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大阪地方裁判所 平成19年(ワ)8023号 判決 2009年4月23日

大阪府豊能郡<以下略>

原告

特定非営利活動法人

アニマルレフュージ関西

上記訴訟代理人弁護士

植田勝博

細川敦史

大阪市都島区<以下略>

ARK-ANGELS(アーク・エンジェルズ)こと

被告

P1

同訴訟代理人弁護士

橋口玲

太田健義

主文

1  被告は,その製造,販売するブルゾン,Tシャツ,キャップ,カレンダーに別紙被告表示目録記載の表示を付してはならない。

2  被告は,別紙被告表示目録記載の表示を付したブルゾン,Tシャツ,キャップ,カレンダーを製造し,販売し,または販売のために展示してはならない。

3  被告は,第1,第2項のほか,動物を扱う事業及びこれに付帯する事業において,別紙被告表示目録記載の表示を使用してはならない。

4  被告は,別紙被告表示目録記載の表示を付したブルゾン,Tシャツ,キャップ,カレンダーを廃棄せよ。

5  被告は,看板,事務所テント,名刺,パンフレットから,別紙被告表示目録記載の表示を抹消せよ。

6  被告は,「ark-angels.jp」のドメイン名を使用してはならない。

7  被告は,インターネット上のアドレス「http://ark-angels.jp」において開設するウェブサイトから,別紙被告表示目録記載の表示を抹消せよ。

8  被告は,原告に対し,110万円及びこれに対する平成19年1月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

9  原告のその余の請求を棄却する。

10  訴訟費用は,これを2分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。

11  この判決は,第1ないし第3項,第6,第8項に限り,仮に執行することができる。

事実及び理由

第1当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  被告は,その製造,販売するブルゾン,Tシャツ,キャップ,カレンダー等に別紙被告表示目録記載の表示を付してはならない。

(2)  被告は,別紙被告表示目録記載の表示を付したブルゾン,Tシャツ,キャップ,カレンダー等を製造し,販売し,または販売のために展示してはならない。

(3)  被告は,別紙被告表示目録記載の表示を使用してはならない。

(4)  被告は,別紙被告表示目録記載の表示を付したブルゾン,Tシャツ,キャップ,カレンダー等を廃棄せよ。

(5)  被告は,看板,事務所テント,名刺,パンフレット,その他の営業表示物件から,別紙被告表示目録記載の表示を抹消せよ。

(6)  被告は,「ark-angels.jp」のドメイン名を使用してはならない。

(7)  被告は,インターネット上のアドレス「http://ark-angels.jp」において開設するウェブサイトから,別紙被告表示目録記載の表示を抹消せよ。

(8)  被告は,原告に対し,550万円及びこれに対する平成18年11月1日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

(9)  訴訟費用は被告の負担とする。

(10)  仮執行宣言

2  被告

(1)  原告の請求をいずれも棄却する。

(2)  訴訟費用は原告の負担とする。

第2事案の概要

1  前提事実(証拠等の掲記のない事実は,当事者間に争いがない。)

(1)  当事者

ア 原告

原告は,平成11年9月6日設立された特定非営利活動法人で,登記簿の目的欄には「動物の保護及びその里親探し,動物の飼育管理の指導など動物愛護と動物福祉に関する事業を行い,動物を通じて幅広い社会的情操教育の普及指導及び他の動物福祉団体の活動に貢献することにより,人間と動物が真に共存共栄できる社会の創造に寄与することを目的とする。」と記載されている(甲2)。

イ 被告

被告は,「ARK-ANGELS(アーク・エンジェルズ)」と称する,動物愛護を目的とする団体の代表者である。

(2)  原告の活動の概要

ア 原告代表者であるP2(以下「P2」という。)は,平成2年,「Animal Refuge Kansai」の名称のもと,動物福祉活動を開始し,その後,前記(1)アのとおり,原告を設立した。

原告の正式名称は「特定非営利活動法人アニマルレフュージ関西」であるが,その活動に際し,「ARK」,「アーク」,もしくは,この両者を併記した表示を使用している(以下,「ARK」を原告表示1,「アーク」を原告表示2といい,これらを併せて原告各表示という。)。

なお,「ARK」の称呼の内容,「アーク」の使用の有無,上記各表示の出所表示機能の有無について,後記(争点1)のとおり,争いがある。

イ 物品等の販売

原告は,収益事業として,動物預り事業と物品販売事業を行っており,これらの物品にも原告各表示を使用している。

(3)  被告の活動の概要

ア 被告は,平成15年ころから,動物愛護の活動に関与していたが,平成17年ころから,原告の活動に関与するようになった。

その後,被告は,独自に活動を行うようになり,その活動に際し,「ARK-ANGELS」など別紙被告表示目録記載の各表示(以下,同目録に記載された順に「被告表示1」ないし「被告表示4」といい,これらを併せて「被告各表示」という。)を,被告を表示するものとして使用している。

なお,これが不正競争防止法上の商品等表示にあたるか否かについては,後記(争点2)のとおり争いがある。

イ 物品の販売

被告は,被告各表示を付したブルゾン,Tシャツ,キャップ,カレンダー等の物品を,後記ウェブサイト上で,展示,販売している。

ウ 看板等の表示

被告は,その活動をするに際し,看板,事務所テント,名刺,パンフレット等の物件に,被告各表示を付している。

エ ウェブサイトの開設

被告は,ウェブサイトを開設し(ドメイン名:ark-angels.jp),被告の活動を掲載しているが,その中で,被告各表示を使用するとともに,前記イのとおり,ブルゾン等の物品を展示,販売している。

2  原告の請求

原告は,被告に対して,被告各表示の使用行為が,①不正競争防止法2条1項1号所定の不正競争行為,②同項2号所定の不正競争行為,③商法12条所定(ないしその類推適用)の名称使用行為,④人格権侵害行為(民法709条所定の不法行為)に該当するとして,これらを選択的に主張して,被告各表示及び「ark-angels.jp」のドメイン名の使用差止及び被告各表示を付した物品等の廃棄,被告のウェブサイトからの被告各表示の抹消を求めるとともに,損害賠償として慰謝料500万円,弁護士費用50万円の合計550万円及びこれに対する平成18年11月1日から支払済みまで民法所定年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている。

3  争点

(1)  原告各表示が不正競争防止法2条1項の商品等表示に該当するか否か(争点1)

(2)  被告各表示が,不正競争防止法2条1項の商品等表示に該当するか否か(争点2)

(3)  不正競争防止法2条1項1号,2号に基づく差止請求が認められるか否か

ア 原告各表示が著名性(2号)又は周知性(1号)を有するか否か(争点3-1)

イ 原告各表示と被告各表示が類似するか否か(争点3-2)

ウ 被告が被告各表示を用いることにより,原告の営業と被告の営業との間に混同のおそれがあるか否か(1号)(争点3-3)

(4)  商法12条に基づく差止請求が認められるか否か(争点4)

(5)  不法行為に基づく差止請求が認められるか否か(争点5)

(6)  名称使用許諾

ア 原告が,被告に対し,アークエンジェルズの名称の使用を許諾したか否か(争点6-1)

イ 原告の被告に対する名称使用の契約の解除が認められるか否か(争点6-2)

(7)  原告の損害額(争点7)

4  争点に関する当事者の主張

(1)  争点1(原告各表示が不正競争防止法2条1項の商品等表示に該当するか否か)について

【原告の主張】

ア 原告が不正競争防止法上の事業者に該当すること

原告は,特定非営利活動に係る事業のために,一部収益事業(動物預り事業,物品販売事業)をも目的とし,カレンダーをはじめ,Tシャツ,書籍,ステッカー,ストラップ,ポストカード等の各種商品を販売している。

