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大阪地方裁判所 平成21年(ワ)5392号 判決 2011年12月12日

原告

被告

Y1 他1名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、連帯して、六一六二万三六一八円及びこれに対する平成一七年二月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、交通事故による損害賠償を求める事案である。

一  前提事実

以下の事実は、当事者間に争いがないか、後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる。

(1)  交通事故の発生(甲二)

平成一七年二月一一日午後三時二〇分頃、大阪府門真市松葉町二先の片側三車線の道路(大阪中央環状線。以下「本件道路」という。)の第一車線において、原告運転の普通乗用自動車(以下「原告車」という。)が被告Y1運転・同Y2所有の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)に後続して直進走行中、先行する被告車の車体底部からスペアタイヤが落下し、後行していた原告車がそのスペアタイヤに衝突して乗り上げる交通事故が発生した(以下「本件事故」という。)。

(2)  被告らの責任原因

被告Y1は、被告車の車体底部に取り付けられていたスペアタイヤを走行中に落下させて本件事故を生じさせたものであり、車両整備義務違反ないし安全運転義務違反の過失があるから、本件事故により原告が被った損害について、民法七〇九条に基づく損害賠償責任を負う。また、被告Y2は、被告車の所有者であり運行共用者であるから、本件事故により原告が被った損害について、自賠法三条に基づく損害賠償責任を負う。

(3)  原告の通院治療(甲四ないし九)

原告は、本件事故後、頚部捻挫、腰部捻挫、右大腿部筋挫傷等の傷病名で、次のとおり通院治療を受けた。

南部医院 平成一七年二月一四日~同年五月九日(実通院六三日)

済生会吹田病院 同年三月九日~同月一〇日(実通院二日)

淳良会関目病院 同年五月一〇日~平成一八年一月三一日(実通院一九六日)

関西医大附属滝井病院 平成一七年一二月二八日~平成一八年二月二四日(実通院六日)

正和会協和病院 平成一八年二月六日~同年二月九日(実通院二日)

仁和会和田病院 同年二月三日~同年三月二二日(実通院二〇日)

(4)  原告の後遺障害(甲三、一〇ないし一三、二七ないし二九)

原告(当時三七才)は、平成一八年三月二二日、和田病院において、傷病名:頚椎・腰椎捻挫、右大腿部筋挫傷、自覚症状:右膝周囲の痛み・右膝~足先にしびれ感あり、長距離歩行・走ると痛み増強する、椅子等に座ると接触部に激しい圧痛あり、同じ姿勢で座ることや正座ができない、症状固定日:平成一八年三月二二日とする後遺障害診断を受けた。

原告は、同年七月二七日、茨木労働基準監督署長から、労災保険について、腰部の神経症状につき後遺障害等級一二級一二号、右足関節の機能障害につき同一二級七号、右第一趾の用廃につき同一二級一一号で、併合一一級該当と認定された。また、原告は、同年一二月四日、自賠責保険から、腰背部痛につき後遺障害等級一四級九号該当、その他の症状や機能障害は非該当と認定され、その後、異議申立をしたが、判断は変わらなかった。

二  原告の主張

(1)  本件事故状況等

原告車(三菱パジェロ)は、本件道路の第一車線を時速約六〇kmで走行し、先行する被告車との車間距離もかなり空いていて、完全に無防備な状態で運転していたところ、突然、被告車の車体底部からスペアタイヤが落下して転がってきて原告車の進路を塞ぐ形で横倒しに倒れたため、原告は、力一杯右足を踏み込んで急ブレーキをかけたが、原告車の右前輪がスペアタイヤの上に乗り上げ、原告車が高く跳ね上げられて片輪走行状態となった後、横転寸前まで跳ね上げられた状態から地上に落下したものであり、原告は、無防備な状態から突如として、腰・右下肢・左背部・首などが右下から左上に捻られながら跳ね上げられ、左上から右下に捻られながら叩き付けられるという二重の強い衝撃を受けた。

(2)  原告の受傷及び後遺障害

ア 原告は、上記のような強い衝撃の本件事故により、頚部捻挫、腰部捻挫、腰椎分離すべり症、右大腿部筋挫傷の傷害を負った。そのため、前提事実記載のとおり、通院治療を受け、平成一八年三月二二日に症状固定した。

なお、原告は、本件事故後から腰を中心として全身が痛み、重だるい状態だったところ、軽信してすぐに病院に行かなかったが、事故当日夜から痛みが悪化したため、翌土曜日と日曜日は自宅で安静にした後、月曜日である二月一四日に受診したものであり、受診当初から、首、背中、腰の痛みのほか、右下肢の痛みもあり、それらが一貫して続いていたものである。

