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大阪地方裁判所 平成21年(行ウ)43号 判決 2011年1月13日

主文

1  本件訴えのうち、国土交通大臣及び大阪府知事が被告社団法人大阪府宅地建物取引業協会及び同社団法人全国宅地建物取引業保証協会に対し入会希望者に対して不動産政治連盟への加入を強制しないよう指導することの義務付けを求める訴えを却下する。

2  原告のその余の訴えに係る請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第3判断

1  認定事実

前記前提事実等(第2の1)に加え、証拠(原告代表者本人尋問の結果のほか各項に掲記したもの)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の各事実が認められる。

(1)  被告国又は被告大阪府による全宅連又は被告府協会に対する指導の経緯等

ア  都道府県知事は、前記前提事実等(2)アのとおり、都道府県宅建業協会に対し、宅地建物取引業の適正な運営を確保し、又は宅地建物取引業の健全な発達を図るため、必要な事項に関して報告を求め、又は必要な指導、助言及び勧告をすることができるとされており、大阪府知事は、平成11年当時大阪府下において、被告府協会がその入会希望者に対し府政治連盟への加入を求めている実態があったことを踏まえ、同年4月、被告府協会に対しその是正を求める旨の指導を行った(甲11)。

イ  国土交通大臣は、前記前提事実等(2)アのとおり、全宅連に対し、宅地建物取引業の適正な運営を確保し、又は宅地建物取引業の健全な発達を図るため、必要な事項に関して報告を求め、又は必要な指導、助言及び勧告をすることができるとされており、平成13年8月、国土交通省総合政策局不動産業課長(以下「担当課長」という。)から全宅連会長宛ての通知を発出し、公益法人である宅地建物取引業協会と政治団体である不動産政治連盟とを明確に仕分ける必要があるとして、会員である各宅地建物取引業協会に対してその旨指導を行うよう求めた(乙2)。

また、国土交通大臣は、都道府県宅建業協会を直接指導監督する立場にはないものの、都道府県宅建業協会が公益法人であり、特に宅建業法に規定されている団体であって事業活動のより一層の透明性が求められていることに鑑み、上記通知に併せて、担当課長から各都道府県の担当部長宛ての通知を発出し、公益法人である都道府県宅建業協会と政治団体である不動産政治連盟とを明確に仕分けるため、各都道府県宅建業協会に対してその旨指導を行うよう依頼した(乙6)。

ウ  都道府県宅建業協会及び被告保証協会の入会希望者に対し不動産政治連盟への加入を求めている実態があることについては、平成14年12月4日、第155回臨時国会の委員会審議の中でも具体的な事実を指摘して質疑が行われるなどし、平成15年1月及び平成18年7月にも担当課長から上記イの通知と同旨の全宅連会長宛ての通知が発出され、このうち平成15年1月の通知の際には、併せて担当課長から各都道府県の担当部長宛ての指導を依頼する旨の通知も発出された(甲9、乙3、4、7)。

エ  平成18年11月、全宅連の会員である社団法人東京都宅地建物取引業協会への入会に当たり東京都不動産政治連盟への加入が入会の条件とされている旨の新聞報道がされ、また、同協会杉並支部において東京都不動産政治連盟の会費の強制徴収があった旨の新聞報道がされたことから、国土交通大臣は、平成19年2月2日付けの担当課長から全宅連会長宛ての通知をもって、都道府県宅建業協会と不動産政治連盟との明確な仕分けの必要性を重ねて指摘し、会員である各都道府県宅建業協会に対してその旨指導を行うよう求めた(甲12、乙5)。

オ  宅地建物取引業者として大阪府内で営業しているAは、平成13年8月に被告府協会に入会し、同時に府政治連盟にも加入したものの、その後は府政治連盟からの脱退を求めるようになり、平成19年3月、これを脱退し、現在は府政治連盟とは無関係に、被告府協会の会員の地位にある(甲18から22まで)。

(2)  本件訴えに至る経過

ア  原告代表者は、平成21年1月9日の原告設立に先立つ平成20年12月ころ、被告府協会及び被告保証協会への入会申込みの準備のため、大阪市中央区所在の被告府協会の事務所を訪れ、担当者から説明を受けるとともに、被告府協会及び被告保証協会大阪本部の「入会のご案内」と題するパンフレット、府政治連盟の「入会のご案内」と題するパンフレット、「入会手続の手順」と題する書面、「入会金等について」と題する書面、「入会のご案内」と題する書面、誓約書の用紙等の書類を受領した(甲1の1、甲2から4まで)。