また,原告にとって,動物愛護活動のための資金の中核は,一般からの寄付や会員からの年会費(最低額3000円,最高額12万円)であり,平成17年度ないしそれ以前の数年間は,おおむね年間約3000万円の会費収入があった。

したがって,原告は,原告各表示を使用する場合は,営業表示として使用していることとなる。

イ 原告が自己の営業表示として「ARK」(原告表示1)だけでなく「アーク」(原告表示2)を使用していること

(ア) 原告の略称について

P2及び原告の長く地道な活動,マスコミを通じた啓蒙活動等により,後記(3)【原告の主張】のとおり,「ARK」及び「アーク」は,原告の略称として全国的に知られており,原告の営業を表示するものとして使用されている。

(イ) 関係者等における原告の名称について

原告は,動物愛護の関係者間において,「アニマル・レフュージ・カンサイ(Animal Refuge Kansai)」と呼ばれたり,表示されることは一般になく,「アーク(ARK)」と呼ばれたり,あるいは表示されている。

また,新聞記事や雑誌等のほとんどにおいても,原告(NPO法人化以前を含む)は,「アニマル・レフュージ・カンサイ」の名称と並んで,「アーク」及び「ARK」の略称が合わせて紹介されている。

【被告の主張】

ア 原告が不正競争防止法上の事業者に該当しないこと

原告は特定非営利活動法人であり,不正競争防止法上の「事業者」に当たらない。たしかに,判例上,宗教法人にも同法の適用が認められているが(最高裁判所平成18年1月20日判決),同判決は,「それ自体を取り上げれば収益事業と認められるものであっても,教義の普及伝道のために行われる出版,講演等本来的な宗教活動と密接不可分の関係にあると認められる事業についても,本来的な宗教活動と切り離してこれと別異に取り扱うことは適切でないから,同法の適用の対象外であると解するのが相当である。」と判示している。

動物愛護団体については,事業者間の公正競争は想定し得ないから,同法の目的理念の一つである客観的な取引経済秩序の公正維持ひいては消費者保護の観点が及ばない。したがって,特定非営利活動法人である原告の活動を事業活動と評価すべきではない。原告は,物品の製作販売を商行為であると主張しているが,上記製作販売の目的は動物愛護活動を広めることにあり,本来的な動物愛護活動と密接不可分な行為であって,事業活動とみなされるべきではない。

なお,原告は,事業資金の中核は収益事業ではなく一般からの寄付や会員からの年会費であると主張しているが,そうすると,原告の中心的活動は動物愛護活動という非営利活動ということになる。

したがって,原告は,原告各表示を使用しても,営業表示として使用しているわけではない。

イ 原告が「アーク」を自己の営業表示として使用していないこと

(ア) 原告が「ARK(アーク)」の略称で長年活動を続けており,この略称で全国的に知られていることは否認する。

(イ) 新聞記事(甲1の1ないし1の3)を見れば分かるとおり,原告のことを「ARK」と紹介することはあっても,名称としては「アニマル・レ(リ)フージュ・カンサイ」と記載されており,「アーク」とは紹介されていない。「ARK」は「エイアールケイ」とも読むことができるから,「ARK」=「アーク」ではない。

(2)  争点2(被告各表示が不正競争防止法2条1項の商品等表示に該当するか否か)について

【原告の主張】

ア 被告は,不正競争防止法上の事業者に該当する。

被告は,物品を販売するほか,「広島ドッグぱーく事件」を通じて,莫大な収益を上げている。

イ 被告は,物品販売に際して,被告各表示を使用しており,被告各表示は,不正競争防止法2条1項の商品等表示に該当する。

また,被告はウェブサイトを開設しているが,そのドメイン名「ark-angels.jp」もまた同条項の商品等表示に該当する。

【被告の主張】

被告は不正競争防止法上の事業者に該当しない。

前記(1)のとおり,特定非営利活動法人に不正競争防止法の適用はないと考えるべきであるが,被告は,法人ですらなく,個人的に動物愛護団体を主宰している者であるから,同法の適用を受けるべきではない。

被告は,物品を販売したりしているが,原告と同様,物品の販売は動物愛護活動を広めるためであるから,事業活動とみなされるべきではない。

(3)  争点3-1(原告各表示が著名性又は周知性を有するか否か)について

【原告の主張】

P2は,平成2年から,「Animal Refuge Kansai」及び「ARK(アーク)」の名称ないし略称を使用して動物福祉活動を開始し,平成11年9月6日,特定非営利活動法人として原告が設立された後,原告は,動物福祉活動の組織として高い知名度を有し,高い信用,評価を得ている。原告は,テレビや新聞等で紹介されるときには「ARK(アーク)」の略称が表示されてきた。

その結果,「ARK(アーク)」は,全国の一般視聴者・読者,動物愛護団体・動物福祉団体に広く認識されており,原告各表示は,遅くとも平成7年1月の阪神・淡路大震災の直後から平成11年ころまでには,日本全国においてもっとも有名な動物愛護団体の略称として,圧倒的な知名度を有するに至っており,そのころ周知性とともに著名性を取得している。

【被告の主張】否認ないし争う。

(4)  争点3-2(原告各表示と被告各表示が類似するか否か)について

【原告の主張】

被告表示3,4は,「アーク」と「エンジェルズ」の文字で構成される。

「アーク」は,著名な動物愛護団体である原告の略称を意味するから,「アーク」の文字を用いる限り,少なくとも動物に関わる組織・団体の名称に付するのであれば,「アーク」の後にいかなる言葉が付されていようとも,「アーク」と類似すると認められる。また,「エンジェルズ」は「天使」の意味であるから,「アーク・エンジェルズ」は,「アーク(から)の天使」という意味であり,「アーク」との系列関係があるとの印象を抱かせる言葉である。

なお,「アーク・エンジェルズ」は,原告のプロジェクトとして,P2が名付けた名称であるから,他人に「アーク」との緊密な関連性を想起させ,「アーク」の活動の名称として混同を生じさせる程度に酷似するのは至極当然であり,現に一般市民から原告宛てに,「アーク」と「アーク・エンジェルズ」を誤認混同する旨のメールが寄せられている(甲11)。

したがって,原告表示2(「アーク」)と被告表示3,4は類似する。

また,原告表示1(「ARK」)と被告表示1,2も,上記と同様の理由により類似する。

【被告の主張】

ア 前記(1)【被告の主張】のとおり,原告の略称(原告表示)は,「ARK」であって,「アーク」ではない。そして,「ARK」と「アークエンジェルズ」とでは,ローマ字とカタカナの違い,字数の違いなどがあるから,被告は原告の関連団体であると到底認識されるものではない。

また,「アーク」が原告の略称(原告表示)であるとしても,「アーク」と被告表示3,4は「アーク」という言葉しか重なっていない。しかも「アーク」は3文字・3音であるのに対して,「エンジェルズ」は6文字・5音であり,言葉(読み)の長さ自体も大きく異なる。さらに,「エンジェルズ」という言葉は「天使たち」という意味を示すものであるが,およそ動物愛護とは関係のない言葉である。

以上のことは「ARK」と被告表示1,2との間についても妥当し,両者は文字数からしても,字面からしても,およそ類似の名称とみることができない。

イ 原告の主張に対する反論

(ア) 原告は,「アーク・エンジェルズ」が「アーク(から)の天使」という意味と主張するが,そもそも「アークからの天使」と読むことはおよそできないし,「アークの天使」が原告の団体との密接な関係を一般的に連想させる言葉でもない。語数に照らすと,「アーク・エンジェルズ」という一連の名称と受け取る方が通常である。

(イ) 原告は,「アーク」は著名な動物愛護団体の略称であったと主張するが,もともと,原告の名称は「Animal Refuge Kansai」であって,「アーク」でも「ARK」でもないから,原告の主張は前提を欠いている。

