大阪地方裁判所 平成2年(行ウ)63号 判決
事実及び理由
第三 争点に対する判断
一 〔証拠略〕によれば、次の事実が認められる。
1 関西国際空港の建設に臨み、昭和六三年当時、泉南市では、空港対策室において、同空港に関連する事業への参画を検討していたが、同対策室は、同空港への泉佐野市からの連絡橋とは別ルートとして、泉南市からの連絡橋(通称「南ルート」)建設を計画に乗せようとの目的で、度々、運輸省、大阪府企業局、自治省、関西空港会社等との協議会を設けて、右建設計画に関する意見を聞いたり、右建設に向けて陳情する等していた。
そして、同対策室は、右協議に応じた関係機関担当者等に謝礼としてビール券を配布して本件報償費を支出し、右協議会に際して宴席を設ける等して本件食糧費を支出した。
泉南市当局においては、右各支出は泉南市の推進する関西国際空港関連事業参画のため必要で、かつ、社会通念上相当な範囲に属する支出と考えており、殊更右使途を秘匿してはいなかった。
2 泉南市では、原則として毎月、前月の現金出納について監査委員による監査が行われ、その監査結果は次の定例議会で報告されているが、右監査結果の報告は概括的なものであって、報償費及び食糧費の属する一般会計の支出については、前月末計、本月分、累計の各総額が掲記されているにすぎなかった。
昭和六三年度の報償費及び食糧費の各支出は、同年度の決算書において前記各合計額が掲記された。ただ、その詳細については、右報償費の全額が関係機関への謝礼としての支出であることのほかは明らかにされていなかったが、これは、泉南市の予算において、空港対策室に割り当てられる予算である空港対策費は「目」、報償費はその中の「節」、食糧費は空港対策費中の「節」である需要費のさらに下位項目の費用とされていたところ、本来市議会の議決を必要とするのは「款」、「項」についてまでであって、「目」以下についてはこれを必要とせず、通例その使途や明細までは明らかにされていなかったためであり、これも、右使途や明細を秘匿する意図によるものではなかった。
そして、右昭和六三年度決算は、平成元年一二月定例本会議において決算審査特別委員会による継続審議に付され、右付託により平成二年一月二三日から決算審査特別委員会が開かれ、同日、同委員会の審議において、本件報償費及び本件食糧費の使途が前記1のようなものであることが明らかになった。
3 原告小山は、昭和六三年一〇月に泉南市議会議員に当選後、同年一一月から平成三年一月まで泉南市議会の空港対策特別委員会の委員を努め、その間、同市の空港対策に関する資料を入手したり、空港対策室に業務状況を聴取したりすることのできる立場にあったが、本件報償費及び本件食糧費に関する情報には接しないまま平成二年一月二三日に至り、同日の前記決算特別委員会の審議を傍聴していて、初めて本件報償費及び本件食糧費の使途の概要を知った。
そして、原告小山は、右各支出を違法、不当と考えたが、議員活動を通じてこれを是正しようと考え、同月二七日右各支出について記載したビラを街頭で配布し、同年三月一三日、同年第一回定例本会議の昭和六三年度決算の審議において、右支出の使途、明細等をより具体的に明らかにするよう求めたが、右要求は容れられないまま、平成二年三月一四日、右決算は承認された。
原告小山は、同日議会終了後、同人の選挙を応援し、大阪国際空港建設の反対運動も共にしていた原告阿部、騒音問題で相談を受けたことから交際のあった同柳川に右本件報償費及び本件食糧費の問題を話し、同年四月七日、原告阿部外一名とともに、泉南市の表谷助役、谷秘書課長及び加治屋空港対策室長と面会して、右各支出の使途、明細等をより具体的に明らかにするよう求めたが、表谷助役らはこれに応じなかった。
そこで、原告小山は、本件報償費及び本件食糧費につき監査請求をすることを決意し、豊田市で監査請求をしたことのある市議会議員にその方法を聞いたり、ビール券を送られたり宴席の接待を受けたりしたとされる機関に事実の有無を電話照会する等して準備し、その間、同月末ころ原告阿部、同柳川外一名に誘いかけて、一緒に監査請求をすることに話がまとまり、前記のとおり同年五月一七日に本件監査請求を行った。
