大阪地方裁判所 平成19年(行ウ)165号 判決 2009年3月31日
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求
1 主位的請求
被告が,別紙1の「議員名」欄記載の各人に対し,同別紙の上記各「議員名」欄に対応する「不当利得総額」欄記載の各金額の各不当利得返還請求権の行使を怠る事実がいずれも違法であることを確認する。
2 予備的請求
被告が,別紙2の「議員名」欄記載の各人に対し,同別紙の上記各「議員名」欄に対応する「不当利得総額」欄記載の各金額の各不当利得返還請求権の行使を怠る事実がいずれも違法であることを確認する。
第2事案の概要
1 本件は,大阪府が,大阪府議会議員の報酬及び費用弁償等に関する条例に基づき,平成18年6月から平成19年5月までの間に会議又は委員会(以下「会議等」という。)に出席した府議会議員に対し,出席1日当たり7000円ないし1万5000円の費用弁償を支給したことについて,大阪府の住民である原告らが,地方自治法242条の2第1項3号に基づき,① 主位的に,上記府議会議員に対する費用弁償の支給は,地方自治法に規定されていない会議等(以下「法定外会議」という。)への出席についても支給している点で違法であり,また,その額が実費を大幅に超えている点でも違法であって,上記支給を受けた府議会議員(府議会議員であった者も含む。以下同じ。)には,上記期間の法定外会議への出席に係る費用弁償額と,上記期間の本会議及び地方自治法が規定する委員会(以下「法定委員会」という。)への出席に係る費用弁償額の少なくとも半額との合計額に相当する不当利得が生じていると主張して,被告が,上記費用弁償の支給を受けた府議会議員に対し,上記金額の各不当利得返還請求権の行使を怠る事実が違法であることの確認を求めるとともに,② 予備的に,前記費用弁償の支給は,その額が実費を大幅に超えている点で違法であるほか,少なくとも,府議会の会期外の法定外会議への出席は公務とはいえず,費用弁償の対象とはならないから,これら会期外の法定外会議への出席に係る費用弁償は違法であり,前記府議会議員には,前記期間のうち府議会の会期中を除く期間の法定外会議への出席に係る費用弁償額と,前記期間の費用弁償総額から同費用弁償額を控除した額の少なくとも半額との合計額に相当する不当利得が生じていると主張して,被告が,上記費用弁償の支給を受けた府議会議員に対し,上記金額の各不当利得返還請求権の行使を怠る事実は違法であることの確認を求めた住民訴訟である。
2 法令等の定め
(1) 平成20年法律第69号による改正前の地方自治法(以下「旧地自法」という。)
旧地自法203条1項は,普通地方公共団体は,その議会の議員,委員会の委員,非常勤の監査委員その他の委員,自治紛争処理委員,審査会,審議会及び調査会等の委員その他の構成員,専門委員,投票管理者,開票管理者,選挙長,投票立会人,開票立会人及び選挙立会人その他普通地方公共団体の非常勤の職員(短時間勤務職員を除く。)に対し,報酬を支給しなければならない旨規定し,同条3項は,同条1項の者は,職務を行うため要する費用の弁償を受けることができる旨規定し,同条5項は,報酬,費用弁償及び期末手当の額並びにその支給方法は,条例でこれを定めなければならない旨規定している。
同法109条1項は,普通地方公共団体の議会は,条例で常任委員会を置くことができる旨規定し,同法109条の2第1項は,普通地方公共団体の議会は,条例で議会運営委員会を置くことができる旨規定し,同法110条1項は,普通地方公共団体の議会は,条例で特別委員会を置くことができる旨規定している。
(2) 大阪府議会議員の報酬及び費用弁償等に関する条例(昭和31年大阪府条例第21号,以下「本件条例」という。乙1)
本件条例4条1項は,府議会議員が公務のため旅行したときは,費用弁償を支給する旨規定し,同条2項は,同条1項の費用弁償の額は,国家公務員等の旅費に関する法律(昭和25年法律第114号)に定める内閣総理大臣等中のその他の者相当額とする旨規定し,同条3項は,府議会議員が招集に応じ,若しくは委員会に出席するため又はその他公務のため,管内を旅行したときは,同条2項の規定にかかわらず,府議会議員の住所地に応じて別表のとおり定める額を費用弁償として支給する旨規定し,同条4項は,同条3項の費用弁償は,府議会議員が公用車により全路程を旅行したときは,支給しない旨規定している。
本件条例別表は,次のとおり規定している。
住所地
1日当たりの額
大阪市
7000円
豊中市,吹田市,守口市,八尾市,寝屋川市,松原市,大東市,門真市,摂津市,東大阪市
9000円
堺市,岸和田市,池田市,泉大津市,高槻市,枚方市,茨木市,富田林市,河内長野市,和泉市,箕面市,柏原市,羽曳野市,高石市,藤井寺市,四条畷市,交野市,大阪狭山市,三島郡,豊能郡(豊能町に限る。),泉北郡,南河内郡
1万2000円
貝塚市,泉佐野市,泉南市,阪南市,豊能郡(能勢町に限る。),泉南郡
1万5000円
3 前提事実(当事者間に争いがないか,証拠(甲1ないし3,乙3,4,6ないし10)又は弁論の全趣旨から容易に認められる事実)
(1) 当事者等
ア 原告らは,大阪府の住民である。
イ 被告は,大阪府の執行機関である。
ウ 別紙1及び同2の各「議員名」欄記載の者は,いずれも,大阪府議会議員又は大阪府議会議員であった者である(以下「本件議員ら」という。)。
(2) 法定委員会の設置
大阪府は,大阪府議会に,大阪府議会委員会条例(昭和31年大阪府条例第45号,以下「委員会条例」という。乙3)によって,常任委員会を,大阪府議会議会運営委員会条例(平成3年大阪府条例第39号,以下「運営委員会条例」という。乙4)によって,議会運営委員会を,それぞれ設置している。また,委員会条例5条は,特別委員会は,必要がある場合において議会の議決で置く旨規定している。
(3) 法定外会議の設置
大阪府の議会又は法定委員会には,運営委員会条例若しくは委員会条例又は運営委員会条例に基づく議会運営委員会の規程によって,議会運営委員会理事会,政務調査委員会,広報委員会,議会構成委員会,正副委員長会議(合同会議),庁舎整備検討委員会,議会史編纂委員会,常任委員会代表者会議,特別委員会代表者会議,委員協議会及び議会運営協議会という会議ないし委員会(これらを以下「本件法定外会議」という。)が設置されている。
(4) 費用弁償の支給
ア 大阪府は,平成18年6月から平成19年5月までの間に開催された本会議及び法定委員会へ出席した別紙1「議員名」欄記載の各府議会議員に対し,同別紙「法定外除く費用弁償」欄記載の各金額の費用弁償を支給し,同期間に開催された本件法定外会議へ出席した同別紙「議員名」欄記載の各府議会議員に対し,同別紙「法定外会議費用弁償」欄記載の各金額の費用弁償を支給した(これらの費用弁償を併せて以下「本件費用弁償」という。)。なお,府議会議員に対する費用弁償の支給に係る権限は,知事から議会事務局長に委任されており,上記各会議等への出席に係る費用弁償は,当該会議等が開催された翌月中旬に,前月分がまとめて支給されていた。
イ 上記アの期間における本件法定外会議の開催状況,これに出席した府議会議員及び同人らに対する同会議等への出席に係る費用弁償の支給額は,別紙3のとおりである。また,上記期間における府議会の会期は,平成18年5月22日から同月30日まで(平成18年5月定例会),同年9月28日から同年10月23日まで(平成18年9月定例会),同年12月8日から同月15日まで(平成18年12月定例会),平成19年4月23日(平成19年4月臨時会),及び,同年5月22日から同月29日(平成19年5月定例会)であった。
(5) 住民監査請求及び本件訴え
