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大阪地方裁判所 平成2年(ワ)4058号 判決 1991年4月23日

原告

坂根三郎

右訴訟代理人弁護士

瀬戸則夫

日下部昇

被告

極東交通株式会社

右代表者代表取締役

佐野勇雄

右訴訟代理人弁護士

田邊満

主文

一  被告は原告に対し、金七〇万六八四四円及びこれに対する平成二年六月七日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告、その余を原告の負担とする。

四  この判決は原告の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、金六二一万五三五〇円及びこれに対する平成元年六月七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実等

1  被告(代表取締役佐野勇雄)は関西ハイタク事業協同組合(以下、協同組合という)に加盟したタクシー業を営む会社であり、原告は被告に勤務するタクシー運転手である。右組合は空車情報を収集するAVMシステムを導入し、加盟会社によって登録された乗務員(AVM乗務員証を交付される)に対しチケット契約等の優良顧客を効率よく配車する体制をとっていた。被告は原告を平成元年九月から平成二年四月上旬までVIP車(右AVM機器を装着したデラックス車両)の乗務員として登録し、被告のVIP車の使用を認めていた(以下、VIP配車という。<証拠略>)。

2  被告は原告に対し、同二年四月九日、左記の事由により就業規則九二条七項(外部から指摘を受ける言動を行い、会社の信用を傷つけ、もしくは会社に損害を与えたとき)に基づき、同年四月一〇日から同月二三日まで一四日間の懲戒休職を命じ、社内にその旨を掲示し(以下、本件懲戒処分という)、同休職期間の翌日から原告に対するVIP配車を打ち切った(以下、格落ち配車という)。

「乗客の中澤正和(以下、中澤という)が同年二月一七日原告を殴打したことにつき中澤に事実を確認のうえ、中澤が原告に治療費等五万円を支払い示談が成立した。しかし、原告が中澤を運行する義務を中断・放置したことは乗車拒否、乗客扱の不適当に該当する(以下、本件懲戒事由という)」

二  主たる争点

1  原告

原告は、平成二年二月一七日、タクシーを運転中、何ら帰責事由がないのに乗客の中澤から左肩と側頭部付近を手拳で二回殴打された。しかも、原告が被告に右経過を連絡していたところ、中澤は自ら進んで降車したのである。右経過を総合して勘案すれば、被告は原告に対し、本件懲戒事由がないのに本件懲戒処分を行ったことになる。また、被告は原告に対し、同元年九月から同二年四月上旬までVIP配車を行っており、原、被告間にはVIP配車を行うとの合意が成立していたのに、被告は本件懲戒処分の一環として格落ち配車を行い、原告の利益を侵害したのである。

そうすると、本件懲戒処分及び格落ち配車は違法であるから、被告は原告に対し、左記の損害合計六二一万五三五〇円を賠償する義務がある。

(1) 休職損害(月給損害一六万七〇〇〇円、賞与損害四万八三五〇円)

ア 原告は本件懲戒処分がなければ、平成二年四月一〇日から同月二三日までに六平常乗務と一公休乗務ができた。原告の一乗務の平均売上は四万五〇〇〇円、給与は年功給を加算して売上の五二パーセント、公休業務では売上の六〇パーセントであるから、月給損害は一六万七〇〇〇円を下らない(計算式 四万五〇〇〇×〇・五二×六+四万五〇〇〇×〇・六)。

イ 被告は乗務員に対し、同年夏の賞与として同元年一一月二一日から同二年五月二〇日までの総売上に対する九パーセントと、加算金二万円(総売上三一二万円以上)を支給した。原告は従来賞与と共に二万円の加算金を受領してきたが、本件懲戒処分により売上が減少し加算金の右要件を満たさなかった。よって、原告の賞与損害は四万八三五〇円である(計算式 四万五〇〇〇×七×〇・〇九+二万)。

(2) 格落ち配車(五〇万円)

原告は格落ち配車により、月額五万円以上の損害を被っているから、同二年四月二四日から同三年二月二三日までの一〇か月間の損害は五〇万円を下らない。

(3) 慰謝料(五〇〇万円)

被告は、原告を退職に追込む目的で不当であることを知りながら、本件懲戒処分を社内に掲示し社内点検でも明言したのみならず、減収以外にも運転上その他の不利益を与え原告の名誉を侵害している。