イ  原告代表者が受領した誓約書3通のうち、誓約書(Ⅰ)は、宅建業法及び関係法令並びに被告府協会の定款等を遵守すること等を誓約するもの、誓約書(Ⅲ)は、被告府協会の実施する研修に出席すること等を誓約するものであり、誓約書(Ⅱ)(本件誓約書)は、「私は、この度貴協会に入会申込みをするに当たり、貴協会の入会審査の結果、入会が認められない場合は、その理由を問わず、何ら異議を申し立てないことを誓約致します。なお、別紙入会申込書の返還は求めません。」という記載があり、宛名を被告府協会及び被告保証協会大阪本部とするものである(甲1の1、丁11)。

ウ  原告は、平成21年1月5日にも被告府協会の事務所を訪れて職員であるBから説明を受け、同月29日、被告府協会に対し、所定の入会申込書を提出したが、その際、本件誓約書及び府政治連盟の入会申込書を提出せず、提出しない理由を記載した「申立書」と題する書面を提出して、上記各書類を提出しない意思を明らかにした(甲8)。

エ  被告府協会は、原告に対し、なにわ南支部長名の平成21年2月10日付け書面をもって本件誓約書の提出を促したが、定められた期限までにその提出がなかったことから、提出されていた書類を原告に返還した(甲6)。

オ  原告は、平成21年3月2日、被告府協会から府政治連盟への加入を強制されたなどと主張し、被告らを相手取り、本件訴えを提起した。

(3)  その後の経過等

その後、被告府協会は、誓約書の書式を改めており、現在提出を求めている誓約書は、誓約書(Ⅰ)から同(Ⅲ)までの内容を一体化したものとなっている。現在提出を求めている誓約書には、本件誓約書の内容に対応する記載として、「14.入会審査の結果、入会が認められなかった場合は、審査結果の内容及びその理由について問うことは致しません。」という部分がある。(甲26)

2  被告らに対する損害賠償請求(請求1項)について

(1)  原告は、前記認定事実のとおり、被告府協会(なにわ南支部)に対し、被告府協会及び被告保証協会所定の入会申込書を提出したが、本件誓約書を提出せず、また提出しない意思を書面で明らかにし、期限を定めた提出の促しにも応じなかったところ、その後被告府協会から提出済みの入会申込書等の書類が返還されたというのであるから、原告は、被告府協会及び被告保証協会から入会拒絶の判断をされたものということができる。

ところで、一般に社団法人においては、自主的に定めた規則である定款に基づいて運営がされ、その内部関係については私的自治の原則が妥当するから、ある者の入会を認めるか否か、すなわち、その者が社員となることを認めるか否かの判断は当該法人の裁量に委ねられているとみるべきであり、このことは、被告府協会及び被告保証協会についても同様に妥当する。

しかしながら、保証協会は、その申請に基づき国土交通大臣の指定を受け、社員である宅地建物取引業者の取り扱った取引に関する苦情の解決、研修及び社員のした取引により生じた債権に係る弁済その他の業務を行う(宅建業法64条の2第1項、64条の3)とともに、社員から弁済業務保証金分担金の納付を受けてこれに対応した弁済業務保証金を供託するものとされていること(同法64条の7から64条の10まで)、保証協会の会員である宅地建物取引業者は、上記弁済業務保証金分担金の納付を要するほかは宅建業法25条に基づく営業保証金の供託を要しないこととされる(同法64条の13)など、その会員になることによって一定の利益が得られること、被告保証協会への入会資格については、前記前提事実等(1)ウのとおり、定款及びその施行規則において、全宅連会員の所属構成員(都道府県宅建業協会の会員)であることが要件とされていることからすると、被告府協会及び被告保証協会による入会の拒絶は、拒絶された者にとって、会員となることによって得られる利益の享受を否定されることを意味する。

一方で、都道府県宅建業協会及び保証協会については、宅建業法の定める目的の実現及び業務の適正な運営の確保のために、国土交通大臣及び都道県知事の監督を受けることとされているのであるから(前記前提事実(2))、被告府協会及び被告保証協会の有する入会審査に関する上記裁量も恣意にわたることはできず、上記両被告がその裁量権の行使としてした入会拒絶の判断も、それが社会通念上著しく妥当性を欠き、当該法人の設立の趣旨及び事業目的、性格等から考えられる裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したと認められる場合には、不法行為法上違法との評価を受ける余地もあるというべきである。

(2)  原告は、本件誓約書には、「私は、この度貴協会に入会申込みをするに当たり、貴協会の入会審査の結果、入会が認められない場合は、その理由を問わず、何ら異議を申し立てないことを誓約致します。」という記載があること(前記認定事実(2)イ)、被告府協会に加入しようとした際に示された「入会金等について」と題する案内に府政治連盟の入会賛助金を含んだ記載がされていたこと(甲4)、被告府協会の職員で原告と面談したBも、被告府協会、被告保証協会及び府政治連盟の三団体に一括して入会してもらっており、府政治連盟だけ入会しないという扱いはしていないという趣旨の説明をしていたこと(甲23)を挙げ、被告府協会及び被告保証協会は府政治連盟への加入を強制していたものである旨主張する。

