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大阪地方裁判所 平成18年(行ウ)20号 判決 2007年11月28日

主文

1  大阪府中央府税事務所長が、平成17年4月6日付けで、原告に対し、別紙物件目録記載2の家屋についてした不動産取得税賦課決定処分を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第3当裁判所の判断

1  地方税法73条の2第1項にいう「不動産の取得」とは、他に特段の規定がない以上、不動産所有権の取得を意味するものと解するのが相当であり(最高裁昭和40年(行ツ)第12号同45年10月23日第2小法廷判決・裁判集民事101号163頁参照)、同条2項が、新築家屋について最初の使用又は譲渡が行われた日において家屋の取得がされたものとみなし、当該家屋の使用者又は譲受人を取得者とみなして、これに対して不動産取得税を課することとしているのも、当該使用者又は譲受人が所有権を取得することを当然の前提としているものと解される。

2  そこで、本件において、原告が、地方税法73条の2第2項にいう家屋の使用者又は譲受人に該当するかどうかについて検討するに、前記前提事実に加え、〔証拠省略〕によれば、以下の事実が認められる。

(1)  本件建物部分(以下「新会館」ともいう。)の建設計画の原告担当者は、大阪市の職員(総務局人事部厚生課主査)であり、本件条例5条の規定に基づいて原告の事務の委嘱を受け、原告の企画主査の地位にあったA(以下「A」という。)であった。

(2)  大阪市においては、平成7年12月ころから、大阪市住宅供給公社の賃貸住宅と大阪市道路公社の公共駐車場との複合施設の建設計画があったところ、同施設に約1万平方メートルの余剰床が生じること、既存の桜宮職員会館が老朽化し、原告においてその立替えを検討していたことなどから、平成8年4月ころ、大阪市住宅供給公社の賃貸住宅及び大阪市道路公社の公共駐車場に職員会館も加えて複合施設とすることが検討されるに至った。Aの調査によれば、他の地方公共団体においては、地方公務員法42条に基づいて地方公共団体が実施すべき福利厚生制度の一環として、職員会館の建設費用の全額を地方公共団体が負担するといった例もあったものの、当時の大阪市の財政状況や市民感情にかんがみれば、同市において職員会館の建設に市の補助金等を支出することは困難であると判断された。そこで、大阪市職員の相互共済及び福利増進を図ることを目的とする財団法人である原告が、その建設費用の全額を負担し、職員専用ではなく一般市民も利用することができるホテル仕様の施設を建設することとされた。もっとも、Aの調査によれば、他の地方公共団体においては、職員会館は地方公共団体において所有する例がほとんどであること、新会館の設置は地方公務員法42条に基づいて大阪市が実施すべき福利厚生制度の一環であることなどから、新会館の所有権は大阪市が取得することとされ、原告が使用貸借契約によってこれを借り受けて管理運営(一部はホテル業者である大阪東急ホテルへの委託による。)を行うこととされた。

(3)  Aは、原告が新会館の所有権をいったん取得すると、新会館に係る不動産取得税が原告に課されることから、公認会計士、税理士等にも相談してこれを回避する方法を検討した。その結果、原告が注文者として新会館の建設工事に係る請負契約(本件請負契約)を締結しつつ、請負業者から新会館の引渡しを受ける権利は大阪市に対して譲渡し、請負業者が工事完成後に大阪市に対して直接新会館を引き渡し、もって新会館の所有権が原告に帰属しないようにすることが考案され、このような法的枠組みによって新会館の建設計画が進められることとなった。

(4)ア  そこで、原告と大阪市とは、平成8年11月29日付けで、新会館が地方公務員法42条に基づく職員の福利厚生施設であり、また市民の利用にも配慮した公益性を持つ施設であるため、その建設及び管理運営については大阪市と原告との共同事業として、各々がその役割を果たし、事業を円滑に進めることを目的として(本件協定書1条)、大要、以下のとおりの協定を締結した。

(ア) 新会館に係る共同事業の推進に当たり、大阪市は原告が建設用地を無償で使用することができるよう配慮し、原告は新会館建設に係る諸費用を負担するとともに、必要な手続を行うものとする(本件協定書2条)。

(イ) 原告は、工事請負業者から工事目的物の引渡しを受ける権利を大阪市に無償で譲渡するものとする(本件協定書4条)。

(ウ) 大阪市は、上記目的の達成のため、原告から新会館の使用許可申請があったときは、原告との間で新会館について使用貸借契約を締結することとする(本件協定書5条)。

(エ) 原告は、上記使用貸借契約に基づき、新会館の管理運営を行い、適宜その状況を大阪市に報告することとし、大阪市は原告に対し適切な指導、助言等を行うこととする(本件協定書6条)。

