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大阪地方裁判所 平成19年(行ウ)82号 判決 2011年2月02日

主文

1  本件訴えのうち,次の各請求に係る部分をいずれも却下する。

(1)  Aに対する補助金の支出が違法であるとして,A,P1及びP2に対する請求を求める主位的請求のうち平成16年度及び平成17年度の各補助金の支出に関する部分,P3に対する賠償命令を求める主位的請求,P4に対する賠償命令を求める請求並びにP5に対する賠償命令を求める請求のうち平成17年度の補助金の支出に関する部分

(2)  Aに対しP1の給与等相当額の補助金を交付することが共同不法行為であるとして,P2に対する請求を求める予備的請求のうち平成16年度及び平成17年度の各補助金の交付に関する部分並びにP3に対する賠償命令を求める予備的請求

2(1)  被告は,A,P1及びP2に対し,各自709万6621円及びこれに対する平成19年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を大東市に支払うよう請求せよ。

(2)  被告は,A及びP1に対し,連帯して1765万7141円及び内954万5990円については平成17年4月1日から,内811万1151円については平成18年4月1日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を大東市に支払うよう請求せよ。

(3)  被告は,P5に対し,709万6621円及びこれに対する平成19年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の賠償の命令をせよ。

3(1)  被告は,B及びP2に対し,各自63万6400円及び内21万8700円については平成18年4月1日から,内41万7700円については平成19年4月1日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を大東市に支払うよう請求せよ。

(2)  原告のP6及びP7に対する賠償命令を求める請求をいずれも棄却する。

4  訴訟費用はこれを5分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

【A補助金関係】

1(1)  被告は,A,P1及びP2に対し,連帯して2475万3762円及び内954万5990円については平成17年4月1日から,内811万1151円については平成18年4月1日から,内709万6621円については平成19年4月1日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を大東市に支払うよう請求せよ。

(2)  被告は,P3に対し,954万5990円及びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の賠償の命令をせよ。

2(1)  被告は,P4に対し,1448万0003円及び内954万5990円については平成17年4月1日から,内493万4013円については平成18年4月1日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員の賠償の命令をせよ。

(2)  被告は,P5に対し,1027万3759円及び内317万7138円については平成18年4月1日から,内709万6621円については平成19年4月1日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員の賠償の命令をせよ。

【アルバイト職員給与関係】

3 被告は,B及びP2に対し,連帯して63万6400円及び内21万8700円については平成18年4月1日から,内41万7700円については平成19年4月1日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を大東市に支払うよう請求せよ。

4(1) 被告は,P6に対し,55万8770円及び内21万8700円については平成18年4月1日から,内34万0070円については平成19年4月1日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員の賠償の命令をせよ。

(2) 被告は,P7に対し,7万7630円及びこれに対する平成19年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員の賠償の命令をせよ。

第2事案の骨子

本件は,大東市の住民である原告が,A(通称「D」)に対する補助金の交付やEに対する職員の派遣を問題として,地方自治法242条の2第1項4号に基づき,被告に対し,損害賠償請求することなどを求めた住民訴訟である。

1  【A補助金関係】

本件のうち請求1及び2については,原告が,大東市がAに対しAの職員として採用されたP1の給与等として毎年多額の金銭を補助金として交付してきたことは公益上の必要性を欠く違法なものであるなどと主張して,平成16年度から平成18年度までに大東市からAに交付された補助金(以下,各年度ごとに「平成16年度補助金」などといい,併せて「本件各補助金」という。)のうち,P1の給与等相当額に当たる合計2475万3762円につき,(1)請求1記載のとおり,①主位的に,本件各補助金の支出(厳密には,補助金交付決定,支出命令及び支出の各行為であるが,適宜,これらを併せて「支出」とのみ表記する。)が違法,無効であることを理由として,A及びP1に対して不当利得返還請求をすることを,市長であるP2に対して不法行為に基づく損害賠償請求をすることを,助役であったP3に対して同法243条の2第1項の賠償命令をすることをそれぞれ求め,②予備的に,Aに対しP1の給与等相当額の補助金を交付することが,P2,P3,A及びP1による共同不法行為であるとして,P2,A及びP1に対して不法行為に基づく損害賠償請求をすることを,P3に対して賠償命令をすることをそれぞれ求め,③A及びP1につき,主位的請求及び予備的請求が認められない場合の再予備的に,本件各補助金交付決定の取消しを前提として,同人らに対して不当利得返還請求をすることを求め,さらに,(2)請求2記載のとおり,収入役であったP4及びP5に対して賠償命令をすることを求めた事案である。

2  【アルバイト職員給与関係】

本件のうち請求3及び4については,原告が,大東市がEにアルバイト職員を派遣しその給与等を負担したことは,「公益法人等への一般職の地方公務員の派遣等に関する法律」(平成18年法律第50号による改正前のもの。以下「地方公務員派遣法」という。)に違反するなどと主張して,平成18年にEに配置されていた各アルバイト職員(以下「本件アルバイト職員」という。)に対し大東市が同年中に支出した給与等合計63万6400円につき,(1)請求3記載のとおり,Bに対して不当利得返還請求をすることを,P2に対して不法行為に基づく損害賠償請求をすることをそれぞれ求め,さらに,(2)請求4記載のとおり,出納室長であったP6及び出納室長代理であったP7に対して賠償命令をすることを求めた事案である。

第3法令等の定め

1  【A補助金関係】

(1)  地方自治法232条の2

普通地方公共団体は,その公益上必要がある場合においては,寄附又は補助をすることができる。

(2)  大東市補助金交付規則(平成12年3月17日大東市規則第14号,甲6)

ア 4条

市長は,補助金等の交付の申請を受けたときは,当該申請に係る書類等により,当該申請に係る補助金等の交付が法令,条例若しくは規則又は予算で定めるところに違反しないかどうか,補助事業の目的及び内容が適正であるかどうか,金額の算定に誤りがないかどうか等を審査し,補助金等を交付すべきものと認められたときは,補助金等の交付の決定をするものとする。

イ 12条1項

市長は,補助金等の交付を受けた補助事業者が,次の各号のいずれかに該当するときは,補助金等の交付の決定の全部又は一部を取り消すことができる。

1号 補助金等を当該補助事業以外の用途に使用したとき

2号 補助金等の交付決定の内容又はこれに付した条件その他この規則又はこれに基づく市長の指示に違反したとき

3号 (以下略)

(3)  A補助金交付要綱(平成14年3月25日大東市要綱第27号,甲7)2条

補助金交付の対象は,Aとし,交付対象となる経費は,次に掲げるものとする。

(1) 人権教育及び人権啓発に関する事業費

(2) 協議会の運営に要する人件費

2  【アルバイト職員給与関係】

(1)  地方公務員派遣法2条1項

任命権者は,次に掲げる団体(公益法人等)のうち,その業務の全部又は一部が当該地方公共団体の事務又は事業と密接な関連を有するものであり,かつ,当該地方公共団体がその施策の推進を図るため人的援助を行うことが必要であるものとして条例で定めるものとの間の取決めに基づき,当該公益法人等の業務にその役職員として専ら従事させるため,条例で定めるところにより,職員(条例で定める職員を除く。)を派遣することができる。

1号 民法(平成18年法律第50号による改正前のもの。)34条の規定により設立された法人

2号 地方独立行政法人法55条に規定する一般地方独立行政法人

3号 特別の法律により設立された法人(前号に掲げるもの及び営利を目的とするものを除く。)で政令で定めるもの

4号 地方自治法263条の3第1項に規定する連合組織で同項の規定による届出をしたもの

(2)  大東市公益法人等への職員の派遣等に関する条例(平成14年3月28日条例第2号,甲11)

ア 2条

任命権者は,公益法人等(地方公務員派遣法2条1項に規定する公益法人等をいう。)のうち次の各号に掲げるものとの間の取決めに基づき,当該公益法人等の業務にその役職員として専ら従事させるため,職員(同条例3条1項各号に定める職員を除く。)を派遣することができる。

1号 大東市が基本金その他これに準ずるものを出資し,かつ,大東市内に主たる事務所を有する法人で,規則で定めるもの

2号 前号に掲げるもののほか,その業務の全部又は一部が大東市の事務又は事業と密接な関連を有するものであり,かつ,大東市がその施策の推進を図るため人的援助を行うことが必要であるもので,規則で定めるもの

イ 3条1項

地方公務員派遣法2条1項に規定する条例で定める職員は,次の各号に掲げる職員とする。

1号 臨時的に任用される職員その他の法律により任期を定めて任用される職員(かっこ内略)

2号 (以下略)

第4前提となる事実(当事者間に争いのない事実及び証拠等により容易に認められる事実。以下,書証番号は特に断らない限り枝番号を含むものとする。)

1  当事者等

(1)  原告は大東市の住民である。

(2)  P2は平成12年5月5日から大東市の市長の職にある者である。

P3は平成13年9月7日から平成19年3月31日まで同市の助役の職にあった者であり,100万円未満の補助金の交付決定の専決権限を有し,かつ,大東市長が不在のときに同市長の決裁事項についての代決権限を有していた者である(大東市事務決裁規程7条,11条)。

(3)  P4は平成13年10月から平成17年9月まで大東市の収入役の職にあった者であり,P5は同年10月から同市の収入役の職にあった者である。

P6は,平成18年当時,大東市の出納室長の職にあった者であり,職員の報酬,給料等を専決により支出する権限を有していた者である(当時の大東市収入役事務決裁規程3条(1))。P7は,平成18年当時,大東市の出納室長代理の職にあった者であり,出納室長の専決事項について,室長が不在のときに代決することができる権限を有していた者である(同規程5条2項)。

(4)  Aは,平成14年3月にCを含む大東市のF4団体(C,G,H,I)が統合され,同年4月に発足した団体であり,人権教育及び人権啓発を推進することにより,市民の人権尊重と,その精神の涵養を図り,差別の撤廃をめざし,個人の尊厳が確立された明るいまちづくりを進めていくことを目的とする団体である。

Eは,大東市において同和問題に係る当事者団体として活動してきたものである。

(5)  P1は,Eの役員やCの事務局長を務めるなど大東市の同和行政に強い影響力を有していた者であり,平成14年4月1日から平成19年2月14日までAにおいて常勤職員として雇用されていた者である。

Kは,Lを前身として平成14年7月に発足した団体であり,P1が事務局長を務めている。

2  国の同和行政の経緯

(1)  国において,昭和40年8月にα答申が出され,昭和44年,10年間の時限法として同和対策事業特別措置法(以下「同対法」という。)が制定され,全国的に本格的な同和事業が実施されることとなった。同対法は3年間延長されたが,昭和57年4月,5年間の時限法として,同対法の枠組みを基本的に引き継いだ地域改善対策特別措置法が施行された。

(2)  昭和62年4月,5年間の時限法として地域改善対策特定事業にかかる国の財政上の特別措置に関する法律(以下「地対財特法」という。)が施行された。地対財特法は,平成4年と平成9年にそれぞれ5年間延長された後,平成14年3月31日をもって失効した。

3  本件各補助金の支出

(1)  Aと大東市(大東市長P2)は,平成14年4月1日,AがP1を雇用する当たっての協定(以下「本件協定」といい,その協定書(甲8)を「本件協定書」という。なお,その趣旨については後述のとおり争いがある。)を締結した。本件協定書には,次の内容が記載されている。

「平成14年4月1日設立のA(以下「甲」という)が,P1氏を雇用するにあたり,大東市(以下「乙」という)との間に,下記のことについて,協定を締結する。

1.乙の申し出により,甲の事務局職員として雇用する。

2.職務内容については,甲の事務局が行う職務全般とする。

3.服務,給与,休暇,勤務時間等は大東市職員に準ずるものとする。

4.定年は大東市職員に準ずる。ただし,再任用制度は適用しない。

退職金については,昭和60年4月を始期として乙が計算し,甲において積み立てをするものとする。

雇用に伴う人件費等は,乙が平成14年度以降必要額を毎年度甲への補助金に含めて予算措置する。

5.厚生年金,社会保険,雇用保険等について,現段階(平成14年4月1日現在)では,本人の意思により加入しないが,改めて本人から申し出があった時は,甲はすみやかに加入手続をし,乙は費用の対応をするものとする。

6.勤務時間は,午前8時45分から午後5時15分までとする。ただし,「大東市の職務に専念する義務の特例に関する条例」を準用し,本務に支障をきたさない範囲において,午後(午後0時45分から午後5時15分まで)Lからの申し出を受けて,業務を行うことを認める。

7.上記以外の業務を行う時は,本人から甲宛に職務免除願いを提出させる。(以下略)」

(2)  平成16年度から平成18年度までの,大東市からAへの本件各補助金及びAにおける予算支出中のP1の人件費の額(内訳)は,次のとおりである。

平成16年度補助金 1765万6000円

予算支出中の人件費  954万5990円

内訳     給与  488万9808円

職員手当  283万3182円

退職積立金  182万3000円

平成17年度補助金 1659万6000円

予算支出中の人件費  811万1151円

内訳     給与  495万0800円

職員手当  285万0619円

退職積立金   30万9732円

平成18年度補助金 1543万5000円

予算支出中の人件費  709万6621円

内訳     給与  436万6950円

職員手当  272万9671円

退職積立金         0円

(3)  平成16年度補助金につき,P3助役は,同年4月16日,代決により同補助金の交付決定を行い,同年5月21日に665万6000円,同年7月23日に400万円,同年10月22日に400万円,平成17年1月28日に300万円が,P4収入役の決裁によりそれぞれ支出された。

平成17年度補助金につき,P2市長は,同年4月15日,同補助金の交付決定を行い,同年4月26日に609万6000円,同年7月22日に400万円,同年11月8日に400万円,平成18年1月24日に250万円が,収入役(4月26日及び7月22日はP4,11月8日からはP5)の決裁によりそれぞれ支出された。

