大阪地方裁判所 平成20年(ワ)6177号 判決 2008年11月13日
主文
1 被告は,原告に対し,金20万円及びこれに対する平成9年3月1日から支払済みまで年5パーセントの割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は,被告の負担とする。
3 この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
主文同旨
第2事案の概要
本件は,被告に入会する際に,会館維持協力金として,被告に対し20万円を納付した原告が,「①司法書士法では,入会時の負担金については,法務大臣の認可を要する司法書士会の会則に定めなければならないことになっているにもかかわらず,被告の会則には,会館維持協力金と称する入会時の負担金についての定めがなされていない以上,被告が原告から会館維持協力金を徴収することは司法書士法に反し違法であり,原告が被告に納付した上記20万円は,法律上の原因がないものである,②仮に,被告の主張するように,会館維持協力金は司法書士法の定める入会時の負担金にあたらず,被告が原告から会館維持協力金を徴収することが,司法書士法に違反しないと解すことができたとしても,その場合,原告は,会館維持協力金として,被告に20万円を納付しなければ,被告に入会することができないと誤信して,被告に20万円を納付したのであるから,原告の被告に対する20万円の納付は,錯誤に基づくものとして無効であり,原告が被告に納付した20万円は法律上の原因がないものであるところ,被告は,原告から会館維持協力金を徴収することができないことを知った上で,原告から上記20万円を受領しているので,悪意の受益者である。」などと主張して,不当利得返還請求権(民法703条,704条)に基づき,被告に対し,20万円及びこれに対する被告が原告から20万円を受領した後である平成9年3月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による利息の支払いを求めている事案である。
1 前提事実(証拠の掲記されていないものは,争いがないか,明らかに争わない事実である。)
(1) 当事者
被告は,司法書士法に基づく,大阪府で業務を行う司法書士を構成員とする法人であり,原告は,被告の会員であったものである。
(2) 会館維持協力金の納付
原告は,平成9年2月6日,被告に入会する際,会館維持協力金として,被告に20万円を納付した(甲1)。
(3) 原告の入会及び退会
原告は,平成9年2月19日,被告に入会し,平成18年11月27日,被告を退会した(乙10)。
(4) 司法書士法の規定
原告が被告に入会した当時の司法書士法(以下「改正前の司法書士法」という。)15条7号は,司法書士会の会則には,入会及び退会に関する規定(入会金その他の入会についての特別の負担に関するものを含む。)を記載しなければならないと定め,同法15条の2は,司法書士会の会則を定め,又はこれを変更するには,法務大臣の認可を受けなければないと規定していた。
なお,現行司法書士法においても,53条6号,54条に同一内容の規定がなされている。
(5) 会館維持協力金に関する規定
ア 原告が被告に入会した当時の大阪司法書士会会館管理運営規則(以下「本件規則」という。)は,会館維持協力金について,下記のとおり規定していた。
記
7条 本会に新たに入会する者は,入会に際し,会館維持協力金として,金20万円を本会に納付しなければならない。ただし,再入会するときはこの限りではない。
2 前項の納付については,規程の定めるところにより延納または分割払の方法によることができる。
イ 被告は,平成11年5月22日開催の第109回定時総会において,本件規則を改正し,同規則は,平成12年4月1日より施行された。
改正後の会館維持協力金に関する規定は,下記のとおりである。
記
10条 本会の会員は,会館維持協力金として金20万円を本会に納付するものとする。ただし,昭和63年3月31日現在,会員であった者についてはこの限りではない。
2 本協力金は,通算して20万円を超えないものとする。
3 前項の納付については,規程の定めるところにより延納または分割払の方法によることができる。
ウ 被告の会則には,会館維持協力金に関する規定はない。
2 争点
(1) 法務大臣の認可を受けた被告の会則に会館維持協力金に関する定めをしないで,原告から会館維持協力金を徴収したことが,司法書士法に違反するか。
(2) 原告の錯誤無効の主張が認められるか。
3 争点に対する当事者の主張
(1) 争点(1)(法務大臣の認可を受けた被告の会則に会館維持協力金に関する定めをしないで,原告から会館維持協力金を徴収したことが,司法書士法に違反するか。)
(原告の主張)