ア 原告らは,平成19年6月20日,大阪府監査委員に対し,大阪府は,平成18年度に議員延べ112人に対し総額4074万2000円を費用弁償として支給しているところ,同費用弁償は法定外会議への出席についても支給されている点において違法であることに加え,費用弁償の金額についても交通費相当額をはるかに超える支給を行っており,この点でも同費用弁償の支給は違法であり,このような違法な費用弁償を受領した大阪府議会議員は,その限りにおいて不当利得を得ておりその返還義務を有するとして,同議員らが不当に取得した費用弁償(法定外会議に対する費用弁償の全額及びその他の費用弁償の半額)について,同議員らに返還を求める等,適切な措置をとるよう被告に求める,との勧告を監査委員において行うことを求めて,住民監査請求をした(以下「本件監査請求」という。)。その後,原告らは,同年7月17日,大阪府監査委員に対し,「監査対象期間を以下のように変更する。平成18年4月から平成19年3月分の費用弁償を平成18年6月から平成19年5月分の費用弁償に変更する。」などと記載された「大阪府職員措置請求書(補正書)」と題する書面(以下「本件補正書」という。)を提出した。
大阪府監査委員は,平成19年8月17日付けで,原告らの上記住民監査請求につき,同監査請求のうち平成19年4月及び同年5月分の費用弁償の支給に係る部分は不適法な請求であって,監査請求の対象とは認められないとし,その余については,本件費用弁償の支給は適正であると認められ,その支給手続にも瑕疵は認められないから,原告らの請求はいずれも理由がない旨判断し,そのころ,原告らに対し,同監査結果を通知した。
イ 原告らは,平成19年9月12日,当庁に対し,本件訴えを提起した。
4 争点
(1) 本案前の争点
本件費用弁償のうち,平成19年4月分及び5月分に係る支給につき,適法な住民監査請求が前置されているか(争点①)
(2) 本案の争点
ア 本件費用弁償の支給の適法性
(ア) 本件法定外会議への出席を,費用弁償の支給事由とすることができるか(争点②)
(イ) 議会の会期外に開催された本件法定外会議への出席を,費用弁償の支給事由とすることができるか(争点③)
(ウ) 本件法定外会議への出席を費用弁償の支給事由とすることが許される場合,本件条例はこれを費用弁償の支給事由として定めているといえるか(争点④)
(エ) 本件条例の定める費用弁償の額が過大であって違法か(争点⑤)
イ 不当利得の成否及びその額(争点⑥)
5 争点に関する当事者の主張
(1) 争点①(本件費用弁償のうち,平成19年4月分及び5月分に係る支給につき,適法な住民監査請求が前置されているか)について
【被告の主張】
地方自治法242条の2第1項に基づく住民訴訟を提起するに当たっては,適法な住民監査請求を前置することが必要であるところ,原告らは,本件費用弁償のうち,平成19年4月分及び5月分に係る支給については,住民監査請求を前置しておらず,同支給に係る訴えは不適法である。なお,原告らが提出した本件補正書については,大阪府監査委員が原告らに対して通知した本件監査請求に対する監査結果において,平成19年4月分及び5月分の費用弁償の支給は,当初請求のあった平成18年4月分から平成19年3月分の費用弁償の支給とは全く別の財務会計行為であり,当初の請求対象の範囲を超えるもので,住民監査請求における請求書の補正の範囲を逸脱したものと認められ,しかも,費用弁償として支給された額及び支給を受けた議員の特定もされておらず,事実を証明する書類の添付もないため,不適法な請求といわざるを得ず,本件監査請求の対象とは認められない,とされているところである。原告らは,本件補正によって監査請求の対象期間を延長したにすぎず,一連の財務会計行為であると主張するが,地方公共団体の財務については,地方自治法208条によって会計年度ごとの独立が定められており,平成18年度分の費用弁償支給と平成19年度分の費用弁償支給は別年度の財務会計行為となり,一連の行為には該当しない。
【原告らの主張】
争う。原告らは,平成19年6月20日に本件監査請求をしたところ,被告から費用弁償の支給は翌月中ころであり,同監査請求の対象であった平成18年4月分及び同年5月分は監査請求期間を徒過しているとの連絡を受けた。そこで,原告らは,本件補正により上記期間の請求を取り下げ,新たに平成19年4月分及び同年5月分を請求対象として追加した。そして,本件補正によって新たに追加した請求は当初の監査請求の対象期間を延長したにすぎず,一連の財務会計行為であり請求の特定に欠けるところもなく,補正書によって補正可能な事項である。
(2) 争点②(本件法定外会議への出席を,費用弁償の支給事由とすることができるか)について
【原告らの主張】
旧地自法は,議会及び委員会等の設置に関し,議会は,条例で,常任委員会,議会運営委員会及び特別委員会を設置することができる旨規定するほか,議会内の委員会を設置することができるとする定めはない。そして,同法は,上記会議について,公開の原則や会議録の記載について定める等,厳格な定めを置いている。このように,旧地自法は,議会の運営について,公開の原則を始めその他各種の厳格な法的手続を規定し,委員会についても必置ではなく任意の機関とし,しかも,その種類,数,権限等についても詳細に規定しているのであり,憲法ないし旧地自法の趣旨としては,地方公共団体の意思決定方法につき,可能な限り議事機関である議会が法定の方法による議決をもって行うものとし,その運営のために必要であると議会が判断した場合に限り,条例により,常任委員会,議会運営委員会及び特別委員会のみを設置することができると規定しているものと解され,このような憲法ないし旧地自法の趣旨からすれば,地方公共団体の議会は,旧地自法の規定する3種の委員会以外の委員会や会議を設置することはできないというべきであり,地方公共団体の議会が議会ないし上記委員会の運営を円滑かつ効率的に行うためとはいえ,上記委員会以外の会議を正規の会議として設置運営することは,上記旧地自法の趣旨に反し,議会の議決につき厳格な法的手続を定める同法を潜脱するものとして許されない(大阪高裁平成16年(行コ)第5号同年6月30日判決参照)。
被告は,地方公共団体の議会は広範な機能を有しており,当該機能を発揮し,議会内で機関意思の決定に向けた合意形成を図っていくためには,課題の性格に応じて協議調整を行うための法定委員会以外の各種の会議を設置する必要があると主張する。しかし,地方議会においてはすべての議員が参加する本会議において審議されるのが望ましいが,議会内で審議決定しなければならない事項が広汎多岐にわたり,しかも専門化,技術化していく普通地方公共団体の事務を,合理的機能的に審議するために常任委員会や特別委員会の設置が認められたのであるから,これを拡大解釈し,被告が主張する各種の法定外会議をこれと同視するのは適当ではない。この点は,従前議会運営委員会についてはその役割が高まっていたものの,地方自治法に定めがなく,事実上の議会運営委員会では,委員会活動に関する費用弁償等について難点があったことから,平成3年の同法の改正によって同委員会を設置し得ることが明定され,その後,平成10年7月22日に開催された全国都道府県議会議長会の定例会において,① 当時その数が制限されていた常任委員会につき,その数は本来議会の自律権に属する事柄である事項であるから,設置数の制限を撤廃し条例事項とすること,及び,② 全員協議会及び委員会協議会は非公式な会議とされているが,これらは議会として必要な会合であるから議会の公的な活動として認めること,等の要望が決議されたのに対し,平成12年の地方自治法の改正において,①については常任委員会の数の制限が撤廃されたが,上記②の点については何らの対応もとられなかった経緯からも明らかである。
そして,旧地自法203条3項にいう「職務」は,正規の会議に出席する場合等に限られるから,本件法定外会議への出席は,ここにいう「職務」に該当せず,費用弁償の支給事由とはならない。
