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大阪地方裁判所 平成19年(わ)4964号 判決 2007年12月21日

主文

被告人を懲役2年6月及び罰金100万円に処する。

その罰金を完納することができないときは,5000円を1日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判が確定した日から3年間その懲役刑の執行を猶予する。

被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。

被告人から22万8000円を追徴する。

理由

(犯罪事実)

当裁判所が認定した犯罪事実は,平成19年9月7日付,同月21日付,同月28日付各起訴状記載の公訴事実のとおりであるから,これらを引用する(9月7日付起訴状記載の公訴事実1を「判示第1の1」,同公訴事実2を「判示第1の2」,同月21日付起訴状記載の公訴事実を「判示第2」,同月28日付起訴状記載の公訴事実を「判示第3」とする。)。

(証拠) 省略

弁護人は,乙号証の一部について弁護権を侵害したことによる違法収集証拠である旨主張するが,弁護人の主張する点に違法はないと認められるから,その証拠能力に問題はなく,弁護人の主張に理由はない。

(補足説明)

判示第1の2の点について,弁護人は,被告人は所持していた外付けハードディスク自体を販売する目的はなかったから,これについて提供目的での所持罪は成立しない旨主張する。しかし,本件外付けハードディスク自体は児童ポルノであるところ,被告人は,この外付けハードディスクに記憶,蔵置された画像データをDVDに記憶させて,そのDVDをインターネットを利用して販売する意思であったから,本件外付けハードディスクの所持は,不特定多数の者に児童ポルノを提供する目的で行われたものというべきである。したがって,弁護人の主張は採用できない。

判示第3の事実について,弁護人は,①入金された各金額にはDVDの送料も含まれているから,その分は犯罪収益にあたらない,②本件DVDの提供代金は,前払いであり,入金された時点では,提供罪に着手していなかったから,犯罪収益にあたらない旨主張する。しかし,①犯罪収益とは犯罪行為により得た財産をいうところ,本件で問題となっている財産は,被告人が児童ポルノの販売代金として購入者に振り込み入金させたものであり,仮に後日その金額の中から,送料が支出されたとしても,受領した金額の全てが犯罪収益にあたると解すべきである。また,②法の趣旨に照らすと,当該財産を取得した時点で,前提となる犯罪が既遂になっていることは要しないと解すべきである。したがって,弁護人の各主張は理由がない。

(法令の適用)

罰条 判示第1 包括して児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条4項前段,5項前段,2条3項3号

判示第2 児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律7条5項前段,4項前段,2条3項

判示第3 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律10条1項前段

刑種の選択 いずれも懲役刑及び罰金刑

併合罪加重 懲役刑について刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重)

罰金刑について刑法45条前段,48条2項

労役場留置 刑法18条

刑の執行猶予 刑法25条1項

保護観察 刑法25条の2第1項前段

追徴 組織的な犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律16条1項本文,13条1項1号

(量刑の理由)

本件は,インターネットを利用して児童ポルノであるDVD1枚を販売提供し,同様のDVDの販売代金合計22万8000円を他人名義の預金口座に入金させて,犯罪収益の取得につき事実を仮装し,児童ポルノである画像データを記憶・蔵置させたハードディスク1台を所持し,児童と性交する姿態等をビデオ撮影し,児童ポルノを製造した事案である。被告人は,数年間にわたり,インターネットを利用して,不特定多数の者に児童ポルノであるDVDを継続的に販売し,少なくとも1800万円という多額の利益を得ていたものであり,その間に,販売する目的で自分が児童と性交する場面等を撮影して児童ポルノを製造することもしており,本件は,そのような常習的職業的な犯行の一環として行われた悪質な犯行であって,利欲的かつ自己中心的な犯行動機に酌量の余地はない。また,15歳の児童に対し,同人がファンであるミュージシャンになりすまして,被告人との性交及び性交場面等の撮影に応じさせており,このような犯行態様も悪質であって,児童を性欲及び利欲の対象ととらえる被告人の態度は非常に問題である。その児童の受けた精神的苦痛は大きく,被告人に対する処罰感情は厳しい。さらに,児童の権利擁護のため,児童ポルノに係る行為の厳しい取締りが国際的に強く要請されていることも,量刑上無視できない。したがって,被告人の刑事責任は重い。

