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大阪地方裁判所 平成20年(む)240号 決定 2008年3月31日

主文

検察官に対し,弁護人が別紙記載の証拠物を謄写する機会を与えることを命ずる。

理由

第1当事者の主張等

1  申立ての趣旨及び理由

弁護人らは,検察官に対し,平成20年1月30日付けで主張関連証拠開示を行ったところ,検察官は,同年2月14日付けの「証拠開示請求に対する回答書(3)」及び同月18日付けの「証拠開示請求に対する回答書(4)」で,別紙記載の各証拠物(以下,「本件証拠物」という。)について,閲覧の方法に限って開示する旨の回答をした。しかしながら,証拠開示については閲覧のみならず謄写を認めることが原則であることに加え,充実した弁護活動を行うためには,本件証拠物に記録された被告人撮影の写真の量に照らしても,弁護人らにおいてこれを謄写し,弁護人らの執務室において,被告人にも確認をさせながら,十分な時間をかけて検討することが必要不可欠である。また,本件証拠物に記録された写真の中には裸体や陰部が撮影された写真も含まれるが,弁護人らは,弁護士倫理と刑訴法281条の3ないし5の規定により,一般的に個人情報を外部に流出させない義務を負っており,これによって,情報流出の防止が図られていることに加え,本件証拠物を謄写したとしても,弁護人らの法律事務所においては,執務に使用するパーソナルコンピュータにウィニー等のファイル交換ソフトはインストールしておらず,セキュリティ態勢も十分に取られている。さらに,弁護人らとしては,インターネット環境から切断されたパーソナルコンピュータで本件証拠物の再生することを確約しているのであるから,謄写が許された場合においても,その情報が外部に流出する危険性はない。したがって,証拠開示に当たり,検察官が付した閲覧の方法のみによる旨の指定を取り消すとの決定を求める。

2  検察官の主張

これに対し,検察官は,本件証拠物と弁護人らの主張との関連性が極めて低い一方,本件証拠物の謄写を認めた場合には,弁護人らの意図しないところでデータが流出する危険性があり,そのような事態に立ち至れば,本件証拠物に記録された被写体の女性のプライバシーや名誉に回復しがたい重大かつ深刻なダメージを与える。検察官においては,検察事務官の立会いを付することなく,他から遮断された個室で,原則として回数,時間の制限もなく閲覧ができるよう便宜を図る予定であるから,謄写を認める必要性もない。したがって,本件証拠物の開示の方法を閲覧に限ると指定したことは相当である。

第2当裁判所の判断

1  本件証拠物のうち,別紙番号1ないし7は,いずれも被告人方で行われた捜索により差し押さえられた証拠物であり,また,別紙番号8は,上記の捜索で差し押さえられたノート型パーソナルコンピュータに記録されていた画像データをDVD―Rにコピーしたものであって,いずれも,被告人が撮影した写真が記録されているもの,あるいは,その写真そのものとして検察官により閲覧の方法によって開示された証拠物である。

2  ところで,弁護人らは,「弁護人らの予定主張(その1)」と題する書面及び「弁護人らの予定主張(その2)」と題する書面で,被告人が,本件以前においても,しばしばイベント等で知り合った女性の写真を撮影し,その同意があれば,いわゆるヌード撮影にまで発展することもあったが,このような撮影は,あくまでも被写体となる女性の同意を求めながらのものであって,強制を伴うことはなかったと主張し,平成20年1月30日付けの「主張関連証拠開示請求」と題する書面においては,上記と同様の主張をした上で,この事実を立証することは,本件においても,被告人から被害者に対し,暴行や脅迫がなされなかったことを裏付けるものであると主張している。そして,本件以前において,被告人が被害者以外の女性の裸体を含む写真を撮影していたのか,その際,強制を伴っていたのか否かという点は,撮影された写真を検討することによっても判断し得る。そうすると,被告人が本件以前に撮影した女性の写真,あるいはそれが記録されている本件証拠物は,弁護人らの上記主張と関連するものといえる。また,期日間整理手続で検察官,弁護人らの双方から提出されている証明予定事実記載書面,予定主張記載書面によると,本件での具体的な争点は,被告人の暴行,脅迫の有無,わいせつ行為の有無及びその態様,被害者の同意の有無,被告人の故意の有無に帰するものと考えられるところ,弁護人らの上記主張は,直接的に本件写真撮影時における被告人の暴行脅迫の有無,あるいは,被告人の故意の有無を推知させるような事実とはいえないものの,他の事情と相まって間接的にこれを推知し得る事情の一つにはなり得るから,開示の必要性も一応肯定できる。

3  そこで,開示の方法について検討すると,確かに,本件証拠物には,本件とは無関係の女性の写真が多数含まれており,その中には,陰部等を露出したものもあるというのであるから,被写体となった女性のプライバシー保護を指摘する検察官の意見はもっともである。しかし他方,弁護人らは,弁護士倫理に加え,刑訴法281条の3ないし5の規定により,一般的に個人情報を外部に流出させない義務を負っている。加えて,本件では,弁護人らにおいて,電子データについては,インターネット環境からは切断されたパーソナルコンピュータを利用して再生作業を行う旨を確約しているのである。なるほど,検察官においても,本件では,個室を確保し,検察事務官の立会いなく,原則として時間,回数の制限もなく閲覧できるよう便宜を図る旨約束しているところであり,その意味では,謄写を認める必要性も相対的に低くなるとはいえ,本件証拠物に含まれる写真は多数枚に上り,また,記録された写真データは,別紙番号8についてだけみても1万4000画像を超えるというのである。そうすると,弁護人らにおいて,いちいち検察庁に出向くのではなく,弁護人らの執務環境において,被告人を交えながら検討する必要性も高いといえる。加えて,本件証拠物は,いずれも被告人方から押収された証拠物,あるいは,その証拠物のデータをコピーした証拠物であるところ,いずれの証拠物も,捜査機関に押収されなければ,被告人において,自己の防御活動に自由に利用できる証拠物だったのであり,押収物の還付,仮還付の活用を求める刑訴規則178条の11の趣旨に照らしても,弁護人らにおいて,本件証拠物を閲覧するだけでなく,これを謄写し,手元において検討する機会を与えることが相当である。

4  なお,弁護人らに,謄写の方法による開示を認める場合においても,その写真や画像データの流出防止のための条件を付することも考えられるが,本件においては,弁護人ら自らインターネット環境からは切断されたパーソナルコンピュータでの画像データの再生を約束しており,また,弁護人らの使用するパーソナルコンピュータには,ウィニー等のファイル交換ソフトもインストールしていないというのであるから,本件に関していえば,特段の条件を付する必要性もないといえる。

また,弁護人らは,検察官が付した閲覧の方法のみによる旨の指定を取り消すとの決定を求めているが,その趣旨とするところは,謄写の機会が与えられることを求めていることにほかならない。そして,前記のとおり,弁護人らに対しては謄写の機会を与えることが相当であるから,刑訴法316条の28第2項,316条の26第1項により,主文のとおり決定する。

(裁判官 宮崎英一)

別紙

1 MOディスク5個(平成19年領第9650号符号4ないし8)

2 写真(女性の容姿等を撮影したもの)444枚(同領号符号9)

3 DVD―R3枚(同領号符号10ないし12)

4 CD―RW2枚(同領号符号13,14)

5 写真ホルダー14冊(同領号符号16ないし18,20ないし30)

6 青色ビニールケース内在中に写真ホルダー9冊及び写真1束(同領号符号55の2ないし11)

7 クリアホルダー1冊(同領号符号57)

8 DVD―R8枚(同領号符号1の1ないし8)

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