平成18年度補助金につき,P2市長は,同年4月20日,同補助金の交付決定を行い,同年5月12日に493万5000円,同年7月25日に400万円,同年11月21日に400万円,平成19年1月26日に250万円が,P5収入役の決裁によりそれぞれ支出された。

4  本件アルバイト職員に対する給与等の支出

(1)  Eは,大東市公益法人等への職員の派遣等に関する条例2条2号の「規則で定める」公益法人等には該当しない(大東市公益法人等への職員の派遣等に関する条例施行規則2条参照)。

(2)  本件アルバイト職員に対する平成18年1月分から5月分まで及び同年7月分から10月分までの給与等(給料及び交通費の合計。社会保険料は除く。)の支出命令日,支出日及び支出金額は,次のとおりである(いずれも平成18年。甲30)。

(支出命令)  (支出)   (支出金額)

1月分  2月6日  2月16日  6万5610円

2月分  3月3日  3月16日  7万2900円

3月分  4月5日  4月17日  8万0190円

4月分  5月1日  5月16日  7万2900円

5月分  6月5日  6月16日  7万2900円

7月分  8月2日  8月16日  3万1720円

8月分  9月5日  9月15日  8万4920円

9月分 10月3日 10月16日  7万7630円

10月分 11月2日 11月16日  7万7630円

(以上合計 63万6400円)

(3)  P6出納室長は,本件アルバイト職員の平成18年の1月分から5月分まで,7月分,8月分及び10月分の各給与等を専決によりそれぞれ支出し,P7出納室長代理は,本件アルバイト職員の同年9月分の給与等を代決により支出した。

5  原告の監査請求に至る経緯

(1) 平成18年10月27日,大東市議会の「いきいき委員会」において,P8市議会議員(以下「P8議員」という。)の質問により,本件各補助金及び本件アルバイト職員の問題が取り上げられ,その内容は,Mが発行する同年11月12日の aに掲載された。

平成19年2月6日,主要な新聞各紙に,本件各補助金及び本件アルバイト職員の問題に関する記事が掲載された。

(2)  原告は,同月14日,本件各補助金及び本件アルバイト職員の給与等を公金から支出することは違法であるなどとして,地方自治法242条1項に基づき,大東市監査委員に対し監査請求(以下「本件監査請求」といい,その監査請求書を「本件監査請求書」という。)をした。

大東市監査委員はこれに応じて監査を行い,同年4月10日付け監査結果(以下「本件監査結果」という。)において,要旨,監査請求期間を徒過した支出につき期間徒過の正当な理由はなく,平成18年2月14日以降の支出に係るものに限り監査対象とすること,本件各補助金の交付は適法であり請求人(原告)の主張には理由がないこと,本件アルバイト職員の雇用・派遣に係る公金の支出は違法であること,以上の判断を示した上,大東市に対し,同日以降に支出された本件アルバイト職員の賃金等につき関係職員に対し返還を求めるなど必要な措置を講ずることを求めた。そして,本件監査結果は,平成19年4月11日,原告に通知された。

6  本件訴訟の提起

(1)  大東市は,本件監査結果による措置要求に従わず,本件アルバイト職員の賃金等につき返還を求めるなどの措置を執らなかった。

(2)  原告は,同年5月9日,本件訴えを提起した。

第5主たる争点

1  【A補助金関係】の争点

(1)  本件各補助金の支出の違法を理由とする請求(請求1の主位的請求及び請求2)

(本案前の争点)

ア 監査請求期間徒過の正当な理由

イ 監査請求の対象と住民訴訟の対象の同一性

(本案の争点)

ウ 本件各補助金の支出の違法性

エ 当該職員又は相手方の責任の有無及び範囲

(2)  共同不法行為を理由とする損害賠償請求(請求1の予備的請求)

(本案前の争点)

ア 監査請求の対象と住民訴訟の対象の同一性

イ 監査請求期間制限の有無(いわゆる真正怠る事実か不真正怠る事実か)

(本案の争点)

ウ 共同不法行為の成否

エ 当該職員又は相手方の責任の有無及び範囲

(3)  補助金交付決定の取消しを前提とする不当利得返還請求(請求1(1)のA及びP1に係る再予備的請求)

(本案前の争点)

ア 補助金交付決定の取消しを前提とする不当利得返還請求と「怠る事実」該当性

(本案の争点)

イ 被告は本件各補助金の交付決定を取り消して不当利得返還請求をする義務を負うか否か

ウ 相手方の責任の有無及び範囲

2  【アルバイト職員給与関係】の争点(請求3及び4)

(1)  本件アルバイト職員はEに「派遣」されていたか否か

(2)  当該職員又は相手方の責任の有無及び範囲

第6主たる争点に関する当事者の主張の概要

1  【A補助金関係】の争点

(1)  本件各補助金の支出の違法を理由とする請求(請求1の主位的請求及び請求2)

ア 監査請求期間徒過の正当な理由

(被告の主張)

(ア) 大東市からAに対する平成16年度補助金及び平成17年度補助金の各支出は,平成16年5月21日から平成18年1月24日までの間にされており,原告が平成19年2月14日にした本件監査請求は上記各支出から1年以上経過しているから,地方自治法242条2項本文の監査請求期間を徒過している。

(イ) 平成17年度大東市一般会計予算書にはAに対する同年度補助金が記載されているところ,同予算書は同年2月24日から市民情報コーナーに据え置かれて市民の閲覧に供されており,同年3月28日に同年度予算が議決されていること,Aへの補助金は平成18年10月27日に公開して開催された「いきいき委員会」で取り上げられていることからすれば,上記委員会の開催をもって住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的に見て監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたといえ,その約110日後にされた本件監査請求は相当な期間内にされたものとはいえない。

しかも,原告は,本件監査請求書において,その住所を「大東市役所内 J」としているとおり,長年にわたり大東市役所内で政治活動をしている人物であり,平成18年10月27日のいきいき委員会で本件に関する質問を行ったP8議員とも政治的主義・主張を同じくする密接な関係にあり,P8議員の質問内容を知らなかったとは考えられず,少なくとも同日の時点で容易に当該行為の存在及び内容を知ることができたことは明らかである。この点,原告は,平成19年2月6日の新聞報道により初めて当該行為の存在及び内容を知り得たと主張するが,上記記載の点のほか,原告が本件監査請求において新聞記事には記載されていない内容の主張をしていること,新聞報道からわずかの期間でP1の退職積立金の金額の調査を行うことは容易ではなく,以前から原告は本件について知悉していたと考えられることからすれば,原告の主張は事実に反する。

(原告の主張)

(ア) 普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に財務会計上の行為の存在又は内容を知ることができなかった場合には,地方自治法242条2項ただし書にいう正当な理由の有無は,特段の事情のない限り,当該普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきである(最判平成14年9月12日・民集56巻7号1481頁)。

本件では,大東市の住民は,大東市がAに補助金を支出していることを知っただけではなく,その補助金が勤務実態のない職員に給与等として支払われていることを知らなければ監査請求ができなかったところ,平成19年2月6日の新聞報道によってはじめてAの職員であるP1に勤務実態のないことを知ることができた。原告は,上記報道から8日後に本件監査請求を行ったものであり,監査請求し得ることを知り得たときから相当な期間内に監査請求をしたものといえ,地方自治法242条2項ただし書の「正当な理由」がある。

(イ) 被告の反論について

被告は,正当な理由の有無の判断につき,平成18年10月27日の「いきいき委員会」で本件が議論された時点を基準とすべき旨主張する。しかし,通常の市民生活を営んでいる者が,全ての市議会を傍聴できるはずがない。また,上記委員会は平成17年度大東市歳入歳出決算事項別明細書(乙10)の項目が議題(審査内容)となっており,この明細書は9月議会の告示日(平成18年9月1日)に一般の閲覧に供されていたとされるが,同明細書をみると膨大な項目の中にわずかに「A補助金」と記載されているのみであり,上記委員会において具体的にどのような議論がされるのか不明であり,これらの情報のみでは,監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在及び内容を知ることはできない。

被告は,本件に関する質問を行ったP8議員と原告は密接な関係にあり,少なくとも平成18年10月27日のいきいき委員会までには当該行為の存在及び内容を知ることができたから,正当な理由はない旨主張する。しかし,原告とP8議員とが密接な関係にあったとしても,それをもって本件各補助金が勤務実態のないP1の給与等に用いられていた事実を当然知り得たことにはならない。しかも,原告は,現実にも,P8議員と密接な関係を有するものではなく,P8議員から情報を得たわけでもないし,a(乙8)も見ていない。原告は新聞報道によって初めて本件における不当な公金支出の実態を知ったのである。

イ 監査請求の対象と住民訴訟の対象の同一性

(被告の主張)

(ア) P1に対する請求について

P1に対する請求を求める訴えについては監査請求が前置されていない。すなわち,本件監査請求書にはP1の個人名が特定されておらず,しかも,本件監査請求の趣旨からみて,P1に対する請求が措置の対象に含まれているとは解されない。

(イ) 平成18年度補助金の支出について

原告は,平成18年度補助金の支出につき監査請求を行っていないので,同補助金の支出に係る訴えは不適法である。

(原告の主張)

(ア) P1に対する請求について

原告は,本件監査請求において,「市の人権に名を借りた旧同和行政の速やかな完全終結を今回,市民の納得の行くよう,具体的解決として公金の返還」を求めているのであり,その相手方は,法的に返還義務のある者全てである。また,本件においては本件監査請求の時点でP1の氏名が明らかになっていなかったこと,監査請求において相手方を厳密に特定することは不可能であることからすれば,P1の氏名が特定されていないとしても,本件監査請求は,同人に対する請求を怠る事実をその対象に含むというべきである。

(イ) 平成18年度補助金の支出について

本件監査請求は,平成18年度補助金の支出をその対象に含んでいる。

ウ 本件各補助金の支出の違法性

(原告の主張)

(ア) 本件協定は違法,無効であり,これを前提とする本件各補助金の支出も公益上の必要性を欠く違法なものであること

大東市がAに補助金を交付したとしても,大東市とは別個の法人格であるAがいかなる人物を雇用し,いかなる給与を支払うかは,本来,大東市とは関係がないはずである。しかし,大東市は,P1及びその背後にあるBに経済的援助を行うべく,P1をAに雇用する必要性がないにもかかわらず,あえてAがP1を雇用することについて,大東市とAが合意し,しかも,P1の給与分を負担することを大東市が約束し,さらに,P1の職務について不当に広範な職務免除を認めた。このような補助金の支出が違法であることは明白である。

P1は,Eの役員(現在は顧問)であり,Cの専任職員として,以前から大東市の同和行政に強い影響力を有していた。このCは,平成14年2月18日,地対財特法の失効に伴い解散したが,大東市は,P1及びその背後にあるBの強い要請により,引き続き,P1すなわちBに対し,経済的保障を行う必要に迫られた。そのため,大東市は,同年4月1日から,現実には何らP1をAの業務に従事させる意図もないのに,P1をAの常勤職員として雇用させ,そこにP1の給与分相当額の補助金を交付し,P1の勤務実態の有無にかかわらず給与・退職金等を保障することにより,P1の地位を確保することとしたのである(本件協定書1,4,5条)。本来,Aの職員にすぎないはずのP1に対し,大東市が身分・給与等について責任を負う必要はないにもかかわらず,このような協定を締結することに何ら合理性はなく,P1及びその背後にあるBに対する不当な経済的援助であり,その圧力に屈した違法なものである。

さらに,大東市は,P1がAで雇用されるに際し,Aとの間で,P1の職務免除を不当に広く認めている。すなわち,本件協定書6条は,「勤務時間は,午前8時45分から午後5時15分までとする。ただし,『大東市の職務に専念する義務の特例に関する条例』を準用」と規定している。この点,大東市の職務に専念する義務の特例に関する条例(昭和34年12月23日条例第26号)2条各号によれば,職務専念義務の免除事由は,研修を受ける場合(1号),厚生に関する計画の実施に参加する場合(2号),前2号に規定する場合を除くほか,任命権者が定める場合(3号)とされている。P1の場合,1号及び2号の場合に該当しないことは明らかであるから,3号の「任命権者が定める場合」に該当する必要があるところ,これも職務免除の規定は厳格に解釈されるべきであるから,1号及び2号に匹敵するような個別具体的かつ正当な理由が必要というべきである。ところが,本件協定書6条では,「本務に支障をきたさない範囲において,午後(午後0時45分から午後5時15分まで)Lからの申し出を受けて,業務を行うことを認める。」とされるのみであり,午後からの勤務については,Lからの申出さえあれば,任命権者が具体的な必要性を判断しないまま職務免除が認められることになっている。しかも,本件協定書7条では,「上記以外の業務を行う時には,本人から甲(A)宛に職務免除願いを提出させる。」と規定され,それ以外の時間帯も,職務免除願さえ出せば,何の限定もなく簡単に職務が免除されることとなっているのである。これらの違法な職務免除条項により,P1は,「本務に支障をきたさない範囲において」「Lからの申し出」さえ受ければ,午後のAでの職務の免除を認められ,午前中についても,職務免除願を提出させることで容易に職務免除を認められている。このような規定からして,P1がAにおいて勤務する必要性が乏しいことは明白である。すなわち,前述の違法な目的を実現するため,このように不当に広範な職務免除を認める内容となっており,本件協定の違法性はより一層明白である。

