大阪地方裁判所 平成21年(ワ)11171号 判決 2010年10月14日
原告
X
同訴訟代理人弁護士
中井光
被告
株式会社Y(旧商号株式会社a)
同代表者代表取締役
A
同訴訟代理人弁護士
今井和男
山崎哲央
臺庸子
中村克利
主文
1 被告は,原告に対し,189万4469円及び別紙裁判所認定表2の「①ないし④の賃金額の合計」欄の各月別賃金額記載の金額に対する同表の「遅滞開始日」欄記載の日付から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告に対し,189万4469円を支払え。
3 原告のその余の請求を棄却する。
4 訴訟費用は3分し,その2を被告の,その余を原告の負担とする。
5 この判決は,1項に限り仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
1 被告は,原告に対し,286万3280円及び別紙請求金額目録<省略>の各月別支給額欄記載の金額に対する遅滞開始日欄記載の日付から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
2 被告は,原告に対し,286万3280円を支払え。
第2事案の概要等
1 事案の概要
本件は,被告の東京本社,大阪支社に勤務していた原告が,被告に勤務していた際(平成19年7月1日から平成20年7月31日まで),所定労働時間を超えて時間外勤務をした,また,深夜勤務をした,そして,休日勤務をしたとして,雇用契約に基づいて被告に対し,時間外割増賃金,深夜割増賃金及び休日割増賃金の合計額286万3280円及び別紙請求金額目録の月別支給額欄記載の金額に対する遅滞開始日欄記載の日付から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金とともに労基法114条に基づいて付加金286万3280円の支払いを求める事案である。
2 前提事実(ただし,文章の末尾に証拠等を掲げた部分は証拠等によって認定した事実,その余は当事者間に争いのない事実)
(1) 雇用契約
ア 原告は,平成14年4月,高齢者を対象とした弁当の宅配事業及び店舗における弁当総菜の小売り事業について,フランチャイズシステムの管理運営を業とする被告との間で,以下の内容を含む雇用契約を締結した。
(ア) 所定労働時間 午前9時から午後6時まで(ただし,休憩時間1時間を含む。)
(イ) 賃金の支払 毎月末日締めの翌月15日払い
イ ところで,原告の基本給(ただし,1か月あたり)は以下のとおりである。
(ア) 平成14年4月 27万0455円
(イ) 同年5月から平成16年2月まで 35万円
(ウ) 同年3月から平成17年2月まで 47万円
(エ) 同年3月から平成19年3月まで 44万円
(オ) 同年4月以降 35万7200円
なお,同月以降は,役職手当として1か月あたり8万6000円が支給されていた。
(2) 原告の職責
ア 平成14年4月から平成16年5月31日まで
原告は,営業開発部営業開発2課に所属して,フランチャイズ契約を獲得する業務を行った。
なお,原告は,平成15年4月1日付けで被告東京本社に転勤になっている(なお書き部分について<証拠省略>)。
イ 平成16年6月1日から平成19年3月31日まで
原告は,平成16年6月1日,開発部開発課課長に就任し,それ以降,同課長として,開発政策を実行し,開発課実行施策を策定し,実行しながら,予算の編成をし,顧客管理も行った。
ウ 平成19年4月1日から平成20年5月31日まで
原告は,平成19年4月1日,店舗開発部開発課課長に就任した。
エ 平成20年6月1日から
原告は,平成20年6月1日,○○事業部課長に就任した。
なお,同年月日,東京本社から大阪支社に異動している。
オ なお,原告は,平成20年8月以降,出勤していない。
(3) 解雇の撤回
被告は,原告に対し,平成20年7月8日,解雇通知書を手交し,同年8月7日付けをもって解雇する旨の意思表示をした。原告は,同解雇の意思表示を受けて,被告に対し,同年8月5日付けの書面で同解雇の意思表示が無効である旨の通知をした。被告は,その後の同月9日付け書面で,原告に対し,同解雇の意思表示を撤回する旨の通知をした。
