大阪地方裁判所 平成20年(ワ)6226号 判決 2009年6月04日
原告
P
被告
ソニー株式会社
上記訴訟代理人弁護士
熊倉禎男
同
辻居幸一
同
渡辺光
同
高石秀樹
上記訴訟代理人弁理士
中村佳正
主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1当事者の求めた裁判
1 原告
(1) 被告は,原告に対し,2100万円及びこれに対する平成20年5月29日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
(3) 仮執行宣言
2 被告
主文と同旨
第2事案の概要
1 前提事実(当事者間に争いがない。)
(1) 当事者
原告は,次の特許権を有する権利者である。
被告は,電気機械器具の製造等を業とする会社である。
(2) 本件特許権
原告は,次の特許(以下「本件特許」といい,請求項1記載の発明を「本件発明1」といい,請求項4記載の発明を「本件発明2」といい,請求項7記載の発明を「本件発明3」という。なお,本件発明1ないし3を総称して,単に「本件発明」という。また,本件特許に係る明細書を「本件明細書」という。)にかかる特許権(以下「本件特許権」という。)を有している。
登録番号 特許第3399496号
発明の名称 情報供給方法と情報供給システム及び情報読出装置
出願日 平成8年7月2日
登録日 平成15年2月21日
特許請求の範囲
【請求項1】
一つのデータ入力部に入力されたデータを書込可能な書込領域を備えた記憶手段を用い,
前記一つのデータ入力部に入力された一連に再生される映像情報又は音声情報の一つに対応する一連のデータを,前記書込領域に端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えながら,その書込領域に書き込まれている前記記憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の任意の複数の位置の各々から端末への送信用のデータとして読み出して,複数の端末に送信する情報供給方法。
【請求項4】
一つのデータ入力部に入力されたデータを書込可能な書込領域を備えた記憶手段を設け,
前記一つのデータ入力部に入力された一連に再生される映像情報又は音声情報の一つに対応する一連のデータを,前記書込領域に端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えながら,その書込領域に書き込まれている前記記憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の任意の複数の位置の各々から端末への送信用のデータとして読み出して,複数の端末に送信する情報供給システム。
【請求項7】
一つのデータ入力部に入力されたデータを書込可能な書込領域を備えた記憶手段を,
前記一つのデータ入力部に入力された一連に再生される映像情報又は音声情報の一つに対応する一連のデータを,前記書込領域に端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えながら,その書込領域に書き込まれている前記記憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の任意の複数の位置の各々から端末への送信用のデータとして読み出し可能に設けてある情報読出装置。
(3) 本件発明の構成要件
本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである。
ア 本件発明1
1A 一つのデータ入力部に入力されたデータを書込可能な書込領域を備えた記憶手段を用い,
1B 前記一つのデータ入力部に入力された一連に再生される映像情報又は音声情報の一つに対応する一連のデータを,前記書込領域に端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えながら,
1C その書込領域に書き込まれている前記記憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の任意の複数の位置の各々から端末への送信用のデータとして読み出して,
1D 複数の端末に送信する情報供給方法。
イ 本件発明2
2A 一つのデータ入力部に入力されたデータを書込可能な書込領域を備えた記憶手段を設け,
2B 前記一つのデータ入力部に入力された一連に再生される映像情報又は音声情報の一つに対応する一連のデータを,前記書込領域に端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えながら,
2C その書込領域に書き込まれている前記記憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の任意の複数の位置の各々から端末への送信用のデータとして読み出して,
2D 複数の端末に送信する情報供給システム。
ウ 本件発明3
3A 一つのデータ入力部に入力されたデータを書込可能な書込領域を備えた記憶手段を,
3B 前記一つのデータ入力部に入力された一連に再生される映像情報又は音声情報の一つに対応する一連のデータを,前記書込領域に端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えながら,
3C その書込領域に書き込まれている前記記憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の任意の複数の位置の各々から端末への送信用のデータとして読み出し可能に設けてある
3D 情報読出装置。
(4) 被告製品
被告は,遅くとも平成17年10月25日から,「VGX-XV80S」及び「VGX-XV40S」(以下,合わせて「被告製品」という。)を製造販売等している。
2 原告の請求
原告は,被告製品が,原告の有する本件特許権の本件発明2及び本件発明3の各技術的範囲に属するから,被告による被告製品の製造販売等が本件特許権を侵害し,また,被告製品が本件発明1の使用に用いる物であって,本件発明1による課題の解決に不可欠のものであるから,被告による被告製品の製造販売等行為が本件特許権を間接的に侵害しているとして(特許法101条5号),被告に対し,特許法102条3項の規定に基づく実施料相当額の損害賠償2100万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成20年5月29日から支払済みまで民法所定年5%の割合による遅延損害金の支払を求めている。
3 争点
(1) 被告製品の構成 (争点1)
(2) 特許法101条5号の間接侵害の成否 (争点2)
(3) 被告製品は本件発明2の技術的範囲に属するか (争点3)
ア 構成要件2Aの充足性 (争点3-1)
イ 構成要件2Bの充足性 (争点3-2)
ウ 構成要件2Cの充足性 (争点3-3)
エ 構成要件2Dの充足性 (争点3-4)
(4) 被告製品は本件発明3の技術的範囲に属するか (争点4)
ア 構成要件3Aの充足性 (争点4-1)
イ 構成要件3Bの充足性 (争点4-2)
ウ 構成要件3Cの充足性 (争点4-3)
エ 構成要件3Dの充足性 (争点4-4)
(5) 本件特許は無効審判により無効とされるべきか否か (争点5)
ア 無効理由1-新規性又は進歩性の欠如1 (争点5-1)
イ 無効理由2-新規性又は進歩性の欠如2 (争点5-2)
ウ 無効理由3-新規性又は進歩性の欠如3 (争点5-3)
エ 無効理由4-新規性又は進歩性の欠如4 (争点5-4)
オ 無効理由5-補正要件違反構成要件 (争点5-5)
カ 無効理由6-記載不備 (争点5-6)
(6) 損害額 (争点6)
第3争点に係る当事者の主張
1 争点1(被告製品の構成)
【原告の主張】
被告製品は,一つのチューナーで受信中の映像及び音声,又は,一つのオーディオ/ビデオ入力端子を介して入力中の映像及び音声を記録しながら,記録済みの映像及び音声の再生信号を,外部に接続された2台のPCと1台のテレビのそれぞれに対して送信するために,次の構成を備えている。
(1) 一つのデータ入力部に入力された「MPEGデータ」を書込可能な書込領域を備えた「ハードディスク」を設けてある「ハードディスクドライブ」が内蔵されている。
(2) 「ハードディスクドライブ」は,一つのデータ入力部に入力された「一つのチューナーによる設定された録画パターンに応じた受信開始から受信終了までの映像及び音声」又は「一つのオーディオ/ビデオ入力端子を介して入力される入力開始から入力終了までの映像及び音声」に対応する一連の「MPEGデータ」を,「ハードディスク」の書込領域に「2台のPCと1台のテレビ」への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き込むものである。
(3) 「ハードディスクドライブ」は,「一つのチューナーによる設定された録画パターンに応じた受信開始から受信終了までの映像及び音声」又は「一つのオーディオ/ビデオ入力端子を介して入力される入力開始から入力終了までの映像及び音声」に対応する一連の「MPEGデータ」の全部を「ハードディスク」の書込領域に書き込み終えるまで繰り返し行われる「書き込み用バッファメモリ領域内のMPEGデータをハードディスクに書き込む指示」(以下「書込指示」という。)により,
「一つのチューナーによる設定された録画パターンに応じた受信開始から受信終了までの映像及び音声」又は「一つのオーディオ/ビデオ入力端子を介して入力される入力開始から入力終了までの映像及び音声」に対応する一連の「MPEGデータ」を「ハードディスク」の書込領域に書き加えるものである。
(4) 「ハードディスクドライブ」は,「2台のPCと1台のテレビ」のそれぞれにおいて任意に選択された再生シーン毎に,再生開始から再生終了まで繰り返し行われる「ハードディスクからMPEGデータを読み出して,読み出し用バッファメモリ領域へ格納する指示」(以下「読出指示」という。)により,
「ハードディスク」の書込領域に書き込まれている記憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の,「2台のPCと1台のテレビ」のそれぞれにおいて任意に選択された再生シーン毎に応じた「任意の三つの位置」の各々から「2台のPCと1台のテレビ」への送信用のデータとして読み出すものである。
(5) 「ハードディスクドライブ」は,時系列的に,時分割で行われる,「書込指示」と,「2台のPCと1台のテレビ」のそれぞれにおいて任意に選択された再生シーン毎の「読出指示」とにより,
一つのデータ入力部に入力された「一つのチューナーによる設定された録画パターンに応じた受信開始から受信終了までの映像及び音声」又は「一つのオーディオ/ビデオ入力端子を介して入力される入力開始から入力終了までの映像及び音声」に対応する一連の「MPEGデータ」を「ハードディスク」の書込領域に書き込む動作と,「ハードディスク」の書込領域に書き込まれている記憶データのうちの,「1台のPC」において任意に選択された再生シーンの記憶データを読み出す動作と,