ア 会館維持協力金は,以下の理由により,改正前の司法書士法15条7号にいう「入会金その他の入会についての特別の負担に関するもの」に該当するというべきである。
(ア) 被告が原告から会館維持協力金を徴収するための根拠として主張している,原告が被告に入会した当時の本件規則7条には,「本会に新たに入会する者は,入会に際し,会館維持協力金として,金20万円を本会に納付しなければならない。ただし,再入会するときはこの限りではない。」と規定されている。上記規定によれば,会館維持協力金が,改正前の司法書士法15条7号にいう「入会金その他の入会についての特別の負担に関するもの」に該当することは明らかである。
また,原告の入会時に被告から配布された「登録申請時に必要な費用」と題する書面(甲2)には,「会館維持協力金¥200,000」と明記されているところ,被告は,この書面を入会希望者に渡して,会館維持協力金を徴収している。要するに,被告は,入会希望者に対して,会館維持協力金を納付しなければ,被告に入会することができない旨を告知しているのである。この事実からも,会館維持協力金が,改正前の司法書士法15条7号の「入会金その他の入会についての特別の負担に関するもの」であることは明らかである。
さらに,昭和60年4月12日に開催された衆議院法務委員会において,政府委員は,改正前の司法書士法15条7号の立法趣旨について,「会費については,自分たちがこれから毎月納めていく会費をどうするかということであるから,これはまさに自主的に決めてもらってもよいということで,法務大臣の認可を要しないこととしたのに対し,入会金については,その会則の変更の決議をする会員が負担するのではなく,これから新たに入会しようとする者(いわば第三者)に負担させるものなので,法務大臣の認可を要することにした。」という趣旨の発言をしているところ,会館維持協力金は,まさに,これから入会しようとする者に負担させるものである。したがって,会館維持協力金は,この点からも,改正前の司法書士法15条7号にいう「入会金その他の入会についての特別の負担に関するもの」に該当すると解すべきである。
(イ) これに対し,被告は,会館維持協力金の納付は,被告に入会するための要件ではないから,会館維持協力金は,改正前の司法書士法15条7号の「入会金その他の入会についての特別の負担に関するもの」にはあたらない旨主張する。
しかし,入会の要件は,法の規定によって当然に定まるものであって,一司法書士会がその要件を独自に定められるという議論自体が誤りである。
問題は,会館維持協力金が,事実上の参入規制になり,あるいはこれから被告に入会する会員にとって,高額の負担の強制になっているかでどうかである。そして,この点については,昭和63年4月1日以降平成20年3月の毎日新聞の記事が出るまで,千数百人の入会者がありながら,会館維持協力金を負担せずに入会手続きをしている者が皆無であり(被告の主張によれば,1名だけ現金を支払っていないものがいるそうであるが,この者も数ヶ月後に会館維持協力金を支払うという債務を負担して入会手続きが始まっている。),会館維持協力金が事実上の参入規制になり,これから被告に入会する会員にとって高額の負担の強制になっていることは明らかである。
よって,被告の上記主張は失当である。
イ 結論
会館維持協力金が,改正前の司法書士法15条7号にいう「入会金その他の入会についての特別の負担に関するもの」に該当する以上,法務大臣の認可を受けた被告の会則に,会館維持協力金に関する定めをしないで,原告から会館維持協力金を徴収することは,司法書士法に違反することになる。
(被告の主張)
ア 改正前の司法書士法15条7号(現行司法書士法53条6号)にいう「入会金その他の入会についての特別の負担に関するもの」の意味
(ア) 司法書士法,被告の会則における登録,入会手続からの説明
日本司法書士連合会に司法書士として登録しようとする者は,その申請と同時に申請を経由すべき司法書士会に入会する手続きをとらなければならず(司法書士法57条1項),前項により入会の手続きを取った者は,当該登録の時に,当該司法書士会の会員になると定められている(同法2項)。他方,司法書士名簿の登録を受けようとする者が,同法57条1項の規定による入会手続きを取らないときは,日本司法書士連合会において,その登録を拒否しなければならないと定めている(同法10条1項)。
次に,被告の入会手続は,会則において詳細に規定されているところ,会則23条は,入会金の納付を入会手続きの不可欠の要素と位置づけている。
したがって,司法書士会に入会しようとする者は,会則で定められた入会金を納付するなど司法書士法57条1項による入会手続きをとらなければ,日本司法書士連合会に備える司法書士名簿への登録が拒否されることになり,司法書士会に入会することもできない。
