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大阪地方裁判所 平成17年(行ウ)96号 判決 2007年9月06日

主文

1  本件各訴えのうち,請求1項,3項(1),4項(1)に係る各訴え,及び請求2項,3項(2),4項(2),5項,6項に係る各訴えのうち平成7年度から平成15年度までの特別昇給に係る支出に関する部分を,いずれも却下する。

2  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  被告市長は,Aに対し,1億円を大阪市に支払うよう請求せよ(96号)。

2  被告市長は,Bに対し,1億円を大阪市に支払うよう請求せよ(96号)。

3(1)  被告市長は,C,D,E,F(以下まとめて「本件総務局長ら」という。)に対し,各自3000万円を大阪市に支払うよう請求せよ(96号)。

(2)  被告市長は,本件総務局長らに対し,各自3000万円の賠償命令をせよ(96号)。

4(1)  被告市長は,G,H,I(以下まとめて「本件教職員課長ら」という。)に対し,各自3000万円を大阪市に支払うよう請求をせよ(96号)。

(2)  被告市長は,本件教職員課長らに対し,各自3000万円の賠償命令をせよ(96号)。

5  被告水道局長は,J,K,L,M(以下まとめて「本件水道局長ら」という。)に対し,各自5000万円を大阪市に支払うよう請求せよ(97号)。

6  被告交通局長は,N,O,P,Q(以下まとめて「本件交通局長ら」という。)に対し,各自5000万円を大阪市に支払うよう請求せよ(98号)。

第2事案の概要

本件は,大阪市の住民である原告らが,大阪市において違法な特別昇給制度の運用がされていたとして,その平成7年度から平成16年度までの特別昇給制度の実施(支出負担行為)及びこれに基づく給与支給決定(支出命令)に関与した大阪市長,大阪市水道局長,大阪市交通局長の職にあった者に対し,善管注意義務違反の債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償責任の,大阪市総務局長及び大阪市教育委員会事務局教務部教職員課長の地位にあった者に対し,地方自治法243条の2第1項後段に基づく損害賠償責任の各追及を,被告らに対して求めた事案である。

1  前提事実(争いのない事実並びに証拠(特記しない限り枝番を含む。以下同じ。)及び弁論の趣旨により容易に認められる事実)

(1)  当事者(争いがない。)

ア 原告らは,いずれも大阪市の住民である。

イ 被告市長は大阪市の執行機関であり,損害賠償金又は不当利得返還金の支払を請求する権限及び賠償命令を発令する権限を有する行政庁である。

Aは,平成7年12月19日から平成15年12月18日まで大阪市長の職にあった者であり,Bは,同月19日から現在まで大阪市長の職にある者である。

ウ 大阪市総務局長は,被告市長の権限に属する事務のうち,職員の昇給及び昇格の決定に関する事項につき専決する権限を有する行政機関である(大阪市事務専決規程(昭和38年達第3号)4条7号)。

Cは平成7年度,Dは平成8年度から平成10年度まで,Eは平成11年度から平成13年度まで,Fは平成14年度から平成16年度まで,いずれも大阪市総務局長の地位にあった者である。

エ 大阪市教育委員会事務局教務部教職員課長(以下「教職員課長」という。)は,大阪市教育委員会の権限に属する事務のうち,教職員の昇格(昇任を伴う場合を除く。)及び昇給の決定に関する事項につき専決する権限を有する行政機関である(地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という。) 23条3号,58条,大阪市教育委員会教育長専決規則(昭和41年(教)規則第5号)1条,3条,大阪市教育委員会事務局等専決規程(昭和46年(教育長)達第2号)9条1号)。

Gは平成7年度から平成8年度まで,Hは平成9年度から平成11年度まで,R(平成18年12月に死亡)は平成12年度から平成15年6月まで,Iは平成15年7月から現在まで,それぞれ教職員課長の地位にあり,又はあった者である。

オ 被告水道局長は,大阪市の営む水道事業及び工業用水道事業の管理者であり,水道局所属職員の給与に関する事項のほか,当該業務の執行に関し大阪市を代表する権限を有する行政庁である(地方公営企業法2条1項,7条,8条,9条2号)。

Jは平成7年度から平成10年度まで,Kは平成11年度から平成12年度まで,Lは平成13年度から平成14年度まで,Mは平成15年度から平成16年度まで,Sは平成17年度から現在まで,それぞれ被告水道局長の地位にあり,又はあった者である。

カ 被告交通局長は,大阪市の営む高速鉄道事業,自動車運送事業及び中量軌道事業の管理者であり,交通局所属職員の給与に関する事項のほか,当該業務の執行に関して大阪市を代表する権限を有する行政庁である(地方公営企業法2条1項,7条,8条,9条2号)。

Nは平成7年度,Oは平成8年度から平成11年度まで,Pは平成12年度から平成15年度まで,Qは平成16年度から平成18年度まで,それぞれ被告交通局長の地位にあった者である。

(2)  給与及び特別昇給に関する制度の概要

ア 給与条例主義

普通地方公共団体は,その常勤職員等に対し,法律又は条例に基づいて,給与等を支給しなければならない(地方自治法204条1項,3項,204条の2,地方公務員法24条6項,25条1項,地方公営企業法38条4項)。

イ 特別昇給制度

(ア) 市長部局

地方自治法204条3項,地方公務員法24条6項,25条3項を受け,職員の給与に関する条例(昭和31年大阪市条例第29号。ただし,平成17年大阪市条例第20号による改正前のもの。以下「本件職員給与条例」という。乙1)5条5項は,職員が現に受けている号級を受けるに至ったときから,12月を下らない期間を良好な成績で勤務したときは1号級上位の号級に昇給させることができるとして普通昇給を規定し,同条6項は,職員の勤務成績が特に優秀である場合その他市長が特に必要と認めた場合においては,普通昇給を定めた前項の規定にかかわらず,同項に規定する期間を短縮し,又はその現に受けている号級より上位の号級に昇給させることができると規定していた。

(イ) 水道局及び交通局

地方自治法204条3項,地方公務員法57条,地方公営企業法38条4項を受け,企業職員の給与の種類及び基準に関する条例(昭和41年大阪市条例第62号。以下「本件企業職員給与条例」という。乙2)18条は,条例の施行に関し必要な事項は,管理者が定めると規定している。

交通局企業職員の給与に関する規程(昭和36年大阪市交通事業管理規程第96号。ただし,平成17年大阪市交通事業管理規程第16号による改正前のもの。以下「本件交通局給与規程」という。乙6)7条5項は,職員が現に受ける号級を受けるに至ったときから12月を下らない期間を良好な成績で勤務したときは,1号級上位の号級に昇給させるとして普通昇給を規定し,同条7項は,職員の勤務成績が特に優秀である場合その他交通局長が特に必要と認めた場合においては,普通昇給を定めた規定にかかわらず,その規定する期間を短縮し,若しくはその現に受ける号級より上位の号級に昇給させ,又はそのいずれをもあわせ行うことができると規定していた。