「ハードディスク」の書込領域に書き込まれている記憶データのうちの,「残りの1台のPC」において任意に選択された再生シーンの記憶データを読み出す動作と,
「ハードディスク」の書込領域に書き込まれている記憶データのうちの,「1台のテレビ」において任意に選択された再生シーンの記憶データを読み出す動作とを,
時分割で繰り返すものである。
(6) 「ハードディスク」の書込領域に書き込まれている記憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の,「2台のPCと1台のテレビ」のそれぞれにおいて任意に選択された再生シーン毎に応じた「任意の三つの位置」の各々から「2台のPCと1台のテレビ」への送信用のデータとして読み出して,「2台のPCと1台のテレビ」に送信するものである。
【被告の主張】
原告の主張に対する認否は次のとおりである。
(1) 柱書については,「ながら」及び「次の構成を備えている」の部分は否認し,その余は認める。
(2) (1)及び(2)の記載については,「書込領域」の部分を否認し,その余は認める。
被告製品は,本件発明1,本件発明2及び本件発明3における「書込領域」を有していない。
(3) (3)の記載については,「繰り返し」及び「書込領域」の部分は否認し,その余は認める。
(4) (4)の記載については,「任意に選択された」,「書込領域」及び「任意の三つの位置」の部分は否認し,その余は認める。
(5) (5)の記載については,「任意に選択された」,「書込領域」及び「繰り返し」の部分は否認し,その余は認める。
(6) (6)の記載については,「書込領域」,「任意に選択された」及び「任意の三つの位置」の部分は否認し,その余は認める。
2 争点2(特許法101条5号の間接侵害の成否)
【原告の主張】
被告製品は,本件発明1の使用に用いる物であって,本件発明1による課題の解決に不可欠のものであり,原告は,被告に対し,「被告製品を製造・販売する行為は本件発明1の特許権を侵害する。」旨の警告書(甲6)を送付し,同警告書は,平成19年9月7日,被告に配達されているから,被告は,遅くとも翌8日から,本件発明1及び被告製品が本件発明1の実施に用いられることを知りながら,業として,被告製品を製造し,販売している。
したがって,被告の行為は特許法101条5号に該当する。
【被告の主張】
警告書(甲6)が,平成19年9月7日,被告に対して配達されたことは認めるが,その余は否認ないし争う。
3 争点3(被告製品は本件発明2の技術的範囲に属するか)
【原告の主張】
(1) 争点3-1(構成要件2Aの充足性)について
ア 被告製品は,前記1【原告の主張】(1)の構成を有している。
イ 「MPEGデータ」は,本件発明2における「データ」に,「ハードディスク」は,本件発明2における「記憶手段」に,それぞれ相当する。
ウ したがって,被告製品には,一つのデータ入力部に入力された「データ」を書込可能な書込領域を備えた「記憶手段」を設けてあり,被告製品は,本件発明2の構成要件2Aを充足している。
(2) 争点3-2(構成要件2Bの充足性)について
ア 被告製品は,前記1【原告の主張】(2),(3),(5)の構成を有している。
イ 「一つのチューナーによる設定された録画パターンに応じた受信開始から受信終了までの映像及び音声」及び「一つのオーディオ/ビデオ入力端子を介して入力される入力開始から入力終了までの映像及び音声」は,いずれも,本件発明2における「一連に再生される映像情報又は音声情報の一つ」に,「ハードディスク」は,本件発明2における「記憶手段」に,「MPEGデータ」は,本件発明2における「データ」に,「2台のPCと1台のテレビ」は,本件発明2における「端末」に,それぞれ,相当する。
ウ 「書き加えながら,‥‥読み出し」における「ながら」について
(ア) 本件発明2の「書き加えながら,‥‥読み出し」における「ながら」の文言は,「書き加える」という動作と「読み出す」という動作とが,同時に行われる状態も,時分割で行われる状態も意味する。
(イ) 被告製品が内蔵している「ハードディスクドライブ」は,時系列的に,時分割で行われる「書込指示」と,任意に選択された再生シーン毎の「読出指示」とにより,一連の「MPEGデータ」を「ハードディスク」の書込領域に書き込む動作と,「1台のPC」において任意に選択された再生シーンの記憶データを読み出す動作と,「残りの1台のPC」において任意に選択された再生シーンの記憶データを読み出す動作と,「1台のテレビ」において任意に選択された再生シーンの記憶データを読み出す動作とを,時分割で繰り返すことにより,一連の「MPEGデータ」を,「ハードディスク」の書込領域に読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えながら,その「ハードディスク」の書込領域に書き込まれている記憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の「任意の三つ位置」の各々から「2台のPCと1台のテレビ」への送信用のデータとして読み出すものである。
(ウ) よって,被告製品は,一連の「データ」を「記憶手段」の書込領域に書き込む動作と,それぞれ異なる端末において任意に選択された再生シーンの記憶データを読み出す動作とを,時分割で繰り返すことにより,一連の「データ」を,読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えながら,その「記憶手段」の書込領域に書き込まれている記憶データを,書込領域中の「任意の複数の位置」の各々から「端末」への送信用のデータとして読み出すものである。
エ したがって,被告製品は,一つのデータ入力部に入力された「一連に再生される映像情報又は音声情報の一つ」に対応する一連の「データ」を,書込領域に「端末」への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えながら,その書込領域に書き込まれている記憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の「任意の複数の位置」の各々から「端末」への送信用のデータとして読み出すものであり,構成要件2Bを充足している。
(3) 争点3-3(構成要件2Cの充足性)について
ア 被告製品は,前記1【原告の主張】(4)の構成を有している。
イ 「ハードディスク」は,本件発明2における「記憶手段」に,「2台のPCと1台のテレビ」は,本件発明2における「端末」に,「任意の三つの位置」は,本件発明2における「任意の複数の位置」にそれぞれ相当する。
ウ よって,被告製品は,書込領域に書き込まれている記憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の「任意の複数の位置」の各々から「端末」への送信用のデータとして読み出すものであり,本件発明2の構成要件2Cを充足している。
(4) 争点3-4(構成要件2Dの充足性)について
ア 被告製品は,前記1【原告の主張】(6)の構成を有している。
イ そして,「2台のPCと1台のテレビ」は,本件発明2における「端末」及び「複数の端末」に相当する。
ウ したがって,被告製品は,書込領域に書き込まれている記憶データを「端末」への送信用のデータとして読み出して,「複数の端末」に送信する「情報供給システム」に相当し,本件発明2の構成要件2Dを充足している。
【被告の主張】
(1) 任意の位置から読み出す構成について
被告製品は,「任意の」位置から読み出す構成を有しない。「記憶データが書き込まれている書込領域中の任意の複数の位置」(構成要件2C)とは,書込中の領域を含めて任意の‥‥位置‥‥から‥‥読み出」せることを意味すると解するのが相当であるが,被告製品は,記録媒体としてハードディスクを用い,ハードディスクにデータを記録する際の最小の管理単位であるクラスタ(領域)毎にデータを処理し,既に書き込みが終わったデータであっても,同一クラスタ内で書き込みが継続している位置のデータについては読み出すことができない。
また,被告製品は,録画中は,現在時刻から約2分間経過しなければ再生できない構成となっているから,被告製品においては,「任意の」位置からデータを読み出すことはできない。
したがって,被告製品は,「任意の」位置から読み出す構成を有しない。
(2) データを書き込みながら読み出す構成について
被告製品は,データを書き込み「ながら」読み出す構成を有しない。「書き加えながら,‥‥読み出して」の文言は,データの「読み出し」の行為が,データの「書き加え」る行為と同時かつ並行に行われることを意味すると解するのが相当であるが,被告製品は,時分割方式を採用しているから,書き込みと読み出しを,同時には行わないから,データを書き込み「ながら」読み出す構成を有しない。
(3) 書込領域について
本件発明2における「書込領域」とは,単に書込が可能な領域であるにとどまらず,そのような領域において,上記意味において,データを書き込み「ながら」読み出すことができ,かつ,「任意の」位置からデータを読み出せる領域を意味する。
しかしながら,被告製品は,書込が可能な領域においてデータを書き込み「ながら」読み出すことはできないし,また,「任意の」位置から読み出すこともできないから,「書込領域」を有しない。
(4) 本件発明2の作用効果について
本件発明の作用効果としては,「複数の端末に迅速に送信できる」こと,および,「記憶手段に書き込むべきデータの管理が煩雑化することがなく,記憶手段の有効活用を図ること」が,本件明細書に記載されている(【0012】,【0021】,【0030】)。
これに対し,被告製品は,少なくとも現在時刻から2分間は再生できないのであって,複数の端末に迅速に送信することはできない。
また,本件明細書の段落【0008】及び【0009】には,本件発明の作用効果として「記憶手段に書き込まれていない情報のデータでも,‥‥読み出」せることが記載されている。しかしながら,被告製品は,このような作用効果を奏しない。
(5) 小括
よって,被告製品は,本件発明2の構成要件2A,2B,2Cをいずれも満たさない。また,被告製品は,本件発明の作用効果を奏しないものである。したがって,被告製品は,本件発明の技術的範囲に属さない。
4 争点4(被告製品は本件発明3の技術的範囲に属するか)
【原告の主張】
(1) 争点4-1(構成要件3Aの充足性)について
争点3-1の【原告の主張】と同じ(ただし,本件発明2を本件発明3と,構成要件2Aを構成要件3Aと改める。)。
(2) 争点4-2(構成要件3Bの充足性)について
ア 争点3-2の【原告の主張】アないしウと同じ(ただし,本件発明2を本件発明3と改める。