(4) 弁護士費用(五〇万円)

2  被告

(1) 本件懲戒処分

原告は、平成元年一二月初旬乗客の言動に腹を立て、途中で降車させるという本件と同様の問題を起こし、当該客から被告に抗議がなされ、被告は陳謝せざるを得なかった。その際、原告が二度と同様のことを行わない旨を誓約したので、被告は同種事犯を行った場合には厳重に処分する旨を警告し、処分を保留にした(以下、本件処分保留事実という)。しかるに、原告は前記主張のような重大な暴行の事実はないのに、中澤に対する運行義務を遂行せず、これを途中の道路上に放置し、かつ、降車までの料金を請求しなかった。そこで、被告は原告に対し、接客不適切につき、始末書を提出するように指示したが、原告はこれを拒否し、反省の態度を示さなかった。また、原告の右接客不適切行動は被告の営業成績を大きく悪化させた。右経過に照らし、被告は懲戒委員会で原告の右行為を本件懲戒事由に該当すると判断したのであるから、本件懲戒処分は適法である。

(2) 格落ち配車

原告は配車指示を受けた時点で直ちに中澤の住所を確認しておくべきであるのにこれを怠り、中澤とのトラブルに至ったのである。したがって、今後も同種事件を引き起こし、AVM乗務員服務規定に反する虞があった。そこで、被告はVIP配車が原告との労働契約の内容になっておらず、被告の専権事項であることに照らし、原告のVIP配車を中止したのであるから、格落ち配車も適法である。

第三争点に対する判断

一  本件懲戒処分等に至る事実経過

争いのない事実等、(証拠略)を総合すれば、次の事実を認めることができる。

1  原告は、平成二年二月一七日午前一時頃、被告の当直責任者であった営業課長代理角尾義治(以下、角尾課長代理という)の指示で大阪市南区所在のバー・ソロの客中澤を自宅まで初めて送迎することになった。そこで、原告はソロに向かいながら無線で同僚に中澤宅までの道順を確認しようとしたが、詳細を聞く前にソロに到着したので、後で再確認することとし、中澤を乗車させて出発した。右中澤は後部座席で眠り始めたため、原告は運転しながら、前記同僚に対し、無線で中澤宅の道順を確認していたところ、中澤から「何をゴチャゴチャいっているのか。うるさくて眠れないやないか」等と叱責された。そこで、原告は、一旦無線を切って運転を継続し、阪奈道路に入るべく東大阪市石切町外環状線の陸橋を越えた付近にさしかかったところ、後部座席の中澤は「何処を走っとんのや」と言いながら、突然原告の左肩、左耳上付近側頭部を二回にわたり殴打した。右暴行により、原告は加療三日間を要する左肩打撲等の傷害(以下、本件傷害という)を負い、ハンドルをとられてジグザグ運転となり、危険を感じて急制動措置をとり路肩に停車した。

2  原告は、右中澤の暴行に憤りを覚えたものの、無線で角尾課長代理に殴打された旨を報告し、事後の処置を仰ごうとした。その間、中澤は荷物を持って降車したので、原告がその旨を角尾課長代理に告げたところ、同人から「客がいないのなら仕方ないから、営業を継続しなさい」と指示された。その際、原告は自車付近に停車した他社のタクシー運転手(原告に対しジグザグ運転や急制動措置を抗議した運転手)と話し込んでいる中澤の姿を認めた。しかし、原告は暴行を受けてまで中澤を乗車させる義務はなく、料金を請求すれば更に暴行を受ける可能性もあるので、被告営業部から請求してもらおうと考え、右請求を断念し、中澤を現場に放置したまま営業を継続した。

