大阪地方裁判所 平成21年(ワ)17476号 判決 2012年4月16日
原告
X
被告
チューリッヒ・インシュアランス・カンパニー・リミテッド
主文
一 被告は、原告に対し、一一一万二三四〇円及びこれに対する平成二一年一二月二六日から支払済みまで年五パーセントの割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを三分し、その二を被告の負担とし、その余は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、二〇〇万円及びこれに対する訴状送達日の翌日(平成二一年一二月二六日)から支払済みまで年五%の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、自動車事故に関して、原告が、保険会社である被告に対し、他車運転特約に基づく保険金の支払等を求める事案である。
一 前提事実
以下の事実は、当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。
(1) 自動車事故の発生(甲六)
原告(当時四九才)は、平成二一年五月三一日午前一一時五三分頃、大阪市<以下省略>付近路上において、普通乗用自動車(ホンダ・エリシオン。以下「本件車両」という。)を運転中に、前方で停車中のA(以下「被害者」という。)運転の普通乗用自動車(日産・ティーダ。以下「被害車両」という。)の後部に追突する交通事故を起こした(以下「本件事故」という。)。
(2) 本件車両の所有関係等(甲七、乙二、八、一〇、一六、原告本人)
ア 本件車両は、平成一七年九月頃に、原告の知人であるB(以下「B」という。)ないしBが経営する有限会社a(以下「a社」という。)が株式会社bファイナンス(以下「bファイナンス」という。)からリースしたもので、車検証上の所有者名義はbファイナンス、使用者名義はa社、種別・用途等は普通・乗用・自家用となっていた。
イ Bないしa社は、本件車両のリース料(月額八万五〇〇〇円)の支払を平成一八年七月分から怠り、平成二〇年三月頃以降はbファイナンスに連絡もしなかった。なお、リース料の滞納額は、平成二二年四月時点で約三七三万円になっていた。
ウ 本件車両は、平成二〇年九月頃から、車検切れ・自賠責保険切れの状態であった。また、任意保険にも未加入の状態であった。
エ 原告は、本件車両につき、原告自ら主体的に或いはBに依頼されて(当事者間に争いがある。)、平成二一年五月一八日、原告が運転して自動車修理工場c(以下「cオート」という。)に運び入れて、車検手続を行い、同手続終了後、同修理工場から原告が本件車両の引き渡しを受けて運転して帰り、その車検費用約一七万円を支払った。
オ 原告は、本件車両につき、原告自ら主体的に或いはBに依頼されて(当事者間に争いがある。)、平成二一年五月一八日にcオートを通して自動車損害賠償責任保険(保険期間は同日~平成二三年五月一八日)に加入して、その保険料二万二四七〇円を支払った。その際、自賠責保険の契約者名義は原告とされた。
(3) 保険契約(乙一)
ア 原告は、普通乗用自動車(トヨタ・レジアス。以下「原告車両」という。)を所有し、被告との間で、被保険者を原告、被保険自動車を原告車両とする自動車保険契約を締結していたところ、その契約には、他車運転危険担保特約(以下「本件他車運転特約」という。)が付されていた。
イ 本件他車運転特約では、その適用対象となる他車について、概要次のとおり定められている。
第二条 この特約において「他の自動車」とは、被保険者、その配偶者、その同居の親族が所有する自動車(所有権留保付売買契約により購入した自動車、及び一年以上を期間とする貸借契約により借り入れた自動車を含む。)以外の自動車であって、その用途及び車種が自家用普通乗用車等であるものをいう。ただし、被保険者等が常時使用する自動車を除く。
二 原告の主張(請求原因)
(1) 保険金支払請求
ア 被告の保険金支払義務
(ア) 原告は、本件他車運転特約にいう他車を運転中に本件事故を起こしたのであるから、本件事故による損害につき、被告は、本件他車運転特約に基づく保険金支払義務がある。