イ  なお、本件協定書について、被告は、原告及び大阪市の記名者が同一人(大阪市総務局長であり、かつ原告理事長でもあるB)であること、本件協定書4条の文言が特異であること、本件協定書よりも後に作成されたとされる本件請負契約に係る契約書(〔証拠省略〕。以下「本件契約書」という。)の本件特約条項において本件建物部分を引き渡すべき相手が大阪市ではなく原告が指定する者とされていることなどに照らし、本件協定書は後日租税回避を目的として辻褄合せに作成されたものであることが疑われる旨主張する。しかしながら、原告及び大阪市において公印を押印する書面の作成に複数人による決裁手続が必要であることは明らかであることに照らしても、本件協定書の記名者が原告と大阪市とで同一であることから直ちに本件協定書が後日作成されたものと推認するこはできない。また、本件協定書4条の定める工事目的物の引渡しを受ける権利の譲渡という法形式自体は、必ずしも異例であるとまではいえない上、同条が原告を経由することなく大阪市が新会館の所有権を直接取得するための法技術としてこのような法形式を採用したことをもって本件協定書が後日作成されたことをうかがわせる事情であるともいえない(被告の主張するとおり本件協定書が後日辻褄合せに作成されたものであるなら、所有権移転の過程をより明確かつ直接的に表現した規定内容とされるのが自然である。)。他方、本件契約書の本件特約条項において工事目的物である本件建物部分を引き渡すべき相手が大阪市ではなく原告が指定する者と規定されている点については、確かに、その理由が判然としないものの、いずれにしても、原告が本件建物部分を引き渡すべき相手として指定する者は大阪市の他に考えられないのであって、上記の疑問は、本件協定書の作成時期のいかんにかかわらず生じ得るものであるから、本件特約条項の上記規定内容から、本件協定書がその作成日付以降に作成されたものであると推認することはできない。そして、本件全証拠によっても、他に本件協定書がその作成日付以降に作成されたものであることをうかがわせる事情は見当たらない。むしろ、〔証拠省略〕によれば、前記認定のとおり、原告においては、新会館建設計画の当初から、資金計画との関係上、新会館について原告に対して不動産取得税が課されないよう、公認会計士や税理士をも交えてその対策が検討されていたことが認められ、このような経緯にかんがみれば、本件協定書が後日辻褄合せに作成されたものであるということはできず、原告と大阪市との間において、上記アのとおりの協定が締結された事実を認めることができる。

(5)  Aは、新会館の基本設計を委託していた設計事務所から、上記法的枠組みによれば原告に対して新会館についての不動産取得税が課されないかどうかについて、大阪府の見解を確認しておいた方がよい旨のアドバイスを受けたことから、C税理士に対し、大阪府に上記の確認をするよう依頼した。C税理士は、平成9年2月10日、大阪府総務部課税課不動産取得税係長のDらから意見の聴取を行った上で、同月12日、原告に対し、大阪府側から以下のような見解が示されたとして、その旨書面で報告した。

ア  原告が注文者として新会館を新築する場合、原則として、原告にその不動産取得税が課される。

イ  ただし、原告が、新会館の棟上げのときまでに、工事請負人に対して全工事代金の半額以上を支払い、工事の進行に応じて残代金を支払う場合には、新会館の所有権は完成と同時に原始的に原告に帰属し、これを寄付により大阪市に譲渡すれば、当該譲渡が地方税法73条の2第2項の最初の譲渡に該当し、譲受人は大阪市となるから、原告には不動産取得税は課されない。

ウ  また、原告、大阪市及び工事請負業者の三者間において合意の上その旨の書面を作成し、原告が工事請負業者から新会館の引渡しを受ける権利を大阪市に譲渡(寄付)する場合にも、原告に対して不動産取得税が課されることはない。

エ  イ又はウについて事前にその明細及び事情を大阪府当局に説明し、その了解を得れば不動産取得税の課税を免れることになる。

(6)ア  原告は、新会館の建設工事請負業者の入札を行った結果、平成10年6月5日、請負業者を本件請負業者と決定し、同日、本件請負業者との間で本件請負契約を締結した。

イ  本件契約書は、平成10年9月3日以降に作成されたところ、Aは、同契約書を起案するに当たり、大阪市が注文者となる場合の工事請負契約書のひな形に、本件特約条項(本件請負業者は、原告の要求があったときは、原告の指定する者に対して本件建物部分を引き渡さなければならない旨の特約条項)を加えた。

a社においては、本件契約書を稟議するに当たり、その写しを作成し、所定の決裁を行ったが、同写しは、原告の記名印及びa社(本件請負業者の代表者)の記名印が押され、本件特約条項の部分が丸で囲まれた状態であった。

