにとって本来職務を行う必要のない日曜日)にディズニーワールド観光が含まれていたことをもって、本件職務免除が地方公務員法30条、35条の趣旨に違反するということはできず、本件承認が同法24条1項の趣旨に違反するということもできないというべきである。

なお、原告らは、茨木市がAを職務専念義務を免除するという方法で本件訪問団に同行させているのは、平成13年度の茨木市キャンプ交流訪問団に随行した職員の旅費を公費負担したことを別件1審判決で違法と判断されたことから、これを僭脱しようとして工作されたものであるとも主張する。しかし、本件訪問団にAが同行するための旅費はすべて本件協会が負担しているのであり、また、旅費を公費で負担するかということと、その間職員に給与を支給するかということとは、全く別の問題であるから、原告らの上記主張は失当である。

(ウ) したがって、本件職務免除及び本件承認がその要件を充足していないということはできない。

(3)  本件承認の手続違背の存否について

ア  本件承認は、B部長が教育委員会管理部長として専決により付与したものである(前記第2の3(6)イ)。この点について、原告らは、本件承認の付与には市長の決裁が必要であり、部長決裁のみで付与することはできないから手続違背があると主張するので、検討する。

イ  給与条例21条は、勤務しないことについての承認をする機関を定めていないが、職員に対する人事権を有するのは原則として任命権者であるから(地方公務員法6条参照)、教育委員会職員に対して上記承認を行う本来的権限を有する機関は、教育委員会である。そして、教育委員会は、重要なものを除き、その事務を教育長に委任しており(事務委任規則1条)、さらに、部長が一定の事務を専行することを認めている(同規則3条)。ここで、同条の「部長共通専決事項」は、1号から11号までで具体的な決裁事項を掲げ(この中に給与条例21条に基づく承認は含まれていない。)、12号で「その他教育長の決裁を要しない事務を処理すること」を掲げているが、これに給与条例21条に基づく勤務しないことの承認が含まれるかは判然としない。

ところで、上記勤務しないことの承認は、支出負担行為そのものではないが、この承認があれば、勤務しないことに基づく給与の減額を免れるという点で、支出負担行為に類似するものということができる。そして、証拠(〔証拠略〕)及び弁論の全趣旨によれば、本件承認の当時、人件費の支出負担行為を行うことは、決裁規程上、企画財政部長の専決事項とされていたことが認められる。

そうすると、上記決裁規程の定めとの均衡の観点からすれば、給与条例21条に基づく勤務しないことの承認は、事務委任規則3条の部長共通専決事項12号「その他教育長の決裁を要しない事務を処理すること」に該当するというべきであり、部長が専決することができると解される。

ウ  したがって、部下であるAに対する本件承認を教育委員会管理部長であるB部長が行ったことは、事務委任規則に違反するものではなく、これに手続違背があるということはできない。

(4)  小括

以上によれば、本件職務免除及び本件承認に違法な点はない。したがって、本件各支出命令が違法であるとする原告らの主張は、その前提を欠き、採用することができない。

2  争点2(補助金の交付決定及び支出命令の違法性)について

原告らは、本件協会が本件訪問団にAを同行させるために27万7250円の費用を支出しており、本件協会の予算の2分の1は茨木市からの補助金によってまかなわれているから、Aの旅費の2分の1である13万8625円は、実質的に市の公費を迂回して違法に支出したものであると主張している。この主張は、上記部分について補助金を交付する公益上の必要(地方自治法232条の2)がないというものと理解することができる。

確かに、別件1審判決においては、平成13年度茨木市キャンプ交流訪問団に同行した職員の旅費を公費で負担したことが違法であると判断されており、本件訪問団に同行するAの旅費を茨木市ではなく本件協会が負担したことは、上記判決を受けてのものであると推認される。しかし、本件協会としては、上記1(2)ウ(ア)で説示したとおり、本件訪問団の引率者としてAの同行を得ることが必要であったのであり、その旅費を主催者である本件協会が負担することに何ら不自然な点は認められない。また、〔証拠略〕によれば、本件協会に対する補助金額は、平成13年度の800万円であったが、平成14年度、平成15年度はいずれも700万円とされ、平成16年度には更に600万円まで減額されたのであって、被告が、別件1審判決を受けて、本件協会と共謀し、旅費の公費負担の違法評価を僭脱するため補助金額に同行職員の旅費を含ませたと認めることはできず、他にそのような事実を認めるに足りる証拠もない。

そして、他に、本件協会に姉妹・友好都市との交流活動のために用いるものとして600万円の補助金を交付するとした被告の判断に不合理ないし不公正な点があったと評価するに足りる事実は何ら主張されておらず、その証拠もない。

そうすると、本件交付決定に違法な点は認められず、争点2に係る原告らの主張を採用することはできない。

3  結論

以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がないのでこれをすべて棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 廣谷章雄 裁判官 森鍵一 伊藤隆裕)

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