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大阪地方裁判所 平成2年(ワ)6952号 判決 1991年8月29日

本訴原告(反訴被告。以下、単に「原告」と表示する)

福井美佐子

福井章

福井敏夫

右三名訴訟代理人弁護士

谷口忠武

下谷靖子

豊田幸宏

本訴被告(反訴原告。以下、単に「被告」と表示する)

金田和子

右訴訟代理人弁護士

北村厳

竹川幸子

主文

一  原告三名と被告との間において、原告三名が別紙供託目録記載二の供託金につき各三分の一の還付請求権を有する事を確認する。

二  原告三名のその余の請求を棄却する。

三  原告三名と被告との間において、被告が別紙供託目録記載一の供託金につき還付請求権を有することを確認する。

四  被告のその余の請求を棄却する。

五  訴訟費用は、これを四三分し、その四二を原告三名の、その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第一請求の趣旨

一本訴

原告三名と被告との間において、原告三名が別紙供託目録記載一及び二の供託金につき各三分の一の還付請求権を有する事を確認する。

二反訴

原告三名と被告との間において、被告が別紙供託目録記載一及び二の供託金の還付請求権を有することを確認する。

第二事案の概要

一当事者間に争いのない事実

1  福井淳二(以下「淳二」という)は、建設省近畿地方建設局猪名川工事事務所に副所長として勤務する国家公務員であったが、在任中の昭和六三年一一月二二日に死亡し、国家公務員退職手当法第二条に基づき、その遺族に退職金二一〇五万〇三七〇円が、また、国家公務員等共済組合法に基づき、共済短期掛金還付金一万八二八三円、共済長期掛金還付金二万八八一一円、埋葬料四七万円、入院付加金五〇〇〇円及び一部負担金払戻金一万五七〇〇円が、それぞれ支払われることになった。

2  淳二には婚姻届出をした妻及び同人の子がなく、その死亡当時、実母の福井ミスノが生存していたが、同女も平成二年二月一五日死亡し、その子である原告三名が各三分の一の割合で相続した。

3  ところが、国及び建設省共済組合は、被告が婚姻の届出をしていないが淳二の死亡当時同人と事実上婚姻関係と同様の事情にあったとして右退職金等につき福井ミスノに優先して給付を受ける権利があると主張し、福井ミスノ及びその相続人である原告三名がそれを争っているので、過失なくして債権者を知り得ないとの理由で、国は別紙供託目録記載一の、また、建設省共済組合は別紙供託目録記載二の、各供託手続をした。

二法令

1  国家公務員退職手当法は、常時勤務に服することを要する国家公務員(以下「職員」という。)が死亡による退職した場合には、その遺族に退職手当を支給するとし(第二条一項)、その遺族の範囲及び退職手当を受ける順位について、第一順位を配偶者(届出をしていないが、職員の死亡当時事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。)、第二順位を子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で職員の死亡当時主としてその収入によって生計を維持していたもの、第三順位を右第二順位に上げる者の外、職員の死亡当時主としてその収入によって生計を維持していた親族、第四順位を子、父母、孫、祖父母及び兄弟姉妹で右第二順位に該当しないもの、と定めている(第一一条第一項、同条第二項)。

2  また、国家公務員等共済組合法は、共済短期掛金還付金及び共済長期掛金還付金(第一〇一条第五項)、入院付加金(第五二条、建設省共済組合定款)、一部負担金払戻金(第五五条第三項、付則第八条)は組合員に支払うものとし、また、組合員が公務によらないで死亡したときの埋葬料につき、その死亡の当時被扶養者であった者で埋葬を行うものに対し支給し(第六三条第一項)、右の埋葬料の支給を受けるべき者がない場合には、埋葬を行った者に対し支給する(同条第二項)として、右被扶養者につき、イ組合員の配偶者(届出をしていないが、職員の死亡当時事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。以下同じ。)、子、父母、孫、祖父母及び弟妹、ロ組合員と同一世帯に属する三親等以内の親族で右のイに揚げる者以外のもの、ハ組合員の配偶者で届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあるものの父母及び子並びに当該配偶者の死亡後におけるその父母及び子で、組合員と同一の世帯に属するもの、で主として組合員の収入により生計を維持するもの(第二条第一項第二号)、と定めている。

三本件の争点

本件の争点は、

1  退職手当について、被告が国家公務員退職手当法第一一条第一項にいう「届出をしていないが、職員の死亡当時事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」といえるか

2  国家公務員等共済組合法に基づく共済短期掛金還付金、共済長期掛金還付金、入院付加金及び一部負担金払戻金並びに埋葬料の受領権利者は被告か原告らの母福井ミスノかの点にある。

なお、右2の共済短期掛金還付金、共済長期掛金還付金、入院付加金及び一部負担金払戻金の点について、原告らは、淳二には国家公務員等共済組合法第四三条第一項一号の「配偶者及び子」がなかったから、同項二号により母である福井ミスノが支払を受けるべき権利者であると主張し、一方、被告は、被告が「届出をしていないが、職員の死亡当時事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」であるから、第四三条第一項一号の「配偶者」であると主張する。

