大阪地方裁判所 平成20年(ワ)8528号 判決 2010年5月21日
原告
X1
原告
X2
原告ら訴訟代理人弁護士
城塚健之
同
原野早知子
同
山室匡史
被告
Y工業組合
同代表者代表理事
C
同訴訟代理人弁護士
鏑木圭介
主文
1(1) 被告は、原告X1に対し、4万4297円及び平成20年7月から本判決確定の日まで、毎月25日限り、2万円の割合による金員を支払え。
(2) 上記訴えのうち、本判決確定の日の翌日以降支払済みまでの金員の支払を求める部分を却下する。
(3) 原告X1が、被告に対し、被告の事務局長代理の地位にあることを確認する。
(4) 被告は、原告X1に対し、19万2000円及び平成20年7月から本判決確定の日まで、毎月25日限り、3万2000円の割合による金員を支払え。
(5) 上記(3)の訴えのうち、本判決確定の日の翌日以降支払済みまでの金員の支払を求める部分を却下する。
2 被告は、原告X2に対し、12万7049円を支払え。
3 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
4 訴訟費用のうち、
(1) 原告X1と被告との間で生じた部分は、これを3分し、その1を被告の負担とし、その余を原告X1の負担とする。
(2) 原告X2と被告との間で生じた部分は、これを10分し、その1を被告の負担とし、その余を原告X2の負担とする。
5 この判決は、第1項の(1)及び(4)、第2項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1(1) 被告は、原告X1に対し、
ア 44万5000円及び内金21万円に対する平成19年7月11日から、内金23万5000円に対する平成19年12月14日から、それぞれ支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 21万5000円及びこれに対する平成20年7月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
ウ 23万9000円及びこれに対する平成20年12月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
エ 23万円及びこれに対する平成21年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は、原告X2に対し、
ア 10万6700円及びこれに対する平成19年12月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
イ 7200円及びこれに対する平成20年7月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
ウ 6万6700円及びこれに対する平成20年12月26日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
エ 18万8700円及びこれに対する平成21年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2(1) 被告は、原告X1に対し、4万6297円及び平成20年7月から、毎月25日限り、2万6000円を支払え。
(2) 被告は、原告X2に対し、14万6229円及び平成20年7月から、毎月25日限り2万9780円を支払え。
3 主文第1項(3)と同旨。
4 被告は、原告X1に対し、19万2000円及び平成20年7月から、毎月25日限り、3万2000円の割合による金員を支払え。
5(1) 原告X1は、被告資材主任として勤務する雇用契約上の義務のないことを確認する。
(2) 原告X2は、被告経理部において勤務する雇用契約上の義務のないことを確認する。
6(1) 被告は、原告X1に対し、100万円及びこれに対する平成20年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(2) 被告は、原告X1に対し、100万円及びこれに対する平成20年7月18日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1 事案の概要
本件は、被告の従業員である原告らが、被告に対して、①違法に賞与、賃金を減額されたとして、賞与請求権ないし賃金支払請求権に基づく支給額との差額の支払、②原告X1が、被告の事務局長代理の地位から経理主任に降格されたことが無効であることを理由とする事務局長代理の地位確認及び降格された地位に係る手当との差額の支払(原告X1)、③原告らに対する配転命令が違法であることを理由とする地位確認、④被告の原告らに対する不利益取扱いが女性従業員に対する差別的取扱であることを理由とする不法行為に基づく損害賠償をそれぞれ求めている事案である。
2 前提事実(ただし、文章の末尾に証拠等を掲げた部分は証拠等によって認定した事実、その余は当事者間に争いがない。)
(1) 当事者等
ア 原告ら
(ア) 原告X1(以下「原告X1」という。)は、平成8年7月10日、被告に正社員として採用され、平成10年4月に経理主任に、平成15年4月に局長代理に就任した。原告X1は、平成15年4月に結婚し、平成16年4月に第1子を出産して、産休を取得した。また、平成17年10月、第2子を出産し、産休及び育休を取得し、平成18年10月に職場に復帰した(書証(省略)、弁論の全趣旨)。
(イ) 原告X2(以下「原告X2」という。)は、平成14年10月7日に被告に正社員として採用された。原告X2は、平成16年4月に第1子を出産し、産休及び育休を取得し、平成18年2月に第2子を出産し、産休及び育休を取得した。さらに、平成21年6月19日、第3子を出産し、平成22年6月19日まで産前産後休暇・育児休暇を取得している(書証(省略)、弁論の全趣旨)。
イ 被告は、昭和7年4月にa組合として発足し、昭和17年4月にY工事統制組合に、昭和25年4月にa1協同組合に、昭和41年2月14日にa1工業組合に改組して現在に至っている。
被告の主たる事業は、①情報収集・交換による経営方針の確立のための活動、職業能力開発促進法に基づくY工棟職業訓練校の運営等の指導教育情報事業、②建設雇用改善事業の実施、全国板金業国民健康保険組合の運営等の福利厚生事業、③資材の共同購入による経費節減等の共同購買事業、④共同受注事業である。
被告には、理事26名(うち、理事長1名、副理事長3名、専務理事1名、常務理事2名)、監事3名等があり、議決機関として、総代会、理事会、常務会などがある。理事長は、被告の1組合員であり、総代会で選出された理事の中から更に選ばれることになる。
(以上について、書証(省略)、弁論の全趣旨)
(2) 原告らの基本給
ア 平成19年の原告X1の給与は、基本給16万円、職能給2万5000円であった(書証省略)。
イ 平成19年度の原告X2の給与は、基本給12万2600円、職能給2万500円であった(書証省略)。
(3) 原告X1の降格
ア 平成19年12月18日、被告は、原告X1に対し、局長代理から経理主任に降格する旨通知した(以下「本件降格」という。)。
イ 本件降格は、飽くまでも人事権の行使としての降格であり、懲戒処分としての降格処分ではない(弁論の全趣旨)。
ウ なお、平成19年度における被告事務局の職務分担は、別紙1(省略)のとおりであり、原告X1が局長代理から経理主任となった平成19年12月18日後の同職務分担は別紙2(省略)のとおりである。
(4) 原告らに対する配転命令
ア 被告は、平成20年6月9日付け「組合事務局の業務について(連絡)」と題する書面において、同年6月23日から担当割の変更を行う旨告げ、同日から実施した。
イ これにより、原告X1は、経理部から資材部に配転するよう命じられた。他方、原告X2は、資材部から経理部に配転するよう命じられた(原告らに対する各配転命令をまとめて、「本件配転命令」という。)。
ウ なお、本件配転命令後における被告事務局の職務分担は、別紙3(省略)のとおりである。
(5) 原告らに対する賞与支払状況
ア 原告X1
① 平成19年夏季 金額に争いあり(原告:20万円、被告:18万5000円)
② 平成19年冬季 20万円(書証省略)
③ 平成20年夏季 19万5000円(書証省略)
④ 平成20年冬季 19万6000円(書証省略)
⑤ 平成21年夏季 20万5000円(書証省略)
イ 原告X2
① 平成19年冬季 20万円(書証省略)
② 平成20年夏季 27万9000円(書証省略)
