大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成21年(行ウ)111号 判決 2010年9月09日

主文

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第2事案の概要

本件は、区分所有建物の専有部分として登記された駐車場部分の区分所有者である原告が、同駐車場部分について固定資産課税台帳に登録された平成18年度の価格が適正な時価を上回る違法なものであるとして、処分行政庁に対し審査の申出をしたところ、これを棄却する決定を受けたため、主位的請求として、同決定のうち原告が適正な時価と主張する価格を上回る部分の取消しを求め、予備的請求として、同決定全部の取消しを求めている事案である。

1  関係法令等の定め

(1)  家屋の評価に関する地方税法(以下「法」という。)の規定等

ア  固定資産税は、固定資産に対し、その所有者に課する地方税であり(法342条、343条1項)、住家、店舗、工場、倉庫その他の建物(以下「家屋」という。)に対して課する基準年度の課税標準は、当該家屋の基準年度に係る賦課期日における価格、すなわち「適正な時価」で家屋課税台帳等に登録されたもの(以下、この登録された価格を「登録価格」という。)である(法349条1項、341条3号、5号)。

イ  登録価格の決定に際しての固定資産の評価については、総務大臣が、評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を定め、告示しなければならないものとされており(法388条1項)、これを受けて、固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号。以下「評価基準」という。)が告示されている。市町村長は、評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならず(法403条1項)、これを決定したときは直ちに固定資産課税台帳に登録しなければならない(法411条1項)。

ウ  区分所有に係る家屋の固定資産税については、区分所有者は、当該家屋に係る固定資産税額を当該区分所有者全員の共有に属する共用部分に係る建物の区分所有等に関する法律(以下「区分所有法」という。)14条1項から3項までの規定による割合(中略)によってあん分した額を、当該各区分所有者の当該家屋に係る固定資産税として納付する義務を負うものとされている(法352条1項)。

エ  区分所有建物に係る共用部分の持分の割合に関して定めた区分所有法14条は、その1項から3項までにおいて、各共有者の持分は、その有する専有部分の割合による(1項)、その場合において、一部共用部分(附属の建物であるものを除く。)で床面積を有するものがあるときは、その一部共用部分の床面積は、これを共用すべき各区分所有者の専有部分の床面積の割合により配分して、それぞれの区分所有者の専有部分の床面積に算入するものとする(2項)、上記の床面積は、壁その他の区画の内側線で囲まれた部分の水平投影面積による(3項)と規定している。

(2)  評価基準の定め(乙1、弁論の全趣旨)

ア  評価の方法

家屋の評価は、木造家屋及び非木造家屋の区分に従い、各個の家屋について評点数を付設し、当該評点数に評点1点当たりの価額を乗じて各個の家屋の価額を求める方法による(評価基準第2章第1節一)。

イ  評点数の算出方法

非木造家屋の評点数は、当該非木造家屋の再建築費評点数を基礎とし、これに損耗の状況による減点補正率を乗じて付設して、次の算式によって求めるものとし、当該非木造家屋について需給事情による減点を行う必要があると認めるときは、当該非木造家屋の評点数は、次の算式によって求めた評点数に需給事情による減点補正率を乗じて求めるものとする(評価基準第2章第3節一1)。

〔算式〕評点数=再建築費評点数×経過年数に応ずる減点補正率

ウ  再建築費評点数の算出方法

再建築費評点数の算出方法には、部分別による算出方法及び比準による算出方法がある(評価基準第2章第3節一2)ところ、このうち、部分別による算出方法によって再建築費評点数を求める場合は、当該非木造家屋の構造の区分に応じ、当該非木造家屋について適用すべき非木造家屋評点基準表によって求めるものとし、この場合においては、各個の非木造家屋の構造の区分に応じ、当該非木造家屋に適用すべき非木造家屋評点基準表によって当該非木造家屋の各部分別に標準評点数を求め、これに補正項目について定められている補正係数を乗じて得た数値に計算単位の数値を乗じて算出した部分別再建築費評点数を合計して求めるものとする(評価基準第2章第3節二)。

エ  損耗の状況による減点補正率の算出方法

非木造家屋の損耗の状況による減点補正率は、経過年数に応ずる減点補正率によるものとする。ただし、天災、火災その他の事由により当該非木造家屋の状況からみて経過年数に応ずる減点補正率によることが適当でないと認められる場合においては、損耗の程度に応ずる減点補正率によるものとする。(評価基準第2章第3節五)

オ  評点1点当たりの価額に係る経過措置

平成18年度から平成20年度までの各年度における家屋の評価に限り、評点1点当たりの価額は、1円に「物価水準による補正率」と「設計管理費等による補正率」とを相乗した率を乗じて得た額(小数点以下二位未満は切り捨てるものとする。)を基礎として市町村長が定めるものとされており、非木造家屋の大阪市における評点1点当たりの価額は、1.10円とされている(評価基準第2章第4節)。

2  前提事実((1)のア、ウ、(2)の各事実はいずれも当事者間に争いがない。)

