大阪地方裁判所 平成20年(ワ)14355号 判決 2011年4月06日
主文
1 被告は、原告に対し、29万2325円及びこれに対する平成19年10月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
3 訴訟費用は、これを17分し、その1を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
4 この判決は、1項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第4当裁判所の判断
1 政務調査費の目的外支出に係る判断枠組み
(1) 地方自治法100条13項は、普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として、その議会の会派又は議員に対し、政務調査費を交付することができると規定し、この規定に基づき制定されている本件条例は、会派及び議員は、政務調査費を議長が規程で定める使途基準に従い使用しなければならず(9条)、知事は、会派又は議員がその年度において交付を受けた政務調査費の総額から、当該会派又は議員がその年度において行った政務調査費による支出(第9条の規定による使途基準に従って行った支出をいう。)の総額を控除して残余がある場合、当該残余の額に相当する額の政務調査費の返還を命ずることができる(12条)と規定している。
以上のとおり、政務調査費が使途を限定して交付される公金であり、残余があればこれを返還しなければならないことに鑑みれば、本件条例に基づき政務調査費の交付を受けた議員が、故意又は過失により、当該年度において交付を受けた政務調査費を府政の調査研究に資するため必要な経費以外のもの(目的外経費)に充てた場合には、当該議員は、目的外経費に充てた部分に相当する額について、原告に対し不法行為に基づく損害賠償義務を負うものと解される。
(2) ただし、本件条例によれば、知事は、毎月、会派及び議員に対して一定額の政務調査費(議員に対しては月額49万円)を交付しなければならず(3条、8条)、会派の代表者及び議員は、政務調査費に係る支出の総額並びに支出項目別の金額及び当該項目ごとの主たる支出の内訳等を記載した収支報告書を、政務調査費の交付を受けた年度の翌年度の4月30日までに議長に提出しなければならず(10条)、知事は、会派又は議員がその年度において交付を受けた政務調査費の総額から、当該会派又は議員がその年度において行った政務調査費による支出(第9条の規定による使途基準に従って行った支出をいう。)の総額を控除して残余がある場合、当該残余の額に相当する額の政務調査費の返還を命ずることができる(12条)と規定されている。このように、本件条例上、あらかじめ定められた一定額の政務調査費が議員に交付され、当該議員はその交付を受けた年度の翌年度の4月30日までにその支出の実績を報告し、残余があればこれを返還する制度となっていることからすれば、個々の支出行為の時点では、当該支出に政務調査費が充てられるかどうかはまだ未確定というべきであって、収支報告書により政務調査費に係る支出として計上されてはじめて、当該支出に政務調査費が充てられたことが確定することになる。したがって、上記のような政務調査費の制度を前提とするならば、厳密には、当該各年度毎に目的外支出を収支報告書に記載することにより(あるいは、実際には支出していない架空支出を収支報告書に記載することにより)本来負担すべき残余額返還義務を免れる行為が、それぞれ原告に対する不法行為に該当するというべきである。
2 a党議員団に対する調査委託費の支出の適否(争点①)
(1) 委託契約書及び精算報告書の不備について
原告は、本件外部監査基準が「契約書もなく、毎月の実績報告による精算がなされない調査委託は認められない。」としているところ、被告がa党議員団(会派)に対する調査委託について経費支出の根拠となる委託契約書及び精算報告書を作成していないことから、被告の調査委託は認められない(ただし、2分の1についてのみ違法であり又は過失がある。)と主張する。
原告の上記主張の趣旨は必ずしも判然としないが、委託契約書及び精算報告書という「外形的な証明」がないとしていることからすると、これらの書面が作成されていないため、調査委託の事実又は調査委託費支払の事実が認められないという趣旨であると理解するのが自然である。しかし、民事訴訟においては、事実認定は裁判所の自由心証にゆだねられているのであり(民事訴訟法247条)、被告の調査委託費の支出につき、委託契約書や精算報告書以外の立証方法を許さないとする根拠はない。そして、証拠(乙A1、2、9)及び弁論の全趣旨によれば、平成16年度及び平成17年度において、同各年度のa党議員団総会決議に基づき、被告が原告から交付を受けていた月額49万円の政務調査費のうち22万円(年額264万円)が調査委託費としてa党議員団に拠出されていたことが認められ、これに反する証拠はないから、原告の上記主張は採用することができない。なお、原告は、委託契約書及び精算報告書の不備により目的外支出であることが推認されるとも主張するが、そのような経験則の存在は認められず、採用することができない。
また、原告の上記主張の趣旨が、委託契約書及び精算報告書という「外形的な証明」のない調査委託費に政務調査費を充当することは許されないとする趣旨であるとすれば、地方自治法及び本件条例において、「外形的な証明」のない支出に政務調査費の充当を禁ずる内容の規定はなく、また、議員の調査委託費につき委託契約書や精算報告書の作成を義務付ける規定もなく、原告の上記主張を裏付ける法令上の根拠は全く存在しないから、これを採用することはできない。
したがって、委託契約書及び精算報告書の不備をいう原告の上記主張は採用することができない。
(2) 会派に対する一括調査委託の適否(会派が行う政務調査活動との按分の要否等)について
ア 調査委託費の使途基準適合性(一般的な判断枠組み)