③ 平成20年冬季 24万円(書証省略)
④ 平成21年夏季 11万8000円(書証省略)
第3本件の争点
1 平成19年から平成20年夏季までの間における未払賞与請求権の有無及びその額(争点1)
2 原告らに対する賃金減額の適否及び未払賃金の額(争点2)
3 本件降格の適否、同降格による事務局長に対する管理職手当と経理主任に対する手当との差額請求権の有無及びその額(争点3)
4 本件配転命令の適否(争点4)
5 原告の被告らに対する損害賠償請求権の有無及びその額(争点5)
第4争点に関する当事者の主張
1 争点1について
(原告ら)
(1) 原告らを含む被告従業員は、入職時に、勤務条件として、賞与の計算方法につき、以下のとおり説明され、被告と合意し、同算定方法に基づき賞与支給額が決定されていた。
夏季 基本給×2か月
職能給×2か月
+勤務成績(勤務状況)
+勤務成績(出勤状況)
冬季 基本給×2か月
職能給×3か月
+勤務成績(勤務状況)
+勤務成績(出勤状況)
このうち、勤務成績の項目は金額が変動するが、基本給及び職能給に関する部分は、支給が保障されていた。
(2) また、原告X1については、平成14年冬季以降、夏季及び冬季ともに、「役付」の項目として4万円が加算されており、これが原告X1と被告との合意となっていた(書証省略)。
(3) 平成19年度から平成21年度夏季までの間における被告による違法な賞与減額
ア 平成19年度賞与
(ア) 原告X1について
① 夏季
平成19年7月の原告X1に支給される賞与は、上記算定方法からすると、少なくとも41万円となるはずであった(16万円×2か月+2万5000円×2か月+4万円)。しかし、被告は、平成19年7月10日、原告X1に対し、夏季賞与として20万円しか支給しなかった。
② 冬季
平成19年12月に原告X1に支給される賞与は、上記算定方法からすると、少なくとも43万5000円となるはずだった(16万円×2か月+2万5000円×3か月+4万円)。しかし、被告は、平成19年12月13日、原告X1に対し、夏季賞与として20万円しか支給しなかった。
(イ) 原告X2の平成19年度冬季賞与
原告X2の平成19年度冬季賞与は、上記算定方法からすると、少なくとも30万6700円となるはずだった(12万2600円×2か月+2万500円×3か月)。しかし、被告は、平成19年12月13日、冬季賞与として、原告X2に対し、20万円しか支給しなかった。
イ 平成20年度賞与
(ア) 原告X1
① 夏季
平成20年7月の原告X1に支給される賞与は、上記算定方法からすると、少なくとも41万円となるはずであった(16万円×2か月+2万5000円×2か月+4万円)。しかし、被告は、平成20年7月11日、原告X1に対し、夏季賞与として19万5000円しか支給しなかった。
② 冬季
平成20年12月に原告X1に支給される賞与は、上記算定方法からすると、少なくとも43万5000円となるはずだった(16万円×2か月+2万5000円×3か月+4万円)。しかし、被告は、平成20年12月25日、原告X1に対し、冬季賞与として19万6000円しか支給しなかった。
(イ) 原告X2
① 夏季
平成20年7月の原告X2に支給される賞与は、上記算定方法からすると、少なくとも28万6200円となるはずであった(12万2600円×2か月+2万500円×2か月)。しかし、被告は、平成20年7月11日、原告X2に対し、夏季賞与として27万9000円しか支給しなかった。
② 冬季
平成20年12月に原告X2に支給される賞与は、上記算定方法からすると、少なくとも30万6700円となるはずだった(12万2600円×2か月+2万500円×3か月)。しかし、被告は、平成20年12月25日、原告X2に対し、冬季賞与として、24万円しか支給しなかった。
ウ 平成21年夏季賞与
(ア) 原告X1
平成21年7月の原告X1に支給される賞与は、上記算定方法からすると、少なくとも43万5000円となるはずであった(16万円×2か月+2万5000円×2か月+4万円)。しかし、被告は、平成20年7月17日、原告X1に対し、夏季賞与として20万5000円しか支給しなかった。
(イ) 原告X2
平成21年7月の原告X2に支給される賞与は、上記算定方法からすると、少なくとも30万6700円となるはずであった(16万円×2か月+2万5000円×3か月)。しかし、被告は、平成20年7月17日、原告X2に対し、夏季賞与として11万8000円しか支給しなかった。
エ 賞与減額理由の不合理性
被告が原告らに対する賞与減額の理由として挙げる点は、労基法又は就業規則上認められた正当な権利(年次有給休暇取得、介護休業、代休)、事実誤認(欠勤の点)等に基づくものであり、いずれも不当であり、賞与減額の正当な根拠とはなり得ない。また、それらの点をおくとしても、上記算定方法のとおり、原告らに対する賞与は、原告らの出勤状況や勤務成績にかかわらず、基本給及び職能給を基準に所定の月数を掛けて算定されるのであり、過去の支給実績からみても、職務状況や出勤状況の項目で加算されないことがあっても、基本給+職能給の合計額から更に減額されたことはなかった(書証省略)。
オ 賃金規程25条の有効性について
仮に、賃金規程25条の文言が従前の賞与の計算方法を変更する意味を含んでいるとしても、就業規則の効力が発生するためには、労働者への周知が必要となる。そして、賞与の算定方法の変更を就業規則の変更をもって正当化するのであれば、賃金規程25条と一体をなす賞与の計算方法についても当然に従業員に周知されなければならない。しかし、賞与の算定方法については周知性がない。したがって、当該変更は効力を生じていないというべきである。
また、被告が賃金規程の制定に伴って賞与の算定方法を改めたとしても、その変更内容は、労働条件を不利益に変更するものであるところ、変更後の賞与の算定方法の内容は、きわめて抽象的であり、不合理な内容である。したがって、このような変更は効力を生じないから、原告らの賞与に関する算定方法は、上記合意に基づく従前の算定方法によってなされるべきである。
カ 被告の算定方法自体が違法であること
被告は、平成17年夏季賞与から賞与の算定方法を見直したと考えられるところ、具体的な算定方法は必ずしも明らかではないが、甲第28号証(省略)に記載された算定方法を採用しているものと推認される。ところで、同算定方法によると、年次有給休暇取得分が不利益に考慮されることはないということになる。しかし、甲第28号証(省略)によると、被告は、年休取得を理由に賞与の金額を減額していると認められる。以上のとおり、被告は、自ら定めたルールにも違反しているのである。
賃金規程25条は、その文言上看護休暇や代休等の制度化された権利行使の場合を賞与から控除することを予定しているとはいえない。しかし、甲第28号証(省略)によると、年次有給休暇や産前産後休暇等の労基法上休暇取得を理由に賞与を減額する内容となっているのであって、同条に違反することは明らかである。
賃金規程25条は、不就労分を複数回にわたってマイナス評価することを予定していない。にもかかわらず、甲第28号証(省略)によると、複数回にわたって不就労分が控除されていると認められる。したがって、この点からしても、被告の算定方法は違法である。
原告らの勤務態度は良好であった。被告は、原告らに私語や職場離脱があって勤務態度が悪かったことを賞与査定の理由としているが、被告の主張は具体性に欠けており、理由がない。
キ 小括
したがって、上記したような被告による上記各賞与減額は、原告らと被告との間における労働契約に違反するものであり、無効である。したがって、原告らは被告に対し、上記算定方法による賞与額との差額について、以下の額の賞与請求権及び各支給日の翌日からの遅延損害金請求権を有している。
(ア) 原告X1について
① 平成19年の夏季及び冬季の賞与減額:合計44万5000円
② 平成20年夏季の賞与減額:21万5000円
③ 平成20年冬季の賞与減額:23万9000円
④ 平成21年夏季の賞与減額:23万円
(イ) 原告X2について
① 平成19年冬季賞与減額:10万6700円
② 平成20年夏季賞与減額:7200円
③ 平成20年冬季賞与減額:6万6700円
④ 平成21年夏季賞与減額:18万8700円
(被告)