イ 争点3-2の【原告の主張】エと同じ(ただし,「本件発明2」を「本件発明3」に改める。)。
ウ したがって,被告製品は,「記憶手段」を,一つのデータ入力部に入力された「一連に再生される映像情報又は音声情報の一つ」に対応する一連の「データ」を,書込領域に「端末」への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えながら,その書込領域に書き込まれている記憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の「任意の複数の位置」の各々から「端末」への送信用のデータとして読み出し可能に設けてある「情報読出装置」に相当するものであり,構成要件3Bを充足している。
(3) 争点4-3(構成要件3Cの充足性)について
争点3-3の【原告の主張】と同じ(ただし,本件発明2を本件発明3と,構成要件2Cを構成要件3Cと,ウの「送信用のデータとして読み出すものであり」を「送信用のデータとして読み出し可能に設けてある」と改める。)。
(4) 争点4-4(構成要件3Dの充足性)について
被告製品は,情報読出装置であり,本件発明3の構成要件3Dを充足している。
【被告の主張】
争点3の【被告の主張】と同じ(ただし,本件発明2を本件発明3,構成要件2A,2B,2Cを,構成要件3A,3B,3Cと改める。)。
5 争点5(本件特許は無効審判により無効とされるべきか否か)
(1) 争点5-1(無効理由1-新規性又は進歩性の欠如1)について
【被告の主張】
ア 本件発明1,2及び3は,いずれも本件特許の出願日より前である平成7年1月17日に発行された実用新案登録第3006191号公報(乙21,以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。)と実質的に同一ないし同発明に基づいて当業者が容易に想到できたものであるから,特許法29条1項3号又は同条2項の規定により特許を受けることができない。
イ 引用発明1の概要
引用発明1は,「実質的にコストを増加することなく容易に拡張することのできるビデオ供給方法及びシステムを提供する」ことを目的として,「ビデオを分配するシステムにおいて,複数のビデオが大量記憶装置に記憶される。各ビデオは,ビュー装置で再生するためのデジタルビデオデータの複数のフレームを備えている。このシステムは,選択されたビデオのセグメントを記憶するメモリバッファを備えている。セグメントは,選択されたビデオの所定の時間間隔を表す所定数のフレームを含む。メモリバッファは,書き込みポインタ及び読み取りポインタを含む。書き込み及び読み取りポインタによって指示された位置においてメモリバッファに選択されたビデオのビデオデータを独立して書き込んだり読み取ったりしてその選択されたビデオをビュー装置へ転送するためのソフトウェア制御サーバが設けられる」という構成を有している。
ウ 構成要件1A,2A及び3Aとの対比
引用例1の段落【0024】,【0026】,【0086】及び【0095】並びに図2によれば,引用例1における「ライン39」,「サーバセグメントキャッシュ24」及び「セグメントキャッシュメモリブロック300」は,それぞれ本件発明の「データ入力部」,「記憶手段」及び「書込領域」に対応することが示されている。
エ 構成要件1B,2B及び3Bとの対比
引用例1の段落【0075】,【0086】,【0087】,【0088】及び【0096】には,データ入力部(ライン39)に入力された一連に再生される映像情報又は音声情報の一つに対応する一連のデータ(ビデオ100)を,記憶手段の書込領域(キャッシュメモリブロック300)に端末(CPE10)への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えることが記載されている。また,引用例1の段落【0087】,【0089】,【0090】及び【0091】並びに図7には,構成要件1B,2B及び3Bの「ながら」の要件が明示されている。
オ 構成要件1C,2C及び3Cとの対比
引用例1の段落【0014】,【0081】,【0082】及び【0098】並びに図9には,構成要件1C,2C及び3Cに相当する構成として,PLAY-POINTER320によって任意の複数の位置を指定し,同時に読み出すことが可能である構成が示されている。特に,「任意」の要件については,段落【0015】,【0096】及び【0119】の記載並びに図9からも,任意の位置部分若しくは時間位置からの視聴が可能であることが明らかにされている。
したがって,引用例1には,書込領域(セグメントキャッシュメモリブロック300)に書き込まれているデータ(ビデオ100)を,そのデータが書き込まれている書込領域中の任意の複数の位置から,顧客に視聴させるためのデータとして読み出す構成が記載されている。
カ 構成要件1D,2D及び3Dとの対比
構成要件1D,2D及び3Dに相当する構成として,引用例1の段落【0014】及び【0017】並びに図1には,複数の端末に送信する情報供給方法,情報供給システム,及び情報読出装置が記載されている。
キ 小括
以上によれば,上記アのとおり,本件特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効とされるべきである。
【原告の主張】
ア 構成要件1C,2C及び3Cとの対比について
(ア) 引用例1には,セグメントキャッシュメモリブロック300からのビデオデータの読み取りに関して次のように記載されている。
a PLAY-POINTER320の動作について
引用例1の段落【0087】,【0088】,【0090】には,PLAY-POINTER320を進ませることにより,指示された位置において,セグメントキャッシュメモリブロック300からビデオデータが読み取られることが記載されている。
b PLAY-POINTER320が指示する読み取り位置について
引用例1の段落【0089】には,PLAY-POINTER320は,ビデオデータの読み取り開始時には,セグメントキャッシュメモリブロック300の開始点の位置を指示することが記載されている。
(イ) したがって,引用例1の図9にかかわらず,各PLAY-POINTER320は,いずれも,ビデオデータの読み取り開始時には,読み取り開始位置としてセグメントキャッシュメモリブロック300の開始点を指示し,セグメントキャッシュメモリブロック300の開始点からPLAY-POINTER320を進ませることにより,セグメントキャッシュメモリブロック300からビデオデータが読み取られていくことが記載されているのであって,引用例1には,ビデオデータの読み取り開始時に,セグメントキャッシュメモリブロック300中の任意のメモリ位置を読み取り開始位置として指示する構成は一切記載されていない。
(ウ) なお,引用例1の段落【0096】には,読出開始位置を任意に指定することが記載されていないし,複数のPLAY-POINTER320のそれぞれがビデオデータの読出開始位置を指定していることを示すものではない。また,段落【0015】,【0016】及び【0119】には,任意の位置部分若しくは時間位置からの視聴が可能であることが記載されているが,視聴の開始位置が任意であることが,セグメントキャッシュメモリブロック300からのビデオデータの読出開始位置が任意であることを意味するものではない。したがって,引用例1には被告が主張する「セグメントキャッシュメモリブロック300中の開始点の位置に限らず,任意の位置からの読み出しができること」は記載されていない。
(エ) 要するに,引用例1には,ビデオデータをセグメントキャッシュメモリブロック300に書き込みながら,そのセグメントキャッシュメモリブロック300に書き込まれているビデオデータを読み取るにあたって,セグメントキャッシュメモリブロック300の開始点からビデオデータを読み取る構成が記載されているに過ぎず,被告が主張する構成要件1C,2C及び3Cに相当する技術は一切開示されていない。
イ 小括
以上のとおり,引用発明1は,被告が主張する構成要件1C,2C及び3Cに相当する構成を備えていないから,本件発明とは別異の発明である。
また,一つのデータ入力部に入力されたビデオデータを,書込可能な書込領域を備えた記憶手段を用いて,端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えるという簡易な構成を採用しながら,その記憶データが書き込まれている書込領域から複数の送信用のデータを読み出すにあたって,必要なデータを迅速に読み出すという考え方も記載されていないから,引用発明1に基づいて本件発明を想到することも極めて困難である。
よって,本件発明は,いずれも,特許法29条1項3号に規定する発明にも,同条2項に規定する発明にも該当せず,本件特許は,特許法123条1項2号に該当しないから,無効とされるものではない。
(2) 争点5-2(無効理由2-新規性又は進歩性の欠如2)について
【被告の主張】
ア 本件発明1,2及び3は,いずれも本件特許の出願日より前である平成7年4月25日に公開された特開平7-111629号公報(乙22,以下「引用例2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)と実質的に同一ないし同発明に基づいて当業者が容易に想到できたものであるから,特許法29条1項3号又は同条2項の規定により特許を受けることができないものである。
イ 引用発明2の概要
引用発明2は,「繰り返し記録再生可能なディスクを使用する装置においても,信号記録直後の,記録信号確認のための再生以外,信号記録中に,任意の時点で,かつ任意の個所から再生動作させ,タイムシフタとして動作する装置」の実現(引用例2の段落【0003】)を目的として,「実時間で繰り返し信号を記録再生する音声映像記録再生メモリと,音声映像記録系と,音声映像記録系と独立してメモリに記録された信号を再生する音声映像再生系と,該音声映像記録系と音声映像再生系とを独立して,その記録,再生をコントロールするシステムコントロール系と,該システムコントロール系に各種の指令信号を入力する入力装置とを具備し,入力装置からの指令信号により,音声映像信号記録系での信号記録中を含む,任意の時間に,記録された信号の任意の個所から,再生を行なうことを特徴とする音声映像記録再生装置」(引用例2の請求項1)という構成を有している。
ウ 構成要件1A,2A及び3Aとの対比
引用例2の段落【0006】,図1,図2の記載によれば,引用例2における「信号入力4a」,「ディスク状記録媒体(ディスク)1」及び「(ディスク1の第一から最終)トラック」は,それぞれ本件発明の「データ入力部」,「記憶手段」及び「書込領域」に対応する。
