大阪地方裁判所 平成20年(む)1209号 決定 2008年9月26日
主文
検察官に対し,被告人が大阪府A警察署に身柄拘束中の留置施設からの出入時間が記載されている簿冊類(平成20年5月3日から同月4日までの留置人出入簿の内,被告人関係の記載のあるもの。)の開示を命じる。
理由
第1当事者の主張
弁護人は,平成20年9月1日付裁定請求書,同年8月11日付主張関連証拠開示請求書に記載のとおり主張し,検察官は,本件開示請求証拠は,捜査の過程で作成された書類には該当しないので,裁定請求は理由がない旨主張する。
第2当裁判所の判断
本件は,傷害,覚せい剤取締法違反の事案であるところ,弁護人は,傷害の事実を否認し,覚せい剤事件については,傷害事件の取調べ中の5月3日に警察官から暴行を受け,畏怖して5月4日に尿を提出したもので,採尿手続きは違法で,得られた証拠は違法収集証拠で証拠能力がない旨主張する。そして,弁護人は,「5月3日の取調べが午後2時ころまで行われ,その中で被告人に対して暴行が加えられたことを立証する予定である。これに対して,検察官が開示した当日の取調べ状況報告書には,取調べ時間について「午前11時33分~午前11時50分」と記載されており,警察官はわずかな時間しかなく暴行などできなかったと抗弁することが予想される。そのため,留置人出入簿を検討して,事件当日の取調べの終了時間がいつであったのかを明らかにする必要がある。警察官の暴行の有無は,尿の鑑定書の証拠能力を左右する事実であるから,被告人の防御にとって重要である。」旨主張する。
以上によれば,本件において,開示請求されている留置人出入簿は,弁護人の主張との関連性及び開示の必要性があると認められる。また,開示することによる弊害は特に窺われない。
ところで,証拠開示命令の対象となる証拠は,必ずしも検察官が現に保管している証拠に限られず,基本的には,当該事件の捜査の過程で作成され,又は入手した書面等であって,公務員が職務上現に保管し,かつ,検察官において入手が容易なものは含まれる(最高裁平成19年12月25日決定)。
本件において,留置人出入簿は,公務員が職務上現に保管し,検察官において入手が容易なものであるとみられる。
なお,検察官は,警察署における捜査と留置の分離は徹底されているので,留置人出入簿は,捜査の過程で作成された書類には該当せず,開示の対象にならない旨主張する。しかし,留置人出入簿は,被告人の身体拘束という捜査に関連して作成された書面である(被告人が本件捜査のために身柄拘束されなければ,留置人出入簿が作成されることはない。)ことは明らかであり,「当該事件の捜査の過程で作成された」ものに準じた性格を有するもので,弁護人の主張との関連性,開示の必要性が認められ(検察官主張のように,警察署における捜査と留置の分離が徹底されているのであれば,捜査と関係なく中立的に作成され,証拠としての価値は高くなるともみられる。),被告人記載部分に限定すれば,開示の弊害も認められないから,開示の対象になると解される。なお,弁護人は,対象期間について主張していないが,弁護人主張内容に照らすと,5月3日から同月4日までの期間で足りると解される。
よって,主文のとおり決定する。
(裁判官 横田信之)