(イ) この点につき、被告は、本件車両につき、原告が実質的な所有者である旨や常時使用する者である旨主張するが、原告は、Bから本件車両の譲り受けや長期借り受けをしたことはなく、原告は本件車両の実質的な所有者ではない。また、原告は、Bから頼まれて、懇意にしていたcオートを紹介して、Bの代わりに本件車両を運び込んで車検代行を依頼したにすぎないし、自賠責保険の加入手続は、cオートが、以前の自賠責保険証が見当たらなかったため、本件車両を持ち込んだ原告名義でその手続を行ったにすぎないし、費用も原告がBに代わって立て替えたにすぎないし、原告は自宅マンションの管理人にその駐車場の一時使用の届出をしたのみで車庫証明の申請を依頼したりしたことはないし、原告が本件事故当日以外に本件車両を運転したのは、一、二回のみであるし、原告は自分の自動車(原告車両)を所有しているのであって、本件車両を常時使用していないし常時使用する必要もない。
イ 本件事故による損害
(ア) 本件事故により、被害車両に一三五万円の損害が生じた。
(イ) 本件事故により、被害者が負傷(頚椎捻挫)し、その治療費として現在(訴え提起時)までに三万三四〇〇円を要した。
(ウ) 本件事故による損害合計一三八万三四〇〇円は、被告が保険金支払を拒絶したため、原告が支払った。
ウ 小括
よって、被告は、本件他車運転特約に基づく保険金として、一三八万三四〇〇円の支払義務がある。
(2) 不法行為に基づく損害賠償請求
ア 被告の不法行為
被告は、本件他車運転特約に基づく保険金支払を拒絶したところ、これは不法行為に該当する。
イ 原告の損害
(ア) 原告は、被告の保険金支払拒絶の不法行為のため、保険金支払請求訴訟の提起を余儀なくされ、その弁護士費用として一五万円を要した。
(イ) また、原告は、弁護士、被害者、病院、修理業者との面談折衝等で多大な労力・時間・費用を要したところ、その実費相当額は一五万円を下らない。
(ウ) 上記対応を要したことの精神的損害に対する慰謝料は、五〇万円を下らない。
ウ 小括
よって、被告は、不法行為に基づく損害賠償として、八〇万円の支払義務がある。
(3) 本件請求
よって、原告は、被告に対し、本件他車運転特約に基づく保険金請求(上記一三八万三四〇〇円)及び不法行為に基づく損害賠償請求(上記八〇万円)の内、二〇〇万円及びこれに対する訴状送達日の翌日から支払済みまで年五%の割合による遅延損害金の支払を求める。
三 被告の主張(認否反論)
(1) 保険金支払請求について
ア 被告の保険金支払義務について
否認ないし争う。
(ア) 本件他車運転特約が適用されるためには、<ア>本件車両が被保険者である原告らが所有する自動車ではないこと、<イ>本件車両が被保険者である原告らが常時使用する自動車ではないこと、をいずれも充たす必要があるが、本件では、いずれの要件も充たしていない。
(イ) すなわち、本件車両につき、①a社は、平成二〇年にはリース料が支払えず、同年秋には事務所も閉鎖状態となるなど、経済的に困窮し、本件車両も車検切れのまま自宅付近の駐車場に放置して長期間使用していなかった上、Bは、日本での事業に失敗して韓国で仕事をする予定にし、その後日本国内をほとんど不在にしていたものであり、a社ないしBは、本件車両を使用する意思も予定もなかったこと、②原告は、本件事故以前にも、仕事の必要上、内装も乗り心地も良い本件車両を時々借りており、今後も借りるつもりで、実際に同年五月中頃から本件車両を使用していたこと、③原告自ら主体的に、平成二一年五月一八日に車検手続を行うなどして、その車検費用約一七万円を自ら負担すると共に、自賠責保険に原告名義で加入して、保険料二万二四七〇円も支払ったこと、④原告自ら、同年五月二八日頃、本件車両につき、原告の自宅マンションの管理人に、その駐車場を車庫とする車庫証明の申請を依頼したり、駐車場使用申込書を提出したりしたこと、⑤さらに、原告がa社の社印と印鑑カードを所持していたことからすれば、原告とBの間には金銭貸し借りの関係があり、Bが原告にそれらを預けざるを得ない力関係にあったといえることなどに照らせば、⑥原告は、Bないしa社に対する経済的支配の一環として、本件車両を自由に使用するために、更には自己の所有とするために、自ら主体的に上記の車検手続や車庫証明申請等を行ったと考えられるのであり、本件事故当時、本件車両は、<ア>原告が実質的に所有する自動車であったこと、又は、<イ>原告が常時使用する自動車であったことは明らかである。
なお、「常時使用する自動車」に該当するかどうかは、当該自動車の使用期間、使用目的、使用頻度、使用についての裁量権の有無等に照らし、当該自動車の使用が、被保険自動車の使用について予測される危険の範囲を逸脱したものと評価されるものか否かによって判断すべきである。
(ウ) したがって、本件事故について、本件他車運転特約の適用はないから、被告は、原告主張の保険金支払義務を負わない。
イ 本件事故による損害について
否認ないし争う。
なお、被害車両の本件事故時の時価は、一〇七万九〇〇〇円である。
(2) 不法行為に基づく損害賠償請求について
ア 被告の不法行為について