しかし,被告人は,各事実を認め,50万円を贖罪寄付するなどして反省の態度を示し,同じ過ちを繰り返さない旨述べていること,母が今後の監督を約束し,被告人もこれに従って更生する意欲を示していること,前科前歴がないこと等被告人のために酌むべき事情もある。

そこで,これらを総合考慮して,主文のとおり量刑した上,その懲役刑の執行を猶予し,その猶予の期間中,保護観察に付するのが相当である。

(求刑 懲役2年6月及び罰金100万円,追徴22万8000円)

(平成19年9月7日付け起訴状の公訴事実)

公訴事実

被告人は,インターネット上に開設したホームページ等を利用して,不特定又は多数のインターネット利用者を対象として児童ポルノを販売して提供しようと企て

1 平成19年4月24日ころ,不特定の者であるCに対し,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノであるDVD1枚を,名古屋市<以下省略>の同人方に郵送して代金3,500円で販売して提供し

2 不特定又は多数の者に提供する目的で,同年8月20日,神戸市<以下省略>の被告人方において,衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである画像データを記憶・蔵置させたコンピュータ外付けハードディスク1台を所持し

たものである。

(平成19年9月21日付け起訴状の公訴事実)

公訴事実

被告人は,インターネット上のオークション等を利用して,インターネット利用者である不特定又は多数の者に提供する目的で,平成18年10月26日午後9時11分ころから同月27日午後1時22分ころまでの間,大阪市<以下省略>所在のホテル▲▲506号室において,D(平成3年○月○日生,当時15年)が18歳に満たない児童であることを知りながら,ビデオカメラを使用し,同児童をして,同児童を相手方とする性交に係る姿態,被告人が同児童の陰部等を触る姿態及び全裸で殊更に陰部を露出させた姿態をとらせた上,これを撮影し,その画像を前記ビデオカメラ内に設置された8ミリビデオカセットに記録させ,もって児童を相手方とする性交に係る児童の姿態並びに他人が児童の性器等を触る行為に係る児童の姿態及び衣服の全部を着けない児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した児童ポルノである8ミリビデオカセット1巻を製造したものである。

(平成19年9月28日付け起訴状の公訴事実)

公訴事実

被告人は,18歳に満たない児童を相手方とする性交に係る児童の姿態等を撮影し記録した児童ポルノであるDVDを不特定多数の者に有償で提供していたものであるが,別紙犯罪事実一覧表記載のとおり,平成18年10月16日ころから同年12月1日ころまでの間,9回にわたり,Aほか8名をして,犯罪収益である前記DVDの提供代金合計22万8,000円を,大阪府八尾市<以下省略>所在の株式会社近畿大阪銀行八尾中央出張所ほか8か所から大阪市<以下省略>所在の株式会社三菱東京UFJ銀行心斎橋支店に開設され被告人が管理する借名口座であるB名義の普通預金口座に振込入金させて同口座に預け入れ,もって犯罪収益等の取得につき事実を仮装したものである。

別紙

犯罪事実一覧表

購入

提供価格

代金振込日

(平成18年)

振込元銀行名等

備考

1

A

2万3,000円

10月16日

株式会社近畿大阪銀行

八尾中央出張所

大阪府八尾市<以下省略>

2

E

2万3,000円

10月16日

株式会社伊予銀行大街道支店

松山市<以下省略>

3

F

2万3,000円

10月19日

株式会社三菱東京UFJ銀行

横浜西口支店

横浜市<以下省略>

4

G

2万3,000円

10月19日

株式会社大分銀行中津支店

大分県中津市<以下省略>

5

H

2万3,000円

10月25日

株式会社福岡銀行

テレフォンバンキング

サービス

6

I

2万3,000円

10月26日

株式会社愛媛銀行伯方支店

愛媛県今治市<以下省略>

7

J

3万円

11月13日

株式会社滋賀銀行中主支店

滋賀県野洲市<以下省略>

8

K

3万円

11月24日

株式会社北洋銀行釧路中央支店

北海道釧路市<以下省略>

9

L

3万円

12月1日

株式会社ジャパンネット銀行

インターネットバンキング

合計

22万8,000円

(振込日については,いずれもそのころ)

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