また、右下肢の症状は、大腿部筋挫傷と腰椎分離すべり症が合併して出たものと考えられる。

イ 原告は、腰背部の神経症状のほか、右大腿部筋挫傷や右足関節の運動障害等のため右下肢に常に痛みと痺れが後遺し、そのため、歩行や立位の維持が困難で、座り続けることも困難で、長時間の立ち仕事や自動車運転は到底できずデスクワークすら満足に行えない。したがって、原告の後遺障害は、少なくとも「神経系統の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限される」状態にあり、自賠責保険の後遺障害等級九級一〇号に該当する。

(3)  原告の損害

原告は、本件事故により、以下の損害を被った。

ア 治療費 一二九万三一七〇円

イ 通院交通費 一〇万五三〇〇円

ウ 休業損害 七九七万五六八四円

原告は、本件事故当時、廃棄物処理業及びリサイクル業を行う会社で正社員として勤務し、本件事故前年には年収七二二万三六三四円を得ていたところ、本件事故により欠勤を余儀なくされ、平成一七年一一月二六日付で解雇され、症状固定後も再就職できないままであり、結局、平成一七年二月一四日から平成一八年三月二二日(症状固定日)まで四〇三日間休業を要した。

722万3634円÷365日×403日=797万5684円

エ 逸失利益 三八八六万四五九六円

722万3634円×0.35(労働能力喪失率9級)×15.372(症状固定時37才。労働能力喪失期間30年のライプニッツ係数)=3886万4596円

オ 通院慰謝料 一七一万六六七〇円

カ 後遺障害慰謝料 一五〇〇万円

少なくとも後遺障害等級九級であること、本件事故が被告の一方的過失によるものであること、症状固定後も通院を余儀なくされていること、原告が本件事故のため職場を解雇され、新たな職を見つけることができない状況に追いやられ、収入を絶たれて離婚を余儀なくされるなどしたことを考慮すれば、後遺障害慰謝料は一五〇〇万円が相当である。

キ 小計(以上合計) 六四九五万五四二〇円

ク 損害の填補 八九三万三九四九円

内訳:被告側(任意保険会社)から四六九万七五六七円

労災保険から三四八万六三八二円(障害一時金)

自賠責保険から七五万円

ケ 小計(キーク) 五六〇二万一四七一円

コ 弁護士費用 五六〇万二一四七円

サ 合計 六一六二万三六一八円

(4)  被告の抗弁について

ア 過失相殺について

原告は、車間距離をとって前方を注視して制限速度内で走行していたもので、スペアタイヤの落下から衝突までも数秒間で回避不可能であったものであり、原告に過失はなく、本件事故は、被告の一方的過失によるものである。

イ 示談契約について

否認する。原告は、被告側の申し入れを拒否した。

(5)  本件請求

よって、原告は、被告らに対し、上記損害六一六二万三六一八円及びこれに対する本件事故日である平成一七年二月一一日から支払済みまで民法所定の年五%の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  被告らの主張(認否反論)

(1)  請求原因(1)(本件事故状況等)について

ア 請求原因(1)は、不知ないし争う。本件事故は、原告車の右フロントフェンダー後部及び右サイドステップ部がスペアタイヤに乗り上げて右サイドから抜けたにすぎないものであり、本件事故による衝撃は軽微なものである。

イ 過失相殺

本件事故は、一般道路上における、先行被告車からの路上落下物(スペアタイヤ)と後続原告車との事故であり、原告にも車間距離不保持及び前方不注視の過失がある。原告の過失相殺率は五割を下らない。

(2)  請求原因(2)(原告の受傷及び後遺障害)について

請求原因(2)は、不知ないし争う。

ア 前記のとおり、本件事故の衝撃は軽微である。

原告は、本件事故当日は何ともなかったところ、三日目に左側頚部から左側腰部臀部の痛みを訴えたものであり、これは頚部捻挫・腰部捻挫の症状として理解できる。他方、原告は、本件事故から一三日後に従前とは全く別部位の右大腿部の疼痛を訴えたものであるが、これが本件事故によるものであることを示す他覚所見はない。また、原告は、本件事故から約一年後に右膝痛を訴えたものであるが、これが本件事故によるものであることを示す他覚所見もない。したがって、本件事故による受傷といい得るのは、頚椎捻挫・腰椎捻挫だけである。

そして、その症状固定時期は、関目病院で症状固定の診断を受けた平成一七年一〇月三一日か、関西医大病院での検査終了時の平成一八年一月末である。

イ 原告の腰背部の神経症状は、それを裏付ける他覚的所見がないが、本件事故による腰椎捻挫の症状として受傷当初より一貫して持続しているものとして、後遺障害一四級九号に該当し得るに止まる。

他方、右下肢の神経症状については、本件事故により右大腿部を受傷したとは捉えられないし、腰部にも右下肢の症状を裏付ける所見はないから、右下肢の神経症状は本件事故による後遺障害ではない。右下肢の機能障害についても同様であり、本件事故による後遺障害ではない。

