大阪地方裁判所 平成20年(む)1591号 決定 2008年12月04日
主文
本件裁定請求を棄却する。
理由
1 裁定請求の趣旨及び理由並びに弁護人の予定主張
(1) 裁定請求の趣旨及び理由
本件裁定請求の趣旨及び理由は,主任弁護人A及び弁護人B作成の平成20年11月18日付け裁定請求書記載のとおりであるが,要するに,弁護人が同年9月2日付けで主張関連証拠開示請求をなした,被告人の供述内容が記載された警察官の聴き取りメモ,備忘録(以下これらを総称して「取調べメモ等」という。)及び捜査報告書等並びにこれらの内容を記録した電子メール,メモ等は,弁護人が公判で予定している後記主張と関連性を有し,その主張を証明するために必要不可欠であるから開示の必要性も認められるので,検察官に対しこれらを開示するように命ずることを求めるというものである。
(2) 弁護人の予定主張
証拠開示の前提となる弁護人の予定主張は,平成20年9月2日付け予定主張記載書面,同月16日付け予定主張記載書面,同年10月6日付け予定主張記載書面,同月20日付け予定主張記載書面(回答書),同年11月6日付け予定主張記載書面及び同月27日付け予定主張記載書面(平成20年11月20日付け求釈明に対する回答書)各記載のとおりであり,その概要は,被告人は,取調べ時に自暴自棄になっており,被告人の記憶とは違う内容を取調官から押し付けられるまま調書に録取されたのであるから,検察官が証拠請求した被告人の供述調書の一部(乙12ないし23,27,28,32,33)は任意性を欠くというものである。
2 検察官の主張
これに対する検察官の主張は,検察官C作成の平成20年11月27日付け意見書(同月11日付けの大阪府警察本部に対する電話聴取書が添付されている。)記載のとおりであるが,要するに,弁護人が開示を請求している上記各証拠のうち,取調べメモ等について,現実に作成されたものについては既に廃棄又はデータ消去されており,そのほか捜査報告書等については,これらの証拠が作成されたことはないので,結局いずれも物理的に存在しないというものである。
3 当裁判所の判断
(1) 本件開示請求に係る上記各証拠と弁護人の上記予定主張との関連性,開示の必要性等,刑事訴訟法316条の20第1項所定の要件を充足するかどうかの点はさておき,検察官は,弁護人が開示を求める証拠は物理的に存在しないと主張しているので,この点について検討することとする。
(2) 取調べメモ等(これらに関する電子データを含む)について
一般に,被疑者に対する取調べの経過等を記載した備忘録(いわゆる取調べメモ)については,犯罪捜査規範13条に基づき,取調べ警察官が作成することを義務づけられているものであるが,その趣旨は,主として取調べメモが将来の公判で警察官が証言をする際の記憶喚起に資するという点にあると解される。ところで,弁護人の予定主張を前提とした場合,被告人が自己の記憶に反する供述をしたのは,結局のところ取調べ時における被告人の精神状態に起因するところが大きいのであり,警察官において,将来被告人の供述調書についてその任意性が争われるような事態を想定しうるような外形的あるいは客観的状況はなく,被告人の供述録取書を作成後,被告人の供述内容をメモした書面を用済みとして廃棄したとする警察官らの回答は,その適否は別論としても,不自然不合理なものとはいえない。
また,被告人の供述内容を入力した電子データについては,上記の点に加え,電子データを保存しておくことによるデータ流出の危険防止という観点に照らしても,当該供述内容を録取した供述調書作成後に消去したことが不自然不合理なものとは言い難い。
(3) 捜査報告書等について
弁護人の予定主張を前提としても,警察官があえて被告人の取調べ状況について証拠化を検討したり,実際に証拠化する必要があったような状況はうかがえない。したがって,これらの捜査報告書等又はその電子データが作成されなかったとする検察官の主張に不自然不合理な点は見受けられない。
(4) 結論
以上のとおり,本件開示請求に係る証拠は,そもそも作成されていないか,作成されていたとしても既に廃棄又はデータ消去されているというのであり,結局物理的に存在しないことに帰するから,その余の点について判断するまでもなく,本件裁定請求を棄却するのが相当であると判断した。
よって,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 並木正男 裁判官 本村曉宏 裁判官 安原和臣)