水道局企業職員給与規程(昭和42年大阪市水道事業管理規程第2号。ただし,平成17年大阪市水道事業管理規程第8号による改正前のもの。以下「本件水道局給与規程」という。乙7)6条5項は,職員が現に受ける号級を受けるに至ったときから12月を下らない期間を良好な成績で勤務したときは,1号級上位の号級に昇給させるとして普通昇給を規定し,同条6項は,職員の勤務成績が特に優秀である場合その他水道局長が特に必要と認めた場合においては,普通昇給を定めた前項の規定にかかわらず,同項に規定する期間を短縮し,又はその現に受けている号級より上位の号級に昇給させることができると規定していた。

(ウ) 単純労務職員

地方公務員法57条,地方公営企業等の労働関係に関する法律附則5項,地方公営企業法38条4項を受け,単純な労務に雇用される職員の給与の種類及び基準に関する条例(昭和28年大阪市条例26号。以下「単純労務職員給与条例」という。)15条は,条例の施行に関し必要な事項は市規則で定めると規定している。

単純な労務に雇用される職員の初任給及び昇給等の基準に関する規則(昭和59年大阪市規則第18号。ただし,平成17年大阪市規則第63号による改正前のもの。以下「本件単純労務職員給与規則」という。乙16)9条1項は,職員が現に受けている号級を受けるに至ったときから12月を下らない期間を良好な成績で勤務したときは,1号級上位の号級に昇給させることができるとして普通昇給を規定し,13条は,職員の勤務成績が特に優秀である場合その他市長が特に必要と認めた場合においては,普通昇給を定めた規定にかかわらず,昇給期間を短縮し,又はその現に受けている給料月額より上位の給料月額に昇給させることができると規定していた。

(エ) 教育委員会所管の学校園の教職員

教育委員会所管の学校園の教職員には,大阪府が給与を負担する教員(以下「府費負担教職員」という。)と,大阪市が給与を負担する教員(以下「市費負担教職員」という。),それ以外の職員があるが,このうち,府費負担教職員は大阪府の条例に基づいて給与が支給されるので(地教行法42条),大阪府において特別昇給の事務が行われる。

市費負担教職員については,地方公務員法57条,教育公務員特例法13条1項を受け,本件職員給与条例5条5項に普通昇給が規定され,同条6項,附則7項,教育委員会所管の学校の教員の給料に関する規程(平成6年教委(高)第24号他。以下「本件市費負担教職員給与規程」という。乙17)4条1項は,職員の勤務成績が特に良好であると判定される事実が認められるときは,別に定める基準に基づき,その昇給期間を短縮して直近上位の給料月額に昇給させることができると規定していた。

府費負担教職員及び市費負担教職員以外の職員については,地方公務員法24条6項を受け,本件職員給与条例が適用されるので,普通昇給及び特別昇給は,市長部局と同様である。

(オ) 特別昇給の種類

大阪市においては,上記各条例,規則,規程に基づき,特別昇給事由ごとに,定数内特別昇給,表彰による特別昇給,長期勤続者に対する特別昇給,中堅職員に対する特別昇給,基準職務職昇任による昇給短縮措置,昇格時の昇給期間短縮措置を設けている(弁論の全趣旨)。

ウ 定数内特別昇給(弁論の全趣旨)

(ア) 市長部局

大阪市における市長部局の職員を対象とした定数内特別昇給は,職員の勤労意欲の向上と,国や他都市との均衡にかんがみ,昭和34年度から実施されたものであり,市長決裁(基本決裁)により制度の基本的枠組み(定数及び効果月数)を定め,これらを受けて各実施年度ごとに総務局長決裁(各年決裁)により具体的な対象者の範囲を定め,総務局長が昇給期(4月,7月,10月,1月)ごとに,具体的な昇給者を決定している(決定決裁)。

定数及び効果月数は,平成14年度に,職員の概ね20パーセントを3月,15パーセントを6月,それぞれ昇給期間を短縮する旨の基本決裁がされており,その範囲内で,平成16年度の各年決裁及び決定決裁(ただし,実際には,職員の25パーセントを昇給期間6月短縮した。)がされた(各年度ごとの定数及び効果月数は別紙定数内特別昇給定数(百分率)一覧表のとおり。)。

(イ) 水道局及び交通局

大阪市における水道局及び交通局の職員を対象とした定数内特別昇給は,基本決裁,各年決裁,決定決裁がいずれも交通局長又は水道局長であることのほかは,市長部局における定数内特別昇給と同様である。

(ウ) 教育委員会所管の学校園の教職員

大阪市における教育委員会所管の学校園の教職員のうち,市費負担教職員については,府費負担教職員に対する大阪府の制度に準じて,特別昇給制度(基準内特別昇給)を実施している。

大阪市は,昭和54年度から,府費負担教職員の定数内特別昇給の基準を用いて,定数の概ね30パーセント以内の教員に対し昇給期間を6月短縮し,平成16年度において,3月短縮換算で定数の概ね60パーセント以内の教員に対し昇給期間を3月又は6月短縮した。なお,大阪府は,平成10年度から平成14年度まで,財政難による人件費抑制措置のため,府費負担教職員の定数内特別昇給を実施しなかったので,大阪市は,市費負担教職員の定数内特別昇給を実施しなかった。

市費負担教職員の定数内特別昇給は,勤務成績が特に良好であると判定される事実が認められる教職員を対象として,実施年度ごとに教育長,総務局長,財政局長の合議決裁により定め,それに基づき,教職員課長決裁により,昇給期間の短縮を受けたことにより昇給する者を決定している。

大阪市における教育委員会所管の学校園の教職員のうち,府費負担教職員及び市費負担教職員以外の職員を対象とした定数内特別昇給は,各年決裁権者が教育長であり,決定決裁権者が教職員課長であることのほかは,市長部局における定数内特別昇給と同様である。

(エ) 単純労務職員

単純労務職員に対する定数内特別昇給は,市長部局における定数内特別昇給の中で行われている。

(3)  原告らが問題とする財務会計行為(争いがない。)

ア 市長部局(単純労務職員を含む)における定数内特別昇給

本件総務局長らは,平成7年度から平成16年度まで,職員の昇給及び昇格の決定に関する事項につき専決する権限を有する行政機関として,定数内特別昇給によって昇給させる者を決定し(支出負担行為),これを前提とする給与の支出(支出命令)をした。

大阪市総務局長(当時)は,平成16年3月18日以降,平成16年度の定数内特別昇給として,総職員数3万1664人中,定数内特別昇給の対象とならない課長代理級以外の者を除いた2万9229人のうち,その25パーセントの範囲内である7298人に対し,昇給期間6月短縮の措置(支出負担行為)をとり,これを前提とした給与の支出(支出命令)をした。

イ 水道局における定数内特別昇給

本件水道局長らは,平成7年度から平成16年度まで,定数内特別昇給によって昇給させる者を決定し(支出負担行為),これに基づく給与の支出(支出命令)をした。

大阪市水道局長(当時)は,平成16年3月18日以降,平成16年度の定数内特別昇給として,定数内特別昇給の対象たり得る職員2170人中,458人(21.1パーセント)に対し,昇給期間6月短縮の措置(支出負担行為)をとり,これを前提とした給与の支出(支出命令)をした。

ウ 交通局における定数内特別昇給

本件交通局長らは,平成7年度から平成16年度まで,定数内特別昇給によって昇給させる者を決定し(支出負担行為),これに基づく給与の支出(支出命令)をした。

大阪市交通局長(当時)は,平成16年3月18日以降,平成16年度の定数内特別昇給として,定数内特別昇給の対象たり得る職員8072人中,2167人(26.8パーセント)に対し,昇給期間6月短縮の措置(支出負担行為)をとり,これを前提とした給与の支出(支出命令)をした。