(5)  争点3-3(被告が被告各表示を用いることにより,原告の営業との間に混同のおそれが生じているか否か)について

【原告の主張】

ア 被告各表示は,いずれも原告のフォスターホームプログラムの活動組織のための名称であり,原告の著名表示である「ARK(アーク)」に,日本語で「天使たち」の意味を有する「ANGELS」もしくは「Angels」,「エンジェルズ」を付け加えたものである。したがって,被告各表示は,「ARK(アーク)」と同一ないし,「ARK(アーク)」の活動ないし関連団体ないし活動を表示するものと認識されるものであり,被告自身も,設立当初は,「『アーク』の姉妹団体として結成されました。」と公表していた。

イ 被告は,平成18年10月以降,広島県内において閉鎖された犬のテーマパーク「広島ドッグぱーく」の犬のレスキューのために,救助資金を募り,1億数千万円の募金を集めたが,その後,その募金の使途が不明であるとして,寄付者から不満が出た。この問題がテレビなどで全国的に大きく報道されたことにより,全国の視聴者がアークエンジェルズと原告を同一または類似の団体であると誤認混同して問合せやクレームがあり,社会においては,アークエンジェルズの活動は原告が関与していると言われて,原告の信用は大きく毀損された。

原告の資金の中核は,一般からの寄付や会員からの年会費(最低額3000円,最高額12万円)によってまかなわれており,平成17年度(平成17年4月1日から平成18年3月31日まで)ないしそれ以前の数年間における会費収入は,おおむね年間約3000万円台で推移していたが,被告の「アーク・エンジェルズ」としての詐欺的な寄付金集めの疑惑の活動が頻繁にマスコミで取り上げられるようになったために,平成18年度(平成18年4月1日から平成19年3月31日まで)の会費収入は約1080万円と急激に3分の1以下に落ち込んでいる。

【被告の主張】

不知ないし否認する。

(6)  争点4(商法12条に基づく差止請求が認められるか否か)について

【原告の主張】

原告の主な業務は,動物の救済,保護,里親探しなどであるが,原告は財政的な目的でグッズを製作して販売をしており,商行為を行っている。このような場合,原告は,商法12条により,被告による被告各表示の使用の差止請求ができるし,また,同条の類推適用がなされるべきである。

【被告の主張】

不知ないし争う。

(7)  争点5(不法行為に基づく差止請求が認められるか否か)について

【原告の主張】

被告各表示は,そもそも,原告の実施するフォスターホームプログラムの活動ないし組織の名称であり,被告は,原告の了解を受けて,上記名称で,動物の保護活動を始めた。しかし,被告は,原告の指示などは一切無視して,自ら団体の代表者となって,上記団体の名称として,また,上記団体の活動の表示として,被告各表示を権限なく無断で使用するようになり,平成17年10月ないし11月ころからは,「フォスターホームプログラムを実践している。」と言いながらも,原告に対し,フォスターホームの活動に参加するボランティアの氏名や住所を一切開示せず,原告に無断で独自の活動を始め,動物福祉の世界における原告の圧倒的な知名度を利用して,あたかも原告の同一ないし類似の関連団体であるかのように振る舞い,前記(6)【原告の主張】のとおり,「広島ドッグぱーく問題」という社会問題を引き起こした。

被告が,原告の知名度を不当に利用する意図で,「アーク」ないし「アークエンジェルズ」の,同一ないし類似の名称を,無断で,しかも,原告とは相容れない活動を行い続けたため,原告は,社会から誤認され,信用を傷つけられ,人格的利益を損なわれ,現にその状況が継続している。

よって,原告は被告に対して,被告各表示の使用の差止を求めることができる。

【被告の主張】

否認ないし争う。

(8)  争点6-1(原告が,被告に対し,アークエンジェルズの名称の使用を許諾したか否か)について

【被告の主張】(予備的抗弁)

原告は,被告に対して,原告の姉妹団体として,アークエンジェルズの名称の使用を許諾した。

被告と原告とが協力して,これまで被告が行ってきたフォスターファミリー制度(ホストファミリー制度)を充実させるために,上記名称を使用することとなったという経緯に照らすと,フォスターホームプログラムの実践に関し,名称使用許諾についての合意があったといえる。

また,被告が,平成17年10月以降に原告の姉妹団体としてその名称を使用することは,同年11月20日に原告代表者であるP2が被告に対する書面で認めている(乙5の1)。さらに,P2は,被告の譲渡会のやり方を確認し,「グッド」と言って被告のやり方を賞賛しているから,被告が独自に活動することに異を唱えていないことは明らかである。

なお,被告は,フォスターホームプログラムについて,甲3の2の書面による説明を受けていない。

【原告の主張】

原告は,被告に対して,アークエンジェルズの名称を使用することを無条件に許諾したことはない。P2は被告に対し,平成17年10月ころ,原告の活動の一環として,原告の管理下でフォスターホームプログラムを行うこととして,被告の取りまとめるボランティアグループが上記名称を使用して活動することを認めたに過ぎない。

被告は,原告に対し,原告の業務を協力して行うと申し出て,「ARK理事被告」とする名刺を作り,原告の業務をしていたし,P2が企図した,原告が行うフォスターホームプログラムとしての「アークエンジェルズ」の活動についても,被告がこれに協力をするとの合意を前提としていた。それ故,P2は,被告に対して,アークエンジェルズのガイドラインを作り,被告に原告のフードを与え,また,上記の通り,被告に対して,原告によるフォスターファミリーの候補者の事前調査のためにフォスターファミリーの情報の提供を求め,その動物は全て原告の所有であるとの説明をした。したがって被告各表示は,原告によるフォスターホームプログラムの活動ないし業務の名称であり,被告の行う動物活動やその団体にその使用を許諾されたものではない。

なお,乙5の1の英文は,P2が作成した文章ではない。被告は「アークエンジェルズ」としての活動をはじめたころ,ホームページを開設し,「アーク・エンジェルズについて」という紹介文の中で,活動趣旨,活動内容等を公開していた(甲12)ところ,原告の日本人スタッフが,平成17年11月20日の少し前,上記紹介文を見つけ,P2にその内容を報告するために英訳したものであり,それが乙5の1である。したがって,乙5の1は,もとは被告が作成してホームページに公開していた文章であるにもかかわらず,これを「アークの外郭団体としての位置付けにて活動内容の中身を英文にて説明されました。」「すべてP2氏の指示にて内容が明記されております。」(乙4の12頁)などと,あたかもP2が作成したかのように主張するものであり,意図的な虚偽の主張であるといわざるを得ない。

(9)  争点6-2(原告の被告に対する名称使用の契約の解除が認められるか否か)について

【原告の主張】(予備的再抗弁)

仮に,被告の団体やその活動に被告各表示の使用を許諾したことが認められたとしても,被告各表示使用の許諾契約は,被告が,①原告に対して,フォスターファミリーの候補者のアークの事前調査のために,フォスターファミリーの情報を提供すること,②フォスターホームプログラムに関わる動物は全て原告の所有であること,③候補者の事前調査やその後の管理は原告がすること,を内容としていたものである。しかし,被告は,その契約に違反したため,原告は,以下のとおり,上記契約を解除した。

ア 解除1

原告は,被告に対して,平成17年12月9日,能勢浄瑠璃シアター研修室での話合い及び平成18年2月9日の話合いで,原告は,上記契約を解除し,被告各表示の使用差止を求めた。

イ 解除2

原告は,被告に対して,平成18年5月16日付け通知書及び同年10月2日付け通知書により,上記契約を解除し,被告各表示の使用差止を求めた。

ウ 解除3

原告は,平成19年8月10日到達の本件訴状をもって上記契約を解除する旨の意思表示をした。

エ 解除4

原告は,平成20年5月8日の本件口頭弁論期日において上記契約を解除する旨の意思表示をした。

【被告の主張】

否認ないし争う。

原告と被告の間で名称使用許諾について観念し得る合意は,フォスターホームプログラムの実践に関してであり,そうすると,被告が現在もフォスターファミリー制度を実践している以上,被告に合意の違反はない。

