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大阪地方裁判所 平成22年(ワ)16959号 判決 2013年11月27日

原告

株式会社X

同代表者代表取締役

A1

同訴訟代理人弁護士

小林功武

被告

Y労働組合

同代表者

A2

同訴訟代理人弁護士

里見和夫

井上健策

大山弘通

主文

1  被告は、その所属する組合員又は第三者をして、以下の行為をさせてはならない。

(1)  原告が所有又は占有する別紙場所目録1ないし5各記載の場所内において、複数名で立ち入ること、複数名で徘徊すること、大声を上げること、複数名で事務所を取り囲むこと、輸送車両の前やドアと車体の間に立ちはだかるなどしてその進行を妨げること、威迫すること、車両、スピーカー、旗その他の妨害物を置くこと、複数名で出入門を占拠することその他の方法で、原告の業務を妨害する一切の行為

(2)  原告が所有又は占有する別紙場所目録1ないし5各記載の場所付近の公道において、複数名で占拠すること、複数名で徘徊すること、大声を上げること、輸送車両の前やドアと車体の間に立ちはだかるなどしてその進行を妨げること、威迫すること、車両、スピーカー、旗その他の妨害物を置くことその他の方法で、原告の業務を妨害する一切の行為

(3)  原告の取引先及び原告が生コンクリートを納入する工事にかかる施工業者及び発注者の本社及び営業所並びに原告が生コンクリートを納入する工事現場又はそれらに近接する場所において、複数名で立ち入ること、複数名で徘徊すること、大声を上げること、街宣車、マイクロバス等の被告関係車両を停車すること、原告が製造・販売する生コンクリートを使用しないように要求すること、原告を非難することその他の方法で、原告の業務を妨害する一切の行為

2  被告は、原告に対し、1027万5028円及びこれに対する平成22年8月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3  原告のその余の請求を棄却する。

4  訴訟費用は、これを10分し、その1を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

5  この判決は、第2項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第1請求

1  主文第1項同旨

2  被告は、原告に対し、1137万5028円及びこれに対する平成22年8月11日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要

本件は、生コンクリート(以下「生コン」という。)及びコンクリート製品の製造・販売等を業とする株式会社である原告が、労働組合である被告に対し、被告が、原告の工場や原告が生コンを納入する現場等において、多人数で押しかけたり、工場敷地の出入門を封鎖したり、ミキサー車の進行を妨げるなどした行為が、原告の業務運営を不当に妨げる違法なものであるとして、その事業所として使用している不動産の所有権及び占有権並びに営業権に基づきその差止めを求めるとともに、不法行為に基づき、上記各行為により生じた損害の賠償を求める事案である。

1  前提事実(争いのない事実、掲記の証拠等により容易に認められる事実及び顕著な事実)

(1)  当事者等

ア 原告は、生コンの製造・販売等を目的とする株式会社であり(証拠<省略>)、大阪府下において、港工場、北港工場、吹田工場及び堺工場を有し、兵庫県下において、神戸工場を有し、事業を展開している。(争いがない。)

イ 被告は、労働組合であり(証拠<省略>)、原告の従業員のうち、神戸工場に勤務するA3及びA4並びに北港工場に勤務するA5(以下「A5」という。)が、その組合員である。(争いがない。)

ウ a協同組合(以下「a協組」という。)及びb協同組合(以下「b協組」という。)は、いずれも中小企業協同組合法に基づき設立された、組合員の生コンの共同販売等の事業を行う協同組合であり(証拠<省略>)、原告は、大阪府下の各工場の事業に関してはa協組に、神戸工場の事業に関してはb協組に加盟している(争いがない。)。いずれの協同組合も、共同販売事業を中心的な事業とし、営業活動の合理化及び取引条件の改善等、加盟する組合員の社会的・経済的地位の向上を図るため、各協同組合が生コンの注文を受け、それを加盟する組合員に割り当てて納入させ、代金を回収して決済することを中心とした業務を行っている(証拠<省略>、弁論の全趣旨)。

(2)  原告が事業所として使用している不動産の所有・賃貸借関係

ア 原告は、別紙物件目録1ないし10<省略>の各不動産を所有している。(証拠<省略>、弁論の全趣旨)

イ 原告は、別紙物件目録1の建物<大阪市港区<以下省略>、事務所、鉄骨造陸屋根2階建て>については大阪市及びc株式会社(以下「c社」という。)から、同2<大阪市此花区<以下省略>、事務所、軽量鉄骨・鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺き2階建て>及び3<大阪市此花区<以下省略>。前記2とは枝番違い、事務所、鉄骨造スレート葺き2階建て>の各建物については大阪市から、それぞれ敷地を賃借し、占有して使用している。(証拠<省略>、弁論の全趣旨)

ウ 原告は、上記ア及びイの各不動産を、次のとおり事業所として使用している。(証拠<省略>、弁論の全趣旨)

(ア) 本社事務所及び港工場

原告は、別紙場所目録<省略>添付図面<省略>①の朱線で囲んだ部分の土地<合計7443.65m2>を大阪市及びc社から賃借し、同土地上に別紙物件目録1の建物を所有して、本社事務所及び港工場として使用している。

(イ) 北港工場

原告は、別紙場所目録添付図面②の朱線で囲んだ部分の土地<合計23926.94m2>を大阪市から賃借し、同土地上に別紙物件目録2及び3の各建物を所有して、北港工場として使用している。

(ウ) 吹田工場

原告は、別紙場所目録添付図面③の朱線で囲んだ部分の土地(別紙物件目録4の土地<大阪市東淀川区<以下省略>、宅地、5403.07m2>)を所有し、同土地上に別紙物件目録5記載の建物<事務所、鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺き2階建て>を所有して、吹田工場として使用している。

(エ) 堺工場

原告は、別紙場所目録添付図面④の朱線で囲んだ部分の土地(別紙物件目録6<堺市西区<以下省略>、宅地、9016.62m2>及び7<堺市西区<以下省略>、前記6とは枝番違い、宅地、890.52m2>の各土地)を所有し、同土地上に別紙物件目録8の建物<事務所・倉庫、鉄骨・軽量鉄骨造スレート・亜鉛メッキ鋼板葺き2階建て>を所有して、堺工場として使用している。

(オ) 神戸工場

原告は、別紙場所目録添付図面⑤の朱線で囲んだ部分の土地(別紙物件目録9の土地<神戸市東灘区<以下省略>、宅地、4207.96m2>)を所有し、同土地上に別紙物件目録10の建物<事務所、軽量鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺き2階建て>を所有して、神戸工場として使用している。

(3)  被告の原告に対する要求等

ア d有限会社(以下「d社」という。)をめぐる問題(証拠・人証<省略>、弁論の全趣旨)

(ア) a協組及びb協組は、ゼネコン等の施工者の窓口となる商社や販売店から生コン等の注文を一括して受け、これを、組合員の工場の規模や能力等に応じて定められるシェアに従って組合員の工場に割り当て(以下、これを「シェア割り」という。)、組合員は、割当てを受けた工場で製造した生コンを、直接指定された現場に納入し、a協組及びb協組は、販売代金の回収を行い、毎月の納入分に応じ、各組合員に代金を支払う(以下「共同販売事業」という。)。生コンは、JIS規格の定めにより、セメントや砂利等の材料を練って製造してから90分以内に打設しなければならないことから、毎月の割当ては必ずしもシェアとは一致しないため、a協組及びb協組は、出荷の実績がシェアに比して多いときは組合員から調整金を徴収し、少ないときは組合員に対して調整金を支払っている(その割合は、1m3当たり、a協組が3000円、b協組が2700円である。以下、この調整を「赤黒調整」という。)。

(イ) 平成20年頃、大阪府下及び神戸地区において、生コンの製造・販売を業とする会社のうち、a協組又はb協組その他の協同組合に加盟していないもの(以下「アウト社」という。)が約70社あったところ、被告は、かねてからアウト社を協同組合に加入させることが業界の安定のために必要であると主張し、同年12月頃、自らe協同組合を設立してアウト社の協同組合加入を進めるとともに、a協組に対し、残余のアウト社に対する働きかけを要請していた。そして、このようなアウト社の一つであるd社は、a協組の働きかけに応じ、同協組に加入することに合意し、平成21年12月、a協組との間で確認書を取り交わした。ところが、d社は、それ以後も、a協組の共同販売事業に従わず、アウト社時代と同様、廉価で生コンの出荷を続けていた。被告は、これが他の生コン会社の経済的利益を損なうとして問題視し、a協組に対し、d社にそのような行為をやめさせるよう働きかけることを求めており、特に原告に関しては、原告代表者がa協組の副理事長を務めていることから、原告はa協組の「執行部社」として責任を果たすべきであるとの見解の下に、原告に対し、上記のようなd社の行為をやめさせるべきであると主張していた(以下、このようなd社をめぐる問題を「d社問題」という。)。

(ウ) a協組は、共同販売に従わず自主出荷を続けるd社に指導を繰り返したが、d社が従わないため、平成22年6月29日、d社を除籍した。

d社は、同年12月、同業他社3社とともに、f協同組合を立ち上げ、操業している。

イ 平成21年度の春闘をめぐる問題(証拠・人証<省略>、弁論の全趣旨)

(ア) 被告、g労働組合(以下「g労組」という。)及びh労働組合(以下「h労組」)の3労働組合で組織するi協議会は、毎年3月、組合員を雇用する各会社に対し、春闘において交渉を求める事項をまとめた統一要求書を提出し、各会社は、j会(以下「j会」という。)に交渉を委任し、i協議会との間で集団的に交渉を行う(集団交渉)。

(イ) 平成21年度の春闘(以下「09春闘」といい、他の年度の春闘についてもそれぞれ西暦の下2桁を取り、例えば平成22年度の春闘は「10春闘」などという。)における集団交渉は、平成21年3月9日から同年4月14日にかけて7回開かれ、最終的にj会は1万5000円の賃上げを回答した。原告は、j会に交渉を委任していたが、上記の賃上げ回答には従えないとして、同日、j会に対する交渉委任を撤回した。そのため、i協議会は、原告との間で個別に交渉することとなったが、原告は、賃上げは行わないという回答に終始し、交渉は平行線のままであったことから、個別交渉は同年5月22日を最後に打ち切られた。

(ウ) 被告は、平成22年1月5日付けで、原告に対し、生コン輸送運賃の値上げ(08春闘の協定事項)及び09春闘の速やかな円満解決等を要求事項として団体交渉(以下「団交」という。)を申し入れた。これに対し、原告は、同月8日付けで、上記要求事項に対し基本的に応じることはできないという趣旨の回答とともに、平成20年7月に被告組合員らが原告の吹田工場においてモルタルの出荷妨害行為を行ったこと(これを実行した被告組合員らは、威力業務妨害罪で平成21年11月7日有罪判決を受け、平成22年5月14日その控訴も棄却されて有罪判決が確定した〔証拠<省略>、弁論の全趣旨〕。以下「吹田事件」という。)及び同月以降に被告が行った原告に対する誹謗中傷行為等に対して謝罪を求める旨を記載した「謝罪要求書」を送付した。

ウ b協組をめぐる問題(証拠・人証<省略>)

平成22年4月当時、神戸工場が所属するb協組と被告との間では、生コンの需要が低迷する中、工場を間引く(集約する)こと及びb協組が販売する生コンの価格を同月から値上げすることが検討されていたが、被告は、これらが実施されていないことを問題視していた(以下「b協組問題」という。)。