なお,本件発明2及び3は「一つのデータ入力部から入力されたデータを書込可能な書込領域を設けた記憶手段を設け(た)‥‥システム」又は「装置」である以上,「一つのデータ入力部」は「システム」又は「装置」の入力部であって,記憶手段(例えば,ハードディスク)の入力部ではなく,本件発明1(請求項1)もそのような「システム」又は「装置」を前提とする方法の発明であるから,「一つのデータ入力部」の意義を本件発明2及び3と別異に解釈すべき理由はない。
エ 構成要件1B,2B及び3Bとの対比
(ア) 引用例2の段落【0005】,【0006】及び【0009】並びに図1には,データ入力部(信号入力4a)に入力された一連に再生される映像情報又は音声情報の一つに対応する一連のデータ(入力音声映像信号)を,記憶手段の書込領域(トラック)に端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えることが記載されている。
(イ) また,引用例2の段落【0004】,【0005】の記載において,引用例2には構成要件1B,2B及び3Bの「ながら」の要件が明示されている。
オ 構成要件1C,2C及び3Cとの対比
(ア) 引用例2の請求項5,段落【0012】,【0018】及び【0019】の記載並びに図2によれば,引用例2には,書込領域(トラック)に書き込まれている記憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の任意の複数の位置の各々から端末への送信用のデータとして読み出すことが記載されている。
(イ) 特に,「任意」の要件については,段落【0005】,【0035】及び【0073】並びに請求項5の記載からも,引用例2には,「任意」の位置部分若しくは時間位置からの視聴が可能であることが明らかにされている。
(ウ) したがって,引用例2には,書込領域(トラック)に書き込まれているデータ(入力音声映像信号)を,そのデータが書き込まれている書込領域中の任意の複数の位置から,顧客に視聴させるためのデータとして読み出す構成が記載されている。
カ 構成要件1D,2D及び3Dとの対比
構成要件1D,2D及び3Dに相当する構成として,引用例2には,請求項5,段落【0019】のとおり,複数の端末に送信するための情報供給方法,情報供給システム,及び情報読出装置が記載されている。
キ 小括
以上によれば,上記アのとおり,本件特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効とされるべきである。
【原告の主張】
ア 構成要件1A,2A及び3Aとの対比について
(ア) 引用例2の段落【0006】,【0012】及び図2には,記録ヘッド2も第二の記録ヘッド11も,記録信号処理回路4から入力された入力音声映像信号をディスク1の書込領域に記録することが記載されている。
そして,記録ヘッド2にも第二の記録ヘッド11にも,記録信号処理回路4からの入力音声映像信号が入力される一つのデータ入力部が接続されていることは自明である。
なお,引用例2の図1,図2,図4に記載されている信号入力4aは,記録信号処理回路4において処理される音声映像信号の信号入力を示しているに過ぎず,図6,図9,図11に記載されている信号入力4aは,チューナ17で受信される音声映像信号の信号入力を示しているに過ぎない。
(イ) したがって,記録ヘッド2と第二の記録ヘッド11の各々が接続されている図示されていない「一つのデータ入力部」のそれぞれが,「ディスク状記録媒体(ディスク)1」の書込領域に記録する入力音声映像信号が入力される「一つのデータ入力部」に対応しているのであって,「信号入力4a」が本件発明の「データ入力部」に対応するとは認められない。
イ 構成要件1C,2C及び3Cとの対比について
(ア) 引用例2には,「ディスク状記録媒体(ディスク)1」に対する記録再生動作に関して,段落【0017】,【0018】には,「記録再生ヘッド」とは,「一つの記録ヘッド」と「一つの再生ヘッド」との組み合わせを意味していることが記載されている。
(イ) 引用例2には,「一つの記録ヘッド」による入力音声映像信号の記録動作と,その一つの記録ヘッドにより記録された入力音声映像信号の「一つの再生ヘッド」による再生動作とに関して,段落【0008】,【0015】には,記録ヘッド2と再生ヘッド5との組み合わせにおいては,記録ヘッド2で記録された入力音声映像信号を再生ヘッド5が再生し,記録ヘッド11と再生ヘッド13との組み合わせにおいては,記録ヘッド11で記録された入力音声映像信号を再生ヘッド13が再生することが記載されている。
(ウ) 引用例2の段落【0006】,図1及び図2には,「ディスク状記録媒体(ディスク)1」の書込領域に記録されている入力音声映像信号が再生されて,単一の信号出力7aから送信用信号として出力されることが記載されている。
(エ) 要するに,記録ヘッド2と第二の記録ヘッド11の各々が接続されている図示されていない「一つのデータ入力部」のそれぞれが,「ディスク状記録媒体(ディスク)1」の書込領域に記録する入力音声映像信号が入力される「一つのデータ入力部」に対応しているから,
「一つのデータ入力部」に入力された入力音声映像信号は,その「一つのデータ入力部」に接続されている「一つの記録ヘッド」で「ディスク状記録媒体(ディスク)1」の書込領域に単一の送信用信号として再生可能な記憶データとして記録されるように書き加えられ,一つの記録ヘッドで「ディスク状記録媒体(ディスク)1」の書込領域に記録された記憶データは,その「一つの記録ヘッド」と組み合わせてある「一つの再生ヘッド」でのみで単一の送信用信号として再生されることが記載されている。
(オ) したがって,一つのデータ入力部に入力された入力音声映像信号を,一つの記録ヘッドで「ディスク状記録媒体(ディスク)1」の書込領域に単一の送信用信号として再生可能な記憶データとして記録されるように書き加えながら,その「ディスク状記録媒体(ディスク)1」の書込領域に記録されている記憶データを,その記憶データが記録されている「ディスク状記録媒体(ディスク)1」の書込領域中の一つの再生開始指定位置から単一の送信用信号として読み出す技術が記載されているだけであって,構成要件1C,2C及び3Cに相当する技術は一切記載されていない。
ウ 構成要件1D,2D及び3Dとの対比について
(ア) 引用例2の段落【0006】には,「ディスク状記録媒体(ディスク)1」の書込領域に記録されている入力音声映像信号が再生されて単一の信号出力7aから送信用信号として出力する技術が記載されている。
(イ) そして,段落【0019】には,「複数の信号再生を同時に行うことが可能」と記載されているが,同時に再生した信号のそれぞれを,各別のユーザの各々に同時に出力する記載はない。
(ウ) したがって,引用例2には,「ディスク状記録媒体(ディスク)1」の書込領域に記録された記憶データを,単一の送信用信号として再生して,単一の信号出力7aから出力する技術が記載されているだけであって,構成要件1D,2D及び3Dに相当する技術は一切記載されていない。
エ 小括
以上の説明の通り,引用発明2は,被告が主張する構成要件1C,2C及び3C及び構成要件1D,2D及び3Dに相当する構成を備えていないから,本件発明とは別異の発明である。
また,一つのデータ入力部に入力されたデータを書込可能な書込領域を備えた記憶手段を用いて,その一つのデータ入力部に入力されたビデオデータを,書込領域に端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えるという簡易な構成を採用しながら,その記憶データが書き込まれている書込領域から複数の送信用のデータを読み出すにあたって,必要なデータを迅速に読み出すという考え方も記載されていないから,引用発明2に基づいて本件発明を想到することも極めて困難である。
よって,本件発明は,いずれも,特許法29条1項3号に規定する発明にも,同条2項に規定する発明にも該当せず,本件特許は,特許法123条1項2号に該当しないから,無効とされるものではない。
(3) 争点5-3(無効理由3-新規性又は進歩性の欠如3)について
【被告の主張】
ア 本件発明1,2及び3は,いずれも本件特許の出願日より前である平成7年8月11日に公開された特開平7-212737号公報(乙23,以下「引用例3」という。)に記載された発明(以下「引用発明3」という。)と実質的に同一ないし同発明に基づいて当業者が容易に想到できたものであるから特許法29条1項3号又は同条2項の規定により特許を受けることができないものである。
イ 引用発明3の概要
引用発明3は,「比較的簡易な構成により,各受信者の希望に応じた番組情報を提供することができるデータ伝送装置」の実現(引用例3の段落【0007】)を目的として,「受信者からの要求に応じたデータを所定の伝送路を介して伝送するデータ伝送装置において,所定の記録媒体上にデータを記録し再生する記録再生手段を有し,受信者からの要求に応じて上記記録媒体上の記録データを読み出す際,複数の受信者の要求を複数のタイムスロツトの各タイムスロツトに振り分け,各タイムスロツト毎に,上記記録媒体の異なる記録領域から記録データを読み出すことにより,複数の受信者の要求に応じた複数のデータを生成するデータ送出部を具えることを特徴とするデータ伝送装置」(引用例3の請求項1)という構成を有している。
ウ 構成要件1A,2A及び3Aとの対比
(ア) 引用例3の段落【0029】,【0059】には,記憶手段に相当する「記録媒体」が記載されている。さらに,この記録媒体は,段落【0008】,【0030】の記載によれば,記録領域を備えており,データを書込可能な書込領域を備えた記憶手段であることがわかる。また,段落【0020】,【0022】の記載及び図1によれば,データは各送出部に設けられた一つのデータ入力部である「入力チヤンネル」に入力されている。
(イ) したがって,引用例3における「入力チヤンネル」,「記録媒体」及び「記録領域」は,それぞれ本件発明の「データ入力部」,「記憶手段」及び「書込領域」に対応する。
(ウ) なお,原告は,引用例3における「入力チヤンネル」が本件発明の「データ入力部」に対応しない旨主張するが,引用例3の段落【0020】,【0022】には「データ伝送装置1は,番組ライブラリ2から得られる番組情報SR1,SR2,‥‥,SR(k-1),SRkをスイツチヤ3を介して第1の送出部群4を構成する複数の送出部2A1,2A2,‥‥,2AL-1,2ALに選択的に供給する」,「各送出部2A1~2ALは,1つの入力チヤンネルと(n+1)個の出力チヤンネルを有する」と記載されており,これによれば,データは各送出部に設けられた一つのデータ入力部である「入力チヤンネル」に入力されたものということができる。