(1)  固定資産の概要

ア  別紙物件目録記載の建物部分(鉄骨鉄筋コンクリート造5階建の駐車場。以下「本件立体駐車場」という。)は、平成17年に建築された、住宅、店舗及び駐車場の用途に供されている鉄骨鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付28階建の区分所有建物(名称「aビル」。以下「本件区分所有建物」という。)の一部であり、専有部分として登記されている。

イ  本件区分所有建物内の各階の配置等の概略は以下のとおりである(乙14)。

(ア) 地下1階には、店舗と店舗・駐車場用の電気室・ポンプ室等、住宅用の駐輪場と電気室・ポンプ室等が配置されている。

(イ) 1階には、店舗と店舗用の荷さばき所、3階の駐車場に通じる車両用のスロープ、住宅用のエントランスホール等が配置されている。

(ウ) 2階には、店舗と店舗用の空調室等、3階の駐車場と1階とを結ぶ車両用のスロープが配置されている。

(エ) 3階から5階までには、いずれも駐車場、上下階に通じる車両用のスロープ等が配置されており、各階には68台(3階)、78台(4階)、118台(5階・2段機械式)の駐車スペースが設けられている。

(オ) 6階には、北西側に店舗用の集会室と店舗・駐車場用の機械室が、東側に住宅と住宅用の共用部分が、それぞれ配置されている。また、店舗・駐車場用の建物部分と住宅等の建物部分との間の空間には屋上庭園が設置されている。

(カ) 7階から28階までは、いずれも住宅と住宅用の共用設備が設けられている。なお、これらの各階の床面積は、6階(上記(オ))の住宅等の建物部分の床面積とおおむね同じであり、1階から5階までの各階の床面積の3分の1弱程度の広さである(別紙物件目録参照)。

(キ) 以上のほか、北西角には地下1階から6階まで通じるエレベーター2基(以下「本件エレベーター」という。)、南東部には地下1階から3階まで通じるエレベーター2基、北東部に1階から28階まで通じるエレベーター3基(いずれも1階で住宅用エントランスホールと接続し、うち2基は地下1階の住宅用駐輪場部分にも通じている。)が、それぞれ設置されている。

ウ  原告は、店舗の賃貸、青果物、水産物、加工水産物、海藻類及び乾物類の販売等、駐車場の経営等を目的とする株式会社であり、本件立体駐車場の区分所有者である。

(2)  大阪市長による固定資産課税台帳への登録等

ア  大阪市長は、本件立体駐車場の平成18年度の価格を9億9178万8000円と決定し、固定資産課税台帳に登録した。

イ  原告は、平成18年6月6日、処分行政庁に対し、本件立体駐車場の平成18年度の登録価格について審査申出をしたところ、大阪市長が平成19年12月12日に法417条1項の規定に基づき上記価格を7億1009万2000円と修正したことから(以下、修正後の上記価格を「本件登録価格」という。)、処分行政庁は、上記審査申出に係る価格が消滅し、申出の基礎が失われたとして、平成20年1月18日付けで、上記審査申出を却下する決定をした。

ウ  原告は、平成20年2月8日、処分行政庁に対し、本件登録価格について審査申出をしたところ、処分行政庁は、同年12月16日付けで、原告の審査申出を棄却する決定をし、同決定は同月26日に原告に到達した。

(3)  本件訴えの提起

原告は、平成21年6月26日、本件訴えを提起した(顕著な事実)。

3  被告の主張する本件登録価格の根拠

(1)  再建築費評点数の算出

本件立体駐車場については、部分別による再建築費評点数の算出方法に基づき、次のとおり、平成18年度1.0m2当たりの再建築費評点数を算出した。

ア  本件区分所有建物の各専有部分等ごとの再建築費評点数

本件立体駐車場を含む本件区分所有建物は、住宅、店舗及び駐車場から構成されており、①住宅の専有に係る部分(住宅専有)、②共用部分のうち住宅部分に限って共用されている部分(住宅共用)、③店舗の専有に係る部分(店舗専有)、④共用部分のうち店舗部分に限って共用されている部分(店舗共用)、⑤駐車場の専有に係る部分(駐車場専有)、⑥共用部分のうち駐車場及び店舗に限り共用されている部分(施設共用)、⑦住宅、店舗及び駐車場の全部について共用されている部分(全体共用)並びに⑧主体構造部や基礎等全体において共通する部分(共通部分)に区分することができる(以下(別紙1及び2を含む。)、上記①から⑧までを、それぞれ「住宅専有」、「住宅共用」、「店舗専有」、「店舗共用」、「駐車場専有」、「施設共用」、「全体共用」及び「共通部分」という。)ところ、上記各専有部分においては仕上部分及び附帯設備の程度等に著しい差違がみられることから、各区分所有者の協議により作成された「別図第1 専有部分と共有部分等の位置と範囲」(乙14)により本件区分所有建物を上記①から⑧までに区分した上、上記各部分ごとに家屋再建築費評点数算出表(乙2)のとおり評価した。

