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大阪地方裁判所 平成22年(ワ)8898号 判決 2011年4月13日

原告

X1 他2名

被告

Y1 他1名

主文

一  被告らは、原告X1に対し、連帯して金四六八五万七五一七円及びこれに対する平成一八年一月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告X1のその余の請求を棄却する。

三  原告X2及び原告X3の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを二分し、その一を被告らの、その余を原告らの各負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、連帯して、原告X1(以下「原告X1」という。)に対し、八六八六万一一五九円及びこれに対する平成一八年一月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、連帯して、原告X2(以下「原告X2」という。)及び同X3(以下「原告X3」という。そして、両名を合わせて、以下「原告両親」という。)に対し、各二二〇万円及びこれに対する平成一八年一月二〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告X1の運転する普通自動二輪車(以下「原告車両」という。)と、被告Y1(以下「被告Y1」という。)の運転する大型貨物自動車(以下「被告車両」という。)とが衝突した事故(以下「本件事故」という。)につき、同原告及びその両親である原告両親が、被告Y1に対しては民法七〇九条に基づき、被告車両の所有者であるとともに、被告Y1の使用者である被告Y2株式会社(以下「被告会社」という。)に対しては、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条及び民法七一五条に基づき、損害の賠償を求める事案である。

一  前提事実

以下認定の事実は、証拠を掲記したもの以外は、各当事者間に争いがないか、又は弁論の全趣旨により容易に認められる(以下「本件前提事実」という。)。

(1)  原告X1は、昭和六一年○月○日生まれの男性であり、本件事故当時大学生(一九歳)であった。

被告Y1は、被告車両の運転者であり、被告会社は、被告Y1の使用者であり、被告車両の所有者である。

(2)  以下の内容の本件事故が発生した。

ア 発生日時 平成一八年一月二〇日 午前八時五一分ころ

イ 発生現場 大阪市住之江区泉一丁目一番七一号(以下「本件道路」という。)

ウ 原告車両 普通自動二輪車(車両番号<省略>)

運転者 原告X1

エ 被告車両 大型貨物自動車(車両番号<省略>)

運転者 被告Y1

所有者 被告会社

オ 事故態様 原告X1が、片側三車線の道路の最も歩道側の車線(以下「第一車線」という。)を直進進行したところ、折からその外側の車線(以下「第二車線」という。)から進入してきた被告車両に接触されて路上に転倒し、さらに、進路左前方の道路端に駐車していた大型特殊自動車の右側面部に衝突して、その衝撃で跳ね返り、被告車両の左後輪にひかれた。

(3)  原告X1は、本件事故の結果、左足(大腿)デグロービング損傷(広範囲挫滅)、左腓骨神経麻痺、左大腿異所性化骨、骨化性筋炎の傷害を負い、以下のとおりの入通院治療を受けた。

ア 入院

(ア) 大阪市立大学医学部附属病院(以下「大阪市大病院」という。)

平成一八年一月二〇日から同年四月二四日まで(九五日)

平成一九年八月一〇日から同年一〇月二六日まで(七八日)

(イ) 社会医療法人景岳会南大阪病院(以下「南大阪病院」という。)

平成一八年四月二五日から同年六月九日まで(四六日)

イ 通院

(ア) 南大阪病院

平成一八年六月一〇日から平成二〇年一一月二二日まで(一四二日)

(イ) 大阪府急性期・総合医療センター

平成一九年二月八日

(ウ) 大阪市大病院

平成一九年三月六日から平成二一年七月一六日まで(一九日)

(エ) 中塚放射線科医院

平成一九年三月二〇日

(オ) 清恵会三国丘クリニック

平成一九年四月四日

(カ) 石切生喜病院

平成一九年四月四日から平成二一年二月一〇日まで(七日)

(4)  原告X1の症状は、平成二一年七月一六日に固定したが、損害保険料率算出機構(以下「損保料率機構」という。)は、同原告には、本件事故の結果、以下のとおり後遺障害が認められるとした上で、併合一〇級に該当する旨認定した。