以上の登録,入会手続の構造から考えると,司法書士法53条6号の「入会金」とは,入会しようとする者に対して納付義務を課す金員であって,その納付をしなければ入会が認められない性質のものを意味することになる。また,「その他の入会についての特別の負担」とは,上記の「入会金」に続けての文言であるから,「入会金」と同じく入会手続の不可欠の要素とされる特別の負担を意味することになる。
よって,「入会金その他入会についての特別の負担」とは,入会金その他名称の如何を問わず,およそ入会をしようとする者に対して納付義務を課す一切の金員であって,その納付をしなければ入会が認められない性質のものを意味すると解すべきである。
(イ) 立法趣旨からの説明
司法書士会は,自主的かつ自律的な組織・会務運営が行われている団体であって,その自主性・自立性は法律上も最大限尊重される必要があることから,会務運営などに要する経費を支弁するために会員に課す納付義務(会費)の内容については,会の自主的な決定に委ねられている。
ところが,団体自治の名の下に,司法書士会の既存会員が,入会をしようとする者に対して,入会手続の際に,金員の納付その他特別の負担を課して,その履行をしなければ登録・入会を認めないとの取り扱いを自由に定めることができるとすれば,その内容・程度如何によっては,司法書士が定める司法書士の資格,登録・入会に関する規制以上の規制を許すことになり,それぞれの司法書士会による独自の参入規制を認めることになりかねない。
そこで,司法書士法は,それぞれの司法書士会が独自の参入規制を設けるのを防止するために,「入会金その他入会についての特別の負担」を設ける場合には,会則で定めなければならないとして,法務大臣の認可にかからしめたのである。
よって,「入会金その他入会についての特別の負担」とは,入会金その他名称の如何を問わず,およそ入会をしようとする者に対して納付義務を課す一切の金員であって,その納付をしなければ入会が認められない性質のものを意味すると解すべきである。
イ 会館維持協力金が,「入会金その他入会についての特別の負担」にあたるか。
(ア) 会館維持協力金は,本件規則の規定上,入会金と異なって,入会届の提出と同時に納付すべきことを要求されているわけではないから,会館維持協力金の納付は,入会手続きの不可欠の要素でないことは明らかである。現に,会館維持協力金の納付については,延納または分割払が認められており,制度的にも,その納付をしなくとも,入会自体は認められているのである。
(イ) よって,会館維持協力金は,入会をしようとする者に対して納付義務を課す金員ではなく,その納付をしなければ入会が認められない性質のものでないことは明らかであるから,「入会金その他入会についての特別の負担」にあたらないのは当然である。
ウ 結論
会館維持協力金が,改正前の司法書士法15条7号にいう「入会金その他入会についての特別の負担」にあたらない以上,法務大臣の認可を受けた被告の会則に,会館維持協力金に関する定めをしないで,原告から会館維持協力金を徴収することは,何ら司法書士法に違反しない。
(2) 争点(2)(原告の錯誤無効の主張が認められるか。)について
(原告の主張)
仮に,法務大臣の認可を受けた被告の会則に,会館維持協力金の定めをしないで,原告から会館維持協力金を徴収することが司法書士法に違反しないとしても,原告が被告に対して会館維持納付金として20万円を納付したことは,以下のとおり,錯誤により無効である。
すなわち,原告は,自主的に納付することが期待されている会館維持協力金を,入会時に納めないと入会できないと被告に欺罔されて錯誤に陥り,会館維持協力金20万円を納付したことになるところ,会館維持協力金が,単に自主的に納付することが期待されているだけのものであったならば,原告は,決して会館維持協力金を納めなかった。したがって,原告による会館維持協力金の納付は,錯誤に基づくものであって,無効である。
(被告の主張)
争う。
第3当裁判所の判断
1 証拠(甲2,乙2)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。
(1) 被告は,昭和58年10月15日,会館を竣工したが,会館の建築に要した土地の購入費,借入金の返済については,昭和54年1月から同63年3月まで,その当時の会員から,月額1000円の会館建設特別会費を徴収し,昭和56年4月からは,会員証紙制度を実施して,事件数割会費を徴収するなどして,昭和63年3月に完済した。
