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大阪地方裁判所 平成20年(ワ)7312号 判決 2010年6月14日

甲事件原告

乙事件被告

Y1

甲事件参加人

東京海上日動火災保険株式会社

甲事件被告

Y2

甲事件被告・乙事件原告

西日本高速株式会社

主文

一  甲被告らは、甲原告に対し、連帯して一八六、三五〇円及びうち一七七、五〇〇円に対する平成二一年一月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙被告は、甲被告乙原告に対し、三八五、三三九円及びこれに対する平成二〇年一月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  甲原告のその余の請求を棄却する。

四  甲被告乙原告のその余の請求を棄却する。

五  甲参加人の請求を棄却する。

六  訴訟費用は、甲事件及び乙事件に関するものはこれを一〇分し、その九を甲原告の負担とし、その余を甲被告らの負担とし、丙事件に関するものは甲参加人の負担とする。

七  この判決は、主文第一項及び第二項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件

甲被告らは、甲原告に対し、連帯して六三九、一九五円及びうち五七三、七五〇円に対する平成二〇年一月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件

乙被告は、甲被告乙原告に対し、二、三〇九、九六〇円及びうち四二三、七一〇円に対する平成二〇年一月二五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  丙事件

甲被告らは、甲参加人に対し、連帯して一、三一二、五〇〇円及びこれに対する平成二一年一月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  事案の要旨

本件は、乙被告が運転する普通乗用自動車(甲原告所有。以下「a車両」という。)と、甲被告乙原告に雇用される甲被告が甲被告乙原告の業務の執行のため運転する大型貨物自動車(甲被告乙原告所有。以下「西日本高速車両」という。)が衝突した交通事故(以下「本件事故」という。)により、双方の車両が破損し、双方の車両の所有者に損害が発生したとして、

(1)  甲原告が、甲被告に対し、民法七〇九条に基づき、甲被告乙原告に対し、民法七一五条に基づき、連帯してa車両の破損により発生した損害賠償金の残元本及びてん補金額に対するてん補時までの確定遅延損害金並びに同残元本に対する不法行為の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うことを請求した事案(甲事件)と、

(2)  甲被告乙原告が、乙被告に対し、西日本高速車両の破損による損害につき、民法七〇九条に基づき、本件事故により発生した損害賠償金及びこれに対する不法行為の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を請求し、さらに、a車両の破損による損害につき、甲事件において敗訴した場合に、乙被告に対し、あらかじめ損害賠償金または求償金の請求をする必要があるとして、民事訴訟法一三五条に基づき、その支払を請求する事案(乙事件)と、

(3)  甲参加人が、甲原告との間の自動車保険契約に基づき、甲原告に対しa車両の破損による損害に対し車両保険金を支払い、商法六六二条に基づき、甲原告の甲被告らに対する損害賠償請求権を支払保険金の限度で代位取得したとして、甲事件に参加の上、求償金及びこれに対する車両保険金支払の日の翌日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を請求した事案(丙事件)である。

二  前提事実(当事者間に争いのない事実及び証拠等により容易に認定できる事実(認定に供した証拠等は後掲のとおり))

(1)  本件事故

ア 日時 平成二〇年一月二五日午後一〇時二〇分ころ

イ 発生場所 大阪府吹田市千里万博公園一番先路上(以下「本件事故現場」という。)

ウ a車両 普通乗用自動車(フォルクスワーゲンゴルフ。平成一九年一二月初度登録。走行距離三七六一キロメートル)

所有者 甲原告

運転者 乙被告

エ 西日本高速車両 大型貨物自動車

所有者 甲被告乙原告

運転者 甲被告

オ 事故態様 片側三車線の道路の第二車線を走行するa車両に、西日本高速車両が追突した(具体的状況には争いがある)。

(2)  本件事故現場は、東から西に向かう三車線の中央環状線下り線の本線(以下「本件道路」という。)において、最も左側の第一車線に東から西に向け一車線の側道(以下「本件側道」という。)が左方から合流し(以下「本件合流場所」という。)、さらに西に進んだところで、最も右側の第三車線を東から西に向け一車線の道路が中国自動車道吹田インターチェンジ入り口に向かい右方に分岐する(以下「本件分岐場所」という。)道路である。本件道路の規制速度は時速六〇キロメートルである。本件合流場所東詰には、本件合流場所に進入する車両に対し、本件側道と本件道路に、それぞれ信号機(以下「本件信号機」という。)が設置されており、本件側道を走行する車両に対しては、本件合流場所に接近する場所に「この先 信号機あり 追突注意」との表示看板が建植されている(甲三、乙一、乙五、弁論の全趣旨)。