各部分ごとの1.0m2当たり再建築費評点数は、別紙1のとおりである。

イ  本件区分所有建物のうち駐車場(本件立体駐車場)の再建築費評点数

本件区分所有建物の住宅、店舗、駐車場の各用途別課税床面積は、専有部分の床面積の割合により(一部共用部分の床面積は、これを共用する各区分所有者の専有部分の床面積の割合により配分し、それぞれの区分所有者の専有部分の床面積に算入する。)、各共用部分の床面積を各専有部分に配分して算出している。これによれば、別紙2のとおり、駐車場に関しては、共通部分を除く用途別1.0m2当たり再建築費評点数は19,919点(①)、共通部分の用途別1.0m2当たり再建築費評点数は45,716点(②)となり、駐車場に係る用途別1.0m2当たり再建築費評点数は、上記①と②を合算した65,600点(100点未満切捨て)となる。

(2)  損耗の状況による減点補正率の算出

本件立体駐車場は平成17年3月31日に建築された新築家屋であることから、損耗の状況による減点補正率のうち経過年数に応ずる減点補正率(評価基準第2章第3節五。以下「経年減点補正率」という。)については、鉄骨鉄筋コンクリート造の車庫用建物で経過年数1年として、0.9822を適用した(評価基準別表第13、7(1)参照)。

(3)  本件立体駐車場の評価額

本件立体駐車場の評価額は、1.0m2当たりの再建築費評点数である65,600点に経年減点補正率0.9822を乗じ、これに各用途別課税床面積10,018.86m2を乗じ、さらに評点1点当たりの価額である1.10円(評価基準第2章第4節二)を乗じることにより、別紙2のとおり、710,092,000円(1000円未満切捨て)と算出した。

4  本件の争点及びこれに関する当事者の主張

本件の争点は、本件立体駐車場に係る平成18年度の登録価格(本件登録価格)は「適正な時価」を超えるものか(本件立体駐車場の「適正な時価」はいくらか)であり、争点に関する当事者の主張は、以下のとおりである。

(1)  原告の主張

ア  全体の評価において収益還元法を適用しないことについて

(ア) 評価基準にのっとって算定される価格をもって当該家屋の「適正な時価」であると推認するためには、当該算定された価格が当該家屋の賦課期日における客観的な交換価値を上回っていないことを要するというべきである。

ところで、国土交通省の定める不動産鑑定評価基準によれば、建物の鑑定評価額は、積算価格、配分法に基づく比準価格及び建物残余法による収益価格を関連づけて決定するものとされており、再建築価格を基礎として評価する方式(いわゆる再建築価格方式)のみが「適正な時価」を反映するものであるとはいえない。したがって、固定資産税に係る家屋の評価においても、再建築価格方式のみによるのでなく、収益価格を重視すべきであり、特に、営業の用に供する家屋の評価については、収益還元法を適用すべきである。

(イ) 原告は、本件立体駐車場の所有権を価格4億8000万円で取得した。また、不動産鑑定士Aの鑑定(以下「A鑑定」という。)によれば、本件立体駐車場の収益還元価格は4億6500万円とされており、本件立体駐車場の「適正な時価」は、その収益還元価格4億6500万円を最も重視して決定されるべきである。さらに、本件立体駐車場の収入が減少の一途をたどっていることにかんがみると、再建築価格法によった場合の結論は著しく不当である。仮に収益以外の他の要素を考慮に入れるとしても、評価額が取得価格4億8000万円を超えることはないというべきである。

百歩譲って再建築価格方式による評価額と収益還元方式による評価額とを対等に(1対1の割合で)評価するとしても、A鑑定によれば、評価額は5億8200万円となるのであり、いずれにせよ被告の7億1009万2000円という評価は法外な高額であって取消しを免れない。

(ウ) 被告は、評価基準が定める評価方法によっては適切に算定することができない「特別の事情」の存しない限り、評価基準に従って決定した評価額が「適正な時価」であると推認されると主張するが、仮にそうした見解に立つとしても、上で述べたような事情を考慮すれば、本件においては上記「特別の事情」があるというべきである。

イ  再建築価格の評価の誤りについて

被告の行った再建築価格の評価には、以下の誤り等がある。

(ア) 本件立体駐車場の自動車管制装置、照明器具、拡声器設備等は駐車場営業に供することが明らかであり、「家屋の建築設備の評価上の取扱いについて」(平成12年1月28日付け自治評第5号。以下「取扱通知」という。)にいう「家屋の効用を高めるもの」には該当せず、建築設備に含めるべきではない。にもかかわらず、本件においては、これを建築設備に含めて評価がされている。

(イ) 消耗品が建築設備に含まれている疑いがある。

(ウ) 拡声器配線設備及び空調設備(個別分散方式パッケージシステム(冷房関係))については、全体共用の中にも同様の項目があり、二重計上されている疑いがある。

(エ) テレビ共同視聴設備が全体共用に含まれているが、駐車場にはテレビ受像器がなく、その設置も予定されていないことからすれば、テレビ共同視聴設備が全体共用に含まれていることは不合理である。

(オ) 本件立体駐車場を評価するに当たって被告が使用した標準評点数は、平成16年1月の東京都(特別区の区域)における建築物価を基に設定されているが、平成16年1月から賦課期日までの間に建築物価は下落していること、東京都特別区と大阪市とでは建築物価水準が異なることにかんがみると、評価基準によったのでは賦課期日における本件立体駐車場の価格を適切に算定することはできない。