3  右経過を辿り、原告は、同日午後一時頃、被告営業所に帰社後、部長の中野秀夫に対して一部始終を報告した。中野部長は原告に対し、中澤を放置したことを非難し、暴行を受けたとすれば何故警察署に直ちに告訴しなかったのかを問い質した。これに対し、原告は「中澤が自ら降車した。暴行した者を乗車させる必要があるのか」等と反論したうえ、中澤がチケット契約の得意先であり、かつ、取締役兼総務部長小林悌二と知り合いなので、表沙汰にすると支障があると判断し、直ちに告訴手続をしなかった旨を説明した。また、原告は、中澤が原告に陳謝すべきであり、示談が不成立の場合は告訴する旨を述べた。これに対し、中野部長は中澤との交渉が決裂した場合に告訴すればよいこと、診断書をとり右旨を警察署に電話で届けておくべきこと等を促した。そこで、原告は、同日付で東住吉森本病院において本件傷害に関する診断書(診断名は加療約三日間を要する「顔面打撲、左肩打撲」)の交付を受けて中野部長に提出し、四条畷警察署に電話で暴行の事実を連絡した。

4  中野部長は同月二〇日中澤と交渉したところ、中澤は原告に対する傷害の事実を認め、治療費・慰謝料等として五万円を支払う旨の示談書に署名等したので、原告もこれを承諾した(原告は中澤から五万円の解決金の交付を受けたが、以後、同人は被告車両を利用しなくなった)。その際、原告は中野部長から乗客を放置したことについて始末書を書くように指示されたが、原告は自分が反省すべき点はないと考え、同日付で始末書を提出しない旨の上申書を提出した。これに対し、被告は、同年四月二日就業規則所定の懲戒委員会を開催し、原告の弁解を聞いたうえ、原告に対し、同月九日付で本件懲戒処分を行った。加えて、被告は本件懲戒処分を社内に掲示したり、点呼のときに改めて公表したうえ、本件懲戒処分による休職期間の翌日である同年四月二四日以降原告に対するVIP配車を中止し、普通車を配車するようになった。

二  本件懲戒処分と格落ち配車の違法性等

1  本件懲戒処分の違法性

前記一1認定の事実によれば、原告はタクシー運転手として特に落度がないにもかかわらず、乗客の中澤から運転走行中に故なく突然暴行され、ハンドルをとられる等の事故発生の危険のある状況に追込まれたうえ、本件傷害を負わされたのであるから、自ら一旦下車した中澤を現場に放置して運行サービスを継続しなかったことには正当な理由があるというべきである。このことは、大阪陸運局長通達が「暴行等の行為があったとき」等の乗客の公序良俗違反行為を乗車拒否の正当理由として認めている(<証拠略>)趣旨に照らしても是認することができる(被告は、原告の中澤に対する右対応が被告の営業成績を大きく悪化させた旨を主張する。しかし、前記の中澤が被告会社のタクシーを利用しなくなったことを原告の帰責事由に基づく損害ということはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない)。

右によれば、原告が中澤を現場に放置した行為は、実質的に就業規則九二条七項(「外部から指摘を受ける言動を行い、会社の信用を傷つけ、もしくは会社に損害を与えたとき」)に該当しないにもかかわらず、被告は原告に対し、本件懲戒処分を行ったことになるから、同処分は違法というべきである。そうすると、被告は原告に対し、同処分によって原告に生じた損害を賠償する責任がある。

2  格落ち配車の違法性

原告は被告の指名のもとに制度発足時から協同組合のVIP配車乗務員として登録され、平成元年九月から同二年四月上旬まで継続的にVIP配車を受けていたのであるから(<証拠略>)、原、被告間には、格別の事情(VIP配車適格性欠如等)のない限り、原告をVIP配車乗務員として扱うとの黙示の合意が成立していたと解するのが相当であるところ、右格別の事情を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、格落ち配車は右黙示の合意に反し違法であるのみならず、前記一4認定の事実によれば、格落ち配車は実質的に本件懲戒処分の一環としてなされたものと解するのが相当であるから、前記のとおり本件懲戒処分が違法である以上、格落ち配車も違法というべきである。

よって、被告は原告に対し、格落ち配車によって生じた損害を賠償する責任がある。

3  被告の主張について

(1) 被告は、<1>「原告には既に本件処分保留事実があった」として本件懲戒処分の適法性を、<2>「原告は配車指示を受けた時点で直ちに中澤の住所を確認しておくべきであるのにこれを怠り、中澤とのトラブルに至ったのであるから、今後も同種事件を引き起こし、AVM乗務員服務規定に反する虞があった。そこで、被告はVIP配車が原告との労働契約の内容になっておらず、被告の専権事項であることに照らし、原告のVIP配車を中止した」として格落ち配車の正当性を各主張する。