(3)  保険契約と保険金支払(丙事件)

ア 甲参加人は、平成一九年一二月九日、甲原告との間で、a車両につき、契約期間を同日から平成二〇年一二月九日まで、車両損害限度額を四一〇万円とする車両保険を含む総合自動車保険契約(以下「本件保険契約」という。)を締結した(弁論の全趣旨)

イ 甲参加人は、平成二一年一月二三日、甲原告に対し、本件事故によるa車両の破損に関し、本件保険契約に基づき、車両保険金一、三一二、五〇〇円を支払った(弁論の全趣旨)。

(4)  西日本高速車両の損害(乙事件)

本件事故により、西日本高速車両は破損し、修理費三八三、七一〇円を要する損害を受けた(乙八~九)。

三  争点及び争点に関する当事者の主張

(1)  争点(1) 事故態様及び責任原因

(甲原告・乙被告・甲参加人らの主張)

ア 事故態様

乙被告は、a車両を運転し、方向指示器を出しながら、本件側道から本件道路の第一車線に合流し、程なく再度方向指示器を出して本件道路の第二車線に車線変更した。その後、a車両は時速三〇キロメートル前後で本件分岐場所のゼブラゾーンと赤いポール東端付近を通過した後、本件道路の第二車線上で後方から西日本高速車両に追突された。

イ 責任原因

甲被告は、西日本高速車両を運転するにあたり、前方を注意して自車の前方を走行する車両に追突しない義務があるにもかかわらずこれを怠り、自車前方を走行中のa車両に漫然として自車を追突させたものであり、本件事故は、もっぱら甲被告の過失により発生したものであって、甲被告は、民法七〇九条に基づき、甲原告に対し、損害賠償義務を負う。

甲被告乙原告は、甲被告を雇用し、西日本高速車両を利用させ、もって甲被告乙原告の事業収益をあげていることから、甲被告が勤務中に西日本高速車両により発生させた本件事故に関し、民法七一五条一項に基づき、甲原告に対し、甲被告と連帯して損害賠償義務を負う。

本件事故は、本件合流場所から本件分岐場所までは約八〇メートルあること、a車両は、西日本高速車両の前方一〇〇メートルで本件道路の第一車線に合流したこと、a車両は時速約三〇キロメートルで進行しており、急ブレーキをかけていないこと、a車両後部には六時方向からの入力により左右均等の衝撃が加わった痕跡があることなどから考えて、西日本高速車両が追突を避けるために減速すればa車両への追突を避けられたにもかかわらず、本件事故が発生したのは、もっぱら西日本高速車両を運転していた甲被告の前方不注視によるものである。

乙被告は、本件信号機の本件側道車両用の対面信号が赤信号であることを見落としているが、これは本件事故の発生には直接関係しない。

(甲被告らの主張)

ア 事故態様

乙被告は、a車両を運転し、本件側道から本件信号機の側道車両用の赤信号を無視して、時速五〇キロメートルで本件道路に進入し、本件分岐場所までの約五〇メートルを本件道路の第一車線から第三車線まで一気に進入しようとしたが、第三車線を直進する車両があったため、西日本高速車両の一五ないし二〇メートル前方で、突然、合図なく第二車線に車線を変更し、急ブレーキをかけて本件事故現場付近で急停止し、本件道路の車両用の青信号に従い、本件道路の第二車線を進行していた西日本高速車両は、クラクションを鳴らしブレーキをかけたが避けきれずにa車両の後部に衝突した。

