大阪地方裁判所 平成20年(ワ)2119号 判決 2010年1月26日
原告
X
被告
Y1 他1名
主文
一 被告Y1は、原告に対し、金二三三万九四二〇円及び内金二一一万四四二〇円に対する平成一七年七月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告Y2は、原告に対し、金二三三万九四二〇円及び内金二一一万四四二〇円に対する平成一七年七月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告のその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、これを五分し、その四を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
一 被告Y1は、原告に対し、金一二八七万四三五一円及び内金一一七〇万四三五一円に対する平成一七年七月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告Y2は、原告に対し、金一二八七万四三五一円及び内金一一七〇万四三五一円に対する平成一七年七月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、後記二(1)記載の交通事故(以下「本件事故」という。)によって原告が被った物損につき、加害車運転者(本件事故によって死亡)の相続人である被告両名に対し、民法七〇九条に基づく損害賠償を求めている事案である。
二 前提となる事実
(1) 本件事故の発生(甲一、七、八、弁論の全趣旨)
ア 日時 平成一七年七月五日午後一〇時一〇分ころ
イ 場所 三重県亀山市関町福徳地内名阪上り四・七キロポスト付近道路(名阪国道)上
ウ 加害車 A(以下「A」という。)運転の普通乗用自動車(〔ナンバー省略〕)(以下「A車」という。)
エ 被害車 原告所有・B(以下「B」という。)運転の普通貨物自動車(〔ナンバー省略〕)(以下「原告車」という。)
オ 態様 原告車が名阪国道西行き第二車線を走行していたところ、後方から進行してきたA車が第一車線から追い越して再び第二車線に戻り、原告車の前方でジグザグ運転していたが、車両のコントロールを失い、道路左側の側壁に激突して第一車線を塞ぐ形で停止した(Aは死亡した)。そこへ後方から第一車線上を走行してきたC運転の大型貨物自動車(以下「C車」という。)がA車との衝突を避けるために突然第二車線に車線変更した結果、第二車線上を走行していた原告車がC車に追突した。また、第一車線上を走行してきたD運転の大型貨物自動車が事故直後のA車を見て急停止したところ、その後方から走行してきたE運転の普通貨物自動車に追突された。
(2) 被告らの責任原因(当事者間に争いがない。)
ア Aは、原告に対し、不法行為責任(民法七〇九条)を負う。
イ 被告両名は、Aの相続人(両親)であるから、原告に対するAの損害賠償債務を相続した者である。
三 争点
(1) 原告の被った損害額(請求原因)
ア 原告の主張
(ア) 原告車の修理費用 一三八万三二四〇円
原告車の修理費用は総額九四一万三二四〇円であった(甲一二)が、車両保険金八〇三万円が支払済みなので、その残額一三八万三二四〇円が残損害と言える。
(イ) レッカー代 九一万八七一一円(甲二〇の(17)(18))
原告車を修理工場まで運ぶのに要したレッカー代である。
(ウ) 代車費用 四三万〇五〇〇円(甲三五)
(エ) 休車損害 一九五一万三六二〇円(甲三)
① 原告車の本件事故前三か月間の利益額(売上額から経費を控除した額)の平均は、一か月当たり二二九万五七四九円、一日当たり七万六五二四円である。
② 休車期間は、平成一七年七月五日(本件事故日)から平成一八年三月一六日(原告車の修理完了日)までの二五五日間である。
被告は六〇日間程度で十分である旨主張するが、原告車の修理が長引いた原因は、本件事故が複雑かつ大規模な事故で、被告側保険会社も迅速に対応できなかったことにあり、原告の責めに帰すべき事情によるものではないから、修理期間全てを休車期間とみるべきである。
③ そうすると、原告車の休車損害は、
七万六五二四円×二五五日間=一九五一万三六二〇円
