大阪地方裁判所 平成19年(わ)3456号 判決 2009年4月28日
主文
被告人を懲役3年6月に処する。
被告人から金3000万円を追徴する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,a市議会議員として,同市議会の議決すべき事件につき議会に議案を提出し,提出された議案について質疑し,表決に加わるなどの職務に従事していたものであるが,
第1 a市長であったA1,大阪府警察官として勤務していたA2,株式会社B1の談合担当者であったA3,同社の営業担当者であったA4,株式会社B2の談合担当者であったA5,B3株式会社b支店副支店長A6及びB4株式会社c支店支店次長A7らと共謀の上,a市が平成17年11月10日に開札した「仮称第2清掃工場建設工事(土木建築工事)」の制限付き一般競争入札に,B1・B2共同企業体のほか,B3株式会社b支店及びB4株式会社c支店が参加するに際し,公正な価格を害する目的で,同年10月20日ころから同年11月10日ころまでの間,大阪府下又はその周辺において,B1・B2共同企業体に同工事を落札させることで合意するとともに,そのころ,B3株式会社b支店及びB4株式会社c支店のそれぞれの入札金額をB1・B2共同企業体の入札金額を超える金額とする旨の協定をし,もって,入札の公正な価格を害する目的で談合し,
第2 平成18年2月下旬ころから同年4月下旬ころまでの間,3回にわたり,b市d区ef丁目g番h号所在のCホテル専用駐車場において,前記A4らから,a市が発注し,請負契約締結につき同市議会の議決を要する「仮称第2清掃工場建設工事(土木建築工事)」の入札の実施及び請負契約の締結等に関し,株式会社B1のために有利便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼等の趣旨のもとに供与されるものであることを知りながら,現金合計3000万円の供与を受け,もって,自己の前記職務に関し賄賂を収受し
たものである。
(証拠の標目)
省略
(事実認定の補足説明)
第1争点
被告人は,公判廷において,①本件談合事件につき,a市発注の「仮称第2清掃工場建設工事(土木建築工事)」(以下,同工場を「本件清掃工場」といい,同工事中,建屋の建設工事を「本件工事」という。)の入札に関し,被告人において,株式会社B1の担当者らが他の業者といわゆる受注調整を行い,それにより株式会社B1が落札することが事前に決まっていたことを知っていたことは認めるものの,被告人自身は談合の共謀をしていない旨供述し,②本件収賄事件につき,被告人において,株式会社B1に資金援助を要請し,株式会社D社長のEを介して株式会社B1営業担当者のA4から現金合計3000万円を受け取ったことは認めるものの,その現金は,被告人の市議会議員としての職務に関連して受け取ったものではない旨供述し,弁護人も,被告人の以上の供述を前提として,被告人は,両事件についていずれも無罪であると主張するので,当裁判所が,被告人に判示第1の談合罪及び同第2の収賄罪がそれぞれ成立すると認定した理由について,以下補足して説明する。
第2談合について
1 前提事実
関係各証拠によれば,被告人とその関係者,本件工事が落札された経緯,業者間の談合状況等について,以下の事実が認められ,これらについては,被告人及び弁護人も特段争っていない。
(1) 被告人とその関係者について
被告人は,青年会議所の活動を通じてA1と知り合い,平成7年にA1がa市長に,被告人がa市議会議員にそれぞれ当選してからは,A1の政治姿勢に共感するなどして,同人との親交を深めていった。また,被告人は,平成12年6月ころ,A1から大阪府警察官のA2を紹介され,以後,3人で被告人方に集まって情報交換等をするようになった。
(2) 本件工事が落札された経緯について
ア 平成5年ころ,a市役所では,同市発注予定にかかる本件清掃工場の建設工事に関する検討委員会が組織されるなどし,それ以降,建設予定地の選定や住民に対する説明等の準備を行っていた。同工事の発注形態や予算の積算等は,F1部(後に「F2部F3室」と改称)が担当しており,F1部の担当助役(副市長)は,平成15年5月まではGであり,同月22日以降はA8であった。
イ 平成14年には,市長の諮問機関として「第2清掃工場建設検討会議」(以下,「検討会議」という。)が組織され,以後,同会議において,焼却炉の焼却方式や工事の発注方式の検討が行われた。その結果,平成15年8月29日,検討会議において,本件清掃工場の建設工事の発注方式は,プラント(焼却炉)と建屋とを分離発注するのが妥当である旨の結論が示された。
ウ 同年10月7日,A8を委員長とする検討委員会は,検討会議の結論を尊重するとの方針に基づき,本件清掃工場の建設工事の発注方式は,プラントと建屋とで分離発注することとし,後日,A1の決裁を経て,そのことが正式に決定された。さらに,平成16年3月ころ,本件清掃工場の設計の発注方式についても,プラントと建屋とで分離発注することが決定された。また,同年3月,a市議会において,本件清掃工場の予算が99億680万円で承認された。
エ 同年5月,本件清掃工場の建屋の設計業務を株式会社Hが落札した。
オ 同年6月10日,本件清掃工場のプラント設備工事の入札が予定価格を59億2346万2000円(税抜き)として実施され,I株式会社が57億7500万円で落札した。
カ 平成17年7月21日,本件工事は予定価格を39億2564万8000円として公告され,開札日が同年8月10日に予定されていたが,同月8日までの入札期間中に1社も応札がなく,不調となった(以下,これを「1回目の入札」という。)。
キ 同年8月19日,a市の財政課及びF3室の関係職員が協議し,同年9月の市議会において,本件工事のための18億円の補正予算を計上することとなった。同年8月31日,当該補正予算案の市議会への提出がA1によって決裁された。
ク 同年10月20日,本件工事は予定価格を56億4896万6000円(税抜き)として公告され,同年11月10日,株式会社B1と株式会社B2の共同企業体(JV。以下,このJVを「B1・B2JV」という。)が55億6000万円(税抜き)で落札した(以下,これを「2回目の入札」という。)。同入札においては,B1・B2JV以外に,B4株式会社c支店(以下,「B4株式会社」という。)が55億9800万円(税抜き)で,B3株式会社b支店(以下,「B3株式会社」という。)が56億2500万円(税抜き)で,それぞれ入札していた。
ケ 同年12月5日,本件工事について,落札したB1・B2JVとa市との請負契約が市議会で承認された。
(3) 業者間の談合状況等について
ア 関西の建設業界においては,平成17年12月に談合決別宣言が出されるまでの間,長年にわたり,建設工事の受注に関し談合(受注調整)が恒常的に行われていた。そこでは,受注を希望する特定の工事について,各社が営業活動等により落札するための「条件」を獲得し,業者間での話し合いによって,最も条件的に優位な建設会社が当該工事を落札する資格を有する「選手」になるというルールが確立していた。選手になるための条件としては,発注者の意向である「天の声」,元施工業者であること,設計会社への技術協力,工事計画地付近に用地を取得していること,設計図面の入手等があった。
イ 株式会社B1は,平成7年ころから,本件清掃工場の建設予定地の隣地を賃借するなど,その受注に向けて準備をしていたが,その過程で既に株式会社B2が株式会社Hとの間で設計協力の約束を取り付けていたことが判明したことから,平成16年9月ころ,株式会社B2との間でJVを組むことを条件に設計協力をさせてもらうことで合意し,その結果,立地の点に加えて,設計協力の点で条件が揃ったこととなり,選手になることについて他社よりも優位に立った。
ウ 平成17年7月ころ,株式会社B1談合担当者であるJらは,1回目の入札における予定価格が低く,株式会社B1内での見積額と大きく乖離していたため,営業担当者であるKらと相談の上,応札を見送ることとした。Jは,その判断を踏まえて,本件工事につき入札資格を有する他社の談合担当者に連絡し,株式会社B1のほかに落札意欲のある業者がいないことを確認するとともに,株式会社B1がそれ以降もこれを落札する意欲を有していることを他社の談合担当者らに示した。
エ 同年10月,株式会社B1は,2回目の入札に応札することを決め,Kらと相談したJにおいて,B4株式会社及びB3株式会社の各談合担当者に,株式会社B1よりも高い金額で同入札に参加する,いわゆる「おつき合い」の依頼をし,前記(2)クの55億9800万円及び56億2500万円の各金額による入札を指示した。
2 公正な価格を害する目的について
以上のことを前提に,まず,前記1(3)でみた業者間の談合が公正な価格を害する目的でなされたものであるかについて検討する。
(1) 2回目の入札における株式会社B1の入札は,前記1(3)アの業界のルールに基づいてなされたものと認められるところ,かかるルールは,公共工事の競争入札において各業者間で純粋な自由競争が行われると,いわゆる叩き合いとなって落札価格が低額化し,落札業者が十分な利益を確保できなくなる可能性があることから,業者間の共同の利益を保持することを主目的として慣行化されていたものと解される。しかるに,公共工事における競争入札は,可能かつ相当な範囲で,競争原理によって,その工事費用を低額に抑えることをも企図しているものというべきであるから,そのような業界独自のルールによって,業者が十分な利益が確保できる入札額で落札を図ることは,そもそも,かかる企図に明らかに反しており,当該入札における公正な価格を害するものであることがそれ自体で相当程度推認される。