(10)  争点7(原告の損害額)について

【原告の主張】

ア 慰謝料 500万円

原告は,「アークエンジェルズ」の名称をいわば被告にだまし取られた上に,被告の「アーク」を付した名称を無断使用し,被告の強引で問題のある活動に使用されて,原告は疑惑の団体と関係があるかのように誤解されている。

本件における被告の不正競争行為,不法行為による原告の慰謝料は500万円を下らないというべきである。

イ 弁護士費用 50万円

【被告の主張】

否認ないし争う。

第3当裁判所の判断

1  争点1(原告各表示が不正競争防止法2条1項の商品等表示に該当するか否か),争点2(被告各表示が不正競争防止法2条1項の商品等表示に該当するか否か)について

(1)  前提事実,証拠(甲1の1~71,甲2,14~16,18,乙9,10,原告代表者本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。

ア 原告の活動について

(ア) P2は,英国出身であるが,昭和44年来日し(2度目の来日),英語教師として勤務する傍ら,動物愛護活動をしていたところ,昭和63年ころ,原告の現在所在地に土地を購入し,平成2年,同所において,「Animal Refuge Kansai」の名称ないし「ARK(アーク)」の略称を使用する団体を作り,捨て犬などを保護する動物愛護,動物福祉の活動を始めた。その後,同団体を法人組織化することとし,平成11年9月6日,原告を設立し,P2自らがその代表者に就任した。

原告は,現在,主として関西において,捨て犬などの動物の保護及びその引取先(里親)を探したり,動物の飼育管理の指導をするなど,動物愛護と動物福祉に関する事業を行っている。

(イ) 原告は,会員からの入会金,年会費(最低額3000円~最高額12万円)を得ている外,カレンダー,Tシャツ,書籍,ステッカー,ストラップ,ポストカード等の各種物品を販売し,事業収入を得ている(甲10の1~3)。

その額は,次のとおりである。

平成16年度(平成16年4月1日から平成17年3月31日まで)

総額  2335万7896円

うち,入会金・会費収入  46万円

物品売上等  2289万7896円

平成17年度(平成17年4月1日から平成18年3月31日まで)

総額  1807万5359円

うち,入会金・会費収入  20万円

物品売上等  1787万5359円

平成18年度(平成18年4月1日から平成19年3月31日まで)

総額  1833万4705円

うち,入会金・会費収入  1万円

物品売上等  1832万4705円

なお,原告が販売する上記物品のうち,売上額が大きいのはカレンダーであり,その売上額は,次のとおりである。

平成16年度  約1634万円

平成17年度  約1559万円

平成18年度  約1662万円

イ 被告の活動について

(ア) 被告の妻は,捨て犬の保護活動を「ドッグドリーム」という名称で行い,被告がこれを手伝っていた。

被告は,平成16年ころ,当時,原告の活動に関与していた北川の紹介によりP2と知り合い,平成17年ころから,原告の活動に関与するようになり,同年10月ころ,被告の妻が代表をしていた上記「ドッグドリーム」の名称を「ARK-ANGELS(アーク・エンジェルズ)」に変更し,同時に,被告がその代表者になった。その主たる活動は,預かり手のない犬を一時的に保護し,その間にその犬を引き取ってくれる家庭を捜したり,犬の譲渡会やチャリティバザーを催したり,クリスマスパーティをしたりするというものである。

(イ) 看板等の表示

被告は,看板,事務所テント,名刺,パンフレット等に被告各表示を付して活動している。

(ウ) ウェブサイトの開設と物品の販売

被告は,ウェブサイトを開設し(ドメイン名:ark-angels.jp),被告の活動を掲載しているが,上記ウェブサイトにおいて,被告各表示を使用し,「アークエンジェルズ」のロゴの入ったジャンパーなどを販売する外,被告各表示を付したブルゾン,Tシャツ,キャップ,カレンダー等を展示・販売している。

なお,被告は,従前から不動産関係の株式会社林プランニングの代表取締役や産業廃棄物関係のジャパンサイエンス株式会社及びリフォーム関係のアイジープランニング株式会社の取締役をしていたが,1か月に1回程度出社する程度であった。

(2)  不正競争防止法の事業者性

不正競争防止法1条の「事業者」であるためには,その者が営利目的を有する必要はなく,経済上の収支計算の上に立った事業であれば足りると解される。不正競争防止法1条は,同法の目的が事業者間の公正な競争及びこれに関する国際約束の的確な実施を確保するため,不正競争の防止及び不正競争に係る損害賠償に関する措置等を講じ,もって国民経済の健全な発展に寄与することにあると定めるところ,この目的に照らすと,営利目的がなくても,経済上の収支計算の上に立った事業であれば,営利目的のある事業と同様にその競争秩序を維持すべきであり,同法によって保護するのが相当だからである。

前記(1)の認定事実によれば,原告,被告ともに,経済上の収支計算の上に立った事業を行っていると認められるから,不正競争防止法1条の「事業者」に当たると認めるのが相当である。

(3)  原告各表示の商品等表示性

証拠(後記2(1)に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によると,原告は,原告各表示を原告の略称として使用してきたことは明らかであり(詳しくは,後記2参照),これに前記(1)ア,(2)で述べたところを総合すると,原告は,原告各表示を商品表示及び営業表示として使用しているといえる。

(4)  被告各表示の商品等表示性

被告は,被告各表示を,被告の名称として使用しているが(弁論の全趣旨),前記(1)イ,(2)に検討したところを総合すると,被告は,被告各表示をTシャツなどの物品に付して販売しており,被告各表示を商品表示として使用し,また,被告各表示を看板,事務所用テント,名刺,パンフレットなどに使用し,営業表示としても使用しているといえる。

また,被告は,前記(1)イ(ウ)のとおり,インターネット上のアドレス「http://ark-angels.jp」において開設するウェブサイトにおいて,ドメイン名「ark-angels.jp」を使用しているが,上記ドメイン名は,大文字と小文字の違いはあるものの被告表示1と全く同じものに「.jp」が付加しているに過ぎないこと,上記のとおり,被告各表示は営業表示として使用されていること,上記ウェブサイトにおいて,被告各表示を付した物品を販売していることなども併せ考えると,被告の上記ドメイン名は,被告の営業表示としての機能を有していると認めるのが相当である。

以上のとおり,上記被告各表示の使用及び上記ドメイン名の使用は,不正競争防止法2条1項1号の「商品等表示」の使用に該当すると認めることができる。

(5)  被告の主張について

被告は,原告及び被告の本来の活動は不正競争防止法上の事業活動と評価されるものではないし,グッズの販売等は,本来的な動物愛護活動と密接不可分であって,事業活動とみなされるべきではない旨主張するが,原告及び被告の行っている物品の販売等は,それによって得た資金が動物愛護のために使われるにしても,物品の販売等自体は動物愛護活動そのものではなく,動物愛護活動と密接不可分であるとは認められないから,被告の上記主張は採用することができない。

2  争点3-1(原告各表示が著名性又は周知性を有するか否か)について

(1)  前記1(1)ア(ア)の事実,証拠(甲1の1~3・6・11,甲1の18の1,甲1の20・22・23・25~27・29・30・32・34・35~46・48~55・57~71,甲16,甲17の1・2,甲18~21,24,乙4,7)及び弁論の全趣旨よれば,次の事実が認められる。