イ 責任原因

乙被告は、車両の前後左右の安全を確認し、信号機の信号表示に従って車両を走行させ、方向指示器により合図をして車線変更を行い、後続車両を急停止させるような急ブレーキをかけてはならない注意義務があるにもかかわらず、これを怠り、時速約五〇キロメートルの速度のまま、側道の信号機の赤信号を無視して走行車線に進入し、中国自動車道に進入しようとしたが、第三車線を直進する車両があったため第三車線に進入することができず、そのため、突然、西日本高速車両の一五ないし二〇メートル前方で理由のない急ブレーキをかけてa車両を停止させ、本件事故を発生させたのであり、本件事故は、もっぱら乙被告の過失により発生したものであって、乙被告は、民法七〇九条に基づき、甲被告乙原告に対し、損害賠償義務を負う。

本件事故現場における本件合流場所と本件分岐場所の位置関係に照らし、本件事故当時、a車両は、時速五〇キロメートルで本件道路に進入したものであり、また、a車両が第三車線に進入することができないまま第二車線を走行していたため、心持ち車体を右に向けるような状態であったことは、a車両の破損状況にも合致する。

本件事故現場においては、本件側道から本件道路へ進入する車両と本件道路を西進する車両との事故を防止するため、本件信号機が設置されており、車両が本件信号機の表示に従って走行する限り、本件のような事故が発生することはない。しかし、a車両は本件側道から赤信号を無視して本件道路に進入しており、そのこと自体、乙被告の前方不注視の現れであり、本件道路を進行していた西日本高速車両を運転する甲被告には、対面信号が青であったから、信頼の原則により、a車両のように赤信号を無視して本件道路に進入し、第二車線上で急停止する車両の有無動静を予想して車両を運転すべき義務はなく、甲被告らは不法行為責任を負うことはない。

(2)  争点(2) 過失相殺

(甲被告らの主張)

仮に、本件事故に関し、甲被告に過失が認められ、甲被告らにa車両の破損によりa車両の所有者である甲原告に発生した損害を賠償する責任があるとしても、甲原告と乙被告は、本件事故当時の関係、本件事故後の婚姻、本件事故現場に至る経過等に照らし、a車両の共同運行供用者であるというべきであり、さらに本件事故当時a車両に同乗していた甲原告は、乙被告がa車両を運転するにあたり、本件信号機の赤色表示を無視して本件事故現場に進入することを防ぐことが可能であったから、甲事件における甲原告の請求に対しては、乙被告と甲原告の過失も考慮されるべきである。

なお、仮に甲事件における甲原告の請求に対して、乙被告の過失が考慮されないのであれば、甲被告乙原告は、本件事故に関し、乙被告に求償できることとなる。

(甲原告・乙被告・甲参加人らの主張)

本件事故当時、甲原告と乙被告は身分上経済上一体ではなく、乙被告によるa車両の運転は一時的運転であり、甲原告と乙被告は共同運行供用者ではない。甲原告には、乙被告のa車両運転にあたり運行指示説明義務はなく、甲被告らの甲原告に対する損害賠償義務を考える上で、乙被告の過失は考慮されるべきではない。

(3)  争点(3) a車両の損害等(甲事件・丙事件)

ア a車両修理費

(甲原告・甲参加人らの主張)

本件事故により、車両は破損し、修理費一、三一二、五〇〇円を要する損害を受けた。このa車両修理費は、甲被告乙原告の車両保険会社が算定し修理工場と協定したものである。

(甲被告らの主張)

a車両の修理費は、高額すぎ、本件事故と相当因果関係のある金額は一、〇〇六、一〇〇円である。

イ a車両評価損

(甲原告・甲参加人らの主張)

a車両は、左右のリアサイドメンバ及びルーフクロスメンバという自動車公正競争規約上、表示義務ある損傷を被っており、修理費の三〇%である三九三、七五〇円の評価損が認められるべきである。

(甲被告らの主張)

a車両は、既に修理が終了しており、修理によっても完全に回復しない機能障害あるいは美観障害や通常の使用期間が短縮されるような事情はなく、甲原告は、本件事故時、a車両を買い換える予定もなく、a車両には評価損は発生していない。