となる。
(オ) Bに関する事故経費 合計一一六万二六二五円
別紙「Bに関する事故経費分」記載のとおり、本件事故によってBのホテル代等の出捐を余儀なくされたから、これらも本件事故と相当因果関係のある損害である。
(カ) 弁護士費用 二三四万円
イ 被告らの主張
(ア) 原告車の修理費用残額請求について
原告車の修理を行ったa自動車ボデー株式会社(以下「a社」という。)からの回答(調査嘱託に対する回答)によると、一三八万三二四〇円は未払なのではなく、請求自体していない、すなわち上記金額に相当する修理をしていないことが判る。したがって、この金額が本件事故による損害である旨の原告主張は理由がない。
(イ) 代車費用について
① 原告は代車費用としてベンツ使用料を請求するが、他方で休車期間中にBが別の車両を使用して代替業務を行った旨の主張をしているから、原告による休車損害と代車費用との重複請求は認められない。
② また、原告は平成一七年八月六日以降の代車費用に関する裏付資料(甲三五)を提出しているところ、この車両借用日は本件事故以前であるから、同車両は本件事故の代車として借用されたものではない。
(ウ) 休車損害について
① 休車期間は、原告車の修理に必要かつ相当な期間と解すべきところ、原告車の修理に必要な時間は三三〇時間程度であり、日数に換算すれば最大でも六〇日間程度となる。
原告は、被告側の保険会社からの連絡が遅れたために原告車の修理が遅れた旨を主張するが、そもそも原告車を修理するのか否かは所有者である原告が決めるべき事項であり、保険会社からの連絡の有無とは無関係である。また、通常必要な期間を超過して連絡が遅れるということはあり得ず、原告車の修理期間が平成一八年三月一六日までかかることはあり得ないから、いずれにしても原告の上記主張は採用できない。
② また、休車損害単価についても、原告提出の証拠は信用性に疑問が残る。
(エ) Bに関する事故経費について
原告が請求するホテル宿泊費、取引先を回るための交通費、Bの帰省費用など、本件事故発生による出捐の必要性ないし本件事故との間の相当因果関係が明らかでない。
また、仮に因果関係が認められたとしても、いずれも特別損害に含まれるものであり、Aないし被告らに予見可能性がないから賠償責任を負わない損害と言うべきである。
(2) 過失相殺(抗弁)
ア 被告らの主張
本件事故はAの自損事故が誘因となって発生したことは認める。しかしながら、事故現場道路の制限速度が時速六〇キロメートルであったところ、原告車はそれを超える時速八〇ないし九〇キロメートルで走行していたものであって、このために事故回避可能性を低減せしめたことは明らかである。
したがって、本件事故におけるBの過失割合は少なくとも一〇パーセントは認められるべきである。そして、Bは原告の業務として原告車を運転していたものであるから、信義則上、Bの落ち度は原告のそれと同視できる。よって、原告の本件請求につき、少なくとも一〇パーセントの過失相殺がなされるべきである。
イ 原告の主張
原告車の走行速度は認めるが、過失相殺の主張は争う。
第三当裁判所の判断
一 原告の損害額(弁護士費用を除く。) 総合計四六九万八七一一円
(1) 車両損害残額 〇円
ア 原告は、原告車の修理費用が総額九四一万三二四〇円であった(甲一二)が、車両保険金八〇三万円が既に支払われているので、その残額一三八万三二四〇円が残損害である旨主張している。
イ 当裁判所からの調査嘱託に対するa社からの平成二一年一月二一日付け回答書(以下「本件調査嘱託に対する回答書」という。)によると、上記一三八万三二四〇円は原告車に装着されていた特注のフロントバンパーの修理費用相当額であることが認められる。したがって、これが本件事故によって損傷したものであるならば、被告側が賠償しなければならない損害である。
ところが、本件調査嘱託に対する回答書には「当社は、ご指摘の金一三八万三二四〇円について、誰にも請求していませんし、入金もされていません。」とも記載されている。そうすると、上記修理費用相当額については既に支払われた保険金の範囲内でまかなうことにした可能性もあり、果たして未払損害額と評価できるのか疑問が残る。これに対し、原告はa社に対する平成一七年九月一六日付け見積書控え(甲四〇・F1ことF作成)を提出しているが、これに記載されている「工場長 G様」はそれよりも前の平成一六年一一月二五日にa社を退職していることが窺われる(本件調査嘱託に対する回答書参照)から、その内容の信用性に疑問が残る上に、既払車両保険金の範囲内に収めた可能性を左右するものでもない。したがって、この一三八万三二四〇円が車両損害残額であるとの認定まではできないと言わなければならない。
