大阪地方裁判所 平成21年(ワ)13559号 判決 2012年12月13日
原告
株式会社安成工務店
同訴訟代理人弁護士
沖田哲義
同
本間通義
同
片山智裕
同訴訟復代理人弁護士
山根康路
同
菊池優太
被告
株式会社スズケン&コミュニケーション
同訴訟代理人弁護士
中田祐児
同
島尾大次
同
高木誠一郎
主文
1 被告は,原告に対し,金836万円及びこれに対する平成21年2月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを50分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。
4 本判決は,第1項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,金4億0528万1000円及びこれに対する平成21年2月15日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1 事案の概要
本件は,後記本件商標権の商標権者であり,デザイナーズ戸建賃貸住宅のブランド「ユニキューブ」の設計・施工事業(以下「ユニキューブ事業」という。)に必要な設計・施工・営業のマニュアル等を提供している原告が,ユニキューブ事業を営む被告に対し,①デコスドライ工法を採用しない建物の工事請負契約に後記本件商標を使用したことは,本件販売契約に基づく商標使用許諾の範囲外であると主張して,商標権侵害又は債務不履行に基づく損害賠償請求をすると共に,②デコスドライ工法を採用しない建物に原告が提供した後記本件情報を使用したことは,本件販売契約に基づくノウハウ使用許諾の範囲外であると主張して,債務不履行又は不正競争防止法(営業秘密の不正使用)に基づく損害賠償請求をする事案である(なお,上記①と②の各請求の関係は単純併合であり,上記①の商標権侵害に基づく請求と債務不履行に基づく請求,上記②の債務不履行に基づく請求と不正競争防止法に基づく請求の関係は,いずれも重なり合う限度で選択的併合である。)。
2 判断の基礎となる事実
以下の各事実は,当事者間に争いがないか,又は掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる。
(1) 当事者
原告及び被告は,いずれも土木,建築の設計,施工,監理等を営業の目的とする株式会社である。
(2) 原告の商標権
原告は,以下の商標権(以下「本件商標権」といい,その登録商標を「本件商標」という。)を有している(甲1)。
① 登録番号 第4912272号
② 出願日 平成17年4月28日
③ 登録日 平成17年12月2日
④ 商品及び役務の区分 第36類
⑤ 登録商標 別紙商標目録のとおり
(3) デコスドライ工法
デコスドライ工法は,建物の断熱・防音工法の一つであり,天然の木質繊維であるセルロースファイバーを用いる点に特徴がある(甲3,29)。同工法については,特許権設定登録がされており,原告の子会社である株式会社デコス(以下「デコス社」という。)がその特許権者である(甲20)。
デコス社は,平成8年9月以降,デコスドライ工法についての施工代理店契約事業を実施している(乙35)。また,平成12年5月に,デコスドライ工法の施工技術の確立と普及を図ることを目的とした日本セルロースファイバー断熱施工協会が設立され,会長に原告の代表者,事務局長にデコス社の取締役が就いている(乙37)。
(4) 本件販売契約の締結
ア ユニキューブ事業
原告は,訴外ハイアス・アンド・カンパニー株式会社(以下「訴外ハイアス」という。)と共同して,平成17年から,工務店等と「ユニキューブ・パッケージ販売契約」を締結して(以下,契約の相手方である工務店等を「加盟店」ともいう。),原告安成が開発したデザイナーズ戸建賃貸住宅のブランド「ユニキューブ」の設計・施工事業(「ユニキューブ事業」)に必要な設計・施工・営業のマニュアル等を提供する事業を行っている。
イ 本件販売契約
(ア) 原告及び訴外ハイアスは,平成17年9月7日,被告との間で,ユニキューブ・パッケージ販売契約を締結した(甲4。以下「本件販売契約」という。)。
(イ) 同契約において,「ユニキューブ」,「ユニキューブ・パッケージ」,「ユニキューブ事業」について,以下のとおり定義されている(本件販売契約1条)。
a 「ユニキューブ」
原告が開発した設計・施工ノウハウにより建築される建築物で,キューブ型の外観デザインを持ち,かつ,デコスドライ工法によるセルロースファイバー断熱を標準採用した建物(同契約1条1項)。
b 「ユニキューブ・パッケージ」
原告が自ら開発したユニキューブの設計・施工・営業ノウハウと,訴外ハイアスから提供を受けた顧客獲得のための営業ノウハウとを,訴外ハイアスの支援のもと有機的に組み合わせたもの(同2項)。
c 「ユニキューブ事業」
ユニキューブ・パッケージに含まれるノウハウを用いてユニキューブの設計・施工を行う事業(同3項)。
(ウ) 同契約において,原告は,被告に対し,徳島県を中心に,ユニキューブ事業を行う非独占的な権利を与え(同2条2項),建物の外観及び間取りに関する別紙本件情報記載の情報(以下「本件情報」という。)等が記載された設計・施工マニュアル及び営業マニュアル一式(以下「原告マニュアル」という。乙12)を引き渡した(同4項)。