このことを踏まえてみた場合,株式会社B1において,1回目の入札では,予定価格が低すぎるとの判断から応札をしなかったにもかかわらず,2回目の入札では,自ら設定した前記1(2)クの入札額で応札し,他の2社に依頼して「おつき合い」による入札をさせ,正常な競争入札を装っていたことからすれば,その額が株式会社B1の利益を十分に確保する見込みのないものであったとは考えがたい。しかも,この点については,いずれも公判で,A4が,「(2回目の入札につき)赤字は回避できると思った」「赤字であれば入札しなかった」旨供述し,株式会社B2の工務部で本件工事の見積業務を担当していたLも「株式会社B2が単体で受注した場合の直接工事費の応札ネットに近い価格は50億3700万円程度,最低価格(限界ネット)は48億7000万円となった。これらには一般管理費は含まれてはいないが,過去の実績で判断したものだから株式会社B2が後者の金額で工事することは可能と考えている」旨供述しているところ,両名の供述に特段不自然,不合理な点は認められない。
また,B4株式会社及びB3株式会社の各担当者においても,前記ルールの下で「おつき合い」をしている以上,株式会社B1によるこのような競争原理によらない自社の利益確保という応札目的を認識していなかったとは到底考えられない。
(2) これに対し,弁護人は,a市は,予算に無理に合わせるためにいわゆる「歩切り」を行うなど異常に低額の積算をして採算性のない工事を発注し,株式会社B1も無理に落札しようとしたのであり,本件談合においては,公正な価格は害されていないし,このような状況下では,公正な価格を害する目的も認められない旨主張する。
しかしながら,本件工事の予定価格の積算を担当したF3室のM,株式会社B2営業担当者であるN及びA4の供述等によれば,なるほど,1回目の入札の予定価格については,予算の残額を前提とした「歩切り」により,通常は行われない価格の圧縮が行われているものの,2回目の入札の予定価格については,「歩切り」の部分を元に戻し,国の積算基準に従った一般管理費(受注した企業の継続に必要な費用)等を計上して,落札業者に一定の利益が見込める予定価格が設定されたこと,株式会社B1側も,1回目の入札は見送ったものの,利益が確保できる目処がついたことから,2回目の入札に応じる決断をしたこと,B1・B2JVは,本件工事により2億5000万円近い利益をあげたものとみられ,これが両社間で分配されていることが認められるから,弁護人の前記主張は採用できない。
(3) 以上によれば,前記1(3)でみた業者間の談合は,公正な価格を害する目的でなされたものと認めるのが相当である。
3 被告人の共謀について
(1) 関係各証拠によれば,被告人と本件談合との関わり合いについて,前記1の事実に加え,以下の事実が認められ,これらについても,被告人及び弁護人は特段争っていない。
ア A1が平成7年にa市長に初当選をした当初,a市議会は,そのほぼ全員が野党体制で,A1にとって市政の運営が大変厳しい状態であり,とりわけ当時の市議会議長Oが反A1派の中心的存在として議会に強い影響力を及ぼしていた。また,Oには,a市発注の公共工事に関し,特定の建設業者と結託して利権を得ているとの噂もあった。被告人は,A1から,かかるOのa市における政治的影響力について相談を受け,その対処方法等について2人で話し合うようになっていた。
イ そのような状況の平成10年ころ,被告人は,A1から紹介されて知り合った建設業者のEにOの問題を相談したところ,Eから,株式会社B1の営業担当者であるA4を紹介され,以後,EとA4が被告人方に出入りするようになった。さらに,被告人は,Oの問題に関し,Eから「関西の建設業界では株式会社B1のA3が談合を仕切っているので,株式会社B1に直接状況を説明するのがよい」旨言われたことなどから,A1と話し合った上,株式会社B1の幹部と相談することとした。
ウ 平成11年12月末ころ,b市内にあるホテルPの会議室において,A1,被告人,E,株式会社B1営業担当役員Q及びA4が会合をしたが,その際,本件工事を含めたa市の政治情勢や公共工事等が話題となった(以下,この会合を「P会談」という。)。それ以降,被告人は,本件清掃工場の建設工事に関するものを含め,自身が入手したa市発注の公共工事の議会資料を,Eを介するなどして,株式会社B1に渡すようになった。
エ A1及び被告人は,前記1(1)のとおりA2と情報交換等をしていたが,その中で,A2に対し,Oの問題についても相談をしていた。
(2) A4及びA2の供述について
ア A4の供述内容
A4は,自身が本件談合を共謀したことを認めた上,被告人と本件談合との関わり合いなどについて,次のように供述している。
(ア) A4は,前記(1)イの経緯で被告人と何度か面会する中で,被告人から「O議員がa市の公共工事について,一部の業者と結び付いて困っている。株式会社B1で談合を担当しているA3に業界調整をしてもらい,Oと結び付いている業者を排除してほしい。市長であるA1も,被告人と同じ考えである」旨言われたことから,「できるだけ協力させてもらう」旨答え,そのころ,被告人の依頼をA3に伝えた。また,A4は,このころ,被告人から,a市に清掃工場や火葬場の工事の計画があると聞かされていたため,「是非お願いしたい」などと言ったところ,被告人から,「まあ頑張ってください」などと言われた。
(イ) P会談の席上,被告人は,「a市では,Oが一部の業者と結び付いて公共工事を食い物にしており困っている。今後,a市は火葬場や清掃工場等の大型の公共工事を計画しているので,Oの息のかかった業者が受注できないように,株式会社B1のA3に業界を仕切ってもらって,そのような業者が受注できないようにしてもらいたい」などと発言した。A1は,被告人の発言の際,その隣に黙って座っており,これに何ら異を唱えなかった。これに対し,Qは,「できるだけご協力させていただきます」と答えた上,「清掃工場については是非株式会社B1の方でお願いしたい」と申し出ると,A1は,「全部が全部取ったら駄目ですよ」と答えた。A4は,Qとともに,市長であるA1がa市のトップとして,本件清掃工場の建設工事発注につき,株式会社B1に「天の声」を出してくれたと受け止めた。
(ウ) P会談後,間もないころ,A4が,被告人方で,被告人に「業界調整のためには,他社に負けない条件を株式会社B1でそろえる必要があるので,先生の手に入る議会資料をいただきたい」と頼んだところ,被告人は,これを了承して,前記3(1)ウのとおり,本件清掃工場の議会資料を渡してくれるようになった。それらの資料は,部下のRやKを通じて,株式会社B1の談合担当者に回されたはずである。
(エ) A4は,被告人から,検討会議で本件清掃工場のプラントと建屋とを分離発注にするか一括発注にするかが話題となっていると聞いたため,被告人に「株式会社B1としては,分離発注にしてもらわないと業界調整ができない」と説明し,分離発注にしてもらうよう何度も要請した上,平成15年の初めころ,分離発注と一括発注のメリット,デメリットについての資料や,a市と同格の自治体の分離発注及び一括発注の事例に関する資料を部下に作成させ,被告人に渡した。同年の秋ころ,被告人から「プラントと建屋の建設工事が分離発注の方向になった」と聞いた。
(オ) 平成14年10月ころ,A4は,被告人から,被告人とA1が,本件清掃工場の件を含め,様々な案件についてA2に相談してアドバイスを受けていることを聞いていたが,平成15年4月1日,被告人方で,被告人からA2に引き合わされ,その際,A2から「わしは談合なんかいかんというちんけなことは言わない,やるんだったらきちんとやれ。市長なり,甲先生なりに迷惑を掛けたらいかんよ」などと言われ,警察官の言葉として奇異に感じつつも,「分かっています」と答えたが,このとき,同席していた被告人に変わった様子はなかった。
(カ) A4は,同年10月20日,被告人方で,被告人に,建物の設計の発注方法,発注の時期,市長の意向の設計業者について質問したところ,被告人は,「いっぺん調べておきましょう」と言った。その後,被告人から「建屋の設計業務はプラントメーカーがすることになっている」と聞かされたため,A4は「そうすると,プラントメーカーが設計事務所を決めることになり,これがOとつながっていると株式会社B1が差配できないのでまずい。設計業務もプラントメーカーから分離してもらいたい」と言った。すると,被告人が資料を見せつつ,「設計まで外してしまうと,全体の工期が大きく延びてしまうため,プラントメーカーの方に残っている」と言ったため,A4は「(設計業務を分離しても)工期には影響しない」と答えた。そして,後日,A4は,プラントメーカーから建屋の設計業務を外しても全体工期に影響がないことを示す資料をKに作成させ,被告人に渡して説明した。その後,建屋の設計業務が分離発注になったことは,Kから報告を受けたし,被告人からも聞いた。
(キ) A4は,平成16年秋ころ,RないしKから,株式会社Hがa市に提出した概算の見積額が市の予算を大きく上回っていることを聞いたため,同年11月ころ,被告人に「予算との開きが大きすぎるので,株式会社B1としては赤字になるので受注できない」と言った。被告人は,「株式会社Hは,安易に市の予算に合わせることなく,頑張って市の方と協議するように」と言い,被告人の方でも議会の審議で予算の見直し等を検討する旨話していた。
(ク) A4は,1回目の入札公告の1週間か10日前ころ,被告人に電話をして,その予定価格や経営事項審査の点数(以下,「経審点」という。)等の入札情報を聞いたところ,被告人は「いっぺん調べてきましょう」と言った。そして,公告の出る直前ころに,A2から,予定価格,参加資格及び公告等のスケジュールについて教えられた。その際,A4がA2に「予定価格が低すぎるし,参加資格の条件が緩すぎる。公告が出てから検討するが,株式会社B1としては落札するのは無理ですね」と言ったところ,A2は,「そう言わんとやってくれや」と言っていた。
(ケ) 株式会社B1では,設計図書によって見積額の積算作業を行ったが,見積金額が予定価格をはるかに上回って大赤字になるため,応札をしないことに決めた。そこで,A4は,平成17年7月26日ころ,被告人と会って,とても応札できないことを伝えると,被告人は,「そう言わんと行って下さい。A2さんに話してみて」などと言っていた。