本件規程によれば、議員に係る政務調査費の使途基準のうち調査研究費については、「議員が行う府の事務及び行財政に関する調査研究並びに調査委託に要する経費」と定められているところ(5条、別表第2)、この使途基準の内容は、府政の調査研究に資するため必要な経費に該当するかどうかについての基準として一般的な合理性を有するものと解される。
そして、上記文言からすれば、議員が行う府の事務及び行財政に関する調査委託に要する経費は、使途基準に適合することが明らかである。ただし、議員が調査委託に際しこれに要する実費を前払したものの、調査委託を受けた者(受託者)がその委託に係る調査活動を行った結果、その前払費用に残余が生じたときは、当該残余部分は当該議員に返還されるべきであるし、また、受託者において、調査委託費を府政の調査研究に資するため必要な経費以外のもの(目的外経費)に充てた場合や、議員の調査委託の趣旨に反する調査活動の経費に充てた揚合についても、これらの経費等に相当する額については、上記残余部分と同様、当該議員に返還されるべきものである。したがって、受託者にいったん調査委託費として交付されたものであっても、これら議員に返還されるべき残余部分等は、上記使途基準にいう「調査委託に要する経費」に該当しないこととなるため、当該議員と府との間においても、政務調査費を充当し得ない目的外経費であることになる。
イ 会派に対する一括調査委託の適合性
使途基準においては、「議員が行う府の事務及び行財政に関する…調査委託に要する経費」と規定されているにすぎないから、議員が、所属する会派に対し、府政(府の事務及び行財政)に関する調査を特定の調査事項を設定することなく一括委託した上、当該議員に交付された政務調査費をその経費に充てたとしても、直ちに上記使途基準に反するものではない。
ただし、地方議会における会派には、法律上、議員とは独立して政務調査費の交付を受ける地位が認められ(地方自治法100条13項)、本件規程の使途基準においても、会派に交付された政務調査費の使途については「会派が行う」との要件が、議員に交付された政務調査費の使途については「議員が行う」との要件がそれぞれ付されていることからすれば、議員と会派との間で政務調査費を全く無制約に融通し得ると解することはできないのであり、議員から会派への調査委託の形式を取っているものの、実際には議員による調査委託の実質を伴っておらず、議員による所属会派への寄附や会費等と同視し得る場合には、「議員が行う…調査委託」と認めることはできず、これに要する経費は上記使途基準に反し違法となると解される。
もっとも、会派とは、議会の内部において、政治的意見や政策等を共通にする議員らが組織する団体(権利能力なき社団又は民法上の組合)であり、議員は、議会において、会派を通じて活動を行うものであり、会派を離れて議会活動をすることは困難であることからすると、会派が行う政務調査活動は、通常、当該会派の所属議員から一般的かつ包括的に委託を受けて行う活動としての性質を帯びているということができる。そうすると、議員が所属会派に対し一般的、包括的に委託した政務調査活動であっても、その調査研究の経過や結果が当該議員に報告され、その成果が議員個人に還元されているような場合には、議員個人が行う政務調査活動の実質を備えたものといえるのであり、会派に支払われたそのような調査委託費を会派への寄附や会費等と同視することはできず、これを使途基準に反する違法なものとはいえないと解するのが相当である。
以上を前提に、被告のa党議員団に対する調査委託費が上記使途基準に反するか否かにつき、以下検討する。
ウ 認定事実
前記前提となる事実に証拠(甲18、乙A1から12まで)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。
(ア) 府議会の政務調査費は、昭和45年、大阪府規則第85号に基づく要綱が定められ、府議会の各会派に対して交付されてきたものであり、平成12年度においては、議員1人当たり59万円が当該議員の所属する会派に対して交付されていた。
しかし、平成12年の地方自治法改正により、調査研究費の助成の制度化が明記され、これを受けて、平成13年3月23日の府議会本会議において本件条例が可決成立した(同年4月1日施行)。そして、本件条例の施行により、議員1人当たり月額10万円が当該議員の所属する会派に、月額49万円が当該議員に交付されることとなった(なお、本件条例は平成21年に一部改正され、改正後の本件条例によれば、議員1人当たり月額59万円の政務調査費の交付先を、各会派の判断により任意に会派分と議員分とを割り振ることが可能となっている。)。
a党議員団は、本件条例の審議に際し、政務調査費を会派単位で支給すべきことなどを内容とする修正動議を提出したが、当該修正案は賛成少数により否決され、本件条例は原案どおり可決された。
(イ) a党議員団は、本件条例の施行前(平成12年度まで)は、会派に対して交付される政務調査費をもって、政務調査に専従する職員を雇用するなど会派としての政務調査活動を行っていたところ、本件条例が施行されたことにより、議員1人当たり月額10万円(会派支給分)の政務調査費では従来の政務調査活動を維持することは困難であった。そこで、a党議員団は、専従職員の雇用等をも含めて従前の会派としての政務調査活動の体制を維持するため、各議員が交付を受ける月額49万円の政務調査費のうち22万円を、各議員がa党議員団への調査委託費として一律に拠出することとした。なお、a党議員団は、このような方式を採用するに当たり、府議会事務局に相談し、その了解を得た上でこれを実施した。
このような調査委託費の拠出については、個別の委託契約書や精算報告書は作成されないものの、a党議員団は、毎年度初めに開催される定例のa党議員団総会において、各議員が月額49万円のうち22万円を調査委託費としてa党議員団に拠出することの確認を行い、当該年度の政務調査の方針と具体的計画に基づき、会派としての政務調査活動に伴う経費の支出につき予算を決定し、次年度の同議員団総会において、決算を承認する手続が履践されている。なお、平成16年度については同年4月28日のa党議員団総会において、平成17年度については同年5月11日の同議員団総会において、それぞれ上記各手続が行われた。