ア 左大腿デグロービング損傷に伴う左下肢の機能障害のうち、左股関節の機能障害は、「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」(一二級七号)に該当し、左膝関節の機能障害は、「一下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すもの」(一二級七号)に該当し、左足関節の機能障害は、自賠責保険における後遺障害には該当しない。

イ 左足大腿部の醜状障害及び右足大腿部の醜状障害は、それぞれ「てのひらの大きさの三倍程度以上の痕痕を残しているもの」として、一二級に該当する。

ウ 腹部の醜状障害、背部及び臀部の醜状障害は、自賠責保険における後遺障害には該当しない。

エ 頸部の外貌醜状は「鶏卵大面以上の瘢痕」とは捉えがたいとして、自賠責保険における後遺障害には該当しない。

(甲一四ないし一六)。

(5)  当事者間に争いのない損害額

原告X1の損害のうち、以下に記載するものについては、当事者間に争いがない。

ア 治療費 五四四万三八八〇円

イ 通院付添費 三三万八〇〇〇円

ウ 症状固定前自宅介護費 八五万二〇〇〇円

エ 家屋改造費 六七万三一四〇円

オ ベッドリース料等 一二五万三四八〇円

カ 装具代 五万一〇三六円

キ 通院及び通学のためのタクシー代 六六七万二四七〇円

ク 休業損害 二三四万〇一〇〇円

ケ 合計額 一七六二万四一〇六円

(6)  原告X1は、本件事故後、その損害のてん補として、一七九一万二〇〇六円の支払を受けている(乙一ないし一〇)。

二  争点

(1)  事故態様及び過失割合(争点一)

(被告らの主張)

本件において、原告X1が、走行中、右側車線前方を注意するとともに、進路を変更する車両の有無及びその動静に注意を払うべき義務があるのにこれを怠り、事故の回避行動が遅れたことも本件事故の一因となっている。

したがって、原告X1にも本件事故発生について過失が認められるので、三割の過失相殺がされるべきである。

(原告らの主張)

本件事故は、被告Y1が被告車両を運転中、安全確認不十分のまま、第二車線から左側の第一車線に進路変更したため、折から同車線を直進進行してきた原告車両に左側面部を接触させ、原告X1を同車両もろとも路上に転倒させた上、進路左前方の道路端に駐車していた大型特殊自動車の右側面部に衝突させ、さらに、その衝撃で、被告車両方向に跳ね返った同原告を左後輪でひいたものである。

被告車両は、第一車線がバス専用レーンであり、被告車両の進行が認められていなかったのに、同車線に進路を変更した。また、被告Y1は、進路変更の際には合図を出さず、仮に出したとしても、事前の警告と評価できないようなタイミングで進路を変更した。さらに、被告Y1は、職業ドライバーであり、かつ大型貨物自動車を運転していたにもかかわらず、後部左側を走行していた原告車両に全く気付かずに車線変更を開始し、その後も何らの回避行動をとっていない。

以上の諸事情に鑑みれば、本件事故の発生につき、原告X1に過失はないというべきである。

(2)  原告らの損害(争点二)

(原告らの主張)

原告らは、本件事故の結果、以下の損害を被った。

ア 原告X1の損害

(ア) 将来の治療費 三五万七九五〇円

原告X1は、醜状痕のある皮膚には毛穴がなく、乾燥して皮が擦れる状態になることから、保湿のための薬をもらう必要があり、月一回、近所の病院に通院している。その際の費用は一回あたり一五九〇円であり、一年当たりの費用は一万九〇八〇円となる。

原告X1は、今後、平均余命に相当する五七年間にわたり、通院を継続する必要性が認められるから、将来の治療費として、三五万七九五〇円が認められるべきである。

(計算式)

1万9080円×18.7605(57年間のライプニッツ係数)=35万7950円

(イ) 入院雑費 四三万八〇〇〇円

原告X1の入院雑費は、日額二〇〇〇円を前提に算定されるべきであり、四三万八〇〇〇円が認められるべきである。

(計算式)