(2) レッカー代 合計九一万八七一一円
原告が支払ったレッカー代九一万八七一一円(甲二〇の(17)(18))は、本件事故と相当因果関係のある損害である。
(3) 代車費用 〇円
ア 原告は、本件事故による代車費用として合計四三万〇五〇〇円(甲三五)を請求する。
イ しかしながら、代車は本件事故によって当該事故車両が使用できなくなった場合に使用するものであるから、本件事故日以前(平成一七年六月二六日)から借りていた代車(甲三五添付の車両借用証参照)の使用料が本件事故と相当因果関係のある損害とは認め難い。原告は、原告車が使用できなくなったことから必要となった業務のために従前から借りていたベンツを利用したから本件事故による代車と同視できる旨主張するが、当初借りた際の事情に突然の変更があったと窺えないから、上記判断を左右するには至らない。
(4) 休車損害 合計三七八万円
ア 休車損害単価額の認定について
(ア) まず、原告車の本件事故直前三か月間の売上額は合計九五二万八二五九円(甲五の(2)ないし(4))であり、日額平均一〇万五八六九円(円未満切捨て)と認定するのが相当である。
(イ) 休車損害単価は、売上額から変動経費を控除した残額となるが、原告車の変動経費の額を正確に認定する裏付資料がないと言わざるを得ない。原告は運転管理日報(甲六)に基づいて算定すべき旨を主張するけれども、これには「平成一七年四月三一日」欄があり、それに続いて五月一日欄が書かれていることに照らすと単なる誤記とも思われず、ひいては書面全体の信用性に対する疑問を払拭できない。
しかし、原告車が本件事故によってかなりの損傷を受け、休車損害が全く発生していないとは到底考えられないから、民事訴訟法二四八条により、原告車の休業損害単価を日額六万三〇〇〇円と認定するのが相当である。
イ 休車期間について
休車損害を算定する「休車期間」は、現実に事故車の修理又は買替えをするまでに要した期間ではなく、修理又は買替えに要する「相当期間」である。そして、修理ないし買替えに必要な「相当期間」の判断に当たっては、修理・買替えそれ自体に要する期間のほかに、加害者側とのいわゆる交渉期間も必要・相当な範囲で肯定すべきと考える。
これを本件においてみるに、原告は、「被告側保険会社の対応の不手際によって修理に着手するのが遅れたから、原告車修理完了までの全期間が休車期間である。」旨主張する。しかしながら、保険会社の対応の不手際の具体的内容は連絡がなかなか来なかったというに止まり(原告本人尋問調書一九九項ないし二〇三項参照)、交渉が長引いたということでもないから、原告車の修理自体に要する期間をもって「相当期間」と認定するのが相当である。そして、原告車の修理自体に要する期間としては、工賃から算定すると約三三〇時間となり(乙二、弁論の全趣旨)、多く見積もっても六〇日間とみるのが相当である。
ウ よって、本件事故による原告車の休車損害の額は、
六万三〇〇〇円×六〇日=三七八万円
となる。
(5) Bに関する事故経費 〇円
ア 原告は、本件事故によって出捐を余儀なくされた経費として、別紙「Bに関する事故経費分」記載の金員の賠償を請求している。
イ しかしながら、ここに記載されているものは、本件事故によって通常発生する損害ではなく、いわゆる特別損害に該当するものと解されるところ、Aないし被告らにおいて予見できるとは認め難いから、被告らに賠償を求め得る損害とは言えない。
二 過失相殺について
(1) 本件事故は、自動車専用道路上でのAの無謀な運転に主として起因するものである。しかしながら、Bが制限速度を遵守していれば本件事故の発生を回避できた可能性も否定できないことも勘案すると、本件事故における過失割合は、Aが九割、Bが一割と解するのが相当である。