(カ) 再建築価格方式では飽くまで当該家屋の歴史的原価が示されるにとどまり、評価時点までの間に価格のずれが生じることは避けられないから、「適正な時価」を算定するためにはこの点につき適切な補正が必要であるが、評価基準による原価補正は極めて不十分である。

(キ) 本件登録価格に基づく原告の固定資産税の負担は過大であり、「需給事情による減点補正」(評価基準第2章第3節六)を適切に適用して、妥当な結論を導くべきである。

ウ  各専有部分への配分について

被告による本件立体駐車場の評価方法は、法に定める方法とは異なり、各用途(住宅、店舗、駐車場)別の1m2当たりの再建築評点数を求め、これに各用途別課税床面積を乗じ、さらに各用途別経年減点補正率と評価点数(1.10点)を乗じて各用途の評価額を算出している。そして、各用途別課税床面積を求めるに当たっては、複数の用途によって共用されている施設共用、全体共用の部分についても、単純に各用途の専有部分(同一用途内の共用部分(住宅共用、店舗共用等)を含む。)の床面積であん分する方法によっている。しかしながら、その前提となった専有部分の認定には、以下のとおり、登記上の分類や管理区分をそのまま鵜呑みにし、実際の利用状況を考慮しない誤りがあるし、単純に床面積で対等にあん分している点も不合理である。

(ア) 本件区分所有建物は、市場とその周辺地域の再開発を目的とし、住宅・都市整備公団(現在の独立行政法人都市再生機構)の参加も得て、池田町地区第1種市街地再開発事業として建築されたものである。そして、本件区分所有建物に本件立体駐車場が設けられたのも、かつての周辺地域の路上駐車を軽減し、交通環境を改善することを一つの目的とし、また、住宅戸数に応じた駐車場の付置が義務付けられる都市再生機構の要請を受けて設けられたものであり、現実の利用者も店舗利用者及び住宅居住者がほとんどを占めると想定されていたことからすれば、本件立体駐車場は、店舗や住宅のための部分としての性格を有しているといえる。さらに、駐車場専有の1.0m2当たりの再建築評点数が住宅専有及び店舗専有のそれを大きく下回ることからすれば、本件立体駐車場の評価に当たり、駐車場を店舗や住宅と対等のものとみた上で共通部分や共用部分を設定し、これを単純に床面積で対等にあん分するという算定方法を採ることはそれ自体不合理である。

(イ) 上記のような利用実態に照らせば、駐車場の駐車スペース以外の通行路部分については、駐車場専有ではなく、全体共用に区分すべきであり、また、本件エレベーターは住宅居住者においても使用されているから、駐車場及び店舗に限って共用されている(施設共用)のではなく、住宅も含めて共用されている(全体共用)ものとすべきところ、本件登録価格は、これらの点においても誤りがある。

(ウ) 法352条1項は、区分所有家屋の固定資産税について、当該家屋に係る固定資産税額を当該区分所有者全員の共有に属する共用部分に係る区分所有法14条1項から3項までの規定による割合によってあん分した額を、当該各区分所有者の当該家屋に係る固定資産税として納付する義務を負う旨規定し、あん分の方法について区分所有法の規定を引用しているところ、同法14条2項が「一部共用部分・・で床面積を有するものがあるときは、その一部共用部分の床面積は、これを共用すべき各区分所有者の専有部分の割合により配分して、それぞれその区分所有者の専有部分の床面積に算入するものとする。」と規定していることの趣旨は、専有部分によるあん分計算をする前の問題として、当該部分を共用すべき区分所有者が誰であるかという点を吟味することを求めたものと解される。そして、このことは、原告の上記各主張にも合致しているというべきである。

(2)  被告の主張

ア  評価基準によれば、家屋の評価方法は、再建築価格を基礎として評価する再建築価格方式によることとされている(評価基準第2章第1節一)ところ、評価基準に定める評価方法は、一般的な合理性があるということができるから、評価基準が定める評価方法によっては適切に算定することができない特別の事情の存しない限り、評価基準に従って決定した評価額は「適正な時価」(法341条5号)であると推認される。大阪市長は、前記3のとおり、評価基準に従って本件立体駐車場を評価しており、その評価額は「適正な時価」であるというべきである。

イ  原告は、不動産鑑定評価基準においては、積算価格、配分法に基づく比準価格及び建物残余法による収益価格を関連づけて決定するものとされていることを挙げ、再建築価格方式のみが「適正な時価」を反映するものではないとして、同方式のみにより家屋の評価を行うべきでなく、収益価格を重視した評価を行うべきであると主張する。

しかしながら、固定資産税は、固定資産の所有者に対し、その価格を課税標準として課されるものであるから、その性質は、資産の価値に着目し、その所有という事実に担税力を認めて課する財産税であって、個々の資産の収益性にかかわらず課せられるものである。固定資産税のこのような性格からすれば、家屋の評価方法として再建築価格方式は最もふさわしいものであり、原告の主張は失当である。