(ウ) 被告は、それぞれ、平成16年度及び平成17年度において、各年度のa党議員団総会決議に基づき、政務調査費として議員個人に交付された月額49万円のうち22万円(年額264万円)を、a党議員団に対し、府の事務及び行財政に関する調査委託費として支出し、これを当該各年度の各収支報告書に記載した。
なお、平成16年度及び平成17年度におけるa党議員団に所属する府議会議員は9人であり、会派に交付される政務調査費は月額90万円(年額1080万円)、議員から会派に拠出される調査委託費は月額198万円(年額2376万円)である。
(エ) a党議員団は、平成16年度及び平成17年度において、政務調査活動のため以下のとおり支出し(同各年度のa党議員団の収支報告書に記載のとおり)、会派に支給された政務調査費1080万円及び各所属議員の調査委託費合計2376万円(合計3456万円)をこれに充てた。なお、「人件費」とは、a党議員団の政務調査専従職員4名及びパソコンの打ち込みアルバイト1名の雇用に係る給料等の経費である。
(平成16年度)
① 調査研究費 67万2610円
② 研修費 3万0000円
③ 会議費 2万4672円
④ 資料作成費 120万8895円
⑤ 資料購入費 127万4047円
⑥ 広報費 620万2590円
⑦ 事務費 191万7672円
⑧ 人件費 2325万5801円
以上合計 3458万6287円
(平成17年度)
① 調査研究費 44万0760円
② 会議費 2万5840円
③ 資料作成費 114万3300円
④ 資料購入費 121万1340円
⑤ 広報費 629万2735円
⑥ 事務費 180万2284円
⑦ 人件費 2364万7036円
以上合計 3456万3295円
(オ) 本件外部監査結果によれば、上記(エ)の各支出について、いずれも使途基準に適う適正な支出であると判断されている(原告も、本件訴訟において、これらの支出が使途基準に反する旨の主張はしていない。)。
また、本件外部監査結果によれば、平成16年度の人件費の調査結果として、「会派として政務調査専従職員4名を雇用し、パソコンの打ち込みのアルバイトの経費等を支出している。各人に対する支出そのものは適正と認められる。(注)なお、この費用は会派所属各議員の政務調査費から支出されている。」と記載されており、平成17年度の人件費の調査結果として、「固定した雇用人件費等ではあるが、4名とも政務調査専従として、1名はアルバイトとして平成16年度と同様適正な支出と認められる。」と記載されている。
(カ) a党議員団では、次のとおり、会派としての政務調査活動を各議員の議会活動に生かしている。
a 代表質問と一般質問
年2回の代表質問については、通年で準備に当たり、具体的作業は議員団指導部と常勤スタッフ2名を中心に1か月半かけて12回から15回の討議を経て、最終原稿を作成する。9月議会の場合、7月頃から準備して8月中旬から9月下旬まで集中して調査研究と原稿作成に当たる。
一般質問は、年4回(2、5、9、12月)の各議会会期について、1~2人が質問に立つ。1人の質問について、質問者と補助議員及び常勤スタッフの合計4~5人で準備する。一般質問を議員団の誰が担当するかについても、議員団で決定し、質問者と補助議員、常勤スタッフの4~5人で準備する。
b 各常任委員会での質問
府議会には、当時、総務・土木建設・健康福祉・環境農林・商工労働・企業水道・教育文化・警察の各常任委員会があり、各議員はそれぞれの委員会に所属している。委員会での質問は、9月議会、2月議会でそれぞれ約1か月をかけて準備し、常勤スタッフは1人2委員会を担当する。
c 決算特別委員会の審議
決算特別委員会は10月~12月にかけて開催される。決算承認のための審議をする委員会であるが、各常任委員会を網羅する重要委員会として位置付け、議員団から2人の委員が所属する。決算特別委員会のために、他の議員・スタッフ全員が補助をする。
d 意見書の審査
府議会で政府と国会に対する意見書を採択する場合、その内容の審査をして、議員団として意思決定をしなければならず、意見書案について、事前に検討する。
e 日常的調査研究活動
以上のほか、日常的な調査研究活動として、年2回の予算要望・補正予算要望の作成、府民の要望の府当局への申入れ、会派による視察、府民・各界諸団体との懇談、施策及び予算にかかる分析、資料集「大阪府政資料」の作成等が行われている。
エ 検討
以上の認定事実によれば、被告から毎月22万円の割合で拠出された調査委託費は、a党議員団において、被告の調査委託の趣旨に沿って府政の調査研究に資するため必要な経費に全額充てられていたと認められるから、被告を通じ府に返還されるべき残余等の部分(a党議員団から被告に返還されるべき残余等の部分)は存在しないというべきである。
また、平成16年度及び平成17年度における被告のa党議員団に対する調査委託は、調査事項を特定しない一般的かつ包括的な調査委託ではあるが、上記認定事実によれば、所属議員の議会活動に生かすべく会派において政務調査活動が行われ、その結果が各議員に報告されるとともに、実際にも各議員の議会活動に生かされていたということができるから、本件の被告の調査委託は、議員による調査委託の実質を十分に伴っていたということができ、「議員が行う…調査委託」といって差し支えないというべきである。
したがって、本件の被告のa党議員団に対する調査委託費は、「議員が行う府の事務及び行財政に関する調査研究並びに調査委託に要する経費」という使途基準に適合するものということができ、目的外経費には当たらない。
オ 原告の主張について