(<証拠省略>)
(4) 被告における原告を含む従業員の平成19年度,平成20年度における休暇休日日数,労働日数,総労働時間,平均月別労働時間は下記のとおりである。
記
平成19年度 平成20年度
休暇休日日数 123日 125日
労働日数 242日 241日
所定停総労働時間 1936時間 1928時間
平均月別労働時間 161.333時間 160.666時間
(5) 被告のフランチャイズ契約獲得件数
被告は,以下のとおりの件数についてフランチャイズ契約を獲得している。
平成14年 106件
平成15年 133件
平成16年 99件
平成17年 120件
平成18年 77件
平成19年 75件
(6) 平成19年4月1日改正後の賃金規程等の定め
(<証拠省略>)
被告は,平成19年4月1日,基本給に獲得した契約数に応じた成果給を加えたものを賃金とする制度に改め,同改正内容に沿った以下のとおりの賃金規程に改正した。
ア 労働基準法41条に規定する監督又は管理の地位にある者,機密の事務を取り扱う者に該当する従業員に対しては,時間外勤務に係る割増賃金及び休日勤務に係る割増賃金の規定は適用しない(3条2項)。
イ 時間外手当等の割増賃金は,以下の算式により算出した金額を基礎として計算する(9条)。
(ア) 時間外勤務手当(法定労働時間を超えて勤務に服したとき)
基本給÷1ヵ月平均所定労働時間×1.25
(イ) 休日勤務手当(法定休日に勤務に服したとき)
基本給÷1ヵ月平均所定労働時間×1.35
(ウ) 深夜勤務手当
基本給÷1ヵ月平均所定労働時間×0.25
ウ 従業員は職位に基づき,以下の賃金支払形態とする(10条)。
(ア) 課長以上の役職者 月給制
(イ) 課長未満の従業員 日給月給制
エ 日割額,時間割額及び時間外勤務手当等の割増賃金額に円未満の端数が生じた場合は,これを切り上げる(18条)。
オ(ア)① 基本給は,・・・・正規の勤務時間における基本となる賃金である。
② 基本給は,別途定めた賃金表に則り,各従業員に付与された責任等級号俸上の基本給欄に記載する金額を支給する。
(以上,19条)
(イ) 役職手当は,労働基準法第41条に規定する監督若しくは管理の地位にある者,又は機密の事務を取り扱う者に該当する,課長職以上の職にある従業員に対して,別途定めた賃金表に則り,当該従業員に付与された責任等級号俸上の役職手当欄に記載する金額を支給する(24条)。
カ(ア) 業務手当は,課長職未満の職にある従業員に対し,別途定めた賃金表に則り,当該従業員に付与された責任等級号俸上の業務手当欄に記載する金額を支給する。
(イ) 業務手当は,月当たり30時間の時間外勤務に服した場合における時間外時間手当(割増賃金)に相当する手当である。
(以上,25条)
(7) 原告の労働時間
別紙勤務状況一覧<省略>の「原告主張労働時間」欄記載の時間のうち,同一覧の「認否及び争いある時間」欄記載で争わない範囲で自白が成立している(なお,同書面の証拠欄の記載は,原告がその裏付けとして掲げる証拠である。)。
3 争点及び争点に対する当事者の主張
(1) 時間外労働時間,休日労働,深夜労働の有無,程度
(原告)
原告は,別紙勤務状況一覧の「原告主張労働時間」欄記載のとおり就労をした。
(被告)
原告の上記主張に対する被告の認否は,同一覧の「認否及び争いある時間」欄記載のとおりである。
なお,同認否欄が空白の部分は被告において認める部分である。
(2) 管理監督者性
(被告)
原告は,以下のとおりの事情からして管理監督者(労基法41条)である。
ア 部門予算の策定をして,取締役会が決定する部門予算に関し,その立案や組み立て等を行っていた。
イ 開発営業施策の策定,実行,管理を行っていた。
ウ 課員の売上進捗状況の管理を行っていた。
エ 課員のフォローを行っていた。
オ 勤務時間は,原告の裁量に任せられていた。
カ 給与上の優遇措置として,8万6000円の役職手当が給付されていた。(<証拠省略>)
キ 原告自身も「管理職ユニオン・関西」の組合員となって活動していた際,被告の西日本の事業部の責任者との認識を持っていた(<証拠省略>)