また,上記裁判例のほか,行政実例(昭和33年5月7日自庁発第81号群馬県議会事務局長宛行政課長回答,昭和27年4月24日地自行発第111号小樽市議会事務局長宛行政課長回答)においても,法定外会議及び議会閉会中の審査の付託がされていない委員会への議員の出席に対しては,費用弁償を支給すべきではないとされており,学説においても,法定外会議への出席を費用弁償の対象とすべきでないとするものが既に一般化している。
さらに,本件に即してみても,本件法定外会議は,その設置を定めた条例又は規程によってその目的,内容及び構成が明記されているとはいえず,その審議に法的な制約がされているものとはいえないし,実際にも,本来法定委員会において行うべきことをこれら本件法定外会議で行うなど,法定委員会を単なる追認機関として形骸化するものであり,実質的に違法な議会運営がされているのである。
【被告の主張】
ア 地方公共団体の議会は,地方公共団体の意思決定を行う議決機関としての機能以外にも広範な権能を有しており,幅広く議会としての機能を発揮するために,自律的に議会内で機関としての意思形成を行うべき課題も多岐にわたり存在しているところ,これら課題については議長限りで意思決定できないものも多くあり,議会内で機関意思の決定に向けた合意形成を図っていくために,課題の性格に応じて,協議・調整を行うための法定委員会以外の会議を設置する必要がある。特に,府議会は会派制の下で運営されており,議会の組織・運営上の重要事項については,議会内の各会派における十分な協議がなければ議会の組織・運営ができず,議会が自律的に取り組むべき諸課題について,法定委員会だけでは適切に対応することができないことから,協議・調整等を行うための組織として法定外会議を設置することが必要不可欠となっている。そして,本件法定外会議は,いずれも,委員会条例若しくは運営委員会条例又は運営委員会条例15条に基づく議院運営委員会の規程により設置・開催されており,法定委員会の運営のために必要な事項について協議・調整を行い,又は府議会が抱える広範な課題に関する事項について調査・検討を行っており,これら本件法定外会議へ出席することは議員の公務である。このように,本件法定外会議への出席は,議員としての公務として位置付けられることから,旧地自法203条3項の議員の「職務」に当たり,本件条例の「その他公務」に該当し,費用弁償の支給事由になる。
イ 原告が,法定外会議へ出席した議員に対して費用弁償を支給することが違法であると主張する根拠として引用する大阪高裁の裁判例は,複数の地方公共団体が特定の行政課題を共同して処理するために設置される一部事務組合の議会に関する判断であり,地方行政全般にわたり広範な役割を担う普通地方公共団体の議会についての判断ではない。また,同裁判例では,法定外会議を認めない理由として,これを認めると,旧地自法の規制が及ばない法定外会議において法の厳格な手続によらずに実質的に審議・議決され,それが法定委員会の審議・議決と同視されたりこれに代替する役割が与えられる危険性があり,ひいては旧地自法が規定する議会制度の趣旨が潜脱されるおそれがあることを指摘しているところ,本件法定外会議は,いずれも,委員会条例若しくは運営委員会条例又は運営委員会条例15条に基づく規程に設置・開催の根拠を有しており,そのほとんどの会議はその目的,内容及び構成が明記されており,法定委員会に代わって審議・議決を行うものではなく協議・調整を行うものにすぎないから,上記裁判例は本件法定外会議へ出席した本件議員らに対して支給した費用弁償を違法とする根拠とはならない。
また,原告らが引用する行政実例は,いずれも,発出から相当の年数を経ており,社会情勢の変化はもとより議員の職務の変化にも対応していないものであるし,その内容をみても,本件法定外会議への出席と対比することが不適当なものである。裁判例においても,上記行政実例の援用を論理の飛躍として採用せず,その主張を退けたものもある(岐阜地裁平成12年(行ウ)第12号,同13年(行ウ)第13号同15年2月26日判決)。
ウ ところで,地方分権改革の進展によって,地方公共団体の権限や機能が拡大する中で,議会の果たすべき役割と責任がますます重要なものとなってきており,これを反映して議員に求められる活動領域も拡大する状況にある一方,旧地自法における議員の位置付けや職務内容が明確ではないといった問題が指摘され,法定外会議への費用弁償を違法とする住民監査請求や住民訴訟が提起される原因ともなっていた。これらを踏まえて,地方自治法は,平成20年法律69号によって改正され,公開性・透明性の一層の向上という観点から,議員活動の範囲を明確化するため,会議規則の定めるところにより,議案の審査や議会の運営に関する協議,調整の場を設けることができる旨が明文化され(同法による改正後の地方自治法100条12項),これにより,会議規則によって定められた議会活動の範囲内の会議等についても,条例等の定めにより費用弁償を支給することが適法であることが明確に示されたのである。
(3) 争点③(議会の会期外に開催された本件法定外会議への出席を,費用弁償の支給事由とすることができるか)について
【原告らの主張】
被告が,法定外会議への出席に係る費用弁償の支給の適法性を主張するに際し参照している裁判例は,会期内における議員活動について判断したものであり,会期外については,何ら判断していない。法定外会議への出席に係る費用弁償の支給は,会期の内外を問わず違法であることは争点②について述べたとおりであるが,仮に,上記裁判例のように,会期内については法定外会議への出席を費用弁償の対象として扱うことが許されるとしても,本件法定外会議のうち,府議会の会期外のものへの出席に対する費用弁償の支給は違法であるから,この旨予備的に主張する。
【被告の主張】
争う。争点②に関して述べたとおり,法定外会議は,議会内での意思決定に向けた合意形成を図るため,課題の性格に応じて,協議・調整を行うために設置の必要性があり,しかも,議員(総じて議会)に求められる活動領域が,従来の会期内,本会議及び委員会内という限られた領域にとどまらず,広がりをもってきており,法定外会議の活動も,議会の会期に拘束されるものではない。したがって,議会活動の一環として行われる法定外会議は,議会の会期内外にかかわらず,時宜に適った開催が不可欠なものであり,したがって,会期外に開催された法定外会議への出席について費用弁償を支給することも適法である。
(4) 争点④(本件法定外会議への出席を費用弁償の支給事由とすることが許される場合,本件条例はこれを費用弁償の支給事由として定めているといえるか)について
【原告らの主張】
旧地自法203条5項は,費用弁償の額及び支給方法は条例で定めなければならないとしている。しかるところ,本件条例4条3項は,「府議会議員が招集に応じ,若しくは委員会に出席するため又はその他公務のため,管内を旅行したときは,前項の規定にかかわらず,府議会議員の住所地に応じて別表のとおり定める額を費用弁償として支給する。」と規定しているが,同項の「その他公務」の「公務」は,旧地自法203条3項の「職務」と同義であるから,本件条例のうち,公務のため管内を旅行したときの定めは,費用弁償の支給方法について条例で定めたことにはならない。したがって,本件条例の定め方では,法定外会議への出席についての費用弁償の支給方法を条例で定めたことにはならず,仮に,被告の主張するように法定外会議への出席を公務(職務)として費用弁償の対象とするのであれば,本件条例にその会議名又はその会議について定めた条例を明示する必要がある。
【被告の主張】
争点②に関して述べたとおり,法定外会議に係る費用弁償については,同会議への出席も議員としての公務に位置付けられることから,旧地自法203条3項の議員の「職務」に当たり,本件条例4条3項に規定する「その他公務」に該当するものとして支給したものである。そして,本件法定外会議については,いずれも条例又は条例に基づく規程によって,設置,運営を規定しており,公務としての議会活動の位置付けを明確にすることによって,旧地自法の趣旨に即した費用弁償の支給を行っているのである。本件条例4条3項は,支給方法も費用弁償額も明確に規定しており,支給方法を定めたことにならないものには当たらない。
