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大阪地方裁判所 平成22年(ワ)8286号 判決 2011年12月01日

原告

株式会社X

被告

主文

一  被告は、原告に対し、金一七三万三一〇七円及びこれに対する平成二二年六月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告に対し、別表一ないし一三記載の各「認容額」欄記載の各金員、及びこれらに対する対応する各「日付」欄記載の日から支払済みまで年五分の割合による各金員を支払え。

三  被告は、原告に対し、金四八万五九九〇円及びこれに対する平成二二年六月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

四  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、これを十分し、その七を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

六  この判決は、第一項ないし第三項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、原告に対し、金六九三万二四二八円及びこれに対する平成二二年六月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告は、原告に対し、次の各金員をそれぞれ支払え。

(1)  金二七万一六三四円及びこれに対する平成二二年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(2)  金二七万一三二六円及びこれに対する平成二二年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(3)  金二七万一〇一八円及びこれに対する平成二二年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(4)  金二七万〇七一〇円及びこれに対する平成二二年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(5)  金二七万〇四〇二円及びこれに対する平成二二年一〇月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(6)  金二七万〇〇九四円及びこれに対する平成二二年一〇月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員

(7)  金二六万九七八六円及びこれに対する平成二二年一二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(8)  金二六万九四七八円及びこれに対する平成二二年一二月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(9)  金二六万九一七〇円及びこれに対する平成二三年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(10)  金二六万八八六二円及びこれに対する平成二三年三月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(11)  金二六万八五五四円及びこれに対する平成二三年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

(12)  金二六万八二四六円及びこれに対する平成二三年四月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員

(13)  金二六万七九三八円及びこれに対する平成二三年六月一日から支払済みまで年五分の割合による金員

三  被告は、原告に対し、金四八万五九九〇円及びこれに対する平成二二年六月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、a株式会社(以下「a社」という。)の従業員が、工場内で被告運転車両と衝突して死亡した事故につき、同従業員の遺族との間で締結された示談契約等に基づき金員を支払った原告(被告の雇用主)が、被告に対し、民法七一五条三項に基づく求償金として、第一「請求」一、二記載の金員の支払を、立替払契約に基づき、同三記載の金員の支払を、それぞれ請求した事案である(付帯請求は、請求一、二については民法所定の年五分の割合による遅延損害金、同三については商事法定利率年六分の割合による遅延損害金である。)。

一  前提事実(証拠等を掲記したものの外、当事者間に争いがない。)

(1)  原告は、一般小型貨物自動車運送事業等の業務を行う株式会社である。

被告は、平成六年九月から平成二二年五月一五日まで、原告の従業員であった者である。

被告は、原告に入社した後、普通貨物自動車乗務員として稼働し、平成二一年四月当時は、大阪府○○市所在の○○第一工場からトラックで自動車部品を運び、フォークリフトでその積み下ろしをする業務に従事していた。

(2)  次の事故が発生した(場所、加害車両については乙三の一~三。以下「本件事故」という。)。

ア 発生日時 平成二一年四月二日午前九時一九分頃

イ 場所 大阪府○○市<以下省略>b株式会社○○第二工場敷地内(以下「本件現場」という。)

ウ 被害者 a社従業員A(以下「A」という。)

エ 加害車両 フォークリフト(トヨタ製、年式平成二〇年八月、製造番号<省略>)

同運転者 被告(以下「加害車両」という。)

オ 事故態様 被告は、本件現場で、トラックに荷物を積み込むため、加害車両を運転し、移動作業をしていたところ、歩行中のAに衝突させて死亡させた。

(3)  本件事故について、平成二一年九月三〇日ころ、a社とAの遺族との問、原告とa社との間で、下記の示談契約が締結された(甲一)。

ア 示談金 二九〇〇万円(慰謝料七八〇万円、逸失利益二一二〇万円)

イ 支払日 平成二一年九月三〇日

ウ 支払方法

(ア) a社がAの遺族に対して一括で前記金額を支払う。

(イ) 過失割合について、原告を七、a社を三とし、原告が二〇三〇万円を、a社が八七〇万円をそれぞれ負担する。

(ウ) 原告が、a社に対し、平成二一年一〇月三一日限り、五〇〇万円、平成二一年一一月から平成二六年一〇月まで毎月末日限り、月額二五万五〇〇〇円ずつ支払う。

(4)  原告は、a社との間で、平成二一年九月三〇日、前記(3)ウ(ウ)について、利息年一・四五%を付加し、平成二一年一〇月三一日限り五〇〇万円、平成二一年一一月から平成二六年一〇月まで、毎月末日限り月額二五万五〇〇〇円ずつ支払う旨の合意をした(甲二。以下「本件合意」という。)。