原告は、本件立体駐車場は収益建物であるが、その収入は減少の一途をたどっているから、再建築価格法によると著しく不当な結論を招くとも主張するが、固定資産税の性格は上記のとおりであり、収益性を考慮すべきものとはされておらず、また、仮に収益建物についてのみ収益性を考慮することとすれば、課税の不公平が著しくなり妥当でない。

ウ  以上を前提として本件立体駐車場を評価すると、前記3のとおり、7億1009万2000円となり、同額が本件立体駐車場の「適正な時価」というべきである。

エ  再建築価格法によることを前提とした上で被告の評価の誤り又は各専有部分への配分の誤りについていう原告のその余の主張は、いずれも争う。

第3争点に対する判断

1  全体の評価において収益還元法を適用しなかったことの適否について

(1)  法349条1項は、基準年度の固定資産税の課税標準について、当該固定資産の基準年度に係る賦課期日における価格で土地又は家屋についての課税台帳(又は補充課税台帳)に登録されたものとすると定め、さらに、法341条5号は、そこでいう価格は適正な時価をいうと規定する。

固定資産税は、固定資産(土地、家屋、償却資産)を課税客体とする税であって、固定資産の所有者に対し、その価格を課税標準として課するものであり、その性質は、資産の価値に着目し、その所有という事実に担税力を認めて課する財産税であって、個々の固定資産の収益性の有無にかかわらず、課せられるものである(最高裁判所昭和47年1月25日第三小法廷判決・民集26巻1号1頁、同裁判所昭和59年12月7日第二小法廷判決・民集38巻12号1287頁、同裁判所平成15年6月26日第一小法廷判決・民集57巻6号723頁参照)。

そうすると、家屋の「適正な時価」とは、正常な条件の下に成立する当該家屋の取引価格、すなわち、客観的な交換価値をいうものと解される。

(2)  そこで、次に、家屋の客観的な交換価値をどのようにして把握すべきかについて検討する。

法403条は、市町村長は、原則として法388条1項の固定資産評価基準によって固定資産の価格を決定しなければならないと定めているところ、同項は、総務大臣は固定資産の評価の基準並びに評価の実施の方法及び手続を定め、これを告示しなければならないことを規定し、さらに、同条は、総務大臣が固定資産評価基準を定めるに当たっては、地方財政審議会の意見を聴かねばならないこと(2項)、総務大臣は、市町村長に対し、市町村の固定資産評価員が固定資産の評価をするために必要な評価の手引その他の資料を作成し、評価が著しく困難な固定資産の評価について市町村長から助言を求められたときはこれを与えるなどの技術的援助を与えなければならないこと(4項)等を規定しているが、これらの規定の趣旨は、全国一律の統一的な評価基準による評価によって、各市町村間の評価の均衡を図り、評価に関与する者の個人差に基づく評価の不均衡を解消することにあると解される。

そして、法388条1項に基づいて定められた評価基準は、前記(第2の1(2))のとおり、家屋の評価につき、木造家屋及び木造家屋以外の区分に従い、各個の家屋について評点数を付設し、当該評点数を評点1点当たりの価額に乗じて各個の家屋の価額を求める方法によるものとし、各個の家屋の評点数は、適用すべき家屋評点基準表に基づいて算出された当該家屋の再建築費評点数を基礎とし、これに当該家屋の損耗の状況による減点等を行って付設するなど、再建築価格法による評価方法を定めている。

再建築価格法は、評価の対象となった家屋と全く同一のものを、評価時点にその場所に建築するものとした場合に必要とされる(再)建築費を求めた上、当該家屋の時の経過によって生ずる損耗の状況による減価等をして評価時点の現状に適合するよう調整するものであるところ、家屋の評価方法には、このような方法以外に、取得原価を基準として評価する方法、賃料等の収益を基準として評価する方法、売買実例価格を基準として評価する方法等が考えられる。

しかしながら、再建築価格法以外の評価方法において、その出発点となる現実の取得原価、実際の賃料、売買実例価格等は、当事者の思惑やその時点における経済力等の主観的事情、個別的事情による影響を受けやすく、偏差の発生を免れ難いという難点が存在するのに対し、再建築価格法は、その具体的算定方式が比較的簡明である上、家屋の資産としての客観的価格を算出するものとして基本的・普遍的なものと考えられるから、上記のような偏差を生ずることはなく、より客観性を有する評価が可能になるものと解される。そうすると、家屋の価格の評価方法としての再建築価格法は、財産税としての性格を有する固定資産税の課税標準の算出方法に最もふさわしいものというべきである。

したがって、家屋の価格の評価につき再建築価格法を内容とする評価基準は一般的な合理性を有しているというべきであるから、評価基準が定める評価の方法によっては再建築費を適切に算定できない特別の事情又は評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情がない限り、評価基準に従って計算した登録価格は適正な時価であると推認すべきである(最高裁判所平成15年7月18第二小法廷判決・裁判集民事210号283頁参照)。