(5) 争点⑤(本件条例の定める費用弁償の額が過大であって違法か)について
【原告らの主張】
旧地自法203条3項にいう「費用の弁償」とは,同法207条にいう実費弁償と同じ意味であり,職務の執行等に要した経費を償うため支給される金銭をいうと解するのが一般的である。そして,この費用弁償については,これを定額で支給することや,その額の決定が議会の裁量事項であるとしても,費用弁償はあくまで実費の補償が前提であるから,定額で支給する場合には当該費用弁償額の多寡が現実に要した費用に対して社会的に認められる常識的な範囲内に収まっていることが要求され,その額が実費を大幅に超えるときは,裁量権の範囲を超え違法となる。
そして,費用弁償について定めた本件条例は,4条4項において,府議会議員が公用車により全路程を旅行したときは費用弁償を支給しない旨規定していること及び本件条例別表が住居地区の議会からの距離によりその額を決めていることからすると,本件条例における費用弁償は,交通費を支給するもので,日当等その他の経費は含まれないと解される。なお,被告は,本件費用弁償には,交通費相当額のほか,諸雑費相当額が含まれると主張するが,大阪府における費用弁償に関する条例等にどのような費目を費用弁償すべきか明らかにしたものは存しないから,上記本件条例4条4項の規定を普通に解釈すれば,費用弁償の内容は公用車使用のときには特に必要とならない交通費であると考えられる。仮に,交通費以外の費目が含まれるとしても,それは,せいぜい通信費程度と考えられ,通信費についても,その一部は政務調査費の範疇であるから,費用弁償に含まれるのは議会事務局との間の会議の確認程度の簡単な要件に対する通信費しか考えられず,その額は会議参加1日当たり1000円程度のものと考えられる。
そうであるところ,本件条例において定められた費用弁償額は,本件議員らの各自宅ないし事務所から大阪府庁までの交通費相当額(上記自宅又は事務所の最寄駅から地下鉄αまでの料金と自宅又は事務所までの距離(km)に37円(国家公務員等の旅費等に関する法律19条を準用した額)を乗じた額の大きい方)に前記諸雑費相当額の1000円を加えた額の3.2ないし6.9倍にも達しており,この差は社会通念上到底許容される範囲とは考えられず,違法である。社会通念としては,せいぜい2倍以内に抑えることが必要である。なお,交通費相当額は,公共交通機関又は自家用車を利用したときの費用が相当である。すなわち,たまにタクシーを利用することがあっても,この定額方式は実費に対し多いときも少ないときも当然含まれることから,常にタクシーを利用しなければならないならともかく,会議は事前にその日程が確定し,予定を立てることも十分可能で,また,会議が公共交通機関が運転していない時間帯まで遅くなった例も過去の実績から見られないことを考慮すると,タクシー利用はきわめて例外的なものと考えられ,交通費相当額の算定に当たってタクシー利用を考慮する必要はない。
【被告の主張】
費用弁償は,地方公共団体の議会の議員や審議会などの付属機関の委員等の職員に対して,職務の執行等に要した経費を償うために支給されるものであるが,あらかじめその支給事由を定め,それに該当するときには実際に費消した実費である一定の額を支給することとする取扱いをすることも許され,この場合,いかなる事由を費用弁償の支給事由として定めるか,また,標準的な実費である一定の額をいくらにするかについては,費用弁償に関する条例を定める当該地方公共団体の議会の裁量事項であるとされている(平成2年(行ツ)第91号同年12月21日第二小法廷判決・民集44巻9号1706頁参照)。費用弁償は,旧地自法207条の実費弁償と同一ではない。そして,大阪府議会においても,その裁量判断によって,本件条例において費用弁償の額を定めているのである。なお,本件条例は,平成15年大阪府条例第104号による改正前は,費用弁償額を一律に1万5000円としていたが,上記改正により,費用弁償には交通費相当額に加えて諸雑費相当額も含まれていることを前提として,その額が7000円から1万5000円までの4段階の金額に改められ,より実態に即したものにしたのである。また,同改正により,公用車により全路程を旅行したときは費用弁償を支給しないこととされたが(上記改正後の本件条例4条3項),この改正は,公用車で旅行した場合であっても諸雑費相当額を支給することは法律上は問題がないこととされているところ,当時の議長と副議長との申出により,あえて支給しないこととしたものである。
さらに,費用弁償は,すべての都道府県において支給されているが,その支給額の状況は,ほとんどの府県が複数段階別の定額支給であり,その最低額及び最高額ともに半数以上が本件条例が定めるものより高額であるなど,他府県の状況等と比較しても本件条例の定める費用弁償額が高額であるとはいえない。
以上のとおりであるから,本件条例の定める費用弁償額が不当に高額であるということはできず,同条例に基づく本件費用弁償の支給は適法である。
(6) 争点⑥(不当利得の成否及びその額)について
【原告らの主張】
ア 主位的請求
前記のとおり,法定外会議への出席を費用弁償の支給事由とすることはできないから,平成18年6月から平成19年5月までに開催された本件法定外会議への出席に係る費用弁償は,その全額が違法であって不当利得となり,本件議員らの各不当利得額は,別紙1のとおりであり,その総額は567万9000円である。また,上記期間の本会議及び法定委員会の出席に係る費用弁償は,少なくともその半額が違法であって不当利得となり,本件議員らの各不当利得額は,別紙1のとおりであり,その総額は1712万3000円である。なお,争点⑤について述べたとおり,定額支給する費用弁償が適法であるというためには,当該費用弁償額が実費のせいぜい2倍以内に抑えることが必要であるところ,本件費用条例に定める額を半額とした場合,これは,争点⑤において算出した実費(交通費相当額に諸雑費相当額1000円を加えた額)の1.6ないし3.3倍となることになり,2倍を下回るのは,本件議員らのうち現職の者111人の約3分の1にとどまるから,上記半額という値には合理性がある。
イ 予備的請求
仮に,府議会の会期内の法定外会議への出席について費用弁償を支給することが許されるとしても,争点③について述べたとおり,府議会の会期外の法定外会議への出席に係る費用弁償は違法である。したがって,平成18年6月から平成19年5月までの間の府議会の会議中を除く期間に開催された法定外会議への出席に係る費用弁償は,その全額が違法であって不当利得となるところ,本件議員らの各不当利得額は,別紙2のとおりであり,その総額は533万1000円である。また,平成18年6月から平成19年5月までの間の本会議,法定委員会及び同期間のうち府議会の会期中の本件法定外会議への出席に係る費用弁償額は,少なくともその半額が違法であって不当利得となり,本件議員らの各不当利得額は別紙2のとおりであり,その総額は1729万7000円である。
【被告の主張】
争う。
第3当裁判所の判断
1 争点①について