また,被告は,原告が有する「ユニキューブ」,「UNICUBE」,「unicube」等のユニキューブ建物に関する商標・ロゴ・サービスマーク(登録の有無を問わない。)を,ユニキューブ事業にのみ使用することができるとされた(同4条1項)。
(5) 被告の行為
ア 被告は,ユニキューブ事業を開始した後,本件情報を使用したキューブ型外観を有し,デコスドライ工法が採用された建物の建築工事請負をしたが(以下,このような建物を「ユニキューブ物件」という。),他方で,建築工事請負契約書,見積書,見積内訳書,仕様書,図面等に本件商標を使用した上で,本件情報を使用したキューブ型の外観を有するもののデコスドライ工法が採用されていない建物の建築工事請負もしていた(以下,このような建物を「本件対象物件」という。)。
なお,被告は,遅くとも平成19年4月以降においては,施主にデコスドライ工法についての説明をすることなく,本件対象物件の建築工事請負をしていた(弁論の全趣旨)。
イ また,被告は,本件対象物件についても,自己のウェブサイト上において,ユニキューブの施工実績として紹介していた(甲10の1・2)。
3 争点
(1) 本件商標の不正使用についての損害賠償請求
ア 商標権侵害に基づく請求(争点1)
(ア) 本件対象物件の工事請負は,本件商標の指定役務とは類似するか(争点1-1)
(イ) 本件対象物件に本件商標を使用することは,本件販売契約による使用許諾の範囲内か(争点1-2)
イ 債務不履行に基づく請求
被告は,本件販売契約に基づき,本件対象物件には本件商標を使用しない義務を負っていたか(争点2)
(2) 本件情報の不正使用についての損害賠償請求
ア 債務不履行に基づく請求
被告は,本件販売契約に基づき,本件対象物件には本件情報を使用しない義務を負っていたか(争点3)
イ 不正競争防止法2条1項7号該当を理由とする請求(争点4)
(ア) 本件情報の営業秘密性(争点4-1)
(イ) 本件対象物件の本件情報を使用することは,本件販売契約による使用許諾の範囲内か(争点4-2)
(3) 本件商標の使用,本件情報の使用について,原告による黙示の許諾が認められるか(争点5)
(4) 原告の損害額(争点6)
第3争点に関する当事者の主張
1 本件商標の不正使用についての損害賠償請求について
(1) 商標権侵害に基づく請求
ア 争点1-1(本件対象物件の工事請負は,本件商標の指定役務とは類似するか)
【原告の主張】
被告は,本件対象物件の建築工事について,建築工事請負契約書,見積書,設計図書や確認申請書,検査済証等に本件商標を表示しているほか(乙27の1~44),自社のホームページにも本件商標を表示している(甲10の1・2)。また,被告は,本件対象物件の営業に当たり,本件商標を付した広告,価格表,取引書類を頒布するなどしている(甲21)。
このように,被告は,本件商標を,本件対象物件の建築・販売に当たって使用しているところ,これらは本件商標の指定役務である建物の売買等と類似する。
【被告の主張】
被告が本件商標を使用したのは,建築工事の受注,施工という請負契約の履行においてである。
一方,本件商標の指定役務は、建物の管理、建物の貸借の代理又は媒介、建物の貸与、建物の売買、建物の売買の代理又は媒介等であるところ(甲1),請負契約の履行はいずれにも該当しない。したがって,被告の行為と本件商標の指定役務とは類似しない。
イ 争点1-2(本件対象物件に本件商標を使用することは,本件販売契約による使用許諾の範囲内か)
【被告の主張】
以下の事情からすると,本件販売契約におけるデコスドライ工法の「標準採用」とは,同工法が基本的に採用されているという程度の意味合いであり,必ず採用されているという趣旨ではない。したがって,原告は,被告に対し,本件販売契約における本件商標の使用許諾について,デコスドライ工法の採用を条件とせず包括的に許諾していたといえ,被告の行為は,本件販売契約による使用許諾の範囲内である。
(ア) ユニキューブ事業の実施に当たって重要なのは,いかに遊休土地の所有者(施主)から工事を受注するかということにあり,数ある断熱・防音工法の一つにすぎないデコスドライ工法の採否は重要ではない。
本件販売契約において,同工法は「標準採用」とされているものの,明確な定義はなく,採用しなかった場合の制裁条項も設けられていない。また,原告マニュアルの全体に占める同工法に関する記載の割合も小さい(全410頁中わずか2頁しかない。乙12の1・2)。さらに,「ユニキューブ・パッケージ販売契約」は,フランチャイズ契約のような継続的な取引関係ではなく,売り切りの契約であることからしても,原告は,加盟店が建築する建物の品質について特段の関心を払っていなかったといえる。
(イ) また,ユニキューブ事業は,建物の建築工事の受注・施工を目的とするところ,工事請負契約の締結過程では,当然に加盟店と施主との交渉が行われ,その中で,施主がデコスドライ工法以外の防音・断熱工法を希望することもある(甲57参照)。このようなときに、加盟店が施主にデコスドライ工法を押し付けなければならず,同工法を採用しないのであれば,ユニキューブの特徴である本件情報を使用したキューブ型の外観デザインの建物についての請負契約を締結できないとするのは現実的ではない。そうすると,本件販売契約にいう「標準採用」というのは,標準的な仕様として,デコスドライ工法によるセルロースファイバー断熱が用いられることを意味するにとどまり、具体的な契約締結の場面で,施主との合意により,デコスドライ工法以外の工法を採用することを許さない趣旨ではない。