(原告)
原告は,以下のとおりの事情からして,管理監督者(労基法41条)には該当しない。
ア 原告は,平成19年4月1日,店舗開発部開発課課長に就任し,平成20年6月1日,○○事業部課長に就任し,店舗開発のための施策を講じ,その実行のため,課員に業務指示を行うとともにフォローも行ってきたが,経営に参画する権限は全くなかった。また,人員の補充や昇格を含めて人事権についても決定権を有していなかった。
イ 原告は,勤務時間について自由裁量はなく,正規の労働時間を超過して労務を提供していた。
ウ 原告は,平成16年7月に開発部開発課課長に就任しているが,同昇格に伴い賃金面において優遇措置を受けたことはない。
なお,被告においては平成19年4月から被告の一方的都合により賃金制度として号俸給制が採用されるようになったが,その際,原告の賃金は直近の賃金に近い金額と課長職に会わせた号俸給のすりあわせが行われ,当時の月給額44万円にあわせて,基本給35万7000円,手当8万6000円とされた。
(3) 就業規則(賃金規程を含む)の効力
(被告)
被告は,上記前提事実(6)記載のとおり平成19年4月1日付けで改正した賃金規程を施行しているところ,同施行に当たって,同賃金規程と同内容の賃金規程案を原告を含む従業員に配布した上,その内容について説明している。
(原告)
原告は,本件の訴訟代理人でもある代理人を通じて,本件で行っている請求を被告に行うまで,被告が本件で主張する就業規則(賃金規程を含む)について,その存在について被告から告知を受けたことはなく,見たこともなかった。また,同改正内容は被告の都合で行われたもので,経理上も必ずしも合理性のあるものではない。
したがって,上記就業規則(賃金規程を含む)は,原告の本件請求分との関連では効力がない。そうすると,原告の時間外賃金等の計算については,同賃金規程改正前の原告の基本給である1か月44万円がその基礎となる。
第3当裁判所の判断
1 証拠(<証拠・人証省略>,原告)
(1) 原告の職務等
ア 原告は,平成14年4月,被告に入社したが,その一年後,東京所在の被告本社に単身赴任し,平成16年6月,開発部開発課長に就任した。同課長就任以後,原告の部下となった従業員は概ね二・三名であった。
ところで,原告の職務は,その役職の如何にかかわらず,入社以降平成20年8月に出社をしなくなるまでの間,一貫してお弁当の宅配事業に係るフランチャイズ契約(加盟店)を獲得するための営業であった。同営業活動とともに課長として,課内の政策及び実行施策を策定し,それを実行し,顧客管理をし,政策実行のための予算組みをしたりした。
なお,被告が東京や地方でアントレフェアに出展(被告の事業紹介のための展示)した際や自社で事業説明会を開いた際に看板を使用したり,説明のための資料を作成することがあったが,そのために費用を要する場合で,その費用額が,1万円以上の場合,原告単独でその支出について決済することができず,上司への稟議を要することとなっていた。
イ 被告は,従業員を採用する場合,応募者の書類選考の上,応募者に対する一次,二次,三次面接を行うことになっていたところ,一次は部長,場合によっては課長,二次は役員,三次は社長面接の上採否が決せられることになっていた。課長のみならず,部長,役員単独で従業員を採用することはできなかった。
原告は,従業員の採用について,何らの権限もなく,また,人員の補充や昇格等についても決定権限を有していなかった。
ウ 原告の平成19年度における被告からの年間給与所得額は596万5600円である。
(2) 原告の労働時間
ア 原告も含めて営業職の従業員は,外に出て営業活動をすることが多く,その中には泊を伴う出張も多く,自宅から営業先に直行することや,営業先から自宅に直帰することが多かった。なお,被告は,原告も含めて営業職の従業員に対し,遠方等への出張をした際,本社を含めて配属先の事業所に戻ることを義務づけたことはなく,直行直帰を特段の事情でもない限り自由に認めていた。