地方自治法242条の2第1項各号が規定する住民訴訟は,適法な住民監査請求を経た財務会計上の行為(これを怠る事実を含む。以下同じ。)についてのみ提起することが許されるところ,本件請求は,大阪府(議会事務局長)が,平成18年6月から平成19年5月までの間に開催された会議等へ出席した本件議員らに対し違法に費用弁償を支給したことを原因として発生した,大阪府の本件議員らに対する不当利得返還請求権につき被告がその行使を怠る事実を,違法な財務会計上の行為として主張するものであるから,本件訴えの全部が適法であるためには,上記怠る事実について適法な住民監査請求を経ている必要がある。もっとも,以上から明らかなとおり,本件請求において対象とされている財務会計上の行為は,大阪府(議会事務局長)の本件議員らに対する本件費用弁償の支給(公金の支出)という財務会計上の行為が違法であることに基づいて発生する実体法上の請求権の不行使をその内容とする,いわゆる不真正怠る事実であるから,本件議員らに対する本件費用弁償の支給という財務会計上の行為について適法な住民監査請求を経ていれば,特段の事情が認められない限り,当該住民監査請求は上記怠る事実についてもその対象として含むものと解される(最高裁昭和57年(行ツ)第164号同62年2月20日判決・民集41巻1号122頁参照)。以上を前提に,争点①について検討する。
前記前提事実によると,会議等への出席に係る費用弁償は,当該会議等が開催された翌月中旬に,各府議会議員に対し,前月分がまとめて支給されるというのであるから,本件費用弁償の支給は,各月及び各支給対象議員ごとに,別個の財務会計上の行為(公金の支出)であるというべきである。そうであるところ,前記前提事実及び証拠(甲2,3)によれば,原告らが平成19年6月20日付けでした本件監査請求においては,平成18年4月から平成19年3月までに開催された会議等に係る各費用弁償の支給(公金の支出)のみが監査の対象とされていたこと,原告らが同年9月17日に大阪府監査委員に提出した本件補正書の内容は,本件監査請求における監査の対象を平成18年6月から平成19年5月までに開催された会議等に係る各費用弁償の支給(公金の支出)に変更するものであることが明らかである。
以上によれば,本件補正書の内容は,本件監査請求の補正の範囲を超えるものといわざるを得ない。しかしながら,本件補正書において新たに監査の対象に追加された財務会計上の行為(公金の支出としての平成19年4月及び同年5月に開催された会議等に係る大阪府議会議員に対する各費用弁償の支給)は,本件監査請求における監査の対象とされた財務会計上の行為(公金の支出としての平成18年4月から平成19年3月までに開催された会議等に係る大阪府議会議員に対する各費用弁償の支給)と同種,同内容の行為である上,本件補正書の提出時点において地方自治法242条2項所定の監査請求期間の遵守に欠けるところもない。このことに加えて,そもそも,住民監査請求を受けた監査委員は,当該住民監査請求を契機として,監査請求の対象とされた行為又は怠る事実につき,住民の主張する違法,不当事由や提出された証拠資料のいかんにかかわらず,違法,不当が存するか否かを判定し,これを肯定するときは,その是正のため必要と考えるあらゆる措置を関係機関又は職員に勧告することができるものとされていることをも併せ考えると,上記事実関係の下においては,本件補正書の提出により追加に係る財務会計上の行為(公金の支出としての平成19年4月及び同年5月に開催された会議等に係る大阪府議会議員に対する各費用弁償の支給)が適法に監査の対象とされたものと解するのが相当であり,また,対象の特定に欠けるところもないというべきである。
以上によれば,本件請求のうち,平成19年4月及び5月に開催された会議等に係る費用弁償の支給に係る部分についても,適法な住民監査請求を経ていると認められるから,本件訴えは,その全部が,適法な住民監査請求を経た適法なものであると認められる。
2 争点②③について
旧地自法203条1項,3項は,普通地方公共団体の議会の議員は,職務を行うため要する費用の弁償を受けることができる旨規定しており,普通地方公共団体の議会の議員が,その活動について費用弁償を受けるためには,当該活動が議会の議員としての職務であることを要することが明らかである。そこで以下では,本件議員らの本件法定外会議への出席が議会の議員としての職務であるということができるか検討する。
(1) 憲法93条は,地方公共団体には,法律の定めるところにより,その議事機関として議会を設置し,同議会の議員は,その地方公共団体の住民が,直接選挙する旨規定している。そして,地方自治法96条1項は,普通地方公共団体の議決事項として,条例の制定又は改廃のほか,予算を定めることその他の当該地方公共団体の財政にかかわる重要事項等を列挙し,同条2項は,普通地方公共団体は,同条1項に定めるものを除くほか,条例で普通地方公共団体に関する事件につき議会の議決すべきものを定めることができる旨規定し,同法98条1項は,普通地方公共団体の議会は,当該普通地方公共団体の事務に関する書類及び計算書を検閲し,当該普通地方公共団体の長及び法律に基づく委員会又は委員の報告を請求して,当該事務の管理,議決の執行及び出納を検査することができる旨規定し,同条2項は,議会は,監査委員に対し,当該普通地方公共団体の事務に関する監査を求め,監査の結果に関する報告を請求することができる旨規定し,同法99条は,普通地方公共団体の議会は,当該普通地方公共団体の公益に関する事件につき意見書を国会又は関係行政庁に提出することができる旨規定し,同法100条1項は,普通地方公共団体の議会は,当該普通地方公共団体の事務に関する調査を行い,選挙人その他の関係人の出頭及び証言並びに記録の提出を請求することができる旨規定している。
以上のとおり,地方自治法は,普通地方公共団体の議会の組織,権限及び運営等についての規定を設けているが,これらの規定は,普通地方公共団体の議決機関である議会についての基本的事項を定めたものにすぎず,同法は,議会の活動のすべてを網羅し,それ以外の活動を禁止する趣旨のものではないと解される。すなわち,憲法及び地方自治法上,普通地方公共団体の議会は,長の提出した議案について議決するだけにとどまらず,当該普通地方公共団体の住民の代表機関として,当該普通地方公共団体における行政全般にわたる基本的施策等を提議,議論し,当該普通地方公共団体の住民の福祉の増進を図る積極的役割を広く担う存在として位置付けられており,普通地方公共団体の議会は,その機能を適切に果たすために必要な限度で広範な権能を有しているものと解されるのであって,議案の審査や会議の運営等の機能を適切に果たすために必要な情報の収集,協議又は調整等を行うことも,合理的な必要性があるときはその裁量によりこれを行うことができると解される。のみならず,普通地方公共団体の議会は,住民の代表機関として社会的に実在する組織であり,外部に対し社会的儀礼の範囲内で祝意,弔意等を表明したり,公式の行事等に代表を派遣したりすることも,合理的な必要性があるときは,その裁量によりこれを行うことができると解されるほか,その活動を当該普通地方公共団体の住民に周知,宣伝等したり,その歴史を検証等したりすることも,その機能を適切に果たすために合理的な必要性があるときは,その裁量によりこれを行うことができると解される。そして,以上のような普通地方公共団体の議会の活動を効率的かつ円滑に行うために合理的な必要性があるときは,その裁量により会議等(法定外会議)を設置することもできるものと解される。