ウ 弁護士費用

(甲原告・甲参加人らの主張)

一八〇、〇〇〇円

(甲被告らの主張)

争う。

エ 甲原告の請求の減縮と確定遅延損害金(甲事件)

(甲原告の主張)

甲原告は、平成二一年一月二三日、車両保険金一、三一二、五〇〇円の支払を受け、甲被告らに対し、当初、a車両の破損により発生した損害賠償金として請求していた修理費と評価損及び弁護士費用の合計額から、同車両保険金によるてん補額一、三一二、五〇〇円を差し引いた残元本三九三、七五〇円とてん補時までのてん補金額に対する確定遅延損害金六五、四四五円(1,312,500円×5%×364日÷365日)並びに残元本に対する不法行為の日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を連帯して支払うことを請求する。

(甲被告らの主張)

そもそも、被告らは、本件事故に関し、不法行為責任を負うことはない。

オ 甲参加人の請求(丙事件)

(甲参加人の主張)

甲参加人は、本件保険契約に基づき、甲原告に対しa車両の破損による損害に対し車両保険金一、三一二、五〇〇円を支払ったから、商法六六二条に基づき、甲原告の甲被告らに対する損害賠償請求権を支払保険金の限度で代位取得し、甲被告らに対し、連帯して求償金一、三一二、五〇〇円及びこれに対する車両保険金支払の日の翌日である平成二一年一月二四日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を請求する。

(甲被告らの主張)

そもそも、被告らは、本件事故に関し、不法行為責任を負うことはない。

第三当裁判所の判断

一  争点(1) 事故態様及び責任原因について

(1)  前記前提事実に証拠(甲三、乙一、乙五、甲原告本人、乙被告本人、甲被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められる。

本件事故現場の形状は、信号機により交通整理の行われている本線と側道が本件合流場所で合流し、約六〇メートル程度で西に進行して、本件分岐場所から中国自動車へ分岐する交差点様の道路であること、本件道路の最高速度は時速六〇キロメートルである。

乙被告が運転し甲原告が同乗するa車両は、中国自動車道に向かおうとして、時速四〇~五〇キロメートル程度で本件信号機の本件側道走行車両用の赤信号を見落とし本件側道から本件道路の第一車線に合流しさらに第二車線を通って第三車線に進行して本件分岐場所から中国自動車道に向かおうとしたが、本件信号機の本件道路走行車両用の信号は青色信号であったのであるから、当然、本件道路の第三車線を走行してくる車両があり、そのため、a車両は、第三車線を通って本件分岐場所から中国自動車道に向かうことができず、第三車線に侵入することを断念して、そのまま第二車線上を西進し、乙被告は甲原告と、その旨会話をしていたところ、後方からクラクションの音を聞いた。

甲被告は、西日本高速車両を運転し、本件信号機の本件道路走行車両用の青色信号に従い、時速六〇キロメートル程度で第二車線を直進していたところ、前方約二〇メートル程度の地点にa車両が本件側道から本件道路に合流してくるのを発見しつつも、さらにa車両が第二車線に進入してブレーキをかけ減速したことから、双方の車両がその速度差から一〇メートル~一五メートル程度に接近し、甲被告は、西日本高速車両のクラクションを鳴らしてブレーキをかけたが間に合わず、西日本高速車両がa車両に追突した。

(2)  本件においては、この種の物損事故によくあることではあるが、事故発生直後に警察が事故現場の状況を見分し事故関係者の指示説明を記録した実況見分調書または現場の見分状況書はなく、本件事故により現場に残された痕跡等の客観的証拠は明らかではなく、双方の車両の破損状況等からも、本件事故発生時の双方の車両の姿勢、速度、本件事故発生地点など本件事故の態様を詳細に認定するに足りる証拠に乏しい。