(7)  新会館の建設計画においては、新会館が大阪市の施設としてふさわしいものであるよう配慮することとされ、建設工事の現場における定例会議においても、市の施設であるから、豪華すぎて目立つということがなく、そうかといって貧相にも見えないようにされたいなどといった原告及び大阪市の要望がAから本件請負業者に伝えられていた。

(8)  本件請負業者は、本件建物部分の建設工事を完了し、平成13年3月10日、大阪市長にあてて、同月9日に本件建物部分が完成した旨の工事完成届(〔証拠省略〕)を提出した。さらに、本件請負業者は、同月26日、大阪市長にあてて、同月25日に手直し工事が完了した旨の手直し工事完了届(〔証拠省略〕)を提出した。

(9)  本件請負業者の工事事務所長E(以下「E」という。)は、平成13年3月19日、開業準備に必要であるとして、bホテルの担当者に対し、本件建物部分の一部(1階レストラン厨房等8か所)の鍵を交付した。

(10)  本件請負業者は、平成13年4月1日、本件建物部分1階の事務所において、ホテルスタッフらに対して本件建物部分の設備等についての説明をするとともに、Aに対して本件建物部分の鍵を交付した。その際、Eは、同日において本件建物部分に瑕疵がないことなどが確認され、本件請負業者が工事完成の責任を果たしたことを証する趣旨で、Aに対し、本件請負業者名義、大阪市長あて、同日付けの本件建物部分の引渡書(〔証拠省略〕)に署名することを求め、Aは、これに応じて、同引渡書の受領者欄に所属を「大阪市職員互助組合」として自署した。

(11)  原告と大阪市とは、平成13年4月1日、本件建物部分について、原告はこれを大阪市職員の福利厚生施設等として使用するものとし、期間を同日から平成23年3月31日までとして、使用貸借契約を締結した。

(12)  大阪市総務局長は、大阪市道路公社、大阪市住宅供給公社及び株式会社大阪市開発公社に対しては、「新職員会館「ヴィアーレ大阪」の区分所有権等について(通知)」と題する平成13年4月1日付け書面(〔証拠省略〕)により、大阪市建設局長に対しては、「新職員会館「ヴィアーレ大阪」の区分所有権について(通知)」と題する同日付け書面(〔証拠省略〕)により、大阪市が同日付けで本件建物部分の引渡しを受けて本件建物部分の区分所有権を取得し、新会館の管理運営は同日付け使用貸借契約に基づき、原告が行うことなどを通知した。

(13)  大阪市においては、平成13年4月7日ころ、本件建物部分の引渡書に係る決裁が完了し、受領者欄に大阪市総務局長Fの記名印及び同局長印(公印)が押印された大阪市長あての本件建物部分の引渡書(〔証拠省略〕)が作成され、本件請負業者に交付された。

(14)  ヴィアーレ大阪は、平成13年4月27日にその営業を開始した。

(15)  原告は、前記前提事実(3)イのとおり、平成13年7月18日までに、本件請負業者に対し、追加工事分、増額変更分を含めて本件請負契約に係る請負代金全額を支払った。

(16)  本件建物は、その完成後の平成13年10月4日、平成13年3月5日新築を原因として保存登記がされたところ、本件建物部分の所有者は大阪市とされた。

3(1)  前記認定事実によれば、原告は、新会館建設計画の当初から新会館について原告に不動産取得税が課せられることを避ける方法を検討し、その結果、工事請負業者から新会館の引渡しを受ける権利を大阪市に譲渡して本件建物部分の所有権を大阪市に直接帰属させることとし、大阪市との間において原告が工事請負業者から工事目的物の引渡しを受ける権利を大阪市に無償で譲渡する旨の協定を結ぶとともに、本件請負業者との間において本件請負契約に本件特約条項を設け、本件請負業者が原告の指定する者に対して本件建物部分を引き渡さなければならない旨の合意をしたことが認められる。

この点について、被告は、本件請負契約の代金額が高額であることにかんがみれば、契約書を作成せずに本件建物部分に係る工事が行われることは考えられず、本件請負契約については、当初本件特約条項のない契約書が作成されていたにもかかわらず、後日本件特約条項が加えられた契約書が改めて作成されたといった趣旨の主張をする。しかしながら、〔証拠省略〕によれば、本件建物部分の工事請負契約(本件請負契約)は、平成9年1月に基本計画が策定され、同年2月から同年6月にかけて基本設計が、同月から平成10年3月にかけて実施設計がされた後、同年6月5日の入札により契約の締結に至ったものであって、契約当時において契約の目的である工事内容は確定していたと認められるから、本件請負契約における請負代金が高額であることをしんしゃくしても、工事着工時点で契約書が作成されていないとしても別段不自然ということはできない上、たとい被告の主張のとおりの事実経過であったとしても、本件契約書が作成された平成10年9月ころまでには本件特約条項の合意がされていたということができるのであるから、本件建物部分の完成時には原告と本件請負業者との間に前記のとおりの合意があったものと認められる。