(3)  請求原因(3)(原告の損害)について

請求原因(3)のうち、損益相殺額が八九三万三九四九円であることは認めるが、その余は不知ないし争う。

前記のとおり、本件事故による受傷といい得るのは頚椎捻挫・腰椎捻挫のみであり、後遺障害といい得るのも腰背部の神経症状(後遺障害一四級)のみであり、症状固定時期は遅くとも平成一八年一月末であるから、治療費・通院交通費は平成一八年一月末までのもの、休業損害は受傷後一か月は完全休業でその後症状固定までは平均休業率一〇%、傷害慰謝料は一〇〇万円、後遺障害逸失利益の労働能力喪失率は五%・喪失期間は二年、後遺障害慰謝料は一一〇万円に限られる。

(4)  示談契約

原告と被告側任意保険会社担当者は、平成一七年一〇月三一日、傷害分につき既払金を除き一八八万六二八三円を支払うとの合意(示談契約)をした。

第三当裁判所の判断

一  本件事故状況等について

(1)  まず、証拠(甲二)によれば、被告Y1は、平成一七年二月一八日に行われた本件事故の現場見分に際して、警察に対し、別紙図面の②の時に後部で音がした旨、③の時にタイヤと原告車がfile_3.jpgで衝突したのを発見し、危険を感じてブレーキをかけた旨、被告車は④で停止し、原告車はfile_4.jpgで停止した旨を説明したことが認められるところ、その説明内容に不自然不合理な点はなく(自車の車体底部からスペアタイヤが落下すれば、当然後部でその音がするであろうし、後部で音がすれば直ぐにバックミラー等で後ろの様子を確認するであろうし、後ろで事故になったことが分かれば直ぐにブレーキを踏んで停止するというのは、全く通常の自然な動作である。)、十分信用し得る。

(2)  他方、原告本人は、本件道路の鉄道を越えるバイパスの登り坂を時速約六〇kmで走行中、先行する被告車とは約七〇m空いていたところ、被告車の車両底部からスペアタイヤが落下して、原告車の方に向かって、当初は右に転がり次に左に転がって来て、原告車の右前方で倒れたため、驚いて急ブレーキをかけたが、ほぼ同時に原告車がスペアタイヤに乗り上げ、車体右側が高く跳ね上げられて、横倒しになりそうな片輪走行状態になり、続けて、地上に落下して、二重の強い衝撃を受けた旨を供述する。

しかし、原告は、原告にも前方不注視の過失があったとの被告側の主張に対する反論として、当初は、上記見分状況書に基づいて原告車の直前でスペアタイヤが落下したことを前提に、本件事故は回避不能である旨も主張していたものである。また、時速約六〇km程度で走行していた被告車からスペアタイヤが落下してそのまま横倒しにならずに転がったのであれば、慣性により当初は前方に転がり、その後、徐々に転がる速度がゆるくなって一旦停止した後、今度は本件事故現場の傾斜に沿って後方にゆっくりと転がり出すものと推認されることや、原告車の速度が時速約六〇km(秒速約一六・六七m)で車間距離が約七〇mであれば、スペアタイヤが落下してから衝突するまで距離にして少なくとも約七〇m前後、時間にして少なくとも約四秒程度あることに照らせば、上記のように後方にゆっくりと転がり出した後に転倒したスペアタイヤをハンドル及びブレーキ操作で回避することは比較的容易であると考えられるのであり、約七〇mも前方で落下したスペアタイヤの動きを注視していながらこれを回避できずに衝突するとは考えにくい。さらに、落下したスペアタイヤが、原告車の方に向かって転がって来たというのは想定し難いし、一旦右に転がり、次に左に転がるという動きをしたというのも容易には想定しにくいものである。したがって、本件事故状況に関する原告本人の上記供述は、信用できない。

また、証拠(乙九)によれば、本件事故により原告車の右側サイドステップに損傷(凹損)が生じたことが認められるところ、この損傷は、原告車がスペアタイヤに衝突して乗り上げた直後に、右サイドステップ部分がそのスペアタイヤの上に落下して衝突した際にできたものと考えるのが合理的である(原告車の右前輪がスペアタイヤに乗り上げて横倒しになりそうな片輪走行状態になったのであれば、右サイドステップはスペアタイヤの上を通過することになると考えられる。)ことや、本件証拠上、原告車に上記損傷の他に大きな損傷が生じた様子は見受けられないことなどに照らせば、本件事故で原告車が横倒しになりそうな片輪走行状態になった旨の原告本人の上記供述も、信用できない。

(3)  以上によれば、本件事故は、原告車が本件道路の被告車の後方約一五m程度を時速約六〇km程度で走行していたところ、突然、被告車の車体底部からスペアタイヤが落下したため、原告車がこれを回避できず衝突したものと認めるのが相当であり、本件事故は基本的には被告車側の車両整備義務違反ないし安全運転義務違反の過失によって生じたものといえるが、原告車の側にも車間距離保持義務違反の過失があったといわざるを得ない。本件事故の過失割合(責任割合)は、原告車:被告車=二:八とみるのが相当である。