(1) 賞与は、定期又は臨時に、原則として労働者の勤務成績に応じて支給されるものであって、その支給額が予め確定されていないものをいい、定期的に支給されかつその支給額が確定しているものは、名称の如何にかかわらず、賞与とはみなされない。賞与は、毎月決まって支給される賃金と異なり、必ず支給しなければならないものではなく、支給対象者、支給基準、支給日等は、原則として、使用者の裁量に委ねれらている。したがって、欠勤、遅刻、早退等の勤怠情報や業績、能力、意欲、態度等の評価要素を、会社への貢献度を衡量する尺度として賞与の査定基準にすることは何ら問題がない。
賞与の算定は、平成17年4月1日に施行した就業規則により、平成17年7月以降のおのは従来の算定方法を変え、夏冬とも、所定の金額に対して出勤状況や勤務成績等の評価により算定している。
なお、原告らが被告との合意の根拠として挙げる書面(書証省略)は、飽くまでもDのものであって、また、被告が同人との間で毎年度の賞与をこの計算方式により算定することを合意したものではない。また、賞与算定基礎と題する書面(書証省略)についても同様である。
(2) 原告X1について
ア 平成19年夏季賞与の査定期間中、年次有給休暇40日(2年分)、看護休暇10日(2年分)、自己都合による代休(振替休暇)8日をとり、欠勤3.5日があった(書証省略)上、勤務成績が悪いこと(勤務時間中の私語、職場離脱)や被告にとって大事な総代会、理事会の日に欠席、遅刻したことが査定された。平成19年冬季賞与については、査定期間中、自己都合による代休19日、欠勤3日があり(書証省略)、勤務成績が上記と同様に悪いことから査定された。
イ 平成19年冬季の査定期間中、自己都合による代休19日、欠勤3日や上記と同じ勤務態度勤務成績不良、マイカー通勤を査定して、20万円を支給したものであって、適正なものである。
ウ 平成20年夏季の査定期間中、年次有給休暇16.5日、代休1日、欠勤6.5日で出勤率が0.77であったこと、勤務時間中の勤務態度、勤務成績不良(私語、職場離脱)を査定して、19万5000円を支給したもので、適正なものである。
エ 平成20年冬季の査定期間中、年次有給休暇3日、欠勤7日で出勤率0.88であったこと、勤務時間中の勤務態度、勤務成績不良(私語、職場離脱)を査定して、19万6000円を支給したもので、適正なものである。
オ 平成21年夏季の査定期間中、営業日数が116日であるにもかかわらず、年次有給休暇12.5日、欠勤2日で出勤率0.88と悪く、上記と同様、勤務成績が悪かったことを査定し、20万5000円を支給したもので、適正なものである。
なお、平成19年夏季の原告X1に対する賞与支給額は、18万5000円である。
(3) 原告X2について
ア 平成19年冬季賞与の査定期間中、同原告は年休5日、自己都合による代休7.5日とり(書証省略)、勤務時間中の私語や職場離脱がしばしばあり、勤務成績も悪かったことを査定し、20万円を支給したもので、適正なものである。
イ 平成20年夏季の査定期間中、年次有給休暇11日で出勤率が0.91であったことと勤務成績不良等(私語、職場離脱)を査定して、27万9000円を支給したもので、適正なものである。
ウ 平成20年冬季の査定期間中、年次有給休暇10日で出勤率0.92であったことと勤務成績不良(私語、職場離脱)を査定し、24万円を支給したもので、適正なものである。
エ 平成21年夏季の査定期間中、営業日数が116日であるにもかかわらず、年次有給休暇17.5日、欠勤2.5日、5月21日から産休を取得したことから、出勤率が0.77と悪く、上記と同様勤務成績不良等を査定し、11万8000円を支給したもので、適正である。
2 争点2について
(原告ら)
(1) 運転手当
ア 被告においては、日常業務で車を運転する職員に対して、「運転手当」として月額1万2000円が支給されることになっていた(書証省略)。
イ ところで、被告における資材業務において資材の販売・運搬業務を担当していたE(以下「E」という。)が病気休職となった。そこで、被告は、原告らに対し、資材の販売・運搬業務に従事するよう指示を受けた。そこで、原告らは、自動車を運転して、平成20年2月から同年6月までの間、同業務に従事した。
ところが、被告は、原告らに対し、運転手当として支払われるはずの1万2000円を満額支給しなかった。被告の原告らに対する運転手当支給額は、以下のとおりである。
(ア) 原告X1について(書証省略)
平成20年2月 1636円
平成20年3月 3000円
4月 6000円
5月 2667円
6月 2400円
計 1万5703円
(イ) 原告X2について
平成20年2月 3818円
3月 4200円
4月 6000円
5月 9333円
6月 9600円
計 3万2951円
ウ 平成20年2月から6月までの間において、本来原告らに対して支給されるべき運転手当は、それぞれ6万円(1万2000円×5か月)であるから、原告X1については4万4297円(6万円-1万5703円)、原告X2については2万7049円(6万円-3万2951円)が未払となっている。したがって、原告らは、被告に対し、同額の運転手当請求権を有している。
(2) 原告X2に対する営業手当
ア 被告賃金規程13条(書証省略)によると、「営業・資材販売等を主とする職員」に対して、営業手当月額2万円が支給されることになっており、資材販売を担当していたEに対しては営業手当が支給されていた。
イ 上記のとおり、Eが病気休職したことに伴い、平成20年2月から原告X2が資材販売を主として行うようになり、同年6月まで担当した。しかし、被告は、原告X2に対して営業手当を支給していない。したがって、原告X2は、被告に対し、営業手当10万円(2万円×5か月)の支払い請求権を有している。
(3) 交通費
ア 被告においては、バイク・自転車での通勤も認められており、電車の駅の駐輪場代も支給されていた。ところが、被告は、平成20年6月分の給与から、バイク・自動車通勤をしている従業員の交通費及び駐輪場代の支給を打ち切った。
イ 原告X1は、従前駅の駐輪場代として月額2000円の支給を受けていた。原告X2は、バイクで通勤をしていたものの、従前月額1万9180円の交通費の支給を受けていた。
ウ 賃金規程20条は規程は存在するが、実際には、被告は、バイクや自転車で通勤する者に対して、電車代、駐輪代相当額の交通費を支給していた。したがって、電車代・駐輪場相当額の交通費を支給することは、原告らと被告との合意内容となっていたのであって、被告による交通費の打ち切りは、労働契約を一方的に変更するものであって許されない。
エ なお、交通費の打ち切りは、原告らが本件配転命令に異議を述べたことに対する恫喝である。
(4) 平成20年7月以降の給与減額について
ア 平成20年7月以降の諸手当に関する被告の通知等
被告は、平成20年6月25日、「平成20年度勤務条件等通知書」と題する書面を交付した(書証省略)。同通知書には、「給与支給条件について」との記載があり、被告は、原告らに対し、「手当については今後『通知書』に記載したもののみとする」と説明した。しかし、同通知に係る手当支給に関しては、被告による一方的な賃金減額であり、無効である。
上記通知書による原告らに係る減額された額は、以下のとおりである。
(ア) 原告X1について
① 原告X1の平成20年6月までの給与内訳は、以下のとおりである。
a 基本給 16万円
b 職能給 2万5000円
c 主任手当 3000円
d 業務手当 3万円
e 家族手当 6000円
f 運転手当 1万2000円
(ただし、上記のとおり、一部不支給)
g 皆勤手当 9000円
h その他の手当 4000円
計 24万9000円
② これに対して、上記通知書に記載された原告X1に係る給与支給条件は、以下のとおりであり、従前の支給額から合計4000円の減額となっている。
a 基本給 16万円
b 職能給 2万5000円
c 主任手当 3000円
d 家族手当 6000円
e 皆勤手当 9000円
f 運転手当 1万2000円
g 業務手当 3万円
計24万5000円
(イ) 原告X2について
① 原告X2の平成20年6月までの給与内訳は、以下のとおりである。
a 基本給 12万2600
b 職能給 2万0500円
c 業務手当 1万5000円
d 運転手当 1万2000円
(ただし、上記のとおり、一部不支給)
e 皆勤手当 9000円
h その他の手当 1万4500円
計 19万3600円
② これに対して、上記通知書に記載された原告X2に係る給与支給条件は、以下のとおりであり、従前の支給額から合計で1万600円の減額となっている。
a 基本給 13万3000円
b 職能給 2万円
c 皆勤手当 9000円
d 運転手当 6000円
g 業務手当 1万5000円
計18万3000円
イ 原告X1に係るその他の減額分