(2) しかし、<1>については本件懲戒処分の対象とならない非違行為をもって、本件懲戒処分の正当性を根拠付けることはできない(懲戒権の濫用が問題となる場合には濫用を減殺する事由となる余地はある)。<2>については、前記一1、2認定の事実に照らすと、原告の懈怠を肯定しうるかは疑問であるうえ、同懈怠があったとしてもこれと中澤とのトラブルとの間に相当因果関係を認めることはできないから、直ちに被告主張の服務規定に反する虞があるとはいえないし、格落ち配車が違法であることは前記説示のとおりである。よって、被告の右主張はいずれも採用しない。

三  損害(合計七〇万六八四四円)

1  休職損害(一七万四七八四円)

(1) 争いのない事実等、証拠(<証拠略>)、弁論の全趣旨を総合すると、被告では平常業務に対する給与の支給割合は売上の五一パーセントであり、原告は本件懲戒処分による休職期間中に六平常業務が可能であったところ、VIP配車を受けた平成元年九月から同二年四月九日までの間の営業成績は、合計八八乗務・売上三七八万三七二〇円(<1>前月の九月二一日から当月の一〇月二〇日までの稼働期間〔一〇月分という。以下、各月分の稼働期間も同様〕は一二乗務・金四六万五三〇〇円、<2>同年一一月分は一五乗務・金六二万七四五〇円、<3>同年一二月分は一四乗務・金六四万八六七〇円、<4>同二年一月分は一四乗務・金六一万三一〇〇円、<5>同年二月分は一二乗務・金五三万六二九〇円、<6>同年三月分は一四乗務・金五九万七〇四〇円、<7>同年四月分は七乗務・金二九万五八七〇円)であり、右期間の総売上三七八万三七二〇円を合計八八乗務で除すると、一乗務当たり四万二九九六円であることが認められる(計算式 三七八万三七二〇÷八八)。原告は一公休業務が可能であったと主張し、原告本人もその旨を供述するが、反対趣旨の証人小林悌二の供述に照らし措信できない。

右によれば、原告は休業により金一三万一五六七円の損害を被ったものと認められる(計算式 四万二九九六×〇・五一×六)。

(2) 証拠(<証拠略>)、弁論の全趣旨によれば、被告は従業員に対し、平成二年の夏の賞与として、同元年一一月二一日から同二年五月二〇日までの総売上に対する九パーセントの割合による金員と二万円の加算金(総売上三一二万円から三五〇万円までの場合)を支給してきたこと、従来、原告も加算金二万円の支給を受けてきたが、本件懲戒処分により右期間内の売上が三一二万円を下回ったために右加算金の支給を受けられなかったことが認められる。

右によれば、原告は右期間の賞与(前記認定の本件懲戒処分による売上の減少額〔計算式 四万二九九六×六〕の九パーセントである)二万三二一七円と加算金二万円の合計四万三二一七円の損害を被ったものと認められる。

2  格落ち配車による損害(二八万二〇六〇円)

前記一(1)認定のとおり、原告がVIP配車を受けた平成元年九月から同二年四月九日までの間の一乗務当たりの平均売上は四万二九九六円であるのに対し、証拠(<証拠略>)、弁論の全趣旨によれば、VIP配車停止直後の五月分から同年一二月分まで(休職処分後の同二年四月二四日から同年一二月二〇日まで)の原告の売上は合計九八乗務・売上合計三七七万五五三〇円、一乗務当たりの売上は三万八五二五円(計算式 三七七万五五三〇÷九八)であることが認められる(即ち、各月分の乗務回数と売上を調べてみると、<1>同年五月分は一二乗務・金四五万三八四〇円、<2>同年六月分は一二乗務・金四五万九〇〇〇円、<3>同年七月分は一二乗務・金四五万〇九一〇円、<4>同年八月分は一三乗務・金四八万四七三〇円、<5>同年九月分は一三乗務・金五〇万四八二〇円、<6>同年一〇月分は一一乗務・金四一万二〇一〇円、<7>同年一一月分は一三乗務・金四七万一八二〇円、<8>同年一二月分は一二乗務・金五三万八四〇〇円であるから、一乗務の売上は総売上三七七万五五三〇円を合計九八乗務で除することにより算定した)。また、前掲証拠によれば、原告が本件懲戒処分後、毎月二一日から二三日までの間に少なくとも一回以上乗務しており、五月分である同二年四月二一日から同月二三日までに、本件懲戒処分(四月二一日から同月二三日までは休職期間の一部)がなければ、少なくとも一乗務が可能であったと推認されるので、五月分から一二月分までの八か月間に九九乗務が可能であったと認められるから、月当たりの平均乗務回数は少なくとも約一二・三七回(計算式 九九÷八)を下らない。