二  原告の受傷及び後遺障害について

原告は、本件事故により、頚部捻挫、腰部捻挫、腰椎分離すべり症、右大腿部筋挫傷の傷害を負い、腰背部の神経症状のほか、右下肢に痛みや痺れも後遺し、歩行や立位の維持が困難で、座り続けることも困難で、長時間の立ち仕事や自動車運転は到底できずデスクワークすら満足に行えない状態になった旨主張するので、以下検討する。

(1)  治療経過等の概要

前提事実に加え、後掲各証拠、証拠(甲二六、原告本人。ただし、後記認定に反する部分を除く。)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

ア 本件事故前

原告は、本件事故当時、廃棄物処理業及びリサイクル業を行う会社に勤務し、四トントラックで、運転手を交替しつつ、一つのごみ収集場所での収集が終わると次の場所まで走って行き、車を誘導してゴミを車に投げ入れることを繰り返すというゴミ収集作業を、午前五時から午後四時まで日々行っていた。なお、本件事故前には、原告には、腰背部痛や右下肢痛などの症状はなかった。

イ 南部医院の受診(乙二、三)

(ア) 原告は、平成一七年二月一一日の本件事故後、原告車を運転してそのまま帰宅し、週明けの同月一四日に南部医院を受診して、同月一一日に本件事故に遭い、その当時は何ともなかったが、左側頚部から左側腰部臀部まで痛みが走る旨を訴えた。そして、頚椎及び腰椎のレントゲン検査を受けたが、頚椎に異常はなく、腰椎(L五)に脊椎分離症が認められるが本件事故で生じたものかは不明と診断され、頚部捻挫・腰部捻挫と診断された。

(イ) その後、原告は、会社に出勤して就業しつつ、同病院に通院して治療を受け、同月二四日に受診した際に、腰痛のほか右下肢(右大腿部)痛も訴えたところ、右大腿部後側筋緊張著明と診断され、仕事をしていて悪化して来ているため休業するようにと指示された。(なお、被告は、同病院においてこの休業指示がされたのは同月二六日である旨主張するが、診療録上、同記載は同月二四日の特記事項を記載する欄に記載されていることに照らせば、同指示は同月二四日にされたものと認めるのが相当である。)

(ウ) 原告は、同病院から紹介されて同年三月九日及び一〇日に吹田病院を受診して、MRI検査を受けたところ、腰椎(L五/S一)につき、椎間板の変性もあり硬膜鞘を圧排しており、両側の椎間孔の狭小化もみられるが、その他には異常はないと所見されて、椎間すべり症の疑いと診断された。

(エ) 原告は、その後も南部医院に通院して、治療(消炎鎮痛理学療法)を受けたところ、頚部痛は次第に軽快してきたが、腰部から右下肢の疼痛・しびれ感にはほとんど変化がなく、背部痛もあった。

ウ 関目病院(甲一五、乙二、七)

(ア) 原告は、平成一七年五月九日まで南部医院に通院した後、自らの判断で、同月一〇日に関目病院を受診して、同年二月一一日に本件事故に遭い、それ以来、右大腿部(後部)に痛みがある旨を訴えたところ、右大腿ハムストリング挫傷と診断された。

(イ) その後、原告は、同病院に通院して、右下肢痛及び腰背部痛についてリハビリ治療(理学療法等の対症療法)を受けた。なお、同病院の医師は、原告に対して、休業の指示はしなかった。

(ウ) その後、原告は、被告側保険会社から治療費の支払を打ち切ると言われたため、同年一〇月二〇日頃に南部医院を訪れて関目病院宛の診療情報提供書を書いてもらい、関目病院において後遺障害診断書を作成してもらった。その診断書には、受傷日時:平成一七年二月一一日、傷病名:頚部・腰部捻挫、右大腿二頭筋挫傷、症状固定日:同年一〇月三一日、既存障害:腰椎すべり症、自覚症状:頚部痛・腰痛、検査結果等:腰椎につき、右下肢痛・腰背部痛、MRI上すべり症を認め神経の圧迫を認め、右下腿~足尖しびれ感あり、右膝部につき屈伸とも筋力低下を認めるなどと記載されていた。

(エ) 原告は、その後も平成一八年一月三一日まで同病院に通院して、リハビリ治療等を受けた。

エ 関西医大病院(乙四の一及び二)

(ア) 原告は、関目病院で平成一七年一二月二一日付けの関西医大病院宛の紹介状を書いてもらい、同月二八日に関西医大病院を受診して、同年二月一一日に本件事故に遭い、翌日、腰背部痛・右下肢痛・頚部痛があった旨、南部医院でリハビリを受け、頚部痛は軽減したが、右下肢痛は悪化した旨、同年五月一〇日から関目病院を受診し、背部痛は軽減したが、右下肢痛は変わらない旨、同年一〇月末に後遺障害診断が出た旨を説明し、症状の改善が得られないので種々の検査を受けたい旨を述べた。同病院の医師は、愁訴内容は腰椎根を中心とした疼痛であり、下肢全体の筋力低下があり、画像では腰椎(L五)に分離症があるが硬膜管の明らかな圧迫はないと診断した上、種々の検査を行うことにした。