2000円×219日=43万8000円

(ウ) 入院付添費 一五三万三〇〇〇円

原告X1は、意識を取り戻した後、本件事故の状況を思い出し、非常におびえる状態が継続した。そのため、母親である原告X3は、原告X1に付き添うため、医師の指示で、約一か月間病院に泊り込んだ。原告X3は、原告X1の容体が落ち着いた後も午前八時から午後八時まで、同原告に毎日付き添った。父親である原告X2及び兄であるAも病院に通い、休日は、原告X1に付き添った。

入院期間二一九日の付添費は、日額七〇〇〇円を前提に算定されるべきであり、一五三万三〇〇〇円が認められるべきである。

(計算式)

7000円×219日=153万3000円

(エ) 将来の介護備品費 三万〇八二四円

原告X1は、本件事故による障害のため、一本五七七五円の杖を四年ごとに買い替える必要がある。そして、原告X1は、今後、平均余命に相当する五七年間にわたり、杖を買い替え続ける必要があることからすれば、将来の介護備品費として、三万〇八二四円が認められるべきである。

(計算式)

5775円×(1+0.8227+0.6768+0.5568+0.4581+0.3768+0.3100+0.2550+0.2098+0.1726+0.1420+0.1168+0.0961+0.0790+0.0650)=5775円×5.3375=3万0824円

(オ) 後遺障害逸失利益 三二四七万七二七九円

原告X1は、本件事故当時一九歳の大学生であったから、その後遺障害逸失利益は、基礎収入として、平成一八年賃金センサス大卒男性平均賃金六七六万七五〇〇円を採用し、本件事故の結果、併合一〇級に相当する後遺障害が残存していることから、労働能力喪失率を二七パーセントとし、六七歳までの労働能力喪失期間を前提に算定されるべきである。

したがって、原告X1の後遺障害逸失利益は、三二四七万七二七九円が相当である。

(計算式)

676万7500円×0.27×(17.7741(就労終期の年齢67歳に相当するライプニッツ係数から就労の始期・症状固定の年齢22歳に対応するライプニッツ係数を差し引いた数値))=3247万7279円

(カ) 入通院慰謝料 八〇〇万〇〇〇〇円

原告X1は、本件事故当時一九歳の大学生であったが、本件事故の結果、三年七か月間の入通院を余儀なくされ、その間の治療及びリハビリは、極めて辛いものであった。しかしながら、原告X1は、入院中受講できなかった授業や実習を、休日授業や延長授業によって補い、就職活動を継続し、四年間で大学を卒業した。また、原告X1は、優秀な成績で大学を卒業したが、本件事故を原因とする出席日数等が影響し、学納金免除の制度を受けることもできなかった。

以上の事情に鑑みれば、原告X1の入通院慰謝料は、八〇〇万円を下らないというべきである。

(キ) 後遺障害慰謝料 二〇〇〇万〇〇〇〇円

女子の外貌に著しい醜状を残す場合、障害七級と認定されることとの均衡上、原告X1の左右大腿部の醜状についても、それぞれ障害七級相当とされるべきであり、左下肢の機能障害(一一級)と左右大腿部の醜状(各七級)を併合すれば、同原告の障害は、併合五級相当ということになる。

そうすると、慰謝料金額は、この併合五級を基礎に算定されるべきであり、被告Y1の過失の重大性及び事故後の対応の不誠実さをも考慮すれば、原告X1には、二〇〇〇万円の後遺障害慰謝料が認められるべきである。

(ク) 小計

上記争いのない損害額一七六二万四一〇六円(本件前提事実(6))に、上記(ア)ないし(キ)の合計額六二八三万七〇五三円を加えると、合計金額は、八〇四六万一一五九円である。

イ 原告両親の固有慰謝料

未成年の息子である原告X1が本件事故によって重傷を負い、医師から最悪の場合、命も危ない、覚悟しておいてくれといわれ、同原告が九死に一生を得た後も、完治が見込めないと知った時の原告両親の精神的苦痛等は非常に大きなものであり、このことに鑑みれば、同原告両親には、それぞれ二〇〇万円の慰謝料が認められるべきである。