被告は,会館は既存の会員の負担で建設されたものであり,新しく被告に入会する者についても,会館維持協力として金20万円程度の負担をしてもらうのが公平であるとの理由により,昭和62年11月28日開催の第95回臨時総会において,本件規則を制定し,その17条に,「本会に新たに入会する者は,入会に際し,会館維持協力金として,金20万円を本会に納付しなければならない。ただし,納付方法については,委員会の議決により,その延納または分割払について考慮することができる。」との規定を設けた。
(2) 原告が,被告に入会した平成9年2月当時,被告に入会を希望する者に対しては,「登録申請時に必要な費用及び登録後に必要な費用」と題する書面(甲2)が交付されており,原告も,被告に入会登録申請をする際に,この書面を受領した。
上記書面の「登録申請時に必要な費用」の項目には,登録費用として,登録免許税(収入印紙)3万円,登録手数料2万5000円,入会費用として,入会金4万円,定額会費(1万円×3か月分)3万円及び会館維持協力金20万円が必要である旨の記載がなされている。
なお,上記書面の「登録後に必要な費用」としては,会員記章6500円,看板(大)1万7000円,看板(小)1万1000円が必要である旨の記載がなされている。
2 検討
(1) 改正前の司法書士法15条7号が規定する「入会金その他入会についての特別の負担」の意義
ア 改正前の司法書士法15条9号は,司法書士会の会則には,会費に関する規定を記載しなければならないと定め,同法15条の2は,司法書士会の会則を定め,又はこれを変更するには,法務大臣の認可を受けなければないと定めているところ,同法15条の2ただし書きは,法務大臣の認可を受けなければならない事項から,会費に関する規定を除外している。
そして,会費に関する規定が,法務大臣の認可を受けなければならない事項から除外されたのは,昭和60年の司法書士法改正においてであり,それ以前の司法書士法では,会費に関する規定についても,入会金その他の入会についての特別の負担に関する規定(改正前の司法書士法15条7号の入会に関する規定)と同じく,法務大臣の認可を要することとされていた。
イ そこで,昭和60年の司法書士法改正において,会費に関する規定については,法務大臣の認可を要する事項から除外されたにもかかわらず,入会金その他の入会についての特別の負担に関する規定については,法務大臣の認可を要する事項から除外されなかった理由,すなわち,その立法趣旨について検討する。
まず,会費に関する規定については,会費が,すべての会員に課される一般的な負担にかかわるものであるから,司法書士会の自主的な運営に委ねるのが相当であるとの理由により,法務大臣の認可を要する事項から除外されたものと考えられる。
これに対し,入会金その他の入会についての特別の負担に関する規定は,すべての会員に課される一般的な負担にかかわるものではなく,新たに入会する者,すなわち,会則の制定又は変更決議をする当時においては,いまだ会員でない者(したがって,その点では,第三者ということができる。)のみに課される特別な負担にかかわるものであるから,司法書士会の自主的な運営に委ねるのは相当でないとの理由により,法務大臣の許可を要する事項から除外されなかったものと考えられる。つまり,入会に関する規定は,既存の会員によって,新たに入会する者に対して不当な負担が課されることを防止するために,法務大臣の許可を要する事項から除外されなかったのである。
なお,以上の立法趣旨については,政府委員の答弁(甲12)からも明らかである。
ウ 以上によれば,改正前の司法書士法15条7号の「入会金その他入会についての特別の負担」とは,入会金その他名称の如何を問わず,新たに入会する者のみに課される特別な負担であると解するのが相当である。
エ ところで,被告は,「入会金その他入会についての特別の負担」とは,入会金その他名称の如何を問わず,およそ入会をしようとする者に対して納付義務を課す一切の金員であって,その納付をしなければ入会が認められない性質のものを意味すると解すべきである旨主張するので,以下,この点について検討する。
(ア) まず,被告は,上記のとおり,司法書士法及び被告の会則に規定されている登録,入会手続の構造から考えると,改正前の司法書士法15条7号の「入会金」とは,入会しようとする者に対して納付義務を課す金員であって,その納付をしなければ入会が認められない性質のものを意味することになり,そして,「その他の入会についての特別の負担」とは,上記の「入会金」に続けての文言であることから,「入会金」と同じく入会手続の不可欠の要素とされる特別の負担を意味することになる旨主張する。
しかし,被告の会則において,入会金の納付が入会手続の不可欠な要素となっているからといって,同法15条7号の「入会金」も,被告の入会金と同様,その納付をしなければ入会が認められない性質のものを意味すると解さなければならない合理的理由はない。また,仮に,同法15条7号の「入会金」が,その納付をしなければ入会が認められない性質のものであると解されたとしても,同号の「その他入会についての特別な負担」についても,「入会金」と同様の性質を有するものと解する必要はないというべきである。