ところで,原告は,本社に勤務していた際,偶々,勤務していた同本社から徒歩10分以内という近くに住居を借りていたこともあって,他の従業員であれば,直行直帰するところを営業先に行く前に一旦本社に出たり,出張後,荷物を置きに自宅に戻る前に一旦本社に戻ったりすることがよくあった。(なお,大阪支社に異動した後は,東京本社に勤務していたような住環境ではなかった。)。
イ 原告は,上記したとおり泊を伴う出張や日帰りで遠方に出張することが多かったところ,少なくとも以下のとおりの遠方出張をしている。その際には一般的に電車,新幹線及び飛行機等の公共交通機関を利用している。
(ア) 平成19年8月31日~同年9月1日 彦根市(泊)
(イ) 同年9月28日~29日 山口市(泊)
(ウ) 同年11月16日~17日 大阪市(泊)
(エ) 同年11月22日~23日 大阪市(泊)
(オ) 平成20年1月10日 四日市市(日帰り)
(カ) 同月16日 (場所不明)(日帰り)
(キ) 同年2月1日 磐田市(日帰り)
(ク) 同月7日~8日 京都市,泉北(堺市)(泊)
(ケ) 同月14日 鹿児島市(日帰り)
(コ) 同月15日~16日 大阪市(泊)
(サ) 同月24日 寝屋川市(日帰り)
(シ) 同月29日~同年3月1日 福岡市(泊)
(ス) 同月9日 宝塚市(日帰り)
(セ) 同月14日 大阪市
(ソ) 同年4月4日 福岡市(日帰り)
(タ) 同月8日 新潟市(日帰り)
(チ) 同月9日 新潟市(日帰り)
(ツ) 同年5月8日 福岡市(日帰り)
(テ) 同月9日 新潟市(日帰り)
(ト) 同月10日 新潟市(日帰り)
(ナ) 同月25日 福岡市(日帰り)
(ニ) 同月30日~31日 大阪市(泊)
(ヌ) 同年6月2日~3日 新居浜市(泊)
(ネ) 同10日~12日 奄美,那覇(2泊)
(ノ) 同月16日~17日 東京,新居浜(2泊)
(ハ) 同月27日 (場所不明)(日帰り)
(ヒ) 同年7月14日~15日 新居浜(泊)
ウ(ア) 原告は,営業活動のため,お客とアポイントを取って話をする場合,1時間程度は話をすることが多く,平成20年4月17日,同年7月3日,同月4日にはお客とアポイントを取って午後6時30分ころから会い,1時間程度話すことがあった。
(イ) 原告は,平成20年2月19日,同年6月18日に午後7時から少なくとも1時間程度開かれた会議に出席し,また,同年3月6日開かれた講習会に午後8時頃まで出席している。
エ 被告は,勤怠管理簿(<証拠省略>)で従業員の労働時間の管理を行ってきたが,課長職以上の管理職について,勤務時間を管理する必要がないという認識から平成19年11月分以降,出勤の有無が分かればよく,実際の労働時間までは必要がないとして,日々の出退勤時間の記載をしなくてもよいことにした。
(3) 被告の原告に対する管理監督者性への認識
被告は,課長職以上の者を労働基準法41条が規定する管理監督者と認識して,原告を含めて課長職以上の職責の者について,前提事実(4)で記載したとおりの賃金規程の各規定を踏まえて,平成19年4月1日以降,時間外労働や休日労働に伴う各手当の支払をしていない。
(4) 就業規則(賃金規程を含む。)の改定
ア 就業規則(賃金規程を含む。)は,平成19年4月1日から改定,施行された。
イ 同改定,施行に当たって,被告は,事前に同改定内容が記載された就業規則(賃金規程を含む。)案を原告を含む従業員に交付し,質疑応答の機会を設けたうえでその説明をしている。同説明をした際,特に,原告から異論が出ることはなかった。
2 事実認定に対する補足説明(原告の労働時間について)
原告は,別紙勤務状況一覧の「原告主張労働時間」欄記載のとおり就労をした旨主張し,それに沿う証拠として平成20年度の原告作成の手帳(<証拠省略>)とともに原告の供述がある。
(1)ア 原告は,泊を伴う出張する場合の他,日帰りで遠方に出張する場合でも電車,新幹線及び飛行機等の公共交通機関を利用している。
そこで,出張等の際において,公共交通機関を利用して出張先に赴いたり,そこから帰ったりして直行直帰をする場合における移動時間であるが,物品の届けが主要な目的等として出張時間中も物品の管理が要請される等の特段の事情でもない限り,その自由度の程度からして,拘束時間とはいえても労働時間とまで評価することはできないと解するのが相当である。