(4)  被告が行った抗議活動の概要(別紙「抗議活動経緯に関する原告・被告の主張等対比表」<省略>〔以下「別紙一覧表」という。〕参照。なお、同別紙における略称は、本文においても同様に用いる。なお、肩書はいずれも当時のものである。)

被告は、概要次のとおり(日付はいずれも平成22年)、その組合員らにおいて、原告の工場等に赴き、原告に対し、d社問題、09春闘問題及びb協組問題等について要求を行い、また、原告が生コンを納入する現場に赴き、原告を批判する内容の街宣活動等を行った(以下、被告が行った抗議活動を「本件抗議活動」といい、特記しない限り、本件抗議活動に関する日付は平成22年のものを示す。)。(弁論の全趣旨)

日時 場所 参加人等

4/15 6:20~8:00過ぎ 神戸工場 約40名

4/20 7:00過ぎ~ 神戸工場 2名

4/26 7:10~10:00頃 北港工場・港工場 約40~50名

12:00頃~15:00頃 a協組

(争いがある。)

4/27 7:30~12:57頃 北港工場 約50名

11:00~13:00頃 港工場 約20名

5/14 6:08~8:45 北港工場 約60~70名

5/17 8:40 北港工場 街宣車2台+マイクロバス1台

9:45 港工場 同上

5/19 6:08~14:25 北港工場・港工場 約70~80名

5/20 11:16~13:45頃 北港工場 約3名

11:20~12:37 堺工場 約40名

12:49~13:18 港工場 街宣車1台+マイクロバス1台

5/25 6:15~15:10 神戸工場 約70~80名

5/26 5:00~15:15 神戸工場 多数

6/4 6:04~13:05 北港工場 約70~80名

9:00~13:00 現場 約30名

(工事名:○○k丁目プロジェクト。以下、この現場を「○○k丁目の現場」という。)

6/8 6:00~13:21 神戸工場 約50名

8:45頃~ 現場 不明

(工事名:lマンション。以下、この現場を「lマンション現場」という。)

14:30~15:00 吹田工場 約30名

(5)  本件抗議活動に関する刑事事件(証拠・人証<省略>、弁論の全趣旨)

上記(4)のうち5月14日の抗議活動に参加した被告組合員のA6副執行委員長ほか12名は、他の多数の被告組合員らと共謀の上、同日午前6時9分頃北港工場に押しかけ、その3か所の出入り口付近等に群がって集まり、同日午前8時45分頃まで同所等に留まるとともに、原告従業員や運搬の請負業者に対し、その進行方向に立ち塞がるなどしてその入場を妨害し、A7北港工場長やA8経理管理部長の周囲を取り囲んだり、前面に立ち塞がり、付きまとって謝罪要求を繰り返したりするなどして、両名の入場を妨害することにより、北港工場からの生コン出荷業務の遂行を困難にさせるなどしたという威力業務妨害罪により有罪判決を受け(1審平成23年12月1日、控訴審平成24年7月27日)、同判決は確定した。

(6)  被告に対する仮処分決定等(証拠<省略>、弁論の全趣旨)

ア 原告は、平成22年6月11日、大阪地方裁判所に対し、被告を債務者として、原告の業務に対する妨害行為の差止めを求める仮処分を申し立て、その申立書は、同月15日、被告に到達した。同裁判所は、同年9月8日、本判決主文第1項と同趣旨の仮処分決定をした(以下「本件仮処分決定」という。)。

イ 大阪地方裁判所は、同年9月17日、原告に対し、本件仮処分決定に係る本案の訴えを提起することを命ずる起訴命令を発令し、これが同月21日に原告に到達したが、原告は、同命令の定める期限(同命令の原告に対する送達から1か月)までに訴えを提起しなかったため、同年12月8日、本件仮処分決定は取り消された。

ウ 原告は、同年12月3日、本件訴訟を提起した。(顕著な事実)

(7)  本件仮処分決定前後の抗議活動(弁論の全趣旨)

ア 被告は、同年6月18日午前6時10分頃、組合員複数名で神戸工場に赴き、同日午前10時頃までの間、A9吹田工場長がA10執行委員に暴行をしたとして謝罪を要求し、同日午前11時頃から約30分間にわたり、吹田工場でも同様の行為を行った。

イ 被告は、同年10月1日午前6時30分頃、組合員7名で神戸工場に赴き、b協組の対応が問題であるとしてストライキを行うと宣言し、原告に出荷をしないよう求め、原告従業員によるビデオ撮影をやめるよう要求した。

ウ 被告は、平成23年1月1日午前7時頃から午前7時30分頃までの間、原告代表者の居住するマンションの前に複数名で集結し、歩道に組合旗を立て、拡声器を用い、「X社A1社長は謝罪しろ、出て来い」などと叫んだ。

2  争点及び当事者の主張

本件における争点は、(1)本件抗議活動の内容及び違法性(争点1)、(2)本件抗議活動の差止め請求の可否(争点2)、(3)本件抗議活動により原告に生じた損害の有無及びその額(争点3)であり、これらについての当事者の主張は、次のとおりである。

(1)  争点1(本件抗議活動の内容及び違法性)について

(原告の主張)

ア 本件抗議活動の内容は、別紙一覧表中「原告の主張」欄に記載のとおりである。

イ 原告は、別紙場所目録添付図面1ないし5<前記第2 1(2)ウの①~⑤>の各朱線で囲んだ部分の敷地及び同土地上の建物について所有権又は占有権を有し、また、これらの不動産において、生コン及びコンクリート製品の製造や製造販売に係る管理等を行い、従業員や輸送業者を通じて、それらの製品を出荷し、取引先の指定する場所に納入するという業務を行うという営業権ないし平穏に営業活動を遂行する権利を有しているところ、別紙一覧表中「原告の主張」欄に記載の本件抗議活動により、これらの権利を侵害された。

ウ 被告は、原告とその労働者との間の労使関係に関する事項ではなく、a協組におけるd社問題やb協組問題の解決を促す目的で本件抗議活動を行っており、原告との関係で争議行為として保護されるべきものではあり得ない。d社問題は、原告とは別個の法人格を有するa協組が取り組むべき問題であるし、生コンの販売価格はa協組が決定するものであって原告にその決定権限はないから、d社問題は、原告に対する抗議活動を正当化する理由になり得ないものである。また、本件抗議活動の途中から、09春闘に関する要求がされるようになったが、原告は、被告に対し、09春闘に対する回答を平成21年5月中に済ませており、その後被告から音沙汰がなかったところ、4月26日の抗議活動の前までに、被告からこのような要求がされたことはなかったという経緯をも併せ考えれば、本件抗議活動は、その目的においても、開始手続においても、正当性を有しない。

エ 本件抗議活動は、その手段及び態様において、到底正当化されるものではない。本件抗議活動は、数十名単位で押しかける、原告の許可なく原告の管理する工場の敷地内に侵入して徘徊したり組合旗を掲げたりする、原告の工場の出入門を多人数で封鎖する、原告関係者の敷地への入構を阻止する、原告の防犯カメラを組合旗で隠す、原告のミキサー車のドアと車体の間に立ったり車輪の下に足を入れたりしてその出発を妨害する、拡声器も用いて大声で不当要求や罵声を繰り返す、原告の取引先(生コンの納入現場)において原告の非難を繰り返すなど、およそ平和的説得とはいい難い。被告は、北港工場及び神戸工場における抗議活動を「ストライキ」と称しており、自らの行為がピケッティングであることを認めているところ、上記のような被告の行為が最高裁大法廷昭和33年5月28日判決(刑集12巻8号1694頁、羽幌炭鉱事件。以下「昭和33年最判」という。)や最高裁第二小法廷平成4年10月2日判決(裁判集民事166号1頁、御國ハイヤー事件。以下「平成4年最判」という。)が許されないとする「使用者の自由意思を抑圧しあるいはその財産に対する支配を阻止するような行為」に該当し、また、最高裁第二小法廷平成11年6月11日判決(労働判例762号16頁・国労高崎地本事件。以下「平成11年最判」という。)にいう、使用者の「業務運営を不当に妨」げ、「労働組合の正当な活動の範囲内とはいえない」ものに該当することは明白である。

(被告の主張)

ア 本件抗議活動の内容は、別紙一覧表中「被告の認否・主張等」欄に記載のとおりである。

イ(ア) a協組に原告から副理事長として派遣されている原告代表者は、a協組の執行部としてd社によるダンピング出荷を阻止すべきであるのに、これを怠り、その結果、a協組全体としてのダンピング出荷を放置・継続し、それどころか、原告自身もダンピング出荷を続けていたのであるから、被告が、a協組の副理事長の出身母体である原告に対し、原告自身の出荷を自粛し、a協組の適正な運営の回復に注力してほしいと申し入れ、抗議活動を行うことは、産業別労働組合として当然の活動である。

(イ) 昨今の不況の中、生コンの価格が下落し、a協組の組合員である生コン各社は苦境に陥り、それらの会社に勤務する労働者も苦境にあえいでいる。そこで、a協組の執行部は、平成22年4月1日から生コンの価格を出荷ベースで1m3当たり1万8000円に値上げする方針を示し、同時にd社に対してもシェア割りを実施することを、被告を含む3労組に対して確認した。にもかかわらず、a協組の執行部は一向にこれを実行しようとしなかったため、被告がa協組の執行部を構成する原告他の生コン会社に対して抗議したのが、4月15日の抗議活動である。また、この日被告が神戸工場を訪れたのは、b協組問題について話合いをするためでもあった。

ウ 本件抗議活動の手段・態様は、別紙一覧表中「被告の認否・主張等」欄に記載のとおりであり、平和的説得活動の範囲にとどまるものであって、何ら違法ではない。被告が本件抗議活動をストライキやピケッティングと称したことはあるが、その意図するところは、労働組合としての正当な説得活動であるということであり、原告の引用する羽幌炭鉱事件及び御國ハイヤー事件とは事案を異にする。また、国労高崎地本事件は、会社の懲戒処分の不当労働行為性を判断する過程で、労働者や労働組合のどのような行為が正当な活動の範囲内とはいえないのか、どのような行為が懲戒処分を是とする違法な行為かを判断したにすぎず、本件において被告の行為が仮に労働組合の正当な活動の範囲内とはいえないとしても、そのことから直ちに被告の行為が違法と判断されるわけではない。

(2)  争点2(本件抗議活動の差止め請求の可否)について

(原告の主張)

ア 原告は、被告に対し、平成22年5月26日、同日までの本件抗議活動の違法性を指摘し、今後同様の行為を継続すれば法的措置を講じる旨警告する文書を送付したが、被告はこれを無視し、その後も同様の行為を継続した。

イ(ア) 被告は、同年6月15日、原告の申し立てた仮処分の申立書等を受領したにもかかわらず、同月18日午前6時10分頃、多数名の組合員らが神戸工場に押しかけ、敷地内を徘徊したり、防犯カメラを組合旗で隠したり、同月8日にA9吹田工場長がA10執行委員に対し暴行をしたとして謝罪要求を繰り返したり、原告従業員らの工場敷地への入構を阻止するなどしたほか、午前11時頃から約30分間、吹田工場前に多人数で集結して付近を占拠し、同様の謝罪要求を繰り返すなどした。