(エ) また,原告は,引用例3には,その機能を実現するための具体的な構成が一切記載されていない旨主張するが,引用例3の段落【0034】には「記録再生部23は,図5に示すように,単位時間をn個のタイムスロツトに分割し,このうち(n-1)個のタイムスロツトで記録データを読み出すと共に,残りの1つのタイムスロツトで番組ライブラリ2又は別の送出部4A1~4AL,10A1~10Amからの番組情報を記録する」と記載されており,記録再生部23が図5のタイムスロットに従って記録媒体の書き込み,読み出し処理をすることが明確に示されており,また段落【0017】に記録媒体として光磁気ディスクが,段落【0059】に半導体メモリ等が例示されているから,引用例3には同機能を実現するための具体的な構成が当業者が容易に実施可能な程度に記載されているといえる。
エ 構成要件1B,2B及び3Bとの対比
(ア) 引用例3の段落【0017】,【0034】及び【0052】並びに図3,図5には,データ入力部(入力チャンネル)に入力された一連に再生される映像情報又は音声情報の一つに対応する一連のデータ(番組情報)を,記憶手段である書込領域(記憶領域)に端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えることについて記載されている。
(イ) 構成要件1B,2B及び3Bが「書き加え『ながら』」を要件とする点については,引用例3の段落【0029】,【0034】及び【0052】において,「ながら」の要件を実施するための具体的構成が明示されている。
オ 構成要件1C,2C及び3Cとの対比
(ア) 引用例3の段落【0017】,【0034】及び【0053】には,書込領域(記録領域)に書き込まれているデータ(番組情報)を,そのデータが書き込まれている書込領域中の任意の複数の位置から,顧客に視聴させるためのデータとして読み出す構成が記載されている。
(イ) 特に,「任意」の要件については,段落【0030】,【0062】に,「この結果記録再生部23は,受信者からの要求に応じて記録媒体の所望の記録領域に高速でアクセスして所望の情報を高速再生し得るようになされている」(【0030】),「さらに上述の実施例においては,各受信者に割り当てられたタイムスロツト毎に,受信者の要求時間に応じた位置から記録データを読み出すことにより,全ての受信者に対して番組情報を先頭から提供する場合について述べたが,本発明はこれに限らず,受信者から途中から番組情報を見たい要求があつた場合には,これに応じて読出し位置を選択すれば,各受信者の希望に応じた位置から番組情報を提供することができる」(【0062】)と記載されているとおり,引用例3においても「任意」の複数の位置からの視聴が可能であることが明らかにされている。
(ウ) したがって,引用例3には,書込領域に書き込まれている記憶データを,その記憶データが書き込まれている書込領域中の任意の複数の位置の各々から端末への送信用のデータとして読み出すことが記載されている。
(エ) なお,原告は,無効理由の存在の主張においては,本件各発明が一連のデータを書き加え中の記録領域に書き込まれている記憶データを無制限に任意の位置から読み出せる構成であるとして,引用発明3との差異を強調するが,他方,原告は,本件発明構成要件の充足の主張においては,本件各発明が一連のデータを書き加え中の記録領域に書き込まれている記憶データのうち読出可能な記憶データとして記憶されているデータのみが任意の位置から読み出せる構成であると主張して,①クラスタへの記録は,全体を読み出さなければ,データとして処理することはできないため,既に書き込みが終わったデータであっても,同一クラスタ内で書き込みが継続している位置のデータについては読み出すことができず,また,②録画中は,現在時刻から約2分間経過しなければ再生できない構成である被告製品をも本件各発明の技術的範囲に属すると主張しているから,原告自身の侵害論における主張を前提とすれば,引用発明3は「任意」の要件を備えていることになる。
カ 構成要件1D,2D及び3Dとの対比
引用例3には,段落【0020】,【0023】の記載のとおり,構成要件1D,2D及び3Dに相当する,複数の端末に送信するための情報供給方法,情報供給システム,及び情報読出装置が記載されている。
キ 小括
以上によれば,上記アのとおり,本件特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効とされるべきである。
【原告の主張】
ア 構成要件1A,2A及び3Aとの対比について
(ア) 引用例3の段落【0029】,【0030】,【0034】,【0052】及び【0062】には,①番組情報を記録再生する記録再生部23に関して,記録再生部23は,バッファメモリ21から入力された番組情報を1つのタイムスロットで記録しながら,(n-1)個のタイムスロットで記録データを読み出す機能を有していること及び②読み出し位置を選択すれば,各受信者の希望に応じた位置から番組情報を提供できることが記載されているが,その機能を実現するための具体的な構成は一切記載されていない。
特に,一つのデータ入力部に入力された番組情報の一つに対応する一連のデータを,記録領域に受信者への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えながら,その記録領域に書き込まれている記憶データを,その記憶データが書き込まれている記録領域中の任意の複数の位置の各々から受信者への送信用のデータとして読み出すような構成は一切記載されていない。
(イ) 1つのタイムスロットで番組情報を記録しながら,(n-1)個のタイムスロットで記録データを読み出す機能を有し,かつ,読み出し位置を選択すれば,各受信者の希望に応じた位置から番組情報を提供できるようにするための具体的な構成として,例えば,下の【図5】に記載したような記録再生部を採用することが考えられる。
file_2.jpgすなわち,【図5】のとおり,一つのデータ入力部1に入力された番組情報Aの一部(A1,A2,A3,A4……)を書込可能な記録領域2を備えた複数の記録再生装置3(3a,3b,3c,3d……)と,これらの記録再生装置(3a,3b,3c,3d……)における番組情報(A1,A2,A3,A4……)の記録領域2への記録タイミングと記録領域2からの送信用の番組情報(B1,B2,B3,B4,B5……)の読出タイミングとを制御するコントローラ4とが備えられた記録再生部5が想定される。
これによると,一つのタイムスロット毎に番組情報Aを記録するにあたって,コントローラ4による制御により,番組情報の一部A1を一つの記録再生装置3aの記録領域2に記録し終えると,その番組情報の続きA2を別の記録再生装置3bの記録領域2に記録し,その記録再生装置3bの記録領域2への記録が終わると,その番組情報の続きA3を更に別の記録再生装置3cの記録領域2に記録し,記録再生装置3cの記録領域2への記録が終わると,その番組情報の続きA4を更に別の記録再生装置3dの記録領域2に記録する状態で,番組情報Aを記録しながら,(n-1)個のタイムスロットで送信用の番組情報(B1,B2,B3,B4,B5……)を読み出すにあたって,コントローラ4による制御により,記録が終わっている記録再生装置(3a,3b,3c)の記録領域2から送信用の番組情報(B1,B2,B3,B4,B5)を先頭から読み出すことができる。
また,送信用の番組情報(B1,B2,B3,B4,B5)を読み出すべき記録再生装置(3a,3b,3c)を選択することにより,一つの記録再生装置3で記録可能な記録時間の単位で記録データの読み出し位置を選択することもできる。例えば,一つの記録再生装置3で記録可能な記録時間が30分である場合,10個の記録再生装置3を設けることにより5時間分の番組情報を記録することができ,記録再生装置3を選択することにより,30分単位で記録データの読み出し位置を選択することができる。
この場合,記録再生装置3のそれぞれが一つのデータ入力部1を備えている。
また,引用例3の段落【0029】に「バツフアメモリ21の出力を,記録再生用のインターフエース22を介して記録再生部23により所定の記録媒体に記録することができる」と記載されていることに照らすと,記録再生部23は複数の記録媒体を有していて,入力チャンネルで送出部に供給された番組情報は,記録再生部23が有する複数の記録媒体のうちの「所定の記録媒体」に記録されると認められる。そして,「入力チヤンネル」に入力されたデータを書込可能な書込領域は,複数の記録媒体のそれぞれが備える記録領域が集まった領域であり,記録媒体のそれぞれは,図示されない「一つのデータ入力部」に入力されたデータを書込可能な書込領域を備えていることは自明であるから,「『入力チャンネル』に入力されたデータを書込可能な書込領域」は,「『複数のデータ入力部』に入力されたデータを書込可能な領域」であり,「『一つのデータ入力部』に入力されたデータを書込可能な書込領域」ではない。
したがって,引用例3における「入力チヤンネル」が本件発明の「データ入力部」に対応するものであるということはできない。
イ 構成要件1C,2C及び3Cとの対比について
(ア) 引用例3には,記録再生部23が,バッファメモリ21から入力された番組情報を1つのタイムスロットで記録しながら,(n-1)個のタイムスロットで記録データを読み出す機能を有していること及び読み出し位置を選択すれば,各受信者の希望に応じた位置から番組情報を提供できることが記載されているが,その機能を実現するための具体的な構成は一切記載されていない。
(イ) また,引用例3には,一つのデータ入力部に入力された番組情報の一つに対応する一連のデータを,記録領域に受信者への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えながら,その記録領域に書き込まれている記憶データを,その記憶データが書き込まれている記録領域中の任意の複数の位置の各々から受信者への送信用のデータとして読み出すような構成は一切記載されていない。
(ウ) さらに,引用例3の具体的な構成として,前記ア(イ)の【図5】のような記録再生部を採用することが考えられるが,この場合,一つのデータ入力部1に入力された番組情報Aの一つに対応する一連のデータを,一つの記録再生装置3の記録領域2に受信者への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えながら,本件発明の構成要件1C,2C及び3Cに相当する「その記録領域2,つまり,番組情報Aの一つに対応する一連のデータを書き加え中の記録領域2に書き込まれている記憶データを,その記憶データが書き込まれている記録領域2中の任意の複数の位置の各々から受信者への送信用のデータとして読み出すような構成」を採用することなく,別の記録再生装置3の記録領域2に書き込み済みの記憶データを,その記憶データが書き込まれている記録領域2から受信者への送信用のデータとして読み出すことができる。
(エ) よって,引用例3には,本件発明の構成要件1C,2C及び3Cに相当する技術は一切開示されていない。
ウ 小括