(2)  そして、前記認定事実によれば、本件請負業者は、本件建物部分の完成後、平成13年3月19日にその一部の鍵を原告から新会館の管理運営を委託された大阪bホテルの担当者に交付し、さらに、平成13年4月1日には本件建物部分の鍵をAに交付したところ、Aが署名した本件建物部分の引渡書(〔証拠省略〕)及び大阪市総務局長の公印が押印されたその引渡書(〔証拠省略〕)はいずれも、平成13年4月1日付けで、かつ、大阪市長あてとされていたこと、原告と大阪市との間において、同日付けで本件建物部分について使用貸借契約が締結され、同月27日には原告の管理運営のもとで新会館(「ヴィアーレ大阪」)がその営業を開始したこと、大阪市総務局長は同年4月1日付けで関係各所に対して本件建物部分の所有権を大阪市が取得した旨の通知をしていること、本件建物部分の登記によってもその所有者は大阪市とされていることなどが認められ、これらの事実を総合すれば、本件請負業者は、原告からの指定を受け、本件特約条項に基づき、大阪市に対して本件建物部分を引き渡し、大阪市は、本件協定書4条による合意に基づき、この引渡しを受けたものと認められる(なお、Aは本件建物部分の引渡書に署名するに当たり、その肩書を「大阪市職員互助組合」と記載しているが、前記認定の本件建物部分完成後の経緯に加え、Aが当時大阪市の職員(経理局人事部厚生課主査)の地位を保持しながら本件条例5条に基づく事務の委嘱により専ら原告の事務(新会館建設事業の立案、実施)を行っていたことがうかがわれること、大阪市長あての文書の受領書にその補助機関である職員以外の者が署名するような事態は通常考え難いことなどにかんがみれば、Aは上記引渡書に署名するに当たり大阪市職員としての記載をすべきところその記載を誤ったにすぎず、本件建物部分は、平成13年4月1日、本件請負契約の本件特約条項に基づいて本件請負業者から大阪市に対して引き渡されると同時に、原告と大阪市との間の前記使用貸借契約に基づいて大阪市から原告に対して引き渡されたものと認められる。)。

4(1)  以上に認定、説示したところを総合すれば、原告、大阪市及び本件請負業者の三者間において、遅くとも本件契約書が作成されたころまでに、本件建物部分は大阪市の所有とした上、原告は大阪市から使用貸借契約によりこれを借り受けて管理運営するものとし、原告においてその建設費用の全額を負担し、建設費用を負担する原告が本件建物部分の工事請負契約の当事者(発注者)となるが、請負人(本件請負業者)は、本件建物部分の工事完成後、その所有者となる大阪市に対してこれを直接引き渡すものとする旨の合意が成立し(この合意を、以下「本件三者間合意」という。)、同合意に基づき、原告がその請負代金全額を負担してこれを前記前提事実(3)イのとおり本件請負業者に対して支払うとともに、本件請負業者は、大阪市に対し、完成した本件建物部分を引き渡したものと認められる。以上の事実関係の下においては、本件建物部分の所有権は、平成13年4月1日、本件請負業者から大阪市に直接移転したものと認めるほかないというべきである(民法176条)。

(2)  これに対して、被告は、少なくとも本件請負業者と原告との間に本件特約条項に係る合意は認められず、平成13年4月1日に本件建物部分が本件請負契約の注文者である原告に引き渡されたことによって本件建物部分の所有権は原告に移転した旨主張するところ、平成17年3月24日に大阪府職員(Gら)がa社に対して行った税務調査に係る質問てん末書(〔証拠省略〕)には、同社担当者(H)が本件建物部分の所有権の帰属や引渡しに関してa社を交えた協議や合意事項は一切ない旨上記主張に沿う回答をした旨の記載がされ、証人Gは、当該記載は、上記Hがした回答を正確に記載したものである旨証言する。しかしながら、上記税務調査自体、本件建物の完成後、約4年間が経過した後に行われたものである上、証人Hの証言によれば、同人ら担当者が前記税務調査を受けた際に必ずしも本件建物部分の建設に関する資料を正確に把握していなかったことや本件建物の共同住宅部分又は駐車場部分に関する資料と混同したことがうかがわれることに加え、同質問てん末書について、上記Hらが署名押印を拒否していることなどにかんがみれば、上記質問てん末書の記載をそのまま採用することはできないというべきである。したがって、被告の前記主張は採用しない。