(ウ) なお,「標準採用」を上記のとおりに解釈することは,「ユニキューブ・パッケージ」の商材としての価値を高めることになり,原告の合理的意思にも合致する。
【原告の主張】
(ア) 本件販売契約において,「ユニキューブ」は,デコスドライ工法によるセルロースファイバー断熱を標準採用した建物とされているところ,ここでいう「標準採用」とは,選択採用(オプション)ではなく,必ず採用する必要があり,選択の余地がないという意味である。
したがって,本件販売契約上,デコスドライ工法を採用しない建物に本件商標を使用してはならないことは明確に定められており,本件対象物件の工事請負に本件商標を使用する行為は,使用許諾の範囲外である。
(イ) 被告は,原告はユニキューブ事業でデコスドライ工法を重視していなかったと主張するが,原告は,ユニキューブ事業にデコスドライ工法の採用が不可欠であることを継続的かつ全国的に広告宣伝しており(甲38~54),加盟店に対しても,その旨繰り返し説明している(甲21の2・60,62,65,76,77,79,83頁)。
また,原告のユニキューブ事業に関するビジネスモデルは,ユニキューブ・パッケージ販売契約の販売代金収入のみならず,原告の子会社のデコス社が特許権者であるデコスドライ工法の普及による収益向上をもねらったものある。すなわち,ユニキューブ事業の加盟店がデコスドライ工法を採用したユニキューブ物件を建築するためには,デコスドライ工法の施工代理店にその施工を委託しなければならないところ,当該施工代理店は,デコス社の販売代理店である越智産業等を通じて,デコス社からセルロースファイバーを購入する仕組みになっている。
したがって,ユニキューブ事業においては,加盟店が建築するユニキューブ物件にデコスドライ工法が採用されることで,原告の子会社ひいては原告の収益増加をもたらすことが意図されているのであって,原告がデコスドライ工法を重視していなかったとの主張には理由がない。
(ウ) なお,被告は,施主の側から,デコスドライ工法を採用せず,他の工法,断熱材に変更して工事価格を引き下げるように求められたと主張するが,そのような経緯は立証されていない。
(2) 争点2(被告は,本件販売契約に基づき,本件対象物件には本件商標を付さない義務を負っていたか)
【原告の主張】
原告は,上記(1)イ【原告の主張】のとおり,本件販売契約において,デコスドライ工法を採用しない本件対象物件の工事請負に本件商標を使用することは許諾していないが,それのみならず,原告は,ユニキューブ事業について,デコスドライ工法による断熱の品質・性能により,積極的に本件商標のブランド力を確保しようとしている(本件販売契約5条3項参照)。
したがって,原告は,被告に対し,デコスドライ工法を採用しない本件対象物件の工事請負に本件商標を使用することを禁止しており,被告はそのような使用をしない義務を負う。
【被告の主張】
上記(1)イ【被告の主張】のとおり。
2 本件情報の不正使用についての損害賠償請求について
(1) 争点3(被告は,本件販売契約に基づき,本件対象物件には本件情報を使用しない義務を負っていたか)について
【原告の主張】
本件販売契約において,本件情報は原告に帰属することが明らかにされている(本件販売契約5条1項)。
そして,原告は,同契約において,被告に本件情報の使用を許諾したが,これは徳島県を中心にユニキューブ事業を行うためか,又は新たな商品開発のためにその開発途上で使用することを条件として,許諾したものである(本件販売契約2条2項,4条2項,5条3項)。
デコスドライ工法を採用しない建物の建築は,ユニキューブ事業の実施ではなく,新たな商品の開発途上ということでもない。したがって,被告は,デコスドライ工法を採用しない建物に本件情報を使用することは許諾されておらず,このような使用をしてはならない義務を負う。
【被告の主張】
本件商標の使用許諾の場合(上記1(1)イ【被告の主張】)と同様,本件販売契約における本件情報の使用許諾についても,原告は,デコスドライ工法の採用を条件とせず包括的に許諾しており,したがって,被告は,本件販売契約上,デコスドライ工法を採用しない建物に本件情報を使用してはならない義務を負っていない。
(2) 不正競争防止法2条1項7号該当を理由とする請求
ア 争点4-1(本件情報の営業秘密性)
【原告の主張】
本件情報は営業秘密である。
【被告の主張】
争う。
イ 争点4-2(本件対象物件の本件情報を使用することは,本件販売契約による使用許諾の範囲内か)
【被告の主張】
上記(1)【被告の主張】のとおり。
【原告の主張】
上記(1)【原告の主張】のとおり。
3 争点5(本件商標の使用,本件情報の使用について,原告による黙示の許諾が認められるか)
【被告の主張】
(1) 原告は被告による本件対象物件の工事請負を把握していたこと
ア(ア) 越智産業株式会社(以下「越智産業」という。)は,デコス社のデコスドライ工法についての販売代理店であり,デコスドライ工法の施工代理店となった業者は,越智産業から必要なセルロースファイバー等を購入しなければならないとされる。また,越智産業は,原告のユニキューブ事業における販売代理店でもあり,加盟店は,同社を通じて,ユニキューブ建材を「標準実行予算書」(甲5,6,甲26・3~15頁)に記載された価格で購入できるとされている。