このように,本件協定は,その目的の不当性と,これを実現するための不当に広範な職務免除規定からして,その違法性は明らかであり,公序良俗に反し無効である。

(イ) 仮に本件協定が有効であるとしても,本件各補助金の支出は公益上の必要性を欠く違法なものであること

仮に本件協定が有効であるとしても,本件協定締結後のP1の勤務実態は,本件協定にすら違反するものであり,そのような実態を熟知しながら,これを放置し,本件各補助金を交付したとすれば,同補助金の支出が公益上の必要性を欠くことは明白である。

P1は,午後からはKに「出勤」するのみならず,午前中もほとんど毎日「Kの業務のため」という理由で職務免除を受けており,ほとんどの勤務日において,ほぼ終日,Kに行っていた。そして,このような状況が,少なくとも,平成16年1月から平成19年2月まで一貫して続いているのである(しかも,大東市のP9啓発推進課長が平成18年10月27日のいきいき委員会において答弁した内容によれば,そのような状況は平成14年4月以降続いていたと推認される。)。このように,P1はAにおいてほとんど勤務実態がなく,そのような状況を大東市が長年黙認してきたことは明らかである。

P1は,Aの常勤職員である以上,本来であれば,(中略)にあるAの事務所に出勤し,その業務に従事しなければならない(本件協定を前提としても,AにおいてP1の本務とされるべき職務があり,これを前提に職務免除が認められているにすぎない。)。ところが,本件協定締結後,現実には,Aの業務は,大東市の職員によって行われる一方で,P1は,同人自身が事務局長を務めるKにおいて業務を行ったり,あるいは何ら業務を行わなくとも,本件各補助金が交付され,多額の給与等の支払を受けていたのである。

したがって,仮に本件協定が有効であるとしても,大東市は,上記のようなP1の勤務実態を知りながら,これを漫然と放置し,補助金の支出を継続したものであり,このような補助金の支出が公益上の必要性を欠き違法であることは明らかである。

(被告の主張)

(ア) 大東市の同和行政と本件各補助金の公益上の必要性

大東市では,平成4年に「差別撤廃・人権擁護都市」が宣言され,平成12年には,大東市長からVに対し,「人権尊重のまちづくりのための基本となるもの」及び「大東市における今後の同和行政のあり方」についての諮問がされ,同年9月には,人権尊重のまちづくりを推進するため「大東市人権尊重のまちづくり条例」が制定され,さらに,平成13年11月9日「大東市における今後の同和行政のあり方について」と題する答申により上記条例の基本理念を基底として同和問題の解決のための施策を含めた人権施策の基本となる方針や計画等の策定をすることの要望が出され,地対財特法失効後の人権教育及び人権啓発についてはAが,相談・自立支援・地区内外の交流の各推進については地域協議会が担うことになった。Aは,これまでのF団体であったC,G,H,Iが,事務の簡素化と活動の一本化による幅広い事業展開を図るべく統合され,平成14年4月1日に発足したものであるが,人権教育及び人権啓発を進めることで,一人一人が自分を含めて全ての人権の大切さを理解することにより,差別のない,人権が尊重されたまちづくりを進めることを目的とし,コンサートや市民講座等のさまざまな啓発事業を実施している。

次いで,大東市では,平成12年12月に「大東市同和行政推進プラン」,平成14年3月に「大東市同和行政基本方針」が相次いで策定され,平成17年3月には「大東市人権行政基本方針」が策定され,市総合計画に基づいて進められる市の施策全てが人権施策であることを再認識し,市の将来像を実現させ,市が施策を進める上で基本となる考え方が示され,今後も人権教育・啓発を推進することが,市の施策において不可欠なものとして位置付けられた。そして,AはF団体の中核として位置付けられている。

以上のとおり,大東市がより多くの市民や団体の参加により人権教育と人権啓発を推進することで人権尊重とその精神の涵養を図り,あらゆる差別の撤廃を目指し,個人の尊厳が確立されたまちづくりを目指すことを目的として,人権施策の推進面からF団体へ補助金を交付することが市と市民が一体化した人権教育・啓発活動の実施を図ることになることからして,公益上の必要性が認められることは他言を要しない。

(イ) 原告の主張に対する反論

P1は,従来からCの専任職員として大東市が行う人権啓発事業の推進に幅広く携わっており,また,平成14年の地対財特法失効後の大東市の同和対策事業の推進のためには,その専門性,人脈,知識等が必要不可欠であり,人権啓発事業,相談事業,地域内外交渉事業において欠かすことのできない人材であるとの認識に立って,大東市の行政政策の一環として人権教育啓発事業を推進するAにおいて,同人が中心となって担ってもらうことを大きく期待していた。そのために大東市がAに対しP1の採用を要望し,締結されたのが本件協定である。

このように,本件協定はあくまで大東市が行政遂行のために要望・希望を表明したもので,P1の採用もあくまでAの判断において行われ,万一,同人が採用された場合の大東市の対応(考え方)が規定されているだけのもので,大東市がP1及びBの強い要請により,経済的保障を行う必要に迫られて締結されたものではないし,大東市が形式的に雇用させたものでもない。

また,職務免除に関する条項が設けられているのも,Aが本来の職務に支障を来さない範囲で,L(K)の目的達成のための確たる基盤作りができるまでの間,P1の派遣の依頼があった場合,Aがこれに協力する場合は,大東市も人権施策の推進に寄与するものとして,これを「了」とすることを謳っているだけで,具体的な必要性のないまま職務免除を是認することを認めたものでないことはいうまでもない。

P1は本件協定に基づきAに事務局職員として雇用され,午後についてはL(K)の基盤作りができるまでという条件でその業務を行っていたものであり,午前中はAが行う啓発イベントや会議等に出席して司会等の業務をしていた。

エ 当該職員又は相手方の責任の有無及び範囲

(原告の主張)

(ア) P2は,大東市長として,違法に平成17年度補助金及び平成18年度補助金の各交付決定をしたものであり,また,平成16年度補助金の交付決定については,違法な財務会計行為を阻止すべき指揮監督上の義務に違反したものであり,大東市に対し,不法行為に基づく損害賠償の責任を負う。

(イ) P3は,大東市助役として,平成16年度補助金が公益性を欠くものであることを知りながら,違法に同補助金の交付決定を代決したものであり,大東市に対し,地方自治法243条の2第1項の損害賠償責任を負う。

(ウ) Aは,P1の勤務実態がなく,同人に対する給与等の支払が違法であることを認識しながら,大東市から補助金を受け取っていたものであり,大東市に対して不当利得返還義務を負う。

(エ) P1は,Aの職員として勤務実態がないにもかかわらず,給与等を受け取っていた者であり,大東市に対して不当利得返還義務を負っている。なお,大東市の損失とP1の利得との間にはAが介在しているが,大東市のAに対する補助金の支出は同時にP1の給与として同人に利得を与えることになるから,実質的に見て,両者の間には因果関係が認められるのであり,この場合に不当利得返還請求を認めなければ,財産的価値の移動を公平の観点から是正しようという不当利得制度の趣旨にもとるというべきである。

(オ) P4及びP5は,本件各補助金が支出された当時収入役であったところ,同人らはAへの補助金支出が違法であることを知りながら支出を行ったものであり,地方自治法243条の2第1項の損害賠償責任を負う。

(カ) 上記の当該職員又は相手方が賠償すべき金額は,平成16年度補助金につき954万5990円,平成17年度補助金につき811万1151円,平成18年度補助金につき709万6621円である。

ただし,P4は平成13年10月1日から平成17年9月30日まで収入役であったものであり,平成17年10月からはP5が収入役であったものであるから,それぞれの在任中の決裁額について責任を負うところ,平成17年度の支出のうち,P4が決裁しているのは第1四半期(4月)の609万6000円及び第2四半期(7月)の400万円の合計1009万6000円であり,P5が決裁しているのは第3四半期(10月)の400万円及び第4四半期(1月)の250万円の合計650万円である。そして,平成17年度においてP1の給与等として支払われているのは811万1151円であるから,これを上記の各決裁に係る金額の割合(P4が60.83%,P5が39.17%)で按分すると,平成17年度の支出のうちP4が責任を負うのが493万4013円(平成16年度分954万5990円と合算すると1448万0003円),P5が責任を負うのが317万7138円(平成18年度分709万6621円と合算すると1027万3759円)となる。

(被告の主張)

いずれも争う。

(2)  共同不法行為を理由とする損害賠償請求(請求1の予備的請求)

ア 監査請求の対象と住民訴訟の対象の同一性

(被告の主張)

原告は,P2,P3,A及びP1の共同不法行為に基づく損害賠償請求権を行使しないことを「怠る事実」として,同人らに対し共同不法行為に基づく損害賠償請求等をすることを求めている。しかし,原告は,本件監査請求書において,「公金の返還と補助金の是正・見直しを求め」ているだけであり,共謀による公金支出について共同不法行為による損害賠償請求権の行使を怠っている旨の指摘はないから,原告の上記請求は監査請求を経ていない。

(原告の主張)

監査請求の対象と住民訴訟の対象との同一性については,あまりこれを厳格に要求すると,住民の住民訴訟を提起する機会を不当に制限することになる。裁判例においても,これを緩やかに解している。

本件監査請求は,「公金の返還と補助金の是正・見直しを求め」るために,「地方自治法第242条第1項の規定により・・・必要な措置を請求」している。そして,同法242条1項には怠る事実についても規定されているのであるから,原告は,本件監査請求において,怠る事実が存在する場合にはその行使も求めていることは明らかである。したがって,共謀による共同不法行為を理由とする請求は,本件監査請求の対象と実質的に同一であり,監査請求を経ている。

イ 監査請求期間制限の有無(いわゆる真正怠る事実か不真正怠る事実か)

(被告の主張)

本件においては,監査委員は本件各補助金の支出が違法であるか否かを判断せざるを得ず,これを判断するまでもなく原告が主張するような共同不法行為に基づく損害賠償請求権の発生が認められるものではないから,いわゆる不真正怠る事実として,地方自治法242条2項本文の期間制限が及ぶ。

監査請求期間を徒過したことにつき正当な理由がないことについては,上記1(1)ア(被告の主張)記載のとおり。

(原告の主張)

共同不法行為を理由とする損害賠償請求の行使を怠る事実は,いわゆる真正怠る事実であり,地方自治法242条2項本文の期間制限は及ばない。

ウ 共同不法行為の成否

(原告の主張)

そもそも,本件各補助金は,P1及びその背後にあるBが,同和行政に関する強い影響力を背景に,P1ひいてはBに対する不当な経済的保障を行うべく支給されたものである。

すなわち,本件各補助金の目的は,P1をAの職員として雇用する必要がないにもかかわらず,職員として雇用し,その上で不当に広範な職務免除を認めることにより,Aにおいて実質的に職務を行わず,自由に活動できるようにした上で,給与名目で多額の金銭を支給するものであった。そして,このような目的を達成するため,大東市長であるP2は,単に不当な補助金の交付を決定するのみならず,P1及びBの圧力の下,Aとの間で,積極的に本件協定書を作成し,P1に不当に広範な職務免除を認めた上で,大東市がP1の人件費を補助金という形で保障する態勢を調え,現実に補助金を交付させたのである。このような状況は,単にP1とAが結託して大東市に補助金を交付させたことを,P2が黙認したというものではなく,積極的に,P2,P1及びAが結託した共同不法行為としてとらえるべきものである。

また,P3は,平成16年度補助金の交付決定を代決しているところ,同人は本件協定締結当時も大東市の助役の役職にあり,Cの解散に伴う専任職員の取扱いについても,本件協定の締結についても,助役としてその協議に参加している。したがって,平成16年度補助金の交付決定については,P2,P3,A及びP1が結託した共同不法行為が成立する。

(被告の主張)

争う。

エ 当該職員又は相手方の責任の有無及び範囲

(原告の主張)

A,P1及びP2は,大東市に対し,本件各補助金のP1の人件費相当額につき,請求1(1)のとおり,共同不法行為に基づく損害賠償責任を負う。

P3は,大東市に対し,平成16年度補助金のP1の人件費相当額につき,請求1(2)のとおり,地方自治法243条の2第1項の損害賠償責任を負う。

(被告の主張)

争う。

(3)  補助金交付決定の取消しを前提とする不当利得返還請求(請求1(1)のA及びP1に係る再予備的請求)

ア 補助金交付決定の取消しを前提とする不当利得返還請求と「怠る事実」該当性

(原告の主張)

大東市長は,本件各補助金の交付決定を取り消してA及びP1に対して不当利得返還請求権を行使すべきなのに,これを怠っていることは「怠る事実」に該当する。

確かに,原告の上記主張は,大東市補助金交付規則12条により大東市長が補助金交付決定を取り消すことを前提としており,不当利得返還請求権の行使の前提として補助金交付決定の取消しという行為を必要とするから,怠る事実として構成できないという疑問もある。しかし,補助金交付決定自体は一応公益性が認められて適法であるように見えても,その補助金が目的外使用されているなどした場合,住民は補助金交付決定後の事実の違法性を主張して補助金の返還を求めざるを得ない。ところが,このようなケースにおいて,返還請求の前提として交付決定の取消しが必要となる場合,長が交付決定を取り消して不当利得返還請求権の行使のみを怠っている場合だけ住民訴訟となり,長が交付決定の取消しそのものを怠っている場合には住民訴訟の対象とならないというのは,あまりに不合理である。

このような不合理を回避するためにも,補助金交付決定の取消しを補助金返還請求権と別個にとらえるべきではない。すなわち,補助金交付決定の取消しは補助金返還請求権を発生させるための手段であって,これらは一体として機能するものであり,併せて地方自治法242条1項所定の「財産の管理」に含まれる。

したがって,本件においても,補助金交付決定の取消しとそれを前提とする不当利得返還請求権を行使しないことが一体として「怠る事実」に該当する。

(被告の主張)