(5)  原告は、本件合意に従い、a社に対し、平成二二年五月までの間に、六九三万二四二八円を支払い、さらに、次の各金員を支払った(甲二ないし四、甲一七の一ないし一一、甲一九の一・二)。

ア 平成二二年五月三一日 二七万一六三四円

イ 同年六月三〇日 二七万一三二六円

ウ 同年七月三〇日 二七万一〇一八円

エ 同年八月三一日 二七万〇七一〇円

オ 同年九月三〇日 二七万〇四〇二円

カ 同年一〇月二九日 二七万〇〇九四円

キ 同年一一月三〇日 二六万九七八六円

ク 同年一二月三〇日 二六万九四七八円

ケ 平成二三年一月三一日 二六万九一七〇円

コ 同年二月二八日 二六万八八六二円

サ 同年三月三一日 二六万八五五四円

シ 同年四月二八日 二六万八二四六円

ス 同年五月三一日 二六万七九三八円

(6)  b株式会社(以下「b社」という。)、a社、原告は、b社が元請け、a社が請負人、原告が下請けという関係にあり、被告は、原告の従業員である一方、三者の指揮監督に従い、主として運送業務という常に事故の危険を伴う業務に服していた。また、被告は、本件事故当時は、荷物の運搬、積荷積み下ろし作業に従事し、月額約二六万円の給与の支給を受けており、本件事故以前には、業務に伴う事故を起こしたことはなかった。

被告の作業は、危険業務であるから、被告を指揮監督する立場にあるb社、a社、原告は、被告ら被用者に対し、その生命、身体等の安全を配慮する義務を負う。

(7)  加害車両は、b社の所有であったが、b社は、加害車両に自賠責保険、任意保険等を付保していなかった。

(8)  被告は、本件示談契約の締結に係る交渉に関与する機会を付与されていなかった。

(9)  原告は、平成二一年五月以降、被告が無給となったため、原被告間の雇用契約に付随する立替払契約(以下「本件立替払契約」という。)に基づいて、同月から平成二二年五月分まで、被告が負担すべき金員(健康保険料月額一万四八四〇円、厚生年金保険料月額一万五八九〇円、厚生年金基金保険料月額五六〇〇円、住民税月額一万三七〇〇円)合計四八万五九九〇円を立替えて支払った。

二  争点

(1)  求償権の成否

(被告の主張)

危険業務の場合には、業務の性質上、被用者は確率論的に一定の割合をもって過失を強制されているので、一般的な軽過失の場合には、被用者が損害賠償に関して最終的な負担をする謂われはなく、むしろ過失を強制させた側が負担すべきである。この意味で、危険業務の場合には、雇用主の被用者に対する求償が許されるのは、被用者に故意、重過失がある場合に限られるというべきである。

被告は、本件事故に係る刑事処分においては、罰金七〇万円に処する旨の略式命令を受けたのみであり、これは被告の過失が比較的軽微なものであること、本件事故は被告の過失のみに基づくものではなく、A、b社、a社、原告の安全配慮義務違反等の過失が競合して発生したものであることによる。

従って、被告に故意、重過失が認められない以上、原告は民法七一五条三項による求償権を取得しない。

(原告の主張)

否認ないし争う。

(2)  原告の求償権が信義則上制限されるか否か、原告の求償権の行使が権利濫用として許されないか否か。

(被告の主張)

ア 本件現場であるb社○○第二工場(以下「本件工場」という。)においては、死角になる部分が多く、被告が従事する運搬作業は危険なものであったが、上場企業であるb社は、自ら直接、あるいはa社、原告を通じて、危険作業に伴う事故防止のための物的環境を整備する十分な体制作りが可能であるのに、全く環境整備、事故防止策の策定等をしていなかった。

具体的には、本件事故後、本件工場では、①歩行帯の遵守、曲がり角における一時停止、左右指差し安全確認、②反射ベストの着用の義務付け、③フォークリフトの前進、バック走行の基準化、④制限速度の厳守、歩行者・車両の通行帯の完全分離が行われたが、本件事故時には、これらが行われておらず、行われていれば本件事故は防ぐことができた。

実際にも、Aは、本件事故当時、反射ベストを着用しておらず、歩行帯を完全には遵守していなかった。

また、乗務員ら被用者に対する安全教育が徹底されていなかった。

イ 被告は、日頃から安全確認を励行し、部下にも同様の注意をして、堅実な運転をしていた他、歩行帯を完全に遵守し、歩行中でも曲がり角は一旦止まって左右の指さし安全確認をしていた。従って、被告には、重過失はない。