被告は,ユニキューブ事業の実施に当たり,越智産業を通じて必要な建材等を発注しており,当初はユニキューブ建材と共にデコスドライ工法の施工を発注していたが(乙24の1~3),その後,被告は,ユニキューブ建材についてのみ発注するようになった。したがって,越智産業は,被告がデコスドライ工法を採用しなくなったことを確知しており,それにもかかわらず被告に販売を継続していたことからすれば,越智産業には,ユニキューブ事業にデコスドライ工法が不可欠であるとの認識はなかったといえる。
(イ) 越智産業は,上記のとおり原告やデコス社の販売代理店であり,原告やデコス社に,当然上記情報を提供していたといえる(甲57参照)。
(ウ) また,被告は,平成18年2月に,ユニキューブ事業の加盟店を会員とする組織(ユニキューブサプライヤーズクラブ)に加入し(甲22),それ以降,ユニキューブ事業の受注実績を訴外ハイアスに提出している。
(エ) 以上のとおり,デコス社,越智産業が把握する被告のデコスドライ工法の施工状況,ユニキューブ建材の発注状況と,訴外ハイアスが把握する被告のユニキューブ事業の受注実績を照合することによって,被告がデコスドライ工法を採用しない本件対象物件の工事請負をしている事実を把握していたといえる。
イ なお,平成18年6月に,原告は,被告が将来的にデコスドライ工法を採用しなくなる可能性を認識していたのであるから(甲57),越智産業を通じて被告の動向を注視し,平成19年4月の時点で被告による本件対象物件の工事請負を認識していたといえる。
(2) 原告は,被告に対し,デコスドライ工法の採用を求めたことがないこと
原告は,上記(1)のとおり,被告による本件対象物件の工事請負を認識しながら,平成22年6月に至るまで,被告にデコスドライ工法を採用するよう求めたことはない。それどころか,原告は,販売実績の高い被告の功績を称えてユニキューブ事業の宣伝に積極的に利用しており,現在においても,自社のホームページにおいて,被告による本件対象物件の実績をユニキューブ事業の宣伝に利用している。
(3) 小括
したがって,原告は、被告に対し、本件対象物件の工事請負を積極的に容認していたといえ,黙示の許諾が認められる。
【原告の主張】
(1) 被告がデコスドライ工法を採用していないことの疑惑が原告に初めて報告されたのは平成19年4月のことであるが,その当時は,被告においてユニキューブ事業の責任者の変更があったことなどから,契約違反をとがめる通知をしなかったにすぎない。その後,平成20年6月になって,被告がデコスドライ工法を採用していない疑惑が濃厚になったことから,訴外ハイアスが,被告にデコスドライ工法の施行代理店になることなどを提案するに至った。
なお,平成18年6月頃に,被告担当者が,越智産業宛のメールの中で,ユニキューブ入居者からデコスドライ工法の代わりに他の設備を充実させて欲しいとの要望があったことを述べているが(甲57),デコスドライ工法を採用していないことを決定付ける内容ではない。
(2) また,原告が,デコス社や越智産業を通じて,デコスドライ工法の施工状況を把握していたことはない。実際,原告は越智産業に対し。被告へのユニキューブ資材及びデコスファイバーの出荷状況を問い合わせたが,任意には応じてもらえず,弁護士会照会を行わざるを得なかったのである(甲56の1~3)。
なお,越智産業へのセルロースファイバーの注文は,あらかじめ注文ロットが定められており,ユニキューブの断熱工事の都度,注文がされるわけでもない(甲64参照)。また,ユニキューブ建材は,資材メーカーから越智産業に直接卸されるのであって,越智産業は,ユニキューブ事業における原告の販売代理店ではない。
(3) 以上のとおり,原告は,被告がデコスドライ工法を採用しないことを容認したことはなく,黙示の許諾は認められない。
なお,そもそも被告の行為は本件販売契約に違反するにもかかわらず,その効果が生じないというためには,単に積極的に容認していただけでは足りず,法的責任を免除する意思表示まで必要というべきである。
3 争点5(原告の損害額)について
【原告の主張】
(1) 本件商標の不正使用による損害
本件商標の不正使用による商標権侵害による損害は以下のとおりである(なお,下記ア,イは選択的な主張である。なお,債務不履行に基づく損害についても同額を主張する。)。
ア 商標法38条2項の推定に基づく損害
被告が工事請負した本件対象物件は,別紙物件リスト【原告の主張】棟数欄記載の47件146棟である。
そして,請負金額は,請負契約書(乙27の1~44)又は被告が使用していた月次コミュニケーションシート上の請負金額に基づき,別紙物件リスト【原告の主張】請負金額欄のとおりであり,原価は,標準実行予算書(甲5,6)における1現場で1棟~10棟を建築した場合の「共通仮設工事」,「本体工事」,「諸経費」,「外構工事」を基にした上で,デコスドライ工法不採用による原価減少分も考慮して計算(当該計算については,別紙原価表参照。ただし,物件番号11,13については,屋根部分にデコスドライ工法を採用していると想定している。)をした別紙物件リスト【原告の主張】原価欄のとおりであって,被告の粗利益は,別紙物件リスト【原告の主張】粗利欄記載のとおり4億2690万7515円である(このうち3億7000万円を請求する。)。
したがって,同金額が商標法38条2項に基づき,損害額と推定される。
イ 商標法38条3項に基づく損害
原告及び訴外ハイアスは,「ユニキューブ」の形態模倣(不正競争防止法2条1項3号)該当を理由とする事案で,1棟当たり140万8000円を和解金としたことがあるところ,本件商標の商標権侵害による使用料相当額は,同金額を下回らない。