(コ) その数日後,A4は,A2と会って,a市の予定価格,株式会社Hの予算及び株式会社B1の見積額を記載したメモを示した上で,「今回は金額の乖離が大きく難しいので株式会社B1はいきません。流す方向でいく」旨伝えると,A2もメモを見て無理だと理解してくれたようだった。その際,A4が「せめて設計事務所の見積額程度まで予定価格を増額してもらいたい。経審点もせめて1600点以上にしてほしい」と言うと,A2は,「株式会社B1の要望は副市長に伝える」と答えた。その後,間もないうちにA2から連絡があり,「今回は流す方向で副市長から了解を得た」旨言われた。
(サ) 同年8月26日ころ,2回目の入札についてA2に問い合わせたところ,「本体工事は予算の見直しをしても,付属棟,外構工事合わせて15億,これに2,3億のプラスアルファぐらいにしかならない。全体で54プラスアルファぐらいにしかならない」と言われた。そこで,A4は,「市の方に,65億で,もう一度見積をし直して欲しい」と言うと,A2は,「今度副市長にお会いするので話してみる」と言った。同月30日ころ,A2から電話があり,「副市長と打合せしてきたが,本体は39億,付属棟は12億から15億まで上げて,54億プラスアルファというのが目一杯だ。経審点は1500点以上については混合方式を取らざるを得ない模様である。これで行ってほしい。副市長が頑張って上げたのだから,株式会社B1も頑張ってほしい」などと言われた。A4は,「実際に図面を頂いて,見積をした上で判断する」旨答えた。
(シ) その後,株式会社B1内で2回目の入札に向けて見積を検討した結果,落札に向けて動くことになった。そこで,A4は,同年10月7日,A2にその旨伝え,「参加条件とプラスアルファの正確な数字も教えてほしい」と言ったところ,公告の直前ころ,A2から最終的な価格と経審点の回答があった。
イ A2の供述内容
A2もまた,自身が本件談合を共謀したことを認めた上,被告人と本件談合との関わり合いなどについて,次のように供述している。
(ア) A2は,平成14年の秋ごろ,被告人方で,被告人及びA1から「Oが,ゼネコンとプラントメーカーを結び付けて工事を受注して利権をむさぼろうとしている。Oの利権を排除するため,株式会社B1に仕切りを頼んでいる。本件工事を株式会社B1に取らせたいと考えており,株式会社B1のQ専務に話をして理解してもらっている」などと打ち明けられ,これは犯罪になると思ったが,二人が自分に協力を求めていると感じ,その場で賛成した。その後も,A2は,被告人から,一度,A4に会って欲しいと再三言われ,平成15年4月,被告人の紹介により被告人方でA4に会ったが,その際,A2は,被告人らの意向を汲んで,A4に「談合したらあかんというような,そんなちんけなことは言わん。やるんやったらちゃんとやったれ。そのかわり,Oみたいなおかしな者がaの工事で利権をむさぼるというようなことはさせたらあかんで。A1市長と甲先生を裏切ったりするようなことはするなよ」などと言って釘を刺した。
(イ) 同年1月ころ,被告人方に被告人,A1及びA2が集まった際,A2は,被告人から「今,本件清掃工場の建設工事は,プラントメーカーに一括発注する形になっているが,それでは具合が悪いのではないか。プラントはプラントメーカー,建屋はゼネコンのほうに発注するという分離発注の形態はどうか」と尋ねられ,分離発注のほうが株式会社B1が確実に落札しやすくなることから,「分離がいいな」と答えた。さらに,同年5月か6月ころ,被告人方に被告人,A1及びA2が集まった際,A2は,被告人から「今のままでは本件清掃工場の建設工事が一括発注になりそうなので,何とか分離するような形をとりたい。『談合防止という観点から分離発注のほうがよい』という形で,市役所に行って現在プロジェクトを組んでいる市の幹部に説明してやってほしい」と頼まれ,これを引き受けた。そこで,A2は,そのころ,a市役所において,A1,Gを含む数名の市の幹部職員の前(その席にA8もいたように思うが,記憶がはっきりはしない。)で,本件清掃工場については談合の噂があり,一括発注のままでは談合をされるので,プラントと建屋の発注を分離にしたらその防止に役立つ旨の説明をした。その際,A1は,今のA2の話を参考にして再度検討してくれと幹部職員に指示した。
(ウ) 平成16年1月ころ,被告人方に被告人,A1及びA2が集まった際,被告人から「本件清掃工場の建屋の設計業務をプラントメーカーがやる流れになっている。株式会社B1からは,設計業務を分離してほしいと頼まれている。設計業務を設計会社のほうに発注できるように,設計業務についても分離発注をしたい」と言われた。そのころ,A2は,被告人及びA1から「工事の分離発注と同様,設計が分離発注になるように,また市の幹部に談合防止だということで説明してほしい」と頼まれ,これを引き受けた。そして,A2は,同月中旬ころ,a市役所において,A1,G,A8及びSらの前で,プラントと建屋の設計業務の分離発注が談合防止に役立つ旨の説明をした。
(エ) 平成17年7月18日か19日ころ,A2は,被告人から「A8に入札のスケジュール,予算,経審点等の入札条件を聞きに行って,A4と詰めてくれ」と言われ,これを引き受けた。そして,A2は,同月19日ころ,副市長室でA8から,予定価格は39億円ほど,経審点は単体で1400点以上,JVで1200点以上と聞いたので,それらをA4にすぐに伝え,「これで落札したってや」と言ったが,A4は,予定価格があまりに安すぎるという落札を渋った反応だった。そこで,A2は,同月20日過ぎころ,被告人に,A4に話したことを報告した上,「株式会社B1が『予定価格が低いからちょっとしんどい。流すかもしれない』と言っている。補正予算でも組んで,もっとボリュームある予算にしたらどうか」と言ったところ,被告人は,「そうは簡単にいかない」と言っていた。株式会社B1の反応は,そのころ,A1にも伝えたが,A1も予算の増額に消極的態度だった。
(オ) 本件工事の1回目の公告後の同月28日,A2は,A4から積算に関する資料を見せられ,「予定価格が余りにも安すぎ,これでは受注するのがしんどい。今回は不調にするので,予算を増額して新たに入札してほしい。株式会社B1としてはせめて株式会社Hの53億ぐらいまでにはしてほしい。経審点ももっと上げて厳しくするよう市にお願いしてほしい」と言われた。A2は,資料を見て,予定価格が安すぎることが理解できたので,「市の方に話してみる」などと答え,その翌日ころ,被告人に株式会社B1が予定価格が安すぎて今回は流す(不調にする)意向であることを伝えた。
(カ) 同年8月20日ころ,被告人方に被告人,A1及びA2が集まった際,被告人から「今回は流れたけども,次はA2さん,何とか頼むで。オーさん(「株式会社B1」の隠語)に取らしてや」などと言われたので,A2が「株式会社B1に取ってもらいたいのであれば,予算を再度取り直して,そこそこ見合う工事金額にするように」と言うと,被告人とA1は,「分かっている。それなりになるようには努力する」と言っていた。
(キ) その後,間もなく,被告人から電話がかかってきて,A8から聞いた話として,「本件工事については,単に39億を増額するだけではなく,別に発注する予定であった12億ほどの工事を増額し15億として付け,更に2,3億プラスアルファして工事金額をかさ上げし,合計で56億ないし57億とする。その金額で株式会社B1に取るようこれで納得させてほしい」と言われた。そこで,A2は,すぐにA4と会い,被告人から聞いた話を伝えた上,「それで落札したってや」と頼んだところ,A4は,「最低60億くらいにして欲しい。市の方に金額を上げるよう一回話して欲しい」と言ったが,悪い反応ではなかった。
(ク) 同月終わりころ,A2は,副市長室でA8に,予定価格について,「60億くらいにならないか」と尋ねると,A8から,「市としては目一杯の金額を膨らませて出しているので,もうこれ以上は無理だ」と言われ,経審点については,「予算が増額され工事の規模が大きくなるので,P点が単体で1500以上,JVはそれよりも低くはなるが上がる」と聞いた。A2は,その後すぐに,A8から聞いた話をA4に伝え,「今度は確実に落としてもらいたい」と依頼したところ,A4は,「自分の一存では決められないが,前向きな形で検討します」と答えた。
(ケ) 同年10月上旬,A2は,A4から「今回はうちのほうでいかしてもらいます」と言われるとともに,「予定価格,経審点や入札スケジュールがはっきり分かればまた教えて貰いたい」と頼まれた。A2は,株式会社B1が落札する方針であることをすぐに電話で被告人に連絡した上,2回目の入札の公告の直前ころ,副市長室でA8から「予定価格が56億あまり,経審点が単体で1500点,JVで1300点以上,Y点が500点以上である」と聞き,それらをA4に伝えて,「もうこれで間違いなしに取らなあかんで」と念押ししたところ,A4は,「分かってます」と答えていた。
ウ A4及びA2の各供述の信用性
(ア) A4の供述について
A4は,個々の出来事の具体的な日付については,適宜,自身の手帳の記載等を参照しつつ記憶を喚起していたことが窺われるものの,被告人と知り合ってから本件工事を落札・受注するまでの間の被告人及びA2との交渉状況等について,具体的かつ詳細に供述しており,その供述内容に特段不自然,不合理な点は認められない。
そして,A4は,記憶にあることと記憶にないことを明確に区別して供述しており,その供述態度は誠実かつ真摯である上,弁護人の反対尋問によっても,その供述内容はほとんど揺らいではいない。
