大阪地方裁判所 平成22年(行ウ)179号 判決 2011年12月02日
主文
1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第4当裁判所の判断
1 「適正な時価」の意義について
土地に対する固定資産税は、土地の資産価値に着目し、その所有という事実に担税力を認めて課する一種の財産税であって、個々の土地の収益性の有無にかかわらず、その所有者に対して課すものであるから、地方税法341条5号にいう「適正な時価」とは、正常な条件の下に成立する当該土地の取引価格、すなわち、客観的な交換価値をいうと解される(最判平成15年6月26日・民集57巻6号723頁)。
そうであるところ、地方税法は、全国一律の統一的な評価によって、各市町村全体の評価の均衡を図るため、固定資産の評価及び手続については総務大臣において固定資産評価基準を定めることとし(同法388条1項)、市町村長は、固定資産評価基準に従って固定資産の価格を決定しなければならないとされており(同法403条1項)、これに基づき評価基準が定められている。そして、前記前提事実等のとおり、評価基準は、宅地の評価については、各筆の宅地について評点数を付設し、当該評点数に応じて各筆の宅地の価額を求める方法によるものとし、各筆の宅地の評点数は、主として市街地的形態を形成する地域における宅地については、市街地宅地評価法によるものとされているが、前記第2の1(2)イで掲げた市街地宅地評価法の具体的内容に加えて、上記地方税法における固定資産評価基準の位置付け等に照らせば、評価基準に規定する宅地の評価方法は、前記の適正な時価、すなわち客観的な交換価値を算定する方法として一般的な合理性を有するものということができる。したがって、標準宅地の適正な時価に基づいて、評価基準所定の方式に従って算定される限り、当該宅地の価格は、その客観的交換価値を上回っていないと推認することができる。
したがって、評価基準の定める方法にのっとって算定された宅地価格は、当該評価の方法によっては客観的交換価値を適切に算定することができない特別の事情又は評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情の存しない限り、その適正な時価であると推認するのが相当である(最判平成15年7月18日・裁判集民事210号283頁参照)。
この点、原告らは、前掲最判平成15年6月26日のいう「土地の客観的な交換価値」とは、固定資産評価基準による評価額ではなく、不動産鑑定評価基準による評価額をいうと主張するが、上記のとおり、評価基準に従って適切に時価を算定することができない特別の事情について主張することなく鑑定評価額をもって適正な時価であるとする原告らの主張は採用することができない。
2 本件土地の適正な時価について
(1) 認定事実
前記前提事実並びに証拠(甲5、乙1から5まで)及び弁論の全趣旨によれば、本件土地の価格は、次のとおり評価され、その評価に基づき本件登録価格が決定されたことが認められる。
ア 状況類似地区の区分
本件土地は、宅地であり、主として市街地的形態を形成する地域における宅地に該当するとして、評価基準(第1章第3節二)に基づき、市街地宅地評価法により評価することとされた。
そして、本件土地の所在する地区は、第1種低層住宅専用地域であり、居住用家屋が連続しているが、高級住宅地区(敷地が広大で、一般住宅より多額の建築費を要する住宅の宅地が連続集中している地区)には該当しないと認められたことから、用途地区の区分については、本件取扱要領(第3の3(2)①イ(ウ))に基づき、普通住宅地区に区分された。
イ 標準宅地の選定及び適正な時価の評価
本件土地の所在する状況類似地区における標準宅地は、評価基準(第1章第3節二(一))の規定する街路に沿接する宅地のうち、奥行、間口、形状等からみて、標準的なものと認められるもの、具体的には本件取扱要領(第3の3(2)④)の定める基準に基づき、本件標準宅地と決定された。
そして、本件標準宅地の1m2当たりの適正な時価について、評価基準(第1章第12節)に基づき、基準年度の初日の属する年の前年の1月1日(平成20年1月1日)の不動産鑑定士による鑑定評価価格の7割として8万2600円と算出した。なお、平成20年1月1日以降、標準宅地の価格が下落した場合には、同年7月1日までの価格の変動に基づいて価格を修正することとされていたが、本件標準宅地についてはそのような価格の下落はみられなかったため、価格の修正は行われなかった(甲2)。