したがって,2億0556万8000円(=140万8000円×146棟)が商標法38条3項に基づく損害であるところ,これと後記(2)イの損害額の合計の一部である3億7000万円を請求する。
ウ 損害の発生について
被告は,徳島県を中心にユニキューブ事業を行っているのに対し,原告は,山口県,福岡県を中心に事業を行っている。
しかしながら,原告は,受注の範囲を特定地域に限定していないため,他の都道府県から受注することも可能であり,現に受注した実績もある。また,原告は,他都道府県であっても,下請業者を利用してユニキューブを施工することも可能である。なお,原告が,徳島県に進出していなかったのは,被告が同県でユニキューブ事業を行っていたことに対する道義的配慮によるものであって,仮に被告が,本件対象物件の工事請負をしていることを知っていれば,本件販売契約を解除し,徳島県にも進出していた。
したがって,原告と被告とは競合関係にあり,原告に損害が生じていることは明らかである。
(2) 本件情報の不正使用による損害
本件情報の不正使用による不正競争防止法違反による損害は以下のとおりである(なお,下記ア,イは選択的な主張である。なお,債務不履行に基づく損害についても同額を主張する。)。
ア 不正競争防止法5条2項に基づく損害
上記(1)アと同じ。
イ 不正競争防止法5条3項2号に基づく損害
上記(2)イと同じ。
(3) ユニキューブ事業の信用毀損
原告のユニキューブ事業は,1年当たり2億2250万円の売上げがあり,ユニキューブ・パッケージ販売事業は,1年当たり1億2112万2000円の売上げがある。また,原告及び訴外ハイアスは,ユニキューブ事業について,業界紙,自社のウェブサイト,担当社の営業活動などにより,積極的な広告宣伝活動を行っており,原告は,ユニキューブの品質を保持し,模倣商品を阻止するための企業努力を行っている。
これらの事情を考慮すれば,被告の行為によるユニキューブ事業の信用毀損の損害額は3000万円を下らない。
(4) 弁護士費用
本件の弁護士費用相当の損害額は,528万1000円を下らない。
【被告の主張】
(1) 原告に営業上の損害が発生したとは認められないこと
ア 被告は,徳島県内の建設業者であり,ユニキューブ事業を徳島県内でしか行っていない。これに対し,原告は,徳島県内でユニキューブ事業を行っておらず,原告と被告とは競合関係にはない。
イ また,建物の工事請負は,流通商品のように使用された商標に化体された業務上の信用に基づいてされるなどということはなく,本件商標は,被告が本件対象物件の受注を獲得する上で全く寄与していない。
むしろ,被告が,ユニキューブ事業において数々の受注を獲得できたのは、被告の信用力,被告の創意工夫に基づく営業方法、県内企業としてこれまで培ってきた人脈等によるものである。
ウ 以上のとおり、原告と被告は競合関係になく、また、本件商標は被告の売上げに全く寄与していない以上、原告に営業上の損害が発生したとは認められない。
(2) 本件商標の不正使用による損害
ア 原告は,別紙物件リスト記載【原告の主張】のとおり,被告が本件対象物件を建築・販売し,粗利益を得たと主張する。
しかしながら,原告の本件対象物件として主張するものの中には,途中で解約された物件,デコスドライ工法を採用している物件,契約書等に本件商標の表示がない物件も含まれており,これらについては,別紙物件リスト記載【被告の主張】のとおりである。
イ また,請負金額についても,別紙物件リスト記載【被告の主張】記載のとおりであって(乙27),原告が主張する金額は認められない。
なお,原告が原価の根拠とする「標準実行予算書」の記載は,参考価格を提示したものにすぎない。
(3) 本件情報の不正使用による損害
争う。
(4) 信用毀損及び弁護士費用
争う。
第4当裁判所の判断
1 争点1,2(本件商標の不正使用についての損害賠償請求)について
当裁判所は,以下のとおり,争点1(商標権侵害に基づく請求)について,以下のとおり判断する。
(1) 争点1-1(被告の行為と本件商標の指定役務とは類似するか)について
本件商標の指定役務は,「建物の管理,建物の貸借の代理又は媒介,建物の貸与,建物の売買,建物の売買の代理又は媒介,建物又は土地の鑑定評価」等である。
被告は,本件商標を,本件対象物件の建築工事請負契約書,見積書,見積内訳書,仕様書,図面等に用いており,本件対象物件の建築工事請負について使用しているところ,建築工事請負は,建物の売買と密接な関係があり,これに本件商標が使用された場合,原告の有する本件商標権と誤認混同が生じるといえる。
したがって,被告の行為と本件商標の指定役務は類似する。
(2) 争点1-2(被告の行為は本件販売契約による使用許諾の範囲内か)について
ア 本件販売契約における文言について
上記第2の2(4)イのとおり,本件販売契約では,本件商標を含む「ユニキューブ」,「UNICUBE」,「unicube」等のユニキューブ建物に関する商標・ロゴ・サービスマーク(登録の有無を問わない。以下「本件商標等」という。)について,ユニキューブ事業にのみ使用することができるとされ(4条1項),「ユニキューブ」については,「原告が開発した設計・施工ノウハウにより建築される建築物で,キューブ型の外観デザインを持ち,かつ,デコスドライ工法によるセルロースファイバー断熱を標準採用した建物」(同1項)と定義されている。