ウ 弁護士費用

(ア) 原告X1 六四〇万〇〇〇〇円

(イ) 原告X2 二〇万〇〇〇〇円

(ウ) 原告X3 二〇万〇〇〇〇円

エ 原告らの損害

以上によれば、原告らの損害は、原告X1が八六八六万一一五九円、原告両親が各二二〇万円である。

(被告らの主張)

ア 原告X1の損害について

(ア) 将来の治療費は否認する。

原告X1には、将来にわたって治療を継続する必要性は認められない。

(イ) 入院雑費は争う。

入院雑費は、日額単価一五〇〇円を前提とすべきであり、多くとも、三二万八五〇〇円の範囲にとどまるというべきである。

(ウ) 入院付添費は争う。

入院付添費は、日額単価五五〇〇円を前提とすべきであり、多くとも、一二〇万四五〇〇円の範囲にとどまるというべきである。

(エ) 将来の介護備品費は否認する。

原告X1には、将来にわたって杖の購入を継続する必要性は認められない。

(オ) 後遺障害逸失利益は争う。

原告X1の後遺障害逸失利益は、併合前の最も重い等級である一一級を前提に、二〇パーセントの労働能力喪失に基づいて算定されるべきである。

したがって、原告X1の後遺障害逸失利益は、多くとも、二四〇五万七二四四円の範囲にとどまるというべきである。

(カ) 入通院慰謝料は争う。

原告X1の治療経過に鑑みれば、入通院慰謝料は、三〇〇万円の範囲にとどまるというべきである。

(キ) 後遺障害慰謝料は争う。以下の事情に照らし、五〇〇万円が相当である。

外貌醜状障害による就労機会の制約の程度等は、その就労実態に照らし、女子の方が男性と比較して、一般的に応接を要する職種への従事割合が高いこと、応接を要する職種の方が、他の職種に比べ、一般的に外貌醜状が不利益な要因として作用し、就労機会の制約がより大きくなる傾向があることからすると、男性と女性との間に、事実的・実質的な差異があることは明らかである。また、化粧品の需要は、女性が男性に比して圧倒的に多いこと等からすると、女性が男性に比して自己の外貌等に高い関心を持っているといえる。

そうであるならば、外貌の醜状障害による精神的苦痛の程度については、男女の間に差異があってしかるべきである。したがって、自賠責の後遺障害別等級表が醜状障害について男女差を設けていることは、上記のような男女間の事実的・実質的差異に着目したものであって、不合理な差別とはいえず、原告X1の後遺障害慰謝料も、併合一〇級を前提に算定されるべきである。

さらに、被告Y1の過失は、慰謝料算定にしん酌されなければならないほど重大なものではなく、同被告は、本件事故後、定期的に原告X2の会社に電話を入れて、原告X1の容体を聞いている。また、被告会社も、原告X1の通院・通学の便宜のため、タクシーチケットを渡し、同原告に関して生じた諸雑費等を原告側が立て替えないですむように、現金も支払っている。したがって、被告側の対応には不誠実な点はない。

イ 原告両親の固有慰謝料について

争う。

原告X1の傷害の部位、程度に鑑みれば、近親者である原告両親に固有の慰謝料は発生しない。

ウ 弁護士費用について

争う。

第三争点に対する判断

一  争点一(事故態様及び過失割合)について

(1)  本件前提事実、証拠(甲一、三ないし一三、原告X1本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

ア 本件事故は、片側三車線の南北道路である本件道路(大阪臨海線、通称三宝通)の北行車線で発生した。北行車線は、見通しが良く、制限速度は時速六〇キロメートルであり、歩道側の第一車線は、日曜及び休日を除く午前七時から午前九時までの間、バス及び自動二輪車を除く車両の通行が規制されていた。