(イ) その後、原告は、同病院に通院し、上半身の痛さはなくなったが下半身の痛み、右下肢の痛みがある旨を訴えて、諸検査を受けるなどし、同病院の医師は、平成一八年一月三一日までに、座位をとるのも困難な右下肢痛があるが、神経学的には明らかな脱落症状は認められない、右下肢筋力の低下を認めるが、筋萎縮は明らかでなく、筋電図では下肢筋の神経原性変化は認められない、サーモグラフィーで膝関節部に皮膚温の右での低下を認めるが、臨床的意義は不明(何らかの疾患を直接意味するものではない。)で、下肢の血流は問題ない、レントゲンで腰椎(L五)の分離症を認めるが、現在の症状を説明するほどの所見はない、MRIで腰椎(L五/S)の椎間板の変性を認めるが、脊柱管の狭窄はなく、椎間孔狭窄もなさそうであると診断した。そして、原告に対し、症状固定時期が来ている旨を告げて、関目病院へ帰ることを勧めたが、原告は、他院での今しばらくの理学療法を希望した。

オ 和田病院(甲三、乙五、六)

(ア) 原告は、同年二月三日に和田病院を受診して、右膝痛を訴えた。そして、同病院からの紹介で同月六日及び九日に協和病院を受診して、右膝及び右大腿のMRI検査を受け、右膝につき特記すべき異常所見はない旨、右大腿につき大腿二頭筋を含めて骨格筋に挫傷を疑う所見はなく正常範囲内である旨の診断を受けた。

(イ) 原告は、その後も和田病院に通院して理学療法等の治療を受け、同年三月二二日に、腰椎のCT検査を受けたところ、腰椎(L三/L四、L四/L五、L五/S一)の椎間板の軽度膨隆と黄色靱帯の石灰化により、硬膜鞘が圧迫され、狭くなっている旨や、神経根(L五/S一)も椎間板膨隆により圧迫され、両側で狭くなって見える旨の診断を受けた。そして、同病院において、後遺障害診断書を作成してもらった。その診断書には、受傷日時:平成一七年二月一一日、傷病名:頚椎・腰椎捻挫、右大腿部筋挫傷、症状固定日:平成一八年三月二二日、自覚症状:右膝周囲に痛み・右膝~足先にしびれ感あり、長距離歩行・走ると痛み増強する、椅子等に座ると接触部に激しい圧痛あり、同じ姿勢で座ることや正座ができない、検査結果等:受傷後症状が継続している、サーモグラフィーで右膝関節に皮膚温の低下を認める、レントゲンで腰椎(L五)の分離症を認める、CTで脊柱管の狭窄を認める、膝以下の知覚鈍麻・右下肢の筋力低下がみられる、右膝・右足・右第一趾に関節機能障害(可動域制限)があるなどと記載されていた。

カ その後の受診(甲一八)

(ア) 原告は、その後も和田病院に通院して治療を受けた後、平成二〇年五月から御所クリニックに通院して、仙骨ブロック注射など右下肢の神経症状に対する治療を受けた。

(イ) 原告は、御所東クリニックでMRI検査を受けたところ、腰椎(L五/S一)の椎間板変性と若干の膨張性変化に伴い軽度の左右神経孔狭小化が認められると診断された。

キ 腰椎分離症ないし分離すべり症

一般的な医学文献(「腰椎変性疾患・基本知識とチェックポイント」株式会社メディカルビュー社発行・六二~七七頁、「標準整形外科学第一〇版」株式会社医学書院発行・四七六頁など)によれば、腰椎分離症ないし分離すべり症に関する一般的知見として、分離症の成因は椎骨の関節間部への繰り返し負荷にあるとされ、根性疼痛を呈することはまれであるとされ、加齢による椎間板変性が進み椎間板高が減じると椎間孔部分で神経根障害が生じることは少なくないとされ、分離症が分離すべり症に進展する頻度は明確ではないとされ、分離すべり症では、成人とくに中年以降では下肢症状の発現頻度が高くなるとされ、下肢症状は、椎間孔の変形や狭窄による腰部神経根の圧迫によって生じるとされ、障害される神経根はすべり椎と同一高位の神経根であるとされ、X線写真では、分離の部位や方向によっては斜位像で分離が明らかでないことがあるので注意を要するとされ、MRIでは、スライス厚が厚いために分離部での神経根圧迫が明瞭に示せない場合もあるとされ、日常生活動作や労働に大きな支障を与える腰痛や下肢症状がある場合は手術療法の適応とされ、L三/L四、L四/L五、L五/S一の神経根の支配領域は下肢部(膝上大腿筋付近から足先付近)とされていることが認められる。