原告X1は、平成20年7月から、原告X2に代わり資材販売を担当し、営業手当月額2万円が支給されるはずであった。しかし、被告は、原告らを含む被告従業員に対し、平成20年6月、一方的に「営業手当を廃止する」旨通告した。
(5) まとめ
ア 平成20年2月から同年6月までの間における被告の原告らに対する未払金額
原告らに係る同金額は、以下のとおりである。
(ア) 原告X1 4万6297円
① 運転手当 4万4297円
② 通勤費 2000円(ただし、6月分のみ)
(イ) 原告X2 14万6229円
① 運転手当 2万7049円
② 営業手当 10万円
③ 通勤費 1万9180円(ただし、6月分のみ)
イ 平成20年7月以降の金銭請求権
(ア) 原告X1 2万6000円
(その他の手当4000円+営業手当2万円+交通費2000円)
(イ) 原告X2 2万9780円
(被告)
(1) 運転手当
ア 原告らに運転業務に従事してもらったのは、Eの病気療養期間中(平成20年2月29日から5月末日まで)の臨時措置であり、2、3月は、本来ならEに支給される1万2000円から病気療養のため未支給となった分を、原告らに勤務実績に応じて按分して支給し、4月から6月までは、1万2000円を原告らの勤務実績に応じて按分して支給している。Eの入院による休職期間は、2月から5月末日までであった。
イ 被告は、Eの運転業務不就労の期間、原告らに対し、協力し合って資材の配達を行うよう指示した。原告らは、それぞれ経理事務、資材事務の担当業務を行い、本来ならばEが行うはずの配達を代わりに行ったこと、また、日常的に配達を行っているわけではないこと、同人の配達業務を代行したのは、原告X2が主であり、原告X1はその補助であることから、従来よりEに支給した手当月額1万2000円の一部又は全額をそれぞれ配達回数に応じて按分して支給したものである。運転手当は、「日常業務で車の運転をする職員」に支給されるものであるところ、被告の上記指示は、一時的な措置であり、飽くまでも当該運転手当の受給権者はEである。被告は、Eに支給しなかった手当を原告らに支給したのであって、その措置に誤りはない。
(2) 原告X2に対する営業手当
営業手当の受給者はEであり、同人が一時的に病気療養のため、その職務に就けなかっただけである。その補助者である原告X2は、「営業・資材販売を主として行う者」(賃金規程13条。書証(省略))には該当しない。したがって、原告X2が同手当を受給する権利を有するとはいえない。
(3) 交通費
ア 賃金規程20条(書証省略)は、公共交通機関を利用して職場に通う者に対して、「通勤のために要する運賃、時間、距離等から判断して、最も経済的で合理的と認められる通常の経路および方法による通勤費」を支給する旨定めている。したがって、バイクや自転車で通勤する者が通勤手当を受け取ることはできないのである。
イ 原告X2はバイクで通勤していたにもかかわらず、交通費として1か月定期代1万9180円を毎月受給していた。
バイク通勤は、従前から禁止されていたが、事実上黙認されていただけである。被告における交通費の支給については、従前比較的ルーズに運用されていたが、これを就業規則どおりの運用に変更しただけのことである。
ウ 原告X1が主張する駐輪場代は、従来不合理ながら支給していたものの、賃金規程20条の通勤費にはあてはまらないので、支給を中止したのである。
(4) 平成20年7月以降の給与減額について
ア 原告X1について
(ア) 同原告については、新たに運転手当1万2000円を支給し、「そのほかの手当4000円」を不支給とした。これは、同原告が、日常業務で車を運転する資材の販売配送等を担当することになったので、運転手当を支給するとともに、それまで実態のなかった「その他の手当」を廃止したためである。「その他の手当」は、平成17年4月施行に係る賃金規程(書証省略)を実施するに当たって、従前の支給額と同規程による支給額の間に差額が生じたので、その差額を補填するため、実体のない名目の支給をしたが、被告の経営が漸次思わしくなくなりつつあるので、経営合理化のため、これを廃止したのである。ただし、同原告の賃金の額には実質的な変動はない。
(イ) また、同原告に対する営業手当については、資材販売における収益(年間180万円程度)に対して、資材部職員2名分の人件費その他諸経費が年間約700万円以上必要となり、経費節減の必要性から、経営努力の一環として合理的な範囲において、営業手当を支給する余地がなくなったので、経営上やむを得ず同手当を廃止する措置をとった。
イ 原告X2について
同原告については、基本給を12万2600円から13万3000円に昇給し、職務給を2万500円から2万円に減額し、運転手当を6000円支給し、その他の手当1万4500円を不支給とした。これらは、同原告の成績等を考慮し基本給をアップしたのに対して、平成17年4月に施行した賃金規程の実施に当たって、職務給の500円とその他の手当を廃止し、総務の運転手当6000円を支給することにしたためである。
3 争点3について
(原告X1)
(1) 本件降格の無効
ア 本件降格理由について、被告は、当初「被告役員のもとに原告X1を誹謗中傷する投書が届いた」ことを挙げていた。しかし、被告は、原告X1が求めても、当該投書を見せようとしなかった。
イ その後、被告は、本件降格理由について、①原告X1が有給休暇を全部消化していること、②原告X1が始業時刻ぎりぎりに出勤し、定時になるとすぐに帰ること、③原告X1が監事会等の被告の行事を欠席したことを挙げるようになった。しかし、これらの事由のうち、①及び②は、いずれも原告X1が就業規則に則り、労働基準法上保障された権利を行使して働いていることを降格理由とするものであり、理由とはならない。また、上記③については、欠席等の事情を被告に説明し、被告も了承していたし、事前に準備をし、書類の説明は事務局長が行ったため、総代会などに支障が生じたことはなかった。
さらに、原告X1は、十分に日常業務をこなし、突発的に休まざるを得なくなっても支障が生じないようにしていたし、実際業務上支障が発生したことはない。したがって、本件降格理由とはなり得ない。
本件降格前後における原告X1の業務内容に変更はなく、経理等の重要な業務は原告X1しかできないものであった。原告X1は、事務局長代理の職責以上に事務局長の事務をこなしていた。この点は、本件降格が原告X1に対する嫌がらせ目的でなされたことの証左である。
ウ したがって、本件降格は、違法な目的でなされたものであり、何ら合理的な理由があるとはいえないから、人事権を濫用するもので違法無効であるから、原告X1は、被告の局長代理に地位にあることの確認を求める。
(2) 本件降格による管理職手当請求
上記のとおり、本件降格は無効であるから、原告X1は、被告に対し、管理職手当の支給を受ける権利を有する。経理主任に係る主任手当と局長代理に係る管理職手当の差額は、3万2000円である。したがって、原告X1は、被告に対し、平成20年1月から同年6月までの合計額19万2000円及び同年7月以降、賃金支給日である毎月25日限り、同差額分である3万2000円の割合による金員を請求する。
(被告)
(1) 原告X1は、経理主任に降格となるまでの出勤日数261日間(育児休業から職場復帰した後の平成18年11月21日から平成19年12月20日まで。書証(省略))における有給休暇の日数は40日のほか、平日に休んだ日は83日であり、その中には、子供の看護等で出勤できない等の理由で休みを取る日が続いた(これらの休みは本来欠勤扱いすべきところ、被告の温情により休日出勤による振替で対処した。)。
また、総代会、理事会、監事会等の大事な役員会に遅刻や欠席するなどした。このような出勤状況では、事務局長とともに事務局全体を管理すべき立場にある事務局長代理に相応しくないと判断した。原告X1が休暇等を取得する理由は、子供の介護のようである。確かに、年休や育児休業は正当な権利行使であるが、子供の病気は突発的に起こることが多く予測困難であり、現に同原告は当日の朝になって休みの連絡をすることがほとんどであり、被告の事務処理に支障を生じた。このような状況にあっては、管理職選任の考慮の一理由となるし、自己都合により平日勤務を休日勤務にする代休は、本来望ましいことではなく、これを多用することは管理職として不適格である。
さらに、同原告は、就業規則で禁止されているにもかかわらず、以前よりマイカー通勤をしたり、勤務時間中私語をしたり、職場離脱をすることが多かった。このような事態となったため、被告の役員の信頼を失った。