(イ) 被告は、同年9月8日の本件仮処分決定の後である同年10月1日、同決定を無視し、その組合員複数名で神戸工場に立ち入り、出荷の取り止めを要求し、原告従業員のビデオ撮影に対し大声で威迫するなどした。

(ウ) 被告は、平成23年1月1日午前7時頃から約30分間、多数名の組合員において、原告代表者の自宅マンション前の行動に集結し、歩道に組合旗を立て、拡声器を用い、「X社A1社長は謝罪しろ、出て来い」などど叫ぶなどした。

ウ(ア) 被告は、原告に対する業務妨害行為により、2度にわたりその組合員において有罪判決を受け、これが確定したにもかかわらず、原告に対し、一切の謝罪や賠償をしていない上、被告は、有罪判決が確定した行為についてすら、正当な労働組合活動であったと強弁する。このような被告の態度からすれば、裁判所に違法と判断された行為であっても、被告にその結果の払拭に努める意思はなく、将来にわたっても同様の行為をしないよう努める意思がないことは明白である。

(イ) 本件抗議活動における被告の目的は、春闘要求の実現等、原告における労使問題の改善ではなく、原告代表者が副理事長を務めるa協組に対する要求の実現にあったこと、原告代表者は今なおa協組の理事長を務めていることからすれば、今後もa協組関係の問題が生じれば、被告が原告に対し本件抗議活動と同様の行為を行う蓋然性がある。

(ウ) 被告は、a協組やb協組での生コン価格の引き上げを政策的要求として有し続けており、また、原告と被告との間には、d社問題以外にも未解決の問題が多数ある。そうすると、今後被告の意に沿わない事態が継続すれば、やはり労使問題とは関係なく、被告が原告に対し本件抗議活動と同様の行為を行う蓋然性がある。

(エ) 現在抗議活動が止んでいるのは、本件仮処分命令が発せられたこと及び本件訴訟が係属していることによるものである。

エ 原告が求めるとおり差止めを認めても、被告は団交や労働委員会で原告と交渉することができ、また、組合員が正当なストライキをする権限は何ら制限されず、被告に損害は生じない。他方、本件抗議活動と同様の行為が今後1回でも行われれば、これにより原告が取引先の信頼を失うなどして被る損害は甚大であり、その影響を取り除くため、多大な時間と労力を要し、回復不能な損害を被る。

オ 実際に行われた本件抗議活動の態様、また、被告が原告の工場のみならず取引先(生コンの納入現場)においても原告の業務を妨害する行為を行ったことに照らせば、原告の工場及び取引先における一切の妨害活動を禁止する必要がある。

(被告の主張)

ア 別紙一覧表中「被告の認否・主張等」欄に記載のとおり、本件抗議活動は平和的な説得活動であり、被告組合員らが原告に対し、何らかの強制にわたるようなことや業務妨害、あるいは原告の許可なく敷地内に入場するなどといったことをしたことはない。

イ 被告が本件抗議活動を行う理由となった09春闘問題及びd社問題のうち、09春闘問題は団交拒否を理由に被告が大阪府労働委員会(以下「府労委」という。)に対し救済命令を申し立てることにより、d社問題は、平成22年6月にd社がa協組から除籍され、同年12月に自ら別の協同組合を設立したことで、同社をa協組のルールに従わせなければならないという状況がなくなったことにより、いずれも解決しており、被告が原告に対して本件抗議活動と同様の行為を行う理由はなくなった。したがって、被告が今後同様の行為を行う蓋然性はなく、差止めの必要性はない。

ウ 5月14日の抗議活動はピケッティングであり、平穏な態様で行われた。同日における被告組合員らの行為は刑事事件で罪に問われているが、これは、その一部が構成要件に該当することをもって形式的に罪に問うたものであり、それ自体不当である。

エ 6月18日の抗議活動は、A9工場長のA10執行委員に対する傷害行為に対するもの、10月1日の抗議活動は、b協組がg労組、h労組及び被告の3労組で組織するi協議会と約束した内容を守らず、期限が来ても回答しないという対応につき、神戸工場の事務所で平穏な話合いを行ったものである。また、平成23年1月1日の抗議活動は、原告に対し未解決の09・10各春闘問題の解決を求めるため、原告代表者個人に対し、その自宅前でシュプレヒコールを行ったもので、労働組合として当然行うことのできる抗議・要請活動である。

いずれも本件仮処分で禁じられている行為や本件訴訟において差止め請求の対象とされている行為とは異なる上、6月8日までの抗議活動とは、理由や対象を異にしており、いずれも差止めの必要性を基礎づけるものではない。

オ 本件仮処分命令は、被告の申立てに基づく起訴命令にもかかわらず、原告が訴訟を提起しなかったために取り消された。原告は、本件仮処分を債務名義として強制執行の手続も行っておらず、差止めの必要性を感じていなかったことが明らかである。

(3)  争点3(本件抗議活動により原告に生じた損害の有無及びその額)について

(原告の主張)

ア 出荷妨害による損害

(ア) 生コン等原告が製造する製品は、製造後短時間で劣化するため、製造から現場への納入・打設までの時間は厳格に管理され、納入予定時刻も明確に定められている。これにわずかでも遅れたり納入が中止されたりすると、当該工事現場において生コン等の打設ができず、その後の工程、すなわち施工者や注文主に甚大な影響を与える。

したがって、生コン等の出荷の遅延・中止は、関係取引先全てとの関係で、原告の信用低下、またこれらにより関係取引先に生じた損害賠償の問題を生じさせる。

(イ) 本件では、5月14日の抗議活動による出荷遅延(北港工場)、同月25日の抗議活動による出荷中止(神戸工場)、6月4日の○○k丁目の現場における抗議活動による納入中止(北港工場)、同月8日のlマンション現場における抗議活動による打設(納入)中止(神戸工場)により、原告の信用低下が生じたことは明らかであり、現に、原告は、ポンプ車キャンセル料等として、5月25日に出荷が中止となった現場の販売店(2か所)から合計37万6530円、6月8日に打設(納入)中止となった現場の販売店から26万4600円の損害賠償を請求され、これらを支払った。

(ウ) また、上記(イ)のうち神戸工場からの出荷・納入の中止により、神戸工場に関しては平成22年9月20日までb協組からの割当てを受けられなくなり、原告の信用は著しく棄損されたほか、原告従業員の工場への入構を阻んだり、敷地内を多数で占拠・徘徊したり、事務所を取り囲んだり、拡声器も用いて大声で非難したり、出発するミキサー車の車体とドアの間に入り込むなどといった行為により、原告の従業員は、平穏・安全に業務に従事することができなかった。原告は、その従業員に、被告組合員らが集結する前の早朝に出勤を求めたり、入構が遅れたために生じた業務の遅延をまかなうため残業を命じたり、関係取引先への説明をさせたり、本件抗議活動の状況をビデオ撮影させるなど、本件抗議活動がなければあり得ない余計な業務遂行を余儀なくされた。

このような無形損害を金銭に評価すれば、500万円を下らない。

イ 監視・抑制・記録化のために要した費用

別紙一覧表「原告の主張」欄に記載のとおり、被告は、本件抗議活動の中で、組合旗で故意に原告の設置していた防犯カメラを隠すことを繰り返した。その結果、原告は、被告の違法行為を監視・抑制・記録化するために、別紙「監視・抑制・記録化のために生じた費用一覧表」<省略>記載のとおり、録音・録画の機器等及び防犯カメラの追加設置の費用合計473万3898円の支出を余儀なくされた。

ウ 弁護士費用

上記ア及びイの損害賠償を請求するため、原告は損害賠償請求訴訟を原告訴訟代理人弁護士に依頼せざるを得なかった。

したがって、被告は、その違法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当損害額として、上記ア及びイの損害の合計額1037万5028円の約1割である100万円を負担すべきである。

(被告の主張)

ア 出荷妨害による損害について

(ア) 本件抗議活動の態様は別紙一覧表「被告の認否・主張等」に記載のとおり、平和的な説得活動にとどまるものであり、原告は、自らの判断により、出荷をしないことあるいはその他の対応を決めたのであるし、a協組やb協組が原告に出荷を割り当てなかったのも、各協同組合の判断によるものである。

したがって、原告が出荷ないし業務妨害によるものと主張する有形無形の損害と本件抗議活動との間に相当因果関係はない。

a 原告は、5月26日の神戸工場における抗議活動により業務ができなかったと主張するが、同日、神戸工場からの出荷予定はなかった。

b 6月4日、○○k丁目の現場で街宣活動をしたことは認めるが、被告は、09春闘の履行を求めて平穏かつ整然と街宣活動をしたにすぎない。

c 6月8日、lマンション現場に被告組合員がいたことは認めるが、被告組合員は、現場監督に対し、原告に対し労働組合として説得活動をしていると告げたのみで、原告の生コン出荷に異議を述べたりはしていない。被告は、同日の打設中止の理由は鉄筋の手直しと聞いている。

(イ) 原告は、一連の本件抗議活動終了後、a協組及びb協組の両協同組合から多く割当てを受けた結果、各協同組合において定められた原告のシェアより大きな割当てを受けたこととなり、現にb協組に対しては調整金を支払っている。

したがって、本件抗議活動により原告の出荷が減少し、これにより原告が損害を被ったという事実はない。

イ 監視・抑制・記録化のために要した費用について

(ア) 被告は、原告の防犯カメラを壊したことはなく、原告の主張する防犯カメラ設置等の費用は、原告がその一方的な都合で自ら将来にわたって使用するために支出したものであり、被告が負担する理由はない。原告が新たに設置した防犯カメラは、原告の資産として計上されているのであり、損害は生じていない。

(イ) 別紙一覧表中「被告の認否・主張等」欄に記載のとおり、被告は、原告の防犯カメラを組合旗で隠したことはない。

仮に、組合旗で防犯カメラが隠れたとしても、原告は、被告の様子を収めた映像や組合旗の写った映像を被告の業務妨害の証拠として多数提出しており、防犯体制に支障は生じていないし、防犯カメラとしての意義も失われていない。

ウ 弁護士費用について

争う。

第3当裁判所の判断

1  認定事実

前提事実に、掲記の証拠等を総合すると、次の事実が認められる。

(1)  本件抗議活動について

ア 4月15日(証拠・人証<省略>、弁論の全趣旨)

(ア) 午前6時20分頃、被告組合員約40名が神戸工場の敷地内に入場してきた。A11神戸工場長が、被告のA12副委員長及びA13執行委員に応対し、その後、午前7時15分頃から、原告のA14常務も来て応対した。

(イ) A12副委員長は、b協組問題につき、b協組では構造改善について指針すら出していない、このままb協組が対応しないのであれば倒産する会社も出てくる、早急に構造改善について明確な指針を出すべきであるなどと述べた。これに対し、A14常務が、b協組の一組合員にすぎない原告に指針を出すべきと言っているのかと尋ねたところ、A12副委員長は、b協組に加盟する15社が対象であること、原告が終われば順番に同じ説明に回ること、業界の問題であり、生コンの出荷をしないことに協力するべきこと、それでも出荷するなら業界の問題を無視するのと同じであることなどを述べた。

