大阪地方裁判所 平成18年(わ)1078号 判決 2006年5月23日
主文
被告人を懲役12年に処する。
未決勾留日数中60日をその刑に算入する。
大阪地方検察庁で保管中のなた1本(同庁平成18年領第1768号符号1)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,同居していた長男であるA(当時21歳)が育児を怠っているなどとして上記Aを叱責したところ,同人から顔面を殴打されて出血するなどしたため激高し,平成18年2月12日午前8時57分ころ,大阪府高槻市内の被告人方玄関付近において,上記Aに対し,殺意をもって,手にしたなた(刃体の長さ約24.9センチメートルの短刀様のもの。大阪地方検察庁平成18年領第1768号符号1)で,その右腹部を1回突き刺し,よって,そのころ,同所において,同人を腹部右側刺切創に基づく失血により死亡させて殺害した。
(証拠の標目)-かっこ内の数字は検察官請求の証拠番号を示す。
(省略)
(法令の適用)
罰条 刑法199条
刑種の選択 有期懲役刑
未決勾留日数の算入 刑法21条
没収 刑法19条1項2号,2項本文
(量刑の理由)
本件は,判示のとおり,被告人が,長男から殴打されたことなどに激高し,短刀様のなたで同人の右腹部を1回突き刺して殺害した事案である。
被告人は,被害者の育児態度を叱責したところ,同人から顔面を殴られ出血したため激高して本件犯行に及んだというが,そうだとしても,被害者に殺害されるほどの落ち度は認められないのであって,本件はあまりに短絡的な犯行というほかなく,その動機や経緯に特に酌むべきものがあるとはみられない。被告人は,寝室まで刃体の長さ約25センチメートルの鋭利な短刀様のなた(被告人が日本刀代わりに収集していたもの)を取りに行った上,玄関付近まで被害者を追いかけ,このなたで,身体の重要な部分である右腹部を,約6ないし10センチメートルの深さまで突き刺しており,その刺し傷は,複数の臓器を傷つけるとともに,腹大動脈をほぼ切断している。被害者は21歳とまだ若い上,実の父親から突然刺され生命を絶たれたもので,その結果は,取り返しのつかない重いものであり,被害者の苦痛や無念さは察するに余りある。被告人の妻でもある被害者の母や,被害者の妻の,突如として子や夫を奪われた悲しみや衝撃は強く大きなもので,身内でもある被告人に対し厳しい処罰を求めるなどその苦悩は深い。さらには,祖父に父親を殺害された,被害者の幼い子の将来に及ぼす影響も懸念されるところである。
以上の点に照らすと,被告人の刑事責任は極めて重いものである。
他方,本件は,親子間のささいな行き違いがきっかけで激情に駆られた被告人による偶発的犯行であること,被告人は犯行後我に返り,救急車を呼ぶなど,被害者の救命に努めたこと,被告人は,一人息子である被害者に対し被告人なりの愛情を持っていたことも事実であり,一人息子の命を奪い,家族の人生をも狂わせてしまった自らの行為を悔い,その責任を果たしたいとの覚悟を示していること,ここ15年以上前科がないことなど,被告人のために酌むべき事情もある。
しかし,これらの事情を考慮に入れても,本件事件の重大さ等に照らせば,主文の刑が相当である。
(求刑 懲役13年,なた1本没収)
(裁判長裁判官 横田信之 裁判官 内田貴文 裁判官 大伴慎吾)