(2) 以上のとおり、被告は、原告X1の出勤状況、勤務態度、勤務成績等を総合的に検討して、当時の役職(事務局長代理)に相応しくないという判断を下したことから、平成19年12月18日付けで事務局長代理から経理主任に降格したもので、同降格は、人事権の濫用には該当しない。
4 争点4について
(原告ら)
(1) 本件配転命令により、最も大きく業務内容が変わったのは、原告X1と原告X2である。
被告は、結婚出産後も働き続ける原告らを蔑視し、原告らに対して、立て続けに、一方的な賞与減額、降格、賃金減額・不支給という一連の不利益取扱いを行ってきたこと、F専務理事は、「あいつら(注:原告らを指す。)を辞めさせる」と他の従業員に明言していたことからすると、本件配転命令は、原告らをねらい打ちした、あわよくば退職に追い込もうという嫌がらせ目的によることが明らかである。
(2) 本件配転命令には、業務上の必要性がない。もともと、被告では退職者が出た場合以外には基本的に配転は行われない慣行で、各従業員が長年にわたり同じ業務を担当していた。本件配転命令による、決算業務を専ら行うなど経理業務に熟達した原告X1が従前の職務から外され、他の経理担当者は経理業務の遂行に不安を訴えている。長年業務を担当し、熟達した従業員を配転させたことで、被告の円滑な業務遂行に支障が生じている。一方、本件配転命令による原告らの不利益は多大なものである。原告X1は、資材部に配転され、以前Eが担当していた資材販売の業務を主として担当することとなった。Eが同業務を担当していた当時、組合員へ資材を配達する等の業務で、たびたび業務が時間外までかかることがあった。加えて、原告X1は、被告の理事長であるC(以下「C理事長」という。)から、「資材販売のため全組合員を回れ」と命令され、外回りにより時間をとらなければならなくなった。原告X1は、これまでの業務では定時に帰ることができたが、資材販売業務のため、時間外業務を余儀なくされる可能性が高くなってきた。また、原告X2については、本件配転命令が引継ぎの期間もおかず実施され、その後も経理業務の前任者である原告X1が資材関連業務に負われて引継ぎをする時間がないため、原告X2は苦労して慣れない経理業務を遂行している。十分な引継ぎができないまま業務を遂行しているため、特に決算(3月と9月)の時期などには、原告X2についても時間外業務を余儀なくされる可能性が高くなった。ともに幼い子供2人を育児中で、保育所のお迎えに行かなければならない原告X1、原告X2にとって、時間外勤務が増えることは大きな不利益である。
(3) 被告は、原告X1の勤務態度が悪いことを理由に賃金を減額しており、勤務態度の悪い従業員をあえて外回りの仕事にまわすのは不自然である。適任者ということであれば、従前から配送業務を行っている原告X2の方が適任である。また、被告は、経理の正確性、職員の交流、相互牽制の点を挙げているが、かかる点は、これまで一度も言われたことがなく、今般の紛争が生じて急遽被告は本件配転に及んだのである。
以上のとおり、本件配転命令は、業務上何らの必要性・合理性も認められず、いたずらに原告らに不利益を与えるだけであり、不当な動機・目的に基づくものであるから、権利濫用により無効である。
(被告)
(1) 本件配転命令の理由は次のとおりである。
Eが病気入通院後の休職明けで、体調回復が1年以上かかることから外回りの仕事をさせることが困難となり、内勤としたことから、他の職員に配達業務を担当させる必要が生じた。そこで、被告は、Eに代わって外勤を担当者として、自動車の運転ができ、組合員と顔が広く、経験豊富な原告X1が相応しいと判断した。事務局は少人数であり、ある部署、特に経理に長い期間同一人物が従事していることは経理の正確性を担保するために好ましくないし、職員の交流や相互牽制の意味からも好ましくない。以上の事情から、被告は、原告X1を資材主任にし、Eを資材事務、原告X2を経理事務に異動させたのである。
(2) したがって、本件配転命令は、業務上の必要があり、不当な目的動機に基づくものではないから適法である。
5 争点5について
(原告ら)
(1) 被告の違法行為
原告らは、平成19年以降、連続して被告から、賞与減額、役職降格(原告X1)、賃金減額、不当配転という不利益取扱を受けた。当該不利益取扱は、いずれも違法無効なものである。
被告の原告らに対する上記不利益取扱は、執拗かつ悪質なものであり、原告らが、子供2人を産み、育児をしながら、働き続けていることを嫌悪し、その報復としてなされたことは明らかで、それ自体が既婚女性従業員への差別であり、不法行為に該当する。
(2) 原告X2について
ア 原告X2は第3子を妊娠中、被告に対し、医師の意見を記載した「母性健康管理指導事項連絡カード」(書証省略)を提出し、「妊娠中は自動車通勤をさせるように」との医師の指導事項に基づく措置を申請したにもかかわらず、これを許さなかった。かかる被告の対応は、男女雇用機会均等法13条1項(事業主は、その雇用する女性労働者が・・・保健指導又は健康診査に基づく指導事項を守ることが出来るようにするため、勤務時間の変更、勤務の軽減等必要な措置を講じなければならない)に違反し、違法である。
イ なお、被告は公共交通機関を利用する方が負担が少ないと主張するが、保育所に子供を預ける時間等を考慮すると、自宅から就労場所まで約1時間30分掛かること等からすると、被告の主張は事実に反する。
(3) 小括
上記各不法行為によって原告らが被った精神的苦痛を慰謝するためには1人当たり100万円を下らない。
(被告)
原告らの主張は否認ないし争う。
(1) 被告は、旧就業規則(書証省略)を見直し、事務局職員と協議の上、平成17年4月、現行就業規則(書証省略)を定め、その前後に「賃金規程」(書証省略)、「育児・介護休業規程」(書証省略)、並びに「退職金規程」(書証省略)を作成した。
被告は、女性労働者を蔑視するような労務政策は行っていない。
(2) 原告X2の第3子妊娠中の通勤方法について
被告は、職員の通勤上の安全確保のため、就業規則上で通勤には電車バスその他の公共交通機関を使用し、マイカーの使用を禁止している(書証省略)。また、母体への負担軽減を主張するのであれば、自動車通勤より交通機関による通勤の方が負担は少ないはずである。職員の自己都合により規則を変更することはできない。以上の理由から、被告は、原告X2に公共交通機関により出勤するように何度も指示した。
第5当裁判所の判断
1 争点1について
(1) 原告らは、被告に入社するに際して、賞与の算定方法(その内容は、第4の1(原告ら)(1)記載のとおりである。)について説明を受けたと主張し、原告らは、証拠(省略)を提出するとともに、それに沿う供述をする。
(2) しかし、証拠(省略)及び弁論の全趣旨によると、賞与の算定方法については、平成17年4月1日改正前の被告就業規則(以下「旧就業規則」という。書証(省略))及び同日改正の被告就業規則(甲3の①、②(省略)。以下、甲3の①(省略)を「現就業規則」、甲3の②(省略)を「賃金規程」という。)には、賞与の支給額及び算定方法に関する具体的な条項は存在しないこと、賃金規程25条には「賞与は、組合の業績および業界の動向、職員の業務遂行能力、勤務成績等を考慮し、原則として毎年7月と12月に措定の金額を支払うものとする。」、「経済状況等によりやむを得ない場合、賞与を支給しない場合がある。」と規定されていること、平成14年度及び平成15年の各賞与算定基礎(書証省略)によると、賞与の算定方法は、(基本給+職能給)×2か月+職能給に職務状況、出勤状況等を加算するというものであり、また、途中入社の場合には、調整率(一定率をカットした数値に在籍率を乗じた数値)を乗じた金額となっており、更にC理事長から別途一定金額が支給される(書証省略)など、上記入社時の算定方法に係る説明とは必ずしも一致するものであるとはいえず、その内容は、むしろ同算定方法は、就業規則25条に沿った内容であること(人証省略)、以上の点が認められる。
(3) ところで、そもそも賞与請求権は、使用者(被告)が労働者(原告ら)に対する賞与額を決定して初めて具体的な権利として発生するものと解するのが相当であるところ、以上認定した事実からすると、賃金規程上、査定期間を定め、原則として、毎年7月と12月に所定の金額を賞与として支給する旨の規定が設けられているものの、同規定は、一般的抽象的な規定にとどまるものであるといわざるを得ず、個別具体的な算定方法、支給額、支給条件が明確に定められ、これらが労働契約の内容になっているとはまで認められない。