エ 教育委員会所管の学校園の教職員のうち府費負担教職員以外の者に対する定数内特別昇給

本件教職員課長らは,平成7年度から平成16年度まで,定数内特別昇給によって昇給させる者を決定し(支出負担行為),これに基づく給与の支出(支出命令)をした。

教職員課長(当時)は,平成16年3月18日以降,平成16年度の定数内特別昇給として,定数内特別昇給の対象となり得る市費負担教職員1708人中,683人(40.0パーセント)に対して昇給期間3月の短縮の措置(支出負担行為),定数内特別昇給の対象となり得る教員以外の職員2921人中,630人(21.5パーセント)に対し,昇給期間6月短縮の措置(支出負担行為)をとり,これらを前提とした給与の支出(支出命令)をした。

(4)  原告らの主張を前提とした場合の損害額(試算)(争いがない。)

ア 市長部局(単純労務職員を含む)

上記のとおり,市長部局では,平成16年度定数内特別昇給として,7298人に対し,昇給期間6月短縮の措置をとった。

定期昇給であれば,12月を下らない期間を良好な成績で勤務すれば1号級上位の号級に昇給するから(本件職員給与条例5条5項),定数内特別昇給によって,各人が6か月早く昇給したことと評価できる。したがって,年間を通じてみた場合,概ね1号級昇給することの2分の1の効果があると評価できる。1号級昇給することの2分の1といっても,昇給額は各号級によって異なるが,その平均は,各号級の平均間差額(6624円)の2分の1に近似する。

定数内特別昇給の影響は,本給だけではなく,各種手当等に波及するが,その影響額は,各人により異なる。1か月当たりの本給月額を1として,12月分の想定所要額を計数化すると,22.2744ポイントになるので,平成16年度の定数内特別昇給による影響は,本給の増加額の平均に,上記係数を乗じた金額に,定数内特別昇給者数を更に乗じた金額(5億3839万3987円)に近似する。

(平均間差額の2分の1)×22.2744×(昇給者数)

=6624円/2×22.2744×7298人

=5億3839万3987円

イ 水道局

平均間差額(6625円)及び想定所要額係数(22.2323)を用いて試算すると,平成16年度の定数内特別昇給による影響は,各人の本給の増加額の平均に,上記係数を乗じた金額に,定数内特別昇給者数を更に乗じた金額(3372万9178円)に近似する。

(平均間差額の2分の1)×22.2323×(昇給者数)

=6625円/2×22.2323×458人

=3372万9178円

ウ 交通局

平均間差額(6669円)及び想定所要額係数(22.292)を用いて試算すると,平成16年度の定数内特別昇給による影響は,各人の本給の増加額の平均に,上記係数を乗じた金額に,定数内特別昇給者数を更に乗じた金額(1億6107万8904円)に近似する。

(平均間差額の2分の1)×22.292×(昇給者数)

=6669円/2×22.292×2167人

=1億6107万8904円

エ 教職員

市費負担教職員の平均間差額及び想定所要額係数(22.6861)を用いて試算すると,平成16年度の定数内特別昇給による影響は,各人の本給の増加額の平均に,上記係数を乗じた金額に,定数内特別昇給者数を更に乗じた金額(3692万3646円)に近似する。

(平均間差額の4分の1)×22.6861×(昇給者数)

=9532円/4×22.6861×683人

=3692万3646円

教員以外の職員の平均間差額(6149円)及び想定所要額係数(21.9988)を用いて試算すると,平成16年度の定数内特別昇給による影響は,各人の本給の増加額の平均に,上記係数を乗じた金額に,定数内特別昇給者数を更に乗じた金額(4261万0245円)に近似する。

(平均間差額の2分の1)×21.9988×(昇給者数)

=6149円/2×21.9988×630人

=4261万0245円

(5)  監査請求及び本訴提起

原告らは,大阪市監査委員に対し,平成17年3月18日,大阪市において条例に定めのない違法な昇給制度が設けられ,長年に渡り市長決裁のみで特別昇給と称して違法に公金が支出されており,大阪市はこれに関与した歴代市長,三役,局長など市の幹部らに対して損害賠償請求権を有しているから,特別昇給制度が開始されたときから現在に至るまでの上記幹部らに対し損害賠償請求その他の必要な措置を講ずるよう勧告を求める旨の住民監査請求をした(甲1,2)。

大阪市監査委員は,平成17年5月16日,原告らの上記監査請求は,特別昇給の適用決定を違法又は不当な支出負担行為として監査を求めているものと理解し,監査請求の1年前(平成16年3月18日)以後にされたものに限り審理し,大阪市における特別昇給制度は直ちに違法とまではいえないなどとして監査請求を棄却し(甲2),そのころ,原告らにその旨通知した(弁論の全趣旨)。

原告らは,平成17年6月14日,本件訴えを提起した(顕著な事実)。

2  争点及び当事者の主張

(1)  監査請求期間(本案前の争点1)

(原告らの主張)

ア 本件訴えにおいて原告らが問題としている平成7年度から平成16年度までの定数内特別昇給は,全体として密接不可分な一体の行為を構成しているのであるから,その監査請求期間は,その最後である平成16年度の定数内特別昇給措置及び昇給額の支出が終わった日から起算すべきである。

イ 本件訴えにおいて,その適否が問題とされている財務会計行為のうち,本件監査請求の日(平成17年3月18日)から1年以上前にされたものに係る監査請求は,監査請求期間経過後にされたものではある。

ウ 大阪市において実施されていた定数内特別昇給は,それ自体は適法妥当に運用し得る制度を,違法に運用していた点に根本的な問題があるが,そのような違法な運用実態は,巧みに隠蔽されていた。

エ 大阪市における定数内特別昇給の運用実態が明るみに出たのは,平成16年12月23日以降,全国紙が報道を開始したことによる(甲3~5)。

原告らは,本件その他の不正公金支出等に関する報道が次々とされる中で,度重なる住民監査請求を行っており,上記報道から3か月も経過していないうちにされた本件監査請求は,財務会計行為があったことを知った日から相当期間内にされたものである。

(被告らの主張)

ア 原告らは,監査請求期間経過について正当な理由があると主張する。

しかし,特別昇給そのものは条例に規定されているものであるし,制度としても周知である。実際,定数内特別昇給は,多数の職員を対象に長期間にわたって公然と実施されていた。

イ 大阪市は昭和63年に公文書公開条例(平成13年4月から情報公開条例)を制定し,特別昇給に係る公文書も公開請求の対象となっていた。

ウ 大阪市の特別昇給は,平成16年12月23日から,全国紙により報道されていたから(甲3~5),平成17年3月18日にされた本件監査請求は,財務会計行為があったことを知った日から相当な期間内にされたものとはいえない。

(2)  監査請求前置の有無(本案前の争点2)

(被告らの主張)

本件監査請求に係る監査請求書(甲1)では,被告市長に言及されてはいるが,被告水道局長及び被告交通局長には全く言及されていない。また,同監査請求書には,地方公務員法25条1項(給与条例主義)及び本件職員給与条例5条6項が引用されているが,企業職員(水道局,交通局の職員)には同法同条の適用は排除され(地方公営企業法39条1項),本件職員給与条例5条6項も適用がない。