否認ないし争う。被告は、調査の結果、本件事故に本件他車運転特約の適用はないと判断したものであり、被告が保険金支払を拒絶したことについて、違法性はない。
イ 原告の損害について
否認ないし争う。被害者、病院、修理業者等との面談折衝は、自ら本件事故を起こした加害者たる原告にとって、避けることができない負担であり、被告の保険金支払拒絶に起因するものではない。
第三当裁判所の判断
一 保険金支払請求について
(1) 被告の保険金支払義務について
本件事故につき、原告は、本件他車運転特約に基づく保険金支払を求めるのに対し、被告は、本件事故当時、本件車両は、<ア>原告が実質的に所有する自動車であったこと、又は、<イ>原告が常時使用する自動車であったことは明らかであり、本件事故に本件他車運転特約は適用されない旨主張するので、以下検討する。
ア 本件他車運転特約第二条本文該当性について
(ア) まず、証拠(甲一二、乙九の一、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、プロダクション業やイベント業などを営んでいたこと、知人に原告車両を平成二一年五月末頃の三~四日間貸すことになっていたこと、その後、原告も同月三一日に自動車の方が便利な用事が入ったため、その二日程前にBのマンションに行ってBの妻から本件車両を借りたこと、同月三一日に本件車両を運転中に本件事故を起こしたことが認められる。
(イ) 前提事実のとおり、本件車両は、平成一七年九月頃に、a社ないしBがbファイナンスからリースしたものであるところ、本件証拠上、その後、原告が、bファイナンスないしa社又はBから、本件車両を譲り受けたり、一年以上を期間とする貸借契約により借り受けたりしたことを認めるに足りる的確な証拠はないから、本件車両は、本件他車運転特約第二条本文の「被保険者(原告)が所有する自動車以外の自動車」に該当するというべきである。本件車両は原告が実質的に所有する自動車であり、本件他車運転特約第二条本文に該当しない旨の被告の主張は、採用できない。
イ 本件他車運転特約第二条ただし書該当性について
(ア) まず、被告は、①a社は、平成二〇年にはリース料が支払えず、同年秋には事務所も閉鎖状態となるなど、経済的に困窮し、本件車両も車検切れのまま自宅付近の駐車場に放置して長期間使用していなかった上、Bは、日本での事業に失敗して韓国で仕事をする予定にし、その後日本国内をほとんど不在にしていたものであり、a社ないしBは、本件車両を使用する意思も予定もなかった旨主張する。
しかし、前提事実のほか、証拠(甲一二、乙九の一、一一、一六、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、Bは、韓国人の妻と一緒に、大阪市内のマンションに居住し、本件車両を、上記マンションの駐車場に駐車していたこと、本件車両は、Bのほか、同人の妻が運転して使用することもあったこと、Bは、本件車両のリース料を滞納していたもののリース契約を解約したりはしていなかったこと、平成二〇年秋頃にインターネット関係の仕事や輸入雑貨業などを営んでいたa社の事務所を事実上閉鎖したこと、同年九月頃に本件車両が車検切れの状態になった後も、Bや同人の妻が、本件車両を運転して使用することがあったこと、原告も、仕事の都合上、本件車両を借りて使用したことが数回あった(ただし、車検切れの状態にあったことは知らなかった。)こと、Bは、韓国で事業を行うことを計画し、平成二一年四月下旬以降は韓国にいることが多くなったが、日本にいることも一定程度あった(例えば、同年五月は九日間、同六月は六日間、同七月は一一日間、同年八月は一五日間、日本にいた。)ことが認められるのであり、平成二一年五月頃当時、Bないしa社が、本件車両を長期間放置して使用していなかったとは認められないし、日本での事業や居住・生活を完全に止めていたとも、近日中に止めることが決まっていたとも認められない。
したがって、Bないしa社において、平成二一年五月頃当時の、韓国での事業(ないし事業準備)を始めたばかりで、まだ上手く行くかどうかも定かではなかったと思われる段階で、また、当分の間は日本での事業ないし居住・生活も一定程度存続するという段階で、既に本件車両を使用する意思も予定もなかったとまでは認め難い。
(イ) また、被告は、②原告は、本件事故以前にも、仕事の必要上、内装も乗り心地も良い本件車両を時々借りており、今後も借りるつもりで、実際に平成二一年五月中頃から本件車両を使用していた旨主張するが、本件証拠上、原告が、平成二一年五月中頃から継続的に本件車両を使用していたことを認めるに足りる的確な証拠はない。