(2)  頚部捻挫・腰部捻挫について

前記認定事実、特に、原告は、平成一七年二月一一日の本件事故直後は何ともなかったものの、週明けの同月一四日に南部医院を受診して、左側頚部から左側腰部臀部まで痛みが走る旨を訴え、頚部捻挫・腰部捻挫と診断されたことや、本件証拠上、上記診断を疑うべき事情は見当たらないことに照らせば、原告は、本件事故により頚部捻挫・腰部捻挫の傷害を負ったものと認められる。

(3)  右大腿部筋挫傷について

前記認定事実によれば、原告が本件事故後から受診していた南部医院では、原告の右下肢痛は頚部・腰部捻挫に由来する症状と捉えていたものと推認できる。そして、右大腿筋挫傷との診断は、関目病院において、本件事故後から右大腿部痛がある旨の原告の申告に基づいてされたものである。

しかし、原告が右大腿部痛を明確に訴えたのは平成一七年二月二四日であって本件事故から一三日経過後であり、事故後から右大腿部痛が有意の症状として同じように継続していたものとは認められない。この点につき、原告本人も、日が経つにつれ右下肢の痛みがだんだん酷くなったため同月二四日頃に南部医院でも訴えた旨を供述するところ、その供述内容は、南部医院の診療録の記載内容(仕事をしていて悪化してきているため休業を指示した旨の記載)とも整合しており、十分信用できる(ただし、原告本人は、本件事故後、会社に出勤していたものの社内の事務所で休んでいて仕事はしていない旨も供述するが、何日間も会社に出勤しながら社内で休むというのは不自然である(仕事ができない状態なら会社を休むのが通常である。)ことや、南部医院での休業指示の内容からすれば、原告自身が右下肢痛が仕事をしていて悪化してきた旨の説明をしたものと推認できることに照らし、上記供述は信用できない。)。したがって、原告の右下肢痛は、本件事故後にはとりたてて訴えるほどの症状ではなかったところ、次第に悪化していったものと認めるのが相当である。そうすると、原告の右下肢痛の症状経過は、原告が本件事故で右大腿部筋挫傷の傷害を負ったこととは、整合しないといわざるを得ない(大腿部筋挫傷の傷害を負ったのであれば、その直後が最も痛みが大きく、時間が経過するにつれて痛みが軽減していくのが通常と考えられるところ、原告の症状経過はその逆である。)。

また、原告が訴えていた右下肢痛が、右大腿部筋挫傷によるものであれば、治療と共に症状が軽減していくはずであると考えられるところ、平成一八年二月に協和病院で大腿部のMRI検査も受けた結果、筋挫傷を疑う所見はなく、正常範囲内であると診断された(すなわち、右大腿部筋挫傷がもともとなかったか、あったとしても既に治癒していたといえる。)にもかかわらず、尚も右下肢痛があったことは、原告の右下肢痛は右大腿部筋挫傷によるものではないことを示しているといえる。

したがって、原告が本件事故により右大腿部筋挫傷の傷害を負ったとは認められない。

(4)  腰椎分離症ないし分離すべり症について

前記認定事実によれば、原告に腰椎分離症ないし分離すべり症があることが認められるところ、南部医院の医師は本件事故により生じたものかは不明であると診断し、関目病院の医師は既往症と診断していることに加え、証拠(甲一八)によれば、御所東クリニックの医師も、既往症である可能性が高いと判断していることが認められることや、本件証拠上、原告の腰椎分離症ないし分離すべり症が外傷性のものであることを窺わせるような証拠は全くないことに照らせば、原告の腰椎分離症ないし分離すべり症は既往症であり、本件事故前には有症状化していなかったにすぎないものと認めるのが相当である。

したがって、原告が本件事故により腰椎分離症ないし分離すべり症の傷害を負ったとは認められない。

(5)  原告の後遺障害について

原告は、本件事故の後遺障害として、腰背部の神経症状のほか右下肢の痛みや痺れが残存したもので、後遺障害等級九級一〇号に該当する旨を主張し、原告本人も同旨の供述をする。

ア しかし、前記認定事実によれば、原告が腰背部痛を訴えて治療を受けていたのは、主として南部医院と関目病院においてであり、その結果、腰背部痛は軽減したこと、その後は専ら右下肢痛(右膝痛を含む。)を訴えてその治療を受けていたこと、その後、和田病院において平成一八年三月二二日に症状固定の診断を受けたが、そこで把握されているのも右下肢(右膝を含む。)の症状のみで、腰背部の神経症状については全く触れられていないことなどに照らせば、原告に有意の症状のある後遺障害として、腰背部の神経症状が残存したとは認め難い。したがって、腰に激しい痛みがある旨の原告本人の供述は、それを裏付ける証拠がなく、たやすく信用できないから、本件事故の後遺障害として腰背部の神経症状が残存した旨の原告の上記主張は、採用できない。