また,A4は,本件証人尋問時,本件談合及び本件収賄と対向犯関係にある贈賄罪で執行猶予付き懲役刑の有罪判決を受け,同判決が既に確定した段階であった上,犯行当時に勤務していた株式会社B1も既に退職していたところ,かかるA4において,検察官に安易に迎合したり,敢えて被告人に不利な虚偽の供述をする理由があるとは考えがたいし,その供述内容からしても,被告人に無実の罪を押しつけて,A4自身や株式会社B1の法的責任や社会的責任を回避,軽減しようとしている様子は全く窺われない。
これに対し,弁護人は,P会談が行われた平成11年の時点では,未だ本件清掃工場の建設工事は具体化しておらず,A1がA4の証言するいわゆる「天の声」が出せるような状況ではなかった旨主張する。しかしながら,関係各証拠によれば,本件清掃工場の建設は,a市にとって,必要性の高い重要な公共事業の一つであったこと,株式会社B1では,P会談の約4年前もの時点から,同社談合担当者のA3らが,本件清掃工場の計画地の隣接地を借り受けており,受注調整に有利な条件の獲得のため具体的に動いていたこと,Oにおいても,P会談当時,本件清掃工場に隣接する汚泥処分地の汚水除去の工法に関し,T株式会社が作成した図面をa市に差し入れていたこと,被告人及びA1においても,かかるOの動向を踏まえて,その採否が本件清掃工場の受注に影響するという危機感から,P会談に臨んでいることがそれぞれ認められるところ,かかる状況に照らしてみれば,P会談が行われた時点において,本件清掃工場の建設工事にかかわる業者間の条件闘争は既に開始されており,かかる条件闘争の中で発注者側の「天の声」を得ることは,業者にとって十分に意味があったものと解される。したがって,弁護人の前記主張は採用できない。
さらに,弁護人は,被告人が平成15年9月に腎臓ガン等の手術をし,その後も自宅療養をしていたことを根拠として,A4と被告人が同年10月20日に会ったことはない旨主張する。しかしながら,被告人の公判供述を前提としても,被告人は,退院後,医師から,激しい運動こそ禁じられていたものの,できるだけ体を動かすようにと指示され,同年12月からは議会にも出席していたというのであるから,同年10月20日当時,被告人が自宅でA4と面会することができないほどに衰弱していたとは考えがたいし,被告人と面談したA4が,被告人の様子に異変等を感じなかったとしても不自然とはいえない。したがって,弁護人の前記主張も採用できない。
なお,A4の手帳には,被告人が入院中の平成15年9月22日に被告人と面談をしたかのような記載があるが,A4が面談予定を記載しながら,これを消さなかったことも十分に考えられるから,かかる事実は,A4の手帳の他の記載内容や同人の供述内容の信用性を減殺するものとはいえない。
以上によれば,A4の供述には高い信用性が認められる。
(イ) A2の供述
A2は,本件談合における自身と被告人,A1,A4らとの間のやり取りなどを非常に具体的かつ詳細に供述しており,その供述内容は,主尋問と反対尋問を通じてほぼ一貫していて,取り立てて不自然,不合理な点は見当たらない。
そして,A2の供述は,前記1で認定した前提事実にみられるA2と被告人及びA1との関係,本件工事が落札された経緯等によく沿うものであるのみならず,本件工事の計画,発注,入札等に関してa市や株式会社B1が作成した各種資料,A4らの手帳やメモなどによっても,相当程度客観的な裏付けがあり,とりわけ,A2とA4がやり取りした状況については,その内容が前記(ア)のとおり高い信用性が認められるA4の供述とよく符合している。
なるほど,弁護人が指摘するように,A2は,本件証人尋問の時点において,本件談合を含めた自己の裁判が未だ確定していなかったから,その点だけをみると,自己の刑責を軽減すべく,本件談合の共犯とされているA1ないし被告人に本件に関する責任を転嫁しようとする動機が全くなかったとはいえず,その供述の信用性については慎重に検討する必要がある。しかしながら,A2は,本件証言時には,全ての公訴事実を認めていた一審に引き続いて量刑不当で上訴した控訴審でも既に実刑判決が言い渡されていた上,上告中ではあったものの,「最高裁で刑が覆るとは全く考えていない」旨の供述をしていたことなどに鑑みれば,かかる責任転嫁の危険性は,相当程度低下していたというべきであるし,検察に迎合して事実から乖離した供述をする必要性も乏しかったというべきである。しかも,A2は,本件談合罪だけでなく,これに絡んで,単独で1000万円を株式会社B1側から受領した収賄罪との併合罪で前記実刑判決を受けていたもので,後者の罪が前者の罪より遙かに重く,これが自分の量刑を大きく左右したことは,長年警察官をしていたA2には容易に理解できたはずであり,自らの裁判の上告審の段階で,談合罪で自己の果たした役割を実態よりも控え目に供述してみたところで,それが必ずしも自分に有利に働かないことについても理解していたと考えられる。そして,A2の供述内容をみても,A1及び被告人との関係において,自身が連絡役等の従属的立場にあったことをいささか強調するかのような部分もないとはいえないが,その反面,A1や被告人に対する提言や,A4に対する働きかけに関しては,自身の積極的な言動も包み隠さず供述していることが窺われる。また,A2は,被告人やA1の裁判においても正直に真相を述べることが,少しでも自分としての報いになるし,被告人らと一緒に次のスタートを切りたいとも考えて証言したとも供述しており,その心境は,本件犯行状況等に関するA2の前記供述態度によく沿うものといえる。
ところで,弁護人は,A2が,a市役所で,分離発注に関して,第1回目の説明をした際,捜査段階では,A8が同席していたと明確に説明し,その場面を図にまでしているのに,公判段階では出席していたかどうか分からないと言い出しており,このことは,A2が,当初から明確な記憶がなかったのに,検察官の描く筋書きに迎合した証左であるという。
そこで検討するに,第1回目の市役所の説明場面におけるA2の供述中,A8の出席の有無に関する説明に揺れがあるのは弁護人が指摘するとおりであるが,前記場面は,捜査段階からみて約4年間,公判段階からみると約5年半近く前の出来事であって,A2の記憶が次第に希薄化した可能性が考えられる上,その場面から半年余り後にはほぼ同様の状況でA2による第2回目の説明がなされており,A2において両者の場面を混同するなどした可能性も考えられるところであって,この点に関するA2の公判における供述態度に特に不自然なところは見当たらないことに照らしても,A2が,捜査段階において積極的に虚偽供述をしたとは考えられないから,この点に関する弁護人の主張は採用できない。
また,弁護人は,A2が,平成16年1月初旬,b市内の料亭で,被告人及びA1と3人で被告人の快気祝いをすることになっていた席に,特別の意図をもって独断でA4を呼びつけながら,被告人がA4に連絡したと嘘を言っていることから,A2の供述は信用しがたいという。関係各証拠によれば,なるほど,A4を前記料亭に誘ったのは被告人ではなく,A2であったとみるのが相当であり,この点に関するA2の供述は信用することはできず,A2に何らかの思惑があった可能性もあながち否定できないが,前記料亭の席において,本件談合に関わるようなやり取りが全くなされなかったことは明らかである上,前記出来事の存在が,本件談合の経過や共謀の形成過程等に影響を及ぼした形跡は見当たらず,本件犯行状況等に関するA2供述の主要部分の信用性を何ら左右するようなものとはいえない。
以上によれば,A2の供述中,A4の供述に符合する部分については特に高い信用性が認められる上,それ以外のA1ないし被告人とのやり取りなどに関する部分についても,十分な信用性が認められる。
(3) A1の供述について
ア 供述内容
(ア) 捜査段階の供述
A1は,捜査段階において,自身や被告人が本件談合を共謀したことを認め,次のように供述している。
① 被告人と相談して,P会談で,株式会社B1にOの関係する業者をa市の公共事業の入札から排除する方向で業者間の受注調整に協力するよう依頼をした。その席で,株式会社B1側は,この依頼をこころよく了承した上,「本件工事を株式会社B1が受注したい」旨言ったので,A1は,株式会社B1に頼み事をしたからと言って図に乗らせるわけにはいかないと考え,「それは,がんばってもらったらいいですけど,あんまり好き勝手に全部ってわけにはいきませんよ」などと言って,株式会社B1が本件工事を受注することを了承するとともに釘を刺す趣旨の発言をした。
② A1及び被告人は,平成14年秋ころ,警察官であるA2にその計画を打ち明けて,株式会社B1の「お目付役」になってもらえば,確実に株式会社B1を自分達の意向通りに動かすことができると考え,A2にP会談の内容を話したところ,A2は,「いいんやないか。株式会社B1にとらせたらいいわ」などと言って,本件工場を株式会社B1が談合により受注することを了承してくれた。
③ 本件清掃工場の建設工事の発注形態に関し,Oの計画を阻止する方法を被告人と共にA2に相談した際,A2が「プラント部分と建屋部分とを分離して発注すればいい」と提案してきたので,a市職員に働きかけ,分離発注の結論となるようにし向けるため,A2に担当職員にその旨の説明をするように頼み,これをしてもらった。その後,本件清掃工場の設計の発注形態に関しても,プラント部分と建屋部分とで分離発注されるよう,A2にa市職員への説明を頼み,同様にこれをしてもらった。
④ A1は,担当職員が本件工事に関する増額の補正予算案を策定して市議会に議案提出をすべく決裁を上げてきた際,2回目の入札予定価格が増額されることで株式会社B1が落札してくれたらいいと思いながら,これを了承して決裁した。
(イ) 公判供述
他方,A1は,公判において,自身は,本件談合における業者の談合行為の存在自体を認識しておらず,その共謀もしていないとして,次のように供述している。
① P会談の目的は,本件清掃工場の建設予定地に隣接する汚泥処分地の汚水除去に関し,OがT株式会社の作成した工法の図面をa市に差し入れてきたため,既に市が工法の計画を委託発注していたコンサルタント会社がT株式会社とつながっていれば,土壌汚染工事についてOの意図した談合をされるのではないかと危惧し,これに関する情報を教えてもらうことにあった。