(ア) 原告は、被告のような形態によって、議員から会派に政務調査活動が委託されている場合には、議員としての活動と会派としての活動が重複する部分のみが委託者である議員の政務調査活動としての委託の成果となることから、その部分のみを政務調査費の経費支出として認めることができるとした上で、被告がa党議員団に拠出した調査委託費は、会派の政務調査活動と議員の政務調査活動という2種類の業務に充当されており、そのうち、会派の政務調査活動に当たるものは、議員の政務調査活動には当たらないので、当該業務の2分の1に当たる部分が、議員の政務調査費としての経費の支出として認められると主張し、また、このように解する根拠として、会派の政務調査活動と議員の政務調査活動は、その目的及び対象を異にしている旨主張する。
しかし、政務調査費の制度は、議会の審議能力を強化し、議員の調査研究活動の基盤の充実を図るため、議会における会派又は議員に対する調査研究の費用等の助成を制度化し、併せてその使途の透明性を確保しようとしたものである(最決平成17年11月10日・民集59巻9号2503頁参照)。そして、根拠規定である地方自治法100条13項によれば、政務調査費は、交付先が会派であるか議員であるかにかかわらず、「その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として」交付され、会派と議員との各交付額(割合)についても各地方自治体が定める条例にゆだねられている(実際にも、会派と議員との交付割合は各地方自治体により様々である(乙A13)。)。このような政務調査費制度の趣旨及び内容に加えて、前述のとおり、会派とは、議会の内部において、政治的意見や政策等を共通にする議員らが組織する団体であることも考慮すると、議員と会派との事実上の役割分担はあり得るとしても、地方自治法上、会派と議員の政務調査活動の目的や対象に相違はないというべきであるし、同法に基づき制定された本件条例及び本件規程についても同様である。したがって、政務調査活動の目的及び対象を異にすることを前提とする原告の上記主張は採用することができない。
また、所属議員の調査委託に基づいて会派が行う政務調査活動において、それが会派独自の政務調査活動たる側面を有し、その成果が委託者である所属議員のみならず会派にも帰属するとしても、上記政務調査費制度の趣旨や会派の性格等に照らせば、これを議員の調査委託の趣旨に反することになるとか、政務調査費制度の趣旨に反するなどと解する必要はないというべきであり、これに反する原告の上記主張は採用することができない(なお、最高裁判所は、「会派が行う」との要件該当性が問題となった事案において、各所属議員の発案、申請に係る調査研究活動を会派のためのものとして当該議員にゆだね、又は会派のための活動として承認する趣旨のものであると認められれば、「会派が行う」との要件は満たされる旨判示しており(最判平成21年7月7日・裁判集民事231号183頁、最判平成22年2月23日・裁判集民事233号60頁参照)、所属議員と会派との間の調査委託において、その調査に要する経費につき按分して負担すべきとの立場は採用していないものと解される。)。
(イ) また、原告は、a党議員団以外の会派においても、a党議員団と同様の調査研究に関する取組みが行われていることに鑑みれば、調査研究活動のうち活動成果が議員に直接帰属しない内容は、政務調査費の目的外支出となる旨主張する。
しかし、a党議員団とそれ以外の会派とでは、会派に対して直接交付される政務調査費の額も、政務調査活動の内容や方法も異なるのであるから、他の会派における取扱いを理由とする原告の上記主張は失当である。
(ウ) さらに、原告は、被告本人尋問の結果によれば、被告は、「個人の調査活動で議員団がかかわることは、ほぼありません。」と証言しており、被告には政務調査を会派に委託する意思がないと主張する。しかし、上記証言の趣旨は、個人的に関心をもって取り組んでいる調査研究活動についてa党議員団に独自に委託することはほとんどないという趣旨であると解され、他の議員と同様にa党議員団に対し包括的に調査研究活動を委託することと矛盾するものではないから、原告の上記主張は採用することができない。
3 事務所賃料の支出の有無等(争点②)
(1) 本件外部監査基準違反を理由とする点について
原告は、被告の事務所賃料について、本件外部監査基準「事務所費」①ハの「親族との賃貸借ないし使用料も原則として認められない。但し、契約書があり、銀行振り込みによる毎月の支払いが客観的に認められ、後日当事者間において支払い賃料が作出されるおそれがない場合に限り認める。」という判断基準に照らし、目的外支出となる旨主張する。
しかし、本件条例及び本件規程において、親族から事務所を賃借している場合の賃料に政務調査費を充ててはならないとか、あるいは、その賃料の支払方法を銀行振込に限るなどといったような定めはなかったのであり、上記基準に反することをもって直ちに目的外支出であると認めることはできない。また、前述のとおり、民事訴訟においては、事実認定は裁判所の自由心証にゆだねられているのであり、事務所賃料の支出につき、契約書及び銀行振込以外の立証方法を許さないとする根拠はないから、賃料支払の事実の有無に係る事実認定において、上記基準をそのまま用いることはできない。
(2) 事務所賃料の支出の有無について
ところで、不法行為に基づく損害賠償請求権を基礎付ける具体的事実、すなわち、被告が目的外支出(架空支出を含む。以下同じ。)を収支報告書に記載することにより違法に政務調査費の返還義務を免れた事実についての主張立証責任は、本来、原告が負うべきものである。しかし、本件規程7条が、議員は、政務調査費の支出について、会計帳簿を調製し、その内訳を明確にするとともに、証拠書類等を整理保管し、これらの書類を5年間保存しなければならないと規定していること、他方、本件条例及び本件規程の下では、個々の支出に係る領収証等を原告に提出すべきものとはされておらず、原告がその有無及び内容を逐一把握することは困難であることなどを考慮すると、原告において、収支報告書に計上された支出が目的外支出であると疑うに足りる外形的事実を立証した場合には、被告の側において、当該支出が目的外支出ではないことを相当の根拠、資料に基づき主張、立証する必要があり、被告がそのような主張、立証を尽くさない場合には、当該支出が目的外支出であることが事実上推認されるというべきである。