原告は強引に補助金交付決定の取消しを「怠る事実」として構成しているが,ためにする主張以外の何ものでもない。原告は,補助金交付決定の取消しと補助金返還請求権は一体として機能すると解すべきであるとか,補助金交付決定の取消しの行使も「財産の管理」に含まれるなどと主張しているが,独自の解釈であり失当である。

イ 被告は本件各補助金の交付決定を取り消して不当利得返還請求をする義務を負うか否か

(原告の主張)

被告は,本件各補助金を交付した後,不当に広範な職務免除規定を悪用して業務放棄をしていたような実態が判明すれば,被告は,その時点で,大東市補助金交付規則12条1項2号によりその交付決定を取り消すべきであった。

補助金交付決定の取消しについては被告に裁量権があると解されるが,P1がAに雇用された平成14年度からほとんど全くAに出勤しなかったこと,出勤しても休暇届の提出といったことしかしていないこと,これに比してP1が受け取る給与等は年間800万円以上と非常に高額であること,これらの事実を大東市が正確に把握していたことなどに照らせば,被告が本件各補助金の交付決定を取り消さない不作為は,裁量権の範囲を著しく逸脱するものであり,違法である。

被告が本件各補助金の交付決定を取り消せば,同決定は遡及的に無効となり,A及びP1の利得には法律上の原因がなくなるので,被告は,A及びP1に対し,不当利得返還請求をすべき義務を負う。

(被告の主張)

争う。

ウ 相手方の責任の有無及び範囲

(原告の主張)

A及びP1は,大東市に対し,本件各補助金のP1の人件費相当額につき,請求1(1)のとおり,不当利得返還義務を負う。

(被告の主張)

争う。

2  【アルバイト職員給与関係】の争点(請求3及び4)

(1)  本件アルバイト職員はEに「派遣」されていたか否か

(原告の主張)

大東市は,平成14年6月1日から,庁務員補助という名目でアルバイト職員を雇用し,これをEに「派遣」し,Eにおいて違法にその業務に従事させている。そして,大東市がアルバイト職員を「派遣」していたことは,いきいき委員会における大東市の担当者の答弁からも明らかである。

地方自治体の職員の「派遣」は,地方公務員派遣法によれば,役職員として専ら従事する場合で,条例で定めなければならないものとされており(同法2条),大東市公益法人等への職員の派遣等に関する条例では,アルバイト職員は派遣できないこととされている(2条,3条1項1号)。また,同条例施行規則2条においても,Eは派遣先団体として掲げられていない。したがって,大東市によるアルバイト職員の「派遣」は地方公務員派遣法等に違反し,本件アルバイト職員に対する給与等の支出は地方自治法204条の2に反するものであり,違法な財務会計行為であることは明らかである。

被告は,本件アルバイト職員はEにおいて大東市の仕事をしていた旨主張する。しかし,本件アルバイト職員は,Eの事務所において仕事をしていたのであるから,主としてEの指揮監督を受けていたことは明らかである。また,被告が主張する本件アルバイト職員の職務内容をみても,社会通念上,大東市が行うべき仕事であるとはいえず,Eの仕事であることが明らかである。

(被告の主張)

ア Eはその業務の全部又は一部が地方公共団体の事務又は業務と密接な関連を有し,当該地方公共団体がその施策の推進を図るため援助を行うことが必要な団体ではあるが,原告の主張する地方公務員派遣法2条の定める「団体」には該当せず,そもそも同法の適用を前提とする原告の主張自体失当である。

イ 仮に,Eが地方公務員派遣法の適用を受けると解したとしても,本件アルバイト職員のEにおける業務は「派遣」に該当しない。

すなわち,本件アルバイト職員の職務内容は次のとおりであり,Oからの指示に従って,Eにおいて大東市の業務を行っていたものであるから,「派遣」には当たらない。

(ア) 大東市とEとの協議事項に関する調整事務補助

大東市は,平成19年3月まで,旧同和対策事業対象地域及びその周辺地域において実施する主要な事業の全てについて,地域を代表する機関であるKとの間で,Eとの事前説明を行った上で,毎月2回協議を行うことになっていたところ,本件アルバイト職員は,それらの事業を担当する課から協議内容の説明文書や資料を受領したり,事業担当課のE役員に対する事前説明の日程調整や説明文書,資料を必要部数複写し配布して,事前説明が円滑に進むように準備する仕事をしていた。ちなみに,平成18年2月14日から同年10月31日までの協議件数は26件である。

(イ) 大東市からEへの報告事項に関する処理事務補助

大東市で,発言,落書,郵便物等による差別事象が起きた場合,E役員に報告を行い,大東市とE役員との面談が必要なときの日程調整や当該差別事象の内容,背景,分析,課題,今後の取組みに関する大東市の文書のEへの提出行為,更には最終報告に至るまでの大東市とEとの連絡業務をしていた。ちなみに,差別事象として,平成17年度は落書2件,発言2件,平成18年度は落書3件が発生している。

(ウ) E等から大東市への要望事項のとりまとめ等に関する事務補助要望書をとりまとめたり,大東市への報告及び回答の連絡をしていた。

(エ) Oとの連絡事務補助

大東市が臨時職員を募集する場合,人権政策室からE等に期日を設けて希望者の有無を問い合わせたりする場合があり,このような問い合わせの有無や希望者があった場合の履歴書等の書類についての希望課への提出行為をしていた。また,大阪府などの他の行政機関からの職員募集の情報提供についても,人権政策室からの情報提供により,E役員等にその情報を周知する仕事をしていた。ちなみに,平成18年2月14日から同年10月31日までの大東市に関する募集件数は29件である。

(2)  当該職員又は相手方の責任の有無及び範囲

(原告の主張)

ア Eは,法律上の原因なくして派遣されたアルバイト職員から労務の提供を受けたことによってこれに相当する利得を得,一方,大東市はアルバイト職員に給与等を支給したことによってこれに相当する損失を被ったというべきである。したがって,Eは,大東市に対し,請求3のとおり,本件アルバイト職員に対する給与等の支給額と同額を不当利得として返還すべきである。

イ P2は,大東市長として,本件アルバイト職員に対する給与等の支出につき,専決によりされた違法な財務会計行為を事前に確認し,その執行を中止すべき義務を負うものであるのに,これを怠ったものであり,大東市に対し,請求3のとおり,不法行為に基づく損害賠償義務を負う。

ウ P6は,大東市の出納室長として,専決により本件アルバイト職員に対する給与等(平成18年1月分から5月分まで,7月分,8月分及び10月分)を支出したものであり,P7は,大東市の出納室長代理として,代決により本件アルバイト職員に対する給与等(平成18年9月分)を支出したものであり,違法な財務会計行為を行ったものであるから,請求4のとおり,それぞれ地方自治法243条の2第1項の損害賠償責任を負う。

(被告の主張)

ア 本件アルバイト職員はEにおいて大東市の業務に従事していたものであるから,Eは労務の提供を受けておらず利得がない。したがって,Eは,大東市に対し,不当利得返還義務を負わない。

イ その余はいずれも争う。

第7【A補助金関係】についての当裁判所の判断

1  本件各補助金の支出の違法を理由とする請求(請求1の主位的請求及び請求2)の本案前の争点について

(1)  監査請求期間徒過の正当な理由(争点1(1)ア)

ア 大東市がAに交付した平成16年度補助金及び平成17年度補助金は,いずれも平成18年1月24日までに支出されており,原告が平成19年2月14日にした本件監査請求は上記各支出から1年以上経過している(なお,上記各補助金の支出は,地方自治法232条の5第2項,同法施行令162条3号に基づく概算払の方法によるものであるが,その場合でも,監査請求期間は支出がされた日から進行する(最判平成7年2月21日・判タ874号120頁)。)。そうすると,本件監査請求のうち,平成16年度補助金及び平成17年度補助金の各支出を対象とする部分は,地方自治法242条2項ただし書にいう「正当な理由」がない限り,不適法である。

そこで,本件監査請求が,上記各補助金の支出がされた日から1年以上経過した後にされたことについて「正当な理由」があるといえるかにつき,以下検討する。

イ 前記前提となる事実に証拠(甲1,2,10,16~20,乙2,8~10,12,13)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められる。

(ア) 大東市からAに対する平成17年度補助金は,平成17年度大東市一般会計予算書(乙13)に「046 A補助事業 16,596(千円)」と,同年度予算概要(乙12)の事業内容欄には「市民自ら参加・参画できるF団体へ補助することにより,市と市民が協働で啓発活動を行う。」とそれぞれ記載されており,上記予算書等は,同年2月24日から市民情報コーナーに据え置かれて市民の閲覧に供された。そして,平成17年度予算は,大東市議会において,同年3月28日に可決された。

(イ) Mに所属するP8議員は,平成18年10月27日,いきいき委員会において,Aに対する平成17年度補助金の使途等について質問した。これに対し,大東市の各担当者は,平成17年度補助金1373万1000円のうち,P1の人件費(給与,職員手当及び退職積立金)が合計811万円(全体の58.6%)であったこと,P1は,Aが行う啓発イベントや会議等には出席しているが,普段は,月に数回,朝にAの事務局に顔を出すだけであること,P1とAの間の雇用契約(以下「本件雇用契約」という。)は当初の本件協定書に基づくものであり,上記のような出勤状況は平成14年度からほぼ同じであること,大東市はKにおけるP1の出勤状況を把握していないこと,P1のAにおける勤務実態が上記のようなものであれば,大東市が補助金によりその人件費を負担している状況を是正する必要があると考えており,大東市において,P1が行う相談業務等の実態の詳細を把握するように努め,その後早急なる改善を図りたいと考えていることなどを答弁した。

大東市は,その後,上記委員会の議事録(甲10)を作成し,平成19年2月ころ,これを一般に公開した。

(ウ) 平成18年10月27日のいきいき委員会は,同年9月の大東市議会第3回定例会で上程された議案について,同月26日に委員会付託され,閉会中の継続審査とすることが決定され開催されたものであり,その開催日については,同月29日に大東市のホームページ(乙9)において公表されていた。

上記委員会においては,平成17年度歳入歳出決算事項別明細書(乙10)に記載されている各項目が議題(審査事項)となっており,その91頁には,「19負担金補助及び交付金」の備考欄に「A補助金 13,730,968」との記載がある。また,上記明細書は,上記大東市議会の告示日である平成18年9月1日に,市民情報コーナーで一般の閲覧に供されていた。ただし,上記委員会において具体的にどのような議題が議論されるかは,当日の議員の発言により進行するため,事前には公表されておらず,大東市のAに対する平成17年度補助金の使途に関する質疑が行われることも,事前に公表されていなかった。

大東市のいきいき委員会は,定数8人の常任委員会であり,所管事項は市民生活部,健康福祉部,子ども未来部,生涯学習部(教育委員会所管を除く。),教育委員会及び農業委員会の所管に属する事項である。上記委員会を含む大東市の各委員会は,議員のほか,10人以内の傍聴を許可するとされており(大東市議会委員会条例16条),また,その議決で秘密会とすることができるとされている(同条例17条)。なお,原告は,平成18年10月27日のいきいき委員会を傍聴していない。

(エ) Mは,同年11月12日,a(議会版)(乙8)を発行し,そのころ,これを一般に配布した。このaには,「A職員 午前中イベントと会議の日だけ出勤で年811万円(市民の税金)午後はKへ(勤務実態・・市はわからず)」との見出しが付され,これに続けて,「『Aに1373万円が支出されているが,このうち人件費はいくらで誰に出されているのか』P8市議が質したところ『P10である』と名前で答弁がありました。『正社員に準ずるなら,毎日出勤しなければならないのではないか』と質したところ,『是正していく』とのP3助役の答弁がありました。」との記事が掲載されている。

(オ) 讀賣新聞は,平成19年2月6日の朝刊において,「大東市のF団体職員 勤務実態なし 年給与800万円」「E顧問 市補助金の6割」との見出しで,大東市のAに対する年間約1300万円の補助金のうち約800万円が,Aに勤務実態のない職員の人件費として支給されていたことなどが判明した旨の記事(甲16)を掲載した。これを受けて,同日,大東市は会見を開いてその経緯等を説明し,同日の各全国紙夕刊に,その会見内容等の続報記事(甲17~20)が掲載された。

(カ) 原告は,同月14日,大東市監査委員に対し,本件監査請求を行った。本件監査請求書(甲1)には,原告の主張として,大東市は,Aの常勤職員に対し,過去5年間にわたり,勤務実態がないのにAへの補助金の約6割にあたる約800万円の給与等を毎年支払っており,これは公金の違法,不当な支出であることなどが記載されており,併せて,上記の各新聞記事や,Aの平成16年度及び平成17年度の各会計決算書が添付されている。

なお,本件監査請求書において,原告の肩書は「大東市役所内J代表」と記載されている。また,原告は,Pも加わっている「N」代表委員であり,平成19年4月6日告示・同月13日投開票の大東市長選挙に,Pの支持を受けて立候補したことがある。

ウ 「正当な理由」の判断枠組み

(ア) 普通地方公共団体の執行機関,職員の財務会計上の行為(当該行為)が秘密裡にされた場合に限らず,普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査を尽くしても客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなかった場合には,地方自治法242条2項ただし書にいう正当な理由の有無は,特段の事情のない限り,当該普通地方公共団体の住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかにより判断すべきである(最判平成14年9月12日・民集56巻7号1481頁参照)。もっとも,当該普通地方公共団体の一般住民が相当の注意力をもって調査したときに客観的にみて上記の程度に当該行為の存在又は内容を知ることができなくても,監査請求をした者が上記の程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される場合には,上記正当な理由の有無は,そのように解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかによって判断すべきものである(最判平成14年10月15日・裁判集民事208号157頁参照)。そして,「監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができた」というためには,当該行為に違法又は不当な点があるか否かを監査請求人自ら判断することが困難ではない程度に,当該行為の具体的な内容を知ることができたことが必要というべきである(最判平成20年3月17日・裁判集民事227号551頁参照)。