ウ 被用者が他人に損害を与える危険がある程度予期される以上、使用者としては危険の発生に対処すべき事前措置をあらかじめ講じておくべきであって、それを使用者が怠っている場合には、被用者に対する求償権を制限することが正義公平にかなう。本件では、原告は、b社の指揮系統の下で一体として、物的設備、従業員を使用して利益を得る立場にあったのであるから、損失の分散についても配慮すべき義務を負っていたものであるが、それにも拘わらず、加害車両について自賠責保険、その他の任意保険に一切加入していなかったものであり、損害の分散についての使用者としての配慮を怠った。他方、被告は、物的設備の利用によって直接利益を得ていた訳ではなく、従業員として労働を提供して賃金を得ていたにすぎないのであるから、保険加入等の損害の分散について手段を講じ得る立場にはなかった。よって、保険不加入により拡大した損害は使用者側である原告らが負担すべきであり、その責任を被告に転嫁すべきではない。

従って、原告の求償権は、損害の公平な分担という見地から、信義則上制限されるべきである。

(原告の主張)

ア 本件事故は、横断帯付近で発生しており、Aは、b社の安全パトロール隊員で、日常的に現場を視察していたものであるから、被告は、Aが、日常的に現場をパトロールしていることは知悉しており、その歩行は予見できた。しかも、フォークリフトによる運搬作業は、死角のある危険作業であるから、横断帯付近は、特に注意して、被害者を含む歩行者の確認等、前方を注視する等の高度の注意義務があった。しかるに、被告はこの注意義務を怠っており、その程度は著しいというべきである。

イ 原告は、従業員に対し、a社で毎月最低一回実施されているフォークリフトの安全講習会への参加を義務付けており、被告は、八回参加している。また、原告は、a社から、ファックス送信されるb社工場内の事故の情報を、毎日、作業後帰社した従業員に対して読み聞かせ、事故の原因、事故を防止する方法等について指導していた。さらに、原告代表者は、安全教育の内容が実践されているかどうか確認するために、週に一度は、必ず、作業現場のパトロールを行い、事故防止のための指導監督を行っていた。

ウ 加害車両は、大企業であるb社の所有であり、フォークリフトに任意保険等が付保されていない事態は、原告にとって予測不可能であったもので、その加入の有無を確認すべき義務はない。

従って、原告の求償権が制限されるべき事情はない。

第三争点に対する判断

一  求償権の成否(争点(1))

この点、被告は、危険業務の場合には、一般的な軽過失の場合には、被用者が損害賠償に関して最終的な負担をする謂われはなく、むしろ過失を強制させた側が負担すべきであるとして、危険業務の場合には、被用者の故意、重過失がある場合に限られるべき旨主張する。

しかし、民法七一五条三項の規定上そのような限定はなく、また、そのように一律に限定すべき根拠もないというべきであって、後記二に記載するとおり求償権が制限されることを超えて、被用者の過失が軽過失の場合には一律に求償権が成立しないものと解することはできない。被告の前記主張は独自の見解であって、採用できず、理由がない。

二  求償権の行使の権利濫用該当性、信義則による求償権行使の制限の当否(争点(2))

(1)  前記前提事実に、証拠(乙三の一~一四、乙五、原告代表者、被告本人)及び弁論の全趣旨を総合すれば、以下の事実が認められ、証拠(甲一八、乙五、原告代表者、被告本人)中、前記認定に反する部分は、にわかに採用できない。

ア 原告は、b社の孫請けとして、本件工場で、b社の工場内作業を請け負っていた。被告は、原告の従業員であり、本件事故当時、本件工場内で、原告等からの指揮監督に従い、主として運送業務に従事し、本件事故当時は、月額約二六万円の給与の支給を受けていた。

イ 本件工場構内では、歩行者は、休憩時間中以外は、歩行帯以外の場所を歩行してはならないこと、フォークリフトは時速一〇km未満で走行しなければならないこととする取り決めがあり、フォークリフトのバック走行が義務づけられていた。しかし、Aは、日頃から、歩行帯以外の通行禁止の決まりを遵守しておらず、フォークリフトの速度規制については、それを遵守していては、工場の稼働率が高い時には、業務が捌けない状況にあったため、被告の担当部署では、そのようなときには、速度を遵守している者は少なく、また、積荷のない時、空スキットの時には、前進走行をするのが通常であった。