ア 原告は,前記1(1)アのとおりの経緯により,動物愛護,動物福祉に関する活動を行っていたが,平成7年の阪神大震災に際し,避難所から動物を保護し,その活動がマスコミ等で大きく採り上げられた。原告の活動は関西が中心であったが,阪神大震災以降,関東その他の全国に広がった。

イ 原告及びその前身団体による動物愛護活動については,下記の新聞及び雑誌,その他のメディア(テレビ,インターネットのウェブサイト等)で紹介されている(かっこ内の原告名,P2の肩書は,新聞等の記事の中で使用されている原告の表示又はP2の肩書である。)。

平成3年  ・ 日本経済新聞(甲1の1)(原告名:「ARK」(アニマル・リフュージ=動物避難所=・カンサイ))

平成5年  ・ 繊研新聞(甲1の2)(原告名:「ARK」(アニマル・リフュージュ・カンサイ))

平成7年  ・ 朝日新聞(甲1の3)(原告名:アニマル・リフュージュ・カンサイ(ARK))

・ 読売新聞(甲1の37)(原告名:ARK(アニマル・レフュージ・カンサイ))

・ 毎日新聞(甲1の39)(原告名:動物愛護団体「アニマル・レフュージ・カンサイ,略称・ARK(アーク)」)(記事の中で,「アーク」が単独で原告の略称として使用されている。)

・ 産経新聞(甲1の41~46)(原告名:「アニマル・レフュージ・カンサイ(略称・アーク)」及び「アーク」)

・ 社会新報(甲1の40)(原告名:アーク(アニマル・レフュージ関西))

・ 日本動物福祉協会ニュースレター(甲1の38)(原告名:ARK(アニマル・レフュージ・カンサイ))

平成8年  ・ 「DOG NEWS」(甲1の6)(原告名:ARK(アニマル・リフュージュ・カンサイ))

・ 「P-well」(甲1の11)(P2の肩書:ARKアニマル・リフュージュ・カンサイ代表)

・ 月刊「wan」(甲1の48)(原告名:アーク)

・ 週刊「FLASH」(甲1の49)(原告名:アーク)

・ 月刊「Cats」(甲1の50)(原告名:アーク(アニマル・レフュージ・カンサイ))

・ 「CALMO」(甲1の51)(原告名:動物保護団体ARK(アーク))

平成9年  ・ 朝日小学生新聞(甲1の13)(原告名:ARK「アニマル・リフュージュ=避難所=カンサイ)

・ 丹波新聞(甲1の15)(原告名:ARK「アニマル・リフュージュ=動物避難所=カンサイ)

・ 「QualityBritain」(原告名:動物救援組織アーク)(甲1の12)

・ 太陽樹(日本経済新聞社内報)(甲1の14)(原告名:動物救援組織「ARK」)

・ 丹波新聞(甲1の15)(原告名:ARK「アニマル・リフュージュ=動物避難所=カンサイ)

・ 雑誌「エル・ジャポン」(甲1の52)(原告名:ARK)

・ 月刊「パンプキン」(甲1の53)(P2の肩書:動物救援保護団体アーク主宰)

・ 雑誌「愛犬の友」(甲1の54)(原告名:ARK(アーク))

・ 雑誌「ラ・ヴィ・ドゥ・トランタン」(甲1の55)(原告名:アーク)

平成10年  ・ 毎日新聞(甲1の16)(P2の肩書:アニマル・レフュージュ・カンサイ」(ARK)=代表)

・ 雑誌「CREA」(甲1の57)(原告名:ARK(アーク))

・ 雑誌「ちゃぐりん」(甲1の58)(原告名:ARK)

・ 雑誌「SINRA」(甲1の59)(原告名:動物保護団体ARK(アニマル・レフュージュ・カンサイ),P2の肩書:動物保護団体「ARK」代表)

・ 雑誌「BEーPAL」(甲1の60)(原告名:アークアニマル・レフュージュ・カンサイ)

平成11年  ・ 「DOGLOVERS」(甲1の17)(原告名:アーク,P2の肩書:「動物保護団体NPO法人アーク主宰」)

・ 雑誌「BE-PAL」(甲1の61)(原告名:「ARK(アーク)」「アーク」)

・ 週刊朝日(甲1の62)(原告名:動物保護団体(アーク)及びアーク)

・ 雑誌「ザ・おおさか」(甲1の63)(原告名:アーク)

・ 雑誌「RETRIVER(レトリーバ)」(甲1の64)(原告名:ARK)

・ 雑誌「オレンジページ」(甲1の65)(原告名:アーク(ARK:Animal Refuge Kansai))

・ 月刊「公衆衛生情報」(甲1の66)(原告名:動物愛護団体ARK(アニマル・レフュージュ・カンサイ))

・ 月刊「愛犬チャンプ」(甲1の67)(原告名:アーク(ARK Animal Refuge Kansai)

・ 季刊「YOSOOL」(甲1の68)(原告名:ARK)

・ 愛犬の友(甲1の69)(原告名:動物保護団体「アーク」)

・ ふれあいねっと(甲1の70)(原告名:「アーク」及び「ARK(アニマル・レフュージュ・カンサイ)」)

平成12年  ・ 雑誌「PーWELL通信」(甲1の71)(原告名:「アーク(ARK)」こと「アニマル・レフュージュ・カンサイ」)

平成15年  ・ 「THE DAIRY YOMIURI」(甲1の18の1)(原告名:ARK)

平成17年  ・ 平成16年度日本建築学会近畿支部研究報告集(甲1の20)(P2の肩書:特定非営利活動法人アニマルレフュージ関西理事長)

平成18年  ・ 毎日新聞(甲1の22)(原告名:「アニマルレフュージ関西」(通称アーク))

・ 朝日新聞(甲1の30)(原告名:アニマルレフュージ関西(アーク),P2の肩書:動物保護団体アーク理事長)

・ 読売新聞(甲1の29)(原告名:アニマルレフュージ関西(アーク))

・ 産経新聞(甲1の34)(原告名:アニマルレフュージ関西(アーク))

・ 「PET CLUB for ZAQ」(関西メディアサービスが運営するサイト)(甲1の23)(原告名:「アニマルレフュージ関西」(通称「ARK(アーク)」))

・ 「猫の手帖」(甲1の25)(原告名:NPOアニマルレフュージ関西(ARK))

・ 「Pen with New Attitude」(甲1の26)(原告名:アニマルレフュージ関西」(アーク))

・ 「AERA」(甲1の27)(原告名:アニマルレフュージ関西(略称アーク))

・ 「英国特集」5号(甲1の32)(原告名:「特定非営利団体アーク(ARK-Animal Refuge Kansai)

平成19年  ・ 産経新聞(甲1の35)(原告名:アニマルレフュージ関西(アーク))

・ 月刊「グランレコ 関西版」(甲1の36)(原告名:アニマルレフュージ関西及びNPO法人アニマルレフュージ関西(以下アーク))

平成20年  ・ 「ジャパンペットプレス」8号,9号,11号(甲19~21)(原告名:ARK,アニマルレフュージ関西)

ウ 「Q&Aペットのトラブル110番」(民事法研究会)の319頁,320頁には,6つの動物保護団体が紹介されているところ,原告はその1つとして紹介されており,その名称は「NPO法人アニマルレフュージ関西(ARK)」と記載されている(甲16)。

エ 平成20年5月当時,Yahoo!JAPAN検索で,「アーク」を検索した場合,原告が1番目にヒットする(甲18)。

オ P2が,被告に交付した名刺には「Non-Profit Organization(特定非営利法人)」「ARKアーク(Animal Refuge Kansaiアニマルレフュージ関西」と表示されている(乙7)。