午前7時40分過ぎ、A12副委員長は、「4月19日にb協組が構造改善についての明確な指針を打ち出すと言っているようである。今日は引き上げることとする。我々が出て行ってからは出荷しても構わない。しかし、19日にb協組がしっかりとした指針を出さなければ20日以降再度行動に出る。それまでは中断ということにする」と言い、午前8時過ぎ、被告組合員らは、神戸工場から撤収した。

この抗議活動のため、当日神戸工場から予定されていた出荷は、予定時刻より約45分遅れて開始された。

イ 4月20日(証拠・人証<省略>、弁論の全趣旨)

午前7時過ぎ、A13執行委員とA15執行委員は、被告のマイクロバス2台及び街宣車1台を伴って神戸工場を訪れた。原告従業員は、被告組合員の来訪を警戒し、出入門にロープを張るなどしたが、組合旗の立て直しに来た旨の上記両執行委員の説明を聞き、入場を許した。

ウ 4月26日(証拠・人証<省略>、弁論の全趣旨)

(ア) 午前7時10分頃、被告組合員約40ないし50名が、g労組及びh労組の組合員とともに北港工場を訪れた。原告は、そのうち6名を会議室に入れ、A7北港工場長、A11神戸工場長、A16北港工場次長、A8経営管理部長(本来は本社勤務)ほか2名で対応したところ、A13執行委員は、d社問題の件で来た、出荷は自粛してほしいなどと述べたが、原告側は予定どおり生コンの出荷を行った。これに対し、A13執行委員は、「これはスト破りだ。業界の問題での『ストライキ』であるにもかかわらず無視するのか。ましてやX社の代表はa協組の副理事長でもある。副理事長である社長をこの場に呼べ!X社がこんな不誠実な対応をしていいのか。d社問題で近隣の会社はつぶれるかもしれない」などと述べた。A7北港工場長が、a協組からの割当てがある限りは責任をもって出荷しなければならない、不誠実だとは思わないなどと反論したが、A13執行委員は、「不誠実だ。自分さえよければそれでいのか。話にならない。社長がいる港工場に今から行く」と言って、他の被告組合員らと共に北港工場を後にした。

(イ) 午前9時20分頃、被告組合員らは港工場を訪れた。港工場の会議室には、A13執行委員のほか、g労組の腕章をした人物、h労組の腕章をした人物ほか1名が入室し、対応したA17副社長、A8経営管理部長らに対し、北港工場においてしたのと同様、d社問題についての抗議を行った。A13執行委員らは、「X社は業界のリーダーであり、社長もa協組の副理事長であるのに、責任を果たしていない。努力しているようにも見えないので、生コン政策協議会として抗議活動に来ている」、「話を社長から聞きたい」などと述べた。A17副社長は、業界の中で社長は十分に努力していると述べたが、A13執行委員らは「責任者からきちんとした回答をもらえなければ納得できない。そのような暖昧な回答ではだめだ」、「そうでなければ行動を続けるしかない」、「X社はストライキも認めないので、業界の利益より個社の利益を追求しているものと理解する」と述べ、午前10時過ぎ頃、港工場から退出した。

(ウ) 正午前頃、被告組合員らは、a協組の事務所に赴き、原告の対応は不誠実であるなどと述べ、複数名の被告組合員が午後3時頃まで滞在した。

エ 4月27日(証拠<省略>、弁論の全趣旨)

(ア) 午前7時30分頃、被告組合員約50名が北港工場を訪れた。A15執行委員は、原告のA7北港工場長らに対し、「昨日のスト破りの件、どう責任を取るのか」などと言い、午前11時半頃までの間、前日同様にd社問題に関する抗議を述べた。なお、この日、北港工場からの生コン出荷予定はなかった。

(イ) 午前11時頃、被告組合員らは、街宣車とマイクロバス1台を港工場横の公道に停車し、歩道に約20名が組合旗を立てた。被告のA18執行委員ほか2名が港工場を訪れたが、A19港工場長らから、今日は誰もいないと告げられると、その場を離れた。その後、上記車両は、午後1時頃まで上記停車場所にとどまっていた。

オ 5月14日(証拠・人証<省略>、弁論の全趣旨)

(ア) 被告は、4月27日までに原告に対して要求したことについて、原告が被告の求めに応じる旨の回答をしなかったこと及び09春闘問題を掲げ、抗議活動を行うことを決めた。

(イ) 午前6時8分頃、約60ないし70名程度の被告組合員が、北港工場出入門前に集結した。うち数名は、「ストライキ決行中」というプラカードや組合旗を掲げていた。

(ウ) 午前6時19分頃、被告組合員らは、北港工場の建物の2階に上がり、防犯カメラのレンズの先に当たるように組合旗を設置したため、同防犯カメラに構内の状況が写らない状態となった。

(エ) 午前6時31分頃、原告の輸送業務に携わる専属運転手であるA20が自動車で北港工場出入門から構内に入場しようとした際、被告組合員がその前に両手を大きく広げて立ちはだかり、多数の被告組合員らが次々とその周囲に集結して取り囲んだため、A20は自動車を進めることができず、引き返した。

(オ) 原告従業員らは、多数の被告組合員らが出入門前に集結し、構内に入ろうとすると被告組合員らに付きまとわれるなどしたため、門から工場敷地内に入ることができなかった。被告組合員らは、「4月26日のスト破りの件を謝罪しろ!09年度春闘の履行を行え!工場内には入れさせない!これはストライキだ!」と大声で叫んだ。A7北港工場長は、謝るようなことはしていない、工場に入らせてほしい、出荷業務もあると述べたが、被告組合員らは同様の態度をとり続け、午前7時過ぎ、A7工場長は警察に通報した。

(カ) 午前7時30分頃までに、原告のA21経営管理部係長、A8経営管理部長、A9吹田工場長らが北港工場前に到着したが、次のような会話が繰り広げられ、また、この間、被告組合員らが原告従業員に詰め寄ったり、数名で塀に追い詰めて取り囲むなどした(証拠<省略>)。

(A22)A8!A8!

(A8)(工場に入ろうと試みながら)なんで会社に入られへんねん。

(数名)ストライキや!ストライキや言うとるやないか。入れるわけないやろ。謝れ!先に謝れ!

(A8)なんで入られへんねん。(原告従業員に向かって)ビデオ撮っとけよ。

(A22)何がじゃあほ。

(A8)会社入られへんやないか。

(A22ほか)関係ないやつは帰れ、出て行け。

(A8)脅しか?会社入られへんやないか。

(A22)お前が混乱つくっとるんやないか!

(A6)混乱つくるために来たんか?

(数名)事件つくるためか?09春闘解決しろ。

(A8)(数名に取り囲まれていた状態が続いたので)電話しようや 警察呼んでや。

(名前不詳)スト破りやっとるやないか。

(A8)やってない。仕事に来とんねん。

(A13)なにしに来たんや、謝罪せい。

(A8)なんで謝罪せなあかんねん。謝る理由がない。(謝罪しろのシュプレヒコール始まる)

(A8)営業妨害やないか。

(A13)何が営業妨害やねん。関係ないから帰れ。

(A8)交渉はしてるやないか。返事返ってきてないのはそっちやないか。やることやっている。とりあえず会社入らしてや。

(キ) 午前8時7分頃、警察官4名が到着したが、被告組合員らは、警察官を取り囲み、「誰が警察に連絡したんや!ストライキやぞ!民事不介入やろ!今回も警察と結託するのか!」などと叫び、また、「大阪府警の民事介入を許すな!X社は謝罪せよ!」などのシュプレヒコールを行った。

(ク) 午前8時45分、A6副委員長は、「スト解除」を宣言し、次のようなやりとりがされた後、被告組合員らは北港工場前から退去した。

(A6)今日はこれぐらいにしとったる。せやけどな、自分とこが謝罪せえへんかったらこれからも何回も来るからな!覚悟しとけ。

(名前不詳)覚えとけよ!

(名前不詳)毎日来るぞ!

(A7)謝罪するようなことはしてない。

(名前不詳)謝罪したらすむことやろ!

(名前不詳)謝罪せな工場長ノイローゼになるで!

(ケ) 同日の北港工場からの出荷は、予定より約1時間遅れて開始された。

カ 5月19日(証拠・人証<省略>、弁論の全趣旨)

(ア) 被告は、原告に謝罪を求めるためとして、抗議活動を行うことを決め、原告の北港工場及び港工場に赴いた。

(イ) 午前6時8分頃、A20が北港工場に到着したところ、被告組合員らがその出入門でピケッティングを行っていたため入構できなかった。同日、北港工場の輸送担当者は、吹田工場に応援に行く予定であったが、北港工場に入構できなかったため、輸送車両を出すことができなかった。

(ウ) 原告は、北港工場に入場できなくなっているとの連絡を受け、同工場所属の従業員らを港工場に待機させていたが、午前7時40分頃、北港工場へ向かい、入場を試みることとした。また、A21経営管理部係長は、上司から、北港工場で原告従業員が入場できなくなっているので応援に行くようにと指示され、本来の勤務場所である港工場から北港工場へ向かった。

(エ) 午前8時16分、原告従業員らが北港工場に到着すると、被告の街宣車及びマイクロバスが各2台、被告のA22執行委員、A13執行委員、A10執行委員及びA18執行委員を含む被告組合員が約70ないし80名、北港工場の出入門に集まって出入門を封鎖し、うち数名は原告の許可のないまま北港工場構内に立ち入っており、また、北港工場の外から、食堂に設置されていた防犯カメラ2台を、組合旗とガムテープで包み、撮影ができない状態にしていた(証拠<省略>)。午前8時32分頃までの間、次のようなやりとりがされ、原告の従業員は、北港工場への入港を諦め、港工場へ向かった。

(A7)何ですか?これは?中に入りたいんですが。

(A13)ストライキや!先日のスト破りの件を謝罪しろっ!09年度春闘の履行を行え!

(A7)謝罪するようなことはしてへん。これじゃあ業務がでけへんやないの。それにおたくらが何で勝手に場内入ってんの?

(A13)関係あれへん!あかーん!。入らさーん!謝れ!

(A7)謝罪するようなことはしてへん!

(A13)社長呼べ!謝罪せえ!

(A7)呼べへん!

(A10)あんたじゃ何の責任もとられへんやろ!社長呼べ!スト破りしたんやぞ!

(A7)スト破りしてない!謝れへん!社長は呼べへん!

(A13)A1呼べ!A1呼べ!あんたじゃ解決できへんやろ!