その中で、本件事故の態様を認定するにあたって、双方の車両のおよその速度や位置関係などは、本件信号機の赤色表示を見落とし、本件側道から本件道路に進入し中国自動車道に向かえなかったまま本件道路第二車線を進行し、a車両で周囲の状況よりも中国自動車道に向かえなかったことに注意が向いていたことも推測されるa車両を運転する乙被告とその同乗者である甲原告の供述よりも、本件信号機の青色表示に従い、西日本高速車両を進行させた甲被告の供述を採用すべきであろう。なお、甲被告が、衝突の直前にクラクションを鳴らしたことは、甲原告、乙被告も認識しており、甲被告にとって、a車両の動きが、予想外のものであったことを推認させるものともいえる。

なお、西日本高速車両の速度が、大きく最高速度を超過していた事実を認めるに足りる証拠はない。

そうすると、本件事故は、本件事故現場の道路の形状、本件信号機の存在とその表示等と甲原告、乙被告及び甲被告の供述中、合理的な部分を総合すれば、本件信号機の赤色表示を見落としたため、本件側道から本件道路に進入したものの、中国自動車道に向かえなかったまま減速し、本件道路第二車線を進行したa車両に、本件信号機の青色表示に従い、進行してきた西日本高速車両が、その速度差のまま追突したものであると認めるべきである。

(3)  前記認定の本件事故の態様に照らせば、乙被告は、車両を運転するにあたり、信号機の表示に従うべきであるのに、本件信号機の存在すら気づかず、赤色表示を無視する形で本件側道から本件道路に進入し、信号無視のため中国自動車道に向かえず、a車両を減速させた過失により、本件事故を発生させたものであるから、民法七〇九条に基づき、損害賠償義務を負う。

一方、甲被告は、信号機の表示に従って車両を運転していたのであるから、基本的に、信号表示を守らない車両の存在を予想して車両を運転する義務はないというべきであるが、本件においては、a車両が本件道路に合流することを発見した地点で、適宜速度を調節すれば、本件事故の発生を防止できたとも考えられ、進路前方の車両の動静に応じて運転すべき注意義務に反したものとして、民法七〇九条に基づき、損害賠償義務を負うとも考えられ、そうであれば、甲被告乙原告は、甲被告を雇用し、甲被告乙原告はその事業の執行のため、甲被告が西日本高速車両を運転して発生させた本件事故に関し、民法七一五条一項に基づき、甲原告に対し、甲被告と連帯して損害賠償義務を負う。

二  争点(2) 過失相殺について

(1)  前記認定の本件事故の態様に照らせば、本件事故は、西日本高速車両による後方からの追突であるものの、基本的には、信号機により交通整理の行われている交差点における赤信号進入車両と青信号進入車両の衝突に類するものと評価され、全訂四版別冊判例タイムズ第一六号の【五三】の設例を基本に、側道からの合流車と本線走行車両の衝突に関する同【二五五】の設例や進路変更車両と後続直進車との衝突に関する同【二五八】の設例を参考に、本件事故の過失割合を、a車両側九〇:西日本高速車両側一〇とすべきである。

(2)  甲被告乙原告の請求に乙被告の過失も考慮できるか

ア 前記前提事実に証拠(甲一、二、乙五、甲原告本人、乙被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、本件事故当時、a車両の所有者は甲原告であり、a車両は乙被告が運転していたこと、甲原告は、a車両に乙被告を同乗させて大阪市内の当時の甲原告の自宅から北摂方面に食事に行き、その後、運転を乙被告に交替して、ドライブに行くため中国自動車道に入るべく、本件側道から本件事故現場に至ったこと、甲原告も乙被告も、本件信号機の存在及びその表示が赤色であったことを見落としたこと、本件事故現場においてa車両が中国自動車道に入れなくなり、その旨を車内で話題としたこと、本件事故日までに甲原告がa車両を乙被告に運転させて同乗したことが二、三回あったこと、甲原告と乙被告は、平成一六年ころ知り合い、平成一七年から平成一九年ころまで住居を同じくしていたこと、本件事故当時、結婚を前提に交際していたこと、甲原告と乙被告は本件事故の発生した同じ年である平成二〇年一〇月に婚姻し入籍したこと、本件口頭弁論終結時現在も夫婦であること、甲原告は、本件事故後、a車両を修理し本件口頭弁論終結時現在も使用していることなどの事実が認められる。