イ 原告は、原告車両を運転し、第一車線を時速約六〇キロメートルで走行していた。

ウ 被告Y1は、被告会社の業として、被告車両(ヘッド及びシャーシが一体となったトレーラ)を運転し、第二車線を走行していたところ、その外側の第三車線から四トントラックが第二車線に進入してきた。被告Y1は、被告車両を減速させ、時速四〇キロメートル程度で走行を継続したが、トレーラである被告車両は、一旦減速をするとなかなか加速ができないため、後続車の速度に影響を与えることを懸念して、第一車線に進入した上で加速しようと考えた。

エ 原告X1は、原告車両を走行させ、被告車両が右斜め前方に位置する地点に到達していた。

被告Y1は、サイドミラーで左後方を確認したが、被告車両の左後方の近接した位置を走行する原告車両に気付かないまま、左のウインカーを点灯させ、第一車線への進入を開始したところ、被告車両の左側面部を原告車両に接触させ、原告X1を原告車両もろとも路上に転倒させた。

オ 原告X1は、第一車線左前方の道路端に駐車していた大型特殊自動車の右側面部に衝突し、その反動で被告車両側に跳ね返り、左足が同車両後部シャーシ部分の左後輪と路面の間に挟まれ、そのまま引きずられ、同車両が停車した後も、左足が抜けない状況となった。

(2)  本件事故の発生について、被告Y1に過失が存在することは、当事者間に争いがない。そうすると、被告Y1は、本件事故の発生につき、民法七〇九条に基づく責任を負うというべきである。

また、被告会社が、被告車両の保有者であるとともに、これを事業の用に供していることは、当事者間に争いがない。そうすると、被告会社は、被告車両の運行供用者であると認められるから、本件事故について、自賠法三条の責任を負うというべきである。さらに、被告Y1が被告会社の従業員であることは、当事者間に争いがなく、前記認定事実によれば、本件事故は、被告Y1が、被告会社の業務遂行中に起こしたものと認められるところ、上記のとおり、被告Y1が本件事故につき、民法七〇九条に基づく責任を負っていることに照らせば、被告会社は、本件事故につき、民法七一五条に基づく責任を負うというべきである。

(3)  被告らは、本件事故につき、原告X1にも三割の過失が認められる旨主張する。

しかしながら、上記(1)の認定事実によれば、本件事故は、被告Y1が、被告車両の右後方の近接した位置を走行していた原告車両に気付かないまま、走行が規制されていた第一車線に進入して走行しようとした結果、生じたものというべきである。

そして、上記認定の事実に照らせば、被告Y1が左方向指示器を点灯させていたとしても、原告X1が、被告車両を避けることは、極めて困難であったと認められる。結局、本件に現れた諸般の事情を考慮しても、本件事故の発生につき、原告X1には過失は存在しないというべきであるから、被告らの過失相殺に関する主張は理由がない。

二  争点二(原告らの損害)について

(1)  原告X1の損害

ア 争いのない損害

本件前提事実記載のとおり、原告X1の損害のうち、上記一七六二万四一〇六円は、当事者間に争いがない。

イ 将来の治療費について

証拠(甲二四、原告X1本人)及び弁論の全趣旨によれば、醜状痕を残した原告X1の皮膚については、発汗機能がなく、乾燥してくるため、皮膚を湿潤させるために、薬の投与を今後とも継続して行う必要があること、薬代は、月額一五九〇円である事実が認められる。そして、証拠(甲一四、一五)によれば、原告X1は、症状固定時に二二歳であることが認められるところ、同原告の平均余命が五七年間であることからすれば、上記薬代の支出は、今後五七年間にわたって、継続する必要があるものと認められる。

したがって、原告X1の将来の治療費は、三五万七九五〇円(小数点以下切り捨て。以下同じ。)を下らないというべきである。

(計算式)

1590円×12か月×18.7605(57年間のライプニッツ係数)=35万7950円

ウ 入院雑費について

上記認定のとおり、原告X1は、本件事故の結果二一九日間の入院期間を通じて、治療を余儀なくされた事実が認められる。そこで、入院期間中に必要な雑費が損害として認められるべきであり、その額は、日額一五〇〇円を前提に算定されるべきである。