以上のとおり,引用発明3は,構成要件1C,2C及び3Cに相当する構成を備えていないから,本件発明とは別異の発明である。
また,一つのデータ入力部に入力されたデータを書込可能な書込領域を備えた記憶手段を用いて,その一つのデータ入力部に入力されたビデオデータを,端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えるという簡易な構成を採用しながら,その記憶データが書き込まれている書込領域から複数の送信用のデータを読み出すにあたって,必要なデータを迅速に読み出すという考え方も記載されていないから,引用発明3に基づいて本件発明を想到することも極めて困難である。
したがって,本件発明は,いずれも,特許法29条1項3号に規定する発明にも,同条2項に規定する発明にも該当せず,本件特許は,特許法123条1項2号に該当しないから,無効とされるものではない。
(4) 争点5-4(無効理由4-新規性又は進歩性の欠如4)について
【被告の主張】
ア 本件発明1,2及び3は,いずれも本件特許の出願日より前である平成8年3月18日に頒布された「「Video Server Architecture Supporting Real-Time Input and Immediate Playback」(乙7,以下「引用例4」という。)に記載された発明(以下「引用発明4」という。)と実質的に同一ないし同発明に基づいて当業者が容易に想到できたものであるから特許法29条1項3号又は同条2項の規定により特許を受けることができないものである。
イ 引用発明4の概要
引用発明4は「多重ビデオストリームを実時間受信しながら,複数の端末で各入力中のビデオストリームを即時再生する機能が,ビデオサーバに必要となる。従来のムービーオンデマンド型サービスを提供するビデオサーバをアップグレードするには,3つのキーとなる課題を解決する必要がある。①ビデオストリームの入力処理と出力処理の同期,②トリックプレイ機能の即時提供,③コンテンツコピーを必要としない同時アクセス規模の拡張。これらの課題を解決するための有効な解決方法を提案した。その解決方法は,高度なタイムスロット再割り当て,並列エンコーディング,ディスクアレー共用方式である」(乙7の訳文,第1頁第5ないし11行:乙7,第224頁左欄第5ないし18行)ところの実時間入力即時再生対応ビデオサーバアーキテクチャである構成を有している。
ウ 構成要件1A,2A及び3Aとの対比
構成要件1A,2A及び3Aに相当する構成として,引用例4は,記憶手段である「ディスク」,記憶手段(ディスク)がデータを書込可能な「書込領域」,記憶手段としての「データ入力部」を有している。
エ 構成要件1B,2B及び3Bとの対比
(ア) 構成要件1B,2B及び3Bに相当する構成として,引用例4には,データ入力部に入力された一連に再生される映像情報又は音声情報の一つに対応する一連のデータ(ビデオ番組)を,記憶手段(ディスク)の書込領域に端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えることについて記載されている。
(イ) また,引用例4には,構成要件1B,2B及び3Bの「ながら」の要件が明示されている。
オ 構成要件1C,2C及び3Cとの対比
構成要件1C,2C及び3Cに相当する構成として,引用例4には,「多重ビデオストリームを実時間受信しながら,複数の端末で各入力中のビデオストリームを即時再生する機能が,ビデオサーバに必要となる。‥‥提案方式に基づいた実験システムにより,提案システムは実時間入力即時再生が可能であり,LOD型サービス提供に利用可能なことを示した」(訳文1頁3~13行,原文224頁左欄2~22行),「番組内の任意の再生時点へ移動する」(訳文4頁の表1,原文227頁左欄の"Table1")と記載されているから,引用例4には,書込領域に書き込まれているデータ(ビデオ番組)を,書込領域中の任意の複数の位置の各々から端末への送信用データとして読み出すことが記載されている。したがって,書込領域に書き込まれているデータ(ビデオ番組)を,書込領域中の任意の複数の位置の各々から端末への送信用のデータとして読み出すことが記載されているといえる。
カ 構成要件1D,2D及び3Dとの対比
構成要件1D,2D及び3Dに相当する構成として,引用例4には,複数の端末に送信する情報供給方法,情報供給システム,及び情報読出装置が記載されている。
キ 小括
以上によると,上記アのとおり,本件特許は,特許法123条1項2号に該当し,無効とされるべきである。
【原告の主張】
ア 構成要件1C,2C及び3Cとの対比について
(ア) 被告は,引用例4には,書込領域に書き込まれているデータ(ビデオ番組)を,そのデータが書き込まれている書込領域中の任意の複数の位置の各々から端末への送信用のデータとして読み出すことが記載されている旨主張するが,引用例4には,その図2において,一つの周期内において,ディスク装置の書込領域へのビデオセグメントの書き込みと,その書き込んだビデオセグメントの読み出しとを行う技術が開示されているが,構成要件1C,2C及び3Cに相当する技術は開示されていない。
(イ) したがって,被告の前記主張は誤りである。
イ 以上のとおり,引用発明4は,構成要件1C,2C及び3Cに相当する構成を備えていないから,本件発明とは別異の発明である。
また,一つのデータ入力部に入力されたデータを書込可能な書込領域を備えた記憶手段を用いて,その一つのデータ入力部に入力されたビデオデータを,書込領域に端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されるように書き加えるという簡易な構成を採用しながら,その記憶データが書き込まれている書込領域から複数の送信用のデータを読み出すにあたって,必要なデータを迅速に読み出すという考え方も記載されていないから,乙7に記載の発明に基づいて本件発明を想到することも極めて困難である。
したがって,本件発明は,いずれも,特許法29条1項3号に規定する発明にも,同条2項に規定する発明にも該当せず,本件特許は,特許法123条1項2号に該当しないから,無効とされるものではない。
(5) 争点5-5(無効理由5-補正要件違反)について
【被告の主張】
ア 本件特許の特許請求の範囲の請求項1,4及び7には「任意の」という文言を付け加える補正が平成14年12月19日付手続補正書(乙16)によってなされた。
イ しかしながら,この「任意の」という文言は,出願当初明細書(乙24)の段落【0078】の一箇所にしか用いられていなかった。出願当初明細書の段落【0078】ないし【0081】において,データの書き込みをしながら,どのような読み出しができるかを説明しているが,一連のデータを書き加えながら,すなわち,「一連のデータを,そのデータ全部を記憶手段に書き込み終えるまで待つことなく」(乙16の段落【0011】),任意の位置から読み出すという技術事項は一切開示されていない。
なお,出願当初明細書には,「図4(c)に示すようにその書込映像データVBの書き込みが終了すると,任意の読出開始位置TCnから複数の読出映像データVDnを読み出すことができる」と記載されている(乙24の段落【0078】)。この記載は,書込みが終了した後に「任意の」位置から読み出すという趣旨であって,「書き加えながら」(すなわち,「一連のデータを,そのデータ全部を記憶手段に書き込み終えるまで待つことなく」(乙16の段落【0011】),「任意の」位置から読み出すことを意味するものではない。
ウ 以上のとおり,本件特許の特許請求の範囲の請求項1,4及び7における「任意の」という文言は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものではないから,特許法17条の2第3項の規定により特許を受けることができないものであり,本件特許は,同法123条1項1号に該当し,無効とされるべきである。
【原告の主張】
ア 出願当初明細書(乙24)の段落【0031】,【0035】,【0038】,【0041】,【0043】,【0044】,【0046】,【0050】,【0055】,【0060】,【0061】,【0074】,【0078】及び【0079】には,端末装置Eのそれぞれは,要求する映像情報の送信開始位置を映像蓄積メモリ2からの読出開始位置TCnとして,書込映像データVBの映像蓄積メモリ2への書込開始時刻TSからの経過時間を所定の一定時間単位,例えば10秒単位で任意に指定できることが記載され,書込映像データVBを映像蓄積メモリ2の書込領域ARに書き加えながら,端末装置E毎に任意に指定された読出開始位置TCnが端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されている領域内にあれば,その任意に指定された読出開始位置TCnのアドレスデータADMnが情報蓄積メモリ2のアドレス入力端子ADDに入力されて,アドレスデータADMnで指定された位置から読出映像データVDnの読み出しが開始されることが記載されている。
イ したがって,「任意の」という文言を付け加える補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてなされたものである。
ウ よって,本件発明の特許請求の範囲の請求項1,4及び7における補正は,特許法17条の2第3項に規定する要件を満たしており,本件特許は,同法123条1項1号に該当しないから,無効とされるものではない。
(6) 争点5-6(無効理由6-記載不備)について
【被告の主張】
ア 平成14年12月19日付手続補正書において,本件特許の特許請求の範囲の請求項1,4及び7(並びに,請求項の記載に対応するものとしての段落【0010】,【0011】,【0013】,【0014】,【0017】,【0019】,【0020】,【0022】,【0023】,【0026】,【0028】,【0029】,【0031】,【0032】及び【0035】)に対し,「任意の」という文言を付け加える補正がなされた。
イ しかしながら,この「任意の」という文言の技術的意味が特許請求の範囲及び明細書の記載からは一切不明である。
ウ 仮に,「任意の」という文言の意味を,「随意の」,あるいは「自由に選択可能なあらゆる」という意味に解したとすれば,いかなる技術に基づいて,記憶データが書き込まれている書込領域中の「随意の」複数の位置,あるいは「自由に選択可能なあらゆる」複数の位置から読み出すことが可能になるのか,明細書には記載されていない。このことは,明細書に記載されている書込み用タイムスロット及び読出し用タイムスロットの時分割処理によるものであるとしても,例えば,書込んだばかりのデータは即時読出し可能であるか否か,可能ならばどのような技術に基づいて実現されるものであるのか,不明である。
エ とりわけ,いかなる技術に基づいて,記憶データを書き加えながら「任意の」複数の位置から読み出すことが可能になるのか,明細書には一切記載されていない。