イ まず,原告が本社で勤務していた当時における出張等の際の労働時間について検討する。
(ア) ところで,原告は,本社で勤務していた当時で,遠方に日帰りで出張する場合,その往復における電車,新幹線,飛行機等の公共交通機関を利用した出張先までの移動時間を労働時間に含めて,また,泊を伴う出張の場合,東京本社等での仕事を終え,その後,新幹線や飛行機等の公共交通機関を利用して当日の宿泊先に着いた移動時間も,また,泊を伴う出張先からの復路で公共交通機関を利用した移動時間も労働時間に含めて主張していることが窺われる。
そこで,原告が被告の他の従業員と相違して,出張先に赴く際に自宅から直行せず,一旦,同本社に赴いていたとしても,出張先に赴く前に行った職務内容,職務時間は本件全証拠によるも,必ずしも明らかでないところ,また,直帰せず,出張先から一旦,同本社に戻っていたとしても,出張先から戻った後に行った職務内容,職務時間は本件全証拠によるも,必ずしも明らかでないところ,以上の各事情に上記1(2)イで認定した事実を総合すると,原告は,同イの(ア)ないし(ニ)で認定した出張の際,仮に出張先に直行せず一旦,同本社に赴いたり,また,自宅に直帰せず,一旦,同本社に戻ったりした場合のいずれの場合も特段の事情でもない限り,偶々,同本社近くに自宅があったことから同本社に荷物を取りに行ったり,荷物を置くため戻ったりしたものと推認される。
そこで,同出張の際の公共交通機関を利用した出張先への移動時間,出張先からの復路の移動時間であるが,原告の場合,特段,本社に出たり,戻ったりして行うべき職務がある等の事情でもない限り,偶々,本社の近くに住居があったため同本社に赴いたり,戻ったりしたとはいえ,実質,自宅から直行したり,自宅に直帰した場合と何ら異ならないと評価すべきである。したがって,同公共交通機関を利用した出張先への移動時間,出張先からの復路の移動時間は上記前段で記載した場合と同様,労働時間に含めることはできない。また,本社での仕事を終え,出張先で前泊する場合(直接宿泊先に赴く場合)もその際の公共交通機関を利用した宿泊先への移動時間も,同出張先からの復路の移動時間も労働時間に含めることはできない。
(イ) そこで,上記(ア)で認定説示したことを踏まえて上記1(2)イの(ア)ないし(ニ)で認定した出張の際の各日の労働時間を検討するに,そのうち問題となる部分は,別紙勤務状況一覧の「認否及び争いある時間」欄で被告が否認している範囲で問題となる。
ところで,同出張の際の公共交通機関を利用した移動時間であるが,同認定した各出張先とともそこへ赴いたり,そこから戻った際の利用した公共交通機関の種類を踏まえると,同公共交通機関を利用した自宅と出張先との間の公共交通機関を利用した移動時間は少なくとも3時間を要することが推認される。
そこで,上記1(2)イで認定した同日帰出張で,そのうち原告の主張が所定労働時間を超えてされている場合に,その超える部分について,その前後で各3時間の範囲で控除する(ただし,被告が認める範囲を除く。)のが相当である。また,上記1(2)イの(ア)ないし(ニ)で認定した泊を伴う出張で,そのうち原告の主張が所定労働時間の午後6時を超えてされている場合に,その超える部分について,3時間の範囲で控除する(ただし,被告が認める範囲を除く。)のが相当である。
(ウ) 同説示に従って上記1(2)イの(ア)ないし(ニ)で認定した出張の際の各日の労働時間は別紙裁判所認定表1<省略>に係る同各日に対応する労働時間となる。
ウ 次に,大阪支社へ異動してからの出張等の際の労働時間について検討する。
(ア) ところで,証拠(<証拠省略>,原告)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成20年6月1日,大阪支社に異動しているところ,同月3日午前10時に愛媛県新居浜のお客に会うため,前日に自ら自動車を運転して赴いていること,同年7月14日,同所のお客に会うため,自ら自動車を運転して赴いていることが認められる。以上の事実を踏まえると同出張に伴う時間は公共交通機関を利用した場合のように自由度が強いわけでないため,労働時間に組み入れるのが相当である。ところで,原告は,同月17日にも新居浜に日帰りで出張した旨主張するところ,原告作成の手帳(<証拠省略>)によれば,同所への出張が同月18日となっていることからすると,同月17日に同所に出張したのかにわかに認めがたい。