(オ) (エ)のやりとりの間、原告従業員らがビデオ撮影を行っていたが、被告組合員らは、撮影自体を妨害するとともに、「謝れへんねやったら帰れー!コラァー!」、「なんで場内に入ったらあかんのじゃコラァー!」、「分会事務所あるやろ!コラァー!」、「謝罪せんかいコラァー!」、「社長呼べーボケェー!」、「謝らんかいボケェーッ!」、「帰れボケェー!」、「帰らんかいコラァー!」等と、時に拡声器を使用して大声で騒ぎ立てていた。

(カ) 午前10時50分頃、原告従業員らが北港工場に到着した。被告組合員らは、「中に入ってええで。せやけどビデオ撮るのはやめろよ。事務所で話合いしようや」などと言った。事務所内で、A7北港工場長とA23執行委員及びA24執行委員が話合いを始めたが、被告の要求の内容は従前同様、スト破りを謝罪せよ、09年春闘を履行せよというものであり、話合いは平行線であった。

(キ) 午前11時3分頃、被告組合員約60ないし70名が港工場を訪れ、原告の許可なく、従業員用に区分された駐車場の通路部分にマイクロバス3台と街宣車1台を駐車したため、A21経営管理部係長は、自車に割り当てられた区画までたどり着くことができなかった。A13執行委員らは、受付の原告従業員に対し、原告代表者を出すよう要求したが、不在であると言われても退去せず、午前11時50分頃までの間、「スト破りの件謝罪せよ」、「09春闘の交渉をせよ」と繰り返し、また、午前11時55分頃には、港工場1階事務所前で演説とシュプレヒコールを行った。

(ク) 午後零時20分頃、被告組合員約70名が再度北港工場を訪れ、出入門付近に約50名、事務所前に約20名が集まり、午前中と同様の状況となった。午後2時23分頃、A7北港工場長が「どれだけ話しても一緒なので帰ってくれ」と告げ、被告組合員らは退去した。

キ 5月20日(証拠<省略>、弁論の全趣旨)

(ア) 午前11時16分頃から午前11時20分頃までの間、被告のマイクロバス及び街宣車各1台が、北港工場前の出入門前に停車した。午後1時20分頃から午後1時45分頃にも、同様に被告のマイクロバス及び街宣車各1台が北港工場を訪れ、A22執行委員ほか3名が出入門付近を歩き回った。

(イ) 午前11時20分頃から午前11時27分頃までの間、被告のマイクロバス1台が堺工場手前の構内道路に停車し、街宣車が堺工場敷地内に入り、構内道路に停車した。被告組合員らは、街宣車の中からビデオ撮影をし、また、約40名が降車して外を歩き回った。

(ウ) 午後零時25分頃、被告のマイクロバス及び街宣車各1台が堺工場手前の構内道路に停車し、午後零時37分頃、堺工場を出発するミキサー車の後を付けるようにして堺工場を退去した。その後も、午後1時18分頃までの間、これらの車両が堺工場横の公道に来ては退去することを繰り返した。

ク 原告は、被告に対し、5月25日付けで、同月14日及び19日に行われた抗議活動は正当なストライキ権の行使とは到底認められない業務妨害行為であるとして、以後同様の行動を繰り返した場合には、直ちに民事・刑事を問わず法的措置を講じる旨の「通知・警告書」を発し、これは、同月26日、被告に到達した。(証拠<省略>)

ケ 5月25日(証拠・人証<省略>、弁論の全趣旨)

(ア) A21経営管理部係長は、原告の指示で、午前6時45分頃神戸工場に赴いた。午前5時20分頃A11神戸工場長が、午前6時5分頃輸送従業員であるA25が神戸工場に到着して神戸工場に入っていたが、午前6時15分頃、被告組合員約70ないし80名が、出入門付近に到着した。被告組合員のうち数名は、神戸工場の敷地内に無断で入り、防犯カメラに組合旗をかぶせた。また、被告組合員らは、出入門を塞ぐ人垣のような状態を作り出し、原告従業員らが入場しようとすると、つきまとったり前に立ち塞がったりするなどし、午前8時4分頃には、原告従業員らが入場を試みたのに対し、「スクラム組んでー」とのかけ声のもと、出入門の前に並び、相互に腕を組んで、原告従業員らの入場を阻止し、その際、「スト破りすんな!」、「X社帰れー!」、「社長呼べー!社長を」等と罵声を繰り返し、街宣車からも同内容の音声を発した。A7北港工場長は、警察に通報し、臨場した警察官は、被告組合員及び原告従業員に話を聞き、A11神戸工場長に対し、暴行・脅迫があったときは再度通報するようにと言って引き揚げていったが、その後も、被告組合員らが出入門付近に集まっていたことにより、原告従業員らが入構できない状態が続き、午前11時30分頃、原告従業員らは港工場に向かった。午後1時頃、原告従業員らが神戸工場に行ってみたところ、被告組合員らがまだ出入門付近にとどまっていたため入場できず、被告組合員らが退去して原告従業員らが神戸工場に入場できたのは午後3時20分頃になってからであった。この間、原告従業員らも、吹田事件の際に作っていた「営業妨害はやめろ」などといったプラカードを掲げていた。

(イ) 同日、納入時刻が午前9時のmセンター現場(施工者はn建設JV、販売店は株式会社o〔以下「o社」という。〕)及び納入時刻が午後3時のp病院現場(施工者はq建設株式会社〔以下「q建設」という。〕、販売店はr株式会社〔以下「r社」という。〕)への出荷が予定されていたが、上記(ア)のとおり原告従業員らが神戸工場に入場できなかったため、出荷作業をすることができなかった。当時、原告からb協組に出向していたA26営業部課長(肩書は当時。以下「A26課長」という。)は、本来の勤務場所である本社に出勤する途中で(ア)の状況の連絡を受け、急きょ神戸工場へ向かい、原告従業員らが神戸工場の構内に入れない事態を確認し、o社に状況を連絡した上、同日原告が納入する予定であった生コンを別の工場から調達できるかを確認したが、原告に代わって生コンを納入(代納)できる工場はなく、p病院現場についても同様の確認をしたが、やはり代納可能な工場はなかった。A26課長は、A14常務、A11神戸工場長及びr社の担当者とともにq建設に対する謝罪に赴いた。現場では、生コンの打設のためのポンプ車や作業員を用意していたが、神戸工場からの生コンが納入されなかったためこれらの費用が無駄になり、上記各販売店は、後記(2)のとおり、原告にこれらの費用を損害として賠償するよう求めた。

(ウ) この日までの事態を受け、A14常務は、翌26日、b協組に対し、5月25日の納入不能が被告の行為によるものである旨経緯を説明するとともに、北港工場でも被告が同様の抗議活動を行っているとの説明をした上、現場や販売店に迷惑がかかるので、現時点では割当てを受けられなくても仕方がない旨述べたことから、この後、b協組は、神戸工場への出荷割当てをしなくなった。6月2日頃、A14常務がb協組に対し、出荷の割当てを求めたが、b協組は、原告が自ら施工者と販売店の了解を得ることを出荷割当ての条件としたため、A26課長は、原告に割当て可能とされた現場の販売店に対し、直接、原告に生コンを納入させてほしいと依頼したが、労使問題が解決するまでは納入を控えてほしいと断られ、以後、6月8日まで、b協組が神戸工場に出荷を割り当てることはなかった。6月7日になり、lマンション現場の販売店であるs社から納入を了承する旨の回答があり、同月8日、原告に上記現場における生コン納入が割り当てられたが、後記シのとおり、結果的には納入することができなかった。

コ 5月26日(証拠・人証<省略>、弁論の全趣旨)

午前6時15分頃、被告組合員多数名が、街宣車及びマイクロバス各2台を伴って神戸工場を訪れ、そのうち複数名が神戸工場の敷地に入ってきたため、A11神戸工場長及びA27神戸工場次長は、事務所を施錠して事務所内で待機した。午前7時15分頃、神戸工場の従業員らが出勤したが、門前に多数の被告組合員が集結していたことから神戸工場に入構することができなかった。また、被告組合員らは、原告の防犯カメラを組合旗で隠した。被告組合員らは、午後3時15分頃、シュプレヒコールを行って退去したが、それまでの間、A11神戸工場長らは、事務所の外に出ることができず、手洗いにも行けない状況であった。

サ 6月4日(証拠・人証<省略>、弁論の全趣旨)

(ア) 原告は、北港工場に勤務する原告従業員らが、被告の抗議活動により入構を阻止されることを避けるため、同従業員らを、通常より早い午前5時30分に出勤させ、ミキサー車の運転手も同時刻までに北港工場内に待機させた。午前6時4分頃、被告組合員約70ないし80名が出入門付近に到着し、出入門を塞ぐように集まり、原告の防犯カメラを組合旗で覆って撮影できない状態にした。A21経営管理部係長は、5月19日同様、上司から指示を受けて本社から北港工場に赴いた。

(イ) 午前6時52分頃、被告組合員らは、A16北港工場次長に対し、スト破りの謝罪と09春闘の履行を求めるなどと言い、ストライキを決行するからという理由で出入門を開けるよう要求した。午前7時35分頃、A13執行委員は、A11神戸工場長に対し、「ストライキやで。門開けてや」と求め、A11神戸工場長は「ストライキはええけど、今日は出荷が入ってるから、出荷はやるで」と答えた。A13執行委員は、「出荷したらスト破りになるで。大問題になるで」と述べた。

(ウ) 午前8時頃、原告は、出入門を開け、生コンを積載したミキサー車2台を出場させて、出入門を閉めた。午前8時6分頃、3台目のミキサー車を出発させたところ、被告組合員らは、北港工場内になだれ込み、場内車庫の屋根に設置された防犯カメラを組合旗で覆った上、事務所に向かってきた。原告従業員らは、出荷業務の事務作業(伝票の受渡し等)や工場機械の管理(遠隔操作等)を行う事務所内に被告組合員らを入れないように、事務所の扉を施錠したが、被告組合員らは、拡声器を用いながら「事務所に入れさせろ」などと叫び(証拠<省略>)、午前9時20分頃にはミキサー車の運転手に伝票を渡すため原告従業員がドアを開けた隙に事務所になだれ込もうとしたことから、A21経営管理部係長らが、ドアの枠の上に両手をつき、事務所に入ろうとする被告組合員らを押しとどめ、被告組合員らと原告従業員らとの間で約2時間の押し合いになった(証拠<省略>)ほか、事務所内で電話の声が聞き取りにくくなるなどした。

(エ) 被告組合員らは、9台目のミキサー車の運転手が、事務所から伝票を受領して出発しようとした際、ミキサー車の開いたドアと車体との間に体を入れ(証拠<省略>)、運転手がドアを閉められないようにした。

(オ) 出入門付近にいた被告組合員らは、出入門の片側を閉めて開けられないようにし、反対側の歩道と車道との境目にスピーカーを置いたことから、同門を出ようとするミキサー車の運転手は、これを損壊しないかと気になり、出場できない状態となった。午前9時42分頃、警察官が到着し、被告組合員らは、出入門の片方を開けられないようにすることを止め、スピーカーを移動させたことから、ミキサー車が出入りできるようになった(証拠<省略>)。

(カ) 北港工場に勤務する原告従業員で被告組合員であるA5は、この日の被告の抗議活動には参加せず、出荷するミキサー車(前記(ウ)の9台目のミキサー車)を運転していた。