そして、当該本件標準宅地の評価額に基づき、本件標準宅地の沿接する主要な街路の路線価は、8万2600点と付設された(乙3の4)。
ウ 本件土地の評点数
(ア) 本件土地は、画地の奥行距離が24.00mであることから、画地計算法により、1%減点補正(奥行価格補正、本件取扱要領(第3の7(2)A))をすることとされた。
(イ) 本件標準宅地の沿接する街路の幅員が約5.6mであるのに対し、本件土地の沿接する街路の幅員は約4mであるため、固定資産の評価替え用の土地価格比準表(乙6)の「高級・普通住宅地区」を類推適用し、本件土地の沿接する街路の路線価は、1%の減点補正をすることとされた。
(ウ) 以上から、本件土地の単位地積当たりの評点数は、8万2600点(本件標準宅地の路線価)×99%×99%=8万0956点とされた。
エ 本件土地の評価額
以上から、本件土地の評価額は、8万0956点×497.96m2(本件土地の地積)×1円(評点1点当たりの価格)=4031万2849円とされた。
(2) 検討
前記認定事実によれば、本件登録価格は、評価基準の定める市街地宅地評価法及び堺市におけるその技術的かつ細目的な事項についての取扱方針を定めた本件取扱要領にのっとって算出されたものであることが認められ、本件土地の評価額を算出する過程において適用される本件取扱要領の各内容については、評価基準の解釈に沿う合理的なものであると認められる(以上の点について、原告らは明らかに争うことをしない。)。また、原告らは、評価基準の定める方法によっては客観的交換価値を適切に算定することができない特別の事情又は評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情がある旨の主張立証をしない。したがって、本件登録価格は、評価基準の定める方法に基づいて算定されたものとして、その適正な時価(客観的交換価値)であると推認することができる。
3 原告らの主張する本件土地の減価要因について
原告らは、①本件土地が沿接する街路の幅員が約4mしかないこと、②本件土地の沿接する街路の縦断勾配が約9.8%であり、また実質接道面が約3mしかないこと、③本件土地が沿接する街路には隅切りがないこと、④本件土地は、北西側で接道しているため、日照等の確保が困難であること等を根拠として、本件土地は標準宅地に対し大幅に減価評価されるべきであり、本件登録価格は本件土地の客観的交換価値を上回る旨主張する。以下、上記各主張について検討する。
(1) 本件土地が沿接する街路の幅員が約4mしかないこと(上記①)について
前記認定事実のとおり、本件登録価格の算出過程においては、本件標準宅地が沿接する街路の幅員が約5.6mであるのに対し、本件土地が沿接する街路の幅員が約4mしかないことを考慮して、1%の減点補正がされている。そうであるところ、本件土地と本件標準宅地が沿接する街路幅員の格差の内容に鑑みると、上記補正方法が、その適正な時価への接近方法として合理性を欠くとは認め難い。
したがって、本件土地の沿接する街路の幅員が約4mであることをもって、本件土地を本件標準宅地に対し大幅に減価評価すべきであるということはできない。
(2) 本件土地の沿接する街路の縦断勾配が約9.8%であること(上記②)について
ア 本件取扱要領(第3の7(1)Q―12)においては、「急峻」な道路に面する土地で、近傍の宅地と比した場合「利用に大幅な支障を来たす」と認められる場合に、減点補正をすることとされている(乙5)。
そうであるところ、証拠(乙7)によれば、確かに本件土地に沿接する街路には傾斜があることが認められるが、急峻な街路であって近傍の宅地と比較して利用に大幅な支障を来すとまでは認めるに足りない。また、本件土地の所在する状況類似地区内には、沿接する街路に傾斜がある宅地が多く存在し、本件標準宅地についても同様に沿接街路に傾斜があることがうかがわれるところ(乙7)、本件土地の沿接街路の傾斜が本件標準宅地等の沿接街路の傾斜と比べて特段急峻であるとも認められない。したがって、本件土地が標準宅地に対し大幅に減価評価されるべきであるということはできない。