(3)  この点について、原告は、①評価基準にのっとって算定される家屋の価格をもって「適正な時価」であると推認することができるためには、当該算定された価格が、当該家屋の賦課期日における客観的な交換価値を上回っていないことが必要である、②国土交通省の定める不動産鑑定評価基準によれば、建物の鑑定評価額は、積算価格、配分法に基づく比準価格及び建物残余法による収益価格を関連づけて決定するものとするとされており、再建築価格方式のみが「適正な時価」を反映するものであるという考え方は採られていない、③本件立体駐車場のような営業の用に供する建物の評価については、収益還元法を適用しなければ不当な結論をもたらすなどと主張する。

しかしながら、家屋に対する固定資産税が家屋の資産価値に着目してその所有という事実に担税力を認めて課する財産税の性格を有することは、前記(1)のとおりであるところ、法は、居住用建物と収益を目的とする商業用建物を区別していないのであるから、その評価方法は両者について妥当するものであることを予定しているといえる。そして、居住用建物において標準的収益額を算出することは困難であること、収益還元法は、その具体的利用状況によって大きな格差が生じ得る評価方法である上、将来の収益力を正確に予測することは困難であること、標準的収益額によってこれを算出するとしても、どのような使用形態が標準的かについても偏差が入り込む可能性が大きいこと、そのため、評価担当者の主観が入り込みやすく、不公平な課税がされる危険性があることを考慮すれば、商業用建物についてもその他の建物と同様に評価基準に従って評価するのが相当である。

原告は、本件区分所有建物の建築や本件立体駐車場の設置の具体的経緯を指摘して、評価基準が定める評価方法によっては適切に算定することができない特別の事情が存在するとも主張するが、課税の公平等、評価基準が再建築価格法を採用している理由に照らせば、原告の主張するような事情をもって評価基準が定める評価方法を不適切とするだけの特別の事情に当たるということはできない。

原告は、本件立体駐車場からの収益が減少してきていること等を指摘して、本件において収益還元法を適用しないことは、収益に比して過大な固定資産税の負担をもたらし、著しく不当な結果を招くとも主張するが、実際の収益の多寡は多種多様な条件によって変動し得るものであるから、これと固定資産税の負担との比較をもって固定資産の評価額の不当性を根拠付けることはできないというべきであり、収益還元法を適用・考慮しないことの違法にもつながらないというべきである。

(4)  よって、本件立体駐車場に対して収益還元法を適用すべき旨をいう原告の主張はいずれも採用できない。

2  再建築価格法によった場合の評価の誤りの有無について

(1)  建築設備等について

ア  原告は、本件立体駐車場の自動車管制装置、照明器具、拡声器設備等は駐車場営業に供するものであることが明らかであり、取扱通知にいう「家屋の効用を高めるもの」に該当せず、建築設備に含めるべきではない旨主張する。

しかしながら、証拠(乙6から8まで)によれば、取扱通知においては「家屋の評価に当たり家屋に含めて評価するものとする建築設備は、『家屋の所有者が所有するもの」で、「家屋に取り付けられ、家屋と構造上一体となって」、「家屋の効用を高めるもの」であることを要する」とされていること、取扱通知は、従前の通知である「家屋の建築設備の評価上の取扱いについて」(昭和38年6月8日付け自治丁固発評第60号。以下「旧取扱通知」という。)を廃止し、これに代わるものとして発出されたこと、旧取扱通知においては、自動車管制装置、照明器具、拡声器設備がいずれも家屋に含めて評価するものとする建築設備に該当することを前提とした定めがされていたこと、取扱通知が旧取扱通知のうち上記の定めの考え方を実質的に変更する趣旨を明示していないこと、以上の事実を認めることができる。

そうすると、本件立体駐車場の自動車管制装置、照明器具、拡声器設備を本件立体駐車場の建築設備に含めて評価したことに誤りはないというべきである。

イ  原告は、消耗品が建築設備に含まれているのではないかと指摘する。

しかしながら、本件立体駐車場の建築設備については、標準評点数によって評価されているところ、証拠(乙9)によれば、標準評点数にはそもそも電球等の消耗品は含まれないものとして取り扱われているというのであるから、原告の上記指摘には理由がない。

ウ  原告は、拡声器配線設備及び空調設備(個別分散方式パッケージシステム(冷房関係))について、全体共用の中にも同様の項目があることから、二重計上ではないかと指摘する。

しかしながら、全体共用に含まれる本件区分所有建物2階の防災センターと仮眠室には、拡声器配線設備及び空調設備(個別分散方式パッケージシステム(冷房関係))が設置されている(乙2、14、弁論の全趣旨)ところ、本件区分所有建物に係る「家屋再建築費評点数算出表」をみても、上記空調設備に対応する設備が駐車場専有の積算根拠に加えられているとの記載は見当たらない。また、拡声器配線設備については、同一の評点項目・標準評点数のものが駐車場専有の積算根拠に加えられているが、被告の採用した本件区分所有建物の評価においては、積算して得られた1.0m2当たりの評点数を、全体共用、駐車場専有の床面積に乗じることによって、それぞれの評価額を算出するという関係にあるものであるから、全体共用、駐車場専有それぞれに拡声器配線設備がある限り、両者に同じ項目が掲げられていたとしても、原告の指摘するような二重計上の問題が生じる余地はない。