② P会談では,株式会社B1側から「そのコンサルタント会社はT株式会社の関係ではない」という回答をもらった。同会談において,Oの行状を説明して談合を防ぎたいという話もした。本件清掃工場や火葬場等を含めたa市の公共工事の計画についても話題になり,株式会社B1側は「頑張りたいと思っている」とは言っていたが,本件清掃工場に限定した話でもなく,A1としては営業活動とみて軽く受け流して聞いた。
③ P会談で株式会社B1との関係は終わりと考えており,その後,被告人が株式会社B1側と接触したり資料を渡したりしていたことは知らなかった。
④ 後日,P会談で株式会社B1側と会ったこと自体に問題があったのではないかと考えて,被告人と一緒にA2にその状況を相談したところ,A2は,「そんな内容なら大丈夫だ」と言っていた。
⑤ プラントと建屋の建設工事の分離発注は,A2から言われたことであったが,A2は,分離発注が談合防止に役立つと言っていた。
⑥ A2にa市役所で建設工事の分離発注について説明してもらったのは,談合情報に市として対応するために,市職員と情報を共有したいという気持ちからであった。
⑦ プラントと建屋の設計の分離発注については,A1自身,基本は分離発注であり,談合防止という意味で,できるだけ分離すべきという感覚を持っていた。
⑧ 平成17年8月20日ころ,被告人方でA2が「このままでは,次もどこも取らへんのと違うか」と言っていたが,A1としては,多少お節介ではあるものの,A2が本件工事の入札のことを心配してくれているものと思っていた。
イ 捜査段階の供述の任意性及び特信性
ところで,弁護人は,A1の捜査段階における供述は,取調検察官の脅迫によりなされたものであるから任意性及び特信性がない旨主張するので,それらについて検討する。
(ア) A1は,公判廷において,U検察官から取調べを受けた状況について,「否認したことで怒鳴られ,机を叩かれた。否認していれば勾留が長引く,政治資金規正法違反で事務所関係者や親族を取り調べているなどと言われた。弁護人に対する不信感を抱かせるようなことも言われた。調書の訂正を申し入れても聞き入れてもらえなかった」などと供述している。
(イ) そこで,まず,任意性の点についてみるに,関係各証拠によれば,A1は,既に平成19年7月31日の逮捕前から弁護士に捜査への対応を相談しつつ任意の取調べに臨んでいたことが明らかである上,身柄拘束中におけるA1の検察官調書のうち,検察官から2号書面として請求されたものは,同年8月5日から同月16日にかけて作成されている(甲76ないし81参照)ところ,その当時受任していた3名の弁護人が,連日のように代わる代わるA1と接見し,かかる過程において,A1は,弁護人から取調べに際しての対応についての助言を受ける機会が十分にあり,実際にも,弁護人の助言に従って署名指印を拒否していたことが認められ,かかるA1において,仮に,何らかの理由で弁護人に対する不信感を抱くようなことがあったとしても,その意に反して無実の罪を認める自白調書への署名指印を余儀なくされながら,そのことを弁護人にまったく相談さえせず,かかる不本意な自白調書の作成に漫然と応じ続けたとは相当に考えにくい。
また,当該自白調書の内容を見ても,同調書には,P会談において,本件清掃工場に関する話だけではなく,汚泥処分地の汚水除去の工法の説明を株式会社B1側から受けたこと,A8が「A2の動きがおかしい」などと市長室に言いに来たが,既にOが引退しており,株式会社B1に本件工事を受注させる計画に積極的に関わりたくない気持ちになっていたため,A8の話を遮るためにソファから立ち上がり「気にせんでもいいから。」と言ったこと,同様の気持ちから,株式会社B1に本件工事を受注させようとしているA2や被告人の動きを止める気にはなれなかったこと,A8にA2を紹介したことでA8を事件に巻き込んでしまい,A8やその家族に申し訳ない気持ちであることなど,他の関係者の供述内容とは異なる事実関係や,A1にとって有利に働く事実あるいは当時のA1の立場に即した心情等も記載されているほか,重要部分については問答形式で録取されており,さらにA8とやり取りした場面については,A1自筆による図面まで作成添付されていること(甲80)などに照らすと,かかる内容の供述をU検察官がA1に無理に押しつけたとも考えがたい。
このようなA1の供述経過やその内容等に加えて,U検察官は,A1の供述調書の作成経過について,順序立てて合理的に説明しているばかりでなく,A1の取調べに際して,無理な取調べをしたことを明確に否定し,とりわけA1の弁護人が任意性に関して日ごろから熱心に取り組んでいる状況も踏まえて,後日問題となるような取調べをしないように留意していたことについても明らかにしていること(甲122)などに照らすと,同検察官が前記(ア)のような取調べをしたとは考えられない。
以上によれば,A1の捜査段階の供述には任意性が認められる。
(ウ) 次に,特信性の点についてみるに,A1は,本件談合の共犯者として別に起訴され,自身の公判において,共謀を中心として公訴事実を全面的に争い,本件の証人尋問時にも未だ一審公判係属中であったところ,かかるA1が,自身の刑責を免れたり,元市長としての社会的評価を保持したりするために,自身の本件談合自体への関与やそれと密接に関わる事柄への関与について,虚偽供述をする動機は十分に認められる。
また,後記ウ(イ)のとおり,A1の公判供述の内容には,重要な部分においてかなり不自然な点がみられるのに対し,その捜査段階の供述は,相応に具体的であり,特段不自然,不合理な点も認められない上,信用できるA4やA2の供述にもほぼ符合している。
加えて,前記(イ)でみた任意性を肯認できる諸事情も併せ考慮すれば,A1の捜査段階の供述には特信性も認められる。
(エ) なお,弁護人は,U検察官の証人尋問調書(速記録)(甲122)を,A1の捜査段階の供述調書の証拠能力を判断するための資料として採用したことは違法である旨主張するところ,証拠能力の要件の立証には厳格な証明を要しないと解される(最一小判昭和28年2月12日刑集7巻2号204頁,最二小判昭和28年10月9日刑集7巻10号1904頁)上,同証人尋問調書は,A1自身の談合事件において,A1の捜査段階の供述の任意性を立証するために行われた証人尋問にかかるものであり,同事件の公判廷で,捜査段階から引き続いて受任した弁護士を含む,A1から詳細に取調状況を聴取することができた弁護人による反対尋問を経ていて,その反対尋問が量,質ともに十分なものであったことからすれば,弁護人の前記主張は採用できない。
ウ 信用性
(ア) まず,A1の捜査段階の供述の信用性についてみるに,前記イ(イ)及び(ウ)でみたことからすれば,当該供述は,内容的にも相応に信用できる。
(イ) これに対し,A1の公判供述の信用性をみるに,①コンサルタント会社とT株式会社とのつながりの有無を確認するだけの目的で,a市役所内の関係部署に調査もさせずに,いきなり市長であるA1本人が民間業者の営業担当者と,わざわざ市庁舎外のホテルで会合を持つというのは相当に不自然であること,②A1の公判供述を前提とすると,株式会社B1側は,営利を目的とする民間企業でありながら,何らの見返りもなく,一地方公共団体の首長の要望に応じたことになり,これもまた相当に不自然であること,③A1の公判供述が,信用できるA4及びA2の各供述と相反し,それだけでなく,一定の範囲で本件談合への関わりを認める被告人の公判供述とすら少なからぬ部分で相反していることを考慮すれば,A1の公判供述は信用できない。
(4) 被告人の供述
ア 供述内容
(ア) 捜査段階の供述
被告人は,捜査段階において,自身が本件談合を共謀したことを認め,次のように供述している。
① 被告人は,P会談よりも前に,A4に対し,株式会社B1が清掃工場を落札することをA1ともども承認して協力する旨を表明していた。
② P会談においては,A1が株式会社B1側にOの影響力排除について説明した。その際,Qが「清掃工場について頑張りたい」と言ったところ,A1は,「いいですが,全部が全部株式会社B1というわけにはいきませんよ」と答えていた。
③ 被告人は,株式会社B1が本件工事を受注する意欲を持っていると知りながら,株式会社B1の意向に応じて,議会資料を渡したり,株式会社B1の要望を市側に伝えるなどした。このような資料の内容やその入手時期が,当該業者の受注に向けた努力を示すものとして受注調整において力を持つことは,EやA4から聞いて知っていた。議会資料を渡すことについては,A1の了解も得ていた。
④ 平成14年ころ,A4から「(本件清掃工場の)プラントの工事部分と工場棟などの施設部分とを分離して発注して欲しい」との申し入れを受け,そのころA2からも「Oの関係するプラントメーカーとゼネコンが組んで受注するのを防止するためには,焼却炉と建屋の建設を分離して発注するのがよい」とアドバイスされた。そこで,被告人は,A1と資料等を検討した上,分離発注にするのがよいと思ったが,市長であるA1が分離発注がよいと提案した場合,A1がゼネコンの利益を考えて提案したとの批判を受けかねない一方,A2であれば,警察官が談合防止のためにそのような提案をしていると見えるため,A2に市職員への説明を頼んだ。
⑤ 被告人とA1は,分離発注の関係でA8をA2に紹介することを相談し,平成15年夏前ころ,A1がA8をA2に紹介した。また,A1は,そのころ,A2に「A8さんには,前もって言うてある。A8さんには全部話してくれていいから」などと言っていた。
⑥ 平成16年秋ころ,建屋の予算の残額が40数億しかなく十分でないことを知り,これをA4に話した際,市が株式会社Hに積算の減額を求めていると聞かされたので,「株式会社Hには,株式会社B1から減額しないで頑張るよう言ったほうがいい」とA4にアドバイスした。また,A4から「経審点を厳しくしてもらいたい」と言われたので,被告人は,受注調整のためだと承知しつつ「A2のほうが詳しいから,A2を通じて市の方に言ってもらったらどうか」と提案し,A2にもその旨連絡した。
