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大阪地方裁判所 平成20年(わ)1184号 判決 2008年7月03日

主文

被告人を懲役2年に処する。

この裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予する。

被告人から金100万円を追徴する。

理由

【罪となるべき事実】

被告人は,平成15年4月1日から平成17年7月1日までの間,A局国営B公園事務所長として,同公園の整備及び維持その他の管理の事務を所掌し,同公園が発注する「C地区法面補強工事」,「C地区法面防災工事」の各請負契約に関する事務等を分掌し,同各契約の予定価格の決定等の職務に従事していたものであるが,下記第1ないし第3の行為を行った。

第1(平成20年3月31日付起訴状の公訴事実第1)

上記「C地区法面補強工事」の指名競争入札に関し,平成16年12月9日ころ,奈良県高市郡a村bにあるA局国営B公園事務所において,同入札の指名入札業者である株式会社Dの代表取締役であったEの求めに応じ,自己が職務上知り得た秘密である同工事の入札書比較価格(予定価格から消費税額を差し引いた金額)が約4000万円となることをEに内密に知らせて職務上不正な行為をした。そして,これに対する謝礼の趣旨であることを知りながら,同年12月16日ころ,同事務所の所長室において,Eから現金50万円の賄賂を受け取った。

第2(平成20年3月10日付起訴状の訴因変更後の公訴事実)

E及びF局国営G公園事務所長であったHと共謀の上,上記「C地区法面防災工事」の指名競争入札に関し,その入札書比較価格をEに教えて同工事をDに高値で落札させようと企て,平成17年6月下旬ころ,第1記載の事務所において,被告人が,奈良県高市郡c町d番地にあるD事務所のEに対し,電話で,同工事の入札書比較価格が5200万円をわずかに上回る金額となることを内密に知らせた。これにより,同年7月7日から8日にかけて執行された同工事の入札の際,Eの指示によりD従業員が上記入札書比較価格に近接する5200万円で入札して同工事を落札した。

第3(平成20年3月31日付起訴状の公訴事実第2の1)

上記「C地区法面防災工事」の指名競争入札に関し,第2記載のとおり,平成17年6月下旬ころ,同入札の指名入札業者であるDの代表取締役であったEの求めに応じ,自己が職務上知り得た秘密である同工事の入札書比較価格をEに内密に知らせて職務上不正な行為をした。そして,これに対する謝礼の趣旨であることを知りながら,そのころ,第1記載の事務所の通用口付近において,Eから現金50万円の賄賂を受け取った。

【証拠の標目】

(略)

【法令の適用】

1  第1の行為は刑法197条の3第2項,1項(ただし,刑の長期は,行為時においては平成16年法律第156号による改正前の刑法12条1項に,裁判時においてはその改正後の刑法12条1項によることになるが,これは犯罪後の法令によって刑の変更があったときに当たるから,刑法6条,10条により軽い行為時法の刑による。)に該当する(1年以上15年以下の懲役)。

第2の行為は刑法60条,96条の3第1項に該当する(1月以上2年以下の懲役又は1万円以上250万円以下の罰金)。

第3の行為は刑法197条の3第2項,1項に該当する(1年以上20年以下の懲役)。

2  第2の罪については,定められた刑の中から懲役刑を選択する。

3  以上は刑法45条前段の併合罪であるから,同法47条本文,10条により最も重い第3の罪の刑に法定の加重をすることとする。ただし,第1の罪は平成16年法律第156号の施行前に犯したものであり,第2及び第3の各罪は同法の施行後に犯したものであるところ,これらの罪のうち同法の施行後に犯したもののみについて同法による改正後の刑法14条の規定を適用して処断することとした場合の刑が,これらの罪のすべてについてその改正前の刑法14条の規定を適用して処断することとした場合の刑より重い刑となるときであるから,平成16年法律第156号附則4条ただし書によりその改正後の刑法14条2項,47条ただし書の制限内で法定の加重を行う。

そして,これにより導き出された刑期(1年以上22年以下の懲役)の範囲内で,被告人を懲役2年に処することとする。その理由は後記【量刑の理由】のとおりである。

4  ただし,後記【量刑の理由】に記載したとおり被告人に有利に考慮すべき事情もあるので,情状により,刑法25条1項を適用してこの裁判確定の日から4年間その刑の執行を猶予することとする。

5  被告人が第1及び第3の犯行により受け取った賄賂はいずれも没収することができないので,刑法197条の5後段によりその合計価額金100万円を被告人から追徴することとする。

【量刑の理由】

1  事案の概要

本件は,国営B公園事務所長をしていた被告人が,公園事務所の発注する公共工事の入札に際して,指名入札業者に入札書比較価格を内密に知らせて,その謝礼として賄賂を受け取るなどした事案である。

2  量刑上特に考慮した事情

(1)  被告人に不利な事情

ア 加重収賄について

(ア) 被告人は,安易に業者の提供した賄賂を受け取っており,その動機に同情すべき点はない。

(イ) 被告人は,入札を実施する公園事務所の所長の地位にありながら,指名入札業者から,2回賄賂を受け取っており,その合計額は100万円と多額に上る。しかも,その賄賂は,いずれも被告人が機密事項である入札書比較価格を指名入札業者に内密に知らせるという職務上不正な行為をしたことの謝礼として受け取ったものである。公務の適正な遂行が賄賂によって現実にゆがめられており,公務に対する国民の信頼を著しく損なったものというほかない。

イ 競売入札妨害について

(ア) 被告人は,国土交通省のいわゆる造園職キャリアで先輩に当たる共犯者から働きかけを受け,今後の同省内での保身等のために犯行に及んでいるが,その身勝手な動機に同情すべき点はない。

(イ) 入札を実施する公園事務所の所長の地位にあった被告人が,特定の指名入札業者に入札書比較価格を内密に知らせた結果,同業者が5207万円の入札書比較価格に対し5200万円という極めて近接した価格での落札に成功し,これにより約550万円の利益を得た。このように,公正な競争を目的とする入札が現実に妨害された。

(ウ) 入札書比較価格を事前に知る被告人は本件犯行に不可欠であって,共犯者間で重要な役割を果たしている。

ウ 小括

以上によれば,被告人の刑事責任は重いと言わなければならない。

(2)  被告人に有利な事情

ア 被告人が受け取った賄賂は,いずれも業者が一方的に渡してきたものであって,被告人が積極的に要求したものではない。

イ 被告人は,入札書比較価格を知らせてほしいという業者の求めをいったんは断っており,先輩からの働きかけを受けて結局はこれに応じているものの,関与の態様は消極的である。

ウ 被告人は事実関係をすべて認めているほか,国土交通大臣に対し,自ら退職手当を辞退した上で辞職することを願い出た上,100万円の贖罪寄付をするなどして,反省の度合いを深めている。その上で,再び社会に役に立つ人間になりたいと述べ,今後の更生を誓っている。

エ 被告人は,既に免職の懲戒処分を受けており,一定の社会的制裁を受けたといえる。

オ 被告人には前科がない。

カ 被告人の母親が,被告人を指導監督していくと証言している。

キ 以上のとおり,被告人にとって有利に考慮すべき事情も多数指摘できる。

3  結論

よって,これらの諸事情を総合的に考慮すれば,被告人に対しては,今回に限り,社会内で更生する機会を与えるのが相当であるから,主文の刑を量定した上,その刑の執行を猶予することとした。

(求刑 懲役2年,主文と同様の追徴)

(裁判長裁判官 長井秀典 裁判官 今井輝幸 裁判官 渡邉一昭)

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