(キ) 被告組合員らは、午後1時5分頃、北港工場を退去した。

(ク)a この日、北港工場からは、○○k丁目の現場(施工者はt建設株式会社〔以下「t建設」という。〕、販売店は株式会社u〔以下「u社」という。〕)への生コンの納入が予定されていた。同現場には、毎週金曜日と月曜日に北港工場から生コンを納入することとされていた。被告組合員らは、午前9時頃、街宣車に乗り、8名で同現場へ赴き、午前11時30分頃までの間、拡声器も用い、「X社は09春闘を解決せよ!」、「X社はスト破りについて謝罪せよ!」などと大声でシュプレヒコールを行い、歩道に組合旗を立てたり、「X社は09春闘を早期に解決せよ」と記載された横断幕を掲示したりした(証拠<省略>)ほか、t建設は原告を使うなという趣旨を大声で叫び、午後1時頃からの約10分間は、人数を約30名加え、同現場前の歩道で同様の街宣活動を行った。

b 被告の上記街宣活動を受け、u社の担当者は、a協組に対し、被告組合員らが現場に来ているので何とかしてほしいと連絡した。a協組は、役員を現場へ向かわせるとともに、北港工場のA16次長に対し、北港工場からも誰かを説明に行かせるようにと要請したことから、同次長は、A28北港工場技術課長(肩書は当時。以下「A28技術課長」という。)に、同現場へ行くよう指示した。A28技術課長は、u社及びt建設の各担当者に対し、5月中旬から原告の工場で被告の抗議活動が行われていること、原告としても努力していることなどを話したが、両名は、A28技術課長に対し、何度も、被告の街宣活動を止めさせるよう求めた。このほか、t建設の現場副所長が、A28技術課長に対し、被告の街宣活動により近隣住民から多数苦情が寄せられている、翌週月曜日にも同じように被告が来るようであれば、別の工場から来てもらわなければ困るなどと述べ、また、u社の担当者は、t建設の現場所長が、翌週月曜日の打設時に上記のようなことが1%でもあれば、原告は使えないと言っている旨述べた。6月4日午後に届いた翌週月曜日の割当表では、原告の北港工場は、○○k丁目の現場からは外されていた。

c 以上のとおり、原告は、6月4日に予定されていた○○k丁目の現場への納入は行うことができたものの、被告組合員らが同現場へ赴いて街宣活動を行ったため、翌週月曜日以降、同現場への生コンの納入を断られた。

シ 6月8日(証拠・人証<省略>、弁論の全趣旨)

(ア) A21経営管理部係長らは、被告組合員らが神戸工場に来ることを予想し、午前5時ないし5時半頃神戸工場に赴き、被告組合員らの入場を防止するため出入門にロープを張ったが、午前6時頃神戸工場に到着した被告組合員らのうち約10名が裏通路から、約50名が、原告従業員らの制止にもかかわらず上記ロープをくぐって敷地内に入場し(証拠<省略>)、防犯カメラを組合旗で隠した(証拠<省略>)。

(イ) 入場した被告組合員らは、事務所に入ろうとしたり、生コンを積んで出荷に向かうミキサー車に密着するように立ち、運転手の乗車やミキサー車の出発を妨げた。A10執行委員は、出場しようとするミキサー車の横に密着するように立ち(証拠<省略>)、ミキサー車が動き出しているのに、その前輪に密着するように立ったまま移動しようとしなかったため(証拠<省略>)、午前8時50分頃、A9吹田工場長が、A10執行委員を後ろから引き、両名は転倒した。A10執行委員は、午前10時頃、救急車で病院に運ばれ、全治10日の背部腰打撲傷、左肩打撲との診断を受け、他方、A9工場長は、約10日間の安静加療を要する右肘打撲との診断を受けた。

(ウ)a 同日、モルタルと生コンを積んだミキサー車が1台ずつ、納入先であるlマンション現場に向けて神戸工場を出発したが、同現場では、被告組合員らが施工者の現場担当者に対し、原告が労使間の問題で被告と争議になっている、原告からの出荷を受け入れるということはスト破りに加担したということになるなどと言うとともに、担当者を執拗に追い回すなどし、担当者らは同現場での生コン打設を断念した。A14常務とA26課長は、現場事務所へ謝罪に赴いたが、販売店の担当者から、労働組合員が来て街宣活動をするため近隣住民に迷惑がかかるので打設を断念する、打設のために用意していたポンプ車や作業員等の費用は原告に請求すると告げられた。2台のミキサー車は神戸工場に戻り、積んでいたモルタルと生コンを廃棄した。

b この日の後6月17日頃までの間、A26課長は、出向先であるb協組の職員としての立場で、神戸工場から生コンを納入させてもらえる現場がないかを探したが、いずれの販売店も、被告の原告に対する抗議活動の状況を知っており、被告との問題が解決するまでは納入を控えてほしいとの意向を示したため、その後、本件仮処分決定が発された後である9月20日までの間、神戸工場への出荷割当てはなされなかった。

(エ) 午後2時30分頃、被告のマイクロバス及び街宣車各2台が、吹田工場の敷地に入り、被告組合員約30名が降車し、うち約10名が事務所に来て、神戸工場でA9吹田工場長がA10執行委員に暴行を加えたと主張し、その謝罪を求め、午後3時頃退去した。

ス 6月11日、前提事実(6)(ア)のとおり、原告は、被告を債務者として、一切の営業妨害の禁止を求める仮処分を申し立てた。

セ 6月18日(証拠<省略>、弁論の全趣旨)

(ア) 午前6時10分頃、被告組合員約80名が神戸工場出入門付近に集まり、原告従業員が出入門に張ったロープをくぐって工場敷地内に侵入し、午前10時頃までの間、構内をうろつき、防犯カメラを組合旗で隠すなどし、A13執行委員がA11神戸工場長に対し「ストライキ決行中。09春闘を履行せよ。先日の暴力行為を謝罪せよ」などと迫った。

(イ) 午前10時58分頃、上記被告組合員らは、吹田工場を訪れた。原告従業員が門を事前に閉めていたため、被告組合員らは構内には入らなかったが、門前で「暴行したA9工場長は謝罪せよ」などという街宣を繰り返し、午前11時30分頃退去した。

ソ 9月8日、前提事実(6)アのとおり、本件仮処分決定が発され、同月17日、起訴命令が発され、同命令は同月21日原告に送達されたが、手違いで原告の代表者や役員がこれを把握するに至らなかったため、原告は、同起訴命令に定められた期間である10月20日までに本件仮処分決定に係る本案の訴えを提起しなかった。(証拠<省略>)

タ 10月1日(証拠<省略>、弁論の全趣旨)

午前6時30分頃、被告は、組合員7名で神戸工場に赴き、b協組の構造改革が進んでいないなどとしてストライキを行うと宣言し、出荷すると大問題になると述べて出荷を取りやめるよう要求し、原告従業員のビデオ撮影に対して大声をあげて威迫するなどした上、原告側が撮影していたビデオのデータを消去し、午前8時38分頃退去した。これにより、当日予定されていた出荷は約1時間30分遅延した。(前提事実(7)イ)

チ 12月3日、原告は、本件訴えを提起した。(顕著な事実)

ツ 12月8日、大阪地方裁判所は、被告の申立てに基づき、起訴命令の定めた期間内に本案の訴えの提起がなかったことを理由に、本件仮処分決定を取り消した。原告は、上記申立てに対し、起訴命令の送達を受けたが、原告の代表者や役員が把握していなかったことを理由に、本件仮処分命令を取り消さないよう求めたが、同裁判所はその主張を採用しなかった。(証拠<省略>)

テ 平成23年1月1日(弁論の全趣旨)

前提事実(7)ウのとおり、被告組合員らは、午前7時頃から午前7時30分頃までの間、原告代表者の居住するマンションの前に複数名で集結し、歩道に組合旗を立て、拡声器を用い、「X社A1社長は謝罪しろ、出て来い」などと叫んだ。

(2)  原告に対する抗議活動に関する刑事事件と被告の態度

ア 被告は、08春闘における要求事項である輸送運賃の引上げについて、原告が輸送会社と交渉中であったところ、被告に対して具体的な回答をしないことを理由に、平成20年7月2日午前11時1分頃から同日午前11時26分頃までの間、吹田工場において、ミキサー車のドアと車体の間に立ちはだかってドアを閉められなくさせ、運転席付近に立ち続けるなどしてその発進を妨げ、モルタル製品の出荷を不能にしたという威力業務妨害罪により、その組合員らにおいて有罪判決を受け(1審平成21年11月17日、控訴審平成22年5月14日)、同判決は確定した。(前提事実(3)イ(ウ)の吹田事件、証拠<省略>、弁論の全趣旨)

イ 前記(1)オの5月14日の抗議活動について、A6副執行委員長ほか12名の被告組合員は、前提事実(5)のとおり、威力業務妨害罪により有罪判決を受け、同判決は確定した。

ウ 被告は、これらの刑事事件により、その組合員が罪に問われたことを踏まえ、同様の行為を行わないようにするということをその内部で確認したり、話し合ったりしたことはなく、本件抗議活動は正当なものであると考えている。(人証<省略>、弁論の全趣旨)

エ A13執行委員は、本件証人尋問において、d社問題及び09春闘問題はいまだ解決しておらず、原告の対応は不誠実であり、被告として不満である旨証言している。(証人A13、弁論の全趣旨)

オ 被告は、09春闘、10春闘及び11春闘に関し、府労委に対し、不誠実団交を理由に救済命令を求める申立てを行った。また、12春闘及び13春闘に関しては、原告と団交を行っている。もっとも、A15執行委員は、本件証人尋問において、交渉が打開しない場合は、ケースバイケースであるがピケッティングを行う可能性もある旨証言している。(人証<省略>、弁論の全趣旨)

(3)  生コンを納入できなかったことにより原告に生じた影響・損害(証拠<省略>、弁論の全趣旨)

ア 前提事実(3)アのとおり、a協組及びb協組においては、これらの協同組合が一括して生コンの注文を受け、これを各組合員のシェアに応じて各工場に割り当てていたところ、割当てを受けた工場の労務問題が原因で生コンの納入ができなかった場合、これにより注文主に生じた損害は、当該工場を運営する組合員が直接注文主に賠償することが慣行となっていた。

イ(ア) 原告は、5月25日の神戸工場における被告の抗議活動により、同日生コンの納入を予定していたp病院現場及びmセンター現場への出荷ができなかった。そのため、これら現場で生コンの打設ができなくなり、生コンを打設する際に必要なポンプ車及び人工代が無駄になった。上記各現場の販売店は、同年6月30日付けで、原告に対し、それらの合計37万6530円を損害賠償として請求し、原告は、これを支払った。

(イ) 原告は、6月8日に生コンの納入が予定されていたlマンション現場において同日行われた被告の抗議活動により、同現場に生コンを納入することができなかった。そのため、(ア)同様、当該現場の販売店は、同年7月12日付けで、原告に対し、当日の生コン打設のため用意していたポンプ車や作業員その他の費用として合計26万4600円を請求し、原告は、これを支払った。

ウ 上記イ(ア)以降、神戸工場は、b協組から出荷の割当てを受けられなくなった。A14常務は、6月2日、q建設の担当者に求められていた5月25日の納入不能に関する報告書を提出した後b協組に赴き、翌3日の出荷割当てを要請したが、割当てが検討された現場の販売店から、被告が現場に来ると困るという理由で断られたため、割当てを受けることができなかった。同月8日、lマンション現場が神戸工場に割り当てられたが、上記イのとおり被告の抗議活動により生コンの納入ができなかったことから、神戸工場に対する割当てがなされるめどが立たない状況となり、9月20日まで神戸工場からの出荷は全く行われなかった。

エ 原告は、神戸工場における出荷につき、平成23年3月末日時点で行われた赤黒調整(平成22年度のみでなく、平成23年3月末日までに累積していた実績とシェアの差を清算したもの)において、シェア(6.25%)に対し332m3出荷実績が多い状態(黒字)にあったため、b協組に対し、調整金として94万1220円(1m3当たり2700円、消費税込み)を支払った。(証拠<省略>、弁論の全趣旨)

(4)  本件抗議活動に対する原告の対策(証拠・人証<省略>、弁論の全趣旨)