この点、原告らは、被告に入社する際、賞与の額について合意した旨主張するが、上記認定説示したところからすると、原告らの当該主張は理由がなく、そのほかに、これを認めるに足りる的確な証拠は見出し難い。
(4) 以上からすると、原告らの被告に対する本件における賞与請求権に基づく請求は、この限りにおいて、理由がないといわざるを得ない。
なお、原告らは、賞与の計算方法の変更を現行就業規則の変更をもって正当化するのであれば、賃金規程25条と一体をなす賞与の算定方法についても当然に従業員に周知されなければならないと主張する。しかし、上記のとおり、賞与の支給額、支給条件等が明確に定められているとは認められないこと、現行就業規則が周知されていれば、被告内部における賞与の算定方法自体を周知する必要があるとまでは認められないことからすると、原告らの上記主張は理由がない。
2 争点2について
(1) 平成20年2月から6月までの間における運転手当について
ア 証拠(省略)及び弁論の全趣旨によると、①従前資材部の業務担当者(E)に対しては1万2000円、総務(G、H)に対しては、6000円の運転手当が支給されていたこと、②平成20年2月ころ、Eが病気休職することとなったことから、被告は、原告らに対し、本来の職務(原告X1は経理主任、原告X2は資材部)と並行して、資材の販売運搬業務に従事するよう指示したこと、③賃金規程(書証省略)によると、日常業務で車を運転する職員には運転手当として、月額1万2000円が支給される旨規定されていること、③原告らは、被告の指示に基づいて、平成20年2月から6月までの期間、Eが担当していた資材の配達等の業務に従事していたこと、④その間、原告らの他に同業務を担当した者がいたことを認めるに足りる的確な証拠はないこと、⑤同業務においては、日常自動車を運転していたこと、⑥被告が原告らに対して、同業務に従事するに当たって、運転手当について、上記規程と異なる合意をしたことを認めるに足りる的確な証拠は認められないこと、以上の事実が認められ、これらの事実からすると、Eが病気療養期間中であるという特殊事情が認められ、また、原告らは経理事務(原告X1)あるいは資材事務(原告X2)と並行して配送業務を行っており、原告ら個々人の業務量(配達回数)は、Eに比して少なかったと認められること(なお、平成20年3月から6月までの間における原告らの配送業務従事日数は、書証(省略))を考慮したとしても、被告は、上記賃金規程に基づいて、原告らに対し、運転手当(1人当たり月額1万2000円)を支払う義務を負っていると解するのが相当である。
したがって、原告らが資材の販売運搬業務に従事し、日常業務において車を運転していたと認められる平成20年2月から6月までの間については、原告らは被告に対し、それぞれ1万2000円の運転手当を請求する権利を有していると解するのが相当である。
イ 以上からすると、原告らは、平成20年2月から6月までの5か月間、それぞれ月額1万2000円、合計6万円の運転手当の支給を受けることができたところ、証拠(省略)によれば、被告は、原告X1に対しては、平成20年2月に1636円、同年3月に3000円、同年4月に6000円、同年5月に2667円、同年6月に2400円の合計1万5703円を支給したこと、原告X2に対しては、平成20年2月に3818円、同年3月に4200円、同年4月に6000円、同年5月に9333円、同年6月に9600円の合計3万2951円を支給したことが認められ、6万円との差額分については、未払の状態にあるということになる。したがって、原告X1は4万4297円(6万円-1万5703円)、原告X2は2万7049円(6万円-3万2951円)の運転手当を被告に対して請求することができるということになる。
(2) 平成20年2月から6月までの間における原告X2の営業手当について
ア 証拠(省略)及び弁論の全趣旨によると、営業手当は、営業・資材販売等を主とする職員に対して支給されるものであると認められるところ、仮に、臨時的に担当することになったとしても、同業務を担当する者である以上、同手当(月額2万円)を受給できると解するのが相当である。
イ これを本件についてみると、上記認定したとおり、原告X2は、Eが病気療養中に、被告の指示に基づいて、Eが担当していた業務を担当していたこと、原告X2は、平成20年2月から6月までという単発的とはいえない期間同業務に従事していたことからすると、原告X2と同X1とを比較すると、原告X2が主であり、原告X1がその補助という立場で同業務に従事していたこと(この点は、被告も認めている。)、にもかかわらず、被告は原告X2に対し、上記期間における営業手当を支給していないことが認められ、これらの点からすると、原告X2は、営業手当として10万円(2万円×5か月)の支払請求権を有していると解するのが相当である。
(3) 交通費について
ア 証拠(省略)及び弁論の全趣旨によると、被告は、従前、バイクや自転車で通勤する者に対して、電車代や駐輪代相当額の交通費を支給していたこと、原告X1は、従前駅の駐輪場代として月額2000円の支給を受けていたこと、原告X2は、バイクで通勤をしていたものの、従前1か月の定期代相当額である1万9180円の1か月の交通費といて受給していたこと、他方、平成20年6月分については、原告らに対し、従前支給されていた交通費が支給されなかったこと(書証省略)、被告は、平成20年6月以降、バイクによる通勤が禁止したこと、バイク通勤が禁止されたことから、原告X2は、平成20年6月20日、被告に対し、自転車通勤をする旨の通勤方法申請書を提出したこと(書証省略)、以上の事実が認められる。
イ ところで、交通費の本来の趣旨目的、従前も公共交通機関を利用した場合の実費相当分が支給されていたことからすると、被告の従業員が支払を求めることができる交通費は、上記就業規則どおり、通勤のために要する運賃、時間、距離等から判断して、最も経済的で合理的と認められる通常の経路及び方法による通勤費であると認めるのが相当である。そうすると、上記したような交通費に関する従前の取扱は、必ずしも上記の趣旨内容と合致するものではないといわざるを得ず、従前の取扱に係る交通費の支給が、原告らと被告との間における労働契約の内容になっていたとまで認めることはできない。
ウ 上記認定したとおり、原告X2は、平成20年6月以降、自転車通勤をする旨申請をしている以上、交通費として1か月の定期代相当額1万9180円の支給を受けることはできないといわざるを得ない。また、原告X1に対して支給されていた駐輪場代2000円については、上記交通費にはあてはまらないと解するのが相当であるから、原告X1は、被告に対し、交通費として、同金額を請求することはできない。
エ なお、原告らは、平成20年6月における交通費の打ち切りは、本件配転命令に対して異議を述べたことに対する恫喝であると主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はなく、原告らの当該主張は理由がない。
(4) 平成20年7月以降の給与減額の点について
ア 原告らに対する給与支払状況
証拠(省略)及び弁論の全趣旨によると、以下の事実か認められる。
(ア) 被告は、平成20年6月25日、「平成20年度勤務条件等通知書」と題する書面を交付した(書証省略)。同通知書には、「給与支給条件について」との記載がある。
(イ) 原告X1について
① 原告X1の平成20年6月までの給与内訳は、前記第4の2(4)(ア)①以下のとおりである。
② これに対して、上記通知書に記載された原告X1に係る給与支給条件は、前記第4の2(4)(ア)②のとおりであり、従前の支給額から合計4000円の減額となっている。
(ウ) 原告X2について
① 原告X2の平成20年6月までの給与内訳は、前記第4の2(4)(イ)①のとおりである。
② これに対して、上記通知書に記載された原告X2に係る給与支給条件は、前記第4の2(4)(イ)②のとおりであり、従前の支給額から合計で1万600円の減額となっている。
(エ) 営業手当の廃止
被告は、原告らを含む被告従業員に対し、平成20年6月、一方的に「営業手当を廃止する」旨通告した。
イ 営業手当について
被告は、資材販売における収益(年間180万円程度)に対して、資材部職員2名分の人件費その他諸経費が年間約700万円以上必要となり、経費節減の必要性から、経営努力の一環として合理的な範囲において、営業手当を支給する余地がなくなったので、経営上やむを得ず同手当を廃止する措置をとったと主張する。