(イ) 上記1(2)イの(ヌ)ないし(ヒ)で認定した出張のうち,上記(ア)の年月日を除く原告の大阪支社への異動後の遠方への出張については,上記イで認定説示したと同様の措置となる。
(ウ) 同説示に従って認定した同1(2)イの(ヌ)ないし(ヒ)で認定した出張日の労働時間は別紙裁判所認定表1に係る同各日に対応する労働時間となる。
エ 以上のアないしウで記載したことを踏まえると,原告が出張した際における被告との間で争いのある時間外労働時間等は別紙裁判所認定表1記載のそれぞれの年月日に対応する時間となる。
そうすると,原告の上記認定に反する主張部分は理由がない。
(2)ア 原告は,リクルートが主催するアントレのフランチャイズショーに出展した際の時間外労働について,後片付け,資料の持ち帰り等で午後6時以降午後9時ないし午後10時まで,3ないし4時間の時間外労働をした旨主張する。
ところで,証拠(<証拠省略>,原告)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,開発課員が主体となってリクルートが主催するアントレのフランチャイズショーに展示ブースを出店して被告が扱う食材の説明や実際に解凍したり,盛りつけをしたり,また,宅配事業の説明等を概ね午後6時くらいまで行ったこと,その後,使用した食材等を片付け,その後,持参していた各種資料等を東京でそれが行われた場合,例えば,平成19年7月14日,平成20年1月26日,同年4月19日にはその日のうちに東京本社に持ち帰ってその始末等をしていたことが認められるところ,以上の事実に証拠(原告)を総合すると,同後片付け等のため,当日の午後8時ころまで,少なくとも2時間程度の労働をしたことが推認される。
イ また,原告は,平成19年7月21日,同年10月6日,平成20年2月2日,同年3月20日,同月22日,事業説明会でも後片付け等,午後6時を越えて労働をした旨主張する。
ところで,原告は,上記の主張をするほか,他方において,平成19年9月1日,同月29日の事業説明会では午後6時を越える労働はない旨主張している上,証拠(<証拠省略>,原告)及び弁論の全趣旨によれば,事業説明会も概ね午後6時ころまで行われることが多く,その際には,その後片付けが行われることが認められるところ,以上の事実に被告が,原告が関与した平成20年2月2日,同月16日,同年3月20日,同月22日,同年5月17日,同年6月7日の事業説明会で原告が午後6時を過ぎて少なくとも1時間の時間外労働を認めていることを踏まえると,原告が上記事業説明会に関連して主張する年月日の労働について,午後6時を越える時間として少なくとも1時間の労働があったことが推認され,それを超える労働時間を認めるに足る証拠はない。
ウ 原告は,平成19年8月2日(木),同月3日(金),同月6日(月),同年9月29日(土),同年10月6日(土),平成20年2月24日(日),3月9日(日),同年6月15日(日)に出勤した旨主張する。
証拠(<証拠省略>)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,平成19年9月28日に山口での事業説明会のため山口に入り,翌日の同月29日,山口での事業説明会に参加していること,同年10月6日(土),被告の事業所以外の場所である千葉での事業説明会に参加していることが認められ,その余の日は本件全証拠によるも出勤したことが認められない。確かに,原告作成の手帳(<証拠省略>)によれば,平成20年2月24日欄には大阪AP寝屋川店AP 11:00と,3月9日(日)欄には宝塚APと,各記載されているところ,同記載は実行したことが記載されていると言うよりは予定の記載であって,必ずしもその記載から直ちに出勤が認められるわけではなく,かえって,真正に成立したことが認められる乙4(被告の勤怠管理簿)には原告が主張する各日について出勤したとの記載がないし,また,同年6月15日(日)であるが,原告作成の手帳(<証拠省略>)でも引越しとの記載がある。以上の事実からすると,原告主張の各日のうち,上記出勤を認めた日以外の日は上記のとおり出勤が認められない。