したがって,本件監査請求に係る監査請求書を合理的に解釈しても,原告らが,交通局及び水道局に係る定数内特別昇給について監査を求める趣旨であったとは理解できない。

(原告らの主張)

本件監査請求に係る監査請求書(甲1)から明らかなように,原告らは,大阪市における特別昇給制度一般について監査を求めていた。このことは,添付された事実証明書に水道局及び交通局が言及されていたことからも明らかである。

(3)  本件総務局長ら及び本件教職員課長らに対する訴えの適法性(本案前の争点3)

(被告らの主張)

ア 原告らは,本件訴えの訴状においては,本件総務局長ら及び本件教職員課長らに対しては,各自3000万円を大阪市に支払うよう請求する旨の請求の趣旨を掲げていた。

しかるに,原告らは,平成18年2月14日,本件総務局長ら及び本件教職員課長らに対して各自3000万円の賠償命令を求める旨の請求の趣旨に補正する旨の補正書を提出し,同年3月2日の第2回弁論準備手続期日においてこれを陳述した。

イ 本件総務局長ら及び本件教職員課長らは,賠償命令の対象となり得る職員である。

地方自治法242条の2第1項4号ただし書は,賠償命令の対象となり得る相手方に対しては,賠償命令の発令を求める訴えしか提起することができないと規定し,同号本文は,それ以外の相手方に対しては,損害賠償等の請求を求める訴えしか提起することができないと規定している。

ウ 地方自治法242条の2第1項4号ただし書の請求と,同号本文の請求とは,訴訟物が異なる。

エ したがって,本件総務局長ら及び本件教職員課長らに対し,訴状では損害賠償等の請求を求めていたのに,後に賠償命令を求める訴えに補正することは,訴えの変更に該当する。

訴えの変更は,旧訴の取下げと新訴の提起が結合したものである。したがって,新訴の提起の部分が適法であるためには,その時点において,出訴期間が遵守されている必要がある。

前記のとおり,上記補正書が提出されたのは,原告らが監査結果通知を受けてから30日を経過した後であったから,新訴の提起の部分は不適法というべきであり,そうである以上,そのような訴えの変更は許されない。ただし,旧訴と新訴との間に請求の基礎の同一性があることは争わない。

(原告らの主張)

ア 地方自治法242条の2第1項4号本文の訴えと,同号ただし書の訴えとは,訴訟物が同一であるから,上記のとおりに請求の趣旨を変更することは,補正の範囲にとどまり,訴えの変更に当たらない。

イ 仮に上記各訴えの訴訟物が異なったとしても,両請求は地方自治法上同列に扱われていること,両請求で審理の対象は変わらないことからすると,当初の訴え提起時に,新訴が提起されたと同視し得る特段の事情がある。

(4)  定数内特別昇給の違法性(本案の争点1)

(原告らの主張)

ア 一般に,国又は地方公共団体における特別昇給制度の趣旨は,職員の勤務の実績を給料に反映させるという成績主義にあると解されている。同じく特別昇給制度を定める本件職員給与条例5条6項,本件水道局給与規程7条7項,本件交通局給与規程6条6項,本件単純労務職員給与規則13条の趣旨も,これと異なるところはなく,勤務成績の特に優秀な職員を優遇することによって,職員の士気を維持,高揚し,もって行政目的の増進を図るという点にあると解すべきである。

イ しかるに,大阪市においては,あらかじめ対象者の定数(百分率)を決定し,例外的な欠格事由に該当しない限り定数内特別昇給を認めるという運用を続けているが,これは上記条例の趣旨を逸脱するものである。

ウ また,大阪市における定数内特別昇給の運用は,大阪市の全職員を対象として定数内特別昇給をするに等しく,自治体財政に与える影響も計り知れない。

エ したがって,定数内特別昇給の定数(百分率)を定め,これに基づいて定数内特別昇給を行っていたことは,本件職員給与条例5条6項を根拠とすることはできず,その他その根拠たり得る規定は存在しないから,給与条例主義に反するものとして違法である。

(被告らの主張)

ア 国においても,国家公務員法65条,平成17年法律第113号による改正前の一般職の職員の給与に関する法律(以下「一般職給与法」という。)8条7項により,職員の勤務成績が「特に良好」である場合に特別昇給が行われ,「良好な成績」である場合には,普通昇給がされることとされていた。

本件職員給与条例5条6項は,職員の勤務成績が「特に良好」であることを要件とする国家公務員の場合と同様の特別昇給を行うことを認めるものであり,対象となる職員の範囲や数について具体的に規定せず,その具体的内容は市長の合理的判断に委ねたものである。

本件で問題となっている定数内特別昇給は,国が各年度の省庁別定員の15パーセントを超えない範囲で昇給期間を原則として12月短縮するという方法で行っていたのに対し,大阪市においては,市長の裁量により,12月の特別昇給は行わず,国よりも総ボリュームを抑えながら,より広範囲の職員を特別昇給の対象とすることとして,職員の士気を維持し,高めることにより,行政目的の増進を図る目的で,3月から6月の特別昇給を行うこととしていたのである。

イ 定数内特別昇給においては,勤務状況を基本として,勤務成績が特に優秀であるか否かを評価している。

定数内特別昇給の主な審査基準は,昇給月の2月前の月の末日から逆算して12月を成績調査期間として,成績調査期間中に①病気欠勤が45日以上,②休職,勤務停止,育児休業等が1日以上,③産前産後休暇が16週(多胎妊娠の場合20週)以上,④公傷が引き続き45日以上あり,昇給日現在公傷であること等の欠格要件の有無であり,職員間の公平から採用年次をも考慮して,各要件を審査している。

定数内特別昇給の審査基準は,普通昇給の審査基準の例によることとされているが,普通昇給についての本件職員給与条例5条5項は,「職員が現に受けている号給を受けるに至った時から12月を下らない期間を良好な成績で勤務したときは,1号給上位の号給に昇給させることができる。」として,「良好な成績」であることが普通昇給の要件とされている。

国においても,普通昇給は「良好な成績」(一般職給与法8条6項)を要件としているが特に勤務評定の内容を問題とすることなく,勤怠を判断基準としており,「良好」とは通常の成績でよいとされているから,その基準は主として欠勤等の有無及び懲戒処分の有無である。

国家公務員には勤務評定制度が存在するが(国家公務員法72条),十分に機能していないことは政府自身が認めており,「良好な成績」「特に良好な成績」といった評価を厳格に個別具体的に行うことは非常に困難である。

地方公務員においても,勤務評定制度は存在するが(地方公務員法40条),成績評価が困難であることは国の場合と同様であり,大阪市においても,具体的な運用基準を規則化することが困難な状況にあった。

地方公務員の給与は,国及び他の地方公共団体の職員の給与と均衡しなければならず(地方公務員法24条3項),上記のような状況の下,国における事実上の運用と大きく異なる定数内特別昇給の運用をすることは困難であった。

ウ したがって,大阪市における定数内特別昇給の運用が,本件職員給与条例5条6項,本件水道局給与規程7条7項,本件交通局給与規程6条6項,本件単純労務職員給与規則13条に反するものでないことは明らかである。