原告は、5月14日、同月19日、同月25日及び同月26日の抗議活動において、被告組合員が、原告の工場に設置されていた防犯カメラを組合旗でくるむなどして撮影できないようにしたこと、また、原告従業員が本件抗議活動をビデオ撮影しようとするのを、被告組合員らが手や傘などで遮ったりしたことから、被告の原告に対する抗議活動の状況を記録し、将来に向けて証拠として保存するため、新たにビデオカメラやICレコーダー等を購入したほか、組合旗の竿の届かない高い場所にカメラを設置するための工事を行い、また、監視カメラシステムのリース契約を締結して、別紙「監視・抑制・記録化のために生じた費用一覧表」のとおり合計473万3898円を支出した。

2  争点に対する判断

(1)  争点1(本件抗議活動の内容及び違法性)について

ア 本件抗議活動の内容について

(ア) 被告は、別紙一覧表「被告の認否・主張等」に記載のとおり、各日の抗議活動の状況について原告の主張を争うが、前記1(1)に掲記の各証拠等によれば、同記載のとおり認められ、これを覆すに足りる証拠はない。

(イ) 被告は、別紙一覧表記載のとおり、本件抗議活動において原告従業員らがその工場に入ることを妨害したことはない、原告従業員らは工場に入ろうとしていなかったと主張し、証拠(証拠・人証<省略>にも同趣旨の記載・供述があるが、前記1に掲記の証拠(とりわけDVD映像である証拠<省略>)によれば、工場の出入門前に来た原告従業員らは、集まった被告組合員らに対し、工場に入れてほしいと頼み(この点については、被告の執行委員である証人A13も本件証人尋問において認めるところである。)、また、他の従業員に対し「中入るで」と呼びかけるなどして入場の意思を明示していること、しかしながら被告組合員らが「ストライキや」、「謝れ」、「関係ないやつ(a協組の業務執行につき決定権のない者との意味と認められる。)は帰れ」などと怒号するなどしてこれに応じなかったこと、原告従業員らが出入門に近づこうとしても、出入門前に集まった被告組合員らは、道を開けようとしないばかりか、入場させてほしいと言う原告従業員らに詰め寄って付きまとったり追い回したりし、また出入門をふさぐように横に並び、互いに腕を組んでスクラムを組んだり、あるいは出勤したミキサー車運転手の自動車を多数名で取り囲むなどして、原告従業員らが入場しようとするのを妨害していたことが明らかに認められる上、被告組合員らは、些細な身体的接触も暴行であると主張して原告らを非難することから(人証<省略>。なお、証拠<省略>によれば、被告組合員らは、6月4日、北港工場において、原告従業員らが抵抗しているにもかかわらず無理やり事務所内に入ろうとし、事務所の出入口を塞いでいる原告従業員らの身体を押して「痛い痛い痛い」などと叫んでいることが認められる。)、原告従業員らとしては、被告組合員らの任意の協力なくして出入門を通過することはできなかったことをも併せ考えれば、被告の上記主張及び証拠は採用することができない。

(ウ) 被告は、被告組合員らが原告の許可なくその工場敷地内に立ち入ったことはないと主張するが、原告は、平成20年の吹田事件において、多数の被告組合員らによる出荷妨害を受けた経験があったこと(認定事実(2)ア)、4月20日にA13・A15両執行委員が神戸工場を訪れた際には、原告従業員は被告組合員らの入場を警戒して出入門にロープをかけたこと(争いがない。)、6月4日、北港工場において、1台目と2台目のミキサー車が出発するまで出入門を閉じ、ミキサー車が出発した後には再び門を閉じて、同日集まっていた被告組合員らは門の外に留まっていたが、3台目のミキサー車が出場する際に門が開くと次々に入構してきたこと(証拠<省略>)、同月8日は、神戸工場において、原告従業員が出入門にロープを張っていたのに、被告組合員らはこれをくぐって入構してきたこと(証拠<省略>)が認められ、これらの事情に照らせば、被告組合員らの工場敷地内への入場が、原告の意に反したものであったことが認められる。被告は、北港工場内に組合事務所があり、従前から自由に出入りしていたなどと主張するが、上に指摘した事情に照らし、上記認定を覆すに足りない。

なお、被告は、4月15日、同月26日、同月27日及び5月20日の抗議活動について、原告と話合いをしたり、話合いを求めただけか、それさえも求めず、原告に対し一方的に強制する事態が生じたものではないから、それが本件抗議活動に関する損害賠償請求や差止め請求の理由にはならないと指摘するが、認定事実1(1)ア及びイのとおり、それらの抗議活動は、原告に対し、被告の要求の実現を迫るとともに、それに応じなければ、その後実力行使を伴う抗議活動を行う旨を予告したものであったり、今後もそれらを行うことを示す示威行動であることが明らかであり、4月15日については、そのために出荷が遅れるなどの影響が出たものであるから、その後の実力行使に及んだ抗議活動と一体のものとして損害賠償請求や差止め請求の根拠事実とすることには理由がある。

(エ) 被告は、原告の生コンの出荷を妨害したことはなく、本件抗議活動は平和的説得活動であったと主張するが、証拠<省略>によれば、6月4日、北港工場において、被告組合員らは、ミキサー車の運転手が運転席に乗り込むと、開いたドアと車体の間に立ち、運転手がドアを引いているにもかかわらず、その位置を動こうとしないため、運転手がドアを閉められない状況となっていたことが認められるほか、証拠<省略>によれば、前記認定のとおり、被告組合員らが歩道と車道の境目に置いたスピーカーが気になり、ミキサー車の運転手が出場をためらう状況となっていたことが認められる(被告は、ミキサー車の運転手が出場しなかった事実自体は認めながら、納入までの時間が厳格に限られている生コンの出荷を担う運転手が、出荷のための出場をためらう合理的理由となるような事情は何ら主張しておらず、かえって、上に挙げた証拠によれば、運転手が出場しなかった理由は、被告組合員らの置いたスピーカーの存在をおいて他には認められない。)。また、証拠<省略>によれば、同月8日には、神戸工場において、被告組合員らが複数名でミキサー車に密着して立っていたためミキサー車が出発できず、また、A10執行委員は、出発しようとするミキサー車に密着するように立ち、ミキサー車が前進しているにもかかわらずその場所に立ったままであったことが認められる。これらが、いずれも実力により出荷を阻止する行為にほかならず、平和的説得活動といえるようなものでないことは明らかであり、被告の上記主張は採用することができない。

(オ) 被告は、原告の設置した防犯カメラを組合旗で隠したことはないと主張するが、5月14日に北港工場の防犯カメラで撮影した映像は、組合旗だけが写っている状況であったこと(証拠・人証<省略>)、同月19日には、北港工場の防犯カメラのレンズの前に組合旗が来るように組合旗がガムテープで固定されていたこと(証拠<省略>)、6月4日北港工場を訪れた被告組合員は、出入門の外から、1本だけ明らかに他より長い旗竿の先に組合旗を付け、防犯カメラに組合旗をかぶせるように旗竿を固定したこと(証拠<省略>)、6月8日には、神戸工場の敷地に侵入した被告組合員が、長い旗竿で、駐車場の屋根に設置されていた防犯カメラに組合旗が当たるように慎重に旗竿を動かし、これを支えていること(証拠<省略>)、被告組合員らは、その抗議活動をビデオカメラで撮影する原告従業員に対し、「撮らんでええ」、「撮らんで撮らんで」、「なんでビデオ撮るねん」などと威圧的に言い、手、傘や組合旗をそのレンズの前にかざすなどしたこと(証拠<省略>)が認められ、これらによれば、被告組合員らが故意に原告の防犯カメラを組合旗で隠し、撮影できないようにしたことが明らかである。

(カ) 被告は、6月4日以降、原告が○○k丁目の現場へ生コンを納入しなかったのは自らの意思によるものであって、被告の抗議活動によるものではないと主張するが、生コンの製造販売を主たる業とする原告が、納入の割当てが事実上決まっていた現場に対して生コンを納入しない合理的な理由となるべき事情は何ら主張立証しておらず、かえって、証拠(証拠・人証<省略>)によれば、被告は、○○k丁目の現場に8名で赴き、原告を非難する内容の横断幕を掲げ、拡声器を用いてシュプレヒコールを行ったこと、原告は、t建設とu社の担当者から被告の街宣活動を止めさせるよう求められるなどし、翌週月曜日からの割当てがなくなったことが認められるのであり、これらによれば、原告の○○k丁目の現場への生コン納入が不可能となったのは被告の抗議活動を原因とするものであることは明らかであるから、被告の上記主張は採用することができない。

(キ) 被告は、6月8日にlマンション現場において生コン打設が中止になったのは、鉄筋の手直しが理由であると主張する。

しかし、証拠<省略>によれば、被告組合員らは、同現場に赴き、現場担当者に対し、「どないなっとん」、「ちゃんと話しよ」、「理由ないことないやん」、「うちらが妨害したようなあれになっとるけども、妨害するようなこと言うてへんやん」、「なんで打たれへんかだけ」などと問い詰め、困惑する現場担当者の様子をビデオ撮影しながら、「ちゃんとはっきり言うとかんとあとでえらい問題なるで」などと言い、その場を去ろうとする現場担当者の後を追い、原告からの生コンを受け入れるということはストライキ破りに加担したという位置づけになるなどと申し向けたこと、それに対して現場担当者は、生コン打設中止の理由として鉄筋の手直しと述べたことが認められる。

このような経緯によれば、現場担当者の上記の発言は、被告組合員らによる脅迫に耐えかね、これを逃れるためにしたものであることが明らかであり、打設中止により無駄になったポンプ車代等の費用が原告に請求されていることをも併せ考えれば、同日の打設中止の真の理由が、現場における鉄筋の手直しなどでなかったことは明らかであって、被告の上記主張は採用することができない。

イ 本件抗議活動の違法性について

(ア) まず、被告が本件抗議活動を行った目的の点についてであるが、前提事実及び認定事実によれば、被告は、d社問題、09春闘問題及びb協組問題を要求事項として、原告に対し本件抗議活動に及んでいるところ、d社問題と原告との関係は、原告代表者がa協組の役員を務めているというものにすぎず、原告自身がd社問題の解決の主体となるべき立場にはない上、d社問題は、生コン業界における価格の下落を防止するため、d社にダンピングを止めさせるべきであるということを内容とするものであり、生コンの価格の上昇が生コン会社で働く労働者の賃金等に反映される可能性はあるにしても、その影響は極めて間接的なものであって、これを目的とする本件抗議活動が、使用者に対する正当な労働組合活動といえるかどうかは、多分に疑問の余地があるというべきである。

また、b協組問題についても同様であり、原告はb協組に加盟する工場を有し、b協組に出向者を出している者にすぎず、神戸地区における生コン工場の集約や生コンの価格の値上げに関わる問題の解決の主体となるべき立場にはないから、b協組問題の解決を目的として本件抗議活動を行うことが、使用者に対する正当な組合活動として保護されるべきかどうかも、多分に疑問の余地がある。