エ ところで,原告作成の同手帳の記載によれば,東京本社で勤務していた同年5月末日までの原告の日々の日程(予定)は営業先を訪問する場合でも1日当たり1か所程度で,それも毎日ではなく,予定として記載されている事項も営業先へのアポイントや社内での会議を含めても1日当たり1事項等,それほど忙しいことが窺えない。仮に原告が主張するとおり原告が所属していた課員に対するフォロー等の業務があったとしても同判断を覆すことはできない。以上の事情に(人証省略)の証言を踏まえると,上記アないしウで認定説示したほか,被告が認める時間外労働時間を超えて原告の主張に沿う原告の労働時間に係る原告の供述部分(泊を伴う出張をした年月日分を除く。)はにわかに採用しがたく,その他,同主張を認めるに足りる証拠はない。
(3) 以上のことを踏まえて,原告の労働時間を整理すると,別紙裁判所認定表1記載のとおりとなる。
なお,被告は,平成20年5月28日の勤務について,原告送信のメール内容(<証拠省略>)を示して,事実に反する旨の主張をするところ,同日の労働時間については自白が成立している。また,同主張について,原告の供述の信用性を争うものとしてなされたことからすると,同自白内容が覆るものではない。
3 管理監督者について
被告は,原告が管理監督者に該当する旨主張し,(人証省略)は,それに沿う証言をする。
ところで,労働基準法41条で言う管理監督者とは労働時間,休憩及び休日に関する労働基準法上の規制を超えて活動することが想定される企業経営上の必要性が認められる者を指すと解するのが相当であるところ,具体的には,労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にあり,出勤・退勤等について自由裁量の権限があり,厳格な制限等を受けない者と解するのが相当であって,職名である部長や課長等の名称にとらわれることなく,当該当事者の労働実態を踏まえて判断するのが相当である。
そこで,原告であるが,確かに,被告の課長であって,原告が所属する課内の予算の策定をして,取締役会が決定する部門予算に関し,その立案や組み立て等を行ったり,課内の施策の策定,実行,管理を行ったり,課員の売上進捗状況の管理や課員のフォローを行っていたこと,また,原告の勤務時間も上記認定したとおりその出退勤に関する被告の管理は比較的緩やかであった。
しかし,原告は,平成19年度,平成20年度,課長といえども部下は概ね2・3名程度であって,その職務も自らの営業ないし課内の部下の営業援助が主要な部分であって,被告の経営それ自体に参画するものではなく,課内におけるデスクワークも課内の予算の策定等に留まるものであり,人の採否についても一次面接を担当する程度であって,採否の決定権限を有していない上,年収も平成19年度で600万円弱であった。
以上の事実を踏まえると,原告は,労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にあるとういえず,したがって,労働基準法41条が定める管理監督者には該当しないと言わざるを得ない。
そうすると,被告の上記管理監督者に係る主張は理由がない。
4 就業規則(賃金規程)の変更について
(1) 被告は,前提事実(6)記載のとおり平成19年4月1日から施行した就業規則(賃金規程)について,原告を含む従業員に周知していたため,同規程が原告に適用される旨主張する。
ところで,原告は,陳述書(<証拠省略>)の中で,就業規則や賃金規程を見せてもらったことがない旨記載する。しかし,原告は,本人尋問の中で同施行された就業規則(賃金規程)とほぼぼ同内容の案を改正前の平成18年末ころ,配られている旨(ただし,中身は見ていない旨)供述しているところ,同供述部分に証拠(<人証省略>)を総合すると,原告は,平成19年4月1日から施行した就業規則(賃金規程)について被告の総務の担当者から事前に説明を受け,その内容が記載された書面も受領していたことが推認され,同認定を覆すに足りる証拠はない。