そこで検討するに、確かに、前記前提となる事実記載のとおり、被告は、妻であるAが所有する本件ビルの3階部分を、被告事務所として使用していたものであり、本件ビルの所有者が妻のAである点は、被告は無償で上記3階部分を利用し、Aに対し賃料を支払っていないのではないかという疑念を抱かせるものである。しかし、証拠(乙B1~4、11、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件ビルは昭和63年にAが建築したものであり、Aは建築当初から本件ビルの各部屋を第三者に賃貸することにより事業収益を上げていたこと、Aは事業収入につき毎年所得税の確定申告を行っており、本件当時も被告の扶養家族ではなかったこと、被告事務所は本件ビルの3階部分(301号室及び302号室)であるが、被告が入居する以前には、301号室に株式会社b又は株式会社cが、302号室にB又はCが、それぞれ月4万5000円~6万円の賃料で入居していたものであり、被告は、これらの賃借人が退去した後の平成3年から、301号室及び302号室を7万円で賃借するに至ったことが認められ、これらの点に鑑みると、本件ビルの所有者がAであるからといって、被告が本件ビルの3階を有償で賃借することが直ちに不自然であるということはできないし、その賃料も従前より低廉であって特に不合理なものではない。また、被告からAに対する毎月の賃料の支払については、証拠(乙B1~6)によれば、Aの被告に対する「事務所家賃領収書」は各月ごとに作成されており、被告事務所の現金出納帳にもこれに見合う内容の記載があること、Aは、平成17年2月21日、同年3月11日、同年4月22日及び同年10月13日に、自己の銀行口座に被告事務所の賃料に相当する7万円をそれぞれ入金していること、被告は、平成18年6月14日、同年7月12日、同年8月21日、同年9月12日、同年11月15日及び平成19年1月10日(なお、いずれも本件監査請求前である。)に、それぞれ7万円をAの銀行口座に振込入金していることが認められ、これらの領収証や帳簿等について、支出の外観のみがことさらに作出されたと疑うべき不自然な点も特に見当たらない。以上からすれば、被告からAに対する賃料の支払が架空のもの(架空支出)であると疑うに足りる外形的事実があるとまでは認め難く、また、賃料の支払について相応の立証もされているということができるから、上記賃料の支出が架空のものであると推認するには足りないというべきである。
これに対し、原告は、商業的に貸し出されているビルの賃貸借契約においては、賃料の支払は、賃借人が賃貸人の指定する口座に定期的に賃料を振り込むのが通常であると主張する。しかし、現金の交付・受領による賃料の支払方法は、現在もなお広く用いられていると考えられ、毎月の賃料が口座振込による方法で支払われていなかったからといって、賃料支払事実の不存在が推認されるということはできない。
また、原告は、Aが作成した領収証に印紙が貼付されておらず、被告がAに対して事務所賃料を支払った事実は疑わしいとも主張するが、この程度の事務処理で済ますことが社会通念に照らし不自然、不合理であるとはいえず、賃料支払事実の不存在を推認するには足りないというべきである。
また、原告は、政務調査費の中から家賃を支払っているという被告の証言からすると、政務調査費の交付時期である毎月10日頃が家賃の入金日であるはずであるが、領収証は概ね月初めの日付けとなっており、記載内容が実態を反映していないとか、家賃の授受は事務員の手を経ておらず、現金出納帳の記載は実態を反映していないなどと主張する。しかし、これらの会計処理上の取扱いも特に不自然なものではなく(乙B16)、賃料支払事実の不存在が推認されるということはできない。その他にも、原告は、被告が府議会議員を引退した後も被告事務所の状態を保存している旨証言したことをとらえて、被告事務所について議員事務所としての利用実態が認められないなどと縷々主張するが、いずれも採用することができない。
(3) 小括
以上によれば、被告の事務所賃料に関する原告の主張は、採用することができない。
4 事務所駐車場代の按分の要否等(争点③)
(1) 証拠(乙B1、2、11、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件駐車場は被告事務所の4件隣に所在しており、本件駐車場には、通常、被告が所有する本件車両が駐車されていたこと、本件車両の年間走行距離は平成16年度が約3330km、平成17年度が約4520kmであったこと、被告は、平成16年度及び平成17年度当時、週に3~5回、年に160~170回程度は府庁に行っており、そのうちの大半は本件車両を交通手段としていたこと、被告が本件車両に乗って外出し本件駐車場が空いている時には、本件駐車場は来客用の駐車場として用いられることがあったこと、以上の事実が認められる。
上記認定事実によれば、本件車両は被告が被告事務所と府庁を行き来するための交通手段として頻繁に用いられていたものであるところ、被告が府庁に行くことは、通常、政務調査活動ではないのであり(乙B11、被告本人。なお、本会議や委員会等の出席のための旅費には実費が支給される。)、しかも、本件車両の年間走行距離は平成16年度が約3330km、平成17年度が約4520kmであるところ、被告事務所から府庁までの距離を約7km(地図上の直線距離)、被告が本件車両で府庁を往復する回数が年150回であるとすると、本件車両の走行距離はそれだけでも年2100kmを超えること(14km×150回)も考慮すれば、本件車両は、政務調査活動以外の活動にも相当程度用いられていたと考えられる。そして、上記認定事実によれば、本件駐車場は、主として本件車両の駐車場として用いられていたのであるから、本件車両が政務調査活動以外の活動にも相当程度用いられていたというのであれば、本件駐車場についても、政務調査活動以外の活動に相当程度用いられていたと評価せざるを得ない。