⑦ 平成17年夏前ころ,A4から電話で「株式会社B1の見積が60億を超えそうなのに,市は40億という話のようなので,何とかして欲しい」と言われたが,被告人に予算増額の権限がなく,議員として動ける時点でもなかったので,「1回議会を通った予算なんやしねえ。それに,まだ公告もないしねえ」などと言った。入札公告の何日か前ころ,A4から電話があり,予定価格と経審点について聞かれたので,被告人は,時期的に自ら動くのを差し控え,代わりにA2に対し,A8に聞いてA4に教えるよう頼んだ。被告人が同月23日にオーストラリアから帰国した後,A2が,被告人に予定価格と経審点を教え,「株式会社B1は『この額ではしんどい』と言っている」と怒っていたので,被告人は,A2に「何とか株式会社B1に工事取らせるよう言ってください」と頼んだ。公告の数日後,被告人は,A4から「今回は不調にします,次はもう少し金額を考え直してもらえませんか」などと言われたので,「何とかなりませんのか。A2さんとも話してみてくれませんか」と言った。被告人は,A2に再び株式会社B1への説得を頼んだが,数日後A2からも「株式会社B1は流すと言っている」と立腹した様子で言われた。そのことを被告人がA1に伝えると,A1は,「困ったなあ」と言っていた。
⑧ 1回目の入札が不調になって間もなく,被告人方に被告人,A1及びA2が集まった際,被告人がA2に「次の入札は絶対に株式会社B1に取らせて欲しい」と頼み,A1もこれに同調したところ,A2から「市の方でも金額の見直しはしてもらわんと」と言われた。それに対し,A1は,「まあ,現場がちゃんとやりおるやろ」と答えた。
⑨ 予算増額の検討状況を聞くとともに,その理論武装を依頼する目的で,1回目の入札の10日後ころ,副市長室に行き,補正予算について,A8に「どんな具合ですか」と聞くと,A8は「本体だけでは予定価格を増額するわけにはいきませんから,付属工事なんかを加えて増額する予定です」などと言った。さらに,被告人が「どのくらい増額できそうですか」と質問すると,A8は「15億円とあと2,3億くらいでしょうか」と答えた。被告人は,そのころ,A2にA8から聞いた増額の話を伝え,「これで株式会社B1を説得して欲しい」と頼んだ。その数日後,A2は,「株式会社B1がまだ上げてくれと言っている」と激怒しており,「A8さんに話をしたけど,これ以上の増額はできないと言っていた。あの金額で株式会社B1に行かすしかない」と言うので,株式会社B1への説得を頼んだ。
(イ) 公判供述
他方,被告人は,公判廷において,本件工事に関し,株式会社B1の担当者らが受注調整を行い,それにより株式会社B1が落札することが事前に決まっていたことは知っていたが,自身が本件談合の共謀をしたことはないとして,次のように供述している。
① P会談では,A1がa市の状況について説明し,被告人が部分的に補足する形で,「Oが後ろ盾になっている企業はaに入ってこないようにして欲しい」と株式会社B1側に申し入れ,その場でこれが了承された。本件清掃工場の話題も出たが,株式会社B1が本件清掃工場を取りたいという話はなかった。Q及びA4から,具体的な工事を特定せずに「私たちもがんばりたい」という言葉は出たが,A1は「そんな話をしてるんじゃありませんよ」とたしなめている感じだった。A1が「全部が全部株式会社B1が取ったらいけない」と言うのを聞いた記憶はない。
② A1,A2及び被告人の3人で会う趣旨は,それぞれが情報を持ち寄って,問題意識を共有したり学んだりする勉強会のようなものだった。
③ A1と被告人は,A2から株式会社B1に捜索に入ったことを聞かされたため,疑念を持たれる前にP会談の趣旨についてきちんと話しておいたほうがいいと考えて,A2にP会談のことを打ち明けたところ,A2は,「そういう相談をする相手として間違いはない,ええとこに目を付けている。あんまり目立つことしたらあかん」などと言った。
④ 被告人が,A2とA4を引き合わせた際,A2は,「A1市長や甲先生に恥かかすようなことはするな。aをちゃんとしろ。談合はあかんというようなちんけなことは言わん」などと言った。A2とA4を引き合わせることについては,事前にも事後にもA1に報告していた。
⑤ 平成14年の秋から年末ころ,A2から「I株式会社とT株式会社がOによって結び付いている」「分離発注すれば談合がつぶせる」などと聞いたが,被告人は「一括発注がa市の発注方法なので,違う方式に変えることはできない」と言い,A1も「それはできない」と言った。その話の中で,A1が,警察官の立場からa市に談合情報を入れてもらいたいとA2に頼んだ。
⑥ 被告人は,平成15年9月中旬に入院して腎臓ガン等の手術をし,同年10月初めころから自宅療養をしていて,来客を受けられる状態になかったので,その間,A4から本件清掃工場のプラントと建屋の設計を分離するよう依頼されたことはないし,設計の分離について資料を受け取ったこともなかった。
⑦ 平成16年11月ころ,EないしA4から「本件工事に関するa市の予算が非常に低い」と聞いたと思うが,被告人は,「金額は市側が考えることなので難しい。設計と積算をしている株式会社Hが,金額に理由があることを頑張って市側に言うのが一番ではないか。事業そのものについて共産党等から突き上げがある状況の中で,議会で金額を上げるのは非常に難しい」と答えたと思う。
⑧ 1回目の入札の公告前まで,A2とは,本件清掃工場の件で何度もやり取りをしたが,A2は,最初は「本件工事が思っていたより規模が小さい」と言い,次いで「設計金額そのものがえらい安い」「どこでも行かしたるがな」と何度か話していたが,そのうち突然,「まあ金額が安くてもA4さんにちゃんといかしたんがな」と言い出したので,驚いて被告人が「株式会社B1に決まりなんですか」と聞き返すと,A2は「そんなもん初めから決まってんがな」と言っていた。
⑨ 1回目の入札の公告直前ころ,A2は「A4が『安い』と言って,言うことを聞かない」と怒っていた。また,公告の前か後かは分からないが,A2は,「株式会社B1でもいけないような金額の物件は,どこもいかれへん」などと言っていた。被告人は,Eからも「株式会社B1の意向として価格が合わない。金額を上げて欲しい」と何度か依頼された。
⑩ 1回目の入札の前後,被告人方でA4とEと会った際,A4から「株式会社B1としても,とてもいける額ではない。何とかならないのか」と言われたが,被告人は「金額のことはどうしようもない」と答えた。
⑪ 平成17年8月20日ころ,被告人方にA1,A2及び被告人が集まった際,A2がa市役所の積算方法が悪いと責め,「2回目は価格を上げないといけない」と言ったが,A1及び被告人は,「予算を上げなければならないことは分かっているが,担当部がやることなので自分達の方から大幅に金額を上げろとか指示はできない」と言った。さらに,A2は,A1に「今まで自分が一生懸命やってきて,金額を少々上げることくらい市長やからできるやろう。最後くらい汗をかけや」と言ったが,A1が「そんなことどうやってやるのか」と言って押し問答になり,結局,A2の提案は拒絶された。その前にA2は,「それならどこもいかなくてもいいのか」などとも言ってきたので,被告人は,「今更はしごを外すようなことはしないでください」と言った。
イ 任意性
(ア) 弁護人は,検察官調書(乙2ないし7,9ないし13)の不同意部分につき,①被告人を取調べたV検察官は,被告人の健康状態に配慮せず,不眠のため朦朧状態となっている被告人を取り調べて供述調書を作成した,②同検察官は,被告人に対し,机を叩いたり,調書の訂正に応じなかったりした上,署名しなければ身柄拘束が長くなると告げるなどの脅迫や利益誘導をしたとして,前記不同意部分の任意性には疑いがある旨主張する。
(イ) そこで,まず,前記(ア)①の点についてみるに,関係各証拠によれば,被告人が勾留されていた大阪拘置所においても一定の投薬はなされていたことや,V検察官は,取調べ時,被告人の申し出に応じて水分がとれるようお茶を用意していたことが認められる上,被告人の検察官調書はかなり詳細なものであるほか,被告人以外の者の供述とは異なる内容や各場面における被告人の心情等も随所に記載されていることから,被告人が自らの記憶に従って供述したことを推認することができ,かかる供述調書を不眠のため朦朧状態にある被告人の取調べにおいて作成しうるとは考えにくいし,被告人自身,公判廷において,収賄罪にかかる取調べが最終段階に入り,相当疲弊していたはずの平成19年7月8日の取調べの際,検察官が作成した供述調書を精読し,被告人の供述とは異なる箇所に多くの付せんを貼って,検察官に訂正を求めたと矛盾する供述をしているのであって,以上のことからすれば,被告人の健康状態が供述調書の任意性に疑いを抱かせるほどに悪化していなかったのは明らかというべきである。
(ウ) 次に,前記(ア)②の点についてみるに,V検察官は,公判廷において,いろいろなたとえ話を用いて,被告人を説得したことはあるが,前記(ア)②のようなことはしていない旨明確に供述しているところ,その供述内容に特段不自然,不合理な点は認められない。
そして,被告人の検察官調書には,被告人以外の者は供述していないとみられる被告人の言い分や検察官が容易に知り得ない個人的事情等も記載されており,かかる内容の供述をV検察官が無理やり被告人に押しつけたとも考えがたい。
他方,被告人は,公判廷において,V検察官の取調時の言動についての不満を縷々供述するが,それらの言動が,被告人の供述のどの部分にどのような理由で影響を及ぼしたかについては,具体的な説明が欠けている。
また,被告人が訂正に応じてもらえなかったとする検察官調書中の供述部分を具体的にみても,実質的に被告人の公判供述に沿った内容となっていたり,取り立てて被告人に不利益な内容とはなっていなかったりしており,V検察官が訂正申入れに応じなかったする被告人の公判供述と整合しない。