なお、09春闘問題については、確かに被告の組合員の労働条件に関するものではあるが、前提事実(3)イ(イ)、(ウ)のとおり、原告との交渉は平行線のままで、個別交渉は平成21年5月22日を最後に打ち切られ、その後、平成22年になって原告に団体交渉を申し入れたものの、拒否回答を受け、その後、本件抗議活動に赴くまで、被告において何ら具体的な行動はとっておらず、本件抗議活動の最初である4月15日の抗議活動においても、特段09春闘について申入れをしていなかった(認定事実(1)ア(イ))のであり、(人証<省略>)も本件抗議活動の主たる目的はd社問題である旨証言していることをも併せ考慮すると、そのために本件抗議活動を行ったとする点も大いに疑問が残るところである。

(イ) そして、本件抗議活動の態様についても、認定事実(1)のとおり、被告は、5月14日以降、その組合員多数において原告の各工場を訪れ、原告従業員らに対し威圧的な言辞を用いてその入場を妨げたほか、出荷しようとするミキサー車のドアを閉められないようにしたり、ミキサー車が前進を始めているにもかかわらずその横に密着して立ったままでいたり、出入門付近に障害物を置くなどしてその出荷を実力で妨害し、更には納入先に赴いて拡声器や組合旗、横断幕等を用いた街宣活動等を行って、納入先に原告から納入される生コンの受入れを拒絶させるといった方法により、原告の業務を実力で妨害したものであり、同月26日には、原告から上記活動は違法であり、刑事及び民事上の法的措置を講じる旨の警告を受けても、その態様を何ら改めず、本件仮処分決定を受けた後も、依然として、それに違反する抗議活動を行った(認定事実(1)タ)というものである。

(ウ) 以上によれば、本件抗議活動は、その目的についても、上記のとおり、労働組合活動としての正当性や必要性の程度はそれほど高いものではない上、その態様は、原告の自由意思を抑圧しあるいはその財産に対する支配を阻止するような行為に該当し、また、使用者の業務運営を不当に妨げるものであることは明らかであって(昭和33年最判、平成4年最判、平成11年最判各参照)、原告に対する任意の要請ないし交渉申入れ等として社会的相当性を認められる範囲をはるかに超えており、違法の評価は免れないというべきである。

(エ) 被告は、その主張する態様を前提に、本件抗議活動が平和的説得活動の範囲にとどまると主張し、あるいは本件抗議活動に至った経緯をるる主張するが、上記(ア)、(イ)に指摘したところに照らし、いずれも上記(ウ)の判断を左右しない。

(2)  争点2(本件抗議活動の差止め請求の可否)について

ア 認定事実(2)のとおり、被告は、平成20年にも原告に対する業務妨害によりその組合員が有罪判決を受けた上、さらに、認定事実(1)のとおり同様の本件抗議活動に及び、その一部について、参加した被告組合員らが有罪判決を受けたにもかかわらず、今なお本件抗議活動の正当性を主張し、本件訴訟において、今後同様の行為には及ばないことを約束する内容の和解にも応じていない(顕著な事実)。これらによれば、被告は今後も、原告あるいは原告代表者その他の関係者が関わる事項に関する要求行為について満足できる回答が得られなければ、本件と同様の行動に及ぶ蓋然性が認められる上、本件抗議活動により、原告は、各工場における業務ができなくなったばかりでなく、販売店から生コンの納入を断られ、その信用が著しく棄損されたことに照らせば、差止めの必要性が肯定されるというべきであり、認定事実(1)のとおり認められる本件抗議活動の内容に照らせば、主文第1項のとおりの差止めを命ずるのが相当である。

イ 被告の主張について検討する。

(ア) 被告は、原告の主張する差止めの必要性はないと主張し、その理由の一つとして、本件抗議活動が平和的説得活動であり、被告が原告に対する業務妨害をしたことがないことを挙げるが、これが採用できないことは、争点1につき前記(1)ア(エ)で検討したとおりである。

(イ) 被告は、本件抗議活動の主たる理由の一つであるd社問題は、d社がa協組を除籍され、別の協同組合を立ち上げたことにより解消されたと主張する。

しかし、被告によれば、d社問題は、d社の廉価販売を根本的原因とする「業界の問題」であり、実質的にはその廉価販売を止めさせることが被告の原告(代表者)に対する要求事項であったものと認められる(被告は、d社がa協組に加入する前から、a協組に対し、d社を含むアウト社に対する働きかけを要請していた〔前提事実(3)ア(イ)〕。)。そうすると、上記のとおりd社がa協組を離れて別の協同組合を組織したからといって、d社あるいはその所属する協同組合が廉価販売を止めない限り、被告にとって必ずしもd社問題が解消したと考えることはできないというべきである。

また、被告は、09春闘問題について、その後の春闘とともに府労委に救済命令を申し立て、そこで解決することとしたと主張するが、被告は、かかる申立てを行うことによる解決を選択する以前に、現に09春闘を理由として本件抗議活動に及んでいるのであるから、その後に上記のような選択をしたからといって、被告が今後同様の行為に及ぶ蓋然性を否定するに十分ということはできない。

(ウ) 被告は、6月18日以降の抗議活動が、同月8日までの抗議活動とはその目的・対象・態様を異にすると主張する。

しかし、いずれも、被告の要求事項に対し原告の譲歩を求めて多数の組合員により威迫的な言動を行ったという点は共通する上、同月18日の抗議活動は仮処分申立ての後にされたもの、同年10月1日の抗議活動は本件仮処分決定の後のもの、平成23年1月1日の抗議活動は、本件仮処分決定が行われた後で、かつ、原告代表者の私邸において行われたものであって、使用者(会社)に対するものとして正当化する余地のないものであることに照らせば、被告が本件抗議活動と同様の態様による行動が違法とされるものであるとしてこれを控える意思を有していないことは明らかであり、被告の指摘する事情をもって、被告が今後同様の行為を行う蓋然性を否定することはできないというべきである。

(エ) 被告は、原告が本件仮処分決定の起訴命令に対し訴訟を提起しなかったため、本件仮処分決定が取り消されたことをもって、差止めの必要性がないと主張するが、証拠<省略>及び弁論の全趣旨により認められる次の事実、すなわち、原告が上記起訴命令の定める期間内に訴訟を提起しなかったのは、平成22年9月21日に起訴命令の送達を受けたが、これが手違いで原告の代表者や役員に伝わっていなかったためであること(認定事実(1)ソ)、原告は、本件仮処分決定に係る被告による保全取消しの申立てに対し、起訴命令が送達されたことを原告の代表者や役員が把握していなかったことを理由に本件仮処分決定を取り消さないよう求めたこと(認定事実(1)ツ)のほか、前提事実(6)のとおり、原告は、本件仮処分決定が取り消される前に本件訴訟を提起していることに照らせば、原告が起訴命令の定めた期間内に訴えを提起しなかったことをもって、差止めの必要性を否定することはできない。

(オ) 以上によれば、被告の主張はいずれも採用することができない。

(3)  争点3(本件抗議活動により原告に生じた損害の有無及びその額)について

ア 出荷妨害による損害について

(ア)a 認定事実(3)イのとおり、原告は、本件抗議活動のうち出荷を妨害する被告の行為により、現実に納入ができなかった現場の販売店に対し、損害賠償として合計64万1130円を支払うことを余儀なくされたことが認められる。

b また、このような出荷妨害行為により、原告は、割り当てられた出荷を現実に行うことができず、施工者ないし販売店にとっては、原告からの確実な納入は期待できず、原告を納入業者とすれば工事に遅延が生じかねないとの判断に至り、現にa協組やb協組から原告の工場に対する割当ては一定期間停止されたものであって、その信用が棄損された程度は重大である。

このほか、原告は、被告組合員らに工場への入場を妨害されることを避けるため、その従業員に対し、通常よりも早く出勤を命じたり、その本来の職場以外の場所での勤務を命じたり、本件抗議活動の様子をビデオカメラ等により記録させたり、事務所に入ってこようとする被告組合員らを約2時間にわたって押しとどめたり、事務所外で拡声器を用いられたため事務所内での業務が円滑に遂行できなかったなどの事態に陥っており、被告は、本件抗議活動により原告に必要のない行為を行わせた結果、原告に対して損害を生じさせたものというべきである。

そして、原告会社の営業内容・規模等や本件街宣活動等の回数・態様等の諸般の事情を総合考慮すると、これにより原告会社に生じた無形損害に対する損害賠償額としては400万円が相当と認められる。

(イ) 被告の主張について検討する。

a 被告は、本件抗議活動につきその主張する態様を前提に、出荷停止は原告あるいはa協組・b協組の自主的判断であり、被告の行為によるものではないと主張するが、本件抗議活動の内容については争点1についてみたとおりであり、業務妨害行為を否定する被告の主張は採用することができない。

b 被告は、a協組・b協組における赤黒調整により、出荷割当てが停止したことによる経済的損害は発生していないと主張するが、本件抗議活動の結果として生コン業者としての原告の信用が棄損されたことに変わりはなく、また、赤黒調整の存在をもって上記(ア)で指摘した原告の業務に対する影響を否定することもできないのであるから、被告の上記主張は失当である。

c 以上によれば、被告の主張はいずれも採用できない。

イ 監視・抑制・記録化のために生じた費用について

(ア) 前記認定のとおり、被告は、本件抗議活動において、組合旗を用いて原告の防犯カメラを隠し、また、原告従業員による本件抗議活動のビデオ撮影に対し、威迫的言辞を申し向けたり、傘や手等をそのレンズにかざすなどして妨害したことが認められる。

前記(1)で検討したとおり、上記のような行動を含めて本件抗議活動が違法なものであることに照らせば、原告としては、被告に対してその差止めとそれに基づく損害の賠償を請求するために、原告らの抗議活動を記録して証拠化することは正当な行為であり、被告は本件抗議活動において上記撮影をも妨害する行為を行ったものであるから、これに遭わないような新たな防犯カメラを設置し、記録機器を購入することは、被告の違法な行為と相当因果関係のある損害と認められる。

したがって、被告は、原告が、このような目的のために支出した別紙「監視・抑制・記録化のために生じた費用一覧表」に記載の費用合計473万3898円(認定事実(4))につき、不法行為に基づき賠償する義務がある。

(イ) 被告の主張について検討する。

a 被告は、原告が購入した防犯カメラ等は原告が将来にわたって使用するものであり、原告の資産として計上されていることから、損害は生じていないと主張するが、仮に将来上記防犯カメラ等を原告が使用するとしても、被告の違法な行為がなければ原告はこのような機器等を購入する必要はなかったのであり、かかる費用を支出させられたこと自体が損害というべきであるから、被告の上記主張は失当である。

b 被告は、組合旗の写った映像が本件で被告の業務妨害の証拠として提出されていることから、組合旗により防犯カメラが隠されたとしても、防犯カメラとしての意義は失われていないと主張するが、組合旗で防犯カメラが隠されていれば、被告組合員らの具体的行動を記録することはできないのであり、防犯カメラとしての機能を果たさないことは明らかであるから、これにより新たな防犯カメラの設置・記録機器等の購入の必要性を否定することはできない。

c 以上によれば、被告の主張はいずれも採用できない。

ウ 弁護士費用について

本件訴訟の内容及び経過並びに前記ア及びイのとおり認められる損害額等を総合すると、本件抗議活動と相当因果関係のある弁護士費用相当損害額は、90万円と認めるのが相当である。

3  結語

以上によれば、原告の請求は主文の限度で理由がある。

(裁判長裁判官 中垣内健治 裁判官 田中邦治 裁判官 上原三佳)

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