なお,原告らは,大阪市における定数内特別昇給が違法と主張するが,仮に原告らの主張するように適法に定数内特別昇給を運用していれば,ほぼ同額の支出をしていたはずであるから,大阪市に損害は発生しない。

(5)  過失等の有無(本案の争点2)

(原告らの主張)

本件総務局長らその他の財務会計職員は,定数内特別昇給該当者に選定されるべき職員が「職員の勤務成績が特に優秀である場合」に該当するものではないことを認識し,かつ,市長の裁量に関しても,広範囲の職員を定数内特別昇給の対象とする定数(百分率)の決定が市長の裁量を逸脱するものであることを認識した上で,定数内特別昇給該当者の選定及び支出決定を行ったのであるし,仮にそうでなかったとしても,市長の決定が違法であることは容易に認識し得たから,重過失がある。

本件水道局長,本件交通局長らは,勤務評定を行わず,成績に基づいた定数内特別昇給が実施されていないことを知りながら,定数内特別昇給を行っていたのであるから,違法な定数内特別昇給を行うにつき,故意又は過失があったことは明らかである。

Aは,その在任中に定数内特別昇給制度の基本的枠組みを定める基本決裁を行ったのであるから,違法な財務会計行為を行ったことにつき故意があるばかりではなく,専決権者である本件総務局長らその他の財務会計職員に対する指揮監督の上でも故意又は重過失があったことは明らかである。

Bは,その在任中,定数内特別昇給制度を改めなかったことについて故意,過失があるだけではなく,専決権者である本件総務局長らその他の財務会計職員に対する指揮監督の上でも故意又は重過失があったことは明らかである。

(被告らの主張)

賠償命令は,一定の範囲の職員が,違法な財務会計行為を行うにつき故意又は重過失がある場合に,発令することができる。

本件総務局長らその他の財務会計職員は,あらかじめ定められた基準に従って定数内特別昇給制度の運用を行っていたものにすぎず,重過失はない。

また,本件交通局長,水道局長も,あらかじめ定められた基準に従って定数内特別昇給制度の運用を行っていたものにすぎず,過失はない。

(6)  除斥期間(本案の争点3)

(被告らの主張)

平成14年法律第4号(平成14年9月1日施行)による改正前の地方自治法243条の2第3項ただし書は,賠償命令は,その事実が発生した日から3年を経過したときは賠償を命ずることができないと規定し,上記改正法附則5条は,施行日前の事実に基づき賠償を命ずることができる期間については従前の例によると規定している。したがって,少なくとも,平成14年8月31日までの財務会計上の行為に係る賠償命令を求める部分は,賠償命令の除斥期間が経過している。

(原告らの主張)

争う。

第3争点に対する判断

1  監査請求期間(本案前の争点1)について

(1)  前記前提事実のとおり,原告らは,平成7年度から平成16年度までに行われた定数内特別昇給に係る支出負担行為及び支出命令を問題としているが,原告らが監査請求をしたのは,平成17年3月18日であり,その1年前である平成16年3月18日が到来するまでに,平成7年度から平成15年度までの定数内特別昇給に係る支出負担行為及び支出命令がされていた。

(2)  原告らは,平成7年度から平成16年度までの定数内特別昇給は,全体として密接不可分であるから,その監査請求期間は,その最後である平成16年度の定数内特別昇給措置及び昇給額の支出が終わった日から起算すべきであると主張する。しかし,各年度の定数内特別昇給は,各年度ごとに手続が進められ,支出負担行為,支出命令が格別に行われたものであるし,定数内特別昇給の対象者を異にするものである以上,検討すべき違法事由を異にするから,それぞれ監査すべき内容が異なることとなる。したがって,監査請求期間も,各支出負担行為,支出命令ごとに格別に進行すると解すべきであり,原告らの上記主張は採用できない。

(3)  上記のとおり,監査請求期間は,各支出負担行為,支出命令ごとに格別に進行するから,原告らのした監査請求(平成17年3月18日)は,平成16年3月18日が到来するまでにされた財務会計行為については,財務会計行為がされた日から1年を経過した後にされたものである。

甲第3から第5号証までによれば,大阪市が本件で問題とされている定数内特別昇給を実施してきたとの事実は,平成16年12月23日から同月24日にかけて,複数の全国紙で報道されたことが認められるが,原告らが本件に係る監査請求をしたのは,それから3か月弱が経過した後である。

(4)  普通地方公共団体の住民が,相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて住民監査請求をするに足りる程度に財務会計行為上の行為の存在又は内容を知ることができなかった場合,監査請求期間経過の正当理由の有無は,特段の事情がない限り,当該普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断されるべきである(最高裁平成14年9月12日第一小法廷判決・民集56巻7号1481頁)。

上記のとおり,定数内特別昇給の実施は,平成16年12月23日に全国紙で報道されたことが認められるから,遅くとも同日には,大阪市の住民が,監査請求をすることができる程度に財務会計行為の存在及び内容を知ったものといえるが,同日から3か月弱が経過した後にされた監査請求は,財務会計行為の存在及び内容を知ってから相当な期間内にしたものとはいえない。

したがって,原告らがした監査請求のうち,平成16年3月18日が到来するまでにされた財務会計行為に係る部分(平成7年度から平成15年度までの定数内特別昇給に係る部分)は,監査期間を経過した後にしたものであり,しかもそのことについての正当な理由があるとは認められないから,不適法である。

2  監査請求前置の有無(本案前の争点2)について

(1)  上記のとおり,本件監査請求のうち,監査請求期間を遵守したものは平成16年度の定数内特別昇給に係る部分に限られるが,被告らは,本件監査請求に係る監査請求書(甲1)では,被告市長に言及されてはいるが被告水道局長及び被告交通局長には全く言及されていないこと,同監査請求書に引用されている地方公務員法25条1項(給与条例主義)及び本件職員給与条例5条6項は,水道局,交通局の企業職員には適用がないことから,原告らのした本件監査請求は,水道局及び交通局に係る定数内特別昇給についての監査を求めるものではなかったと主張する。

(2)  そこで検討するに,住民が住民監査請求において具体的にどの財務会計行為又は怠る事実についての監査を求めているかを判断するに当たっては,当該監査請求書の記載のほか,これに添付された事実証明書その他の資料の記載を総合勘案し,当該住民の意思を合理的に探求して判断すべきである。本件においてこれをみるに,甲第1,第3から第5号証までによれば,原告らがした本件監査請求書に事実証明書として添付された新聞記事には,市長部局の他,交通局,水道局においても定数内特別昇給がされていた旨が記載されていたことが認められ,本件監査請求書の記載をみても,交通局,水道局に係る定数内特別昇給をことさらに除外する趣旨の記載は存在しない。確かに,原告らが引用する地方公務員法25条や本件職員給与条例は,交通局,水道局の企業職員に適用されないが,法律専門家でもない原告らが,大阪市における定数内特別昇給制度の全容を把握できていない段階で,ことさらに交通局及び水道局の企業職員についての定数内特別昇給を監査請求の対象から除外する趣旨で,上記各条項を摘示したとも考えられない。

したがって,本件監査請求は,交通局及び水道局に係る定数内特別昇給についての支出負担行為及び支出命令をも監査の対象としていたものというべきであり,被告らの主張は採用できない。