イ 他方、前記認定事実によれば、原告の右下肢痛などの右下肢の症状については、本件事故後から一貫して継続している(前述のとおり、本件事故直後には特に訴えるほどの有意のものではなかったものの症状としてはあったところ、仕事をしていて病院で訴えるほどに悪化し、その後、大きな変化なく残存している。)ものと認められる。

(ア) そして、原告は、右下肢の症状について、右大腿部筋挫傷と腰椎分離すべり症が合併して出たものと考えられる旨主張するが、原告が本件事故により右大腿部筋挫傷の傷害を負ったとは認められないことや、腰椎分離症ないし分離すべり症が既往症であることは、前記のとおりであり、原告の上記主張をそのまま採用することはできない。

(イ) しかし、証拠(甲一八)によれば、原告側から意見を求められた御所東クリニックの医師は、本件事故により既往症の腰椎分離すべり症が悪化し、新たな神経症状を発生させたとの意見を述べていることが認められるところ、この意見は、前記認定事実記載の原告の症状経過や各検査結果等とも整合した合理的なものといえる。

すなわち、原告には、もともと腰椎分離症ないし分離すべり症があったものの有症状化していなかったところ、本件事故を契機に右下肢痛などの症状が現れ、それがゴミ収集の仕事をする中で悪化して病院の受診治療を要するようになり、以後、種々の治療にもかかわらず大きな変化がないまま、右下肢の強い痛みなどの症状が残存しているところ、その症状経過は、単なる腰椎捻挫による症状の残存固定症状とみるよりも(単なる腰椎捻挫による症状の残存固定症状であれば、事故後の症状が最も強く、その後は治療により一定の改善をみるものの、それ以上の改善を得られずに固定するという経過を辿ることが多いと考えられるところ、原告の症状経過はこれと異なる。)、既往の腰椎分離症ないし分離すべり症が本件事故を契機に発症(有症状化)し、さらにゴミ収集作業という仕事による繰り返し負荷が加わって悪化して、症状が改善することなく固定したものとみる方が整合的である。また、原告の診察・検査・治療等を実際に行った病院のほとんどで、MRIやCT検査の結果、原告の腰椎について、右下肢に強い神経症状を生じさせ得る検査所見がされている(前記認定のとおり、吹田病院では、硬膜鞘の圧排があり両側椎間孔の狭小化もあると所見され、関目病院では、神経の圧迫があると所見され、和田病院では、硬膜鞘の圧迫があり神経根の圧迫もあり両側で狭くなって見えると所見され、御所東クリニックでは、軽度の左右神経孔狭小化があると所見されている。なお、関西医大病院では、原告の腰椎について、強い神経症状を生じさせ得る検査所見はされていないが、その所見は「椎間孔狭窄もなさそう」とするものにすぎず、狭窄がないと明確に診断しているわけではないことや、前記のとおり画像によっては明らかにならないこともあることからすれば、上記の各病院のほぼ一致した検査所見を否定するものとはいえない。また、証拠(乙八)によれば、被告側から意見を求められた医師は、原告の画像資料に特記すべき所見は見られないとの意見を述べていることが認められるが、同医師は原告の検査等を直接行ったわけではないことや、その意見において上記各病院のほぼ一致した検査所見を否定すべき合理的な理由の説明がないことに照らせば、同意見をそのまま採用することはできない。)。さらに、本件事故状況は前記のとおりであり、原告が主張するほどに強度の衝撃があったものとは認められないものの、また、原告は本件事故発生の瞬間を認識していたもので全く無防備であったとは考え難いものの、スペアタイヤに乗り上げるなどしたもので相当の衝撃があったことは容易に推認できるのであり、本件事故を契機に原告の腰椎分離症ないし分離すべり症が有症状化したとみることは、本件事故状況とも整合しているといえる。

(ウ) ただし、原告の右下肢の症状の程度について、原告は、歩行や立位の維持が困難で、座り続けることも困難で、長時間の立ち仕事や自動車運転は到底できずデスクワークすら満足に行えないような重篤なものである旨主張し、和田病院作成の後遺障害診断書の自覚症状欄にも同様の記載があるが、前記認定事実によれば、原告の腰椎の椎間孔の狭窄等は軽度のものといえること、いずれの病院においても手術適応とはされていないこと、原告は、本件訴訟の尋問期日に自ら出頭し、一般通常人と同じように証言席に座って応対できたこと(当裁判所に顕著な事実)などに照らせば、原告本人の上記愁訴は誇大なものと考えざるを得ない。前記のとおり、原告の右下肢には強い神経症状があるとはいえるが、それが原告が主張するほどに重篤なものであるとまでは認められない。