もっとも,旧地自法の規定内容にかんがみると,旧地自法は,普通地方公共団体の議事機関としての活動については,会議(本会議)及び法定委員会(常任委員会,議会運営委員会及び特別委員会)において行うことを予定しているものと解される。すなわち,旧地自法109条4項は,常任委員会は,その部門に属する当該普通地方公共団体の事務に関する調査を行い,議案,陳情等を審査するものとし,同条5項は,常任委員会は,予算その他重要な議案,陳情等について公聴会を開き,真に利害関係を有する者又は学識経験を有する者等から意見を聴くことができるものとし,同条6項は,常任委員会は,当該普通地方公共団体の事務に関する調査又は審査のため必要があると認めるときは,参考人の出頭を求め,その意見を聴くことができるものとし,同条7項は,常任委員会は,議会の議決すべき事件のうちその部門に属する当該普通地方公共団体の事務に関するものにつき,議会に議案を提出することができる(ただし,予算についてはこの限りでない。)とし,同条9項は,常任委員会は,議会の議決により付議された特定の事件については,閉会中も,なお,これを審査することができる旨規定する。また,同法109条の2第4項は,議会運営委員会は,議会の運営に関する事項,議会の会議規則,委員会に関する条例等に関する事項,議長の諮問に関する事項に関する調査を行い,議案,陳情等を審査するとし,同条5項は,議会運営委員会について常任委員会に関する同法109条5項,6項,7項及び9項の規定を準用する。さらに,同法110条4項は,特別委員会は,会期中に限り,議会の議決により付議された事件を審査し,議会の議決により付議された特定の事件については,閉会中もなおこれを審査するものとし,同条5項は,特別委員会について常任委員会に関する同法109条5項,6項,7項及び9項の規定を準用する。これらの規定によれば,旧地自法は,議案についての最終的な意思決定を本会議の権限としつつ,本会議における審議を充実させ,適切な表決を迅速に行うことを可能にするために,本会議における会議の予備的,専門的,技術的な審査等を行う内部機関として常任委員会,議会運営委員会及び特別委員会(法定委員会)を設けた上,委員会において,委員(議員),利害関係者,学識経験者ないし参考人等らの自由な雰囲気の中での率直かつ意を尽くした議論ないし意見陳述等を通じて,十分な審査及び調査を行うことを予定しているものと解される。このような旧地自法の規定内容及び趣旨からすれば,同法は,法定委員会が本会議における会議の予備的,専門的,技術的な審査等を行う内部機関として上記のような機能を適正かつ効率的に果たすために必要な管理,運営上の準備行為としての協議,調整を行う場(会議等)を設けることをも許容していると解されるものの,そのような場(会議等)が法定委員会に代わるような議案についての実質的な審査及び調査を行う場となることは同法の許容するところではないのであって,そのような場を法定外会議として設けることは,同法に違反し許されないものというべきである。
なお,平成20年法律第69号による地方自治法の改正により,議会は,会議規則の定めるところにより,議案の審査又は議会の運営に関し協議又は調整を行うための場を設けることができる旨の規定が新設されるとともに(100条12項),議会の議員の報酬,費用弁償及び期末手当に関し,独立の規定が設けられたが(203条の2),同改正は,その立法経緯等にかんがみると,同改正前においても議員の職務として行われていた法定外会議等への出席を始めとした議員が職務として行う活動につき,旧地自法においてはこれを議員の職務とする旨の明確な規定がなく,他方で,議会の議員は非常勤職員と同一の条文においてその報酬,費用弁償及び期末手当が規定されていたため,その議員としての活動範囲も,基本的に,時間的には会期内,場所的には本会議・委員会など正規の会議で遂行された議員活動に限られるというように,非常に狭く解釈されがちであるなど,一般に誤解を与えるものであったため,議会の議員の位置付けを明確にするとの観点から,議会活動の範囲を明らかにするために,議会は会議規則の定めるところにより議案の審査又は議会の運営に関し協議又は調整を行うための場を設けることができる旨の規定を置くとともに,議員の職務が他の非常勤職員とは異なり広範なものであることを明らかにするために,その報酬等につき,他の非常勤職員とは別個の条文において規定することとしたものであるということができる。そうであるとすれば,上記改正により新たに規定された100条12項も,議会に議案の審査又は議会の運営に関し協議又は調整を行うための場を設ける権限を新たに付与する趣旨のものではなく,法定外会議の設置の許否についての旧地自法の前記解釈の妨げとなるものではない。
(2) 原告らは,旧地自法は,議会につき,公開原則や会議録の記載等,厳格な定めを置いており,法定委員会についても,これを任意の機関とした上で,その種類,数及び権限等を詳細に規定しているのであって,法定外会議を設置することは,このように議決につき厳格な法的手続を定める同法の趣旨に反し,これを潜脱するものとして許されない旨主張する。
確かに,旧地自法は,第2編6章6節において,普通地方公共団体の議会の会議(本会議)につき,その公開を原則とし,一定の場合に限り秘密会を開くことができることとし(同法115条),議長は,事務局長又は書記長に会議録を作成させなければならないとした上で,その方式等を規定するなど(同法123条),会議の運営について具体的な規定を置いているが,その趣旨は,議案についての最終的な意思決定としての議会の議決の重要性にかんがみ,そのような議決の要件や効力の有無等を明確にすることにあると解され,他方で,旧地自法は,法定委員会については,本会議における会議の予備的,専門的,技術的な審査等を行う内部機関としての性格にかんがみ,その構成及び議案の提出権(同法109条7項,109条の2第5項,110条5項)その他の権限等を規定するにとどめ,その手続について本会議におけるような詳細な規定を置いていないのであって,その趣旨からすれば,議事機関としての議会の最終的な意思決定以外の活動を目的として法定外会議を設置することが,同法が本会議について具体的な手続規定を置いている趣旨に直ちに反するということはできない。
(3) 以上によれば,旧地自法の下においても,普通地方公共団体は,その議会の機能を適切に果たすために合理的な必要性がある場合には,その裁量により法定外会議を設置することが許され,このようにして設置された法定外会議への議員の出席は,議員の職務そのものであるというべきであるから,旧地自法203条3項にいう「職務」に該当し,これにつき費用弁償を支給することも許されると解すべきである。
もっとも,法定外会議において行われた現実の活動が前記のような議会の機能を適切に果たすための必要性,合理性を欠くものであった場合や,前記のように法定委員会に代わるような議案についての実質的な審査及び調査を行うものであったような場合には,このような法定外会議への議員の出席は,議員としての職務に該当するということはできないから,費用弁償の対象とすることは許されないものというべきである。
原告らは,旧地自法は,普通地方公共団体の議会につき会期制を採用しているところ(同法102条6項,109条9項,109条の2第3項,110条4項),法定外会議への出席が議員の職務に含まれ費用弁償の対象となり得るとしても,会期外の法定外会議への出席は,議員の職務とはいえず,費用弁償の対象とすることは許されない旨主張する。
しかしながら,旧地自法が採用する会期制は,普通地方公共団体の議会における本会議及び法定委員会の活動能力を一定期間に制限するものにすぎず,これを超えて,議会やその議員の活動能力そのものをも制約するものであると解することはできないのであって,会期の内外を問わず前記のとおり議会の機能を適切に果たすために合理的な必要性がある場合に法定外会議を通じて活動することは同法の許容するところと解されるから,議員が会期外に開催される法定外会議に出席することも,旧地自法203条3項にいう「職務」として,費用弁償の対象となり得るというべきであり,原告らの上記主張は採用することができない。