(ウ) また、被告は、③原告自ら主体的に、平成二一年五月一八日に車検手続を行うなどして、その車検費用約一七万円を自ら負担すると共に、自動車損害賠償責任保険に原告名義で加入して、保険料二万二四七〇円も支払った旨主張するところ、前提事実のとおり、原告が、本件車両の車検手続を行ったり、自賠責保険に加入したり、それらの費用を支払ったりしたことは認められるが、本件証拠上、それらを原告が自ら主体的に行ったのか、Bに依頼されて同人の代わりに行ったにすぎないのか、或いは原告とBの話の中で結果的にそのように扱うことになったのか等は判然とせず、原告自ら主体的に行ったとまでは断定できない。
(エ) また、被告は、④原告自ら、同年五月二八日頃、本件車両につき、原告の自宅マンションの管理人に、その駐車場を車庫とする車庫証明の申請を依頼したり、駐車場使用申込書を提出したりした旨主張するが、証拠(甲九、一二、一四、乙一六、証人C、原告本人)によれば、原告の自宅マンションは、全五〇戸程あること、そのマンションの駐車場は、マンション居住者用一二台分及び来客用(一時使用用)二台分のみであること、居住者用一二台分は既に満車で空きはなかったこと、原告は、その内の一台分(一一番)を原告車両の駐車場として使用していたこと、居住者用駐車場に契約車両以外の自動車を駐車する際や来客用(一時使用用)駐車場を一時使用する際には、管理人に届け出ることになっていたこと、原告は、同年五月二八日頃、本件車両を原告車両の駐車場(一一番)に駐車するために、管理人に対し、口頭で、今週は本件車両を駐車すると届け出たことが認められ、本件証拠上、原告が、管理人に対し、本件車両のための車庫証明の申請を依頼したり、駐車場使用申込書を提出したりしたことを認めるに足りる証拠はない(なお、被告側の調査員である証人Dは、管理人に話を聞いて、管理人が原告から車庫証明の申請依頼を受けて警察署に申請したと理解した旨を供述するが、管理人である証人Cは、それを否定していることや、管理人が車庫証明の申請をするとは考えられないこと、そもそも客観的物理的に、原告マンションには本件車両を継続的に駐車しておくための駐車場はなかった(原告車両を契約車両とする一一番を本件車両を継続的に駐車しておくための駐車場にするという余地もないではないが、その場合は、原告車両を他に譲渡してしまうなり、原告車両を駐車する駐車場を別に用意するなりする必要があるところ、本件証拠上、原告がそのようなことをしていた様子は全く窺われない。)ことなどに照らせば、証人Dの上記供述内容は、種々の誤解に基づくものと考えるほかなく、信用できない。)。
(オ) また、被告は、⑤原告がa社の社印と印鑑カードを所持していたことからすれば、原告とBの間には金銭貸し借りの関係があり、Bが原告にそれらを預けざるを得ない力関係にあった旨主張するところ、証拠(乙九の一、一六)及び弁論の全趣旨によれば、平成二一年五月頃当時、原告が、a社の社印と印鑑カードを預かっていたこと認められるに止まり、本件証拠上、原告とBの間に金銭貸し借りの関係があり、Bがそれらを預けざるを得ない力関係にあったことまでは認められない(Bが韓国での事業等のために日本を離れることが多くなる状況において、事務所を事実上閉鎖していたものの会社自体を閉鎖したわけではないa社について、何らかの必要が生じる事態に備えて、信頼していた原告に社印等を預けておくということもあり得ると考えられるし、原告とBの間に金銭貸借関係があったことを認めるに足りる的確な証拠はないし、仮にある程度の金銭貸借関係があったとしても、事実上閉鎖状態にあるa社の社印や印鑑カードを預かることに、その返済や担保として有意の意味があるとは考えにくい。)。
(カ) そして、被告は、被告主張の①ないし⑤を前提として、⑥原告は、Bないしa社に対する経済的支配の一環として、本件車両を自由に使用するために、更には自己の所有とするために、自ら主体的に上記の車検手続や車庫証明申請等を行った旨主張するが、被告主張の①ないし⑤をそのまま認めることができないことは上記のとおりである。