右によれば、原告は、VIP配車を受けなくなった後、一乗務につき約四四七一円(計算式 四万二九九六―三万八五二五)の売上減があり、少なくとも一か月一二・三七回乗務について合計約五万五三〇六円(計算式 四四七一円×一二・三七)の売上減が生じたことが認められる(平成二年一二月二一日から同三年二月二三日までの各月分の売上減を直接算定する証拠資料はないが、弁論の全趣旨によれば、原告は右期間も従前どおり稼動していたものと認められるから、格別の事情のない限り、毎月右金額を下らない売上減が生じていると推認される)。

そうすると、原告の請求する平成二年四月二四日から同三年二月二三日までの一〇か月分の格落ち配車による売上の減少額は、金五五万三〇六〇円(計算式 五万五三〇六×一〇)であるということができ、前記のとおり五一パーセントが給与であるから、右期間の給与減少額は二八万二〇六〇円(計算式 五五万五三〇六×〇・五一)であると解するのが相当である。

もっとも、証拠(<証拠略>)によれば、原告は本件懲戒処分の直前である平成元年一二月から同二年四月九日までの間、VIP配車を受けていたにもかかわらず、会社平均の走行キロ収入(一キロの走行により取得する収入)を相当下回っており、本件懲戒処分後もほぼ同程度下回っていることが認められる。しかしながら、証拠(<証拠略>)によると、VIP配車はチケット契約を結んだ顧客(被告の総売上の二〇から二五パーセントに達する)を優先的に割り当てるものであり、一般的には走行距離の長い顧客を乗車させることが可能であること、平成元年一二月から本件懲戒処分前の同二年三月までの全乗務員の一乗務当たりの走行距離平均は約三〇五キロ、原告の同平均は約三一〇キロであり、原告は全乗務員平均を約五キロ上回っていたこと、本件懲戒処分後の同年四月から一二月までの全乗務員の同平均は約三一〇キロであるのに対し、原告の同平均は約二七六キロであり、原告は全乗務員平均を約三四キロも下回っていることが認められ、右事実を総合すれば、前記原告の売上減少額である約四四七一円は格別の事情のない限り、格落ち配車に起因すると推認すべきところ、右格別の事情を認めるに足りる証拠はない。

3  慰謝料(一〇万円)

本件懲戒処分等に至るまでの経過は前記一認定のとおりであり、被告は原告から顔面打撲・左肩打撲の傷害を負った旨の診断書の提出を受けており、中澤の暴行(傷害)の事実が明白であったにもかかわらず、大阪陸運局長通達の趣旨を無視して本件懲戒処分等を行い、かつ、本件懲戒処分を原告の同僚らに公表したのであるから、原告に対し、多大な精神的苦痛を与えたものというべきであり、これを慰謝するには金一〇万円が相当である。

なお、原告は、被告が原告を退職に追込む動機で不当を知りつつ本件懲戒処分等を行ったことを主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。また、原告は本件懲戒処分等によって減収以外に運転上その他の不利益がある旨を主張し、これに一部副う証拠(<証拠略>)もあるが、客観的裏付けを欠いており、直ちに採用することはできない。

4  弁護士費用(一五万円)

弁論の全趣旨によれば、弁護士である原告訴訟代理人に本訴の提起、追行を委任したことが明らかであり、本件事案の難易度、審理経過、本訴認容額等に照らすと、被告の行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は金一五万円であると認めるのが相当である。

三  よって、本訴請求は主文の限度で理由がある(訴状送達の日の翌日が平成二年六月七日であることは記録上明らかである)。

(裁判官 市村弘)

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