(イ) ところで,地方自治法242条2項本文が監査請求の期間を定めた趣旨は,監査請求の対象となる行為は,たといそれが違法・不当なものであったとしても,普通地方公共団体の機関,職員の行為であるから,いつまでも住民が争い得る状態にしておくことは,法的安定性を確保する観点から望ましくないので,速やかにこれを確定させようとすることにあると解される。このような監査請求期間の趣旨に鑑み,同条項ただし書にいう「正当な理由」の判断に当たっても,普通地方公共団体の住民が「通常の注意力」をもってする調査ではなく,より高い「相当の注意力」をもってする調査により客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたと解される時から相当な期間内に監査請求をしたかどうかにより判断すべきものと解されるのであり(最判昭和63年4月22日・裁判集民事154号57頁,前掲最判平成14年9月12日参照),このような観点からすれば,住民は,マスコミ報道や広報誌等によって受動的に知った情報だけに注意を払っていれば足りるものではなく,住民であれば誰でも閲覧等をすることができる情報等については,それが閲覧等をすることができる状態に置かれれば,そのころには一般住民が相当の注意力をもって調査すれば知ることができるものとなったと解するのが相当である。

もっとも,普通地方公共団体における議会や委員会の審議については,それが一般に公開されていたとしても,特段の事情のない限り,一般住民が常にこれを傍聴してその審議内容に注意を払うことは困難であって,議会や委員会の審議の傍聴までも「相当の注意力」をもってする調査の内容に含めるとするならば,住民に事実上不可能を強いることにもなりかねない。したがって,特段の事情のない限り,普通地方公共団体における議会や委員会の審議において明らかにされた情報等については,その審議の時点ではなく,その議事録等の閲覧等が可能になった時点において,一般住民が相当の注意力をもって調査すれば知ることができるものとなると解すべきである(前掲最判昭和63年4月22日参照)。

エ 本件の検討

(ア) 被告は,要旨,平成18年10月27日のいきいき委員会の開催をもって,住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的に監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在又は内容を知ることができたと主張する。しかし,前記認定事実によれば,大東市の委員会は,原則として10人以内の傍聴を許可するものとされ,一般に公開されているものの,上記いきいき委員会に先立ち,大東市のAに対する平成17年度補助金の使途に関する質疑が行われることは公表されておらず,その他大東市の一般住民がその審議を傍聴しなければ相当の注意力をもって調査したとはいえない特段の事情は認められないから,前述のとおり,上記委員会の開催時点をもって,住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的にみて監査請求をするに足りる程度に当該行為の存在及び内容を知ることができたということはできない。

(イ) もっとも,前記認定事実によれば,Mは,平成18年11月12日,a(議会版)を発行し,そのころ,これを一般に配布したこと,このaには,「A職員 午前中イベントと会議の日だけ出勤で年811万円(市民の税金)午後はKへ(勤務実態・・市はわからず)」との見出しが付され,これに続けて,「『Aに1373万円が支出されているが,このうち人件費はいくらで誰に出されているのか』P8市議が質したところ『P10である』と名前で答弁がありました。『正社員に準ずるなら,毎日出勤しなければならないのではないか』と質したところ,『是正していく』とのP3助役の答弁がありました。」との記事が掲載されていることが認められ,さらに,本件監査請求書に記載されている主張の内容も考慮すれば,上記aが一般に配布されたころには,平成17年度補助金の支出の存在はもとより,その支出に違法又は不当な点があるか否かを監査請求人自ら判断することが困難ではない程度に当該行為の具体的な内容を知ることができたというべきである。

また,前記認定事実によれば,平成17年度大東市一般会計予算書等は同年2月24日に,平成17年度歳入歳出決算事項別明細書は大東市議会の告示日である平成18年9月1日に,それぞれ市民情報コーナーで一般の閲覧に供されており,上記明細書には,「19負担金補助及び交付金」の備考欄に「A補助金 13,730,968」との記載があったというのであるから,平成16年度補助金についても,平成17年度補助金と同様の明細書等が一般の閲覧に供されたものと優に推認される。加えて,原告は本件各補助金の問題を平成19年2月6日に初めて知ったと主張するところ,原告は,その8日後である同月14日に,Aの会計決算書を入手しこれを添付して本件監査請求をしていることを考慮すれば,上記aが一般に配布されたころには,平成16年度補助金の支出についても,平成17年度補助金の支出と同程度にその存在及び内容を知ることができたというべきである。

以上によれば,上記aが一般に配布された平成18年11月12日ころをもって,大東市の一般住民が相当の注意力をもって調査すれば客観的に監査請求をするに足りる程度に平成16年度補助金及び平成17年度補助金の各支出の存在及び内容を知ることができたと認めるのが相当である。

これに対し,原告は,上記aは見ておらず,平成19年2月6日の新聞報道により初めて本件各補助金の問題を知った旨主張するが,原告自身の主観的な知不知は上記認定判断を左右するものではなく,上記主張は採用することができない。なお,aの発行部数等は証拠上必ずしも明らかではないが,その内容,体裁等に照らせば,aがその発行日ころに一般住民に相当数配布されているものであることは明らかであるし,少なくとも,Pから支持を受けて大東市長選挙に立候補するなどPと近い関係にある原告においては,平成18年11月12日ころに上記aに掲載されている記事の内容を知り又は容易に知り得たことは明らかというべきである。

(ウ) そうすると,平成18年11月12日ころから約3か月(94日)の期間が経過した平成19年2月14日にされた本件監査請求については,その記載内容等から特に長期間の準備を要するような事情を認め難いことなども考慮すれば,これをもって前述の「相当な期間」内にされたものということはできない。

以上によれば,本件監査請求のうち平成16年度補助金及び平成17年度補助金の各支出を対象とする部分については,その各支出から1年以上経過した後に監査請求がされたことについて地方自治法242条2項ただし書にいう「正当な理由」があるということはできないから,不適法なものというほかはない。したがって,請求1の主位的請求及び請求2のうち,平成16年度補助金及び平成17年度補助金の各支出を対象とする部分に係る訴えは,適法な監査請求を経ていない不適法な訴えであるから,却下すべきである。

(2)  監査請求の対象と住民訴訟の対象の同一性(争点1(1)イ)

ア P1に対する請求(平成18年度補助金の支出に関する部分)について

原告は,被告に対し,平成18年度補助金の支出が違法,無効であることを理由としてP1に対する不当利得返還請求をすることを求めているところ,これに対し,被告は,本件監査請求書(甲1)にはP1の個人名が特定されておらず,本件監査請求の趣旨からみてP1に係る請求が求める措置の対象に含まれているとは解されないとして,本件訴えのうち上記請求部分については監査請求が前置されていない旨主張する。

しかし,住民訴訟においては,その対象とする財務会計上の行為又は怠る事実について監査請求を経ていると認められる限り,監査請求において求められた具体的措置の相手方とは異なる者を相手方として同措置の内容と異なる請求をすることも許されると解すべきであるから(最判平成10年7月3日・裁判集民事189号1頁参照),被告の上記主張は採用することができない。

イ 平成18年度補助金の支出について

被告は,本件監査請求は平成18年度補助金の支出を監査請求の対象としていないので,本件訴えのうち平成18年度補助金の支出の違法を理由とする請求に係る部分は,監査請求を前置しておらず不適法である旨主張する。

しかし,本件監査請求書(甲1)には,「大東市は,A(通称「D」)の常勤職員に対し,過去5年間にわたり,勤務実態がないのに同団体への市補助金の約6割にあたる約800万円の給与・一時金を毎年支払ってきた。さらに,この人物のために退職積立金を毎年30万円以上,公費で積み立ててきた。」「大東市長ら職員はこの事実を知りながら,勤務実態のない職員については少なくても2002年4月以降今日まで給与・一時金の支出を続け,退職金を積み立て(中略)てきた。このことは,公金の違法・不当な支出にあたる。」と記載されているところ,「今日まで」とは本件監査請求がされた平成19年2月14日頃をいうものと解されるから,本件監査請求において,平成18年度補助金の支出が本件監査請求の対象とされていることは明らかである。

したがって,被告の上記主張は採用することができない。

(3)  小括

以上によれば,本件訴えのうち,請求1の主位的請求及び請求2のうち平成16年度補助金及び平成17年度補助金の支出に関する各部分(すなわち,請求1(1)の主位的請求のうち平成16年度補助金及び平成17年度補助金の支出に関する部分,請求1(2)の主位的請求,請求2(1)並びに請求2(2)のうち平成17年度補助金の支出に関する部分)に係る訴えはいずれも不適法であり,却下すべきである。

2  本件各補助金の支出の違法を理由とする請求(請求1の主位的請求及び請求2)の本案の争点について

(1)  認定事実

前記前提となる事実に証拠(甲1~5,7,8,10,16~21,32~43,乙3~6,14~30,32~35,証人P5,証人P11,証人P1)及び弁論の全趣旨を総合すれば,以下の事実が認められ,これに反する証拠は採用しない。

ア 国においては,昭和40年8月のαの答申を契機として,昭和44年7月,10年間の時限法として同和対策事業特別措置法(同対法)が制定され,全国的に本格的な同和対策事業が実施されることとなった(その後,同対法は3年間延長された。)。そして,昭和57年4月,5年間の時限法として,同対法の枠組みを基本的に引き継いだ地域改善対策特別措置法が施行され,さらに,昭和62年4月,5年間の時限法として地域改善対策特定事業にかかる国の財政上の特別措置に関する法律(地対財特法)が施行された。

地対財特法は,平成4年と平成9年にそれぞれ5年間延長されたが,平成14年3月31日の期限をもって失効した。これにより,同和地区に着目して実施されてきた特別対策の事業は終了し,平成14年度以降は,他の地域と同様に,各地方公共団体において必要性に応じた施策を講じていくこととされた。

イ 大東市は,平成3年6月,「人権啓発基本方針」の中に同和問題を人権問題として位置付け,平成4年12月22日,同市を「差別撤廃・人権擁護都市」とすることを宣言した(差別撤廃人権擁護都市宣言)。さらに,大東市は,平成5年には市長を本部長とする「F本部」を設置し,平成9年には市長を本部長とする「人権教育のための国連10年推進本部」を設置し,平成11年3月に「大東市人権教育のための国連10年行動計画」を策定した。また,大東市は,同和問題に関する行政上の施策について,平成10年6月に「大東市同和行政基本方針」を,平成12年12月に「大東市同和行政推進プラン」を策定した。

そして,大東市は,平成12年10月,Vを設置し,大東市長のP2は,同月27日,地対財特法の失効後を見据え,Vに対し,「人権尊重のまちづくりのための基本となるもの」及び「大東市における今後の同和行政のあり方」についての諮問を行った。Vは,前者につき,平成13年2月20日に「『人権尊重のまちづくりのための基本となるもの』について(答申)」を答申し,大東市は,上記答申で条例制定の必要性が示されたことを踏まえ,同年9月,「大東市人権尊重のまちづくり条例」を制定した。さらに,Vは,上記諮問の後者につき,同年11月9日に「大東市における今後の同和行政のあり方について(答申)」を答申し,これを受けて,大東市は,平成14年3月,「大東市同和行政基本方針」を策定し,地対財特法失効後の同和問題の取り組みについて基本的な考え方をとりまとめた。また,大東市は,平成17年3月,「大東市人権行政基本方針」を策定し,同和問題を含む人権行政の具体的課題等を示した。

ウ Cは,昭和41年,大東市における同和対策事業を促進すること等を目的として発足した。

同年6月20日に制定されたC会則(ただし,平成11年6月4日に改正施行された後のもの。乙25)によれば,Cは,その事務所を大東市役所内に置き(2条),大東市における同和対策事業を促進し関係地区住民の生業安定,生活改善,教育の振興,その他文化の向上を図るとともに,基本的人権の擁護とあらゆる差別の撤廃をめざす「差別撤廃・人権擁護都市宣言」に掲げる崇高な理想の具現に寄与することを目的とし(3条),その目的を達成するため,①同和問題の調査,研究,啓発に関すること,②同和対策事業及び同和教育を促進するための協議に関すること,③関係当局及び団体への連絡調整,意見の具申,要請に関すること,④同和問題の解決及び同和事業の促進に関すること,⑤差別撤廃・人権都市宣言に関わる啓発及び事業施策の促進に関すること,以上の事業を行うものとされている(4条)。また,上記各事業の円滑な推進を図るため,Cには,事業推進部会,教育推進部会及び啓発推進部会が置かれ(26条),さらに,2つの地元協議員会(Q,R)が置かれ(29条),この協議員会の業務は,①大東市から求められる同和対策事業に係る協議に関すること,②事業対象者の確認に関すること,③必要な要求組織の結成に関すること,④その他同和対策事業の促進に必要な業務に関すること,とされている(30条)。

エ Cは,平成13年6月の総会において,Cの事業推進,審議(諮問),啓発の各機能を分化し,平成14年3月末をもってCを発展的に解散することを決定した。そして,事業推進機能は関係地区の地区協議会へ,審議機能はVへ,啓発機能はCを含む従来のF(C,G,H及びI)を組織統合した新たな啓発団体を設立することとされた。