また、右2の埋葬料の点について、原告らは、淳二には国家公務員等共済組合法第六三条第一項の「死亡当時被扶養者であったもので埋葬を行うもの」がなく、原告らが埋葬を行い、埋葬料を支払ったから、同条第二項により、原告らが支払いを受ける権利者であると主張し、被告は、被告が葬式の喪主となり、葬儀費用も淳二と被告の共有財産から支払ったのであるから、同条第二項により、被告が支払いを受ける権利者であると主張している。

第三争点に対する判断

一退職手当について(別紙供託目録記載一の還付請求権の帰属について)

被告本人尋問の結果、<書証番号略>並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。

1  淳二(昭和一〇年五月一〇日生)と被告(昭和一六年四月二八日生)は、昭和四七年二月、被告の勤務先の田辺市卸団地組合の理事長の仲人で見合いをし、交際を始めた。

2  当時、淳二は紀南国道工事事務所の用地課長の職にあり田辺市卸団地組合事務所の隣にあるアパートの二階に居住していたが、同年八月、兵庫国道工事事務所に管理課長として赴任することになり、その頃から、被告と肉体関係を持つに至った。

3  淳二は、昭和四九年三月まで兵庫国道工事事務所に勤務し、その間、西宮に間借りして住み、被告は従前どうり田辺市卸団地組合事務所に勤務して田辺市のアパートに住んでいたが、淳二と被告との交際は続いていた。

4 昭和四九年四月、淳二は猪名川工事事務所に用地課長として赴任し、阪急電車「石橋駅」の文化住宅の二階を住居として住み、一方、被告は淳二に請われるまま、同年一二月田辺市卸団地組合事務所を退職して、地下鉄「中津駅」近くのアパートの二階を借りて東京キャビネット株式会社大阪営業所に勤務し、双方の住まいに行き来する交際を続けていたが、昭和五一年春、淳二は持病の喘息がひどくなり、池田市民病院に六か月入院したのち、羽曳野病院に転院して約三か月入院し、その間、被告は看護に務めた。

5  昭和五二年初め頃、淳二は退院して京都国道工事事務所の用地官として復職して宇治市小倉に住み、翌五三年同市蔭山に転居した。そして、昭和五四年四月奈良国道工事事務所に用地官として赴任し、同年六月住居を同市南陵町に変えた。

6 淳二の退院後、被告は親や兄弟から婚姻届をしない淳二との交際を諦めるように言われ、悩んだ末に、暫く交際をやめていたが、昭和五四年一〇月二七日、被告が同年八月に購入して転居した肩書住所のマンションに淳二が祝い品をもって訪れてから交際が再び始まり、以前よりも親密度が増して、淳二が被告方に泊まることが多くなり、夫婦として宿泊旅行等をしたりするようになった。

なお、昭和五七年三月、被告の勤務先の東京キャビネット株式会社大阪営業所が閉鎖になり、被告は失業したが、同年七月に株式会社サンヨーに就職した。

7  淳二は、昭和五八年四月近畿地方建設局河川部水政課課長補佐に、昭和六一年一月には猪名川工事事務所の副所長に就任して、豊中市服部南町一丁目七番一二―四〇三号のマンションに転居した。そして、淳二と被告は、双方の住まいを行き来する生活を続け、夫婦としてツアー旅行に出掛けたりしていた。

8 昭和六三年一一月一二日の土曜日の夕方、被告は淳二のマンションに掃除に行き、淳二と一緒に被告のマンションに帰って淳二はそのまま泊まった。

被告は、翌日の日曜日に淳二の様子がおかしいので池田市民病院に連れてゆき、注射をしてもらって、薬を貰って被告のマンションに帰り、その夜も淳二は泊まったが、翌朝になっても体調がよくならないので、淳二は自分で職場に欠勤の電話をしてそのまま休んだが、容体は思わしくなく、その夜の一一時頃、被告が淳二を池田市民病院に連れていって点滴を受け、翌一五日は被告も会社を休んで池田市民病院に連れて行き、看病にあたった。しかし、翌一六日も淳二の容体は一向によくならないので、被告は会社を休み、淳二と池田市民病院に検査の結果を聞きに行ったところ、淳二は直ちに入院しなければならなくなり、医師から危険な状態にあると言われ、被告は淳二の看護にあたっていたが、回復の兆しはないため、淳二から実家には知らせるなと言われていたが、同月二〇日、被告は自分の判断で淳二の実家に電話で連絡をした。

被告から連絡を受け、病院に駆けつけた淳二の兄の原告福井章が淳二から被告を「和子や」と紹介されるまで、淳二の家族は淳二に被告がいることを知らなかった。

なお、淳二は、容体がよくならないまま、同月二二日午前零時五五分死亡した。

以上の事実が認められる。

右認定の事実関係よりすれば、被告は淳二といずれ正式に婚姻届出がなされることを前提として、夫婦と同様の認識をもって淳二との関係を継続していたものであり、両者の関係が右のとおり長期にわたって継続してきたことは、淳二が被告の認識と全く異なる認識で交際を継続してきたことを窺わせるに足りる的確な証拠もないので、淳二も被告と同様の認識で関係を持っていたものと認めるのが相当である。