被告は、Aが、毎日、安全パトロールで本件工場内を歩いて巡回しており、日頃から横断帯以外のところを歩行し、反射ベストを着用していないことを知っていたが、そのことを原告に報告したことはなかった。

工場稼働率は、工場内に表示されており、稼働率を高めて残業を減らすことが推奨される状況にあった。

ウ a社が実施する乗務員安全教育講習のほか、平成二〇年一一月三日、七日、一四日、二一日、二四日、同年一二月一九日、二四日、平成二一年一月九日、一六日、同年二月四日、一三日、同年三月六日、一二日に、原告主催の乗務員安全教育講習が開催され、被告はa社実施のものを含め、八回出席した。

エ 本件事故当時の、本件現場の状況、事故の状況は、別紙図面のとおりである(以下で用いる符号は、特に断らない限り、別紙図面表示の符号を指す。)。③の東西にわたって存する梯子状の記載は歩行者の横断帯であり、その南側に五個並んでいる長方形は、フェンダーの入ったスキットであり、自動販売機の西側の実線は鉄柵であった。

被告は、加害車両に乗車し、空スキットをフォークに載せて前進して移動中、脇見をした後、前を向いた際、前方にいたAに気付いて急ブレーキを踏んだが、そのために鉄製の空スキットが滑って前に出た結果、スキットの最上部がAの頭部に直撃し、Aが転倒した。当時、Aは、歩行帯(横断帯)を通行しておらず、反射ベストも着用しておらず、ヘルメットを被っていたものの、顎紐を適切に締めていなかった。本件事故直前の加害車両の速度は、時速約一七kmであった。

Aは、頭部の負傷が原因で、その後死亡した。

オ 本件事故後、本件工場においては、自動販売機、フェンダーの入ったスキットは撤去され、フォークリフトでは原則的にバックで走行するとの基準が定められ、歩行者、車両の通行帯が完全に分離され、制限速度が遵守されるよう指示が徹底された。

カ 被告は、平成六年九月に原告に採用された後、本件事故まで、無遅刻無欠勤であり、服装、危険行為等で注意を受けたことはなく、事故を起こしたこともなかった。また、被告の働きぶりについては、安全確認を確実にしており、部下にも的確に注意をしているものと、b社の担当者から評価されていた。

キ 加害車両は、b社の所有であったが、自賠責保険、任意保険等が付保されていなかった。

(2)  証拠(乙五、被告本人)中には、原告主催の乗務員安全講習に被告が出席したことがない旨の記載ないし供述部分が存するが、乗務員安全教育等の記録(甲一五の一~一七)には、実施者がa社のものと原告役員によるものとが混在しているが、同じ様式で各実施日毎に作成されていることに照らすと信用することができ、前記記載ないし供述部分は、にわかに採用し難い。(なお、被告が、a社実施のものも含めて、前記安全講習に八回参加していることを認める旨の陳述をし、その後八回の参加が記録されていることについて認める旨の陳述に訂正したことについて、原告は、自白の撤回であり、異議がある旨主張するが、前記事実はいわゆる主要事実に当たるものとは解されないから、この点は考慮しない。)

さらに、証拠(甲一六の一~一七、乙三の八、原告代表者)によれば、本件工場内で、原告代表者らが、安全パトロールを行った事実が認められる。しかし、証拠(被告本人)によれば、フォークリフトは、時速一〇kmを超えると備え付けられたブザー音が鳴る仕組みとされており、どのフォークリフトもブザー音が鳴ったまま走行している状況であったこと、工場の稼働率が高くなると部品が不足する状況となり、工場のラインが停止する状況にもなりうること、特に午前中は稼働率が高く、時速一〇kmの速度を遵守していては、間に合う状況でなかったことが認められ、そのパトロールが速度遵守等について、実効性のあった施策であるとは認め難い。また、仮に、原告主催の安全講習についても、前記(1)の本件工場内での取り決めの遵守状況を考慮すると、それが実効的なものであったとは認めがたい。

(3)  前記(1)の認定事実によれば、本件事故は、被告の脇見による前方不注視の過失によるものであり、被告は、Aの相続人に対し、民法七〇九条に基づく損害賠償責任を負う。また、本件事故は、原告の被用者である被告が、原告の事業の執行について、Aに加えた不法行為であるので、原告は、民法七一五条に基づき、同様の損害賠償責任を負うこととなる。