カ 被告自身,原告宛の回答書の本文中に原告名を「アニマルレフュージ関西(通称アーク)」と表記している(乙4)。

(2)  原告各表示の著名性,周知性

以上の事実によれば,原告及びその前身団体の活動は,阪神大震災が発生した平成7年以降,新聞,雑誌に頻繁に掲載されるようになり,当初から「ARK」が原告の略称として表示されていたが,平成7年以降,掲載が頻繁となるに従い,「アーク」も原告の略称として表示されることが多くなり,平成9年以降では,ほとんどの例で,原告の略称として「ARK」又は「アーク」が単独で使用されるか,少なくとも,原告の正式名称に併記して使用されるようになったといえる。

このような新聞,雑誌等における「ARK」又は「アーク」の名称の使用状況,頻度に照らすと,「ARK」又は「アーク」の名称は,遅くとも被告が被告各表示を使用し,積極的に活動を行うようになった平成17年10月ころまでには,原告の活動領域であると認められる関西地域において,原告の活動を識別表示する原告の表示(略称)として,周知性を獲得していたと認めるのが相当である。

一方,原告の活動は阪神大震災以降,関東等の全国に広がっており,前記の新聞,雑誌等には全国的な報道等であることが推測されるものもあるが,新聞による報道の頻度は,著名性を獲得するまでの頻度とはいい難く,それ以外の媒体の記事に接する読者の数がさほど多いとも思えないことからしても,取引者又は需要者の間において,著名性を獲得していると認めるに足りない。

3  争点3-2(原告各表示と被告各表示が類似するか否か)について

(1)  ある商品等表示が不正競争防止法2条1項1号にいう他人の商品等表示と類似のものに当たるか否かについては,取引の実情の下において,取引者又は需要者が,両者の外観,称呼又は観念に基づく印象,記憶,連想等から両者を全体的に類似のものとして受け取るおそれがあるか否かを基準に判断するべきである。

(2)  原告各表示について

原告表示1は,同じ大きさの欧文字の大文字3文字で,「ARK」と書してなり,原告表示2は,同じ大きさのカタカナ3文字で「アーク」と書してなり,いずれも「アーク」と称呼されるものである。また,「アーク」は「ノアの箱船」という意味を有するが(原告代表者本人4頁),このことを理解する取引者又は需用者がどの程度いるかは不明であり,むしろ,前記認定のとおり,原告各表示は,いずれも原告の略称として,需用者の間に広く知られているから,いずれも原告の活動を想起させる観念を有しているものと認められる。

なお,被告は,「ARK」は「エイアールケイ」とも読むことができるから,「ARK」を「アーク」と同視することはできない旨主張するが,前記2(1)の事実のとおり,数多くの新聞,雑誌等で「ARK(アーク)」と表示されたり,「アーク」と同じ意味で「ARK」と表示されていることが認められ,上記認定のとおり,「ARK」も「アーク」と称呼されると認めるのが相当であり,被告の上記主張は採用することができない。

(3)  被告各表示について

被告表示1は 別紙被告表示目録1のとおり欧文字3文字の大文字の「ARK」と欧文字6文字の大文字の「ANGELS」が「-」で結合して書されており,被告表示2は,別紙被告表示目録2のとおり,欧文字3文字で,最初の文字だけが大文字で後の2文字は小文字の「Ark」と,欧文字6文字で,最初の文字だけが大文字で後の5文字は小文字の「Angels」が「-」で結合されて書されており,被告表示3は,カタカナ3文字の「アーク」とカタカナ6文字の「エンジェルズ」の間に中点「・」があり,被告表示4は,カタカナ9文字の「アークエンジェルズ」で書されている。被告各表示は,いずれも「アークエンジェルズ」と称呼される。

被告表示1ないし3は,「-」もしくは「・」により,前部と後部に分けられており,被告表示4も「エンジェルズ」が日本語としてもよく知られた言葉であるため,前部の「アーク」と区別することができる。

「ARK」「Ark」「アーク」は箱船(特に「ノアの箱船」)という意味を有するが,前述したとおり,「アーク」から箱船を理解する取引者又は需用者がどの程度いるかは不明であり,むしろ,動物愛護,動物福祉に関係する取引者又は需用者間においては,周知表示である原告各表示を観念することが推認される(仮に,そのような観念を生じないとしても,その場合は,むしろ,特別な観念を生じることがないため,かえって,高い識別力を有するということができる。)。一方,「ANGELS」「Angels」「エンジェルズ」は,上記のとおり,取引者又は需用者にとってよく知られた言葉であり,識別力は弱いというべきである。このため,取引者又は需要者において,被告各表示の前部である「ARK」「Ark」「アーク」の部分に識別機能があると認識され,被告各表示の上記各部分が要部であると認められる。また,被告は,設立当初,「『アーク』の姉妹団体として結成されました。」と公表していることからも(甲7),被告各表示の各要部を上記のとおり認定すべきである。

(4)  そこで,原告各表示と被告各表示の要部を対比すると,原告表示1(ARK)と被告表示1,2の要部は,外観,称呼及び観念において類似又は同一であり,また,原告表示2(アーク)と被告表示3,4の要部も同様に,外観,称呼及び観念において類似又は同一である。さらに,原告表示1と被告表示3,4の要部,原告表示2と被告表示1,2の要部も,称呼及び観念において同一である。よって,被告各表示はいずれも原告各表示と類似する。

4  争点3-3(被告が被告各表示を用いることにより,原告の営業との被告の営業との間に混同のおそれが生じているか否か)について

(1)  前記3のとおり,原告各表示と被告各表示は類似しており,しかも,その活動目的が動物愛護と同じであることから,誤認混同のおそれは高いというべきであるところ,次に述べる事情によると,混同の事例が生じているといえる。

(2)  被告は,平成18年,広島県内において閉鎖された犬のテーマパーク「広島ドッグぱーく」の犬の保護のために,救助資金を募り,1億数千万円の募金を集めたが,その後,その募金の使途が不明であるとして,寄付者から不満が出た。そのため,被告は,平成19年2月,複数の寄付者から大阪地方裁判所に民事訴訟を提起された。また,被告は,上記テーマパークの敷地所有者に多額の金銭等を要求したとして,恐喝未遂の罪で広島西警察署に告訴され,同告訴は,平成19年2月15日,受理された(甲13,14,22,23,被告本人,弁論の全趣旨)。

上記事件がマスコミで採り上げられたため,一般市民から原告宛てに後記アないしキのメールが寄せられた外,原告に対し,電話等で被告と同一の団体であるか否か等について問い合わせが多数寄せられた(後掲証拠,弁論の全趣旨)。

ア 「今回の広島ドック(ママ)パークの事件ではかなり多くの頭数の犬達が大変なようなのですが,同じ動物愛護団体としての協力関係はないのでしょうか?」(甲11の1)

イ 「今回の広島の480匹の犬たちの保護をされた団体がてっきりアークだと思い,こちらに寄付をするところでしたが,アークエンジェルズとは一切関係がないと言うことわりを読み,少々戸惑いを感じております。」(甲11の2)

ウ 「広島ドック(ママ)パークの件でアークエンジェルという団体が活躍しているそうですが,アークとは無関係の団体なのでしょうか?」(甲11の3)

エ 「私も多くの人と同じように,この団体はきっと,アークと関連があるのだろうと思いそれなら,安心だわと思っていたのですが」(甲11の5)

オ 「アークエンジェルズと言う名前を聞き耳を疑ってインターネットで調べるまで貴団体だと誤認しました。私だけでなく多くの人が貴団体と誤認して今後の崇高な活動に多大な影響が出るでしょう。」

「貴団体とまぎらわしいような名称を用いて金銭を集めるような詐欺まがいの行為を許せません」(甲11の6)

カ 「すいませんが,タイトルの2つの団体は,同じものだと思っていました。ニュースやネットでアークエンジェルズのことを目にするたびに裏切られたと思って,今後援助しない方針だったのですが,今日,この2つの団体が別物だと知りました!!」