Aは,上記のとおり,Cを含むFを統合し,平成14年4月1日に設立された団体である。Aは,大東市(中略)にあり,事務局は人権推進部(啓発推進課)内に置かれている(A会則(甲5)2条,なお,大東市の人権推進部長がその事務局長を,啓発推進課長が事務局次長を兼務している。)。また,Aは,人権教育及び人権啓発に関する活動等をその事業とし(同会則3条及び4条),実際に,講演会・映画会等の開催,パネル展の開催,バスツアーの実施,各種行事の実施や協賛等を行っているほか,市民講座,地域集会の開催等を通じて,大東市における人権啓発活動を推進している。そして,Aの収入の大半は大東市からの補助金であり,例えば,平成16年度の収入1776万6041円のうち1765万6000円(ただし,精算時に203万5909円を大東市に返還),平成17年度の収入1671万6035円のうち1659万6000円(ただし,精算時に286万5032円を大東市に返還),平成18年度の収入1564万1458円のうち1543万5000円(ただし,精算時に311万7672円を大東市に返還)が,それぞれ大東市からの補助金である。

Kは,平成13年3月に発足したLを前身として,平成14年7月に発足した団体である。Kは,大東市立Wセンター内に事務所を置き(K会則(乙24)2条),大東市の人権施策への協力・調整・協議等を行うことなどを目的とする(同会則3条)。また,地区協議会(地域人権協議会)は,平成13年11月の「大東市における今後の同和行政のあり方について(答申)」(乙18)及び平成14年3月の「大東市同和行政基本方針」(乙22)において,大東市の人権施策等を円滑に推進する協力機関として位置付けられ,大東市がその支援に努めることとされている。

オ P1は,昭和56年ころ,形骸化していたCの再編に関与し,昭和60年4月からCの事務局員として勤務するようになり,さらに,平成4年4月にCの事務局長に就任し,以後,Cが解散する平成14年3月末までその職にあった。P1は,当時,Cに直接雇用されていた専任職員であり,Cから常勤職員として給与等の支給を受けていた。また,大東市は,Cに対し毎年多額の補助金を交付しており,P1の人件費はその補助金の中から支出されていた(なお,Cの平成8年度補助金総額4417万円のうち,P1を含む2名分の「人件費」関係が1092万円,S及びBに対する「三支部補助金」が1838万円であった。)。なお,P1は,大東市が平成12年10月に設置したVの委員でもあった。

また,P1は,平成13年3月に発足したLの設立発起人の1人(なお,設立発起人らは,Lの協議員又はKの理事となった。)であり,その発足と同時にLの事務局長に就任し,LがKとなった後も,引き続きその事務局長の職にある。

また,P1は,平成14年3月まで,Eの事務局長であった(同年4月からは顧問)。なお,大東市には,同和問題に関する当事者団体として,E,T及びUがあり,Y地区は,BとSの二つの運動団体が存在するため,平成14年当時,大阪府内の他の地区に比べて,地区住民の合意が得られにくく,同和事業の推進が困難で,地区協議会の実質的な稼働も遅れている状況にあった。

カ 大東市は,平成14年3月末のCの解散に先立ち,長期間にわたりCの事務局長などとして大東市の同和行政に強い影響力を与えてきたP1の処遇について検討した。その結果,大東市は,Cの解散後,P1を新たにAの専任職員として雇用することとし,従前とほぼ同様の給与等の支払を継続する方針とした(なお,Cのもう一人の専任職員は,平成14年3月末日をもって定年退職している。)。

大東市長P2は,同年2月18日,市長室において,P1に対し,C解散後の処遇について説明し,同人の了解を得た。この説明の際には,助役(P3),総務部長,総務部次長兼人事課長,人権啓発部長(P5),Z室長がそれぞれ同席している。その際に説明された内容は次のとおりであり,本件協定書の内容とほぼ同様のものである(甲37,38)。

「1.A事務局職員として新たに雇用する。本務に支障を来さない範囲でKの業務を行うことを認める。大東市行政の方針に沿って職務を遂行すること(職務内容…事務局が行う職務全般)。

2.服務,給与,休暇,勤務時間は大東市職員に準ずるものとし,勤務時間は午前8時45分から午後5時15分までとする。

3.前項に基づき,地方公務員法32条から38条について遵守に努めること。(中略)

・ 営利企業等の従事制限(ただし,平成14年4月1日現在,既に就業している部分については制限しない。)

4.定年は大東市職員に準ずる(再任用制度は適用しない。)。

5.福利厚生

厚生年金,社会保険,雇用保険等については,現段階では本人の意思により加入しないが,本人から加入の申出があった時はAで対応する。

6.退職金については継続とする。ただし,昭和60年4月を始期とする。

7.給与・手当等についてはCで支給されていたものを継続するが,管理職手当(役職手当)は支給しない。」

キ 大東市は,同市元助役のP11に対し,Aの初代会長への就任を依頼し,その了解を得た。そして,大東市は,P11に対し,平成14年3月,AがP1を上記説明の内容で雇用することになっている旨を説明し,その上で,Aとの間で,Aが発足した同年4月1日付けで本件協定書(甲8)を作成し,本件協定を締結した(その内容は前記前提となる事実3(1)記載のとおり。)。そのころ,AとP1の間においても,上記説明及び本件協定のとおり本件雇用契約が締結され,その結果,P1は,C事務局長の役職手当分を除き,Cにおける給与等と同等の額(年間約800万円)を継続して受けられることとなった(なお,平成14年3月25日にA補助金交付要綱(甲7)が制定されており,同要綱2条2号は,補助金交付の対象として,「協議会の運営に要する人件費」を掲げている。)。

もっとも,本件協定及び本件雇用契約において,P1のAにおける職務内容は特に具体的なものとして定められておらず(本件協定書2条),かえって,本件協定締結当時から,平日の午後は,Kの申出により,P1がKで仕事をすることが当初から予定されていた上(同6条参照),平日の午前中についても,相当程度,P1がAの職務免除を受けてKで仕事をすることが想定されていた(同7条参照)。なお,本件協定及び本件雇用契約については,実質的な内容は全て大東市とP1の間で決定されており,A独自の意向は一切反映されていない。

ク Kの会長は,Aに対し,平成14年度から毎年度,本件協定締結当時から予定されていたとおり,Aの本務に支障を来さない範囲においてP1の派遣を依頼する旨の文書(貴事務局職員の派遣について(依頼)(乙34))を提出した。その結果,P1は,平日の午後はAの職務に従事せず,Kに出向してその職務に従事するものとされた。また,P1は,Aの個別の職務免除を受けて,平日の午前中の大部分を,AではなくKで過ごしていた。

P1は,Kの事務局長であったことから,平日の午前中に同人がKで勤務する必要があるか否か(職務免除願の必要性)について自ら判断し,職務免除願の書類(甲35,42,43)を自ら作成して,これをAに提出し,その許可を得ていた(なお,職務免除願の理由の記載は,時期により違いがあるものの,「Kの業務のため」といった抽象的な内容にとどまるものも少なくない。)。他方,職務免除の必要性について大東市やAが実質的に検討し判断した形跡はなく,実際にも,P1は,Aを退職するまで,その職務免除願が許可されなかったことは一度もなく,Aにおける勤務時間が少ないことについて注意等を受けることもなかった。また,大東市やAは,KにおけるP1の業務遂行を指揮監督していないことはもとより,P1のKへの出勤状況すらほとんど把握していなかった。他方,Kにおいても,会長は非常勤であり,事務局長は日常業務における実質的な最高責任者であるため,P1の日常の業務遂行を指揮監督する者はほとんどいなかった。

以上のような派遣申出及び職務免除等により,P1は,平成14年4月1日から平成19年2月14日まで,月に数回,朝にAの事務局(中略)に休暇願等を提出しに来るだけで,その他の勤務時間はほとんどAにおらず,Kに行っており,しかも,同人が実際にそこで仕事をしているかどうかすら大東市やAにはほとんど分からない状態となった(なお,P1がAにおいて従事する事務は,啓発事業の企画調整等といった一時的,臨時的なものが主であり,Aの日常的な事務は,10人以上に及ぶ大東市の兼務職員が処理していた。)。このような状態が継続する中で,P1は,大東市が本件協定に基づきAに交付した補助金から,Aの常勤職員としての給与等の支払を受けており,他方,Kからは,事務局長としての給与等の支払を受けていなかった。

ケ 平成18年10月27日のいきいき委員会で本件の問題が取り上げられ,平成19年2月6日にこれを問題視する新聞報道がされたことなどから,P1は,同月14日,Aを自ら退職した。もっとも,その後,AにおいてP1の後任は補充されず,また,大東市のAに対する補助金についても,P1の人件費に相当する額が減額されることとなった。他方,P1は,同年4月以降,Kから事務局長としての給与等の支払を受けるようになった。なお,この給与等は,大東市からKに対する委託料から支出されているが,この給与等を負担するための委託料の増額は行われていない。

(2)  本件各補助金の支出の違法性(争点1(1)ウ)

ア 前記前提となる事実及び前記認定事実によれば,そもそも,本件協定の内容については,Aが発足する前に,大東市とP1との間で事実上合意されており,Aやその初代会長であるP11は,P1をAの職員として雇用することはもとより,その勤務条件等についても,事前に決められた内容を了解しただけであるというのである。しかも,AとP1との間の本件雇用契約は,本来,A発足後に新たに締結される民間の雇用契約であるにもかかわらず,本件協定においては,P1を大東市職員に準じて扱うことが明記され(本件協定3条等),その給与等は,大東市による事前の説明によれば,役職手当を除いて,Cから支給されていたものを継続するとされ,さらに,AからP1に対して支払われる給与等は,大東市がAに対する補助金という形で負担(予算措置)することとされている(本件協定4条)。加えて,Aは,大東市の元助役が初代会長となり,同市の人権推進部長が事務局長を,啓発推進課長が事務局次長をそれぞれ兼務し,その他の職員もP1を除けば全員が大東市の兼務職員であり,その収入はほぼ全額が大東市の補助金であったというのであるから,Aは事実上大東市の組織の一部であったといっても過言ではない。そうすると,本件協定書は,大東市とAとの間の合意という形式を取っているが,実質的には,大東市が,P1を雇用して,Cの解散後もAを介して従来と同等の給与等を保障することを明らかにするためのものであったとみるのが自然である。

しかも,本件協定において,P1の職務内容は,Aの事務局が行う「職務全般」という抽象性の高いものとされ(本件協定2条),午後の勤務時間については,K(L)の申出により,P1がKにおいて勤務することがあらかじめ想定され,午前中についても,個別の職務免除により,同人がKにおいて勤務することが可能なものとされており,実際にも,平成14年4月以降,P1は,月に数日,朝にAの事務局に来るだけで,その他の勤務時間は,Aの包括的又は個別的な職務免除を受けて,Kで過ごしていたというのである。加えて,P1は,本件が新聞報道された直後にAを辞めているが,Aにおいてその後任が補充されることもなく,大東市の兼務職員がその事務を処理している(しかも,P1に対する人件費相当額の補助金は削減されている。)ことからしても,そもそも,Aにおいて,P1を常勤職員として雇用する必要性があったとは考え難く,P1を真に常勤職員として雇用する意思があったともいえない。

さらに,本件協定においては,P1が包括的又は個別的な職務免除を受けて,Kにおいて勤務することが予定されているところ,大東市やAは,KにおけるP1の業務遂行を指揮監督していないことはもとより,同人が実際にKで勤務しているかどうかすらほとんど把握していなかったのであり,また,Kにおいても,P1の日常の業務遂行を指揮監督する者はほとんどおらず,職務免除を求める必要性についてもP1が自ら判断して決めており,さらには,大東市やAがP1の職務免除の必要性を実質的に検討し判断した形跡はなく,AがP1の職務免除願を許可しなかったことは一度もなかったというのであるから,本件協定に基づく仕組みを全体としてみれば,P1がKで実際に働いていようがいまいが,大東市からAを介して年間約800万円もの給与等が自動的に支給されるという非常に不合理なものとなっている。

以上を要するに,本件協定は,A自身においてP1を常勤職員として雇用する必要性も意思もないのに,大東市が,Aを形式上の雇用主体として,P1に対し,非常に広範な職務免除を認め,かつ,職務免除中のKにおける勤務状況等も吟味することなく,Cの事務局長時代と同等の給与等を保障するためにあえて締結されたものであるというべきである。そうすると,本件協定は,これに付随する本件雇用契約と併せて,地方自治法204条の2(給与条例主義),地方公務員法24条1項(ノーワーク・ノーペイの原則),同法30条及び35条(職務専念義務),地方公務員派遣法等の各種規定を潜脱する悪質な脱法行為であり,違法性の強いものといわざるを得ないから,公序良俗に反し無効である。

イ これに対し,被告は,本件協定は飽くまで大東市が行政遂行のために要望・希望を表明したもので,P1の採用もAの判断において行われ,万一,同人が採用された場合の大東市の対応(考え方)が規定されているだけのものであるなどと主張するが,仮に被告の主張するようにAに対する要望・希望にすぎないのであれば,わざわざ協定書を作成する必要があるとは考え難いし,「協定書」という形式も不自然である。証人P11も,P1の雇用や待遇は大東市が主体となって決めたことであると明確に証言しており,これに反する被告の上記主張を採用することはできない。また,被告は,大東市においては,P1の専門性,人脈,知識等が必要不可欠であり,人権教育啓発事業の中心となってもらうことを期待していたと主張するが,その真偽はともかく,それゆえに地方公務員法等の各種規定の潜脱が許される訳ではないことはいうまでもない。