3  本件総務局長ら及び本件教職員課長らに対する訴えの適法性(本案前の争点3)について

(1)  上記のとおり,本件監査請求は,平成16年度の定数内特別昇給に係る部分についてのみ監査請求期間を遵守した適法なものであるから,本件監査請求のうち,本件総務局長ら及び本件教職員課長らに係る部分は,同年度の支出負担行為及び支出命令を行ったF(平成14年度から平成16年度までの総務局長)及びI(平成15年7月から現在までの教職員課長)に係る部分についてのみ適法なものである。

(2)  原告らは,訴状において,本件総務局長ら及び本件教職員課長らに対しては,各自3000万円を大阪市に支払うよう請求していたが,平成18年3月2日,本件総務局長及び本件教職員課長らに対して各自3000万円の賠償命令を求める旨の請求に補正する旨の補正書(2006年2月14日付け)を陳述した。

上記補正前の請求は,地方自治法242条の2第1項4号本文に基づいて損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを求めるものであり,上記補正後の請求は,同号ただし書に基づいて賠償の命令を求めるものであって,請求の内容も根拠規定も異にするほか,その後の手続も,前者にあっては,普通地方公共団体の長が,当該判決確定後60日以内の日を期限として,当該請求に係る損害賠償金又は不当利得の返還金を請求し,その支払がないときは,当該普通地方公共団体はその支払を求める訴訟を提起しなければならないとされているのに対し(同法242条の3第1項,2項),後者にあっては,普通地方公共団体の長が,当該判決確定後60日以内の日を期限として,賠償命令をしなければならないとされており(同法243条の2第3項,4項),全く異なっている。

そうすると,同法242条の2第1項4号本文の訴えと,同号ただし書の訴えとは,訴訟物を異にするものというべきであり,上記補正書の陳述は,訴訟物を変更させる訴えの交換的変更に該当するというべきである。

(3)  訴えの交換的変更は,変更後の新請求に関する限り,新たな訴えの提起にほかならないから,変更後の訴えに関する提訴期間(監査結果通知から30日以内,地方自治法242条の2第2項1号)が遵守されているか否かは,両者の間に存する関係から,変更後の新請求に係る訴えを当初の訴え提起の時に提起されたものと同視し,提訴期間の遵守に欠けるところがないと解すべき特段の事情がある場合を除き,訴えの変更の時を基準として,これを決しなければならないと解される。

そこで,本件においてそのような特段の事情があるか否かを検討するに,F及びIに係る訴えは,上記補正書の陳述の前後を通じ,大阪市における定数内特別昇給が,本件職員給与条例5条6項に反する違法なものであるとして,その支出負担行為及び支出命令を専決によって行った職員に責任を追及するというものであって,請求の内容こそ変更されているが,請求の前提,基礎となる事実関係及び問題とする財務会計行為のいずれにおいても変更はないのであるから,本件においては,上記特段の事情があったといえる。

(4)  そうすると,上記補正書の陳述による訴えの変更後の新請求(ただし,監査請求期間を遵守している平成16年度の定数内特別昇給に係るもの)は,提訴期間を遵守した適法なものというべきであり,上記変更の前後を通じて,請求の基礎に変更はないから,上記訴えの変更は適法である。

なお,被告らは,上記訴えの変更が不適法と争っているから,上記訴えの変更前の訴えの取下げに同意しないものと解される。そうすると,同部分についても訴訟係属しているが,F及びIは賠償命令の対象となる職員であるから,これらの者に対して損害賠償又は不当利得返還の請求をすることを求める訴えは不適法であって却下を免れない。

4  定数内特別昇給制度の違法性(本案の争点1)について

(1)  上記のとおり,原告らのした本件監査請求は,平成16年度の定数内特別昇給に係る支出負担行為及び支出命令に係る部分についてのみ適法であるから,その違法性を検討する。

(2)  原告らは,大阪市における定数内特別昇給は,本件職員給与条例5条6項等に反して違法と主張する。

地方公務員の給与は条例で定めることとされているが(地方自治法204条3項,地方公務員法24条6項),その給与は,生計費並びに国及び地方公共団体の職員並びに民間事業の従事者の給与その他の事情を考慮して定めなければならないとして,いわゆる均衡の原則が定められている(地方公務員法24条3項)。国家公務員の給与は,生計費や民間事業の従事者の給与を調査,考慮してされた人事院勧告を踏まえて国会において定められるから(国家公務員法28条),均衡の原則は,国家公務員の給与に準ずることにより実現されると解される。そして,本件職員給与条例及び後記一般職給与法における特別昇給に関する各規定の文言を併せて考慮すれば,本件職員給与条例における特別昇給も,国家公務員における特別昇給に準ずるものとして規定されたと解される。そこで,まず,国家公務員における特別昇給制度について概観する。

(3)  一般職の国家公務員の給与は,法律により定められる給与準則に基づいてされ(国家公務員法63条1項),給与準則には,俸給表のほか(同法64条1項),昇給の基準その他の事項が規定されなければならないと規定されている(同法65条1項1号)。

これらの規定を受けて,一般職の国家公務員の給与準則として一般職の職員の給与に関する法律が規定され,平成17年法律第113号による改正前の同法(一般職給与法) 8条6項は,職員が現に受けている号俸を受けるに至ったときから12月を下らない期間を良好な成績で勤務したときは,1号俸上位の号俸に昇給させることができ, 同条7項は,職員の勤務成績が特に良好である場合においては,前項の規定にかかわらず,同項に規定する期間を短縮し,若しくはその現に受けている号俸より2号俸以上上位の号俸まで昇給させ,又はそのいずれをもあわせ行うことができると規定していた。

一般職給与法の実施及びその技術的解釈のために定められた初任給,昇格,昇給等の基準(昭和44年人事院規則第9-8。ただし,平成18年人事院規則第9-8-57による改正前のもの。以下「本件昇給基準」という。)37条及び37条の2は,特別昇給定数内特別昇給として,職員の勤務評定記録書に記録されている職員の勤務実績に係る評語が上位の段階(勤務成績の評定の手続及び記録に関する内閣府令(昭和41年総理府令第4号)。以下「勤務評定府令」という。)に決定され,かつ,執務に関連してみられた性格,能力及び適性が優秀である職員は,定員に100分の10を乗じて得た数に相当する数を超えない範囲内で人事院が定めた数の範囲内で上位の号俸に昇給させることができ(以下「成績特昇」という。),更に,上記職員のうち,特に繁忙な業務に精励したなどの事由に該当し,当該職員の公務に対する貢献が顕著であると認められるときは,定員に100分の5を乗じて得た数に相当する数を超えない範囲内で人事院が定めた数の範囲内で上位の号俸に昇給させることができると規定していた(以下「公務貢献特昇」という。)。