さらに,被告人は,本件収賄に関する点ではあるが,同犯行における現金収受と議会承認との関連性につき,捜査段階においても否認を貫いたことが認められるところ,当該犯行の核心部分について否認を貫くことができた被告人において,本件談合に関する事実関係についてV検察官が勝手に作成するがままの供述調書に安易に署名指印したとは相当に考えにくい。
以上によれば,被告人の捜査段階の供述には任意性が認められる。
ウ 信用性
(ア) まず,被告人の捜査段階の供述の信用性についてみるに,その供述内容は,具体的かつ詳細であり,特段不合理,不自然な点も認められない上,信用できるA4及びA2の各供述並びにA1の捜査段階の供述ともよく符合している。加えて,前記イでみた諸事情からすれば,被告人の捜査段階の供述は相応に信用することができる。
(イ) これに対し,被告人の公判供述の信用性をみるに,①被告人の公判供述を前提とすると,株式会社B1側は,営利を目的とする民間企業でありながら,何らの見返りも求めず,その期待もなくして,Oの利権排除を求めるA1や被告人の要望に即座に応じたことになり,不自然であること,②A2において,A4と引き合わされた際,被告人の面前で前記ア(イ)④のように談合を容認するかなり露骨な発言をしていながら,その後,A2自身が株式会社B1のために積極的に行動していたことを被告人に隠し立てしていたとは相当に考えにくいこと,③A1が,A2にa市に談合情報を入れてもらいたいと頼んだとする前記ア(イ)⑤の経過の説明は不自然でにわかに首肯しがたいものであること,④前記ア(イ)⑥については,前述した信用性の高いA4の供述と全くそごしていること,⑤被告人とEないしA4との間で前記ア(イ)⑦及び⑩のようなやり取りがあったことや,同⑪のように,被告人がA2らと2回目の入札に関して善後策を検討した際,被告人が「今更はしごを外すようなことはしないでください」と発言したことは,むしろ,被告人がA2らと共に当初から株式会社B1に本件工事を落札させようと考え行動していたことと整合すること,⑥その他,被告人の公判供述は,捜査段階の供述と対比して,全体的に曖昧で一貫性にも欠けるきらいがあり,信用できるA4及びA2の供述並びにA1の捜査段階の供述と多くの点で食い違うことやA4ら作成にかかる手帳やメモの記載内容とも整合性に欠けることなどの諸事情を考慮すれば,被告人の公判供述中,A4らの供述と相反する部分は信用できない。
(5) 検討
以上を踏まえて,被告人が本件談合の共謀をしたと認められるかについて検討する。
ア 株式会社B1は,P会談以前の段階から本件清掃工場の建設工事の受注を目指していたことが窺われるが,発注者側の「天の声」が業者間の受注調整において最も有力な条件とされていること,営業担当のA4が積極的に本件工事の受注に向けて動き出したのがP会談以後のことであり,P会談の出席者である被告人と本件工事のことに関して頻繁に接触を持ち続けていたこと,株式会社B1に本件工事を受注させるというP会談における方針がその後も維持され,最終的に,その方針どおりに株式会社B1が本件工事を落札していることからすれば,P会談が本件談合に及ぼした影響はかなり大きかったものと評価できる。
この点につき,弁護人は,P会談の時点で本件工事の内容が具体的に決まってもおらず,その段階から共謀が始まったとみるのは時期尚早である旨主張するが,前記(2)ウ(ア)のとおり,その時点において,本件清掃工場の建設工事にかかわる業者間の条件闘争は既に開始していたといえるから,「天の声」が出せる立場にあるa市長のA1も出席する中で,本件清掃工場予定地の隣地の話題が出たことを契機として,それに備えて株式会社B1がその受注をA1らに働きかけ,これに関する共謀が開始されたとしても何ら不自然不合理ではないから,弁護人の前記主張は採用できない。
イ 被告人は,株式会社B1が本件工事に対する受注意欲を有していることを知りながら,たびたび株式会社B1側にこれに関わる議会資料を提供したり,入札の情報を伝達したりしていた上,談合捜査に詳しい大阪府の現職警察官A2にP会談の状況等を打ち明けた上,同人をA4と引き合わせるなどもしており,かかる便宜供与は,株式会社B1の当該受注意欲を一層強固にするのに役立ち,本件談合をかなり促進させたとみるのが相当である。
この点につき,弁護人は,被告人において,株式会社B1が本件工事を受注するのに効果的な行動をしていない旨主張する。しかしながら,業界の受注調整のルールに従えば,一般的に入手可能な議会資料を,被告人の手を通じてより早く入手することには十分意味があったといえるし,プラントと建屋の工事ないし設計の分離発注に関しても,被告人及びA1が2度にわたりA2を通じてa市幹部職員に対して,株式会社B1の意向に沿う働きかけをしたことは,検討会議及び検討委員会の組織構成や運営状況等からして,それらにまったく影響を及ぼし得なかったとは考えがたい。しかも,a市議会議員である被告人としては,その職務上,同市発注の公共工事において談合などの不正行為が行われた場合には,それを議会等で問題化するなどして,当該不正行為を容易に追及,阻止できる立場にあったといえ,かかる行動を全くしなかったこともまた,本件談合の成立に大きく資したものといえる。したがって,弁護人の前記主張は採用できない。
ウ 本件工事を株式会社B1に落札させることは,少なくとも平成15年にOが市議会議員を引退するまでは,同人と政治的対立関係にあり,その影響力を弱めることを目指していた被告人及びA1にとって十分有益な意味を持っていたといえるし,Oの政界引退後においても,被告人が後記第3のとおり本件工事に関して株式会社B1から3000万円もの高額の賄賂を収受していることからすれば,被告人にとって依然として非常に重要な意味を持っていたといえる。
エ 以上を総合すれば,被告人は,事前に本件談合が行われることを知っていたにとどまらず,まさに自己の犯罪としてこれに加担したものといえるから,本件談合の共謀共同正犯と認めることができる。
4 A8の共謀について
なお,検察官は,A8についても本件談合の共同正犯として公訴提起をしているが,全証拠を子細に検討しても,A8において本件談合を被告人を含む他の関係者と共謀したことが合理的な疑いを容れない程度に立証されているとは認められないから,A8は本件談合の共犯から除外して判示第1のとおり認定した。
第3収賄について
1 関係各証拠によれば,前記第2で認定した事実関係の概要に加え,以下の事実が認められる。
(1) 被告人は,平成17年10月上旬ころ,Eに,大阪府議会議員選挙に出ることを打ち明け,「株式会社B1が本件工事を受注してくれることになったようなので,工事額からして1億円何とかならないか」と相談したところ,Eから「本件工事が株式会社B1の希望通りの額になっていないので難しいでしょう」と言われ,A4と直接話すことを勧められた。
(2) 被告人は,同月12日,b市内のホテルにA4を呼び出し,「本件工事を株式会社B1が受注した暁には,2パーセントの謝礼を用意してほしい」と言った。これに対して,A4は,無理であると回答したが,被告人は,「考えておいてください。」と言って,その場を立ち去った。
(3) 同年11月の初旬から中旬にかけて,Eが被告人に「被告人の希望額は無理であるが,現実問題としていくらくらいを考えているのか」と聞いてきたので,被告人は,「5つくらい無理ですか」と言って,5000万円を提示した。
(4) 本件工事は,株式会社B1と株式会社B2のJVが同月10日に落札したが,その1週間後ころ,A4は,Eから「被告人が5000万は見てほしいと言っている」と言われたことから,Eに「せめて2000万ぐらいで話がつかないか」と答えた。その後,A4は,Eから「どうしても3000万でないと被告人に納得してもらえない」と言われ,本件工事の請負契約の議会承認が近づいていたことや,被告人を通じて長年にわたって議会資料を受けとっていたこともあり,やむなくその申し出を了承した。
(5) 被告人は,同年12月初旬ころ,Eから「3000万円が限度である」と言われてこれを了承した上,「できるだけ早くお願いします」と依頼した。その際,被告人は,Eから「今後も株式会社B1のために便宜を計って欲しい」と言われた。
(6) 同月5日,本件工事の請負契約締結の議案がa市議会で審議され,落札率が高率であることから談合の疑いがあると執拗に追及する議員もいたが,その議決では,被告人も賛成してこれが承認された。その当日か翌日ころ,被告人は,A4に電話をして「いろんなごじゃごじゃ言う人がおったけども,何とか議会承認ができた」と言うと,A4は,「ありがとうございました」とお礼を言った。
(7) A4らは,判示第2のとおり,平成18年2月下旬ころから同年4月下旬ころまでの間,いずれも現金1000万円ずつ3回にわたり,合計3000万円(以下,「本件現金」という。)を被告人に交付した。
2 なお,被告人は,公判廷において,①A4に資金提供を申し入れたのは,平成17年12月ころのことで,場所もホテルではなく被告人方であった,②株式会社B1には数百万円程度しか出してもらえないだろうと思っていたので,3000万円も出してもらえると聞いて驚いた,受領した3000万円の大部分はEが出しているのではないかと思った旨弁解しているが,前記1の認定に沿うA4の供述及び被告人の捜査段階の供述は,相互によく符合している上,符合にかかる部分については特段不合理,不自然な点も認められないのに対し,前記①の点については,何ら具体的な根拠に基づいておらず,被告人がそのことを思い出したとする端緒についても合理的な説明がなく,前記②の点についても,Eと被告人との関係等に照らすと,Eが3000万円の大部分を個人的に負担するということ自体,著しく不自然で合理性を欠いているばかりでなく,被告人自身がA4に対して,本件工事の受注がらみで直接金銭を要求したこともあった上,Eを介して要求金額を徐々に下げていったという被告人の前記客観的な行動にも著しくそぐわないことからすれば,当該弁解は到底信用できない。