また,被告は,職務免除に関する条項につき,具体的な必要性のないまま職務免除を是認することを認めたものではないなどと主張する。しかし,P1がLの基盤作りのためにその事務所において勤務することが真に必要であったならば,Aにおいて常勤職員としての勤務を期待することはできないのであるから,Aが常勤職員としてP1を雇用することはやはり不合理というほかはない。しかも,前記認定事実のとおり,大東市やAがP1の職務免除の必要性を実質的に検討し判断した形跡はないのであり,職務免除願は極めて多数に上るにもかかわらず,これが許可されなかったことは一度もなく,大東市やAは,KにおけるP1の勤務実態につきほとんど把握していないばかりか,職務免除願を出すかどうかはP1自身の判断なのであるから,L(K)の基盤作りのための職務免除の必要性があるとしても,本件協定の職務免除に関する条項は,P1に一方的に有利な不合理なものであったというほかはない。しかも,本来,Aに直接雇用されている職員は地方公務員ではないのであるから,「職務免除」という発想自体,実質的には大東市がP1を雇用するものであることを暗に裏付けているというべきである。

(3)  当該職員又は相手方の責任の有無及び範囲(争点1(1)エ)

ア P2(市長)について

前記認定事実のとおり,平成18年度補助金のうちP1の人件費として交付された部分は,形式的に地方自治法232条の2所定の補助という体裁が採られてはいるが,その実質においては,本件協定に基づいてP1に対する給与等を支給するためのいわば本件協定の義務履行行為であるといえる。そうであるところ,前述のとおり,本件協定は私法上無効であるというべきであるから,大東市長であるP2は,無効な本件協定に基づく義務の履行として補助金の交付決定をしてはならないという財務会計法規上の義務を負っていると解すべきであり(最判平成20年1月18日・民集62巻1号1頁参照),少なくとも,このような補助金(P1の人件費として交付された部分)の交付決定が地方自治法232条の2所定の公益上の必要性を欠いていることは明らかというべきである。

これに対し,被告は,要旨,Aは大東市においてF団体の中核として位置付けられており,大東市が人権施策を推進するべくAに補助金を支出することには,公益上の必要性が認められる旨主張する。しかし,Aの活動に必要な経費の補助に関する一般論としては,被告が主張するとおりであるとしても,前記認定事実及び判断のとおり,平成18年度補助金のうちP1の人件費に相当する部分は,本件協定の義務履行行為として支出されているのであり,本件協定が公序良俗に反し無効であることも前述のとおりであるから,当該部分について被告の上記主張が妥当しないことは明らかである。

そうすると,P2は,違法に平成18年度補助金(P1の人件費として交付された部分)の交付決定をしたものと認められ,これにより大東市にP1の給与等相当額709万6621円の損害を与えたということができるから,P2は,大東市に対し,不法行為に基づく損害賠償義務として,709万6621円及びこれに対する平成19年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うべき義務を負う。

イ Aについて

補助金の交付は,私法上の贈与契約としての性格を有することから,その交付決定が財務会計法規に照らし違法であっても,直ちにその私法上の効力が無効となる訳ではない。しかし,前述のとおり,本件協定が公序良俗に反し無効である以上,その義務履行行為たる補助金交付決定(平成18年度補助金のうちP1の人件費に相当する部分)についても,本件協定と一体のものとして,公序良俗に反し無効であると解するのが相当である。

そうすると,Aは,法律上の原因なくして,大東市の損失の下,平成18年度補助金のうちP1の人件費に相当する部分の交付を受けてこれを不当に利得したものであり,かつ,この不当利得につき悪意ということができる(なお,Aの上記利得は,P1に対し給与等として支払われているが,これによりAが大東市に対する不当利得返還義務を免れ得るものではない。)。

したがって,Aは,大東市に対し,不当利得返還義務として,709万6621円及びこれに対する平成19年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うべき義務を負う。

ウ P1について

前記認定事実及び判断のとおり,本件協定及び本件雇用契約はいずれも公序良俗に反し無効であるから(なお,本件雇用契約は,本件協定に付随するものとして,その全部が公序良俗に反し無効であると解すべきであり,実際にP1がAの事務所にいた時間があったとしても,Aの職務に従事したと評価することはできず,本件雇用契約の一部を有効と解すべきではなく,P1が受領した金銭の一部を有効な給与等の支払と解することはできない。),P1は,法律上の原因なくして,大東市の損失により,平成18年度補助金のうち同人の給与等相当額の利得を得たということができる。また,この不当利得につき悪意であることは,これまでに述べたところから明らかである。

なお,本件においては,大東市からP1に対して直接に給与等が支払われた訳ではなく,Aによる補助金の受領及び給与等の支払という行為が介在しているため,P1の受益と大東市の損失との間の因果関係を肯定し得るかが問題となる。しかし,不当利得の制度趣旨に照らせば,社会通念上他人の金銭により受益者の利益を図ったと認めるに足りる連結がある場合には,不当利得の成立に必要な因果関係があるものと解すべきであるところ(最判昭和49年9月26日・民集28巻6号1243頁参照),前記認定事実及び判断によれば,本件協定においては,Aは形式的な雇用主であったにすぎず,実質的には大東市がP1の給与等を負担しており,しかも,本件協定及び本件雇用契約は一体として公序良俗に反し無効というべきであるから,本件の事実関係の下では,社会通念上,大東市の金銭によりP1の利益を図ったと認めるに足りる連結があるというべきであり,大東市の損失とP1の利得との間に不当利得の成立に必要な因果関係を肯定し得ることは明らかである。

したがって,P1は,大東市に対し,不当利得返還義務として,709万6621円及びこれに対する平成19年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払うべき義務を負う。

なお,上記のとおり,P2の債務は不法行為に基づく損害賠償債務であり,A及びP1の債務はいずれも不当利得返還債務であって,これらの債務の間に連帯債務の関係を認めることはできない。

エ P5(収入役)について

平成18年当時大東市収入役であったP5は,平成18年度補助金につき支出の決裁をしているところ,同補助金の交付決定のうちP1の人件費相当額に係る部分が違法無効である以上,P5は,同補助金のうち上記部分につき支出をしてはならないという財務会計法規上の義務を負っていたと解すべきであるから,P5がした上記支出のうちP1の人件費相当額に係る部分は,違法である。

そして,前記認定事実によれば,P5は,本件協定締結当時,人権啓発部長として,P1に対する説明の場に同席し,本件協定締結の決裁にも関与しており,本件協定が違法無効であり,本件協定に基づく補助金の交付決定及び支出命令が違法無効であることは容易に知り得る立場にあったというべきであるから,違法な支出をしたことにつき重過失が認められる。

したがって,P5は,大東市に対し,地方自治法243条の2第1項後段に基づき,709万6621円及びこれに対する平成19年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を賠償する責任を負う。

3  共同不法行為を理由とする損害賠償請求(請求1の予備的請求)の本案前の争点について

(1)  監査請求の対象と住民訴訟の対象の同一性(争点1(2)ア)

原告は,本件訴えのうち請求1の予備的請求において,要旨,大東市長であるP2及び助役であったP3は,P1及びBの圧力の下,Aとの間で本件協定書を作成し,P1に不当に広範な職務免除を認めた上で,大東市がP1の人件費を補助金という形で保障する態勢を調え,現実に大東市に補助金を支出させたものであり,これは,P2,P3,P1及びAが結託した大東市に対する共同不法行為としてとらえるべきものであると主張している。

ところで,監査請求の対象として何を取り上げるかは,基本的には請求をする住民の選択に係るものであるが,具体的な監査請求の対象は,当該監査請求において監査請求人が何を対象として取り上げたのかを,監査請求書の記載内容,添付書面等に照らして客観的,実質的に判断すべきものである(最判平成14年7月2日・民集56巻6号1049頁参照)。そうであるところ,本件監査請求書(甲1)には,本件各補助金の支出の違法を理由とする内容のほかに,「この人物はSとともに乱脈な同和行政を市に迫ってきたEの役員(現在は顧問)旧C時代から,市の同和行政に強い影響力を持っていた。2002年3月に国の同和対策特別法の期限切れに伴ないCは解散したが,市はこの人物に新たに設置された『D』職員ポストを与えた。常勤職員であるため,本来は市民会館内にある『D』に出勤・常勤しなければならないのに,自分自身が事務局長を務めるK(Wセンター内)に出向き,公務員でもないのに『職務免除』を受けていた。」「よって市の人権に名を借りた旧同和行政の速やかな完全終結を今回,市民に納得の行くよう,具体的解決として公金の返還と補助金の是正・見直しを求め(る。)」などと記載されており,これらの記載内容や添付された新聞記事(甲16~20)等に照らして客観的,実質的に判断すれば,本件監査請求は,請求1の予備的請求に係る上記主張のように,P2,P3,P1及びAが結託して,P1にAの職員の地位を与えるとともに広範な職務免除を認め,他方でその人件費を保障する態勢を調え,大東市に補助金を支出させてその人件費相当額の損害を被らせたことなどを内容とする共同不法行為に基づく損害賠償請求を怠っているという事実を対象に含んでいると解することができる。

したがって,本件訴えのうちP2,P3,P1及びAの共同不法行為を理由とする予備的請求に係る部分については,監査請求を経ているといえ,これに反する被告の主張は採用することができない。

(2)  監査請求期間制限の有無(いわゆる真正怠る事実か不真正怠る事実か)(争点1(2)イ)

ア 怠る事実と地方自治法242条2項本文の期間制限の判断枠組み

地方自治法242条2項本文は,監査請求の対象事項のうち財務会計上の行為については,当該行為があった日又は終わった日から1年を経過したときは監査請求をすることができないものと規定しているが,上記の対象事項のうち同法242条1項にいう怠る事実については,このような期間制限は規定されておらず,怠る事実が存在する限りはこれを制限しないこととするものと解される。もっとも,特定の財務会計上の行為が財務会計法規に違反して違法であるか又はこれが違法であって無効であるからこそ発生する実体法上の請求権の行使を怠る事実を対象として監査請求がされた場合には,これについて上記の期間制限が及ばないとすれば,同法242条2項の趣旨を没却することとなる。したがって,このような場合には,当該行為のあった日又は終わった日を基準として同規定を適用すべきものである(最判昭和62年2月20日・民集41巻1号122頁参照)。しかし,怠る事実については監査請求期間の制限がないのが原則であることに鑑みれば,監査委員が怠る事実の監査をするに当たり,当該行為が財務会計法規に違反して違法であるか否かの判断をしなければならない関係にない場合には,これをしなければならない場合と異なり,当該怠る事実を対象としてされた監査請求は,期間制限規定の趣旨を没却するものとはいえず,これに同規定を適用すべきものではない(前掲最判平成14年7月2日)。ただし,特定の財務会計行為が行われた場合において,これにつき権限を有する職員又はその前任者が行った準備行為,あるいは,これらの職員の補助職員が行った補助行為は,いずれも財務会計上の行為と一体としてとらえられるべきものであり,準備行為又は補助行為の違法が財務会計上の行為の違法を構成する関係にあるときは,準備行為又は補助行為が違法であるとし,これに基づいて発生する損害賠償請求権の行使を怠る事実を対象としてされた監査請求は,実質的には財務会計上の行為を違法と主張してその是正を求める趣旨のものにほかならないと解されるから,当該財務会計上の行為のあった日又は終わった日を基準として地方自治法242条2項本文の期間制限を適用すべきである(最判平成14年10月3日・民集56巻8号1611頁参照)。

イ A及びP1について

前述のとおり,本件監査請求は,P2,P3,P1及びAが結託して,P1にAの職員の地位を与えるとともに広範な職務免除を認め,他方でその人件費を保障する態勢を調え,大東市に補助金を支出させてその人件費相当額の損害を被らせたことなどを内容とする共同不法行為に基づく損害賠償請求を怠っているという事実を対象に含んでいると解することができるところ,上記怠る事実のうちA及びP1に係る部分について監査を遂げるためには,監査委員は,A及びP1について上記行為が認められ,それが不法行為法上違法の評価を受けるものであるかどうか,これにより大東市に損害が発生したといえるかどうかなどを確定しさえすれば足りる。そうすると,上記怠る事実に係る大東市のA及びP1に対する損害賠償請求権は,平成16年度補助金及び平成17年度補助金の各支出など特定の財務会計行為が財務会計法規に違反して違法,無効であるからこそ発生するものではない。

したがって,本件監査請求のうちA及びP1に対する共同不法行為に基づく損害賠償請求を怠る事実(平成16年度補助金及び平成17年度補助金に関する部分)について地方自治法242条2項の期間制限の適用がないものと認めても,その趣旨が没却されるものではなく,監査請求期間の制限は及ばないものと解するのが相当である。

そうすると,本件監査請求のうちA及びP1に対する共同不法行為に基づく損害賠償請求を怠る事実を対象とする部分は適法というべきであり,請求1の予備的請求に係る訴えのうち,平成16年度補助金及び平成17年度補助金の交付に関しA及びP1に対し損害賠償請求をすることを求める部分は,適法である。

ウ P2(市長)について

P2,P3,P1及びAが結託して,P1にAの職員の地位を与えるとともに広範な職務免除を認め,他方でその人件費を保障する態勢を調え,大東市に補助金を支出させてその人件費相当額の損害を被らせたことなどを内容とする共同不法行為に基づく損害賠償請求を怠っているという事実のうち,P2に係る部分について監査請求期間の制限が及ぶかどうかについては,上記行為の当時から既にP2は大東市長として本件各補助金の支出(交付決定及び支出命令)の本来的権限を有する者であったから,上記怠る事実を対象としてされた監査請求が実質的には財務会計上の行為を違法と主張してその是正を求めるものというべきであるか否かを検討する必要がある(前掲最判平成14年10月3日参照)。