原告は、仕事の都合上、本件車両を借りて使用したことが数回あったことや、本件車両は、リース料も滞納して車検も切れた状態にあった(ただし、原告は、それらを知らなかった。)こと、Bは、本件車両をそのまま使用していたこと、少なくとも当分の間、韓国での事業等のため日本を離れることが多くなる状況にあったこと、本件車両の車検手続等の少なくとも事実面を原告が行い、その費用も少なくとも一旦は原告が支払ったことなどに照らせば、Bが自ら本件車両の車検手続等を行うことにしたとは考えにくいものの、原告が、Bに対し、本件車両を今後も必要に応じて貸して欲しいと依頼し、これに対して、Bが、B側(a社やBの妻を含む。)で使用しない時に貸すことは構わないが、実は車検が切れているなどと伝え、その結果、原告の知り合いの自動車修理工場(cオート)で車検手続等を行い、とりあえずその費用は原告が出しておくことになったということも十分あり得ると考えられるのであり、必ずしも原告やBが、本件車両を原告の所有とすること(そのためには、高額の滞納リース料も支払わなければならないし、車庫証明も取得しなければならないが、本件証拠上、原告やBがbファイナンスと折衝しようとしたり、車庫証明を取得しようとしたりしていたとは認められない。)や、本件車両を原告が自由に使用すること(そのためには、原告の自宅付近に駐車場を確保するなどして本件車両を原告が何時でも使用できる状態にしておかなければならないが、本件証拠上、原告が本件車両のための駐車場を確保しようとしていたとは認められない。)まで意図していたとはいえない。結局、本件証拠上認められるのは、原告は、原告車両(トヨタ・レジアス)を所有して使用していたところ、仕事上などで、本件車両(ホンダ・エリシオン)の方が良く貸してもらいたい場合には、その都度Bの了承を得た上で、Bのマンションまで本件車両を貸してもらいに行って、使用後は同所に返しに行くことが念頭に置かれていたというところまでであり、その場合の使用頻度についても、弁論の全趣旨からは、せいぜい月に数回・数日程度と窺われるのみである(本件事故以前の原告による本件車両の使用実績はほとんどないところ、本件証拠上、原告が今後は本件車両を常時ないし頻繁に使用する予定であったことを認めるに足りる証拠はない。)。
(キ) したがって、本件車両が本件他車運転特約第二条ただし書の「被保険者(原告)が常時使用する自動車」に該当するとは認められないのであり、この点に関する被告の上記主張は採用できない。
ウ 小括
以上によれば、本件事故には本件他車運転特約の適用があり、被告は、本件他車運転特約に基づく保険金支払義務を負う。
(2) 本件事故による損害について
ア まず、証拠(甲一、乙三)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故により被害車両が損傷したこと、原告は被害車両の修理費用として一三五万円を支払ったこと、本件事故当時の被害車両の時価相当額は一〇七万九〇〇〇円であったことが認められる。したがって、本件事故と相当因果関係のある被害車両の損害は、一〇七万九〇〇〇円と認めるのが相当である。
イ また、証拠(甲二、三)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故により被害者が負傷(頚椎捻挫)したこと、原告は、その治療費として三万三三四〇円を支払ったことが認められる(なお、甲四の文書料二一〇〇円については、本件証拠上何のために必要となったのかが明らかでないので、本件事故と相当因果関係のある損害と認めることはできない。)。
ウ 以上によれば、本件事故による損害は、合計一一一万二三四〇円と認められる。
(3) 小括
よって、被告は、原告に対し、本件他車運転特約に基づく保険金として合計一一一万二三四〇円の支払義務がある。
二 不法行為に基づく損害賠償請求について
証拠(乙九の一及び二)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告やB、cオート、管理人らに対する事情聴取などの調査をした上で、本件事故に本件他車運転特約の適用はないと判断した結果、保険金支払を拒絶したことが認められるところ、前記のとおり、本件車両は、リース料滞納で車検も切れた状態にあったことや、その車検手続等の事実面を行ったのは原告であり、その費用も原告が負担していたなどの事情があったことに照らせば、被告が本件他車運転特約の適用はないと判断したことが、全く根拠を欠いた明らかに不合理なものであったとまではいえず、被告が保険金支払を拒絶したことに不法行為に該当するほどの違法性があるということはできないから、不法行為にはあたらない。
したがって、原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求は、その余の点を検討するまでもなく、理由がない。
三 結語
よって、原告の本件請求は、本件他車運転特約に基づく保険金として一一一万二三四〇円及びこれに対する訴状送達日の翌日である平成二一年一二月二六日から支払済みまで年五%の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、主文のとおり判決する。
(裁判官 田中俊行)