したがって、入院雑費は、三二万八五〇〇円が相当である。

(計算式)

219日×1500円=32万8500円

エ 入院付添費について

上記認定のとおり、原告X1は、本件事故により二一九日間の入院治療をしたところ、証拠(甲三四ないし三六)及び弁論の全趣旨によれば、この間、同原告は、その症状や将来に対する不安等から、精神的にも不安定となっていたこと、原告X3が付き添ったことが認められる。

上記認定によれば、原告X1には、付添看護の必要があったものと認められるから、入院付添費が損害として認められるべきであり、その額は、日額六〇〇〇円を前提に算定されるべきである。

したがって、入院付添費は、一三一万四〇〇〇円が相当である。

(計算式)

219日×6000円=131万4000円

オ 将来の介護備品費について

証拠(甲二五、原告X1本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告X1は、本件事故によって残存した後遺障害のため、杖を必要としていること、杖の値段は五七七五円であり、四年ごとに買い替える必要があることが認められる。

したがって、原告X1の将来の介護備品費として、三万六六〇三円が認められるべきである。もっとも、原告X1が本件で請求する介護備品費は三万〇八二四円であるから、三万〇八二四円の範囲で損害として認めることとする。

(計算式)

5775円+5775円×5.3382(耐用年数4年間及び14回の買換に相当する係数)=3万6603円

カ 後遺障害逸失利益について

(ア) 証拠(甲一四ないし一六、二三、原告X1本人)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

a 本件事故の結果、原告X1は、後遺障害として左股関節及び左膝関節に機能障害を、左足大腿部の醜状障害及び右足大腿部の醜状障害を残しており、損保料率機構は、これらについて、いずれの後遺障害についても一二級に相当するものと判断し、これらを前提として併合一〇級に該当すると認定した。

b 原告X1は、現在栄養士として、滋賀県内の私立病院に勤務しているところ、上記の機能障害が原因となって、走ることは不可能であり、階段の上り下りの際には、手すりを使って、自分の身体を引っ張り上げるようにしなければならず、患者と目線を合わせて話す姿勢を取ることが困難であり、患者から助けを求められても、自ら対応することや調理の際に長時間立っていることが難しい状況である。

c また、原告X1は、醜状部位について、熱を感じる感覚がなくなったため、料理をする際等に、知らず知らずのうちに熱源に触れていることがあったり、着替えの際に、当該部位が人目に触れないように気を遣うなどの負担を余儀なくされている。

(イ) 以上認定の事実によれば、原告X1は、本件事故の結果、同原告に残存する後遺障害によって、現在の栄養士の仕事に大きな障害が生じているというべきである。このことに、損保料率機構が原告X1の後遺障害について併合一〇級に相当すると認定している事実も併せれば、同原告の労働能力喪失率は、二七パーセントとするのが相当である。

被告らは、原告X1の労働能力喪失率を二〇パーセントとすべきである旨主張する。しかしながら、上記のとおり、原告X1について仕事上認められる障害は、機能障害のみならず醜状障害も相当程度影響しているというべきであるから、被告らの上記主張は理由がない。

なお、原告X1本人は、現在勤務先の病院から給与等を受けており、普通にベースアップもある旨供述する。しかしながら、他方、証拠(原告X1本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告X1の収入が減ずることなく、増加しているのは、同原告の相当な努力及び職場の理解によるものであることが認められるから、上記供述をもってしても、同原告の後遺障害逸失利益を否定ないし減額することはできないというべきである。

(ウ) そして、証拠(原告X1本人)によれば、原告X1は、大学を卒業した男子であり、症状固定時である平成二一年二月一〇日における年齢が二二歳であり、上記認定の同原告に残存する後遺障害に鑑みれば、同後遺障害は、将来にわたって残存するものと認めるのが相当である。