したがって,本件販売契約上,本件商標は,原告が開発した設計・ノウハウにより建築される建築物で,キューブ型の外観デザインを持ち,かつ,デコスドライ工法によるセルロースファイバー断熱を標準採用した建物に付することを許諾されているといえ,「標準採用」の意義が問題となる。
イ そこで検討するに,上記のとおり「ユニキューブ」の定義として,①キューブ型の外観デザインを持つことに加え,②デコスドライ工法によるセルロースファイバー断熱を標準採用した建物であることを必要条件としており,本件商標等の使用をユニキューブ事業に限っていることからすれば,原告としては,本件商標等に,キューブ型の外観デザインであることのみならず,デコスドライ工法の採用も含めた商品価値を化体させようと意図していたものといえるのであって,このことは,本件販売契約を締結する被告にとっても明らかであったといえる。
したがって,本件販売契約における本件商標の使用許諾について,デコスドライ工法の採用が全く条件とされていなかったとする被告の主張は採用できない。
ウ 一方,原告は,本件販売契約における本件商標の使用許諾は,当該建物にデコスドライ工法を採用することを必要条件としたものであると主張する。
しかしながら,ユニキューブ事業においても,同事業で建築する建物の標準的な仕様は定められているものの,建物の工事請負という事業の性質からすれば,具体的な施工内容は,施主との交渉によって確定することが当然に予定されているといえる。断熱・防音工法はデコスドライ工法以外にも様々な工法が存在するところ,施主がデコスドライ工法以外の工法を希望する場合には,その後,本件商標を使用することができず,さらにはキューブ型の外観デザインも使用できないことになるのは,当事者の合理的意思とはおよそいい難く,原告がユニキューブ・パッケージ販売契約を締結する際に,被告やその他の加盟店に対し,そのような説明をしていたとも認められない(原告マニュアルにも,ユニキューブの特徴としてデコスドライ工法の採用を記載した箇所はあるが(甲21の2・60,62,65,76,77,79,83頁),施主との交渉の結果,これを採用しない建物について工事請負してはならない旨の記載までは見当たらない。)。
なお,訴外ハイアスの取締役は,平成18年6月頃,被告担当者からデコスドライ工法よりも他の設備にお金を回したいという話があった際に,デコスドライ工法は標準採用にしていることから外せない旨伝えているが(甲57),このときも社長の対応待ちとされていることなどからすれば,当該やり取りをもって,本件販売契約の際,原告において,本件商標の使用許諾に当たりデコスドライ工法の採用を必要条件とする旨の方針であったとまではいえず,当該内容の合意があったとまで認めることはできない。
以上を踏まえると,本件販売契約におけるデコスドライ工法の「標準採用」とは,当該建物にデコスドライ工法を採用することを条件とするものであるが,例外を許さない趣旨ではなく,施主に対し,デコスドライ工法を標準仕様として提示しつつ,施主との交渉の結果,デコスドライ工法を採用しないこととなった場合を含むものと解するのが相当である。
エ なお,このように解することは,原告の本件販売契約後の対応とも整合的であるといえる。
すなわち,上記のとおり,平成18年6月頃,被告担当者は,訴外ハイアスの取締役に対し,入居者からデコスドライ工法の支持が強くなく,ウォシュレット等を付けて欲しいという要望があるため,デコスドライ工法から他の設備にお金を回すという内容の話があり(甲57),その後,平成19年4月頃になって,原告に被告がユニキューブ事業にデコスドライ工法を採用していないとの疑惑が報告されたとされるが(弁論の全趣旨),原告は,この時点で,デコスドライ工法の採否について被告に確認するなどの特段の対応を取っておらず,そのことについて合理的な理由も見当たらない。したがって,原告としても,デコスドライ工法の採否について,例外を許さない姿勢ではなかったと認められる。
オ 原告は,「標準採用」とは,自動車等広く量産品に使われる用語で,製品の共通製造工程で標準仕様として採用されることをいい,消費者は,その標準仕様にオプションとして新たに仕様・機能を付加することはできても,標準仕様として採用されたものを不採用にすることはできないと主張するが,本件販売契約がこのような内容であったことについての特段の立証はない上,建築請負と自動車の売買とでは事情が異なるのであって,原告の主張は採用できない。
(3) 小括
原告は,ユニキューブ事業の加盟店に対し,本件商標の使用を認めているが,無限定にこれを認めるものではなく,原告が開発したキューブ型の外観デザインを持ち,かつデコスドライ工法を標準採用した建物に関するユニキューブ事業に使用する場合に限り,これを認めるものである。上記認定したところによれば,被告が,施主に対し,本件商標を示して,原告が開発した建物を提示し,同時にデコスドライ工法についても提示したところ,施主の希望により他の施工方法が採用されたような場合,本件商標の出所表示機能,品質保証機能はいずれも害されないということができ,商標権侵害は成立しないと認められる(なお,この場合,被告の債務不履行も成立しない。)。これに対し,被告が,施主に対し,本件商標を示して,原告が開発した建物のみを提示し,断熱工法としてデコスドライ工法以外のものを提示した場合,少なくとも本件商標の品質保証機能は害されるというべきであるから,原告のした許諾の範囲外であるとして,商標権侵害を構成するというべきである。
2 争点3,4(本件情報の不正使用についての損害賠償請求)について