(4) 以上の見地から本件法定外会議をみるに,前記前提事実,証拠(乙3,4,6ないし10)及び弁論の全趣旨によると,本件法定外会議は,いずれも,運営委員会条例若しくは委員会条例又は運営委員会条例に基づく議会運営委員会の規則によって設置されたものであること,本件法定外会議のうち,議会運営委員会理事会は,議会運営委員会から委任された事項及び議会運営委員会委員長が必要と認めた事項について,協議することをその設置目的とし,具体的には,定例会の運営や本会議の議事進行等の議会運営についての検討事項等が協議されていること,政務調査委員会は,意見書案,決議案等に関し協議することをその設置目的とし,具体的には,意見書案・決議書案の文案の調整等が行われていること,広報委員会は,大阪府議会の広報に関し必要な事項を協議することをその設置目的とし,具体的には,議会広報の充実を図るため,各種広報媒体の活用方法やテレビ広報番組に係る年間広報計画等について協議されていること,議会構成委員会は,大阪府議会の構成に関し必要な事項を協議することをその設置目的とし,具体的には,議長・副議長及び監査委員候補の選考,常任委員会等への会派別割当等について協議されていること,正副委員長会議(合同会議)については,議会運営委員会条例によって,議会運営委員会委員長は,必要があると認めるときは,関係する常任委員会又は特別委員会の委員長及び副委員長と合同してこれを開くことができる旨規定されており,実際には,同委員会において,議会運営委員会での協議事項のうち,定例会における委員会の審査日程や委員会運営の申し合わせや請願の取扱いなどについて,関係する常任委員会又は特別委員会の正副委員長に対する報告等が行われていること,庁舎整備検討委員会は,大阪府庁舎本館の耐震診断の結果,建築基準法が必要とする耐震性能を相当下回ることにかんがみ今後の府本庁舎の整備のあり方等について総合的に調査,検討することをその設置目的とし,具体的には,府の庁舎整備の考え方について,理事者から説明を聴取し,耐震化の方法や府の財政に与える影響等を総合的に調査,検討していること,議会史偏さん委員会は,大阪府議会史に関する重要事項について協議することをその設置目的とし,具体的には,議会史掲載内容,編さんスケジュール及び監修者の選定に関すること等が協議されていること,常任委員会代表者会議及び特別委員会代表者会議は,当該常任委員会又は特別委員会の運営等について協議することをその設置目的とし,具体的には,各委員会の審査日程,質問通告,質問の順序及び時間並びに傍聴の取扱等,当該委員会の運営全般について協議されていること,委員協議会については,委員会条例によって,委員長は,必要があると認めるときは,委員協議会を開くことができる旨規定されており,実際には,委員会所管事項に係る事務事業概要,定例会への提出予定議案及び閉会中の緊急課題等についての,主として説明聴取等を行っていること,議会運営協議会は,一般選挙後議会運営委員会が設置されるまでの間,議会の運営等に関する事項を協議することをその設置目的とすること,以上のとおり認められる。
以上認定したところによれば,本件法定外会議は,いずれも,条例又は議会運営委員会規程にその根拠を有する上,その設置目的及びその具体的な協議内容に照らして,普通地方公共団体の議会の広範かつ重要な機能を果たすための合理的な必要性を肯定することができる。また,本件費用弁償に係る期間に開催された本件法定外会議の議事録(甲6,13,14。枝番を含む。)をみても,これらの本件法定外会議において行われた活動が,議会の機能を適切に果たすための必要性,合理性を欠くものであったとも,法定委員会に代わるような議案についての実質的な審査及び調査を行うものであったとも直ちに認めることはできず,本件法定外会議の個々の具体的活動内容等についてそれ以上の主張立証を欠く状況の下においては,本件法定外会議の設置及び上記期間におけるその活動が,前記のような普通地方公共団体ないしその議会の裁量権の範囲を逸脱又はこれを濫用したものということはできない。
したがって,上記期間に開催された本件法定外会議への本件議員らの出席は,いずれも議員の地位に基づく議員としての職務であって,旧地自法203条3項にいう「職務」として費用弁償の対象となり得るというべきである。
3 争点④について
(1) 旧地自法203条5項は,費用弁償の額並びにその支給方法は,条例でこれを定めなければならない旨規定し,同法204条の2は,普通地方公共団体は,いかなる給与その他の給付も法律又はこれに基づく条例に基づかずには,これを同法203条1項の職員及び同法204条1項の職員に支給することができない旨規定しており,議会の議員に対する費用弁償の支給には,条例の根拠が必要であることを明らかにしている。したがって,前記のとおり本件議員らの本件法定外会議への出席が議員としての職務に該当し,これを費用弁償の対象とすること自体は旧地自法の許容するところであるとしても,条例において,本件法定外会議への出席が費用弁償の支給事由として定められていない限り,上記本件法定外会議への出席について費用弁償を支給することは許されないことになる。そうであるところ,前記法令等の定め記載の本件条例の規定内容に照らすと,本件法定外会議への出席が費用弁償の支給事由に該当するといえるためには,これが,同条例4条3項の「その他公務のため,管内を旅行したとき」に該当するといえることが必要となる。
(2) ところで,普通地方公共団体が,その議会の議員に対し,いかなる事由につき費用弁償を支給することとするかは,当該費用弁償に係る条例を定める普通地方公共団体の議会の裁量にゆだねられているのであるが(前掲最高裁平成2年12月21日判決参照),前記のとおり,普通地方公共団体の議会はその機能を適切に果たすために必要な限度で広範な権能を有し,したがってまたこの構成員である議員の職務も広範に及ぶものであるから,費用弁償の支給事由を議員の具体的職務内容に即して逐一規定することは困難であると考えられる一方,旧地自法203条3項は,職務の執行に要する実費については償われるべきことを原則としているものと解されることからすると,費用弁償の支給事由をあらかじめ条例において定めるに当たっては,費用弁償の対象となる事由とならない事由を区別し得る限り,ある程度概括的に規定することも立法技術上やむを得ないというべきである。そうであるところ,本件条例4条3項は,「その他の公務のため,管内を旅行した場合」を費用弁償の支給事由として規定しており,その規定文言に照らせば,これは,議員としての職務であって,大阪府内の移動を伴う活動を広く費用弁償事由とする趣旨であると解することができ,費用弁償の対象となる事由とならない事由とを区別し得る程度に明確に規定されているということができるから,以上のような費用弁償の支給事由の定めを条例に規定することが,議会の裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用するものであるということはできない。したがって,本件議員らの本件法定外会議への出席も,大阪府内での移動を伴う議員としての職務として,上記費用弁償の支給事由に該当するものというべきである。上記文言では費用弁償の支給方法を条例で定めたことにはならない旨の原告らの主張は,採用することができない。
4 争点⑤について
(1) 旧地自法203条3項にいう費用の弁償とは,同法207条にいう実費の弁償と同義であって,職務の執行等に要した経費を償うために支給される金銭をいうものと解されるから,本来,職務執行のために現実に出捐した実費の額をもって費用弁償の額とすることが,その建前に忠実であるということができる。もっとも,先に説示したとおり,議会は広範な権能を有し,それに伴ってその議員の職務内容も多種多様なものが考えられ,また,各議員ごとにその内容が異なり得るものであることなどに照らすと,費用弁償額が常に職務の執行のために現実に出捐した実費の額と厳密に同額でなければならないとすれば,その事務処理が煩瑣となり,かえって不合理な結果が生じることも想定されるのであり,旧地自法203条5項に基づき条例で費用弁償につき定めるに当たっては,あらかじめ費用弁償の支給事由を定め,それに該当するときには,実際に費消した額の多寡にかかわらず,標準的な実費である一定の額を支給(定額支給)することとする取扱いをすることも許されると解され,この場合,いかなる事由を費用弁償の支給事由として定めるか,また,標準的な実費である一定の額をいくらとするかという点については,費用弁償に関する条例を定める当該普通地方公共団体の議会の裁量にゆだねられていると解される(前掲最高裁平成2年12月21日判決参照)。もっとも,上記のとおり,旧地自法203条3項の費用弁償は,実費弁償を建前とするものであるから,条例において,費用弁償につき定額支給の方法により支給する旨定めること自体は許されるとしても,上記標準的な実費として定められた一定の額が,実際の実費と著しくかい離し,費用弁償につき定額支給が許容されている趣旨に照らしても,もはや実費弁償としての実質を有するとはいえないような場合には,そのような費用弁償の定めは,議会の裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用したものとして,違法,無効であり,これに基づき費用弁償を支給することは許されないと解すべきである。