オ 以上のとおり,本件特許の特許請求の範囲の請求項1,4及び7に記載された発明は,不明確であり,かつ発明の詳細な説明において十分に裏付けられていないから,特許法36条6項1及び2号に規定する要件を満たしておらず,特許を受けることができないものであり,本件特許は,同法123条1項4号に該当し,無効とされるべきでる。
【原告の主張】
ア 本件明細書の段落【0038】,【0042】,【0045】,【0048】,【0050】,【0051】,【0053】,【0057】,【0062】,【0067】,【0068】,【0081】,【0085】及び【0086】には,前記(5)【原告の主張】アと同様の記載がある。
イ したがって,書込映像データVBを映像蓄積メモリ2の書込領域ARに書き加えながら,端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データとして記憶されている書込領域中の,任意に指定された読出開始位置TCn毎に応じた「任意の」複数の位置の各々から読み出しを開始できる技術が具体的,かつ,明確に開示されている。
ウ よって,一つのデータ入力部に入力された一連に再生される映像情報又は音声情報の一つに対応する一連のデータを書き加えながら,任意の複数の位置の各々から読み出し可能となる技術が具体的,かつ,明確に明細書に記載されており,本件特許の特許請求の範囲の請求項1,4及び7に記載された発明は,明確であり,かつ発明の詳細な説明において十分に裏付けられているから,特許法36条6項1及び2号に規定する要件を満たしており,特許を受けることができるものであるから,本件特許は,同法123条1項第4号に該当せず,無効とされるものではない。
6 争点6(損害額)
【原告の主張】
被告は、遅くとも平成17年10月25日から現在までに、少なくとも3000台の被告製品を,1台当たり少なくとも平均10万円で販売しており、その販売総額は,少なくとも3億円となる。
〔計算式〕100,000×3,000=300,000,000
上記実施における実施料率は少なくとも7%が相当であり,平成17年10月25日から現在までの実施料相当の損害額は,2100万円となる。
〔計算式〕300,000,000×0.07=21,000,000
【被告の主張】
争う。
第4当裁判所の判断
1 争点5-3(無効理由3-新規性又は進歩性の欠如3)について
事案にかんがみ,争点5-3から検討する。
(1) 本件特許出願前に頒布された刊行物である引用例3には,図面とともに,以下の事項が記載されている。
ア 「【請求項1】 受信者からの要求に応じたデータを所定の伝送路を介して伝送するデータ伝送装置において,所定の記録媒体上にデータを記録し再生する記録再生手段を有し,受信者からの要求に応じて上記記録媒体上の記録データを読み出す際,複数の受信者の要求を複数のタイムスロツトの各タイムスロツトに振り分け,各タイムスロツト毎に,上記記録媒体の異なる記録領域から記録データを読み出すことにより,複数の受信者の要求に応じた複数のデータを生成するデータ送出部を具えることを特徴とするデータ伝送装置。」
イ 「【0002】
【産業上の利用分野】 本発明はデータ伝送装置に関し,例えば受信者の要求に応じた映像データを伝送する伝送するデータ伝送装置に適用して好適なものである。」
ウ 「【0007】 本発明は以上の点を考慮してなされたもので,比較的簡易な構成により,各受信者の希望に応じた番組情報を提供することができるデータ伝送装置を提案しようとするものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】 かかる課題を解決するため本発明においては,受信者からの要求に応じたデータを所定の伝送路LINを介して伝送するデータ伝送装置1において,所定の記録媒体上にデータを記録し再生する記録再生手段23を有し,受信者からの要求に応じて記録媒体上の記録データを読み出す際,複数の受信者の要求を複数のタイムスロツトの各タイムスロツトに振り分け,各タイムスロツト毎に,記録媒体の異なる記録領域から記録データを読み出すことにより,複数の受信者の要求に応じた複数のデータを再生するデータ送出部4A1~4AL,10A1~10Amを備えるようにする。」
エ 「【0017】
【作用】 本発明においては,複数の受信者の要求を複数のタイムスロツトの各タイムスロツトに振り分け,各タイムスロツト毎に,記録媒体の異なる記録領域から記録データを読み出すようにしたことにより,データ送出部4A1~4AL,10A1~10Amの記録媒体に記録されたデータに対して複数の受信者から異なつた要求があつた場合でも,各受信者の希望に応じた伝送データを提供することができる。」
オ 「【0020】 図1において,1は全体としてデータ伝送装置を示し,電話回線LINより受信者から送られてくる受信要求に応じて映画番組等の所望の番組情報を各受信者に提供し得るようになされている。データ伝送装置1は,番組ライブラリ2から得られる番組情報SR1,SR2,‥‥,SR(k-1),SRkをスイツチヤ3を介して第1の送出部群4を構成する複数の送出部4A1,4A2,‥‥,4AL-1,4ALに選択的に供給する。
file_3.jpgat— 258 ;-—>} Ms 193)) tke A &【0021】 ここで番組ライブラリ2は,複数のVTRを搭載してなるカセツトオートチエンジヤでなり,番組制御部5からの制御信号S1に基づいて各VTRのそれぞれに所望の番組情報が記録されたカセツトを自動的に装填し再生することにより,k個の出力チヤンネルから異なる番組情報SR1~SRkを同時に出力し得るようになされている。スイツチヤ3は,k個の入力とL個の出力からなる(k×L)のマトリツクススイツチヤでなり,番組ライブラリ2から送られた番組情報SR1~SRkを,番組制御部5からの制御信号S2に応じて選択的に送出部4A1~4ALに出力する。
【0022】 各送出部4A1~4ALは,1つの入力チヤンネルと(n+1)個の出力チヤンネルを有する。また各送出部4A1~4ALは大容量の記憶装置を有し,入力した番組情報を一旦記憶装置に記憶し,これを番組送出制御部6からの制御信号S3に基づいて読み出して出力するようになされている。送出部4A1~4ALの(n+1)個の出力チヤンネルのうちn個は受信者用に割り当てられていると共に,残り1個の出力チヤンネルはスイツチヤ7に接続されている。
【0023】 送出部4A1~4ALから受信者用に出力された番組情報は,フオーマツタ8A1~8ALにより,受信者に対応したID情報(識別情報)が付加されると共に続くデータ交換機9の入力フオーマツトに適合したフオーマツトに変換された後,データ交換機9及び電話回線LINを介して各受信者に提供される。これによりデータ伝送装置1においては,例えば送出部4A1からは内容の同じ番組情報をn人の受信者に提供することができると共に,例えば送出部4ALからは送出部4A1の番組情報と内容の異なる番組情報をn人の受信者に提供し得るようになされている。」
カ 「【0029】ここで第1の送出部群4の各送出部4A1~4AL及び第2の送出部群10の各送出部10A1~10Amは,図3に示すように構成されている。すなわち送出部4A1~4AL及び10A1~10Amは,スイツチヤ3又は7からの番組情報を入力インターフエース20を介してバツフアメモリ21に入力する。送出部4A1~4AL及び10A1~10Amは,バツフアメモリ21の出力を,記録再生用のインターフエース22を介して記録再生部23により所定の記録媒体に記録することができると共に,同時に出力インターフエース24を介して複数の出力チヤンネルから出力することもできるようになされている。
file_4.jpgge RAM BS BHO【0030】 実施例の場合,記録媒体としては例えば映画1本分の番組情報を記録可能な光磁気デイスクが用いられており,記録再生部23としてはこの光磁気デイスクに番組情報を記録することができると共に高速再生が可能なデイスク記録再生装置が用いられている。この結果記録再生部23は,受信者からの要求に応じて記録媒体の所望の記録領域に高速でアクセスして所望の情報を高速再生し得るようになされている。」
キ 「【0034】 また記録再生部23は,記録媒体に番組ライブラリ2からの番組情報又は別の送出部4A1~4AL,10A1~10Amからの番組情報を記録しながら,時間差のある番組情報を各受信者に送出することもできるようになされている。この場合記録再生部23は,図5に示すように,単位時間をn個のタイムスロツトに分割し,このうち(n-1)個のタイムスロツトで記録データを読み出すと共に,残りの1つのタイムスロツトで番組ライブラリ2又は別の送出部4A1~4AL,10A1~10Amからの番組情報を記録する。」
file_5.jpgLAT) 61 OTS PMR UN oI yanetee }—az+r wee 1 Oaer ee tare cera deary be aren Yoaey ye area ee. Joey ye We eRe KOeThe bere eat 1ouxyyg, wrens: arse Weed cenit —ク 「【0052】 これに対して,どの送出部4A1~4AL又は10A1~10Amにも要求番組が無い場合には,番組ライブラリ2から空き状態の送出部4A1~4AL又は10A1~10Amに要求番組を転送してコピーしながら,この送出部4A1~4AL又は10A1~10Amから要求番組を第1の受信者に送出する。
【0053】 またデータ伝送装置1においては,第1の受信者と時間差をもつて第2の受信者から同じ番組に対する要求があると,当該第2の受信者を,第1の受信者を割り当てた送出部4A1~4AL又は10A1~10Amの別のタイムスロツトに割り当てる。このときデータ伝送装置1においては,各タイムスロツト毎に,番組要求があつた時間に応じた記録位置に高速でアクセスし記録データを高速で読み出す。この結果データ伝送装置1は,複数の受信者に対して,要求時間に応じた時間差のある番組情報を提供することができる。」
ケ 「【0059】 また上述の実施例においては,送出部4A1~4AL及び10A1~10Amの記録媒体として光磁気デイスクを用い,記録再生部23として光磁気デイスクに番組情報を記録することができると共に高速再生が可能なデイスク記録再生装置を用いた場合について述べたが,本発明はこれに限らず,送出部4A1~4AL及び10A1~10Amの記録媒体としては,磁気テープ,半導体メモリ又はデイスクアレイ等を用いることができると共に,記録再生部23としてはこれに応じてビデオテープレコーダ,メモリコントローラ又はデイスク再生装置等を用いることができ,要は高速アクセス及び高速読出しが可能な種々の記録媒体及び記録再生部23を適用することができる。」