また、本件駐車場が来客用として用いられるのは、被告が本件車両に乗って外出している間のことであり、基本的に被告が被告事務所を不在にしている間の来客用に限られるから、被告の調査研究活動との関連性にはそもそも疑問がある上、被告事務所が被告の政務調査活動にのみ用いられ、それ以外の議員活動、政党活動、私的活動等のために用いられることが一切なかったとは考え難いのであり、被告事務所への来客に、被告の調査研究活動以外の要件での来客がなかったとは考え難いことを踏まえれば、本件駐車場が来客用として用いられる場合についても、政務調査活動以外の活動のために相当程度用いられていたといわざるを得ない。
以上からすれば、本件駐車場は、政務調査活動のために使用されていたのみならず、その他の活動のためにも使用されていたと認められ、政務調査活動以外の活動のために使用されていた割合は、その使用実績から厳密に算定することは困難であるが、前記認定事実等を総合考慮すれば、全体の2分の1を下回らないものと認めるのが相当である。被告は、本件駐車場は政務調査活動のためだけに使用されていたとして、駐車場代の全額が政務調査費に該当すると主張するが、上記認定説示に照らし、採用することができない。
(2) したがって、被告が支出した事務所駐車場代については、少なくとも総額の2分の1が目的外支出に当たるというべきである。
そして、平成16年度及び平成17年度における被告事務所の駐車場代は、各24万円であったと認められるから(乙B3、4)、その2分の1に相当する各12万円は目的外支出であると認められる。
5 ガソリン代の按分割合の適否等(争点④)
(1) 被告は、本件車両はほとんど政務調査活動のためだけに使用されていたとして、本件車両のガソリン代の8割が政務調査費に該当すると主張する。
しかし、上記4(1)記載のとおり、本件車両は、平成16年度及び平成17年度当時、政務調査活動以外の活動にも相当程度用いられていたと認められる。しかも、本件で争いとなっているガソリン代は事務費として計上されたものであるが、収支報告書(乙B4)をみると、調査研究費(区分1)としてガソリン代が計上されているものも少なくなく(平成17年4月20日1910円、同年7月13日2841円、同年9月24日1890円、同年12月19日2520円、平成18年2月11日2540円)、その領収証等の記載内容からみて、これらのガソリン代は現地調査のために本件車両を使用した際のガソリン代であることがうかがわれるから、事務費として計上されたガソリン代には、現地調査のためのガソリン代を除くものが多く含まれているとみられる。その他、上記4で認定説示した点も踏まえると、本件車両による移動の8割又はそれ以上が政務調査活動のためのものであったとは考え難いのであって、上記認定事実等を総合すれば、政務調査活動以外の活動のために使用されていた割合は、事務費として計上されたガソリン代総額の2分の1を下回らないものと認められる。
(2) 他方、原告は、本件外部監査基準の「事務費の中のガソリン代は、走行距離で計算されている場合は別として政務調査の関係による使用か否か通常不明であるので、後援会の有無により1/4ないし1/2を原則とする。」により判断すると、被告の後援会活動も勘案し、按分率によって4分の1を超える部分が目的外支出となると主張する。しかし、当時、被告に個人後援会があったと認めるに足りる証拠はないから、後援会を勘案して4分の1で按分すべきであるとする原告の上記主張は、その前提を誤るものであり採用することができない。また、本件車両のガソリン代の4分の3又はそれ以上が政務調査活動以外の活動のための経費であると認めるに足りる証拠もない。
(3) 上記のとおり、本件車両のガソリン代については、その総額の2分の1が目的外支出に当たるというべきである。
そして、平成16年度の本件車両のガソリン代の総額は、7万3673円であり、被告は、その8割に相当する5万8938円を収支報告書に計上したものと認められるから(乙B1、3、弁論の全趣旨)、5万8938円のうち2万2102円(5万8938円-7万3673円×1/2)は、目的外支出であると認められる。
また、平成17年度の本件車両のガソリン代の総額は、10万0741円であり、被告は、その8割に相当する8万0593円を収支報告書に計上したものと認められるから(乙B1、4、弁論の全趣旨)、8万0593円のうち3万0223円(8万0593円-10万0741円×1/2)は、目的外支出であると認められる。
6 年12万円を超える事務用品費の支出の適否(争点⑤)
(1) 本件外部監査基準違反を理由とする点について
ア 原告は、本件外部監査基準の「事務費」の④によれば、「スーパー、コンビニ等での購入で1点ずつ細かく、政務調査との関連を個々に証明できない事務費は1ヶ月1万円、年12万円の限度で認める。」とされているから、被告が平成17年度に支出した事務用品費のうち、年12万円を超える部分(32万5812円)は目的外支出である旨主張する。
しかし、本件条例及び本件規程において、一定の事務用品費につき、政務調査費として許容する上限値を設定するような定めはなかったのであり、上記基準に反することをもって直ちに目的外支出であると認めることはできない。
イ なお、上記の点を措くとしても、証拠(乙B1、4)によれば、被告は、平成17年度の事務費を総額77万8698円として収支報告書に計上しており(ただし、平成19年7月4日付けで67万5898円に減額訂正されている。)、その内訳は次のとおりであると認められる。
区分81 13万7007円(電話代)
区分82 2万7976円(パソコン通信代)
区分83 4万4436円(印刷機リース)