(エ) したがって、原告の右下肢痛などの右下肢の症状は、既往症の腰椎分離症ないし分離すべり症が、本件事故を契機に有症状化し、それがゴミ収集という相当の負荷が繰り返しかかる仕事をする中で悪化し、その後大きな変化がないまま症状が残存したものと認めるのが相当であり、その症状固定時期は、和田病院において症状固定の診断を受けた平成一八年三月二二日と認めるのが相当であり、自賠責保険の後遺障害等級としては一二級一三号(局部に頑固な神経症状を残すもの)に該当すると認めるのが相当である。なお、和田病院作成の後遺障害診断書には、原告の右下肢の症状として右膝・右足・右第一趾の関節機能障害(可動域制限)がある旨も記載されているが、本件証拠上、本件事故により原告の右膝・右足・右第一趾に器質的損傷が生じたことを窺わせる証拠はないから、それらの機能障害は、右下肢の神経症状に由来するもの(右下肢痛等の派生症状)と認めるのが相当である。

また、前記のとおり、原告の右下肢の症状の発症悪化は、本件事故を契機としたものではあるものの、原告の既往症(腰椎分離症ないし分離すべり症)や原告の仕事による負荷が影響していることや、本件事故後の悪化前の症状は、病院でとりたてて訴えるほどのものではなかったことを考え併せれば、原告の右下肢の症状の発症悪化に対する本件事故の寄与は三割とみるのが相当である。

ウ 以上の認定判断に照らし、原告の後遺障害等級九級該当との上記主張は採用できないし、労災保険による併合一一級該当との判断や自賠責保険による一四級該当との判断も採用できない。

三  原告の損害

(1)  治療費について

証拠(甲四ないし九、一五)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、本件事故後から症状固定日である平成一八年三月二二日までの治療費として合計一二九万三一七〇円を要したことが認められる。ところで、その治療費には、本件事故による頚部捻挫・腰部捻挫の症状のためのものと、本件事故の寄与が三割である腰椎分離症ないし分離すべり症による右下肢の症状のためのものとが含まれているところ、本件証拠上、それぞれの治療費を明確に区分することはできないから、民事訴訟法二四八条の趣旨に鑑みて、本件事故と相当因果関係のある治療費は八五万円と認めるのが相当である。

(2)  通院交通費について

弁論の全趣旨によれば、上記通院の交通費(ガソリン代)として合計一〇万五三〇〇円を要したことが認められるところ、上記同様に、本件事故と相当因果関係のある通院交通費は七万円と認めるのが相当である

(3)  休業損害について

前記認定事実に加え、証拠(甲一六、一七)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、会社に勤めてゴミ収集の仕事をして本件事故前年には年収七二二万三六三四円を得ていたこと、本件事故後も平成一七年二月二四日までは就業していたものの、右下肢痛が悪化したため同月二六日から欠勤し、その後解雇され、結局、症状固定日である平成一八年三月二二日まで三九〇日間休業したことが認められる。そして、その休業は、本件事故の寄与が三割である右下肢痛の悪化が原因といえるから、本件事故と相当因果関係のある休業損害は、以下のとおり合計二三一万五五二一円と認めるのが相当である。

722万3634円÷365日×390日×0.3=231万5521円

(4)  逸失利益について

前記認定によれば、本件事故の寄与が三割である右下肢痛の後遺障害による逸失利益は、基礎収入七二二万三六三四円、労働能力喪失率一四%(後遺障害等級一二級該当)、労働能力喪失期間三〇年(症状固定時三七才。ライプニッツ係数一五・三七二)として計算するのが相当であり、本件事故と相当因果関係の逸失利益は、以下のとおり合計四六六万三七五一円と認めるのが相当である。

722万3634円×0.14×15.372×0.3=466万3751円

(5)  通院慰謝料

本件事故による原告の受傷内容や治療内容(右下肢の症状については本件事故の寄与が三割であることを含む。)、通院期間などに照らせば、本件事故と相当因果関係のある通院慰謝料は、一〇〇万円とするのが相当である。

(6)  後遺障害慰謝料

原告の後遺障害の内容程度(本件事故の寄与は三割であることを含む。)や、症状固定後も通院していたことなど(なお、原告は、職場を解雇され、新たな職を見つけることができない旨や、離婚を余儀なくされた旨なども主張するが、それらは通常のこととはいえない。)に照らせば、本件事故と相当因果関係のある後遺障害慰謝料は、一〇〇万円とするのが相当である。

(7)  小計

以上によれば、本件事故と相当因果関係のある原告の損害は、合計九八九万九二七九円となる。

(8)  過失相殺

前記のとおり、本件事故の過失割合は原告:被告=二:八であるので、上記損害合計から二割を相殺控除すると、七九一万九四一七円となる。

(9)  損害の填補

原告が損害の填補として合計八九三万三九四九円を受領したことは、当事者間に争いがない。そうすると、損害の填補後の原告の損害は、〇となる。

四  結語

よって、原告の本件請求は理由がないから、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中俊行)

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