そして、淳二と被告とは互いに別々の住まいを持っていたとはいえ、前記認定のとおり、互いに相手方のマンションに行き来して、特に淳二は被告のマンションに頻繁に寝泊まりして生活し、夫婦としての宿泊旅行もしており、また、前記認定の事実からすれば、身体的に虚弱な淳二は被告を精神的にも日常生活の上でも頼りにし、被告もこれに答えて生活していたものであり、淳二と被告との間には、精神的にも日常の生活においても相互に協力し合った一種の共同生活形態を形成していたものと認められるので、淳二と被告とは事実上夫婦と認めるのが相当である。

そうすると、別紙供託目録記載一の供託金の還付請求権は被告に帰属するということになる。

二共済短期掛金還付金、共済長期掛金還付金、入院付加金及び一部負担金払戻金並びに埋葬料の受領権利者について(別紙供託目録記載二の還付請求権の帰属について)

1  共済短期掛金還付金、共済長期掛金還付金、入院付加金及び一部負担金払戻金の受領権利者について

共済短期掛金還付金、及び共済長期掛金還付金は、国家公務員等共済組合法第一〇一条第五項に基づき、共済組合に組合員から払い込まれた掛金のうち、徴収を要しないこととなった掛金を当該組合員に還付されるものであり、入院付加金は、同法第五二条並びに建設省共済組合定款に基づき、当該組合員に給付されるものであり、また、一部負担金払戻金は、同法第五五条第三項、付則第八条に基づき、当該組合員に払戻されるものである。従って、組合員が死亡したときは、それらの還付等はその相続人になされるべきものであり、弔慰金・遺族共済年金等の遺族に支給される給付についてその順位を定めた国家公務員等共済組合法第四三条の適用はないと解すべきであるから、被告が同法第二条第一項第二号イ及び同項第三号による「届出をしていないが、事実上婚姻関係と同様の事情にあった者」として、右第四三条に定める第一順位の配偶者に該当するかどうかに関係なく、それらの還付等は淳二の相続人である母福井ミスノが相続により取得し、同人の死亡により、原告らがその三分の一の相続分に従って取得することになる。

2  埋葬料の支給について

国家公務員等共済組合法は、組合員が公務によらないで死亡したときの埋葬料につき、その死亡の当時被扶養者であった者で埋葬を行うものに支給し(第六三条第一項)、右の埋葬料の支給を受けるべき者がない場合には、埋葬を行った者に対し支給する(同条第二項)とし、同法第二条第一項第二号において、右の被扶養者につき、イ組合員の配偶者(届出をしていないが、職員の死亡当時事実上婚姻関係と同様の事情にあった者を含む。以下同じ。)、子、父母、孫、祖父母及び弟妹、ロ組合員と同一の世帯に属する三親等以内の親族で右のイに揚げる者以外のもの、ハ組合員の配偶者で届出をしていないが事実上婚姻関係と同様の事情にあるものの父母及び子並びに当該配偶者の死亡後におけるその父母及び子で、組合員と同一の世帯に属するもの、で主として組合員の収入により生計を維持するものと定めている。

ところで、淳二には右の被扶養者に該当する者はいなかったから、同法第六三条第二項により「埋葬を行った者」に支給されることになるが、右にいう「埋葬を行った者」とは、喪主かどうかを問わず、実際にその葬儀を行って埋葬に要した費用を負担した者をいうと解するのが相当である。

しかるところ、<書証番号略>並びに弁論の全趣旨によれば、淳二の葬儀に関する埋葬費用(埋火葬料、葬儀費用、葬儀のためのタクシー代、生花代等)の負担者は原告らであると認められるから、右埋葬料は原告らが等分して支給を受ける権利を有することになる。

被告は、右の費用は、淳二と被告の共有財産から支払われたものであると主張するが、被告本人尋問の結果によっても、それは淳二の固有財産から支払われたものであると認められるから、被告の右主張は採用できない。

3  そうすると、別紙供託目録記載二の供託金の還付請求権は各三分の一の割合で原告三名に帰属するということになる。

三結論

以上の次第であるから、別紙供託目録記載一の供託金の還付請求権は被告に、同目録記載二の供託金の還付請求権は各三分の一の割合で原告三名に帰属するものとし、訴訟費用につき、民訴法九二条本文を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官海保寛)

別紙供託目録

一 供託所 大阪法務局

供託番号 昭和六三年度金第五八四四号

供託者 国

被供託者 福井ミスノ又は金田和子

供託金額 二一〇五万〇三七〇円

供託年月日 平成元年三月二八日

二 供託所 大阪法務局

供託番号 平成二年度金第三七八一三号

供託者 建設省共済組合

被供託者 福井章・福井美佐子・福井敏夫持分三分の一又は金田和子

供託金額 五三万七七九四円

供託年月日 平成元年一一月二〇日

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