なぜなら,被告の主張する司法書士法及び被告の会則に規定されている登録,入会手続の構造と,改正前の司法書士法15条7号の「入会金その他の入会についての特別の負担」の解釈とは,必ずしも関連性を有していないと考えられるからである。
(イ) 次に,被告は,立法趣旨の点からも,司法書士法は,それぞれの司法書士会が独自の参入規制を設けるのを防止するために,「入会金その他入会についての特別の負担」を設ける場合には,会則で定めなければならないとして,法務大臣の認可にかからしめたのであるとして,改正前の司法書士法15条7号の「入会金その他入会についての特別の負担」とは,入会しようとする者に対して納付義務を課す金員であって,その納付をしなければ入会が認められない性質のものを意味することになる旨主張する。
しかし,改正前の司法書士法15条7号の入会に関する規定が,法務大臣の認可を要する事項から除外されず,その認可を要することとされているのは,上記イのとおり,既存の会員によって,新たに入会する者に対して不当な負担が課されることを防止するためであって,それぞれの司法書士会が独自の参入規制を設けるのを防止するためではない。
したがって,被告の上記主張は,その前提を欠くというべきである。
(ウ) さらに,改正前の司法書士法15条7号の入会に関する規定を法務大臣の認可を要する事項から除外しなかった立法趣旨を上記のとおりに解する以上,同号の「入会金その他の入会についての特別の負担」を,被告の主張するように,入会しようとする者に対して納付義務を課す金員であって,その納付をしなければ入会が認められない性質のものを意味すると解するのは,相当でないというべきである。
なぜなら,その納付をすることが入会の要件になっていない負担であっても,その内容によっては,新たに入会する者にとって,相当大きな負担になることは十分に考えられることであるから,既存の会員によって,新たに入会する者に対して不当な負担が課されることを防止する必要性があると考えられるからである。
(2) 会館維持協力金が改正前の司法書士法15条7号が規定する「入会金その他入会についての特別の負担」に該当するか。
ア 被告において会館維持協力の制度を設けた経緯及び原告が被告に入会した当時の本件規則7条の規定によれば,会館維持協力金が,新たに被告に入会する者のみに課される負担であることは明らかである。
ところで,上記本件規則7条の規定は,原告が被告に入会した後に改正がなされているが,本件では,原告が被告に納付した会館維持協力金が,改正前の司法書士法15条7号が規定する「入会金その他入会についての特別の負担」に該当するか否かが問題になっているのであるから,上記改正は,本件とは無関係である。なお,念のため付言するに,上記改正によっても,会館維持協力金の実質的内容は何ら変更されておらず,会館維持協力金が,新たに被告に入会する者のみに課される負担であることは明らかである。
イ そして,会館維持協力金の金額が20万円と少額なものではない上,20万円という金額は,新たに被告に入会する者が入会に伴い負担する金額の5割を遙かに超えるものであることからすると,会館維持協力金は,改正前の司法書士法15条7号が規定する「入会金その他入会についての特別の負担」に該当すると認めるのが相当であり,他にこの認定を左右する証拠はない。
(3) 以上のとおりであるから,法務大臣の認可を受けた被告の会則に,会館維持協力金に関する定めをしないで,原告から会館維持協力金を徴収することは,改正前の司法書士法15条7号,15条の2に違反するというべきである。
そうすると,被告が原告から会館維持協力金として受領した20万円は,法律上の原因がないことになり,原告は,被告に対し,20万円の不当利得返還請求権を有するものと認めることができる。
なお,原告が,会館維持協力金として20万円を自主的に被告に寄付する意思で交付したか,あるいは,会館維持協力金として20万円を被告に納付した後,事後的にこれを被告に寄付する意思を表示した場合には,被告が原告から会館維持協力金として受領した20万円は,法律上の原因を有することになるが,本件全証拠によっても,そのような事実を認めることは到底できない。
そして,被告は,当然のことながら,司法書士法の規定については熟知しているのであるから,原告から被告に会館維持協力金として納付された20万円が法律上の原因のないものであることを知っていたと認めるのが相当である。したがって,被告は,民法704条所定の悪意の受益者であると認めることができる。
第4結論
よって,原告の本件請求は,理由があるから,これを認容することとする。
(裁判官 飯淵健司)