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大阪地方裁判所 平成2年(わ)3623号 判決 1992年2月20日

国籍

中国(台湾 台中県東勢鎮下城里七番地)

住居

兵庫県芦屋市岩園町二五番一二号

(外国人登録上の居住地 大阪市阿倍野区松崎町二丁目七番一五号)

ゴルフ練習場経営

巫阿渕

一九二一年四月二四日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について当裁判所は、検察官宮下準二出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年及び罰金九〇〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、兵庫県尼崎市戸ノ内町三丁目一五番地において、ゴルフ練習場等を営む傍ら、株式取引を行っているものであるが、自己の所得税を免れようと企て、

第一  昭和六一年分の実際総所得金額が一億一八五〇万二〇三五円であった(別紙(一)総所得金額計算書及び修正損益計算書参照)のにかかわらず、株式の継続的取引による雑所得の全部を除外するなどの不正の方法により所得の一部を秘匿したうえ、昭和六二年三月一六日、大阪市阿倍野区三明町二丁目一〇番二九号所在の所轄阿倍野税務署において、同税務署長に対し、昭和六一年分の総所得金額が一七七〇万六三二六円で、これに対する所得税額が五五四万七五〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同年分の正規の所得税額七〇二七万四九〇〇円と右申告税額との差額六四七二万七四〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れた

第二  昭和六二年分の実際総所得金額が四億八九七七万一五八円であった(別紙(二)総所得金額計算書及び修正損益計算書参照)のにかかわらず、前同様の方法により所得の一部を秘匿したうえ、昭和六三年三月一五日、前記阿倍野税務署において、同税務署長に対し、昭和六二年分の総所得金額が二七六一万三四六〇円で、これに対する所得税額が一〇三九万二五〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同年分の正規の所得税額二億八六二一万八一〇〇円と右申告税額との差額二億七五八二万五六〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れた

第三  昭和六三年分の実際総所得金額が一億七三二八万五八八五円であった(別紙(三)総所得金額計算書及び修正損益計算書参照)のにかかわらず、前同様の方法により所得の一部を秘匿したうえ、平成元年三月一五日、前記阿倍野税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の総所得金額が三五〇八万七〇二四円で、これに対する所得税額が一三二八万六〇〇〇円(ただし、申告書では誤って一三〇三万六〇〇〇円と記載)である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により同年分の正規の所得税額九四四七万九九〇〇円と右申告税額との差額八一一九万三九〇〇円(別紙(四)税額計算書参照)を免れた

ものである。

(証拠の慓目)

判示事実全部について

一  被告人の検察官に対する供述調書二通

一  被告人に対する収税官吏の質問てん末書一二通

一  幸田由起子こと巫由起子、芦田貢、中山義雄こと劉進雄の検察官に対する各供述調書

一  幸田由起子こと巫由起子、芦田貢(三通)、田中益蔵(三通)、太田俊明、山下紘一(三通)、中山義雄こと劉進雄に対する収税官吏の各質問てん末書

一  収税官吏作成の査察官調書一九通

一  収税官吏作成の調査報告書

一  検察事務官作成の電話聴取書

判示第一の事実について

一  阿倍野税務署長作成の証明書(検察官請求番号4)

判示第二の事実について

一  阿倍野税務署長作成の証明書(同5)

判示第三の事実について

一  阿倍野税務署長作成の証明書(同6)

(弁護人の主張に対する判断)

一  弁護人の主張

被告人の事業所及び不動産所得上の収入の基盤となっている土地のうち、千葉喜代所有名義の土地(以下、「本件土地」という。)については、千葉から被告人に対し、土地明渡しと本件の各年度を含む占有期間中の賃料相当損害金の支払いを求める訴えが提起されて現在係争中であるが、既に別訴で本件土地が千葉の所有であるとして千葉への所有権移転登記手続を命じる判決が確定し、千葉の所有名義となっているのであり、したがって、いずれは被告人が敗訴して、千葉に対し、本件土地を明け渡すとともに、右の賃料相当損害金を支払うべきこととなることは確実である。そして、右損害金は、損害金とはいえ実質は地代であり、売上原価と同視すべきものであって、本来は確定していなくても見積評価して経費として計上すべきである(法人税基本通達二-二-一参照)のみならず、前記土地明渡し等の訴訟の帰趨を待たなくても十分その額を算定することができるから、各年度末において確定しているものということができる(所得税基本通達三七-二)。したがって、右賃料相当損害金は、被告人の所得金額の計算上必要経費に算入すべきものであり、本件の各年度についてもその各年度における右損害金額を必要経費に算入すべきところ、本件では各年度における右損害金額に関する証明等はなされておらず、結局、各年度の実際の所得金額、これに対する税額、ほ脱税額について証明がないことに帰するから、被告人は無罪である。

二  当裁判所の判断

関係諸証拠によれば、以下の事実が認められる。すなわち、本件土地は、もと被告人が代表取締役をしている神崎土地振興株式会社(以下、「神崎土地」という。)の所有として登記されていたが、千葉が昭和四四年に神崎土地に対し、所有権移転登記手続等を求める訴えを大阪地方裁判所に提起し、昭和五一年二月二六日同裁判所で本件土地は千葉の所有であるとして千葉への所有権移転登記手続を命じる判決がされ、神崎土地が控訴したが、昭和五五年一〇月二三日大阪高等裁判所で控訴を棄却(判決)され、さらに上告したが、昭和五七年二月九日最高裁判所で上告を棄却されて確定し、同月一九日その旨の登記がされた。他方、千葉は、同年六月その後も本件土地の占有を継続している被告人に対し、土地の明渡しと明渡しまでの賃料相当損害金の支払いを求める訴えを神戸地方裁判所尼崎支部に提起し、被告人はこれを全面的に争って現在も係争中である。なお、神崎土地は、昭和五五年一〇月二三日に大阪高等裁判所が言い渡した前記判決に対し、昭和五九年同裁判所に再審請求をしたが、昭和六二年一〇月二七日訴えを却下され、さらに上告したが、平成二年二月六日最高裁判所で上告を棄却された。

右事実からすれば、本件土地の帰属については、別訴において裁判所の判断が示されてはいるものの、本件土地の不法占拠の事実の有無、賃料相当損害金支払義務の存否、その額等についてはまさに継続中の前記土地明渡し等の訴訟において争われているのであり、被告人の千葉に対する賃料相当損害金債務は本件の昭和六一年から六三年までの各年度を含め確定しているとはいえない(所得税法三七条一項、なお所得税法基本通達三七-一、二参照)。また、そもそも右のような損害金が、確定していなくても見積評価して必要経費として計上すべきであるとも解されないし、その額を適正に見積評価することも困難である。右各損害金額は右各年度における所得の計算上必要経費として算入すべきものではないと解するのが相当である。

したがって、弁護人の主張は採用することができない。

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、判示各罪につきいずれも所定の懲役刑と罰金刑とを併科し、かつ、いずれも情状により同条二項を適用し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年及び罰金九〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 仙波厚 裁判官 福井一郎 裁判官 平島正道)

(別紙一)

総所得金額計算書

<省略>

(別紙一)

修正損益計算書

<省略>

(別紙二)

総所得金額計算書

<省略>

(別紙二)

修正損益計算書

<省略>

(別紙三)

総所得金額計算書

<省略>

(別紙三)

修正損益計算書

<省略>

(別紙四)

税額計算書

<省略>

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