そして、前記前提事実のとおり、a社とAの相続人との間で、Aの死亡についての示談契約が締結され、示談金額が二九〇〇万円とされたが、その内訳は、逸失利益二一二〇万円、慰謝料七八〇万円で、a社の負担割合を三、原告の負担割合を七とし、その過程で、Aの過失が考慮されているものと解される(甲一)。また、a社、原告間の本件合意は、原告の前記負担分について、原告が分割して支払っていくという内容のものであって、その支払は、実質的には、原告の前記損害賠償債務の履行ということができる。

ところで、使用者が、その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により、使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防もしくは損害の分散についての使用者の配慮の程度、その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から、信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し、前記損害の賠償または、求償の請求ができるものと解される(最高裁判所昭和五一年七月八日判決民集三〇巻七号六八九頁)。

前記(1)で認定した事実、殊に、被告の従事していた業務が、一定の危険を伴うものであったこと、本件事故後、本件工場において、歩行帯の遵守、曲がり角における一時停止、左右指差し安全確認、反射ベストの着用の徹底、フォークリフトでは原則的にバックで走行することの基準化、制限速度の厳守の徹底、歩行者・車両の通行帯の完全な分離が行われたが、本件事故時には、これらが設けられておらず、設けられていても徹底されていなかったこと、被告は、原告に採用されて以後、本件事故までの間に事故を起こしたことはなく、遅刻、欠勤もなく、勤務態度も良好であったこと、本件事故における被告の過失の内容、程度、加害車両に任意保険等が付保されておらず、原告において、危険分散の措置を格別とっていなかったことを考慮すれば、原告が、被告に対して求償しうる範囲は、信義則上、原告支払額のうち二五%相当額に限られるものと解するのが相当である(前記割合を定めるについては、前記示談契約の内容、本件合意の内容も考慮した。)。

なお、原告は、加害車両がb社の所有であり、b社が大企業であり、フォークリフトに任意保険等が付保されていない事態は、原告にとって予測不可能であり、その加入の有無を確認すべき義務はない旨主張するが、加害行為による損害の分散について、損害の公平な分担という見地から原告と被告のいずれが担うべきかを考慮すれば、一被用者である被告にはそれについて対処しうる手段がない以上、本来的に、使用者である原告が担うべきものと解される。そして、原告の業務において使用する車両が、元請け会社の所有であり、原告自らが任意保険等を付保することができないというのであれば、そのような形態での請負契約を締結する際に、契約の相手方、元請け会社に対して、任意保険等の付保の有無を確認し、それがなされていない場合には、原告がそれに代替する損害分散の措置を講じておくべきであったといえる。従って、そのような確認、代替措置を怠ったことによる損害を、挙げて、被用者の負担とすることは許されないというべきであって、この点に関する原告の主張は理由がない。

また、被告がAの相続人との示談交渉に参加する機会がなかった事実は当事者間には争いがないが、証拠(甲一八)及び弁論の全趣旨によれば、当時、被告は、自宅療養中であり、弁護士に委任して原告に対する傷病手当、賃金等の仮払を求める仮処分の申立をすべく準備をしていた事実が認められるのであり、自ら示談交渉を行うこと、原告側に自己の意向について申入をすることも可能であったと解されること、前記示談契約において、A側の過失も考慮されていると解されることに照らすと、被告が示談交渉に参加しなかったことをもって、求償権の制限の程度を定める際に考慮すべき事情とは解し難い。

(4)  以上によれば、原告の求償が許される額は、平成二二年六月二〇日までに原告が支払った分については一七三万三一〇七円、その後の支払分については、別表の「認容額」欄記載の各金額となる。

三  前記前提事実(9)記載の事実については争いがないから、原告は、本件立替払契約に基づき、被告に対し、立替金四八万五九九〇円と訴状送達日の翌日である平成二二年六月二〇日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払請求権を有する。

四  以上によれば、原告の本訴各請求は、主文掲記の限度で理由がある。

(裁判官 後藤慶一郎)

(別表)

原告請求額(円)

認容額(円)

日 付

1

271,634

67,908

平成22年6月1日

2

271,326

67,831

平成22年7月1日

3

271,018

67,754

平成22年7月31日

4

270,710

67,677

平成22年9月1日

5

270,402

67,600

平成22年10月1日

6

270,094

67,523

平成22年10月30日

7

269,786

67,446

平成22年12月1日

8

269,478

67,369

平成22年12月31日

9

269,170

67,292

平成23年2月1日

10

268,862

67,215

平成23年3月1日

11

268,554

67,138

平成23年4月1日

12

268,246

67,061

平成23年4月29日

13

267,938

66,984

平成23年6月1日

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