当裁判所は,以下のとおり,争点3(債務不履行に基づく請求),争点4(不正競争防止法に基づく請求)についての原告の主張にはいずれも理由がないと判断する。
(1) 争点3(債務不履行に基づく請求)について
原告が債務不履行の内容として主張するところは,被告が原告から提供を受けた本件情報を利用してユニキューブ事業を行いつつ,デコスドライ工法を採用しない建物を建築したことと解される。
しかしながら,本件販売契約の解釈として,原告が被告にデコスドライ工法の採用を必須のものとして義務付ける趣旨を含まないことは既に認定したとおりであるから,債務不履行の主張に理由がないことは明らかである。
(2) 争点4(不正競争防止法に基づく請求)について
原告は,本件情報は,営業秘密であると主張するが,具体的な主張立証はなく,これを認めるに足りない。
3 争点5(原告による黙示の許諾が認められるか)について
当裁判所は,以下のとおり,争点5(原告による黙示の許諾が認められるか)についての被告の主張には理由がないと判断する。
(1) 被告は,原告は,デコス社又は越智産業を通じて,平成19年4月の時点で,被告が本件対象物件を建築,販売していることを把握しており,それにもかかわらず,被告に対し,デコスドライ工法の採用を求めたことはなく,むしろ,販売実績の高かった被告の功績を称え,ユニキューブ事業の宣伝に積極的に利用してきたのであるから,原告は,本件対象物件における本件商標の使用について黙示の許諾をしていたと主張する。
(2) 越智産業は,ユニキューブ事業について,原告マニュアルに記載された「標準実行予算書」(甲5,6,26の3・3~15頁)の価格(700万円)で,ユニキューブ用建材,デコスドライ工法に使用するセルロースファイバーを納品する業者として,原告から指定を受けており(弁論の全趣旨),被告は,実際に,平成19年1月から3月にかけては,個別の物件を指定した上で,越智産業に対し,ユニキューブ建物に使用するユニキューブ建材及びセルロースファイバー,本件対象物件に使用するユニキューブ建材を発注していたことが認められる(乙24の1~3)。このことからすると,被告は,平成19年4月以降も,越智産業に対し,デコスドライ工法を発注することなくユニキューブ建材を発注していた可能性があり,越智産業は,被告がデコスドライ工法を採用していないことを認識していた可能性がある。
しかしながら,仮に,越智産業が上記認識を有していたとしても,原告と越智産業とは別会社であって,原告が直ちにその旨を把握できたということはできない(訴外ハイアスは,越智産業に対し,被告がデコスドライ工法を採用しないように求めた場合には,報告するよう求めているが(甲57),これについての報告がされた旨の立証もない。)。
したがって,原告が,平成19年4月の時点で,被告が本件対象物件を建築,販売していることを把握したとまでは認められず,そうである以上,被告が,本件対象物件を積極的に容認していたと評価することはできない。
(3) なお,原告は,平成23年に内容を更新したウェブサイトにおいても,ユニキューブの施工実績として,被告が建築した本件対象物件を紹介していることが認められるが(乙29),このことをもって,直ちに被告が本件対象物件に本件商標を使用することについての黙示の承諾をしたということはできない。
(4) 以上のとおりであって,争点5(原告による黙示の許諾が認められるか)についての被告の主張には理由がない。
4 争点6(原告の損害額)について
(1) 商標法38条に基づく損害
ア 被告による商標権侵害について
上記第2の2(5)及び第4の1(2)の事実並びに証拠によれば,被告は,本件販売契約の締結後,当初はデコストライ工法を採用した建物を施工していたが,施主の希望等により,他の断熱工法による建物も施工するようになったこと,平成18年6月には,デコスドライ工法を外したい旨を原告に打診するなどしたこと,平成19年4月以降は,ユニキューブの施主に対し,デコスドライ工法が標準仕様である旨の説明をしなくなったこと,以上の事実が認められる。
上記検討したところによれば,本件商標を使用しながら,ユニキューブの施主に対し,デコスドライ工法が標準仕様である旨の説明をしなかった場合には,本件商標権の侵害が成立し,したがって,平成19年4月以降に着工された本件対象物件,すなわち別紙物件リスト15~18,20,21,24,26,27,29,31,32,35,37,38,40~42,44,46~51,54の合計24件78棟については,商標権侵害が認められる(乙27)。
イ 商標法38条2項に基づく損害
(ア) 商標法38条2項は,侵害者が侵害行為により受けた利益の額を,商標権者の受けた損害の額と推定している。
ところで,商標権は,商標それ自体に当然に商品価値が存在するのではなく,商品の出所たる企業等の営業上の信用等と結び付くことによってはじめて一定の価値が生ずる性質を有する点で,特許権,実用新案権及び意匠権などの他の工業所有権とは異なる。商標権侵害があった場合,侵害品と商標権者の商品との間には,必ずしも性能や効用において同一性が存在するとは限らないから,侵害品と商標権者の商品との間には,市場において,当然には相互補完関係(需要者が侵害品を購入しなかった場合に商標権者の商品を購入するであろうという関係)が存在するということはできない。したがって,上記相互補完関係を認めるのが困難な事情がある場合には,商標法38条2項によって損害額を推定するのは相当でないというべきであって,このような事情の有無については,商標権者が侵害品と同一の商品を販売(第三者に実施させる場合も含む。)をしているか否か,販売している場合、その販売の態様はどのようなものであったか,当該商標と商品の出所たる企業の営業上の信用等とどの程度結びついていたか等を総合的に勘案して判断すべきである。
