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大阪地方裁判所 平成2年(ソ)5号 決定 1990年11月26日

抗告人

X

右代理人弁護士

米田宏己

西信子

北薗太

主文

原決定を取り消す。

本件を大阪簡易裁判所に差し戻す。

理由

一抗告の趣旨

1  原決定を取り消す。

2  本件公示催告の申立を許す。

二抗告の理由

公示催告制度は、株券の占有者としての形式的資格を回復する制度であり、単なる株券の所持者であれば、申立権を有するのであり、単なる受寄者はもとより盗人、拾得人でも申立権を有すると解すべきである。除権判決の対象は、専ら形式的資格の存否であって、証券上の実質的権利関係には何らの影響を及ぼさないものである。

よって、単なる受寄者に公示催告を認めても何らの不都合もないし、制度の趣旨も形式的資格の回復にあり、受寄者も寄託者との義務の関係上、自己において公示催告を得る必要がある。

三当裁判所の判断

1  本件記録によれば、本件各株券は、Bから抗告人が管理目的で保管を依頼され、その交付を受けて保管中、平成元年六月三〇日から平成二年七月一〇日にかけて紛失したことの疎明がある。

2  そこで、抗告の理由について検討する。

株券は、公示催告の手続によりこれを無効とすることができ(商法二三〇条一項)、除権判決を得れば、株券の再発行を請求することができる(同条二項)が、「除権判決の効果は、右判決以後当該株券を無効とし、申立人に株券を所持すると同一の地位を回復させるに止まるものであって、公示催告申立の時に遡って右株券を無効とするものではなくまた申立人が実質上株主たることを確定するものではない」(最高裁判所昭和二九年二月一九日判決民集八巻二号五二三頁以下)。

右のような公示催告及び除権判決制度の趣旨に鑑みると、商法二三〇条、民事訴訟法七七七条、七七八条に則り公示催告手続の申立権を有する者は、株券の喪失当時、その証券上の権利を主張しうべき形式的資格を有していた者をいうと解すべきである。すなわち、株券は、記名株券であると無記名株券であるとを問わず、有価証券の種類としては、無記名証券に属する。そして、同法七七八条一項によれば、無記名証券においては「最終の所持人」が申立権を有する旨定められているが、これは、証券喪失当時における所持人を指称するものというべく、この所持人が実質上の権利者たることを要する趣旨でないことは、右文言上からも看取されるところである。

株券の寄託を受けた者は、喪失前、当該株券について実質的権利を有していたものではないが、株券を所持していた以上、形式的資格を有していた者に該当する(商法二〇五条二項)。したがって、株券の受寄者も、株券を紛失した場合には、受寄者として公示催告を申し立てる権利を有するといわなければならない。

3  よって、これと見解を異にし、抗告人の公示催告申立を却下した原決定は失当であり、本件抗告は理由があるから、民事訴訟法四一四条、三八六条により原決定を取消し、同法四一四条により、同法三八九条を準用して、本件を原裁判所に差戻すこととして、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官川鍋正隆 裁判官金井康雄 裁判官古閑裕二)

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