(エ) したがって、原告X1の後遺障害逸失利益は、平成二一年賃金センサス産業計・企業規模計・男性労働者・大卒男子平均賃金である六五四万四八〇〇円を基礎収入とし、労働能力喪失率を二七パーセント、労働能力喪失期間を四五年間として算定するべきであり、その額は、三一四〇万八三六四円が相当である。

(計算式)

654万4800円×0.27×17.7740(45年間に相当するライプニッツ係数)=3140万8364円

キ 入通院慰謝料について

上記のとおり、原告X1は、二一九日間の入院治療及び約三年超の通院治療を余儀なくされた事実が認められるが、これに加え、その負傷の状態、その他本件に現れた全事情を勘案すれば、同原告の入通院慰謝料は、三五〇万円が相当である。

ク 後遺障害慰謝料について

原告らは、女子の外貌に著しい醜状を残す場合に七級と認定されることとの均衡上、原告X1の左大腿部に残存する醜状についても七級相当と評価すべきであり、左下肢に残存する機能障害が一一級に相当することからすれば、同原告の後遺障害慰謝料は、五級に相当することを前提として算定されるべきである旨主張する。

しかしながら、外貌とは、頭部、顔面部及び頸部のように、上肢及び下肢以外の日常露出する部分をいうものと解するべきであるから、原告X1について醜状が残存する左大腿部は、外貌には当たらないというべきである。したがって、原告らの主張は、その前提を欠くものとして、理由がないといわざるを得ない。

なお、大腿部の醜状を含む上下肢の醜状については、自賠責保険においても、男性と女性との間で、差異を設けて評価されることはないのであるから、損保料率機構の認定結果を参考にして後遺障害慰謝料を算定することが、不合理であるということはできない。

そして、原告X1に残存している後遺障害の内容及びその他本件に現れた諸般の事情を勘案すれば、同原告の後遺障害慰謝料は、六〇〇万円が相当というべきである。

ケ 小計

以上アないしクの合計は、六〇五六万九五二三円となる。

(2)  原告両親の慰謝料について

本件前提事実、証拠(甲三四ないし三六)及び弁論の全趣旨によれば、本件事故後の原告X1は、挫滅した左下肢部分のみならず、全身の状態が不良で、集中治療室で人工呼吸器を付けて治療を受けていたこと、入院日数は約七か月超に及んだこと、そのため、原告両親は、原告X1の症状について、相当気遣ったこと並びに原告両親は、被告ら、特に被告Y1に対しては、本件事故に対する謝罪及び反省の姿勢が十分ではないとして、峻烈な被害感情を有していることが認められる。そして、原告X1の同入院期間について、当裁判所が近親者の付添を相当と認めたことは、前述のとおりである。

しかしながら、上記認定にかかる原告X1の後遺障害の内容及び程度、慰謝料の額、その他本件に現れた諸般の事情等に鑑みれば、原告両親について、原告X1に加えて、固有の慰謝料を別途認定することは、相当ではないというべきである。

(3)  損害額の合計及び既払金の填補について

以上によれば、原告X1の損害額の合計は、六〇五六万九五二三円となるところ、本件前提事実のとおり、同原告は、本件事故によって生じた損害について、既に一七九一万二〇〇六円の支払を受けているから、これを控除すれば、同原告の損害残額は、四二六五万七五一七円となる。

(4)  弁護士費用等について

本件訴訟の経過、上記認定額等を総合勘案すると、原告X1の弁護士費用は、四二〇万が相当である。

したがって、原告X1の損害合計額は、四六八五万七五一七円である。

三  結論

よって、原告X1の本件請求は、被告Y1については民法七〇九条、被告会社については民法七一五条に基づき、被告らに対して連帯して四六八五万七五一七円及びこれに対する不法行為の日である平成一八年一月二〇日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲で理由があるからこれを認容し、その余の請求については、いずれも理由がないから棄却し、原告両親の請求は、いずれも理由がないからこれらを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中敦 新田和憲 宮﨑朋紀)

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