区分84 8万0593円(ガソリン代の8割)
区分85 10万6178円(文具等)
区分86 1万1804円(OA用紙・インクカートリッジ)
区分87 6万3444円(パソコン部品等)
区分88 2780円(交通費)
区分90 4万7480円(切手・はがき代)
区分91 25万7000円(本件ビデオカメラ等購入費)
合計 77万8698円
そして、原告が援用する上記基準の事務費の④「スーパー、コンビニ等での購入で1点ずつ細かく、政務調査との関連を個々に証明できない事務費」及び同じく上記基準で年間12万円を限度とする同⑨「地下鉄代、カード、タクシー、高速料金等」に該当するものとしては、せいぜい区分85~88のもの(ただし、区分85のうちプリンター代6万4300円は、本件外部監査において適法と判断されていることから、上記合計から差し引くこととする。)に限られると解されるところ、これらの区分に係る金額を合計すると11万9906円となり、年12万円の範囲を超えるものではない。
ウ 以上によれば、平成17年度の事務用品費が44万5812円であるとして、上記基準に基づき年12万円を超える部分(32万5812円)が目的外支出である旨の原告の主張は、採用することができない。
(2) 個別の経費の政務調査費該当性について
ア ビデオテープ送付費用(メール便発払い・210円)について、原告は、政党活動としての情報提供であり、政務調査活動のためのものではないと主張する。
しかし、証拠(乙B3、11、被告本人)によれば、被告は、河内長野市のa市議会議員団から相談を受け、同市の不法投棄現場の現地調査を行い、その際に作成した映像をビデオテープに録画し、これを同議員団に送付したこと、その際の送付費用「メール便発払い」が210円であったことが認められるところ、このような政務調査活動の成果物を相談者に送付するための費用も、本件規程別表第2「事務費」の「議員が行う調査研究に係る事務の遂行に要する経費」であるといって差し支えないというべきであり、相談者が被告と同じ政党に基盤を有する市議会議員団であることはその結論を左右するものではない。したがって、原告の上記主張は採用することができない(なお、上記映像を録画するビデオテープの購入費についても同様である。)。
イ 原告は、合意書・示談書・協定書等モデル文例集の追録(3000円)、文庫「嵐が丘」(1040円)、不動産登記や財産管理に関する書籍4冊(1万9561円)について、政務調査活動に直接必要なものではないから目的外支出であると主張する。
ところで、上記書籍等の購入費は「事務費」ではなく「資料購入費」として収支報告書に計上されたものであるが(乙B3、4。なお、議員の資料購入費は、本件監査請求において監査を求められていない。)、「資料購入費」とは、本件規程別表第2において、「議員が行う調査研究のために必要な図書、資料等の購入に要する経費」であるとされている。そして、上記書籍等がどのような調査研究に必要であったかについて、被告から具体的かつ詳細な説明がされているところ(乙B8、10、11、被告本人)、その説明内容が社会通念に照らし不合理であるとはいえず、他方、原告は、上記書籍等の購入費が目的外支出であると指摘するにとどまり、目的外支出であることを裏付ける特段の主張、立証をするものではない。加えて、議員の調査研究活動は多岐にわたりその対象も広範であって、個々の書籍等が調査研究に必要なものであるかどうかは、ある程度は議員の合理的な判断にゆだねざるを得ないことも踏まえれば、証拠上、上記書籍等の購入費が「議員が行う調査研究のために必要な図書、資料等の購入に要する経費」に該当しないとまでは認められない。
(3) 小括
したがって、年12万円を超える事務用品費の支出や、上記の個別の経費に関する原告の主張は、いずれも採用することができない。
7 本件ビデオカメラ等購入費を計上し得る範囲(争点⑥)
(1) 原告は、被告が政務調査費として支出した本件ビデオカメラ等購入費については、金額が高額であり資産取得にもつながることを考慮し、減価償却率の範囲内において政務調査費としての支出を認めると主張し、減価償却期間を5年として、被告が平成17年度に支出した上記購入費のうち5分の1を超える部分は目的外支出であると主張する。
しかし、本件条例及び本件規程において、高額な物品を購入する場合は減価償却率の範囲内においてのみ政務調査費を充てることができるといった定めはなく、上記のような考え方を正当であると解すべき法令上の根拠はみあたらない。したがって、上記基準は採用することができない。
(2) そこで、本件ビデオカメラ等購入費が目的外支出であるか否かにつき検討するに、一般的に、ビデオカメラやビデオデッキは、政務調査活動に関連する映像の撮影、編集、再生等に利用することが可能であり、その機能や一般的用途からして、議員の調査研究活動に用いられる可能性はあり、それが比較的高額な物品であるからといって、直ちに調査研究のための必要性を欠くものとはいい難い(最判平成22年3月23日・判時2080号24頁参照)。
そして、証拠(乙B7、8、11、被告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件ビデオカメラ等を、能勢町のダイオキシン汚染問題、関西空港の地盤沈下の実態、箕面丘陵の水とみどりの健康都市開発、羽曳野市の府立病院跡地不正売却問題、羽曳野市の南河内健康ふれあいの里開発事業、安威川ダム建設周辺調査、河内長野産業廃棄物不法投棄現場等の調査に関する映像資料の作成に用いるなど、実際に府政の調査研究のために利用していたことが認められ、被告が平成18年4月に府議会議員を引退したことや、本件ビデオカメラ等は議員引退後も私的に利用することが可能なものであること等を考慮しても、本件ビデオカメラ等の購入が、府政に関する調査研究のための必要性に欠けるものであったとは認められない。
(3) したがって、本件ビデオカメラ等購入費が目的外支出であるとは認められず、原告の上記主張は採用することができない。