二 以上の事実に基づき検討するに、まず、本件報償費及び本件食糧費の支出は、通常の予算執行としてなされているものであり、その使途も殊更隠蔽されていた訳ではなく、右各支出行為に財務会計上の正規な手続に反するところは認められず、これが秘密裡になされたものということはできない。
しかも、右各支出の存在は、前記月例監査結果報告からは明らかでないにしても、昭和六三年度の決算書には明記されており、遅くとも右決算が継続審議に付された平成元年一二月の泉南市定例本会議の段階では、既に同市議会においてこれを検討し得る状態に置かれているものということができる。しかるところ、原告小山は、泉南市の市議会議員であるというだけでなく、昭和六三年一一月からは、空港対策特別委員の地位にあり、同市の空港対策事業に関する調査を容易になし得る立場にあったのであるから、昭和六三年度決算が本会議に上程されて同年度の報償費及び食糧費の各支出が明らかにされた後は、十分にその使途を知る機会があったものということができ、平成二年一月二三日の前記決算審査特別委員会の審議を傍聴するまで本件報償費及び本件食糧費の使途を知らなかったのは、たまたまその情報に接しなかったためというにすぎない。
さらに、原告小山は、本件報償費及び本件食糧費の使途を知った平成二年一月二三日から四か月弱の期間が経過した同年五月一七日に至り、ようやく本件監査請求を行っているのであるが、監査請求は、地方自治法二四二条一項によりその対象となる事実を証する書面を添付すべきこととされているものの、これはそれ程厳密なものでなくとも足り、このほかには、同法施行令一七二条に一〇〇〇字以内で要旨を記載した文書をもって請求することが定められているにすぎないことからすれば、右期間は監査請求をなすべき相当な期間を超えるものというべきである。なお、原告小山は、本件報償費及び本件食糧費の使途を知った後、まず議員活動を通じてこれを是正しようと、街頭でビラを配布し、定例本会議で質問し、また、泉南市の表谷助役らと交渉しているのであるが、これらの行動は、本件報償費及び本件食糧費の違法、不当性の追及という点で目的を同じくするものではあるにしても、同法二四二条一項により普通地方公共団体の住民たる地位に基づいて行う監査請求とはかかわりなくなし得るものであって、右監査請求の遅延を正当化する理由とみることはできない。
また、原告阿部及び同柳川についても、本件報償費及び本件食糧費の問題について聞かされたのは平成二年三月一四日の直後のころであるが、前記原告阿部及び同柳川の同小山との関係や本件監査請求に至る経緯からすれば、原告小山が本件報償費及び本件食糧費の使途を知った同年一月二三日には同阿部及び同柳川もこれを知ることができたものと解され、右原告二名の本件監査請求も、前同様、相当な期間経過後になされたものというべきである。
これらの諸点からすれば、本件監査請求が本件報償費及び本件食糧費の各支出行為のあった日から一年を経過した後になされていることについては、地方自治法二四二条二項ただし書に定める正当な理由を認める余地はないといわざるを得ない。
三 なお、本件監査請求に対し、泉南市監査委員は、前記のとおり本件食糧費金九七万〇二六九円のうち金一二万二五四〇円については監査請求を却下しておらず、〔証拠略〕によれば、これは、本件食糧費のうち、平成元年一月以降の支出分については、その使途を知り得た日から相当な期間内になされたものであって、請求期間の徒過につき正当な理由があるとの判断によるものと認められる。しかしながら、前記認定の本件食糧費支出の態様・目的や、右使途の明らかになった経緯、本件監査請求の経緯等を考えれば、右支出は一連のものとしてとらえるのが相当であって、右平成元年一月以降の支出分についてのみ区別して考える合理的理由はなく、本件食糧費の支出についての監査請求の期間徒過は、全体として地方自治法二四二条ただし書に定める正当な理由がないものといわざるを得ない。
第四 結論
以上のとおりであるから、本訴請求は、全部につき適法な監査請求を経ていない不適法なものというべきである。
(裁判長裁判官 福富昌昭 裁判官 川添利賢 大藪和男)