確かに、前記前提事実等(1)エ及び前記認定事実(1)アからエまでの各事実を踏まえるならば、本件誓約書の文言が、府政治連盟に加入しない場合には入会審査において不利益に扱うことを含意したものではないかという臆測を呼ぶのも理由のないことではないし、原告の挙げる上記事情に照らせば、被告府協会と府政治連盟とが別個の団体であることを十分に意識しない者が、被告府協会への入会に際して府政治連盟に加入する方向へ誘導されるおそれなしとしない。

しかしながら、本件誓約書に府政治連盟に関する記載があるわけではないこと、被告府協会からの書類の返還にしても本件誓約書が提出されていないことを理由に行われたものであること(前記前提事実(3)ア)、さらに、被告保証協会の担当者のした説明について、府政治連盟の入会が被告府協会に入会するための条件になっているという直接的な説明はなく、できれば府政治連盟へ入会してほしいという趣旨の説明を受けたものであると原告代表者自身が供述していること(原告代表者)からすると、被告府協会及び被告保証協会が入会者に対して府政治連盟への加入を強制しており、これに応じない者の入会を拒否していたと評価することはできないというべきである。

(3)  上記(2)のとおり、原告が違法事由として主張する府政治連盟への加入強制の事実は認められない。そして、原告が提出しなかった本件誓約書については、被告保証協会の宅建法上の地位や、被告保証協会の会員資格を得るために被告府協会の会員となることが必要であるという両者の関係に照らせば、被告府協会及び被告保証協会が団体の裁量の範囲内で行う入会の許否の判断に対して異議を述べたとしてもこれを受け入れないことを明らかにする趣旨のものと解すべきところ、上記両被告への入会に当たって、そうした書面の提出を求め、これを欠いた原告の入会申込みを適式でないものと判断した上、入会に関する審査をせず、入会を拒絶することにしたとしても、そのこと自体を捉えて、社会通念上著しく妥当性を欠くとか、上記両被告の設立の趣旨及び事業目的、性格等から考えられる裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したとまでは認められず、上記両被告のとった一連の措置が違法であるということもできない。

(4)  以上のとおり、被告府協会及び被告保証協会において、不法行為法上違法との評価を受ける行為があったとは認められない。また、上記両被告について不法行為法上違法との評価を受ける行為があったとは認められないのであるから、被告国及び被告大阪府が被告府協会及び被告保証協会に対する指導監督を怠り、そのために原告に損害を被らせた旨をいう原告の主張は、その前提を欠くものというほかない。

したがって、原告の被告らに対する損害賠償請求はいずれも理由がない。

3  被告府協会及び被告保証協会に対する入会審査の請求(請求2項)及び被告らに対する謝罪広告請求(請求4項)について

上記2で判断したところによれば、被告府協会及び被告保証協会が原告に対する入会審査を行うべき義務があるとは認められないから、入会審査の請求には理由がない。また、被告らについて不法行為法又は国家賠償法上違法との評価を受ける行為があったとは認められないことも、上記2のとおりであるから、謝罪広告請求もその前提を欠き理由がない。

4  指導を求める義務付けの訴え(請求3項)について

(1)  原告の請求3項に係る訴えは、行訴法3条6項1号の義務付けの訴えと解することができ、原告は、国土交通大臣及び大阪府知事が被告府協会及び被告保証協会に対して行政指導を行うことの義務付けを求めているものと理解できる。

(2)  しかしながら、行政事件訴訟法3条6項1号にいう行政庁の処分とは、公権力の主体である国又は公共団体が行う行為のうち、その行為によって、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうところ、宅建業法の規定によっても、被告国及び被告大阪府が被告府協会又は被告保証協会に対して行うことが予定されているのは相手方の任意の協力を期待して行われる限度での行政指導にとどまり、そうすると、被告国及び被告大阪府が行うことを想定されている行為は、それによって直接被告府協会又は被告保証協会の権利義務を形成し又はその範囲を確定することが法律上認められているものに当たるとみる余地はないというべきである。

(3)  よって、原告の請求3項に係る訴えは訴訟要件を欠き、不適法である。

5  以上の次第であり、本件訴えのうち請求3項に係る訴えは不適法であるからこれを却下し、原告のその余の訴えに係る請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉田徹 裁判官 小林康彦 五十部隆)

(別紙)<省略>

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