イ 原告らは、堺市宅地開発等に関する指導基準(甲9)で、道路の整備基準として道路の縦断勾配を9%以下とすることが定められているところ、本件土地の沿接街路の縦断勾配が9%を超えていることから、減点補正をすべきだと主張するようである。しかしながら、上記指導基準は、宅地開発に関する基準という固定資産評価とは異なる趣旨・目的で作成されたものであり、固定資産税の賦課の前提となる宅地の適正な時価の算出に際しての指標となるものではなく、他に本件土地の沿接する街路の勾配により本件土地の利用に支障が生じることを認めるに足りる証拠はないから、原告らの上記主張は採用することができない。
ウ また、原告らは、本件土地の実質的接道面が約3mしかないことが減価要因となる旨主張するが、本件の全証拠をもってしても、当該事情により、本件土地が標準宅地に対し大幅に減価評価されるべきであるということはできない。
(3) 本件土地が沿接する街路には隅切りがないこと(上記③)について
本件土地が沿接する街路に隅切りがないことにより、車両通行上の支障が生じ、本件土地の宅地としての通常の使用に具体的な支障が生じていると認めるに足りる証拠はないから、上記の事情をもって、本件土地が標準宅地に対し大幅に減価評価されるべきであるということはできない。
(4) 本件土地は、北西側で接道しているため、日照等の確保が困難であること(上記④)について
日照等については、土地の南方の状況が問題となり、本件取扱要領(第3の7(5)I―2)において、本件土地の所在する第1種低層住居専用地域においては、軒の高さ7mを超える建築物又は3階建て以上の建築物が存在し、その建築物の平均地盤から高さ1.5mの地点の日影時間が4時間以上の場合に減価補正をすることとされているところ、本件の全証拠をもってしても、本件土地が当該状況に該当するとは認められないし、日照の障害により、本件土地の宅地としての通常の使用に著しい支障が生じていると認めるに足りる証拠はない(原告が証拠として提出した本件土地に係る不動産鑑定評価書(甲19)にも、本件土地の日照状況はほぼ良好である旨の記載がある。)。
その他、本件土地が北西側で接道していることにより、本件土地の宅地としての通常の使用に著しい支障が生じているということを認めるに足りる証拠はないから、上記の事情をもって、本件土地が本件標準宅地に対し大幅に減価評価されるべきであるということはできない。
(5) 小括
以上からすれば、原告らが主張する上記①から④までの事情によって、本件土地が本件標準宅地に対し大幅に減価評価されるべきであるということはできないところ、前記認定事実のとおり、7割評価により本件標準宅地の価格が鑑定評価から求められた価格の7割を目途として評定されていることも考慮すれば、本件登録価格が本件土地の客観的交換価値を上回るとは認められない。したがって、原告らの上記主張はいずれも採用することはできない。
なお、原告らの上記①から④までの主張については、評価基準の定める方法によっては客観的交換価値を適切に算定することができない特別の事情又は評価基準が定める減点補正を超える減価を要する特別の事情がある旨の主張と理解することも可能であるが、上記認定説示に照らせば、上記特別の事情があるとは認められず、いずれにしても、原告らの主張は採用することができない。
4 原告ら提出に係る鑑定評価書について
原告らは、本件土地の平成21年1月1日時点の固定資産評価額を3164万円と評価する不動産鑑定士A作成の不動産鑑定評価書を提出し、これに基づき、本件登録価格は本件土地の客観的な交換価値を上回るものであると主張する。
しかしながら、当該鑑定評価書においては、本件土地の鑑定評価額を4520万円としておきながら、これに「固定資産評価水準」として70%を乗じた額を固定資産評価額としているが、鑑定評価額として算出された価額に、更に70%を乗じた価額をもって本件土地の客観的交換価値であるとする根拠は明らかでない。かえって、70%を乗じる前の鑑定評価額が4520万円とされていることからすれば、本件登録価格である4031万2849円が、本件土地の客観的交換価値を超えないものであることが裏付けられているということができる。
したがって、当該鑑定評価書をもって、本件登録価格がその客観的交換価値を超えるものであるということはできない。
(裁判長裁判官 山田明 裁判官 徳地淳 藤根桃世)