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大阪地方裁判所 平成18年(わ)3913号 判決 2006年9月12日

主文

被告人を懲役1年に処する。

この裁判が確定した日から5年間この刑の執行を猶予する。

訴訟費用は被告人の負担とする。

理由

【有罪と認定した事実】

被告人は,

第1  公安委員会の運転免許を受けないで,かつ,酒気を帯び,呼気1リットルにつき約0.65ミリグラムのアルコールを身体に保有する状態で,平成18年5月19日午前4時15分ころ,大阪市阿倍野区<以下略>付近道路において,普通乗用自動車を運転した。

第2  上記日時・場所において,信号機の表示する赤色信号に従わないで,上記普通乗用自動車を運転した。

【有罪認定に供した証拠】

省略

【法令適用の過程】

(1)  「有罪と認定した事実」に記載の被告人の各行為は,次の各刑罰法令にそれぞれ該当する(〔 〕内はその法定刑)。

第1の行為のうち,

無免許運転の点

…平成16年法律第90号附則23条により同法による改正前の道路交通法117条の4第1号,64条〔1年以下の懲役又は30万円以下の罰金〕

酒気帯び運転の点

…平成16年法律第90号附則23条により同法による改正前の道路交通法117条の4第2号,65条1項,平成16年政令第390号による改正前の道路交通法施行令44条の3〔上同〕

第2の行為

…道路交通法119条1項1号の2,第7条〔3月以下の懲役又は5万円以下の罰金〕

ところで,第1は,1個の行為が2個の罪名に触れる場合であるから,刑法54条1項前段,10条により1罪として犯情の重い酒気帯び運転罪の刑で処断を行う。そして,後記犯情により,第1,第2の各罪につきその法定刑の中からいずれも懲役刑を選択した上,以上の各罪は刑法45条前段の併合罪であるから,刑法47条本文,10条により,刑の重い第1の罪の刑に刑法47条但書の制限内で法定の加重を行う。

その結果導き出された刑期の範囲内で,当裁判所は,後記「量刑の理由」により,被告人を主文の刑に処するとともに,刑法25条1項を適用して,この裁判が確定した日から主文の期間この刑の執行を猶予することとした。

(2)  訴訟費用(国選弁護費用)が生じているので,刑事訴訟法181条1項本文により,被告人にこれを負担させる。

【量刑の理由】

本件は,運転免許を失効させてしまった被告人が,自宅で酒を飲んだ後,妻と喧嘩をしたことから,更に酒を飲むため車に乗って家を飛び出し,途中飲酒を重ねた上,本件現場において,前記のとおり高度に酒気を帯び,かつ,無免許であるにもかかわらず自動車を運転し(第1の犯行),その際,交差点で赤信号を無視してその車の運転をした(第2の犯行)という事案である。

被告人は,平成15年6月と平成17年5月に,本件と同じ酒気帯び運転罪によりそれぞれ罰金20万円と30万円に処せられていながら,その後わずか1年にして,性懲りもなくまたも本件各犯行に及んだものである。各犯行に至る経緯・動機にも全く酌量の余地がない上,無免許・酒気帯びの犯行は,日頃同種行為を繰り返した末にいわば常習として犯したものであって,非常に悪質である。酒気帯び運転におけるアルコール保有量もかなりの量に達しており,その意味でも極めて危険な犯行であった(現に,現行犯人逮捕手続書によれば,被告人は本件犯行直前に蛇行運転をしていたことが認められる。)といわざるを得ない。

このような諸事情に鑑みると,被告人の交通法規軽視の態度は著しく,この際,被告人を実刑に処して法の峻厳な制裁に服させるということも十分考えられるところである。

ただその一方で,被告人は,今回はさすがに事の重大さを自覚した様子であり,深く反省する態度を示していること,ともかくもこれまで懲役刑に処せられた前科がないこと,被告人は,内妻と育ち盛りの子供3人を抱える一家の大黒柱であること,その内妻が今後の指導・監督を約束し,車のキーの管理も厳重に行う旨述べていること,など被告人のために酌むべき事情も認めることができる。

そうすると,被告人を今直ちに実刑に処することにはいささかの躊躇いもあるので,以上の事情を総合して,被告人を主文の刑に処した上(なお,検察官の求刑する懲役8か月は,上記のような本件の犯情に照らすといささか軽きに過ぎる感がある。また,検察官は赤信号無視の罪の関係で罰金9000円を求刑するが,同罪は前記無免許・酒気帯び運転の罪と同一機会に犯されたものであり,量刑上も包括評することが相当であるから,赤信号無視の罪についてのみ罰金刑を選択してこれを懲役刑と併科することは当を得ないというべきである。),今回ばかりは,その刑の執行を猶予して,被告人に対し社会の中で更生する機会を与えることとした次第である(検察官求刑-懲役8か月及び罰金9000円)。

(裁判官 杉田宗久)

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