(イ) 本件において,被告は,徳島県内でユニキューブ事業を行っており,上記商標権侵害に係る本件対象物件の請負契約もいずれも徳島県で締結されているところ,これに対し,原告がユニキューブ事業を行っているのは福岡県及び山口県が中心であって,商圏が競合しているとはいえない。また,原告は,全国規模でユニキューブ・パッケージの販売事業を行っており,平成19年7月当時,徳島県内にも2社が確認できるが(乙41),これらの2社は,被告とは商圏を異にしており,被告に代わってこれらの2社が受注したということもできない。原告において他の加盟店を獲得できたような事情も見当たらない。
さらに,被告がユニキューブ物件ではなく,デコスドライ工法を採用しない本件対象物件の工事請負を行うようになった当初,施主から,デコスドライ工法を希望する度合いは強くなく,一方で,他の設備を付けて欲しいとの要望があったことも踏まえると(甲57),施主が,被告による本件対象物件の工事請負がなければ,被告以外にユニキューブ物件を発注したであろうという関係も,直ちには認められない。
原告は,被告が本件販売契約に違反していたことからすれば,被告が同契約に基づき徳島県でユニキューブ事業を行っていた事情を考慮すべきではないと主張するが,原告は,上記のとおり被告の施工実績を積極的に広告宣伝するなどしており,被告が原告の事業に貢献していたといえることからすれば,本件において被告のユニキューブ事業をなかったものと仮定するのは相当ではない。
(ウ) 以上によれば,本件においては,商標法38条2項により,被告の利益を原告の損害と推定するのはことを困難とする事情が存するというべきである。
イ 商標法38条3項に基づく損害
(ア) 被告は,原告に損害は発生していないと主張して,商標法38条3項に基づく損害も認められないと主張する。
しかしながら,ユニキューブ事業についてのこれまでの実績(乙38)を踏まえると,本件商標に顧客吸引力が全くまったくなく,本件対象物件の売上げに全く寄与していないとまでいうことはできず,また,上記1(2)のとおり,原告は,本件販売契約において,キューブ型の外観デザインに加え,デコスドライ工法の採用も含めた商品の価値を,本件商標を含む「ユニキューブ」,「UNICUBE」,「unicube」等のユニキューブ建物に関する商標・ロゴ・サービスマーク(登録の有無を問わない)化体させようとしたものといえるところ,被告の行為は,原告が確立しようとしたこのような商標の価値を損なうものということができる。したがって,原告に損害が発生していないということはできない。
(イ) そこで,その使用料相当額を検討するに,土地を提供し,多額の建築資金を投入して行う戸建賃貸事業において,施主が被告と契約を締結するに至るか否かは,被告が提示する事業計画の内容が施主側の希望や経済的条件に合致するか否かによるというべきであり,本件商標が有する顧客吸引力のみで契約締結に至るものではないと解される。
また,被告は,本件販売契約により,個別の対価を支払わずに本件商標をユニキューブ事業に使うことの許諾は得ているのであり,デコスドライ工法が標準であることの説明をせず,本件対象物件の建築をすることが,許諾の範囲外となるにすぎないのであるから,第三者が全く無許諾で,本件商標を使用する場合と同視することはできない。
以上の点に加え,ユニキューブ物件の1棟当たりの標準価格が700万円又は740万円とされていたことを考慮すれば(甲5,6,26の3・3~15頁),本件事案において,デコスドライ工法が標準であることの説明をせず,本件商標を本件対象物件に使用する際の使用料相当額は,1棟当たり10万円が相当と認められる。
(ウ) したがって,被告による商標権侵害による原告の損害は,760万円と認められる。
(2) 信用毀損による損害
原告は,被告の行為により,原告に信用毀損が生じていると主張するが,具体的に信用が毀損されている事情は見当たらず(このことは,原告自身が,自己のウェブサイトで,本件対象物件の施工実績を紹介していることからも明らかである。),当該損害は認められない。
(3) 弁護士費用
本件の弁護士費用相当の損害額としては,76万円が相当である。
(4) 小括
以上のとおりであって,本件の損害額としては,836万円である。
5 書類の提出命令の申立てについて
原告は,平成23年7月1日付けで,証明すべき事実を,別紙物件リスト記載の物件についての被告の粗利益とした上で,被告の商業帳簿の一部若しくはその補助資料又は管理会計資料について,書類の提出命令の申立てをする。
しかしながら,本件において,商標法38条2項,不正競争防止法5条2項に基づく損害について審理する必要が認められないのは上記のとおりであり,上記各文書については,証拠調べの必要性が認められない。
6 結語
以上のとおり,原告の請求は,主文の限度で理由があるから一部認容し,その余については棄却することとして,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 谷有恒 裁判官 松川充康 裁判官 網田圭亮)
file_3.jpg別紙