イ 民法七二二条二項に定める被害者の過失とは、単に被害者本人の過失のみでなく、被害者側の過失をも包含する趣旨と解されているところ、被害者側の過失を斟酌する理由は、損害の公平な分担という公平の理念に基づくものであるから、被害者側の過失とは、被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者の過失をいうべきであり、過失相殺事由を判断する基準時は、事故時であり、基本的には、事故後に新たに発生した身分関係等を考慮して被害者側の過失と評価することはできないと考えられる。しかし、被害者側の過失として、被害者本人と身分上、生活関係上、一体をなすとみられるような関係にある者の過失を被害者側の過失として考慮する場合、被害者と被害者側の者との間に経済的一体性がある場合は、結果的に求償関係をも一挙に解決し、紛争を一回で処理できるという合理性もある。そして、事故時において、車両の所有者が、運転者と交際関係にあり婚姻を予定しているなど一定の親しい関係にあり、車両に同乗して、事故発生になにがしかの関与が認められ、さらに、事故後、車両の所有者が、運転者と婚姻し、これが当該車両の破損に伴う所有権侵害の損害賠償請求訴訟の口頭弁論終結時に継続し、身分・生活関係上かつ経済的一体性も認められるという事例においては、事故時と連続した身分上・生活関係上の一体性の固定という経緯も考慮して、事故時の生活関係を「身分・生活関係上の一体性」があるものと評価して、被害者側の過失を斟酌すべきであると判断する。

ウ 本件においては、前記認定にかかる本件事故の発生に至るa車両の運行の経過における甲原告と乙被告の関与、本件事故当時及び現在のa車両運転者と所有者の身分関係等を考慮すれば、a車両運転者である乙被告の過失を、a車両側の過失割合として、甲原告の損害賠償請求においても考慮すべきである。なお、そうであれば、甲被告乙原告が、本件事故に関し、乙被告に求償する必要はないこととなる。

三  争点(3) a車両損害等(甲事件、丙事件)について

(1)  修理費 一、三一二、五〇〇円

証拠(甲五)によれば、本件事故により、a車両は破損し、修理費一、三一二、五〇〇円を要する損害を受けたものと認める。

(2)  評価損 二六二、五〇〇円

前記認定事実と証拠(甲五)により認められるa車両の車種(フォルクスワーゲンゴルフ)、初度登録(平成一九年一二月であり、本件事故の前月)、走行距離(三七六一キロメートル)、損傷内容(自動車公正競争規約上の表示義務の対象である左右のリアサイドメンバ及びルーフクロスメンバの損傷)、同種車両の新車価格(三、三五〇、〇〇〇円)などの要素を考慮し、本件事故により、a車両に破損による評価損として、修理費の二〇%である二六二、五〇〇円を認める。

(3)  過失相殺後の残額 一五七、五〇〇円

前記認定判断のとおり、本件事故の過失割合は、a車両側九〇:西日本高速車両側一〇とすべきであり、甲原告の請求における過失相殺において、甲原告は、本来、甲被告らに対し、連帯して、前記修理費と評価損の合計一、五七五、〇〇〇円の一〇%である一五七、五〇〇円の損害の支払を求めることができる。

(4)  弁護士費用 二〇、〇〇〇円

前記過失相殺後の残損害額に対し、本件事故と相当因果関係にある損害として甲被告らに賠償させるべき弁護士費用としては、事案の経過、難易、そして認容される損害の額その他諸般の事情を考慮し、本件においては、損害額の一〇%程度を基本とし、二〇、〇〇〇円と認める。

(5)  甲原告の請求

前記前提事実及び前項で判断したとおり、甲原告は、本件事故によるa車両の破損に関し、平成二一年一月二三日、損害合計一、五七五、〇〇〇円のうち、甲参加人から、本件保険契約の保険金一、三一二、五〇〇円の支払を受け、残額二六二、五〇〇円の範囲内で、甲被告らに対する損害賠償請求権の過失相殺後の残額と弁護士費用の合計一七七、五〇〇円及び同元本に対する平成二一年一月二三日までの確定遅延損害金八、八五〇円並びに同元本に対する平成二一年一月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求めることができる。

