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大阪地方裁判所 平成22年(行ウ)204号 判決 2011年6月09日

主文

1  本件訴えのうち、原告に対する「前歴者処分」の取消しを求める部分を却下する。

2  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

3  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第3当裁判所の判断

1  争点(1)について

行政事件訴訟法3条2項の定める処分の取消しの訴えの対象となる行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為は、公権力の主体たる国又は公共団体が行う行為のうち、その行為により直接国民の権利義務を形成しまたはその範囲を確定することが法律上認められているものをいう(最高裁判所昭和37年(オ)第296号同39年10月29日第一小法廷判決・民集18巻8号1809頁参照)。原告の指摘する「前歴者処分」は明確ではないが、大阪府警察が原告の前歴すなわち犯歴を登録したことをいうと解されるところ、この犯歴の登録は刑事訴訟法その他の法令に基づくものではなく単なる事実上の行為であって、原告の権利義務を直接左右するとはいえない。

したがって、原告に対する「前歴者処分」は取消しの訴えの対象である行政処分に当たらないから、原告に科せられている「前歴者処分」の取消しを求める訴えは不適法であり、却下を免れない。

2  争点(2)について

(1)  原告は、淀川警察署の警察官に、Aに対する暴行容疑で身柄拘束をされたと主張するが、前提事実(2)記載のとおり、原告は淀川警察署所属の警察官の任意同行の求めに応じ、同警察署に同行した上で同警察署において取調べを受けたものと認められるところ、全証拠によっても原告の身柄拘束の事実は認められない。

(2)  原告は、淀川警察署の警察官は、Aの申告が虚偽であるにもかかわらず、同人の申告を鵜呑みにして、原告を暴行事件の被疑者として扱い、取調べをした旨を主張する。

しかしながら、本件のように互いに相手から暴行を受けたとの被害申告がされている場合には、双方の供述の信用性について慎重な検討が必要となるから、一方当事者の供述が明らかに信用できないなどの特段の事情がない限り、犯罪捜査を担当する警察官において、双方の被害申告を受理し、双方とも暴行事件の被疑者として取り扱うことは何ら違法ではないというべきである。そして、Aは、飲酒の上酩酊していたと認められるが(乙1ないし3)、全証拠によっても、Aが警察官に対し原告から暴行を受けたという被害を訴えた時点で、原告がボイスレコーダーを持ちながら右手拳でAの右手甲を3、4回小突いてきたとのAの供述が明らかに信用できないとはいえない。また、一件記録を精査してもそのほかに上記特段の事情はうかがえない。なお、このことは、原告が結局不起訴処分(嫌疑不十分)を受けたこと(前提事実(4))や、原告とAとの間の民事訴訟における和解において、原告がAに対し暴行を加えていないことを両名が確認した上で、Aが原告に対して15万円の損害賠償金ないし解決金を支払っていること(甲11)によっても左右されない。

したがって、淀川警察署所属の警察官が、Aの被害申告に基づき、原告を暴行事件の被疑者と認めて、淀川警察署に任意同行を求め、同日ないしその後、事情聴取を行ったことは違法ではない。

(3)  被告は、前歴者として登録されているという原告の主張に対し、特段反論をしていないことに鑑みると、大阪府警察は原告の犯歴を登録したと推認できる。

しかしながら、犯歴登録においては、氏名、住所及び生年月日などの身分特定事項のほか、検挙年月日、罪名、検挙した警察署等が記載されるところ、原告が暴行被疑事件について大阪府警察によって検挙されたことそれ自体は虚偽の事実ではない上、不起訴処分がされたとしても、犯歴登録を抹消すべきものとは認め難いから、現在、原告が検挙された事実が記載されていることが違法とはいえない。

(4)  したがって、原告の損害賠償請求及び国家賠償請求は、その余の点を論ずるまでもなく、いずれも理由がない。

3  よって、本件訴えのうち「前歴者処分」の取消しを求める部分は不適法であるから却下し、原告のその余の請求は理由がないからいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中健治 裁判官 尾河吉久 五十部隆)

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