また、被告は、原告が平成13年以降本件建物部分を繰延資産に計上していることは、本件建物部分の所有権を原告が取得した事実を如実に示すものであると主張する。しかしながら、法人税法2条24号は、繰延資産とは、法人が支出する費用のうち支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶもので政令で定めるものをいう旨規定し、法人税法施行令14条1項6号は、同項1号から5号までに掲げるもののほか、同項6号イからホまでに掲げる費用で支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶものを掲げ、同号イは、自己が便益を受ける公共的施設又は共同的施設の設置又は改良のために支出する費用を掲げているところ、これには法人が自己の利用する公共的施設の設置又は改良を、国又は地方公共団体が行う場合の費用の負担金もこれに含まれると解される(法人税法基本通達(昭和44年5月1日直審(法)25)8―1―3参照)。原告は、大阪市の所有に係る本件建物部分について、その建設工事の請負契約(本件請負契約)に係る請負代金の全額を負担し、大阪市との間の使用貸借契約に基づいてその管理運営を行っているというのであるから、上記請負代金相当額は法人税法2条24号にいう繰延資産に該当すると解される。そうすると、これを繰延資産に計上しているからといって、原告が本件建物部分の所有権を取得したということはできず、被告の前記主張は採用することができない。

さらに、被告は、租税回避行為と目される行為について事実認定及び法的評価をするに当たっては、不当な租税回避を排除するとの視点を持つべきであって、そのような視点からすれば、本件において、本件三者間合意の存在を認定することはできず、本件建物部分の所有権はこれを原始取得した本件請負業者から原告に移転したものと認めるべきであるといった趣旨の主張をするが、本件において、本件三者間合意の存在を認定することができることは、前記認定のとおりである。

もっとも、被告の前記主張は、本件三者間合意の存在が認定されるとしても、同合意は私法上の効果を有しないとの主張であると善解することもできる。しかしながら、大阪市がその職員の相互共済及び福利増進を図ることを目的とする団体(原告)が専ら同市の職員の福利厚生施設等として使用する建物(本件建物部分)をその財産として所有することは、それ自体、地方公務員法42条及び本件条例5条の趣旨に照らして不合理ということはできず、当該財産の取得費用(本件建物部分の建設費用)を、これを専ら利用する者(原告)において全額負担することも、それ自体、不合理ということはできない(大阪市との間の使用貸借契約が合理的理由なく解除されるなど原告において本件建物部分を利用することができなくなるといった事態はほとんど想定されない。)。他方、証人H及び同Eの各証言によれば、本件請負業者にとっても、本件建物部分の所有権が注文者である原告でなく大阪市に移転したとしても何らの不都合もないというのである。そうであるとすれば、本件三者間合意における法形式が主として原告に対して不動産取得税が課されないようにすることを目的として採用されたものであったとしても、本件三者間合意の内容自体は、地方公務員法や本件条例の趣旨を潜脱し、あるいは、経済的合理性を欠く不自然なものということはできないから、原告、大阪市、本件請負業者の真実の意思に反して仮装されたなどと認めることはできず、他に、本件三者間合意の効力を否定すべき法律上の根拠も見いだせない。また、地方税法73条の2第1項にいう「不動産の取得」を私法上の概念である不動産所有権の取得と異なって解すべき根拠がないことも前記のとおりである。したがって、被告の前記主張は、採用することができない。

(3)  以上によれば、原告は、本件建物部分について所有権を取得したことがないというべきであり、地方税法73条の2第2項にいう家屋の使用者又は譲受人に該当する余地はないから、本件処分は、違法であるといわざるを得ない。

なお、被告は、本件においていわゆる租税回避行為の否認により、原告に対して本件建物部分について不動産取得税を賦課することができるといった趣旨の主張もするが、いわゆる租税法律主義(憲法84条)の下においては、法律の根拠なしに、当事者間の合意によって認められるところと異なる事実又は法的効果を認定し、これに対応する課税要件が充足されたものとして取り扱う権限が課税庁に認められているものではない上、以上に認定、説示したところからは、原告が専ら租税回避の目的から私法上の法形式を濫用したとまで評価することもできないから、被告の前記主張も採用することができない。

5  結論

よって、原告の請求は、理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり、判決する。

(裁判長裁判官 西川知一郎 裁判官 岡田幸人 森田亮)

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