そこで検討するに,原告が主張する上記共同不法行為においてP2が行った行為は,P1の人件費を大東市が保障する態勢を調えたことなどを内容とするものであるところ,大東市に損害を与える直接の行為は本件各補助金の支出であり,上記P2の行為は,本件各補助金の支出(P1の給与等の財源の負担)に向けられた準備行為たる性質を有するものであって,本件各補助金の支出と一体としてとらえられるべきものである。そして,上記準備行為の違法は本件各補助金の支出の違法を構成する関係にあるということができ,上記準備行為が違法であるとし,これに基づいて発生する損害賠償請求権の行使を怠る事実を対象としてされた本件監査請求は,実質的には財務会計上の行為(本件各補助金の支出)を違法と主張してその是正を求める趣旨のものにほかならないと解される(なお,上記共同不法行為におけるP2の行為は,本件協定の締結という本件各補助金支出の先行行為を含んでいるが,そのことは,P2の上記行為が本件各補助金支出の準備行為たる性質を有することと矛盾するものではない。)。

したがって,本件監査請求のうち共同不法行為に基づくP2に対する損害賠償請求を怠る事実(平成16年度補助金及び平成17年度補助金の交付に関する部分)を対象とする部分については,上記各補助金の支出のあった日を基準として地方自治法242条2項本文の期間制限を適用すべきであるから,監査請求期間を徒過しているというほかはなく,不適法である。したがって,請求1の予備的請求に係る訴えのうち,平成16年度補助金及び平成17年度補助金の交付に関しP2に対し共同不法行為に基づく損害賠償請求をすることを求める部分は,適法な監査請求を経ていない不適法な訴えであるから,却下すべきである。

エ P3(助役)について

原告は,P3に対する賠償命令をすることを求めているところ,賠償命令の性質上,これは正にP3がした財務会計上の行為が違法であるとしてする請求と解さざるを得ない(地方自治法243条の2第1項参照。なお,仮に本件訴訟において,P3が財務会計上の行為とは異なる別個の不法行為を行った旨の主張がされていたとしても,上記の賠償命令をすることを求める訴えにおいては,そのような主張は主張自体失当である。)。

したがって,請求1の予備的請求に係る訴えのうち,平成16年度補助金の交付決定を代決したP3に対する賠償命令をすることを求める部分については,これまでに説示したところによれば,適法な監査請求を前置しているということはできず,不適法であるから却下すべきである。

(3)  小括

以上によれば,共同不法行為を理由とする請求1の予備的請求(ただし,請求1の主位的請求が認容された部分を除く。)に係る訴えのうち,P2に対する損害賠償請求を求める部分及びP3に対する賠償命令を求める部分は,いずれも不適法であり却下すべきであるが,A及びP1に対する損害賠償請求を求める部分は,適法である。

4  共同不法行為を理由とする損害賠償請求(請求1の予備的請求)の本案の争点について

(1)  共同不法行為の成否(争点1(2)ウ)

前記認定事実及び判断によれば,本件協定は,A自身においてP1を常勤職員として雇用する必要性も意思もないのに,大東市が,Aを形式上の雇用主体として,P1に対し,非常に広範な職務免除を認め,かつ,職務免除中のKにおける勤務状況等も吟味することなく,Cの事務局長時代と同等の給与等を保障するとともに,これを明らかにするためにあえて締結されたものである。そうすると,A及びP1は,P2らと共謀して,P1の人件費を大東市に不正に負担させることを意図して,本件協定及び本件雇用契約をそれぞれ違法に締結し,その結果,大東市からAに対する本件各補助金を支出させ,同市にP1の人件費相当額の損害を与えたものということができる。

また,AとP1は,本件協定が上記のようなものであることを認識していたということができるから,大東市に違法に損害を与えることにつき故意又は過失があることは明らかである。

したがって,A及びP1について,大東市に対する共同不法行為が成立すると認められる。

(2)  当該職員又は相手方の責任の有無及び範囲(争点1(2)エ)

以上によれば,A及びP1は,主位的請求において認容された平成18年度補助金に関する部分(709万6621円及びこれに対する平成19年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員)に加え,共同不法行為を理由として,平成16年度補助金に関する部分(954万5990円及びこれに対する平成17年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員)及び平成17年度補助金に関する部分(811万1151円及びこれに対する平成18年4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員)について,不真正連帯債務としてその損害賠償義務を負うというべきである。

第8【アルバイト職員給与関係】についての当裁判所の判断

1  本件アルバイト職員はEに「派遣」されていたか否か(争点2(1))

(1)  被告は,Eは地方公務員派遣法2条の「団体」に該当しないから,同法の適用を前提とする原告の主張自体失当であると主張するが,同条所定の「団体」に該当しない団体に職員が派遣されていれば,それだけで同法に違反する違法な派遣というべきであるから,被告の上記主張は採用することができない。

そこで,本件アルバイト職員に対する給与等の支給が適法であるかどうか,すなわち,本件アルバイト職員がEに「派遣」されていたのか,あるいはEにおいて大東市の仕事をしていたにすぎないのかという点について,以下検討する。

(2)  前記前提となる事実,証拠(甲10,29~31,36,乙31,36,証人P12)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められ,これに反する証拠は採用しない。

ア 大東市は,地対財特法が失効する前から,EやSの各事務所に大東市の職員(O所属)を配置していたところ,地対財特法失効の際,S各支部への職員の配置はやめることとしたが,Eへの職員の配置は継続することとした。そして,Eに配置されていた大東市の職員が平成14年5月に死亡したため,大東市は,同年6月以降,アルバイト職員(人権政策室所属)を雇用し,以後,平成18年10月まで,Eの事務所にアルバイト職員を配置してきた。

なお,平成18年中にEに配置されていた本件アルバイト職員は,平成18年5月まで勤務した者と同年7月から10月まで勤務した者との2名である。大東市は,当初から同人らをEの事務所に配置する前提で採用しているが,採用時の内申書には,勤務場所として「O」と記載されている。

イ Y内にあるWセンター(W会館)には,大東市の人権推進部の職員が勤務しており,Eの事務所はその近隣の建物に所在する。

本件アルバイト職員の出退勤の確認や提出書類等の事務は,Wセンターにおいて行うこととされていた(なお,本件アルバイト職員の勤務時間は午後1時から午後5時半である。)が,本件アルバイト職員がEの事務所において行う事務について,業務日誌や業務報告書の作成は求められていなかった。

ウ 平成18年当時,Eの事務所に常駐していた職員は本件アルバイト職員1人であり,Bの職員は常駐していなかった。

本件アルバイト職員がEの事務所において行う事務は,同事務所における郵便物や電話等の対応を含む事務一般であり,その中には,例えば,大東市の施策に関する資料を配布しその説明を行うこと,Eの役員の意見等を大東市に伝えること,事業の事前説明会の日程調整を行うこと,落書き等の差別事象に関する申出を受けること,雇用促進のため地元から優先して採用する職員の募集の周知を行うことなどがあった。

エ 平成18年10月27日に本件アルバイト職員の問題が大東市のいきいき委員会において取り上げられ,その3日後の同月30日,本件アルバイト職員は大東市を退職し,その後,大東市の職員がEの事務所に配置されることはなくなった。また,本件アルバイト職員が退職した後,Bが新たに事務員を雇用し,自らその給与等を負担していたことがある。

(3)  以上の認定事実によれば,本件アルバイト職員は,Eの事務所において,Eの事務一般を1人で処理していたというのであり,しかも,その間,大東市の指揮監督は及んでおらず,その業務についての報告等も逐一行われていなかったことなども考慮すると,本件アルバイト職員は,Eに派遣されていたものと認めるのが相当である。

これに対し,被告は,本件アルバイト職員は,Oからの指示に従って,大東市の事務である,①大東市とEとの協議事項に関する調整事務補助,②大東市からEへの報告事項に関する処理事務補助,③E等から大東市への要望事項のとりまとめ等に関する事務補助,及び④Oとの連絡事務補助を行っていたから,「派遣」には当たらないと主張する。しかし,本件アルバイト職員はEの事務所に常駐するただ1人の事務員であった以上,Eの事務一般を処理していたものといわざるを得ないし,その間,大東市の指揮監督が及んでいないことも明らかであって,その事務の中に上記のような大東市の施策と関連の深いものが含まれているからといって,大東市の指揮監督の下で大東市の事務だけを遂行していたなどということはできない。しかも,これらの事務は,大東市とEとの連絡調整事務や施策の周知事務等であるところ,Eの事務所のすぐ近くにWセンターがあり,大東市の職員も常駐しているのであるから,必要に応じて職員がEの役員と連絡を取ったり,Eの事務所に赴くなどすれば足りるのであり,Eの事務所にわざわざ大東市の職員1人を常駐させ,そこで上記のような事務を単独で処理させる必要があるとは考え難い。被告の上記主張は不自然かつ不合理であって,採用することができない。

以上によれば,本件アルバイト職員をEに派遣することは地方公務員派遣法に違反するものであり,本件アルバイト職員に対する給与等の支出は違法である。

2  当該職員又は相手方の責任の有無及び範囲(争点2(2))

(1)  Bについて

前記認定事実及び判断によれば,Eは,法律上の原因なくして大東市から派遣された本件アルバイト職員から労務の提供を受けたことにより,その給与等相当額の利得を得,他方,大東市は本件アルバイト職員の給与等に相当する損失を被ったということができる(なお,被告は,派遣ではないと主張してEの利得及び大東市の損失があることを争っているが,仮に派遣であったとした場合の利得に法律上の原因がないことについては,争っていない。)。

したがって,Bは,大東市に対し,本件アルバイト職員に支給された給与等に相当する額及びこれに対する民法704条の法定利息(63万6400円及び内21万8700円については平成18年4月1日から,内41万7700円については平成19年4月1日から,それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員)を返還すべき義務を負う。

(2)  P2について

前述のとおり,本件アルバイト職員に対する給与等の支出は違法であるが,その交付決定及び支出命令は専決により大東市長の補助職員が行ったものと認められ(甲29,30,弁論の全趣旨),P2自ら決裁した訳ではない。

しかしながら,前記認定事実,証拠(甲36)及び弁論の全趣旨によれば,T,Uへの職員の配置(派遣)は地対財特法の失効時にやめることとされたにもかかわらず,Eへの職員の派遣は平成14年4月以降も継続することとされ,その後,いきいき委員会で問題を指摘された平成18年10月まで約4年半にわたり継続されたこと,P2は平成12年5月から大東市長の職にあり,Eとの交渉には,大東市長自ら出席してその交渉に当たっていたこと,以上の事実が認められ,これらに加えて,最判平成10年4月24日(裁判集民事188号275頁)が,派遣職員に適法に給与全額を支給するには,職務専念義務の免除と給与条例上の勤務しないことの承認が適法に行われることが必要であり,その適法性について,行政目的の達成のために職員派遣をする必要性に照らして職務専念義務の免除や勤務しないことの承認が地方公務委員法24条,30条及び35条の趣旨に反しないかどうか検討すべきである旨判示し,これを踏まえて,職員派遣の統一的なルールを定めその適正化を図るべく平成12年4月に地方公務員派遣法が制定され(平成14年4月1日施行),これを受けて,大東市公益法人等への職員の派遣等に関する条例が同年3月28日に制定された(甲11)ことを考え併せると,P2は,平成18年当時,大東市のアルバイト職員がEに派遣されていたこと及び上記派遣が地方公務員派遣法等に基づかない違法なものであることを知り,又は容易に知り得たということができる。

そうすると,大東市長であるP2は,本件アルバイト職員の給与等の支出に係る財務会計行為につき,専決を任された補助職員が違法行為をすることを阻止すべき指揮監督上の義務に違反し,故意又は過失により上記補助職員が財務会計上の違法行為をすることを阻止しなかったと認めるのが相当であり,大東市に対し,不法行為に基づく損害賠償義務を負うというべきである。

なお,上記のとおり,Bの債務は不当利得返還債務であり,P2の債務は不法行為に基づく損害賠償債務であって,これらの間に連帯債務の関係を認めることはできない。

(3)  P6及びP7について

前記前提となる事実によれば,P6は,出納室長として,本件アルバイト職員の平成18年1月分から5月分まで,7月分,8月分及び10月分の各給与等を専決によりそれぞれ支出し,P7は,出納室長代理として,本件アルバイト職員の同年9月分の給与等を代決により支出したことが認められる。しかし,上記両名において,上記各支出に際して支出負担行為及び支出命令の違法を是正すべき義務に違反することにつき重過失があったと認めるに足りる十分な証拠はなく,上記両名が,地方自治法243条の2第1項後段に基づき,本件アルバイト職員の給与等を賠償する責任を負うべきものとは認められない。

この点につき,原告は,本件アルバイト職員は当初からEで勤務することが予定されていたにもかかわらず,勤務場所をOとする事実に反する内申が行われているから,少なくとも重大な過失があったことは明らかであるなどと主張する。しかし,原告が主張する上記内申書とは,本件アルバイト職員を採用する際の内申書(甲29)であり,これが本件アルバイト職員の給与等の支出の決裁書類(甲30)に含まれていたかどうかは証拠上明らかではない。また,上記両名が仮に本件アルバイト職員の内申書を見たことがあったとしても,その勤務場所の記載が虚偽のものであるかどうか,本件アルバイト職員の遂行する事務が大東市の事務であるかどうか等については,出納室長又は出納室長代理であった上記両名において容易に知り得たと認めるべき十分な証拠はなく,少なくとも上記両名に重過失があったと認めることはできない。

したがって,上記両名に対し賠償命令をすることを求める請求は,理由がない。

第9結論

以上によれば,【A補助金関係】の訴えのうち,主文1項に掲げる部分はいずれも不適法であるからこれを却下することとし,原告のその余の請求のうち,主文2項に掲げる部分は理由があるからこれを認容し,【アルバイト職員給与関係】に係る原告の請求は,主文3項(1)の限度で理由があるからこれを認容し,その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田明 裁判官 徳地淳 裁判官 藤根桃世)

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