そこで,本件条例別表に規定する費用弁償額の定めが,議会の裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用するものとして違法,無効(原告らの主張は,本件条例別表の定める費用弁償額の一部無効をいうものであると解される。)であると認められるか検討する。
(2) 職務の執行に要する実費は,種々の費目を積算したものであるから,本件のように,条例において費用弁償を定額支給の方法により支給するものとしている場合に,当該標準的な実費として定められた額が,前記裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用したものであると認められるかを検討するに当たっても,これと,標準的な費目及びその額を積算したものとを比較して検討すべきである。そうであるところ,公務のため旅行する国家公務員に対し支給する旅費に関しては,公務の円滑な運営に資するとともに国費の適正な支出を図ることを目的として,国家公務員等の旅費に関する法律(昭和25年法律第114号。以下「旅費法」という。)が定められており,同法の定める旅費が,実費弁償の性格を有すると解されていることからすれば,少なくとも同法の定める旅費に準じた費用弁償額の定めをすることは,前記裁量権の行使として合理性を肯定することができるというべきである。そうであるところ,旅費法6条1項は,旅費の種類として,鉄道賃,船賃,航空賃,車賃,日当,宿泊料,食卓料,移転料,着後手当,扶養親族移転料,支度料,旅行雑費及び死亡手当を掲げ,同条15項は,内国旅行のうち同法26条1項に規定する旅行については,同法6条1項に掲げる旅費に代え,日額旅費を旅費として支給する旨規定し,同法26条2項は,日額旅費の額,支給条件及び支給方法は,各庁の長が財務大臣に協議して定めるが,ただし,その額は,当該日額旅費の性質に応じ,同法6条1項の旅費の額について同法で定める基準を超えることはできないと規定している。これによると,同法26条2項に基づく日額旅費は,同法6条1項が掲げるすべての費目を含み得るものと解される。そして,本件条例別表の規定内容にもかんがみると,日額により定額を支給するものとしている本件条例4条3項は,交通費のみならず,旅費法6条1項が掲げるその余の費目のうち,少なくとも日当をもその弁償対象としていると合理的に解される。
この点,原告らは,本件条例4条4項が,府議会議員が公用車により全路程を旅行したときは,同条3項の費用弁償は支給しない旨規定していること及び同条例別表が住居地区の議会からの距離により費用弁償額を定めていることからすると,本件条例における費用弁償には,日当その他の経費は含まれないと主張する。
しかしながら,前記のとおり,旧地自法203条3項は,職務の執行に要する実費については費用弁償として償われるべきことを原則とした上,これを議員の権利として保障している趣旨にかんがみると,別異に解すべき特段の事情がない限り,定額支給の方法により支給される費用弁償は,旅費法6条1項が掲げる交通費以外の費目についても,その性質に応じてこれを含むものと解するのが合理的である。そうであるところ,本件条例4条は,管内の旅行を除き,府議会議員が公務のため旅行したときは,旅費法に定める額に準じて費用弁償を支給するとしているのであり,同法が定める旅費には日当が含まれることは前記のとおりであるから,上記旅行に係る費用弁償は交通費以外の日当その他の費目も含む趣旨であることは明らかである。そうすると,本件条例が,公務のため管内を旅行した場合については交通費のみを費用弁償として支給するものとし日当その他の費目についてはこれを弁償しない趣旨を定めたものと解するのは合理性に欠けるものというほかない。このような観点からすれば,同条4項の規定は,公務のため管内を旅行する場合において公用車により全旅程を旅行したときについては,交通費以外の費目のみを費用弁償として支給するのは相当でないとの考えから,費用弁償を支給しないとしたものと解するのが相当であり(その趣旨は同規定の制定経緯からもうかがわれるところである。),同規定を根拠に同条3項の規定について公務のため公用車によらずに管内を旅行したときは交通費のみを費用弁償として支給する趣旨を定めたものと解するのは,公務のため旅行したときは旅費法の規定に準じて交通費以外の費目についてもその性質に応じこれを費用弁償として支給するものとする同条の趣旨に整合せず,合理性を欠くものというべきである。したがって,原告らの上記主張を採用することはできない。
(3) 以上のとおり,本件条例4条3項の定める費用弁償は,交通費のほかに少なくとも日当の弁償をも含むと解されるところ,条例において旅費法の規定に準じて交通費のほかに日当をも費用弁償の対象として規定することが普通地方公共団体の議会の裁量権の行使としての合理性を欠くということはできない。
また,交通費についても,前記のような議員の職務の内容及び性質等にかんがみると,職務上の必要から鉄道その他の公共交通機関によらずタクシーにより管内を移動することも多いと考えられることからすれば,その費用弁償額を,タクシーを利用した場合の交通費をも償うことができる程度の額とすることも,直ちに不合理であるとはいえない。
以上に加えて,交通費は,議員の住所地から旅行先までの距離に応じて増大する性質のものである上,本件条例4条3項が費用弁償の支給事由として定める公務のための管内の旅行については,府庁において開催される本会議,法定委員会又は法定外会議への出席がその主要部分を占めると考えられるところ,本件条例4条3項及び別表は,おおむね,府庁の存する大阪市と議員の住所地との距離に応じて,一日当たりの費用弁償額を,7000円,9000円,1万2000円及び1万5000円と,4段階に分けて規定していることなどをも総合的に考慮すると,本件条例4条3項の定める費用弁償事由についてその費用弁償額を定める同条例別表の規定が,実費と著しくかい離し実費弁償としての実質を失っているとまではいえず,議会の裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものであるということはできないというべきである。
したがって,本件条例4条3項の定める費用弁償事由についてその費用弁償額を定める同条例別表の規定が違法無効であるということはできない。
5 結論
以上によれば,本件費用弁償の支給は,いずれも違法であるとは認められず,本件議員らが受けた同費用弁償の支給が,法律上の原因を欠くものとはいえないから,原告らが,被告がその行使を怠っていると主張する本件議員らに対する不当利得返還請求権は存在しない。
よって,原告らの本訴請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がないから,これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西川知一郎 裁判官 徳地淳 裁判官 釜村健太)