「きっと私と同じように勘違いしてる人が大勢いるはず。」(甲11の9)

キ 「ARKと混同している方も多いと思います」(甲11の10)

5  争点6(名称使用許諾)について

(1)  証拠(甲5ないし9,12,14,15,甲17の1・2,甲26,乙2,7,9,10,原告代表者本人,被告本人)及び弁論の全趣旨によれば,次の事実を認めることができる。

ア 被告は,平成17年ころから,大阪府豊能郡能勢町所在の原告のシェルター(動物を保護する施設)を訪れるようになった。

イ P2は,同年8月ころ,被告に対し,原告のシェルターが利用している水等に関して,近隣住民から出ているクレームへの対応を依頼した。

被告は,P2に対し,住民と交渉する際に必要であるから,原告の理事にしてくれるように要望した。P2は,理事にするためには翌年6月に開催される総会での決議が必要であることを説明したところ,被告から名刺を要求され,平成17年10月ころ,被告氏名に「ARK理事」の肩書を付した名刺を交付した。

また,原告のスタッフとして勤務していた徳田と原告との間のトラブルが発生し,原告において,その対処に困っていたが,被告から申し出て,被告が交渉を担当した。

しかし,いずれの件についても,被告の関与により解決することはなかった。

ウ P2は,かねてから,犬をストレスの多いシェルターに置くより家庭に置いてやりたいと考え,フォスターホーム(一般家庭での一時預かり)を実現することを構想していた。P2は,平成17年9月下旬,被告に対し,フォスターホームプログラムの構想を話し,被告は,プログラムに協力したいと言い,P2は,被告に対し,フォスターホームプログラムの希望者(フォスターファミリー)を審査し,ガイドラインや責任について話し合う旨説明した。

そして,フォスターホームプログラムの名称をアークエンジェルズとすることを決め,被告において,その担当をすることとなった。

エ P2は,同年10月27日,自宅で,理事のジェフリーブライアント(以下「ジェフ」という。),被告及び,動物愛護団体を主催し,P2の友人であるP3(以下「P3」という。)とミーティングをし,その席上,フォスターホームプログラムのガイドラインを説明した。その後,P2は英文のガイドライン「ARK ANGELS FOSTER HOME PROGRAMME」と題する書面(甲3の1)を作成し,スタッフに翻訳文の作成を依頼した。出来上がった翻訳文には,「妊娠中に保護し出産してしまった赤ちゃん……のお世話を自宅にて一時預かりし離乳まで育てる」という内容があり,それは原告の方針と異なっていたため,「仮に妊娠している場合であっても堕胎をする」と書き入れた書面(甲3の2)を被告に交付した。

オ 一方,被告は,同年10月ころ,被告各表示を使用して活動を開始し,被告のホームページに「『アーク』の姉妹団体として結成されました。」と公表し(甲7),フォスターホームプログラムを始めた。

しかし,被告は,保護した犬のリストやボランティアの氏名を原告に報告するよう求められたにもかかわらず,これを拒否し,原告の指導を無視した。また,被告は,動物用の医薬品を要求したが,企業から寄付された医薬品は,適正に使用されることが条件であったことから,原告が被告の要求を拒否すると,被告は原告のスタッフを激しく非難した。

カ 同年11月29日,P2の自宅でミーティングが開かれ,被告及びその妻,ジェフ,原告の事務局員である岡本,中西,平田が参加した。ミーティングでは,ある犬の里親探しをしていた際,被告が,里親として名乗りを挙げた家族に対し,威圧的な言い方をしたことが採り上げられた。また,フォスターホームプログラムについても話し合われ,フォスターファミリーの候補者に関するすべての決定は,原告によってなされることが示された際,被告は,「私のポジションとは一体何か。」等と言って,怒り出した。また,P2が,「フォスターホームプログラムに関わる動物は全て,原告に帰属する。」旨説明すると,被告は,それまでフォスターホームプログラムに関して生じた全ての費用を原告に要求した。

キ 被告は,その間も,原告の活動に関与していたが,同年11月以降,独自の判断で,原告の事務所付近の電柱に原告への案内板を設置したり,クリスマス用のライトを設置したり,原告のリストバンドを製作したりした。被告のこれらの行為が,原告の方針に反していたり,費用がかさんだため,原告が苦情を言うと,被告は反論し,時には怒り出すこともあった。

ク P2は,次第に,被告の言動に対し不信感を募らせるようになり,被告が引き起こす問題について,P3に相談したところ,P3は,自分が中立の第三者的立場で仲裁の労をとるから,中立の場所で原告と被告が話し合ってはどうかと提案した。P2はP3の提案を受け入れ,同年12月9日,能勢浄瑠璃シアター研修室で,P3を進行役として,P2,ジェフ,被告及びその妻が集まり,ミーティングを開いた。P2は,フォスターホームプログラムについて話し合うことを希望していたが,被告及びその妻は,原告の問題点を挙げるばかりで,話は噛み合わなかった。ミーティングでは,P2が,同月18日,被告の開催する里親譲渡会の様子を見に行くことが決まった。

ケ P2は,同年12月18日,スタッフ1人と共に,被告の開催する里親譲渡会の会場を訪問した。P2は,被告に会った際,「グッド」と発言した。

コ P2と被告は,平成18年2月9日午後4時から午後6時までの間,能勢浄瑠璃シアターにおいて,ミーティングをした。議題は,被告によるアークエンジェルズの名称使用の件と被告の原告の理事辞任の件であった。P2は,被告に対し,被告が上記名称の使用を取りやめた場合,原告のウェブサイト上に被告の団体のウェブサイトへのリンクを設けること,原告が発行するニュースレターに被告の団体を紹介する記事を掲載する旨の譲歩案を示し,同月28日までに,アークエンジェルズからアークの名称を取り除くように要求した。しかし,被告は,約3か月間,アークエンジェルズの名称で多角的に活動をしてきたため,同月28日までに名称を変更することは極めて困難であるとし,原告の要求に応じようとはしなかった。P2は,被告と決別する意向を伝え,アークエンジェルズの名称を変更するように要求した。被告は,強い口調で反論し,ミーティングは終了した。

サ その後,P2は,原告代理人弁護士に相談し,同年5月18日と同年10月3日の2回にわたり,「アークエンジェルズ」の名称使用の差止を求める旨の内容証明郵便を発送した(甲5,6)。原告は,1回目の内容証明郵便を送付した後の同年8月14日から,ウェブサイトにおいて,トップページに「『アーク』と『アークエンジェルズ』は,一切関係がございません。」との見出しで記事を掲載し,2回目の内容証明郵便を送付した前後の同年10月ころから「アークエンジェルズについて」とのタイトルで,より具体的な事実経過を記載した記事を掲載している。

(2)  以上の事実により検討すると,被告は,原告の活動にいろいろと関与しているところ,フォスターホームプログラムについても,原告の活動の一環として関与していたというべきであるから,その活動に際し,被告各表示を使用していたとしても,原告が,被告に対し,被告独自の活動について,アークエンジェルズの名称の使用を許諾していたということはできない。