3 そこで,以上を前提に,被告人に収賄罪が成立するか否かについて検討する。
(1) 職務権限
a市議会議員の職務行為には,議会の議決すべき事件について議案を提出する権限(地方自治法112条1項),提出された議案について発言,質疑,討論する権限(a市議会会議規則51条ないし62条),表決に参加する権限(同法116条1項等)及び市の一般事務について質問する権限(同規則63条ないし65条)等がある。
(2) 資料提供について
関係各証拠によれば,被告人は,平成7年5月1日から平成19年3月22日までa市議会議員の職にあり,同議員として定例会,全員協議会,建設常任委員会及び建設委員協議会に出席するとともに,平成12年ころからは,これらの会議のため配布された各種資料(以下,「議会資料」という。)のほとんどをEを介して株式会社B1側に渡していたことが認められるところ,議会資料は,議員がその職務である定例会等で発言,質疑及び討論を行うために配布されるものであるから,被告人が議員として入手した議会資料を第三者に提供することは,被告人の職務に密接に関連する行為といえる。
なお,弁護人は,定例会等が公開されており,議会資料についても公開されていて,誰にでも入手可能であることを根拠として,その提供は,被告人の市議会議員としての職務に関連しない旨主張する。しかしながら,a市職員Wの供述(甲86〔同意部分〕)によれば,議会資料の多くは公開されているものの,議会資料の中には公開されない情報も一部含まれていること,公開される議会資料は,議会等の傍聴席に備え付けられてはいるものの,傍聴人全員に交付されるものではなく,7部ほどが備え付けられているに過ぎない上,傍聴席からの持ち出しが厳禁されていて,公開されないものもあり,公開されたものについても,入手を希望する者は行政資料コーナーでの閲覧謄写の手続が必要なことがそれぞれ認められ,被告人が株式会社B1側に渡していた議会資料は,議員以外の者が,議員と同じ条件で早急にその全てを入手できる性質のものではない。しかも,受注調整にかかる建設業界のルールの下では,当該公共工事にかかる資料を他の業者に先立って1日でも早く入手することにも大きな意味があることが認められるから,被告人に配布された議会資料を幅広く被告人自身の手によっていち早く入手することは,株式会社B1にとって重要な意味を持っていたといえる。したがって,弁護人の前記主張は採用できない。
(3) 議会承認について
前記1(4)でみたとおり,A4としては,主に被告人が本件工事の請負契約の議会承認に賛成してくれたことなどに対する謝礼の気持ちから,被告人に本件現金を交付したものと認められるところ,被告人は,当該3000万円が議会承認で賛成することの対価であるとは考えていなかった旨弁解する。
しかしながら,①被告人が,当初,本件工事の受注額を基準として,A4に謝礼の支払いを求めていること,②被告人が謝礼の支払いを求めた時期が,本件工事をB1・B2JVが落札し,その請負契約の議会承認が問題となっていた時期と重なること,③株式会社B1側が被告人に謝礼を支払う理由としては,前記(2)の資料提供のほか,A2を紹介したことなどが考え得るが,それらの対価としてだけでは,3000万円はあまりに高額に過ぎること,④他方,被告人が議会承認の過程で受注調整が行われた事実をリークするなどすれば,本件工事の請負契約締結が頓挫し,株式会社B1に多大な損失が発生しかねない状況にあったこと,⑤建設会社の代表者を務めたことがあり,それまで約10年間の市議会議員の経験もあった被告人が,前記③及び④の事情を認識できなかったなどとは考えがたいこと,⑥議会承認後,被告人は,前記1(6)のとおり速やかにA4に電話をかけ,前記契約が承認されたことを知らせており,議員として自らの果たした役割を株式会社B1側に印象づけようとしたとみうる行動も取っていることなどを考慮すれば,被告人が,前記のようなA4の趣旨を認識せずに本件現金を収受したとはおよそ考えられない。
そして,被告人が本件工事の請負契約締結議案の議会承認の表決に参加することが,市議としての職務行為そのものであることは明らかである。
(4) 結論
以上によれば,被告人は,市議会議員としての職務に関し,本件現金を収受したことが優に認められるから,被告人には判示第2の収賄罪が成立する。
(法令の適用)
省略
(量刑の理由)
1 本件は,大阪府a市議会議員であった被告人が,同市が制限付き一般競争入札に付した清掃工場の土木建築工事に関して,(1)当時のa市長,大阪府警察官,株式会社B1その他の建設会社の営業ないし談合担当者らと共謀の上,入札の公正な価格を害する目的で談合し,さらに,(2)株式会社B1の営業担当者らから自己の職務に関し,現金合計3000万円の賄賂を収受したという談合,収賄の事案である。
2 まず,本件談合についてみるに,その経緯及び状況は,(事実認定の補足説明)の項で詳述したとおりであるところ,被告人は,親密な関係にあった市長とともに,当時,a市の公共工事の受注に大きな影響力を持ち,政治的に被告人らと対立していた市議会議員を同工事から排除することを目的として,長年にわたる談合慣行によって関西地区の公共工事の受注調整を主導していた株式会社B1の関係者らと直接面会して,a市の公共工事予定等を説明した上,同社の受注調整によって,同議員の前記影響力を排除するよう依頼し,その一環として,本件清掃工場建設工事を株式会社B1が談合により落札受注することを了承し,その後,同議員が議員を引退したにもかかわらず,なおも同社との関係を解消することなく,受注に意欲的な株式会社B1による落札をめざした活動を積極的に支援し,この間,被告人自身も,次第にその報酬として株式会社B1からの資金提供を期待するようになっていったものであり,本件談合に関与した経緯や動機において全く酌むべきものは認められない。
本件談合の犯行態様は,a市の最高責任者である市長,その腹心市議である被告人,警察官,株式会社B1を含むゼネコン各社の営業ないし談合担当者ら多数の者が,それぞれの役割を事実上分担し合った上,相当長期間にわたって様々な事前工作を経た上,談合の協定が発覚しないよう各自が慎重に行動しつつ敢行された大規模で計画的かつ巧妙なもので相当に悪質である。被告人は,前記のように市長と一緒に株式会社B1関係者と面談してa市の公共工事の受注調整を積極的に働きかけたのみならず,株式会社B1営業担当者らに本件工事に関する市議会資料や情報の提供等を頻繁に繰り返してその便宜を図ったり,途中からは談合捜査に詳しい現職警察官も計画に引き込んで,株式会社B1とa市側との連絡調整役として,積極的に活動させたものであって,本件で被告人が果たした役割には大きなものが認められる。
本件工事は,予定価格が56億円を超える高額の大規模公共事業であるところ,本件談合の結果,予定価格の約98.42パーセントという高率で協定どおりに株式会社B1が落札しており,それによって,入札における健全な自由競争が大きく阻害されたばかりでなく,株式会社B1が多額の不正な利益を獲得できる地位を確保した一方で,a市にとっては無用な公金の支出を余儀なくされる事態を招いたことは明らかである。また,市議会議員である被告人に加え,同市の最高責任者である市長及び本来談合を取り締まるべき立場にあった警察官までもが,それぞれの私利や私欲等にかられて,かかる談合に深く関与したことが社会に与えた衝撃も見過ごせない。
3 次に,本件収賄についてみるに,被告人は,同族会社の経営破綻により多額の債務の返済を余儀なくされていたことに加え,平成17年夏ころまでには大阪府議会議員選挙への出馬を打診されていて,その選挙費用の捻出も必要になり,まとまった資金欲しさから同犯行に及んだもので,利欲的で身勝手な犯行動機に酌量の余地は寸毫も認められない。
なるほど株式会社B1が,自社の利益を図るため,被告人から市議会の情報を得たり市側に種々の不正な働きかけをしたりしたことは非難に値するものの,同社は,その件で当初から被告人への贈賄を考えていたわけではなく,被告人の方から,本件工事受注に便宜を図ったことで現金の提供を求められ,それが本件工事の本契約締結の市議会承認前という微妙な時期であったことから,やむなくこれに応じるに至ったもので,被告人も,そのような状況を利用したとみられることに加え,被告人は,知人の建設会社社長を介したり,自ら前面に出たりして,本件清掃工場建設工事の落札額の2パーセントにあたる額を要求して株式会社B1側と交渉するなど,本件は,収賄側が積極的に働きかけたいわゆる要求型の事件である上,その手口は巧妙かつ悪質なものである。
そして,被告人が収受した賄賂は現金3000万円と高額である上,被告人は,それらを借金返済や選挙費用等にすべて費消しており,かかる収賄が,市議会議員としての職務の廉潔性を大きく侵害したのみならず,被告人に期待を寄せていたa市民の信頼を著しく損なわせたことは明らかである。
4 しかも,被告人は,当公判で本件談合及び収賄の各事実を争い,不自然不合理な弁解をしており,被告人が自己の刑責と真摯に向き合い反省していると評価することはできない。
以上によれば,犯情はかなり悪く,被告人の刑事責任は重いといわなければならない。
5 そうすると,被告人が,大阪府議会議員を既に辞職していることに加え,本件がマスコミ等で大きく報道されるなどしたことにより一定の社会的制裁を受けていること,証人として出廷した妻及び後援会関係者らが被告人の監督と更生への協力を誓約していること,被告人に前科がないこと,被告人が50万円を贖罪寄附していること,その家庭事情など,被告人のために酌むべき事情を十分考慮しても,被告人に対しては,主文の実刑をもって臨むのが相当である。
よって,主文のとおり判決する。
(求刑・懲役5年,金3000万円の追徴)
(裁判長裁判官 樋口裕晃 裁判官 能宗美和)
裁判官橋本健は転補のため署名押印できない。裁判長裁判官 樋口裕晃