そして、Bが原告の従業員であり、上記過失行為が原告の事業の執行中に行われたものであることを考慮すると、Bの過失は、信義則上、原告の落ち度と同視できると言うべきである。したがって、原告の損害額から上記Bの過失割合に応じて過失相殺するのが相当である。
(2) したがって、前記一(1)ないし(5)記載金額の合計額(四六九万八七一一円)からその一割を減額すると、四二二万八八四〇円となる。
三 弁護士費用 四五万円
本件事案の性質、審理の経過及び認容額等を考慮すると、本件事故と相当因果関係のある損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は、四五万円をもって相当と認める。
四 結論
よって、原告の本訴請求は、被告両名に対し、民法七〇九条に基づいて、それぞれ損害賠償金合計二三三万九四二〇円及び内金二一一万四四二〇円(弁護士費用を控除した額)に対する平成一七年七月六日(本件事故日の翌日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるが、その余は理由がない。
(裁判官 藤田昌宏)
別紙Bに関する事故経費分
年
月
日
費目
金額
備考
17
7
5
市原工場~JR蘇我(送迎)
3,600
市原工場~JR蘇我(送迎)
3,013
6
JR蘇我~JR東京(1名分)
500
JR東京~JR四日市(1名分)(指定)
510
JR東京~JR四日市(1名分)
15,320
JR東京四日市~ハートサービス上野分駐所
レッカー高速隊(タクシー1名分)
13,560
鈴鹿中央病院~JR亀山(タクシー1名分)
2,550
JR亀山~JR柘植(1名分)
1,000
領収書なし
上野分駐所~近鉄伊賀上野(タクシー2名分)
1,210
近鉄伊賀上野~近鉄・伊賀神戸(2名分)
2,000
領収書なし
近鉄伊賀神戸~近鉄河内花園(2名分)
3,960
近鉄河内花園~丹誠運輸(タクシー2名分)
900
丹誠運輸~自宅(タクシー2名分)
6,130
その他
2,040
その他
1,000
B家その他
14,070
7
自宅~JR茨木(タクシー1名分)
1,130
JR茨木~JR東京(2名分)(指定)
9,280
JR茨木~JR東京(2名分)
28,100
JR東京~市原工場(錦糸町~船橋)(送迎)
700
領収書なし
JR東京~市原工場(船橋~蘇我)(送迎)
600
領収書なし
市原工場~椎名急送(蘇我~大栄)
1,650
領収書なし
市原工場~椎名急送(松尾~大宮)
900
領収書なし
B家その他
1,260
B家その也
2,240
B家その也
1,190
8
市原工場~所沢(蘇我~所沢)
2,600
領収書なし
市原工場~所沢(所沢~蘇我)
2,600
領収書なし
9
市原工場~a自動車(大宮~松尾)
900
領収書なし
市原工場~a自動車(松尾~大宮)
900
領収書なし
10
JR千葉~JR茨木(1名分)(往復分)
27,520
JR茨木~自宅(タクシー1名分)
970
11
自宅~JR茨木(タクシー1名分)
970
領収書なし
ホテル京成ミラマーレ(1名分)
16,065
16
ホテル京成ミラマーレ(1名分)(7/12~7/15宿泊分)
99,708
17
JR清水~JR茨木(特急券片道分・乗車券往復分)
16,160
JR茨木~自宅(タクシー1名分)
970
領収書なし
18
JR清水焼津~千葉
6,167
領収書なし
19
自宅~JR茨木(タクシー1名分)
970
JR茨木~JR清水(特急券片道分)
3,980
23
ホテル京成ミラマーレ(7/18~7/23泊分)
75,642
8
1
ホテル京成ミラマーレ(7/23~8/1泊分)
130,084
ホテルルミエール葛西
8,000
羽田~伊丹(24,700のところ、1名分)
12,350
2
伊丹日産レンタカー
25,830
3
伊丹~羽田
42,400
ホテルルミエール葛西
8,000
7
ホテル京成ミラマーレ
13,062
9
ホテル京成ミラマーレ(8/9~8/11泊分)
39,396
12
ホテル京成ミラマーレ(8/12~8/16泊分)
37,674
20
ホテル京成ミラマーレ(8/20~8/21泊分)
10,290
JR八幡宿~茨木(定期券1ケ月分)
445,170
26
ホテル京成ミラマーレ
15,834
合計
1,162,625