確かに、被告の経営状況(書証省略)等にかんがみると、やむを得ない事情がうかがわれるものの、証拠(省略)及び弁論の全趣旨によると、営業手当については、賃金規程13条に規程があること、営業手当の廃止について原告らに対して同意を得たとは認められないこと、以上の点が認められ、これらの点からすると、従前支給されていた営業手当を一方的に廃止することは許されないといわざるを得ない。したがって、被告の主張は理由がない。
ウ 「その他の手当」について
証拠(省略)及び弁論の全趣旨によると、従前「その他の手当」という名目で支出されていた手当は、賃金規程上根拠があるとはいえず、その内容、支出の趣旨自体不明確であるといわざるを得ない。そうすると、原告らは、従前同名目の手当の支払を受けていたものの、個別具体的な根拠ない以上、同手当に関しては、原告らに支払請求権が発生しているとは解し難い。したがって、この点についての原告らの主張は理由がない。
エ 交通費について
上記のとおり、バイクによる通勤が禁止された平成20年6月以降、原告X2は、被告に対し、自転車により通勤する旨申告している以上、公共交通機関を利用した場合に支給される1か月の定期代相当額である1万9180円の交通費の支払請求権を有しているとはいえない。また、原告X1に対して支給されていた駐輪場代2000円については、通勤のために要する運賃、時間、距離等から判断して、最も経済的で合理的と認められる通常の経路及び方法による費用であるとは解し難く、原告らが支給を受ける「交通費」にあてはまらないと解するのが相当である。
以上のとおり、原告らの交通費に関する主張は、いずれも理由がない。
(5) まとめ
以上からすると、原告らの被告に対する未払賃金は、以下のとおりということになる。
ア 原告X1
(ア) 平成20年2月から6月までの間における運転手当4万4297円
(イ) 平成20年7月以降における営業手当2万円
ただし、同請求については、本判決確定の日の翌日以降の請求分については、予めその請求をする必要があることを認めるに足りる特段の事情があるとはいえないから、訴えの利益を欠き不適法であるといわざるを得ない。
イ 原告X2
(ア) 平成20年2月から6月までの間における
運転手当 2万7049円
営業手当 10万円
(イ) 平成20年7月以降における原告X2請求に係る給与差額分1万600円については、上記認定説示したとおり、そもそも同年6月まで受給項目に挙がっていた「その他の手当」1万4500円が、支給根拠が明確ではない手当であり、原告X2には同手当受給権があるとはいえないことから、結局のところ、差額請求分は存在しないから、同請求には理由がないということになる。
3 争点3について
本件降格理由については、被告は、原告X1が平日に年次有給休暇等を取得したり、欠勤すること、監事会等重要な会議の日に休暇を取得すること等を挙げて、事務局長代理に相応しくないと主張する。
(1) ところで、前提事実のとおり、本件降格は、人事権の行使として行われたものである。このような人事権は、労働者を特定の職務に雇い入れるのではなく、職業能力の発展に応じて各種の職務等に配置していく長期雇用システムの下においては、労働契約上、使用者の権限として当然に予定されているものであり、その権限行使については使用者に広範な裁量権があると解するのが相当である。そうすると、本件においては、原告X1に係る本件降格について、被告が有する人事権行使に裁量権の逸脱又は濫用があるか否かというかという観点から判断していくべきである。濫用等の有無を判断するに当たっては、使用者側における業務上・組織上の必要性の有無及びその程度、能力、適性の欠如等の労働者側の帰責性の有無及びその程度、労働者の受ける不利益の性質及びその程度等諸般の事情を総合考慮するのが相当である。
(2) 以上の点を踏まえて本件についてみると、確かに、原告X1は、事前に連絡した上であり、また、子供の介護が理由であるとはいえ、当日になって欠勤することがあったこと(書証省略)、総代会に欠席したこと(人証省略)からすると、事務局長を補佐し、事務局全体をまとめる役割をも有していると考えられる事務局長代理としての職責を十分に果たすことができたか疑問なしとしない。しかし、そもそも年次有給休暇は、労基法及び就業規則上労働者の権利として認められているものであること、これを理由とする降格は、同休暇取得に対する抑止的効果を生じさせるおそれがあること、原告X1が年次有給休暇を取得したことに伴って、具体的に事務局長代理としての業務に支障が生じたことを認めるに足りる的確な証拠はないこと、被告代表者は、本人尋問において、原告X1は、事務局職員の中で能力が高いと評価していること(被告代表者)、被告は、組合員からの信頼を失った旨主張するが、その具体的な内容は明確とはいえないこと(なお、証人Gは、この点について、「役員のほうから、主役というか中心の人物が休まれたということで、ちょっと印象といういか、悪かったということです、」と証言をしているが、原告X1の組合員等からの信頼喪失があったとまでは認め難く、また、抽象的な印象であって、かかる事情が本件降格を正当化し得るとはいえない。)、以上の点が認められる。
なお、被告は、本件降格の理由として、原告X1がマイカー通勤をしている点及び勤務時間中に私語や職場離脱が多いことも挙げ、証人Gは、同主張に沿った証言をしている(証人G)が、原告X1が頻繁にマイカー通勤をしていたことを認めるに足りる的確な証拠はない。また、被告は、原告らが勤務時間中、私語が多く、職場離脱していたとの主張し、証人Gは、それに沿った証言をしている(証人G)が、個別具体的な内容は定かではなく、被告が原告らの当該行為について適切な注意指導を行ったとも認められないこと(証人Gは、この点に関する指導注意について、「何回かはしましたけど、そこも正直、私も甘かったところはあったと思います。」と証言し、原告らに対する的確な注意指導があったとは認め難い。)からすると、被告の上記主張は理由がない。
以上認定したとおり、原告X1が事務局長代理としての能力を備えており、その適性を欠いていたとは認め難いこと、年次有給休暇を取得すること自体原告X1に責められるべき事由とはいえないこと、他方、原告X1が事務局長代理として職務に従事していた際、同原告が休暇を取得することによって、事務局長代理としての職責を十分に果たすことができなかったとも認め難く、これにより被告の業務に支障が生じたとも認められないこと、さらには、本件降格により原告X1は3万2000円賃金が減少したこと、本件降格後、被告では事務局長代理の地位に就いた者はいないことをも併せかんがみると、原告X1に対する本件降格は被告が有する人事権を濫用したものと評価せざるを得ない。
(3) したがって、本件降格は人事権を濫用したもので無効であり、原告X1は、事務局長代理として地位を有するとともに、本件降格後本判決確定の日までの間における、事務局長代理として支給を受けていた管理職手当と経理主任として支給を受けている手当の差額(3万2000円)を請求する権利を有していると認めるのが相当である。なお、本判決確定の日の翌日以降の分については、予めその請求をする必要があることを認めるに足りる特段の事情があるとはいえないから、訴えの利益を欠き不適法であるといわざるを得ない。
4 争点4について
(1) 配転命令は、①業務上の必要性がないのに行われた場合、②それが他の不当な動機ないし目的をもって行われた場合、又は③原告らに対し通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を負わせるものである場合など、特段の事情がある場合には、権利の濫用として許されないものと考えられる(最高裁判所昭和61年7月14日第二小法廷判決・裁判集民事148号281頁参照)。
以下において、上記①ないし③について検討する。
(2) 上記①の点について
ア 上記2(1)で認定した事実並びに証拠(省略)並びに弁論の全趣旨によると、①平成20年2月から5月末まで、資材部所属のEが病気入院することになり、被告は、原告らに対して、Eが担当していた資材の販売運搬の業務を担当するよう指示したこと、②Eが病気入通院後の休職明けで、体調回復が1年以上かかると予想されたことから、職場に復帰した後も販売運搬の業務を担当することが困難な状況となったこと、③Eを内勤としたことから、被告事務局の他の職員に配達業務を担当させる必要が生じたこと、④原告X1は、入社当初資材部に所属していたこと、⑤原告X1は、入社して10年以上が経過し、組合員と顔が広いこと、⑥被告の事務局職員は少人数であること、⑦被告の事務職職員は、入社後、配転されないということではないこと(書証省略)、⑧被告事務局においては、ある部署、特に経理に長い期間同一人物が従事していることは経理の正確性を担保するために好ましくなく、職員の交流や相互牽制の意味からも好ましいとはいえないこと(この点、原告らは、当該事由をこれまでに聞いたことがないと主張するが、当該事情を配転の理由とすること自体、特段不自然不合理であるとはまでは言い難い。)、以上の事実等が認められる。