エ  原告は、テレビ共同視聴設備が全体共用に含まれている点をとらえ、本件立体駐車場にはテレビ受像器がなく、その設置も予定されていないことからすれば、上記の点は不合理であると主張する。

しかしながら、アンテナ配線等を含むテレビ共同視聴設備の構造や機能にかんがみると、これを全体共用部分に含めて評価したことが誤りであるとまでいえず、これを不合理ということもできない。

(2)  被告が使用した標準評点数について

原告は、本件立体駐車場を評価するに当たって被告が使用した標準評点数が平成16年1月の東京都(特別区の区域)における建築物価を基に設定されていることについて、平成16年1月から賦課期日までの間に建築物価は下落していること、東京都特別区と大阪市とでは建築物価水準が異なることを述べ、評価基準によっては賦課期日における本件立体駐車場の価格は算定できない旨主張する。

確かに、評価基準は、標準評点数を平成16年1月の東京都(特別区の区域)における資材費及び労務費に基づいて積算している(乙10)ところ、証拠(甲5から7まで)によれば、平成16年から平成18年にかけて、公共工事設計労務単価は下落傾向にある事実、関東地方の同単価は近畿地方のそれを上回っている事実が認められる。しかし、これを具体的にみると、地方ブロック別の全職種平均単価のうち、近畿地方のものは平成17年度で前年比1.3%減、平成18年度で前年比増減なしなどとされており、また、平成18年度における関東地方の全職種平均単価は近畿地方のそれの103.1%に相当するものとされている。これらの数値からすれば、標準評点数に時点又は地域的な物価水準による修正を加えなければ再建築費を適切に算定できない特別の事情があるとまでは認められない。

(3)  時点修正が適切にされていないことについて

原告は、再建築価格方式は飽くまで歴史的原価を示すにとどまり、評価時点までの間にずれが生じることは避けられないとして、「適正な時価」を算定するためにはこの点につき適切な補正が必要であり、これを欠く評価基準による原価補正は極めて不十分である旨主張している。

しかしながら、評価基準が定める再建築価格方式は、評価の対象となった家屋と同一のものを、評価の時点において、その場所に新築するものとした場合に必要とされる建築費を求め、当該再建築費に当該家屋の時の経過によって生じる損耗の状況による減価を考慮するものとされているから、原告の主張は理由がない。

原告は、評価基準における損耗の状況による減価補正率が法人税法における減価償却費累計額と比較して低く設定されているとも指摘するが、法人税や所得税における減価償却費は、固定資産の取得に要した金額が将来の経費であることから、必要経費としての取得価額を取得の年度に一括して計上するのでなく、使用又は時間の経過により徐々に費用化されるという性格のものであるのに対し、評価基準における経年減点補正率は、評価基準が再建築価格方式を採用し、当該家屋の再建築費に、時の経過によって生ずる損耗の状況による減価を行うために、通常の維持管理を行うものとした場合において、その年数の経過に応じて通常生ずる減価を基礎として定められたものであり、両者はその性格を異にするから、両者を単純に比較することによってする批判は当を得ないというべきである。

(4)  需給事情による減点補正が適切にされていないことについて

原告は、本件登録価格に基づく原告の固定資産税の負担は過大であり、「需給事情による減点補正」(評価基準第2章第3節六)を適切に適用して、妥当な結論を導くべきであると主張する。

しかしながら、評価基準第2章第3節六によれば、需給事情による減点補正とは、建築様式が著しく旧式となっている非木造家屋、所在地域の状況によりその価額が減少すると認められる非木造家屋等を対象としてされるものであるところ、本件区分所有建物が平成17年建築の地下1階付き28階建の駐車場、店舗兼住宅であることは前記前提事実(第2の2)(1)アのとおりである。また、上記でいうところの「所在地域の状況による価額の減少」とは、一般に、不良住宅地域、低湿地域、環境不良地域その他当該地域の事情により当該地域に所在する家屋の価額が減少すると認められる地域に所在する家屋や、交通の便否、人口密度、宅地価格の状況等を総合的に考慮した場合において、当該地域に所在する家屋の価額が減少すると認められる地域に所在する家屋について認められるものとされている(平成18年度固定資産評価基準解説家屋篇・乙15)ところ、本件区分所有建物の所在地は、大阪市北区の店舗やマンションが建ち並ぶ地域であり、JR大阪環状線天満駅や大阪市地下鉄堺筋線扇町駅にも至近である(甲4)ことから、ここでいう「所在地域の状況による価額の減少」の場合に当たるとみることは困難である。

そうすると、評価基準の定める需給事情による減点補正を行うべきである旨をいう原告の主張には理由がない。

3  各専有部分への配分の適否について

(1)  本件区分所有建物内の各階の配置等の概略は、前記前提事実(第2の2)(1)イのとおりである。

(2)  原告は、池田町地区第1種市街地再開発事業が、かつての周辺地域の路上駐車を軽減し、交通環境を改善することを一つの目的としてされたものであること、本件立体駐車場は住宅戸数に応じた駐車場の付置が義務付けられる都市再生機構の要請を受けて設けられたものであること、現実の利用者も店舗利用者及び住宅居住者がほとんどを占めると想定されていたことから、本件立体駐車場は、店舗や住宅のための部分としての性格を有しているとし、駐車場部分を店舗や住宅と対等のものとして共通部分、共用部分を設定することや共用部分を単純に床面積であん分することは不合理であると主張する。