8 収支報告書記載の金額とヒアリング時の説明との差額等(争点⑦)
(1) 平成17年度の調査費用5250円
原告は、平成17年度の調査費用5250円につき、支出に対応した出納記録及び証拠書類の存在が確認されないとして、目的外支出であると主張する。
しかし、証拠(乙B1、2、4の11(28頁))によれば、被告は、平成18年2月24日、大阪法律事務所において法律相談を受け、相談料5250円を支払ったこと、平成17年度の調査研究費のうち金額が5250円のものは上記支出のみであること、以上の事実が認められ、原告が主張する上記調査費用5250円は、この法律相談料のことであると認められる。したがって、被告が架空支出を計上したとは認められず、他にこれが目的外支出であると解すべき具体的な主張も証拠もないから、原告の上記主張は採用することができない。
これに対し、原告は、外部監査人によるヒアリングの際に被告が行った説明を、使用実態に基づいた説明とみなすことは相当であるなどと主張する。しかし、外部監査の際のヒアリングに上記のような重大な効果を認める法令上の根拠はなく、その際の説明を事後的に訂正することができないと解すべき根拠もないから、原告の上記主張は採用することができない。
(2) 平成16年度の広報費2万2000円
原告は、平成16年度の広報費2万2000円につき、個別外部監査のヒアリングにおいて、被告から上記支出はなかったとの説明があったことから、上記広報費は目的外支出であると主張する。
しかし、証拠(乙B1、2、3の12(54頁)、被告本人)によれば、被告は、平成17年3月30日、株式会社dから、B4のコピー用紙10箱を2万2000円で購入したことが認められ、原告が主張する上記広報費2万2000円は、このコピー用紙の購入費であったと認められる。したがって、被告が架空支出を計上したとは認められず、他にこれが目的外支出であると解すべき具体的な主張も証拠もないから、原告の上記主張は採用することができない。
なお、原告は、最終準備書面において、上記コピー用紙は広報誌又は府政報告書とは関係がないなどと主張する。しかし、原告が指摘する点を十分に考慮しても、上記コピー用紙が広報のために利用されていなかったと認めるに足りないから、上記主張は採用することができない。
(3) 収支報告書との記載差額
ア 原告は、被告の収支報告書における支出額と、ヒアリング時の説明における支出額との間に齟齬があり、その差額に相当する内容不明の支出は、いずれも目的外支出であると主張する。
しかし、証拠(乙B1~4)によれば、被告は、収支報告書に記載のとおり、平成16年度の事務所費120万5525円、同年度の事務費80万0889円、平成17年度の調査研究費267万3631円(なお、乙B4の11の3頁「1計」は、22万6550円ではなく22万9090円が正しい。)、同年度の事務所費119万8701円につき、それぞれ実際に経費として支出したことが認められる(なお、平成17年度の事務費の支出が77万8698円であることは前述のとおりである。)。
したがって、平成16年度の事務所費(差額4万4954円)及び事務費(差額13万6785円)並びに平成17年度の調査研究費(差額2万4681円)及び事務所費(差額4万2636円)につき、被告が架空支出を計上したとは認められないし、他に上記各差額部分が目的外支出であると解すべき具体的な主張も証拠もないから、原告の上記主張は採用することができない。
イ なお、原告は、ヒアリングの際に、被告が説明しなかった部分については、被告が意図的に監査対象から外したものであり、目的外支出であることが推認されると主張する。しかし、そもそも、外部監査人によるヒアリングにおいて、支出金額等にかかわらず、収支報告書に計上された支出の全てについて説明及び証拠の提示が要求されていたと認めるべき証拠はなく、また、被告がヒアリングの際に一部の経費を意図的に説明対象から外したと認めるに足りる証拠もない。したがって、原告の上記主張は採用することができない。
また、原告は、平成16年度事務費の差額13万6785円について、仮にその支出の事実が認められたとしても、平成16年度の事務用品費はすでに4万2103円計上されているから、「スーパー、コンビニ等での購入で1点ずつ細かく、政務調査との関連を個々に証明できない事務費は1ヶ月1万円、年12万円の限度で認める。」という基準により、7万7897円までしか充当できず、残り5万8888円は目的外支出となる旨主張する。しかし、上記差額部分の経費が全て「スーパー、コンビニ等での購入で1点ずつ細かく、政務調査との関連を個々に証明できない事務費」である旨の具体的な主張立証もない上、そもそも、上記基準自体何ら法令上の根拠を有するものでもないから、上記主張は採用することができない。
9 小括
(1) 以上によれば、原告が主張するもののうち、目的外支出であると認められる支出及び金額は、次のとおりである。
平成16年度 事務所費(駐車場代) 12万0000円
事務費(ガソリン代) 2万2102円
合計 14万2102円
平成17年度 事務所費(駐車場代) 12万0000円
事務費(ガソリン代) 3万0223円
合計 15万0223円
(2) そうすると、被告が原告に対し本来負担すべきであった残余額返還義務(すでに返還された部分を除く。)は、29万2325円(平成16年度につき14万2102円、平成17年度につき15万0223円)であると認められ、また、その限度で目的外支出を収支報告書に記載し残余額返還義務を免れたことにつき被告に過失があると認められる。したがって、被告は、原告に対し、上記29万2325円につき不法行為に基づく損害賠償義務を負うと認められる。
10 結論
以上によれば、原告の本訴請求は主文の限度で理由があるからその限度で認容し、その余はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山田明 裁判官 徳地淳 直江泰輝)