コ 「【0062】 さらに上述の実施例においては,各受信者に割り当てられたタイムスロツト毎に,受信者の要求時間に応じた位置から記録データを読み出すことにより,全ての受信者に対して番組情報を先頭から提供する場合について述べたが,本発明はこれに限らず,受信者から途中から番組情報を見たい要求があつた場合には,これに応じて読出し位置を選択すれば,各受信者の希望に応じた位置から番組情報を提供することができる。」
(2) また,引用発明3の技術内容に照らすと,引用例3において,「各受信者に送出する」という記載(【0034】)が「各受信者の端末に送出する」という趣旨であり,光磁気ディスク,半導体メモリ及びディスクアレイが高速ランダムアクセス可能な記録媒体であると認められる。
(3) 上記(1),(2)によると,引用例3には,本件発明1に倣って,以下の各構成要件に分説することのできる発明が記載されていると認めることができる。
(1a) 一つの入力チャンネルに入力された番組情報を記録可能な記録領域を備えた記録媒体を用い,
(1b) 前記一つの入力チャンネルに入力された番組情報を,前記記録領域に,記録データとして,単位時間をn個に分割したタイムスロットの1個で記録するとともに,
(1c) その記録領域に記録されている前記記録データを,タイムスロットの残りの(n-1)個で,記録媒体の異なる記録領域から読み出して,
(1d) 複数の受信者の端末に送出する,番組情報を提供する方法。
(4) また,引用発明3の前提として,引用例3には,図1,図3,図5とともに,以下のデータ伝送装置が記載されている。
(1e) 番組ライブラリ(2),スイッチャ(3),送出部(4A1~4AL),フォーマッタ(8),データ交換機(9),電話回線(LIN)を備えたデータ伝送装置(1)であって,
(1f) 番組ライブラリ(2)は,複数のVTRを搭載してなるカセツトオートチェンジャでなり,各VTRのそれぞれに映画番組等の番組情報が記録されたカセットを自動的に装填し再生し,
スイッチャ(3)は,番組ライブラリ2から送られた番組情報を送出部(4A1~4AL)に出力し,
送出部(4A1~4AL)の各々は,スイッチャ(3)からの番組情報を入力インターフェース(20)を介してバッファメモリ(21)に入力し,バッファメモリ(21)の出力を,記録再生用のインターフェース(22)を介して記録再生部(23)により所定の記録媒体に記録することができるとともに,同時に出力インターフェース(24)を介して複数の出力チャンネルから出力することもでき,
複数の出力チャンネルから出力された番組情報をフォーマッタ(8),データ交換機(9),電話回線(LIN)を介して各受信者に提供することができ,
(1g) 記録媒体としては,光磁気ディスク,半導体メモリ,又は,ディスクアレイを用い,記録再生部(23)は,単位時間をn個のタイムスロットに分割し,このうちタイムスロットの(n-1)個毎に記録媒体の異なる記録領域から記録データを読み出すと共に,タイムスロットの残り1つで番組ライブラリ(2)からの番組情報を記録することにより,番組情報の先頭や途中など各受信者の希望に応じた位置から番組情報を提供することができる,
(1h) データ伝送装置(1)。
(5) 対比,判断
ア 本件発明1と引用発明3を比較すると,以下のとおりである。
(ア) 引用発明3の「1つの入力チヤンネル」,「番組情報」,「記録可能」,「記録領域」,「記録媒体」,「複数の受信者の端末」及び「番組情報を提供する方法」は,それぞれ本件発明1の「一つのデータ入力部」,「データ」,「書込可能」,「書込領域」,「記憶手段」,「複数の端末」及び「情報供給方法」に相当する。
(イ) 引用発明3の「(1つの入力チャンネルに入力された)番組情報」は,番組ライブラリ(2)において映画番組等をVTRで再生したものであるから,本件発明1の「一連に再生される映像情報又は音声情報の一つに対応する一連のデータ」であり,引用発明3の「記録データ」は,前記(3)の構成(1c)のとおり,記録媒体から読出されて複数の受信者の端末に送出されるから,本件発明1の「端末への送信用のデータとして読出可能な記憶データ」であると認められる。
(ウ) 引用発明3の「記録媒体」は,光磁気ディスク,半導体メモリ又はディスクアレイであり,また,記録データを「単位時間をn個に分割したタイムスロットの1個で記録するとともに」,「タイムスロットの残りの(n-1)個で,記録媒体の異なる記録領域から読み出して」いるから,本件発明1と同様,「記憶されるように書き加えながら」,「書込領域中の任意の複数の位置の各々から端末への送信用のデータとして読み出して」いると認められる。
(エ) なお,本件発明1の「任意の複数の位置」が,引用発明3のタイムスロットのn個(複数個)全体における任意の位置でなく,書き込み中の1個を除いた(n-1)個(複数個)の任意の位置に相当するものであることについては,本件明細書の記載から,そのように解するべきである。
すなわち,本件明細書には図3及び次の記載がある。
「以下,カウンタ6が0番地の制御アドレスデータADC,つまり,「0」を出力していて,書込用のアドレスデータADM0の読み出しと書き込みが行われる期間を書込タイムスロット0といい,カウンタ6がn番地の制御アドレスデータADC,つまり,「n」(n=1~63,以下同じ)を出力していて,読出用のアドレスデータADMnの読み出しと書き込みが行われる期間を読出タイムスロットn(n=1~63,以下同じ)という。」(【0050】)
「‥‥選択スイッチ4で選択された映像データVBが,書込タイムスロット0の期間において情報蓄積メモリ2のM0番地から順に書き込まれる。」(【0056】)
「‥‥読出タイムスロットnの期間において読出映像データVDnが情報蓄積メモリ2のMX番地から順に読み出され,複数の読出タイムスロットnの各々における読出映像データVDnが時分割で読み出される。」(【0057】)
これらの記載によると,本件明細書に記載された本件発明の実施例において,書込と読出は同時に行われることはなく,「タイムスリット」と呼ばれる短い時間を単位として,書込と読出が時分割で行われていることが示されている。具体的には,1個の書込タイムスロット「0」で書込を行い,次に,63個の読出タイムスロット「1」~「63」で読出を行うという,合計64個のタイムスロットを繰り返すことが示されており,書込中の箇所を含む複数個の任意の位置から読出するのではなく,書込中の箇所を除く複数個の任意の位置から読出することがわかる(なお,仮に,本件発明1の「任意の複数の位置」が,引用発明3のタイムスロットのn個全体における任意の位置を意味するのであれば,引用発明3を理由として,本件発明1の無効をいうことはできなくなるが,そのときは,特許庁による判定〔乙1〕で示されたとおり,被告製品は,本件発明1を文言上侵害していないということになる。)。
イ 判断
以上によれば,本件発明1と引用発明3とは,構成要件1Aないし1Dの全てにおいて一致し,本件発明1は,引用発明3と同一であると認められるから,新規性がない。
また,本件発明2は,方法の発明である本件発明1の情報供給方法の構成を,作用で特定される物の構成としてそのまま書き改め,物の発明である情報供給システムとしたものである。したがって,本件発明1と同様の理由により,本件発明2は,引用発明3と同一であると認められるから,新規性がない。
さらにまた,本件発明3は,本件発明2の情報供給システムのうち記憶手段の部分を情報読出装置として書き改めたものである。したがって,本件発明1と同様の理由により,本件発明3は,引用発明3と同一であると認められるから,新規性がない。
よって,本件発明には無効理由があり(特許法29条1項3号),本件特許は,特許無効審判において無効にされるべきものと認められるから,特許法104条の3第1項により,原告は,本件特許権に基づく権利を行使することができない。
(6) 原告の主張について
ア 原告は,引用例3には,記録再生部23において,その機能を実現するための具体的構成が一切記載されていない旨主張するが(前記第3の5(3)【原告の主張】ア,イ),前記(1)キのとおり,引用例3の段落【0034】には,記録再生部23がタイムスロットに従って記録媒体の書き込み,読み出し処理をすることが示されている外,前記(1)ケのとおり,引用例3の段落【0059】には,記録媒体として光磁気ディスク,半導体メモリ等が例示されているから,引用例3には同機能を実現するための具体的な構成が当業者が容易に実施可能な程度に記載されていると認められる。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ 原告は,引用発明3の具体的な構成について,前記第3の5(3)【原告の主張】ア(イ)の【図5】に記載されている記録再生部の採用が考えられるとした上,【図5】の記録再生装置3のそれぞれが一つのデータ入力部1を備えることになるから,引用例3における「入力チヤンネル」は,本件発明の「データ入力部」に対応するとはいえない等と主張する(前記第3の5(3)【原告の主張】ア(イ),イ(ウ))。
しかし,引用発明3を【図5】の構成であるとの解釈は原告独自のものというべきであり,引用発明3が原告の主張する上記構成を採用しているということはできない上,引用例3の段落【0059】には「高速アクセス及び高速読出しが可能な種々の記録媒体及び記録再生部23を適用することができる」と記載されている。
したがって,原告の上記主張はその前提において失当であるから,採用することができない。
ウ また,原告は,引用例3の段落【0029】の記載を根拠に,記録再生部23は複数の記録媒体を有していて,そのうちの「所定の記録媒体」に記録されるから,引用発明3は「一つのデータ入力部」を備えていない旨主張する(前記第3の5(3)【原告の主張】ア(イ))。
しかし,引用例3には,「所定」が「複数ある記録媒体」を指すとことを前提とする記載が全くないこと,引用例3の段落【0030】には「実施例の場合,記録媒体としては例えば映画1本分の番組情報を記録可能な光磁気デイスクが用いられており,記録再生部23としてはこの光磁気デイスクに番組情報を記録することができると共に高速再生が可能なデイスク記録再生装置が用いられている。」と記載されていて特定の記録媒体が想定されていること,段落【0059】には,半導体メモリやディスクアレイなど,複数であるとは認め難い記録媒体が例示されていること等の諸点に照らすと,「所定」とは,記録媒体の種類のうち特定のものを指すと解するのが相当であり,段落【0029】の記載も,引用例3が記録媒体として光磁気ディスク,半導体メモリ又はディスクアレイを想定しているため,そのうちの特定の一つの趣旨で「所定」という文言を使用していると認められる。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
2 結論
以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 山田陽三 裁判官 島村雅之 裁判官 北岡裕章)