しかしながら、区分所有法によれば、専有部分とは区分所有権の目的たる建物部分をいい、独立して所有権の目的となり得るものであるところ、本件立体駐車場は構造及びその機能からみて専有部分に該当し、登記上もそのようにされている。一方、共用部分とは専有部分以外の建物の部分等をいい、区分所有者全員の共有に属することとされ、各区分所有者がその用法に従って使用することができるものであって、本件立体駐車場の区分所有者である原告は、共用部分を共有し、その用法に従って使用することができるものである。

そして、固定資産の所有者等、その権利が帰属する者に固定資産税を課税するものとしており、区分所有建物にあっては、区分所有者にその共有部分の持分割合(区分所有法14条に規定する算定方法からみて、それが各区分所有者の有する専有部分及び共有部分を併せた区分所有建物全体に対する実質的な持分割合を反映したものであることは明らかである。)に課税するものとしているとおり、法は、区分所有法の規定によって定まる専有部分、共用部分の別、その他の権利の帰属に従って固定資産税を課税することを予定しているのであるから、固定資産税の課税の場面において、区分所有法の規定に基づかない方法により共用部分を設定すべきとの原告の主張は採用できない。

原告の主張は、本件立体駐車場を利用するのはほとんどが店舗利用者や住宅居住者であることから、本件立体駐車場が店舗や住宅の共用部分としての性格を併せ持っているものとし、その点を固定資産の評価、各区分所有者間への配分にも反映すべきであるとするものと理解できる。しかし、本件立体駐車場の利用者は、とりもなおさず独立した専有部分である本件立体駐車場を利用してその便益を享受しているものであって、それらの者がたまたま店舗利用者や住宅居住者であるからといって、区分所有法上、専有部分である本件立体駐車場を共用部分的なものと位置付けたり、あるいは、駐車場と店舗との一部共用部分(施設共用)とすべきものを、住宅を含めた全体の共用部分(全体共用)と位置付けたりすることは予定されていないというほかなく、固定資産税の課税の場面でもこれを同様に解すべきことは上で述べたとおりである。原告の主張は、要するに、固定資産税の負担をその利用者に応益的に分担させるとした場合に、最終的に誰に転嫁してどのような割合で負担させるのが相当であるかを論じているにすぎず、固定資産税の課税要件である権利の帰属とは直接関係のない事柄を議論するものであって失当である。

(3)  原告は、本件登録価格の決定の前提となった専有部分の認定に関し、駐車場の通行路部分(前記(1)の各階に設置された駐車スペース以外の車両が通行する部分)については、駐車場専有ではなく、全体共用とすべきである旨主張する。

しかしながら、専有部分とは、1棟の建物において構造上区分された数個の部分で、独立して住居、店舗、事務所又は倉庫その他の建物としての用途に供することのできるものをいい、区分所有権の目的となり得るものであるところ、本件立体駐車場は本件区分所有建物のうち駐車場として構造上区分され、登記上も専有部分の建物とされており、駐車場の通行部分の床面積も、登記上、本件立体駐車場の床面積に含まれ、区分所有権の目的となっていることは明らかである。したがって、上記通路部分を使用・通行しなければ、本件立体駐車場以外の専有部分である住宅や店舗への出入りができないなど、構造上専有部分となり得ない部分を専有部分として扱い、その旨登記されたというのであればともかく、そうでない以上、上記通路部分についても本件立体駐車場の区分所有者である原告がその区分所有権に基づき使用、収益及び処分をすることが可能であるから、この部分は専有部分である本件立体駐車場の一部とみることに何ら支障はないものである。

また、原告は、地下1階から6階まで続いているエレベーター2基(本件エレベーター)については、住宅居住者も使用していることから、駐車場と店舗だけでなく住宅も含めた全体共用とすべきである旨主張する。

しかしながら、証拠(乙14)によれば、本件エレベーターは店舗及び駐車場部分のみと接続しており、地下1階の住宅用の駐輪場や1階の住宅用のエントランスホール等とも離れた位置にあること、住宅部分のある6階から28階までに通じたエレベーター3基が北東部分に別途設置されていることが認められ、その位置関係に照らすと、本件エレベーターは店舗及び駐車場部分のみの共用に供されることが明らかであって、区分所有法上の一部共用部分(同法3条)に当たり、これを全体共用とせず、施設共用としたことに誤りがあるとは認められない。住宅居住者が本件立体駐車場を利用する際、本件エレベーターを利用するとしても、そのことによって、上記判断が左右されるものでないことは前記(2)で述べたところから明らかである(本件立体駐車場や店舗部分の利用と無関係に、住宅居住者が本件エレベーターを通常使用しているとは、証拠上認め難い。)。

したがって、原告の上記各主張はいずれも理由がない。

4  結論

よって、原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉田徹 裁判官 小林康彦 金森陽介)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例