大阪地方裁判所 平成20年(ワ)10496号 判決 2008年11月25日
主文
一 原告の請求(反訴請求)をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求(反訴請求)
被告は、原告に対し、金五八万二二九〇円及びこれに対する平成二〇年三月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二当事者の主張
一 請求原因
(1) 自動車共済契約の締結
原告は、被告との間において、原告所有自動車(オペルオメガ・登録番号《省略》。以下「本件車両」という。)に関して次の内容を含む自動車共済契約(以下「本件共済契約」という。)を締結していた。
ア 共済の種類・契約番号 自動車共済・《省略》
イ 契約期間 平成一九年五月から平成二〇年四月まで
ウ 車両共済金額 一〇〇万円
エ 車両自己負担額 一〇万円
(2) 車両事故の発生
ア 原告は、平成一九年六月二日午前三時ころ、大阪市中央区東心斎橋二丁目のいわゆるヨーロッパ通り付近の路上において、本件車両に乗って信号待ちをしていたところ、四、五名の男性に取り囲まれ、ボンネットやドア等を蹴られたり叩かれたり何かで引っ掻いたりされて、本件車両に傷をつけられた(以下「六月二日の事故」という。)。
イ さらに、原告は、同年八月四日午前二時二六分ころ、大阪府守口市京阪本通二―四―五付近路上において、本件車両を徐行させていたところ、一名の男性から助手席ドア付近を蹴られ、本件車両が損傷した(以下「八月四日の事故」という。)。
(3) 原告の請求する共済金の額
ア 本件車両の修理費用は、八〇万七四五〇円である。
イ そこで、原告は、上記修理費用相当額(八〇万七四五〇円)から自己負担額一〇万円を控除し、さらに共済掛金未納分(一年分で合計一二万五一六〇円)を相殺した上、通信費用(切手代)四八〇〇円を加算した五八万七〇九〇円を本件共済契約に基づいて被告に請求するものである。
(4) よって、原告は、被告に対し、本件共済契約に基づいて、上記共済金五八万七〇九〇円及びこれに対する平成二〇年三月二五日(被告が本件車両の損害を確認した日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
(1) 請求原因(1)記載の事実は認める。
(2) 同(2)ア及びイ記載の各事実は、いずれも否認する。
(3) 同(3)は争う。
第三当裁判所の判断
一 請求原因(1)記載の事実は、当事者間に争いがない。
二 請求原因(2)記載の各事実(車両事故の発生事実)の存否について
(1) 原告は、本件共済契約に基づいて共済金の支払を求めているところ、いわゆる保険事故の偶発性(保険事故の発生時において事故が被保険者の意思に基づかないこと)についての主張・立証責任は負わないと解すべきである(最高裁判所平成一八年六月一日第一小法廷判決・民集六〇巻五号一八八七ページ以下参照)ものの、保険事故(本件では車両事故)の発生そのものについては請求原因事実として主張・立証責任を負うと言わなければならない。
そこで、原告が主張する車両事故の発生事実の存在について、立証されているのか否かを検討する。
(2) 第一に、六月二日の事故(請求原因(2)ア記載の事故)の発生状況等につき原告本人は法廷において縷々供述するけれども、次の理由から、六月二日の事故発生の事実を認定するには至らない。
ア まず、六月二日の事故直後に撮影された原告車両写真等の直接証拠が見当たらない。
イ 次に、原告本人は六月二日午前三時ころに車両事故が発生したと供述するけれども、その日時に近接した時期に警察署や被告に届け出られた形跡がない。
原告本人が供述するように深夜に数名の男性に取り囲まれて集団で車両に損傷を加えられたのであれば、直ちに警察署や保険会社等(本件では被告全労済)に連絡するのが通常であるところ、そのような通報ないし届出を行ったことに関する客観的な裏付資料は見当たらない。そればかりか、原告が被告に六月二日の事故発生を通報したのが事故から二か月以上経過後の平成一九年八月九日となっている(甲二参照)ところ、原告が同年七月一三日にaタクシーとの接触事故に遭遇した(以下「七月一三日の事故」という。)ことを被告に通報した同月一六日や同年八月四日(原告はこの日にも原告車両を損傷される事故に遭遇した旨主張し、それに沿う供述をしている。)よりも後になっている理由は理解し難い。
ウ また、原告は、七月一三日の事故に関する車両損傷については直ちに修理見積書(甲八の(2))を徴求しているのに、六月二日の事故による車両損傷に関する修理見積書(乙四の末尾の見積書)を作成してもらったのが平成二〇年五月七日となっているのも、いささか不自然と言わざるを得ない。このように見積書作成がずれ込んだ理由について原告本人は法廷で供述しているけれども、説得的な理由とは言い難い。
エ さらに、七月一三日の事故における示談折衝を担当したaタクシーの担当者(A)は、七月一三日よりも後に原告車両を実際に見ているが、その際には原告が本件で主張しているような車両損傷はなかった旨述べている(甲二一)。原告が本件において主張している損傷はかなり目立つものであって(甲一七、一八の(1)ないし(75))、通常人であれば見落とすとは思えない程度(まして、Aはタクシー会社の事故担当者であって、事故による損傷を見落とす可能性は更に低くなる。)と言えるから、六月二日の事故によって原告主張のような損傷が生じていなかった疑いを払拭できない。
オ 以上の諸点を総合勘案すると、六月二日の事故が発生した旨の原告の供述を採用することはできず、その他に原告主張の六月二日の事故発生の事実を認定するに足りる証拠はないと言うべきである。そうすると、結局、本件共済金請求の請求原因事実の立証がないと言わざるを得ない。
(3) 次に、八月四日の事故(請求原因(2)イ記載の事故)の発生状況等についても原告本人は法廷で縷々供述するが、次の理由から、やはりこの事故の発生を認定するには至らない。
ア まず、八月四日の事故の発生を直接裏付ける客観的な証拠は、六月二日の事故の場合と同様、見当たらない。
イ 次に、八月四日の事故が発生したのであれば、それに近接した時期に警察署や被告に対して届出等がなされるのが通常と解されるところ、同年八月一九日に被告に連絡するまでの間に届出等がなされたことを窺わせる客観的な証拠が見当たらない。
さらに、原告は被告に対して八月四日の事故に関する連絡を入れたのが平成一九年八月一九日である(甲六)ところ、同月九日に六月二日の事故について報告した際に同時に連絡しなかった理由が判然としない。この点に関して原告本人が説明する理由は、やはり説得力を欠くものである。
ウ 加えて、七月一三日の事故による損傷箇所の修理見積書は一週間以内に作成してもらっているのに対し、八月四日の事故によって発生した損傷に関する修理費用見積書(乙四の末尾のもの)を作成してもらうのが平成二〇年五月七日にずれ込んだ合理的な理由も見出せない。
エ 以上の諸点を総合考慮すると、原告本人の供述をたやすく採用することはできず、その他に八月四日の事故が発生した事実を認定するに足りる証拠もないから、やはり本件共済金請求に関する請求原因事実の立証がないと解さざるを得ない。
三 結論
以上のとおり、原告の本件共済金支払請求(債務不存在確認に対する反訴請求)は、請求原因事実たる保険事故発生事実の立証がないと言わざるを得ないから、その余の点について判断するまでもなく、全部棄却を免れない。
(裁判官 藤田昌宏)