すなわち,①被告は,平成17年8月ころから原告の一員として原告のための活動を行っており,同年10月ころには,P2に要求して「ARK理事」の肩書が記載された被告名の名刺の交付を受けていること,②P2は,平成17年10月27日,フォスターホームプログラムのガイドラインを記載した書面(甲3の1,2)を被告に交付しているが,それには,「以下のいずれかの方法で,アークをお手伝い頂くことができます。」と記載されており,同記載から,被告各表示の使用は,原告の活動の一環であり,原告の管理下で行われるフォスターホームプログラムの活動を表示するものとして使用されることを前提としていたものと認められること,③原告は,平成17年11月ころ,被告に対し,その活動を原告に報告すること要求し,被告を指導しようとしているなど,原告の活動の一環として被告が行動することを求めていること,④P2は,被告が被告各表示を使用して,原告とは別団体としての活動をすることを容認する行動をとっていないこと,⑤被告は,妻とともに,20年以上前から動物愛護活動を行い,その後,「ドッグドリーム」という名称で活動していたから,仮に,平成17年9月下旬の時点で,被告が,フォスターホームプログラムの活動を,原告の姉妹団体として活動を始めるとしても,新しい名称が必要であったという事情はなく,むしろ,原告の活動の一環としての活動であることを示すためのものであったと考えるのが自然である。これらの事情を総合考慮すると,P2は,平成17年9月下旬,被告に対し,フォスターホームプログラムの構想を話し,被告が,フォスターホームプログラムを実行した場合の名称をアークエンジェルズとすることを伝えたが,その際,上記名称を使用して行う活動は,原告の活動の一環としてであることは当然の前提であり,したがって,平成17年9月下旬の段階で,原告が,被告に対し,被告が独自の活動をするに際し,アークエンジェルズの名称の使用を許諾していたと認めるのは困難であるし,その後に許諾があったことを認めるに足りる証拠もない。そうすると,上記名称を含み,原告各表示と類似する被告各表示の使用を許諾していたと認めることもできない。

(3)  被告の主張について

ア 被告は,甲3の2の書面で説明を受けたことはない旨主張するが,被告の原告宛回答書(乙4)には,フォスターホームプログラムに関し,「活動の中身を英文にて説明されました。その書面には数項目があり,日本語に翻訳もされ書面を頂きました。」と記載されていること,被告は,本人尋問において,甲3の2を受け取っているか否かにつき記憶がない旨供述し(被告調書51頁),他方で,前記回答書に記載されている書面と甲3の1及び2の書面の同一性につき分からないと供述するなど(被告調書19頁),同一性につき曖昧な供述をしており,これらの事情に照らすと,被告の上記主張は採用することができない。

イ 被告は,P2は,被告の譲渡会のやり方を確認し,「グッド」と言って被告のやり方を賞賛しているから,被告が独自に活動することに異を唱えていないことは明らかである旨主張するが,P2は被告がその活動を原告に報告せず,原告の指導を無視したりしたため,被告に対する不信感を募らせ,譲渡会の後に開かれたミーティングにおいて,被告各表示の使用の中止を求めていたのであるから(前記(2)コ),P2が被告の譲渡会において「グッド」と述べたからといって,被告が原告の姉妹団体としてアークエンジェルズの名称を使用することについてP2が許諾していたことまでを推認することはできない。したがって,被告の上記主張は採用することができない。

ウ 被告は,P2が,被告において平成17年10月以降アークエンジェルズの名称を原告の姉妹団体として使用することを書面で認めている旨主張し,乙5の2には,「(被告が)『ARK』の姉妹団体として,2005年10月に設立されました。」と記載されている。しかし,原告代表者本人(22頁以下)によれば,その書面は,被告のホームページに掲載されていた文章を原告のスタッフが英訳し,さらに,P2が,手直しをして,被告に交付したものと認められる上,P2が上記記載部分に注意を払わなかったとしても不自然とはいえない。したがって,上記書面に被告が原告の姉妹団体として設立された旨の記載があるからといって,被告の上記主張を採用することはできない。

6  差止の可否,範囲

以上によれば,被告には,不正競争防止法2条1項1号の不正競争行為が認められるから,原告は,同法3条1項,3条2項に基づき,被告に対し,被告各表示及び「ark-angels.jp」のドメイン名の使用差止,被告各表示を付した物品等の廃棄及び被告のウェブサイトからの被告各表示の抹消を求めることができる。そして,上記の請求は,不正競争防止法2条1項1号の趣旨から,原告の事業と誤認,混同を生じるおそれのある,動物を扱う事業及びこれに付帯する事業で被告が行うものに限ることが相当である。

被告が販売する物品に被告各表示を付していることについては,前提事実(2)イのとおりであるところ,物品の廃棄までを必要とするものか(表示の抹消だけが可能か)については必ずしも明らかとはいえない。しかし,通常,かかる物品自体に表示が付されているような場合,物品の価値を損なうことなく,表示だけの抹消を行うことには困難を伴うことが予想されること,被告において,表示だけの抹消が可能であり,物品の廃棄までを必要としないことについての主張,立証もない以上,被告各表示を付した物品の廃棄を命じることが相当である。

また,被告のウェブサイトのドメイン名は「ark-angels.jp」であるところ,大文字,小文字の違いはあるものの,被告表示1と全く同じ表示であり,被告が,ウェブサイトのドメイン名として上記表示を使用することは,被告表示1の使用と同様,不正競争防止法2条1項1号に該当するというべきであり,上記ドメイン名の使用の差止を命じることもできる。

なお,原告は,被告各表示の使用差止等について,選択的に他の請求もしているが,仮に,これらの請求が認容されるべきであるとしても,上記差止の範囲が変わることがないので,これらの請求については判断しない。

7  争点7(原告の損害額)について

以上によれば,被告は,遅くとも,平成18年2月9日(原告から,「アークエンジェルズ」の名称の使用の中止を求められた日)以降,故意又は過失により不正競争行為を継続し,その間,前記4で認定した混同の事例が生じていることが認められる。

広島ドッグぱーくの事件の真相は,本件において取り調べられた証拠からは不明といわざるを得ないが,少なくとも,一部のマスコミによって,募金の使途を巡り,被告が非難されたこと自体は,被告自身認めているところである。そうすると,前記のとおり,被告が被告各表示を使用することにより,被告と原告との混同が認められ,しかも,前記4のとおり,上記広島ドッグぱーく事件に原告が関与しているとの誤解が生じていたことが認められる以上,原告は,動物愛護活動について,平成2年ころから築いてきた信用を傷つけられ,無形の損害を被ったということができ,前記6の差止請求のほか,被告に対して損害賠償(原告は慰謝料と表現するが,個人の慰謝料に相当する無形損害の賠償を認めるべきである。)を求めることができる(民法709条,710条)。

そこで,損害賠償額について検討するに,被告による不正競争行為の期間は2年以上になっていること,原告各表示と被告各表示につき,上記の混同の事例が生じていること等本件に顕れた一切の事情を総合すると,原告の損害額は,無形損害について100万円,弁護士費用について10万円と認めるのが相当である。

なお,原告は,被告に対し,上記損害額に対する平成18年11月1日以降の遅延損害金の支払を求めているが,上記損害額を算定するにあたり,もっとも大きな影響を与えた混同の事例については,原告に送信されたメールによって裏付けることができるが(甲11の1~10),その送信日は平成18年10月5日から平成19年10月6日であるところ,その多くが,平成18年度内に送られていることから,上記損害金に対する遅延損害金の発生については,平成19年1月1日以降とするのが相当である。

8  結論

以上によれば,その余について判断するまでもなく,原告の本訴請求は,不正競争防止法2条1項1号,3条1項,3条2項に基づき,被告各表示及び「ark-angels.jp」のドメイン名の使用差止,被告各表示を付した商品等の廃棄及び被告のウェブサイトからの被告各表示の抹消並びに民法709条に基づき損害賠償金110万円及びこれに対する平成19年1月1日から支払済みまで民法所定年5%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないから棄却し,訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条,64条本文を,主文第1ないし第3項,第6,第8項の仮執行宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用し,主文第4,第5,第7項の仮執行宣言については,相当でないから付さないこととし,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田陽三 裁判官 島村雅之 裁判官 北岡裕章)

別紙被告表示目録

1 ARK-ANGELS

2 Ark-Angels

3 アーク・エンジェルズ

4 アークエンジェルズ

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