国家公務員法72条1項は,職員の執務については,その所属庁の長は,定期的に勤務成績の評定を行い,その評定の結果に応じた措置を講じなければならないと規定し,同条2項は,その勤務成績の評定の手続及び記録に関し必要な事項は政令で定めると規定している。これを受けて制定された,勤務成績の評定の手続及び記録に関する政令(昭和41年政令第13号。以下「勤務評定政令」という。)は,勤務評定の手続を評定,調整,確認の3段階に分け(7条1項),所定の審査等を経て(同条2項,3項),最終的に所属庁の長又はその指定した部内の上級の職員(実施権者)が適当と認めた場合に確認を行うことと規定し(同条4項),その他必要な事項は内閣府令で定めると規定している。これを受けて制定された勤務評定府令は,勤務評定の実施権者は,勤務評定政令7条4項の確認を行うに当たっては,勤務実績に係る評定及び調整の結果を総括的に表示する評語を決定し,記録書に記録しなければならず(6条1項),その評語は,3つの段階に区分したものを用いなければならず(同条2項),実施権者がその評語を決定しようとするときは,職務の複雑と責任の度が,ほぼ同等と認められる職員の集団ごとに,及びそれらの集団相互の間において,その分布が公正で均衡がとれていること(同条3項1号),上位の段階の評語を決定される職員の数が,当該評定を受けた職員の数の概ね10分の3以内であること(同項2号)の2つの基準に従ってしなければならない(同条3項柱書)と規定している。

(4)  上記の各規定にかんがみれば,国家公務員における特別昇給定数内特別昇給制度は,原則として12月ごとに行われる普通昇給の例外的措置として,勤務評定政令及び勤務評定府令に従ってされた勤務評定が上位の者で,執務に関連してみられた職員の性格,能力及び適性が優秀であること(成績特昇)又は公務に対する貢献が顕著であること(公務貢献特昇)のいずれかの要件を満たす者を対象として行われるものということができる。また,勤務評定が上位の者であるか否かは,勤務評定政令及び勤務評定府令に従い,評定,調整,確認の3段階に分けて審査され,しかも,上位者を全体の概ね30パーセントに限定し,その成績分布は,職務の複雑と責任の度がほぼ同等と認められる職員の集団ごと及びそれらの集団相互の間において公正で均衡がとられていることが要件とされているから,厳密な勤務評定を経た上で判断されるべきものということができる。そして,特別昇給定数内特別昇給が認められる範囲も,成績特昇については定員の10パーセント,公務貢献特昇については定員の5パーセントを上限としており,比較的狭い範囲に限定されている。更に,上記のとおり,一般職員給与法8条6項は,現に受けている号俸を受けるに至ったときから12月を下らない期間を経なければ1号俸昇給させることはできないと規定していたが,同条7項はその昇給期間を短縮して上位の号俸に昇給させることや,2号俸以上上位の号俸まで昇給させることができると規定していたから,上記の特別昇給定数内特別昇給は,12月以上の場合も含む大きな昇給期間短縮の効果(以下「効果月数」という。)を有することとなる。

このように,国家公務員の特別昇給定数内特別昇給は,全職員を対象として公正に実施された厳格な成績評価を経て,評定が上位30パーセント以内に収まった成績優秀者を対象として,定員の合計15パーセントという比較的狭い範囲に限定されて実施され,その反面,特別昇給の効果月数も12月と大きいという特徴を指摘できる。これらの特徴にかんがみれば,国家公務員の特別昇給定数内特別昇給は,勤務成績の特に優秀な少数の職員を,給与上特に優遇することにより,成績主義を実態的に確保する趣旨のものというべきである。

(5)  前記のとおり,本件職員給与条例5条6項の規定する特別昇給は,国家公務員における特別昇給に準ずるものとして規定されたと解されるから,本件職員給与条例5条6項も,勤務成績の特に優秀な少数の職員を,給与上特に優遇することにより,成績主義を実態的に確保する趣旨で定められたものというべきである。そして,交通局の企業職員を対象とする特別昇給を規定した本件交通局給与規程7条7項,水道局の企業職員を対象とする特別昇給を規定した本件水道局給与規程6条6項,市費負担教職員を対象とする本件市費負担教職員給与規程4条1項,単純労務職員を対象とする特別昇給を規定した本件単純労務職員給与規則13条は,いずれも本件職員給与条例5条6項とほぼ同一の文言を用いているから,これらも本件職員給与条例5条6項と同趣旨で定められたものと解される。

そこで,大阪市における定数内特別昇給が,上記の趣旨に解釈されるべき本件職員給与条例5条6項等の各根拠規定に適合するように実施,運用されていたか否かを検討する。

(6)  前記前提事実のとおり,大阪市は,部局により決裁者に違いはあるものの,基本決裁により定数内特別昇給の基本的枠組み(定数及び効果月数は別紙定数内特別昇給定数(百分率)一覧表のとおり。)を定め,これらを受けて,各実施年度ごとに各年決裁により具体的な対象者の範囲を定め,これに基づいて具体的な昇給者を決定していた。そして,乙第4,第5,第13から第15まで,第18号証及び弁論の全趣旨によれば,市長部局における定数内特別昇給は,勤務成績が特に優秀なものを対象として実施することとしていたが,その対象者の選定基準は,普通昇給の例により欠格条項を定めるにとどまっていたこと,普通昇給の要件である「良好な成績で勤務した」ことの基準は,昇給月の2月前の月の末日から逆算して12月を成績調査期間として,成績調査期間中に①病気欠勤が45日以上,②休職,勤務停止,育児休業等が1日以上,③産前産後休暇が16週(多胎妊娠の場合20週)以上,④公傷が引き続き45日以上あり,昇給日現在公傷であること等の欠格要件を基準とすると規定されていたこと,市長部局における平成16年度の定数内特別昇給の対象者は,採用区分に従い,採用年次で特定していたが,その採用区分に該当する職員数は合計7633人であり,そのうち実際に定数内特別昇給をした者(7298人)はその約95パーセントに上っていたことが認められる。

これらの事実に前記前提事実を総合すれば,大阪市の市長部局においては,勤務成績が特に優秀であることという定数内特別昇給の要件は,良好な成績で勤務したことという普通昇給の要件と同一のものとして運用されており,その成績は勤怠のみで判断されていたこと,定数内特別昇給の定数は概ね30パーセントと比較的大きい上,上記採用年次に該当する職員の大多数に定数内特別昇給をさせていたこと,その反面,昇給の効果月数は3月から6月と比較的小さいこと,他部局においてもほぼこれと同様の定数内特別昇給の運用をしてきたことが認められる。

そして,この運用実態に照らせば,大阪市における定数内特別昇給は,勤務成績の特に優秀な少数の職員を給与上特に優遇することにより,成績主義を実態的に確保するという本件職員給与条例5条6項の趣旨に反した形で実施されてきた違法なものというべきである。

これに対し,被告らは,成績評価が非常に困難であるという公務の特殊性や,国においても勤務評定が機能していなかった実情を踏まえた均衡の原則(地方公務員法24条3項)から,勤怠を基準として定数内特別昇給を運用することは違法ではないと主張する。しかし,公務員についても,その職務に即した成績評価は,その難易に差があるとしても可能であり,地方公務員一般について勤務の成績評価が常に困難であるといえない。また,国家公務員に対する勤務評定が機能していない実情があるからといって,地方公務員の定数内特別昇給の運用をその好ましくない実情に合わせることが均衡の原則の要請であると解することはできない。被告らの上記主張はいずれも理由がなく,採用できない。

(7)  以上のとおり,大阪市における定数内特別昇給は,本件職員給与条例5条6項及びこれと同旨の本件交通局給与規程7条7項,本件水道局給与規程6条6項,本件市費負担教職員給与規程4条1項,本件単純労務職員給与規則13条に反するものであったから,平成16年度に定数内特別昇給としてされた昇給期間短縮の措置(支出負担行為)はいずれも違法である。