イ 以上の事実等からすると、Eが病気入院したことを契機として、被告事務局の担当職務を変更する必要性が生じたと認めるのが相当である。したがって、本件は配転命令に関しては、職務上の必要性があったと認められる。
なお、証拠(省略)によると、平成20年6月7日、被告事務局職員から本件配転を踏まえた事務局の業務分担について、再考を求める要望書が提出されていることが認められるが、これをもって、上記業務上の必要性がなかったとまでは言い難い。
(3) 上記②の点について
ア 原告らは、本件配転命令について、被告が、結婚出産後も働き続ける原告らを蔑視し、原告らに対して、立て続けに、一方的な賞与減額、降格、賃金減額・不支給という一連の不利益取扱いを行ってきたこと、F専務理事は、「あいつら(注:原告らを指す。)を辞めさせる」と他の従業員に明言していたことからすると、本件配転命令は、原告らをねらい打ちした、あわよくば退職に追い込もうという嫌がらせ目的によるものであると主張する。
確かに、上記のとおり、被告は原告X1に対し、違法な本件降格を行ったこと、賃金の一部を一方的に減額したことがそれぞれ認められる。しかし、上記4(2)で認定した本件配転命令に至る経緯からすると、本件配転命令が、原告らを退職に追い込もうと嫌がらせ目的で行われたとまで認めるに足りる的確な証拠は見出し難い。したがって、原告らの上記主張は理由がない。
イ また、原告らは、Eに代わって資材の販売運搬業務に従事する適任者は原告X2であり、原告X1に担当させること自体不当な動機に基づくものであると主張する。しかし、上記4(2)で認定したとおり、被告は、原告X1の経験、組合員に顔が広いこと、事務局職員の中で能力が高いと評価したことから、本件配転を実施したと認められ、原告らの当該主張は理由がない。
(4) 上記③の点について
原告らは、本件配転命令により多大な不利益を被る旨主張する。
ア 原告X1についてみると、確かに、資材販売業務のため、時間外業務を余儀なくされる等不利益を被る可能性がないとはいえない。しかし、①原告X1は、入社当初、資材部に在籍していたこと、②Eが病気入院中の期間、原告X1は、経理部と並行してであるとはいえ、Eに代わって、原告X2とともに、資材の販売運搬業務に従事していたこと、③内勤から外勤へという変化はあるものの、就業場所、通勤等に特段の変化はないこと、④育児等について具体的な支障が生じたとまでは認められないこと、以上の点が認められ、これらの点を総合的に勘案すると、一般的抽象的には、本件配転に伴って、原告X1の時間外勤務の可能性が生じ、同人の育児等への影響も考えられないではないものの、当該事情等をもって、労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益であるとまでは認め難い。
イ また、原告X2についてみると、確かに、本件配転に当たっては、原告X1が担当していた経理事務に関し、両者の間で引継ぎの期間が設けられていないこと、原告X1は、主として販売運搬業務に従事していることから、原告X2が、原告X1から、経理業務の内容について、すぐに教えてもらうということが困難であること、原告X2は、初めて経理業務を担当すること、原告X2は、簿記の資格を有していないこと、以上の点が認められ、これらの点からすると、原告X2は、当該業務に慣れるまで、時間外勤務等不利益が生じる可能性がないとはいえない。しかし、①経理部には、原告X1の他にも従業員が在籍しており、適宜質問等することができること(この点、原告X2も本人尋問において認めているところである。)、②原告X1は、常に外回りの業務に従事しているとは考え難く、同じ職場に在籍していることから、質問等が全くできない状況にあるとはいえないこと、③かかる状況からすると、原告X2が簿記の資格を有していないことが、担当業務に直接支障を生じさせる原因になるとはいえないこと、④育児等に具体的な支障が生じたとまでは認められないこと、以上の点が認められ、これらの点を総合勘案すると、一般的抽象的には、本件配転に伴って、原告X2の時間外勤務の可能性が生じ、同人の育児等への影響も考えられないではないものの、当該事情等をもって、労働者が通常甘受すべき程度を著しく超える不利益であるとまでは認め難い。
(5) 小括
以上からすると、本件配転命令は無効であるとは認められず、この点に関する原告らの主張は理由がない。
5 争点5について
原告らは、被告の原告らに対する不利益取扱い(賞与及び賃金減額、本件降格、本件配転命令)は、執拗かつ悪質なものであり、原告らが、子供2人を産み、育児をしながら、働き続けていることを嫌悪し、その報復としてなされたことは明らかで、それ自体が既婚女性従業員への差別であり、不法行為に該当すると主張する。
(1) 確かに、上記2及び3でそれぞれ認定説示したとおり、被告の原告らに対する賃金減額に関しては、その一部が無効であり、原告X1に対する本件降格は人事権の濫用であると認められる。しかし、証拠(省略)及び弁論の全趣旨によると、被告は、平成16年9月16日、新たな職員を雇い入れ、また、平成17年9月6日から平成18年7月31日までの間、人材派遣会社から派遣社員1名の派遣を受け入れたこと、平成17年4月には、「育児・介護休業規程」を制定したこと、被告は、原告らが雇用保険の育児休業給付金を受給できるための計画書を作成したこと(書証省略)、上記4で認定説示したとおり、本件配転命令は業務上の必要があったと認められ、他方、不当な動機目的があったとは認められないこと、被告事務局には原告らの他にも女性従業員が在籍しているが、特に、これらの者から同様の苦情等が出ているとはうかがえないこと、以上の点が認められ(なお、原告らは、被告が育児休業規程を作成したのは、子育て支援助成金の支給を受けるためであって、女性従業員が働きやすい職場にするためではないと主張するが、これを認めるに足りる的確な証拠はない。)、これらの点からすると、被告の原告らに対する賃金減額等の不利益取扱いが、育児をしながら、働き続けている女性従業員を嫌悪し、その報復としてなされた、既婚女性従業員への差別であるとまで認めることはできず、そのほかに、原告らが主張するような違法行為があったことを認めるに足りる的確な証拠はない。
(2) なお、原告らは、C理事長のワンマン企業的な色彩があると主張する。
確かに、理事長は、被告を代表して業務を執行する者として、被告の経営方針等に積極的に意見を述べる等すると考えられ、結果的に理事長の意向が被告の人事等に影響を与えることがあると推認され、現に、C理事長は、平成14年4月に被告理事長に就任した後、就業規則の改正等を行っていること等にかんがみると、積極的な被告運営を行っていることがうかがわれる。しかし、被告には、定款(書証省略)のほか、上記したような各種の規程(就業規則)が存在するとともに、議決機関として、総代会、理事会、常務会等が設けられており、被告の経営等に関する重大な事項については、同議決機関における議決を経て行われていること、理事長は、総代会で選任された理事の中から選任される者であることからすると、C理事長が一人で被告の人事等を決定していたとまでは認め難い。以上からすると、原告らの上記主張は理由がないといわざるを得ない。
(3) 原告X2の妊娠中の通勤方法に関する点についてみると、確かに、被告の対応には配慮に欠けた点がうかがわれるが、他方、自動車通勤に伴う危険が存在することは事実であり、他方、保育所に子供を送り届ける必要があるとはいえ、原告X2が、通勤手段として公共交通機関を利用することが著しく困難であるという事情は認められないこと、母性健康管理指導事項連絡カード(書証省略)によると、妊婦にとって、自転車通勤よりも自動車通勤の方がまだ良いという内容であること、同カードによると、原告X2には、特に指導事項に該当する項目は見当たらないことからすると、被告が妊娠中の原告X2の通勤方法として、自動車通勤を許可しなかったことをもって損害賠償請求権が発生する違法な行為であるとまでは解し難い。したがって、この点に関する原告X2の主張は理由がない。
6 結論
以上の次第で、原告らの請求は、主文掲記の範囲で理由があるから、主文のとおり判決する。
(裁判官 内藤裕之)
<別紙省略>