(2)ア 平成19年4月1日から施行された就業規則(賃金規程)には前提事実(6)で記載したとおり労働基準法41条に規定する監督又は管理の地位にある者は時間外勤務に係る割増賃金及び休日勤務に係る割増賃金の規定は適用しない旨,また,労働基準法41条に規定する監督もしくは管理の地位にある者,又は機密の事務を取り扱う者に該当する,課長職以上の職にある従業員に対して,別途定めた賃金表に則り,当該従業員に付与された責任等級号俸上の役職手当欄に記載する役職手当金を支給する旨定めている。
イ 原告は,上記改正された賃金規程が施行される前,前提事実(1)イ記載のとおり基本給として月額44万円の支給を受けていたところ,平成19年4月1日から施行した就業規則(賃金規程)により基本給が月額35万7200円,役職手当として月額8万6000円の支給を受けるようになった。ところで,同就業規則(賃金規程)の変更は,月額基本給の減額を伴うものであって,時間外手当,休日手当の支給を明確に否定するものであった。同変更内容は原告に対して不利益な内容となっているところ,それが原告に対して適用されるためには同不利益の程度や同変更の必要性,同変更内容の相当性等,同変更内容等について合理性が認められなければならない(参照・労働契約法10条)。
しかし,本件全証拠によるも,平成19年4月1日から施行された就業規則(賃金規程)にはその合理性を認めることができない。
ウ また,被告は,原告を含む課長職以上の者を管理監督者として処遇していたところ,原告は,課長職ではあったが,上記3で説示したとおり労働基準法41条でいう管理監督者ではない。
そうすると,原告を管理監督者として平成19年4月1日から施行した就業規則(賃金規程)による基本給の減額の定め,また,上記記載した部分はいずれも適用される余地がない。
エ 以上の事情を踏まえると,原告に係る賃金額の定めは,同改正前の月額基本給が44万円であることを前提として時間外賃金休日賃金の算定をすることになる。
5 時間外賃金,休日賃金等
以下,月額基本給44万円とともに前提事実(4)で記載した平均月別労働時間を前提として,上記2で認定した原告の労働時間を基礎に原告の発生した時間外賃金,休日賃金,深夜時間等に従ってそれらに対応する賃金額を計算すると別紙裁判所認定表2<省略>記載のとおりとなる。
なお,同表における算定式は以下のとおりで,各賃金額の計算は小数点以下が切り捨てとなっている。
(1) 平成19年度
ア 時間外賃金は,以下のとおりである。
44万円÷161.333×1.25×時間外労働時間
イ 休日賃金は,以下のとおりである。
44万円÷161.333×1.35×休日労働時間
ウ 休日・時間外賃金は,以下のとおりである。
44万円÷161.333×1.60×休日・時間外労働時間
(2) 平成20年度
ア 時間外賃金は,以下のとおりである。
44万円÷160.666×1.25×時間外労働時間
イ 深夜・時間外時間賃金は,以下のとおりである。
44万円÷160.666×1.50×深夜・時間外労働時間
ウ 休日賃金は,以下のとおりである。
44万円÷160.666×1.35×休日労働時間
エ 休日・時間外賃金は,以下のとおりである。
44万円÷160.666×1.60×休日・時間外労働時間
6 付加金
被告は,原告に対して,上記189万4469円の限度で時間外賃金,休日賃金等の未払があるところ,同未払に加えて,同未払の原因等を総合すると,原告に対し,同未払額全額に相当する円の範囲で付加金に支払をするのが相当である。
7 結論
以上の次第で,原告の本件請求は,①189万4469円及び別紙裁判所認定表2の「①ないし④の賃金額の合計」欄の各月別賃金額記載の金額に対する同表の「遅滞開始日」欄記載の日付から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金,②同元金額に相当する範囲の付加金の支払を求める限度で理由があるから,その限度で認容することとし,その余は,理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判官 中村哲)