したがって,大阪市は,これらに基づいて支出された給与の差額に相当する損害を被ったものというべきであり,その損害額は,前提事実(4)記載のとおりである。

これに対し,被告らは,原告らが主張するような適法な定数内特別昇給を運用していれば,被告らが現に実施していた定数内特別昇給とほぼ同額の支出をしていたはずであり,大阪市に損害は発生しないと主張するが,違法な支出がされた以上,これをもって損害額と評価すべきであるから,被告らの主張は採用できない。

5  過失等の有無(本案の争点2)について

(1)  上記のとおり,大阪市における平成16年度における定数内特別昇給は,本件職員給与条例5条6項及びこれと同旨の本件交通局給与規程7条7項,本件水道局給与規程6条6項,本件市費負担教職員給与規程4条1項,本件単純労務職員給与規則13条に反する違法なものである。

原告らは,大阪市の定数内特別昇給を実施した者が,勤務成績を問わずに広範囲の者を対象とする違法なものであることを十分に認識し得たと主張する。そこで,平成16年度における定数内特別昇給としてされた昇給期間短縮の措置(支出負担行為)に当たり,平成16年度の総務局長(F)及び教職員課長(I)に故意又は重過失があったか否か,Bにこれらの者に対する指揮監督上の権限不行使に故意,過失があったか否か,平成16年度の水道局長(M)及び交通局長(Q)に故意又は過失があったか否かを検討する。

(2)  前記前提事実によれば,国家公務員に対する昇給制度は,一般職給与法8条6項に普通昇給が,同条7項に定数内特別昇給が規定され,定数内特別昇給の要件として,勤務成績が特に良好であるとの要件が規定されていたこと,本件昇給基準37条及び37条の2には,その具体的要件として,国家公務員法72条を受けた勤務評定政令及び勤務評定府令の定める手続により成績が一定以上と決定されたことと規定していたから,国家公務員に対しては,定数内特別昇給を厳正な成績評価に基づいて運用するための関係法令が整備されていたというべきである。しかし,乙第9,第11,第12号証及び弁論の全趣旨によれば,特別昇給定数内特別昇給は,その具体的運用は各省庁の判断に任されており,成績主義の原則に則った適正な運用が図られるべきであるとされていたが,国家公務員の勤務評定は,評定の項目が必ずしも適切ではなく,評価の基準が具体的に設定されておらず,評価結果の用途が明確にされてないこと等の問題点があることから,十分に機能するものとはなっておらず,公務員制度改革に当たり,現行の勤務評定に替え,職員の能力や業績を適正に評価し得る新たな評価制度を整備する予定との政府答弁が平成14年にされていたこと,人事院による平成11年度の調査段階で,昭和45年に採用された職員(中級,初級)の特別昇給回数には平均で2回弱の差しかなく,最多回数では約6回,最少回数でも約4回,平均で4回から5回程度実施されていたことが認められる。

このように,成績評価のための関係法令が整備されていながら,これが十分に機能しないと指摘される中で,国家公務員が約30年で平均4~5回の特別昇給を受けているということは,全職員を対象として,5~6年に1回程度,成績を度外視して順番に特別昇給を実施しているのと,結果としてはほとんど差異がないといってよい状態にあったものというべきである。

(3)  前記前提事実,甲第2号証及び弁論の全趣旨によれば,大阪市における定数内特別昇給制度は,職員の勤労意欲の向上と,国や他の地方公共団体との均衡にかんがみ,昭和34年度から実施された制度であり,昇給の対象者及び効果月数は年度によって変動はあるものの,制度の骨子は平成16年度に至るまで特段の変更はなく,当初から平成16年度まで一貫して国家公務員に対する特別昇給定数内特別昇給の総ボリュームの範囲内で実施され,現に,大阪市における定数内特別昇給による影響額は,国基準を当て嵌めた場合よりも低額であったこと,平成16年12月23日から全国紙で「ヤミ昇給」と指摘されるまで,大阪市における定数内特別昇給が違法であるとの指摘が具体的にされなかったことが認められる。

(4)  これらの事実を併せ考えると,大阪市における本来的な給与決定(支出命令)権限者(市長,水道局長,交通局長)及び専決によりこれらの者の権限を行使することとなった者(総務局長,教職員課長)において,定数内特別昇給の対象者が勤務成績が特に優秀であるとの認定手続を経た者ではないと認識していたとしても,これを違法であるとする具体的な指摘がなかったことを踏まえれば,平成16年当時,国における特別昇給定数内特別昇給が,少なくとも結果においては,大阪市における定数内特別昇給と同様,全職員を対象として順番に昇給をしたのと同様の実態にあると考え,昭和34年から継続している定数内特別昇給制度につき,これに違法の疑いがあると認識することなく,国家公務員に対する特別昇給定数内特別昇給の影響額の範囲内で,従前の枠組みどおりに運用してしまったことには,やむを得ない事情があったといえ,過失を認めることはできないというべきである。

同様に,平成16年度における定数内特別昇給としてされた昇給期間短縮の措置(支出負担行為)に当たり,同年度の総務局長(F)及び教職員課長(I)に重過失があったとは認められず,Bにこれらの者に対する指揮監督上の権限不行使に故意,過失があったとも認められない。また,同年度の水道局長(M)及び交通局長(Q)にも,同年度の定数内特別昇給としてされた昇給期間短縮の措置(支出負担行為)に当たり,過失があったとも認められない。そして,そうである以上,これらの昇給期間短縮の措置(支出負担行為)を前提としてされた給与の支出(支出命令)につき,上記の各支出権限者に過失等を認めることもできない。

6  結論

以上のとおり,原告らの本件訴えのうち,監査請求のされた平成17年3月18日から1年以上前にされた財務会計行為(平成7年度から平成15年度の定数内特別昇給に係る支出)に関する部分(請求1項の全部,同2項,3項(2),4項(2),5項,6項に係る上記各年度の定数内特別昇給に係る支出に関する部分)については,監査請求期間を経過したことにつき正当な理由を認めることができず,賠償命令の対象となる者について損害賠償請求を求めた部分(請求3項(1),4項(1))は訴訟類型に適合しない不適法なものであるから,いずれも却下することとし,その余の部分(請求2項,3項(2),4項(2),5項,6項のうち,平成16年度の定数内特別昇給に係る支出に関する部分)は,当該財務会計行為を行うについて過失等を認めることができないから,棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 廣谷章雄 裁判官 森鍵一 裁判官 森永亜湖)

別紙定数内特別昇給定数(百分率)一覧表

実施年度

3月短縮

6月短縮

合計

12月換算

平成7年度

22.5%

7.5%

30%

9.375%

平成8年度

22.5%

7.5%

30%

9.375%

平成9年度

22.5%

7.5%

30%

9.375%

平成10年度

22.5%

7.5%

30%

9.375%

平成11年度

20%

10%

30%

10%

平成12年度

20%

10%

30%

10%

平成13年度

20%

10%

30%

10%

平成14年度

20%

15%

35%

12.5%

平成15年度

20%

15%

35%

12.5%

平成16年度

20%

15%

35%

12.5%

(注)平成15年度及び平成16年度は,20%の者に対する昇給期間3月の短縮を,10%の者に対する昇給期間6月の短縮として行い,全部で25%の者に対する昇給期間6月の短縮として実施した。

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