(6)  甲参加人の請求(丙事件)

本件においては、甲原告の甲被告らに対する損害賠償請求権は、過失相殺の結果、甲被告らに対する損害賠償請求権の過失相殺後の残額一五七、五〇〇円と弁護士費用二〇、〇〇〇円の合計一七七、五〇〇円となると解されるところ、車両保険金の支払による保険者である甲参加人の代位の範囲は、商法第六六二条第二項の類推適用により、原則として、被保険者である甲原告の権利を害さない範囲においてのみ、甲原告の甲被告らに対する損害賠償請求権を支払保険金の限度で代位取得すると解すべきである。

そして、本件においては、甲原告は、本件事故によるa車両の破損に関し、平成二一年一月二三日、甲参加人から、本件保険契約による保険金一、三一二、五〇〇円の支払を受け、甲原告の甲被告らに対する損害賠償請求権は同保険金の範囲でてん補済みであるとして、残額のみにつき請求の趣旨を減縮しているが、これは、甲原告・乙被告・甲参加人らがa車両側には過失はなく過失相殺はないことを前提とする主張であると解される。

よって、甲参加人の代位の範囲は、被保険者である甲原告の権利を害さない範囲においてのみ、甲原告の甲被告らに対する損害賠償請求権を支払保険金の限度で代位取得すると解すべきであるから、本件においては、甲原告は、まずa車両の破損により被った損害合計一、五七五、〇〇〇円のうち本件保険契約による保険金一、三一二、五〇〇円によりてん補されなかった二六二、五〇〇円の範囲内で、甲被告らに対する損害賠償請求権の過失相殺後の残額と弁護士費用の合計一七七、五〇〇円及び同元本に対する平成二一年一月二三日までの確定遅延損害金八、八五〇円並びに同元本に対する平成二一年一月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求めることができ、甲参加人は、甲被告らに対する損害賠償請求権の過失相殺後の残額の請求はできないと考える。

四  乙原告の請求(乙事件)

(1)  西日本高速車両の破損による損害

前記前提事実のとおり、本件事故により、西日本高速車両は破損し、修理費三八三、七一〇円を要する損害を受けたものと認める。

これに前記認定判断にかかる過失相殺を行うと、乙原告は、乙被告に対し、三八三、七一〇円の九〇%である三四五、三三九円の損害の支払を求めることができる。

この過失相殺後の残損害額に対し、本件事故と相当因果関係にある損害として乙被告に賠償させるべき弁護士費用としては、事案の経過、難易、そして認容される損害の額その他諸般の事情を考慮し、本件においては、損害額の一〇%程度を基本とし、四〇、〇〇〇円と認める。

(2)  乙原告は、a車両の破損による損害につき、甲事件における甲原告の甲被告乙原告に対する請求において、a車両の運転者である乙被告の過失が考慮されないのであれば、甲事件において敗訴した場合に、乙被告に対し、あらかじめ損害賠償金または求償金の請求をする必要があるとして、民事訴訟法一三五条に基づき、その支払を請求をする。

しかし、前記認定判断のとおり、甲事件における甲原告の甲被告乙原告に対する請求に対して、a車両の運転者である乙被告の過失も考慮して前記のとおり甲被告らの支払うべき損害額を認定判断したのであるから、甲被告乙原告は、本件事故に関し、賠償を命ぜられたa車両の破損による損害につき、あらかじめ乙被告に求償する必要はないこととなる。

(3)  よって、甲被告乙原告は、乙被告に対し、民法七〇九条に基づき、三八五、三三九円及びこれに対する本件事故の日である平成二〇年一月二五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を請求することができる。

第四結論

以上のとおり、甲原告の請求は、主文第一項の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、甲被告乙原告の請求は、主文第二項の限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、甲参加人の請求は、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条、同法六四条を、仮執行宣言につき同法二五九条一項をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 小倉真樹)

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